(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156526
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】蓄電モジュール及び蓄電素子
(51)【国際特許分類】
H01M 10/04 20060101AFI20241029BHJP
H01M 10/0587 20100101ALI20241029BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20241029BHJP
H01M 50/474 20210101ALI20241029BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20241029BHJP
H01G 11/12 20130101ALI20241029BHJP
H01G 11/42 20130101ALI20241029BHJP
H01G 11/78 20130101ALI20241029BHJP
H01M 50/486 20210101ALN20241029BHJP
【FI】
H01M10/04 W
H01M10/0587
H01M4/587
H01M50/474
H01G11/06
H01G11/12
H01G11/42
H01G11/78
H01M50/486
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071065
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】大山 純
(72)【発明者】
【氏名】金子 喬
(72)【発明者】
【氏名】中井 健太
【テーマコード(参考)】
5E078
5H021
5H028
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA01
5E078AA02
5E078AB02
5E078AB06
5E078AB13
5E078BA18
5E078HA05
5E078HA21
5E078JA02
5E078JA07
5H021AA02
5H021EE04
5H021HH03
5H021HH10
5H028AA08
5H028CC01
5H028CC08
5H028CC12
5H028EE06
5H028HH05
5H029AJ02
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL07
5H029BJ02
5H029BJ06
5H029BJ14
5H029DJ04
5H029DJ16
5H029EJ12
5H029HJ04
5H029HJ12
5H050AA02
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA19
5H050FA05
5H050FA17
5H050HA04
5H050HA12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】充放電サイクル後の出力維持率が高い蓄電モジュール、及び充放電サイクル後の出力維持率が高い蓄電素子を提供する。
【解決手段】本発明の一側面に係る蓄電モジュール200は、複数の蓄電素子100を備え、上記複数の蓄電素子は、それぞれ、正極及び負極を有する電極体、並びに上記電極体を収容する容器を備え、上記複数の蓄電素子は、上記電極体と上記容器との間に配置されるスペーサーをさらに備え、上記容器の内寸に対する上記スペーサーの総厚さの比率が0.5%以上である第一蓄電素子と、上記電極体と上記容器との間に配置されるスペーサーを備えない第二蓄電素子とを含み、上記負極が中実黒鉛を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の蓄電素子を備え、
上記複数の蓄電素子は、それぞれ、
正極及び負極を有する電極体、並びに
上記電極体を収容する容器
を備え、
上記複数の蓄電素子は、
上記電極体と上記容器との間に配置されるスペーサーをさらに備え、上記容器の内寸に対する上記スペーサーの総厚さの比率が0.5%以上である第一蓄電素子と、
上記電極体と上記容器との間に配置されるスペーサーを備えない第二蓄電素子と
を含み、
上記負極が中実黒鉛を含む蓄電モジュール。
【請求項2】
上記電極体が平坦部を有する巻回型の電極体であり且つ上記平坦部の中央部分に空隙を有しない請求項1に記載の蓄電モジュール。
【請求項3】
上記スペーサーが非多孔質部材である請求項1又は請求項2に記載の蓄電モジュール。
【請求項4】
上記複数の蓄電素子が、一定の厚さに維持されるように拘束されている請求項1又は請求項2に記載の蓄電モジュール。
【請求項5】
ハイブリッド電気自動車用である請求項1又は請求項2に記載の蓄電モジュール。
【請求項6】
正極及び負極を有する電極体、
上記電極体を収容する容器、並びに
上記電極体と上記容器との間に配置されるスペーサー
を備え、
上記容器の内寸に対する上記スペーサーの総厚さの比率が0.5%以上であり、
上記負極が中実黒鉛を含む蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電モジュール及び蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の電極と、この電極間に介在する非水電解質とを有し、両電極間で電荷輸送イオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。非水電解質二次電池以外の蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ、水系電解液が用いられた蓄電素子も広く普及している。また、蓄電素子は、複数の蓄電素子を集合して構成した蓄電モジュールの形態で用いられることもある。
【0003】
正極及び負極が巻回又は積層されてなる蓄電素子の電極体においては、同一の工程で製造しても、厚さに多少のばらつきが生じる。そのため、複数の蓄電素子を備える蓄電モジュールの場合、一部の蓄電素子において、電極体とこの電極体を収容する容器との間に電極体の厚さ方向において隙間ができることがある。電極体と容器との間に隙間があると、電極体を構成する正極と負極との間隔が不均一になったり、電極体自体の位置ずれが生じたりすること等により、充放電性能が十分に発揮されないことがある。また、電極体と容器との間に隙間があると、蓄電素子に荷重を付与して拘束する場合に容器の変形が生じ易く、所望の荷重を付与できないことがある。そこで、電極体と容器との間に隙間がある蓄電素子に対して、この隙間を埋めるためのスペーサー(間隙充填部材等とも称される)が配置される場合がある(特許文献1参照)。
【0004】
また、蓄電素子の負極活物質としては、黒鉛を初めとした炭素材料が広く用いられている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-48966号公報
【特許文献2】特開2005-222933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば電極体の厚さ方向における容器の大きさに対して相対的に薄い電極体を容器内に収容する場合、電極体と容器との間に厚いスペーサーを配置すること又は多数のスペーサーを配置することで、スペーサーの総厚さを相対的に厚くすることが必要となる。しかし、負極活物質に黒鉛が用いられた蓄電素子において、電極体と容器との間に配置されるスペーサーの総厚さを相対的に厚くした場合、充放電の繰り返しに伴う出力低下が生じ易くなる。
【0007】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、電極体と容器との間に相対的に厚いスペーサーが配置された蓄電素子を含む蓄電モジュールであって、充放電サイクル後の出力維持率が高い蓄電モジュール、及び電極体と容器との間に相対的に厚いスペーサーが配置された蓄電素子であって、充放電サイクル後の出力維持率が高い蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係る蓄電モジュールは、複数の蓄電素子を備え、上記複数の蓄電素子は、それぞれ、正極及び負極を有する電極体、並びに上記電極体を収容する容器を備え、上記複数の蓄電素子は、上記電極体と上記容器との間に配置されるスペーサーをさらに備え、上記容器の内寸に対する上記スペーサーの総厚さの比率が0.5%以上である第一蓄電素子と、上記電極体と上記容器との間に配置されるスペーサーを備えない第二蓄電素子とを含み、上記負極が中実黒鉛を含む。
【0009】
本発明の他の一側面に係る蓄電素子は、正極及び負極を有する電極体、上記電極体を収容する容器、並びに上記電極体と上記容器との間に配置されるスペーサーを備え、上記容器の内寸に対する上記スペーサーの総厚さの比率が0.5%以上であり、上記負極が中実黒鉛を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一側面によれば、電極体と容器との間に相対的に厚いスペーサーが配置された蓄電素子を含む蓄電モジュールであって、充放電サイクル後の出力維持率が高い蓄電モジュールを提供することができる。
本発明の他の一側面によれば、電極体と容器との間に相対的に厚いスペーサーが配置された蓄電素子であって、充放電サイクル後の出力維持率が高い蓄電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、蓄電モジュールの一実施形態を示す概略図である。
【
図2】
図2は、蓄電モジュールに備わる蓄電素子の一実施形態を示す透視斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2の蓄電素子が第一蓄電素子である場合のI-I矢視模式的断面図である。
【
図4】
図4は、
図2の蓄電素子が第二蓄電素子である場合のI-I矢視模式的断面図である。
【
図5】
図5は、実施例における蓄電素子の容器の内寸に対するスペーサーの総厚さの比率と出力維持率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
初めに、本明細書によって開示される蓄電モジュール及び蓄電素子の概要について説明する。
【0013】
[1]本発明の一側面に係る蓄電モジュールは、複数の蓄電素子を備え、上記複数の蓄電素子は、それぞれ、正極及び負極を有する電極体、並びに上記電極体を収容する容器を備え、上記複数の蓄電素子は、上記電極体と上記容器との間に配置されるスペーサーをさらに備え、上記容器の内寸に対する上記スペーサーの総厚さの比率が0.5%以上である第一蓄電素子と、上記電極体と上記容器との間に配置されるスペーサーを備えない第二蓄電素子とを含み、上記負極が中実黒鉛を含む。
【0014】
上記[1]に記載の蓄電モジュールは、電極体と容器との間に相対的に厚いスペーサーが配置された蓄電素子を含む蓄電モジュールであって、充放電サイクル後の出力維持率が高い。このような効果が生じる理由としては定かではないが、以下の理由が推測される。上述のように、複数の蓄電素子を備える蓄電モジュールの中の一部の蓄電素子においては、同一の工程で製造しても、厚さに多少のばらつきが生じることがあり、例えば強く巻回、積層又はプレスされたこと等により、電極体が設計された厚さより薄くなることがある。このような蓄電素子に対しては、電極体と容器との間の隙間を埋め、電極体を容器内で固定するためにスペーサーが配置される。相対的に厚いスペーサーが配置されている蓄電素子を備える蓄電モジュールの場合、充放電サイクルに伴う電極体の膨張により、電極体への荷重が特に大きく増加する。電極体への荷重が大きいと、充放電に伴う活物質の膨張収縮による電極体内から電極体外への電解質の流出が生じ易く、充放電の繰り返しに伴って出力が低下し易い。一方、中実黒鉛は、黒鉛の中でも充放電に伴う膨張収縮による体積の変化が小さい負極活物質である。従って、負極活物質として中実黒鉛を用いることで、充放電に伴う負極の膨張収縮の変化が抑制され、電極体と容器との間に相対的に厚いスペーサーが配置された蓄電素子であっても、充放電の繰り返しに伴う出力低下が抑制される。このような理由から、上記[1]に記載の蓄電モジュールにおいては、充放電サイクル後の出力維持率が高まると推測される。
【0015】
容器の「内寸」は、電極体の厚さ方向の内寸をいう。この内寸が一定でない場合、最も小さい部分の値とする。電極体の厚さ方向とは、電極体の最も広い平面に対して垂直な方向をいう。
【0016】
「スペーサーの総厚さ」とは、電極体の厚さ方向において、電極体と容器との間に配置されているスペーサーの厚さの合計をいう。スペーサーの総厚さは、任意の5ヶ所で測定される測定値の平均値とする。
【0017】
中実黒鉛における「中実」とは、黒鉛の粒子内部が詰まっていて実質的に空隙が存在しないことを意味する。より具体的には、「中実」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて取得されるSEM像において観察される粒子の断面において、粒子全体の面積に対する粒子内の空隙の面積率(空隙率)が2%以下であることをいう。
黒鉛粒子における「粒子全体の面積に対する粒子内の空隙の面積率(空隙率)」は、以下の手順で決定することができる。
(1)測定用試料の準備
測定対象とする負極を熱硬化性の樹脂で固定する。樹脂で固定された負極について、イオンミリング法により、断面を露出させ、測定用試料を作製する。なお、測定対象とする負極は、下記の手順により準備する。蓄電素子を組み立て前の負極が準備できる場合には、そのまま用いる。組み立て後の蓄電素子から準備する場合には、まず蓄電素子を、0.1Cの電流で、通常使用時の放電終止電圧まで定電流放電し、放電された状態とする。この放電された状態の蓄電素子を解体し、負極を取り出して、ジメチルカーボネートにより負極に付着した成分(電解質等)を充分に洗浄した後、室温にて24時間減圧乾燥を行う。蓄電素子の解体から測定対象とする負極の準備までの作業は、露点-40℃以下の乾燥空気雰囲気中で行う。ここで、通常使用時とは、当該蓄電素子について推奨され、又は指定される充放電条件を採用して当該蓄電素子を使用する場合である。
(2)SEM像の取得
SEM像の取得には、SEMとしてJSM-7001F(日本電子株式会社製)を用いる。SEM像は、二次電子像を観察するものとする。加速電圧は、15kVとする。観察倍率は、一視野に現れる黒鉛粒子が3個以上15個以内となる倍率に設定する。得られたSEM像は、画像ファイルとして保存する。その他、スポット径、ワーキングディスタンス、照射電流、輝度、フォーカス等の諸条件は、黒鉛粒子の輪郭が明瞭になるように適宜設定する。
(3)黒鉛粒子の輪郭の切り抜き
画像編集ソフトAdobe Photoshop Elements 11の画像切り抜き機能を用いて、取得したSEM像から黒鉛粒子の輪郭を切り抜く。この輪郭の切り抜きは、クイック選択ツールを用いて黒鉛粒子の輪郭より外側を選択し、黒鉛粒子以外を黒背景へと編集して行う。このとき、輪郭を切り抜くことができた黒鉛粒子が3個未満であった場合は、再度、SEM像を取得し、輪郭を切り抜くことができた黒鉛粒子が3個以上になるまで行う。
(4)二値化処理
切り抜いた黒鉛粒子のうち1つ目の黒鉛粒子の画像について、画像解析ソフトPopImaging 6.00を用い、強度が最大となる濃度から20%分小さい濃度を閾値に設定して二値化処理を行う。二値化処理により、濃度の高い側の面積を算出することで「粒子内の空隙の面積S1」とする。
ついで、先ほどと同じ1つ目の黒鉛粒子の画像について、濃度10%を閾値として二値化処理を行う。二値化処理により、黒鉛粒子の外縁を決定し、当該外縁の内側の面積を算出することで、「粒子全体の面積S0」とする。
上記算出したS1及びS0を用いて、S0に対するS1の比(S1/S0)を算出することにより、1つ目の黒鉛粒子における「粒子全体の面積に対する粒子内の空隙の面積率R1」を算出する。
切り抜いた黒鉛粒子のうち2つ目以降の黒鉛粒子の画像についても、それぞれ、上記の二値化処理を行い、面積S1、面積S0を算出する。この算出した面積S1、面積S0に基づいて、それぞれの黒鉛粒子の空隙の面積率R2、R3、・・・を算出する。
(5)空隙の面積率(空隙率)の決定
二値化処理により算出した全ての空隙の面積率R1、R2、R3、・・・の平均値を算出することにより、「粒子全体の面積に対する粒子内の空隙の面積率(空隙率)」を決定する。
なお、上記「SEM像の取得」に用いる走査型電子顕微鏡、「黒鉛粒子の輪郭の切り抜き」に用いる画像編集ソフト、及び「二値化処理」に用いる画像解析ソフトに代えて、これらと同等の測定、画像編集及び画像解析が可能な装置及びソフトウェア等を用いてもよい。
【0018】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、エックス線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。ここで、炭素材料の「放電状態」とは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されるように放電された状態を意味する。例えば、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた半電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態である。
【0019】
[2]上記[1]に記載の蓄電モジュールにおいては、上記電極体が平坦部を有する巻回型の電極体であり且つ上記平坦部の中央部分に空隙を有しなくてもよい。
【0020】
上記[2]に記載の蓄電モジュールの場合、電極体がスペーサー等によって十分に固定された状態となっているため、充放電性能等が高まる傾向にある。一方、このように電極体がスペーサー等によって十分に固定された状態となっている場合、一般的に、充放電サイクルに伴う電極体への荷重の増加や、負極等の膨張による電解質の電極体内からの流出が生じ易いため、充放電の繰り返しに伴う出力に低下が生じ易い。このため、電極体の平坦部の中央部分に空隙を有しない蓄電素子が用いられた蓄電モジュールに本発明の一側面を適用した上記[2}に記載の蓄電モジュールの場合、充放電サイクル後の出力維持率が高まるという効果が特に顕著に生じる。
【0021】
[3]上記[1]又は[2]に記載の蓄電モジュールにおいては、上記スペーサーが非多孔質部材であってもよい。
【0022】
非多孔質部材は、通常、多孔質部材と比べて圧縮し難いため、電極体を容器内で固定するスペーサーの部材として有用である。一方、このような圧縮し難い非多孔質部材をスペーサーとして用いた場合、一般的に、電極体等の膨張がスペーサーの圧縮により打ち消され難いため、充放電の繰り返しに伴う出力の低下が生じ易い。このため、スペーサーが非多孔質部材である蓄電素子が用いられた蓄電モジュールに本発明の一側面を適用した上記[3}に記載の蓄電モジュールの場合、充放電サイクル後の出力維持率が高まるという効果が特に顕著に生じる。
【0023】
「非多孔質部材」とは、多孔質部材(多数の微細な孔をもつ物質)ではない部材をいう。非多孔質部材は、多孔度が10%以下の部材であってもよく、多孔度が5%以下、1%以下又は0.1%以下の部材であってもよい。多孔度とは、部材を構成する各成分の真密度から算出される部材の真密度と、部材の見かけ密度とから、下記式により求められる値をいう。部材の見かけ密度とは、部材の質量を部材の見かけ体積で除した値をいう。見かけ体積とは、空隙部分を含む体積をいい、部材がフィルム状である場合、平均厚さと面積との積として求めることができる。平均厚さは、任意の5ヶ所で測定した厚さの平均値とする。
多孔度(%)=100-(見かけ密度/真密度)×100
【0024】
[4]上記[1]から[3]のいずれか一つに記載の蓄電モジュールにおいては、上記複数の蓄電素子が、一定の厚さに維持されるように拘束されていてもよい。
【0025】
複数の蓄電素子が一定の厚さに維持されるように拘束されている場合、活物質粒子間の電気的な接触性が維持されること等により、良好な充放電性能が発揮される傾向にある。一方、複数の蓄電素子が一定の厚さに維持されるように拘束されている場合、充放電の繰り返しに伴う電極体の膨張が抑制されるため、電極体への荷重増加が生じ易く、出力が低下し易い。このため、複数の蓄電素子が一定の厚さに維持されるように拘束されている蓄電モジュールに本発明の一側面を適用した上記[4}に記載の蓄電モジュールの場合、充放電サイクル後の出力維持率が高まるという効果が特に顕著に生じる。
【0026】
[5]上記[1]から[4]のいずれか一つに記載の蓄電モジュールにおいては、ハイブリッド電気自動車用であってもよい。
【0027】
上記[1]から[4]のいずれか一つに記載の蓄電モジュールは、充放電サイクル後の出力維持率が高いため、上記[5]に記載の蓄電モジュールは、ハイブリッド電気自動車用として特に好適である。
【0028】
[6]本発明の他の一側面に係る蓄電素子は、正極及び負極を有する電極体、上記電極体を収容する容器、並びに上記電極体と上記容器との間に配置されるスペーサーを備え、上記容器の内寸に対する上記スペーサーの総厚さの比率が0.5%以上であり、上記負極が中実黒鉛を含む。
【0029】
上記[6]に記載の蓄電素子は、電極体と容器との間に相対的に厚いスペーサーが配置された蓄電素子であって、充放電サイクル後の出力維持率が高い。このような効果が生じる理由は定かではないが、上記[1]に記載の蓄電モジュールが充放電サイクル後の出力が高い理由と同様の理由が推測される。
【0030】
本発明の一実施形態に係る蓄電モジュール、蓄電素子、蓄電素子の製造方法、及びその他の実施形態について詳述する。なお、各実施形態に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称は、背景技術に用いられる各構成部材(各構成要素)の名称と異なる場合がある。
【0031】
<蓄電モジュール>
本発明の一実施形態に係る蓄電モジュールは、複数の蓄電素子を備える。以下、
図1等を参照に、本発明の一実施形態に係る蓄電モジュールについて説明する。
図1に示す本発明の一実施形態に係る蓄電モジュール200は、複数の蓄電素子100を備える。本実施形態の蓄電モジュール200においては、電気的に接続された複数の蓄電素子100が集合し、且つ各蓄電素子100が一定の厚さに維持されるように(例えば、複数の蓄電素子100が所定方向に配列され、且つ該配列された各蓄電素子の配列方向における総厚さが一定の厚さに維持されるように)拘束されている。複数の蓄電素子100は、仕切部材21を介して並べられた状態で筐体22内に収容されている。各蓄電素子100間は、図示しないバスバによって電気的に接続されている。蓄電モジュール200においては、ナット23の回転により平板24が仕切部材21を介して筐体22内の各蓄電素子100を押圧している。すなわち、蓄電モジュール200においては、筐体22、ナット23及び平板24により押圧部材又は拘束部材を構成している。このような押圧部材又は拘束部材により、蓄電素子100の容器が押圧(圧迫)され、蓄電素子100は、一定の厚さが維持されるように拘束された状態となっている。
【0032】
なお、本発明の他の実施形態に係る蓄電モジュールとして、複数の蓄電素子が拘束されない状態で配置されていてもよい。また、
図1に示した構成以外の構成によって、複数の蓄電素子が拘束されていてもよい。蓄電素子の厚さが制限されるように拘束されていれば、蓄電素子は押圧されていなくてもよい。また、複数の蓄電素子が一体となって押圧されていなくてもよく、一部の蓄電素子が押圧され、その一部の蓄電素子が拘束されていてもよい。このように、蓄電モジュールは、複数の蓄電素子を拘束する拘束部材又は押圧部材を備えるものであってもよい。さらに複数の蓄電モジュールが集合した蓄電装置として使用されてもよい。蓄電モジュール又は蓄電装置は、1つ以上の蓄電素子の状態を監視する状態監視装置を備えていてもよい。
【0033】
(蓄電素子)
以下、蓄電モジュール200に備わる蓄電素子100について説明する。蓄電モジュール200に備わる複数の蓄電素子100は、実質的に同一形状である。また、通常、各蓄電素子100間の実質的な差異は、後述するスペーサーの有無、及びスペーサーの総厚さのみである。
【0034】
図2に示す蓄電素子100は、電極体1と、図示しない電解質と、これらを収容する容器3とを備える。なお、
図2等は、蓄電素子100を使用するときの向きを限定するものではない。蓄電素子100は、蓄電素子の一例である二次電池である。この二次電池は、非水電解質二次電池であってもよい。電極体1は、正極と負極とセパレータとを備えた巻回型の電極体である。電解質の少なくとも一部は、電極体1(正極、負極及びセパレータ)に含浸された状態で存在する。蓄電素子100は、正極接続部材4、正極外部端子5、負極接続部材6及び負極外部端子7をさらに備える。電極体1の正極は、正極接続部材4を介して正極外部端子5と電気的に接続されている。電極体1の負極は、負極接続部材6を介して負極外部端子7と電気的に接続されている。
【0035】
蓄電モジュール200に備わる複数の蓄電素子100には、電極体1と容器3との間に配置されるスペーサー2をさらに備えるものと、このようなスペーサー2を備えないものがある。なお、
図2においては、スペーサー2を備える蓄電素子100として図示している。スペーサー2を備え、容器3の内寸に対するスペーサー2の総厚さの比率が0.5%以上である蓄電素子100を、第一蓄電素子101とする(
図3参照)。また、スペーサー2を備えない蓄電素子100を、第二蓄電素子102とする(
図4参照)。蓄電モジュール200に備わる複数の蓄電素子100は、第一蓄電素子101と第二蓄電素子102とを含む。蓄電モジュール200に備わる複数の蓄電素子100のうち、第一蓄電素子101は、一つのみであってもよく、複数であってもよい。蓄電モジュール200に備わる複数の蓄電素子100のうち、第二蓄電素子101は、一つのみであってもよく、複数であってもよい。また、蓄電モジュール200に備わる複数の蓄電素子100には、第一蓄電素子101及び第二蓄電素子102のいずれにも該当しない第三蓄電素子が含まれていてもよい。第三蓄電素子としては、スペーサー2を備え、容器3の内寸に対するスペーサー2の総厚さの比率が0.5%未満である蓄電素子が挙げられる。
【0036】
(第一蓄電素子)
図3に示す第一蓄電素子101は、電極体1、図示しない電解質、電極体1及び電解質を収容する容器3、並びに電極体1と容器3との間に配置されるスペーサー2を備える。
【0037】
(電極体)
電極体1は、正極、負極及びセパレータを有し、正極と負極とは、セパレータを介して重ね合わされている。電極体1は、帯状の正極と帯状の負極とが帯状のセパレータを介して重ね合わされた状態で巻回されてなる扁平状の巻回型の電極体である。
【0038】
電極体1は扁平状であり、正極と負極とセパレータとが実質的に平行に重ね合わされている平坦部8、及び正極と負極とセパレータとが湾曲した状態で重ね合わされている2つの湾曲部9a、9bを有する。湾曲部9a、9bは、曲面部、R部等と称されてもよい。2つの湾曲部9a、9bは、互いに対向するように位置する。電極体1を構成する正極、負極及びセパレータについては、後に詳述する。
【0039】
本実施形態において、電極体1は、その平坦部8の中央部分10(
図3における細い二点鎖線で囲まれた部分)に空隙を有しない。平坦部8の中央部分10とは、電極体1の巻回軸P方向(X方向)視において、巻回軸Pを通り、電極体1の平坦部8の幅方向(Z方向)に沿った領域であってもよい。平坦部8の中央部分10とは、電極体1の平坦部8における最内周の部分であってもよい。例えば、電極体1がスペーサー2及び容器3によって十分に固定され且つ厚さ方向(Y方向)の両面から十分に押圧された状態である場合、平坦部8の中央部分10には空隙が存在しない。このような場合、蓄電素子101は、特に良好な充放電性能を発揮すること等ができる。電極体1内の空隙の有無は、巻回軸P方向(X方向)視の断面(
図3の状態)に基づき、例えば、エックス線コンピュータ断層撮影(CT)画像によって確認することができる。
【0040】
蓄電モジュール200に備わる全ての蓄電素子100において、電極体1が平坦部8を有する巻回型の電極体であり且つその平坦部8の中央部分10に空隙を有しないことが好ましい。換言すれば、蓄電モジュール200に備わる全ての蓄電素子100において、一つ一つの蓄電素子100毎に、電極体1の平坦部8の中央部分10に空隙を有しないように、適当な厚さのスペーサー2を配置する又は配置しないことが好ましい。
【0041】
(スペーサー)
スペーサー2は、電極体1と容器3との間に配置されている。スペーサー2は、電極体1と容器3との間の隙間を埋め、電極体1を容器3内で固定する部材である。スペーサー2は、少なくとも電極体1の厚さ方向(Y方向)において、電極体1と容器3との間に配置されていればよい。
【0042】
本実施形態において、
図3に示すように、スペーサー2は、電極体1の平坦部8の両面にそれぞれ配されている。この実施形態では、扁平状の巻回型の電極体の平坦部における一方の面側と他方の面側とで、それぞれ総厚さの1/2の厚さとなるように、スペーサー2が配されている。2枚のスペーサー2は、それぞれ1枚の板状の絶縁シートであってよい。スペーサー2を構成する絶縁シートの枚数等は本実施形態に限定されるものではない。電極体1と容器3との間隔が大きい場合、複数枚の絶縁シート等を重ねてスペーサー2として配置してもよく、厚い1枚の絶縁シートをスペーサー2として配置してもよい。2枚のスペーサー2は、同じ材料からなるものであってもよく、異なる材料からなるものであってもよい。複数枚の絶縁シート等は、同じ材料からなるものであってもよく、異なる材料からなるものであってもよい。
【0043】
スペーサー2として1枚又は2枚以上の絶縁シートを用いる場合、絶縁シート1枚の厚さとしては、例えば0.01mm以上3mm以下であってもよく、0.02mm以上2mm以下であってもよく、0.03mm以上1mm以下であってもよい。2枚以上の絶縁シート等は、同じ厚さであってもよく、異なる厚さであってもよい。
【0044】
スペーサー2を構成する材料としては、特に限定されず、樹脂、紙、無機材料等の電気絶縁性の材料を好適に用いることができ、樹脂が好ましい。スペーサー2を構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリイミド、アラミド等が挙げられ、ポリオレフィンが好ましく、ポリプロピレンがより好ましい。樹脂製のスペーサー2においては、例えば無機粒子等の樹脂以外の成分が含有されていてもよい。
【0045】
スペーサー2は、多孔質部材であってもよく、非多孔質部材であってもよいが、非多孔質部材であることが好ましい。非多孔質部材は、電極体1を容器3内で固定するスペーサー2として特に有用である。また、スペーサー2が非多孔質部材である蓄電素子100を備える蓄電モジュール200に本発明の一実施形態を適用した場合、充放電サイクル後の出力維持率が高まるという効果が特に顕著に生じる。スペーサー2は、多孔質部材と非多孔質部材とからなるものであってもよい。
【0046】
容器3の内寸Aに対するスペーサー2の総厚さ(B1+B2)の比率((B1+B2)/A)の下限は、0.5%であり、0.6%、0.8%、1.0%、1.2%、又は1.5%であってもよい。いくつかの態様において、上記比率((B1+B2)/A)の下限は、1.8%であってもよく、2.2%であってもよく、2.5%であってもよい。なお、
図3に示すように、B1は、電極体1の一方の面側に位置するスペーサー2の厚さを示し、B2は、電極体1の他方の面側に位置するスペーサー2の厚さを示す。当該蓄電素子100は、容器3の内寸に対するスペーサー2の総厚さの比率が上記下限以上であるにも拘らず、充放電サイクル後の出力維持率が高い。一方、容器3の内寸Aに対するスペーサー2の総厚さ(B1+B2)の比率((B1+B2)/A)の上限は、例えば10%、8%、5%、4%又は3%であってよい。上記比が上記上限以下である場合、蓄電素子100のエネルギー密度等を高めることができる。容器3の内寸に対するスペーサー2の総厚さの比率は、上記したいずれかの下限以上且つ上記したいずれかの上限以下とすることができる。この比率は、通常、電極体1の厚さC、容器3の内寸A等に応じて、電極体1と容器3との間に隙間が生じないような範囲で決定される。通常、電極体1の厚さCが相対的に薄くなるほど、上記比率((B1+B2)/A)は高くなる。また、この比率は、配置するスペーサー2(絶縁シート等)の枚数、1枚のスペーサー2(絶縁シート等)自体の厚さ等を変更すること等で調整することができる。特に限定されるものではないが、スペーサー2の総厚さ(B1+B2)としては、概ね0.06mm以上3mm以下(例えば1mm以下、典型的には0.5mm以下)であり、例えば0.1mm以上0.4mm以下である。容器3の内寸Aとしては、概ね5mm以上100mm以下(例えば60mm以下)であり、例えば10mm以上30mm以下(例えば15mm以下)である。このような総厚さ(B1+B2)を有するスペーサー2及び内寸Aを有する容器3を用いた蓄電モジュール200において、前述した効果がより良く発揮され得る。
【0047】
(容器)
容器3は、電極体1をスペーサー2と共に収容し、内部に電解質が封入される密閉容器である。容器3の材質としては、電解質を封入できる密閉性と、電極体1を保護できる強度とを備えるものであれば特に限定されず、例えば樹脂であってもよく、金属であってもよい。
【0048】
本実施例において容器3は、角型容器である。通常、電極体1の平坦部8の外面は、スペーサー2を介して容器3の内面と接している。なお、電極体1と容器3との間には、スペーサー2以外の他の部材がさらに配置されていてもよい。例えば、電極体1は、絶縁フィルムから形成された絶縁袋又は絶縁ケースに包まれた状態で、容器3に収容される場合がある。このような場合、電極体1と容器3との間には、絶縁袋又は絶縁ケースを形成する絶縁フィルムが、スペーサー2と共に介在することになる。電極体1が絶縁袋又は絶縁ケースに包まれている場合、通常、蓄電モジュール200に備わる全ての蓄電素子100において、電極体1が絶縁袋又は絶縁ケースに包まれている。このような絶縁袋又は絶縁ケースは、スペーサー2には該当しない。
【0049】
(正極)
正極は、正極基材と、当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層とを有する。
【0050】
正極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するか否かは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10-2Ω・cmを閾値として判定する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H-4160(2006年)に規定されるA1085、A3003、A1N30等が例示できる。
【0051】
正極基材の平均厚さは、3μm以上50μm以下が好ましく、5μm以上40μm以下がより好ましく、8μm以上30μm以下がさらに好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、蓄電素子及び蓄電モジュールの体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0052】
中間層は、正極基材と正極活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電剤を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、バインダ及び導電剤を含む。
【0053】
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質層は、必要に応じて、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0054】
正極活物質としては、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。正極活物質としては、例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1、0<1-x-γ)、Li[LixCo(1-x)]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγMn(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1、0<1-x-γ)、Li[LixNiγMnβCo(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1、0<1-x-γ-β)、Li[LixNiγCoβAl(1-x-γ-β)]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1、0<1-x-γ-β)等が挙げられる。スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、LixMn2O4、LixNiγMn(2-γ)O4等が挙げられる。ポリアニオン化合物として、LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3、Li2MnSiO4、Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物として、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。これらの材料は表面が他の材料で被覆されていてもよい。正極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0055】
正極活物質は、通常、粒子(粉体)である。正極活物質の平均粒径は、例えば、0.1μm以上20μm以下とすることが好ましい。正極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、正極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。正極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。なお、正極活物質と他の材料との複合体を用いる場合、該複合体の平均粒径を正極活物質の平均粒径とする。「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0056】
粉体を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0057】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。正極活物質の含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できる。
【0058】
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛、非黒鉛質炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤としては、これらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらの材料を複合化して用いてもよい。例えば、カーボンブラックとCNTとを複合化した材料を用いてもよい。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0059】
正極活物質層における導電剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、3質量%以上9質量%以下がより好ましい。導電剤の含有量を上記の範囲とすることで、蓄電素子及び蓄電モジュールのエネルギー密度を高めることができる。
【0060】
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0061】
正極活物質層におけるバインダの含有量は、1質量%以上10質量%以下が好ましく、2質量%以上9質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、正極活物質を安定して保持することができる。
【0062】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。正極活物質層が増粘剤を含有する場合、正極活物質層における増粘剤の含有量は、例えば0.1質量%以上10質量%以下とすることができる。正極活物質層における増粘剤の含有量は、5質量%以下であってもよく、1質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。
【0063】
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、二酸化ケイ素、アルミナ、二酸化チタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の無機酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、炭酸カルシウム等の炭酸塩、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物、タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。正極活物質層がフィラーを含有する場合、正極活物質層におけるフィラーの含有量は、例えば0.1質量%以上10質量%以下とすることができる。正極活物質層におけるフィラーの含有量は、5質量%以下であってもよく、1質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。
【0064】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0065】
正極活物質層の多孔度としては、30%以上50%以下が好ましく、35%以上45%以下がより好ましい。正極活物質層の多孔度が上記範囲であることにより、良好な充放電性能を発揮すること等ができる。正極活物質層の多孔度は、正極活物質等の粒径、正極作製時のプレスの有無及び強度等により調整することができる。
【0066】
正極活物質層の単位面積当たりの質量としては、4mg/cm2以上12mg/cm2以下が好ましく、5mg/cm2以上8mg/cm2以下がより好ましい。正極活物質層の単位面積当たりの質量が上記範囲内である正極を備えた蓄電素子において、前述した効果がより良く発揮され得る。「正極活物質層の単位面積当たりの質量」は、1つの正極活物質層の単位面積当たりの質量をいう。例えば、正極が正極基材を有し、この正極基材の両面にそれぞれ正極活物質層が設けられている場合、「正極活物質層の単位面積当たりの質量」は、一方の面の正極活物質層の単位面積当たりの質量である。
【0067】
正極の作製は、例えば正極基材に直接又は中間層を介して、正極合剤ペーストを塗布し、乾燥させることにより行うことができる。乾燥後、必要に応じてプレス等を行ってもよい。正極合剤ペーストには、正極活物質、及び任意成分である導電剤、バインダ等、正極活物質層を構成する各成分が含まれる。正極合剤ペーストには、通常さらに分散媒が含まれる。
【0068】
(負極)
負極は、負極基材と、当該負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記正極で例示した構成から選択することができる。
【0069】
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はこれらの合金、炭素質材料等が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜、メッシュ、多孔質材料等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0070】
負極基材の平均厚さは、2μm以上35μm以下が好ましく、3μm以上30μm以下がより好ましく、4μm以上25μm以下がさらに好ましく、5μm以上20μm以下が特に好ましい。負極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、負極基材の強度を高めつつ、蓄電素子及び蓄電モジュールの体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0071】
負極活物質層は、中実黒鉛を含む。負極活物質層は、必要に応じて中実黒鉛以外の他の負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記正極で例示した材料から選択できる。
【0072】
負極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge、Sn、Sr、Ba等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を中実黒鉛及び他の負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0073】
中実黒鉛は、負極活物質として機能する成分である。負極活物質層に含まれる中実黒鉛の空隙率の上限は、2%であり、1%が好ましく、0.5%がより好ましい。黒鉛粒子の空隙率が上記上限以下であることにより、充放電の際の中実黒鉛の膨張が抑制され、負極活物質層の膨張による電極体内からの電解質の流出が抑制される結果、充放電サイクル後の出力維持率を高めることができる。中実黒鉛の空隙率の下限は、0%であってもよく、0.01%又は0.05%であってもよい。中実黒鉛の空隙率は、上記したいずれかの下限以上且つ上記したいずれかの上限以下であってよい。
【0074】
中実黒鉛は、従来の一般的な黒鉛に対して圧縮処理をすること等により得ることができる。
【0075】
中実黒鉛は、天然黒鉛であってもよく、人造黒鉛であってもよいが、天然黒鉛であることが好ましい。中実黒鉛が天然黒鉛であることで、蓄電素子の初期抵抗を低くし、充放電サイクル後の出力維持率をより高めること等ができる。
【0076】
天然黒鉛とは、天然の資源から採れる黒鉛の総称である。天然黒鉛からなる中実黒鉛は、鱗片状天然黒鉛等を球状化した球状化天然黒鉛粒子であってもよい。天然黒鉛は、充放電前又は放電状態において測定されるCuKα線を用いたエックス線回折パターンにおいて、回折角2θが40°から50°の範囲に4つのピークが現れるものであってもよい。これらの4つのピークは、六方晶系の構造に由来する2つのピークと、菱面体晶系の構造に由来する2つのピークとであるとされている。人造黒鉛の場合、一般的に、六方晶系の構造に由来する2つのピークのみが現れるとされている。エックス線回折パターンにおいて、(100)面に由来するピーク強度に対する(012)面に由来するピーク強度の比((012)/(100))は0.3以上が好ましく、0.4以上がさらに好ましい。上記ピーク強度の比((012)/(100))は0.6以下が好ましい。ここで、(100)面は六方晶系の構造に由来し、(012)面は菱面体晶系の構造に由来する。
【0077】
中実黒鉛の平均粒径としては、1μm以上25μm以下が好ましく、4μm以上20μm以下がより好ましく、5μm以上15μm以下がさらに好ましい。中実黒鉛の平均粒径が上記範囲であることで、充放電サイクル後の出力維持率をより高めること等ができる。中実黒鉛を所定の粒径で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び分級方法は、例えば、上記正極活物質で例示した方法から選択できる。
【0078】
負極活物質層における中実黒鉛の含有量は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、90質量%以上98質量%以下がより好ましく、95質量%以上、97質量%以上又は98質量%以上がさらに好ましい場合もある。中実黒鉛の含有量を上記の範囲とすることで、負極活物質層の高エネルギー密度化と製造性を両立できると共に、充放電サイクル後の出力維持率をより高めることができる。
【0079】
負極活物質層は、中実黒鉛以外の他の負極活物質を含んでいてもよい。他の負極活物質としては、中実黒鉛以外の黒鉛(中空黒鉛)及びその他の従来公知の各種負極活物質を用いることができる。なお、中実黒鉛以外の黒鉛である中空黒鉛は、上記空隙率が2%超の黒鉛である。但し、負極活物質層に含まれる全ての負極活物質に占める中実黒鉛の含有量は、90質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましく、実質的に100質量%であってもよい。負極活物質層が黒鉛を含み、負極活物質層に含まれる全ての黒鉛が中実黒鉛であってもよい。
【0080】
また、負極活物質層に含まれる全ての負極活物質に占める黒鉛の含有量は、90質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましく、実質的に100質量%であってもよい。負極活物質として黒鉛が主に用いられている蓄電素子に対して本発明の一実施形態を適用した場合、充放電サイクル後の出力維持率が高まるという効果が特に顕著に生じる。負極活物質層に含まれる全ての黒鉛(中実黒鉛及び中空黒鉛)に占める中実黒鉛の含有量は、90質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましく、実質的に100質量%であってもよい。換言すれば、負極活物質層が黒鉛を含み、負極活物質層に含まれる黒鉛の空隙率が2%以下であることが好ましい。
【0081】
負極活物質層に導電剤が含有されている場合、負極活物質層における導電剤の含有量は、例えば1質量%以上10質量%以下であってもよい。負極活物質層における導電剤の含有量は、5質量%以下が好ましく、2質量%以下、1質量%以下、0.1質量%以下又は0質量%がより好ましい場合がある。負極活物質層における導電剤の含有量が少ない、又は導電剤が含まれていない場合、中実黒鉛等の負極活物質の含有量を増やすことができ、エネルギー密度を高めること等ができる。なお、負極活物質層中の黒鉛は、負極活物質層における導電剤には該当しない。
【0082】
負極活物質層におけるバインダの含有量は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上5質量%以下がより好ましい。バインダの含有量を上記の範囲とすることで、中実黒鉛等を安定して保持することができる。
【0083】
負極活物質層における増粘剤の含有量としては、0.1質量%以上5質量%以下が好ましい。
【0084】
負極活物質層がフィラーを含有する場合、負極活物質層におけるフィラーの含有量は、例えば0.1質量%以上10質量%以下とすることができる。負極活物質層におけるフィラーの含有量は、5質量%以下であってもよく、1質量%以下であってもよく、0質量%であってもよい。負極活物質層におけるフィラーの含有量が少ない、又はフィラーが含まれていない場合、中実黒鉛等の負極活物質の含有量を増やすことができ、エネルギー密度を高めること等ができる。
【0085】
負極活物質層の多孔度としては、30%以上55%以下が好ましく、35%以上45%以下がより好ましい。負極活物質層の多孔度を上記上限以下とすることで、エネルギー密度が高まる。一方、通常、負極活物質層の多孔度が低いほど充放電に伴う負極活物質層の膨張が生じ易くなる。これに対し本発明の一実施形態に係る蓄電モジュールに備わる蓄電素子においては、中実黒鉛が用いられていることにより、負極活物質層の多孔度が比較的低い場合であっても、充放電に伴う負極活物質層の膨張が小さく、充放電サイクル後の出力維持率を高めることができる。負極活物質層の多孔度は、中実黒鉛等の粒径、負極作製時のプレスの有無及び強度等により調整することができる。
【0086】
負極活物質層の単位面積当たりの質量としては、2.5mg/cm2以上6mg/cm2以下が好ましく、3mg/cm2以上5mg/cm2以下がより好ましい。負極活物質層の単位面積当たりの質量が上記範囲内である負極を備えた蓄電素子において、前述した効果がより良く発揮され得る。「負極活物質層の単位面積当たりの質量」は、1つの負極活物質層の単位面積当たりの質量をいう。例えば、負極が負極基材を有し、この負極基材の両面にそれぞれ負極活物質層が設けられている場合、「負極活物質層の単位面積当たりの質量」は、一方の面の負極活物質層の単位面積当たりの質量である。
【0087】
負極の作製は、例えば負極基材に直接又は中間層を介して、負極合剤ペーストを塗布し、乾燥させることにより行うことができる。乾燥後、必要に応じてプレス等を行ってもよい。負極合剤ペーストには、中実黒鉛、及び任意成分である導電剤、バインダ等、負極活物質層を構成する各成分が含まれる。負極合剤ペーストには、通常さらに分散媒が含まれる。
【0088】
(セパレータ)
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の形状としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの形状の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0089】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、1気圧の空気雰囲気下で室温から500℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものが好ましく、室温から800℃まで昇温したときの質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、チタン酸バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、蓄電素子の安全性の観点から、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又はアルミノケイ酸塩が好ましい。
【0090】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0091】
セパレータとして、ポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーとして、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0092】
(電解質)
電解質としては、公知の電解質の中から適宜選択できる。電解質には、電解液を用いてもよい。電解質には、非水電解質を用いてもよく、非水電解液を用いてもよい。非水電解液は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とを含む。
【0093】
非水溶媒としては、公知の非水溶媒の中から適宜選択できる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲン原子に置換されたものを用いてもよい。
【0094】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもECが好ましい。
【0095】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもEMCが好ましい。
【0096】
非水溶媒として、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0097】
電解質塩としては、公知の電解質塩から適宜選択できる。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等が挙げられる。これらの中でもリチウム塩が好ましい。
【0098】
リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。
【0099】
非水電解液における電解質塩の含有量は、20℃1気圧下において、0.1mol/dm3以上2.5mol/dm3以下であると好ましく、0.3mol/dm3以上2.0mol/dm3以下であるとより好ましく、0.5mol/dm3以上1.7mol/dm3以下であるとさらに好ましく、0.7mol/dm3以上1.5mol/dm3以下であると特に好ましい。電解質塩の含有量を上記の範囲とすることで、非水電解液のイオン伝導度を高めることができる。
【0100】
非水電解液は、非水溶媒と電解質塩以外に、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン)、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、1,3-プロペンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,4-ブテンスルトン、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0101】
非水電解液に含まれる添加剤の含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下であると好ましく、0.1質量%以上7質量%以下であるとより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であるとさらに好ましく、0.3質量%以上3質量%以下であると特に好ましい。添加剤の含有量を上記の範囲とすることで、高温保存後の容量維持性能又はサイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0102】
電解質には、固体電解質を用いてもよく、非水電解液と固体電解質とを併用してもよい。
【0103】
固体電解質としては、リチウム、ナトリウム、カルシウム等のイオン伝導性を有し、常温(例えば15℃から25℃)において固体である任意の材料から選択できる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、窒化物固体電解質、ポリマー固体電解質等が挙げられる。
【0104】
硫化物固体電解質としては、リチウムイオン二次電池の場合、例えば、Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2S5、Li10Ge-P2S12等が挙げられる。
【0105】
(第二蓄電素子)
図4に示す第二蓄電素子102は、電極体1、図示しない電解質、並びに電極体1及び電解質を収容する容器3を備える。
【0106】
第二蓄電素子102は、電極体1と容器3との間に配置されるスペーサー2を備えないこと以外は、
図3の第一蓄電素子101と同じである。従って、
図4の第二蓄電素子102を構成する各部材は、
図3の第一蓄電素子101と同一の符号を付して具体的な説明を省略する。
【0107】
第二蓄電素子102においては、電極体1と容器3との間に実質的に隙間がなく、スペーサー2が配置されていない。通常、電極体1と容器3との間には実質的に隙間が生じないように設計されるため、設計通りに電極体1が製造されれば、スペーサー2は配置されない。しかし、電極体1を製造する際に、例えば強く巻回、積層又はプレスされる場合などにおいては、電極体1が設計された厚さより薄くなるため、このような場合は、スペーサー2が配置される。
【0108】
すなわち、蓄電モジュール200に備わる複数の蓄電素子100は、電極体1が実質的に設計通りの厚さで製造された第二蓄電素子102と、電極体1が設計より薄く製造され、電極体1と容器3との間に、容器3の内寸に対して0.5%以上の総厚さの比率でスペーサー2が配置された第一蓄電素子とを含む。そして、通常、相対的に厚いスペーサーが配置された蓄電素子の場合、充放電の繰り返しに伴う出力低下が生じ易くなる。それに対し、蓄電モジュール200に備わる各蓄電素子100は、負極活物質に中実黒鉛が用いられているため、相対的に厚いスペーサーが配置された蓄電素子(第一蓄電素子101)においても、充放電の繰り返しに伴う出力低下が生じ難い。このように、蓄電モジュール200は、電極体1と容器3との間に相対的に厚いスペーサー2が配置された蓄電素子100(第一蓄電素子101)を含む蓄電モジュールであるにもかかわらず、充放電サイクル後の出力維持率が高い。
【0109】
また、
図1の実施形態に係る蓄電モジュール200においては、上述のように、複数の蓄電素子100が所定方向に配列され、かつ、該配列方向における複数の蓄電素子100の総厚さが一定の厚さに維持されるように拘束されている。複数の蓄電素子100の総厚さが一定の厚さに維持されるように拘束されている場合、活物質粒子間の電気的な接触性が維持されること等により、良好な充放電性能が発揮される傾向にある。また、蓄電素子100が拘束されている蓄電モジュールに本発明の一実施形態を適用した場合、充放電サイクル後の出力性能にも優れるという効果が特に顕著に得られる。例えば、蓄電素子100の厚さ方向(
図2から4におけるY方向)の厚さが、一定の厚さに維持されるように拘束されていてよい。
【0110】
本実施形態の蓄電モジュールは、高出力での充放電の繰り返しが行われる使用形態の蓄電モジュールに対して、特に好適に適用することができる。このような蓄電モジュールは、充放電の繰り返しに伴う出力の低下が生じ易く、出力維持率が高いことが特に重要になるためである。具体的に、本実施形態の蓄電モジュールは、例えば電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)等の自動車用電源などとして好適に用いることができ、中でもHEV用として特に好適に用いることができる。その他、本実施形態の蓄電モジュールは、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器用電源、又は電力貯蔵用電源等に用いてもよい。複数の蓄電モジュールをさらに集合した蓄電装置として使用することもできる。
【0111】
<蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、正極及び負極を有する電極体、上記電極体を収容する容器、並びに上記電極体と上記容器との間に配置されるスペーサーを備え、上記容器の内寸に対する上記スペーサーの総厚さの比率が0.5%以上であり、上記負極が中実黒鉛を含む。
【0112】
本発明の一実施形態に係る蓄電素子は、電極体と容器との間に相対的に厚いスペーサーが配置された蓄電素子であって、充放電サイクル後の出力維持率が高い。当該蓄電素子の具体例としては、本発明の一実施形態に係る蓄電モジュール200に含まれる第一蓄電素子101として上記したものが挙げられる。
【0113】
<蓄電素子の製造方法>
本実施形態の蓄電素子の製造方法は、公知の方法から適宜選択できる。当該製造方法は、例えば、電極体を準備することと、スペーサーを準備することと、電解質を準備することと、電極体、スペーサー及び電解質を容器に収容することと、を備える。電極体を準備することは、正極及び負極を準備することと、セパレータを介して正極及び負極を積層又は巻回することにより電極体を形成することとを備える。
【0114】
電解質を容器に収容することは、公知の方法から適宜選択できる。例えば、電解質に非水電解液を用いる場合、容器に形成された注入口から非水電解液を注入した後、注入口を封止すればよい。
【0115】
<その他の実施形態>
尚、本発明の蓄電モジュール及び蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えてもよい。例えば、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することができ、また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成又は周知技術に置き換えることができる。さらに、ある実施形態の構成の一部を削除することができる。また、ある実施形態の構成に対して周知技術を付加することができる。
【0116】
上記実施形態では、蓄電素子が充放電可能な非水電解質二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)として用いられる場合について説明したが、蓄電素子の種類、形状、寸法、容量等は任意である。本発明は、種々の二次電池、電気二重層キャパシタ又はリチウムイオンキャパシタ等のキャパシタ、電解質に水系電解液が用いられた蓄電素子等にも適用できる。
【0117】
上記実施形態では、正極及び負極がセパレータを介して積層された電極体について説明したが、電極体は、セパレータを備えなくてもよい。例えば、正極又は負極の活物質層上に導電性を有さない層が形成された状態で、正極及び負極が直接接してもよい。また、上記実施形態では、蓄電素子が巻回型の電極体を備える場合について中心に説明したが、蓄電素子が備える電極体の形状等は任意である。本発明は、複数の正極及び複数の負極がセパレータを介して積層された積層型の電極体を備える蓄電素子にも適用できる。
【0118】
スペーサーの配置も、上記実施形態に限定されるものではない。スペーサーは、扁平状の巻回型の電極体の平坦部における一方の面側にのみ設けられていてもよい。扁平状の巻回型の電極体の平坦部における一方の面側と他方の面側とで、異なる厚さ又は枚数のスペーサーを配置してもよい。ただし、上述した実施形態の如く、扁平状の巻回型の電極体の平坦部における一方の面側と他方の面側とで、それぞれ総厚さの1/2の厚さとなるように、スペーサーが配されている方が、電極体の両側から該電極体に均等に荷重を付与し得る点で好ましい。
【実施例0119】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0120】
[実施例1]
正極活物質であるLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、導電剤であるアセチレンブラック(AB)、バインダであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)及び分散媒であるN-メチルピロリドン(NMP)を用いて正極合剤ペーストを調製した。なお、正極活物質、AB及びPVDFの質量比率は93:3.5:3.5(固形分換算)とした。正極基材としてのアルミニウム箔の両面に正極合剤ペーストを塗布し、乾燥した。その後、ロールプレスを行い、正極を得た。得られた正極における正極活物質層の単位面積当たりの質量(片面)は6mg/cm2であった。
【0121】
(負極の作製)
負極活物質である中実黒鉛(空隙率0.49%、平均粒径8μm)、バインダであるスチレン-ブタジエンゴム(SBR)、増粘剤であるカルボキシメチルセルロース(CMC)、及び分散媒である水を用いて負極合剤ペーストを調製した。なお、中実黒鉛は、天然黒鉛の圧密化処理により作製したものである。負極活物質、SBR及びCMCの質量比率は98:1:1(固形分換算)とした。負極基材としての銅箔の両面に負極合剤ペーストを塗布し、乾燥した。その後、ロールプレスを行い、負極を得た。得られた負極における負極活物質層の多孔度は45%、単位面積当たりの質量(片面)は4mg/cm2であった。
【0122】
(電解質)
エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを30:70の体積比率で混合した溶媒に、1.2mol/dm3の濃度でLiPF6を溶解させ、電解質を得た。
【0123】
(セパレータ)
セパレータには、ポリオレフィン製微多孔膜を用いた。
【0124】
(スペーサー)
スペーサーには、ポリプロピレン製の非多孔質シート(絶縁シート)を用いた。
【0125】
(蓄電素子の組み立て)
上記正極と負極とセパレータとを用いて扁平状の巻回型の電極体を得た。電極体の平坦部の両面にそれぞれスペーサーを配置し、電極体をスペーサーと共に容器(内寸11.60mm)に収納し、電解質を注入して封口し、実施例1の蓄電素子を得た。なお、蓄電素子は、拘束部材により蓄電素子の容器を拘束し、容器が一定の厚さに維持される状態とした。電極体の厚さ方向におけるスペーサーの総厚さは0.10mmであった。容器の内寸に対するスペーサーの総厚さの比率は、0.9%であった。
【0126】
[実施例2から3、比較例1から5、参考例1、2]
負極活物質の種類を表1に記載の通りとした。また、負極作製時のロールプレスの強度を変更し、厚さの異なる電極体を製造し、スペーサーの総厚さと電極体の厚さとの合計が全て等しくなるように、スペーサーの総厚さを表1に記載の通りとした。これらの点以外は実施例1と同様にして、実施例2から3、比較例1から5及び参考例1、2の各蓄電素子を得た。スペーサーの総厚さは、配置するスペーサー(非多孔質シート)の枚数を変更することにより調整した。いずれの実施例、比較例及び参考例の各蓄電素子においても、電極体の平坦部の中央部分には空隙が存在していなかった。
なお、表1中の「中空黒鉛」は、空隙率4.44%、平均粒径8μmの天然黒鉛である。
【0127】
[評価]
(1)初期充放電
得られた各蓄電素子について、以下の条件にて初期充放電を行った。25℃にて、1.0Cの電流で4.10Vまで定電流充電した。その後、4.10Vにて定電圧充電した。充電の終了条件は、総充電時間が3時間となるまでとした。その後、10分間の休止期間を設けた。1.0Cの電流で放電終止電圧2.50Vまで定電流放電した。このときの放電電気量を初期放電容量とした。
(2)初期の出力
上記初期充放電後の各蓄電素子について、25℃にて、1.0Cの電流で初期放電容量の50%の電気量の定電流充電を行い、SOC(充電状態)を50%にした。続いて、0.2C、0.5C、又は1.0Cの電流で、それぞれ30秒間放電した。各放電終了後には、1.0Cの電流で定電流充電を行い、SOCを50%にした。各放電における電流と放電開始後10秒目の電圧との関係をプロットし、3点のプロットから得られた直線の傾きから直流抵抗を求めた。求めた直流抵抗から放電開始後10秒後の出力を算出し、初期の出力とした。
(3)充放電サイクル試験
次いで、各蓄電素子について、25℃にて、1.0Cの電流で定電流放電を行い、SOCを20%にした。続いて、60℃の恒温槽に4時間保管した後、60℃にて、4.0Cの電流でSOC80%に相当する電圧まで定電流充電を行った後、4.0Cの電流でSOC20%に相当する電圧まで定電流放電を行った。上記充電及び放電のサイクルを、上記充電及び放電の後には休止時間を設けずに、500時間繰り返した。
(4)充放電サイクル試験後の出力
その後、初期の出力を求めた手順と同様の手順により、充放電サイクル試験後の出力を求めた。各蓄電素子について、初期の出力に対する充放電サイクル試験後の出力の百分率を求め、出力維持率とした。結果を表1及び
図5に示す。
【0128】
【0129】
表1及び
図5に示されるように、負極活物質として中空黒鉛が用いられた比較例1から5の蓄電素子においては、容器の内寸に対するスペーサーの総厚さの比率が高くなるにつれて、充放電サイクル後の出力維持率が低下し、特に上記比率が0.5%以上になると顕著に低下した。これに対し、負極活物質として中実黒鉛が用いられた参考例1、2及び実施例1から3の蓄電素子においては、容器の内寸に対するスペーサーの総厚さの比率が高くなっても、充放電サイクル後の出力維持率はほとんど低下しなかった。特に、上記比率が0.5%以上である実施例1から3の蓄電素子においては、中空黒鉛を用いた場合に対する出力維持率の比率(例えば、上記比率が共に0.9%である比較例3の蓄電素子の出力維持率に対する実施例1の蓄電素子の出力維持率の比率)が110%を超え、中実黒鉛を用いることによる高い改善効果が確認できた。このように、実施例1から3の各蓄電素子においては、電極体と容器との間に相対的に厚いスペーサーが配置された蓄電素子であって、充放電サイクル後の出力維持率が高いという効果が確認できた。また、本結果から、実施例1から3の各蓄電素子のいずれかを第一蓄電素子として含み、参考例1の蓄電素子を第二蓄電素子として含む複数の蓄電素子を備える蓄電モジュールも、充放電サイクル後の出力維持率が高いことも明らかである。