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特開2024-156602電着液の管理方法、および、電着装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156602
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】電着液の管理方法、および、電着装置
(51)【国際特許分類】
   C25D 13/24 20060101AFI20241029BHJP
   C25D 9/02 20060101ALI20241029BHJP
   C25D 13/06 20060101ALI20241029BHJP
   C25D 13/10 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
C25D13/24 303
C25D9/02
C25D13/06
C25D13/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024017168
(22)【出願日】2024-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2023070848
(32)【優先日】2023-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】久保田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】福島 けい
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 芙弓
(72)【発明者】
【氏名】中川 卓眞
(72)【発明者】
【氏名】天田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】藤田 将人
(57)【要約】
【課題】電着膜を焼き付ける際に膨れが発生することを抑制でき、絶縁皮膜を安定して形成可能な電着液の管理方法、および、電着装置を提供する。
【解決手段】導電性の基材にアニオン電着によって電着膜を形成する際に用いられる電着液の管理方法であって、前記電着液に対してアニオン交換処理を行うことにより、前記電着液に含まれる有機酸の濃度を調整する。導電性の基材にアニオン電着によって電着膜を形成する際に用いられる電着装置であって、電着液が貯留されるとともに、前記基材と対向電極が浸漬される電着槽と、前記電着液に対してアニオン交換処理を行うアニオン交換手段と、前記電着槽と前記アニオン交換手段との間で前記電着液を循環させる電着液循環手段と、を備えている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の基材にアニオン電着によって電着膜を形成する際に用いられる電着液の管理方法であって、
前記電着液に対してアニオン交換処理を行うことにより、前記電着液に含まれる有機酸の濃度を調整することを特徴とする電着液の管理方法。
【請求項2】
前記電着液が、水と、有機溶媒と、固形成分と、中和剤と、を含み、前記固形成分は、少なくともポリイミド系樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載の電着液の管理方法。
【請求項3】
前記電着液が、前記有機酸として少なくともカルボン酸を含有することを特徴とする請求項1に記載の電着液の管理方法。
【請求項4】
前記電着液が、前記有機酸として少なくともヒドロキシ酸を含有することを特徴とする請求項1に記載の電着液の管理方法。
【請求項5】
前記電着液における前記有機酸の濃度を5mg/L以上500mg/L以下の範囲内に調整することを特徴とする請求項1に記載の電着液の管理方法。
【請求項6】
前記電着液は、固形成分として、ポリイミド系樹脂とともにフッ素樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載の電着液の管理方法。
【請求項7】
導電性の基材にアニオン電着によって電着膜を形成する際に用いられる電着装置であって、
電着液が貯留されるとともに、前記基材と対向電極が浸漬される電着槽と、前記電着液に対してアニオン交換処理を行うアニオン交換手段と、前記電着槽と前記アニオン交換手段との間で前記電着液を循環させる電着液循環手段と、を備えていることを特徴とする電着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性の基材にアニオン電着によって電着膜を電着させる際に用いる電着液の管理方法、および、電着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性の基材を絶縁性の樹脂からなる絶縁皮膜で被覆した絶縁導体は、絶縁が必要な各種電気機器の導電材料や放熱板材料として広く用いられている。
絶縁皮膜の構成材料として、種々の樹脂が用いられており、例えば、特許文献1には、ポリアミドイミド樹脂等のポリイミド系樹脂を用いたものが開示されており、特許文献2には、ポリイミド系樹脂とフッ素系樹脂との混合樹脂を用いたものが提案されている。
【0003】
このような絶縁性の樹脂からなる絶縁皮膜を導電性の基材の表面に形成する方法として、電着法が知られている。
電着法は、絶縁皮膜の材料を分散させた電着液に、絶縁皮膜を形成する基材と対向電極とを浸漬し、基材と対向電極との間に電圧を印加することによって、絶縁皮膜の材料を基材の表面に析出させた電着膜を形成する方法である。そして、形成した電着膜を加熱して、電着膜を基材に焼付けることによって絶縁皮膜が形成される。
【0004】
また、電着法においては、基材を陽極として電圧を印加し、基材の表面に絶縁皮膜を形成するアニオン電着法と、基材を陰極として電圧を印加し、基材の表面に絶縁皮膜を形成するカチオン電着法とがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-115120号公報
【特許文献2】特開2018-070663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、アニオン電着法に用いられるアニオン電着液においては、上述の樹脂を含む固形成分と、水と、有機溶媒と、中和剤とを含んでおり、電圧の印加によって、陽極(基材)の表面近傍でpHが低下し、固形成分が陽極(基材)の表面に析出し、電着膜が形成される。
ここで、アニオン電着法にて電着を継続して実施していると、陽極の表面に形成された電着膜を焼き付けて絶縁皮膜を形成した際に、膨れが生じるおそれがあった。
【0007】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであって、電着膜を焼き付ける際に膨れが発生することを抑制でき、絶縁皮膜を安定して形成可能な電着液の管理方法、および、電着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、アニオン電着法で電着を継続して実施すると、電着液に含まれる有機酸の濃度が増加し、電着膜を焼き付けた際に膨れが生じることが分かった。
よって、電着液に含まれる有機酸の濃度を適切に制御することにより、焼き付け時における膨れの発生を抑制可能となるとの知見を得た。
【0009】
本発明は上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の態様1の電着液の管理方法は、導電性の基材にアニオン電着によって電着膜を形成する際に用いられる電着液の管理方法であって、前記電着液に対してアニオン交換処理を行うことにより、前記電着液に含まれる有機酸の濃度を調整することを特徴としている。
【0010】
本発明の態様1の電着液の管理方法によれば、電着液に含まれる有機酸の濃度を制御しているので、電着を継続して実施した場合であっても、有機酸の濃度が過剰に高くならず、焼き付け時における膨れの発生を抑制することができ、絶縁皮膜を安定して形成することが可能となる。
【0011】
本発明の態様2の電着液の管理方法は、本発明の態様1の電着液の管理方法において、前記電着液が、水と、有機溶媒と、固形成分と、中和剤と、を含み、前記固形成分は、少なくともポリイミド系樹脂を含むことを特徴としている。
本発明の態様2の電着液の管理方法によれば、前記固形成分として、少なくともポリイミド系樹脂を含んでいるので、絶縁特性に優れた絶縁皮膜を安定して形成することが可能となる。
【0012】
本発明の態様3の電着液の管理方法は、本発明の態様1または態様2の電着液の管理方法において、前記電着液が、前記有機酸として少なくともカルボン酸を含有することを特徴としている。
本発明の態様3の電着液の管理方法によれば、前記電着液が、前記有機酸として少なくともカルボン酸を含有しているので、有機酸であるカルボン酸のpH緩衝効果によって、陽極(基材)表面におけるpHの急激な低下を抑制でき、安定して電着膜を成膜することができる。
【0013】
本発明の態様4の電着液の管理方法は、本発明の態様1または態様2の電着液の管理方法において、前記電着液が、前記有機酸として少なくともヒドロキシ酸を含有することを特徴としている。
本発明の態様4の電着液の管理方法によれば、前記電着液が、前記有機酸として少なくともヒドロキシ酸を含有しているので、有機酸であるヒドロキシ酸のpH緩衝効果によって、陽極(基材)表面におけるpHの急激な低下を抑制でき、安定して電着膜を成膜することができる。
【0014】
本発明の態様5の電着液の管理方法は、本発明の態様1から態様4のいずれかひとつの電着液の管理方法において、前記電着液における前記有機酸の濃度を5mg/L以上500mg/L以下の範囲内に調整することを特徴としている。
本発明の態様5の電着液によれば、前記有機酸の濃度を5mg/L以上500mg/L以下の範囲内に調整しているので、適度なpH緩衝効果を作用させることができ、安定して電着膜を成膜することができるとともに、焼き付け時の膨れの発生を的確に抑制することができる。
【0015】
本発明の態様6の電着液の管理方法は、本発明の態様1から態様5のいずれかひとつの電着液において、前記固形成分は、ポリイミド系樹脂とともにフッ素樹脂を含むことを特徴としている。
本発明の態様6の電着液の管理方法によれば、前記固形成分として、ポリイミド系樹脂とともにフッ素樹脂を含有しているので、絶縁特性と誘電特性に特に優れた絶縁皮膜を成膜することが可能となる。
【0016】
本発明の態様7の電着装置は、導電性の基材にアニオン電着によって電着膜を形成する際に用いられる電着装置であって、電着液が貯留されるとともに、前記基材と対向電極が浸漬される電着槽と、前記電着液に対してアニオン交換処理を行うアニオン交換手段と、前記電着槽と前記アニオン交換手段との間で前記電着液を循環させる電着液循環手段と、を備えていることを特徴としている。
【0017】
本発明の態様7の電着装置によれば、電着槽と、前記電着液に対してアニオン交換処理を行うアニオン交換手段と、前記電着槽と前記アニオン交換手段との間で前記電着液を循環させる電着液循環手段と、を備えているので、電着液に含まれる有機酸の濃度を適切に制御することができ、電着を継続して実施した場合であっても、有機酸の濃度が過剰に高くならず、焼き付け時における膨れの発生を抑制することができ、絶縁皮膜を安定して形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電着膜を焼き付ける際に膨れが発生することを抑制でき、絶縁皮膜を安定して形成可能な電着液の管理方法、および、電着装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る電着装置を用いた絶縁皮膜の製造方法を示すフロー図である。
図2】本発明の一実施形態に係る電着装置の概略説明図である。
図3】本発明の他の実施形態に係る電着装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の一実施形態である電着液の管理方法、および、電着装置について説明する。
本実施形態である電着液の管理方法は、導電性の基材の表面に絶縁皮膜の前駆体となる電着膜を成膜する際に使用される電着液を管理するものである。
なお、本実施形態においては、基材を陽極として電圧を印加し、陽極である基材の表面に絶縁皮膜を形成するアニオン電着法に用いられる電着液を管理するものである。
【0021】
本実施形態において、管理対象となる電着液においては、水と、有機溶媒と、固形成分と、中和剤と、を含んでいる。
なお、本実施形態の電着液においては、上述のように、アニオン電着法に用いられるものであることから、中和剤としてアミンを含んでいる。
また、本実施形態の電着液においては、予め適量の有機酸を含んでいてもよい。電着膜が適量の有機酸を含むことで、後述する焼き付け工程S03において、微細なクラックが発生することを抑制することが可能となる。
【0022】
有機酸として、少なくともカルボン酸を含有していてもよい。カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、シュウ酸、マロン酸、安息香酸、フタル酸、トリメリット酸、ヒドロキシ酸等が挙げられる。
特に、有機酸として、少なくともカルボン酸を含有していることが好ましい。ヒドロキシ酸としては、例えば、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、タルトロン酸、グリセリン酸等が挙げられる。なお、ヒドロキシプロピオン酸やヒドロキシ酪酸などは官能基の位置によらず効果を発揮するため位置異性体であっても効果を生じる。
【0023】
本実施形態においては、固形成分は、少なくともポリイミド系樹脂を含むものとされており、ポリイミド系樹脂およびフッ素系樹脂の2種類の樹脂を含むものであることが好ましい。
ここで、本実施形態においては、ポリイミド系樹脂としては、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド等が挙げられる。また、フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、ペルフルオロアルコキシアルカン等が挙げられる。
【0024】
また、固形成分の平均粒径は、50nm以上300nm以下、より好ましくは50nm以上250nm以下、さらに好ましくは50nm以上200nm以下であればよい。また、固形成分の粒径の標準偏差は250nm以下、より好ましくは150nm以下、さらに好ましくは100nm以下であればよい。
【0025】
水および有機溶媒は、固形成分であるポリイミド系樹脂およびフッ素系樹脂が分散されるものである。
ここで、有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、プロピレンカーボネイト、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、4-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。
【0026】
また、電着液中の水の含有割合は、15質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。一方、電着液中の水の含有割合は、85質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがさらに好ましい。
さらに、電着液中の有機溶剤の含有割合は、15質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。一方、電着液中の有機溶剤の含有割合は、85質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
次に、電着液を用いた絶縁皮膜の製造方法について、図1を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態における絶縁皮膜の製造方法は、表面前処理工程S01と、電着膜形成工程S02と、焼き付け工程S03とを有している。
【0028】
(表面前処理工程S01)
まず、電着膜(絶縁皮膜)を形成する基材を準備する。この基材は、導電性を有しており、例えば、銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金等の金属材料で構成されている。
そして、有機溶剤や界面活性剤等の表面処理液を用いて、上述の基材の表面を付着している油脂や酸化皮膜を取り除く。
【0029】
(電着膜形成工程S02)
次に、本実施形態である電着液に、基材と対向電極とを浸漬し、基材を陽極、対向電極を陰極として、陽極(基材)と陰極(対向電極)との間に電圧を印加する。これにより、基材の周辺の電着液のpHが低下し、基材の表面に固形成分(本実施形態では、ポリイミド系樹脂とフッ素系樹脂との混合物)が析出する。これにより、基材の表面に電着膜を形成する。このとき、本実施形態においては、電着液に有機酸が添加されているので、有機酸のpH緩衝効果により電着膜の中に有機溶媒が適切に含有されることになる。
【0030】
電着膜形成工程S02における電着液の温度(液温)は、5℃以上35℃以下の範囲内に調整することが好ましい。
液温を5℃以上とすることで、結露によって電着液に水が混入することを抑制できる。一方、液温を35℃以下とすることで、電着液の保存安定性が向上し、安定して電着膜を成膜することができる。
【0031】
電着膜形成工程S02における基材(陽極)と対向電極(陰極)との間の印加電圧は、10V以上600V以下の範囲内とすることが好ましい。
印加電圧を10V以上とすることで、電着速度を確保でき、生産性を向上させることができる。一方、印加電圧を600V以下とすることで、基材の表面に気泡が多く発生することを抑制でき、後工程の焼き付け工程S03において、気泡が弾けて、絶縁皮膜に多数の凹凸が生じることを抑制できる。
【0032】
(焼き付け工程S03)
焼き付け工程S03では、電着膜形成工程S02で得られた固形成分を含む電着膜が形成された基材を、例えば、200℃以上、かつ固形成分の融点以下の温度範囲内で乾燥させて残留電着液を除去した後、電着膜を基材に焼き付けて絶縁皮膜を形成する。
【0033】
焼き付け工程S03における焼き付け温度は、固形成分の電着膜が造膜して、基材に絶縁皮膜が形成される温度範囲であればよく、例えば、200℃以上400℃以下の範囲内にすればよい。また、焼き付け時間は、例えば、0.5分間以上60分間以下の範囲内であればよい。
【0034】
以上のような工程を経て、導電性の基材に、固形成分を含む絶縁皮膜が形成されることになる。
ここで、電着を継続して実施していると、カルボン酸等の有機酸が生成し、電着液に含まれる有機酸の濃度が高くなる。すると、電着膜を焼き付ける際に、膨れが生じるおそれがある。
そこで、本実施形態においては、電着液中の有機酸の濃度を制御するように、電着液の管理を行う。
【0035】
ここで、本実施形態である電着装置10、および、この電着装置30を用いた電着液の管理方法について、図2を参照して説明する。
図2に示す電着装置10は、電着液が貯留されるとともに基材と対向電極が浸漬される電着槽20と、電着液に対してアニオン交換処理を行うアニオン交換手段30と、電着槽20とアニオン交換手段30との間で電着液を循環させる電着液循環手段40(取出配管41および戻し配管42)と、を備えている。
【0036】
電着槽20には、電着液が貯留されており、この電着液に、陽極となる基材と陰極となる対向電極とが、浸漬される。そして、これら基材と対向電極との間に電圧を負荷することで基材の表面に電着膜を形成する。
【0037】
アニオン交換手段30は、図2に示すように、アニオン交換樹脂32が配置されたアニオン交換槽31を備えている。
電着槽20から取出配管41を介してアニオン交換槽31に電着液が供給される。電着液がアニオン交換槽31に貯留されることにより、アニオン交換樹脂32によって、電着液に含まれる有機酸が除去される。
これにより、電着液に含まれる有機酸の濃度を制御することが可能となる。なお、電着液に含まれる有機酸としては、カルボン酸が挙げられる。
【0038】
そして、このアニオン交換槽31において有機酸の濃度が制御された電着液が戻し配管42を介して電着槽20への供給されることになる。
ここで、電着槽20に貯留される電着液においては、有機酸の濃度は5mg/L以上500mg/L以下の範囲内に制御することが好ましい。
【0039】
以上のような構成とされた本実施形態である電着液の管理方法によれば、電着液に含まれる有機酸の濃度を制御しているので、電着を継続して実施した場合であっても、有機酸の濃度が過剰に高くならず、焼き付け時における膨れの発生を抑制することができ、絶縁皮膜を安定して形成することが可能となる。
【0040】
本実施形態において、電着液が、水と、有機溶媒と、固形成分と、中和剤と、を含み、前記固形成分は、少なくともポリイミド系樹脂を含む場合には、少なくともポリイミド系樹脂を含む電着膜を成膜することができ、絶縁特性に優れた絶縁皮膜を安定して形成することが可能となる。
【0041】
本実施形態において、電着液が有機酸として少なくともカルボン酸を含有する場合には、有機酸のpH緩衝効果によって、陽極(基材)表面におけるpHの急激な低下を抑制でき、安定して電着膜を成膜することができる。
【0042】
本実施形態において、電着液が有機酸として少なくともヒドロキシ酸を含有する場合には、有機酸のpH緩衝効果によって、陽極(基材)表面におけるpHの急激な低下を抑制でき、安定して電着膜を成膜することができる。
【0043】
本実施形態において、電着液における有機酸の濃度を5mg/L以上500mg/L以下の範囲内に調整する場合には、適度なpH緩衝効果を作用させることができ、安定して電着膜を成膜することができるとともに、焼き付け時の膨れの発生を的確に抑制することができる。
【0044】
本実施形態において、電着液が、固形成分としてポリイミド系樹脂とともにフッ素樹脂を含む場合には、ポリイミド系樹脂とフッ素樹脂との混合樹脂を含む電着膜を成膜することができ、絶縁特性に特に優れた絶縁皮膜を安定して形成することが可能となる。
【0045】
本実施形態である電着装置10によれば、電着液が貯留されるとともに、前記基材と対向電極が浸漬される電着槽と、前記電着液に対してアニオン交換処理を行うアニオン交換手段と、前記電着槽と前記アニオン交換手段との間で前記電着液を循環させる電着液循環手段と、を備えているので、電着液に含まれる有機酸の濃度を適切に調整することができ、電着を継続して実施した場合であっても、有機酸の濃度が過剰に高くならず、焼き付け時における膨れの発生を抑制することができ、絶縁皮膜を安定して形成することが可能となる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態においては、図2に示す電着装置を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、他の構成の電着装置であってもよい。
【0047】
例えば、図3に示す電着装置110であってもよい。図3に示す電着装置110においては、電着液に対してアニオン交換処理を行うアニオン交換手段130が、限外ろ過装置131と、アニオン交換膜133とカチオン交換膜134とが交互に配設された交換膜槽132と、を備えたものであってもよい。その他の、有機酸を制御する方法として、電気透析を用いた方法などを適用してもよい。
【実施例0048】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0049】
表1,2に示すように、水、有機溶媒、固形成分、中和剤、有機酸を準備し、これらを表1,2に示す(質量比)となるように混合して電着液を得た。
本発明例1~24においては、図2に示す電着装置を用いて、電着液に対してアニオン交換処理を行った。その結果、有機酸の濃度の変化について表1,2に示す。
【0050】
ここで、電着膜に含まれる有機酸の濃度は、以下のようにして評価した。
電着液を超純水で希釈した後、夾雑物を除去およびメンブランフィルターに通した濾液をイオンクロマトグラフィー測定用の溶液とした。
次に、イオンクロマトグラフThermo Fisher Scientific ICS-5000+を用いて測定した。イオンクロマトグラフの固定相として陰イオン交換カラムDionex IonPac AG15およびDionex IonPac AS15、溶離液として水酸化カリウム水溶液、サプレッサーとしてDionex ADRS 600、検出器として電気伝導度を使用した。
【0051】
また、アニオン交換処理を行った本発明例1~24の電着液、および、アニオン交換処理を行っていない比較例1~3の電着液の安定性について評価した。
電着液を40℃で5日間保持した際に、電着液に沈殿や分離が生じたものを「×」、電着液に沈殿や分離が生じなかったものを「〇」と評価した。評価結果を表1,2に示す。
【0052】
そして、導電性の基材として無酸素銅の平角棒材(1.47mm×2.94mm×長さ25cm)を準備するとともに、対向電極として円筒状の銅板を準備した。
上述の電着液に基材と対向電極を浸漬し、電着液の液温を20℃、印加電圧を300V、保持時間0.5分として、電着膜を形成した。
その後、電着膜に対して、焼き付け時のワーク温度140~170℃にて10分間、240~260℃にて5分間、340~350℃にて90秒保持後、速やかに冷却する三段階の昇温プロファイルで焼き付けを行い、絶縁皮膜を形成した。
【0053】
そして、形成した絶縁皮膜の外観を観察し、膨れについて評価した。
目視観察で、絶縁皮膜に膨れが認められた場合を「あり」、認められなかった場合を「なし」と評価した。
さらに、絶縁皮膜の比誘電率を以下のように測定した。評価結果を表1,2に示す。
絶縁皮膜表面の端2箇所10mmと中央部分100mmに銀ペーストを塗布し、測定用サンプルを作製する。導体と中央部分の銀ペースト間の静電容量を日置電機製LCRメータIM3536で測定し、測定した静電容量と皮膜の厚みから比誘電率を算出した。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
比較例1~3においては、電着液に含まれる有機酸濃度の調整を行っていないことから、電着液の安定性の評価が「×」となった。また、焼き付け後の絶縁皮膜には、膨れが発生した。
【0057】
これに対して、本発明例1~24においては、電着液に含まれる有機酸濃度の調整を行っていることから、電着液の安定性の評価が「〇」となった。また、焼き付け後の絶縁皮膜には、膨れが発生しなかった。
さらに、本発明例18,19においては、固形成分として、ポリイミド系樹脂とフッ素樹脂を含んでおり、比誘電率が十分に低くなり、絶縁特性に特に優れていた。
【0058】
以上の確認実験の結果から、本発明例によれば、電着膜を焼き付ける際に膨れが発生することを抑制でき、絶縁皮膜を安定して形成可能な電着液の管理方法、および、電着装置を提供可能であることが確認された。
図1
図2
図3