(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156627
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】多層建築物の建築方法及び昇降装置
(51)【国際特許分類】
E04G 21/16 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
E04G21/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024069217
(22)【出願日】2024-04-22
(31)【優先権主張番号】P 2023070780
(32)【優先日】2023-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】506002823
【氏名又は名称】古河ユニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 洋憲
【テーマコード(参考)】
2E174
【Fターム(参考)】
2E174CA12
(57)【要約】
【課題】クレーンの揚程能力に関わらず施工期間及び施工コストを低減可能な、多層建築物の建築方法を提供する。
【解決手段】最初に自走式クレーン1を搬入し(S1)、作業姿勢をとらせ(S2)、自走式クレーンの設置階を基準とした地上揚程以下の高さの階層である、6階まで建築物を建築する(S3)基本工程を行う。
そして、自走式クレーン1の地上揚程以上の高さである8階まで建築作業を行うため、まず6階に昇降装置2を設置する(S4)昇降装置設置工程を行う。そして、自走式クレーン1を走行姿勢にし(S5)、自走式クレーン1を昇降装置2によって上昇させ、5階に設置する(S6、S7)クレーン設置工程を行う。これによって、自走式クレーン1は建築物の上階へ移動するため、より高い階層を建築することができる。
最上階である8階の天井が建築された後は(S8)、自走式クレーン1及び昇降装置2を1階に移動させ、搬出する(S9~S15)。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分解せずに設置場所を移動可能なクレーンを用いて、該クレーンが設置されている階層から該クレーンの最大地上揚程以下の高さの階層まで、躯体を建築する基本工程と、
前記クレーンを昇降させるための昇降装置を、前記クレーンを用いて、クレーンが設置されている階層よりも上の階層に設置する昇降装置設置工程と、
前記昇降装置の設置後に、前記クレーンを、前記昇降装置を用いて、前記クレーンが設置されている階層より上の階層であって、前記昇降装置が設置されている階層より下の階層に設置するクレーン設置工程と、を含む建築工程を行った後、
再度、前記基本工程を行うことを特徴とする多層建築物の建築方法。
【請求項2】
前記昇降装置設置工程には、前記昇降装置を分解した状態で移動させ、前記昇降装置を設置する階層で組み立てる工程が含まれることを特徴とする請求項1に記載の多層建築物の建築方法。
【請求項3】
前記基本工程において、前記クレーンを、前記躯体が建築される領域内に設置することを特徴とする請求項1に記載の多層建築物の建築方法。
【請求項4】
前記建築工程を、複数回にわたって繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の多層建築物の建築方法。
【請求項5】
前記クレーンは、旋回及び伸縮可能な起伏ブームと、該起伏ブームの先端部に、基端部が起伏可能に支持されている折曲げブームと、を備えており、
前記起伏ブーム及び前記折曲げブームを収縮させ、且つ伏せた格納姿勢をとることが可能なことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の多層建築物の建築方法。
【請求項6】
前記基本工程には、前記クレーン及び前記昇降装置が通過可能な形状の吹き抜けを形成する工程が含まれることを特徴とする請求項5に記載の多層建築物の建築方法。
【請求項7】
前記クレーン及び前記昇降装置を設置するための移動は、前記吹き抜けを介して行われることを特徴とする請求項6に記載の多層建築物の建築方法。
【請求項8】
前記クレーン設置工程には、前記吹き抜けが形成されている床部分を覆うように固定され、前記クレーンが通過可能な開口部と、該開口部を覆う扉と、を備えた仮設床板を用い、
該仮設床板を、前記クレーンが次に設置される階層に設置し、
前記クレーンが、前記昇降装置によって前記仮設床板よりも高い位置に移動するまでは前記扉を開いた状態にし、前記仮設床板よりも高い位置に移動した後に前記扉を閉じた状態にし、
該扉を閉じた後で、前記クレーンを、前記仮設床板の上に着地させることを特徴とする請求項7に記載の多層建築物の建築方法。
【請求項9】
分解せずに設置場所を移動可能なクレーンを用いて該クレーンの最大地上揚程以上の高さまで建築物を建築するために、前記クレーンを用いて前記建築物の上層階に設置され、前記クレーンの揚げ降ろしを行うための昇降装置であって、
前記建築物の躯体に設置される設置部と、
前記設置部に支持され、前記クレーンの揚げ降ろしを行うための昇降部と、を備え、
前記設置部と前記昇降部とに分解可能であることを特徴とする昇降装置。
【請求項10】
前記設置部は、前記建築物の躯体における隣り合う柱同士の間の長さ以上の長さの梁状部材である基準部材を含む複数の梁状部材を組み合わせて構成され、
前記基準部材は、前記建築物の躯体との固定部分である固定部と、前記設置部を構成する他の梁状部材の端部を着脱可能に保持する保持部とを備え、
さらに、前記設置部を前記基準部材と他の梁状部材とに分解可能であることを特徴とする請求項9に記載の昇降装置。
【請求項11】
前記設置部は、前記クレーンのブームが内側を貫通可能な大きさの枠状に構成されることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の昇降装置。
【請求項12】
前記昇降部は、二本一組の梁状部材であり、これらの梁状部材は、互いの間に前記クレーンのブームが貫通可能な間隔を空けて前記設置部に掛け渡されることを特徴とする請求項11に記載の昇降装置。
【請求項13】
前記昇降部は昇降用ウィンチを少なくとも2基備えており、
さらに、前記昇降用ウィンチ同士の巻き取り量を一致させる同期部を備えていることを特徴とする請求項9に記載の昇降装置。
【請求項14】
バッテリと、外部からの電力の供給を受けるための受電部とを備えており、前記昇降部の電力源として前記バッテリと前記受電部とを切替え可能であることを特徴とする請求項9に記載の昇降装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層建築物を建築する方法及び当該建築方法に用いられる昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多層建築物を建築する場合には、自走式クレーンやクライミングクレーンが用いられている。クレーンは建築物の大きさによって選定され、特に建築物が高層になるのに従って地上揚程を確保するために大型のクレーンが用いられている。
自走式クレーンは、伸縮式のブームを伸長させることによって地上揚程を確保し、クライミングクレーンは、マストクライミング又はフロアクライミングによって上部構造物を移動させることでクレーンが建築物の最上部に移動し、地上揚程を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、多層建築物を建築する場合には、階層に応じた高い地上揚程を確保する必要があることから、大型の自走式クレーンを使用しなければならず、特に狭小地や建築物が密集している場所において、自走式クレーンを設置するスペースの確保が問題となる。そのため、狭小地に建築物を建築しようとする場合には、設置スペースを確保可能な比較的小型の自走式クレーンを使用しなければならず、使用するクレーンの地上揚程によって建築物の高さが制限されるという問題がある。
また、クライミングクレーンを使用する場合は、自走能力を有さないクレーン装置及びマストなどの構造物を現場に搬入し、現場内で組み立て及び解体を行わなければならないため、工期及び施工コストが増加する要因となる。
【0005】
そこで、例えば狭小地における建築作業において、上記特許文献1に記載されているような、分解せずに設置場所を移動可能なクレーンを使用することが考えられる。上記特許文献1に記載のクレーンは、起伏ブーム及び折曲げブームを備えており、起伏ブーム及び折曲げブームを伏せ、アウトリガ装置を格納することで、一般的な建築物の中に侵入可能な程度の幅、長さ及び高さである走行姿勢をとることができ、建築物内への搬入が可能になる。また、起伏ブームを起立させ、折曲げブームを水平よりも高い角度に持ち上げた作業姿勢で作業を行うことができる。
しかし、上記のクレーンを昇降させるためのエレベータ等を設置するためには、建築物が最上階まで建築されている必要があるため、建築物の高さはクレーンの性能によって制限される。また、建築可能な階層までのエレベータを段階的に設置する場合には、施工コストを増加させる原因となる。
【0006】
本発明はかかる実情に鑑み、分解せずに設置場所を移動可能なクレーンを、他にクライミングクレーンや自走式クレーンを使用せずに上層階に移動させて使用することで、クレーンの設置スペースを確保しやすくし、且つ建築可能な高さについて、クレーンの地上揚程能力の影響を受けにくくさせ、また、自走能力を有さないクレーンを使用する場合と比較して、クレーンの搬入及び搬出に伴う工期及び施工コストを増加させにくい多層建築物の建築方法及び当該建築方法に用いられる昇降装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一の発明は、分解せずに設置場所を移動可能なクレーンを用いて、該クレーンが設置されている階層から該クレーンの最大地上揚程以下の高さの階層まで、躯体を建築する基本工程と、
前記クレーンを昇降させるための昇降装置を、前記クレーンを用いて、クレーンが設置されている階層よりも上の階層に設置する昇降装置設置工程と、
前記昇降装置の設置後に、前記クレーンを、前記昇降装置を用いて、前記クレーンが設置されている階層より上の階層であって、前記昇降装置が設置されている階層より下の階層に設置するクレーン設置工程と、を含む建築工程を行った後、
再度、前記基本工程を行うことを特徴とする多層建築物の建築方法である。
【0008】
第二の発明は、第一の発明に記載の前記昇降装置設置工程には、前記昇降装置を分解した状態で移動させ、前記昇降装置を設置する階層で組み立てる工程が含まれることを特徴とする多層建築物の建築方法である。
【0009】
第三の発明は、第一の発明に記載の前記基本工程において、前記クレーンを、前記躯体が建築される領域内に設置することを特徴とする多層建築物の建築方法である。
【0010】
第四の発明は、第一の発明に記載の前記建築工程を、複数回にわたって繰り返すことを特徴とする多層建築物の建築方法である。
【0011】
第五の発明は、第一の発明から第四の発明に記載の前記クレーンは、旋回及び伸縮可能な起伏ブームと、該起伏ブームの先端部に、基端部が起伏可能に支持されている折曲げブームと、を備えており、
前記起伏ブーム及び前記折曲げブームを収縮させ、且つ伏せた格納姿勢をとることが可能なことを特徴とする多層建築物の建築方法である。
【0012】
第六の発明は、第五の発明に記載の前記基本工程には、前記クレーン及び前記昇降装置が通過可能な形状の吹き抜けを形成する工程が含まれることを特徴とする多層建築物の建築方法である。
【0013】
第七の発明は、第六の発明に記載の前記クレーン及び前記昇降装置を設置するための移動は、前記吹き抜けを介して行われることを特徴とする多層建築物の建築方法である。
【0014】
第八の発明は、第七の発明に記載の前記クレーン設置工程には、前記吹き抜けが形成されている床部分を覆うように固定され、前記クレーンが通過可能な開口部と、該開口部を覆う扉と、を備えた仮設床板を用い、
該仮設床板を、前記クレーンが次に設置される階層に設置し、
前記クレーンが、前記昇降装置によって前記仮設床板よりも高い位置に移動するまでは前記扉を開いた状態にし、前記仮設床板よりも高い位置に移動した後に前記扉を閉じた状態にし、
該扉を閉じた後で、前記クレーンを、前記仮設床板の上に着地させることを特徴とする多層建築物の建築方法である。
【0015】
第九の発明は、分解せずに設置場所を移動可能なクレーンを用いて該クレーンの最大地上揚程以上の高さまで建築物を建築するために、前記クレーンを用いて前記建築物の上層階に設置され、前記クレーンの揚げ降ろしを行うための昇降装置であって、
前記建築物の躯体に設置される設置部と、
前記設置部に支持され、前記クレーンの揚げ降ろしを行うための昇降部と、を備え、
前記設置部と前記昇降部とに分解可能であることを特徴とする昇降装置である。
【0016】
第十の発明は、第九の発明に記載の前記設置部は、前記建築物の躯体における隣り合う柱同士の間の長さ以上の長さの梁状部材である基準部材を含む複数の梁状部材を組み合わせて構成され、
前記基準部材は、前記建築物の躯体との固定部分である固定部と、前記設置部を構成する他の梁状部材の端部を着脱可能に保持する保持部とを備え、
さらに、前記設置部を前記基準部材と他の梁状部材とに分解可能であることを特徴とする昇降装置である。
【0017】
第十一の発明は、第九又は第十の発明に記載の前記設置部は、前記クレーンのブームが内側を貫通可能な大きさの枠状に構成されることを特徴とする昇降装置である。
【0018】
第十二の発明は、第十一の発明に記載の前記昇降部は、二本一組の梁状部材であり、これらの梁状部材は、互いの間に前記クレーンのブームが貫通可能な間隔を空けて前記設置部に掛け渡されることを特徴とする昇降装置である。
【0019】
第十三の発明は、第九の発明に記載の前記昇降部は昇降用ウィンチを少なくとも2基備えており、
さらに、前記昇降用ウィンチ同士の巻き取り量を一致させる同期部を備えていることを特徴とする昇降装置である。
【0020】
第十四の発明は、バッテリと、外部からの電力の供給を受けるための受電部とを備えており、前記昇降部の電力源として前記バッテリと前記受電部とを切替え可能であることを特徴とする第九の発明に記載の昇降装置である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る建築方法によれば、クレーンの設置スペースを確保しやすく、且つ建築可能な高さがクレーンの地上揚程能力の影響を受けにくく、また、分解しなければ移動不可能なクレーンを使用する場合と比較して、クレーンの搬入及び搬出に伴う工期及び施工コストを増加させにくい多層建築物の建築方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態に用いるクレーンが走行姿勢をとっているときの正面図である。
【
図2】本実施形態に用いるクレーンが作業姿勢をとっているときの正面図である。
【
図3】本実施形態に用いるクレーンが走行姿勢をとっているときの平面図である。
【
図4】本実施形態に用いるクレーンが備えているアウトリガ装置の一つが、格納状態をとっているときの正面図である。
【
図5】(a)は昇降装置の平面図であり、(b)は昇降装置の正面図である。
【
図7】(a)は仮設床板の平面図であり、(b)は仮設床板の正面図である。
【
図8】本発明に係る建築方法の概要を示すフローチャートである。
【
図9】本発明に係る建築方法の手順を示す図である。
【
図10】本発明に係る建築方法の手順を示す図である。
【
図11】(a)はクレーン及び建築物の平面図である。(b)は本発明に係る建築方法の手順を示す図である。
【
図12】(a)はクレーン及び建築物の平面図である。(b)本発明に係る建築方法の手順を示す図である。
【
図13】(a)はクレーン及び建築物の平面図である。(b)本発明に係る建築方法の手順を示す図である。
【
図14】(a)はクレーン及び建築物の平面図である。(b)本発明に係る建築方法の手順を示す図である。
【
図15】昇降装置のフックが掛けられているときのクレーンの平面図である。
【
図16】昇降装置のフックが掛けられているときのアウトリガ装置のうちの1つの正面図である。
【
図17】(a)はクレーン及び建築物の平面図である。(b)本発明に係る建築方法の手順を示す図である。
【
図18】(a)はクレーン及び建築物の平面図である。(b)本発明に係る建築方法の手順を示す図である。
【
図19】(a)はクレーン及び建築物の平面図である。(b)本発明に係る建築方法の手順を示す図である。
【
図20】(a)はクレーン及び建築物の平面図である。(b)本発明に係る建築方法の手順を示す図である。
【
図21】(a)はクレーン及び建築物の平面図である。(b)本発明に係る建築方法の手順を示す図である。
【
図22】(a)はクレーン及び建築物の平面図である。(b)本発明に係る建築方法の手順を示す図である。
【
図23】(a)はクレーン及び建築物の平面図である。(b)本発明に係る建築方法の手順を示す図である。
【
図24】(a)はクレーン及び建築物の平面図である。(b)本発明に係る建築方法の手順を示す図である。
【
図25】(a)はクレーン及び建築物の平面図である。(b)本発明に係る建築方法の手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、分解せずに設置場所を移動可能なクレーンとして、自走式クレーンを使用する場合を例に、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
なお、以下において、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なる場合があることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0024】
以下の自走式クレーンの構成に係る説明及び図面では、自走式クレーンが前進する方向(操作レバーが前進側に倒されている姿勢で走行する方向)を、「前方」と記載する場合がある。同様に、以降の説明及び図面では、自走式クレーンが後退する方向(操作レバーが後退側に倒されている姿勢で走行する方向)を、「後方」と記載する場合がある。
また、以下の建築方法に係る説明及び図面では、重力方向を「下」、その反対方向を「上」と記載する場合がある。
初めに、本発明に係る建築方法に使用する、自走式クレーン、昇降装置及び仮設床板について説明する。
【0025】
<自走式クレーン>
図1から
図4に示すように、本実施形態に係る自走式クレーン1は、クレーン装置10と、走行装置20と、アウトリガ装置30と、原動部Gと、運転席OSと、を備えている。
クレーン装置10は、起伏ブーム11及び折曲げブーム12を有している。起伏ブーム11は、基端部が旋回装置を介してシャシーフレームFに支持されており、起伏動作を行うことによって、水平に近い角度まで伏せた姿勢(
図1)と、垂直に近い角度まで立った姿勢(
図2)と、に姿勢変更が可能である。折曲げブーム12は、基端部が起伏ブーム11の先端部に支持されており、起伏ブーム11と平行な軸回りに起伏動作が可能である。また、起伏ブーム11及び折曲げブーム12は、入れ子式の箱型ブームで構成されているため、伸縮動作が可能である。
【0026】
自走式クレーン1は、下部に走行装置20を備えている。
また、シャシーフレームFの両側面の前部及び後部には、アウトリガ装置30が備えられている。
アウトリガ装置30は、アウトリガ起伏シリンダ30S、基端側アーム31及び先端側アーム32を備えており、先端側アーム32は、アウターアーム32Aの内部にインナーアーム32Bが入れ子状に備えられている。インナーアーム32Bの内部には、インナーアーム32Bをアウターアーム32Aから張り出させるための横アウトリガシリンダ(図示省略)が備えられている。
アウトリガ装置30は、格納状態及び展開状態をとることができ、アウトリガ装置30を格納状態から展開状態にするためには、まず作業者が手動でアウトリガ装置30を水平方向に展開し固定する。アウトリガ装置30は、自走式クレーン1を上面視したとき、シャシーフレームFに対して放射状に配置される角度になるように展開する。次に、アウトリガピン33を固定位置孔34から引き抜く。そして、先端側アーム32を、横アウトリガシリンダ(図示省略)の動力を用いて展開位置まで起き上がらせる。その後、アウトリガピン33を展開位置孔35に差し込んで固定する。その後、アウターアーム32Aの伸縮固定ピン36を抜き、横アウトリガシリンダ(図示省略)を伸長させることでインナーアーム32Bを引き出す。インナーアーム32Bを所定の長さ引き出した後、伸縮固定ピン36を挿し込むことで、インナーアーム32Bを所定の長さに固定する。そして、アウトリガ起伏シリンダ30Sを伸長させることで、基端側アーム31を伏せ方向に動作させ、アウターアーム32Aの先端部を接地させ、且つ走行装置20の底面を接地面から所定の高さだけ浮き上がらせる。以上の操作によって、アウトリガ装置30が展開され(
図2)、自走式クレーン1の安定が確保される。
アウトリガ装置30を展開状態から格納状態にするためには、まず、アウトリガ起伏シリンダ30Sを収縮させ、アウターアーム32Aの設置状態を解除することで走行装置20の底面を接地させる。その後、アウトリガ起伏シリンダ30Sをさらに収縮させ、基端側アーム31を垂直に近い角度に起き上がらせる。そして、インナーアーム32Bを収縮させ、アウターアーム32Aを垂直に近い角度になるまで押し下げて固定し、アウトリガ装置30を、自走式クレーン1の車両中央側に回転させ、
図1に示す状態で固定する。
本実施形態に係るアウトリガピン33は、固定位置孔34に差し込んで固定したとき、自走式クレーン1の外側に突出し(
図3)、突出部には吊り上げ用フックを掛けるためのリング33Aが設けられている。
なお、アウトリガ装置30は、横アウトリガシリンダ(図示省略)を必ずしも備えている必要はなく、先端側アーム32を起き上がらせる動作及びインナーアーム32Bを引き出す動作を、作業者が手動で行う構成としてもよい。また、アウトリガ装置30を設置するときには、突出部及びリング33Aを有するアウトリガピン33の他に突出部及びリング33Aを有さない形状のアウトリガピン(図示省略)を用いて、基端側アーム31と先端側アーム32との角度を固定することもできる。
【0027】
自走式クレーン1は、運転席OSに搭乗した操作者によって走行操作がされ、クレーン装置10は、操作部CN又はラジコン操作機(図示省略)を用いて操作者によって操作される。
走行姿勢(
図1)のとき、自走式クレーン1は走行装置20によって移動が可能となり、クレーン作業を行うときは、作業姿勢(
図2)に状態を変更する。
自走式クレーン1を、走行姿勢から作業姿勢にするためには、アウトリガ装置30を展開状態にし、起伏ブーム11を垂直に近い所定の角度まで起き上がらせ、折曲げブーム12を水平よりも高い角度になるように起き上がらせる。
自走式クレーン1を、作業姿勢から走行姿勢にするためには、起伏ブーム11及び折曲げブーム12を最小の長さになるまで収縮させる。このとき、起伏ブーム11の先端部が運転席OSの側に位置し、且つ起伏ブーム11が自走式クレーン1の前後方向に沿う直線と平行な角度になるよう旋回させる。そして折曲げブーム12を水平に近い所定の角度まで伏せる。その後、アウトリガ装置30を格納状態にする。
【0028】
<昇降装置>
図5(a)(b)を参照して昇降装置について説明する。
昇降装置2は、設置部として枠50を備え、昇降部として二本一組の梁53A、53Bを備えている。梁53A、53Bは、内側に起伏ブーム11及び折曲げブーム12が貫通可能な間隔を空けて枠50の上部に掛け渡されて固定されている。
枠50は、横断面がH字形であり、長さが躯体における隣り合う柱同士の間の距離(以下、柱スパン)と略等しい長さの梁状部材である第一枠部材51と、第一枠部材51よりも短い第二枠部材52とを二本ずつ組み合わせて矩形の枠状に組立てられている。第一枠部材51と第二枠部材52とは、次に説明する固定部及び保持部の有無が異なる。なお、第一枠部材51は、請求項に記載の基準部材である。
【0029】
第一枠部材51の背面の両端部には、保持部として、U字形の嵌め込み部54が設けられている。嵌め込み部54は、第二枠部材52の端部を嵌め込んで着脱可能に保持する。また、第一枠部材51の両端部の下面には、建築物の躯体の一部を嵌め込んで昇降装置2を固定するための昇降装置固定部55が設けられている。また、第一枠部材51、第二枠部材52、嵌め込み部54及び梁53A、53Bには、それぞれをボルトによって固定するための貫通穴が形成されている。
【0030】
第一枠部材51及び第二枠部材52の上面には、梁53A、53Bの両端部を挟み込んで保持し、梁53A、53Bの短手方向の動きを規制するための挟持部56が設けられている。挟持部56は、第一枠部材51及び第二枠部材52における、端部から約三分の一の位置に向かい合わせで設けられている挟持板56Aであり、梁53A、53Bが枠50の対角線と平行に保持されるような角度で設けられている。また、第二枠部材52における挟持部56は、第二枠部材52の両端部から約三分の一の位置に設けられている。
【0031】
梁53A、53Bの下面には、梁53A、53Bを枠50に架け渡したときに、梁53A、53Bの長手方向の移動を規制するための規制部材57が設けられている。
梁53A、53Bの側面には、昇降装置として昇降用ウィンチ58が2基ずつ備えられており、フック59がワイヤロープによって吊り下げられている。以後、昇降用ウィンチ58のそれぞれを示す場合には、符号58A~58Dを使用する。
なお、昇降用ウィンチ58の取付け位置は、自走式クレーン1におけるフック59が掛けられる位置に応じて変更することが可能である。
【0032】
第一枠部材51における、挟持部56が設けられている側の端部には、補助ウィンチ60が備えられている。補助ウィンチ60は、嵌め込み部54における第一枠部材51の中央側側面に固定されており、補助フック61がワイヤロープによって吊り下げられている。
【0033】
梁53Aの側面には、昇降用ウィンチ58及び補助ウィンチ60を操作するためのコントロールユニットCUが備えられている。
図6に示すように、コントロールユニットCUは遠隔操作器RCから操作信号を受信する受信部65と、回転速度計C1~C4から情報を受信し、自走式クレーン1が水平を維持したまま昇降するように第一昇降用ウィンチ58A~第四昇降用ウィンチ58Dの巻き取り量を同期させ、適宜それぞれの回転速度を変化させる補正情報を生成する同期部66と、受信部65及び同期部66の情報に基づいて第一昇降用ウィンチ58A~第四昇降用ウィンチ58Dの操作信号を生成する制御部67と、外部から電力の供給を受けるための受電部68と、搭載型のバッテリBとを備えている。
なお、受電部68とバッテリBとは、操作者が任意に切替えて昇降装置2の電力源として使用可能である。
【0034】
<仮設床板>
図7(a)(b)は底辺を向かい合わせて使用される一対の仮設床板のうち、一つを示したものである。仮設床板3は、略二等辺三角形状の板材であり、底辺から約三分の一を、底辺と平行な直線で分割した略二等辺三角形状の床板固定部70及び略台形状の扉71を備えている。床板固定部70と扉71とは、蝶番72を介して揺動可能に接続されている。
扉71の底面における底側には、扉71が床板固定部70と平行な状態よりも下側に揺動しないように、L字型の揺動角度規制部材73が設けられている。
【0035】
扉71における長辺側には、等間隔に配置された歯を有するかみ合い部74が設けられている。
一対の仮設床板3は、扉71の長辺同士が向かい合い、且つ扉71が床板固定部70と平行な角度であるときに、かみ合い部74同士がかみ合うように配置される。
【0036】
床板固定部70及び扉71の斜辺側の外延部には、建築物の躯体に仮設床板3をボルトによって固定するための貫通穴75が、一列に一定の間隔で並んで形成されている。
また、扉71における下底側の一端部には、補助フック61を掛合させるための吊り掛け部76が設けられている。
【0037】
<建築方法>
次に、
図8~
図24を用いて自走式クレーン1を使用した建築方法について説明する。本実施形態においては、8階層を有する建築物を建築するために、自走式クレーンを5階102に設置する場合を例として説明する。なお、本実施形態における躯体には、建築物を支持する柱、梁及び床が含まれる。なお、
図10~
図14及び
図16~
図25においては、自走式クレーン1を簡略化して示す。また、以降の図において、昇降装置2及び仮設床板3も簡略化して示す。
【0038】
(手順の概略)
図8に示すように、本実施形態に係る建築方法は以下の建築工程を含んでいる。最初に自走式クレーン1を建築物の基礎の領域内に搬入し(ステップS1)、作業姿勢をとらせた後に(ステップS2)、自走式クレーン1の地上揚程以下の高さの階層である、6階まで建築物を建築する(ステップS3)基本工程を行う。
そして、自走式クレーン1の地上揚程以上の高さである8階まで建築作業を行うため、まず6階に昇降装置2を設置する(ステップS4)昇降装置設置工程を行う。そして、自走式クレーン1を走行姿勢にし(ステップS5)、自走式クレーン1を昇降装置2によって上昇させ、5階に設置する(ステップS6、S7)クレーン設置工程を行う。これによって、自走式クレーン1は建築物の上階へ移動するため、より高い階層を建築することができる。
最上階である8階の天井が建築された後は(ステップS8)、自走式クレーン1及び昇降装置2を1階に移動させ、搬出する(ステップS9~S15)。
【0039】
(自走式クレーン搬入)
図9に示すように、建築物の躯体100を建築するときは、初めに自走式クレーン1を自走させることによって1階101に移動させる(ステップS1)。自走式クレーン1が設置場所に到着した後、自走式クレーン1を作業姿勢にする。(ステップS2)
【0040】
(1回目基本工程)
次に、
図10に示すように、自走式クレーン1を用いて、躯体100の建築を行う(ステップS3)。このとき、躯体100には、自走式クレーン1が格納姿勢をとったときの幅及び長さよりも大きな幅及び長さを有する吹き抜け110を形成する。そのため、自走式クレーン1は、起伏ブーム11を吹き抜け110に貫通させた状態で建築作業に用いられる。建築を行うときは、折曲げブーム12の可動域を確保しやすくするために、躯体100を外側から建築する。
なお、図示省略するが、本工程において、5階102に仮設床板3を移動させ、2階から4階までのそれぞれの階層に設けられている資材等の仮置き場に、無可動仮設床板TFを移動させる。無可動仮設床板TFは、例えば作業者が運搬可能な建築用足場などである。
【0041】
(昇降装置設置工程)
図11(a)(b)に示すように、躯体100を、自走式クレーン1の起伏ブーム11が最大に伸長したときの地上揚程以下の階層である6階103まで建築する。(ステップS3)このとき、6階103は昇降装置設置階層となり、5階102が次のクレーン設置階層となる。そして、7階以上を建築するために自走式クレーン1を用いて、吹き抜け110を介し、分解した状態の昇降装置2を6階103に移動させる。
【0042】
図12(a)(b)に示すように、昇降装置2を、自走式クレーン1を用いて組み立て、躯体100に設置する(ステップS4)。昇降装置2の固定は、躯体100の柱を昇降装置固定部55に嵌め込むことによって行う。また、仮設床板3は、5階102の吹き抜け110を覆うように2枚の底辺同士を向き合わせて設置する。このとき、かみ合い部74同士がかみ合うような距離に調節する。
仮設床板3を設置するとき、吹き抜け110には、自走式クレーン1の起伏ブーム11が貫通しているため、仮設床板3の扉71を開いた状態にする必要がある。そこで、昇降装置2の補助ウィンチ60に接続されている補助フック61を降ろし、吊り掛け部76に掛ける。その後、補助ウィンチ60を巻き上げることで、扉71を持ち上げつつ、扉71を開いた状態で保持する。
仮設床板3の設置後に、アウトリガ装置30の接地位置に床面を補強するための敷板77A、77Bを設置する。
昇降装置2及び仮設床板3の設置後に、自走式クレーン1の折曲げブーム12を最小の状態まで収縮させ、さらに垂直に近い状態まで起立させる。その後、起伏ブーム11を最小の状態まで収縮させる。
【0043】
図13(a)(b)に示すように、起伏ブーム11を収縮させた後に、クレーン装置10を格納する。このとき、起伏ブーム11及び折曲げブーム12を同時に伏せることで、折曲げブーム12の先端が各階層における吹き抜け110の空間内を、垂直に近い角度の直線に沿って降下するため、躯体100に接触せずにクレーン装置10を格納することができる。クレーン装置10の格納後にアウトリガ装置30を格納状態にすることで自走式クレーン1は走行姿勢になる(ステップS5)。
【0044】
(自走式クレーン設置工程)
図14(a)(b)に示すように、自走式クレーン1を走行姿勢にさせた後に、仮設床板3の扉71が開くことによって形成されている開口部を、自走式クレーン1が通過可能な向きになるように旋回させる。次に、昇降装置2の昇降用ウィンチ58からワイヤロープを繰り出すことで、フック59を自走式クレーン1の付近まで降ろす。そして、
図15及び
図16に示すように、フック59をアウトリガピン33のリング33Aに掛ける。
【0045】
図17(a)(b)に示すように、すべての昇降用ウィンチ58を同時に等しく巻き取ることで自走式クレーン1を5階102まで上昇させる。このときに、一旦、自走式クレーン1を仮設床板3の扉71が閉じられるときに接触しないような高さまで上昇させる。そして、補助ウィンチ60を巻き下げ、扉71を閉じ、吹き抜け110を塞ぐことで、自走式クレーン1を着地させることが可能になる。
扉71を閉じた後、
図17に示すように自走式クレーン1を仮設床板3に着地させ、走行装置20が床板固定部70に接地するように自走式クレーン1を旋回させ、クレーン装置10を展開可能であるか確認し、設置位置を調節する(
図18)。
2階から4階までの吹き抜け110には、無可動仮設床板TFを作業者が設置する。
【0046】
図19(a)(b)に示すように、自走式クレーン1の設置位置が確定した後、アウトリガ装置30を敷板77A、77Bに設置させるように調整しながら展開状態にする。そして、起伏ブーム11及び折曲げブーム12を起立する方向に動作させることで、自走式クレーン1を作業姿勢にする(ステップS6、S7)。このとき、昇降装置2の梁53A、53Bにクレーン装置10が接触しないようにするため、起立動作と合わせて旋回動作も行う。クレーン装置10を展開する場合も、格納する場合と同様に、起伏ブーム11及び折曲げブーム12を同時に動作させる。そのため、折曲げブーム12の先端部は、吹き抜け110の空間内を垂直に近い直線に沿って上昇する。
なお、自走式クレーン1を作業姿勢にするとき、アウトリガ装置30を敷板77A及び77Bに設置する前に起伏ブーム11及び折曲げブーム12を動作させてもよい。このとき、起伏ブーム11及び折曲げブーム12の位置を調節するために、自走式クレーン1を走行させてもよい。
【0047】
(2回目基本工程)
図20(a)(b)に示すように、自走式クレーン1を作業姿勢にした後、7階から8階104の建築に使用する(ステップS8)。このとき、昇降装置2は自走式クレーン1を用いて躯体100から取り外し、分解する。分解後の昇降装置は、自走式クレーン1を使用して、移動可能な位置に保管する。
【0048】
(搬出工程)
図21(a)(b)に示すように、自走式クレーン1を用いて最上階である8階104の天井ROまで建築を行った後に、自走式クレーン1を搬出する。
自走式クレーン1を搬出するためには、まず、昇降装置2の梁53A、53Bを、8階104に自走式クレーン1を用いて移動させ、8階104の吹き抜け110に掛け渡し固定する(ステップS9)。
躯体100の天井ROが建築されたとき、起伏ブーム11及び折曲げブーム12は、躯体100の天井ROから上に突き出た状態になる。天井ROが建築された後、起伏ブーム11及び折曲げブーム12を収縮させ、クレーン装置10を格納し、アウトリガを格納させることで自走式クレーン1を走行姿勢にする(ステップS10)。
【0049】
図22(a)(b)、
図23(a)(b)及び
図24(a)(b)に示すように、自走式クレーン1を走行姿勢にした後、自走式クレーン1の走行装置20が扉71にのみ接地するように旋回させ、フック59を5階102まで降ろし、自走式クレーン1のアウトリガピン33に掛合させる。また、補助フック61を扉71の吊り掛け部76に掛ける。その後、すべての昇降用ウィンチ58を同時に等しく巻き上げることで自走式クレーン1を上昇させ、補助ウィンチ60を巻き上げることで仮設床板3の扉71を開く。また、2階から4階の無可動仮設床板TFを作業者が撤去する。
その後、自走式クレーン1を、吹き抜け110を介して1階101に降ろす(ステップS11)。
【0050】
図25に示すように、自走式クレーン1を1階101において作業姿勢にする(ステップS12)。そして、自走式クレーン1を用いて昇降装置2及び仮設床板3を1階101に降ろし、建築物内から搬出する(ステップS13)。次に、自走式クレーン1を走行姿勢にする(ステップS14)。その後、自走式クレーン1を、走行装置20によって自走させ躯体100から搬出する(ステップS15)。
昇降装置及び仮設床板3が1階101まで降ろされた後に、吹き抜け110は正規の天井及び床によって埋められる。
【0051】
自走式クレーン1を搬出した後は、必要に応じてエレベータなどを用いて、より小型のクレーン装置等を搬入し建築物の仕上げ工事を行う。
【0052】
<発明の効果>
本発明に係る方法を用いることで、クレーン装置10を建築物の中央に配置することができる。そのため、建築物の全周囲における吊り上げ可能な荷重を均一にしやすくでき、荷を吊り上げるときの方向を選択しやすくすることもできる。
【0053】
本発明は、自走式クレーン1を躯体100の内部に設置し、建築作業の進捗に応じて自走式クレーン1を高層階に移動させ、建築作業に使用することができるため、建築物の外部に自走式クレーンを設置する場合と比較してクレーンの設置スペースを確保することが容易になる。さらに、建築物の外部に自走式クレーンを設置して用いる場合には、建築可能な建築物の高さが自走式クレーンの性能によって制限されるが、本発明に係る方法は、建築物の高さに合わせて自走式クレーン1が設置される階層が高くなるため、クレーンの性能に左右されずに建築作業を行うことができる。
即ち、本発明に係る建築方法を用いることで、交通量が多い道路に沿う場所や、周囲に建築物が密集している場所のような、建築作業のために自走式クレーンを設置するためのスペースを確保することが難しい場所においても、多層建築物を建築することが容易になる。
【0054】
また本発明は、建築作業を開始する前に搬入及び組み立てを行い、建築作業が終了した後に解体及び搬出を行わなければならないクライミングクレーンを使用する場合と比較して、自走式クレーン1を自走させることで搬入及び搬出することができるため、クレーンを設置するために必要な作業を削減することができ、作業時間を短縮することもできる。
よって、作業者の負担も減らすことができる。
【0055】
本発明に係る昇降装置2は、設置部である枠50と昇降部である梁53A、53Bとを分解可能、且つ建築物の柱スパン相当の長さの第一枠部材51と第二枠部材52とを分解が可能なため、建築物の内部を通じて搬入、搬出及び揚げ降ろしが可能である。そのため、タワークレーンを用いて施工する場合よりも、クレーンの搬入及び搬出のための期間を短縮でき、同様にコストも削減可能である。また、ラフテレーンクレーンを用いて施工するために必要な土地を確保せずとも、高層階まで建築が可能である。なお、実施形態では説明を省略したが、吹き抜け110の大きさとの関係によっては枠50を第一枠部材51と第二枠部材52とに分解しないまま昇降させてもよい。
【0056】
本発明に係る昇降装置2は、梁部材である第一枠部材51、第二枠部材52及び梁53A、53Bを、互いに組み合わせることで構成されている。特に、それぞれの梁部材同士は端部を嵌め込むことによって固定されるため、他にボルトなどの締結具を用いることなく固定が可能であり、昇降装置2の組立てに掛かる工数を削減可能である。尤も、ボルト等の締結具を用いることによって、構造体としての強度を向上させることも可能であるため、自走式クレーン1の重量等によって固定方法を使い分けることも可能である。
【0057】
本発明に係る昇降装置2は、保持部である嵌め込み部54を備える第一枠部材51と保持部を備えない第二枠部材52との2種類の梁部材を含んでいる。そのため、同時にすべての梁部材の位置を調節しながら昇降装置2の組み立てを行う必要がない。即ち、第一枠部材51を接地した後に、第二枠部材52の位置を調節しながら組み立てを行いうるため、例えば一方の端部にのみ保持部を備えるような梁部材よりも容易に組み立てが可能である。
【0058】
本発明に係る昇降装置2は、昇降用ウィンチへの電力の供給手段として受電部68及びバッテリBを備えている。そのため、外部からの電源の供給を受けられない場合であっても、バッテリBを使用して自走式クレーン1の揚げ降ろしが可能である。バッテリBを使用した後には、外部電源の供給が可能となった時点で受電部68から充電が可能であり、特に分解状態で資材置き場に置かれている間等にも充電が可能である。
【0059】
本発明に係る昇降装置2は、昇降用ウィンチを少なくとも2基備えているため、自走式クレーン1を吊り上げたときに、ワイヤロープのねじれ等によって回転が生じにくい。そのため、吹き抜け110のような狭いスペースであっても、自走式クレーン1が壁面等に接触する危険性を軽減可能である。
【0060】
<変形例>
本実施形態においては、8階層の躯体100を用いて説明したが、本実施例は9階層以上の躯体を有する建築物にも適用可能である。その場合には、2回目基本工程の後に、2回目の昇降装置設置工程及び2回目の自走式クレーン設置工程を行うことで、3回目の基本工程を行う。3回目の基本工程によって建築可能な高さ以上の高さの階層を建築する場合には、最上階を建築するまで、昇降装置設置工程、自走式クレーン設置工程及び基本工程を複数回繰り返すことで、多層建築物の建築をおこなう。
【0061】
本実施形態においては、建築物の躯体100を建築する方法として説明したが、本発明は建築物における外壁の建築作業や、内装工事における資材の運搬にも用いることができる。
【0062】
本実施形態では、自走式クレーン1を一機のみ示して、躯体100の建築作業を行う例について説明したが、建築物の規模に応じて、自走式クレーン1を複数機用いて躯体100を建築してもよい。自走式クレーン1を複数台用いて躯体100の建築作業を行う場合においては、一基の昇降装置2を複数の自走式クレーン1で共有してもよく、また、自走式クレーン1ごとに別の昇降装置2を用いてもよい。このような場合であっても、自走式クレーン1を設置及び搬出するために、他のクレーンを用いる必要はない。
【0063】
本実施形態においては、分解せずに設置場所を移動可能なクレーンとして、履帯式の走行装置を備えた自走式クレーン1を例に説明したが、本発明に用いられるクレーンはこのようなクレーンに限られない。例えば、自走能力を持たないクレーンを、人力やウィンチの動力を用いて移動させてもよい。
【0064】
実施形態に示した昇降装置2において、昇降用ウィンチ58を4基備えていたが、本発明の実施において、昇降用ウィンチは必ずしも4基備えられている必要はない。また、必ずしもフック59を自走式クレーン1に掛けて昇降を行う必要もない。例えば、2基の昇降用ウィンチ58に、アウトリガピン33のリング33Aに掛けられる4個のフックがチェーン等によって接続された吊り具や、エレベータのカゴを接続してもよい。即ち、昇降用ウィンチ58を用いた自走式クレーン1の具体的な昇降方法は、躯体100や自走式クレーン1の形状、構造に応じて建築物の設計者又は施工者等の任意に選択可能である。
【0065】
また、実施形態に示した昇降装置2は、昇降部として2本の梁53A、53Bを枠50に掛け渡していたが、本発明における昇降部は、必ずしも2本の梁を枠50に掛け渡して構成する必要はない。例えば、昇降用ウィンチ58を二基備えた梁を1本のみ架け渡してもよい。
【0066】
実施形態に示した昇降装置2は、昇降用ウィンチ58の電力源として、受電部68とバッテリBとを切り替えて使用可能であったが、本発明の実施において、電力源は必ずしも切り替え可能である必要はなく、受電部68のみを備える構成又はバッテリBのみを備える構成としてもよい。
電力源を一方しか備えない場合には、昇降装置2を軽量化することが容易になるため、昇降装置2を運搬のための労力を削減することが可能である。
【0067】
実施形態において、第一枠部材51の端部下面には、躯体100の柱を嵌め込んで昇降装置2を固定するための、昇降装置固定部55が備えられていたが、本発明における昇降装置は、必ずしも昇降装置固定部55を備えている必要はない。例えば、枠50を柱ではなく床に固定してもよく、その場合には、枠50を床に直接ボルト固定してもよい。
【0068】
実施形態においては、複数の梁部材(第一枠部材51、第二枠部材52、梁53A、53B)を組み合わせて設置部である枠50が構成されていたが、本発明の実施において、設置部は必ずしも枠50である必要はない。即ち、設置部は、吹き抜けの形状や、建築物の内部構造に応じて、設計者又は施工者等が任意に形状を選択可能である。そのため、嵌め込み部54の形状等も変更可能である。
【符号の説明】
【0069】
1…自走式クレーン、2…昇降装置、3…仮設床板、10…クレーン装置、11…起伏ブーム、12…折曲げブーム、20…走行装置、30…アウトリガ装置、30S…アウトリガ起伏シリンダ、31…基端側アーム、32A…アウターアーム、32B…インナーアーム、33…アウトリガピン、34…固定位置孔、35…展開位置孔、33A…リング、50…枠、51…第一枠部材、52…第二枠部材、53A…梁、53B…梁、54…嵌め込み部、55…昇降装置固定部、56…挟持部、57…規制部材、58…昇降用ウィンチ、59…フック、60…補助ウィンチ、61…補助フック、65…受信部、66…同期部、67…制御部、70…床板固定部、70A、70B…敷板、71…扉、72…蝶番、73…揺動角度規制部材、74…かみ合い部、75…貫通穴、76…吊り掛け部、100…躯体、101…1階、102…5階、103…6階、104…8階、110…吹き抜け、B…バッテリ、CN…操作部、CU…コントロールユニット、F…シャシーフレーム、G…原動部、OS…運転席、RC…遠隔操作器、RO…天井、TF…無可動仮設床板