(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156542
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】水性顔料分散液の評価方法及び水性顔料分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 17/00 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
C09D17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071095
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】田 路
(72)【発明者】
【氏名】吉川 幸男
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
【テーマコード(参考)】
4J037
【Fターム(参考)】
4J037DD23
4J037DD24
4J037EE28
4J037FF15
4J037FF23
4J037FF26
(57)【要約】
【課題】有機顔料の分散性が良好となる高分子分散剤と水溶性有機溶剤の好適な組み合わせを予測して評価しうる、有機顔料の分散性、保存安定性、及び再分散性に優れた水性顔料分散液を製造する際に有用な水性顔料分散液の評価方法を提供する。
【解決手段】高分子分散剤、水溶性有機溶媒、及び水を含有する混合物a水溶性有機溶媒及び水を含有する混合物b、高分子分散剤及び水を含有する混合物o、及び水のT2緩和時間(T2a、T2b、T2o、T2w)をパルスNMRにより測定するとともに、下記式(1)及び(2)によりRsp値及びRspo値を得、Rspo値を基準とするRsp値の低下率(%)から、水性顔料分散液中における有機顔料の分散性を評価する。
Rsp=(Ra/Rb)-1 ・・・(1)
(Ra:T2aの逆数、Rb:T2bの逆数)
Rspo=(Ro/Rw)-1 ・・・(2)
(Ro:T2oの逆数、Rw:T2wの逆数)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機顔料、高分子分散剤、水溶性有機溶媒、及び水を含有する水性顔料分散液の評価方法であって、
前記高分子分散剤、前記水溶性有機溶媒、及び前記水を含有し、前記有機顔料を含有しない混合物aを得る工程と、
前記水溶性有機溶媒及び前記水を含有し、前記有機顔料及び前記高分子分散剤を含有しない混合物bを得る工程と、
パルスNMRにより、前記混合物aのT2緩和時間(T2a)及び前記混合物bのT2緩和時間(T2b)を測定するとともに、下記式(1)によりRsp値を得る工程と、
前記高分子分散剤及び前記水を含有する、前記高分子分散剤の濃度が、前記混合物a中の前記高分子分散剤の濃度と同一である混合物oを得る工程と、
パルスNMRにより、前記混合物oのT2緩和時間(T2o)及び前記水のT2緩和時間(T2w)を測定するとともに、下記式(2)によりRspo値を得る工程と、
前記Rspo値を基準とする前記Rsp値の低下率(%)を算出し、算出した前記低下率の大小に基づき、前記水性顔料分散液中における前記有機顔料の分散性を評価する工程と、
を有する水性顔料分散液の評価方法。
Rsp=(Ra/Rb)-1 ・・・(1)
(前記式(1)中、RaはT2aの逆数を表し、RbはT2bの逆数を表す)
Rspo=(Ro/Rw)-1 ・・・(2)
(前記式(2)中、RoはT2oの逆数を表し、RwはT2wの逆数を表す)
【請求項2】
前記混合物aの組成が、前記有機顔料を含有しないこと以外は前記有機顔料の分散処理に用いる原料混合物と同等であり、
前記混合物bの組成が、前記有機顔料成分及び前記高分子分散剤を含有しないこと以外は前記原料混合物と同等である請求項1に記載の水性顔料分散液の評価方法。
【請求項3】
酸析した前記高分子分散剤、前記水、及び中和剤を混合して前記高分子分散剤を溶解させた後、前記水で希釈して前記混合物oを得る請求項1に記載の水性顔料分散液の評価方法。
【請求項4】
前記高分子分散剤が、疎水性セグメントと、メタクリル酸を含むメタクレート系モノマーに由来する親水性セグメントと、を有するブロックコポリマーである請求項1~3のいずれか一項に記載の水性顔料分散液の評価方法。
【請求項5】
前記水性顔料分散液中、前記高分子分散剤の含有量が、前記有機顔料100質量部に対して、5~50質量部である請求項1~3のいずれか一項に記載の水性顔料分散液の評価方法。
【請求項6】
前記水性顔料分散液中、前記高分子分散剤の含有量が、前記有機顔料100質量部に対して、5~50質量部である請求項4に記載の水性顔料分散液の評価方法。
【請求項7】
有機顔料、高分子分散剤、水溶性有機溶媒、及び水を含有する水性顔料分散液の製造方法であって、
前記高分子分散剤、前記水溶性有機溶媒、及び前記水を含有し、前記有機顔料を含有しない、前記高分子分散剤及び前記水溶性有機溶媒の少なくともいずれかの種類が異なる複数の混合物aを得る工程と、
前記水溶性有機溶媒及び前記水を含有し、前記有機顔料及び前記高分子分散剤を含有しない、前記水溶性有機溶媒の種類が異なる複数の混合物bを得る工程と、
パルスNMRにより、複数の前記混合物aのT2緩和時間(T2a)及び複数の前記混合物bのT2緩和時間(T2b)を測定するとともに、下記式(1)によりRsp値を得る工程と、
前記高分子分散剤及び前記水を含有する、前記高分子分散剤の濃度が、複数の前記混合物a中の前記高分子分散剤の濃度と同一である、前記高分子分散剤の種類が異なる複数の混合物oを得る工程と、
パルスNMRにより、複数の前記混合物oのT2緩和時間(T2o)及び前記水のT2緩和時間(T2w)を測定するとともに、下記式(2)によりRspo値を得る工程と、
前記Rspo値を基準とする前記Rsp値の低下率(%)を算出し、算出した前記低下率が20%以上となる前記混合物aを選択する工程と、
選択した前記混合物aに含まれる前記高分子分散剤及び前記水溶性有機溶媒、並びに前記有機顔料及び前記水を混合して得た原材料混合物中に前記有機顔料を分散させる工程と、
を有する水性顔料分散液の製造方法。
Rsp=(Ra/Rb)-1 ・・・(1)
(前記式(1)中、RaはT2aの逆数を表し、RbはT2bの逆数を表す)
Rspo=(Ro/Rw)-1 ・・・(2)
(前記式(2)中、RoはT2oの逆数を表し、RwはT2wの逆数を表す)
【請求項8】
前記混合物aの組成が、前記有機顔料を含有しないこと以外は前記原料混合物と同等であり、
前記混合物bの組成が、前記有機顔料成分及び前記高分子分散剤を含有しないこと以外は前記原料混合物と同等である請求項7に記載の水性顔料分散液の製造方法。
【請求項9】
酸析した前記高分子分散剤、前記水、及び中和剤を混合して前記高分子分散剤を溶解させた後、前記水で希釈して前記混合物oを得る請求項7に記載の水性顔料分散液の製造方法。
【請求項10】
前記高分子分散剤が、疎水性セグメントと、メタクリル酸を含むメタクレート系モノマーに由来する親水性セグメントと、を有するブロックコポリマーである請求項7~9のいずれか一項に記載の水性顔料分散液の製造方法。
【請求項11】
前記水性顔料分散液中、前記高分子分散剤の含有量が、前記有機顔料100質量部に対して、5~50質量部である請求項7~9のいずれか一項に記載の水性顔料分散液の製造方法。
【請求項12】
前記水性顔料分散液中、前記高分子分散剤の含有量が、前記有機顔料100質量部に対して、5~50質量部である請求項10に記載の水性顔料分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性顔料分散液の評価方法、及び水性顔料分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷方法は、高機能化により、個人用、事務用、及び業務用と多岐にわたって採用されている。また、近年、コンシューマ型のインクジェットプリンタや大判印刷用ワイドフォーマットインクジェットプリンタから、産業用途のインクジェット印刷機へと、インクジェット印刷方法の適用範囲が拡大している。インクジェット印刷方法の印刷速度は、生産性に応じて向上している。また、プリントヘッドのメンテナンスレス化等、記録装置に対しても高速印刷適性が要求されている。さらに、環境に対する配慮から、水性インクを用いるインクジェット印刷方法が主として採用されている。
【0003】
顔料を含有する水性インク(水性顔料インク)は、染料を含有する水性インク(水性染料インク)とは異なり、粒子状態で含まれる顔料が経時的に凝集及び沈降しやすい。このため、水性顔料インクをインクジェット方式で吐出する場合には、吐出安定性を確保すべく、吐出ノズルの目詰まりを防止することが重要である。顔料の分散性が良好な分散液として、例えば、顔料を分散させるための高分子分散剤として、疎水性セグメント及び親水性セグメントを有する両親媒性のポリマーを用いたインクジェット用の分散液が種々提案されている(特許文献1~7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-053628号公報
【特許文献2】特許第4157868号公報
【特許文献3】特許第6979142号公報
【特許文献4】特許第6967168号公報
【特許文献5】国際公開第2011/136000号
【特許文献6】特開2017-214469号公報
【特許文献7】特開2012-021120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~7等で提案された分散液に用いられる高分子分散剤は、疎水性セグメントが顔料の表面に吸着するとともに、親水性セグメントが水性媒体に溶解することで、顔料の凝集及び沈降を抑制している。このため、水性媒体中への顔料の分散効果は、高分子分散剤のモノマー組成、及び親水性セグメントと疎水性セグメントの比率等に応じて変動する。また、高分子分散剤の疎水性セグメントは、水性媒体中では収縮又はミセルを形成し、表出しないことがある。このため、水性媒体の組成等によっては、疎水性セグメントが顔料の表面に吸着しにくくなることがあり、顔料の分散性を高めることが困難になることもある。
【0006】
顔料の凝集及び沈降が抑制され、分散性に優れた水性顔料分散液を製造するに先立って、水性媒体中における高分子分散剤の挙動等を直接観察して定量化することは困難である。このため、高分子分散剤の性能を評価するには、顔料の分散から印刷評価までの一連の試験検証が必要とされる。しかしながら、試験的に製造した多数の高分子分散剤のすべてについて一連の試験検証を実施するには多大な時間を要することとなり、開発効率を低下させる要因となっていた。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、有機顔料の分散性が良好となる高分子分散剤と水溶性有機溶剤の好適な組み合わせを予測して評価しうる、有機顔料の分散性、保存安定性、及び再分散性に優れた水性顔料分散液を製造する際に有用な水性顔料分散液の評価方法を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、有機顔料の分散性、保存安定性、及び再分散性に優れた水性顔料分散液を製造することが可能な水性顔料分散液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下に示す水性顔料分散液の評価方法が提供される。
[1]有機顔料、高分子分散剤、水溶性有機溶媒、及び水を含有する水性顔料分散液の評価方法であって、前記高分子分散剤、前記水溶性有機溶媒、及び前記水を含有し、前記有機顔料を含有しない混合物aを得る工程と、前記水溶性有機溶媒及び前記水を含有し、前記有機顔料及び前記高分子分散剤を含有しない混合物bを得る工程と、パルスNMRにより、前記混合物aのT2緩和時間(T2a)及び前記混合物bのT2緩和時間(T2b)を測定するとともに、下記式(1)によりRsp値を得る工程と、前記高分子分散剤及び前記水を含有する、前記高分子分散剤の濃度が、前記混合物a中の前記高分子分散剤の濃度と同一である混合物oを得る工程と、パルスNMRにより、前記混合物oのT2緩和時間(T2o)及び前記水のT2緩和時間(T2w)を測定するとともに、下記式(2)によりRspo値を得る工程と、前記Rspo値を基準とする前記Rsp値の低下率(%)を算出し、算出した前記低下率の大小に基づき、前記水性顔料分散液中における前記有機顔料の分散性を評価する工程と、を有する水性顔料分散液の評価方法。
Rsp=(Ra/Rb)-1 ・・・(1)
(前記式(1)中、RaはT2aの逆数を表し、RbはT2bの逆数を表す)
Rspo=(Ro/Rw)-1 ・・・(2)
(前記式(2)中、RoはT2oの逆数を表し、RwはT2wの逆数を表す)
[2]前記混合物aの組成が、前記有機顔料を含有しないこと以外は前記有機顔料の分散処理に用いる原料混合物と同等であり、前記混合物bの組成が、前記有機顔料成分及び前記高分子分散剤を含有しないこと以外は前記原料混合物と同等である前記[1]に記載の水性顔料分散液の評価方法。
[3]酸析した前記高分子分散剤、前記水、及び中和剤を混合して前記高分子分散剤を溶解させた後、前記水で希釈して前記混合物oを得る前記[1]又は[2]に記載の水性顔料分散液の評価方法。
[4]前記高分子分散剤が、疎水性セグメントと、メタクリル酸を含むメタクレート系モノマーに由来する親水性セグメントと、を有するブロックコポリマーである前記[1]~[3]のいずれかに記載の水性顔料分散液の評価方法。
[5]前記水性顔料分散液中、前記高分子分散剤の含有量が、前記有機顔料100質量部に対して、5~50質量部である前記[1]~[3]のいずれかに記載の水性顔料分散液の評価方法。
[6]前記水性顔料分散液中、前記高分子分散剤の含有量が、前記有機顔料100質量部に対して、5~50質量部である前記[4]に記載の水性顔料分散液の評価方法。
【0009】
また、本発明によれば、以下に示す水性顔料分散液の製造方法が提供される。
[7]有機顔料、高分子分散剤、水溶性有機溶媒、及び水を含有する水性顔料分散液の製造方法であって、前記高分子分散剤、前記水溶性有機溶媒、及び前記水を含有し、前記有機顔料を含有しない、前記高分子分散剤及び前記水溶性有機溶媒の少なくともいずれかの種類が異なる複数の混合物aを得る工程と、前記水溶性有機溶媒及び前記水を含有し、前記有機顔料及び前記高分子分散剤を含有しない、前記水溶性有機溶媒の種類が異なる複数の混合物bを得る工程と、パルスNMRにより、複数の前記混合物aのT2緩和時間(T2a)及び複数の前記混合物bのT2緩和時間(T2b)を測定するとともに、下記式(1)によりRsp値を得る工程と、前記高分子分散剤及び前記水を含有する、前記高分子分散剤の濃度が、複数の前記混合物a中の前記高分子分散剤の濃度と同一である、前記高分子分散剤の種類が異なる複数の混合物oを得る工程と、パルスNMRにより、複数の前記混合物oのT2緩和時間(T2o)及び前記水のT2緩和時間(T2w)を測定するとともに、下記式(2)によりRspo値を得る工程と、前記Rspo値を基準とする前記Rsp値の低下率(%)を算出し、算出した前記低下率が20%以上となる前記混合物aを選択する工程と、選択した前記混合物aに含まれる前記高分子分散剤及び前記水溶性有機溶媒、並びに前記有機顔料及び前記水を混合して得た原材料混合物中に前記有機顔料を分散させる工程と、を有する水性顔料分散液の製造方法。
Rsp=(Ra/Rb)-1 ・・・(1)
(前記式(1)中、RaはT2aの逆数を表し、RbはT2bの逆数を表す)
Rspo=(Ro/Rw)-1 ・・・(2)
(前記式(2)中、RoはT2oの逆数を表し、RwはT2wの逆数を表す)
[8]前記混合物aの組成が、前記有機顔料を含有しないこと以外は前記原料混合物と同等であり、前記混合物bの組成が、前記有機顔料成分及び前記高分子分散剤を含有しないこと以外は前記原料混合物と同等である前記[7]に記載の水性顔料分散液の製造方法。
[9]酸析した前記高分子分散剤、前記水、及び中和剤を混合して前記高分子分散剤を溶解させた後、前記水で希釈して前記混合物oを得る前記[7]又は[8]に記載の水性顔料分散液の製造方法。
[10]前記高分子分散剤が、疎水性セグメントと、メタクリル酸を含むメタクレート系モノマーに由来する親水性セグメントと、を有するブロックコポリマーである前記[7]~[9]のいずれかに記載の水性顔料分散液の製造方法。
[11]前記水性顔料分散液中、前記高分子分散剤の含有量が、前記有機顔料100質量部に対して、5~50質量部である前記[7]~[9]のいずれかに記載の水性顔料分散液の製造方法。
[12]前記水性顔料分散液中、前記高分子分散剤の含有量が、前記有機顔料100質量部に対して、5~50質量部である前記[10]に記載の水性顔料分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、有機顔料の分散性が良好となる高分子分散剤と水溶性有機溶剤の好適な組み合わせを予測して評価しうる、有機顔料の分散性、保存安定性、及び再分散性に優れた水性顔料分散液を製造する際に有用な水性顔料分散液の評価方法を提供することができる。また、本発明によれば、有機顔料の分散性、保存安定性、及び再分散性に優れた水性顔料分散液を製造することが可能な水性顔料分散液の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1、2、及び比較例1~3で調製した水性顔料分散液につき、「Rsp値の低下率(%)」に対して「平均粒子径(nm)」をプロットしたグラフである。
【
図2】実施例3~7、及び比較例2で調製した水性顔料分散液につき、「Rsp値の低下率(%)」に対して「平均粒子径(nm)」をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<水性顔料分散液の評価方法及び製造方法>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の水性顔料分散液の評価方法の一実施形態は、有機顔料、高分子分散剤、水溶性有機溶媒、及び水を含有する水性顔料分散液の評価方法である。本実施形態の評価方法は、高分子分散剤、水溶性有機溶媒、及び水を含有し、有機顔料を含有しない混合物aを得る工程と、水溶性有機溶媒及び水を含有し、有機顔料及び高分子分散剤を含有しない混合物bを得る工程と、パルスNMRにより、混合物aのT2緩和時間(T2a)及び混合物bのT2緩和時間(T2b)を測定するとともに、下記式(1)によりRsp値を得る工程と、高分子分散剤及び水を含有する、高分子分散剤の濃度が、混合物a中の高分子分散剤の濃度と同一である混合物oを得る工程と、パルスNMRにより、混合物oのT2緩和時間(T2o)及び水のT2緩和時間(T2w)を測定するとともに、下記式(2)によりRspo値を得る工程と、Rspo値を基準とするRsp値の低下率(%)を算出し、算出した低下率の大小に基づき、水性顔料分散液中における有機顔料の分散性を評価する工程と、を有する。
【0013】
Rsp=(Ra/Rb)-1 ・・・(1)
(前記式(1)中、RaはT2aの逆数を表し、RbはT2bの逆数を表す)
Rspo=(Ro/Rw)-1 ・・・(2)
(前記式(2)中、RoはT2oの逆数を表し、RwはT2wの逆数を表す)
【0014】
また、本発明の水性顔料分散液の製造方法の一実施形態は、有機顔料、高分子分散剤、水溶性有機溶媒、及び水を含有する水性顔料分散液の製造方法である。本実施形態の製造方法は、高分子分散剤、水溶性有機溶媒、及び水を含有し、有機顔料を含有しない、高分子分散剤及び水溶性有機溶媒の少なくともいずれかの種類が異なる複数の混合物aを得る工程と、水溶性有機溶媒及び水を含有し、有機顔料及び高分子分散剤を含有しない、水溶性有機溶媒の種類が異なる複数の混合物bを得る工程と、パルスNMRにより、複数の混合物aのT2緩和時間(T2a)及び複数の混合物bのT2緩和時間(T2b)を測定するとともに、下記式(1)によりRsp値を得る工程と、高分子分散剤及び水を含有する、高分子分散剤の濃度が、複数の混合物a中の高分子分散剤の濃度と同一である、高分子分散剤の種類が異なる複数の混合物oを得る工程と、パルスNMRにより、複数の混合物oのT2緩和時間(T2o)及び水のT2緩和時間(T2w)を測定するとともに、下記式(2)によりRspo値を得る工程と、Rspo値を基準とするRsp値の低下率(%)を算出し、算出した低下率が20%以上となる混合物aを選択する工程と、選択した混合物aに含まれる高分子分散剤及び水溶性有機溶媒、並びに有機顔料及び水を混合して得た原材料混合物中に有機顔料を分散させる工程と、を有する。
【0015】
Rsp=(Ra/Rb)-1 ・・・(1)
(前記式(1)中、RaはT2aの逆数を表し、RbはT2bの逆数を表す)
Rspo=(Ro/Rw)-1 ・・・(2)
(前記式(2)中、RoはT2oの逆数を表し、RwはT2wの逆数を表す)
【0016】
パルスNMR(Pulse Nuclear Magnetic Resonance)測定法によると、核磁気共鳴の緩和時間を測定することで、分子の運動性を評価することができる。高分子分散剤及び水性媒体(水溶性有機溶媒と水の混合溶媒)を含有する水性顔料分散液中において、高分子分散剤に拘束されたプロトンの緩和時間は、水性媒体中に自由に存在するプロトンの緩和時間に比して短くなる。これは、高分子分散剤を構成する親水性セグメントに水性媒体の分子が拘束され、プロトンの運動性が低下するためであると考えられる。一方、高分子分散剤を構成する疎水性セグメントは、親水性セグメントに比してプロトンを拘束する力が弱い。すなわち、高分子分散剤のモノマー組成、親水性セグメントと疎水性セグメントの比率、及び水性媒体への溶解状況等に応じて、高分子分散剤に拘束されるプロトンの量が相違する。
【0017】
本実施形態の評価方法及び製造方法では、パルスNMRによって測定したT2緩和時間によって、水と水溶性有機溶媒の混合溶媒である水性媒体中における高分子分散剤の水親和性の度合い(程度)を定量化し、水性媒体中における高分子分散剤の溶解性や分子運動性等の特性を把握する。これにより、有機顔料の分散性が良好となる高分子分散剤と水溶性有機溶剤の好適な組み合わせを予測して評価することが可能となり、有機顔料の分散性、保存安定性、及び再分散性に優れた水性顔料分散液を製造することができる。
【0018】
本実施形態においては、高分子分散剤、水溶性有機溶媒、及び水を含有し、有機顔料を含有しない混合物aと、水溶性有機溶媒及び水を含有し、有機顔料及び高分子分散剤を含有しない混合物bとを調製する。そして、パルスNMRにより、混合物aのT2緩和時間(T2a)及び混合物bのT2緩和時間(T2b)を測定するとともに、下記式(1)によりRsp値を得る。
【0019】
Rsp=(Ra/Rb)-1 ・・・(1)
(前記式(1)中、RaはT2aの逆数を表し、RbはT2bの逆数を表す)
【0020】
式(1)により算出されるRsp値は、高分子分散剤の水親和性の度合いの指標となる物性値である。なお、高分子分散剤及び水溶性有機溶媒の少なくともいずれかの種類が異なる複数の混合物aと、水溶性有機溶媒の種類が異なる複数の混合物bと、をそれぞれ調製し、混合物aと混合物bの複数の組み合わせについてRsp値を得ることが好ましい。
【0021】
また、本実施形態においては、高分子分散剤及び水を含有する、高分子分散剤の濃度が、混合物a中の高分子分散剤の濃度と実質的に同一である混合物oを調製する。そして、パルスNMRにより、混合物oのT2緩和時間(T2o)及び水のT2緩和時間(T2w)を測定するとともに、下記式(2)によりRspo値を得る。混合物oは、酸析した高分子分散剤、水、及び中和剤を混合して高分子分散剤を溶解させた後、水で希釈して調製することが好ましい。
【0022】
Rspo=(Ro/Rw)-1 ・・・(2)
(前記式(2)中、RoはT2oの逆数を表し、RwはT2wの逆数を表す)
【0023】
式(2)により算出されるRspo値は、式(1)により算出されるRsp値と同様、高分子分散剤の水親和性の度合いの指標となる物性値である。なお、高分子分散剤の種類が異なる複数の混合物oを調製し、混合物oと水の複数の組み合わせについてRspo値を得ることが好ましい。
【0024】
パルスNMRを測定する際のパルス系列としては、ハーンエコー法、ソリッドエコー法、CPMG法、及び飽和回復法等を挙げることができる。複数の成分を含有する水性の試料を測定対象とするため、CPMG法を適用することが好ましい。パルスNMRの測定条件の一例を以下に示す。
・測定装置:商品名「TD-NMR Spectrometer Spin Track」、Resonance Systems社製、観測核=1H
・パルス系列:CPMG(Carr-Purcell-Meiboom-Gill)法
・測定温度:30℃
・サンプルの量:≦2.0mL
【0025】
得られたRsp値及びRspo値から、Rspo値を基準とするRsp値の低下率(%)を算出する。このように算出したRsp値の低下率(%)の値の大小に基づいて、水性顔料分散液中における有機顔料の分散性を評価することができる。そして、本実施形態の製造方法では、Rsp値の低下率(%)が20%以上、好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上となる混合物aを選択する。そして、選択した混合物aに含まれる高分子分散剤及び水溶性有機溶媒、並びに有機顔料及び水を混合して、ミルベース等の原材料混合物を調製する。調製したミルベース等の原料混合物を分散処理し、原料混合物中に有機顔料を分散させることで、目的とする水性顔料分散液を得ることができる。なお、分散処理後の原料混合物をそのまま水性顔料分散液としてもよいし、必要に応じて水等の液媒体で希釈したり、粗大粒子をフィルターでろ過して除去したりしたものを水性顔料分散液としてもよい。
【0026】
混合物aの組成は、好ましくは、有機顔料を含有しないこと以外はミルベース等の原料混合物と同等とし、さらに好ましくは実質的に同一とする。また、混合物bの組成は、好ましくは、有機顔料成分及び高分子分散剤を含有しないこと以外はミルベース等の原料混合物と同等とし、さらに好ましくは実質的に同一とする。なお、混合物aの組成が有機顔料を含有しないこと以外は原料混合物と「同等」であるとは、混合物aの組成が、原料混合物中の有機顔料を同量の水に置き換えたものと同一であることを意味する。同様に、混合物bの組成が有機顔料及び高分子分散剤を含有しないこと以外は原料混合物と「同等」であるとは、混合物bの組成が、原料混合物中の有機顔料及び高分子分散剤を同量の水に置き換えたものと同一であることを意味する。
【0027】
混合物a、混合物b、及び混合物oは、それぞれ、その他の添加剤をさらに含有してもよい。その他の添加剤としては、高分子分散剤の中和又はpH調整に用いられるアルカリ等を挙げることができる。アルカリとしては、アンモニア、ジメチルアミノエタノール、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、及び水酸化カリウム等を挙げることができる。混合物中のアルカリの含有量は、0.5~5質量%とすることが好ましい。
【0028】
有機顔料としては、C.I.ピグメントブルー15:3、15:4、15:6;C.I.ピグメントレッド122、176、254、269、291;C.I.ピグメントバイオレット19、23;C.I.ピグメントイエロー74、155、180;C.I.ピグメントグリーン36、58;C.I.ピグメントオレンジ43、71;C.I.ピグメントブラック7;及びC.I.ピグメントホワイト6;等の通常のインクジェットインクに用いられる有機顔料を用いることができる。
【0029】
有機顔料の平均粒子径(一次粒子径)は、250nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがさらに好ましい。平均粒子径が上記範囲内の有機顔料を用いることで、記録される画像の光学濃度、彩度、及び発色性徳の特性が向上するとともに、インクの吐出安定性及び印字品質を高めることができ、かつ、インク中の有機顔料の沈降を適度に抑制することができる。有機顔料の平均粒子径は、電子顕微鏡や動的光散乱方式に粒度分布計等を使用して測定されるメジアン径(D50)である。
【0030】
水性顔料分散液中の顔料の含有量は、5~30質量%とすることが好ましく、10~20質量%とすることがさらに好ましい。顔料の含有量が5質量%未満であると、インクの調製時に添加剤等を添加することが困難になることがある。一方、顔料の含有量が30質量%超であると、顔料粒子の自由移動が妨げられることがあり、凝集しやすくなる場合がある。
【0031】
高分子分子分散剤としては、疎水性セグメントと、メタクリル酸を含むメタクレート系モノマーに由来する親水性セグメントと、を有するブロックコポリマーを用いることが好ましい。疎水性セグメントは、水性媒体に不溶のポリマーブロックである。疎水性セグメントを構成する成分(モノマー)としては、ビニル系モノマー;脂肪族、脂環族、及び芳香族アルキル(メタ)アクリレート;水酸基やアミノ基を有するモノマー;等を挙げることができる。
【0032】
親水性セグメントは、酸基を有するモノマーに由来する構成単位を含む親水性のポリマーブロックである。酸基を有するモノマーとしては、カルボキシ基、スルホン酸基、及びリン酸基等を有するモノマーを用いることができる。カルボキシ基を有するモノマーとしては、アクリル酸、アクリル酸二量体、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、及びクロトン酸等を挙げることができる。さらに、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに、無水マレイン酸、無水コハク酸、及び無水フタル酸等を反応させたモノマーを挙げることができる。
【0033】
スルホン酸基を有するモノマーとしては、スチレンスルホン酸、ジメチルプロピルスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スルホン酸エーテル(メタ)アクリレート、スルホン酸エーテル(メタ)アクリルアミド、及びビニルスルホン酸等を挙げることができる。リン酸基を有するモノマーとしては、メタクリロイロキシエチルリン酸エステル等を挙げることができる。
【0034】
高分子分散剤の量が少なすぎると、有機顔料を覆ってカプセル化することができず、分散性を高めることが困難になることがある。一方、高分子分散剤の量が多すぎると、分散処理する原料混合物の粘度が高くなりすぎてしまい、分散処理の効率が低下しやすくなることがある。このため、水性顔料分散液中の高分子分散剤の含有量は、有機顔料100質量部に対して、5~50質量部とすることが好ましく、10~30質量部とすることがさらに好ましい。
【0035】
水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロピルアルコール、ブタノール、及びイソブタノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリン等のグリコール溶媒;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、及び3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等のグリコールエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、N-メチルピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、及び3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等のアミド系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及びジメチルカーボネート等のカーボネート系溶媒;ジメチルスルホキシド;テトラメチル尿素;ジメチルイミダゾリジノン;等を挙げることができる。
【0036】
水溶性有機溶媒は、乾燥状態の有機顔料の表面を濡らすとともに、表面の空気層を水性媒体に置換し、かつ、高分子分散剤を溶解させることで、分散処理を速やかに進行させる役割を有する。但し、水溶性有機溶媒の量が多すぎると、水性顔料分散液の粘度が過度に高くなり、得られるインクの乾燥性が低下しやすくなることがある。このため、水性顔料分散液中の水溶性有機溶媒の含有量は、有機顔料100質量部に対して、5~80質量部とすることが好ましく、10~50質量部とすることがさらに好ましい。
【0037】
ミルベース等の原料混合物を分散処理する方法としては、従来公知の方法を採用することができる。例えば、分散機を使用して原料混合物を処理することによって、有機顔料を分散させることができる。分散機としては、ニーダー、二本ロール、三本ロール、SS5(商品名、エムテクニック社製)、及びミラクルKCK(商品名、浅田鉄鋼社製)等の混練機;高速撹拌機;超音波分散機;高圧ホモジナイザー;等を挙げることができる。高速撹拌機としては、以下商品名で、TKホモミキサー、TKロボミックス、TKフィルミックス(以上、プライミクス社製);クリアミックス(エムテクニック社製);ウルトラディスパー(浅田鉄鋼社製);等を挙げることができる。高圧ホモジナイザーとしては、以下商品名で、マイクロフルイダイザー(みずほ工業社製)、ナノマイザー(吉田機械興業社製)、スターバースト(スギノマシン社製)、G-スマッシャー(リックス社製)等を挙げることができる。また、ガラスやジルコン等のビーズメディアを用いたボールミル、サンドミル、横型メディアミル分散機、及びコロイドミル等を使用することができる。ビーズミルに用いるメディアとしては、直径1mm以下のビーズメディアが好ましく、直径0.5mm以下のビーズメディアがさらに好ましい。
【0038】
ミルベース等の原料混合物を分散処理して得たものを、そのまま水性顔料分散液としてもよいし、必要に応じて粗大粒子を除去してもよい。粗大粒子を除去するには、遠心分離機、超遠心分離機、及びろ過機等を用いることができる。
【0039】
水性顔料分散液には、必要に応じて、前述の水溶性有機溶媒以外の有機溶媒、レベリング剤、表面張力調整剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、染料、フィラー、ワックス、増粘剤、消泡剤、防カビ剤、防腐剤、及び帯電防止剤等の添加剤をさらに含有させることができる。
【0040】
防腐剤としては、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール、チアベンダゾール、ソルビタン酸カリウム、ソルビタン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、チアゾスルファミド、及びピリジンチオールオキシド等を挙げることができる。水性顔料分散剤中の防腐剤の含有量は、0.05~2.0質量%とすることが好ましく、0.1~1.0質量%とすることがさらに好ましい。
【実施例0041】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0042】
<高分子分散剤の合成>
(高分子分散剤D-1)
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEGMBE)300部、2-アイオド-2-シアノプロパン(CP-1)3部、ベンジルメタクリレート(BzMA)52部、メタクリル酸(MAA)60部、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)2.5部、及びアイオドスクシンイミド(NIS)0.1部を反応容器に入れ、窒素を流しながら撹拌した。40℃に昇温して3時間重合し、親水性セグメントであるBzMA/MAAポリマーブロックを形成した。重合溶液の一部をサンプリングしてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した数平均分子量(Mn)は3,500であり、重合率は約100%であった。
【0043】
メタクリル酸シクロヘキシル(CHMA)35部、BzMA70部、メタクリル酸メチル(MMA)20部、及びAIBN0.2部の混合物を重合溶液に添加した。40℃で3時間重合して疎水性セグメントであるCHMA/BzMA/MMAポリマーブロックを形成し、A-Bブロックコポリマーである高分子分散剤D-1を得た。得られた高分子分散剤D-1のMnは7,500であり、酸価は146mgKOH/gであった。カルボキシ基を中和する量の水酸化リチウム水溶液を添加した後、撹拌しながら酢酸を滴下した。析出物を純水で洗浄した後、純水及び水酸化リチウム水溶液を添加して、淡茶色透明の高分子分散剤D-1の水溶液を得た。得られた水溶液の固形分は40%であり、pHは9.3であった。
【0044】
(高分子分散剤D-2~5)
表1に示す種類及び量の材料(モノマー)を用いたこと以外は、前述の高分子分散剤D-1と同様にして、高分子分散剤D-2~5の水溶液を得た。得られた水溶液の固形分は、いずれも40%であった。
【0045】
【0046】
<パルスNMRの測定方法>
以下に示す条件にしたがって、パルスNMRにより、混合物a、混合物b、混合物o、及び水のT2緩和時間(T2a、T2b、T2o、及びT2w)をそれぞれ測定した。なお、T2緩和時間は3回測定し、その平均値を採用した。そして、下記式(1)によりRsp値、下記式(2)によりRspo値をそれぞれ算出するとともに、Rspo値を基準とするRsp値の低下率(%)(={(Rspo-Rsp)/Rspo}×100)を算出した。
[パルスNMRの測定条件]
・測定装置:商品名「TD-NMR Spectrometer Spin Track」、Resonance Systems社製、観測核=1H
・パルス系列:CPMG(Carr-Purcell-Meiboom-Gill)法
・測定温度:30℃
・サンプル量:≦2.0mL
【0047】
Rsp=(Ra/Rb)-1 ・・・(1)
(前記式(1)中、RaはT2aの逆数を表し、RbはT2bの逆数を表す)
Rspo=(Ro/Rw)-1 ・・・(2)
(前記式(2)中、RoはT2oの逆数を表し、RwはT2wの逆数を表す)
【0048】
<水性顔料分散液の製造(1)>
(実施例1)
高分子分散剤D-1の水溶液212.5部、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(TEGMBE)52.5部、及び純水140部を混合した。純水150部を添加して混合し、混合物aを得た。得られた混合物a 2mLをサンプリングし、パルスNMRを測定してT2緩和時間(T2a)の値を得た。また、TEGMBE52.5部、及び純水502.5部を混合して、混合物bを得た。得られた混合物b 2mLをサンプリングし、パルスNMRを測定してT2緩和時間(T2b)の値を得た。そして、式(1)よりRsp値を算出した。さらに、高分子分散剤D-1の水溶液212.5部、及び純水342.5部を混合して、混合物oを得た。得られた混合物o 2mL及び純水2mLをサンプリングし、パルスNMRをそれぞれ測定してT2緩和時間(T2o及びTw)の値を得た。そして、式(2)よりRspo値を算出するとともに、算出したRsp値及びRspo値から「Rsp値の低下率(%)」を算出した。結果を表2に示す。
【0049】
高分子分散剤D-1の水溶液212.5部、TEGMBE52.5部、及び純水140部を混合した。銅フタロシアニン顔料(PB-15:3、商品名「シアニンブルーA220JC」、大日精化工業社製)150部を添加し、ディスパーを使用して30分撹拌してミルベースを調製した。横型媒体分散機(商品名「ダイノミル0.6リットルECM型」、シンマルエンタープライゼス社製、ジルコニア製ビーズの径:0.3mm)を使用し、ミルベース中に顔料を十分に分散させた。顔料の濃度が14%となるまで純水を添加して希釈した後、ポアサイズ5μmのメンブレンフィルターでろ過して、インクジェット用の水性顔料分散液S1(シアン色)を得た。粒度測定器(商品名「NICOMP 380ZLS-S」、インターナショナル・ビジネス社製)を使用して測定した分散液中の顔料の平均粒子径(メジアン径;D50(nm))を表2に示す。
【0050】
(実施例2、比較例1~3)
表2に示す種類の高分子分散剤(の水溶液)を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、インクジェット用の水性顔料分散液S2~5(シアン色)を得た。Rsp、Rsp
o、Rsp値の低下率(%)、及び分散液中の顔料の平均粒子径(nm)を表2に示す。また、「Rsp値の低下率(%)」に対して「平均粒子径(nm)」をプロットしたグラフを
図1に示す。
【0051】
<評価(1)>
(保存安定性)
調製した水性顔料分散液を70℃で1週間保存した。保存前後の水性顔料分散液中の顔料の平均粒子径、pH値、及び粘度を測定するとともに、これらの変化率(%)をそれぞれ算出し、以下に示す評価基準にしたがって水性顔料分散液の保存安定性を評価した。結果を表2に示す。
○:平均粒子径、pH値、及び粘度の変化率が、いずれも5.0%以下であった。
×:平均粒子径、pH値、及び粘度の少なくともいずれかの変化率が、5.0%以上であった。
【0052】
(再分散性)
水性顔料分散液に純水を添加して希釈し、顔料濃度3.5%の試料を調製した。ピペットを用いて調製した試料の1滴を凹スライドグラスに滴下した。試料を滴下した凹スライドグラスを恒温恒湿機(商品名「低温恒温恒湿器PL-3J」、ESPEC社製)に入れ、60℃で10時間加温して試料を乾燥させた。凹スライドグラス上の乾燥残留物に純水を滴下した後、分散する様子を顕微鏡で観察し、以下に示す評価基準にしたがって水性顔料分散液の再分散性を評価した。結果を表2に示す。
○:目視で完全に再分散した。
△:一部再分散したが、目視で見える残渣があった。なお、残渣が少なく、ほぼ分散した場合は「○△」と評価した。一方、残渣が多く、分散よりも解れた状態に近い場合は「△×」と評価した。
×:再分散しなかった。
【0053】
【0054】
<水性顔料分散液の製造(2)>
(実施例3)
高分子分散剤D-4の水溶液212.5部、DEGMBE52.5部、及び純水140部を混合した。純水150部を添加して混合し、混合物aを得た。得られた混合物a 2mLをサンプリングし、パルスNMRを測定してT2緩和時間(T2a)の値を得た。また、DEGMBE52.5部、及び純水502.5部を混合して、混合物bを得た。得られた混合物b 2mLをサンプリングし、パルスNMRを測定してT2緩和時間(T2b)の値を得た。そして、式(1)よりRsp値を算出した。さらに、高分子分散剤D-4の水溶液212.5部、及び純水342.5部を混合して、混合物oを得た。得られた混合物o 2mL及び純水2mLをサンプリングし、パルスNMRをそれぞれ測定してT2緩和時間(T2o及びTw)の値を得た。そして、式(2)よりRspo値を算出するとともに、算出したRsp値及びRspo値から「Rsp値の低下率(%)」を算出した。結果を表3に示す。
【0055】
高分子分散剤D-4の水溶液212.5部、DEGMBE52.5部、及び純水140部を混合した。銅フタロシアニン顔料(PB-15:3、商品名「シアニンブルーA220JC」、大日精化工業社製)150部を添加し、ディスパーを使用して30分撹拌してミルベースを調製した。横型媒体分散機(商品名「ダイノミル0.6リットルECM型」、シンマルエンタープライゼス社製、ジルコニア製ビーズの径:0.3mm)を使用し、ミルベース中に顔料を十分に分散させた。顔料の濃度が14%となるまで純水を添加して希釈した後、ポアサイズ5μmのメンブレンフィルターでろ過して、インクジェット用の水性顔料分散液S6(シアン色)を得た。粒度測定器(商品名「NICOMP 380ZLS-S」、インターナショナル・ビジネス社製)を使用して測定した分散液中の顔料の平均粒子径(メジアン径;D50(nm))を表3に示す。
【0056】
(実施例4~7)
表3に示す種類及び量の水溶性有機溶剤を用いたこと以外は、前述の実施例3と同様にして、インクジェット用の水性顔料分散液S7~10(シアン色)を得た。Rsp値の低下率(%)、及び分散液中の顔料の平均粒子径(nm)を表3に示す。また、「Rsp値の低下率(%)」に対して「平均粒子径(nm)」をプロットしたグラフを
図2に示す。なお、表3中の略号の意味は以下に示す通りである。
・BEG:エチレングリコールモノブチルエーテル
・PFG:プロピレングリコールモノプロピルエーテル
・BDM:ジエチレングリコールブチルメチルエーテル
・IPA:イソプロピレングリコール
・MFG:プロピレングリコールモノメチルエーテル
【0057】
(比較例4、5)
表3に示す種類及び量の水溶性有機溶剤を用いたこと以外は、前述の実施例3と同様にして、インクジェット用の水性顔料分散液S11、12を調製しようとした。しかし、分散不良により、目的とする分散液を得ることができなかった。
【0058】
(比較例6)
水溶性有機溶剤を用いなかったこと以外は、前述の実施例3と同様にして、インクジェット用の水性顔料分散液S13を調製しようとした。しかし、分散不良により、目的とする分散液を得ることができなかった。
【0059】
<評価(2)>
前述の「評価(1)」と同様の手法により、調製した水性顔料分散液の保存安定性及び再分散性を評価した。結果を表3に示す。
【0060】
本発明の評価方法は、有機顔料の分散性、保存安定性、及び再分散性に優れた水性顔料分散液を製造する際に、有機顔料の分散性が良好となる高分子分散剤と水溶性有機溶剤の好適な組み合わせを予測して評価する方法として有用である。