(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156596
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】マグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G21F 9/12 20060101AFI20241029BHJP
B01J 20/06 20060101ALI20241029BHJP
B01J 20/10 20060101ALI20241029BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
G21F9/12 501B
B01J20/06 C
B01J20/10 C
B01J20/30
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023196740
(22)【出願日】2023-11-20
(31)【優先権主張番号】10-2023-0053125
(32)【優先日】2023-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2023-0123785
(32)【優先日】2023-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】523304205
【氏名又は名称】ジャイアント ケミカル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GIANT CHEMICAL CO., LTD
【住所又は居所原語表記】35,Sanmakgongdanbuk 8-gil Yangsan-si Gyeongsangnam-do 50567,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】カン、ドン ギュン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ドン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ボン ソク
(72)【発明者】
【氏名】キム、デ ウク
(72)【発明者】
【氏名】カン、ジン ギュ
(72)【発明者】
【氏名】ハン、スン ユン
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ドン ミン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ホ ジェ
(72)【発明者】
【氏名】チョ、ス ジン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ソ ユン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ボ ギョン
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AA16B
4G066AA22B
4G066BA09
4G066BA23
4G066BA26
4G066CA12
4G066DA07
4G066EA13
4G066FA03
4G066FA34
4G066FA38
4G066FA40
(57)【要約】
【課題】マグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】マグネシウムシリケートを含むセシウム、コバルト及びストロンチウム放射性元素吸着剤及びその製造方法に関する。本発明は、放射性元素の吸着効率を最適化できる前記マグネシウムシリケートの気孔径、MgO及びSiO
2の含有量を具体化することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムシリケートを含む
ことを特徴とする放射性元素吸着剤。
【請求項2】
前記放射性元素は、
セシウム、コバルト及びストロンチウムからなる群から選択される1種以上である
請求項1に記載のマグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤。
【請求項3】
前記マグネシウムシリケートは、
気孔径が33~40Åである
請求項1に記載のマグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤。
【請求項4】
前記マグネシウムシリケートは、
USP/NF基準のマグネシウムシリケートと比較して、MgO含有量が3~4%減少し、SiO2含有量が8~8.5%増加する
請求項1に記載のマグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤。
【請求項5】
前記マグネシウムシリケートは、
前記マグネシウムシリケート100重量部に対して、MgO14.4~14.6重量部を含み、SiO272.4~72.6重量部を含む
請求項1に記載のマグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤。
【請求項6】
(A1)シリケート前駆体を製造するステップと、
(A2)マグネシウム前駆体とアンモニウム塩とを混合して混合物を製造するステップと、
(A3)前記混合物に前記シリケート前駆体を添加して、マグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤を製造するステップと、
を含む
ことを特徴とするマグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤の製造方法。
【請求項7】
前記マグネシウム前駆体は、
塩化マグネシウム(MgCl2)である
請求項6に記載のマグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウムシリケート(ケイ酸マグネシウム)を含む放射性元素吸着剤及びその製造方法に関し、より詳しくは、マグネシウムシリケートを含むセシウム、コバルト及びストロンチウム放射性元素吸着剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大きな比表面積と均一な気孔を有するナノ多孔性物質は、吸着剤、触媒支持剤、分離および精製工程、並びにイオン交換の媒体として幅広く使用されている。特に、調節された多孔性を有する新規ナノ構造物質の合成は、新素材の分野で現在進行中の研究分野である。
【0003】
中でもマグネシウムシリケート(magnesium silicate)は、水溶性マグネシウム塩(water soluble magnesium salts)とナトリウムシリケート(sodium silicate)の沈殿反応によって合成される多孔質無機化学物質であり、強力な吸着性能から、工業用、食品精製用、化粧品原料などの分野で用いられている。
【0004】
一方、世界的に原子力発電所へのエネルギー依存度が次第に高まる中、原発事故によって発生する可能性のある放射性廃棄物の処理が主要な問題として浮上している。
【0005】
放射性セシウム(137Cs)は、原子力発電所の事故、核廃棄物などによる放射能汚染の主な原因物質であり、水への溶解度が高く、半減期が長く、体内ではカリウムイオンと類似の挙動を示すため、体内に吸収されてもうまく排出されず、肺がん、骨髄がんなどの様々ながんの原因となる可能性がある。そのため、このような放射性セシウムを除去する技術の必要性が出てきている。
【0006】
コバルト(Cobalt、Co)は自然界には存在しない放射性核種であり、原子力発電所の運転中に高温、高圧の環境にさらされると、水や溶存酸素と反応して腐食生成物を形成し、核燃料から発生する放射性物質とともに冷却水パイプラインに酸化膜を形成する。このとき形成された酸化膜は、鉄、クロム、ニッケル、銅、コバルトなど、冷却剤接触設備の構成成分からなり、冷却に必要な熱伝達効率を低下させ、原子力発電所の運行効率の低下を引き起こす。
【0007】
ストロンチウム(Strontium、Sr)は銀白色の軟らかいアルカリ土類金属で、カルシウムよりも軟らかく反応性が高い。水中で激しく反応して水酸化ストロンチウム(Sr(OH)2)と水素ガス(H2)を発生させ、空気中で燃焼して酸化ストロンチウムと窒化ストロンチウムを生成する。ウランの核分裂過程で大量に形成される放射性汚染核種のセシウムとストロンチウムは、高い熱を放出する特性と30年以上の半減期のため、放射性汚染水から必ず除去しなければならない。
【0008】
しかし、放射性液体廃棄物には様々な化学物質が含まれており、運転中の発泡や腐食などのため、運転条件が厳しく、円滑な処理が難しい。そこで、放射性元素を効率よく除去するために吸着剤を利用する方法が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国登録特許公報第10-2221740号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、セシウム、コバルト及びストロンチウムを吸着できるマグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、セシウム除去効率を最適化できる前記マグネシウムシリケートの気孔径、MgOおよびSiO2の含有量を具体化することである。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、前記マグネシウムシリケートを含むセシウム、コバルト及びストロンチウム放射性元素吸着剤の製造方法を提供することである。
【0013】
本発明が解決しようとする技術的課題は、以上で言及した技術的課題に限定されるものではなく、言及されていない他の技術的課題も、本発明の記載から、当該分野における通常の知識を有する者に明確に理解される。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、マグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤を提供する。
【0015】
本発明において、前記放射性元素は、セシウム、コバルト及びストロンチウムからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする。
【0016】
本発明において、前記マグネシウムシリケートは、気孔径が33~40Åであることを特徴とする。
【0017】
本発明において、前記マグネシウムシリケートは、USP/NF基準のマグネシウムシリケートと比較して、MgO含有量が3~4%減少し、SiO2含有量が8~8.5%増加することを特徴とする。
【0018】
本発明において、前記マグネシウムシリケートは、前記マグネシウムシリケート100重量部に対して、MgO14.4~14.6重量部を含み、SiO272.4~72.6重量部を含むことを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、(A1)シリケート前駆体を製造するステップと、(A2)マグネシウム前駆体とアンモニウム塩とを混合して混合物を製造するステップと、(A3)前記混合物に前記シリケート前駆体を添加して、マグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤を製造するステップと、を含むことを特徴とする、マグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤の製造方法を提供する。
【0020】
本発明において、前記マグネシウム前駆体は、塩化マグネシウム(MgCl2)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、セシウム、コバルト及びストロンチウムを吸着できるマグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤を提供することができる。
【0022】
また、本発明は、放射性元素の吸着効率を最適化できる前記マグネシウムシリケートの気孔径、MgO及びSiO2の含有量を具体化することができる。
【0023】
さらに、本発明は、前記マグネシウムシリケートを含むセシウム、コバルト及びストロンチウム放射性元素吸着剤の製造方法を提供することができる。
【0024】
本発明の効果は、以上で言及した効果に限定されるものではなく、言及されていない他の効果も、特許請求の範囲の記載から当業者に明確に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明によるマグネシウムシリケートのセシウム吸着後の色の変化を示す写真である。
【
図2】本発明によるマグネシウムシリケートのコバルト吸着後の色の変化を示す写真である。
【
図3】本発明によるマグネシウムシリケートのストロンチウム吸着後の色の変化を示す写真である。
【
図4】本発明によるマグネシウムシリケートの放射性元素の吸着メカニズムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書で使用されている用語は、本発明での機能を考慮しながら、可能な限り現在広く使用される一般的な用語を選択しているが、それは、当分野の当業者の意図、判例、または新たな技術の出現などによって異なりもする。また、特定の場合は、出願人が任意に選定した用語もあり、その場合、当該発明の説明部分で、詳細にその意味を記載する。したがって、本発明で使用される用語は、単純な用語の名称ではない、その用語が有する意味と、本発明の全般にわたる内容とを基に定義される。
【0027】
別段の定義がない限り、技術的または科学的な用語を含めてここで使用されるすべての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書に定義されているような用語は関連技術の文脈上で有する意味と一致する意味を有すると解釈すべきであり、本出願で明白に定義しない限り、理想的であるか過度に形式的な意味として解釈されない。
【0028】
数値の範囲は、前記範囲に定義された数値を含む。本明細書において与えられたすべての最大の数値制限は、低い数値制限が明確に述べられているように、すべてのさらに低い数値制限を含む。本明細書において与えられたすべての最小の数値制限は、さらに高い数値制限が明確に述べられているように、すべてのさらに高い数値制限を含む。本明細書において与えられたすべての数値制限は、さらに狭い数値制限が明確に述べられているように、さらに広い数値範囲内のさらに良いすべての数値範囲を含む。
【0029】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0030】
マグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤
本発明は、マグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤を提供する。
【0031】
前記放射性元素は、セシウム、コバルト及びストロンチウムからなる群から選択された1種以上であってもよい。
【0032】
前記マグネシウムシリケートの気孔径(pore size)は33~40Å、好ましくは34~38Åであってもよい。
【0033】
前記マグネシウムシリケートの重量は0.15~0.25g、好ましくは0.19~0.21gであってもよい。
【0034】
前記マグネシウムシリケートの比表面積(specific surface area)は40~60m2/g、好ましくは43~50m2/gであってもよい。
【0035】
前記マグネシウムシリケートの気孔容積(pore volume)は0.02~0.1cm3/g、好ましくは0.02~0.06cm3/gであってもよい。
【0036】
前記マグネシウムシリケートのセシウム除去効率は95~100%、好ましくは97~100%であってもよい。前記セシウム除去効率は、以下の式1により計算して導出されてもよく、前記式1において、Ciは初期金属イオン濃度であり、Cfは吸着後の金属イオン濃度であってもよい。
【0037】
同様に、前記マグネシウムシリケートのコバルト除去効率は95~100%、好ましくは98~100%であってもよい。前記コバルト除去効率は、以下の式1により計算して導出されてもよく、前記式1において、Ciは初期金属イオン濃度であり、Cfは吸着後の金属イオン濃度であってもよい。
【0038】
同様に、前記マグネシウムシリケートのストロンチウム除去効率は95~100%、好ましくは96~100%であってもよい。前記ストロンチウム除去効率は、以下の式1により計算して導出されてもよく、前記式1において、Ciは初期金属イオン濃度であり、Cfは吸着後の金属イオン濃度であってもよい。
【0039】
【0040】
前記マグネシウムシリケート中のシリコン(Silicon,Si)の元素含有量は70~80%、マグネシウム(Mg)の含有量は18~25%、Mg:Siの比率は1:3~4であってもよい。
【0041】
前記マグネシウムシリケートは、前記マグネシウムシリケート100重量部に対して、MgO14.4~14.6重量部を含み、SiO272.4~72.6重量部を含むことを特徴としてもよい。
【0042】
前記マグネシウムシリケートは、USP/NF基準のマグネシウムシリケートと比較して、MgO含有量が3~4%減少し、SiO2含有量が8~8.5%増加することを特徴としてもよく、好ましくは、USP/NF基準のマグネシウムシリケートと比較して、MgO含有量が3.2~3.4%減少し、SiO2含有量が8.1~8.3%増加することを特徴としてもよい。
【0043】
前記USP/NF基準のマグネシウムシリケートは、MgO含有量が15%であり、SiO2含有量が67%であることを特徴としてもよい。
【0044】
マグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤の製造方法
本発明は、マグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤の製造方法を提供する。
【0045】
前記放射性元素吸着剤の製造方法は、(A1)シリケート前駆体を製造するステップと、(A2)マグネシウム前駆体とアンモニウム塩とを混合して混合物を製造するステップと、(A3)前記混合物に前記シリケート前駆体を添加して、マグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤を製造するステップと、を含むことを特徴とする、マグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤の製造方法を提供する。
【0046】
前記ステップ(A1)は、シリケート前駆体を製造するステップであり、前記シリケート前駆体は、アルコール、水及び水性アンモニア(NH3H2O、ammonia-water)を混合した混合物にテトラエチルオルトシリケート(Tetraethyl orthosilicate、TEOS)を添加して製造されてもよく、前記テトラエチルオルトシリケートを添加した後、200~300rpmで1~3時間攪拌してもよい。前記攪拌物を遠心分離した後、60~80℃で乾燥させてシリケート前駆体を製造することができる。
【0047】
前記シリケート前駆体は、シリカ(SiO2)、ナトリウムシリケート(sodium silicate)、テトラメチルオルトシリケート(tetramethyl orthosilicate)、テトラエチルオルトシリケート(tetraethyl orthosilicate)、テトラプロピルオルトシリケート(tetrapropyl orthosilicate)、トリエトキシエチルシラン(triethoxyethylsilane、TEES)及び1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン(1,2-bis(triethoxysilyl)ethane、BTSE)からなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0048】
前記ステップ(A2)は、マグネシウム前駆体及びアンモニウム塩を混合して混合物を製造するステップであり、前記マグネシウム前駆体は、硝酸マグネシウム(Mg(NO3)2)、硫酸マグネシウム(MgSO4)及び塩化マグネシウム(MgCl2)からなる群から選択される1種以上であってもよく、前記マグネシウム前駆体は、単一前駆体であってもよいし、混合前駆体であってもよい。前記アンモニウム塩は、塩化アンモニウム(NH4Cl)、硝酸アンモニウム(NH4NO3)及び硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)からなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0049】
より具体的には、前記ステップ(A2)は、マグネシウム前駆体及びアンモニウム塩を蒸留水に溶解した後、アンモニア水(NH4OH)を添加して混合物を製造することができ、好ましくは、塩化マグネシウム(MgCl2)及び塩化アンモニウム(NH4Cl)を蒸留水に溶解した後、23~33%のアンモニア水を添加して混合物を製造することができる。
【0050】
前記ステップ(A3)は、前記混合物に前記シリケート前駆体を添加して、マグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤を製造するステップであり、より具体的には、前記ステップ(A3)において、前記シリケート前駆体を蒸留水に分散させ、前記分散液を前記マグネシウム前駆体、アンモニウム塩及びアンモニア水を混合した混合物に添加して均質化した後、前記均質物を120~160℃で10~14時間反応させて、シリケート前駆体である球状のシリカ(SiO2)のSiイオンを放出させ、放出されたSiイオンとマグネシウムイオンとの間の相互作用を引き起こすことができる。次に、前記相互作用を終えた反応物を冷却し、60~80℃の温度で乾燥させて、放射性元素吸着能を有するマグネシウムシリケートを製造することができる。
【0051】
以下、本発明の実施例について詳細に説明するが、本発明が実施例により限定されるものではないことは言うまでもない。
【0052】
実施例1.マグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤の製造
1-1.シリケート前駆体の製造
エタノール、蒸留水及び水性アンモニア(NH3H2O、ammonia-water)を均質に混合し、前記エタノール、蒸留水及び水性アンモニア混合物にテトラエチルオルトシリケート(Tetraethyl orthosilicate、TEOS)を注入し、常温で250rpmの速度で2時間攪拌した。前記攪拌し終わった混合物を、高速遠心分離機を用いて固体層を分離し、これを蒸留水とエタノールで洗浄した後、70℃で乾燥させて、マイクロサイズの粒子を有するシリケート前駆体であるマイクロシリカ(SiO2)を製造した。
【0053】
1-2.マグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤の製造
放射性元素吸着性能を有するマグネシウムシリケートの製造のために、適切な比表面積、気孔容積および気孔径の粒子を有するシリケート前駆体を、ストーバー工程(Stober process)により球状のシリカ(SiO2)をシリケート前駆体として製造した。
【0054】
塩化マグネシウム(MgCl2、0.75mmol)及び塩化アンモニウム(NH4Cl、10mmol)を蒸留水30mLに溶解した後、28%アンモニア水(NH4OH)1mLを加え混合して混合物を製造した。前記製造されたマイクロサイズの粒子を有するナトリウムシリケート0.1gを蒸留水20mLに分散させ、前記分散液を前記混合物に添加し、均質になるまで混合した。前記均質物をオートクレーブ(autoclave)に移し、140℃で12時間反応させて、シリケート前駆体である球状のシリカ(SiO2)のSiイオンを放出させ、放出されたSiイオンとマグネシウムイオン間の相互作用のための反応を行った。その後、前記反応物を室温まで冷却し、次いで、反応で生成されたマグネシウムシリケートをろ過し、蒸留水で洗浄した後、70℃の乾燥機内で乾燥させ、放射性元素吸着能を有するマグネシウムシリケートを製造した。
【0055】
比較例1.塩化マグネシウムのモル量を調整したマグネシウムシリケートの製造
塩化マグネシウムのモル量に応じた放射性元素吸着能を確認するために、塩化マグネシウムのモル量を0.75mmolから0.62mmolに調整したマグネシウムシリケートを製造した。このマグネシウムシリケートは、塩化マグネシウムのモル量を除いては、前記実施例1のマグネシウムシリケートと同様の方法で製造した。
【0056】
比較例2.イライトの製造
イライトの場合、通常、まず鉱山から採掘され、その後、別の粉砕及び乾燥工程を経て製造される。
【0057】
実験例1.マグネシウムシリケートの比表面積分析
前記実施例1、比較例1及び比較例2で製造したマグネシウムシリケート及びイライトの比表面積分析(BET)を行うために実験例1を行った。前記実験例1の結果を表1に示した。
【0058】
この実験例1の結果、前記実施例1で製造したマグネシウムシリケートの気孔径は35.279Åであり、前記比較例1で製造したマグネシウムシリケートの気孔径は78.932Åであり、前記比較例2で製造したイライトの気孔径は115.30Åであることが確認された。
【0059】
前記実施例1で製造したマグネシウムシリケートの比表面積(specific surface area)は46.0530m2/gであり、前記比較例1で製造したマグネシウムシリケートの比表面積は206.1126m2/gであり、前記比較例2で製造したイライトの比表面積は10.1502m2/gであることが確認された。
【0060】
前記実施例1で製造したマグネシウムシリケートの気孔容積(pore volume)は0.0406cm3/gであり、前記比較例1で製造したマグネシウムシリケートの気孔容積は0.4057cm3/gであり、前記比較例2で製造したイライトの気孔容積は0.0292cm3/gであることが確認された。
【0061】
【0062】
実験例2.マグネシウムシリケートのセシウム除去効率
前記実施例1、比較例1及び比較例2で製造したマグネシウムシリケート及びイライトのセシウム(Cesium、Cs)除去効率を調べるために実験例2を行った。
【0063】
塩化セシウム126mgを蒸留水1Lに溶解した後、超音波振動を用いて10分間分散させた。前記分散液100mLを300rpmで攪拌しながら、前記実施例1、比較例1または比較例2で製造したマグネシウムシリケートまたはイライト吸着剤を各1gずつ投入した。前記分散液と吸着剤を混合した溶液を8000rpmで5分間遠心分離し、上清を分離した。前記上清を誘導結合プラズマ質量分析法(Inductively Coupled Plasma-Mass Spectrometry、ICP-MS)で残留セシウム濃度を確認し、前記実験例2の結果を下記表2に示した。
【0064】
この実験例2の結果、前記実施例1のセシウム除去効率は98.84%、前記比較例1のセシウム除去効率は80.60%、前記比較例2のセシウム除去効率は79.0%であった。前記セシウム除去効率は、下記式1により計算し、下記式1においてCiは初期金属イオン濃度であり、Cfは吸着後の金属イオン濃度を意味する。
【0065】
【0066】
【0067】
実験例3.マグネシウムシリケートのセシウム吸着後の色の変化
前記実施例1、比較例1及び比較例2で製造したマグネシウムシリケート及びイライトのセシウム吸着後の色の変化を観察するために実験例3を行った。前記マグネシウムシリケートまたはイライトを用いたセシウム吸着方法は、前記実験例2と同様に行った。セシウム吸着後のマグネシウムシリケート及びイライトの色の変化をそれぞれ観察した結果を
図1に示した。
【0068】
この実験例3の結果、前記実施例1、比較例1及び比較例2の全てのマグネシウムシリケート及びイライトには、セシウム吸着後の色の変化が観察されなかった(
図1)。
【0069】
実験例4.マグネシウムシリケートのコバルト除去効率の比較
前記実施例1、比較例1及び比較例2で製造したマグネシウムシリケート及びイライトのコバルト除去効率を確認するために実験例4を行った。
【0070】
硝酸コバルト493.8mgを蒸留水1Lに溶解した後、超音波振動を用いて10分間分散させた。前記分散液100mLを300rpmで攪拌しながら、前記実施例1、比較例1または比較例2で製造したマグネシウムシリケートまたはイライト吸着剤を各1gずつ投入した。前記分散液と吸着剤を混合した溶液を8000rpmで5分間遠心分離し、上清を分離した。前記上清を誘導結合プラズマ質量分析法(Inductively Coupled Plasma-Mass Spectrometry、ICP-MS)で残留コバルト濃度を確認し、前記実験例4の結果を下記表3に示した。
【0071】
この実験例4の結果、前記実施例1のコバルト除去効率は99.98%、前記比較例1のコバルト除去効率は99.97%、前記比較例2のコバルト除去効率は10.1%であった。前記コバルト除去効率は、前記式1により算出した。
【0072】
【0073】
実験例5.マグネシウムシリケートへのコバルト吸着後の色の変化
前記実施例1、比較例1及び比較例2で製造したマグネシウムシリケート及びイライトのコバルト吸着後の色の変化を観察するために実験例5を行った。前記実施例1によるマグネシウムシリケートを用いたコバルト吸着方法は、前記実験例4と同様に行った。コバルト吸着後のマグネシウムシリケートの色変化を
図2に示した。
【0074】
この実験例5の結果、前記実施例1のマグネシウムシリケートは、コバルト吸着後に白色から緑色を帯びた薄い灰色に変色し、前記比較例1のマグネシウムシリケート及び前記比較例2のイライトには色の変化が観察されなかった(
図2)。
【0075】
実験例6.マグネシウムシリケートのストロンチウム除去効率の比較
前記実施例1、比較例1及び比較例2で製造したマグネシウムシリケート及びイライトのストロンチウム除去効率を確認するために実験例6を行った。
【0076】
塩化ストロンチウム180.9mgを蒸留水1Lに溶解した後、超音波振動を用いて10分間分散させた。前記分散液100mLを300rpmで攪拌しながら、前記実施例1、比較例1または比較例2で製造したマグネシウムシリケートまたはイライト吸着剤を各1gずつ投入した。前記分散液と吸着剤を混合した溶液を8000rpmで5分間遠心分離し、上清を分離した。前記上清を誘導結合プラズマ質量分析法(Inductively Coupled Plasma-Mass Spectrometry、ICP-MS)で残留ストロンチウム濃度を確認し、前記実験例6の結果を下記表4に示した。
【0077】
この実験例6の結果、前記実施例1のストロンチウム除去効率は97.55%、前記比較例1のストロンチウム除去効率は71.10%、前記比較例2のストロンチウム除去効率は16.0%であった。前記ストロンチウム除去効率は、前記式1により算出した。
【0078】
【0079】
実験例7.マグネシウムシリケートへのストロンチウム吸着後の色の変化
前記実施例1、比較例1及び比較例2で製造したマグネシウムシリケート及びイライトのストロンチウム吸着後の色の変化を観察するために実験例7を行った。前記実施例1によるマグネシウムシリケートを用いたストロンチウム吸着方法は、前記実験例6と同様に行った。ストロンチウム吸着後のマグネシウムシリケートの色の変化を
図3に示した。
【0080】
この実験例7の結果、前記実施例1、比較例1及び比較例2で製造したマグネシウムシリケート及びイライトには、ストロンチウム吸着後の色の変化が観察されなかった(
図3)。
【0081】
実験例8.マグネシウムシリケートの元素含有量
前記実施例1、比較例1及び比較例2で製造したマグネシウムシリケート及びイライトの元素含有量を分析した。
【0082】
当社が保有している、EMCRAFT社のSEM(CUBE II)とこれに搭載されたEDS検出器(Xplore compact 30)及びAZtecOneプログラムを活用して、マグネシウムシリケートとイライトの成分分析を行った。
【0083】
この実験例8の結果、前記実施例1のマグネシウムシリケートのMg:Si比は1:4.17であり、放射性元素であるセシウム、コバルト及びストロンチウムの吸着能は前記比で最も優れていた(表5)。これは、マグネシウムシリケートの層間に酸素原子の負のチャネル(negative channel)が形成され、セシウム、コバルト及びストロンチウムの吸着能が向上したためと考えられる(
図4参照)。前記比較例2で製造したイライトの場合、シリケートの割合は高いが、K、Fe及びAlイオンが共存しており、これがセシウム、コバルト及びストロンチウムの放射性元素の吸着能を低くしていると考えられる。
【0084】
【0085】
実験例9.放射性元素のイオンサイズによる吸着能の分析
セシウム(Cs+)、コバルト(Co2+)及びストロンチウム(Sr2+)の放射性元素のイオンサイズを下記表6に示し、前記イオンサイズによる吸着能を比較した。表6によると、セシウム(Cs+)のイオンサイズは169pm、コバルト(Co2+)のイオンサイズは72pm、ストロンチウム(Sr2+)のイオンサイズは113pmであった。イオンサイズが小さい順に、コバルト(Co2+)<ストロンチウム(Sr2+)<セシウム(Cs+)であることから、コバルト(Co2+)イオンはイオン半径が小さく、マグネシウムシリケートの負チャネル(Negative channel)の間に挟まりやすく、その結果、除去効率が高くなると結論づけられる。
【0086】
【0087】
実験例10.マグネシウムシリケートのXRF分析
前記実施例1、比較例1及び比較例2で製造したマグネシウムシリケート及びイライトを用いてXRF分析を行い、その結果を表7に示した。
【0088】
【0089】
この実験例10の結果、前記実施例1のマグネシウムシリケートはMgO14.5wt%及びSiO272.5wt%と確認され、前記比較例1のマグネシウムシリケートはMgO15.4wt%及びSiO270.6wt%と確認され、前記比較例2のイライトはMgO13.9wt%及びSiO280.9wt%と確認された。
【0090】
以上の説明から、本発明に属する技術分野の当業者は、本発明の技術思想や本質的な特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できる。これに関連して、以上で技術した実施例は、すべての点において例示的なものであり、限定的なものではない。
【手続補正書】
【提出日】2024-08-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤であり、
気孔径が33~40Å、比表面積が40~60m
2
/g、気孔容積は0.02~0.1cm
3
/gであり、Mg:Siの比率が1:3~4であり、
吸着対象の放射性元素が、セシウム及びストロンチウムである
ことを特徴とする放射性元素吸着剤。
【請求項2】
前記マグネシウムシリケートは、
USP/NF基準のマグネシウムシリケートと比較して、MgO含有量が3~4%減少し、SiO2含有量が8~8.5%増加し、
前記USP/NF基準のマグネシウムシリケートは、MgO含有量が15%であり、SiO
2
含有量が67%である
請求項1に記載のマグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤。
【請求項3】
前記マグネシウムシリケートは、
前記マグネシウムシリケート100重量部に対して、MgO14.4~14.6重量部を含み、SiO272.4~72.6重量部を含む
請求項1に記載のマグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤。
【請求項4】
(A1)アルコール、水及び水性アンモニア(NH
3
H
2
O、ammonia-water)を混合した混合物にテトラエチルオルトシリケート(Tetraethyl orthosilicate、TEOS)を添加し、200~300rpmで1~3時間攪拌し、60~80℃で乾燥させて、シリケート前駆体を製造するステップと、
(A2)塩化マグネシウム(MgCl
2
)及び塩化アンモニウム(NH
4
Cl)を蒸留水に溶解した後、アンモニア水(NH
4
OH)を加えて、混合物を製造するステップと、
(A3)前記混合物に前記シリケート前駆体を添加して、120~160℃で10~14時間反応させて、60~80℃の温度で乾燥させて、マグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤を製造するステップと、
を含む
ことを特徴とするマグネシウムシリケートを含む放射性元素吸着剤の製造方法。