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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156533
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】培地
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/14 20060101AFI20241029BHJP
   C12N 9/02 20060101ALN20241029BHJP
【FI】
C12N1/14 C
C12N9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071077
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000110217
【氏名又は名称】TOPPANエッジ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】和田 凪左
(72)【発明者】
【氏名】志村 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】金野 尚武
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】澤井 瑠奈
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA57X
4B065AC14
4B065BB02
4B065BB15
4B065BB26
4B065BB29
4B065BC03
4B065BC09
4B065BC26
4B065BC31
4B065BC41
4B065BD15
4B065CA28
4B065CA55
(57)【要約】
【課題】真菌を生育させることによって、真菌にラッカーゼを産生させることが可能な液状の培地であって、その製造時に銅塩の添加が不要であり、真菌の生育時には培養物の発泡を抑制できる培地の提供。
【解決手段】液状の培地であって、前記培地は、真菌を生育させることにより、前記真菌にラッカーゼを産生させるための培地であり、前記培地は、TEMPO酸化セルロースナノファイバーと、菌床用の栄養材と、を含有し、前記培地において、前記培地の総質量に対する、前記TEMPO酸化セルロースナノファイバーの含有量の割合が、0.02~1質量%であり、前記培地において、前記培地の総質量に対する、前記栄養材の含有量の割合が、2.5~10質量%である、培地。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状の培地であって、
前記培地は、真菌を生育させることにより、前記真菌にラッカーゼを産生させるための培地であり、
前記培地は、TEMPO酸化セルロースナノファイバーと、菌床用の栄養材と、を含有し、
前記培地において、前記培地の総質量に対する、前記TEMPO酸化セルロースナノファイバーの含有量の割合が、0.02~1質量%であり、
前記培地において、前記培地の総質量に対する、前記栄養材の含有量の割合が、2.5~10質量%である、培地。
【請求項2】
前記培地の銅の濃度が、0.48mg/L以下である、請求項1に記載の培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培地に関する。
【背景技術】
【0002】
ラッカーゼは自然界に広く分布する酵素であり、主なラッカーゼ産生菌類としては、木材腐朽菌、特に担子菌類及び子嚢菌類が挙げられる。ラッカーゼは、リグニンの分解、ウルシオール等のフェノール類の酸化、重合等の作用を有しており、有用性が高い。そのため産業界では、パルプの製造時におけるリグニンの除去、色素を含む廃水の処理、漆の製造等で利用されている。さらに、ポリ塩化ビフェニル(PCB)等の環境汚染物質の分解に、ラッカーゼを利用することも期待されている。
【0003】
その一方で、自然界から取り出せるラッカーゼの量には限りがある。微生物培養を利用したラッカーゼの合成も検討されているが、その実用性は高いとはいえない。
このように、ラッカーゼは、産業上での利用価値が高いものの、生産量の増大を見込めず、大規模な利用には至っていない。
【0004】
これらとは異なるラッカーゼの製造方法としては、特定種のラッカーゼ生産性の糸状菌によるラッカーゼ生産のための培養過程において、特定種のカロテノイド生産性の微生物を添加することによって、前記糸状菌によるラッカーゼの生産を促進し、ラッカーゼを製造する方法が開示されている(特許文献1参照)。
しかし、この製造方法では、カロテノイド生産性の微生物の併用が必要であるため、この微生物の使用と管理の分だけ、工程が煩雑であるという問題点があった。
【0005】
このような問題点を解決できるラッカーゼの製造手段として、TEMPO酸化セルロースナノファイバーを含有する培地と、前記培地を用いて、真菌を生育させることにより、前記真菌にラッカーゼを産生させる工程を有する、ラッカーゼの製造方法と、が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6560301号公報
【特許文献2】国際公開第2021/193893号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2で開示されている培地のうち、液状の培地を作製するためには、銅塩の添加が必要であった。その理由は、真菌の生育に伴うラッカーゼの産生では、銅が必要不可欠なためである。ところが、銅には環境汚染の懸念がある。そのため、特許文献2で開示されているラッカーゼの製造方法では、ラッカーゼを産生後の培養物に対して、銅の除去処理が必要であった。
【0008】
さらに、特許文献2で開示されている液状の培地を用いて、ラッカーゼを大量スケールで製造する場合には、通常、ジャーファーメンターのような大量製造用の装置を用いて、真菌を生育させる。しかし、その過程では、液状の培養物が発泡し易いという問題点があった。そして、好気性微生物である真菌を培養するときに、装置内に設けられた通気用のスパージャー等の空気供給手段から培養物に空気を供給するときに、上記の問題点は、特に顕著であった。培養物が発泡してしまうと、装置内に設けられたエアフィルターに培養物が付着して、エアフィルターが雑菌によって汚染されてしまったり、培養物が装置外に飛散してしまうことがある。そして、このような培養物の発泡による不具合を避けるためには、大量製造用の装置内には、限られた量の培地しか投入できなくなってしまうため、ラッカーゼの製造効率が低下してしまう。培養物の発泡を抑制するために、培養物に消泡剤を添加する手法が考えられるが、特許文献2で開示されている製造方法で消泡剤を用いると、たとえ、微生物の培養時に用いるのが適切とされているポリエーテル系の消泡剤であっても、真菌の生育に悪影響があることが判明した。さらに、培養物の撹拌方法を調節することも考えられるが、ラッカーゼの製造工程が煩雑になってしまう。
【0009】
本発明は、真菌を生育させることによって、真菌にラッカーゼを産生させることが可能な液状の培地であって、その製造時に銅塩の添加が不要であり、真菌の生育時には培養物の発泡を抑制できる培地を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
[1] 液状の培地であって、前記培地は、真菌を生育させることにより、前記真菌にラッカーゼを産生させるための培地であり、前記培地は、TEMPO酸化セルロースナノファイバーと、菌床用の栄養材と、を含有し、前記培地において、前記培地の総質量に対する、前記TEMPO酸化セルロースナノファイバーの含有量の割合が、0.02~1質量%であり、前記培地において、前記培地の総質量に対する、前記栄養材の含有量の割合が、2.5~10質量%である、培地。
[2] 前記培地の銅の濃度が、0.48mg/L以下である、[1]に記載の培地。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、真菌を生育させることによって、真菌にラッカーゼを産生させることが可能な液状の培地であって、その製造時に銅塩の添加が不要であり、真菌の生育時には培養物の発泡を抑制できる培地が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1及び比較例1~4で得られたラッカーゼの酵素活性の測定結果を示すグラフである。
図2】実施例2~4及び比較例6で得られたラッカーゼの酵素活性の測定結果を示すグラフである。
図3】実施例5及び比較例7で得られたラッカーゼの酵素活性の測定結果を示すグラフである。
図4】実施例5及び比較例7において、ラッカーゼの製造時に取得した、培養物の撮像データである。
図5】実施例6~12及び比較例8で得られたラッカーゼの酵素活性の測定結果を示すグラフである。
図6】実施例13~19及び比較例9~10で得られたラッカーゼの酵素活性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<<培地>>
本発明の一実施形態に係る培地は、液状であって、前記培地は、真菌を生育させることにより、前記真菌にラッカーゼを産生させるための培地であり、前記培地は、TEMPO酸化セルロースナノファイバー(本明細書においては、「TEMPO酸化CNF」と称することがある)と、菌床用の栄養材(本明細書においては、単に「栄養材」と称することがある)と、を含有し、前記培地において、前記培地の総質量に対する、前記TEMPO酸化セルロースナノファイバーの含有量の割合が、0.02~1質量%であり、前記培地において、前記培地の総質量に対する、前記栄養材の含有量の割合が、2.5~10質量%である。
本実施形態の培地は、TEMPO酸化CNFと前記栄養材を、いずれも特定範囲の量で含有していることにより、培地の製造時に銅塩を添加しなくても、真菌を生育させることによって、真菌にラッカーゼを産生させることが可能であり、かつ、真菌の生育時には培養物(真菌を生育させているときの培地)の発泡を抑制できる。
【0014】
さらに、本実施形態の培地を用いることで、真菌の培養日数が少なくても、酵素活性が高いラッカーゼを製造できる。
【0015】
本明細書においては、ラッカーゼの酵素活性とは、特に断りのない限り、ラッカーゼ活性を意味する。
【0016】
本実施形態の培地は、後述するように、滅菌処理された状態であってもよいし、滅菌処理されていない状態であってもよい。
【0017】
本明細書において、濃度の単位「M」は、「mol/L」を意味する。
【0018】
<真菌>
本実施形態の培地の使用対象となる前記真菌は、ラッカーゼ産生能を有しており、ラッカーゼ産生菌である。
前記真菌は、TEMPO酸化CNFを利用して生育し、ラッカーゼを産生する。
【0019】
前記真菌としては、例えば、木材腐朽菌、麹菌等が挙げられ、子実体(キノコ)であってもよい。すなわち、本実施形態においては、真菌の生育には、微生物の培養と、子実体(キノコ)の栽培(生育)と、の両方が含まれる。
【0020】
木材腐朽菌は、セルロース、ヘミセルロース及びリグニン等の、いずれかの木材の主要成分を分解して、腐朽を引き起こす。
木材腐朽菌としては、例えば、シイタケ、ヒラタケ(例えば、プレウロタス オストレアタス(Pleurotus ostreatus))、マイタケ、エリンギ等の白色腐朽菌;オオウズラタケ、サルノコシカケ、ナミダタケ等の褐色腐朽菌;トリコデルマ(Trichoderma)属に属する微生物、カエトミウム(Caetomium)属に属する微生物等の軟腐朽菌等が挙げられる。
【0021】
麹菌は、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する微生物であり、その具体例としては、黄麹菌、白麹菌、黒麹菌等が挙げられる。
【0022】
前記培地を用いて生育させる真菌は、1種のみのであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0023】
真菌のうち、キノコは、ラッカーゼを産生させる真菌として好適であるだけでなく、それ自体の利用価値が高い。
【0024】
<TEMPO酸化セルロースナノファイバー>
TEMPO酸化セルロースナノファイバー(TEMPO酸化CNF)とは、TEMPO、すなわち、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル(2,2,6,6-tetramethylpiperidine 1-oxyl)の触媒作用によって、セルロースを化学変性させて得られたセルロースナノファイバー(本明細書においては、「CNF」と略記することがある)である。
【0025】
セルロースナノファイバーとしては、例えば、セルロース若しくはその誘導体で、繊維幅が2~200nmのミクロフィブリル又はミクロフィブリル集合体となっているものが挙げられる。
【0026】
前記培地において、前記培地の総質量に対する、TEMPO酸化CNFの含有量の割合(本明細書においては、単に「TEMPO酸化CNFの含有量」と称することがある)([培地のTEMPO酸化CNFの含有量(質量部)]/[培地の総質量(質量部)]×100)は、0.02~1質量%であり、例えば、0.04~1質量%、0.09~1質量%、及び0.3~1質量%のいずれかであってもよいし、0.02~0.9質量%、0.02~0.3質量%、及び0.02~0.07質量%のいずれかであってもよいし、0.04~0.9質量%、及び0.09~0.3質量%のいずれかであってもよい。
前記TEMPO酸化CNFの含有量が前記下限値以上であることで、前記培地を用いた真菌の生育時(ラッカーゼの製造時)において、培養物の発泡が抑制される。前記TEMPO酸化CNFの含有量が前記上限値以下であることで、培地の粘度が低くなり、ラッカーゼの製造(真菌の生育)を安定して行うことができる。
【0027】
本実施形態の培地において、TEMPO酸化CNFの含有量が、上述の特許文献2(国際公開第2021/193893号)で開示されている培地の場合より少なくても、本実施形態の培地を用いることで、より高活性なラッカーゼを製造できる。
【0028】
前記培地は、液状であり、TEMPO酸化CNFは培地中で偏在していてもよいが、均一に分散していることが好ましい。
【0029】
<栄養材>
前記栄養材は、菌床用(細菌を植菌し、生育させるための培地用)の栄養材である。
前記真菌は、TEMPO酸化CNFを利用して生育し、ラッカーゼを産生するときに、銅を必要とする。これに対して、前記培地の製造時に銅塩(例えば、硫酸銅(II)等)の添加は、一切不要である。これは、栄養材がその中に、微量ではあるが銅を含有しているためである。栄養材を用いることで、培地は、炭素源及び窒素源を含有するだけでなく、銅も含有したものとなる。
【0030】
従来の液状の培地では、真菌の生育のために、ペプトン、酵母エキス等の炭素源又は窒素源を含有させていた。しかし、真菌の培養時(ラッカーゼの製造時)、特に真菌の培養を大量スケールで行うために、ジャーファーメンターのような大量製造用の装置を用いたときには、これらの材料(ペプトン、酵母エキス等)を用いることで、液状の培養物が発泡し易くなるという問題点があった。
これに対して、本実施形態の液状の培地は、これらの材料ではなく、前記栄養材を用いることで、培養物の発泡を抑制できる。
【0031】
前記栄養材としては、例えば、米ぬか、フスマ、オカラ、コーンブラン、豆皮等が挙げられる。
【0032】
前記培地が含有する栄養材は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0033】
上記の中でも、銅の含有量が安定しており、真菌の生育がより良好となる点では、栄養材は、米ぬかであることが好ましい。米ぬか中では、セルロース、リグニン又はヘミセルロース等の繊維と、銅と、が結合していると推測される。
【0034】
前記培地において、前記培地の総質量に対する、栄養材の含有量の割合(本明細書においては、単に「栄養材の含有量」と称することがある)([培地の栄養材の含有量(質量部)]/[培地の総質量(質量部)]×100)は、2.5~10質量%であり、例えば、2.5~9質量%、2.5~7.5質量%、及び2.5~6.5質量%のいずれかであってもよいし、3.5~10質量%、4.5~10質量%、及び5.5~10質量%のいずれかであってもよいし、3.5~9質量%、及び4.5~7.5質量%のいずれかであってもよい。
栄養材の含有量が前記下限値以上であることで、前記培地を用いた真菌の生育時(ラッカーゼの製造時)において、真菌が十分に生育し、ラッカーゼの酵素活性が高くなる。栄養材の含有量が前記上限値以下であることで、培地の粘度が低くなり、特に培地が固形状となることが避けられ、ラッカーゼの製造(真菌の生育)を安定して行うことができる。
【0035】
<水>
前記培地は、通常、TEMPO酸化CNFと栄養材以外に、水を含有する。
前記培地の水の含有量は、特に限定されないが、例えば、前記TEMPO酸化CNFの含有量(質量%)と、前記栄養材の含有量(質量%)と、の数値範囲を満たすように、適宜調節することが好ましい。
前記培地において、前記培地の総質量に対する、水の含有量の割合([培地の水の含有量(質量部)]/[培地の総質量(質量部)]×100)は、例えば、89~97.48質量%であってもよい。
【0036】
<他の成分>
前記培地は、本発明の効果を損なわない範囲において、TEMPO酸化CNFと、栄養材と、水と、のいずれにも該当しない、他の成分を含有していてもよい。
前記他の成分は特に限定されず、真菌の種類等に応じて、適宜選択できる。
前記他の成分は、例えば、有機成分及び無機成分のいずれであってもよい。
【0037】
前記培地は、例えば、公知の培地に、TEMPO酸化CNFと栄養材が添加されたものであってもよい。
【0038】
前記培地が含有する前記他の成分は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよく、2種以上である場合、それらの組み合わせ及び比率は、任意に調節できる。
【0039】
[銅]
通常、前記培地は、前記他の成分として、銅を含有する。
ただし、銅は環境汚染物質であり、銅塩の使用時には、前記培地を用いた場合の培養物等に対して、銅の除去処理が必要である。そのため、前記培地の銅の濃度(1Lの培地が含んでいる銅の量)は、0.48mg/L以下であることが好ましい。培地の製造時に銅塩を添加せず(不使用とし)、前記栄養材を用いて製造された培地は、このような濃度で銅を含有し得る。培地の銅の濃度が前記上限値以下であれば、環境汚染の懸念はなく、培地を用いた場合の培養物等に対して、銅の除去処理が不要となる。
【0040】
一方、前記培地の銅の濃度は、0.12mg/L以上であることが好ましい。上記の上限値の場合と同様に、培地の製造時に銅塩を添加せず(不使用とし)、前記栄養材を用いて製造された培地は、このような濃度で銅を含有し得る。培地の銅の濃度が前記下限値以上であれば、培地を用いて真菌を生育させることによって、活性が高いラッカーゼを真菌に十分に産生させることができる。
【0041】
本明細書において、「銅」とは、特に断りのない限り、金属銅、銅塩、銅イオン等の、構成元素として銅元素を含むものを包括する概念である。
【0042】
前記培地の銅の濃度は、例えば、原子吸光法、比色法(吸光光度法)等、公知の方法で測定できる。
【0043】
前記培地のpHは5.5~7であることが好ましい。培地のpHがこのような範囲であることで、真菌をより良好に生育させることができ、その結果、ラッカーゼの産生効率が高くなる。
【0044】
前記培地において、前記培地の総質量に対する、前記培地の1種又は2種以上の上述の含有成分の合計含有量の割合は、100質量%を超えない。
【0045】
前記培地において、前記培地の総質量に対する、TEMPO酸化CNFと、栄養材と、水と、の合計含有量の割合([培地のTEMPO酸化CNFと、栄養材と、水と、の合計含有量(質量部)]/[培地の総質量(質量部)]×100)は、90質量%以上であることが好ましく、例えば、95質量%以上、97質量%以上、及び99質量%以上のいずれかであってもよい。前記割合が前記下限値以上であることで、真菌をより良好に生育させることができ、かつ、真菌の生育時には培養物(真菌を生育させているときの培地)の発泡を、より高度に抑制できる。
一方、前記割合は100質量%以下である。
換言すると、前記培地において、前記培地の総質量に対する、前記他の成分の含有量の割合([培地の他の成分の含有量(質量部)]/[培地の総質量(質量部)]×100)は、10質量%以下であることが好ましく、例えば、5質量%以下、3質量%以下、及び1質量%以下のいずれかであってもよい。
【0046】
上述の特許文献2(国際公開第2021/193893号)には、培地の前記TEMPO酸化CNFの含有量と、培地の前記栄養材の含有量として、本実施形態の培地の場合と重複する数値範囲が記載されている。しかし、特許文献2には、真菌を生育させることにより、真菌にラッカーゼを産生させるための培地としては、固形状の培地と液状の培地との両方が記載されており、液状の培地において、前記TEMPO酸化CNFの含有量と、前記栄養材の含有量について、特定の数値範囲とすることは、記載も示唆もされていない。すなわち、特許文献2には、本実施形態の培地における、前記TEMPO酸化CNFの含有量と、前記栄養材の含有量については、一切記載されておらず、これらTEMPO酸化CNFの含有量と、前記栄養材の含有量を採用することに、当業者を導く動機付けがない。
これに対して、本実施形態の培地においては、先の説明のように、前記TEMPO酸化CNFの含有量と、前記栄養材の含有量がともに、特定範囲であることで、真菌を良好に生育させることができ、かつ、真菌の生育時には培養物の発泡を抑制できる。そして、前記TEMPO酸化CNFの含有量、又は前記栄養材の含有量が、この特定範囲を外れると、これらのいずれかの効果が全く得られない。
すなわち、本実施形態の培地は、前記TEMPO酸化CNFの含有量と、前記栄養材の含有量がともに、特定範囲であることで、顕著な効果を奏するのであり、さらに、これら特定範囲の組み合わせを選択することは、特許文献2をはじめとする従来の文献を参照しても、極めて困難である。
【0047】
前記培地は、TEMPO酸化CNFと、栄養材と、水と、必要に応じて前記他の成分と、を配合することで製造できる。
各成分の配合は、例えば、15~40℃の温度条件下で行うことができ、常温下で行ってもよい。
本明細書において、「常温」とは、特に冷やしたり、熱したりしない温度、すなわち平常の温度を意味し、例えば、15~25℃の温度等が挙げられる。
また、各成分の配合は、例えば、常圧下で行うことができる。
【0048】
前記培地の製造時に用いるTEMPO酸化CNFは、例えば、取り出し若しくは精製によって、純品となっている状態で配合してもよいし、後処理によって、TEMPO酸化CNF以外の成分との混合物の状態となっているものを配合してもよいし、TEMPO酸化CNFの製造時に得られた、TEMPO酸化CNF以外の成分との混合物の状態となっているものを、そのまま配合してもよい。
【0049】
前記培地の製造時には、硫酸銅(II)等の公知の銅塩を配合しないことが好ましい。銅塩を配合する場合には、培地の銅の濃度が0.48mg/L以下となるように、銅塩の配合量を調節することが好ましい。
【0050】
前記培地の製造時には、培地のpHを目的の数値範囲内とするために、公知の酸又は塩基を配合してもよい。
【0051】
前記培地の製造時には、例えば、TEMPO酸化CNFが水中で分散された水分散体を配合することが好ましい。その場合には、前記水分散体を滅菌処理した後、この滅菌処理済みの前記水分散体と、栄養材と、必要に応じて水と、必要に応じて前記他の成分と、を配合し、得られた配合物を滅菌処理して得られたものを、前記培地とすることが好ましい。通常、TEMPO酸化CNFと水を含有する液状物は、ゲル化し易いが、ゲル化した液状物は、その全量を均一に滅菌することが容易ではない。これに対して、TEMPO酸化CNFと水を含有する液状物を、上記のように、2段階で滅菌処理することで、高い均一性で滅菌処理された本実施形態の培地を、より容易に得られる。
滅菌処理は、オートクレーブ等の公知の方法で行うことができる。
【0052】
<<ラッカーゼの製造方法(培地の使用方法)>>
本実施形態の培地は、ラッカーゼの製造に用いることができる。
より具体的には、前記ラッカーゼは、本実施形態の培地を用いて、前記真菌を生育させ、前記真菌にラッカーゼを産生させることで製造できる。
【0053】
前記製造方法において、真菌の生育は、例えば、前記培地及び真菌を用いる点を除けば、菌類を生育させる公知の方法の場合と同じ方法で行うことができる。すなわち、前記培地の使用方法は、公知の培地の使用方法と同じであってもよい。
【0054】
液状である前記培地は、真菌の生育時には、静置してもよいし、振とう(すなわち、振とう培養)してもよい。
【0055】
ラッカーゼは、例えば、前記培地を滅菌処理した後、得られた滅菌済み培地に真菌を植菌し、滅菌済み培地中又は滅菌済み培地上で、植菌した真菌を生育させることで、産生できる。
【0056】
真菌を生育させるときの温度は、真菌の種類に応じて適宜選択すればよく、特に限定されない。
通常、真菌の生育温度は、13~50℃であることが好ましく、15~35℃であることがより好ましい。前記温度がこのような範囲内であることで、真菌の生育度がより向上する。
【0057】
真菌を生育させる時間は、真菌の種類、真菌の生育温度、培地の含有成分等に応じて、適宜選択すればよく、特に限定されない。
通常、真菌の生育時間(培養日数)は、3~15日間であることが好ましく、例えば、4~10日間であってもよい。真菌の生育時間が前記下限値以上であることで、真菌の生育度がより向上する。真菌の生育時間が前記上限値以下であることで、生育時間が過剰な長さとなることが避けられる。本実施形態の培地を用いることで、真菌が培地中のTEMPO酸化CNF及び栄養材を利用して、良好に生育し、比較的短い生育時間(少ない培養日数)でも、酵素活性が高いラッカーゼが得られる。
【0058】
ラッカーゼの酵素活性は、酵素としてラッカーゼを含有する液体(本明細書においては、「酵素液」と称することがある)を用いて、公知の方法で測定できる。
例えば、ABTS、すなわち、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)ジアンモニウム塩(2,2’-Azino-bis(3-ethylbenzothiazoline-6-sulfonic acid) diammonium salt, C1816(NH)を基質として用い、ABTS水溶液と、緩衝液と、酵素液と、を用意し、これらを混合して得られた反応液を検体とする。この検体中では、ラッカーゼの酵素作用によって、ABTSが酸化されていく。ABTSの酸化物は、波長420nmでの吸光度が大きいため、ABTS水溶液は、本来は透明であるが、ラッカーゼにより酸化されると、その色が青色に変化する。混合後(換言すると反応開始後)、一定時間(例えば数分)が経過するまで、この検体について、波長420nmでの吸光度A420を継続的に測定し、A420が直線的に増大する範囲で、波長420nmでの吸光度の増加量ΔA420と、それに対応した反応時間(min)を求める。そして、下記式(i)に各数値を代入することにより、ラッカーゼの酵素活性を算出できる。式(i)中、「36」とは、波長420nmでのABTSのモル吸光係数(36000M-1・cm-1)に由来する。
[ラッカーゼの酵素活性(U/mL)]={ΔA420×[反応液量(mL)]}/{[反応時間(min)]×36×[酵素液量(mL)]} (i)
ここで、ラッカーゼの総酵素活性1Uは、上記の反応によって、1分間に1μmolのABTSを酸化する酵素量、と定義され、下記式(ii)の関係を満たす。
[ラッカーゼの総酵素活性(U)]=[ラッカーゼの酵素活性(U/mL)]×[酵素液量(mL)] (ii)
【0059】
ラッカーゼの酵素活性は、3.5U/mL以上であることが好ましく、例えば、4U/mL以上、5U/mL以上、6U/mL以上、及び7U/mL以上のいずれかであってもよい。
一方、ラッカーゼの酵素活性の上限値は、特に限定されない。例えば、酵素活性が12U/mL以下であるラッカーゼは、より容易に得られる。
【0060】
ラッカーゼはビリルビンオキシダーゼ(EC1.3.3.5)であってもよい。
【0061】
前記製造方法においては、真菌にラッカーゼを産生させた後、ラッカーゼ産生後の培地(培養物)から、ラッカーゼを含有する液体(例えば、ラッカーゼの水溶液)を抽出又は分離することにより、ラッカーゼを分離できる。
さらに、ラッカーゼを含有する液体において、ラッカーゼを沈殿させ、ラッカーゼの沈殿を前記液体から取り出してもよい。このようにすることで、純度が高いラッカーゼが得られる。
【実施例0062】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0063】
[実施例1]
<<培地の製造>>
濃度が2質量%のTEMPO酸化CNFの水分散体(250g)を容量300mLのビーカー内に量り取り、前記水分散体をビーカーごと121℃で1時間オートクレーブすることで、滅菌処理した。
【0064】
米ぬか(2.5g)、滅菌処理済みの前記水分散体(2.5g)、及び蒸留水(約45mL)を混合し、ここに濃度が1Mの塩酸を添加して、pH6の液状の培地(50mL)を得た。
この培地において、培地の総質量に対する、TEMPO酸化CNFの含有量の割合は、0.1質量%であり、培地の総質量に対する、米ぬか(栄養材)の含有量の割合は、5質量%であった。培地の銅の濃度は、0.24mg/Lであった。
次いで、この培地を、容量250mLの三角フラスコ内に注ぎ、シリコ栓(シリコーンゴム製の栓。以下、同様。)で三角フラスコの開口部を塞いだ。
次いで、この培地を三角フラスコごと121℃で1時間オートクレーブすることで、滅菌処理した。三角フラスコを、その温度を80℃まで下げてからクリーンベンチ内に移し、培地の温度が室温になるまで静置することで、本培養用の液状の培地を得た。
【0065】
<<ラッカーゼの製造(真菌の培養)>>
<PDA培地の作製>
ポテトデキストロース寒天(PDA)(15.6g)に蒸留水を添加して全量を400mLとすることで、培地を作製した。
この培地をビーカー内に移し、アルミホイルでビーカーの開口部に蓋をした。
次いで、この培地をビーカーごと121℃で20分オートクレーブすることで、滅菌処理した。ビーカーを、その温度を80℃まで下げてからクリーンベンチ内に移し、クリーンベンチ内で、ビーカー内の培地をシャーレに分注した。
次いで、クリーンベンチ内で培地が固まるまでシャーレを静置することで、PDA培地を得た。このPDA培地は、シャーレの開口部をパラフィルムで塞いだ状態とし、常温下で静置保管した。
【0066】
<真菌の前々培養>
上記で得られたPDA培地を用いて、あらかじめ培養し、保存しておいた真菌:プレウロタス オストレアタス(Pleurotus ostreatus) NBRC 104981株を、滅菌済みストローを用いて培地ごとくり抜いて取り出し(直径7mm)、滅菌済みループを用いて、別のシャーレ内のPDA培地の中心に植菌した。ここで用いた真菌は、ヒラタケの子実体を形成する前の種菌であり、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンターより分譲可能である。
次いで、シャーレの開口部をサージカルテープで塞いだ状態とし、26℃の温度条件下で、前記シャーレ内で前記真菌を7日間静置培養することで、前々培養物を得た。
【0067】
<MYG培地の作製>
麦芽エキス(0.5g)、酵母エキス(0.2g)及びグルコース(0.2g)に蒸留水を添加して全量を50mLとすることで培地を作製した。
この培地を、容量250mLの三角フラスコ内に注ぎ、シリコ栓で三角フラスコの開口部を塞いだ。
次いで、この培地を三角フラスコごと121℃で20分オートクレーブして、滅菌処理することにより、MYG培地を得た。
【0068】
<真菌の前培養>
上記の三角フラスコからシリコ栓を外した。上記で得られた前々培養物を、滅菌済みストローを用いてPDA培地ごとくり抜いて取り出し、滅菌済みループを用いて、三角フラスコ内のMYG培地に植菌した。この操作を3回繰り返した。
次いで、シリコ栓と三角フラスコの開口部を、火炎によって滅菌処理し、このシリコ栓で三角フラスコの開口部を再び塞いだ。そして、26℃の温度条件下で回転数を100rpmとして、前記シャーレ内で前記真菌を7日間振とう培養することで、前培養物を得た。
【0069】
<ラッカーゼの製造(真菌の本培養)>
クリーンベンチ内において、上記で得られた前培養物の全量を、滅菌済みチューブ内に移し、ハンディホモジナイザーを用いて、前記チューブ内で前培養物を分散させた。
次いで、前記チューブ内の前培養物を、遠心力8000G、温度4℃の条件で10分遠心分離し、上清を取り除いた。
次いで、前記チューブ内の沈殿物に、適量の蒸留水を注ぎ、前記チューブの開口部を滅菌済みの蓋で塞いだ。そして、前記チューブ内の内容物を振り混ぜて懸濁液とし、この懸濁液を、遠心力8000G、温度4℃の条件で10分遠心分離し、上清を取り除いた。
さらに、前記チューブ内の沈殿物に、蒸留水を注ぎ、懸濁液とし、遠心分離して、上清を取り除くことを繰り返し、このプロセスを合計で2回行うことで、前記沈殿物を洗浄した。
【0070】
次いで、前記チューブ内の沈殿物に、適量の滅菌水を注ぎ、ハンディホモジナイザーを用いて、沈殿物を滅菌水に分散させた。
得られた分散液(1mL)を、先に製造した、三角フラスコ内の液状の培地(本培養培地)に植菌し、シリコ栓と三角フラスコの開口部を、火炎によって滅菌処理し、このシリコ栓で三角フラスコの開口部を再び塞いだ。なお、このとき植菌した、湿潤状態の前記沈殿物の質量は、約0.25gであった。
次いで、26℃の温度条件下で回転数を100rpmとして、前記三角フラスコ内で前記真菌を振とう培養することで、真菌の本培養を行い、ラッカーゼを製造した。
【0071】
<<ラッカーゼ(培地)の評価>>
<粗酵素液の調製>
真菌の本培養を開始してから3日後、6日後及び8日後に、クリーンベンチ内において、前記三角フラスコから前記シリコ栓を抜き、滅菌済みチップを用いて、三角フラスコ内から培養物(液状の培地)(1mL)を採取した。そして、この培養物を、遠心力10000G、温度4℃の条件で10分遠心分離し、上清を回収することで、粗酵素液を得た。
【0072】
<ラッカーゼの酵素活性の測定>
濃度が50mMのクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)に、基質としてABTSを添加し、溶解させることにより、ABTSの濃度が10mMのABTS溶液を調製した。
前記ABTS溶液(100μL)と、濃度が50mMのクエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.0)(2840μL)と、を混合し、得られた混合液を40℃の温度で保温した。そして、この保温している前記混合液に、上記で得られた粗酵素液(60μL)を添加し、得られた反応液(3mL)を検体とした。
【0073】
上記で得られた検体について、波長420nmで1分間、吸光度を測定した。そして、波長420nmでの吸光度の増加量ΔA420と、反応時間(min)を求め、前記式(i)により、ラッカーゼの酵素活性(U/mL)を求めた。結果を図1に示す。
【0074】
<<培地の製造、ラッカーゼの製造(真菌の培養)及びラッカーゼ(培地)の評価>>
[比較例1]
TEMPO酸化CNFの水分散体を配合しなかった点と、硫酸銅(II)五水和物(0.0255g)を配合した点、以外は、実施例1の場合と同じ方法で、pH6の液状の培地(50mL)を製造した。このとき、蒸留水の添加量を調節することで、培地の液量を50mLに調節した。
表1に示すように、この培地において、培地の総質量に対する、米ぬか(栄養材)の含有量の割合は、5質量%であった。この培地の銅の濃度は、0.72mg/Lであった。
さらに、この培地を実施例1の場合と同じ方法で滅菌処理することで、本培養用の液状の培地を得た。
そして、この培地を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、ラッカーゼを製造し、評価した。結果を図1に示す。
【0075】
[比較例2]
TEMPO酸化CNFの水分散体を配合しなかった点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、pH6の液状の培地(50mL)を製造した。このとき、蒸留水の添加量を調節することで、培地の液量を50mLに調節した。
表1に示すように、この培地において、培地の総質量に対する、米ぬか(栄養材)の含有量の割合は、5質量%であった。培地の銅の濃度は、0.24mg/Lであった。
さらに、この培地を実施例1の場合と同じ方法で滅菌処理することで、本培養用の液状の培地を得た。
そして、この培地を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、ラッカーゼを製造し、評価した。結果を図1に示す。
【0076】
[比較例3]
ペプトン(0.5g)、酵母エキス(0.05g)、実施例1の場合と同じ、濃度が2質量%のTEMPO酸化CNFの水分散体(2.5g)、リン酸二水素カリウム(0.05g)、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(0.0125g)、塩化カルシウム二水和物(0.66mg)、硫酸マンガン(II)五水和物(0.054mg)、硫酸亜鉛七水和物(0.05mg)、硫酸銅(II)五水和物(0.047mg)、硫酸鉄(II)七水和物(0.005mg)及び硫酸マグネシウム七水和物(0.025g)を混合し、さらにここへ蒸留水を添加することで、pH6の液状の培地(50mL)を得た。このとき、蒸留水の添加量を調節することで、培地の液量を50mLに調節した。
表1に示すように、この培地において、培地の総質量に対する、TEMPO酸化CNFの含有量の割合は、0.1質量%であった。培地の銅の濃度は、0.24mg/Lであった。
以降、この培地を、実施例1の場合と同じ方法で、滅菌処理し、静置して室温まで放冷することで、本培養用の液状の培地を得た。
そして、この培地を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、ラッカーゼを製造し、評価した。結果を図1に示す。
【0077】
[比較例4]
上記の8種の金属塩(リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム十二水和物、塩化カルシウム二水和物、硫酸マンガン(II)五水和物、硫酸亜鉛七水和物、硫酸銅(II)五水和物、硫酸鉄(II)七水和物及び硫酸マグネシウム七水和物)に代えて、硫酸銅(II)五水和物(0.047mg)を配合した点、以外は、比較例3の場合と同じ方法で、pH6の液状の培地(50mL)を製造した。このとき、蒸留水の添加量を調節することで、培地の液量を50mLに調節した。
表1に示すように、この培地において、培地の総質量に対する、TEMPO酸化CNFの含有量の割合は、0.1質量%であった。この培地の銅の濃度は、0.24mg/Lであった。
さらに、この培地を比較例3の場合と同じ方法で滅菌処理することで、本培養用の液状の培地を得た。
そして、この培地を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、ラッカーゼを製造し、評価した。結果を図1に示す。
【0078】
[比較例5]
上記の8種の金属塩(リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム十二水和物、塩化カルシウム二水和物、硫酸マンガン(II)五水和物、硫酸亜鉛七水和物、硫酸銅(II)五水和物、硫酸鉄(II)七水和物及び硫酸マグネシウム七水和物)を配合しなかった点、以外は、比較例3の場合と同じ方法で、pH6の液状の培地(50mL)を製造した。このとき、蒸留水の添加量を調節することで、培地の液量を50mLに調節した。
表1に示すように、この培地において、培地の総質量に対する、TEMPO酸化CNFの含有量の割合は、0.1質量%であった。培地の銅の濃度は、0mg/Lであった。
さらに、この培地を比較例3の場合と同じ方法で滅菌処理することで、本培養用の液状の培地を得た。
そして、この培地を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、ラッカーゼを製造し、評価した。結果を図1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
図1から明らかなように、実施例1においては、培地の製造時に銅塩を添加しなかったが、培養日数が少ない段階ですでに、ラッカーゼの酵素活性が高かった。
実施例1の培地において、培地の総質量に対する、TEMPO酸化CNFの含有量の割合は、0.1質量%であり、培地の総質量に対する、米ぬかの含有量の割合は、5質量%であった。
【0081】
これに対して、比較例1~5においては、いずれも、同じ培養日数で比較した場合、ラッカーゼの酵素活性が実施例1よりも明らかに低かった。なかでも、比較例1、3及び4においては、培地の製造時に銅塩を添加しているにも関わらず、そして、比較例3及び4においては、培地がTEMPO酸化CNFも含有しているにも関わらず、ラッカーゼの酵素活性が低かった。
【0082】
ラッカーゼの製造時(真菌の本培養時)に、培養物の性状を確認したところ、TEMPO酸化CNFを含有する培地を用いた比較例3~5と比較して、実施例1では、培養物の泡立ちが小さく、比較例3~5よりも発泡が抑制される傾向を示した。
【0083】
<<培地の製造、ラッカーゼの製造(真菌の培養)及びラッカーゼ(培地)の評価>>
[実施例2]
TEMPO酸化CNFの水分散体の配合量を、2.5gに代えて12.5gとした点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、pH6の液状の培地(50mL)を製造した。このとき、蒸留水の添加量を調節することで、培地の液量を50mLに調節した。
表2に示すように、この培地において、培地の総質量に対する、TEMPO酸化CNFの含有量の割合は、0.5質量%であり、培地の総質量に対する、米ぬか(栄養材)の含有量の割合は、5質量%であった。培地の銅の濃度は、0.24mg/Lであった。
さらに、この培地を実施例1の場合と同じ方法で滅菌処理することで、本培養用の液状の培地を得た。
そして、この培地を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、ラッカーゼを製造し、評価した。結果を図2に示す。
【0084】
[実施例3]
TEMPO酸化CNFの水分散体の配合量を、2.5gに代えて7.5gとした点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、pH6の液状の培地(50mL)を製造した。このとき、蒸留水の添加量を調節することで、培地の液量を50mLに調節した。
表2に示すように、この培地において、培地の総質量に対する、TEMPO酸化CNFの含有量の割合は、0.3質量%であり、培地の総質量に対する、米ぬか(栄養材)の含有量の割合は、5質量%であった。培地の銅の濃度は、0.24mg/Lであった。
さらに、この培地を実施例1の場合と同じ方法で滅菌処理することで、本培養用の液状の培地を得た。
そして、この培地を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、ラッカーゼを製造し、評価した。結果を図2に示す。
【0085】
[実施例4]
実施例1の場合と同じ方法で、本培養用の液状の培地を得た。
滅菌処理前の液状の培地のpHは6とした。この培地において、培地の総質量に対する、TEMPO酸化CNFの含有量の割合は、0.1質量%であり、培地の総質量に対する、米ぬか(栄養材)の含有量の割合は、5質量%であった。培地の銅の濃度は、0.24mg/Lであった。
そして、この培地を用いて、実施例1の場合と同じ方法で、ラッカーゼを製造し、評価した。結果を図2に示す。
【0086】
[比較例6]
上記の8種の金属塩(リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム十二水和物、塩化カルシウム二水和物、硫酸マンガン(II)五水和物、硫酸亜鉛七水和物、硫酸銅(II)五水和物、硫酸鉄(II)七水和物及び硫酸マグネシウム七水和物)の使用量をそれぞれ、2.1倍とした点以外は、比較例3の場合と同じ方法で、pH6の液状の培地(50mL)を得た。このとき、蒸留水の添加量を調節することで、培地の液量を50mLに調節した。
表2に示すように、この培地において、培地の総質量に対する、TEMPO酸化CNFの含有量の割合は、0.1質量%であった。培地の銅の濃度は、0.51mg/Lであった。
以降、この培地を、実施例1の場合と同じ方法で、滅菌処理し、静置して室温まで放冷することで、本培養用の液状の培地を得た。
そして、この培地を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、ラッカーゼを製造し、評価した。結果を図2に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
図2から明らかなように、実施例2~4においては、実施例1の場合と同様に、培地の製造時に銅塩を添加しなかったが、培養日数が少ない段階ですでに、ラッカーゼの酵素活性が高かった。
実施例2~4の培地において、培地の総質量に対する、TEMPO酸化CNFの含有量の割合は、0.1~0.5質量%であり、培地の総質量に対する、米ぬかの含有量の割合は、5質量%であった。
【0089】
さらに、実施例2~4の結果から、培養日数が少ない段階では、培地において、培地の総質量に対する、TEMPO酸化CNFの含有量の割合が低い方が、ラッカーゼの酵素活性が高い傾向があることを確認できた。これは、TEMPO酸化CNFの含有量の割合が低い方が、培地(培養液)の粘度が低く、培地中(培養液中)へ酸素が素早く供給され、その結果、真菌の培養効率が上昇したためであると推測された。
その一方で、培養日数が一定数以上の段階では、培地において、培地の総質量に対する、TEMPO酸化CNFの含有量の割合が高い方が、ラッカーゼの酵素活性が高い傾向があることを確認できた。
【0090】
これに対して、比較例6においては、培養中のラッカーゼの酵素活性の最大値が、実施例2~4よりも小さかった。比較例6においては、培地の製造時に銅塩を添加し、かつ、培地がTEMPO酸化CNFも含有しているにも関わらず、ラッカーゼの酵素活性が低かった。
【0091】
ラッカーゼの製造時(真菌の本培養時)に、培養物の性状を確認したところ、TEMPO酸化CNFを含有する培地を用いた比較例6と比較して、実施例2~4では、培養物の泡立ちが小さく、比較例6よりも発泡が抑制される傾向を示した。
【0092】
<<培地の製造、ラッカーゼの製造(真菌の培養)及びラッカーゼ(培地)の評価>>
[実施例5]
スケールをアップさせた点と、表3に示すように、米ぬかの配合量(含有量)を相対的に低減した点、以外は、実施例1の場合と同じ方法で、培地を製造した。
すなわち、米ぬか(36g)、滅菌処理済みのTEMPO酸化CNFの水分散体(60g)、及び蒸留水(1104mL)を混合し、ここに濃度が1Mの塩酸を添加して、pH6の液状の培地(1200mL)を得た。
表3に示すように、この培地において、培地の総質量に対する、TEMPO酸化CNFの含有量の割合は、0.1質量%であり、培地の総質量に対する、米ぬか(栄養材)の含有量の割合は、3質量%であった。培地の銅の濃度は、0.144mg/Lであった。
以降、この培地を、実施例1の場合と同じ方法で、滅菌処理し、静置して室温まで放冷することで、本培養用の液状の培地を得た。
そして、この培地を用いた点と、容量250mLの三角フラスコに代えて、容量2000mLのジャーファーメンターを用い、その中のスパージャーから培養物に空気を供給しながら真菌の本培養を行った点、以外は、実施例1の場合と同じ方法で、ラッカーゼを製造し、評価した。結果を図3に示す。さらに、ラッカーゼの製造時(真菌の本培養時)における、培養物の性状を確認した。このとき取得した撮像データを図4に示す。
【0093】
[比較例7]
スケールをアップさせた点と、表3に示すように、実施例1の場合と同じ、TEMPO酸化CNFの水分散体の配合量(含有量)を相対的に増大させた点、以外は、比較例3の場合と同じ方法で、培地を製造した。
すなわち、ペプトン(10g)、酵母エキス(1g)、実施例1の場合と同じ、濃度が2質量%のTEMPO酸化CNFの水分散体(250g)、リン酸二水素カリウム(1g)、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(0.25g)、塩化カルシウム二水和物(13.2mg)、硫酸マンガン(II)五水和物(1.08mg)、硫酸亜鉛七水和物(1mg)、硫酸銅(II)五水和物(2mg)、硫酸鉄(II)七水和物(0.1mg)及び硫酸マグネシウム七水和物(0.5g)を混合し、さらにここへ蒸留水を添加することで、pH6の液状の培地(1000mL)を得た。このとき、蒸留水の添加量を調節することで、培地の液量を1000mLに調節した。
本比較例では、各原料の配合量をそのまま同じ比率で、比較例3の場合よりも増大させた場合には、このようにスケールをアップさせたことの影響によって、培養物の発泡によって、真菌の本培養(ラッカーゼの製造)を正常に行えないことが予測された。一方で、ジャーファーメンターを用いた場合、培地のTEMPO酸化CNFの含有量が多いほど、培養物が発泡し難い傾向があることを事前に確認できていた。そこで、本比較例では、比較例3の場合よりも、TEMPO酸化CNFの水分散体の配合量を相対的に増大させ、培養物が発泡し難くなるように、条件を調節した。
表3に示すように、この培地において、培地の総質量に対する、TEMPO酸化CNFの含有量の割合は、0.5質量%であった。培地の銅の濃度は、0.51mg/Lであった。
以降、この培地を、実施例1の場合と同じ方法で、滅菌処理し、静置して室温まで放冷することで、本培養用の液状の培地を得た。
そして、この培地を用いた点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、ラッカーゼを製造し、評価した。結果を図3に示す。さらに、ラッカーゼの製造時(真菌の本培養時)における、培養物の性状を確認した。このとき取得した撮像データを図4に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
図3から明らかなように、実施例5の場合には、比較例7の場合よりも、ラッカーゼの酵素活性が高かった。しかも、実施例5の場合には、培養日数が少ない段階ですでに、ラッカーゼの酵素活性が高かった。
【0096】
図4から明らかなように、ラッカーゼの製造時(真菌の本培養時)においては、実施例5では培養物の発泡が明らかに抑制されていたが、比較例7では培養物の発泡が抑制されていなかった。
【0097】
<<培地の製造、ラッカーゼの製造(真菌の培養)及びラッカーゼ(培地)の評価>>
[実施例6~12、比較例8]
米ぬかの配合量を変更し、表4に示すように、培地における、培地の総質量に対する、米ぬか(栄養材)の含有量の割合を、3質量%に代えて5質量%とした点以外は、実施例5の場合と同じ方法で、培地及びラッカーゼを製造し、ラッカーゼを評価した(実施例6)。
TEMPO酸化CNFの水分散体の配合量を変更し、表4に示すように、培地における、培地の総質量に対する、TEMPO酸化CNFの含有量の割合を、0.1質量%に代えて、0.5質量%(実施例7)、0.8質量%(実施例8)、1質量%(実施例9)、0.02質量%(実施例10)、0.05質量%(実施例11)、0.08質量%(実施例12)、又は0質量%(比較例8)とした点以外は、実施例6の場合と同じ方法で、培地及びラッカーゼを製造し、ラッカーゼを評価した。比較例8では、TEMPO酸化CNFの水分散体に代えて、同じ容量の蒸留水を添加した。
実施例6~12、比較例8のいずれにおいても、滅菌処理前の培地のpHは6とした。
これら実施例及び比較例での、培養日数が7日の段階での結果を、図5に示す。
【0098】
【表4】
【0099】
図5から明らかなように、TEMPO酸化CNFの含有量が、0.02~1質量%(実施例6~12)の場合には、培養日数が比較的少ない7日の段階で、ラッカーゼの酵素活性が高かった。さらに、実施例6~12では、ラッカーゼの製造時(真菌の本培養時)において、培養物の発泡が明らかに抑制されていた。
【0100】
これに対して、比較例8では、実施例6~12の場合よりも、ラッカーゼの酵素活性が低かった。さらに、比較例8では、ラッカーゼの製造時(真菌の本培養時)において、培養物の発泡が抑制されていなかった。
【0101】
これらとは別途に、培地における、培地の総質量に対する、TEMPO酸化CNFの含有量の割合を、0.02質量%未満とした点以外は、実施例6の場合と同じ方法で、培地及びラッカーゼを製造した結果、ラッカーゼの製造時(真菌の本培養時)において、培養物の発泡が抑制されなかった。
さらに、培地における、培地の総質量に対する、TEMPO酸化CNFの含有量の割合を、1質量%超とした点以外は、実施例6の場合と同じ方法で、培地及びラッカーゼを製造した結果、培地の粘度が高くなり、ラッカーゼの製造(真菌の本培養)を安定して行うことが難しかった。
【0102】
<<培地の製造、ラッカーゼの製造(真菌の培養)及びラッカーゼ(培地)の評価>>
[実施例13~19、比較例9~10]
実施例6の場合と同じ方法で、培地及びラッカーゼを製造し、ラッカーゼを評価した(実施例13)。
米ぬかの配合量を変更し、表5又は表6に示すように、培地における、培地の総質量に対する、米ぬか(栄養材)の含有量の割合を、5質量%に代えて、6質量%(実施例14)、7質量%(実施例15)、8質量%(実施例16)、10質量%(実施例17)、2質量%(比較例9)、3質量%(実施例18)、又は4質量%(実施例19)とした点以外は、実施例13の場合と同じ方法で、培地及びラッカーゼを製造し、ラッカーゼを評価した。
比較例7の場合と同じ方法で、培地及びラッカーゼを製造し、ラッカーゼを評価した(比較例10)。
実施例13~19、比較例9~10のいずれにおいても、滅菌処理前の培地のpHは6とした。
これら実施例及び比較例での、培養日数が7日及び9日の段階での結果を、図6に示す。
【0103】
【表5】
【0104】
【表6】
【0105】
図6から明らかなように、米ぬかの含有量が、3~10質量%(実施例13~19)の場合には、培養日数が比較的少ない7~9日の段階で、ラッカーゼの酵素活性が高かった。さらに、実施例13~19では、ラッカーゼの製造時(真菌の本培養時)において、培養物の発泡が明らかに抑制されていた。
【0106】
これに対して、比較例9(米ぬかの含有量が2質量%)では、実施例13~19の場合よりも、ラッカーゼの酵素活性が低かった。比較例9では、米ぬかの含有量が少な過ぎたために、真菌の本培養が不十分であり、その影響でラッカーゼの酵素活性が低くなったと推測された。
さらに、比較例9では、ラッカーゼの製造時(真菌の本培養時)において、培養物の発泡が抑制されていなかった。
【0107】
比較例10(米ぬかの含有量が0質量%)でも、実施例13~19の場合よりも、ラッカーゼの酵素活性が低かった。
さらに、比較例10でも、ラッカーゼの製造時(真菌の本培養時)において、培養物の発泡が抑制されていなかった。
【0108】
これらとは別途に、培地における、培地の総質量に対する、米ぬかの含有量の割合を、10質量%超とした点以外は、実施例13の場合と同じ方法で、培地を製造した結果、培地が液状ではなく固形状となってしまい、ラッカーゼの製造(真菌の本培養)に用いるのには適さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明は、ラッカーゼの製造に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6