(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156592
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】コンクリート封緘養生用シート
(51)【国際特許分類】
E04G 21/02 20060101AFI20241029BHJP
C04B 41/63 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
E04G21/02 104
C04B41/63
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133035
(22)【出願日】2023-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2023071111
(32)【優先日】2023-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000199979
【氏名又は名称】川上産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森島 敏之
【テーマコード(参考)】
2E172
4G028
【Fターム(参考)】
2E172AA05
2E172EA01
4G028CB01
4G028CD06
(57)【要約】
【課題】粘着剤を利用せずとも、脱型直後の水が多く滲出しているコンクリートの表面に貼着可能な養生シートを提供する。
【解決手段】打設されたコンクリートを封緘養生するために、コンクリートの表面Sに敷設して使用される養生用シート1であって、少なくとも一層からなり、少なくともコンクリートの表面Sに対向して敷設される層を極性官能基含有モノマーに由来する重合単位を有する樹脂成分を含む樹脂材料を用いて成形し、脱型直後の水が滲出しているコンクリートの表面に水貼り可能とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
打設されたコンクリートを封緘養生するために、コンクリートの表面に敷設して使用されるコンクリート封緘養生用シートであって、
少なくとも一層からなり、少なくとも前記コンクリートの表面に対向して敷設される層が、極性官能基含有モノマーに由来する重合単位を有する樹脂成分を含む樹脂材料を用いて成形され、
脱型直後の水が滲出しているコンクリートの表面に水貼り可能なことを特徴とするコンクリート封緘養生用シート。
【請求項2】
前記樹脂材料中に占める前記極性官能基含有モノマーに由来する重合単位を有する樹脂成分の割合が10~100重量%である請求項1に記載のコンクリート封緘養生用シート。
【請求項3】
中空状に膨出する多数の突起が形成されたキャップフィルムと、前記突起内に空気を封入するバックフィルムとが積層された二層構造の気泡シートからなり、少なくとも前記バックフィルムが、前記樹脂材料を用いて成形されている請求項1に記載のコンクリート封緘養生用シート。
【請求項4】
中空状に膨出する多数の突起が形成されたキャップフィルムと、前記突起内に空気を封入するバックフィルムと、前記突起の頂面側に積層されたライナーフィルムとが積層された三層構造の気泡シートからなり、少なくとも前記バックフィルム又は前記ライナーフィルムが、前記樹脂材料を用いて成形されている請求項1に記載のコンクリート封緘養生用シート。
【請求項5】
少なくとも一層が着色されている請求項1~4のいずれか一項に記載のコンクリート封緘養生用シート。
【請求項6】
封緘養生を終えたコンクリートから剥がされた後も、当該コンクリートとは別のコンクリートを封緘養生するために再利用が可能な請求項1~4のいずれか一項に記載のコンクリート封緘養生用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打設されたコンクリートを封緘養生するために、コンクリートの表面に敷設して使用されるコンクリート封緘養生用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
土木構造物や建築構造物などの施工現場において、コンクリートを打設してコンクリート構造物を構築するに際しては、コンクリートの主要材料であるセメントの水和反応が十分に発揮されるように、打設されたコンクリートを養生することが求められる。例えば、コンクリートの品質を管理するにあたり、試験体を用意して強度試験を行うと、試験体を水中で養生した場合には、試験体を気中に放置した場合に比べて、15~30パーセントほど強度が高くなることが知られている。
【0003】
また、コンクリートを養生するには、例えば、型枠を取り外した後に、コンクリートの表面に養生用シートを敷設して、コンクリートから水分が散逸しない状態で養生(封緘養生)することが知られている。例えば、特許文献1には、コンクリートの表面を被蓋するように貼着することによって、コンクリートを湿潤状態に保つことができるように、基材層と粘着剤層とから構成されたコンクリート養生用粘着テープが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1にあっては、粘着テープを剥がしたときに、粘着剤層がコンクリート表面上に残らないように、基材層と粘着剤層との間にプライマー層を設けたり、粘着剤層を保護する剥離ライナーを備えたりすることが要求される。さらに、脱型直後のコンクリートは水を大量に含んでおり、その表面には多くの水が滲出しているため、脱型直後のコンクリートの表面に粘着テープを貼り付けようとしても、粘着テープの粘着性が水によって損なわれてしまう。したがって、少なくとも数時間から数日の時間が経ってからからでないと、粘着テープを貼り付けることができず、その間、コンクリートの養生ができずに、コンクリートから熱と水分が散逸することになり、コンクリートにとって好ましくない環境が続くことになる。
【0006】
本発明者らは、上記背景技術に鑑みて、脱型直後の水が多く滲出しているコンクリートの表面に貼着可能な養生用シートを提供するべく鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るコンクリート封緘養生用シートは、打設されたコンクリートを封緘養生するために、コンクリートの表面に敷設して使用されるコンクリート封緘養生用シートであって、少なくとも一層からなり、少なくとも前記コンクリートの表面に対向して敷設される層が、極性官能基含有モノマーに由来する重合単位を有する樹脂成分を含む樹脂材料を用いて成形され、脱型直後の水が滲出しているコンクリートの表面に水貼り可能な構成としてある。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るコンクリート封緘養生用シートは、脱型直後の水が多く滲出しているコンクリートの表面に貼着することができる。その結果、脱型直後にコンクリートの表面に多くの水が滲出していても、脱型直後から無養生期間を経ることなく養生を開始することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係るコンクリート封緘養生用シートの概略を示す説明図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るコンクリート封緘養生用シートの変形例の概略を示す説明図である。
【
図3】二層構造の気泡シートの一例を斜視して示す説明図である。
【
図4】三層構造の気泡シートの一例を斜視して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0011】
図1に示すように、養生用シート1は、打設されたコンクリートを封緘養生するために、打設されたコンクリートの表面Sに敷設して使用される。
【0012】
なお、
図1には、打設されたコンクリートの表面Sに敷設された養生用シート1の断面を示すとともに、当該表面Sを含むコンクリートの断面を併せて示している。
【0013】
養生用シート1は、コンクリートからの水分の散逸を抑制し得る不透水性のシートに成形可能であるとともに、脱型直後の水が滲出しているコンクリートの表面に水貼り可能となるように、親水性を発揮し得る極性官能基含有モノマーに由来する重合単位を有する樹脂成分を含む樹脂材料を用いて成形されている。ここで、水貼りとは、養生用シート1とコンクリートの表面との間に介在する水によって、養生用シート1をコンクリートの表面に貼着させることをいうものとする。すなわち、本実施形態にあっては、コンクリートの表面に滲出している水を積極的に利用して、かかるコンクリートの表面に養生用シート1を貼着できるようにしたことに技術的な意義がある。
【0014】
極性官能基含有モノマーに由来する重合単位を有する樹脂成分としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水フマル酸、無水フタル酸等の酸無水物、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸アルキル、又はメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸アルキルなどの極性官能基含有モノマーと、エチレン、プロピレン、又は1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、1-デセン等のα-オレフィンなどの不飽和二重結合を有するオレフィンモノマーを共重合することによって、極性官能基を導入した変性ポリオレフィンなどを用いることができる。
【0015】
養生用シート1に用いる樹脂材料には、当該樹脂材料中に占める極性官能基含有モノマーに由来する重合単位を有する樹脂成分の割合が10~100重量%となるように、必要に応じて、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂などの熱可塑性樹脂を単独で、又は二種以上を適宜配合することができる。
【0016】
また、養生用シート1を成形するにあたっては、養生用シート1を着色する目的で、顔料又は染料を上記樹脂材料に添加することもできる。例えば、熱を吸収し難い白色などに養生用シート1を着色することで、特に、夏場の日光によるコンクリートの表面温度の好ましからざる上昇を抑制することができる。一方、冬場にあっては、熱を吸収し易い黒色などに養生用シート1を着色することで、養生時の保温性を高めて、コンクリート内部との温度差に起因するクラックなどの発生を抑制することもできる。
【0017】
本実施形態において、養生用シート1は、少なくとも一層からなり、少なくともコンクリートの表面Sに対向して敷設される層が、上記樹脂材料を用いて成形されていれば、その具体的な形態は、特に限定されない。
【0018】
例えば、中空状に膨出する多数の突起20が形成されたキャップフィルム21と、突起20内に空気を封入するバックフィルム22とが積層された二層構造の気泡シート(
図2及び
図3参照)、又はキャップフィルム21に形成された突起20の頂面側にライナーフィルム23がさらに積層された三層構造の気泡シート(
図4参照)とすることができる。養生用シート1が、このような気泡シートからなるように構成することで、養生用シート1に断熱性を付与することができ、これによって、養生時の保温性を高めることができる。
【0019】
なお、
図2は、
図1と同様にして、本実施形態に係るコンクリート封緘養生用シートの変形例を示す説明図であり、
図3は、二層構造の気泡シートの一例を斜視して示す説明図であり、
図4は、三層構造の気泡シートの一例を斜視して示す説明図である。
【0020】
また、養生用シート1が、このような気泡シートからなるように構成する場合には、シート全体が上記樹脂材料を用いて成形されていてもよいが、二層構造の気泡シートであれば、上記樹脂材料を用いてバックフィルム22を成形し、バックフィルム22がコンクリートの表面Sに対向して敷設されるようにしてもよい。三層構造の気泡シートであれば、上記樹脂材料を用いてバックフィルム22又はライナーフィルム23を成形し、いずれか一方がコンクリートの表面Sに対向して敷設されるようにしてもよい。さらに、前述したようにして、養生用シート1を着色するにあたっては、キャップフィルム21、バックフィルム22、ライナーフィルム23のうち、少なくとも一層が着色されていればよい。
【0021】
このような本実施形態によれば、養生用シート1は、コンクリートの表面Sに対向して敷設される層が、極性官能基含有モノマーに由来する重合単位を有する樹脂成分を含む樹脂材料を用いて成形されていることにより、当該層が親水性を発揮して、脱型直後の水が滲出しているコンクリートの表面Sに水貼りすることができる。その結果、脱型直後にコンクリートの表面Sに多くの水が滲出していても、コンクリートの表面Sに養生用シート1を貼着することができ、脱型直後から無養生期間を経ることなく養生を開始することができる。その反面、養生用シート1は、コンクリートの表面Sが乾いていると貼着することができないが、そのような場合には、コンクリートの表面Sに散水し、コンクリートに水を含ませることによって貼着することができる。
【0022】
また、養生用シート1は、コンクリートの表面Sに敷設する際に、粘着剤を不要とすることができる。このため、養生を終えたコンクリートから養生用シート1を剥がすときに、粘着剤がコンクリートの表面Sに残ってしまったり、コンクリートの表面Sを粘着剤が引き剥がしてしまったりするなどの不具合を考慮する必要は全くない。剥離ライナーも不要であるため、処分しなければならないゴミを削減することもできる。さらに、シート自身が親水性を発揮して、水分を含むコンクリートの表面に繰り返し貼り付けることができるため、封緘養生を終えたコンクリートから剥がされた後も、当該コンクリートとは別のコンクリートを封緘養生するために再利用することもできる。
【実施例0023】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【0024】
[実施例1]
ポリエチレン(東ソー株式会社:二ポロンTZ420)を90重量%、極性官能基を導入した変性ポリオレフィン(三菱ケミカル株式会社:モディックL-513)を10重量%の割合で配合してなる樹脂材料を用いて、養生用シートを成形した。得られた養生用シートを脱型直後の水が滲出しているコンクリートの表面に敷設したところ、問題なく貼り付けることができた。そして、敷設後28日が経過しても、養生用シートは、コンクリートの表面に貼り付いたままであった。
【0025】
[実施例2]
ポリエチレン(東ソー株式会社:二ポロンTZ420)を70重量%、極性官能基を導入した変性ポリオレフィン(三菱ケミカル株式会社:モディックL-513)を30重量%の割合で配合してなる樹脂材料を用いて、養生用シートを成形した。得られた養生用シートを脱型直後の水が滲出しているコンクリートの表面に敷設したところ、問題なく貼り付けることができた。そして、敷設後28日が経過しても、養生用シートは、コンクリートの表面に貼り付いたままであった。
【0026】
[実施例3]
極性官能基を導入した変性ポリオレフィン(三菱ケミカル株式会社:モディックL-513)のみを樹脂材料として、養生用シートを成形した。得られた養生用シートを脱型直後の水が滲出しているコンクリートの表面に敷設したところ、問題なく貼り付けることができた。そして、敷設後28日が経過しても、養生用シートは、コンクリートの表面に貼り付いたままであった。
【0027】
[実施例4]
ポリエチレン(東ソー株式会社:二ポロンTZ420)を90重量%、極性官能基を導入した変性ポリオレフィン(三井化学株式会社:アドマー(登録商標))を10重量%の割合で配合してなる樹脂材料を用いて、養生用シートを成形した。得られた養生用シートを脱型直後の水が滲出しているコンクリートの表面に敷設したところ、問題なく貼り付けることができた。そして、敷設後28日が経過しても、養生用シートは、コンクリートの表面に貼り付いたままであった。
【0028】
[実施例5]
ポリエチレン(東ソー株式会社:二ポロンTZ420)を70重量%、極性官能基を導入した変性ポリオレフィン(三井化学株式会社:アドマー(登録商標))を30重量%の割合で配合してなる樹脂材料を用いて、養生用シートを成形した。得られた養生用シートを脱型直後の水が滲出しているコンクリートの表面に敷設したところ、問題なく貼り付けることができた。そして、敷設後28日が経過しても、養生用シートは、コンクリートの表面に貼り付いたままであった。
【0029】
[実施例6]
極性官能基を導入した変性ポリオレフィン(三井化学株式会社:アドマー(登録商標))のみを樹脂材料として、養生用シートを成形した。得られた養生用シートを脱型直後の水が滲出しているコンクリートの表面に敷設したところ、問題なく貼り付けることができた。そして、敷設後28日が経過しても、養生用シートは、コンクリートの表面に貼り付いたままであった。
【0030】
[比較例1]
ポリエチレン(東ソー株式会社:二ポロンTZ420)のみを樹脂材料として、養生用シートを成形した。得られた養生用シートを脱型直後の水分を含むコンクリートの表面に敷設したところ、コンクリートの表面に貼り付くことなく、すぐに剥がれてしまった。
【0031】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。