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特開2024-156538銅合金粉末、それを用いた積層造形物、及び積層造形物からなる銅合金成形物
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  • 特開-銅合金粉末、それを用いた積層造形物、及び積層造形物からなる銅合金成形物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156538
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】銅合金粉末、それを用いた積層造形物、及び積層造形物からなる銅合金成形物
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20241029BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20241029BHJP
   B22F 10/64 20210101ALI20241029BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20241029BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20241029BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20241029BHJP
   B33Y 40/20 20200101ALI20241029BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20241029BHJP
【FI】
B22F1/00 L
B22F10/28
B22F10/64
C22C9/00
B33Y70/00
B33Y10/00
B33Y40/20
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071087
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】内田 壮平
(72)【発明者】
【氏名】菅原 貴広
(72)【発明者】
【氏名】中本 貴之
(72)【発明者】
【氏名】北川 覚
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA04
4K018BA20
4K018FA08
4K018KA33
4K018KA70
(57)【要約】
【課題】熱処理に付しても機械的強度を維持しながら優れた導電率を有する積層造形物が得られる銅合金粉末を提供する。
【手段】積層造形用の銅合金粉末であって、0.1質量%以上、20.0質量%以下のクロムと、0.1質量%以上、5.0質量%以下のバナジウム及び/又はランタンと、75.0質量%以上、99.8質量%以下の銅と、を含有する銅合金粉末とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層造形用の銅合金粉末であって、
0.1質量%以上、20.0質量%以下のクロムと、
0.1質量%以上、5.0質量%以下のバナジウム及び/又はランタンと、
75.0質量%以上、99.8質量%以下の銅と、
を含有する銅合金粉末。
【請求項2】
クロムを0.5質量%以上、5.0質量%以下含有する、請求項1に記載の銅合金粉末。
【請求項3】
クロム、バナジウム、及びランタンの合計含有量に対する、クロムの含有量の割合が、5質量%以上、99質量%以下である、請求項1に記載の銅合金粉末。
【請求項4】
請求項1に記載の銅合金粉末を用いて積層造形物を製造する方法であって、
前記銅合金粉末を含む粉末層を形成する第1工程と、
前記粉末層において、所定位置の前記銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成する第2工程と、を含み、
前記第1工程と前記第2工程とを順次繰り返し、前記造形層を積層することにより積層造形物を製造する、積層造形物の製造方法。
【請求項5】
前記積層造形物を熱処理する熱処理工程をさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記熱処理における熱処理温度が、800℃以下である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記熱処理における熱処理温度が、700℃以下である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記熱処理における熱処理温度が、500℃以上、600℃以下である、請求項5記載の方法。
【請求項9】
銅合金により構成される積層造形物であって、
0.1質量%以上、20.0質量%以下のクロムと、
0.1質量%以上、5.0質量%以下のバナジウム及び/又はランタンと、
75.0質量%以上、99.8質量%以下の銅と、
を含有する積層造形物。
【請求項10】
クロムを0.5質量%以上、5.0質量%以下含有する、請求項9に記載の積層造形物。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の積層造形物からなる銅合金成形物を製造する方法であって、
前記積層構造物を熱処理することを含む、銅合金成形物の製造方法。
【請求項12】
請求項9又は10に記載の積層造形物からなる銅合金成形物であって、
導電率が30%IACS以上であり、かつビッカース硬度が60HV以上である、銅合金成形物。
【請求項13】
請求項9又は10に記載の積層造形物からなる銅合金成形物であって、
導電率が40%IACS以上であり、かつビッカース硬度が60HV以上である、銅合金成形物。
【請求項14】
請求項9又は10に記載の積層造形物からなる銅合金成形物であって、
導電率が50%IACS以上であり、かつビッカース硬度が60HV以上である、銅合金成形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅合金粉末、銅合金粉末を用いた積層造形物及びその製造方法、ならびに積層造形物からなる銅合金成形物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元の複雑形状を有する部材を迅速に造形することができる三次元積層造形装置、所謂3Dプリンターの普及が進んでいる。このような三次元造形装置を用いた積層造形物の製造方法のなかでも、金属造形物を得る方法として粉末床溶融結合(PBF)法が知られている。PBF法は、粉末を敷き詰めた層(粉末床)の表面に、高エネルギーのレーザーや電子ビーム等のエネルギー線を照射して粉末粒子どうしを焼結ないし溶融凝固させ、それを数十ミクロンごとの層としたものを積層し、繰り返し接合することにより、三次元の積層造形物を得る方法である。金属基粉を用いてレーザーを熱源にしたL-PBF法の実用化も進み、Co-Cr合金、チタン合金、マルエージング鋼、ステンレス、ニッケル基超合金などの金属基粉を用いたL-PBF法では、得られる積層造形物の加工精度や製品としての完成度が高く、耐熱用途や高熱用途でも使用できる積層造形物も実用化され始めている。しかしながら、現状のL-PBF法では使用可能な金属基粉が限られており、得られる金属製品も一定の範囲のものに限られる。
【0003】
例えば、銅は熱伝導性や電気伝導性が高く加工性にも優れた金属であるにもかかわらず、L-PBF法への適用が困難とされている。その主な原因は、レーザー光のエネルギー吸収率が極めて低く融点に到達できないことや、融点に到達できても熱伝導率が高いために急速に熱が拡散して十分な溶融が進まないことである。
【0004】
このような問題に対して、特許文献1には、クロムを含有させた銅合金粉末とすることで熱伝導率を下げ、積層造形を容易にでき、加えて、得られた積層造形物を熱処理に付すことで優れた電気伝導性、熱伝導性、機械的強度を発現することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-070169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したような銅合金粉末であれば、L-PBF法に適用して高い導電率及び機械的強度を有する積層造形物が得られることから、高い導電率及び機械的強度が必要とされる機械部品(例えば誘導加熱コイル、ヒートシンク、配電設備の部品等)を、銅合金粉末を用いたL-PBF法により製造することが行われている。これらの機械部品を製造する際は、得られた積層造形物の導電率を更に向上させるために、積層造形物を熱処理に付す場合がある。すなわち、クロムを含有する銅合金からなる積層造形物を約500℃以下で熱処理することで、母相中に過飽和固溶していたクロムがクロム相として微細に析出することで、熱処理した積層造形物の導電率と機械的強度(硬度)が向上するものと考えられる。
【0007】
今般発明者らが、クロムを含有する銅合金粉末を用いて製造された積層造形物を約500℃以上の熱処理に付したところ、クロム相の析出がより進行し、さらに導電率は向上するものの、クロム相が粗大化して、その数密度が減少することにより、機械的強度(硬度)が低下してしまうことが判明した。
【0008】
したがって、本発明の目的は、500℃以上の熱処理に付しても機械的強度を維持しながら優れた導電率を有する積層造形物が得られる銅合金粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者らは、所定量のクロムに加えて、特定の元素を所定の割合で含有する銅合金粉末とすることにより、500℃以上の熱処理に付しても機械的強度を維持しながら優れた導電率を有する積層造形物が得られる、との知見を得た。本発明は係る知見に基づくものである。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0010】
[1] 積層造形用の銅合金粉末であって、
0.1質量%以上、20.0質量%以下のクロムと、
0.1質量%以上、5.0質量%以下のバナジウム及び/又はランタンと、
75.0質量%以上、99.8質量%以下の銅と、
を含有する銅合金粉末。
[2] クロムを0.5質量%以上、5.0質量%以下含有する、[1]に記載の銅合金粉末。
[3] クロム、バナジウム、及びランタンの合計含有量に対する、クロムの含有量の割合が、5質量%以上、99質量%以下である、[1]又は[2]に記載の銅合金粉末。
[4] [1]~[3]のいずれか一項に記載の銅合金粉末を用いて積層造形物を製造する方法であって、
前記銅合金粉末を含む粉末層を形成する第1工程と、
前記粉末層において、所定位置の前記銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成する第2工程と、を含み、
前記第1工程と前記第2工程とを順次繰り返し、前記造形層を積層することにより積層造形物を製造する、積層造形物の製造方法。
[5] 前記積層造形物を熱処理する熱処理工程をさらに含む、[4]に記載の方法。
[6] 前記熱処理における熱処理温度が、800℃以下である、[5]に記載の方法。
[7] 前記熱処理における熱処理温度が、700℃以下である、[5]に記載の方法。
[8] 前記熱処理における熱処理温度が、500℃以上、600℃以下である、[5]記載の方法。
[9] 銅合金により構成される積層造形物であって、
0.1質量%以上、20.0質量%以下のクロムと、
0.1質量%以上、5.0質量%以下のバナジウム及び/又はランタンと、
75.0質量%以上、99.8質量%以下の銅と、
を含有する積層造形物。
[10] クロムを0.5質量%以上、5.0質量%以下含有する、[9]に記載の積層造形物。
[11] [9]又は[10]に記載の積層造形物からなる銅合金成形物を製造する方法であって、
前記積層構造物を熱処理することを含む、銅合金成形物の製造方法。
[12] [9]又は[10]に記載の積層造形物からなる銅合金成形物であって、
導電率が30%IACS以上であり、かつビッカース硬度が60HV以上である、銅合金成形物。
[13] [9]又は[10]に記載の積層造形物からなる銅合金成形物を製造する方法であって、
導電率が40%IACS以上であり、かつビッカース硬度が60HV以上である、銅合金成形物。
[14] [9]又は[10]に記載の積層造形物からなる銅合金成形物を製造する方法であって、
導電率が50%IACS以上であり、かつビッカース硬度が60HV以上である、銅合金成形物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、所定量のクロムに加えて、特定の元素を所定の割合で含有する銅合金粉末とすることにより、500℃以上の熱処理に付しても機械的強度を維持しながら優れた導電率を有する積層造形物が得られる銅合金粉末を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、3次元形状データの一例である。
図2図2は、スライスデータの一例である。
図3図3は、積層造形物の製造過程を示す第1概略図である。
図4図4は、積層造形物の製造過程を示す第2概略図である。
図5図5は、積層造形物の製造過程を示す第3概略図である。
図6図6は、積層造形物の製造過程を示す第4概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[銅合金粉末]
本発明による銅合金粉末は、積層造形法において、原料粉末として使用される。積層造形法においては、原料粉末にエネルギービームが照射されることにより、原料粉末が溶融し、急冷凝固する。すなわちエネルギービームの照射により、原料粉末が固化する。積層造形法の詳細は「積層造形物の製造方法」において後述する。
【0014】
本発明の一実施形態による銅合金粉末は、0.1質量%以上、20.0質量%以下のクロムと、0.1質量%以上、5.0質量%以下のバナジウム及び/又はランタンと、75.0質量%以上、99.8質量%以下の銅と含む。また、本発明の一実施形態による銅合金粉末は、0.1質量%以上、20.0質量%以下のクロムと、0.1質量%以上、5.0質量%以下のバナジウム及び/又はランタンと、75.0質量%以上、99.8質量%以下の銅と、不可避不純物とからなる。また、本発明の一実施形態による銅合金粉末は、銅、クロム、バナジウム及びランタン以外の元素であって製造時に意図的に添加された元素を含んでもよい。
【0015】
本発明によれば、銅に、所定量のクロムと、所定量のバナジウム及び/又はランタンとを添加した銅合金粉末とすることで、500℃以上の熱処理に付しても機械的強度を維持しながら優れた導電率を有する積層造形物が得られるものである。この理由は以下のように考えられる。
すなわち、クロムは銅に固溶し難い元素であるところ、クロムを含有する銅合金は、銅とクロムの共晶温度(約1070℃)以下の温度で熱処理されると、過飽和固溶しているクロムがクロム相として母相から析出する。そのため、銅合金の導電率が向上するものと考えられる。しかしながら、クロムを含有する銅合金は約500℃以上で熱処理されるとクロム相が粗大に析出し、その数密度が減少することで銅合金の機械的強度(硬度)が低下するものと推測できる。本発明においては、クロムと同様に銅に固溶しにくい元素のうち、クロムよりさらに微細に析出するバナジウム及びランタンに着目し、クロムに加えて、これらの元素を所定量の割合で銅合金に含有させたことで、500℃以上の熱処理に付してもクロム相以外に微細なバナジウム相及びランタンと銅の金属間化合物相を析出したことにより、強度低下を抑制できたものと考えられる。
そのため、本発明の製造方法により得られた積層造形物は、熱処理によっても機械的強度が維持され、優れた耐熱性を有することが予想される。
【0016】
銅合金粉末に含有されるクロムの含有量は、0.5質量%以上、5.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上、3.1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上、2.5質量%以下であることがさらに好ましい。なお、銅合金粉末に含有されるクロムの含有量はJIS H 1071(銅及び銅合金中のクロム定量方法)に準拠したICP発光分析法(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法)により測定することができる。具体的には、まず銅合金のアルカリ溶融処理により融成物を調製し、該融成物の酸溶解処理により溶液が調製される。該溶液が希釈されることにより、測定試料が調製される。あるいは、銅合金の酸溶解処理により、直接、溶液が調製されてもよい。該溶液が希釈されることにより、測定試料が調製される。
【0017】
また、銅合金粉末に含有されるバナジウム及び/又はランタンの含有量は、0.1質量%以上、5.0質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上、4.0質量%以下であることがより好ましい。なお、銅合金粉末に含有されるバナジウム及び/又はランタンの含有量はJIS H 1071に準拠した方法と同様にして、ICP発光分析法により測定することができる。
【0018】
銅に添加されるクロムとバナジウム及び/又はランタンとの配合割合は、クロム、バナジウム、及びランタンの合計含有量に対してクロムの含有量の割合が、5質量%以上、99質量%以下であることが好ましく、5質量%以上、95質量%以下であることがより好ましい。
【0019】
銅合金粉末に含有される銅の含有量は、85質量%以上、99.5質量%以下であることが好ましく、90質量%以上、99質量%以下であることがより好ましい。なお、銅合金粉末に含有される銅の含有量は、JIS H 1051(銅及び銅合金中の銅定量方法)に準拠したICP発光分析法により測定することができる。
【0020】
本発明の銅合金粉末には、上記した成分以外の不可避不純物元素が含有されていてもよいし、銅合金粉末の製造時に意図的に添加された元素が含有されていてもよい。例えば、酸素、リン、鉄等の不可避不純物元素や、ニッケル、亜鉛、錫、銀、ベリリウム、ジルコニウム、アルミニウム、珪素、コバルト、チタン、マグネシウム、テルル等の元素が含まれていてもよい。これらの元素が含まれる場合であっても、銅とクロムとバナジウム及び/又はランタンの各元素の含有量は、上記した範囲内である必要がある。
【0021】
銅合金粉末を構成する個々の粒子の形状は特に制限されるものではないが、L-PBF法等の金属積層造形法に使用する場合、スキージングによって銅合金粉末の充填密度の高い粉末床を形成する観点からは、個々の粒子は球状に近い形状であることが好ましい。そのため、アトマイズ法によって得られた銅合金粉末を使用することが好ましい。アトマイズ法としては、ガスアトマイズ法と水アトマイズ法が挙げられるが、個々の粒子をより球状に近いものとする観点からは、ガスアトマイズ法が好ましい。高圧ガスアトマイズ法によれば、より一層、球形に近い粒子形状の揃った銅合金粉末を得ることができる。具体的には、まず上記した組成となるように調製した銅合金の溶湯をタンディッシュから滴下し、滴下中の溶湯が、高圧ガスに接触させられる。これにより、溶湯が急冷、凝固し、銅合金粉末を製造することができる。
【0022】
上記のようにして得られる銅合金粉末は、粒子の大きさを揃えるために必要に応じて分級することができる。この分級は、目標とする平均粒径のものとなるように、適切な分級装置を用いて、得られた銅合金粉末から粗粉や微粉を分離することにより容易に実施することができる。
【0023】
精細で稠密な積層造形物を得る観点、及び銅合金粉末の流動性の観点から、使用する銅合金粉末の平均粒径は、1μm以上、500μm以下であることが好ましく、5μm以上、200μm以下であることがより好ましく、10μm以上、100μm以下であることが特に好ましい。粒子の平均粒径が上記範囲にある銅合金粉末を使用することで、L-PBF法等の金属積層造形法において充填密度の高い粉末床を形成できるとともに、銅合金粉末を焼結又は溶融凝固させて得られた造形物の相対密度も高くすることができる。なお、本明細書において平均粒径とは、レーザー回折散乱式粒度分布測定法によって測定される体積基準の粒度分布において微粒側から累積50%の粒径(D50)を示す。
【0024】
[積層造形物の製造方法]
次に、上記の銅合金粉末を用いた積層造形物の製造方法について説明する。積層造形物は、銅合金粉末を含む粉末層を形成し(第1工程)、粉末層において、所定位置の前記銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成し(第2工程)、第1工程と前記第2工程とを順次繰り返し、造形層を積層することにより製造することができる。以下、具体的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、金属粉末を固化させる手段として、粉末床溶融結合法のうちレーザーを用いる態様を説明する。しかしながら、当該手段は、金属粉末の固化が可能である限り、レーザーに限定されない。当該手段は、例えば、電子ビーム、プラズマ等でもよい。本実施形態では、粉末床溶融結合法以外の付加製造法(Additive Manufacturing:AM)を利用してもよい。本実施形態においては、例えば、指向性エネルギー堆積法、バインダージェット法、熱溶解積層法、コールドスプレー法等を利用することもできる。さらに本実施形態では、造形中に切削加工を実施してもよい。
【0025】
図1は、3次元形状データの一例である。例えば3Dスキャナ等により、3次元形状データが作成され得る。3次元形状データは、いわば、積層造形物の設計図である。
【0026】
図2は、スライスデータの一例である。3次元形状データが、所定の間隔(t)でスライスされることにより、スライスデータが作成される。スライス間隔は、スライス厚さとも称され得る。スライスデータは、いわば、造形層の設計図である。
【0027】
図3は、積層造形物の製造過程を示す第1概略図である。積層造形装置100が準備される。積層造形装置100は「3Dプリンター」等とも称され得る。積層造形装置100は、ピストン101、テーブル102、及び出力部103を備える。ピストン101は、テーブル102を支持している。ピストン101は上下に移動し得る。
【0028】
ピストン101は、テーブル102を降下させる。降下量は、スライスデータの1層分に相当する。テーブル102上に銅合金粉末が敷設される。これにより粉末床1が形成される。例えばスキージ(不図示)により、粉末床1の表面が平滑化されてもよい。粉末床1は銅合金粉末を含む。例えば、粉末床1は、実質的に銅合金粉末からなっていてもよい。
【0029】
図4は、積層造形物の製造過程を示す第2概略図である。出力部103は、粉末床1(銅合金粉末)にエネルギービームを照射する。エネルギービームは、粉末床1内を所定のパターンで走査される。走査パターンはスライスデータに従う。エネルギービームの照射を受けた銅合金粉末は、溶融した後急冷凝固又は焼結する。すなわちエネルギービームの照射を受けた銅合金粉末が固化する。エネルギービームの走査パターンに応じて、造形層2が形成される。造形層2は、固化層、凝固層、焼結層、単位層等とも称され得る。なお「固化」は、金属粒子群が融合し、一体になることにより、金属粒子群の流動性が失われることを示す。
【0030】
エネルギービームは、例えば、レーザー、電子ビーム及びプラズマからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。エネルギービームは、例えば、Ybファイバレーザー、YAGレーザー、COレーザー、半導体レーザー、ブルーレーザー及びグリーンレーザーからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。エネルギービームの出力は、例えば20~10000Wであってもよい。エネルギービームの走査速度は、例えば、50~10000mm/sであってもよい。エネルギービームのエネルギー密度は、例えば、10~2000J/mmであってもよい。
【0031】
図5は、積層造形物の製造過程を示す第3概略図である。造形層2(1層目)の形成後、ピストン101は、再度、テーブル102を降下させる。降下量は、スライスデータの1層分に相当する。上記と同様に、造形層2(2層目)がさらに形成される。
【0032】
図6は、積層造形物の製造過程を示す第4概略図である。造形層2の形成が繰り返されることにより、積層造形物10が構築され得る。すなわち、造形層2が複数積層されることにより、積層造形物10が製造され得る。
【0033】
例えば、不活性ガス雰囲気中で積層造形物が製造されてもよい。不活性ガス雰囲気中で積層造形物が製造されることにより、積層造形物の酸化が抑えられることが期待される。不活性ガスは、例えば、アルゴン(Ar)、窒素(N)、及びヘリウム(He)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。例えば、還元性ガス雰囲気中で積層造形物が製造されてもよい。還元性ガスは、例えば水素(H)等を含んでいてもよい。例えば、減圧雰囲気中で積層造形物が製造されてもよい。
【0034】
上記したようにして製造された積層造形物は、銅合金粉末と同様の組成、即ち、0.1質量%以上、20.0質量%以下のクロムと、0.1質量%以上、5.0質量%以下のバナジウム及び/又はランタンと、75.0質量%以上、99.8質量%以下の銅と、を含有する。
【0035】
上記のようにして得られた積層造形物は熱処理に付されることで導電率が向上する。本発明においては、所定量のクロムに加えて、特定の元素を所定の割合で含有する銅合金粉末を使用した積層造形物であることで、500℃以上の熱処理に付して得られた銅合金成形物は、機械的強度を維持しながら優れた導電率を有する。熱処理は、熱処理炉等を用いて実施することができる。熱処理温度は、熱処理炉に付帯する温度センサ等により測定され得る。例えば、熱処理炉の設定温度が300℃であれば、熱処理温度が300℃であるとみなされ得る。
【0036】
熱処理は、銅合金の融点以下で行う必要があるが、例えば、800℃以下であってもよい。熱処理温度が800℃以下であることにより、機械的強度の向上が期待される。熱処理温度は、700℃以下であることがより好ましく、600℃以下であることがより好ましい。一方、導電率と機械的強度の向上の観点から、熱処理温度の下限は、500℃以上であることが好ましい。熱処理温度を、熱処理工程中に変化させてもよい。例えば、室温から700℃まで昇温し、700℃で1時間保持し、700℃から500℃まで降温し、500℃で5時間保持し、500℃から室温まで降温してもよい。
【0037】
熱処理時間は、例えば、0.1~100時間であってもよいし、0.5~50時間であってもよいし、1~40時間であってもよい。熱処理炉内の雰囲気は、例えば、大気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、水素雰囲気、減圧雰囲気等であってもよい。
【0038】
積層造形物を熱処理した銅合金成形物は、例えば、30%IACS以上の導電率を有し得る。好ましくは40%IACS以上、より好ましくは50%IACS以上の導電率を有する。一方、熱処理する前の積層造形物は、例えば、8~25%IACSの導電率を有し得る。なお、「導電率」はIACS導電率である。すなわち、焼鈍標準軟銅(International Annealed Copper Standard,IACS)の導電率が100%IACSと定義される。導電率は渦流式導電率計によって測定される。測定温度は常温(15~25℃)である。
【0039】
積層造形物を熱処理した銅合金成形物は、ビッカース硬度が60HV以上であってよく、好ましくは80HV以上、より好ましくは89HV以上、さらに好ましくは100HV以上である。なお、ビッカース硬度(HV)はJIS Z 2244に準拠して測定された値を意味する。
【0040】
積層造形物を熱処理して得られた銅合金成形物は任意の形状を有し得る。例えば、継ぎ目なしに、複雑な内部構造を有し得る。例えば、切削加工によって、継ぎ目なしに、複雑な内部構造を形成することは困難であると考えられる。
【0041】
積層造形物及び銅合金成形物は銅合金製である。銅合金は、高い導電率と、高い熱伝導率とを有し得る。積層造形物は、銅合金の性質が活きる用途に適用されてもよい。積層造形物は、例えば、誘導加熱コイル、ヒートシンク、ロケットエンジン等に適用されてもよい。積層造形物においては、継ぎ目なしに複雑な水冷経路(内部構造)等が実現され得る。
【0042】
上記のような積層造形物及び銅合金成形物は、例えば、97~100%の相対密度を有していてもよい。本発明の一実施形態による積層造形物及び銅合金成形物は、例えば、99%以上の相対密度を有していてもよい。なお、銅合金成形物の相対密度は、熱処理する前の積層造形物の相対密度と実質的に同一であり得る。なお、相対密度は、理論密度に対する実測密度の百分率で表される。ここで、「理論密度」とは、測定対象(積層造形物)の合金組成と、実質的に同一の合金組成を有する溶製材の密度と定義される。実測密度は「JIS Z 2501 焼結金属材料-密度、含油率及び開放気孔率試験方法」に準拠して測定され得る。実測密度の測定にあたり、水が置換液として使用される。
【実施例0043】
次に本発明の実施形態について以下の実施例を参照して具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
<銅合金粉末の準備>
アトマイズ法により、組成の異なる12種の銅合金粉末試料を調製した。各試料の合金組成は下記表1に示される通りである。各試料において、合金元素及び不可避不純物を除いた残部はCuであった。各試料の銅合金粉末は、20~30μmの平均粒径(D50)を有していた。
【0045】
<積層造形物の製造>
積層造形装置として「EOSINT M280(EOS社製)」を用い、下記条件により積層造形物を製造した。
製造条件:
エネルギービーム:ファイバレーザー、最大出力400W
スポット径:0.05~0.20mm
走査速度:50~2000mm/s
積層ピッチ:0.02~0.1mm
造形サイズ:250mm×250mm×280mm
【0046】
積層造形物として、円柱状試験片(直径14mm×高さ15mm)を製造した。
【0047】
<積層造形物の熱処理>
上記のようにして得られた各試験片を、熱処理炉に入れ、600℃の温度で1時間の熱処理を行った。また、各試験片を、熱処理炉に入れ、700℃の温度で1時間の熱処理を行った。
【0048】
各温度で熱処理された試験片について、ビッカース硬度をJIS Z 2244に準拠して測定し、渦流式導電率計により導電率を測定した。
【0049】
【表1】
【符号の説明】
【0050】
1 粉末床
2 造形層
10 積層造形物
100 積層造形装置
101 ピストン
102 テーブル
103 出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6