IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成ホームズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-建物 図1
  • 特開-建物 図2A
  • 特開-建物 図2B
  • 特開-建物 図2C
  • 特開-建物 図3
  • 特開-建物 図4
  • 特開-建物 図5
  • 特開-建物 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156551
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】建物
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/00 20060101AFI20241029BHJP
   E04H 1/02 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
E04B1/00 501A
E04H1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071118
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】303046244
【氏名又は名称】旭化成ホームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(72)【発明者】
【氏名】大石 哲央
【テーマコード(参考)】
2E025
【Fターム(参考)】
2E025AA14
2E025AA15
(57)【要約】
【課題】外観意匠性を向上可能な、主屋及び下屋を有する建物を提供する。
【解決手段】本開示に係る建物は、梁柱構造の2階建ての建物であって、1階及び2階に亘って位置する主屋と、前記1階で前記主屋から張り出している下屋と、前記主屋に支持されており、前記主屋の周囲全域で前記主屋より外側に突出している軒部を有する屋根と、前記1階及び前記2階の階間で、前記主屋及び前記下屋の少なくも一方から外側に片持ち状に突出する片持ち床スラブと、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
梁柱構造の2階建ての建物であって、
1階及び2階に亘って位置する主屋と、
前記1階で前記主屋から張り出している下屋と、
前記主屋に支持されており、前記主屋の周囲全域で前記主屋より外側に突出している軒部を有する屋根と、
前記1階及び前記2階の階間で、前記主屋及び前記下屋の少なくも一方から外側に片持ち状に突出する片持ち床スラブと、を備える建物。
【請求項2】
前記下屋の上部は、陸屋根である、請求項1に記載の建物。
【請求項3】
前記下屋の上部は、勾配屋根である、請求項1に記載の建物。
【請求項4】
前記屋根の前記軒部の突出長さは、1800~2700mmである、請求項1から3のいずれか1つに記載の建物。
【請求項5】
前記片持ち床スラブの突出長さは、1800~2700mmである、請求項1から3のいずれか1つに記載の建物。
【請求項6】
前記片持ち床スラブは、歩行領域を含む、請求項1から3のいずれか1つに記載の建物。
【請求項7】
前記片持ち床スラブの上方に積層されている防水層と、
前記防水層の上方に積層されている歩行用床材と、を備える請求項1から3のいずれか1つに記載の建物。
【請求項8】
平面視で、前記屋根の前記軒部の出隅部の少なくとも1つの位置は、前記片持ち床スラブの出隅部の位置と略一致している、請求項1から3のいずれか1つに記載の建物。
【請求項9】
前記下屋は、平面視で、前記主屋の周囲の異なる位置に複数設けられており、
前記複数の下屋それぞれは、少なくとも1つの制振要素を含む、請求項1から3のいずれか1つに記載の建物。
【請求項10】
前記下屋に配置されている下屋柱の半分以上は、前記主屋に配置されている主屋柱より細い、請求項1から3のいずれか1つに記載の建物。
【請求項11】
前記1階を下方から支持する基壇を備える、請求項1から3のいずれか1つに記載の建物。
【請求項12】
鉄骨構造である、請求項1から3のいずれか1つに記載の建物。
【請求項13】
前記主屋はラーメン構造である、請求項1から3のいずれか1つに記載の建物。
【請求項14】
前記下屋の前記陸屋根から立ち上がる壁部を備え、
前記壁部の高さは、1500~1800mmである、請求項1又は2に記載の建物。
【請求項15】
前記1階の階高は、前記2階の階高より高い、請求項1から3のいずれか1つに記載の建物。
【請求項16】
前記屋根の前記軒部の軒天は、前記主屋及び前記下屋の外壁の外面と同色である、請求項1から3のいずれか1つに記載の建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は建物に関し、特に、梁柱構造の2階建ての建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、主屋及び下屋を有する建物が知られている。特許文献1には、主屋としての建物本体部と、この建物本体部の屋根より低い屋根を有する下屋と、を備える建物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-236333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
下屋は、主屋に配置される空間の拡張や、例えば水回り空間等、主屋に配置される空間とは別用途の空間の付加、等の目的で設けられる。しかしながら、主屋及び下屋を有する建物の外観意匠性については、依然として改善の余地がある。
【0005】
本開示は、外観意匠性を向上可能な、主屋及び下屋を有する建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様としての建物は、
(1)
梁柱構造の2階建ての建物であって、
1階及び2階に亘って位置する主屋と、
前記1階で前記主屋から張り出している下屋と、
前記主屋に支持されており、前記主屋の周囲全域で前記主屋より外側に突出している軒部を有する屋根と、
前記1階及び前記2階の階間で、前記主屋及び前記下屋の少なくも一方から外側に片持ち状に突出する片持ち床スラブと、を備える建物、である。
【0007】
本開示の1つの実施形態としての建物は、
(2)
前記下屋の上部は、陸屋根である、上記(1)に記載の建物、である。
【0008】
本開示の1つの実施形態としての建物は、
(3)
前記下屋の上部は、勾配屋根である、上記(1)に記載の建物、である。
【0009】
本開示の1つの実施形態としての建物は、
(4)
前記屋根の前記軒部の突出長さは、1800~2700mmである、上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の建物、である。
【0010】
本開示の1つの実施形態としての建物は、
(5)
前記片持ち床スラブの突出長さは、1800~2700mmである、上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の建物、である。
【0011】
本開示の1つの実施形態としての建物は、
(6)
前記片持ち床スラブは、歩行領域を含む、上記(1)から(5)のいずれか1つに記載の建物、である。
【0012】
本開示の1つの実施形態としての建物は、
(7)
前記片持ち床スラブの上方に積層されている防水層と、
前記防水層の上方に積層されている歩行用床材と、を備える上記(1)から(6)のいずれか1つに記載の建物、である。
【0013】
本開示の1つの実施形態としての建物は、
(8)
平面視で、前記屋根の前記軒部の出隅部の少なくとも1つの位置は、前記片持ち床スラブの出隅部の位置と略一致している、上記(1)から(7)のいずれか1つに記載の建物、である。
【0014】
本開示の1つの実施形態としての建物は、
(9)
前記下屋は、平面視で、前記主屋の周囲の異なる位置に複数設けられており、
前記複数の下屋それぞれは、少なくとも1つの制振要素を含む、上記(1)から(8)のいずれか1つに記載の建物、である。
【0015】
本開示の1つの実施形態としての建物は、
(10)
前記下屋に配置されている下屋柱の半分以上は、前記主屋に配置されている主屋柱より細い、上記(1)から(9)のいずれか1つに記載の建物、である。
【0016】
本開示の1つの実施形態としての建物は、
(11)
前記1階を下方から支持する基壇を備える、上記(1)から(10)のいずれか1つに記載の建物、である。
【0017】
本開示の1つの実施形態としての建物は、
(12)
鉄骨構造である、上記(1)から(11)のいずれか1つに記載の建物、である。
【0018】
本開示の1つの実施形態としての建物は、
(13)
前記主屋はラーメン構造である、上記(1)から(12)のいずれか1つに記載の建物、である。
【0019】
本開示の1つの実施形態としての建物は、
(14)
前記下屋の前記陸屋根から立ち上がる壁部を備え、
前記壁部の高さは、1500~1800mmである、上記(1)又は(2)に記載の建物、である。
【0020】
本開示の1つの実施形態としての建物は、
(15)
前記1階の階高は、前記2階の階高より高い、上記(1)から(14)のいずれか1つに記載の建物、である。
【0021】
本開示の1つの実施形態としての建物は、
(16)
前記屋根の前記軒部の軒天は、前記主屋及び前記下屋の外壁の外面と同色である、上記(1)から(15)のいずれか1つに記載の建物、である。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、外観意匠性を向上可能な、主屋及び下屋を有する建物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本開示に係る建物の外観斜視図である。
図2A図1に示す建物の正面図である。
図2B図1に示す建物の一方側の側面図である。
図2C図1に示す建物の他方側の側面図である。
図3図1に示す建物の2階平面図である。
図4図1に示す建物の1階平面図である。
図5図1に示す建物の上面図である。
図6図1に示す建物における下屋の上部の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示に係る建物の実施形態について図面を参照して例示説明する。各図において同一の構成には同一の符号を付している。
【0025】
図1は、本開示に係る建物の一実施形態としての建物100の外観を示す斜視図である。図2Aは、建物100の正面図である。図2Bは、建物100の一方側(本実施形態では正面視で左側)の側面図であり、図2Cは、建物100の他方側(本実施形態では正面視で右側)の側面図である。図3は、建物100の2階の平面図である。図4は、建物100の1階の平面図である。図5は、建物100を上方から見た上面図である。
【0026】
まず、本実施形態の建物100の概要について説明する。本実施形態の建物100は、柱梁構造を有する2戸建ての戸建て住宅である。本実施形態の建物100は、鋼材からなる柱部材及び梁部材を含む鉄骨構造であるが、この構成に限られない。建物100は柱梁構造であればよく、例えば、木造、鉄筋コンクリート造等であってもよい。
【0027】
本実施形態の建物100は、鉄筋コンクリート造の基礎と、柱部材や梁部材などの軸組部材で構成された軸組架構を有し、基礎に固定された上部構造体と、で構成される。本実施形態の上部構造体は、上述したように鉄骨造の軸組架構を有する。本実施形態の建物100の軸組架構を構成する軸組部材は、予め規格化(標準化)されたものであり、予め工場にて製造されたのち建築現場に搬入されて組み立てられる。
【0028】
具体的に、本実施形態の建物100の上部構造体の軸組架構の外周部には、外壁を構成する外装材等が配置される。また、軸組架構の層間部には、床部を構成する床スラブ等が配置される。更に、軸組架構の上部には、屋根30を構成する外装屋根材等が配置される。
【0029】
本実施形態の建物100の外壁は、例えば、外面側に防水層としての塗膜が形成された軽量気泡コンクリート(ALC)からなるパネル状の外装材が連接されて構成された外部仕上げ層を備える。また、本実施形態の建物100の外壁は、例えば、石膏ボートと石膏ボード表面に貼設された壁クロス等の仕上げ材とで構成された内部仕上げ層を備える。更に、本実施形態の建物100の外壁は、外部仕上げ層と内部仕上げ層との間に、例えばグラスウール、ロックウール、発泡樹脂系パネルなどの断熱材を備える。但し、建物100の外壁は、この構成に限定されない。
【0030】
本実施形態の建物100の床部は、床スラブを含む。床スラブは、軸組架構の梁部材間に架設され、梁部材により直接的又は間接的に支持される。床スラブとしては、例えば、ALCパネルを用いることできるが、折板、押出成形セメント板、木質パネル材などの別の部材を用いてもよい。床部は、床スラブに加えて、例えば、床スラブに対して直接的又は間接的に取り付けられる、下階の天井面を構成する天井内装材や、床スラブ上に積層された、上階の床面を構成するフローリング等の床内装材などを含む構成であってもよい。
【0031】
なお、本実施形態の屋根30は、スレート等の外装屋根材を備える勾配屋根、より具体的には寄棟屋根により構成されているが、この構成に限られない。屋根30は、例えば、屋根床スラブを含む陸屋根であってもよい。陸屋根の屋根床スラブとしては、例えば、ALCパネルを用いることができるが、ALCパネルに限られるものではない。屋根30には、例えば塩化ビニル樹脂から形成されている防水シート等により防水層が形成され、防水処理が施されている。
【0032】
次に、図3図5を参照して、建物100の主屋10及び下屋20について説明する。
【0033】
図3図4に示すように、建物100は、主屋10及び下屋20を備える。主屋10は、2階建ての建物100の1階及び2階に亘って位置する部分である。下屋20は、建物100の1階で、主屋10から張り出している部分である。主屋10は、2階の平面図(図3参照)の柱部材の位置により画定される。より具体的に、主屋10は、2階の平面視(図3参照)で、2階の外周部に配置されている柱部材に取り囲まれる2階主屋部X1と、1階の平面視(図4参照)で、1階において2階主屋部X1と重なる重複領域から半間以下(910mm以下)の範囲に含まれる柱部材により取り囲まれる1階主屋部X2と、により構成される。下屋20は、建物100の1階の平面視(図4参照)で、主屋10の1階主屋部X2より外側に張り出している部分である。
【0034】
なお、図3図4に示すように、2階主屋部X1及び1階主屋部X2は、柱部材同士を線により繋ぐことで画定されているが、柱部材同士を繋ぐ線は、これら柱部材間に架け渡される梁部材に沿う線である。
【0035】
また、図4に示すように、本実施形態の1階主屋部X2は、2階主屋部X1と完全に重なっておらず、1階において2階主屋部X1と重なる重複領域の外側に、半間以下(910mm以下)の範囲内に位置する柱部材を含んで画定されている。具体的に、本実施形態の建物100の1階の平面図では、図3で2階主屋部X1を画定する右上及び左下の柱部材と重なる位置に、柱部材を備えておらず、この位置から半間以下の範囲に別の柱部材が配置されている。そのため、本実施形態の1階主屋部X2は、重複領域ではなく、重複領域の外側に半間以下の距離で配置されている柱部材を含んで、画定されている。但し、1階主屋部X2の構成は本実施形態の構成に限られず、例えば、1階において2階主屋部X1と重なる重複領域(図4では、1階主屋部X2の長方形の領域から右上及び左下のハッチングされている領域を除いた領域)と一致していてもよい。
【0036】
図4に示すように、本実施形態の主屋10の1階主屋部X2は、平面視で長方形の形状を有し、長方形の1階主屋部X2の4つの辺それぞれから下屋20が突出している。換言すれば、本実施形態の建物100は、4つの下屋20を備えている。但し、下屋20の数及び形状は、特に限定されない。以下、説明の便宜上、本実施形態の4つの下屋20のうち、建物100の正面側の下屋20を「正面下屋20a」、建物100の背面側の下屋20を「背面下屋20b」、建物100の正面視(図2A参照)で左側面側の下屋20を「左側面下屋20c」、建物100の正面視(図2A参照)で右側面側の下屋20を「右側面下屋20d」、と記載する。但し、正面下屋20a、背面下屋20b、左側面下屋20c、及び、右側面下屋20d、を特に区別しない場合は、単に「下屋20」と記載する。
【0037】
このように、建物100は主屋10及び下屋20を備えるため、例えば、主屋10に比較的大きな空間(例えばリビングダイニングキッチン117等)を配置しつつ、下屋20により、主屋10の空間の拡張や、主屋10に配置されない別機能の空間(例えば洗面室113、浴室115等の水回り空間)の付加等、を行うことができる。
【0038】
建物100は、上述した主屋10及び下屋20に加えて、屋根30及び片持ち床スラブ40を備える。屋根30は、主屋10の上方に位置し、主屋10に支持されている。図1図2C図5に示すように、屋根30は、主屋10の周囲全域において、主屋10より外側に突出している軒部31を有している。また、片持ち床スラブ40は、1階及び2階の階間で、主屋10及び下屋20の少なくも一方から外側に片持ち状に突出している。このように、主屋10及び下屋20を備える建物100において、軒部31を備える屋根30と、階間で片持ち状に突出する片持ち床スラブ40と、が設けられることにより、片持ち床スラブ40が突出する側の建物100の立面視(本実施形態では正面視(図2A参照)及び右側面視(図2C参照))で、屋根30の軒部31及び片持ち床スラブ40が延在する水平線が強調され易くなる。そのため、下屋20を有する建物100であっても、屋根30の軒部31及び片持ち床スラブ40により、主屋10及び下屋20の凹凸が強調され難くなり、建物100全体として整った印象を与えることができる。つまり、主屋10及び下屋20を備える建物100の外観意匠性を向上させることができる。
【0039】
また、屋根30の軒部31及び片持ち床スラブ40により、建物100に日よけの機能を付加できる。更に、片持ち床スラブ40により、建物100にベランダの機能を付加できる。
【0040】
なお、図3に示すように、本実施形態の片持ち床スラブ40は、主屋10及び下屋20から、建物100の正面側及び右側面側に突出している。より具体的に、本実施形態の片持ち床スラブ40は、図3の平面視で略L字状に延在しており、建物100の正面側に突出する正面床スラブ41と、この正面床スラブ41に連なり、建物100の右側面側に突出する右側面床スラブ42と、を備えている。正面床スラブ41は、建物100の主屋10及び正面下屋20aから突出している。また、右側面床スラブ42は、建物100の主屋10及び右側面下屋20dから突出している。なお、本実施形態の正面下屋20aの上部は、正面床スラブ41と連続して一体で形成されている床スラブを含む陸屋根20a1である。換言すれば、本実施形態の片持ち床スラブ40の正面床スラブ41は、正面下屋20aの陸屋根20a1から連続するように突出している。また、本実施形態の右側面下屋20dの上部は、右側面床スラブ42と連続して一体で形成されている床スラブを含む陸屋根20d1である。換言すれば、本実施形態の片持ち床スラブ40の右側面床スラブ42は、右側面下屋20dの陸屋根20d1から連続するように突出している。
【0041】
そのため、本実施形態の建物100では、正面視(図2A参照)及び右側面視(図2C参照)において、屋根30の軒部31、及び、所定厚み(例えば150~180mm)の片持ち床スラブ40、が延在する水平線が強調され、外観意匠性を高めることができる。なお、図2A図2Cに示すように、片持ち床スラブ40は、立面視でその厚みが視認可能な態様で配置されている。
【0042】
なお、本実施形態の片持ち床スラブ40は、主屋10及び下屋20から突出しているが、主屋10及び下屋20の少なくとも一方からのみ突出する構成であってもよい。
【0043】
また、本実施形態では、背面下屋20bの上部についても、床スラブを含む陸屋根20b1である。更に、左側面下屋20cの上部についても、床スラブを含む陸屋根20c1である。このように、本実施形態の4つの下屋20はいずれも、陸屋根20a1~20d1を備えるが、下屋20の上部は陸屋根に限られない。図6に示す変形例のように、下屋20の上部は、例えばスレート等の外装屋根材を含む勾配屋根22であってもよい。下屋20の上部を勾配屋根22とすることで、屋根30と連続性及び統一感のある外観を実現できる。
【0044】
ここで、図5に示すように、本実施形態の屋根30の軒部31の主屋10からの突出長さL1の最大値は、1800~2700mmである。このような深い軒部31を設けることで、軒部31に覆われる空間を、居住者等の人の居場所として利用し易くなる。本実施形態の屋根30では、建物100の正面(図2A参照)側、及び、建物100の右側面(図2C参照)側に、1800~2700mmの突出長さL1を有する軒部31が設けられている。
【0045】
また、図3に示すように、片持ち床スラブ40の突出長さL2の最大値は、1800~2700mmである。このような深い片持ち床スラブ40を設けることで、片持ち床スラブ40に覆われる空間を、居住者等の人の居場所として利用し易くなる。本実施形態の屋根片持ち床スラブ40では、建物100の正面(図2A参照)側、及び、建物100の右側面(図2C参照)側に、1800~2700mmの突出長さL2を有する正面床スラブ41及び右側面床スラブ42が設けられている。
【0046】
なお、図3に示すように、本実施形態の下屋20の陸屋根20a1~20d1、及び、片持ち床スラブ40は、歩行領域を含む。より具体的に、本実施形態の下屋20の陸屋根20a1~20d1、及び、片持ち床スラブ40は、建物100の2階のベランダ124の床部を構成している。
【0047】
図3に示すように、正面下屋20aの陸屋根20a1及び右側面下屋20dの陸屋根20d1は、片持ち床スラブ40と共に、建物100の2階の正面側及び右側面側のベランダ124の床部を構成している。図3に示すように、本実施形態の片持ち床スラブ40の外縁部には、手摺り壁43が設けられており、この手摺り壁43の内側が、本実施形態の片持ち床スラブ40の歩行領域である。手摺り壁43の片持ち床スラブ40の床面からの高さは、例えば、650~1100mmである。また、図2A図2Cに示すように、左側面下屋20cの陸屋根20c1、及び、右側面下屋20dの陸屋根20d1、それぞれからは、手摺り壁43より高いと壁部21が立ち上がっている。壁部21の陸屋根20c1、20d1の床面からの高さは、1500mm~1800mmである。このような高さの壁部21を設けることで、ベランダ124のうち壁部21に囲まれる空間を、採光を確保できると共に開放的でありつつ、外部から視認され難い、プライベート性の高い空間とすることができる。なお、右側面下屋20dの陸屋根20d1の床面は、片持ち床スラブ40の右側面床スラブ42の床面と連続しており、片持ち床スラブ40の床面と共に、ベランダ124のうち建物100の正面側から右側面側に延びるL字状の部分の床面を構成している。また、左側面下屋20cの陸屋根20c1の床面は、主屋10に形成されている入隅部10aの位置の床面と共に、建物100の左側面側のベランダ124の床面を構成している。
【0048】
なお、背面下屋20bの陸屋根20b1は、建物100の背面側のベランダ124の床面を構成している。建物100の背面側のベランダ124は、建物100の左側面側から正面側を介して右側面側に行き来可能に連なるベランダ124と連続していないが、この構成に限られない。つまり、ベランダ124は、建物100の周囲を取り囲むように連続していてもよい。また、背面下屋20bの陸屋根20b1からは、手摺り壁43が立ち上がっているが、この構成に限られない。背面下屋20bの陸屋根20b1から、手摺り壁43に代えて、手摺り壁43より高い壁部21が立ち上がっていてもよい。
【0049】
また、下屋20の陸屋根20a1~20d1の上方、及び、片持ち床スラブ40の上方には、例えば塩化ビニルシート等により構成される防水層が積層されている。更に、この防水層の上方には、例えばタイル材、デッキ材等の歩行用床材としての外装床材が積層されている。このようにすることで、下屋20の陸屋根20a1~20d1及び片持ち床スラブ40により構成されるベランダ124が、2階の屋内空間から連続した人の居場所となり得る空間として認識され易くなる。また、ベランダ124内の位置に応じて、歩行用床材を異ならせてもよい。
【0050】
更に、本実施形態では、平面視で、屋根30の軒部31の出隅部32の少なくとも1つの位置は、片持ち床スラブ40の出隅部44の位置と略一致している。具体的に、本実施形態の建物100では、図5の右下に位置する軒部31の出隅部32の位置が、平面視で、片持ち床スラブ40の正面床スラブ41と右側面床スラブ42とが連なる出隅部44(図3参照)の位置と、略一致している。このようにすることで、片持ち床スラブ40の出隅部44近傍の部分に対して鉛直方向上方を、軒部31により完全に覆うことができる。そのため、片持ち床スラブ40の出隅部44近傍が、ベランダ124のうち、雨天の際に雨に濡れ難く、雨天の際にも利用し易い比較的広い部分として利用できる。また、平面視で、屋根30の軒部31の出隅部32の位置と、片持ち床スラブ40の出隅部44の位置と、が略一致していることで、軒部31が片持ち床スラブ40の出隅部44を超えて突出する構成と比較して、建物100の外観意匠性を高めることができる。
【0051】
また、図1図2Cに示すように、本実施形態の建物100は、1階を下方から支持する基壇140を備える。基壇140の上面は、建物100の1階の床面の高さと略一致する。このような基壇140が設けられていることで、建物100は、片持ち床スラブ40が突出する側の立面視(本実施形態では図2Aの正面視及び図2Cの右側面視)において、上述した屋根30の軒部31及び片持ち床スラブ40が延在する水平線に加えて、基壇140による水平線が強調される。これにより、下屋20を有する建物100であっても、屋根30の軒部31、片持ち床スラブ40、及び、基壇140により、主屋10及び下屋20の凹凸が強調され難くなり、建物100全体として、より整った印象を与えることができる。つまり、主屋10及び下屋20を備える建物100の外観意匠性を、より向上させることができる。
【0052】
また、上述したように、本実施形態の建物100は、1階の平面視(図4参照)で主屋10の周囲の異なる位置に設けられた複数(本実施形態では4つ)の下屋20を備える。そして、複数の下屋20それぞれは、少なくとも1つの制振要素50を含む。より具体的に、本実施形態の正面下屋20a、背面下屋20b、左側面下屋20c及び右側面下屋20dはそれぞれ、少なくとも1つの制振要素50を含む。本実施形態の制振要素50は、上下梁部材に取り付けられている2本の縦材51と、これら2本の縦材51の間に配置される減衰部52と、を1つの制振ユニットとするものである。本実施形態の制振要素50は、1つのみの制振ユニットで構成されてもよく、複数の制振ユニットが連接されていてもよい。各下屋20が少なくとも1つの制振要素50を含むことで、主屋10に配置する制振要素50の数を減らすことができる。これにより、主屋10における設計自由度が向上し、主屋10において比較的広い空間を配置し易くなる。
【0053】
更に、主屋10に配置されている柱部材を「主屋柱」とし、下屋20に配置されている柱部材を「下屋柱」とした場合に、各下屋20に配置されている下屋柱62の半分以上は、主屋10に配置されている主屋柱61より細いことが好ましい。本実施形態では、主屋10の主屋柱61が150mm角の柱部材であるのに対して、各下屋20の下屋柱62の半分以上が例えば120mm角の柱部材とされている。
【0054】
また、本実施形態の主屋10はラーメン構造である。ここで言う「ラーメン構造」は、柱部材及び梁部材が剛接合されている構造を意味し、柱部材が通し柱であるか否かを問わない。つまり、1階の柱部材と2階の柱部材とが別々の柱部材であってもよく、1階の柱部材と2階の柱部材とが単一の通し柱により構成されていてもよい。主屋10がラーメン構造とされることで、建物100の耐震強度の大部分を主屋10により負担でき、下屋20の設計自由度を高めることができる。また、主屋10の主屋柱61を、1階から2階に亘って一体で形成される通し柱とすることで、主屋10の耐震強度を、より高めることができる。
【0055】
逆に、下屋20の下屋柱62は、例えば、上下梁部材に対して、ピン接合されている構成であってもよい。かかる場合であっても、上述したように、下屋20に少なくとも1つの制振要素50を配置することで、建物100の所望の耐震強度を確保できる。
【0056】
また、建物100の1階の階高は、建物100の2階の階高より高いことが好ましい。更に、屋根30の軒部31の軒天は、主屋10及び下屋20の外壁の外面と同色であることが好ましい。同色とすることで、屋根30の主屋10及び下屋20との一体感、及び、屋根30の量塊感、を演出できる。
【0057】
最後に、図3図4を参照して、本実施形態の建物100の間取りについて説明する。
【0058】
図4に示すように、本実施形態の建物100の1階には、玄関110、廊下111、トイレ112、洗面室113、家事室114、浴室115、個室116、リビングダイニングキッチン117、等が設けられている。また、主屋10の1階主屋部X2には、玄関110、廊下111、トイレ112、個室116、及び、リビングダイニングキッチン117が配置されている。そして、正面下屋20aは、リビングダイニングキッチン117のうちリビング空間117aの拡張のために利用されている。また、右側面下屋20dは、リビングダイニングキッチン117のうちキッチン空間117bの拡張のために利用されている。更に、左側面下屋20cは、トイレ112等の拡張のために利用されている。また更に、背面下屋20bは、個室116の拡張のため、及び、洗面室113、家事室114及び浴室115の付加のため、に利用されている。
【0059】
なお、図4に示すように、1階の正面側及び右側面側には、片持ち床スラブ40に上方が覆われた専用屋外空間としての庭118が設けられている。
【0060】
図3に示すように、本実施形態の建物100の2階には、廊下120、及び、3つの個室121~123が設けられている。また、廊下120、及び、3つの個室121~123は、主屋10の2階主屋部X1に設けられている。更に、図3に示すように、2階の周囲には専用屋外空間としてのベランダ124が設けられている。本実施形態のベランダ124は、正面下屋20aの陸屋根20a1、背面下屋20bの陸屋根20b1、左側面下屋20cの陸屋根20c1、右側面下屋20dの陸屋根20d1、2階主屋部X1の外壁に設けられた入隅部の床部10a、及び、片持ち床スラブ40により構成されている。
【0061】
また、図3図4に示すように、建物100は、1階の廊下111と、2階の廊下120と、を行き来可能な階段130を含む。
【0062】
本開示に係る建物は、上述した実施形態に示す具体的な構成に限られず、特許請求の範囲を逸脱しない限り、種々の変形、変更、組み合わせが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本開示は建物に関し、特に、梁柱構造の2階建ての建物に関する。
【符号の説明】
【0064】
10:主屋
10a:入隅部
20:下屋
20a:正面下屋
20a1:正面下屋の陸屋根
20b:背面下屋
20b1:背面下屋の陸屋根
20c:左側面下屋
20c1:左側面下屋の陸屋根
20d:右側面下屋
20d1:右側面下屋の陸屋根
21:壁部
22:勾配屋根
30:屋根
31:軒部
32:出隅部
40:片持ち床スラブ
41:正面床スラブ
42:右側面床スラブ
43:手摺り壁
44:出隅部
50:制振要素
51:縦材
52:減衰部
61:主屋柱
62:下屋柱
100:建物
110:玄関
111:1階廊下
112:トイレ
113:洗面室
114:家事室
115:浴室
116:個室
117:リビングダイニングキッチン
117a:リビング空間
117b:キッチン空間
118:庭
120:2階廊下
121~123:個室
124:ベランダ
130:階段
140:基壇
L1:軒部の突出長さ
L2:片持ち床スラブの突出長さ
X1:2階主屋部
X2:1階主屋部
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6