(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156628
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】麦茶飲料用の風味増強剤
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20241029BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20241029BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20241029BHJP
A23L 27/10 20160101ALI20241029BHJP
A23L 27/21 20160101ALI20241029BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20241029BHJP
【FI】
A23L2/00 B
A23L2/38 L
A23L2/52
A23L27/10 Z
A23L27/21
A23L5/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024069576
(22)【出願日】2024-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2023071075
(32)【優先日】2023-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智典
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 和輝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 将紘
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 俊樹
【テーマコード(参考)】
4B035
4B047
4B117
【Fターム(参考)】
4B035LC01
4B035LG14
4B035LG19
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4B035LK01
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4B117LP01
4B117LP04
4B117LP17
(57)【要約】
【課題】pH調整剤が配合された場合であっても、香りやコクが増強された麦茶飲料を提
供することができる、麦茶飲料用の風味増強剤を提供する。
【解決手段】遊離アミノ酸含有量が150~900mg/100g、かつグルコース含有量が1.8g/100g以下となるように加工された大麦の焙煎物を麦茶飲料用の風味増強剤として用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離アミノ酸含有量が150~900mg/100g、かつグルコース含有量が1.8g/100g以下である大麦の焙煎物を含む、麦茶飲料用の風味増強剤。
【請求項2】
大麦の遊離アミノ酸含有量が200~800mg/100gである、請求項1に記載の風味増強剤。
【請求項3】
遊離アミノ酸含有量が150~900mg/100g、かつグルコース含有量が1.8g/100g以下である大麦の焙煎物と、pH調整剤とを含有する、麦茶飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麦茶飲料用の風味増強剤に関する。特に、pH調整剤が配合されながらも風味が増強された麦茶飲料を製造するための麦茶飲料用の風味増強剤およびこの剤を含有する麦茶飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
麦茶飲料は、焙煎した大麦の甘く香ばしい香りを有する抽出液を嗜好するものである。従来は、粒状の麦茶原料を袋詰めした煮出し用のものが主流であったが、現在は、湯出し用や水出し用のティーバッグタイプのものや、手軽に飲用できる抽出済みの容器詰め飲料(いわゆる、RTD)タイプのものが登場し、これが主流になってきている。
【0003】
これら流通の形態に合わせて、麦茶飲料の香味を高める方法が種々提案されている。例えば、水出し用麦茶タイプとしては、原料麦にメラノイジンの前駆物質としての糖とアミノ酸をコーティング又は混合した後焙煎することにより、抽出液の色及び風味ともに優れた冷水用麦茶を製造する方法(特許文献1)、焙煎後の麦に対して糖とアミノ酸よりなるメラノイジンをコーティングもしくは混合することにより、抽出液の色及び風味ともに優れた冷水用麦茶を製造する方法(特許文献2)、麦類を発芽させたのち、発根する前に乾燥して焙焼することで、冷水滲出可能で風味に富んだ麦茶を製造する飲料(特許文献3)等がある。ティーバッグタイプとしては、大麦に麹菌を接種して発酵することにより、麦茶本来の芳香や風味を増強させ、奥深い味とコクの生成が可能な優れた麦茶を製造する方法(特許文献4)、原料大麦にアミノ酸類,アミノ酸類の塩及び糖類より成る群の1種又は2種以上を直接散布或いはこれらを懸濁液又は水溶液にして含浸せしめた後焙焼することにより、香味の高い麦茶を製造する方法(特許文献5)等がある。また、容器詰め麦茶飲料タイプとして、ロイシン、バリン及びイソロイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸を含有するアミノ酸水溶液を原料麦に含浸させてから焙焼することにより、香ばしい香りと甘味とコクが増強された麦茶飲料を製造する方法(特許文献6)、乾燥大麦の焙煎物と大麦芽の焙煎物を特定量で用いた、甘味感のある香りが強い麦茶飲料(特許文献7)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59-6868号公報
【特許文献2】特開昭59-6867号公報
【特許文献3】特公昭57-5150号公報
【特許文献4】特開昭63-112969号公報
【特許文献5】特開昭60-62969号公報
【特許文献6】特開2012-170332号公報
【特許文献7】特開平6-197744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
常温で長期保存可能な容器詰め麦茶飲料は、加熱殺菌によって飲料のpH値の低下が引き起こされ、麦茶飲料としては好ましくない酸味を呈することがある。そのため、pH調整剤を用いてpH値の調整を行うことがあるが、pH調整剤を用いた場合、麦茶飲料にpH調整剤に由来する塩味、ぬめりが付与され、切れ味の悪さを生じてしまう。そのため、当該飲料が本来有している香気成分が知覚され難くなり、コクも少なくなる。
【0006】
本発明は、pH調整剤が配合されながらも香りやコクが増強された麦茶飲料を提供することができる麦茶飲料用の風味増強剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、pH調整剤が配合された麦茶飲料中の香気及びコクを増強するのに、特定のピラジン類が有用であるとの知見を得た。そして、通常よりもアミノ酸を増加させる加工を行った加工大麦の焙煎物に、この特定のピラジン類を特異的に多く含有させることができ、麦茶飲料の風味増強に有利に用いることができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下に関する。
(1)遊離アミノ酸含有量が150~900mg/100g、かつグルコース含有量が1.8g/100g以下である大麦の焙煎物を含む、麦茶飲料用の風味増強剤。
(2)大麦の遊離アミノ酸含有量が200~800mg/100gである、(1)に記載の風味増強剤。
(3)遊離アミノ酸含有量が150~900mg/100g、かつグルコース含有量が1.8g/100g以下である大麦の焙煎物と、pH調整剤とを含有する、麦茶飲料。
【発明の効果】
【0009】
本発明の麦茶飲料用の風味増強剤を用いると、香気やコクが向上した容器詰め麦茶飲料を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実験例4においてBrix0.3の液における2-エチル-3,5-ジメチルピラジン(上図)及び2,3-ジエチル-5-メチルピラジン(下図)の量を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(風味増強剤)
本発明は、麦茶飲料用の風味増強剤に関する。より詳細には、pH調整剤が配合された容器詰め麦茶飲料用の風味増強剤(以下、「本発明の剤」とも表記する)である。
【0012】
pH調整剤が配合された麦茶飲料は、pH調整剤に起因する塩味、ぬめりが付与されてしまい、麦茶飲料が本来有している香気やコクが低減する。特に、pH調整剤として、重曹やリン酸水素二ナトリウム等のナトリウム塩を用いた場合は、その影響が大きい。香気やコクを増強するためは、抽出原料を多くする、抽出温度を高めに設定するなどして溶出率を高めることが考えられるが、でんぷん等も多く溶出されるため、香り立ちが悪くなる、苦味やえぐ味成分も多く溶出してコク味が知覚し難くなる、保存中に凝集や沈殿が発生しやすくなるという問題がある。本発明の麦茶飲料用の風味増強剤は、麦由来可溶性固形分(質量%)が0.20~0.40(好ましくは0.20~0.35)の、容器詰め飲料に適した麦茶飲料に好適に用いられる。
【0013】
香気物質の中で、ピラジン類は飲食品の風味に広がりを与えることからコク味を付与する物質であると報告されている(斉藤知明、食品のこくとこく味、日本味と匂学会誌、11巻2号、p.165-174(2004))。ピラジン類の中でも、2-エチル-3,5-ジメチルピラジン(2-Ethyl-3,5-dimethylpyrazine)及び2,3-ジエチル-5-メチルピラジン(2,3-Diethyl-5-methylpyrazine)の2種のピラジン類は、麦茶飲料のコクに大きく寄与するので、この2種のピラジン類を多く含有させることにより、pH調整剤が配合された麦茶飲料の香気とコクを向上することができる。
【0014】
本発明者らは、遊離アミノ酸含有量が150~900mg/100gとなるように加工された大麦(以下、「加工大麦」とも表記する)を焙煎して得られる加工大麦の焙煎物において、上記2種のピラジン類が特異的に多く生成されることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明の剤は、遊離アミノ酸含有量が150~900mg/100gとなるように加工された大麦を焙煎したもの(加工大麦の焙煎物)を含み、2-エチル-3,5-ジメチルピラジン及び2,3-ジエチル-5-メチルピラジンを多く含む。ピラジン類の生成のし易さから、未加工大麦(未焙煎)中の遊離アミノ酸含有量は200mg/100g以上が好ましく、250mg/100g以上がより好ましく、300mg/100g以上がさらに好ましい。一方、遊離アミノ酸含有量が多過ぎると、焙煎時に所望のピラジン類だけでなく焦げや甘みにつながる香気成分や着色成分を生成しやすくなり、麦茶飲料の風味や外観に影響を及ぼすことがあるので、遊離アミノ酸含有量の上限は、800mg/100g以下が好ましく、700mg/100g以下がより好ましい。なお、大麦中の遊離アミノ酸含有量は、麦をスルホサリチル酸抽出し、当該抽出液中に含まれる遊離アミノ酸量をアミノ酸自動分析装置で分析することにより測定することができる。
【0015】
本発明は、大麦に遊離アミノ酸が増加する加工を行って所望のピラジン類の生成を促進するものであるが、糖類が増えると焦げや甘みにつながる香気成分や着色成分が生成しやすくなる。したがって、加工大麦中の糖類は、グルコースを指標として、1.8g/100g以下、好ましくは1.6g/100g以下、より好ましくは1.4g/100g以下、さらに好ましくは1.2g/100g以下、特に好ましくは1.0g/100g以下であることも重要である。グルコース含有量の下限値は、通常、0.1g/100g以上程度である。大麦中のグルコース含有量は、麦をエタノール抽出し、当該抽出液中に含まれるグルコース含有量を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定することができる。
【0016】
遊離アミノ酸含有量が150~900mg/100gとなるような加工とは、大麦の遊離アミノ酸含有量を高める加工を意味する。加工方法は特に制限されないが、例えば、原料大麦にアミノ酸を含む液体を噴霧又は浸漬する等を行う外的加工、原料大麦を発芽させて大麦中のプロテアーゼを生成させることでたんぱく質の一部を低分子化したり、あるいは原料大麦に麹菌等を接種して発酵によりたんぱく質の一部を低分子化する内的加工等が挙げられる。所望するピラジン類を多く生成させることができ香味バランスが崩れにくいという観点から、内的処理の加工が好ましく、特に発芽大麦が好適に用いられる。通常、大麦中の遊離アミノ酸含有量は100mg/100g程度、グルコース含有量は0.1g/100g程度である。温度、水分量等の発芽条件により酵素(α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、プロテアーゼ等)反応の状態が異なるため、遊離アミノ酸含有量やグルコース含有量は発芽時間や芽の長さのみとは一概には相関しない。プロテアーゼは反応しやすいが、アミラーゼが反応しにくい条件を設定し、当該条件下における発芽時間と遊離アミノ酸とグルコース含有量の関係を把握して、発芽時間を設定することで、本発明の剤に用いる焙煎物の原料として最適な発芽大麦を得ることができる。
【0017】
次いで、加工大麦を焙煎して、本発明の剤の主要な成分である焙煎物を得る。加工大麦の焙煎は、通常の麦茶飲料用原料の焙煎と同様に実施できる。例えば、焙煎温度は、好ましくは130~350℃、より好ましくは180~330℃、特に好ましくは200~300℃であり、焙煎時間は、好ましくは10~120分、特に好ましくは15~60分である。なお、焙煎には、直火焙煎又は熱風焙煎などいずれの方法を用いてもよく、回転式焙煎機等の公知の装置を使用することができる。ピラジン類を特異的に多く生成させるという観点からは、特開2022-5号公報に記載のような比較的短時間で行われる熱風焙煎が好適に例示できる。
【0018】
本発明の麦茶飲料用の風味増強剤は、上記加工大麦の焙煎物の抽出液の形態であってもよい。この場合、加工大麦の焙煎物の抽出液を麦茶飲料用の風味増強剤として麦茶飲料に含有させる。また、本発明の麦茶飲料用の風味増強剤は、加工大麦の焙煎物自体であってもよい。この場合、加工大麦の焙煎物を麦茶飲料の抽出用原料に混合して、共に抽出に供することにより、加工大麦の焙煎物の抽出液を麦茶飲料に含有させる。
【0019】
加工大麦の焙煎物の抽出液を製造する場合、抽出は85℃以上(好ましくは90℃以上)の熱水を用いて行えばよい。85℃以上にて抽出を行うと、香ばしい香りが高く、えぐ味の少ない抽出液が得られる。抽出液は、適宜、希釈、濃縮等して用いてもよい。
【0020】
(麦茶飲料)
本発明は、上記風味増強剤を含有させることにより、pH調整剤が配合されながらも香りやコクが増強された麦茶飲料も提供する。すなわち、本発明は、遊離アミノ酸含有量が150~900mg/100g、かつグルコース含有量が1.8g/100g以下となるように加工された大麦(加工大麦)の焙煎物と、pH調整剤とを含有する、麦茶飲料である。
【0021】
ここで、本明細書において、麦茶飲料とは、焙煎した麦、例えば六条大麦、裸麦、二条大麦、又はハト麦から選ばれる1種類以上から水抽出された抽出液を主成分として含む飲料をいう。抽出液は、これをそのまま飲料としてもよく、適宜、希釈、濃縮等して用いてもよい。これらの抽出液は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
本発明に係る麦茶飲料の製造において、麦の焙煎条件、抽出液の抽出条件は特に限定されず、通常の麦茶の製造に用いられる条件で行うことができる。すなわち、焙煎は80~370℃で2~35分間程度行えばよく、抽出は90℃以上の熱水を用いて行えばよい。90℃以上にて抽出した抽出液を用いれば、香ばしい香りが高く、えぐ味の少ない飲料を得られるため好ましい。本発明の効果の顕著さから、本発明の麦茶飲料は、麦由来可溶性固形分(質量%)が0.20~0.40であることが好ましく、0.20~0.35であることがより好ましく、0.22~0.35であることがさらに好ましい。麦由来可溶性固形分は、糖度計を用いて20℃で測定される可溶性固形分の値のうち、麦由来のものの値として求めることができる。
【0023】
上述のとおり、本発明の麦茶飲料は、風味増強剤として加工大麦の焙煎物の抽出液が混合されていてもよく、あるいは、麦茶飲料の主成分となる麦の抽出時に、加工大麦の焙煎物を混合し、麦と一緒に抽出することにより製造してもよい。本発明の加工大麦の焙煎物は、麦茶飲料の可溶性固形分にほとんど影響せずに香ばしい香りのみを付与することができるという特徴を有する。特に制限されるわけではないが、本発明の風味増強剤、すなわち加工大麦の焙煎物の混合割合は、固形分で、抽出原料全量に対して1~8質量%程度であることが好ましく、2~7質量%であることがより好ましく、3~6質量%であることがさらに好ましい。加工大麦の焙煎物の抽出液を麦茶飲料に添加する場合は、所望する風味を考慮して適宜添加量を設定すればよいが、通常、飲料全体に対して0.1~8質量%程度、好ましくは1~6質量%程度添加、混合される。
【0024】
本発明の麦茶飲料は、pH調整剤を含む。pH調整剤としては、水に溶解した時にアルカリ性を示す物質であればよく、炭酸水素ナトリウム(重曹)、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等の1種又は2種以上を用いることができる。本発明の効果の顕著さから、好ましくは重曹が用いられる。pH調整剤を用いて調整される麦茶飲料のpHは5.8~7.0、好ましくは6.0~6.8である。
【0025】
本発明の麦茶飲料は、通常の麦茶飲料と同様に、抽出工程、調合工程、加熱殺菌工程、容器への充填工程を経て製造される。本明細書において、「加熱殺菌」は、食品衛生法に定められた条件と同等の効果が得られる条件で行われる殺菌をいう。具体的には、例えば、60~150℃、好ましくは90~150℃、より好ましくは110~150℃で、1秒間~60分間、好ましくは1秒間~30分間の間で温度に応じて適切に時間を設定することで行うことができる。より詳細には、容器として耐熱性容器(金属缶、ガラス等)を使用する場合には、レトルト殺菌(110~140℃、1~数十分間)を行えばよい。また、容器として非耐熱性容器(PETボトル、紙容器等)を用いる場合は、例えば、調合液を予めプレート式熱交換器等で高温短時間殺菌後(UHT殺菌:110~150℃、1~数十秒間)し、一定の温度まで冷却した後、その非耐熱性容器に充填することができる。
【0026】
(容器詰め飲料)
本発明の麦茶飲料は、本発明の麦茶飲料用の風味増強剤を含有することにより、2-エチル-3,5-ジメチルピラジン及び2,3-ジエチル-5-メチルピラジンを多く含む飲料である。これらピラジン類は、熱や光への安定性が高いことから、本発明の麦茶飲料をPETボトル等の透明容器に充填した場合にも、優れた風味を長期にわたり維持することができる。したがって、透明容器入り飲料は、本発明の麦茶飲料の好適な態様の一例である。
【0027】
(その他成分)
本発明の麦茶飲料は、麦の抽出物が主成分であればよい。例えば、麦の抽出物を主成分とし、麦以外の穀類の抽出物も含むブレンド茶であってもよい。ただし、カメリア・シネンシス(Camellia sinensis)に属する植物は含まないことが好ましい。麦茶にブレンドされる穀類としては、飲料として使用できる穀類であればよく、例えば、米(いり米、玄米など)、そば(日本ソバ、韃靼種などのそば子実の穀粒)、ごま、大豆・黒豆、とうもろこし等が挙げられる。また、ビール用麦芽等として市販されている麦芽を用いてもよい。これらの1種又は複数種類を用いることができる。ブレンド茶原料の穀類(穀粒)の調製及び焙煎は従来通常に行われている方法でよい。
【0028】
その他、本発明の飲料には、本発明の所期の目的を逸脱しない範囲であれば、上記成分に加え、飲料に一般的に配合される成分、例えば、酸化防止剤、香料、乳化剤、色素、調味料、エキス類等を適宜添加することができる。
【実施例0029】
以下、実験例を示して本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、本明細書において、特に記載しない限り、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0030】
<成分分析>
(1)遊離アミノ酸含有量
分析試料となる麦を乾燥後ミルで粉砕し、この粉砕麦3gに10w/v%のスルホサリチル酸溶液25mlを加えて混和し、20分間の振とうを行ってアミノ酸を抽出する。得られた抽出液に3mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を加えて中和する。そして、pH2.2のクエン酸ナトリウム緩衝液を添加して、合計で50mlとなるように抽出液をpH2.2に調整する。更に、これをろ過する。得られたろ過液の一部を分取して試験溶液とし、アミノ酸自動分析法によって、アルギニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、バリン、アラニン、グリシン、プロリン、グルタミン酸、セリン、スレオニン、アスパラギン酸、トリプトファン及びシスチンの18種類の遊離アミノ酸について計量し、これらの合計量を遊離アミノ酸含有量とする。
【0031】
[アミノ酸自動分析計の測定条件]
・装置:L-8800形高速アミノ酸分析計(日立ハイテクノロジーズ)
・カラム:日立カスタムイオン交換樹脂φ4.6mm×60mm(日立ハイテクノロジーズ)
・移動相:MCI L-8500-PF(PF-1~PF-4)(三菱化学)
・反応液:日立用ニンヒドリン発色溶液キット(和光純薬工業)
・流量:移動相0.35ml/分
・反応液:0.30ml/分
・測定波長:570nm(プロリンを除く17種類の測定時)、440nm(プロリンの測定時)
(2)グルコース含有量
分析試料となる麦を乾燥後ミルで粉砕し、この粉砕麦2.5gに50%エタノール約30mlを加え、30分間超音波抽出する。その後、50%エタノールを加えて定容し、これをろ紙で濾過して濃縮・乾固した後、水を加え、メンブランフィルターでろ過して試験溶液とし、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によってグルコース量を計量する。
【0032】
[HPLCの測定条件]
・装置:HPLC(日本分光)
・カラム:YMC-Pack Polyamine II(YMC)
・移動相:移動相:67%(v/v)アセトニトリル溶液
・カラム温度:30℃
・流速:1.0mL/分
・検出:示差屈折率検出器
(3)可溶性固形分
飲料の可溶性固形分(Bx値、Brix)は、糖度計(Rx-5000、アタゴ社製)を用いて20℃で測定する。
【0033】
(4)ピラジン類
試料液5mlをネジ付き20ml容ガラス瓶(直径18mm,ゲステル社製)に入れてPTFE製セプタム付き金属蓋(ゲステル)にて密栓し、固相マイクロ抽出法(SPME)にて香気成分の抽出を行う。定量は、GC/MSのEICモードにて検出されたピーク面積を用い、標準添加法にて行う。すなわち、内部標準として使用したボルネオールのピーク面積に対する目的成分(2-エチル-3,5-ジメチルピラジン及び2,3-ジエチル-5-メチルピラジン)の面積比を算出する。各成分の保持時間は、標準品を分析することで確認できる。
【0034】
[GC/MSの測定条件]
・SPMEファイバー:StableFlex/SS,50/30μm DVB/CAR/PDMS(スペルコ)
・全自動揮発性成分抽出導入装置:MultiPurposeSampler MPS2XL(ゲステル)
・予備加温:40℃、5分間
・攪拌:なし
・揮発性成分抽出:40℃、30分間
・揮発性成分の脱着時間:3分間
・GCオーブン:GC7890A(アジレントテクノロジーズ)
・カラム:VF-WAXms,60m×0.25mmi.d. df=0.50μm(アジレントテクノロジーズ)
・GC温度条件:40℃(5分間)→5℃/分→260℃(11分間)
・キャリアーガス:ヘリウム,1.2ml/分,流量一定モード
・インジェクション:スプリットレス法
・インレット温度:250℃
・質量分析装置:GC/MS Triple Ouad7000(アジレントテクノロジーズ)
・イオン化方式:EI(70eV)
・測定方式:スキャン測定、またはスキャン&SIM同時測定
・スキャンパラメータ:m/z35~350
実験例1 pH調整剤の影響(1)
市販の麦茶用大麦(焙煎した六条大麦)60gを10倍量の熱水(95℃)に投入し、10分間撹拌抽出した。この抽出液を20℃以下に冷却した後、遠心分離機を用いて固液分離して抽出液(pH6.0)(サンプル1-1)を得た。この抽出液に重曹を添加してpH6.3に調整したもの(サンプル1-2)と、抽出液にアスコルビン酸(抗酸化剤)300ppmと重曹を添加してpH6.0に調整したもの(サンプル1-3)を得た。各サンプルについて、専門パネル10名で香気及びコクの強さを官能評価した。官能評価は、サンプル1-1と1-2、又はサンプル1-1と1-3をパネルにペアで提示し、提示されたペアのサンプルでどちらが香気(又はコク)を強く感じるか、を二点試験法により比較した。結果を表1に示す。pH調整剤を配合していないサンプル(サンプル1-1)の方が、pH調整剤を配合したサンプル(サンプル1-2、1-3)よりも麦茶らしい香ばしい香りが強く、コクも強く知覚できたと判断したパネルが多かった。
【0035】
【0036】
実験例2 アミノ酸高含有加工大麦の影響(1)
市販の未焙煎大麦を用い、水分を浸透しやすくするため爆ぜ処理を行って麦を膨化させた。これに表2に示す種々の濃度のロイシン水溶液を噴霧して含浸させて加工大麦を得た。得られた加工大麦中の、遊離アミノ酸含有量及びグルコース含有量を分析した。次いで、これら加工大麦を焙煎機(アイ・シー電子工業 TORNADO KING(登録商標)TypeT)を用い、200℃で15分間焙煎して、加工大麦の焙煎物を製造した。また、対照としてロイシンを噴霧せずに焙煎して焙煎物を製造した。これら焙煎物4gを200gの熱湯(95℃)で5分間抽出して、抽出液(Brix:0.3)を得、これに重曹0.01質量%を添加してpH6.5とした。未加工の麦を用いた抽出液(サンプル2-1)に対して、加工大麦の焙煎物の抽出液を最終飲料において3質量%となる割合で混合し、サンプル2-2~2-8とした。これらの麦茶飲料について専門パネル5名で官能評価した。官能評価は、各パネルが加工大麦の焙煎物を含まないサンプル2-1(pH調整剤入り)を対照として、対照と比較して麦茶らしい香ばしい香気を強く感じるか否かを評価し、評価した人数によって以下5段階の評価とした。
【0037】
◎:パネル全員(5名)が対照と比較して香気が強いと感じる
〇:パネルの過半数(3~4名)が対照と比較して香気が強いと感じる
△:パネルの半数未満(1~2名)が対照と比較して香気が強いと感じる
×:対照と比較して香気が強いと感じるパネルが0名である
結果を表2に示す。アミノ酸含有量が150mg/100g以上となる加工大麦の焙煎物の抽出液を少量配合することにより、pH調整剤が配合された麦茶飲料の香気を向上させることができた。アミノ酸含有量が多くなるにしたがって甘味や焦げ臭を感じるパネルが存在し、900mg/100g以上では過半数のパネルが初期の麦茶の香味とは大きく異なると判断した。
【0038】
【0039】
実験例3 アミノ酸高含有加工大麦の影響(2)
市販のビール用麦芽を用いた(サンプル3-1)。また、市販の未焙煎の六条大麦を対照(発芽前)として用いた。また、対照の六条大麦をビール用の麦芽を製造する方法で5mm程度(サンプル3-2)または1mm程度(サンプル3-3)発芽させた。これら大麦を、70℃程度の熱風乾燥で含水率が約5%になるまで乾燥させて、成分分析をした。次いで、実験例2と同じ焙煎及び抽出を行って抽出液を得、これに重曹0.01質量%を添加してpH6.5とした。対照(発芽前)の抽出液全量に対して、サンプル3-1~3-3の抽出液を最終飲料において3質量%となる割合で混合し、実験例2と同様に官能評価した。表3に結果を示す。アミノ酸含有量が319mg/100gかつグルコース含有量が0.51g/100gとなるように発芽処理した加工大麦の焙煎物を用いたサンプル3-3は、pH調整剤が配合された麦茶飲料の香気を向上することができた。
【0040】
【0041】
実験例4 容器詰め飲料の製造
実験例2で製造したサンプル2-4の焙煎物、および実験例3で製造したサンプル3-3の焙煎物を用いた。焙煎物10gに対して200mlの熱湯(100℃)を注ぎ、5分間抽出を行った(Brix:0.3)。また、市販のティーバッグタイプの麦芽むぎ茶(原材料:大麦(国産)、麦芽(大麦(国産)))を用い、ティーバッグ1袋(8g)に対し、100℃のお湯200mlを注ぎ、5分間抽出を行い(Brix:1.17)、加水してBrix0.3とした。Brix0.3の液におけるピラジン類(2-エチル-3,5-ジメチルピラジン及び2,3-ジエチル-5-メチルピラジン)を分析した。結果を
図1に示す。アミノ酸含有量が高められた加工大麦の焙煎物は、麦茶のコクに大きく寄与するピラジン類を多量に含むことが示された。
【0042】
これら焙煎物を用いて、容器詰め麦茶飲料を製造した。麦茶飲料用の抽出原料(六条大麦)に対して加工大麦の焙煎物(サンプル2-4、3-3)を5質量%混合した。この混合物を10倍量の95℃の熱水に投入して、10分間撹拌抽出して抽出液を得た。この抽出液の可溶性固形分(Brix)が0.25となるように水を添加して希釈し、重曹を添加してpHを6.5にしたものを加熱殺菌し、500mlずつを透明PET(ポリエチレンテレフタレート)ボトル容器に充填した。加工大麦の焙煎物を混合しない以外は同様の方法で製造したPETボトル入り麦茶飲料を対照として、どちらの麦茶飲料が好ましいかを専門パネル5名で評価した。結果を表4に示す。パネル全員が、加工大麦の焙煎物を含む麦茶飲料が、麦茶らしい香ばしい香気とコクを有し、好ましい飲料であると評価した。
【0043】
【0044】
さらに、当該容器に充填した飲料を10000ルクスの可視光照射下で、15℃で60日間保存した後、官能評価した。対照飲料は大きく風味が変化していたの対し、加工大麦の焙煎物を混合した飲料は、いずれも風味変化が小さく、製造直後の風味を維持していた。