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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156546
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】椅子
(51)【国際特許分類】
   A47C 7/40 20060101AFI20241029BHJP
   A47C 7/16 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
A47C7/40
A47C7/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071110
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000139780
【氏名又は名称】株式会社イトーキ
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 友希
【テーマコード(参考)】
3B084
【Fターム(参考)】
3B084EA02
3B084EC06
(57)【要約】
【課題】リクライニング方式の椅子において、背板や座板を木製としてデザイン性を向上させることを、強度上の問題をもたらすことなく実現する。
【解決手段】例えば背板3は、木材ブロック40を切削することによって作られており、前面と後面とは曲面になっている。後面に台座部17が一体に形成されて、台座部17が金具装置18を介して背支持フレーム8のリア部10に後傾動可能に取り付けられている。背板3のうち台座部17の箇所は厚くなっているため、背板3にモーメントが作用しても必要な支持強度を確保できる。背板3は削り出しで製造されているため、台座部17を備えた状態に容易に製造できる。また、切削加工品であるため、毛羽立ちはなくて綺麗であると共に、平面視と縦断側面視との両方で湾曲させることができるため、フィット性も向上できる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
背板と座板とのうち少なくとも一方が木材の切削加工品であり、
前記木材の切削加工品である背板又は座板は、使用者の身体が当たる表面とその反対側の裏面とが曲面に形成されて、前記裏面に、支持部材に取り付く台座部が一体に突設されている、
椅子。
【請求項2】
前記台座部は前記裏面の複数箇所に配置されており、前記各台座部の先端面は延長面が同一の平坦面を成すように形成されて、前記先端面に前記支持部材が固定されている、
請求項1に記載した椅子。
【請求項3】
前記背板を木製となしており、
前記台座部は前記背板のうち下寄り部位に配置されている一方、
前記支持部材は、前記背板の後ろに配置された左右長手の背支持フレームと、前記背板を前記背支持フレームに取り付ける金具装置とを有しており、
前記金具装置は、前記台座部に固定された第1ブラケットと、前記背支持フレームの左右長手部に固定された第2ブラケットとを有して、前記第1ブラケットは、弾性体に抗して後傾するように前記第2ブラケットに連結されている、
請求項1又は2に記載した椅子。
【請求項4】
前記台座部の先端面は平坦面になっており、前記裏面から平坦面までの突出寸法が、前記裏面の湾曲形状又は姿勢に起因して周方向に相違している、
請求項1に記載した椅子。
【請求項5】
前記金具装置は木製又は樹脂製のカバーで覆われている、
請求項3に記載した椅子。
【請求項6】
前記第2ブラケットに設けた後ろ向き嵌合部材と前記背支持フレームに設けた前向き嵌合部材とが互いに嵌まり合うことにより、前記背板が前記背支持フレームで支持されていると共に、前記両嵌合部材は前記カバーの一部で囲われており、前記カバーと両嵌合部材とがビスで共締めされている、
請求項5に記載した椅子。
【請求項7】
前記第1ブラケットは、前記台座部の後面に重なる垂直部と、前記台座部の下面に重なる水平部とを有しており、前記垂直部と水平部とがそれぞれビスで前記台座部に固定されている、
請求項3に記載した椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、背板又は座板もしくは両方を木製としている椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
椅子の構造は千差万別であって様々な基準によって分類できるが、1つの基準として、背もたれがリクライニング機能を有するか否かで分類できる。パイプ椅子と呼ばれる簡単な構造の椅子の場合は、リクライニング機能を備えていないことが多い。リクライニング機能付きの椅子でも、背もたれの後傾の程度や後傾させるメカニズムは様々である。
【0003】
リクライニング椅子の例として、本願出願人は、特許文献1を開示した。特許文献1では、座の左右外側に立設したサイド支持体(支柱)の上端に、使用者を左右及び後部から囲う半円状の上支持フレーム(背支持フレーム)を後傾動可能に連結されており、更に、上支持フレームに背もたれが後傾動可能に連結されている。
【0004】
従って、特許文献1では、背もたれは2段階に後傾するが、2段階の後傾であることにより、弾性体などを含む後傾機構部をコンパクト化しつつ、背もたれ全体としての後傾角度をできるだけ大きくすることができる。従って、シンプルな外観を呈しつつ、使用者に高い満足度を与えることができる。
【0005】
更に、特許文献1では、座がばね手段に抗して前進するようになっており、使用者が背もたれにもたれ掛かってリクライニングすると、座が使用者の臀部で押されて前進するため、使用者は身体を伸ばした状態でリクライニングする。従って、シンプルでありながら高機能の椅子として高い評価を得ている。
【0006】
他方、椅子に関する他の分類基準として、材料の種類による分類がある。材料による分類として、木製とその他とに大別される。木製の椅子は人類の歴史と共にあり、グレードも多岐にわたっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-36949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
椅子は、機能や用途、デザイン、価格、好みなどの様々な要素によって購入されるが、木製の椅子に対する購入動機の大きな要素として、木材の持つ質感、自然な温かみに対する好みがある。また、環境負荷の低減や脱炭素という要請から、天然資源である木材の利用促進の要請が存在しているともいえる。
【0009】
他方、木材には強度や加工性の制約があるため、簡易な構造のパイプ椅子において、金属製の骨組みに木製の背板や座板を使用することは行われているが、リクライニングタイプのような複雑な構造の椅子においては、荷重がかかる座板や背もたれに木材を使用することは成されていない。
【0010】
さて、特許文献1には、棒足タイプのリクライニング椅子について、棒足を木製の筒状カバーで覆うことが開示されており、これは、ユーザーの木材指向に応える一環といえるが、本願発明は、更に、ユーザーの木材指向に応えて、強度メンバーである背板に木材を使用しつつ機能性にも優れた椅子を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は多くの構成を含んでおり、これを各請求項で特定している。このうち請求項1の発明の椅子は、
「背板と座板とのうち少なくとも一方が木材の切削加工品であり、
前記木材の切削加工品である背板又は座板は、使用者の身体が当たる表面とその反対側の裏面とが曲面に形成されて、前記裏面に、支持部材に取り付く台座部が一体に突設されている」
という構成になっている。
【0012】
請求項2の発明は請求項1の展開例であり、
「前記台座部は前記裏面の複数箇所に配置されており、前記各台座部の先端面は延長面が同一の平坦面を成すように形成されて、前記先端面に前記支持部材が固定されている」
という構成になっている。
【0013】
請求項3では、請求項1又は2を背もたれに展開している。すなわち、請求項3の発明は、請求項1又は2において、
「前記背板を木製となしており、
前記台座部は前記背板のうち下寄り部位に配置されている一方、
前記支持部材は、前記背板の後ろに配置された左右長手の背支持フレームと、前記背板を前記背支持フレームに取り付ける金具装置とを有しており、
前記金具装置は、前記台座部に固定された第1ブラケットと、前記背フレームの左右長手部に固定された第2ブラケットとを有して、前記第1ブラケットは、弾性体に抗して後傾するように前記第2ブラケットに連結されている」
という構成になっている。
【0014】
請求項4の発明は請求項1の展開例であり、
「前記台座部の先端面は平坦面になっており、前記裏面から平坦面までの突出寸法が、前記裏面の湾曲形状又は姿勢に起因して周方向に相違している」
という構成になっている。
【0015】
背もたれ(背板)に関しては、バックビューも重要になる。そこで、請求項5では、請求項3の好適な展開例として、
「前記金具装置は木製又は樹脂製のカバーで覆われている」
という構成になっている。
【0016】
請求項6は請求項5の展開例であり、
「前記第2ブラケットに設けた後ろ向き嵌合部材と前記背支持フレームに設けた前向き嵌合部材とが互いに嵌まり合うことにより、前記背板が前記背支持フレームで支持されていると共に、前記両嵌合部材は前記カバーの一部で囲われており、前記カバーと両嵌合部材とがビスで共締めされている」
という構成になっている。
【0017】
請求項7の発明は請求項3の展開例であり、
「前記第1ブラケットは、前記台座部の後面に重なる垂直部と、前記台座部の下面に重なる水平部とを有しており、前記垂直部と水平部とがそれぞれビスで前記台座部に固定されている」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0018】
例えば背板を例にとると、人の背中は丸みを帯びているため、背板が平面視で前向きに凹むように湾曲していると、フィット性が高くなって好適である。他方、人が背板にもたれて上半身を後傾をさせた場合、側面視において人の背中と背板との相対姿勢が変化して、人の背中が背板の上部に当たる傾向を呈しており、このため、背板の上部が人の背中に対して突っ張った状態になる。従って、背板の前面が縦断側面視で前向き凸状に湾曲していると、もたれ掛かり時の突っ張り感を低減してフィット性を向上できる。
【0019】
他方、背板又は座板に関して、合板等の板材を材料にして、加圧して曲げ加工することによって、使用者の身体を包むように湾曲させることは従来から行われているが、背板を例にとると、背板は平面視で前向きに凹むように湾曲させることしかできないため、もたれ掛かりに際しての背板の上部による突っ張り感の低減は実現できず、このため、フィット性に劣るという問題があった。
【0020】
座板も同様であり、座板に関しては、縦断正面視で上向きに凹むように湾曲していると共に、縦断側面視においても、臀部や大腿部に倣った形状に湾曲しているのか好ましいが、板材を曲げただけの木製座板では、縦断正面視において湾曲させられるだけで、縦断側面視において湾曲した形状には形成できないため、身体とのフィット性が劣るという問題がある。すなわち、背板にしても座板にしても、板材を曲げ加工したに過ぎない場合は、木材特有の温もり感はあるものの、実際に使用すると身体への当たりが硬い、という評価になってしまいやすい。
【0021】
これに対して本願発明では、背板又は座板は、材料を切削加工して(削り出して)形成されているため、背板については、平面視と縦断側面視との両方で湾曲した形態に形成できる一方、座板については、縦断平面視と縦断側面視との両方において湾曲した形態に形成できて、使用者へのフィット性を格段に向上できる。従って、本願発明では、背板又は座板を、木製でありながら使用者の身体への当たりを柔らかくした状態で提供できる。
【0022】
さて、木材の特性として、金属や合成樹脂に比べて強度が低いという問題がある。このため、例えば木製の背板について見ると、等厚の板材を材料として使用しつつ、着座者の押圧力(背もたれ荷重)が単純な後ろ向きの荷重として作用するように、左右の背支柱に背板の両端を固定したり、背支柱に前から重ねてビスで固定したりしており、このため、機能的に劣っていた。
【0023】
また、木製背板の取り付け強度を担保する手段として、広い面積の金属製補強板を背面に固定して、補強板を介して背支持フレームなどに取り付けることも考えられるが、この場合はバックビューにおいて補強板が目立つため、背板を木製にした意味が低減してしまう。
【0024】
これに対して、本願発明のように背板や座板の裏面に台座部を設けてこれを支持部材に取り付けると、台座部の厚さが厚くなっていることにより、補強板を使用することなく取り付け強度を向上できる。従って、背板のようにバックビューが問題になる場合であっても、木材の露出面積をできるだけ大きくしつつ、強度を確保できる。また、台座部に荷重が集中しても高い強度を保持できるため、台座部の配置位置の自由性も高くなるため、デザインの自由性も向上できる。
【0025】
背板や座板の支持安定性の点からは、複数の台座部を設けて、ある程度の支持スパンを確保するのが好ましいが、このように複数の台座部を設けた場合、請求項2のように、各台座部の先端面が仮想同一面を成すように形成すると、各台座部の先端面は、例えばフライス盤やルータマシンのような加工機を使用して高い寸法精度に容易に形成できる。また、支持部材の構造も簡単化できる。
【0026】
請求項3の発明では、特許文献1のように背板が背支持フレームに対して相対的に後傾動するため、木製の背板でありながら、使用者の快適性を向上できる。すなわち、機能性が高いリクライニング式の椅子でありながら、木製の背板を強度上の問題をもたらすことなく適用できる。特許文献1のように背支持フレームが後傾すると、背板の後傾角度を大きくできるため、使用者の快適性を更に向上できる。
【0027】
台座部の先端面は、金具などの固定の容易性ため平坦面に形成するのが好ましく、背板を例にとると、台座部の後端面は左右に長い平坦面の鉛直面であると、金具などの取り付けが容易である。そして、請求項4の構成を採用すると、背板の後面が、平面視で湾曲したり側面視で後傾又は湾曲したりしていても、台座部の後端面を金具などを取り付けやすい平坦面に形成できるため、現実性に優れている。
【0028】
請求項3との関連で述べると、背板の回動支点が下寄りに位置していることにより、使用者が背板にもたれ掛かると背板にモーメントが発生して背板は後傾動するが、背板に左右したモーメントは、回動軸心よりも上では台座部を第1ブラケットに押し付けるように作用して、回動軸心よりも下では台座部を第1ブラケットから引き離すように作用する。従って、特に、台座部の引き離し作用に対する強度が問題なるが、請求項4を適用して、台座部を下に向けて厚くなるように形成すると、引き離しに対する抵抗を増大して、強度向上効果を助長できる。
【0029】
請求項5のように、金具装置をカバーで覆うと、バックビューにおいて体裁がよい。この場合、カバーを木製として背板と同様の外観に形成すると、全体が統一されていて好適である。他方、カバーを合成樹脂製とすることも可能であり、この場合は、コンパクト化できる利点がある。
【0030】
カバーはがたつかないように保持される必要があるが、請求項6のように、カバーと2つの嵌合部材とを共締めすると、締結構造を簡単化できる。
【0031】
既述のように、背板に対する回動モーメントが、台座部のうち回動軸心よりも下方の部位を第1ブラケットから引き離すように作用するが、請求項7の構成を採用すると、第1ブラケットは台座部の下面に対してもビスで固定されため、引き離しに対する抵抗を更に増大できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】第1実施形態の外観を示す図で、(A)は後ろ上方から見た斜視図、(B)は後ろ下方から見た斜視図、(C)は前上方から見た斜視図である。
図2】第1実施形態を示す図で、(A)は一部分離側面図、(B)は分離斜視図である。
図3】第1実施形態の分離斜視図である。
図4】第1実施形態の中央部分の縦断側面図である。
図5】第1実施形態を示す図で、(A)は支持機構部の分離斜視図、(B)は背板とカバーとの分離斜視図、(C)は背板の底面図である。
図6】第2実施形態の外観を示す図で、(A)は後ろ下方から見た斜視図、(B)は後ろ上方から見た斜視図である。
図7】第2実施形態の支持機構部を示す図で、(A)は後ろ上方から見た分離斜視図、(B)は後ろ下方から見た分離斜視図である。
図8】(A)は第2実施形態の支持機構部を前から見た分離斜視図、(B)は第2実施形態の中央部の縦断側面図である。
図9】第3~第5実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下では、方向を特定するため前後・左右の文言を使用するが、この方向は椅子に普通に着座した人から見た状態を基準にしている。正面視方向は、着座者と対向した方向である。まず、図1~5に示す第1実施形態を説明する。
【0034】
(1).第1実施形態の概要
まず、図1~3を参照して椅子の概要を説明する。図1に示すように、椅子は、基本的な要素として、脚装置1と座板2と背板(背もたれ)3とを備えている。脚装置1は、複数本(5本)の枝アームを有する接地体4の中央部にガスシリンダより成る脚柱5を立設した構造であり、各アームの先端にはキャスタを設けている。従って、本実施形態は回転椅子に適用している。
【0035】
図1(B)に示すように、脚柱5の上端に、底面視(及び平面視)で略四角形のベース6が固定されている。ベース6には座受け部材7が前後スライド自在に装着されており、座受け部材7の上面に座板2が取り付けられている。ベース6は例えばアルミダイキャスト品であり、座受け部材7は例えば合成樹脂の成型品であり、座板2は木製である。
【0036】
本願との関係は薄いので詳細は省略するが、座受け部材7は、ばね手段によって後退位置に付勢されており、着座者が背板3にもたれて身体が伸び勝手になると、座板2及び座受け部材7は臀部で押されて前進し得る。図2(A)において、座板が前進した状態を表示している。なお、本実施形態では、座受け部材7及び座板は、僅かながら上昇しつつ前進する。
【0037】
座板2は、人の臀部を支える本体部2aと、本体部2aから下向きに突出した枠状のカバー部2bとを備えている。座受け部材7は、ベース6の上方に部分的に突出しているが、ベース6から突出した部分はカバー部2bで囲われている。座板2を構成する本体部2aの上面は、使用者の臀部及び大腿部にフィットするように上向きに凹んでおり、従って、座板2の上面は、縦断正面と縦断側面視とで形状が変化する立体湾曲面になっている。
【0038】
椅子は、請求項に記載した支持部材として、座板2よりも高い位置において着座者を後ろから囲う平面視U形の背支持フレーム8を備えている。従って、背支持フレーム8は、着座者(及び背板3)の左右側方に位置する左右のサイド部9と、着座者(及び背板3)の後ろに位置するリア部(左右長手部)10とを有しており、背板3がリア部10に後傾動自在に連結されている。背支持フレーム8のサイド部9は、座板2の左右側方に配置されたサイド支持体11に後傾動可能に連結されている。
【0039】
サイド支持体11は、例えばアルミダイキャスト品であり、上下長手で板状の支柱部12と、その上端に一体に形成された前後長手で略円形の上水平状部13とを有している。そして、例えば図2に示すように、上水平状部13に、後端部を後方に露出させたボス体14が後傾動可能に連結されており、ボス体14に、鋼管製の背支持フレーム8の前端部が後ろから嵌合して溶接等で固定されている。
【0040】
上水平状部13には後ろ向きに開口した空所が形成されており、ボス体14が空所の内部において後傾動可能に連結されていると共に、空所に、ボス体14の後傾動に対して抵抗を付与する弾性体が内蔵されている。
【0041】
サイド支持体11における支柱部12の下端には、座板2の下方に回り込んだ基部12aが一体に形成されており、基部12aの先端部が、ベース6に形成された係合穴15(図1(B)や図3参照)に嵌め込まれており、先端部がボルトでベース6に固定されている。
【0042】
既述のとおり、脚柱5はガスシリンダより成っており、ガスシリンダのロックを解除すると、座板2及び背板3の高さを自在に調節できる。そして、図1(C)に明示するように、右側のサイド支持体11の上水平状部13に、ガスシリンダのロックを解除するための摘み(ノブ)16が、上水平状部13の軸心回りに回転させ得るように装着されている。
【0043】
例えば図1に示すように、背板3は、着座者の身体を後ろから抱持するように平面視で後ろ向きに膨れた(前向きに凹んだ)形状に湾曲しており、背支持フレーム8のリア部10は、背板3の湾曲に倣うように湾曲している。従って、前面(表面)も後面(裏面)も湾曲面になっている。図2に明示するように、背支持フレーム8のリア部10と背板3との間には、ある程度の間隔の隙間が空いている。また、背支持フレーム8は、全体として水平姿勢になっている。
【0044】
図2(A)に一点鎖線で示すように、着座者が背板3にもたれ掛かると、まず、背支持フレーム8がサイド支持体11の上水平状部13に対して後傾することにより、第1段階のリクライニング(ロッキング)が行われる。また、背板3は、その下寄り部位が背支持フレーム8のリア部10に連結されているため、使用者が上半身を後ろに反らせると、背板3にはモーメントが作用して、背支持フレーム8のリア部10に対して後傾動し、第2段階のリクライニングが行われる(背板3は回動すると下端は前進するので、正確には、背板3は、背支持フレーム8のリア部10を支点にして前後方向に回動する。)。
【0045】
従って、背支持フレーム8の回動角度及び背板3の回動角度がさほど大きくなくても、全体としての後傾角度を大きくできる。従って、簡易な構造でありながら、着座者に高い安楽性を付与できる。また、リクライニングすると人Mの身体は伸び勝手になるが、既述のとおり、使用者がリクライニングすると、臀部によって座板2が押されて前進することにより、身体の伸びが許容される。このような背板3の後傾動と座板2の前進動との複合した動きにより、リクライニング状態での窮屈感をなくして安楽性を更に向上できる。
【0046】
(2).背支持フレームに対する後傾動機構
次に、背支持フレーム8のリア部10に対する背板3の連結構造を、主として図3~5を参照して説明する。
【0047】
背板3は、集成材やムクの木材からなっており、全体的には等厚で、正面視では、丸みを帯びた横長長方形の形態を成して、平面視で前向きに凹んだ状態に湾曲しており、人Mがもたれていないフリー状態(基準状態)で、鉛直線に対して10°程度後傾している。
【0048】
そして、背板3の後面のうち左右両端寄りでかつ下寄りに位置した2カ所の部位に、後ろ向きに突出した台座部17を一体に形成し、台座部17が、金具装置18を介して背支持フレーム8のリア部10に後傾動可能に連結されている。実施形態では、背支持フレーム8と金具装置18とにより、請求項に記載した支持部材が構成されている。台座部17は上下に長い長方形の形態であり、図4に示すように、左右の台座部17の後端面(先端面)17aは、前後位置を共通にして鉛直姿勢になっている。従って、左右台座部17の後端面17aの延長面は同一面を成している。
【0049】
背板3のフリー状態で、台座部17の後端面17aは左右にひろがる鉛直面になっている一方、背板3は後傾しているため、図5(B)や図8から明らかなように、台座部17は、上から下に向けて突出寸法が大きくなっている(厚さが厚くなっている。)。また、背板3の後面は平面視で前向きに凹んだ(後ろ向きに突出した)湾曲面になっていて、台座部17は左右両側に離れて配置されているため、例えば図5(C)に明示するように、平面視での台座部17の突出寸法は左右方向の外側に向けて多くなっている。
【0050】
従って、本実施形態では、台座部17は、請求項4の具体例として、背板3の側面視での傾斜姿勢と平面視での湾曲形状に対応して突出寸法を周方向に変化させることにより、後端面17aを左右方向に広がる鉛直面と成しており、これにより、第1ブラケット21の締結を容易ならしめている。
【0051】
台座部17の周囲には環状溝19が形成されて、金具装置18を覆うカバー20の前端部が環状溝19にきっちり嵌まり込んでいる。カバー20の前端には、外向きに張り出したフランジ20aを設けている。カバー20は、環状溝19に強制的に嵌着してもよいし、接着剤で固定してもよいし、ビスで固定してもよい。
【0052】
金具装置18は、手前側に位置して左右の後ろ向き側板21aを備えた平面視コ字形の第1ブラケット21と、その後ろに位置した左右の前向き側板22aを備えた平面視コ字形の第2ブラケット22と、背支持フレーム8のリア部10に溶接されて前向きに突出したボス体23とを備えている。第1ブラケット21は、台座部17の後端面17aに上下2本の1ビス24で固定されている一方、第2ブラケット22は後ろ向きの筒体22bを有して、筒体22bがボス体23に嵌合して第2ビス25で固定されている。
【0053】
そして、第1ブラケット21と第2ブラケット22は、その側板21a,22aが左右長手のピン26によって相対回動可能に連結されて、第1ブラケット21と第2ブラケット22との間に、弾性手段の例として、ピン26の上に位置したブロック状のゴム状弾性体27が介在している。従って、第1ブラケット21が第2ブラケット22に対して弾性体27を圧縮変形させながら後傾動することにより、背支持フレーム8に対する第1ブラケット21のリクライニングが実現する。ピン26は、ブッシュを介してブラケット21,22に挿通している。
【0054】
図4に示すように、第1ブラケット21と第2ブラケット22は、ゴム状弾性体27のずれ落ちを阻止するためのストッパー突起28を膨出形成している。台座部17には、第1ビス24がねじ込まれる鬼目ナット29を嵌着している。また、第1ブラケット21がフリー状態において、第2ブラケット22における側板22aの下端部を第1ブラケット21に当たっており、これにより、第1ブラケット21のフリー姿勢が保持されている。
【0055】
カバー20は木製で、背板3と同じ表面状態になっており、筒部と蓋部とを有してカップ状になっている。蓋部には、ボス体23が遊嵌する逃がし穴30を有している。また、ボス体23と筒体22bとの後ろ向き露出部は合成樹脂製のキャップ31で外側から囲われており、キャップ31は、第2ビス25によってボス体23と筒体22bに共締めされている。第1ブラケット21は上下に長いため、カバー20も上下に長い形態を成している。カバー20とキャップ31とは相対動するため、カバー20の逃がし穴30とキャップ31との間に、間隔が空いている。
【0056】
第1ブラケット21の上端部には左右の切り欠き32を形成している一方、台座部17には、切り欠き32と嵌合する上ストッパー33を突設している。また、台座部17には、第1ブラケット21を左右動不能に保持するサイドストッパー34を設けている。
【0057】
(3).第2実施形態
図6~8では、第2実施形態を示している。第2実施形態は、基本的には第1実施形態と同じであるが、第2実施形態では、第1ブラケット21における垂直部の上半部は半円形状になっており、この半円部を第1ビス24で台座部17に固定している。また、第1ブラケット21は、台座部17の下面に重なる水平部21bを備えており、水平部21bが、第3ビス35で台座部17の下面に鬼目ナット29を介して固定されている。
【0058】
第2実施形態もカバー20を備えているが、第2実施形態のカバー20は合成樹脂製で円形を成しており、第1ブラケット21の項面には、カバー20の先端部が嵌入する環状溝19を形成している。そして、カバー20の下端部が、第3ビス35によって第1ブラケット21の水平部21bと一緒に台座部17の下面に共締めされている。このため、カバー20の前端部には、第3ビス35の頭が入り込むざぐり穴36を空けている。
【0059】
第1ブラケット21の下部に角形の位置決め穴37を空けている一方、台座部17には、位置決め穴37に嵌合する位置決め突起38を設けている。また、台座部17には、第1実施形態と同様にサイドストッパー34を設けている。
【0060】
本実施形態では、第1実施形態のキャップ31は備えておらず、カバー20にキャップ部20bを設けて、キャップ部20bが、第1ブラケット21の筒体22bと一緒にボス体23に第2ビス25で共締めされている。第2実施形態では、カバー20が弾性変形することにより、背板3が背支持フレーム8のリア部10に対して後傾動することを許容している。
【0061】
(4).両実施形態のまとめ
両実施形態において、背板3(及び座板2)は木製であるため、リクライニング式の椅子でありながら、木材としての風合いを醸して独特の質感を形成できる。従って、従来品にはない新規なジャンルの椅子を提供できるが、第1ブラケット21は背板3に一体に設けた台座部17に固定されているため、リクライニングに際してのモーメントによって作用する荷重をしっかりと支持できる。
【0062】
すなわち、リクライニングに際しては、図4に矢印39で示すように、背板3のうちピン26よりも下方の部位には、背板3から引き離そうとする力が作用するが、両実施形態において、台座部17の箇所は厚肉化されているため、引き剥がし作用に対して高い抵抗を発揮する。従って、リクライニングタイプの椅子でありながら、強度を確保しつつ背板3を木製として提供できる。
【0063】
さて、背板3は、図4に一点鎖線鎖線で示すような厚さの木材ブロック40を材料にして、これを切削する(削り出す)ことによって一体に形成されている。このため、強度に優れた台座部17を形成することを容易に実現できるのみならず、曲げ加工した場合に比べて高い精度で加工できる。また、大きく湾曲していても、表面に毛羽立ちは生じずに緻密な木目をそのまま表現できるため、美感や手触りも優れている。
【0064】
更に、図4に二点鎖線で示すように、背板3は縦断側面視で前向きに膨れた状態に湾曲させることも可能であり、このように形成すると、リクライニングに際して人の背中が背板3の後ろに反っても、突っ張り感を無くして背中への当たりを柔らかくすることができるが、背板3は削り出しで製造されているため、平面視と縦断側面視とで湾曲して身体へのフィット性に優れた形態を、容易に実現できる。
【0065】
背板3がフリー状態で、両台座部17の後端面17aは鉛直姿勢になっているため、第1ブラケット21の前面は鉛直姿勢になって、左右の第2ブラケット22の筒体22bと左右のボス体23とは、それぞれ後端面17aの垂線と平行な姿勢になっている。従って、両ブラケット21,22は、その側板21a,22aを直角に曲げた単純な構造にして、2左右のピン26を同一線状に配置できる。これにより、左右の第1ブラケット21の回動を正確に行えて、背板3をこじれがない状態にスムースに傾動できる。
【0066】
つまり、背板3のスムースな後傾動のためには、左右のピン26が同一線上に配置されていることが必要であり、この場合は、台座部17の後端面17aが鉛直面になっていないと、左右ブラケット21,22の側板21a,22aは平面視で左右方向に傾斜するため、左右のピン26を同一線に配置することが厄介になるが、実施形態のように台座部17の後端面17aが同一面を成すように揃えると、両ブラケット21,22は、ピン挿通穴が空けられた展開状態の中間品を作ってから、側板21a,22aに相当する部分を90°曲げ起こすことにより、高い精度で作ることができる。
【0067】
両実施形態のように、台座部17に位置決め用のストッパー33,34などを形成すると、第1ブラケット21のずれを阻止して、背板3を正確な姿勢に保持できる。第2実施形態のように、第1ブラケット21に水平部17bを設けつつ位置決め穴37を形成すると、第1ブラケット21は、強度を損なうことなく正確に位置決めできる。
【0068】
実施形態のように、台座部17の周囲にカバー20が嵌合する環状溝19を形成すると、カバー20をずれ不能に正確に位置決めした状態で固定できる。木製の場合、カバー20にフランジ部20aを形成すると、木製であっても高い強度を確保できる。他方、第2実施形態では、第1実施形態のキャップ31に相当する部分が一体化されるため、それだけ構造を簡単化できる。
【0069】
第1実施形態と第2実施形態とにおいて、第2ブラケット22は同じ形状で同じ大きさであるが、図4図8(B)とに対比から、第2実施形態において、台座部17及び第1ブラケット21が第1実施形態に比べてコンパクト化されていることを理解できる。また、第2実施形態では、カバー20は、台座部17とボス体23との両方に対して固定されているため、隙間は存在せずに美感に優れている。また、家庭での使用に際して幼児がカバー20に指先を当てた場合でも、指挟みのような問題は皆無である。
【0070】
(5).他の実施形態・その他
図9では、背板3の別例を簡単に表示している。このうち(A)に示す第3実施形態では、背板3の背面に左右長手の1つの台座部17を形成して、台座部17の後端面に木製の蓋部材42をビス等で固定し、台座部17と蓋部材42とで二つ割り状の軸受け部材43を重ね保持している。従って、台座部17と蓋部材42との合わせ面には、全体として円形の溝穴44が形成されている。そして、軸受け部材43により、左右に分離した背支柱45の上端に繋がった上水平部45aが抱持されて、背板3は、背支柱45に後傾動可能に取り付けられている。
【0071】
詳細は省略するが、軸受け部材43は左右に分離しており、台座部17と蓋部材42との合わせ面のうち、左右の軸受け部材43で挟まれた部位に凹所が形成されていて、この凹所に、背板3の回動角度を規制するストッパー部材や、背板3の後傾動に対して抵抗を付与する弾性部材が配置されている。弾性部材としては、第1,2実施形態で使用したゴム状の弾性体や、金属製のばね材(例えば、ねじりトーションばねや板ばね)を使用できる。
【0072】
図9(B)に示す第4実施形態では、台座部17は背板3の左右両端部に後ろ向き突設されて、台座部17に、横向きに開口した空洞46が形成されている。本実施形態では、背板3の左右両側に左右の背支柱45が分離して配置されており、背支柱45の上端に台座部17が後傾動可能に連結されている。
【0073】
背板3の連結構造としては、背支柱45から支軸を横向き突設して、これを台座部17に空洞46に設けた軸受け部材に取り付けてもよいし、台座部17の空洞に外向きに支軸を固定して、これを背支柱45に設けた軸受け部材に取り付けてもよい。前者の場合は、弾性手段は台座部17の空洞46に配置されて、後者の場合は、弾性部材は背支柱45に配置される。
【0074】
実施形態では空洞46を側面視円形に形成しているが、空洞46の側面視形状は、内部に配置する部材の形態に対応して任意に設定でき。また、台座部17を後ろ向きに開口した形状に形成して、後ろから木製の蓋で覆うことも可能である。
【0075】
図9(C)に示す第5実施形態では、背板3の後面に4つの台座部17を突設して、この台座部17を利用して背支柱に固定している。背板3は、ブラケット板を介して背支柱に後傾動不能に固定することも可能であるし、背支柱に後傾動可能に取り付けることも可能である。後傾動不能とする場合、台座部17を筒状に形成して、その内部にコイルばねや弾性体を配置することも可能である。
【0076】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、本願発明は座板にも適用できる。すなわち、座板を木製としてその下面に複数の台座部を下向きに突設し、台座部を座受け部材やベースにビス等で固定できる。この場合は、座受け部材又はベースが、請求項に記載した支持部材になる。
【0077】
背板に適用する場合、背支柱等の支持部材は様々な態様に具体化できる。例えば、左右中間部に1本だけ配置された背支柱のタイプや、正面視Y形の背支柱などにも適用できる。台座部の数や配置位置は、支持部材の形態に応じて選択したらよい。
【0078】
実施形態の椅子のように座板を前後動スライド式に構成する場合、台座部を利用して前後スライドさせることも可能である。例えば、座板の下面に、前後長手で前後に貫通した筒状の台座部を左右に分離して設け、台座部に支軸を挿通することによって座板の前後動を許容しつつ、座板の前進動に対して抵抗を与えるばね手段を台座部に内蔵することが可能である。
【0079】
敢えて述べることでもないが、本願発明は、特許文献1に開示した棒足タイプの椅子のように非昇降式の椅子にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本願発明は、椅子に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0081】
1 脚装置
2 座板
3 背板
5 脚柱(ガスシリンダ)
6 ベース
7 座受け部材
8 支持部材の一例としての背支持フレーム
9 背支持フレームのサイド部
10 背支持フレームのリア部
11 サイド支持体
13 上水平状部
17 台座部
17a 後端面
18 金具装置
19 環状溝
20 カバー
21 第1ブラケット
21b 水平部
22 第2ブラケット
22b 筒体
23 ボス体
24,25 ビス
26 ピン
27 弾性手段の一例としてのゴム状弾性体
31 キャップ
40 材料となる木材ブロック
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9