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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156568
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】電動弁および冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/04 20060101AFI20241029BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20241029BHJP
   F25B 41/35 20210101ALI20241029BHJP
【FI】
F16K31/04 Z
F16K31/04 A
F25B1/00 396G
F25B1/00 396D
F25B41/35
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071152
(22)【出願日】2023-04-24
(71)【出願人】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110002608
【氏名又は名称】弁理士法人オーパス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 秀
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 威
【テーマコード(参考)】
3H062
【Fターム(参考)】
3H062AA02
3H062BB33
3H062EE01
3H062EE06
3H062FF41
3H062GG06
3H062GG08
3H062HH09
(57)【要約】
【課題】耐久性の低下を抑制できる電動弁、および、電動弁を有し、自然冷媒を用いた冷凍サイクル装置を提供する
【解決手段】電動弁1は、自然冷媒を用いた冷凍サイクル装置に組み込まれる。電動弁1は、弁体30と、弁体30を駆動する駆動機構40と、駆動機構40が内側に配置されるキャン20と、を有する。自然冷媒は、キャン20の内側に導入される。駆動機構40が、雄ねじ42tを有する駆動軸41と、雄ねじ42tが螺合される雌ねじ45tを有する軸受部材45と、を有する。駆動軸41と軸受部材45とは、フッ素グリースが塗布されている。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自然冷媒を用いた冷凍サイクル装置に用いられる電動弁であって、
弁体と、前記弁体を駆動する駆動機構と、前記駆動機構が内側に配置されるケースと、を有し、
前記自然冷媒が、前記ケースの内側に導入され、
前記駆動機構が、摺動部品を有し、
前記摺動部品にフッ素グリースが塗布されている、ことを特徴とする電動弁。
【請求項2】
前記駆動機構が、マグネットローターと、歯車を有する減速機構と、雄ねじを有する駆動軸と、前記雄ねじが螺合される雌ねじを有する軸受部材と、を有し、
前記マグネットローターが、前記減速機構を介して前記駆動軸と接続され、
前記マグネットローターが回転すると、前記駆動軸が回転して軸方向に移動し、
前記弁体が、前記駆動軸の移動に伴って前記軸方向に移動し、
前記駆動軸と前記軸受部材と前記歯車とが、前記摺動部品である、請求項1に記載の電動弁。
【請求項3】
前記駆動機構が、マグネットローターと、歯車を有する減速機構と、駆動軸と、前記駆動軸と接続された回転弁体と、を有し、
前記マグネットローターが、前記減速機構を介して前記駆動軸と接続され、
前記マグネットローターが回転すると、前記駆動軸および前記回転弁体が回転し、
前記歯車が、前記摺動部品である、請求項1に記載の電動弁。
【請求項4】
前記駆動機構が、マグネットローターと、雄ねじを有する雄ねじ部材と、前記雄ねじと螺合される雌ねじを有する雌ねじ部材と、を有し、
前記雄ねじ部材および前記雌ねじ部材の一方を第1部材とし、他方を第2部材とすると、前記マグネットローターが、前記第1部材と接続され、前記マグネットローターが回転すると、前記第1部材が回転して前記第2部材に対して軸方向に移動し、
前記弁体が、前記第2部材に対する前記第1部材の移動に伴って前記軸方向に移動し、
前記第1部材と前記第2部材とが、前記摺動部品である、請求項1に記載の電動弁。
【請求項5】
前記フッ素グリースの基油が、パーフルオロポリエーテル、クロロトリフルオロエチレンまたはパーフルオロアルキルエーテルを主成分としている、請求項1に記載の電動弁。
【請求項6】
前記自然冷媒が、二酸化炭素またはプロパンを主成分としており、
前記自然冷媒とともに流動される冷凍機油が、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコールまたはポリビニルエーテルを主成分としている、請求項1に記載の電動弁。
【請求項7】
自然冷媒を用いた冷凍サイクル装置であって、
弁体と、前記弁体を駆動する駆動機構と、前記駆動機構が内側に配置されるケースと、を有する電動弁を有し、
前記自然冷媒が、前記ケースの内側に導入され、
前記駆動機構が、摺動部品を有し、
前記摺動部品にフッ素グリースが塗布されている、ことを特徴とする冷凍サイクル装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動弁および冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電動弁が特許文献1に開示されている。特許文献1の電動弁は、例えば、冷凍サイクル装置に組み込まれ、冷媒の流量制御に用いられる。電動弁は、キャンと、マグネットローターと、減速機構と、駆動軸と、軸受部材と、弁体と、を有している。マグネットローター、減速機構、駆動軸および軸受部材は、キャンの内側に配置される。キャンの内側には冷媒が導入される。マグネットローターは、減速機構を介して駆動軸と接続される。駆動軸は雄ねじを有する。軸受部材は、雄ねじが螺合される雌ねじを有する。駆動軸が回転すると、駆動軸は軸方向に移動する。駆動軸の移動に伴って弁体が軸方向に移動する。駆動軸、軸受部材および減速機構の歯車は摺動部品であり、摺動部品にはグリースが塗布される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-197849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
冷凍サイクル装置において、自然冷媒が用いられることがある。自然冷媒は、例えば、二酸化炭素またはプロパンを主成分としている。自然冷媒は、多くの冷凍サイクル装置で用いられるハイドロフルオロカーボン(HFC)冷媒に比べて高圧状態で流動される。
【0005】
電動弁の摺動部品に塗布されるグリースの基油は、鉱油または合成油(エーテル系油、エステル系油など)を主成分としている。そのため、グリースは、冷媒とともに流動される冷凍機油との相溶性が比較的高く、グリースが溶け出して減少することがある。
【0006】
HFC冷媒を用いた冷凍サイクル装置は、電動弁の入口と出口との冷媒圧力の差が比較的小さく、摺動部品に加わる力が小さい。そのため、グリースが減少しても冷凍機油によって潤滑性を補うことができる。
【0007】
しかしながら、自然冷媒を用いた冷凍サイクル装置は、電動弁の入口と出口との冷媒圧力の差が比較的大きく、摺動部品に加わる力が大きい。そのため、グリースが減少したときに冷凍機油によって潤滑性を補うことができず、摺動部品の耐久性が低下するおそれがある。
【0008】
そこで、本発明は、耐久性の低下を抑制できる電動弁、および、電動弁を有し、自然冷媒を用いた冷凍サイクル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る電動弁は、自然冷媒を用いた冷凍サイクル装置に用いられる電動弁であって、弁体と、前記弁体を駆動する駆動機構と、前記駆動機構が内側に配置されるケースと、を有し、前記自然冷媒が、前記ケースの内側に導入され、前記駆動機構が、摺動部品を有し、前記摺動部品にフッ素グリースが塗布されている、ことを特徴とする。
【0010】
本発明において、前記駆動機構が、マグネットローターと、歯車を有する減速機構と、雄ねじを有する駆動軸と、前記雄ねじが螺合される雌ねじを有する軸受部材と、を有し、前記マグネットローターが、前記減速機構を介して前記駆動軸と接続され、前記マグネットローターが回転すると、前記駆動軸が回転して軸方向に移動し、前記弁体が、前記駆動軸の移動に伴って前記軸方向に移動し、前記駆動軸と前記軸受部材と前記歯車とが、前記摺動部品である、ことが好ましい。
【0011】
本発明において、前記駆動機構が、マグネットローターと、歯車を有する減速機構と、駆動軸と、前記駆動軸と接続された回転弁体と、を有し、前記マグネットローターが、前記減速機構を介して前記駆動軸と接続され、前記マグネットローターが回転すると、前記駆動軸および前記回転弁体が回転し、前記歯車が、前記摺動部品である、ことが好ましい。
【0012】
本発明において、前記駆動機構が、マグネットローターと、雄ねじを有する雄ねじ部材と、前記雄ねじと螺合される雌ねじを有する雌ねじ部材と、を有し、前記雄ねじ部材および前記雌ねじ部材の一方を第1部材とし、他方を第2部材とすると、前記マグネットローターが、前記第1部材と接続され、前記マグネットローターが回転すると、前記第1部材が回転して前記第2部材に対して軸方向に移動し、前記弁体が、前記第2部材に対する前記第1部材の移動に伴って前記軸方向に移動し、前記第1部材と前記第2部材とが、前記摺動部品である、ことが好ましい。
【0013】
本発明において、前記フッ素グリースの基油が、パーフルオロポリエーテル、クロロトリフルオロエチレンまたはパーフルオロアルキルエーテルを主成分としている、ことが好ましい。
【0014】
本発明において、前記自然冷媒が、二酸化炭素またはプロパンを主成分としており、前記自然冷媒とともに流動される冷凍機油が、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコールまたはポリビニルエーテルを主成分としている、ことが好ましい。
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の他の一態様に係る冷凍サイクル装置は、自然冷媒を用いた冷凍サイクル装置であって、弁体と、前記弁体を駆動する駆動機構と、前記駆動機構が内側に配置されるケースと、を有する電動弁を有し、前記自然冷媒が、前記ケースの内側に導入され、前記駆動機構が、摺動部品を有し、前記摺動部品にフッ素グリースが塗布されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電動弁の駆動機構が、自然冷媒が導入されるケースの内側に配置され、駆動機構の摺動部品にフッ素グリースが塗布されている。フッ素グリースは、自然冷媒の主成分と反応しない。また、フッ素グリースの基油はフッ素油であり、フッ素グリースの基油と自然冷媒とともに流動される冷凍機油とは相溶性を有していない、または、相溶性が非常に低い。そのため、電動弁において、フッ素グリースが溶け出すことを抑制でき、フッ素グリースによる潤滑性を維持することができる。したがって、電動弁の摺動部品の耐久性の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る冷凍サイクル装置のブロック図である。
図2図1の冷凍サイクル装置が有する電動弁の縦断面図である。
図3図2の電動弁の一部を拡大した図である。
図4】冷媒によるグリースの減少に関する試験結果を示す図である。
図5図4の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る冷凍サイクル装置について、図1図3を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る冷凍サイクル装置のブロック図である。図2は、図1の冷凍サイクル装置が有する電動弁の縦断面図である。図3は、図2の電動弁の一部(駆動機構およびその近傍)を拡大した図である。本明細書において、「上下」は、各図における上下方向を示す。
【0020】
冷凍サイクル装置100は、例えば、空気調和機である。冷凍サイクル装置100は、自然冷媒を用いている。
【0021】
冷凍サイクル装置100において、自然冷媒および冷凍機油が循環される。自然冷媒は、二酸化炭素またはプロパンを主成分としている。冷凍機油は、例えば、ポリアルキレングリコール油(PAG)、ポリオールエステル油(POE)、ポリビニルエステル油(PVE)である。
【0022】
図1に示すように、冷凍サイクル装置100は、配管105を介して順に接続された圧縮機101と、凝縮器102と、電動弁1と、蒸発器103と、を有している。電動弁1は、膨張弁(減圧器)である。冷凍サイクル装置100は、制御装置110を有している。制御装置110は、電動弁1と接続されている。制御装置110は、電動弁1を用いて配管105を流れる自然冷媒の流量を制御する。
【0023】
図2図3に示すように、電動弁1は、弁本体10と、キャン20と、弁体30と、駆動機構40と、ステーターユニット70と、を有している。
【0024】
弁本体10は、ハウジング11と、スリーブ14と、接続部材16と、を有している。
【0025】
ハウジング11は、円筒形状を有している。ハウジング11は、周壁部11aと、底壁部11bと、を一体的に有している。底壁部11bは、周壁部11aの下端に接続されている。ハウジング11は、弁室12と、弁口13と、を有している。弁口13は、底壁部11bに配置されており、弁室12に開口している。周壁部11aの内周面には、上方を向く円環形状の平面11cが設けられている。周壁部11aの上部には、横孔11dが設けられている。周壁部11aには、第1導管18が接合されている。第1導管18は、弁室12に接続されている。底壁部11bには、第2導管19が接合されている。第2導管19は、弁口13に接続されている。
【0026】
スリーブ14は、円筒形状を有している。スリーブ14は、第1円筒部14aと、接続部14bと、第2円筒部14cと、フランジ部14dと、を一体的に有している。第2円筒部14cの内径は、第1円筒部14aの内径より大きい。接続部14bは、円環平板形状を有している。接続部14bの内周縁が、第1円筒部14aの上端に接続され、接続部14bの外周縁が、第2円筒部14cの下端に接続されている。フランジ部14dは、円環平板形状を有している。フランジ部14dの内周縁が、第2円筒部14cの上端に接続されている。第1円筒部14a、接続部14bおよび第2円筒部14cは、弁室12に配置されている。フランジ部14dは、ハウジング11の平面11cに接している。
【0027】
接続部材16は、円環平板形状を有している。接続部材16の内側には、周壁部11aが配置されている。接続部材16の内周縁は、周壁部11aに接合されている。
【0028】
キャン20は、円筒形状を有している。キャン20は、下端が開口しかつ上端が塞がれている。キャン20の下端は、接続部材16の外周縁に接合されている。キャン20は、ケースである。
【0029】
弁体30は、胴部31と、弁部32と、ばね受け部33と、ボール受け部34と、を有している。胴部31は、円柱形状を有している。胴部31の外径は、スリーブ14の第1円筒部14aの内径と同一である。弁部32は、先端が下方を向く円すい形状を有している。弁部32は、胴部31の下端に接続されている。弁部32は、弁口13と上下方向(軸線L方向)に向かい合っている。ばね受け部33は、円環形状を有している。ばね受け部33の外径は、胴部31の外径より大きい。ばね受け部33は、胴部31の上端に接続されている。胴部31、弁部32およびばね受け部33は、一体的に形成されている。
【0030】
胴部31は、第1円筒部14aの内側に配置され、第1円筒部14aに上下方向に移動可能に支持されている。胴部31は、開弁ばね35の内側に配置されている。開弁ばね35は、圧縮コイルばねである。開弁ばね35は、ばね受け部33とスリーブ14の接続部14bとの間に配置されている。開弁ばね35は、弁体30を上方に押している。
【0031】
ボール受け部34は、板部と、板部の下面に接続された柱形状の突部と、を一体的に有している。突部は、胴部31の上端面に設けられた穴に嵌合されている。
【0032】
駆動機構40は、弁体30を上下方向に移動させる。駆動機構40は、キャン20の内側に配置されている。駆動機構40は、駆動軸41と、軸受部材45と、マグネットローター51と、連結部材52と、ローター軸53と、支持部材54と、遊星歯車機構60と、を有している。
【0033】
駆動軸41は、円柱部42と、平板部43と、ボール44と、を有している。円柱部42は、雄ねじ42tを有している。雄ねじ42tは、円柱部42の外周面に配置されている。平板部43は、円柱部42の上端面から上方に延びている。円柱部42と平板部43とは、一体的に形成されている。ボール44は、円柱部42の下端面に接合されている。駆動軸41は、弁体30と接続されている。具体的には、駆動軸41のボール44が、弁体30のボール受け部34に摺動可能に接している。
【0034】
軸受部材45は、円筒形状を有している。軸受部材45は、ハウジング11の周壁部11aの上部の内側に配置されている。軸受部材45は、周壁部11aに固定されている。軸受部材45の下端面と周壁部11aの平面11cとの間に、スリーブ14のフランジ部14dが保持されている。軸受部材45は、雌ねじ45tを有している。雌ねじ45tは、軸受部材45の内周面の下部に配置されている。駆動軸41の雄ねじ42tは、雌ねじ45tに螺合される。なお、駆動軸41が雌ねじを有し、軸受部材45が、駆動軸41の雌ねじに螺合される雄ねじを有していてもよい。
【0035】
軸受部材45は、縦孔45dと、環状溝45eと、を有している。縦孔45dは、軸受部材45の下端面から上方に延びている。環状溝45eは、軸受部材45の外周面に配置されており、周方向に延びている。環状溝45eは、縦孔45dの上部と接続されている。環状溝45eは、周壁部11aの横孔11dと接続されている。
【0036】
弁室12の自然冷媒は、スリーブ14と弁体30との隙間、スリーブ14の内側、縦孔45d、環状溝45eおよび横孔11dを通り、キャン20の内側に導入される。自然冷媒とともに流動される冷凍機油も、キャン20の内側に導入される。
【0037】
ボール受け部34、駆動軸41および軸受部材45は、例えば、ステンレスや真ちゅうなどの金属で構成されていることが好ましい。また、ボール受け部34、駆動軸41および軸受部材45は、例えば、窒化処理などの表面硬化処理が施されていることが好ましい。
【0038】
マグネットローター51は、円筒形状を有している。連結部材52は、円板形状を有しており、マグネットローター51の上端に接続されている。マグネットローター51は、連結部材52を介してローター軸53に連結されている。支持部材54は、円板形状を有している。支持部材54は、マグネットローター51の上方に配置されている。支持部材54は、ローター軸53の上端を回転可能に支持している。
【0039】
遊星歯車機構60は、マグネットローター51の回転を減速する減速機構である。遊星歯車機構60は、マグネットローター51と駆動軸41とを接続し、マグネットローター51の回転を駆動軸41に伝達する。遊星歯車機構60は、マグネットローター51の内側に配置されている。遊星歯車機構60は、ギヤケース61と、固定リング歯車62と、太陽歯車63と、複数の遊星歯車64と、キャリア65と、出力歯車66と、出力軸67と、を有している。
【0040】
ギヤケース61は、円筒形状を有している。ギヤケース61は、ハウジング11の周壁部11aの上部に固定されている。固定リング歯車62は、内歯車である。固定リング歯車62は、ギヤケース61の上部に固定されている。太陽歯車63は、連結部材52の下面に同軸に接続されている。太陽歯車63と連結部材52とは、一体的に形成されている。太陽歯車63の内側には、ローター軸53が挿通されている。複数の遊星歯車64は、太陽歯車63を囲んでいる。複数の遊星歯車64は、固定リング歯車62および太陽歯車63と噛み合っている。キャリア65は、板形状を有している。キャリア65は、複数の遊星歯車64を回転可能に支持する支持軸を有している。出力歯車66は、有底筒形状を有する内歯車である。出力歯車66は、遊星歯車64と噛み合っている。各歯車は、例えば、ステンレスや真ちゅうなどの金属、または、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのエンジニアリングプラスチックで構成されていることが好ましい。
【0041】
出力軸67は、円柱形状を有している。出力軸67の下部は、軸受部材45の内側に配置されている。出力軸67の外周面と軸受部材45の内周面とが摺動可能に接している。出力軸67は、軸受部材45に回転可能に支持されている。出力軸67の上部は出力歯車66の底部に固定されており、出力軸67は出力歯車66とともに回転する。出力軸67は、ローター軸53の下端が配置される軸受穴を有している。出力軸67は、ローター軸53の下端を回転可能に支持している。出力軸67は、例えば、ステンレスや真ちゅうなどの金属で構成されていることが好ましい。
【0042】
出力軸67は、上下方向に延びるスリット67aを有している。スリット67aは、出力軸67の下部に配置されている。スリット67aの幅は、駆動軸41の平板部43の厚さと同一である。出力軸67は、駆動軸41と接続される。具体的には、平板部43はスリット67aに上下方向に移動可能に配置される。出力軸67が回転すると、平板部43(駆動軸41)が回転し、平板部43がスリット67a内で上下方向に移動する。
【0043】
ステーターユニット70は、ステーター71と、ステーターケース72と、を有している。ステーター71は、円筒形状を有している。ステーター71は、キャン20の外側に配置されている。ステーター71とマグネットローター51とは電動モーターを構成している。ステーターケース72は、プラスチックで構成されており、ステーター71を収容している。ステーターユニット70は、キャン20に固定されている。
【0044】
ハウジング11、弁口13、スリーブ14、キャン20、弁体30、駆動軸41、軸受部材45、マグネットローター51、連結部材52、ローター軸53、固定リング歯車62、太陽歯車63、出力歯車66、出力軸67は、それぞれの中心軸が軸線Lと一致する。
【0045】
次に、電動弁1の動作について説明する。
【0046】
電動弁1において、ステーター71に通電して、マグネットローター51を一方向に回転させる。マグネットローター51の回転が、遊星歯車機構60を介して駆動軸41に伝達される。駆動軸41が回転すると、送りねじ作用によって駆動軸41が下方に移動する。駆動軸41は、弁体30を下方に押す。弁体30が下方に移動し、弁部32が弁口13に近づき、弁口13の開度が小さくなる。
【0047】
電動弁1において、ステーター71に通電して、マグネットローター51を他方向に回転させる。マグネットローター51の回転が、遊星歯車機構60を介して駆動軸41に伝達される。駆動軸41が回転すると、送りねじ作用によって駆動軸41が上方に移動する。開弁ばね35に押された弁体30が上方に移動し、弁部32が弁口13から離れ、弁口13の開度が大きくなる。
【0048】
電動弁1が動作すると、駆動機構40の部品が摺動する。具体的には、駆動軸41の雄ねじ42tと軸受部材45の雌ねじ45tとが摺動し(S1)、連結部材52と支持部材54とが摺動し(S2)、固定リング歯車62と複数の遊星歯車64とが摺動し(S3)、太陽歯車63と複数の遊星歯車64とが摺動し(S4)、出力歯車66と複数の遊星歯車64とが摺動し(S5)、軸受部材45と出力歯車66とが摺動し(S6)、軸受部材45と出力軸67とが摺動し(S7)、駆動軸41の平板部43と出力軸67のスリット67aの内面とが摺動し(S8)、ボール受け部34とボール44とが摺動する(S9)。図2において、摺動箇所を符号S1~S9で示す。
【0049】
駆動軸41と、軸受部材45と、連結部材52と、支持部材54と、固定リング歯車62と、太陽歯車63と、複数の遊星歯車64と、出力歯車66と、出力軸67と、は摺動部品である。摺動部品には、フッ素グリースが塗布されている。
【0050】
フッ素グリースは、基油と、増ちょう剤と、固体潤滑剤と、を含む。基油は、フッ素油であり、例えば、パーフルオロポリエーテル(PFPE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)またはパーフルオロアルキルエーテル(PFAE)が主成分の油である。基油は、自然冷媒の主成分(二酸化炭素、プロパン)と反応する化学構造を有していない。基油は、自然冷媒の主成分および冷凍機油との相溶性を有していない、または、相溶性が非常に低い。本実施形態において、増ちょう剤および固体潤滑剤は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。PTFEは、自然冷媒の主成分および冷凍機油と相溶性を有していない、または、相溶性が非常に低い。そのため、フッ素グリースは、自然冷媒および冷凍機油に溶け出さない、または、これらに溶け出す量が非常に少ない。なお、増ちょう剤として、PTFEに代えて、例えば、ベントナイト、石鹸系(カルシウム石鹸、カルシウムコンプレックス、ナトリウム石鹸、アルミニウム石鹸、アルミニウムコンプレックス、リチウム石鹸、リチウムコンプレックス)、シリカゲル、ポリウレアを使用してもよく、または、これらをPTFEと混合して使用してもよい。
【0051】
以上説明したように、自然冷媒を用いた冷凍サイクル装置100は、電動弁1を有する。電動弁1は、弁体30と、弁体30を駆動する駆動機構40と、駆動機構40が内側に配置されるキャン20と、を有する。自然冷媒および冷凍機油が、キャン20の内側に導入される。
【0052】
駆動機構40が、駆動軸41と、軸受部材45と、マグネットローター51と、遊星歯車機構60と、を有する。駆動軸41が雄ねじ42tを有する。軸受部材45が、雄ねじ42tが螺合される雌ねじ45tを有する。遊星歯車機構60は、歯車(固定リング歯車62、太陽歯車63、複数の遊星歯車64、出力歯車66)を有している。マグネットローター51が、遊星歯車機構60を介して駆動軸41と接続される。マグネットローター51が回転すると、駆動軸41が回転して上下方向に移動する。弁体30が、駆動軸41の移動に伴って上下方向に移動する。そして、摺動部品である駆動軸41と軸受部材45と歯車とにフッ素グリースが塗布されている。
【0053】
フッ素グリースは、自然冷媒の主成分と反応しない。また、フッ素グリースの基油はフッ素油であり、フッ素グリースの基油と自然冷媒とともに流動される冷凍機油とは相溶性を有していない、または、相溶性が非常に低い。そのため、フッ素グリースが自然冷媒および冷凍機油に溶け出すことを抑制でき、摺動部品においてフッ素グリースによる潤滑性を維持することができる。したがって、電動弁1の摺動部品の耐久性の低下を抑制できる。
【0054】
電動弁1は、マグネットローター51の回転を減速する減速機構を有しない構成でもよい。この構成では、例えば、駆動機構40が、マグネットローター51と、駆動軸41と、軸受部材45と、を有する。駆動軸41が、雄ねじ42tを有する。軸受部材45が、雄ねじ42tが螺合される雌ねじ45tを有する。マグネットローター51が、駆動軸41と直接的に接続される。弁体30が、駆動軸41の下端に直接的に接続される。マグネットローター51の回転が、直接的に駆動軸41に伝達される。マグネットローター51が回転すると、駆動軸41が回転して軸受部材45に対して上下方向に移動する。駆動軸41は、雄ねじ部材であり、第1部材である。軸受部材45は、雌ねじ部材であり、第2部材である。弁体30が、駆動軸41の移動に伴って上下方向に移動する。そして、摺動部品である駆動軸41と軸受部材45とにフッ素グリースが塗布されている。なお、駆動軸41が雌ねじを有し、軸受部材45が、駆動軸41の雌ねじに螺合される雄ねじを有していてもよい。
【0055】
または、電動弁1は、上下方向(軸線L方向)に移動する弁体30に代えて、軸線L周りに回転するボール弁体(回転弁体)を有する構成でもよい。この構成では、駆動機構40が、マグネットローター51と、遊星歯車機構60と、駆動軸41と、駆動軸41と接続されたボール弁体と、を有する。マグネットローター51が、遊星歯車機構60を介して駆動軸41と接続される。マグネットローター51が回転すると、駆動軸41およびボール弁体が回転する。駆動軸41は上下方向(軸方向)に移動しない。そして、摺動部品である遊星歯車機構60の歯車にフッ素グリースが塗布されている。
【0056】
これら構成においても、上述した電動弁1と同一の作用効果を奏する。
【0057】
本発明者らは、本発明の実施例1、2および比較例1、2を用いて、冷媒および冷凍機油によるグリースの減少に関する試験をおこなった。
【0058】
(実施例1)
マグネットローター51、連結部材52、ローター軸53および遊星歯車機構60からなる組立体を用意した。組立体に含まれる摺動部品に規定量のフッ素グリースを塗布し、組立体の重量(初期重量)を計測後、電動弁1に組み込んだ。フッ素グリースは、PFAE(基油)およびPTFE(増ちょう剤および固体潤滑剤)を主成分として含むものを用いた。
【0059】
(実施例2)
マグネットローター51、連結部材52、ローター軸53および遊星歯車機構60からなる組立体を用意した。組立体に含まれる摺動部品に規定量のフッ素グリースを塗布し、組立体の重量(初期重量)を計測した。そして、組立体を冷凍機油(温度120度)に96時間浸漬した後、電動弁1に組み込んだ。フッ素グリースは、実施例1と同じものを用いた。冷凍機油は、HFC冷媒を用いた冷凍サイクル装置に使用される、ポリビニルエーテルを主成分とするものを用いた。実施例2は、冷凍機油の影響を擬似的に進行させたものである。
【0060】
(比較例1)
マグネットローター51、連結部材52、ローター軸53および遊星歯車機構60からなる組立体を用意した。組立体に含まれる摺動部品に規定量の鉱油系グリースを塗布し、組立体の重量(初期重量)を計測後、電動弁1に組み込んだ。鉱油系グリースは、鉱油(基油)、ベントナイト(増ちょう剤)および二流化モリブデン(固体潤滑剤)を主成分として含むものを用いた。
【0061】
(比較例2)
マグネットローター51、連結部材52、ローター軸53および遊星歯車機構60からなる組立体を用意した。組立体に含まれる摺動部品に規定量の鉱油系グリースを塗布し、組立体の重量(初期重量)を計測した。そして、組立体を冷凍機油(温度120度)に96時間浸漬した後、電動弁1に組み込んだ。鉱油系グリースは、比較例1と同じものを用いた。冷凍機油は、実施例2と同じものを用いた。比較例2は、冷凍機油の影響を擬似的に進行させたものである。
【0062】
(試験)
電動弁1の一方の導管に冷媒供給装置を接続し、他方の導管に冷媒回収装置を接続する。冷媒供給装置によって電動弁1の弁室12およびキャン20に液相の冷媒(冷凍機油を含まない)を充填し、冷媒回収装置によって冷媒を回収して弁室12およびキャン20を空にする操作(充填回収操作)をおこなう。実施例1および比較例1において、グリースが冷媒と相溶性を有する場合、回収した冷媒にグリースが溶け出す。実施例2および比較例2において、グリースが冷凍機油と相溶性を有する場合、グリースは冷凍機油浸漬時に溶けだし、塗布した部位から流れ出ている。仮に冷凍機油や冷凍機油に溶け出したグリースが電動弁1内に残留していても、冷凍機油が冷媒に溶け出すため、グリースも冷凍機油も冷媒とともに回収される。充填回収操作を所定の回数おこなうと、電動弁1から組立体を取り外して、組立体の重量を計測する。測定した重量からグリース残量(%)を算出する。冷媒は、R410A(HFC冷媒)を用いる。試験に使用した冷凍機油は、R410Aと相溶性を有する。実施例1、2および比較例1、2の試験結果を図4図5に示す。図4は、充填回収操作回数とグリース残量とを示す表である。図4は、充填回収操作回数とグリース残量との関係を示すグラフである。
【0063】
比較例1、2に対して充填回収操作を20回繰り返しおこなうと、比較例1はグリースがほとんど減少しないが、比較例2はグリースが大きく減少している。このことから、鉱油系グリースは、HFC冷媒とは反応しないが、冷凍機油との相溶性を有しており、冷媒とともに冷凍機油が流動されると溶け出すことがわかる。
【0064】
実施例1、2に対して充填回数操作を繰り返しおこなうと、実施例1、2ともに回数が多くなるにしたがってグリースが徐々に減少する。実施例1、2においてグリースが同様に減少しており、冷凍機油の影響を擬似的に進行させてもグリース残量の変化に違いがない。このことから、フッ素グリースは冷凍機油に対して相溶性を有していないことがわかる。フッ素グリースの減少は、フッ素グリースの基油がHFC冷媒と反応していることが原因と推測される。一方、フッ素グリースの基油は、自然冷媒の主成分と反応する化学構造を有していない。このことから、フッ素グリースは、自然冷媒および冷凍機油に溶け出さないと考えられる。この試験結果は、本発明の効果を裏付けるものである。
【0065】
本明細書において、「円筒」や「円柱」等の形状を示す各用語は、実質的にその用語の形状を有する部材や部材の部分にも用いられている。例えば、「円筒形状の部材」は、円筒形状の部材と実質的に円筒形状の部材とを含む。また、本明細書において、「同一」との用語は、厳密に同一の場合と、実質的に同一の場合を含むことがある。
【0066】
上記に本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。前述の実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更をおこなったものや、実施形態の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の趣旨に反しない限り、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0067】
1…電動弁、10…弁本体、11…ハウジング、11a…周壁部、11b…底壁部、11c…平面、11d…横孔、12…弁室、13…弁口、14…スリーブ、14a…第1円筒部、14b…接続部、14c…第2円筒部、14d…フランジ部、16…接続部材、18…第1導管、19…第2導管、20…キャン、30…弁体、31…胴部、32…弁部、33…ばね受け部、34…ボール受け部、35…開弁ばね、40…駆動機構、41…駆動軸、42…円柱部、42t…雄ねじ、43…平板部、44…ボール、45…軸受部材、45d…縦孔、45e…環状溝、45t…雌ねじ、51…マグネットローター、52…連結部材、53…ローター軸、54…支持部材、60…遊星歯車機構、61…ギヤケース、62…固定リング歯車、63…太陽歯車、64…遊星歯車、65…キャリア、66…出力歯車、67…出力軸、67a…スリット、70…ステーターユニット、71…ステーター、72…ステーターケース、100…冷凍サイクル装置、101…圧縮機、102…凝縮器、103…蒸発器、105…配管、110…制御装置、L…軸線、S1~S9…摺動箇所

図1
図2
図3
図4
図5