(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156540
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】エンジンの空燃比制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/04 20060101AFI20241029BHJP
F02D 41/34 20060101ALI20241029BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20241029BHJP
F02D 23/02 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
F02D41/04
F02D41/34
F01N3/20 D
F01N3/20 E
F02D23/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071091
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津田 豊史
【テーマコード(参考)】
3G091
3G092
3G301
【Fターム(参考)】
3G091AA02
3G091AA19
3G091AB03
3G091BA01
3G091BA11
3G091CB02
3G091DA01
3G091EA01
3G091EA05
3G091EA18
3G091FB12
3G092AA05
3G092AB02
3G092AB08
3G092AB11
3G092BA04
3G092EA07
3G092FA17
3G092FA18
3G092HA01
3G092HB01
3G092HD02
3G092HE01
3G092HF08
3G301HA22
3G301HA24
3G301JA21
3G301LB02
3G301MA01
3G301MA11
3G301NE15
3G301PA01
3G301PD01
3G301PD12
3G301PE01
3G301PE08
3G301PF03
(57)【要約】
【課題】特別なセンサの追加を必要とせず、リーンスパイクの最適化を通じて触媒による高い浄化率を実現する。
【解決手段】
排気浄化触媒に流入する排気の空燃比である上流側空燃比λfを、ストイキ相当値に対してリッチ側である基本リッチ空燃比λ1に制御するとともに、所定のタイミングにおいて上流側空燃比λfを一時的に増大させ、ストイキ相当値よりもリーン側(λ2)に制御するリーンスパイクを実施する。リーンスパイクにより排気浄化触媒に供給される酸素の量である酸素供給量に関わるリーンスパイク量(リーンスパイク幅Dsp)を、リーンスパイクの実施後に下流側排気センサにより検出された下流側空燃比λrをもとに設定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路に排気浄化触媒を備えるエンジンの空燃比制御装置であって、
前記排気通路において前記排気浄化触媒の下流側に配置され、前記排気浄化触媒を通過した排気の空燃比である下流側空燃比に応じた信号を出力可能に構成された下流側排気センサと、
前記下流側排気センサにより出力された信号に基づき、エンジンの運転状態を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記排気浄化触媒に流入する排気の空燃比である上流側空燃比を、ストイキ相当値に対してリッチ側である基本リッチ空燃比に制御するとともに、所定のタイミングにおいて前記上流側空燃比を一時的に増大させ、前記ストイキ相当値よりもリーン側に制御するリーンスパイクを実施する空燃比制御手段と、
前記リーンスパイクにより前記排気浄化触媒に供給される酸素の量である酸素供給量に関わるリーンスパイク量を、前記リーンスパイクの実施後に前記下流側排気センサにより検出された下流側空燃比をもとに設定するリーンスパイク量設定手段と、を備えるエンジンの空燃比制御装置。
【請求項2】
前記リーンスパイク量設定手段は、前記リーンスパイクの実施後に増大する前記下流側空燃比の最大値である下流側最大空燃比がストイキ相当値未満となるように、前記リーンスパイク量を設定する、請求項1に記載のエンジンの空燃比制御装置。
【請求項3】
前記リーンスパイク量設定手段は、前記下流側最大空燃比がストイキ相当値よりも高い場合に、前記酸素供給量を減少させ、前記下流側最大空燃比がストイキ相当値よりも低くかつ前記基本リッチ空燃比以上である所定の第1空燃比よりも低い場合に、前記酸素供給量を増大させるように、前記リーンスパイク量を設定する、請求項2に記載のエンジンの空燃比制御装置。
【請求項4】
前記排気通路において前記排気浄化触媒の上流側に配置され、前記排気浄化触媒に流入する排気の空燃比である上流側空燃比に応じた信号を出力可能に構成された上流側排気センサをさらに備え、
前記コントローラは、前記リーンスパイクの実施前に前記上流側排気センサにより検出された上流側空燃比をもとに、前記第1空燃比を設定する、請求項3に記載のエンジンの空燃比制御装置。
【請求項5】
前記リーンスパイク量設定手段は、前記リーンスパイクを実施する時間であるリーンスパイク幅により、前記リーンスパイク量を設定する、請求項1から4のいずれか一項に記載のエンジンの空燃比制御装置。
【請求項6】
前記コントローラは、
前記エンジンの始動後、前記上流側空燃比をストイキ相当値に対してリッチ側に定常的に制御するとともに、前記排気浄化触媒の活性化を促す触媒暖機制御を実施する始動時暖機手段をさらに備え、
前記始動時暖機手段による前記触媒暖機制御の開始後、前記下流側空燃比が前記上流側空燃比よりも低い所定の第2空燃比に到達した場合に、前記触媒暖機制御を終了し、前記空燃比制御手段により前記リーンスパイクを実施する、請求項1から4のいずれか一項に記載のエンジンの空燃比制御装置。
【請求項7】
前記排気通路において前記排気浄化触媒の上流側に配置され、前記排気浄化触媒に流入する排気の空燃比である上流側空燃比に応じた信号を出力可能に構成された上流側排気センサをさらに備え、
前記コントローラは、前記触媒暖機制御の実施中に前記上流側排気センサにより検出された上流側空燃比をもとに、前記第2空燃比を設定する、請求項6に記載のエンジンの空燃比制御装置。
【請求項8】
前記空燃比制御手段は、前記リーンスパイクの実施後、前記下流側空燃比がストイキ相当値よりも低くかつ前記基本リッチ空燃比以上である所定の第3空燃比に到達した後、次回の前記リーンスパイクを実施する、請求項1から4のいずれか一項に記載のエンジンの空燃比制御装置。
【請求項9】
前記排気通路において前記排気浄化触媒の上流側に配置され、前記排気浄化触媒に流入する排気の空燃比である上流側空燃比に応じた信号を出力可能に構成された上流側排気センサをさらに備え、
前記コントローラは、前記リーンスパイクの実施前に前記上流側排気センサにより検出された上流側空燃比をもとに、前記第3空燃比を設定する、請求項8に記載のエンジンの空燃比制御装置。
【請求項10】
前記コントローラは、前記リーンスパイクの実施後、前記下流側空燃比が所定の時間を経過してもなお前記第3空燃比に到達しない場合に、前記排気浄化触媒の活性化を促す触媒暖機制御を実施する運転時暖機手段をさらに備える、請求項8に記載のエンジンの空燃比制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの空燃比制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排気浄化触媒に流入する排気の空燃比をストイキ相当値に対してリッチ側に制御するとともに、所定のタイミングにおいてこの排気の空燃比を一時的に増大させ、ストイキ相当値よりもリーン側に制御する技術(以下、この制御を「リーンスパイク制御」または単に「リーンスパイク」という)が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
排気浄化触媒においてリーンスパイクによる排気の効率的な浄化に最適な酸素量は、触媒の酸素吸蔵能力(OSC)に応じて変化する。酸素吸蔵能力に対して酸素量が不足する状況では、浄化反応に停滞が生じ、他方で、酸素量が過剰な状況では、貴金属活性点の酸化失活により、浄化率に低下を来たす。
【0005】
メタン燃料を使用するエンジンに上記技術を適用した場合に、空燃比がリッチ側にある期間では、浄化反応の中間生成物であるFormate(ギ酸イオン)の生成および蓄積が進み、これがリッチ雰囲気におけるメタンの浄化を阻害する。リーンスパイクにより酸素を供給することで、CeZr複合酸化物等、触媒に含有されるOSC材の作用によりFormateを分解し、浄化反応の進行を促すことが可能である。
【0006】
触媒の酸素吸蔵能力は、触媒の温度(つまり、活性状態)に応じて変化するほか、触媒の熱劣化や触媒コートの剥離による劣化を含む触媒劣化の進行度合いによっても変化する。
【0007】
触媒の活性状態は、触媒に流入する排気の温度を触媒自体の温度として近似的に検出することにより判定可能である。しかし、いうまでもなく、触媒の活性状態の判定のために専用のセンサを設置することは、製造コストの増大を招く。
【0008】
このような実情に鑑み、本発明は、特別なセンサの追加を必要とせず、リーンスパイクの最適化を通じて排気浄化触媒による高い浄化率を実現可能なエンジンの空燃比制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するため、本発明の一形態に係るエンジンの空燃比制御装置は、排気通路に排気浄化触媒を備えるエンジンの空燃比制御装置であって、前記排気通路において前記排気浄化触媒の下流側に配置され、前記排気浄化触媒を通過した排気の空燃比である下流側空燃比に応じた信号を出力可能に構成された下流側排気センサと、前記下流側排気センサにより出力された信号に基づき、エンジンの運転状態を制御するコントローラと、を備える。前記コントローラは、前記排気浄化触媒に流入する排気の空燃比である上流側空燃比を、ストイキ相当値に対してリッチ側である基本リッチ空燃比に制御するとともに、所定のタイミングにおいて前記上流側空燃比を一時的に増大させ、前記ストイキ相当値よりもリーン側に制御するリーンスパイクを実施する空燃比制御手段と、前記リーンスパイクにより前記排気浄化触媒に供給される酸素の量である酸素供給量に関わるリーンスパイク量を、前記リーンスパイクの実施後に前記下流側排気センサにより検出された下流側空燃比をもとに設定するリーンスパイク量設定手段と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一形態によれば、リーンスパイクの実施後に下流側排気センサにより検出された下流側空燃比をもとにリーンスパイク量を設定することで、リーンスパイクにより排気浄化触媒に実際に供給されている酸素の量(つまり、過不足の有無)を適切に評価し、リーンスパイク量の設定ないし調整を通じてリーンスパイクを最適化し、排気浄化触媒による高い浄化率を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る空燃比制御装置が適用されるエンジンの構成を示す概略図である。
【
図2】同上空燃比制御装置により実行される空燃比制御の基本的な流れを示すフローチャートである。
【
図3】同上制御におけるリーンスパイク制御の内容を示すフローチャートである。
【
図4】メタン燃料の浄化反応を模式的に示す説明図である。
【
図5】リーンスパイクによる空燃比の変動波形を模式的に示す説明図である。
【
図6】リーンスパイクによる場合の上流側空燃比および下流側空燃比の変動波形を示す説明図である。
【
図7】リーンスパイクの効果(メタン浄化率)を排気浄化触媒の入口ガス温度との関係のもとに示すグラフである。
【
図8】リーンスパイクの効果(NOx浄化率)を排気浄化触媒の入口ガス温度との関係のもとに示すグラフである。
【
図9】リーンスパイク幅とメタン浄化率との関係を異なる触媒入口ガス温度のもとに示すグラフである。
【
図10】下流側空燃比とメタン浄化率との関係を異なる触媒入口ガス温度のもとに示すグラフである。
【
図11】下流側最大空燃比とメタン浄化率との関係を異なる触媒入口ガス温度のもとに示すグラフである。
【
図12】リーンスパイクによる場合の上流側空燃比、下流側空燃比、メタン浄化率およびNOx浄化率の変動波形を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
(エンジンおよび空燃比制御装置の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る空燃比制御装置が適用される内燃エンジン(以下、単に「エンジン」という)Eの全体的な構成を示す概略図である。
【0014】
以下の説明において、「上流」および「下流」との用語は、エンジンEから排出される通常の排気の流れの方向との関係で用いられる。例えば、排気浄化装置の上流側とは、排気の流れの方向に排気浄化装置の上流側をいい、排気浄化触媒の下流側とは、排気の流れの方向に排気浄化触媒の下流側をいう。
【0015】
本実施形態において、エンジンEは、車両に搭載され、その駆動源を構成する。エンジンEは、メタン燃料を使用して運転可能であり、例えば、メタンガスを主成分とする圧縮天然ガス(CNG)を燃料とする。これに限らず、エンジンEは、合成メタンまたはバイオメタン等、メタンガスを主成分とする各種のメタン燃料を使用するエンジンであってもよい。エンジンEは、圧縮天然ガス等の気体燃料とガソリンに代表される液体燃料とを切り替えて運転可能に構成された、いわゆるバイフューエルエンジンであってもよい。エンジンEは、車両の駆動源を単体で構成するだけでなく、シリーズハイブリッド型の車両に、発電機を駆動する発電用エンジンとして適用することも可能である。
【0016】
エンジンEは、燃焼室を有するエンジン本体1に加え、吸気システム2および排気システム3を備える。本実施形態において、エンジンEは、直列式の4気筒エンジンであるが、エンジンEの形式、つまり、エンジンEにおける気筒の数および配列は、これに限定されるものではない。単気筒、2気筒、6気筒、V型および水平対向型等、各種のエンジンを適用することが可能である。
【0017】
エンジン本体1は、シリンダブロック、シリンダヘッドおよびクランクケースを備え、シリンダブロックにはピストンが挿入され、ピストンの冠面とシリンダヘッドの内面との間に形成された空間が燃焼室となる。
【0018】
吸気システム2は、吸気管21および吸気マニホールド22を備えるとともに、吸気管21の導入部に取り付けられたエアクリーナ23を備える。エアクリーナ23を介して塵埃等の異物が除去された空気が、吸気管21に導入される。吸気管21は、吸気マニホールド22の集合部に接続され、吸気マニホールド22は、集合部から分岐して、シリンダヘッドの側面部に接続されている。吸気管21から吸気マニホールド22に流入した空気は、吸気マニホールド22の分岐部を介してそれぞれの気筒に分配される。
【0019】
本実施形態では、ポート噴射式の燃料供給システムを採用する。エンジンEは、シリンダヘッドに埋設された複数の燃料インジェクタ41を備え、これら複数の燃料インジェクタ41のそれぞれから、対応する気筒に向けて燃料が噴射供給される。燃料インジェクタ41は、吸気マニホールド22の分岐部に設置され、対応する気筒の吸気ポートに向けて燃料を噴射する。燃料の供給方式は、これに限定されるものではなく、ポート噴射式以外の供給方式として、例えば、液体燃料の供給に直噴式を採用することが可能である。
【0020】
燃料インジェクタ41により噴射された燃料は、吸気マニホールド22の分岐部を通過した空気と混合し、対応する気筒に導入される。各気筒の筒内では、燃料と空気との混合が進み、混合気が形成される。そして、この混合気に点火プラグ51により点火を実行することで、混合気が燃焼する。
【0021】
排気システム3は、排気マニホールド31および排気管32を備えるとともに、触媒コンバータ33を備える。燃焼後、筒内に残る排気は、排気マニホールド31の分岐部に排出される。排気は、排気マニホールド31において分岐部から集合部に集められ、排気管32に導入される。排気管32には触媒コンバータ33が設置され、排気管32を流れる排気は、触媒コンバータ33に導入され、触媒コンバータ33に収められた排気浄化触媒331により、排気中の有害成分が浄化された後、大気へ放出される。本実施形態において、触媒コンバータ33は、排気浄化触媒331として三元触媒を備える。
【0022】
以上に加え、エンジンEは、エンジンコントローラ101および各種のセンサ201~207を備える。
【0023】
エンジンコントローラ101は、電子制御ユニットとして、中央演算ユニット(CPU)、ROMおよびRAM等の記憶装置、入出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータにより構成される。
【0024】
エンジンEは、アクセルセンサ201およびエンジン回転速度センサ202を備えるとともに、エアフローメータ203、冷却水温度センサ204、触媒温度センサ205、上流側排気センサ206および下流側排気センサ207を備える。これらのセンサ201~207から出力される検出信号は、エンジンEの運転状態を示す指標となるものであり、エンジンコントローラ101に入力される。
【0025】
アクセルセンサ201は、アクセル開度APOとして、運転者によるアクセルペダルの踏込量を検出する。アクセル開度APOは、エンジンEに求められる目標負荷の指標である。
【0026】
エンジン回転速度センサ202は、エンジンEの回転速度Neを検出する。エンジン回転速度センサ202として、クランク角センサを採用可能であり、クランク角センサにより検出される単位クランク角または基準クランク角当たりの経過時間を回転速度Neに換算する。
【0027】
エアフローメータ203は、吸入空気量Qaとして、エンジンEに導入される空気の流量を検出する。
【0028】
冷却水温度センサ204は、エンジン本体1のシリンダブロックに形成されている冷却水通路を流れる冷却水の温度Twを検出する。
【0029】
触媒温度センサ205は、触媒コンバータ33に備わる排気浄化触媒331の温度(以下「触媒温度」という)Tcatを検出する。本実施形態では、触媒温度Tcatとして、触媒コンバータ33の入口部ないし導入部における排気の温度(以下「触媒入口ガス温度」という)Tcat_inを検出する。
【0030】
上流側排気センサ206は、触媒コンバータ33よりも上流側の排気管32に設置され、触媒コンバータ33に流入する前の排気の空燃比(以下「上流側空燃比」という)λfを検出する。
【0031】
下流側排気センサ207は、触媒コンバータ33よりも下流側の排気管32に設置され、触媒コンバータ33を通過した後の排気の空燃比(以下「下流側空燃比」という)λrを検出する。
【0032】
エンジンコントローラ101は、先に述べた各種のセンサ201~207から出力された検出信号をもとに、燃焼に用いられる混合気の空燃比(以下「燃焼空燃比」という)λcmbを制御しながら、エンジンEの運転状態を制御する。エンジンコントローラ101、上流側排気センサ206および下流側排気センサ207は、本実施形態に係るエンジンEの「空燃比制御装置」を構成し、エンジンコントローラ101は、本実施形態に係る「コントローラ」を構成する。
【0033】
(リーンスパイクおよびその効果)
図4は、メタン(CH
4)燃料の浄化反応を模式的に示す説明図である。
【0034】
ストイキ相当値よりもリッチ側とリーン側とで空燃比を周期的に変動させた場合に、空燃比がリッチ側にある期間では、浄化反応の中間生成物であるFormate(ギ酸イオン、HCOO-)の生成および蓄積が進み、これがリッチ雰囲気におけるメタンの浄化を阻害する。空燃比をリーン側とし、排気浄化触媒331に酸素を供給することで、CeZr複合酸化物等、触媒331に含有されるOSC材の作用によりFormateを分解し、浄化反応の進行を促すことが可能である。本実施形態では、リーンスパイクにより排気浄化触媒331に酸素を供給し、排気浄化触媒331を間欠的にリーン雰囲気に制御することで、Formateの分解および浄化反応の促進を図る。
【0035】
図5は、リーンスパイクによる空燃比λの変動波形を模式的に示す説明図である。
【0036】
リーンスパイクとは、排気浄化触媒331に流入する排気の空燃比、つまり、上流側空燃比λfをストイキ相当値に対してリッチ側である基本リッチ空燃比λ1に制御するとともに、所定のタイミングt1、t2、…において上流側空燃比λfを一時的に増大させ、ストイキ相当値よりもリーン側(λ2)に制御する態様のものをいう。空燃比がストイキ相当値に対してリッチ側であるとは、混合気または排気に含まれる燃料成分が当量よりも多量であることをいい、リーン側であるとは、混合気または排気に含まれる燃料成分が当量よりも少量であることをいう。ストイキ相当値とは、空気過剰率換算で1となる空燃比をいう。
【0037】
ここに、リーンスパイクを実施する時刻t1から次回のリーンスパイクを実施する時刻t2まで、つまり、互いに前後して実施されるリーンスパイクの間の時間をリーンスパイクの間隔Iとする。リーンスパイクの間隔Iを一定とし、リーンスパイクを一定の周期で実施することも可能であるが、本実施形態では、リーンスパイクの間隔Iを、下流側空燃比λrの変化を監視することにより可変的に設定する。
【0038】
リーンスパイクにより空燃比をリーン側とする期間(以下「リーン化期間」といい、その長さを「リーンスパイク幅」Dspという)およびリーンスパイクによる空燃比λの変動幅(以下「リーン化深度」という)Δλ(=λ2-λ1)は、いずれもリーンスパイク量の例であり、リーンスパイクにより排気浄化触媒331に供給される酸素の量である酸素供給量に相関する。本実施形態では、リーン化深度Δλを一定とし、リーン化期間の長さ、つまり、リーンスパイク幅Dspを延長または短縮することにより、リーンスパイク量を調整する。
【0039】
本実施形態では、エンジンEの燃焼空燃比λcmbを制御することにより、上流側空燃比λfを制御する。具体的には、上流側空燃比λfを基本リッチ空燃比λ1とする場合は、燃焼空燃比λcmbを基本リッチ空燃比λ1に相当する空燃比に制御し、上流側空燃比λfをリーン側(λ2)とする場合は、燃焼空燃比λcmbを上流側空燃比λfの増大分、つまり、リーン化深度Δλに相当する空燃比だけ増大させる。燃焼空燃比λcmbの制御は、例えば、燃料インジェクタ41による燃料供給量の調整による。これに限らず、排気に二次空気を導入可能に構成し、二次空気の導入量を調整することにより、上流側空燃比λfを制御することも可能である。二次空気の導入による場合は、燃焼空燃比λcmbを基本リッチ空燃比λ1に定常的に設定することが可能となるため、燃焼空燃比λcmbの変化によるトルク変動の発生や、騒音の悪化を抑制することができる。
【0040】
一例として、本実施形態では、基本リッチ空燃比λ1を空気過剰率換算で0.97とし、リーンスパイクにより増大させる際の空燃比λ2を空気過剰率換算で1.6とする。よって、本実施形態におけるリーン化深度Δλは、0.63である。リーンスパイク幅Dspは、0.1秒から1秒程度に設定する。
【0041】
図6は、リーンスパイクによる場合の上流側空燃比λfおよび下流側空燃比λrの変動波形を示す説明図である。
【0042】
上流側空燃比λfは、燃焼空燃比λcmbに即した変化を示し、リッチ側の空燃比λf1とリーンスパイクにより増大させる際のリーン側の空燃比λf2との間で変化する。リッチ側の空燃比λf1は、基本リッチ空燃比λ1にほぼ等しい値を示す。本実施形態では、リッチ側の空燃比λf1は、0.97であり、リーン側の空燃比λf2は、1.6である。
【0043】
下流側空燃比λrは、上流側空燃比λf1よりも低いリッチ側の空燃比λr1と、リーンスパイクに対応して増大したリーン側の空燃比λr2(λr21)との間で変化する。排気浄化触媒331が未活性の状態では、
図6に示すように、リーンスパイクの実施後に急峻に立ち上がる波形部分と、その後に続くリッチ側の空燃比λr1よりはやや高く、ストイキ相当値よりも低い空燃比λr22を維持する波形部分と、が出現する。排気浄化触媒331の活性化が進むと、前者の波形部分が小さくなる一方、後者の波形部分がストイキ相当値近傍の空燃比λr22を維持することで、全体的な形状として、リーンスパイクの実施後に増大し、排気浄化触媒331における吸蔵酸素の消費とともに低下する波形に変化する。後に述べる
図12は、排気浄化触媒331の活性化が進んだ状態で下流側空燃比λrが形成する変動波形を示す。
【0044】
図7は、メタン浄化率ηch4と触媒入口ガス温度Tcat_inとの関係を示すグラフであり、
図8は、NOx浄化率ηnoxと触媒入口ガス温度Tcat_inとの関係を示すグラフである。
【0045】
図7および
図8において、三角のプロットは、リーンスパイクによる場合の浄化率を示し、比較として、定常空燃比による場合の浄化率を円のプロットにより、λ振動による場合の浄化率を四角のプロットにより示す。リーンスパイクは、先に述べた通りの設定であり、間隔Iは、20秒程度とする。λ振動とは、排気浄化触媒331に流入する排気の空燃比をストイキ相当値に対してリッチ側とリーン側とで振動させる制御をいい、振動による空燃比の変動幅(つまり、振幅)は、リーンスパイクによる変動幅(つまり、リーンスパイク深度Δλ)よりも小さく、振動の周期は、リーンスパイクの間隔Iよりも短い。
【0046】
三角のプロットのうち、黒塗りの三角を実線で繋いだものは、リーンスパイク幅Dspを0.1秒とした場合を示し、太枠白抜きの三角を実線で繋いだものは、リーンスパイク幅Dspを0.2秒とした場合を示し、白抜きの三角を破線で繋いだものは、リーンスパイク幅Dspを0.5秒とした場合を示し、白抜きの三角を二点鎖線で繋いだものは、リーンスパイク幅Dspを1.0秒とした場合を示す。
【0047】
円のプロットのうち、白抜きの円を二点鎖線で繋いだものは、燃焼空燃比λcmbをリーン側(例えば、1.02)に定常的に設定した場合を示し、黒塗りの円を実線で繋いだものは、燃焼空燃比λcmbをストイキ相当値(実質的なストイキ相当値として、例えば、0.99)に定常的に設定した場合を示し、白抜きの円を破線で繋いだものは、燃焼空燃比λcmbをリッチ側(例えば、0.96)に定常的に設定した場合を示す。
【0048】
メタン浄化率ηch4およびNOx浄化率ηnoxの双方において、比較的高温の領域でλ振動による場合の浄化率にリーンスパイクによる場合に対する逆転の傾向が見られるものの、温度領域全体に亘って触媒入口ガス温度Tcat_inの上昇、つまり、排気浄化触媒331の活性化の進行とともにリーンスパイクにより浄化率が向上する効果を確認することができる。
【0049】
(空燃比制御の全体説明)
図2は、本実施形態に係る空燃比制御の基本的な流れを示すフローチャートである。
【0050】
本実施形態において、
図2に示すルーチンによる空燃比制御は、エンジンコントローラ101により実行される。エンジンEの始動に際し、エンジンEの燃料空燃比λcmbは、ストイキ相当値よりもリッチ側、例えば、基本リッチ空燃比λ1に定常的に設定する。
【0051】
S101では、空燃比制御に関わる各種のセンサ情報を読み込む。読み込まれるセンサ情報は、アクセル開度APOおよびエンジン回転速度Ne等、エンジンEの運転状態を示す基本的な状態パラメータのほか、空燃比制御に特に関わりのある状態パラメータとして、上流側空燃比λfおよび下流側空燃比λrを読み込む。
【0052】
S102では、排気浄化触媒331が活性状態にあるか否かを判定する。排気浄化触媒331が活性状態にある場合は、S104へ進む。これに対し、活性状態にない場合は、S103へ進み、S103に示す処理を実施した後、S102へ戻る。触媒活性判定の具体的な内容については後に詳細に説明する。
【0053】
S103では、触媒暖機制御を実施し、排気浄化触媒331の活性化を促す。触媒暖機制御は、エンジンEの燃焼空燃比λcmbがリッチ側にある状況のもと、点火プラグ51の作動時期を遅角させ、排気の温度を上昇させることによる。排気浄化触媒331にヒータ機能が備わる場合は、排気浄化触媒331を電気加熱等により加熱することで、活性化を促すことが可能である。
【0054】
エンジンEの始動後、排気浄化触媒331が活性状態に至ると、S104以降の処理によりリーンスパイク制御を実施する。リーンスパイク制御の具体的な内容については後に詳細に説明する。
【0055】
S105では、下流側空燃比λrが所定の空燃比λth0に到達したか否かを判定する。リーンスパイクの実施後、下流側空燃比λrが減少に転じてこの所定の空燃比λth0に到達した場合は、S107へ進み、到達していない場合は、S106へ進む。所定の空燃比λth0は、本実施形態に係る「第3空燃比」に相当し、ストイキ相当値よりも低くかつ基本リッチ空燃比λ1以上の範囲で適宜に設定する。
【0056】
本実施形態では、リーンスパイクの実施前に上流側排気センサ206により検出された上流側空燃比λfをもとに上記所定の空燃比λth0を設定することとし、上流側空燃比λfに含まれる外乱の影響を考慮し、その余裕代を加味して、上流側空燃比λfよりもやや低い空燃比に設定する。例えば、上流側空燃比λfに1未満の乗算調整値(例えば、0.95)を乗じたり、上流側空燃比λfから0よりも大きな減算調整値(例えば、0.05)を減じたりすることによる。
【0057】
S106では、リーンスパイクを実施してからの経過時間tが所定の時間t0以下であるか否か、換言すれば、経過時間tが所定の時間t0を過ぎていないか否かを判定する。経過時間tがこの所定の時間t0を過ぎていない場合は、S105へ戻り、過ぎている場合、換言すれば、経過時間tがこの所定の時間t0を過ぎてもなお下流側空燃比λrが空燃比λth0に到達しない場合は、S103へ進み、先に述べたのと同様の方法により、排気浄化触媒331の活性化を促す。排気浄化触媒331の活性状態の判定のため(S102)、燃焼空燃比λcmbをリッチ側の定常空燃比(例えば、0.97)に設定してもよい。
【0058】
S107では、リーンスパイクの開始から下流側空燃比λrが上記所定の空燃比λth0に到達するまでに実際に要した時間により、S105の判定に用いられる時間t0を更新する。その後、所定のタイミングの到来により、次回のリーンスパイクを実施する。これに限らず、時間t0は、直近に行った数回または数サイクルのリーンスパイクにおいて下流側空燃比λrが所定の空燃比λth0に到達するまでに要した時間のうち、最長のものをもって更新してもよい。ただし、下流側空燃比λrがストイキ相当値を超え、リーンスパイク幅Dspを短縮する場合や、下流側空燃比λrがストイキ相当値に満たず、リーンスパイク幅Dspを延長する場合に要した時間は、この所定の時間t0の更新に算入しない。
【0059】
(触媒活性判定の内容)
排気浄化触媒331が活性状態にあるか否かの判定は、下流側空燃比λrの変化を監視して行う。
【0060】
図9は、リーンスパイク幅Dspとメタン浄化率ηch4との関係を異なる触媒入口ガス温度Tcat_inのもとに示すグラフである。
図9中、三角で示すそれぞれのプロットa1、a2、b、c1~c4のうちで最も左側のものは、リーンスパイク幅Dspが0秒、つまり、リーンスパイクを実施しない場合を示す。リーンスパイク幅Dspは、
図7および
図8において三角のプロットにより示したリーンスパイク幅Dsp(0.2秒から1.0秒)に対応する。
【0061】
触媒入口ガス温度Tcat_inが低く、排気浄化触媒331が未活性の状態にある場合(
図9中、プロットa1、a2により示す)は、メタン浄化率ηch4にリーンスパイクにより向上する効果を確認することはできない。これよりもやや高い触媒入口ガス温度Tcat_inのもとでは、メタン浄化率ηch4に若干向上する傾向を確認することができるが、メタン浄化率ηch4自体が低く、その効果は限定的である(プロットb)。
【0062】
これに対し、触媒入口ガス温度Tcat_inが上昇し、排気浄化触媒331が活性化した状態では、触媒入口ガス温度Tcat_inの上昇とともにリーンスパイクによりメタン浄化率ηch4が向上する効果を確認することができる(プロットc1~c4)。
【0063】
このように、リーンスパイクによる効果を得るには、排気浄化触媒331が活性状態にあることを確認する必要がある。そして、いずれの触媒入口ガス温度Tcat_inにおけるメタン浄化率ηch4も上向きに凸となる曲線を描くことから、触媒入口ガス温度Tcat_inごとに最も高いメタン浄化率ηch4が得られるリーンスパイク幅Dspが存在することが分かる。
【0064】
図10は、エンジンEをリッチ側の定常空燃比(0.97)で運転した場合における下流側空燃比λrとメタン浄化率ηch4との関係を異なる触媒入口ガス温度Tcat_inのもとに示すグラフである。
【0065】
全体的な傾向として、触媒入口ガス温度Tcat_inの上昇、つまり、排気浄化触媒331の活性化の進行とともに下流側空燃比λrが低下する傾向を確認することができる。これは、排気浄化触媒331がリッチ雰囲気にある場合に生成される水素ガス(H2)の影響によるものであり、排気に水素ガスが含まれる状況では、下流側排気センサ207に実際よりも低い空燃比を誤って出力する性質があるためである。この性質を利用し、下流側空燃比λrが実際よりも低いか否か、簡易的には、上流側空燃比λfよりも低いか否かを判定することで、排気浄化触媒331が活性状態にあるか否かを判定することが可能である。
【0066】
この判定は、暖機開始後、下流側空燃比λrが触媒入口ガス温度Tcat_inの上昇とともに低下し、所定の空燃比λth0に到達したか否かを判定することによる。この所定の空燃比λth0は、本実施形態に係る「第2空燃比」に相当し、上流側排気センサ206により検出された上流側空燃比λfをもとに設定することとし、上流側空燃比λfに含まれる外乱の影響を考慮し、その余裕代を加味して、上流側空燃比λfよりもやや低い空燃比に設定する。例えば、上流側空燃比λfに1未満の乗算調整値(例えば、0.95)を乗じたり、上流側空燃比λfから0よりも大きな減算調整値(例えば、0.05)を減じたりすることによる。ここで、この判定に用いられる空燃比λth0は、先にS105における判定で用いられた空燃比λth0に等しい値であってもよいが、上流側空燃比λfに実際に含まれる外来の影響を反映させ、両者の空燃比を異なる値に設定してもよい。
【0067】
(リーンスパイクの内容)
リーンスパイクは、
図3のフローチャートに示す手順による。
【0068】
S201では、リーンスパイク幅Dspを設定する。排気浄化触媒331の活性判定後、初めにリーンスパイクを実施する場合は、リーンスパイク幅Dspをその初期値Dsp0を設定する。
【0069】
S202では、リーンスパイク幅Dspによりリーンスパイクを実施する。
【0070】
S203では、リーンスパイクの実施後に下流側排気センサ207により検出される下流側空燃比λrから、その最大値である下流側最大空燃比λr_maxを取得する。
【0071】
S204では、下流側最大空燃比λr_maxが所定の空燃比λth1以上であるか否かを判定する。所定の空燃比λth1以上である場合は、S205へ進み、所定の空燃比λth1未満である場合は、S207へ進む。
【0072】
S205では、下流側最大空燃比λr_maxが上記所定の空燃比λth1よりも大きな所定の空燃比λth2以下であるか否かを判定する。所定の空燃比λth2以下である場合は、
図2のフローチャートに示すS105へ進み、所定の空燃比λth2よりも高い場合は、S206へ進む。
【0073】
S206では、リーンスパイク幅Dspを短縮し、リーンスパイクにより排気浄化触媒331に供給される酸素の量を減少させる。リーンスパイク幅Dspの短縮は、現在のリーンスパイク幅Dspに1よりも小さな係数K2を乗算することによる。係数K2は、例えば、0.70である。次回のリーンスパイクでは、短縮後のリーンスパイク幅Dspにより、リーンスパイクを実施する。
【0074】
S207では、リーンスパイク幅Dspを延長し、リーンスパイクにより排気浄化触媒331に供給される酸素の量を増大させる。リーンスパイク幅Dspの延長は、現在のリーンスパイク幅Dspに1よりも大きな係数K1を乗算することによる。係数K1は、例えば、1.05である。次回のリーンスパイクでは、延長後のリーンスパイク幅Dspにより、リーンスパイクを実施する。
【0075】
図11は、下流側最大空燃比λr_maxとメタン浄化率ηch4との関係を異なる触媒入口ガス温度Tcat_inのもとに示すグラフである。
【0076】
図11中、三角で示すプロットb、c1~c4は、
図10に三角で示すプロットb、c1~c4に対応し、それぞれにおいて最も左側に白抜きで示すプロットは、リーンスパイク幅Dspが0秒、つまり、リーンスパイクを実施しない場合を示す。
【0077】
全体的な傾向として、触媒入口ガス温度Tcat_inの上昇、つまり、排気浄化触媒331の活性化の進行とともにメタン浄化率ηch4が上昇しており、それぞれのメタン浄化率ηch4において、リーンスパイク幅Dspを0から延長し、排気浄化触媒331に対する酸素供給量を増大させるのに応じて下流側最大空燃比λr_maxの上昇とともにメタン浄化率ηch4が上昇し、最大値(最大浄化率)を迎えた後、次第に低下する傾向を確認することができる。
【0078】
ここで、メタン燃料について最大浄化率が得られる下流側最大空燃比λr_maxは、排気浄化触媒331の活性状態に応じて相違し、排気浄化触媒331の活性状態が比較的低いプロットbの場合を除けば、活性化が進むほどより短いリーンスパイク幅Dspのもとで最大浄化率が得られることが分かる。さらに、この最大浄化率が得られる下流側最大空燃比λr_maxは、一定の範囲に収まる傾向にあることも分かる。
【0079】
本実施形態では、下流側最大空燃比λr_maxに関して所定の空燃比λth1およびλth2を上下限とする範囲Rを設定し、リーンスパイクを実施するに際し、下流側最大空燃比λr_maxがこの範囲Rに収まるように、リーンスパイク幅Dspを制御する。
【0080】
範囲Rの下限を定める空燃比λth1は、ストイキ相当値よりも低くかつ基本リッチ空燃比λ1以上の範囲で適宜に設定する。本実施形態では、リーンスパイクの実施前に上流側排気センサ206により検出された上流側空燃比λfをもとに空燃比λth1を設定することとし、上流側空燃比λfに含まれる外乱による影響を考慮し、これに対する余裕代を加味して、上流側空燃比λfよりもやや高い空燃比に設定する。例えば、上流側空燃比λfに1よりも大きな乗算調整値(例えば、1.02)を乗じたり、上流側空燃比λfに0よりも大きな加算調整値(例えば、0.02)を加えたりすることによる。所定の空燃比λth1は、本実施形態に係る「第1空燃比」に相当する。
【0081】
これに対し、範囲Rの上限を定める空燃比λth2は、ストイキ相当値に設定することが可能である。
【0082】
(作用および効果の説明)
本実施形態に係るエンジンEの空燃比制御装置は、以上の構成を有する。本実施形態より得られる効果について、以下に説明する。
【0083】
排気浄化触媒331に流入する排気の空燃比である上流側空燃比λfをストイキ相当値に対してリッチ側である基本リッチ空燃比λ1に制御するとともに、所定のタイミングt1、t2、…においてこの排気の空燃比λfを一時的に増大させ、ストイキ相当値よりもリーン側に制御するリーンスパイクを実施する。
【0084】
図12は、排気浄化触媒331の活性化が進んだ状態でリーンスパイクを実施した場合における上流側空燃比λf、下流側空燃比λr、メタン浄化率ηch4およびNOx浄化率ηnoxの変動波形を示す説明図である。下流側最大空燃比λr_maxは、先に述べた所定の空燃比λth1以上かつλth2(ストイキ相当値)以下の範囲Rに制御されている。
【0085】
リーンスパイクの間隔Iは、上流側空燃比λfおよび下流側空燃比λrの挙動から、次に述べる3つの期間P1~P3に区分することが可能である。
【0086】
リーンスパイクを実施するタイミングである時刻t1から続く第1期間P1では、リーンスパイクに対応して下流側空燃比λrが僅かに増大する一方、メタン浄化率ηch4が低下する。メタン浄化率ηch4の低下は、リーンスパイク幅Dspを調整し、下流側最大空燃比λr_maxをストイキ相当値未満に制御することで、抑制することが可能である。
【0087】
第1期間P2後に続く第2期間P2では、排気浄化触媒331に含有されるOSC材により吸蔵酸素が放出され、下流側空燃比λrが増大する。吸蔵酸素の放出により、メタン浄化率ηch4が上昇する。この第2期間P2において、下流側空燃比λrが最大値(下流側最大空燃比λr_max)を示し、メタン浄化率ηch4がその最大値を迎える。下流側最大空燃比λr_maxが範囲Rの下限に当たる所定の空燃比λth1未満に止まる場合は、次回のリーンスパイクにおけるリーンスパイク幅Dspを延長する。他方で、下流側最大空燃比λr_maxが範囲Rの上限に当たる所定の空燃比λth2(ストイキ相当値)を超える場合は、次回のリーンスパイクにおけるリーンスパイク幅Dspを短縮する。
【0088】
第2期間P2後、下流側空燃比λrが上流側空燃比λfに到達するタイミングである時刻t12から続く第3期間P3では、排気浄化触媒331における吸蔵酸素の消費が進むのに伴って下流側空燃比λrが低下し、これとともにメタン浄化率ηch4も低下する。このことは、リーンスパイクの効果が薄れたことを示す。下流側空燃比λrが上流側空燃比λfにまで減少したこともって第3期間P3への移行を判定し、判定後、次回のリーンスパイクを速やかに実施する。
【0089】
このように、排気浄化触媒331に対する酸素供給量に関わるリーンスパイク量を、リーンスパイクの実施後に下流側排気センサ207により検出された下流側空燃比λrをもとに設定することで、排気浄化触媒331における吸蔵酸素の消費状況を適切に評価し、リーンスパイク量の設定ないし調整を通じてリーンスパイクを最適化し、排気浄化触媒331による高い浄化率を実現することが可能となる。
【0090】
よって、特別なセンサの追加を必要とせず、リーンスパイクの最適化を通じて排気浄化触媒331による高い浄化率を実現することが可能となる。
【0091】
リーンスパイクの実施後に増大する下流側空燃比λrの最大値である下流側最大空燃比λr_maxがストイキ相当値未満となるように、リーンスパイク量を設定することで、排気浄化触媒331に対し、リーンスパイクによりその酸素吸蔵能力に応じた適切な量の酸素を供給可能とし、排気浄化触媒331による高い浄化率を実現することが可能となる。
【0092】
下流側最大空燃比λr_maxがストイキ相当値よりも高い場合に、酸素供給量を減少させ、下流側最大空燃比λr_maxが所定の空燃比λth1(ストイキ相当値よりも低い)よりも低い場合に、酸素供給量を増大させるように、換言すれば、下流側最大空燃比λr_maxが所定の空燃比λth1およびストイキ相当値により上下限が定められる範囲Rに収まるように制御することで、リーンスパイク量の設定ないし調整を容易に行うことが可能となる。
【0093】
ここで、所定の空燃比λth1を基本リッチ空燃比λ1以上(好ましくは、外乱の影響に対する余裕代だけ上流側空燃比λfよりも増大させた空燃比)とすることで、判定の確実性を高めるとともに、過不足を抑えたより適切なリーンスパイク量を設定可能とし、排気浄化触媒331に対してより適切な量の酸素を供給することが可能となる。
【0094】
リーンスパイクを実施する期間であるリーンスパイク幅Dspによりリーンスパイク量を設定することで、リーンスパイクによる空燃比の増減を抑制し、リーンスパイクにより排気の空燃比が排気浄化触媒331の浄化可能範囲を過度に逸脱する事態を回避することが可能となる。
【0095】
エンジンEの始動後、上流側空燃比λfをストイキ相当値に対してリッチ側に定常的に制御することで、冷機状態下にあっても燃焼を安定して生じさせ、円滑な始動を実現することが可能である。さらに、暖機開始後、下流側空燃比λrが上流側空燃比λfよりも低い所定の空燃比λth0に到達した場合に、暖機を終了し、リーンスパイクを実施することで、暖機の完了を特別なセンサによらずに適切に判定することが可能となる。
【0096】
暖機中に上流側排気センサ206により検出された上流側空燃比λfをもとに所定の空燃比λth0を設定することで、暖機の完了をより適切に判定することが可能となる。
【0097】
リーンスパイクの実施後、下流側空燃比λrが所定の空燃比λth0に到達した後に次回のリーンスパイクを実施することで、排気浄化触媒331における吸蔵酸素の消費状況を適切に把握し、適切なタイミングで次回のリーンスパイクを実施することが可能となる。
【0098】
リーンスパイクの実施前に上流側排気センサ206により検出された上流側空燃比λfをもとに所定の空燃比λth0を設定することで、次回のリーンスパイクを実施するタイミングをより適切に判定することが可能となる。
【0099】
リーンスパイクの実施後、下流側空燃比λrが所定の時間t0を経過してもなお所定の空燃比λth0に到達しない場合に、触媒暖機制御を実施することで、排気浄化触媒331の活性がエンジンEの運転中に低下した場合に対応可能とし、高い浄化率を維持することが可能となる。
【符号の説明】
【0100】
E…内燃エンジン、1…エンジン本体、2…吸気システム、21…吸気管、22…吸気マニホールド、3…排気システム、31…排気マニホールド、32…排気管、33…触媒コンバータ、331…排気浄化触媒、41…燃料インジェクタ、51…点火プラグ、101…エンジンコントローラ、201…アクセル開度センサ、202…エンジン回転速度センサ、203…エアフローメータ、204…冷却水温度センサ、205…触媒温度センサ、206…上流側排気センサ、207…下流側排気センサ。