(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156514
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】バンドパスフィルター
(51)【国際特許分類】
G02B 5/28 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
G02B5/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071038
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】山口 達也
【テーマコード(参考)】
2H148
【Fターム(参考)】
2H148GA04
2H148GA12
2H148GA33
2H148GA51
(57)【要約】
【課題】設計自由度がより高く、設計がより容易であるバンドパスフィルターを提供する。
【解決手段】バンドパスフィルター1における光学多層膜4の構造は、λ
Dを設計波長とし、Lを低屈折率層とし、Lの直前の数字を、低屈折率層の光学膜厚につきλ
D/4で割った値とし、Hを高屈折率層とし、Hの直前の数字を、高屈折率層の光学膜厚につきλ
D/4で割った値とし、丸括弧の直後の上付き数字を、その丸括弧内の構造の繰り返し数とし、最も左の低屈折率層又は高屈折率層が基材に最も近いものとして、[(1H1L)
n2H(xL(2-x)H)
m2L(1H1L)
n]
sに基づいている。ここで、sは、自然数であり、nは、sがs=1である場合、4以上の整数であり、nは、sがs≧2である場合、3以上の整数であり、mは、自然数であり、xは、0.5以上1.5以下の範囲内の数である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の成膜対象面に対し直接的に又は間接的に形成された光学多層膜と、
を備えており、
前記光学多層膜は、低屈折率材料製の低屈折率層と、高屈折率材料製の高屈折率層を交互に配置して形成されており、
前記光学多層膜の構造は、
λDを設計波長とし、Lを前記低屈折率層とし、Lの直前の数字を、前記低屈折率層の光学膜厚につきλD/4で割った値とし、Hを前記高屈折率層とし、Hの直前の数字を、前記高屈折率層の光学膜厚につきλD/4で割った値とし、丸括弧の直後の上付き数字を、前記丸括弧内の構造の繰り返し数とし、最も左の前記低屈折率層又は前記高屈折率層が前記基材に最も近いものとして、
[(1H1L)n2H(xL(2-x)H)m2L(1H1L)n]s
に基づいており、
ここで、sは、自然数であり、
nは、sがs=1である場合、4以上の整数であり、nは、sがs≧2である場合、3以上の整数であり、
mは、自然数であり、
xは、0.5以上1.5以下の範囲内の数である
ことを特徴とするバンドパスフィルター。
【請求項2】
前記光学多層膜の膜厚は、最適化されている
ことを特徴とする請求項1に記載のバンドパスフィルター。
【請求項3】
前記光学多層膜の膜厚は、前記構造における膜厚の90%に相当する膜厚以上、110%に相当する膜厚以下の範囲内において調整されている
ことを特徴とする請求項1に記載のバンドパスフィルター。
【請求項4】
前記設計波長λDは、可視域内である
ことを特徴とする請求項1に記載のバンドパスフィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の波長域における光の透過率が他の波長域における光の透過率より高いフィルターであるバンドパスフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
バンドパスフィルターとして、特許文献1、即ち特開2007-108687号公報に記載されたものが知られている。
このバンドパスフィルターは、高屈折率層H及び低屈折率層Lを交互に積層して成る。このバンドパスフィルターの膜構造は、特開2007-108687号公報の[0031]に第1の実施例として記載されるように、基材側から、2H1L1H2L1H(1L1H2L1H)61L2H1L2H1Lである。
1Hは、高屈折率層Hの厚さが参考波長λ0の4分の1であることを示す。2Hは、高屈折率層Hの厚さが参考波長λ0の4分の1の2倍であることを示す。1Lは、低屈折率層Lの厚さが参考波長λ0の4分の1であることを示す。2H1Lは、参考波長λ0の4分の1の2倍の厚さを有する高屈折率層Hの反基材側に、参考波長λ0の4分の1の厚さを有する低屈折率層Lが隣接して配置されている構造を示す。(1L1H)2は、1L1Hの構造が2回繰り返される構造を示し、1L1H1L1Hと同等である。以上は、他の数字及び各層の他の配置においても、同様に成り立つ。参考波長λ0は、特開2007-108687号公報における第1の実施例では、λ0=465nm(ナノメートル)である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のバンドパスフィルターは、特開2007-108687号公報の
図7に示されるように、430nm以上520nm以下程度の波長域において、90%程度以上の高い透過率を示し、他の波長域において0%程度の透過率を示す。
しかし、上記のバンドパスフィルターは、高い透過率を示す波長域が1つしかなく、設計の自由度に向上の余地がある。
【0005】
本開示の主な目的の一つは、設計自由度がより高いバンドパスフィルターを提供することである。
本開示の主な目的の別の一つは、設計がより容易であるバンドパスフィルターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書は、バンドパスフィルターを開示する。このバンドパスフィルターは、基材と、基材の成膜対象面に対し直接的に又は間接的に形成された光学多層膜と、を備えている。光学多層膜は、低屈折率材料製の低屈折率層と、高屈折率材料製の高屈折率層を交互に配置して形成されていても良い。光学多層膜の構造は、λDを設計波長とし、Lを低屈折率層とし、Lの直前の数字を、低屈折率層の光学膜厚につきλD/4で割った値とし、Hを高屈折率層とし、Hの直前の数字を、高屈折率層の光学膜厚につきλD/4で割った値とし、丸括弧の直後の上付き数字を、丸括弧内の構造の繰り返し数とし、最も左の低屈折率層又は高屈折率層が基材に最も近いものとして、
[(1H1L)n2H(xL(2-x)H)m2L(1H1L)n]s
に基づいていても良い。ここで、sは、自然数であり、nは、sがs=1である場合、4以上の整数であり、nは、sがs≧2である場合、3以上の整数であり、mは、自然数であり、xは、0.5以上1.5以下の範囲内の数である。
【発明の効果】
【0007】
本開示の主な効果の一つは、設計自由度がより高いバンドパスフィルターが提供されることである。
本開示の主な効果の別の一つは、設計がより容易であるバンドパスフィルターが提供されることである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係るバンドパスフィルターの模式的な断面図である。
【
図2】実施例1~3における所定波長域での透過率分布を示すグラフである。
【
図3】実施例4~6における所定波長域での透過率分布を示すグラフである。
【
図4】実施例7~8における所定波長域での透過率分布を示すグラフである。
【
図5】実施例9~10における所定波長域での透過率分布を示すグラフである。
【
図6】実施例11における特定波長域での透過率分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施の形態の例が、適宜図面に基づいて説明される。尚、本発明の形態は、これらの例に限定されない。
【0010】
図1に示されるように、実施形態に係るバンドパスフィルター1は、基材2と、光学多層膜4と、を有している。
【0011】
基材2は、光学多層膜4が直接的に成膜された成膜対象面Uを備えている。成膜対象面Uには、光学多層膜4が、他の膜を介さずに形成されている。成膜対象面Uは、基材2の表面に配置されている。
基材2は、可視域内の一部又は全部の波長の光に対して透光性を有する。可視域は、ここでは400nm以上750nm以下である。可視域の波長域を有する光は、可視光である。尚、可視域の下限は、380nmであっても良いし、390nmであっても良いし、410nmであっても良いし、420nmであっても良いし、450nmであっても良い。又、可視域の上限は、700nmであっても良いし、720nmであっても良いし、740nmであっても良いし、760nmであっても良いし、780nmであっても良いし、800nmであっても良い。
基材2の材質は、特に限定されず、例えば非金属の、ガラス、結晶、セラミックス、あるいは樹脂である。
基材2の形状は、特に限定されない。基材2は、好ましくは板状であり、より好ましくは平行平板である。板状の基材2は、基板とも呼ばれる。
【0012】
光学多層膜4は、2種以上の誘電体材料を用いた無機多層膜であり、誘電体多層膜である。
光学多層膜4は、基材2の少なくとも一面における一部又は全部に形成される。
光学多層膜4は、複数の低屈折率層L及び複数の高屈折率層Hを含む。光学多層膜4において、低屈折率層L及び高屈折率層Hは、好ましくは交互に配置される。
高屈折率層H及び低屈折率層Lの層数及び材質の選択、並びに各層における厚みの増減といった設計要素の変更により、光学多層膜4の設計が変更される。光学多層膜4の設計において用いられる高屈折率層Hの厚み及び低屈折率層Lの厚みは、物理膜厚であっても良いし、光学膜厚であっても良い。
光学多層膜4の設計において、各高屈折率層Hの膜厚は何れも光学膜厚を基準として把握されるため、その光学膜厚を満たすのであれば、何れの高屈折率材料から形成されても良い。同様に、各低屈折率層Lの膜厚は何れも光学膜厚を基準として把握されるため、その光学膜厚を満たすのであれば、何れの低屈折率材料から形成されても良い。製造をより容易にする観点においては、光学多層膜4に係る高屈折率材料及び低屈折率材料の少なくとも一方は、1種類とされることが好ましい。
尚、光学多層膜4は、基材2の表面である成膜対象面Uに対し、光学多層膜4の密着膜等の他の膜を介して、即ち間接的に成膜されても良い。又、光学多層膜4の外側に、保護膜等の別種の膜が配置されても良い。当該他の膜及び当該別種の膜は、単層膜であっても良いし、多層膜であっても良い。光学多層膜4の構成に、当該他の膜及び当該別種の膜の少なくとも一方の構成が含められても良い。光学多層膜4の外側は、媒質側と呼ばれることがあり、又空気側と呼ばれることがあり、更に反基材側と呼ばれることがある。
【0013】
高屈折率層Hは、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化ランタン(La2O3)、シリコン(Si)、若しくは酸化プラセオジム(Pr2O3)又はこれらの二種以上の混合物といった高屈折率材料から形成される。
又、低屈折率層Lは、例えば、酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化アルミニウムと酸化プラセオジムとの組合せ(Al2O3-Pr2O3)、酸化アルミニウムと酸化ランタンとの組合せ(Al2O3-La2O3)、若しくは酸化アルミニウムと酸化タンタルとの組合せ(Al2O3-Ta2O5)、又はこれらの二種以上の混合物といった低屈折率材料から形成される。
尚、高屈折率層H及び低屈折率層Lにおける屈折率の高低は相対的なものであり、光学多層膜4は、少なくとも互いに屈折率の異なる2種の材料で形成され得る。
【0014】
光学多層膜4の低屈折率層L及び高屈折率層Hは、例えば物理蒸着により形成され、より詳しくは真空蒸着法あるいはイオンアシスト蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタ法等により形成される。
光学多層膜4は、基材2における複数の面に形成されても良い。即ち、基材2は、光学多層膜4が成膜される成膜対象面Uを、複数有していても良い。例えば、光学多層膜4は、平行平板の基材2の表裏両面に形成されても良い。
【0015】
光学多層膜4の基本的な構造は、捉え方により、複数種類存在する。
光学多層膜4における第1の基本的な構造は、第1主構造を1以上含んでいる。第1の光学多層膜4の構造は、第1主構造を複数含む場合、第1主構造が繰り返し配置される構造となっている。第1主構造の数は、s’とする。第1主構造の数s’は、1以上の整数、即ち自然数である。
【0016】
第1主構造は、第1部分主構造と、第2部分主構造と、第3部分主構造と、を有する。
【0017】
第1部分主構造は、上述の膜構造の表記を用いると、(1H1L)nである。nは、第1部分主構造の数であり、自然数である。nは、s’がs’=1である場合、4以上の整数である。nは、s’がs’≧2である場合、3以上の整数である。
上述の膜構造の表記は、以下同様に用いる。但し、上述の参考波長λ0の呼称に代えて、膜の設計の基準となる波長という意味をより重視するために、設計波長λDの呼称が用いられる。参考波長λ0と設計波長λDの内容は同一である。例えば、2Hは、高屈折率層Hの光学膜厚が設計波長λDの4分の1の2倍であることを示す。
膜構造は、λDを設計波長とし、Lを低屈折率層Lとし、Lの直前の数字を、低屈折率層Lの光学膜厚につきλD/4で割った値とし、Hを高屈折率層Hとし、Hの直前の数字を、高屈折率層Hの光学膜厚につきλD/4で割った値とし、丸括弧の直後の上付き数字を、丸括弧内の構造の繰り返し数とし、最も左の低屈折率層H又は高屈折率層Lが基材2に最も近いものとして、表すことができる。
Lの直前の数字は、その低屈折率層Lの光学膜厚がλD/4の何倍に当たるかを示す。Hの直前の数字は、その高屈折率層Hの光学膜厚がλD/4の何倍に当たるかを示す。
上述の膜構造では、最も左の低屈折率層H又は高屈折率層Lからの並びにより、基材2に近いから反基材側にかけての各層の配置及び膜厚が示される。
【0018】
第2部分主構造は、2H(1L1H)m’2Lである。m’は、第2部分主構造の数であり、自然数である。第2部分主構造は、第1部分主構造に、反基材側で隣接する。
【0019】
第3部分主構造は、第1部分主構造と同じである。第3部分主構造は、第2部分主構造に、反基材側で隣接する。
尚、第2部分主構造における2Hは、第2部分主構造の一部ではなく第1部分主構造の一部とされても良いし、第1部分主構造と第2部分主構造とを仕切る独立した構造要素とされても良い。又、第2部分主構造における2Lは、第2部分主構造の一部ではなく第3部分主構造の一部とされても良いし、第2部分主構造と第3部分主構造とを仕切る独立した構造要素とされても良い。
【0020】
即ち、光学多層膜4における第1の基本的な構造は、次の通りである。
[(1H1L)n2H(1L1H)m’2L(1H1L)n]s’
ここで、s’は、自然数である。nは、s’がs’=1である場合、4以上の整数である。又、nは、s’がs’≧2である場合、3以上の整数である。更に、m’は、自然数である。
【0021】
光学多層膜4における1以上の層の膜厚は、第1の基本的な構造に対し、調整により変更可能である。膜厚の調整は、膜厚の最適化とも呼ばれ得る。
膜厚の調整の目的は、例えば、可視域での透過率分布におけるノイズの低減、及び、1以上の透過率の極大値の上昇又は下降、の少なくとも何れかである。
膜厚の調整は、公知の手法により行える。例えば、膜厚の調整は、公知の光学多層膜設計ソフトウェアを実行するコンピュータにより行える。
調整後の膜厚は、例えば、調整前の膜厚の90%に相当する膜厚以上、調整前の膜厚の110%に相当する膜厚以下の範囲内である。尚、調整後の膜厚は、調整前の膜厚の92%に相当する膜厚以上、調整前の膜厚の108%に相当する膜厚以下の範囲内であっても良い。又、調整後の膜厚は、調整前の膜厚の95%に相当する膜厚以上、調整前の膜厚の105%に相当する膜厚以下の範囲内であっても良い。更に、調整後の膜厚は、調整前の膜厚の98%に相当する膜厚以上、調整前の膜厚の102%に相当する膜厚以下の範囲内であっても良い。
調整後の膜厚が、調整前の膜厚に対して大幅に変わりすぎると、光学多層膜4が、所望する設計及び特性から離れてしまう。
【0022】
光学多層膜4における第2の基本的な構造は、第2主構造を1以上含んでいる。第1の光学多層膜4の構造は、第2主構造を複数含む場合、第2主構造が繰り返し配置される構造となっている。第2主構造の数は、s”とする。第2主構造の数s”は、自然数である。
【0023】
第2主構造は、第1主構造と同様に、第1部分主構造と、第3部分主構造と、を有する。
又、第2主構造は、第4部分主構造を有する。第4部分主構造は、第1部分主構造及び第3部分主構造の間に配置される。
【0024】
第4部分主構造は、2H(x”L(2-x”)H)m”2Lである。m”は、第4部分主構造の数であり、自然数である。x”は、0.5以上1.5以下の範囲から1を除いた範囲内の数である。
例えば、第4部分主構造は、x”がx”=0.5である場合、2H(0.5L1.5H)m”2Lである。又、第4部分主構造は、x”がx”=1.5である場合、2H(1.5L0.5H)m”2Lである。
尚、第4部分主構造における2Hは、第4部分主構造の一部ではなく第1部分主構造の一部とされても良いし、第1部分主構造と第4部分主構造とを仕切る独立した構造要素とされても良い。又、第4部分主構造における2Lは、第4部分主構造の一部ではなく第3部分主構造の一部とされても良いし、第4部分主構造と第3部分主構造とを仕切る独立した構造要素とされても良い。
【0025】
即ち、光学多層膜4における第2の基本的な構造は、次の通りである。
[(1H1L)n2H(x”L(2-x”)H)m”2L(1H1L)n]s”
ここで、s”は、自然数である。nは、s”がs”=1である場合、4以上の整数である。又、nは、s”がs”≧2である場合、3以上の整数である。更に、m”は、自然数である。x”は、0.5以上1.5以下の範囲から1を除いた範囲内の数である。
【0026】
光学多層膜4における1以上の層の膜厚は、第2の基本的な構造に対し、調整により変更可能である。
膜厚の調整の目的は、例えば、可視域での透過率分布におけるノイズの低減、及び、1以上の透過率の極大値の上昇又は下降、の少なくとも何れかである。
膜厚の調整は、公知の手法により行える。例えば、膜厚の調整は、公知の光学多層膜設計ソフトウェアを実行するコンピュータにより行える。
調整後の膜厚は、例えば、調整前の膜厚の90%に相当する膜厚以上、調整前の膜厚の110%に相当する膜厚以下の範囲内である。尚、調整後の膜厚は、調整前の膜厚の92%に相当する膜厚以上、調整前の膜厚の108%に相当する膜厚以下の範囲内であっても良い。又、調整後の膜厚は、調整前の膜厚の95%に相当する膜厚以上、調整前の膜厚の105%に相当する膜厚以下の範囲内であっても良い。更に、調整後の膜厚は、調整前の膜厚の98%に相当する膜厚以上、調整前の膜厚の102%に相当する膜厚以下の範囲内であっても良い。
【0027】
光学多層膜4における第1の基本的な構造及び第2の基本的な構造は、統合して次の通りに表すことができる。光学多層膜4の構造は、第1の基本的な構造及び第2の基本的な構造が統合された構造、即ち統合された基本的な構造に基づく。
[(1H1L)n2H(xL(2-x)H)m2L(1H1L)n]s
ここで、sは、自然数である。nは、sがs=1である場合、4以上の整数である。又、nは、sがs≧2である場合、3以上の整数である。更に、mは、自然数である。加えて、xは、0.5以上1.5以下の範囲内の数である。
xがx=1のとき、光学多層膜4の基本的な構造は第1の基本的な構造となる。又、xがx≠1のとき、光学多層膜4の基本的な構造は第2の基本的な構造となる。
【0028】
光学多層膜4は、かような構造を有することにより、所定の波長域内で2つの透過率の極大値を有するものとなる。バンドパスフィルター1は、第1の極大値の波長及びその前後において隣接する波長を含む第1の波長域、及び第2の極大値の波長及びその前後において隣接する波長を含む第2の波長域において、光を透過するマルチバンドパスフィルターとなる。
透過率の各極大値は、好ましくは70%以上である。尚、透過率の各極大値は、75%以上であっても良いし、80%以上であっても良いし、85%以上であっても良いし、90%以上であっても良いし、95%以上であっても良い。
【0029】
傾向として、バンドパスフィルター1における透過率分布は、設計波長λDを中心に対称的になる。又、nが大きくなるほど、透過率の極大値がより大きくなる。更に、mが大きくなるほど、透過率の極大値に係る波長が、設計波長λDにより近づく。又更に、sが大きくなるほど、透過率の極大値に係る波長の前後において、透過率分布の傾きがより急になる。加えて、xが1から離れるほど、透過率の極大値に係る波長が、設計波長λDからより遠ざかる。
【0030】
バンドパスフィルター1は、更に第3の極大値の波長及びその前後において隣接する波長を含む第3の波長域において、光を透過しても良い。又、バンドパスフィルター1は、更に第4の極大値の波長以降、及びその前後において隣接する波長を含む第4の波長域以降において、光を透過しても良い。
例えば、光学多層膜4において、設計波長λDをλD=λ1としたときの統合された基本的な構造に、更に、設計波長λDをλD=λ2としたときの統合された基本的な構造を組み合わせることで、4つの極大値の波長に係る各波長域において、光を透過するバンドパスフィルター1が提供される。ここで、λ1及びλ2の関係は、λ1≠λ2である。
この場合、光学多層膜4において、設計波長λDをλD=λ2とした場合の統合された基本的な構造の基材側に、設計波長λDをλD=λ1とした場合の統合された基本的な構造が配置されても良いし、設計波長λDをλD=λ2とした場合の統合された基本的な構造の反基材側に、設計波長λDをλD=λ1とした場合の統合された基本的な構造が配置されても良い。
他方、光学多層膜4において、統合された基本的な構造に、極大値が1つとなる膜構造を組み合わせて、3つの極大値の波長に係る各波長域において、光を透過するバンドパスフィルター1が提供されても良い。
【実施例0031】
次に、本発明の上記実施形態に準じた実施例が示される。
但し、実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
又、本発明の捉え方により、実施例が、本発明の範囲外となる比較例に、実質的に相当することがある。
【0032】
実施例1として、平行平板の基材2即ち基板の片面において、光学多層膜4を有するバンドパスフィルター1が、シミュレーションにより形成された。
基板は、石英ガラス製であり、その屈折率は、1.453であって、その肉厚は1ミリメートルである。 尚、基板に係る各種の値は、様々に変更され得る。
実施例1の光学多層膜4の設計波長λDは、λD=500nmである。
【0033】
実施例1の光学多層膜4における高屈折率層Hは、Ta2O5製の層であるTa2O5層である。実施例1の光学多層膜4における高屈折率層Hの屈折率は、2.1である。
実施例1の光学多層膜4における低屈折率層Lは、SiO2製の層であるSiO2層である。実施例1の光学多層膜4における低屈折率層Lの屈折率は、1.45である。
【0034】
実施例1の光学多層膜4における、統合された基本的な構造に係る各種パラメータの値は、次の通りである。nは、n=3である。mは、m=1である。sは、s=2である。xは、x=1である。
実施例1の光学多層膜4の基本的な膜構造が、次に示される。
[(1H1L)32H1L1H2L(1H1L)3]2
実施例1の光学多層膜4における各層の膜厚は、光学多層膜設計ソフトウェアにより最適化されている。
【0035】
実施例2~6,9~10は、実施例1に対し、統合された基本的な構造に係る各種パラメータの値のみが相違する。
【0036】
実施例2の光学多層膜4における、統合された基本的な構造に係る各種パラメータの値は、次の通りである。nは、n=4である。mは、m=1である。sは、s=1である。xは、x=1である。
実施例2の光学多層膜4の基本的な膜構造が、次に示される。
(1H1L)42H1L1H2L(1H1L)4
【0037】
実施例3の光学多層膜4における、統合された基本的な構造に係る各種パラメータの値は、次の通りである。nは、n=4である。mは、m=2である。sは、s=2である。xは、x=1である。
実施例3の光学多層膜4の基本的な膜構造が、次に示される。
[(1H1L)42H(1L1H)22L(1H1L)4]2
【0038】
実施例4の光学多層膜4における、統合された基本的な構造に係る各種パラメータの値は、次の通りである。nは、n=5である。mは、m=2である。sは、s=2である。xは、x=1である。
実施例4の光学多層膜4の基本的な膜構造が、次に示される。
[(1H1L)52H(1L1H)22L(1H1L)5]2
【0039】
実施例5の光学多層膜4における、統合された基本的な構造に係る各種パラメータの値は、次の通りである。nは、n=4である。mは、m=4である。sは、s=2である。xは、x=1である。
実施例5の光学多層膜4の基本的な膜構造が、次に示される。
[(1H1L)42H(1L1H)42L(1H1L)4]2
【0040】
実施例6の光学多層膜4における、統合された基本的な構造に係る各種パラメータの値は、次の通りである。nは、n=4である。mは、m=2である。sは、s=3である。xは、x=1である。
実施例6の光学多層膜4の基本的な膜構造が、次に示される。
[(1H1L)42H(1L1H)22L(1H1L)4]3
【0041】
実施例7~8は、実施例1に対し、高屈折率層Hの材質、及び統合された基本的な構造に係る各種パラメータの値のみが相違する。
【0042】
実施例7の光学多層膜4における高屈折率層Hは、TiO2製の層であるTiO2層である。実施例7の光学多層膜4における高屈折率層Hの屈折率は、2.5である。
【0043】
実施例7の光学多層膜4における、統合された基本的な構造に係る各種パラメータの値は、次の通りである。nは、n=4である。mは、m=2である。sは、s=2である。xは、x=1である。
実施例7の光学多層膜4の基本的な膜構造が、次に示される。
[(1H1L)42H(1L1H)22L(1H1L)4]2
【0044】
実施例8の光学多層膜4における高屈折率層Hは、HfO2製の層であるHfO2層である。実施例8の光学多層膜4における高屈折率層Hの屈折率は、1.9である。
【0045】
実施例8の光学多層膜4における、統合された基本的な構造に係る各種パラメータの値は、次の通りである。nは、n=4である。mは、m=2である。sは、s=2である。xは、x=1である。
実施例8の光学多層膜4の基本的な膜構造が、次に示される。
[(1H1L)42H(1L1H)22L(1H1L)4]2
【0046】
実施例9の光学多層膜4における、統合された基本的な構造に係る各種パラメータの値は、次の通りである。nは、n=4である。mは、m=2である。sは、s=2である。xは、x=1.5である。
実施例9の光学多層膜4の基本的な膜構造が、次に示される。
[(1H1L)42H(1.5L0.5H)22L(1H1L)4]2
【0047】
実施例10の光学多層膜4における、統合された基本的な構造に係る各種パラメータの値は、次の通りである。nは、n=4である。mは、m=2である。sは、s=2である。xは、x=0.5である。
実施例10の光学多層膜4の基本的な膜構造が、次に示される。
[(1H1L)42H(0.5L1.5H)22L(1H1L)4]2
【0048】
実施例1~5に関する表1、及び実施例6~10に関する表2が、次に示される。
【0049】
【0050】
図2は、実施例1~3における可視域内の所定波長域での透過率分布を示すグラフである。所定波長域は、
図2において450nm以上570nm以下であり、
図3~5において同様である。又、
図2において、横軸は波長(単位nm)であり、縦軸は透過率(単位%)であり、
図3~5において同様である。
図3は、実施例4~6における所定波長域での透過率分布を示すグラフである。
図4は、実施例7~8における所定波長域での透過率分布を示すグラフである。
図5は、実施例9~10における所定波長域での透過率分布を示すグラフである。
【0051】
実施例1の透過率分布は、波長が設計波長λD=500nmとなる仮想的な縦線から僅かに長波長側にずれた、波長が501nmとなる仮想的な縦線に対して対称的である。実施例1の透過率分布は、2つの極大値を有する。実施例1における、短波長側から数えて1番目の極大値(即ち第1極大値)は、93%程度である。実施例1における、短波長側から数えて2番目の極大値(即ち第2極大値)は、93%程度である。実施例1における、第1極大値が含まれ且つ透過率が50%以上となる波長域(即ち第1透過帯)の大きさは、9.5nm程度である。実施例1における、第2極大値が含まれ且つ透過率が50%以上となる波長域(即ち第2透過帯)の大きさは、11.5nm程度である。実施例1における、第1極大値に係る波長は、468nm程度である。実施例1における、第2極大値に係る波長は、534nm程度である。実施例1における、第1極大値と第2極大値とに係る波長幅、換言すれば透過帯の分離幅は、66.0nm程度である。尚、透過帯は、極大値が含まれ且つ透過率が例えば40%以上となる波長域であっても良いし、極大値が含まれ且つ透過率が例えば60%以上となる波長域であっても良いし、極大値が含まれ且つ透過率が極大値の例えば半分の値となる波長域であっても良い。
実施例2の透過率分布は、波長が501nmとなる仮想的な縦線に対して対称的である。実施例2の透過率分布は、2つの極大値を有する。実施例2における第1極大値は、98%程度である。実施例2における第2極大値は、98%程度である。実施例2における第1透過帯の大きさは、9.5nm程度である。実施例2における第2透過帯の大きさは、11.5nm程度である。実施例2における第1極大値の波長は、468nm程度である。実施例2における第2極大値の波長は、534nm程度である。実施例2における透過帯の分離幅は、66.0nm程度である。
実施例3の透過率分布は、波長が設計波長λD=500nmとなる仮想的な縦線に対して対称的である。実施例3の透過率分布は、2つの極大値を有する。実施例3における第1極大値は、90%程度である。実施例3における第2極大値は、90%程度である。実施例3における第1透過帯の大きさは、3.5nm程度である。実施例3における第2透過帯の大きさは、4nm程度である。実施例3における第1極大値の波長は、478nm程度である。実施例3における第2極大値の波長は、522nm程度である。実施例3における透過帯の分離幅は、44.0nm程度である。
【0052】
実施例4の透過率分布は、波長が設計波長λD=500nmとなる仮想的な縦線に対して対称的である。実施例4の透過率分布は、2つの極大値を有する。実施例4における第1極大値は、91%程度である。実施例4における第2極大値は、91%程度である。実施例4における第1透過帯の大きさは、2nm程度である。実施例4における第2透過帯の大きさは、2nm程度である。実施例4における第1極大値の波長は、479.5nm程度である。実施例4における第2極大値の波長は、520.5nm程度である。実施例4における透過帯の分離幅は、41.0nm程度である。
実施例5の透過率分布は、波長が設計波長λD=500nmとなる仮想的な縦線に対して対称的である。実施例5の透過率分布は、2つの極大値を有する。実施例5における第1極大値は、88%程度である。実施例5における第2極大値は、88%程度である。実施例5における第1透過帯の大きさは、3nm程度である。実施例5における第2透過帯の大きさは、3nm程度である。実施例5における第1極大値の波長は、490.5nm程度である。実施例5における第2極大値の波長は、509.5nm程度である。実施例5における透過帯の分離幅は、19.0nm程度である。
実施例6の透過率分布は、波長が設計波長λD=500nmとなる仮想的な縦線に対して対称的である。実施例6の透過率分布は、大局的には2つの極大値を有する。実施例6の透過率分布は、局所的には4つの極大値を有する。実施例6における99%程度の2つの極大値が、短波長側から順に第1-1極大値、第2-1極大値とされる。又、実施例6における93%程度の2つの極大値が、短波長側から順に第1-2極大値、第2-2極大値とされる。実施例6における、第1-1極大値及び第1-2極大値が含まれ且つ透過率が50%以上である波長域(換言すれば第1透過帯と同様の波長域)の大きさは、4nm程度である。実施例6における、第2-1極大値及び第2-2極大値が含まれ且つ透過率が50%以上である波長域(換言すれば第2透過帯と同様の波長域)の大きさは、4nm程度である。実施例6における第1-1極大値の波長は、480.5nm程度である。実施例6における第1-2極大値の波長は、479nm程度である。実施例6における第2-1極大値の波長は、519.5nm程度である。実施例6における第2-2極大値の波長は、521nm程度である。実施例6における、第1-1極大値と第2-1極大値とに係る波長幅は、39.0nm程度である。
【0053】
実施例7の透過率分布は、波長が設計波長λD=500nmとなる仮想的な縦線に対して対称的である。実施例7の透過率分布は、2つの極大値を有する。実施例7における第1極大値は、88%程度である。実施例7における第2極大値は、88%程度である。実施例7における第1透過帯の大きさは、1nm程度である。実施例7における第2透過帯の大きさは、1nm程度である。実施例7における第1極大値の波長は、482nm程度である。実施例7における第2極大値の波長は、518nm程度である。実施例7における透過帯の分離幅は、36.0nm程度である。
実施例8の透過率分布は、波長が設計波長λD=500nmとなる仮想的な縦線に対して対称的である。実施例8の透過率分布は、2つの極大値を有する。実施例8における第1極大値は、91%程度である。実施例8における第2極大値は、91%程度である。実施例8における第1透過帯の大きさは、7nm程度である。実施例8における第2透過帯の大きさは、7nm程度である。実施例8における第1極大値の波長は、476nm程度である。実施例8における第2極大値の波長は、524nm程度である。実施例8における透過帯の分離幅は、48.0nm程度である。
【0054】
実施例9の透過率分布は、波長が501.5nmとなる仮想的な縦線に対して対称的である。実施例9の透過率分布は、2つの極大値を有する。実施例9における第1極大値は、92%程度である。実施例9における第2極大値は、94%程度である。実施例9における第1透過帯の大きさは、2.5nm程度である。実施例9における第2透過帯の大きさは、3nm程度である。実施例9における第1極大値の波長は、473nm程度である。実施例9における第2極大値の波長は、530nm程度である。実施例9における透過帯の分離幅は、57.0nm程度である。
実施例10の透過率分布は、波長が501nmとなる仮想的な縦線に対して対称的である。実施例10の透過率分布は、2つの極大値を有する。実施例10における第1極大値は、95%程度である。実施例10における第2極大値は、90%程度である。実施例10における第1透過帯の大きさは、3nm程度である。実施例10における第2透過帯の大きさは、3nm程度である。実施例10における第1極大値の波長は、472nm程度である。実施例10における第2極大値の波長は、529nm程度である。実施例10における透過帯の分離幅は、57.0nm程度である。
【0055】
実施例1~10によれば、2つの透過帯を有するバンドパスフィルター1が、様々な極大値、極大値の波長、透過帯の大きさ、透過帯の分離幅において形成される。
よって、実施例1~10の設計自由度は、
[(1H1L)n2H(xL(2-x)H)m2L(1H1L)n]s
の基本構造を有することにより、優れたものとなる。
又、実施例1~10の設計は、
[(1H1L)n2H(xL(2-x)H)m2L(1H1L)n]s
の基本構造により、所定の繰り返しパターンにおいて行うことができ、何もパターンがない場合に比べてより容易である。
【0056】
実施例11として、上述の統合された基本的な構造を、互いに異なる設計波長λD1,λD2において複数有する光学多層膜4に係るバンドパスフィルター1が、シミュレーションにより形成された。設計波長λD1はλD1=500nmであり、設計波長λD2はλD2=700nmである。
実施例11は、これ以外、実施例1と同様に成る。
【0057】
実施例11の光学多層膜4における、設計波長λD1に係る統合された基本的な構造に係る各種パラメータの値は、次の通りである。nは、n=4である。mは、m=2である。sは、s=2である。xは、x=1である。実施例11の光学多層膜4における、設計波長λD1に係る構造部分は、以下第1ブロックと呼ばれることがある。
実施例11の光学多層膜4の第1ブロックの基本構造が、次に示される。
[(1H1L)42H(1L1H)22L(1H1L)4]2
【0058】
実施例11の光学多層膜4における、設計波長λD2に係る統合された基本的な構造に係る各種パラメータの値は、次の通りである。nは、n=4である。mは、m=2である。sは、s=2である。xは、x=1である。実施例11の光学多層膜4における、設計波長λD2に係る構造部分は、以下第2ブロックと呼ばれることがある。
設計波長λD2に係る第2ブロックの基本構造において、設計波長λD1に係る第1ブロックを基準とすると、設計波長λD2に係る第2ブロックの各層の光学膜厚は、設計波長λD1に係る光学膜厚の1.4倍が基本となる。
従って、実施例11の光学多層膜4の第2ブロックの基本構造は、次に示される通りとなる。
[(1.4H1.4L)42.8H(1.4L1.4H)22.8L(1.4H1.4L)4]2
【0059】
実施例11の光学多層膜4において、第2ブロックは、第1ブロックの反基材側に配置される。
実施例11の光学多層膜4の基本構造は、次の通りである。
[(1H1L)42H(1L1H)22L(1H1L)4]2[(1.4H1.4L)42.8H(1.4L1.4H)22.8L(1.4H1.4L)4]2
尚、第2ブロックは、第1ブロックの基材側に配置されても良い。
【0060】
実施例11の光学多層膜4における各層の膜厚は、光学多層膜設計ソフトウェアにより最適化されている。
最適化された実施例11の光学多層膜4の基本構造は、次の通りである。
(.99694H .99828L)4 1.99275H (1.00814L 1.00797H)2 1.99405L (.99509H .99645L)4 (1.00314H 1.00099L)4 1.99809H (.99931L .99958H)2 1.99854L (.99742H .99722L)4 (1.41286H 1.40413L)4 2.79389H (1.39914L 1.39955H)2 2.79601L (1.3987H 1.39998L)4 (1.40341H 1.40603L)4 2.82128H (1.41324L 1.39664H)2 2.75008L (1.39398H 1.4097L)4
【0061】
図6は、実施例11における特定波長域での透過率分布を示すグラフである。特定波長域は、
図6において450nm以上800nm以下である。又、
図6において、横軸は波長(単位nm)であり、縦軸は透過率(単位%)である。
図6では、実施例11の光学多層膜4の基本構造即ち最適化前の基本構造に係る透過率分布と、最適化後の基本構造に係る透過率分布と、が示される。
【0062】
実施例11の透過率分布は、最適化の前後においてほぼ同様である。実施例11の最適化後の基本構造に係る透過率分布は、実施例11の最適化前の基本構造に係る透過率分布に対して、ノイズが低減されている。例えば、実施例11の最適化前の透過率分布の波長600nm付近における10%程度の極大値が、最適化後において、4%程度に低減されている。
以下、主に実施例11の最適化後の透過率分布が説明されるところ、その説明は、最適化前の透過率分布においても妥当する。
【0063】
実施例11の透過率分布は、波長が設計波長λD1=500nmとなる仮想的な縦線から僅かにずれた波長が501nmとなる仮想的な縦線に対して対称的である。実施例11の透過率分布は、波長が設計波長λD2=700nmとなる仮想的な縦線から僅かにずれた波長が701.5nmとなる仮想的な縦線に対して対称的である。実施例11の透過率分布は、波長が設計波長λD1,λD2の中間である600nmとなる仮想的な縦線に対して対称的である。
実施例11の透過率分布は、4つの極大値を有する。実施例11における4つの極大値は、短波長側から順に第1極大値、第2極大値、第3極大値、第4極大値とされる。
実施例11における、第1極大値が含まれ且つ透過率が50%以上である波長域(即ち第1透過帯)の大きさは、4nm程度である。実施例11における、第2極大値が含まれ且つ透過率が50%以上である波長域(即ち第2透過帯)の大きさは、4nm程度である。実施例11における、第3極大値が含まれ且つ透過率が50%以上である波長域(即ち第3透過帯)の大きさは、3nm程度である。実施例11における、第4極大値が含まれ且つ透過率が50%以上である波長域(即ち第4透過帯)の大きさは、5nm程度である。
実施例11における第1極大値の波長は、480nm程度である。実施例11における第2極大値の波長は、522nm程度である。実施例11における第3極大値の波長は、671nm程度である。実施例11における第4極大値の波長は、732nm程度である。
実施例11における、第1極大値と第2極大値とに係る波長幅(即ち第1の透過帯の分離幅)は、42.0nm程度である。実施例11における、第3極大値と第4極大値とに係る波長幅(即ち第2の透過帯の分離幅)は、61.0nm程度である。
【0064】
実施例11によれば、4つの透過帯を有するバンドパスフィルター1が形成される。4つの透過帯のうち2つは、上述の基本構造を有する第1ブロックによってもたらされ、4つの透過帯のうち他の2つは、上述の基本構造を有する第2ブロックによってもたらされる。よって、4つの透過帯を有するバンドパスフィルター1は、様々な極大値、極大値の波長、透過帯の大きさ、透過帯の分離幅において形成可能である。
従って、実施例11の設計自由度は、優れたものとなる。
又、実施例11の設計は、所定の繰り返しパターンにおいて行うことができ、何もパターンがない場合に比べ、より容易である。
【0065】
又、実施例11の各透過帯に係る極大値の波長は、短波長側から順に、480nm、522nm、671nm、732nmである。更に、実施例11の各透過帯の大きさは、10nm以下程度と十分に小さい。
よって、実施例11のバンドパスフィルター1は、480nm付近、522nm付近、671nm付近、及び732nm付近に大きな輝度を有する光の観察に適している。
又、パラメータの調整により、バンドパスフィルター1の透過率分布における4つの極大値の波長が496nm、501nm、656nm、672nmとなるようにすれば、496nm、501nm、656nm、672nmの各波長において大きな輝度を有する光の観察に適している。かような光として、例えば、惑星状星雲及び輝線星雲等の星雲が発する、OIII(O3)光線、Hα光線、及びSII(S2)光線が挙げられる。OIII光線の波長は、495.9nm及び500.7nm程度である。Hα光線の波長は、656.3nm程度である。SII光線の波長は、672nm程度である。
尚、例えば、実施例11の光学多層膜4に対し、第3の設計波長λD3に係る第3のブロックを追加して、6つの透過帯を有するバンドパスフィルター1が形成されても良い。同様に、8以上の透過帯を有するバンドパスフィルター1が形成されても良い。
【0066】
実施例1~11は、基材2と、基材2の成膜対象面Uに対し直接的に又は間接的に形成された光学多層膜4と、を備えている。光学多層膜4は、低屈折率材料製の低屈折率層Lと、高屈折率材料製の高屈折率層Hを交互に配置して形成されている。光学多層膜4の構造は、λDを設計波長とし、Lを低屈折率層とし、Lの直前の数字を、低屈折率層Lの光学膜厚につきλD/4で割った値とし、Hを高屈折率層とし、Hの直前の数字を、高屈折率層Hの光学膜厚につきλD/4で割った値とし、丸括弧の直後の上付き数字を、丸括弧内の構造の繰り返し数とし、最も左の低屈折率層L又は高屈折率層Hが基材2に最も近いものとして、
[(1H1L)n2H(xL(2-x)H)m2L(1H1L)n]s
に基づいている。ここで、sは、自然数であり、nは、sがs=1である場合、4以上の整数であり、nは、sがs≧2である場合、3以上の整数であり、mは、自然数であり、xは、0.5以上1.5以下の範囲内の数である。
よって、実施例1~11の設計自由度は、s,n,m,xといったパラメータの変更により、十分に高くなる。又、実施例1~11の設計は、[(1H1L)n2H(xL(2-x)H)m2L(1H1L)n]sの基本構造により、容易である。
【0067】
又、実施例1~11において、光学多層膜4の膜厚は、最適化されている。
更に、実施例1~11において、光学多層膜4の膜厚は、その基本構造における膜厚の90%に相当する膜厚以上、110%に相当する膜厚以下の範囲内において調整されている。
よって、実施例1~11において、ノイズの低減等がなされ、性能が向上する。
【0068】
加えて、実施例1~11において、設計波長λDは、可視域内である。
よって、実施例1~11において、光線の視認性に関するバンドパスフィルター1が提供される。