(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156606
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】粉体急結剤、止水材材料、止水材、構造体の製造方法及び止水方法
(51)【国際特許分類】
C04B 22/10 20060101AFI20241029BHJP
C04B 24/04 20060101ALI20241029BHJP
C04B 22/12 20060101ALI20241029BHJP
C04B 20/10 20060101ALI20241029BHJP
C04B 41/48 20060101ALI20241029BHJP
C04B 26/04 20060101ALI20241029BHJP
C04B 26/18 20060101ALI20241029BHJP
E21D 11/10 20060101ALI20241029BHJP
C04B 103/14 20060101ALN20241029BHJP
【FI】
C04B22/10
C04B24/04
C04B22/12
C04B20/10
C04B41/48
C04B26/04 C
C04B26/18 B
C04B26/04 B
E21D11/10 D
C04B103:14
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024028991
(22)【出願日】2024-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2023070852
(32)【優先日】2023-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 朱音
(72)【発明者】
【氏名】刈茅 孝一
(72)【発明者】
【氏名】黒田 健夫
【テーマコード(参考)】
2D155
4G112
【Fターム(参考)】
2D155KA08
2D155KB00
2D155LA02
4G112LA13
4G112LA14
4G112LA15
4G112MB06
4G112MB08
(57)【要約】
【課題】止水材材料における急結剤として用いた場合に、得られる止水材において、短期的な止水性だけでなく、長期的な止水性も高めることができる粉体急結剤を提供する。
【解決手段】本発明に係る粉体急結剤は、母材と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含み、前記イオン放出性化合物が、前記母材の少なくとも表面に存在し、前記イオン放出性化合物が、難水溶性塩を生成可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体急結剤であって、
母材と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含み、
前記イオン放出性化合物が、前記母材の少なくとも表面に存在し、
前記イオン放出性化合物が、難水溶性塩を生成可能である、粉体急結剤。
【請求項2】
前記難水溶性塩が、炭酸カルシウムである、請求項1に記載の粉体急結剤。
【請求項3】
前記イオン放出性化合物が、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、又は塩化カルシウムである、請求項1又は2に記載の粉体急結剤。
【請求項4】
前記母材が、樹脂である、請求項1又は2に記載の粉体急結剤。
【請求項5】
前記母材が、熱可塑性樹脂である、請求項1又は2に記載の粉体急結剤。
【請求項6】
前記イオン放出性化合物が、前記粉体急結剤の表面と、前記粉体急結剤の内部とに存在する、請求項1又は2に記載の粉体急結剤。
【請求項7】
セメントミルク又はモルタルと、
請求項1又は2に記載の粉体急結剤とを含む、止水材材料。
【請求項8】
可使時間が、1分以上30分以下である、請求項7に記載の止水材材料。
【請求項9】
請求項7に記載の止水材材料の硬化物である、止水材。
【請求項10】
材齢24時間における圧縮強度が、0.1N/mm2以上5.0N/mm2以下である、請求項9に記載の止水材。
【請求項11】
止水対象物の止水対象箇所に、請求項7に記載の止水材材料を配置する配置工程と、
前記止水材材料を硬化させる硬化工程とを備える、構造体の製造方法。
【請求項12】
請求項7に記載の止水材材料を用いて、止水対象物の止水対象箇所を止水する、止水方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体急結剤に関する。また、本発明は、上記粉体急結剤を用いた止水材材料に関する。また、本発明は、上記止水材材料を用いた止水材に関する。また、本発明は、上記止水材材料を用いる構造体の製造方法及び止水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル、地下空間及び法面等の建設工事では、壁面、天井面及び斜面等から漏水又は湧水が発生することがある。従来、漏水又は湧水を止水するために、吹付コンクリート等の吹付材が用いられている。止水目的で用いられる吹付材(止水材)は、止水対象箇所への吹付直後から水圧に耐えて該止水対象箇所に付着している必要がある。そのため、止水目的で用いられる吹付材(止水材)の材料には、通常、急結剤が配合される。
【0003】
急結剤の一例として、下記の特許文献1には、化学成分としてのCaOとAl2O3との含有モル比(CaO/Al2O3)が2.0~2.6であり、CaOとAl2O3とを合計で86~94質量%含むセメント用急結剤が開示されている。このセメント用急結剤は、残部に化学成分としてのSiO2とFe2O3とを含有質量比(SiO2/Fe2O3)8~15で含み、残部中のSiO2とFe2O3との含有割合が50質量%以上である。また、このセメント用急結剤は、CaO-Al2O3-SiO2-Fe2O3系非晶質物質を有効成分とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の急結剤を含む止水材材料を用いた止水材では、短期的には、良好に止水することができる。しかしながら、1箇所を止水すると、別の亀裂を起点として水の通り道が新たに形成され、止水作業から比較的時間が経過した後に水漏れが新たに発生することがある。また、微細な亀裂箇所に止水材材料を配置することは困難であるため、止水作業から比較的時間が経過した後に水漏れが新たに発生することがある。
【0006】
このように、従来の急結剤を含む止水材材料を用いた場合には、得られる止水材において、短期的な止水性を高めることができたとしても、長期的な止水性を高めることは困難である。
【0007】
本発明の目的は、止水材材料における急結剤として用いた場合に、得られる止水材において、短期的な止水性だけでなく、長期的な止水性も高めることができる粉体急結剤を提供することである。また、本発明の目的は、上記粉体急結剤を用いた止水材材料を提供することである。また、本発明の目的は、上記止水材材料を用いた止水材を提供することである。また、本発明の目的は、上記止水材材料を用いる構造体の製造方法及び止水方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書において、以下の粉体急結剤、止水材材料、止水材、構造体の製造方法及び止水方法を開示する。
【0009】
項1.粉体急結剤であって、母材と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含み、前記イオン放出性化合物が、前記母材の少なくとも表面に存在し、前記イオン放出性化合物が、難水溶性塩を生成可能である、粉体急結剤。
【0010】
項2.前記難水溶性塩が、炭酸カルシウムである、項1に記載の粉体急結剤。
【0011】
項3.前記イオン放出性化合物が、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、又は塩化カルシウムである、項1又は2に記載の粉体急結剤。
【0012】
項4.前記母材が、樹脂である、項1~3のいずれか1項に記載の粉体急結剤。
【0013】
項5.前記母材が、熱可塑性樹脂である、項1~4のいずれか1項に記載の粉体急結剤。
【0014】
項6.前記イオン放出性化合物が、前記粉体急結剤の表面と、前記粉体急結剤の内部とに存在する、項1~5のいずれか1項に記載の粉体急結剤。
【0015】
項7.セメントミルク又はモルタルと、項1~6のいずれか1項に記載の粉体急結剤とを含む、止水材材料。
【0016】
項8.可使時間が、1分以上30分以下である、項7に記載の止水材材料。
【0017】
項9.項7又は8に記載の止水材材料の硬化物である、止水材。
【0018】
項10.材齢24時間における圧縮強度が、0.1N/mm2以上5.0N/mm2以下である、項9に記載の止水材。
【0019】
項11.止水対象物の止水対象箇所に、項7又は8に記載の止水材材料を配置する配置工程と、前記止水材材料を硬化させる硬化工程とを備える、構造体の製造方法。
【0020】
項12.項7又は8に記載の止水材材料を用いて、止水対象物の止水対象箇所を止水する、止水方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る粉体急結剤は、母材と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含み、上記イオン放出性化合物が、上記母材の少なくとも表面に存在し、上記イオン放出性化合物が、難水溶性塩を生成可能である。本発明に係る粉体急結剤では、上記の構成が備えられているので、止水材材料における急結剤として用いた場合に、得られる止水材において、短期的な止水性だけでなく、長期的な止水性も高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る粉体急結剤を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施例における短期的な止水性の評価方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0024】
(粉体急結剤)
本発明に係る粉体急結剤は、母材と、陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物とを含み、上記イオン放出性化合物が、上記母材の少なくとも表面に存在し、上記イオン放出性化合物が、難水溶性塩を生成可能である。
【0025】
以下、本明細書において、「粉体急結剤」を「急結剤」と略記することがある。
【0026】
本明細書において、「難水溶性塩」とは、難水溶性塩1gを水100g中に入れ、20℃で10分間保持したときに、水に溶ける難水溶性塩の重量が0.1g以下である塩を意味する。
【0027】
本発明に係る急結剤では、上記の構成が備えられているので、止水材材料における急結剤として用いた場合に、得られる止水材において、短期的な止水性だけでなく、長期的な止水性も高めることができる。
【0028】
本発明に係る急結剤は、セメントを含む成分(例えば、セメントミルク又はモルタル)と混合されて好適に用いられる。本発明に係る急結剤は、セメントを含む成分と混合され、止水材材料を得るために好適に用いられる。本発明に係る急結剤は粉体であるため、セメントを含む成分と混合しやすい。
【0029】
本発明に係る急結剤では、上記母材の少なくとも表面に上記イオン放出性化合物が存在するので、該急結剤がセメントを含む成分と混合されたときに、急結作用により該成分を短時間で硬化させることができ、得られる止水材において、短期的な止水性を高めることができる。
【0030】
また、本発明に係る急結剤は上記イオン放出性化合物を含むので、上記止水材も上記イオン放出性化合物を含む。上記止水材が漏水している水と接触した場合、該イオン放出性化合物がイオンを放出することにより、難水溶性塩が生成され、コンクリーションが形成される。また、上記イオン放出性化合物又は上記イオン放出性化合物から放出されたイオンは、漏水している水に溶解して微細な亀裂箇所に移動するため、該微細な亀裂箇所においてもコンクリーションが形成される。これにより、止水箇所及びその周囲が緻密化され、長期的な止水性も高めることができる。
【0031】
上記急結剤は、粉体である。上記急結剤は、球状であってもよく、略球状であってもよく、ペレット状であってもよく、これら以外の形状であってもよい。
【0032】
上記急結剤の平均粒子径は、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下、更に好ましくは100μm以下である。上記急結剤の平均粒子径が上記下限以上であると、止水材材料中での分散性をより一層高めることができる。上記急結剤の平均粒子径が上記上限以下であると、止水材材料の粘度を良好にしやすくなる。
【0033】
上記急結剤の平均粒子径は、数平均粒子径を示す。上記急結剤の平均粒子径は、任意の急結剤50個を電子顕微鏡又は光学顕微鏡にて観察し、粒子径の平均値を算出することにより求められる。なお、上記急結剤の粒子径とは、上記急結剤の断面の円相当径を意味する。
【0034】
上記急結剤では、上記イオン放出性化合物が、上記母材の少なくとも表面に存在する。上記急結剤では、上記イオン放出性化合物が、上記急結剤の少なくとも表面に存在することが好ましい。上記イオン放出性化合物は、上記急結剤の表面にのみ存在してもよく、上記急結剤の表面と上記急結剤の内部とに存在してもよい。
【0035】
上記急結剤では、上記イオン放出性化合物が、上記急結剤の表面と上記急結剤の内部とに存在することが好ましい。この場合には、止水材が水と接触したときに、上記急結剤の内部に存在する上記イオン放出性化合物のイオンが徐放されるので、上記イオン放出性化合物が上記急結剤の表面にのみ存在する場合に比べて、長期的な止水性をより一層高めることができる。
【0036】
以下、図面を参照しつつ、本発明を具体的に説明する。なお、以下の図において、図示の便宜上、各構成要素の大きさは、実際の大きさと異なる場合がある。
【0037】
図1は、本発明の一実施形態に係る粉体急結剤を模式的に示す断面図である。
【0038】
図1に示す急結剤1(粉体急結剤)は、母材2と、イオン放出性化合物とを含む。イオン放出性化合物は、急結剤1の表面に存在するイオン放出性化合物31と、急結剤1の内部に存在するイオン放出性化合物32とを含む。イオン放出性化合物31は、母材2の表面に存在する。イオン放出性化合物32は、母材2の内部に存在する。母材2の表面とイオン放出性化合物31の表面とにより、急結剤1の表面が構成されている。
【0039】
以下、本発明に係る急結剤に用いられる各成分の詳細などを説明する。
【0040】
<母材>
上記急結剤は母材を含む。上記母材としては、樹脂等が挙げられる。上記母材は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0041】
上記樹脂としては、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂の硬化物、及びイオン交換樹脂等が挙げられる。上記樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0042】
上記熱可塑性樹脂としては、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、及びポリメタクリル酸メチル(PMMA)等が挙げられる。上記熱可塑性樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0043】
上記ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体(EPDM)、イソブチレン-イソプレン共重合体、ポリスチレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、及びエチレン-α-オレフィン共重合体等が挙げられる。
【0044】
上記硬化性樹脂としては、変性シリコーン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレア樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、及びナフトキサジン樹脂等が挙げられる。上記硬化性樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0045】
上記イオン交換樹脂としては、スルホン酸基を有するカチオン交換樹脂等の強酸性カチオン交換樹脂、並びに、メタクリル系カルボン酸基を有するカチオン交換樹脂及びアクリル系カルボン酸基を有するカチオン交換樹脂等の弱酸性カチオン交換樹脂等が挙げられる。
【0046】
上記母材は、樹脂であることが好ましく、熱可塑性樹脂であることがより好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、又はポリエチレンテレフタレートであることが更に好ましく、エチレン-酢酸ビニル共重合体、又はポリエチレンテレフタレートであることが特に好ましい。この場合には、母材と水との親和性を高めることができるので、吸水速度が速く、イオン放出速度を速くすることができる。
【0047】
上記急結剤100重量%中、上記母材の含有量は、好ましくは33重量%以上、より好ましくは50重量%以上、好ましくは90重量%以下、より好ましくは82重量%以下である。上記母材の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、上記急結剤中のイオン放出性化合物の含有量を好適な範囲にすることができるので、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0048】
<イオン放出性化合物>
上記急結剤は陽イオン又は陰イオンを放出可能なイオン放出性化合物を含む。上記イオン放出性化合物は、難水溶性塩を生成可能である。
【0049】
上記イオン放出性化合物は、陽イオンを放出可能な化合物であってもよく、陰イオンを放出可能な化合物であってもよく、陽イオンと陰イオンとの双方を放出可能な化合物であってもよく、陽イオンを放出可能な化合物と陰イオンを放出可能な化合物との混合物であってもよい。上記イオン放出性化合物は、粒子状であってもよい。上記イオン放出性化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0050】
上記イオン放出性化合物は、水分との接触により難水溶性塩を生成可能な化合物であることが好ましい。上記イオン放出性化合物が陽イオンを放出可能な化合物である場合には、上記イオン放出性化合物から放出された陽イオンと、水分等に溶解した陰イオンとが化学反応し、難水溶性塩が生成されることが好ましい。上記イオン放出性化合物が陰イオンを放出可能な化合物である場合には、上記イオン放出性化合物から放出された陰イオンと、水分等に溶解した陽イオンとが化学反応し、難水溶性塩が生成されることが好ましい。また、上記イオン放出性化合物が陽イオンと陰イオンとの双方を放出可能な化合物、又は、陽イオンを放出可能な化合物と陰イオンを放出可能な化合物との混合物である場合には、上記イオン放出性化合物から放出された陽イオンと陰イオンとが、水分等を媒体に移動し、出会ったポイントで難水溶性塩が生成されることが好ましい。
【0051】
上記難水溶性塩としては、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、及び水酸化鉄等が挙げられる。
【0052】
コンクリーションをより一層良好に形成させ、長期的な止水性をより一層高める観点からは、上記難水溶性塩は、炭酸カルシウムであることが好ましい。すなわち、上記イオン放出性化合物は、難水溶性塩として、炭酸カルシウムを生成可能であることが好ましい。
【0053】
上記イオン放出性化合物としては、硫酸カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、硝酸カルシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素アンモニウム、珪酸ソーダ、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、二酸化ナトリウムアルミニウム、アルミン酸カルシウム、ケイフッ化マグネシウム、ホウ酸、リン酸水素二カリウム、酸化亜鉛、酸化鉛、酸化銅、アミン類、無水マレイン酸、オキシカルボン酸、オキシカルボン酸塩、ケト酸、ケト酸塩、アミノカルボン酸、アミノカルボン酸塩、高分子有機酸、高分子有機酸塩、水溶性アクリル酸、水溶性アクリル酸塩、ケイ酸三カルシウム、ケイ酸二カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、酢酸カルシウムマグネシウム、ステアリン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、安息香酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、乳酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素カリウム及び炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0054】
上記イオン放出性化合物は、炭酸塩、有機酸カルシウム、又は塩化カルシウムであることが好ましく、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、又は塩化カルシウムであることがより好ましく、炭酸ナトリウム、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、又は塩化カルシウムであることが更に好ましい。この場合には、急結性をより一層高めることができ、短期的な止水性をより一層高めることができる。また、上記難水溶性塩として炭酸カルシウムを生成させることができ、長期的な止水性をより一層高めることができる。
【0055】
上記イオン放出性化合物は、球状であってもよく、球状以外の形状であってもよく、扁平状であってもよい。上記イオン放出性化合物は、球状であることが好ましい。
【0056】
上記イオン放出性化合物の平均粒子径は、好ましくは1.0μm以上、より好ましくは5.0μm以上、更に好ましくは10μm以上、好ましくは200μm以下、より好ましくは150μm以下、更に好ましくは120μm以下である。上記イオン放出性化合物の平均粒子径が上記下限以上であると、急結剤中での分散性を高めることができる。また、上記イオン放出性化合物の平均粒子径が上記下限以上であると、上記イオン放出性化合物が後述するコーティング剤により良好に被覆され、急結剤中での分散性を高めることができる。上記イオン放出性化合物の平均粒子径が上記上限以下であると、止水材材料を止水対象箇所に配置する際の粘度を良好にすることができる。
【0057】
上記イオン放出性化合物の平均粒子径は、数平均粒子径を示す。上記イオン放出性化合物の平均粒子径は、任意のイオン放出性化合物50個を電子顕微鏡又は光学顕微鏡にて観察し、平均値を算出することにより求められる。なお、上記イオン放出性化合物の粒子径とは、上記イオン放出性化合物の断面の円相当径を意味する。
【0058】
上記急結剤では、上記イオン放出性化合物の表面が、コーティング剤により被覆されていてもよい。この場合には、上記イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量を制御することができる。
【0059】
上記コーティング剤により被覆されたイオン放出性化合物は、水分が急結剤又は止水材と接触し、該水分が上記コーティング剤の内部に拡散浸入したときに、陽イオン又は陰イオンを放出可能であることが好ましい。上記コーティング剤により被覆されたイオン放出性化合物は、上記コーティング剤中の空隙より陽イオン又は陰イオンを放出可能であってもよい。上記コーティング剤により被覆されたイオン放出性化合物は、上記コーティング剤の内部に拡散し、陽イオン又は陰イオンを放出可能であってもよい。これらの場合には、イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量をより一層良好に制御することができる。
【0060】
上記コーティング剤の材料としては、樹脂等が挙げられる。上記コーティング剤の材料は、樹脂を含むことが好ましい。この場合には、急結剤中及び止水材中での上記イオン放出性化合物の分散性を高め、陽イオン又は陰イオンを放出する時期及び量を良好に制御することができる。また、上記イオン放出性化合物の表面をコーティング剤により均一に被覆することができる。
【0061】
上記コーティング剤の材料である上記樹脂と、上記母材である上記樹脂とは、同じ種類の樹脂(同じ樹脂名の樹脂)であってもよく、異なる種類の樹脂(異なる樹脂名の樹脂)であってもよい。
【0062】
上記樹脂としては、水溶性樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、及び湿気硬化性樹脂等が挙げられる。上記樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0063】
上記水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸樹脂(PLA樹脂)、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、及びメチルセルロース等が挙げられる。
【0064】
上記熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、及びポリメタクリル酸メチル(PMMA)等が挙げられる。
【0065】
上記ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、及びエチレン-α-オレフィン共重合体等が挙げられる。
【0066】
上記熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、(メタ)アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂、及びポリウレア樹脂等が挙げられる。上記熱硬化性樹脂は、熱硬化剤と併用されてもよい。
【0067】
上記光硬化性樹脂としては、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリルウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、及びシリコーン樹脂等が挙げられる。上記光硬化性樹脂は、光重合開始剤と併用されてもよい。
【0068】
上記湿気硬化性樹脂としては、湿気硬化性ウレタン樹脂、及び加水分解性シリル基含有樹脂等が挙げられる。
【0069】
上記コーティング剤の厚み(上記コーティング剤による被覆層の厚み)は、特に限定されない。イオン放出性化合物から陽イオン又は陰イオンが放出される時期及び量をより一層良好に制御する観点からは、上記コーティング剤の厚みは、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、好ましくは25μm以下、より好ましくは20μm以下である。
【0070】
上記急結剤100重量%中、上記イオン放出性化合物の含有量は、好ましくは5重量%以上、より好ましくは15重量%以上、好ましくは99重量%以下、より好ましくは75重量%以下である。上記イオン放出性化合物の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、急結性をより一層高めることができ、短期的な止水性をより一層高めることができる。また、上記イオン放出性化合物の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、陽イオン又は陰イオンがより一層効果的に放出され、難水溶性塩をより一層良好に生成させることができるので、長期的な止水性をより一層高めることができる。
【0071】
上記急結剤100重量%中、上記母材と上記イオン放出性化合物との合計含有量は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、更に好ましくは97.5重量%以上、特に好ましくは99重量%以上、最も好ましくは100重量%である。上記合計含有量が上記下限以上であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。なお、上記急結剤100重量%中、上記母材と上記イオン放出性化合物との合計含有量は、100重量%以下であってもよく、100重量%未満であってもよく、99重量%以下であってもよく、98重量%以下であってもよい。
【0072】
<他の成分>
上記急結剤は、上記母材及び上記イオン放出性化合物の双方とは異なる他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分としては、表面改質剤、チクソ材及び酸化防止剤等が挙げられる。上記他の成分は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0073】
(止水材材料)
本発明に係る止水材材料は、セメントミルク又はモルタルと、上述した急結剤とを含む。
【0074】
なお、本明細書において、「セメントミルク」とは、セメントと水(混錬用水)との混錬物を意味する。本明細書において、「セメントミルク」は、細骨材を含まない。本明細書において、「モルタル」とは、セメントと細骨材と水(混錬用水)との混錬物を意味する。本明細書において、「セメント」とは、石灰石、粘土、珪石、及び酸化鉄原料等を主原料とし、水との化学反応で硬化可能な粉体を意味する。
【0075】
上記セメントミルク及び上記モルタルとして、従来公知のセメントミルク及びモルタルを使用可能である。
【0076】
上記止水材材料がセメントミルクを含む場合には、止水材材料の注入性を高めることができる。上記止水材材料がモルタルを含む場合には、セメントの硬化に伴う収縮(自己収縮)及び硬化後の乾燥に伴う収縮(乾燥収縮)を抑制することができる。
【0077】
上記セメントミルク及び上記モルタルに含まれるセメントは、特に限定されない。上記セメントミルク及び上記モルタルに含まれるセメントとしては、ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、及びフライアッシュセメント等が挙げられる。
【0078】
上記モルタル中の細骨材としては、人工骨材、及び天然骨材等が挙げられる。上記人工骨材としては、高炉スラグ、及びフライアッシュ等が挙げられる。上記天然骨材としては、砂等が挙げられる。材料コストを良好にする観点からは、上記モルタル中の細骨材は、砂であることが好ましい。
【0079】
上記モルタル中の細骨材の平均粒子径は、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、好ましくは2000μm以下、より好ましくは1000μm以下、更に好ましくは500μm以下、特に好ましくは100μm以下である。上記モルタル中の細骨材の平均粒子径が上記下限以上であると、モルタルの強度を良好にすることができる。上記モルタル中の細骨材の平均粒子径が上記上限以下であると、上記モルタル中で細骨材が沈下することを抑制し、止水材材料の注入性を高めることができる。
【0080】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記セメントミルク100重量%中、セメントの含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは20重量%以上、更に好ましくは30重量%以上、好ましくは90重量%以下、より好ましくは80重量%以下、更に好ましくは70重量%以下である。
【0081】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記セメントミルクにおいて、セメント100重量部に対して、水(混錬用水)の含有量は、好ましくは11重量部以上、より好ましくは25重量部以上、更に好ましくは35重量部以上、好ましくは125重量部以下、より好ましくは100重量部以下、更に好ましくは67重量部以下である。
【0082】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記モルタル100重量%中、セメントの含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、更に好ましくは20重量%以上、好ましくは60重量%以下、より好ましくは50重量%以下、更に好ましくは40重量%以下である。
【0083】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記モルタル100重量%中、細骨材の含有量は、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、更に好ましくは20重量%以上、好ましくは90重量%以下、より好ましくは85重量%以下、更に好ましくは80重量%以下である。
【0084】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記モルタルにおいて、セメント100重量部に対して、細骨材の含有量は、好ましくは11重量部以上、より好ましくは25重量部以上、更に好ましくは40重量部以上、好ましくは900重量部以下、より好ましくは400重量部以下、更に好ましくは250重量部以下である。
【0085】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記モルタルにおいて、セメント100重量部に対して、水(混錬用水)の含有量は、好ましくは20重量部以上、より好ましくは30重量部以上、更に好ましくは40重量部以上、好ましくは200重量部以下、より好ましくは100重量部以下、更に好ましくは60重量部以下である。
【0086】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記止水材材料100重量%中、上記セメントミルクの含有量は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは95重量%以上、好ましくは99.9重量%以下、より好ましくは99.5重量%以下、更に好ましくは99重量%以下である。
【0087】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記止水材材料100重量%中、上記モルタルの含有量は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは95重量%以上、好ましくは99.9重量%以下、より好ましくは99.5重量%以下、更に好ましくは99重量%以下である。
【0088】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記止水材材料において、上記セメントミルク100重量部に対して、上記急結剤の含有量は、好ましくは1重量部以上、より好ましくは5重量部以上、更に好ましくは7重量部以上、好ましくは100重量部以下、より好ましくは75重量部以下、更に好ましくは50重量部以下である。
【0089】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記止水材材料において、上記モルタル100重量部に対して、上記急結剤の含有量は、好ましくは1重量部以上、より好ましくは5重量部以上、更に好ましくは7重量部以上、好ましくは50重量部以下、より好ましくは30重量部以下、更に好ましくは10重量部以下である。
【0090】
上記止水材材料は、必要に応じて、上記セメントミルク、上記モルタル及び上記急結剤のこれら3種以外の他の成分を含んでいてもよい。上記他の成分としては、起泡剤、反応触媒、反応促進剤、架橋剤、吸水剤、整泡剤、酸化防止剤、着色剤、及び上記急結剤(本発明に係る急結剤)とは異なる急結剤等が挙げられる。上記他の成分は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0091】
上記起泡剤としては、動物蛋白系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン系界面活性剤が挙げられる。
【0092】
上記止水材材料の可使時間は、好ましくは1分以上、より好ましくは2分以上、好ましくは60分以下、より好ましくは30分以下、更に好ましくは15分以下である。上記可使時間が上記下限以上であると、急結剤の添加時及び混和時の著しい硬化を防ぎ、施工性を高めることができる。上記可使時間が上記上限以下であると、短期的な止水性をより一層高めることができる。
【0093】
上記止水材材料の可使時間は、上記止水材材料の20℃±1℃の環境下での可使時間である。上記止水材材料の可使時間は、20℃±1℃の環境下にて、以下のようにして測定される。JIS A1138「試験室におけるコンクリートの作り方」に準拠した方法にて、セメントミルク又はモルタルと上記急結剤とを撹拌して、止水材材料(測定用サンプル)を得る。撹拌終了後すぐに、得られた測定用サンプル400gを、鉄板の表面に貼り付けられたポリエチレンシート(縦40cm×横40cm)の表面上に載せる。次いで、ニトリルゴム製手袋を着用した状態で、測定用サンプルの上面に1分間隔で触れる。測定用サンプルの作製終了時点(撹拌が終了した時点)から、手袋に止水材材料が付着した最後の時点までの時間を、上記止水材材料の可使時間とする。例えば、測定用サンプルの作製終了時点から5分後の測定用サンプルの上面に触れたときに該手袋に止水材材料が付着し、測定用サンプルの作製終了時点から6分後の測定用サンプルの上面に触れたときに該手袋に止水材材料が付着しなかった場合には、上記止水材材料の可使時間は5分である。
【0094】
なお、上記止水材材料の実際の使用時の作製方法は、JIS A1138「試験室におけるコンクリートの作り方」に準拠した方法でなくてもよい。
【0095】
(止水材)
本発明に係る止水材は、上述した止水材材料の硬化物である。
【0096】
材齢24時間における上記止水材の圧縮強度は、好ましくは0.1N/mm2以上、より好ましくは0.15N/mm2以上、好ましくは5.0N/mm2以下、より好ましくは3.0N/mm2以下、更に好ましくは2.0N/mm2以下である。上記圧縮強度が上記下限以上であると、上記止水材の強度を高めることができる。上記圧縮強度が上記上限以下であると、上記止水材が配置された構造体に地震等の外部応力が負荷された場合に、止水材が配置された箇所及びその周辺に発生する応力の分布を良好にすることができる。
【0097】
材齢24時間における上記止水材の圧縮強度は、JIS A1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準拠して測定することができる。
【0098】
(止水方法、並びに、構造体及びその製造方法)
上記止水材材料を用いて、止水対象箇所を止水することができる。本発明に係る止水方法は、上述した止水材材料を用いて、止水対象物の止水対象箇所を止水する方法である。
【0099】
また、上記止水材材料を用いて、構造体を得ることができる。上記構造体は、止水対象箇所を有する止水対象物と、上記止水対象箇所に配置された止水材材料の硬化物とを備えることが好ましい。上記止水材材料の硬化物は、止水材である。
【0100】
本発明に係る構造体の製造方法は、止水対象物の止水対象箇所に、上述した止水材材料を配置する配置工程と、上記止水材材料を硬化させる硬化工程とを備える。上記構造体の製造方法では、上記止水対象箇所に配置された止水材材料の硬化物を備える構造体が得られる。上記止水材材料の硬化物は、止水材である。
【0101】
本発明の効果が効果的に発揮されることから、上記止水対象物は、地盤又はコンクリートを含むことが好ましい。
【0102】
本発明に係る構造体の製造方法は、上記セメントミルク又は上記モルタルと上記急結剤とを混合して、上記止水材材料を得る混合工程を備えることが好ましい。本発明に係る構造体の製造方法は、上記混合工程と上記配置工程と上記硬化工程とをこの順に備えることが好ましい。
【0103】
上記混合工程において、上記セメントミルク又は上記モルタルと、上記急結剤とを混合する方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用可能である。上記混合工程における混合方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。練り鉢にセメントミルク又はモルタルを投入して15秒間空練りする。次いで、練り鉢に急結剤を投入して10秒間空練りした後、練り混ぜ水を投入し、10秒間~15秒間両手で素早く連続的に混合する。
【0104】
上記配置工程において、上記止水対象箇所に上記止水材材料を配置する方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用可能である。上記配置工程は、上記止水対象箇所に上記止水材材料を吹き付ける工程であってもよく、上記止水対象箇所に上記止水材材料を塗布する工程であってもよく、上記止水対象箇所に上記止水材材料を注入する工程であってもよい。
【0105】
上記止水対象箇所に上記止水材材料を吹き付ける方法としては、空気圧によって、上記止水対象箇所に上記止水材材料を吹き付ける方法等が挙げられる。吹き付け方式は、乾式方式であってもよく、湿式方式であってもよい。
【0106】
上記止水対象箇所に上記止水材材料を塗布する方法としては、止水対象箇所をVカットした後、Vカットされた止水対象箇所に上記止水材材料を塗布する方法等が挙げられる。漏水量が少ない場合には、例えば、以下の方法が挙げられる。止水対象箇所をVカットし、漏水箇所の周囲から埋め込む形で上記止水材材料を塗布していく。漏水箇所に対しては、止水材材料が凝結を開始する直前に強く押し込み、硬化するまで手などを用いて押さえ続ける。止水材材料を追加で塗布したり、防水材を上塗りしたりして、止水材の表面が、止水対象物の表面と同一面となるようにする。漏水量が多い場合には、例えば、以下の方法が挙げられる。止水対象箇所をVカットし、漏水箇所の周囲を止水材材料で埋め込む。漏水箇所にホースを挿入し、水を逃がしながらホース周辺を止水材材料で埋めこむ。ホース周辺の止水材材料が完全に硬化したのちホースを抜き取り、ホース後部の止水材材料が凝結開始する前に止水材材料を塗布し、止水材材料が硬化するまで手で押さえる。止水材材料を追加で塗布したり、防水材を上塗りしたりして、止水材の表面が、止水対象物の表面と同一面となるようにする。
【0107】
上記止水対象箇所に上記止水材材料を注入する方法としては、注入ガンを用いて、上記止水対象箇所に上記止水材材料を注入する方法等が挙げられる。
【0108】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されない。なお、以下の実施例では、特に記載がない限り、常温(20℃±1℃)の環境下で試験を行った。
【0109】
(実施例1)
粉体急結剤の作製:
1.62kgの炭酸ナトリウム(平均粒子径450μm、イオン放出性化合物)と、1.62kgのエチレン-酢酸ビニル共重合体(東ソー社製「EVAウルトラセン#636」、母材)とを、押出機で溶融混合し、ストランド状に押出して、ペレット化した。得られたペレット化物を冷凍粉砕及び分級することにより、平均粒子径が50μmである粉体急結剤を得た。得られた粉体急結剤では、イオン放出性化合物である炭酸ナトリウムが、母材の少なくとも表面に存在している。得られた粉体急結剤では、イオン放出性化合物である炭酸ナトリウムが、粉体急結剤の表面と粉体急結剤の内部とに存在している。また、得られた粉体急結剤100重量%中、イオン放出性化合物である炭酸ナトリウムの含有量は50重量%であり、母材であるエチレン-酢酸ビニル共重合体の含有量は50重量%である。また、電子顕微鏡による観察を行った結果、得られた粉体急結剤において、イオン放出性化合物である炭酸ナトリウムの平均粒子径は5μmであった。
【0110】
止水材材料及び止水材の作製:
JIS A1138「試験室におけるコンクリートの作り方」に準拠した方法で、以下のようにして、止水材材料及び止水材を作製した。まず、プレミックスモルタル(陽光物産社製「M130」)を用意した。なお、このプレミックスモルタルは、セメント9.27kgに対して、細骨材27.80kgを含む。37.07kgのプレミックスモルタルと、5.78kgのイオン交換水(混錬用水)と、324gの粉体急結剤とを5Lバケツに投入後、撹拌機(高儀社製「EARTH MAN KH-500A」)を用いて、2分間撹拌し、止水材材料を得た。なお、止水材材料において、水(W)の含有量(重量)とセメント(C)の含有量(重量)との比率W/Cである水セメント比は、0.62であった。
【0111】
得られた止水材材料を、サミット缶(Φ50mm×100mm、住商セメント社製)に投入し、23℃及び湿度50%の環境下で1日養生させて、止水材材料を硬化させて、止水材を得た。
【0112】
(実施例2)
粉体急結剤の作製:
イオン放出性化合物として、炭酸水素ナトリウム(平均粒子径450μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、平均粒子径が50μmである粉体急結剤を得た。得られた粉体急結剤では、イオン放出性化合物である炭酸水素ナトリウムが、母材の少なくとも表面に存在している。得られた粉体急結剤では、イオン放出性化合物である炭酸水素ナトリウムが、粉体急結剤の表面と粉体急結剤の内部とに存在している。また、得られた粉体急結剤100重量%中、イオン放出性化合物である炭酸水素ナトリウムの含有量は50重量%であり、母材であるエチレン-酢酸ビニル共重合体の含有量は50重量%である。また、電子顕微鏡による観察を行った結果、得られた粉体急結剤において、イオン放出性化合物である炭酸水素ナトリウムの平均粒子径は4μmであった。
【0113】
止水材材料及び止水材の作製:
得られた粉体急結剤を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、止水材材料及び止水材を得た。
【0114】
(実施例3)
粉体急結剤の作製:
イオン放出性化合物として、酢酸カルシウム(平均粒子径75μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、平均粒子径が50μmである粉体急結剤を得た。得られた粉体急結剤では、イオン放出性化合物である酢酸カルシウムが、母材の少なくとも表面に存在している。得られた粉体急結剤では、イオン放出性化合物である酢酸カルシウムが、粉体急結剤の表面と粉体急結剤の内部とに存在している。また、得られた粉体急結剤100重量%中、イオン放出性化合物である酢酸カルシウムの含有量は50重量%であり、母材であるエチレン-酢酸ビニル共重合体の含有量は50重量%である。また、電子顕微鏡による観察を行った結果、得られた粉体急結剤において、イオン放出性化合物である酢酸カルシウムの平均粒子径は2μmであった。
【0115】
止水材材料及び止水材の作製:
得られた粉体急結剤を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、止水材材料及び止水材を得た。
【0116】
(実施例4)
粉体急結剤の作製:
母材として、ポリエチレンテレフタレート(インドラマ・ベンチャーズ社製「RAMAPET N1」)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、平均粒子径が50μmである粉体急結剤を得た。得られた粉体急結剤では、イオン放出性化合物である炭酸ナトリウムが、母材の少なくとも表面に存在している。得られた粉体急結剤では、イオン放出性化合物である炭酸ナトリウムが、粉体急結剤の表面と粉体急結剤の内部とに存在している。また、得られた粉体急結剤100重量%中、イオン放出性化合物である炭酸ナトリウムの含有量は50重量%であり、母材であるポリエチレンテレフタレートの含有量は50重量%である。また、電子顕微鏡による観察を行った結果、得られた粉体急結剤において、イオン放出性化合物である炭酸ナトリウムの平均粒子径は5μmであった。
【0117】
止水材材料及び止水材の作製:
得られた粉体急結剤を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、止水材材料及び止水材を得た。
【0118】
(比較例1)
止水材材料及び止水材の作製:
粉体急結剤を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、止水材材料及び止水材を得た。
【0119】
(比較例2)
止水材材料及び止水材の作製:
粉体急結剤の代わりに、平均粒子径が50μmであるエチレン-酢酸ビニル共重合体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、止水材材料及び止水材を得た。なお、表の都合上、下記の表では、上記エチレン-酢酸ビニル共重合体の構成を粉体急結剤の欄に記載した。
【0120】
(比較例3)
粉体急結剤の用意:
粉体急結剤として、平均粒子径が50μmである炭酸ナトリウムを用意した。
【0121】
止水材材料及び止水材の作製:
用意した粉体急結剤を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、止水材材料及び止水材を得た。
【0122】
(比較例4)
止水材材料及び止水材の作製:
粉体急結剤の代わりに、平均粒子径が50μmであるポリエチレンテレフタレートを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、止水材材料及び止水材を得た。なお、表の都合上、下記の表では、上記ポリエチレンテレフタレートの構成を粉体急結剤の欄に記載した。
【0123】
(評価)
以下の評価では、特に記載がない限り、常温(20℃±1℃)の環境下で試験を行った。
【0124】
(1)止水材材料の可使時間
上記の「止水材材料及び止水材の作製」の欄に記載の方法に従って、各成分を混合後、2分間撹拌し、止水材材料(測定用サンプル)を得た。撹拌終了後すぐに、得られた測定用サンプル400gを、鉄板の表面に貼り付けられたポリエチレンシート(大倉工業社製「ポリシート」、縦40cm×横40cm)の表面上に載せた。次いで、ニトリルゴム製手袋を着用した状態で、測定用サンプルの上面に1分間隔で触れた。測定用サンプルの作製終了時点(撹拌が終了した時点)から、手袋に止水材材料が付着した最後の時点までの時間を、上記止水材材料の可使時間とした。
【0125】
(2)材齢24時間における止水材の圧縮強度
材齢24時間における上記止水材の圧縮強度を、JIS A1108:2018「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準拠して測定した。
【0126】
(3)短期的な止水性
図2は、短期的な止水性の評価方法を説明するための図である。まず、モルタルを硬化させて、縦10cm×横10cm×高さ10cmのモルタル供試体5を作製した。このモルタル供試体5に、テンシロンを用いて、ひび割れ51を作製し、作製したひび割れ51間に1mmのスペーサーを挟んで貼り合わせた(
図2(a))。次いで、ひび割れ51に合わせて、モルタル供試体5の1つの側面に、深さ2cm程度のVカットを施した。次いで、モルタル供試体5の上面に、Φ5cm及び高さ20cmのパイプ6を設置した。次いで、Vカット部分以外及びパイプ6を設置した部分以外に存在するひび割れ51を、ブチルテープ7で封止した(
図2(b))。Vカット部分に、作製した止水材材料を配置した後、放置して止水材10を形成した(
図2(c))。また、止水材材料を配置してから20分後に、パイプ6に196cc(水頭差10cm相当)の水を加えた。パイプ6に水を加えてから1分後に、目視にて、漏水が生じているか否かを確認した。なお、以下のA及びBの双方を満たす場合に、漏水が生じていると判定した。
【0127】
A:パイプの水頭差が明らかに減少している(2cm以上減少している)
B:止水材とモルタル供試体との接合部分、又は、止水材自体から、水が漏出している
【0128】
[短期的な止水性の判定基準]
○:漏水が生じていない
×:漏水が生じている
【0129】
(4)長期的な止水性(難水溶性塩の生成)
実施例1,2,4及び比較例1~4で得られた止水材を、1000ppmの塩化カルシウム溶液に1ヵ月浸漬した。また、実施例3で得られた止水材を、イオン交換水に1ヵ月浸漬した。浸漬後、止水材を取り出し、止水材の表面に粒子が析出しているか否かを目視で詳細に観察した。止水材の表面に粒子が析出しているものについて、走査型電子顕微鏡を用いて観察すると、緻密な結晶構造をもつ粒子(炭酸カルシウムのカルサイト構造)の集合体が観察された。長期的な止水性(難水溶性塩の生成)を、以下の基準で判定した。
【0130】
[長期的な止水性(難水溶性塩の生成)の判定基準]
○○:止水材の全表面積100%中、粒子が析出している表面積が20%以上
○:止水材の全表面積100%中、粒子が析出している表面積が10%以上20%未満
×:止水材の全表面積100%中、粒子が析出している表面積が10%未満
【0131】
構成及び結果を下記の表1に示す。
【0132】
【0133】
下記の表2に本発明の急結剤及び止水材材料の製造例(配合組成の例)を示す。
【0134】
【符号の説明】
【0135】
1…急結剤(粉体急結剤)
2…母材
31…急結剤の表面に存在するイオン放出性化合物
32…急結剤の内部に存在するイオン放出性化合物