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特開2024-156513混練パドル、混練装置、および混練パドルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156513
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】混練パドル、混練装置、および混練パドルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01F 27/053 20220101AFI20241029BHJP
   B01F 27/112 20220101ALI20241029BHJP
   B01F 27/702 20220101ALI20241029BHJP
   B01F 27/07 20220101ALI20241029BHJP
   B01F 27/50 20220101ALI20241029BHJP
【FI】
B01F27/053
B01F27/112
B01F27/702
B01F27/07
B01F27/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071037
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大濱 徳也
(72)【発明者】
【氏名】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】山崎 晃史
(72)【発明者】
【氏名】韓 昌和
(72)【発明者】
【氏名】小林 大介
(72)【発明者】
【氏名】福本 和典
【テーマコード(参考)】
4G078
【Fターム(参考)】
4G078AA09
4G078AA30
4G078AB20
4G078BA01
4G078BA07
4G078BA09
4G078CA01
4G078DA01
4G078DB10
(57)【要約】
【課題】金属コンタミを防止するとともに、高温の材料にも使用可能な混練パドルを提供すること。
【解決手段】混練パドル(5)は、混練装置のハウジング内に配置された回転シャフトに取り付けられるパドルであって、回転シャフトが挿通される挿通孔(11)が設けられた本体部(10)と、本体部の軸方向両端面の互いに対応する位置に設けられた一対の凸部(20a,20b)とを一体に備えたセラミックス成形品からなる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
混練装置のハウジング内に配置された回転シャフトに取り付けられるパドルであって、
前記回転シャフトが挿通される挿通孔が設けられた本体部と、前記本体部の軸方向両端面の互いに対応する位置に設けられた一対の凸部とを一体に備えたセラミックス成形品からなる、混練パドル。
【請求項2】
前記挿通孔を取り囲む前記本体部の内周面に、前記回転シャフトの外周面に設けられた断面矩形状のキーを受け入れる略U字状の溝部が設けられており、
前記溝部のコーナー部には丸みが付けられている、請求項1に記載の混練パドル。
【請求項3】
前記本体部は、軸方向に見て、前記挿通孔のx方向両側において相互に膨出した一対の円弧面と、前記挿通孔のy方向両側に位置し、前記一対の円弧面の周方向端部同士を接続する一対の先端面とを含み、
前記先端面の幅は、前記本体部のx方向長さの5%以上30%以下である、請求項1に記載の混練パドル。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の混練パドルが、2本の前記回転シャフトのそれぞれに軸方向位置が重なるように整列して配置されている、混練装置。
【請求項5】
混練装置のハウジング内に配置された回転シャフトに取り付けられる混練パドルの製造方法であって、
セラミックスを原材料とした円盤状部材から、挿通孔およびキー溝を有する平面視凸レンズ形状の本体部を形成するとともに、前記本体部の軸方向両端面の互いに対応する位置に一対の凸部を形成することにより、一次加工品を成形する成形工程と、
前記一次加工品を焼結する焼結工程と、
焼結後の前記一次加工品に対し、前記一対の凸部の両端面を研磨することにより二次加工品を成形する研磨工程とを含む、混練パドルの製造方法。
【請求項6】
前記成形工程は、前記キー溝のコーナー部に丸みを付ける工程を含む、請求項5に記載の混練パドルの製造工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混練パドル、混練装置、および混練パドルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
混練装置のハウジング内に配置された回転シャフトに取り付けられ、ハウジング内に投入された材料を撹拌する混練パドルは、耐熱性および強度の観点から、たとえばステンレス鋼などの金属によって形成されている。しかし、たとえば混練パドルのセルフクリーニング機能を有する2軸タイプの混練装置では、一方の回転シャフトに取り付けられた混練パドルの頂部(先端面)が、ハウジングの内面や他方の回転シャフトに取り付けられた混練パドルの円弧面(回転方向側面)に近接して通過するため、混練パドルの外周面に摩耗が生じるケースがある。その場合、混練材料に金属異物が混入し、金属コンタミが生じるおそれがある。
【0003】
従来は、たとえば特開2014-12344号公報(特許文献1)に開示されているように、混練パドルの外周部に肉盛層(補強層)を設けることにより、混練パドルの摩耗を防止していた。
【0004】
また、特開2020-6338号公報(特許文献2)に開示されているように、混練パドルを樹脂成形品とする技術も従来から提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-12344号公報
【特許文献2】特開2020-6338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように混練パドルの外周面に肉盛層を設けた場合でも、母体が金属を含むため、金属コンタミのリスクを完全に無くすことはできない。また、混練パドルの製造時には、肉盛のための製造工程が増えるというデメリットもある。
【0007】
特許文献2のように混練パドルを樹脂成形品とした場合、金属コンタミは生じないものの、金属に比べて耐熱性が低いため、高温の材料を対象とする混練装置には用いることができない。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、金属コンタミを防止するとともに、高温の材料にも使用可能な混練パドル、およびその製造方法を提供することである。
【0009】
また、このような混練パドルを備えた混練装置を提供することも、他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明のある局面に従う混練パドルは、混練装置のハウジング内に配置された回転シャフトに取り付けられるパドルであって、回転シャフトが挿通される挿通孔が設けられた本体部と、本体部の軸方向両端面の互いに対応する位置に設けられた一対の凸部とを一体に備えたセラミックス成形品からなる。
【0011】
好ましくは、凸部は円環状であり、凸部の外周縁はテーパ形状を有している。
【0012】
好ましくは、挿通孔を取り囲む本体部の内周面に、回転シャフトの外周面に設けられた断面矩形状のキーを受け入れる略U字状の溝部が設けられており、溝部のコーナー部には丸みが付けられている。
【0013】
本体部は、軸方向に見て、挿通孔のx方向両側において相互に膨出した一対の円弧面と、挿通孔のy方向両側に位置し、一対の円弧面の周方向端部同士を接続する一対の先端面とを含む。好ましくは、先端面の幅は、本体部のx方向長さの5%以上30%以下である。
【0014】
この発明の他の局面に従う混練装置において、上記混練パドルが、2本の回転シャフトのそれぞれに軸方向位置が重なるように整列して配置されている。
【0015】
この発明の他の局面に従う混練パドルの製造方法は、混練装置のハウジング内に配置された回転シャフトに取り付けられる混練パドルの製造方法であって、セラミックスを原材料とした円盤状部材から、挿通孔およびキー溝を有する平面視凸レンズ形状の本体部を形成するとともに、本体部の軸方向両端面の互いに対応する位置に一対の凸部を形成することにより、一次加工品を成形する成形工程と、一次加工品を焼結する焼結工程と、焼結後の一次加工品に対し、一対の凸部の両端面を研磨することにより二次加工品を成形する研磨工程とを含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属コンタミを防止することができる。また、本発明の混練パドルを高温の材料にも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係る混練装置の全体構成を示す断面図である。
図2】本発明の実施の形態に係る混練装置における混練パドルの取り付け構造を示す断面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る混練パドルの正面図である。
図4図3のIV方向から見た混練パドルの側面図である。
図5図3のV-V線に沿う混練パドルの断面図である。
図6】発明の実施の形態に係る混練パドルにおけるキー溝(溝部)の形状および深さを示す模式図である。
図7】発明の実施の形態に係る混練パドルにおけるキー溝(溝部)の形状および深さを示す模式図である。
図8】公知の混練パドルを軸方向に見た正面図である。
図9図8のIX-IX線に沿う公知の混練パドルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0019】
<混練装置の全体構成例>
図1および図2を参照して、本発明の実施形態に係る混練装置1の全体構成について説明する。図1は、混練装置1の全体構成を示す断面図である。図2は、混練装置1における混練パドル5の取り付け構造を示す断面図であり、図1のII-II線に対応する。
【0020】
混練装置1は、高腐食環境下で複数種の原材料を混練し、たとえば電池などの製品の材料として用いられる混練物を作る。
【0021】
この混練装置1は、たとえば2連円筒形のハウジング2を備えており、内部に互いに平行な2本の回転シャフト3が配置されている。2本の回転シャフト3は同じ位置高さで水平に延びている。以下の説明において、回転シャフト3の軸線O方向を軸方向という。また、水平面上において軸方向に直交する方向を左右方向という。
【0022】
ハウジング2は、軸方向に長く、長手方向(筒軸方向)一方側の上端部に原材料の投入口2aを有し、長手方向他方側の下端部に混練物の排出口2bを有している。また、ハウジング2の長手方向両端面には、軸受が組み込まれた軸受箱2cが取り付けられている。混練装置1は、原材料の供給と、原材料を混練した混練材料の排出とを連続的に行う連続式二軸混練装置である。
【0023】
ハウジング2のトラフ2dで区切られる混練室2e内に、一対の回転シャフト3が配置されている。各回転シャフト3は、ハウジング2の両端面の軸受箱2cの軸受により回転可能に支持されており、図示しない駆動機構(たとえばモータ)により回転駆動される。一対の回転シャフト3は互いに同方向に回転駆動される。
【0024】
各回転シャフト3に、複数のスクリュ4及び複数の混練パドル5が軸方向に並んで取り付けられている。図2に示すように、回転シャフト3は真円状断面を有し、その外周面には軸方向に延びる断面矩形状のキー3aが設けられている。スクリュ4および混練パドル5は、このキー3aに嵌合するように取り付けられている。これにより、スクリュ4および混練パドル5は回転シャフト3と一体回転する。なお、混練室2eの外周を取り囲むジャケット2f内には熱媒体等が流通可能となっている。
【0025】
回転シャフト3の作動時にハウジング2の投入口2aから原材料が投入されると、原材料は混練パドル5により撹拌されながら、スクリュ4により軸方向他方側(排出口2b側)に向けて送られる。ハウジング2内で撹拌されて生成された混練物は、排出口2bから排出される。
【0026】
一対の回転シャフト3の各々には、混練パドル5がいずれも取付け角度を例えば45度ずつ変えて組み込まれている。対応する左右一対の混練パドル5は、いずれも位相が90度ずれた状態で組み込まれている。また、一対の回転シャフト3のそれぞれに、互いの軸方向位置が一致するように混練パドル5が取り付けられている。つまり、ハウジング2内には、複数の混練パドル5が、2本の回転シャフト3のそれぞれに軸方向位置が重なるように整列して配置されている。
【0027】
左右に整列する一対の混練パドル5は、常に一方の先端面が他方の円弧面(回転方向側面)をこするように近接して回転し、またトラフ2dの内面と混練パドル5との隙間も小さいため、混練パドル5やトラフ2dの内面に対する材料の付着が抑えられる。このように、混練パドル5はセルフクリーニング作用を有している。さらに、左右の混練パドル5の間、トラフ2dの内面と混練パドル5間での剪断作用も有する。
【0028】
<混練パドルの構成>
(基本構成について)
図3図5を参照して、本実施の形態における混練パドル5の基本構成について説明する。図3は、混練パドル5の正面図である。図4は、図3のIV方向から見た混練パドル5の側面図である。図5は、図3のV-V線に沿う混練パドル5の断面図である。これらの図では、軸方向に見て(正面から見て)互いに直交する方向をx方向およびy方向として示し、軸方向をz方向として示している。
【0029】
本実施の形態の混練パドル5はセラミックス成形品である。セラミックスは、非金属・無機固体材料固体材料であり、特に、非金属元素からなる材料(例:シリコンやダイヤモンド)と、金属元素と非金属元素の組合せである無機化合物材料(酸化物、炭化物、窒化物など)とを表わす。混練パドル5の材料をセラミックスとすることにより、混練物への金属異物の混入を防止することができるので、一般的な金属製の混練パドルを用いる場合に比べて混練物の品質を向上させることができる。
【0030】
混練パドル5は、回転シャフト3が挿通される挿通孔11が設けられた本体部10と、本体部10の軸方向両端面(正面10aおよび裏面10b)の互いに対応する位置に設けられた一対の凸部20とを一体的に備えている。本体部10は一定の厚み(T1)を有しており、挿通孔11は、本体部10を板厚方向(軸方向)に貫通する丸穴である。挿通孔11の直径φは、回転シャフト3の径と略等しい(締め代分だけ若干大きい程度である)。なお、上述の図1では凸部20の図示は省略している。
【0031】
本体部10は、正面から見て(軸方向に見て)凸レンズ形状であり、挿通孔11のx方向両側において相互に膨出した一対の円弧面12a,12bと、挿通孔11のy方向両側に位置し、一対の円弧面12a,12bの周方向端部同士を接続する一対の先端面13a,13bとを含む。これらの円弧面12a,12bおよび先端面13a,13bは、本体部10の外周面(側面)を構成している。
【0032】
本体部10の正面10aおよび裏面10bのそれぞれに、挿通孔111を取り囲むように凸部20a,20bが設けられている。本体部10および凸部20a,20bは同一材料によって一体形成されている。凸部20a,20bの平面形状は、軸線Oを中心とする円環状である。凸部20a,20bの表面は軸方向に直交する互いに平行な平坦面であり、両者の表面積は等しい。なお、「等しい」とは、完全に一致する場合に限定されず、製造誤差を許容するものとする。正面10aのうち凸部20aを除く部分、および、裏面10bのうち凸部20bを除く部分もまた、軸方向に直交する互いに平行な平坦面である。
【0033】
挿通孔11周りの部分(凸部20a,20bが設けられる部分)は、回転シャフト3を受け入れるボス部15を構成する。ボス部15の内周面に、挿通孔11に連続する溝部(以下「キー溝」という)14が設けられている。キー溝14は挿通孔11の周方向の一箇所を径方向外側に窪ませた凹部であり、回転シャフト3のキー3aと嵌合する。キー溝14は、正面の凸部20a、本体部10、および裏面の凸部20bを貫通して奥行き方向に延びている。キー溝14の形状については後述する。
【0034】
(凸部について)
本実施の形態における混練パドル5は、上述のように本体部10の正面10aおよび裏面10bの両方に凸部20a,20bを有している。ここで、本実施の形態の混練パドル5の対比例を図8および図9に示す。図8は、一般的な金属製の混練パドル100の正面図であり、図3に対応する。図9は、図8のIX-IX線に沿う混練パドル100の断面図であり、図5に対応する。
【0035】
公知の混練パドル100は、回転シャフト3が挿通される挿通孔111が設けられた本体部110と、本体部110の軸方向一方端面(たとえば正面110a)に設けられた凸部120とを一体的に備えている。本体部110の軸方向他方端面(たとえば裏面110b)は凹凸の無い平坦面である。混練パドル100の全体の厚みT13は、本体部110の厚みT11と凸部120の厚みT12との合計値である。
【0036】
取り付け状態(使用状態)において、混練パドル100の凸部120の表面は、軸方向一方側に隣接する他の混練パドル100の裏面110bと近接または面接触する。この凸部120はスペーサとして機能し、これによって、左右方向に隣り合う2つの混練パドル100の軸方向位置のずれを吸収するようにしている。具体的には、一方の回転シャフト3においてn番目に取り付けられた第1の混練パドル100と他方の回転シャフト3において(n-1)または(n+1)番目に取り付けられた第2の混練パドル100との干渉を抑制している。
【0037】
一方、本実施の形態における混練パドル5は、本体部10の正面10aおよび裏面10bの両方に凸部20a,20bを有している。そのため、取り付け状態(使用状態)において、混練パドル5の正面の凸部20aは軸方向一方側に隣接する他の混練パドル5の裏面の凸部20bと近接または面接触する。混練パドル5の裏面の凸部20bは軸方向他方側に隣接する他の混練パドル5の正面の凸部20aと近接または面接触する。セラミックスは金属よりも強度が低いものの、凸部20a,20b同士が接触する構成とすることにより、接触時の衝撃を緩和できる。また、軸方向に隣接する2つの混練パドル5の本体部10間の間隔を、公知の混練パドル100を用いる場合よりも大きくすることができる。その結果、セラミック製の混練パドル5が接触により破損する(割れる)リスクを軽減することができる。
【0038】
また、混練パドル5の軸方向両側に凸部20a,20bを設けることにより、左右方向に隣り合う2つの混練パドル5の軸方向位置が多少ずれたとしても、一方の回転シャフト3に取り付けられた第1の混練パドル5と、他方の回転シャフト3に取り付けられた第2の混練パドル5との接触を防止することができる。したがって、本実施の形態における混練パドル5は、2軸タイプの混練装置1に対しても適用することが可能である。
【0039】
凸部20a,20bの外周縁21は、面取り加工されていることが望ましい。図5に示されるように、凸部20a,20bの外周縁21はテーパ形状を有している。これにより、凸部20a,20b同士が接触する際の衝撃を緩和することができる。外周縁21の軸方向に対する勾配角度θは、30度以上60度以下であり、たとえば45度程度である。外周縁21は、凸部20a,20bの表面のリング幅が全周にわたって一定に(最大)となるように面取りされていることが望ましい。そのため、混練パドル5を正面から見た場合、凸部20aの表面の外周円(外周縁21の径方向内側の小径円)が円弧面12a,12bに内接している。
【0040】
(本体部の寸法について)
図3および図8を参照して、混練パドル5の本体部10のxy方向の寸法について説明する。公知の混練パドル100においては、y方向長さ(縦幅)L12がたとえば50mm程度の場合、本体部110のx方向長さ(横幅)L11を1とすると、y方向長さ(縦幅)L12は1.9以上である。また、混練パドル100を収容するハウジング2(トラフ2d)の円筒状内周面2g(図1および図2参照)の直径とy方向長さL12との差は僅差(1.0mm以下)である。
【0041】
これに対し、混練パドル5においては、本体部10のx方向長さ(横幅)L1を1とすると、y方向長さ(縦幅)L2がたとえば50mm程度の場合、y方向長さ(縦幅)L2はたとえば1.7以上1.9以下である。なお、x方向長さは、軸線Oを通り一対の円弧面12a,12bを最短距離で結ぶ線分の長さに相当し、y方向長さは、軸線Oを通り一対の先端面13a,13bを最短距離で結ぶ線分の長さに相当する。
【0042】
このように、本実施の形態における本体部10のy方向長さL2は、公知の混練パドル100の本体部110のy方向長さL12よりも若干短い。混練パドル5を収容するハウジング2(トラフ2d)の円筒状内周面2g(図1および図2参照)の直径とy方向長さL2との差は、1.0mm以上3.0mm未満である。なお、上記縦横比は、y方向長さがたとえば40mm以上60mm以下の混練パドルに対して有効である。
【0043】
このようにすることで、混練パドル5の本体部10の先端面13a,13bがトラフ2dの内面や左右方向に隣接する他の混練パドル5の本体部10の円弧面12a,12bと接触することを防止することができる。したがって、セラミック製の混練パドル5が接触により破損する(割れる)リスクを軽減することができる。
【0044】
混練パドル5のy方向長さL2を金属製の混練パドル100のy方向長さL12よりも短くする分、図4に示す混練パドル5の先端面13a,13bの幅L3は、金属製の混練パドル100の先端面113a,113bの幅よりも大きい。混練パドル5の先端面13a,13bの幅L3は、混練パドル5のセルフクリーニング作用を考慮し、たとえば、x方向長さL1の5%以上30%以下の範囲で定められる。一例として、先端面13a,13bの幅L3は、x方向長さL1の10%以上20%以下である。混練パドル5のx方向長さL1は、回転シャフト3の直径が一定であれば、y方向長さL2の長短に関わらず、大きく変わらないことが多い。そのため、先端面13a,13bの幅L3の上記比率は、y方向長さL2が20mm以上90mm以下の比較的小さい混練パドルにも、100mm以上200mm以下の比較的大きい混練パドルにも、当てはまる。
【0045】
図5および図9を参照して、混練パドル5の厚みについて説明する。混練パドル5の全体の厚みT4は、公知の混練パドル100の全体の厚みT13と同じであるが、本体部10の厚みT1は、公知の混練パドル100の本体部110の厚みT11以下である。
【0046】
つまり、凸部20a,20bの厚み(本体部10からの突出寸法)T2,T3の合算値は公知の混練パドル100の凸部120の厚みT12以上である。凸部20a,20bの厚みT2,T3は典型的には互いに等しい。凸部20a,20bの厚みT2,T3の合算値は、混練パドル5の全体の厚みT4の1/20以上1/5以下であることが望ましく、たとえば厚みT4の1/15以上1/10以下である。
【0047】
このように、本実施の形態では本体部10の厚みT11を比較的小さくすることで、公知の混練パドル100と同じ配列で、混練パドル5を回転シャフト3に組み込むことができる。
【0048】
(キー溝について)
図6を参照して、キー溝14の形状について説明する。図6は、キー溝14の形状を示す模式図であり、図3の一部(VI線で囲む部分)を拡大して示す。また、図6では、理解を容易にするために、キー溝14に収容される回転シャフト3のキー3aを示している。
【0049】
キー溝14は、略U字状に形成され、底面14a、両側面14b、および、底面14aと各側面14bとの間のコーナー部14cを有している。回転シャフト3のキー3aの形状は矩形形状であり、キー溝14に収容される部分の角部3cの形状は略直角形状である。これに対し、キー溝14のコーナー部14cには丸みが付けられている。つまり、コーナー部14cの形状は、底面14aと側面14bとを滑らかに接続する丸形状(R形状)である。
【0050】
図8に示す公知の混練パドル100のキー溝114は、キー3aの形状に対応した形状を有しており、キー溝114のコーナー部の形状は略直角形状である。キー溝114の幅W1は、回転シャフト3のキー3aの幅と略等しい(締め代分だけ若干大きい程度である)。また、挿通孔111の内周面(周壁)を基準としたキー溝114の深さD10は、回転シャフト3の外周面を基準としたキー3aの突出寸法D1(図6)と略同じである。そのため、取り付け状態においてキー溝114は、底面および両側面の略全体がキー溝114に接触する。
【0051】
本実施の形態における混練パドル5のキー溝14の幅W1は、公知の混練パドル100と同様に、回転シャフト3のキー3aの幅と略等しい。一方、キー溝14の深さD2は、コーナー部14cの分だけ、キー3aの突出寸法D1より深い。そのため、取り付け状態においてキー溝14は、両側面14bにおいてのみキー3aと接触し、底面14aはキー3aから離間する。
【0052】
このように、公知の混練パドル100よりもキー溝14の深さD2を深くすることにより、キー溝14の両側面14bにおける接触面積を確保しつつ、キー3aの角部3cがキー溝14のコーナー部14cに接触することを防止できるので、コーナー部14cが損傷するリスクを低減できる。また、回転シャフト3のキー3aを調整しなくても、本実施の形態の混練パドル5を回転シャフト3に組み付けることができるメリットもある。つまり、混練装置1のハウジング2および回転シャフト3を従来のまま利用することができる。
【0053】
なお、図7に示すキー溝14Aのように、キー溝14Aの深さD3を、公知の混練パドル100のキー溝114の深さD10と同様にし、その分、回転シャフト3のキー3bの突出寸法D4または回転シャフト3の径を小さくしてもよい。
【0054】
本実施の形態のキー溝14の深さD2は、挿通孔11の直径φを1とすると、たとえば0.07~0.11である。キー溝14のコーナー部14cは、挿通孔11の直径φを1とすると、たとえば半径0.01~0.10程度の丸みを有している。具体的なコーナー部14cの丸み半径は、たとえば0.1mm~5.0mmであり、2.0mm以下であることが望ましい。
【0055】
なお、キー溝14と挿通孔11との交差部14dもまた、丸みを有していてもよい。また、キー溝14は複数設けられていてもよい。
【0056】
<混練パドルの製造方法について>
本実施の形態における混練パドル5は、主に、次の工程を経ることで製造可能である。
【0057】
(1)準備工程
原材料を準備する。原材料は、ファインセラミックスのうち酸化物に分類される材料が望ましく、その中でも「構造材料」として用いられるジルコニア、アルミナ、フォルスライト、ジルコン、ムライト、ステアタイト、コーディエライトのいずれかを用いることが望ましい。なお、ファインセラミックスのうち非酸化物に分類される窒化アルミニウム、窒化ケイ素、および炭化ケイ素、あるいは窒化チタンなどを用いることも可能である。
【0058】
原材料は、ジルコニア(二酸化ジルコニウム)を含有していることが望ましい。ジルコニアの含有率は100%であってもよいし、他種の材料(たとえばアルミナ)を含んでいてもよい。ジルコニアは、セラミックスのなかで最も高い強度および靭性を有しているため、少なくとも20%以上含むことが望ましい。ジルコニアの望ましい含有率については後述する。
【0059】
(2)成形工程
ジルコニアを含む原材料を元に、円盤状部材から混練パドル5の概略形状を有する一次加工品を成形する。この成形工程において、たとえば旋盤により挿通孔11および凸部20a,20b(ボス部15)を形成するとともに、ボス部15に連続する羽根部(円弧面12a,12b)および先端面13a,13bをマシニング等により加工する。また、挿通孔11に連なるキー溝14を形成する。
【0060】
つまり、セラミックスを原材料とした円盤状部材から、挿通孔11およびキー溝14を有する平面視凸レンズ形状の本体部10を形成するとともに、本体部10の軸方向両端面の互いに対応する位置に一対の凸部20a,20bを形成することにより、一次加工品を成形する。
【0061】
成形工程においてキー溝14を形成する際に、キー溝14のコーナー部14cのR加工(丸み加工)が行われる。つまり、成形工程は、キー溝14のコーナー部14cに丸みを付ける工程を含む。この段階におけるキー溝14の丸み半径は、後の焼結工程での収縮を考慮し、完成品の丸みの半径(0.1mm~5.0mm)よりも大きい。一例として、ジルコニアの含有率が100%の場合、焼結工程で半分位のサイズになることから、成形工程における丸み半径は、完成品の丸み半径の2倍程度としてもよい。
【0062】
(3)焼結工程
一次加工品を焼結(焼成)する。焼結工程は、所定の昇温速度で最高温度まで加熱する第1工程と、最高温度での加熱を所定の保持時間、継続する第2工程と、最高温度から所定の降温速度で成形体を冷却する第3工程とを含む。第1工程においてセラミックスの成形体を加熱すると、隣合う原料粒子が除々に接着し、粒子間のすき間が小さくなると同時に全体が収縮する。なお、最後の冷却工程においても原材料によっては収縮が起こる場合がある。焼結工程における昇温速度、最高温度、および保持時間などの条件は、試行錯誤により最適な条件が定められる。
【0063】
(4)研磨工程
焼結後の一次加工品に対し、一対の凸部20a,20bの両端面、キー溝14の両側面14b、および挿通孔11を研磨する。
【0064】
(5)焼き入れ工程
二次加工品を焼き入れし、完成品を得る。
【0065】
ジルコニアを含有する一次加工品は、研磨工程の前の焼結工程において大きく収縮する。焼結工程における上記条件は、熱収縮による破損が生じないように定められるが、成形工程においてキー溝14のコーナー部14cに丸みを付けず、コーナー部を直角形状とした場合、コーナー部に応力が集中し、コーナー部を起点に割れが生じことがある。これに対し、本実施の形態では、成形工程においてキー溝14のコーナー部14cに丸みが付けられているため、熱収縮時の応力集中の影響によりコーナー部14cに割れが生じることを防止または抑制することができる。なお、キー溝14の底面14aが緩やかな円弧状となるケースもある。
【0066】
このように焼結工程において一次加工品が熱収縮し、キー溝14のコーナー部14cに割れが生じやすくなることを考慮して、ジルコニアとアルミナなどの他種材料(ジルコニアよりも熱収縮率が低い材料)との含有比率を定めることが望ましい。なお、ジルコニアの含有率が低い場合は、焼結工程における熱収縮率を抑えることができるため、ジルコニアの含有率がたとえば80%以下の場合には、コーナー部14cを2mm以下と小さくできる。
【0067】
この場合、キー溝14の底面14aにおいてもキー3aと接触させることができるため、接触面積を増やすという観点では有利である。なお、回転シャフト3のキー3aの角部3cも同様の丸形状とすることで、コーナー部14cの丸みが比較的大きい形態においても、接触面積を増やすことが可能である(キー溝14の底面14aにおいてもキー3aと接触させることができる)ものの、回転シャフト3の加工は手間であり、望ましくない。
【0068】
上述のような焼結工程における熱収縮を考慮すると、ジルコニアの含有率を80%以下とすることが望ましい。80%を超えると、焼結工程の際の熱収縮を考慮してキー溝14のコーナー部14cの丸みを比較的大きくする必要があり、そうすると、(通常の)回転シャフト3のキー3aとの接触面積が減る可能性があるからである。
【0069】
ジルコニアの含有率の下限値は上述のように20%である。本実施の形態では、接触による衝撃を緩和するために、混練パドル5の軸方向両端面に凸部20a,20bを設けるとともに、混練パドル5のy方向長さを金属製の混練パドル100のy方向長さよりも短くしている(先端面13a,13bの幅L3を比較的大きくしている)ことから、ジルコニアの含有率をこのような低い値にすることが可能である。
【0070】
なお、本実施の形態では、接触による衝撃を緩和するために混練パドル5の形状を工夫しているものの、混練パドルに求められる一定の強度を維持するために、ジルコニアの含有率は、50%~80%の範囲で定められることが望ましく、70%~80%の範囲で定められることがより望ましい。
【0071】
以上説明したように、本実施の形態における混練パドル5は、金属を含まず、セラミックス成形品のみからなるので、金属コンタミが発生しない。また、従来のように金属製の混練パドルに補強層を設ける必要がないので、混練パドル5の製造方法を簡素化することができる。また、セラミックス成形品は樹脂成形品よりも耐熱性が高いため、たとえば300度以上の高温条件下においても、混練パドル5を用いることができる。
【0072】
また、上述のように混練パドル5の形状を工夫しているため、取り付け状態における混練パドル5の接触による破損を防止することができるので、本実施の形態における混練パドル5を金属製の混練パドル100と同様に用いることが可能である。
【0073】
以上のように、本実施の形態によれば、高品質の混練パドル5を提供することができる。
【0074】
<変形例>
本実施の形態では、凸部20a,20bが挿通孔11の周りに円環状に形成される例を示したが、このような例に限定されない。たとえば、凸部20a,20bは挿通孔11から径方向外側に離れた位置(たとえばキー溝14よりも外径側)に設けられていてもよい。また、凸部20a,20bの形状は、同じ形状であればよく、円環状でなくてもよい。
【0075】
また、本実施の形態では、2軸タイプの混練装置1を例に説明したが、本実施の形態における混練パドル5は1軸タイプの混練装置にも好適である。
【0076】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0077】
1 混練装置、2 ハウジング、3 回転シャフト、3a,3b キー、5,100 混練パドル、10,110 本体部、11,111 挿通孔、14,14A,114 キー溝、20a,20b,120 凸部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9