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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156545
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】椅子
(51)【国際特許分類】
   A47C 7/16 20060101AFI20241029BHJP
   A47C 1/023 20060101ALI20241029BHJP
   A47C 7/14 20060101ALI20241029BHJP
   A47C 7/40 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
A47C7/16
A47C1/023
A47C7/14 C
A47C7/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071109
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000139780
【氏名又は名称】株式会社イトーキ
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 友希
【テーマコード(参考)】
3B084
3B099
【Fターム(参考)】
3B084BA00
3B084EC06
3B099BA03
(57)【要約】
【課題】可動式の座板を備えたリクライニング方式の椅子において、座板を木製としてデザイン性を向上させることを、強度上の問題をもたらすことなく実現する。
【解決手段】座板2は、木材ブロックを切削して作られており、上面と下面とは曲面になっている。脚柱5の上端にベース6が固定されて、ベース6に座受け部材7が前後動可能に連結されている。座受け部材7はベース6の位置し上向き露出部を有するが、座受け部材7の上向き露出部は座板2の下面に設けたカバー部2bによって囲われている。座板2は削り出しで製造されているため、座板2の上面に、使用者の身体にフィットする三次元の曲面を容易に形成できる。座板2の基部2aのうちカバー部2bの外側の部位はクッションタイプの座に比べて相当に薄くできるため、スリム感で美感に優れている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
座板と背板とのうち少なくとも一方が木材の切削加工品であり、
前記木材の切削加工品である座板又は背板は、少なくとも使用者の身体が当たる表面が曲面に形成されて、前記表面と反対側の裏面にカバー部が一体に突設されており、前記カバー部の内側が支持部材に取り付けられている、
椅子。
【請求項2】
脚部の上端に設けたベースと、前記ベースに前後スライド自在に取り付けられた座受け部材と、前記座受け部材に固定された座板とを備えて、前記座板を前記木材の切削加工品と成しており、
前記座受け部材は、前記ベースの上にはみ出した上向き露出部を有しており、前記座板の下面に、前記座受け部材の上向き露出部を囲う前記カバー部が下向きに突出した状態で一体に形成されている、
請求項1に記載した椅子。
【請求項3】
前記座板のうち前記カバー部の外側の部位は、前記カバー部の内側の部位よりも薄く形成されている、
請求項2に記載した椅子。
【請求項4】
前記座受け部材の前後長さは前記ベースの前後長さよりも大きくなっていて、
前記座受け部材が前進する前の状態では前記座受け部材の後部が前記ベースの下方に露出して、前記座受け部材が前進した状態では前記座受け部材の前部が前記ベースの下方に露出するようになっており、
前記座受け部材の前部と後部との下面は平坦状で前記カバー部の下端と略同じ高さであり、かつ、前記座受け部材の前部及び後部と前記カバー部の下端とは、前記ベースの上面と近接している、
請求項2又は3に記載した椅子。
【請求項5】
前記座板の後部の上面及び下面は、縦断側面視において後ろに行くほど高くなるように湾曲しており、前記湾曲した後部下面のうち前記カバー部に近接した部位に、下端面を水平状の平坦面と成した台座部が一体に形成されており、前記座受け部材は前記台座部にビスで固定されている、
請求項2又は3に記載した椅子。
【請求項6】
前記ベースの内部のうち上面よりも下方の部位に、左右長手のスライドピンが前後スライド自在に摺動する前後長手のガイド溝が形成されている一方、
前記座受け部材には、前記スライドピンを保持する一対の軸受けブラケットが形成されており、前記スライドピンは一方方向から前記一対の軸受けブラケットに挿入されるようになっており、
前記座板に、前記一対の軸受けブラケットに挿入してスライドピンが他方方向に抜けるのを阻止するストッパーが取り付けられており、前記ストッパーの下端は前記カバー部の下端よりも下方に位置している、
請求項2又は3に記載した椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、座板又は背板もしくは両方を木製としている椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
椅子の構造は千差万別であって様々な基準によって分類できるが、1つの基準として、使用されている材料を基準にして、木製と非木製とに大別できる。但し、これは大まかな分類であり、実際には、全体が木材のみで構成されている場合と、木材が全く又は殆ど使用されていない場合と、骨組みは鋼管のような金属で製造して、背板と座板は木製とするといった中間品が存在する。
【0003】
いずれにしても、背板や座板が木製であると、木材の持つ質感、自然な温かみが醸し出されて、人によい印象を与えることができる。環境負荷の低減や脱炭素という要請から、天然資源である木材の利用促進の要請が存在しているともいえる。また、木製品には、汚れを拭き取りやすいといった実利的な面もある。
【0004】
上記のとおり、鋼管製の骨組みに木製の背板及び座板を固定した中間品もあるが、このような単純な構造では、フィット性に劣ると共に窮屈感が高いという問題がある。すなわち、座板を例にとると、人の臀部や大腿部は側面視でも湾曲しているが、従来の座板は合板等の板材を曲げて作られていることが多いため、正面視で湾曲した状態にしか製造できず、このため、臀部や大腿部に対するフィット性が不十分であった。また、座板は固定式であるため、人は身体を動かすことができずに窮屈であった。
【0005】
他方、背もたれが後傾動するリクライニング式の椅子では、座が背もたれの後傾動に連動して下降したり後退したりすることが多いが、本願出願人が開示した特許文献1では、使用者の押圧作用によって前進するようになっており、使用者が背もたれにもたれて上半身を後傾させると、臀部による押圧作用によって座が前進し、結果として使用者の身体は伸びるため、高い安楽状態を確保できる。
【0006】
なお、学習机といわれる児童用の木製机があり、木製の学習机とセットで使用される椅子は木製が多いが、学習机用の木製椅子において、椅子への乗り降りを容易にするため、座を脚装置に設けられた支持部材に前後動自在に装着すると共に、ばねによって前進位置に付勢することが行われている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-36949号公報
【特許文献2】特開2000-14496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
木材に対して人は本能的に好ましい印象を持っていると云えるが、強度や加工性などの点から制約が存在しており、座板や背板が動きを伴う場合は、樹脂製とすることが一般的であり、木製の座板や背板を採用することはあまり行われていない。特に、リクライニングタイプの椅子の場合は、座板や背板を木製とすることは行われていないと云える。
【0009】
他方、特許文献1には、棒足タイプのリクライニング椅子について、棒足を木製の筒状カバーで覆うことが開示されており、これは、木材を好むユーザーの要望に応える一環といえるが、更に進んで、リクライニング椅子について、座板や背板のような基幹部品の木材化についても潜在的な要望が存在していると思料される。本願発明は、このような要望に応えんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は多くの構成を含んでおり、これを各請求項で特定している。このうち請求項1の発明の椅子は、
「座板と背板とのうち少なくとも一方が木材の切削加工品であり、
前記木材の切削加工品である座板又は背板は、少なくとも使用者の身体が当たる表面が曲面に形成されて、前記表面と反対側の裏面に環状のカバー部が一体に突設されており、前記カバー部の内側が支持部材に取り付けられている」
という構成になっている。
【0011】
カバー部は、環状であってもよいし、非環状であってもよい。非環状の場合、カバー部が1つだけの場合と複数に分離している場合とを含んでいる。いずれにしても、カバー部は、裏面からの突出寸法が周方向に異なる部位において相違していてもよい。
【0012】
請求項2の発明は請求項1の展開例であり、
「脚部の上端に設けたベースと、前記ベースに前後スライド自在に取り付けられた座受け部材と、前記座受け部材に固定された座板とを備えて、前記座板を前記木材の切削加工品と成しており、
前記座受け部材は、前記ベースの上にはみ出した上向き露出部を有しており、前記座板の下面に、前記座受け部材の上向き露出部を囲う前記カバー部が下向きに突出した状態で一体に形成されている」
という構成になっている。
【0013】
請求項3の発明は請求項2の展開例であり、
「前記座板のうち前記カバー部の外側の部位は、前記カバー部の内側の部位よりも薄く形成されている」
という構成になっている。
【0014】
請求項3の発明は請求項2又は3の展開例であり、
「前記座受け部材の前後長さは前記ベースの前後長さよりも大きくなっていて、
前記座受け部材が前進する前の状態では前記座受け部材の後部が前記ベースの下方に露出して、前記座受け部材が前進した状態では前記座受け部材の前部が前記ベースの下方に露出するようになっており、
前記座受け部材の前部と後部との下面は平坦状で前記カバー部の下端と略同じ高さであり、かつ、前記座受け部材の前部及び後部と前記カバー部の下端とは、前記ベースの上面と近接している」
という構成になっている。
【0015】
請求項5の発明も請求項2又は3の展開例であり、
「前記座板の後部の上面及び下面は、縦断側面視において後ろに行くほど高くなるように湾曲しており、前記湾曲した後部下面のうち前記カバー部に近接した部位に、下端面を水平状の平坦面と成した台座部が一体に形成されており、前記座受け部材は前記台座部にビスで固定されている」
という構成になっている。
【0016】
請求項6の発明も請求項2又は3の展開例であり、
「前記ベースの内部のうち上面よりも下方の部位に、左右長手のスライドピンが前後スライド自在に摺動する前後長手のガイド溝が形成されている一方、
前記座受け部材には、前記スライドピンを保持する一対の軸受けブラケットが形成されており、前記スライドピンは一方方向から前記一対の軸受けブラケットに挿入されるようになっており、
前記座板に、前記一対の軸受けブラケットに挿入してスライドピンが他方方向に抜けるのを阻止するストッパーが取り付けられており、前記ストッパーの下端は前記カバー部の下端よりも下方に位置している」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0017】
座板について見ると、着座した状態で、人の臀部と大腿部とは、正面視で湾曲しているのみならず、既述のとおり側面視でも湾曲している。従って、座板の上面が、正面視と縦断側面視との両方において曲面になっていると、臀部及び大腿部に対するフィット性を向上できる。
【0018】
また、背板を例にとると、人の背中は丸みを帯びているため、背板が平面視で前向きに凹むように湾曲していると、フィット性が高くなって好適であるが、人が背板にもたれて上半身を後傾をさせた場合、側面視において人の背中と背板との相対姿勢が変化して、人の背中が背板の上部に当たる傾向を呈しており、このため、背板の上部が人の背中に対して突っ張った状態になる。従って、背板の前面が縦断側面視で前向き凸状に湾曲していると、もたれ掛かり時の突っ張り感を低減してフィット性を向上できる。
【0019】
他方、背板又は座板に関して、合板等の板材を材料にして、加圧して曲げ加工することによって、使用者の身体を包むように湾曲させることは従来から行われているが、座板にしても背板にしても、単純な曲げ加工しかできないため、フィット性に劣るという問題があった。すなわち、背板にしても座板にしても、板材を曲げ加工したに過ぎない場合は、木材特有の温もり感はあるものの、実際に使用すると身体への当たりが硬い、という評価になってしまいやすい。
【0020】
これに対して本願発明では、背板又は座板は、材料を切削加工して(削り出して)形成されているため、座板については、縦断平面視と縦断側面視との両方において湾曲した形態に形成できる一方、背板については、平面視と縦断側面視との両方で湾曲した形態に形成できるため、使用者へのフィット性を格段に向上できる。従って、本願発明では、背板又は座板を、木製でありながら使用者の身体への当たりを柔らかくした状態で提供できる。
【0021】
他方、座板は座受け部材やベースのような支持部材に取り付ける必要があり、背板は、支柱状やフレーム状の支持部材に取り付ける必要があるが、取り付け部が露出していると見た目が悪いのみならず、座板や背板が可動式の場合は、人か触れた状態で動いたときの指挟みのおそれがある。
【0022】
これに対して本願発明のように、取り付け部をカバー部で囲うと、取り付け部が露出することを防止して美感を向上できると共に、座板や背板が可動式の場合の指挟みの問題を防止できる。美感向上の点について付言すると、カバー部は筒状の形態で突出しているため、座板又は背板の裏面の表面積を増大させたような効果が発揮されて、木材の質感を強調できる。従って、木材の質感に起因した美感向上の効果を確実化できる。
【0023】
請求項2は座板に適用したもので、座板に一体に設けたカバー部で座受け部材を隠して美感を向上できるが、カバー部は環状で下向きに突出しているため、カバー部は外側から容易に視認できる。従って、座板が前後動して快適性に優れた椅子でありながら、木製の質感を強調して美感を向上できる。
【0024】
さて、リクライニングタイプの椅子において、座は樹脂製のインナーシェルにクッション材を張った構造(クッションタイプ)になっていることが多い。この場合、クッション材はある程度の厚さが必要であるため、座は全体としてかなり分厚い概観を呈している。従って、単にクッションタイプの座を木製に変更したに過ぎない場合は、却って美感を損なってしまい兼ねない。他方、座には下向きの荷重がかかるだけであるため、木製であっても、ある程度まで薄くすることが可能である。
【0025】
請求項3の発明はこのような木製座板の特性を利用して、カバー部の外側の部位を内側よりも薄くしたものであり、このため、座板はスリムな外観を呈して洗練された独特の雰囲気を醸している。また、座板のうちカバー部の外が穂が薄くなると、カバー部が突出した状態が目につくため、全体としての木材の質感が強調されて独特の美感を呈するに至っている。
【0026】
請求項4において、座板の前後動により、座受け部材の前部が下方に露出したり後部が下方に露出したり変化するが、座受け部材の前部と後部とは平坦状でかつカバー部の下端と略同じ高さになっていて、しかも、座受け部材の前部と後部とカバー部の下端とがベースの上面に近接しているため、人の指先が座受け部材の前部又は後部をカバー部の下端に触れた状態で座板及び座受け部材が前後動しても、指先がベースの内部に入り込むことはない。従って、指挟みを確実に防止できて安全性を確実化できる。
【0027】
在宅勤務などで椅子を幼児がいる家庭で使用することもあり、この場合、椅子は幼児にとって遊び道具にうつるため、幼児が座受け部材やカバー部に指先を当てる可能性があり得るが、このよう場合でも、指先がベースの内部に入り込むことはないため、椅子を安全に使用できる。
【0028】
座板の上面は、使用者の臀部がフィットするように上向きに凹ませることになるが、軽量化や見た目の点から、下面もできるだけ湾曲させるのが好ましい。この場合、カバー部が座板の前後中間点よりも後ろにずれていると、座板の後部ではカバー部の内部についても湾曲させるのが好ましい。請求項5の発明はこのような事情を考慮して、座板の後部下面を湾曲させつつ、下面を平坦面を成して台座部を形成して、この台座部に座受け部材をビス止めしたものであり、座板を軽量化しつつ、座受け部材を容易に取り付けできる利点がある。
【0029】
座受け部材をベースに対して前後スライドさせる機構は様々な態様を選択できるが、請求項6のようにスライドピンを使用すると、構造を簡単化できる。この場合、スライドピンは座受け部材の軸受けブラケットに横から挿入するため、スライドピンの抜け止め手段が必要であるが、例えばスナップリングのような部材を使用すると、手間が掛かる。
【0030】
これに対して請求項6のように、座板に設けたストッパーで抜け止めすると、座板を座受け部材に固定することによってスライドピンが抜け止めされるため、椅子の組み立ての作業性を向上できる。そして、ストッパーは座板に一体に形成することも可能ではあるが、この場合は,ストッパーはカバー部の下方に突出するため、材料が厚くなって無駄が発生する。この点、請求項6のようにストッパーを後つけ方式にすると、材料の無駄を無くして座板を製造しつつ、ストッパーによるスライドピンの抜け防止を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】第1実施形態の外観を示す図で、(A)は後ろ上方から見た斜視図、(B)は後ろ下方から見た斜視図、(C)は前上方から見た斜視図である。
図2】(A)は側面図、(B)は分離側面図である。
図3】(A)は座部を下方から見た斜視図、(B)は分離斜視図である。
図4】座板を省略した状態での斜視図である。
図5】座受け部材とベースとの分離斜視図である。
図6】座部の分離斜視図である。
図7】中央部の分離縦断側面図である。
図8】背板に適用した第2,3実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下では、方向を特定するため前後・左右の文言を使用するが、この方向は椅子に普通に着座した人から見た状態を基準にしている。正面視方向は、着座者と対向した方向である。まず、図1~7に示す第1実施形態(主たる実施形態)を説明する。
【0033】
(1).第1実施形態の概要
まず、図1,2を参照して椅子の概要を説明する。図1に示すように、椅子は、基本的な要素として、脚装置1と座板2と背板(背もたれ)3とを備えている。脚装置1は、複数本(5本)の枝アームを有する接地体4の中央部にガスシリンダより成る脚柱5を立設した構造であり、各アームの先端にはキャスタを設けている。従って、本実施形態は回転椅子に適用している。
【0034】
図1(B)に示すように、脚柱5の上端に、底面視(及び平面視)で略四角形のベース6が固定されている。ベース6には座受け部材7が前後スライド自在に装着されており、座受け部材7の上面に座板2が取り付けられている。ベース6は例えばアルミダイキャスト品であり、座受け部材7は例えば合成樹脂の成型品であり、座板2は木製である。
【0035】
詳細は後述するが、座受け部材7は、ばね手段によって後退位置に付勢されており、着座者が背板3にもたれて身体が伸び勝手になると、座板2及び座受け部材7は臀部で押されて前進し得る。図2(A)において、座板2が前進した状態を表示している。なお、本実施形態では、座受け部材7及び座板は、僅かながら上昇しつつ前進する。
【0036】
座板2は、人の臀部を支える基部2aと、基部2aから下向きに突出した環状のカバー部2bとを備えている。図2(B)から理解できるように、座受け部材7は、ベース6の上方に部分的に突出しているが、ベース6から突出した部分は座板2のカバー部2bで囲われている。座板2を構成する基部2aの上面は、使用者の臀部及び大腿部にフィットするように上向きに凹んでおり、従って、座板2の上面は、縦断正面と縦断側面視とで形状が変化する立体湾曲面になっている。本実施形態では、ベース6と座受け部材7とが請求項に記載した支持部材を構成している。
【0037】
椅子は、座板2よりも高い位置において着座者を後ろから囲う平面視U形の背支持フレーム8を備えている。従って、背支持フレーム8は、着座者(及び背板3)の左右側方に位置する左右のサイド部9と、着座者(及び背板3)の後ろに位置するリア部(左右長手部)10とを有しており、背板3がリア部10に後傾動自在に連結されている。背支持フレーム8のサイド部9は、座板2の左右側方に配置されたサイド支持体11に後傾動可能に連結されている。
【0038】
サイド支持体11は、例えばアルミダイキャスト品であり、上下長手で板状の支柱部12と、その上端に一体に形成された前後長手で略円形の上水平状部13とを有している。そして、例えば図2に示すように、上水平状部13に、後端部を後方に露出させたボス体(図示せず)が後傾動可能に連結されており、ボス体に、鋼管製の背支持フレーム8の前端部が後ろから嵌合して溶接等で固定されている。
【0039】
上水平状部13には後ろ向きに開口した空所が形成されており、ボス体が空所の内部において後傾動可能に連結されているととともに、空所に、ボス体の後傾動に対して抵抗を付与する弾性体が内蔵されている。
【0040】
サイド支持体11における支柱部12の下端には、座板2の下方に回り込んだ基部12aが一体に形成されており、基部12aの先端部が、ベース6に形成された係合穴15(図1(B)や図3参照)に嵌め込まれており、先端部がボルトでベース6に固定されている。
【0041】
既述のとおり、脚柱5はガスシリンダより成っており、ガスシリンダのロックを解除すると、座板2及び背板3の高さを自在に調節できる。そして、図1(C)に明示するように、右側のサイド支持体11の上水平状部13に、ガスシリンダのロックを解除するための摘み(ノブ)16が、上水平部13の軸心回りに回転させ得るように装着されている。
【0042】
例えば図1に示すように、背板3は、着座者の身体を後ろから抱持するように平面視で後ろ向きに膨れた(前向きに凹んだ)形状に湾曲しており、背支持フレーム8のリア部10は、背板3の湾曲に倣うように湾曲している。従って、前面(表面)も後面(裏面)も湾曲面になっている。図2に明示するように、背支持フレーム8のリア部10と背板3との間には、ある程度の間隔Eの隙間が空いている。また、背支持フレーム8は、全体として水平姿勢になっている。
【0043】
背板3は、後面のうち下寄りの左右箇所の部位が、金具装置を介して背支持フレーム8のリア部10に後傾動可能に連結されている。金具装置はカバー17及びキャップ18で覆われている。カバー17は木製でキャップ18は樹脂製であるが、カバー17とキャップ18とを樹脂製として一体化することも可能である。
【0044】
図2(A)に一点鎖線で示すように、着座者が背板3にもたれ掛かると、まず、背支持フレーム8がサイド支持体11の上水平状部13に対して後傾することにより、第1段階のリクライニング(ロッキング)が行われる。また、背板3は、その下寄り部位が背支持フレーム8のリア部10に連結されているため、使用者が上半身を後ろに反らせると、背板3にはモーメントが作用して、背支持フレーム8のリア部10に対して後傾動し、第2段階のリクライニングが行われる。
【0045】
従って、背支持フレーム8の回動角度及び背板3の回動角度がさほど大きくなくても、全体としての後傾角度を大きくできる。このこめ、簡易な構造でありながら、着座者に高い安楽性を付与できる。また、リクライニングすると人の身体は伸び勝手になるが、既述のとおり、使用者がリクライニングすると、臀部によって座板2が押されて前進することにより、身体の伸びが許容される。このような背板3の後傾動と座板2の前進動との複合した動きにより、リクライニング状態での窮屈感をなくして安楽性を更に向上できる。
【0046】
(2).座部の詳細
次に、図3~7を参照して座部の構造を説明する。例えば図5に示すように、ベース6は、平面視略四角形で上向きに開口した浅いトレー状の形態を成している。ベース6の略中央部に、脚柱5(正確には、脚柱5を構成するガスシリンダの内筒)の上端部が下方から嵌着するボス穴20が空いている。ボス穴20の高さを稼ぐため、ベース6には下向きの筒部6a(図7参照)が形成されている。
【0047】
例えば図5に示すように、脚柱5の上端にはロック解除用のプッシュバルブ21が突設されており、ベース6には、プッシュバルブ21を押すロック解除装置22が配置されており、既述のノブ16の回転操作によってプッシュバルブ21が押されるが、本願発明との関係はないので、ロック解除装置22の説明は省略する。
【0048】
図5に示すように、座受け部材7は板状の形態を成していて、中央部には四角形の開口部23が形成さている。従って、座受け部材7は四角形の枠状に形成さており、上面には、縦横に延びる多数の補強リブ7cが形成されている。図6に示すように、座受け部材7と座板2とは、後ろの1箇所と前の2カ所において、ビス25で固定されている。ビス25は、座板2に嵌着した鬼目ナット26にねじ込まれている。
【0049】
図4,5から理解できるように、座受け部材7の前部には、座板を支えるコイルばね27が配置されており、コイルばね27は座受け部材7に設けた円形の受け座28にずれ不能に嵌まっている。他方、図6に示すように、座板2のうちカバー部2bで囲われて部位の前部には平坦状の凹所2cが形成されており、コイルばね27は凹所2cで支持されている。なお、本実施形態では、コイルばね27は機能しておらず、不要である。
【0050】
図2(A)は人が着座していない状態を表示しており、この状態で、カバー部2bの下端とベース6の状態との間に若干の隙間が空いている。なお、人が着座すると、座板2がコイルばね27に抗して僅かに下降する構成も採用可能であるが、本実施形態では、座板2は座受け部材7に固定されているため、座板2は下降しない。
【0051】
既に述べたように、座受け部材7は、ベース6に対して前後スライド自在に装着されている。そこで、スライド手段として、まず、例えば図5に示すように、座受け部材7の前部の左右両側部に、前後長手で上下に貫通した長穴29を形成して、この長穴29に挿通した角形のガイド体30をベース6に固定している。ガイド体30には、座受け部材7を上向き離反不能に保持するフランジ30aが形成されており、ビス31によってベース6に固定されている。従って、ベース6には、ガイド体30をずれ不能に保持する受け部32が形成されて、受け部32にタップ穴を設けている。
【0052】
更に、例えば図3(B)に示すように、座受け部材7の後部の左右2か所に、左右一対ずつの軸受片33を下向きに突設している一方、図5,7に示すように、ベース6には、一対の軸受片33で挟まれる前後長手の支持リブ34を形成して、支持リブ34に前後長手のガイド穴35を形成しており、一対の軸受片33とガイド穴35とに、左右長手のスライドピン36がブッシュ35aを介して開口部23の側から挿通されている。従って、座受け部材7の後部が、ベース6に対して前後スライド自在に連結されている。
【0053】
スライドピン36の上下両面は、平坦に形成されている。また、スライドピン36のうち開口部23に向いた側にはフランジ36aが形成されており、フランジ36aの内側にストッパー板37を近接又は当接させて配置することにより、スライドピン36を抜け不能に保持している。図6に示すように、板状のストッパー37は、座板2の下面に形成された係合穴38に圧入されている。
【0054】
図7に明示するように、ベース6のガイド穴35はベース6の上面よりも下に位置している一方、座板2におけるカバー部2bの下端はベース6の上面よりも僅かに上に位置している(近接している。)。従って、ストッパー37は、図2(B)に明示するように、カバー部2bの下方に突出している。ストッパー37は木製でもよいし、樹脂製又は金属製でもよい。ストッパー37としてボルトを使用することも可能である。
【0055】
図に示すように、ベース6の前部に、上向きに開口した左右一対のコロ受け凹所40が形成されて、コロ受け凹所40に、軸心を左右長手としたコロ41が回転自在に配置されており、左右のコロ41によって座受け部材7が支持されている。座受け部材7の下面に形成した凹所42(図3(B)参照)に、コロ41に上から当接する金属製等の補強板43(図5参照)が装着されて、補強板43はビス44で座受け部材7に固定されている。
【0056】
図7から理解できるように、ベース6に設けたガイド穴35と座受け部材7に設けた補強板43とは、手前に向けて高くなるように、水平面に対して若干の角度で傾斜している。従って、既述のとおり、座板2及び座受け部材7は、僅かながら上昇しつつ前進する。
【0057】
図4,5に示すように、ベース6のうち前寄りの部位に、座受け部材7の前進動に対して弾性的な抵抗を付与する弾性体として、前後長手のばね(圧縮コイルばね)45が配置されている。ばね45は、ベース6に形成されたばね凹所46に配置されており、前端は、図5のとおり、凹所46に設けたフロントばね受け部47でずれ不能に支持されて、後端は、図3(B)のとおり、座受け部材7に設けたリアばね受け48でずれ不能に支持されている。リアばね受け48は、座受け部材7の開口部23を横切るように配置されている。
【0058】
図6からよく理解できるが、座受け部材7は基本的には平板の状態になっており、前部7aと後部7bとの下面は平坦面になっている。そして、座受け部材7の全体が、座板2のカバー部2bで囲われており、図3(A)に示すように、座受け部材7の下面とカバー部2bの下端面とは殆ど同一面を成している。
【0059】
そして、図2(A)に示すように、カバー部2bの前後長さはベース6の前後長さよりも大きくて、座板2及び座受け部材7が前進していない状態で、カバー部2bの前端はベース6の前端とはほぼ同じ位置にある一方、座受け部材7の後端とベース6の後端との間には、ある程度の寸法の間隔が空いている。
【0060】
そして、図7に示すように、座受け部材7及び座板2の前後動ストロークをS1とすると、座板2が前進していない状態で、ベース6の前端から座受け部材7の前部7aの後端までの距離S2はS1とほぼ同じで、ベース6の後端からカバー部2bの後端までの距離S3はS1よりも僅かに大きくなっている。
【0061】
従って、座板2が前後動しても、ベース6の前部と後部とは座受け部材7及びカバー部2bで塞がれたままであり、人が指先を座受け部材7の下面に当てても、指先がベース6の内部に座受け部材7の開口部23に入り込むことはない。
【0062】
図7から把握できるが、座板2の上面は、人の臀部を包むように、縦断正面視及び縦断側面視で上向きに凹むように湾曲している。また、人の大腿部に対する突き上げがないように、基部2aの前部は下向きに曲がるように(上向き凸となるように)湾曲している(従って、座板2の上面は、縦断側面視で緩いS字カーブを描いている。)。
【0063】
そして、基部2aのうちカバー部2bの外側の部位の下面は、上面に倣った形状になっていて、座受け部材7の外周面と滑らかに連続している。従って、座板2における基部2aのうちカバー部2bの外側の部位はほぼ等厚になっているが、その厚さは、カバー部2bで囲われた部位の大部分の厚さよりも厚くなっている。
【0064】
座板2に対する荷重は、基部2aのうち殆どカバー部2bで囲われて部位に集中するので、カバー部2bの外側の部位(張り出し部)の厚さT1は、クッションタイプの座の厚さに比べて遥かに小さい寸法で足りる。
【0065】
人が着座した状態で、臀部は座板2の後ろ寄りに位置するため、座板2の上面の凹所の最深部は座板2の前後中間点よりも後ろに位置している。このため、図7に示すように、座板2その後部において大きく湾曲しており、その結果、下面はカバー部2bの囲われた部位でも湾曲している(図6も参照)。他方、座受け部材7の後部7bは、基本的に等厚の板状になっている。
【0066】
そこで、座板2の後部下面のうち、カバー部2bの内側でかつ左右中間部に、下面を水平面となした台座部49を一体に形成して、台座部49の箇所に鬼目ナット26を嵌着している。従って、鬼目ナット26を正確に装着できる。座受け部材7の後部に配置したビス25はベース6の上方を移動するので、座受け部材7の後部7bには、ビス25の頭が入り込むザグリ穴50を空けている。
【0067】
例えば図7から理解できるように、ベース6の後端にボス部51を設けて、ボス部51の前面に弾性体製のクッション材52を装着している一方、座受け部材7の後部7bには、クッション材52に当たるストッパーリブ53を下向きに突設している。従って、座板2及び座受け部材7がばね45によって後退したときに、衝撃はクッション材52で吸収される。
【0068】
(3).まとめ
本実施形態では、座板2は木製であるため、木材の持つ温かみが醸しだされており、リクライニングタイプの椅子でありながら、従来にない美感を呈している。特に、カバー部2bの外側の部位はクッションタイプの座に比べて遥かに薄いため、スリム感のある独特の美感を呈している。また、カバー機能を果たすカバー部2bが下向きに突出しているが、座板2の露出部が薄いことと相まってカバー部2bは非常に人目につく状態になっていることから、従来の木製の座板2では実現できなかった高いデザイン性を発揮している。
【0069】
また、座板2は、図2(A)に二点鎖線で示す木材ブロック54を切削加工して製造されるが、切削加工であるため、上面と下面とが複雑な形状であっても容易に加工できる。すなわち、上面と下面とを三次元曲面に容易に加工できる。外周部には丸みを持たせているが、このような縁加工も容易である。また、曲げ加工の場合のような毛羽立ちの問題はなくて、肌触りもよい。
【0070】
座受け部材7はカバー部2bの内部に格納されているため、カバー部2bを座板2のガイド部材に利用して、座板2をコイルばね27に抗して下降させることも可能である。スライドピン36を抜け止めするストッパー37は座板2に一体に形成することも可能ではあるが、ストッパー37はカバー部2bの下方に突出しているため、この場合は、木材ブロック54が過剰に厚くなって材料費が嵩む問題がある。これに対して、本実施形態のようにストッパー37を別体に作って座板2に取り付けると、材料の無駄を極力防止できる。この場合、実施形態のようにストッパー37を座板2に圧入すると、取り付けを簡単に行える利点がある。
【0071】
座板2の後部下面のカバー部2bの内側においても湾曲させて、この湾曲面に台座部49を形成すると、座板2を軽量化しつつ、座板2と座受け部材7との取り付けを正確に行える利点がある。
【0072】
(4).他の実施形態・その他
図8では、背板3に適用した別例を表示している。このうち図8(A)に示す第2実施形態では、背板3の背面に、後ろ向きに開口した左右横長のカバー部3bを一体に形成している。背板3の基部2aは、ほぼ等厚で平面視で前向きに凹むように湾曲している。縦断正面視で前向き凸の状態に湾曲させることも可能である。
【0073】
図では、カバー部2bだけを表示して背支柱などの支持部材は表示していないが、背支柱又は背支持フレームに、カバー部2bの内部に入り込む支持機構部を設けている。支持機構部として、背板3に固定されたブラケットと、背支柱又は背支持フレームに固定されたブラケットとを設けて、2つのブラケットを左右長手のピンで連結することにより、背板3が背支柱又は背支持フレームに対して後傾するように構成すると共に、2つのブラケットの間に弾性体を配置することも可能である。
【0074】
図8(B)に示す第3実施形態では、カバー部2bは下向きに開口した形態に形成されている。この場合も、背支柱又は背支持フレームに設けた支持機構部がカバー部2bの内部に入り込む。背板3は,背支柱又は背支持フレームに対して固定されていてもよいし、後傾動可能に連結されていてもよい。
【0075】
本願発明は、上記の各実施形態の他に様々に具体化できる。例えば、座板にしても背板にしても、複数のカバー部を設けることが可能である。図8(A)のように背板の背面に後ろ向きに開口したカバー部を設ける場合、木製の蓋(カバー)でカバー部を塞ぐことも可能である。
【0076】
座板に具体化する場合、座板をベースや中間部座などに後傾動可能に連結して、その連結部をカバー部で囲うことも可能である。また、本願発明は、座板が背もたれの後傾動に連動して下降動又は後傾動するシンクロタイプの椅子の座板にも適用できる。敢えて述べることでもないが、本願発明は、特許文献1に開示した棒足タイプの椅子(非昇降式椅子)にも適用できる。
【0077】
実施形態ではカバー部を環状に形成してが、カバー部を1つのみとしてU字形やコ字形に形成したり、U字形やコ字形の2つのカバー部を対向して配置するなどの非環状の形態も採用できる。環状・非環状に関係なく、カバー部に、例えばレバー露出用等の切り欠きや貫通穴を形成することも可能である。
【0078】
また、実施形態では、カバー部の先端面は全体が1つの仮想平面に重なるように先端面を揃えているが、先端面の高さを異ならせることも可能である(先端面の高さを波うったように異ならせたデザインも採用可能である。)。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本願発明は、椅子に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0080】
1 脚装置
2 座板
2a 座板の基部
2b 座板のカバー部
3 背もたれ
5 脚柱
6 支持部材を構成するベース
7 支持部材を構成する座受け部材
23 座受け部材の開口部
29 前後スライドのための長穴
30 ガイド体
33 軸受片
34 支持リブ
35 ガイド穴
36 スライドピン
37 ストッパー
45 ばね
49 台座部
54 材料になる木材ブロック
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8