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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156560
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】同期モータの制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/22 20160101AFI20241029BHJP
【FI】
H02P21/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071135
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】000153122
【氏名又は名称】株式会社ニッキ
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】出口 慶明
(72)【発明者】
【氏名】小黒 龍一
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505DD06
5H505EE41
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ25
5H505LL01
5H505LL22
(57)【要約】
【課題】同期モータの制御装置について、あらゆる回転領域で安定的に電流制御を行えるようにする。
【解決手段】三相電流又はモータ位置からd軸電流及びq軸電流に変換する電流変換手段11と、d軸電流及びq軸電流からd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を算出する電流フィードバック制御演算手段12と、d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を三相電圧指令値に変換する電圧指令値変換手段13とを備え、三相電圧指令値に基づいて同期モータに出力しながらd軸電流を流すd軸電圧の出力ベクトルが回転子の磁界方向からずれる角度を縮小する補正係数を用いてd軸電圧及q軸電圧の出力ベクトルの補正を行う同期モータの制御装置1において、回転速度の上昇に応じて補正係数を減少させながら電圧の出力を回転子の磁界方向に一致するd軸電圧及びq軸電圧よりも遅らせて高速回転時の電流の発振を抑制するものとした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスイッチング素子からなるインバータと、同期モータの三相電流又はモータ位置から前記同期モータの回転子の磁界方向に同期するベクトルで表したd軸電流及びq軸電流に変換する電流変換手段と、前記d軸電流及び前記q軸電流から電流フィードバッグ制御を用いてd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を算出する電流フィードバック制御演算手段と、前記d軸電圧指令値及び前記q軸電圧指令値を三相電圧指令値に変換する電圧指令値変換手段とを備え、前記三相電圧指令値に基づいて前記スイッチング素子をオン・オフ制御しながら前記同期モータに出力を行うとともに、前記磁界方向に一致した磁界を発生させるようにd軸電流を流すd軸電圧の出力ベクトルが前記磁界方向からずれる角度を縮小するために予め定めた補正係数を用いながら、前記d軸電圧及びこれに直交するq軸電圧の出力ベクトルの補正を行う同期モータの制御装置において、
前記同期モータの回転速度の上昇に応じて前記補正係数を減少させながら、電圧の出力を前記磁界方向に一致した磁界を発生させるd軸電圧及びq軸電圧よりも遅らせる制御を実行することにより、高速回転時における電流の発振を抑制することを特徴とする同期モータの制御装置。
【請求項2】
前記補正係数の減少は、前記同期モータの電気角速度が所定のしきい値を上回ったことを検知した際に、前記補正係数に所定の負の値を加えることにより行われる、ことを特徴とする請求項1に記載の同期モータの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期モータの制御装置に関し、殊に、同期モータにおける実際の磁軸位置と電圧の出力ベクトルとの間で生じるずれを補正する機能を備えた同期モータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
同期モータは、入力する交流電圧に同期して回転する電動機であるが、入力する交流電流により形成される回転磁界で回転子が吸引されながらその磁界に追従して回転動作を行うものであり、これに接続した制御装置による制御システムで駆動制御されるのが一般的である。
【0003】
図3は、このような同期モータの制御システムを機能ブロック図で示している。このシステムでは、電流センサから検出又は推定したモータの三相電流(iU,iV,iW)を用い、検出又は推定したモータ位置情報から、同期モータの回転子の磁界方向に同期する軸(ベクトル)で表したd軸電流(id),q軸電流(iq)に変換される。このd軸電流、q軸電流が、各々d軸電流指令値(idref)、q軸電流指令値(iqref)に一致するように、電流フィードバック制御を用いてd軸電圧指令値(Vdref)、q軸電圧指令値(Vqref)を演算する。この電圧を同期モータの三相電圧指令値(VUref,VVref,VWref)に変換して、インバータのスイッチング素子をオン・オフ制御することで、その三相電圧指令値を同期モータに出力する方式となっている。
【0004】
図4は、このような同期モータの制御システムにおいて、電気角で見た同期モータの三相電圧と、d軸電圧及びq軸電圧をベクトル図で示している。この三相電圧は、同期モータの固定子において相互に120°間隔で固定された軸であり、d軸とq軸は回転子の位置に追従する軸である。この回転子には永久磁石が設けられており、この磁石の磁界と同じ向きの磁界を発生させる電流をd軸電流、これに対し直交方向の磁界を発生させる電流をq軸電流と呼び、このd軸電流を流す方向の電圧をd軸電圧、q軸電流を流す方向の電圧をq軸電圧と呼ぶものとする。
【0005】
しかし、上述のように求められたd軸電圧指令、q軸電圧指令を出力する方向は、検出又は推定した位置を用いて演算されるため、同期モータが高回転で作動している間は、図5に示すように、実際の固定子の磁界方向に一致した磁界を発生させるd軸電圧(Vdreal)、q軸電圧(Vqreal)との間にずれが生じてしまう。例えば、現在の位置とサンプリング時間Ts秒後の次回の位置では、モータ電気角速度ωΦを用いてωΦTsだけずれることになる。そのため、Ts秒間の平均的なずれを小さくするために、現在位置から0.5ωΦTsだけ進めた位置に電圧を出力する方式が広く採用されている。尚、ここでは補正係数αV=0.5として、ωΦTsに乗じて電圧出力軸を補正している。
【0006】
しかしながら、このような従来の同期モータの制御システムにおいて、通常運転時は実際のd軸電圧及びq軸電圧との間のずれが小さくなるようにd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を出力することが可能であるものの、高回転領域では電流が発振傾向になりやすいため、所望する回転速度以上に上げることが困難になるという問題がある。
【0007】
一方、特開2009-183022号公報(特許文献1)には、同期モータに与えられた基準の磁極指令位置と磁極検出位置とを突き合わせて比例積分制御を含む位置/速度制御を行い、回転子の正負の移動方向に応じた磁極位置誤差推定値をモータの電気角位置に加算して制御上の磁極位置を更新することで、同期モータの誤差トルクを減少させる方向に制御を行う方式が提案されている。ところが、同期モータの慣性が大きく変化する場合には、位置/速度制御ゲインを最適に調整するゲイン調整時間が長くなるため、位置/速度制御ゲインの帯域を広く設定せざるを得ず、動作が不安定になってしまうという難点を有している。
【0008】
これに対し、特開2022-020905号公報(特許文献2)において、同期モータの電機子巻線に所定の引込電流を流して回転子又の磁極を引き込んだ時の回転子の移動量に基づいて同期モータの実際の磁極位置を推定する制御装置において、その移動量に所定の可変ゲインを演算して求めた制御角位置を用いるとともに、引込電流をフィードバックするための座標変換を行って、同期モータの通常運転時における前記移動量に加算するべき電機角位相オフセットを演算する方式が提案されている。
【0009】
ところが、この方式では同期モータの制御装置における制御手順が複雑でその処理負担が過大になりやすいことに加え、上述したような同期モータの高回転領域において生じる電流の発振傾向を抑制することが困難である。そのため、簡易な方式で総ての回転領域において安定した制御を行える同期モータの制御システムの開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009-183022号公報
【特許文献2】特開2022-020905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、同期モータの制御装置について、あらゆる回転領域で安定的に電流制御を行えるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明は、複数のスイッチング素子からなるインバータと、同期モータの三相電流又はモータ位置から同期モータの回転子の磁界方向に同期するベクトルで表したd軸電流及びq軸電流に変換する電流変換手段と、そのd軸電流及びq軸電流から電流フィードバッグ制御を用いてd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を算出する電流フィードバック制御演算手段と、そのd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を三相電圧指令値に変換する電圧指令値変換手段とを備え、前記三相電圧指令値に基づいてスイッチング素子をオン・オフ制御しながら同期モータに出力を行うとともに、回転子の磁界方向に一致した磁界を発生させるようにd軸電流を流すd軸電圧の出力ベクトルが前記磁界方向からずれる角度を縮小するために予め定めた補正係数を用いながら、前記d軸電圧及びこれに直交するq軸電圧の出力ベクトルの補正を行う同期モータの制御装置において、同期モータの回転速度の上昇に応じて前記補正係数を減少させながら、電圧の出力を回転子の磁界方向に一致した磁界を発生させるd軸電圧及びq軸電圧よりも遅らせる制御を実行することにより、高速回転時における電流の発振を抑制することを特徴とするものとした。
【0013】
このように、回転子の磁界方向からずれる角度を縮小するための所定の補正係数を同期モータの回転速度の上昇に応じて減少させながら、出力する電圧の位相を回転子の磁界方向に一致した磁界を発生させるd軸電圧及びq軸電圧よりも遅らせる制御方法を制御装置が実行する、という比較的簡易な方式を用いることで、高速運転時における電流の発振を抑制しながら、あらゆる回転領域において安定した電流制御が実行可能なものとなる。
【0014】
また、この同期モータの制御装置において、その補正係数の減少は、同期モータの電気角速度が所定のしきい値を上回ったことを検知した際に、補正係数に所定の負の値を加えることにより行われるものとした場合は、制御装置の負担を過大にすることなく、さらに安定した制御を実行可能なものとなる。
【発明の効果】
【0015】
回転子の磁界方向とのずれを縮小する補正係数を同期モータの回転速度の上昇に応じて減少させながら、その電圧の出力を回転子の磁界方向に一致した磁界を発生させるd軸電圧及びq軸電圧よりも遅らせる方式を採用した本発明によると、あらゆる回転領域において安定した電流制御を行えるものとした。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明における実施の形態である同期モータの制御装置による制御システムの概要を示す機能ブロック図。
図2図1の制御システムにおける演算手順を示すフローチャート。
図3】従来の同期モータの制御装置による制御システムの概要を示す機能ブロック図。
図4図3の制御システムにおける電気角で見た同期モータの三相電圧とd軸電圧及びq軸電圧のベクトル図。
図5図3の制御システムにおけるd軸電圧及びq軸電圧のベクトルのずれとその補正を示すベクトル図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0018】
図1は、本実施の形態である同期モータの制御装置1による制御システムの処理内容を機能的に示した機能ブロック図である。この制御装置1は、複数のスイッチング素子からなる図示しないインバータと、検出又は推定した同期モータの三相電流もしくはモータ位置情報から、同期モータの回転子の磁界方向に同期するベクトルで表したd軸電流及びq軸電流に変換する電流変換手段11と、そのd軸電流及びq軸電流から電流フィードバッグ制御を用いてd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を算出する電流フィードバック制御演算手段12と、それによるd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を三相電圧指令値に変換する電圧指令値変換手段13とを備えている。
【0019】
このようにして求めた三相電圧指令値に基づいて、スイッチング素子をオン・オフ制御しながら図示しない同期モータに対し出力を行うとともに、その同期モータの回転子による磁界の向きに一致した磁界を発生させるようにd軸電流を流すd軸電圧の出力ベクトルが、検出又は推定した回転子の磁界方向からずれる角度を縮小するために予め定めた補正係数を用いながら、d軸電圧及びこれに直交するq軸電圧の出力ベクトルの補正を行うようになっており、以上の構成部分については従来例と共通している。
【0020】
そして、本実施の形態である同期モータの制御装置1においては、上述した電圧指令値変換手段13が同期モータの回転速度の上昇に応じて、ずれを縮小するために予め定めた補正係数を減少させながら、その電圧の出力を、回転子の磁界方向に一致した磁界を発生させるd軸電圧及びq軸電圧よりも遅らせる制御を実行することにより、高速回転時における電流の発振を抑制する制御方法を採用しており、この点が本発明における最大の特徴部分となっている。
【0021】
即ち、本実施の形態の制御装置1による制御システムの従来例に対する変更点は、モータ電気角速度のずれωΦTsに乗じる補正係数αVの決定方法にあり、従来例において0.5の固定とするのが通常であった補正係数αVについて、回転速度の上昇に応じて減少させる処理を行うようにした点にある。
【0022】
図2は、本実施の形態における補正係数αVを決定する手順をフローチャートで示している。αVaveの演算は、現在のモータ電機角速度ωΦが、所定のしきい値ωΦHを上回ったことを検知した際に、図のような負の値が入る式による処理を行うものとしており、算出したαVaveに対し従来の制御システムと同様の0.5を足したものを、補正係数αVとして設定するようになっている。
【0023】
斯かる制御手順を実行することを特徴としている本実施の形態の同期モータの制御装置1によると、同期モータの高速回転時において電流の発振を抑制することが可能となり、従来の制御システムよりも高い回転速度を実現することが可能なものとなる。以下に、その理由について説明する。
【0024】
次の数式1,2は、同期モータのd軸、q軸における電流電圧方程式である。ここでは、Rをモータ1相分抵抗値[Ω]、Lをモータ1相分インダクタンス値[H]、ωΦをモータ電機角速度[rad/s]、Φmをモータ誘起電圧定数[V/(rad/s)]として方程式を記載している。数式1は同期モータの一般的な電流電圧方程式であり、数式2は数式1を変形したものである。ここで、d軸電流、q軸電流に起因する電圧は、各々実際のd軸電圧、q軸電圧であるため、Vdref、Vqrefではなく、Vdreal、Vqrealを用いている。
【数1】
【数2】
【0025】
次に、電流フィードバック制御における安定論展開を数式3乃至数式7を用いながら説明する。電流フィードバックの比例制御では、d軸電流指令値からd軸電流を引いた偏差と、q軸電流指令値からq軸電流を引いた偏差が各々小さくなるように、電流フィードバックゲインKAを掛けて制御している。ただし、指令値が一定であれば安定性に影響はないため、数式3にはd軸電流指令値とq軸電流指令値は含んでいない。
【数3】
【0026】
この数式3を図5の式3-2に代入すると、次の数式4を導くことができる。
【数4】
【0027】
これを上述した数式2に代入すると、次の数式5のようなd軸電流、q軸電流の微分方程式が得られる。
【数5】
【0028】
この数式の安定性を求めるため、数式5における下線部をAとおき、固有多項式を求めると、次の数式6を導くことができる。
【数6】
【0029】
安定論の観点から議論すれば、補正係数αVを負の値に設定して0次の項を小さくすることにより、減衰係数が大きくなるため電流の発振を抑えられることが分かる。さらに、発振する直前の、正常に制御可能な同期モータの電機角速度[rad/s]をしきい値ωΦHとして、ωΦ≧ωΦHを満たすとき、次の数式7により補正係数αVを設定すれば、0次の項の値が増加しなくなるため、高回転であっても同期モータを安定的に制御することができる。
【数7】
【0030】
以上、述べたように、本発明により同期モータの制御装置について、あらゆる回転領域で安定した電流制御を行えるようになった。
【符号の説明】
【0031】
1 制御装置、11 電流変換手段、12 電流フィードバック制御演算手段、13 電圧指令値変換手段
図1
図2
図3
図4
図5