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特開2024-156668回収プローブ及びその使用のための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156668
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】回収プローブ及びその使用のための方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/02 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
A61B10/02 500
A61B10/02 300D
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024107850
(22)【出願日】2024-07-04
(62)【分割の表示】P 2022123679の分割
【原出願日】2017-08-31
(31)【優先権主張番号】62/383,234
(32)【優先日】2016-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/462,524
(32)【優先日】2017-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/411,321
(32)【優先日】2016-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518256430
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ ザ ユニヴァーシティ オブ テキサス システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】エバーリン リヴィア シャヴィナート
(72)【発明者】
【氏名】ミルナー トーマス
(72)【発明者】
【氏名】チャン チヤリン
(72)【発明者】
【氏名】リン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】レクター ジョン
(72)【発明者】
【氏名】カッター ニテシュ
(72)【発明者】
【氏名】ザヘディヴァシュ アイドゥン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】分子分析を使用した対象の複数の組織部位からの組織サンプルを評価するための方法及びデバイスが提供される。
【解決手段】特定の態様において、実施形態のデバイスは、液体組織サンプルの回収及びマススペクトロメトリー分析のためのサンプルの送達を可能にさせる。溶媒を含むチャンバーと;加圧ガス供給部と;マススペクトロメーターと;リザーバー、第1の導管、第2の導管及び第3の導管を備えたプローブとを備える。リザーバーは、第1の導管、第2の導管及び第3の導管と流体連結しており;第1の(溶媒)導管は、チャンバーと流体連結しており;第2の(ガス)導管は、加圧ガス供給部と流体連結しており;第3の(回収)導管は、マススペクトロメーターと流体連結している。
【選択図】図1E
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マススペクトロメトリー分析のためのサンプルを作製するための装置であって、
溶媒を含むチャンバーと;
加圧ガス供給部と;
マススペクトロメーターと;
リザーバー、第1の導管、第2の導管及び第3の導管を備えたプローブと
を含み、
前記リザーバーは、前記第1の導管、前記第2の導管及び前記第3の導管と流体連結しており;
前記第1の導管は、前記チャンバーと流体連結しており;
前記第2の導管は、加圧ガス供給部と流体連結しており;
前記第3の導管は、前記マススペクトロメーターと流体連結している、前記装置。
【請求項2】
前記装置は、イオン化源と連結されていない、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
イオン化源とさらに連結されている、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記プローブは、手持ち型であるように設計されたハウジングに含まれる、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記プローブは、腹腔鏡手術デバイスと連結されるよう設計されたハウジングに含まれる、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記リザーバーは、前記溶媒の液滴を形成し、保持するよう構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記加圧ガス供給部は、0.1psigから5.0psigの間の圧力でガスを前記プローブに提供する、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記加圧ガス供給部は、0.5psigから2.5psigの間の圧力でガスを前記プローブに提供する、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記加圧ガス供給部は、100psig未満の圧力でガスを前記プローブに提供する、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記加圧ガス供給部は、空気、窒素または二酸化炭素を前記プローブに提供する、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
個別の体積の前記溶媒を前記チャンバーから前記第1の導管に移動させるよう構成されたポンプをさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記ポンプによって提供される前記個別の体積の前記溶媒は、前記第1の導管から前記プローブリザーバーへ通過し、ここで、前記個別の体積の前記溶媒が、表面と直接接触している、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記表面は、組織部位である、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記第3の導管から前記マススペクトロメーターへの流れを制御するよう構成された第1のバルブをさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項15】
前記第1のバルブが開放位置にあるとき、前記第3の導管は、真空下にある、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記第2の導管を通る加圧ガスの流れを制御するよう構成された第2のバルブをさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項17】
前記溶媒は、水を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項18】
前記溶媒は、エタノールを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項19】
前記溶媒は、1から25%のエタノールを含む、水性混合物を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項20】
前記プローブは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)及び/またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む組成物から形成される、請求項1に記載の装置。
【請求項21】
前記プローブは、使い捨てである、請求項1に記載の装置。
【請求項22】
前記プローブは、取り出し可能な回収先端部を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項23】
前記リザーバーは、5.0マイクロリットルから20マイクロリットルの間の体積を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項24】
前記プローブは、前記プローブの位置を追跡するよう構成された追跡デバイスを備える、請求項1に記載の装置。
【請求項25】
前記第1の導管を通る前記チャンバーから前記リザーバーへの溶媒流;
前記第2の導管を通る前記加圧ガス供給部から前記リザーバーへの加圧ガス流;及び
前記第3の導管を通る前記リザーバーから前記マススペクトロメーターへのサンプル流
を制御するよう構成された制御システムをさらに備える、請求項11に記載の装置。
【請求項26】
前記制御システムは、
1から3秒の間の時間、毎分200から400マイクロリットルの間の流量に前記溶媒流を制御する;
10から15秒の間の時間、0.1から15psigの間の流量に前記加圧ガス流を制御する;
10から15秒の間の時間、前記サンプル流を制御するよう構成される、請求項25に記載の装置。
【請求項27】
前記制御システムは、溶媒流を開始するペダルを備える、請求項25に記載の装置。
【請求項28】
前記マススペクトロメーターは、サンプル分析を提供可能なコンピュータと電子通信状態にある、請求項1に記載の装置。
【請求項29】
前記コンピュータは、前記サンプル分析の視覚的または聴覚的表示を提供する、請求項28に記載の装置。
【請求項30】
前記第3の導管と流体連結した廃棄物容器をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項31】
流体を前記第3の導管から前記廃棄物容器へ分岐するよう構成されたバルブをさらに備える、請求項30に記載の装置。
【請求項32】
前記廃棄物容器の内容物を除去するよう構成されたポンプをさらに備える、請求項30に記載の装置。
【請求項33】
前記第3の導管と流体連結したポンプをさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項34】
前記ポンプは、前記第3の導管内の内容物の速度を増加させるよう構成される、請求項33に記載の装置。
【請求項35】
前記第3の導管に結合された加熱要素をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項36】
前記加熱要素は、加熱線である、請求項35に記載の装置。
【請求項37】
前記第3の導管と流体連結したイオン化デバイスをさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項38】
前記イオン化デバイスは、エレクトロスプレーイオン化(ESI)デバイスである、請求項37に記載の装置。
【請求項39】
前記イオン化デバイスは、大気圧化学イオン化(APCI)デバイスである、請求項37に記載の装置。
【請求項40】
前記イオン化デバイスは、マススペクトロメーターに対する入口の近位にスプレーを形成するためのものである、請求項37に記載の装置。
【請求項41】
前記第3の導管は、前記マススペクトロメーターと直接連結されていない、請求項1に記載の装置。
【請求項42】
前記第3の導管と流体連結したベンチュリデバイスをさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項43】
前記装置は、超音波または振動エネルギーの適用のためのデバイスを含まない、請求項1に記載の装置。
【請求項44】
対象からの組織サンプルを評価するための方法であって、
(a)固定または個別の体積の溶媒を前記対象の組織部位に適用することと;
(b)前記適用された溶媒を回収して、液体サンプルを得ることと;
(c)前記サンプルをマススペクトロメトリー分析に供することと
を含む、前記方法。
【請求項45】
前記固定または個別の体積の溶媒は、スプレーとして適用されない、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記固定または個別の体積の溶媒は、液滴として適用される、請求項44に記載の方法。
【請求項47】
前記固定または個別の体積の溶媒は、100psig未満の圧力を使用して適用される、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
前記固定または個別の体積の溶媒は、10psig未満の圧力を使用して適用される、請求項44に記載の方法。
【請求項49】
前記固定または個別の体積の溶媒は、前記溶媒を溶媒導管を通して移動させるための機械式ポンプを使用して適用される、請求項44に記載の方法。
【請求項50】
前記適用された溶媒を回収することは、陰圧をかけて、前記サンプルを回収導管に引き込むこと及び/またはガス圧をかけて、前記サンプルを回収導管に押し込むことを含む、請求項44に記載の方法。
【請求項51】
前記適用された溶媒を回収することは、陰圧をかけて、前記サンプルを回収導管に引き込むこと及び陽圧をかけて、前記サンプルを回収導管に押し込むことを含む、請求項44に記載の方法。
【請求項52】
前記溶媒は、前記回収導管とは異なる溶媒導管を通して適用される、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記ガス圧は、前記溶媒導管及び前記回収導管とは異なるガス導管を通してかけられる、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
ガス圧をかけて、前記サンプルを回収導管に押し込むことは、100psig未満の圧力をかけることを含む、請求項50に記載の方法。
【請求項55】
前記方法は、検知可能な物理的損傷を前記組織にもたらさない、請求項44に記載の方法。
【請求項56】
前記方法は、前記組織への超音波または振動エネルギーの適用を含まない、請求項44に記載の方法。
【請求項57】
前記溶媒は、滅菌されている、請求項44に記載の方法。
【請求項58】
前記溶媒は、薬学的に許容される製剤である、請求項44に記載の方法。
【請求項59】
前記溶媒は、水溶液である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記溶媒は、滅菌水である、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記溶媒は、基本的に水から成る、請求項59に記載の方法。
【請求項62】
前記溶媒は、約1から20%のアルコールを含む、請求項59に記載の方法。
【請求項63】
前記アルコールは、エタノールを含む、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
溶媒の前記個別の体積は、約0.1から100μLの間である、請求項44に記載の方法。
【請求項65】
溶媒の前記個別の体積は、約1から50μLの間である、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記適用された溶媒を回収することは、前記適用するステップ後の0.1から30秒の間である、請求項44に記載の方法。
【請求項67】
前記適用された溶媒を回収することは、前記適用するステップ後の1から10秒の間である、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記組織部位は、外科的に評価される内部組織部位である、請求項44に記載の方法。
【請求項69】
複数の組織部位からの複数の液体サンプルを回収することをさらに含む、請求項44に記載の方法。
【請求項70】
前記液体サンプルは、プローブにより回収される、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
前記プローブは、異なるサンプルの回収の間に洗浄される、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
前記プローブは、使い捨てであり、異なるサンプルの回収の間に替えられる、請求項70に記載の方法。
【請求項73】
前記プローブは、回収先端部を備え、前記液体サンプルが回収された後に前記プローブから前記回収先端部を取り出すことをさらに含む、請求項70に記載の方法。
【請求項74】
前記複数の組織部位は、2、3、4、5、6、7、8、9または10の組織部位を含む、請求項69に記載の方法。
【請求項75】
前記複数の組織部位は、外科的に切除された組織の切断部を取り囲む、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
前記切除された組織は、腫瘍である、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
術中法としてさらに定義される、請求項44に記載の方法。
【請求項78】
前記マススペクトロメトリーは、アンビエントイオン化MSを含む、請求項44に記載の方法。
【請求項79】
前記サンプルをマススペクトロメトリー分析に供することは、前記組織部位と対応するプロフィールを決定することを含む、請求項44に記載の方法。
【請求項80】
前記プロフィールを参照プロフィールと比較して、患部組織を含む組織部位を特定することをさらに含む、請求項79に記載の方法。
【請求項81】
患部組織を含むことが特定された組織部位を切除することをさらに含む、請求項80に記載の方法。
【請求項82】
前記方法は、請求項44~77のいずれか1項に記載の装置を使用して実施される、請求項44に記載の方法。
【請求項83】
組織サンプルを評価するためのエクスビボにおける方法であって、
(a)対象の複数の組織部位から複数の液体サンプルを得ることと;
(b)前記複数の液体サンプルをマススペクトロメトリーに供して、前記組織部位と対応する複数のプロフィールを得ることと;
(c)前記複数のプロフィールを参照プロフィールと比較して、患部組織を含む組織部位を特定することと
を含む、前記方法。
【請求項84】
前記液体サンプルは、溶媒中に含まれる、請求項69に記載の方法。
【請求項85】
前記患部組織は、がん細胞を含む、請求項69に記載の方法。
【請求項86】
前記患部組織は、肺、卵巣または甲状腺癌細胞を含む、請求項69に記載の方法。
【請求項87】
マススペクトロメトリープロフィールを得るための方法であって、
(a)プローブを使用して、個別の体積の溶媒をアッセイ部位に適用することと;
(b)前記適用された溶媒を回収するために前記プローブを使用して、液体サンプルを得ることと;
(c)前記液体サンプルをマススペクトロメトリー分析に供することと
を含む、前記方法。
【請求項88】
前記溶媒は、水溶液である、請求項87に記載の方法。
【請求項89】
前記溶媒は、滅菌水である、請求項88に記載の方法。
【請求項90】
前記溶媒は、基本的に水から成る、請求項88に記載の方法。
【請求項91】
前記溶媒は、約1から20%のアルコールを含む、請求項88に記載の方法。
【請求項92】
前記アルコールは、エタノールを含む、請求項91に記載の方法。
【請求項93】
溶媒の前記固定または個別の体積は、約0.1から100μLの間である、請求項87に記載の方法。
【請求項94】
溶媒の前記固定または個別の体積は、約1から50μLの間である、請求項93に記載の方法。
【請求項95】
前記適用された溶媒を回収することは、前記適用するステップ後の0.1から30秒の間である、請求項87に記載の方法。
【請求項96】
前記適用された溶媒を回収することは、前記適用するステップ後の1から10秒の間である、請求項95に記載の方法。
【請求項97】
前記アッセイ部位は、組織である、請求項87に記載の方法。
【請求項98】
複数のアッセイ部位から複数の液体サンプルを回収することをさらに含む、請求項87に記載の方法。
【請求項99】
前記プローブは、異なるサンプルの回収の間に洗浄される、請求項98に記載の方法。
【請求項100】
前記プローブは、使い捨てであり、異なるサンプルの回収の間に替えられる、請求項98に記載の方法。
【請求項101】
前記プローブは、回収先端部を備え、前記液体サンプルを得ることの後に前記プローブから前記回収先端部を取り出すことをさらに含む、請求項87に記載の方法。
【請求項102】
前記複数の組織部位は、2、3、4、5、6、7、8、9または10のアッセイ部位を含む、請求項98に記載の方法。
【請求項103】
前記マススペクトロメトリーは、アンビエントイオン化MSを含む、請求項87に記載の方法。
【請求項104】
前記サンプルをマススペクトロメトリー分析に供することは、前記組織部位と対応するプロフィールを決定することを含む、請求項87に記載の方法。
【請求項105】
前記プロフィールを参照プロフィールと比較することをさらに含む、請求項104に記載の方法。
【請求項106】
前記方法は、請求項1~26のいずれか1項に記載の装置を使用して実施される、請求項87に記載の方法。
【請求項107】
肺癌サンプルを特定する方法であって、
(a)少なくとも1つのサンプルを得ることと;
(b)前記少なくとも1つのサンプルをマススペクトロメトリー分析に供し、それにより、複数の質量対電荷(m/z)比を含むマススペクトロメトリープロフィールを得ることとを含み、
前記プロフィールが175.02、187.01、201.04、215.03、306.08、313.16、330.98、332.90、357.10、409.23、615.17、722.51、744.55、747.52、748.52、771.52、773.53、861.55、863.57、885.55、及び886.55から成る群から選択される1つ以上の質量対電荷(m/z)比を含む場合に、前記サンプルは肺癌サンプルと特定される、前記方法。
【請求項108】
前記マススペクトロメトリープロフィールは、請求項87~105のいずれか1項に記載の方法に従って得られる、請求項107に記載の方法。
【請求項109】
前記少なくとも1つのサンプルは、液体サンプルである、請求項107に記載の方法。
【請求項110】
複数の液体サンプルは、マススペクトロメトリー分析に供される、請求項109に記載の方法。
【請求項111】
前記プロフィールが175.02、187.01、201.04、215.03、306.08、313.16、330.98、332.90、357.10、409.23、615.17、722.51、744.55、747.52、748.52、771.52、773.53、861.55、863.57、885.55、及び886.55から成る群から選択される少なくとも5つの質量対電荷(m/z)比を含む場合に、前記サンプルは肺癌サンプルと特定される、請求項107に記載の方法。
【請求項112】
前記プロフィールが175.02、187.01、201.04、215.03、306.08、313.16、330.98、332.90、357.10、409.23、615.17、722.51、744.55、747.52、748.52、771.52、773.53、861.55、863.57、885.55、及び886.55から成る群から選択される少なくとも10の質量対電荷(m/z)比を含む場合に、前記サンプルは肺癌サンプルと特定される、請求項107に記載の方法。
【請求項113】
前記プロフィールが質量対電荷(m/z)比175.02、187.01、201.04、215.03、313.16、330.98、332.90、357.10、409.23、615.17、722.51、744.55、747.52、748.52、771.52、773.53、863.57、885.55、及び886.55を含む場合に、前記サンプルは肺癌サンプルと特定される、請求項107に記載の方法。
【請求項114】
前記プロフィールが質量対電荷(m/z)比175.02、201.04、747.52、773.53、及び885.55を含む場合に、前記サンプルは肺腺癌サンプルと特定される、請求項107に記載の方法。
【請求項115】
前記プロフィールが質量対電荷(m/z)比201.04、306.08、747.52、773.53、861.55、及び885.55を含む場合に、前記サンプルは肺扁平上皮癌サンプルと特定される、請求項107に記載の方法。
【請求項116】
前記サンプルは、対象から得られる、請求項107に記載の方法。
【請求項117】
前記対象に抗がん療法を施すことをさらに含む、請求項116に記載の方法。
【請求項118】
卵巣癌サンプルを特定する方法であって、
(a)少なくとも1つのサンプルを得ることと;
(b)前記少なくとも1つのサンプルをマススペクトロメトリー分析に供し、それにより、複数の質量対電荷(m/z)比を含むマススペクトロメトリープロフィールを得ることとを含み、
前記プロフィールが124.01、175.02、175.03、283.27、313.16、及び341.27から成る群から選択される1つ以上の質量対電荷(m/z)比を含む場合に、前記サンプルは卵巣癌サンプルと特定される、前記方法。
【請求項119】
前記マススペクトロメトリープロフィールは、請求項87~105のいずれか1項に従って得られる、請求項118に記載の方法。
【請求項120】
前記少なくとも1つのサンプルは、液体サンプルである、請求項118に記載の方法。
【請求項121】
複数の液体サンプルは、マススペクトロメトリー分析に供される、請求項120に記載の方法。
【請求項122】
前記プロフィールが124.01、175.02、175.03、283.27、313.16、及び341.27から成る群から選択される少なくとも3つの質量対電荷(m/z)比を含む場合に、前記サンプルは卵巣癌サンプルと特定される、請求項118に記載の方法。
【請求項123】
前記プロフィールが質量対電荷(m/z)比124.01、175.02、175.03、283.27、313.16、及び341.27を含む場合に、前記サンプルは卵巣癌サンプルと特定される、請求項118に記載の方法。
【請求項124】
甲状腺癌サンプルを特定する方法であって、
(a)少なくとも1つのサンプルを得ることと;
(b)前記少なくとも1つのサンプルをマススペクトロメトリー分析に供し、それにより、複数の質量対電荷(m/z)比を含むマススペクトロメトリープロフィールを得ることとを含み、
前記プロフィールが175.02、191.02、191.05、283.27、341.27、353.16、432.20、433.21、615.17、822.47、及び822.48から成る群から選択される1つ以上の質量対電荷(m/z)比を含む場合に、前記サンプルは甲状腺癌サンプルと特定される、前記方法。
【請求項125】
前記マススペクトロメトリープロフィールは、請求項87~105のいずれか1項に従って得られる、請求項124に記載の方法。
【請求項126】
前記少なくとも1つのサンプルは、液体サンプルである、請求項124に記載の方法。
【請求項127】
複数の液体サンプルは、マススペクトロメトリー分析に供される、請求項126に記載の方法。
【請求項128】
前記プロフィールが175.02、191.02、191.05、283.27、341.27、353.16、432.20、433.21、615.17、822.47、及び822.48から成る群から選択される少なくとも5つの質量対電荷(m/z)比を含む場合に、前記サンプルは甲状腺癌サンプルと特定される、請求項124に記載の方法。
【請求項129】
前記プロフィールが質量対電荷(m/z)比175.02、191.02、191.05、283.27、341.27、615.17、822.47、及び822.48を含む場合に、前記サンプルは良性甲状腺癌サンプルと特定される、請求項124に記載の方法。
【請求項130】
前記プロフィールが質量対電荷(m/z)比175.02、283.27、341.27、353.16、432.20、433.21、615.17、822.47、及び822.48を含む場合に、前記サンプルは悪性甲状腺癌サンプルと特定される、請求項124に記載の方法。
【請求項131】
乳癌サンプルを特定する方法であって、
(a)少なくとも1つのサンプルを得ることと;
(b)前記少なくとも1つのサンプルをマススペクトロメトリー分析に供し、それにより、複数の質量対電荷(m/z)比を含むマススペクトロメトリープロフィールを得ることとを含み、
前記プロフィールが187.04、268.80、279.92、283.27、341.27、345.16、381.21、687.51、742.54、及び766.54から成る群から選択される1つ以上の質量対電荷(m/z)比を含む場合に、前記サンプルは乳癌サンプルと特定される、前記方法。
【請求項132】
前記マススペクトロメトリープロフィールは、請求項87~105のいずれか1項に従って得られる、請求項131に記載の方法。
【請求項133】
前記少なくとも1つのサンプルは、液体サンプルである、請求項131に記載の方法。
【請求項134】
複数の液体サンプルは、マススペクトロメトリー分析に供される、請求項133に記載の方法。
【請求項135】
前記プロフィールが187.04、268.80、279.92、283.27、341.27、345.16、381.21、687.51、742.54、及び766.54から成る群から選択される少なくとも5つの質量対電荷(m/z)比を含む場合に、前記サンプルは乳癌サンプルと特定される、請求項131に記載の方法。
【請求項136】
前記プロフィールが質量対電荷(m/z)比187.04、268.80、279.92、283.27、341.27、345.16、381.21、687.51、742.54、及び766.54を含む場合に、前記サンプルは乳癌サンプルと特定される、請求項131に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2016年9月2日に出願した米国特許仮出願第62/383,234号;2016年10月21日に出願した同第62/411,321号;及び2017年2月23日に出願した同第62/462,524号の利益を主張するものであり、これらの文献のそれぞれは参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、米国国立衛生研究所により授与された助成金第R00 CA190783号の下、政府の支援を受けてなされた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
1.発明の分野
本発明は、概して医学、分子生物学及び生化学の分野に関する。特に、本発明は、マススペクトロメトリーを使用した組織サンプルの評価のための方法及びデバイスに関する。
【背景技術】
【0004】
2.関連技術の説明
臨床診断は、手術前、手術中、及び手術後、患者の処置過程のいくつかのその他の段階において組織サンプルの評価により一般に行われる。組織評価は、がん患者の診断及び管理において極めて重要である。摘出組織の術中病理評価は、例えば、さまざまながん手術における診断及び切除断片評価のために慣行的に行われている。切除された組織試料は、組織調製、染色、及び評価のために「凍結部屋」と呼ばれることも多い近くの部屋に送られる。組織試料は、凍結され、切断され、染色され、専門家の病理医によって光学顕微鏡を使用して調べられ、病理医は、切除断片ががん細胞を含む(断端陽性)か、または含まない(断端陰性)かを注意深く評価する。術中の凍結切片分析は、数十年間、臨床実務において行われてきたが、これには、多くの問題がある。凍結アーチファクトが組織処理中に生じ、組織構造及び細胞形態を害し、それにより病理学的解釈を複雑にする。さらに、特定の腫瘍細胞は、それらの増殖及び形状の非定型パターンのために識別するのが非常に難しい。分子アプローチは、組織サンプルの極めて正確で、場合によってはリアルタイムの評価をもたらすであろう。しかしながら、今まで、組織サンプルの有効な分子評価を提供する十分なデバイスまたは技法が開発されていない。
【発明の概要】
【0005】
第1の実施形態において、マススペクトロメトリープロフィールを得るための方法であって、プローブを使用して、固定または個別の体積の溶媒をアッセイ部位(例えば、組織部位)に適用することと、適用された溶媒を回収するためにプローブを使用して、液体サンプルを得ることと、液体サンプルをマススペクトロメトリー分析に供すること、とを含む、方法が提供される。さらに別の実施形態において、組織サンプルを評価するための方法であって、対象の複数の組織部位から複数の液体サンプルを得ることと、複数の液体サンプルをマススペクトロメトリーに供することと、を含む、方法が提供される。
【0006】
さらに別の実施形態は、マススペクトロメトリー分析のためのサンプルを(例えば、組織から)得るための装置であって、本装置は、溶媒を含むチャンバーと;加圧ガス供給部と;マススペクトロメーターと;リザーバー、第1の導管、第2の導管及び第3の導管を備えたプローブとを備え、リザーバーは、第1の導管、第2の導管及び第3の導管と流体連結しており;第1の(溶媒)導管は、チャンバーと流体連結しており;第2の(ガス)導管は、加圧ガス供給部と流体連結しており;第3の(回収)導管は、マススペクトロメーターと流体連結している、装置を提供する。別の態様において、マススペクトロメーターはサンプル分析を提供するコンピュータと通信状態にある。特定の態様において、各サンプル分析の結果は、コンピュータからの視覚的または聴覚的出力によって提供される。例えば、コンピュータによる各サンプル分析の結果は、照射される異なるように染色された光によって、または生成される音の異なる周波数によって示されてもよい。いくつかの態様において、マススペクトロメーターは、可動式マススペクトロメーターである。別の態様において、マススペクトロメーターは、無停電電源(例えば、バッテリー電源)を備えることが可能である。さらなる態様において、マススペクトロメーターは、機器の真空を維持するために閉鎖されてもよい入口を備える。さらに別の態様において、マススペクトロメーターは、(例えば、汚染を阻止するために)メッシュフィルターによってプローブから隔てられる。
【0007】
いくつかの態様において、リザーバーは、溶媒の液滴を形成するよう構成される。特定の態様において、加圧ガス供給部は、0.1psigから5.0psigの間の圧力でガスをプローブに提供する。別の態様において、加圧ガス供給部は、0.5psigから2.5psigの間の圧力でガスをプローブに提供する。いくつかの態様において、加圧ガス供給部は、空気をプローブに提供する。他の態様において、加圧ガス供給部は、窒素または二酸化炭素などの不活性ガスをプローブに提供する。
【0008】
さらなる態様において、本装置は、溶媒をチャンバーから第1の導管を移動させるよう構成されたポンプをさらに備える。別の態様において、本装置は、第3の導管からマススペクトロメーターへの流れを制御するよう構成された第1のバルブを備えてもよい。いくつかの態様において、第1のバルブが開放位置にあるとき、第3の導管は、真空下にある。他の態様において、本装置は、第2の導管を通る加圧ガスの流れを制御するよう構成された第2のバルブを備えてもよい。
【0009】
特定の態様において、溶媒は、水及び/またはエタノールを含んでもよい。いくつかの態様において、プローブは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)及び/またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から形成される。いくつかの態様において、プローブは、使い捨てである。特定の態様において、プローブは、取り出し可能な回収先端部を含んでもよい(例えば、プローブから取り出すことができる)。別の態様において、プローブは、プローブの位置を追跡するよう構成された追跡デバイスを備える。いくつかの態様において、リザーバーは、1マイクロリットルから500マイクロリットルの間、約1マイクロリットルから100マイクロリットルの間または約2マイクロリットルから50マイクロリットルの間の体積を有する。さらなる態様において、リザーバーは、5.0マイクロリットルから20マイクロリットルの間の体積を有する。
【0010】
さらなる態様において、装置は、第1の導管を通るチャンバーからリザーバーへの溶媒流(例えば、固定または個別の体積の溶媒の流れ)、第2の導管を通る加圧ガス供給部からリザーバーへの加圧ガス流、及び第3の導管を通るリザーバーからマススペクトロメーターへのサンプル流を制御するよう構成された制御システムをさらに備えてもよい。いくつかの態様において、制御システムは、1から3秒の間の時間、毎分100から5000マイクロリットルの間(例えば、毎分200から400マイクロリットルの間)の流量に溶媒流を制御するよう;10から15秒の間の時間、1から10psigの間の流量に加圧ガス流を制御するよう;及び10から15秒の間の時間、サンプル流を制御するよう構成される。例えば、いくつかの態様において、制御システムは、溶媒流を開始するためのトリガーまたはボタンを備える。別の態様において、制御システムは、溶媒流を開始するための(すなわち、足の動作によって動作させることができる)ペダルを備える。当業者は、第1及び/または第2の導管の長さがシステムの特定の使用に合うよう調節できることを認識するであろう。さらに別の態様において、制御システムは、第1の導管を通るチャンバーからリザーバーへの溶媒流(例えば、固定された時間の間の流量)を制御するよう構成される。別の態様において、実施形態の装置は、(例えば、組織を破壊するに足りる量の)超音波または振動エネルギーを産生するためのデバイスを含まない。
【0011】
さらに別の実施形態は、対象からの組織サンプルを評価するための方法であって、溶媒を対象の組織部位に適用することと、適用された溶媒を回収して、液体サンプルを得ることと、サンプルをマススペクトロメトリー分析に供することとを含む、方法を提供する。特定の態様において、溶媒は、滅菌されていてもよい。いくつかの態様において、溶媒は、薬学的に許容される製剤である。特定の態様において、溶媒は、水溶液である。例えば、溶媒は、滅菌水であってもよく、または基本的に水から成ってもよい。他の態様において、溶媒は、約1%から5%、10%、15%、20%、25%または30%のアルコールを含んでもよい。いくつかの態様において、溶媒は、0.1%から20%のアルコール、1%から10%のアルコールまたは1%から5%1%から10%のアルコール(例えば、エタノール)を含む。ある場合には、アルコールは、エタノールであってもよい。
【0012】
いくつかの態様において、溶媒を組織に適用することは、個別の体積の溶媒を組織部位に適用することを含む。いくつかの態様において、溶媒は、1つの液滴として適用される。別の態様において、溶媒は、1から10の個別の数の液滴として適用される。いくつかの実施形態において、溶媒は、加圧ガスとは無関係のチャネルを介してリザーバーからサンプルに適用される。さらに別の実施形態において、溶媒は、低圧下でサンプルに適用される。例えば、いくつかの態様において、溶媒が、最小限の力で組織部位に適用され(例えば、溶媒が組織部位と接触するリザーバーに移動させられ)、それにより、組織部位において最小限の圧力を作用させる(及び最小限の損傷しか生じない)よう機械式ポンプによって溶媒が適用される。低圧は、100psig未満、90psig未満、80psig未満、70psig未満、60psig未満、50psig未満、または25psig未満であってもよい。いくつかの実施形態において、低圧は、約0.1psigから100psig、約0.5psigから50psig、約0.5psigから25psig、または約0.1psigから10psigである。特定の態様において、溶媒の個別の体積は、約0.1から100μLの間、または約1から50μLの間である。別の態様において、適用された溶媒を回収することは、適用するステップ後の0.1から30秒の間である。特定の態様において、適用された溶媒を回収することは、適用するステップ後の1から10秒の間(例えば、少なくとも1、2、4、5、6、7、8または9秒)である。別の態様において、実施形態の方法は、超音波または振動エネルギーのサンプルまたは組織への適用を含まない。いくつかの態様において、組織部位は、外科的に評価される内部組織部位である。
【0013】
別の態様において、実施形態の方法は、固定または個別の体積の溶媒を(例えば、機械式ポンプを使用して)溶媒導管を通して組織部位に適用することを含む。いくつかの態様において、固定または個別の体積の溶媒は、溶媒が組織部位と直接接触するリザーバーに溶媒導管を通して移動させられる(例えば、0.5~5.0秒間)。別の態様において、適用された溶媒を回収することは、陰圧をかけて、サンプルを回収導管に引き込むこと及び/またはガス圧をかけて、サンプルを回収導管に押し込むことを含む。いくつかの態様において、溶媒は、回収導管と分離された溶媒導管を通して適用される。ガス圧がかけられて、サンプルを回収導管に押し込む別の態様において、ガス圧は、溶媒導管及び回収導管と分離されたガス導管を通してかけられる。ガス圧がかけられて、サンプルを回収導管に押し込む特定の態様において、100psig未満のかけられるガス圧。例えば、ガス圧は、10psig未満、例えば、0.1から5psigであるのが好ましい。さらなる態様において、実施形態の方法は、評価される組織に検知可能な物理的損傷を生じさせないものと定義される。
【0014】
さらなる態様において、本方法は、複数の組織部位からの複数の液体サンプルを回収することをさらに含んでもよい。ある場合には、サンプルを回収するために使用されるデバイス(例えば、プローブ)は、各サンプル回収の間に洗浄される。他の態様において、サンプルを回収するために使用されるデバイスは、各サンプル回収の間に替えることができる使い捨ての回収先端部(プローブ)を含む。特定の態様において、回収先端部は、取り出し可能であってもよい(例えば、デバイスから取り出すことができる)。特定の態様において、複数の組織部位は、インビボの2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上の組織部位を含む。別の態様において、複数の組織部位は、外科的に切除された組織の切断部を取り囲む(例えば、エクスビボ)。特定の態様において、切除された組織は、腫瘍である。いくつかの態様において、本方法は、術中法として定義されてもよい。
【0015】
さらに別の実施形態は、採取される組織部位を特定する方法及びデバイス(プローブ)の操作者にその部位の位置を伝えるための方法を提供する。採取される組織部位の特定は、操作者が組織から回収される分子を採取した後に採取された組織部位で記録された分子情報にアクセスするのを可能にする。少なくとも3タイプの特定アプローチが認識される。第1のアプローチでは、外来性材料が採取した分子情報を特定する採取組織部位に付着させられる。第2のアプローチでは、デバイス(プローブ)は、分子情報が採取されるときにプローブ(デバイス)の位置の記録及びイメージングデバイスへの伝達を可能にする追跡センサー/放射体を備える。第3のアプローチでは、組織領域が、組織分子を回収した後に部位を容易に特定できるよう変更される。第1のアプローチにおいて、採取組織部位に付着させてもよい材料としては、例えば、縫合糸、止血鉗子、組織に付着する生体適合性ポリマー、または容易な読み取り及び除去を可能にする磁気ビーズに付着させるRFIDチップが挙げられる。第2のアプローチタイプにおいて、プローブは、RF外科用追跡システムの一部であるRF放射体、術中USイメージングシステムの一部である超音波放射体または反射体を含んでもよい。この第2のアプローチにおいて、操作者が組織分子の回収を開始するとき、追跡システムは、デバイスと通信できる関連するイメージングシステム(例えば、RF、US、CT、MRI)においてプローブの位置を記録する。その後、操作者は、採取部位の位置を操作者に示すことができる記録されたイメージ(複数可)を参照することによって、後で任意の採取組織部位を特定することができる。第3のアプローチにおいて、組織は、変更される。この第3のアプローチにおいて、プローブと通信状態にあるレーザー源は、採取部位を特定する組織にパターンを蒸散または凝固するために使用することができる。これらの3アプローチのうちの任意のものが組み合わされてもよい。例えば、アプローチ1、2及び3を組み合わせることが可能であろう。この場合、組織分子を採取した後に、外来性材料が組織部位に付着させられ、レーザーが外来性組織に模様をつけると同時に、RFセンサーが採取位置の位置を記録し、イメージングデバイスに伝達する。
【0016】
さらにまた別の態様において、マススペクトロメトリーは、アンビエントイオン化MSを含む。いくつかの態様において、サンプルをマススペクトロメトリー分析に供することは、組織部位に対応するプロフィールを決定することを含んでもよい。別の態様において、本方法は、プロフィールを参照プロフィールと比較して、患部組織を含む組織部位を特定することをさらに含んでもよい。他の態様において、本方法は、患部組織を含むことが特定された組織部位を切除することも含む。いくつかの態様において、本方法は、上記の任意の実施形態及び態様による装置を使用して実施される。
【0017】
別の実施形態において、本発明は、組織サンプルを評価するためのエクスビボにおける方法であって、対象の複数の組織部位から複数の液体サンプルを得ることと、複数の液体サンプルをマススペクトロメトリーに供して、組織部位と対応する複数のプロフィールを得ることと、複数のプロフィールを参照プロフィールと比較して、患部組織を含む組織部位を特定することとを含む、方法を提供する。特定の態様において、液体サンプルは、溶媒中に含まれる。別の態様において、患部組織は、がん細胞を含む。
【0018】
実施形態のいくつかの態様において、実施形態の方法及びデバイスによる評価のための患部組織部位は、がん細胞を含む(または含むことが疑われる)。実施形態により評価することができるがん細胞としては、甲状腺、リンパ節、膀胱、血液、骨、骨髄、脳、乳房、結腸、食道、胃腸、歯肉、頭、腎臓、肝臓、肺、上咽頭、首、卵巣、前立腺、皮膚、胃、精巣、舌、もしくは子宮からの細胞または腫瘍組織(あるいはそのような腫瘍の周辺の組織)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。いくつかの態様において、がんは、新生物、悪性;癌腫;癌腫、未分化型;巨細胞及び紡錘細胞癌;小細胞癌;乳頭癌;扁平上皮癌;リンパ上皮癌;基底細胞癌;毛母癌;移行上皮癌;乳頭移行上皮癌;腺癌;ガストリノーマ、悪性;胆管細胞癌;肝細胞癌;混合型肝細胞癌及び胆管細胞癌;柱状腺癌;腺様嚢胞癌;腺腫性ポリープの腺癌;腺癌、家族性ポリポーシス;固形癌;カルチノイド腫瘍、悪性;細気管支肺胞腺癌;乳頭腺癌;色素嫌性癌;好酸性癌;好酸性腺癌;好塩基性癌;明細胞腺癌;顆粒細胞癌;濾胞腺癌;乳頭及び濾胞腺癌;非被包型硬化性癌;副腎皮質癌;類内膜癌;皮膚付属器癌;アポクリン腺癌;皮脂腺癌;耳垢腺癌;粘表皮癌;のう胞腺癌;乳頭状嚢腺癌;乳頭状漿液性のう胞腺癌;粘液性のう胞腺癌;粘液癌;印環細胞癌;浸潤性乳管癌;髄様癌;小葉癌;炎症性癌;乳房パジェット病;膵腺房細胞癌;腺扁平上皮癌;扁平上皮化生随伴腺癌;胸腺腫、悪性;卵巣間質腫瘍、悪性;莢膜細胞腫、悪性;顆粒膜細胞腫、悪性;セルトリ間質細胞腫、悪性;セルトリ細胞腫;ライディッヒ細胞腫、悪性;脂質細胞腫、悪性;傍神経節腫、悪性;乳房外傍神経節腫、悪性;褐色細胞腫;グロムス肉腫;悪性黒色腫;無色素性黒色腫;表在拡大型黒色腫;巨大色素性母斑に合併した悪性黒色腫;類上皮細胞黒色腫;青色母斑、悪性;肉腫;線維肉腫;線維性組織球腫、悪性;粘液肉腫;脂肪肉腫;平滑筋肉腫;横紋筋肉腫;胎児型横紋筋肉腫;胞巣型横紋筋肉腫;間質肉腫;混合腫瘍、悪性;ミュラー管混合腫瘍;腎芽腫;肝芽腫;癌肉腫;間葉腫、悪性;ブレンナー腫瘍、悪性;葉状腫瘍、悪性;滑膜肉腫;中皮腫、悪性;未分化胚細胞腫;胎児性癌;奇形腫、悪性;卵巣甲状腺腫、悪性;絨毛癌;中腎腫、悪性;血管肉腫;血管内皮腫、悪性;カポジ肉腫;血管周皮腫、悪性;リンパ管肉腫;骨肉腫;傍骨性骨肉腫;軟骨肉腫;軟骨芽細胞腫、悪性;間葉性軟骨肉腫;骨の巨細胞腫;ユーイング肉腫;歯原性腫瘍、悪性;エナメル上皮歯牙肉腫;エナメル上皮腫、悪性;エナメル上皮線維肉腫;松果体腫、悪性;脊索腫;神経膠腫、悪性;上衣腫;星細胞腫;原形質性星細胞腫;線維性星細胞腫;星状芽細胞腫;膠芽腫;乏突起神経膠腫;乏突起膠芽腫;未分化神経外胚葉性腫瘍;小脳肉腫;神経節芽細胞腫;神経芽腫;網膜芽細胞腫;嗅神経原腫瘍;髄膜腫、悪性;神経線維肉腫;神経鞘腫、悪性;顆粒細胞腫、悪性;悪性リンパ腫;ホジキン病;ホジキン病;または傍肉芽腫であってもよい。別の態様において、がんは、甲状腺癌、脳癌(例えば、神経膠腫)、前立腺癌、乳癌(例えば、トリプルネガティブ乳癌)、膵癌(例えば、膵管腺癌)、急性骨髄性白血病(AML)、黒色腫、腎細胞癌またはリンパ節に転移したがんである。
【0019】
本明細書中で使用される場合、「サンプル」または「液体サンプル」は、実施形態に従って組織または生物学的試料を溶媒と接触させることによって得られる、組織からの抽出物またはその他の生物学的試料(例えば、タンパク質及び代謝産物を含む抽出物)を指す場合がある。いくつかの態様において、サンプルは、物(例えば、法医学的サンプル)の表面など非生物学的試料からの抽出物である場合がある。
【0020】
本明細書中で使用される場合、特定の成分に関して「基本的に~を含まない」は、特定の成分が組成物に意図的に配合されない、及び/または混入物質として、もしくは微量でのみ存在することを意味するよう本明細書中で使用される。したがって、組成物のあらゆる意図されない汚染から生じる特定の成分の総量は、十分に0.01%を下回る。特定の成分の量が標準的な分析方法で検出できない組成物が最も好適である。
【0021】
本明細書中で使用される場合、本明細書及び請求項において、「a」または「an」は1つ以上を意味する場合もある。本明細書中で使用される場合、本明細書及び請求項において、「含むこと(comprising)」という語とともに使用される場合、「a」または「an」という語は1つまたは2つ以上を意味する場合もある。本明細書中で、本明細書及び請求項において使用される場合、「別の(another)」または「さらなる(further)」は、少なくとも2番目以上を意味する場合もある。
【0022】
本明細書中で使用される場合、本明細書及び請求項において、「導管」及び「管」という用語は、同義に使用され、ガスまたは液体の流れを誘導するために使用することができる構造を指す。
【0023】
本明細書中で使用される場合、本明細書及び請求項において、「約」という用語は、値が、値を測定するために利用されるデバイス、方法に関する誤差の固有の変動、または調査対象間に存在する変動を含むことを示すために使用される。
【0024】
本発明の他の目的、特徴及び利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。ただし、本発明の趣旨及び範囲内のさまざまな変更物及び改変物がこの詳細な説明から当業者に明白になるであろうため、詳細な説明及び特定の例は、本発明の特定の実施形態を示すが、説明のために示されたに過ぎないことが理解されるべきである。
【0025】
以下の図は、本明細書の一部を形成し、本発明の特定の態様をさらに示すために含まれる。本発明は、本明細書において提示される特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせて1つ以上のこれらの図を参照することによってさらに良く理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1A-C】図1Aは、MasSpec Penシステム及び動作ステップの略図。ペンサイズの手持ち型デバイスは、PTFE管(または別の極めて疎水性の材料)による研究室で組み立てたマススペクトロメーターインタフェースに直接組み込まれる。インタフェースはピンチバルブ、マイクロコントローラ、及び、システムをマススペクトロメーター入口と接続するための管を収容する。システムは、フットペダルによりユーザーによって自動的に作動させられる。図1Bは、MasSpec Penシステム及び動作ステップの略図。MasSpec Penは、PDMS 3D印刷した先端部ならびに先端部への流入水、ガス、及び水滴のための流出導管を提供する3つのPTFE導管とともに設計される。図1Cは、MasSpec Penシステム及び動作ステップの略図。先端部は、分析のための組織と接触し、これは、3つの導管及び溶媒リザーバーとともに設計される。ペダルを介した使用によってシステムが作動されたとき(t=0秒)、シリンジポンプは制御された体積の水をリザーバーに送達する。個別の水滴は、分子を抽出するために組織と相互作用する。この場合、抽出の3秒後、真空及びガス導管が同時に開放されて、分子分析のために管系を通してMasSpec Penからマススペクトロメーターに液滴が輸送される。
図1D】MasSpec Penシステム及び動作ステップの略図。MasSpec Penデバイスの例となる機能要素の概略図を示す。
図1E】MasSpec Penシステム及び動作ステップの略図。例となるMasSpec Penの先端部の拡大図を示す。
図1F】MasSpec Penシステム及び動作ステップの略図。例となるMasSpec Penの先端部の拡大図を示す。
図1G】MasSpec Penシステム及び動作ステップの略図。実施形態のシステムの代替的な構成を示す。
図1H】MasSpec Penシステム及び動作ステップの略図。実施形態のシステムの代替的な構成を示す。
図1I】MasSpec Penシステム及び動作ステップの略図。実施形態のシステムの代替的な構成を示す。
図1J】MasSpec Penシステム及び動作ステップの略図。実施形態のシステムの代替的な構成を示す。
図1K】MasSpec Penシステム及び動作ステップの略図。実施形態のシステムの代替的な構成を示す。
図1L】MasSpec Penシステム及び動作ステップの略図。実施形態のシステムの代替的な構成を示す。
図1M】MasSpec Penシステム及び動作ステップの略図。実施形態のシステムの代替的な構成を示す。
図1N】MasSpec Penシステム及び動作ステップの略図。実施形態のシステムの代替的な構成を示す。
図1O】MasSpec Penシステム及び動作ステップの略図。実施形態のシステムの代替的な構成を示す。
図1P】MasSpec Penシステム及び動作ステップの略図。実施形態のシステムの代替的な構成を示す。
図1Q】MasSpec Penシステム及び動作ステップの略図。実施形態のシステムの代替的な構成を示す。
【0027】
図2A】Q Exactive Orbitrapマススペクトロメーターを使用したMasSpec Penからのマウス脳組織切片の質量スペクトル。マウス脳切片の質量スペクトル。
図2B】Q Exactive Orbitrapマススペクトロメーターを使用したMasSpec Penからのマウス脳組織切片の質量スペクトル。トータルイオンクロマトグラフィ、挿入スペクトルは、きれいなスライドガラスバックグラウンドからのものである(バックグラウンド及びマウス脳組織の強度スケールは、同じであるよう設定した)。
【0028】
図3A】エタノール:HO(1:20)またはエタノール:HO(1:5)から構成される溶媒を使用して得た生物学的サンプルの質量スペクトルの比較を示す。
図3B】さまざまな比の水及びエタノールの混合物を使用してマウス脳組織切片から得た代表的なネガティブイオンモードMasSpec Pen質量スペクトル。
【0029】
図4A】MasSpec Penを使用して、マウス脳切片から収集した質量スペクトルの比較。
図4B】MasSpec Penを使用して、マウス脳新鮮組織から収集した質量スペクトルの比較。
【0030】
図5A】さまざまながんタイプに関する乳癌組織対正常な組織の質量スペクトルの比較。
図5B】さまざまながんタイプに関する腎癌組織対正常な組織の質量スペクトルの比較。
図5C】さまざまながんタイプに関する癌性リンパ節組織対正常な組織の質量スペクトルの比較。
図5D】さまざまながんタイプに関する卵巣癌組織対正常な組織の質量スペクトルの比較。
図5E】さまざまながんタイプに関する甲状腺癌組織対正常な組織の質量スペクトルの比較。
【0031】
図6A】MasSpec Penから収集した質量スペクトル。
図6B】DESIから収集した質量スペクトル。
図6C】マウス脳組織切片から得たMasSpec Pen及びDESIネガティブイオンモード質量スペクトルの間の比較。
【0032】
図7】ネガティブイオンモード下においてヒト組織で検出したチモシンβ-4のスペクトル。
【0033】
図8A】新鮮な甲状腺の正常試料及び癌試料から得たスペクトルの比較。
図8B】甲状腺の乳頭癌組織切片及び正常な組織切片のMasSpec Pen分析。(上側)正常な甲状腺組織切片、及び(下側)甲状腺乳頭癌組織切片から得た代表的なネガティブイオンモードMasSpec Pen質量スペクトルを示す。最も豊富な分子イオンの同定を示す。挿入図は、組織病理学によって評価したH&E染色組織切片の光学イメージを示す。
【0034】
図9】正常ならびに腫瘍性の甲状腺及び乳房組織切片を含む、ヒト組織切片に関して得たデータのPCA。スコアプロットにおいて観察されるとおり、PC1及びPC3は、乳房組織データセットの全分散の46.1%を説明する一方で、PC1及びPC2は、甲状腺組織データセットの全分散の47.9%を説明する。分析したそれぞれの組織タイプに関するローディングプロットも含まれる。
【0035】
図10A-B】ヒト新鮮組織に関する主成分分析の結果。図Aは、正常な甲状腺及び腫瘍甲状腺の区別。図Bは、正常なリンパ節及び腫瘍リンパ節の区別。
【0036】
図11】MasSpec Penを使用して組織サンプルから得た分子情報は、ヒトのがんの診断に役立つ。乳房、甲状腺、卵巣及び肺癌ならびに正常な組織サンプルを含む、合計253の患者の組織サンプルを分析した。3D PCA(PC1、PC2及びPC3)プロットは、得られたがん質量スペクトルと正常な質量スペクトルの間の分離を示している。
【0037】
図12A-E】サンプル箇所1の位置づけ(図12A)、サンプル箇所2(図12B)、サンプル箇所3(図12C)、サンプル箇所4(図12D)、及びサンプル箇所5(図12E)の位置づけ。
【0038】
図13A】全質量範囲におけるサンプル箇所1~5の質量スペクトル。
図13B】500から1800の質量範囲におけるサンプル箇所1~5の質量スペクトル。
図13C】500から1000の質量範囲におけるサンプル箇所1~5の質量スペクトル。
図13D】785から809の質量範囲におけるサンプル箇所1~5の質量スペクトル。
図13E】870から920の質量範囲におけるサンプル箇所1~5の質量スペクトル。
【0039】
図14A-C】図14Aは、混合組織組成物を用いたHGSC組織サンプルのMasSpec Pen分析。光学イメージは、直径1.5mmのMasSpec Penを使用して、境界を定めた箇所(1~5)において分析した組織サンプルを示す。MasSpec Pen分析後、組織サンプルを凍結し、切断し、H&E染色した。箇所3において得たH&E染色組織切片の光学イメージを示し、これは、がん及び隣接する正常な間質組織を含む混合組織組成物を示す。図14Bは、混合組織組成物を用いたHGSC組織サンプルのMasSpec Pen分析。MasSpec Penネガティブイオンモード質量スペクトルを、箇所1(正常な間質)、箇所3(正常な間質とがんの混ざったもの)、及び箇所5(がん)に関して示す。図14Cは、混合組織組成物を用いたHGSC組織サンプルのMasSpec Pen分析。分析した5つの箇所の病理診断及びこの独立したデータのセットに対するLasso予測結果を示す。
【0040】
図15A】MasSpec Penは、組織サンプルの穏やかな非破壊分子分析を可能にする。光学イメージは、MasSpec Pen分析の前、最中及び後の肺腺癌組織サンプルを示す。組織試料の拡大写真は、MasSpec Penで分析した組織領域に対する巨視的な損傷を示していない。
図15B】MasSpec Penは、組織サンプルの穏やかな非破壊分子分析を可能にする。分析した組織領域に対して得たネガティブイオンモード質量スペクトルが示され、最も豊富な分子イオンの同定を含む。
【0041】
図16A-B】図16Aは、マウス動物モデルの手術中の腫瘍及び正常な組織のインビボ分析。麻酔下のマウスに対して実験を行った。光学イメージは、動物及びインビボにおけるMasSpec Pen分析前、最中、後を示す。図16Bは、マウス動物モデルの手術中の腫瘍及び正常な組織のインビボ分析。代表的なネガティブイオンモード質量スペクトルは、正常及び腫瘍組織からの異なる分子プロフィールを示す。
【0042】
図17】MasSpec Penのさまざまな採取直径を使用して得た代表的なネガティブイオンモードMasSpec Pen質量スペクトル。
【0043】
図18】マウス脳組織からの代表的なポジティブイオンモード質量スペクトル。高い相対的存在量で観察されたイオンは、タンデムマススペクトロメトリーを使用して、質量スペクトルに注釈がつけられているとおり、グリセロホスホコリン及びジアシルグリセリド脂質のカリウム(K+)及びナトリウム(Na+)付加体と同定した。
【0044】
図19】正常及びがん組織の領域を含むHGSC組織サンプルから得た代表的なネガティブイオンモードMasSpec Pen質量スペクトル。
【0045】
図20】インビボ分析、後及びMasSpec Pen分析後に同じ領域から得たH&E染色した組織切片の光学イメージ。
【0046】
図21】マウスモデルの同じ腫瘍サンプルのインビボ及びエクスビボにおいて得たMasSpec Penネガティブイオンモード質量スペクトル間の比較。
【0047】
図22】異なる抽出時間、5s、3s、及び1sを用いてマウス脳組織切片から得た代表的なネガティブイオンモード質量スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0048】
I.本実施形態
特定の態様において、本出願は、組織サンプルなどのサンプルの分子評価のための方法及びデバイスを提供する。特定の態様において、本方法は、組織の手術(またはバイオプシー)の間に複数の組織部位を評価するために使用することができる。この特徴は、「リアルタイム」で患部組織(例えば、がん細胞を保持する組織部位)の正確な特定を可能にさせ、外科医が周辺の正常な組織に対して患部組織のみにさらに正確に対処することを可能にする。特定の態様において、本明細書中で開示されている方法は、固定または個別の体積の溶媒の組織部位への送達に続いて、その部位からの液体サンプルの回収及びマススペクトロメトリーによる液体サンプルの分析を含むことが可能である。重要なことに、溶媒は、高圧スプレーとして適用されるよりむしろ、個別の液滴として低圧で適用される。これらの方法は、評価する組織に対する損傷を回避しながら、異なる組織部位からのサンプルの正確な回収を可能にさせる。回収したサンプルから得られたマススペクトロメトリープロフィールは、正常な組織部位に対して患部組織を識別可能にさせる。本方法は、目的とする複数の部位で繰り返し、(例えば、組織において)分子変化を極めて正確に位置づけることができる。重要なことに、サンプルのプロフィールは、イオン化源を使用しなくても区別することができた。したがって、実施形態の方法は、イオン化源と共に使用することができるであろうが、そのようなイオン化源の使用は必要ではない。これらの技法は、短い時間の範囲にわたり複数の組織部位の評価を可能にすることができ、それにより、患部組織と正常な組織の境界を極めて正確に評価することを可能にさせる。
【0049】
いくつかの態様において、本明細書において詳述される方法は、広い範囲のソースからのサンプルを回収及び分析するために使用することができる。例えば、本方法は、法医学的、農業、乱用薬物、医薬品、及び/または油/石油サンプルを評価するために使用することができる。
【0050】
いくつかの態様において、実施形態のデバイスに使用される材料(PDMS及びPTFE)及び溶媒(例えば、水のみの溶媒)は、リアルタイム分析のために手術で使用することができるよう、生物学的に適合している。さらに、デバイスは極めて小型にできるため、手持ち型にすることもでき、または(例えば、自動システムにおける)ダ・ヴィンチ手術システムなどのロボット手術システムに組み込むこともできる。したがって、ヒトの体腔の多くの領域を、手術中に迅速に採取し、(例えば、分子署名のデータベース及び機械学習アルゴリズムを使用することによって)分析することができる。したがって、それぞれの採取領域に関する診断結果をリアルタイムで提供することができる。これらの方法に使用するための例となるデバイスを下に詳述する。
【0051】
まず図1Dを参照して、マススペクトロメトリー分析のための組織を採取するための装置100を示す。この実施形態において、装置100は、プローブ110、溶媒を含むチャンバー120、加圧ガス供給部130及びマススペクトロメーター140を備える。いくつかの態様において、プローブは、(例えば、手持ち型デバイスの場合にグリップを提供するための)ハウジングに含まれる。別の態様において、ハウジングは、プローブを通る流体及び/またはガス流を制御するために使用することができるスイッチ機能(例えば、トリガー、ボタンまたはペダル)を備えてもよい。いくつかの態様において、プローブは、PDMS及び/またはPTFEを含む材料から構成される。いくつかの態様において、プローブは、3D印刷プロセスによって作製される。
【0052】
図1Eは、プローブ110のより詳細な断面図を示し、第1の導管111、第2の導管112、第3の導管113及びリザーバー115を備えたプローブ110を示す。示した実施形態において、第1の導管111は、チャンバー120と流体連結しており、第2の導管112は、加圧ガス供給部130と流体連結しており、第3の導管113は、マススペクトロメーター140と流体連結している。図1Fは、特定の実施形態に関する寸法を伴うプローブのさらなる断面図を提供する。
【0053】
当然のことながら、特定の実施形態において、(任意の所望の長さが可能な)導管111、112及び113のそれぞれは、別個の構成要素を備えてもよい。例えば、プローブ110内の導管のそれぞれの部分は、プローブ110の製造過程において一体型チャネルとして形成されてもよい。さらに、プローブ110とチャンバー120、加圧ガス供給部130及びマススペクトロメーター140の間の導管のそれぞれの部分は、管または流体の流れをもたらすのに適した他の構成要素であってもよい。
【0054】
この実施形態において、装置100は、溶媒をチャンバー120から第1の導管111及びリザーバー115に移動させるよう構成されたポンプ125を備えてもよい。示した実施形態において、装置100はまた、第3の導管113を通るリザーバー115からマススペクトロメーター140へのサンプル流を制御するよう構成された第1のバルブ121を備えてもよい。装置100はまた、第2の導管112を通るリザーバー115への加圧ガスの流れを制御するよう構成された第2のバルブ122を備えてもよい。
【0055】
制御システム160は、装置100の動作パラメータを制御するよう構成することができる。例えば、制御システム160は、ポンプ125の動作を制御することによって、第1の導管111を通るチャンバー120からリザーバー115への溶媒の流れを制御するよう構成することができる。さらに、制御システム160は、第1のバルブ121の開閉を制御することによって、リザーバー115からマススペクトロメーター140へのサンプル流を制御するよう構成することができる。制御システム160は、第2のバルブ122の開閉を制御することによって、加圧ガス容器130からリザーバー115への加圧ガス流を制御するようさらに構成することができる。
【0056】
装置100の操作の間、ユーザーは、リザーバー115がサンプル部位150に置かれるよう、プローブ110を位置づけることができる。制御システム160は、所望の体積の溶媒を第1の導管111を介してチャンバー120からリザーバー115へ移動させるために、特定の時間、ポンプ125を動作させることが可能である。例となる実施形態において、チャンバー120中の溶媒は、分析のための組織サンプル部位150からの分子の効率的な抽出を支援することができる。
【0057】
さらに、制御システム160は、ポンプ125の動作と第1のバルブ121の開放の間に特定の時間を与えることができる。これは、サンプル材料(例えば、組織サンプル部位150からの分子)を、第3の導管113を介してリザーバー115からマススペクトロメーター140へ引き込むたの、マススペクトロメーター140(または別個の補助的な吸引システム)からの吸引を可能にする。
【0058】
第1のバルブ121が開放されるとき、制御システム160は、第2のバルブ122も開放して、不活性ガス(例えば、NまたはCO)が第2の導管112を介して加圧ガス供給部130からリザーバー115へ移動されるのを可能にする。不活性ガスは、分析に先立つサンプル組織の乾燥を支援し、さらには、(例えば、リザーバー115がサンプル部位150と接触したときに、マススペクトロメーター140によって引かれる吸引の結果として)第1の導管111中の溶媒ギャップを防ぐことができる。不活性ガスは、第3の導管113を通るサンプル部位150からマススペクトロメーター140への溶媒輸送も支援することができる。
【0059】
制御システム160は、装置100の各種構成要素を動作させるのに適したソフトウェア及びハードウェアを含んでもよい。図1の概略図に示される各種構成要素の特定の実施形態は、実施例1の名称の項を含む、下で述べる例において示される。
【0060】
図1Gは、前の図1Dに示される実施形態と類似した装置100の実施形態を示す。ただし、図1Gの実施形態では、装置100は、導管113と流体連結したポンプ141をさらに備える。特定の実施形態において、ポンプ141は、マススペクトロメーターへの導管113を通るサンプル部分の速度を増加させるよう動作可能な外部真空ポンプであってもよい。当然のことながら、前の実施形態に記載されている装置100の構成要素は、この実施形態(及び次に記載されている実施形態)においてと同等の様式で動作する。明確にするために、図のそれぞれにおいてすべての構成要素に参照番号が付けられている訳ではない。さらに、先に記載した実施形態の構成要素と等価の構成要素の動作の態様は、この実施形態または次の実施形態の解説では繰り返さない。
【0061】
図1Hは、先に記載した実施形態と類似しているが、導管113と流体連結したバルブ142、廃棄物容器143及びポンプ144も備えた装置100の別の実施形態を示す。特定の実施形態において、バルブ142は、クリーニングステップ中に溶媒または他のクリーニング溶液を導管113から廃棄物容器143へ分岐するために使用することができる。廃棄物容器143は、ポンプ144の動作により空にすることができる。例となる実施形態において、水、エタノール、任意の比率の水及びエタノールの混合物、ならびにその他の溶媒を使用したクリーニングまたは洗浄ステップは、キャリーオーバーの影響を低減するためにサンプル分析の任意の段階で使用することができる。特定の実施形態において、プローブ110はまた、それぞれの使用の間に交換することもできる。さらに、プローブ110は、自動洗浄ステップの前または後にクリーニングを支援するために、ガス(通気)を使用した洗浄ステップのために溶媒を含むバイアルに挿入されてもよい。滅菌溶液で拭き取ることを含むその他の洗浄方法も使用することができる。例えば、特定の実施形態は、1.プローブの交換、2.50/50のエタノール/水の溶液での洗浄、3.100%エタノールでの洗浄のクリーニング手順を使用してもよい。
【0062】
図1Iは、先に記載した実施形態と類似しているが、導管113に加熱要素145も備えた装置100の別の実施形態を示す。特定の実施形態において、加熱要素145は、導管113のまわりに巻きつけられてもよい加熱線として構成される。他の実施形態において、例えば、セラミックヒーターを含む、異なる加熱要素構成を備えてもよい。導管113は、本明細書に記載されている任意の例となる実施形態において、マススペクトロメーター140への水または溶媒輸送を改善するため、ならびにイオン化を支援するために加熱されてもよい。加熱は、全導管系を通して、または特定の位置で実施されてもよい。
【0063】
図1Jは、先に記載した実施形態の特徴を組み合わせる装置100の実施形態を示す。特に、この図に示される実施形態は、導管113にある加熱要素145及びポンプ141を含む。加熱要素145及びポンプ141の動作の態様については、それぞれ図1I及び1Gの説明において予め述べたため、簡潔にするためにここでは繰り返さない。
【0064】
図1Kは、先に記載した実施形態と類似しているが、マススペクトロメーター140に対する入口の近位にスプレーを形成するためのイオン化デバイス146も備えた装置100の実施形態を示す。特定の実施形態において、イオン化デバイス146は、例えば、エレクトロスプレーイオン化(ESI)デバイス、nano ESIデバイス、または大気圧化学イオン化(APCI)デバイスであってもよい。特定の実施形態において、導管113は、マススペクトロメーター140に直接連結されておらず、ベンチュリデバイス147は、サンプル150の液滴をイオン化デバイス146及びマススペクトロメーター140のインタフェースへ輸送するために使用することができる。マススペクトロメトリープロフィールは、ベンチュリデバイスを含む装置100の実施形態の図1Lに示される。図1Lに示されているとおり、得られたプロフィールは、導管113をマススペクトロメーター140の入口と直接連結する実施形態と類似している。
【0065】
ここで図1Mと参照すると、装置100の実施形態は、示されるとおりの外部ポンプ141(図1Gに予め示され、記載されているとおり)ならびにイオン化デバイス146及びベンチュリデバイス147(図1Kに予め示され、記載されているとおり)を含む。
【0066】
図1Nの実施形態に示されているとおり、装置100の実施形態は、示されているとおりの加熱要素145(図1Iに予め示され、記載されているとおり)ならびにイオン化デバイス146及びベンチュリデバイス147(図1Kに予め示され、記載されているとおり)を含む。
【0067】
図1Oの実施形態に示されているとおり、装置100の実施形態は、示されているとおりの加熱要素145(図1Iに予め示され、記載されているとおり)ならびにイオン化デバイス146及びベンチュリデバイス147(図1Kに予め示され、記載されているとおり)を含む。さらに、この実施形態は、外部ポンプ141(図1Gに予め示され、記載されているとおり)も含む。
【0068】
図1Pの実施形態に示されているとおり、装置100の実施形態は、バルブ142、廃棄物容器143及びポンプ144を含む(図1Hに予め示され、記載されているとおり)。さらに、この実施形態は、示されているとおりのイオン化デバイス146及びベンチュリデバイス147も含む(図1Kに予め示され、記載されているとおり)。
【0069】
図1Qの実施形態に示されているとおり、装置100の実施形態は、バルブ142、廃棄物容器143及びポンプ144を含む(図1Hに予め示され、記載されているとおり)。さらに、この実施形態は、示されているとおりのイオン化デバイス146及びベンチュリデバイス147も含む(図1Kに予め示され、記載されているとおり)。この実施形態は、加熱要素145をさらに含む(図1Iに予め示され、記載されているとおり)。
【0070】
II.アッセイ手法
いくつかの態様において、本開示は、マススペクトロメトリープロフィールの固有のパターンを特定することによって患部組織(例えば、腫瘍組織)の存在を判断する方法または生物学的試料の分子署名を見つける方法を提供する。分析のための生物学的試料は、動物、植物あるいは生体分子または有機体と接触した(生きているもしくは生きていない)任意の材料が可能である。生物学的試料は、インビボ(例えば、手術中)またはエクスビボにおいて採取することができる。
【0071】
実施形態の方法によって得られたプロフィールは、分析対象の生物学的試料または組織部位からの、例えば、タンパク質、代謝産物、または脂質に対応する可能性がある。これらのパターンは、マススペクトロメトリーを使用して特定のイオンの存在を測定することによって決定されてもよい。このデバイスと連結することができるイオン化方法のいくつかの非限定例としては、化学イオン化、レーザーイオン化、大気圧化学イオン化、電子イオン化、高速原子衝撃、エレクトロスプレーイオン化、熱イオン化が挙げられる。さらなるイオン化方法としては、誘導結合プラズマ源、光イオン化、グロー放電、電界脱離、熱スプレー、ケイ素を用いた脱離/イオン化、リアルタイム直接分析、二次イオン質量分析、スパークイオン化、及び熱イオン化が挙げられる。
【0072】
特に、本方法は、アンビエントイオン化源または抽出アンビエントイオン化源などの質量スペクトルデータを得るための方法に適用されるか、またはそれとつながれてもよい。抽出アンビエントイオン化源は、この場合、液体抽出プロセスに動力学的に続くイオン化を伴う方法である。抽出アンビエントイオン化源のいくつかの非限定例としては、空気流支援型脱離エレクトロスプレーイオン化(AFADESI)、リアルタイム直接分析(DART)、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)、電荷交換による脱離イオン化(DICE)、電極支援型脱離エレクトロスプレーイオン化(EADESI)、エレクトロスプレーレーザー脱離イオン化(ELDI)、静電スプレーイオン化(ESTASI)、ジェット脱離エレクトロスプレーイオン化(JeDI)、レーザー支援型脱離エレクトロスプレーイオン化(LADESI)、レーザー脱離エレクトロスプレーイオン化(LDESI)、マトリクス支援型レーザー脱離エレクトロスプレーイオン化(MALDESI)、ナノスプレー脱離エレクトロスプレーイオン化(nano-DESI)、または透過式脱離エレクトロスプレーイオン化(TM-DESI)が挙げられる。
【0073】
多くのマススペクトロメトリー法と同様に、イオン化効率は、溶媒成分、pH、ガス流量、印加される電圧、及びサンプル溶液のイオン化に影響を及ぼすその他の態様などの回収または溶媒条件を変更することによって最適化することができる。特に、本方法は、ヒトの問題と適合した溶媒または溶液の使用を意図する。イオン化溶媒として使用することができる溶媒のいくつかの非限定例としては、水、エタノール、メタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、その酸、または混合物が挙げられる。いくつかの実施形態において、本方法は、アセトニトリル及びジメチルホルムアミドの混合物を意図する。サンプルからの検体の抽出を増大させるためならびにサンプルのイオン化及び揮発性を増加させるためにアセトニトリル及びジメチルホルムアミドの量を変動させることもできる。いくつかの実施形態において、組成物は、約5:1(v/v)のジメチルホルムアミド:アセトニトリルから約1:5(v/v)のジメチルホルムアミド:アセトニトリル、例えば、1:1(v/v)のジメチルホルムアミド:アセトニトリルを含む。しかしながら、好適な実施形態において、実施形態による使用のための溶媒は、滅菌水または緩衝水溶液などの薬学的に許容される溶媒である。
【実施例0074】
III.実施例
本発明の好適な実施形態を示すために以下の実施例が含まれる。次に続く実施例において開示されている技術は、発明の実施において十分に機能するよう、発明者によって発見された技術であるため、その実施のための好適な形態を構成すると考慮することができることが当業者によって認識されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、開示されている特定の実施形態に多くの変更を行うことができ、それでも本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく同様または類似の結果を得られることを理解すべきである。
【0075】
実施例1:Smart MasSpec Pen設計
MasSpec Pen(図1A)を、自動化された生体適合性手持ち型採取プローブとして開発し、これは、個別の水滴を使用して組織サンプルから穏やかで、時間及び体積が制御された分子の抽出を可能にする。システムのいくつかのプロトタイプは、組織損傷を最小限に抑えること、組織検体の抽出を最大にすること、及びマススペクトロメーターへの溶媒移動を最大にすることを目的に設計した。
【0076】
開発したシステムは、3つの主要な部分から成る:1)制御された流量を使用して個別の溶媒体積を送達するようプログラムされたシリンジポンプ;2)制御された溶媒輸送のための二方ピンチバルブに組み込まれた管系;3)生体組織の直接採取のために使用されるプローブ先端部。システムのいくつかの繰り返しは、組織損傷を最小限に抑えること、組織検体の抽出を最大にすること、及びマススペクトロメーターへの溶媒送達を最大にすることを最終目標に調査及び最適化した。図1Aは、生体組織を分析するためのDiagnostic Pen(MasSpec Pen)デバイスを備えた装置の一例の概略図を示す。
【0077】
最適化されたシステムは、3つの主要な構成要素を含む:1)定義された水の体積(4~10μL)を採取プローブに送達するようプログラムされたシリンジポンプ;2)ポンプから組織へ、及び組織からマススペクトロメーターへの制御された溶媒輸送のためのファスト(8ms)二方ピンチバルブに組み込まれた小さな直径(ID 800μm)のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)管の導管;3)生体組織の直接採取のためのペンサイズの手持ち型プローブ。
【0078】
ペンサイズの手持ち型プローブの主要な構成要素は、組織との相互作用中に溶媒が保持される3D印刷したポリジメチルシロキサン(PDMS)先端部(図1B)である。先端部は、3D印刷を使用して製造し、生物学的に適合したポリジメチルシロキサン(PDMS)から作られる。先端部は、3つの主要なポートとともに設計される:流入(溶媒)導管系のためのポート(管111または導管1)、ガス(N2、CO2または空気)送達のための中心ポート(管112または導管2)、及び組織からの水滴中の分子成分をマススペクトロメーターに輸送する流出ポート(管113または導管3)。プローブ先端部で、すべてのポートが小さなリザーバーに合体する。このリザーバーで、1つの液滴が保持され、制御された時間(3s)、組織サンプルにさらされ、効率的な検体抽出を可能にする。リザーバーの直径が、組織にさらされる溶媒の体積ならびにデバイスの空間分解能を決定する。現行の工作機械を使用して、MasSpec Pen先端部を、リザーバーの直径によって決定される1.5mmから5.0mmに及ぶ採取サイズで設計した。2.77mmのリザーバーの直径では、10μLの溶媒体積が、リザーバーに保持され、定義された時間、組織サンプルと接触させられる一方で、1.5mmの直径では4.4μLがリザーバーに保持される。3sの抽出時間後に、MasSpec Penを組織から除去する。導管3を開放し、これがマススペクトロメーターへの液滴の真空抽出を可能にすると同時に、導管2を通る低圧ガス送達(<10psi)からの陽圧がもたらされ、それにシステムをクリーニングするための洗い流すステップが続く。なお、1秒、3秒及び5秒の液滴と組織サンプルとの間の接触時間を評価した(図22)。ユーザーによる操作の容易さを可能にし、十分なトータルイオン強度の質量スペクトルを得たため、3秒の接触時間をすべての実験に選択した。第2の管によって提供されるガスは抽出プロセスに関与しないが、代わりに利用される真空によるシステムの崩壊を防ぐため及び組織からマススペクトロメーターへの溶媒輸送を支援するために使用される。同様に、組織からの生体分子の抽出のための洗い流すステップを使用しない。それは、この期間の間に組織との接触がないためである。マススペクトロメーター真空システムの陰圧がイオン化及び質量分析のためにリザーバーからマススペクトロメーターへ液滴を移動させるよう、導管3を高質量分解能Orbitrapマススペクトロメーターの移動管に直接接続する。さまざまな接続及びイオン化方法を本発明者らのシステムにつなぐことができるであろうが、この設定は、動作ステップを簡素化し、イオン化源の使用を排除する。幾何学的または空間的制約なく操作者がデバイスを自由に手持ち使用できるよう、すべての導管に対して1.5メートルの管の長さを利用した。
【0079】
使用した3つの導管は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から作られ、これも生物学的に適合している。管111は、溶媒をシリンジポンプからプローブ先端部へ送達するために使用される。管112は、ある場合には、不活性ガス(NまたはCO)をプローブ先端部に送達するために使用される。ガスは、3つの主な目的を果たす:1)分析に先立つ組織の乾燥;2)組織試料と接触させることによってリザーバーが閉鎖されたときのマススペクトロメーターの真空による管111中の溶媒ギャップを防ぐ;2)管113を通る組織からマススペクトロメーターへの溶媒輸送を支援する。しかしながら、一部の状況では、ガスの使用は必要でない。イオン化のために液滴をリザーバーからマススペクトロメーター入口に押しやるためにマススペクトロメーター真空システムの陽圧が使用されるよう、管113がマススペクトロメーターの入口に直接接続される。
【0080】
デバイス動作に関与する時間イベントを、Arduinoシステム及び2つの二方ピンチバルブと通信するソフトウェアによって自動化し、正確に制御する。すべてのピンチバルブは、プロセスが開始されるまで閉鎖し、それから、1.300μL/分で、パルスがポンプに送られて、溶媒を2秒間注入し、止めて、MasSpec Penリザーバーを満たす10μLの液滴を形成し;2.管112及び113を閉鎖し、リザーバー中の溶媒が3秒間、組織と相互作用して、分子を抽出することを可能にし;3.管112及び113を制御するピンチバルブを同時に開放し、イオン化及び分子分析のために液滴がマススペクトロメーターに移動するのを可能にする。4.パルスがポンプに送られて、溶媒をさらに12秒間注入し、止めて、すべての抽出された分子をマススペクトロメーターに完全に押しやる。5.管112及び113をさらに20秒間開いたままにして、管113中のすべての溶媒がマススペクトロメトリーに行くのを可能にする。総分析時間は、37秒間である。
【0081】
3つの導管及び高速作動ピンチバルブを使用した先端部設計は、液滴の動きの高精度の制御を可能にし、優れた性能及び堅牢性を示した。サンプル採取から質量スペクトル取得までの全プロセスが10秒以下で完了し、Arduinoマイクロコントローラを使用して完全に自動化され、その結果、それぞれの取得及び分析はフットペダルを使用した一段階のクリックにより個々に作動される。システム自動化は、確実に各溶媒液滴が別々に入口に送達されるようにし、サンプルの最終的な分子プロフィールのために平均されるいくつかの質量スペクトルを得る。さらに、制御された液滴送達は、明らかな性能劣化が全くなくマススペクトロメーターが動作するのを可能にする。それぞれの使用後、MasSpec Penは、残留物が確認される場合、高速で自動化されたクリーニング洗浄により、または使い捨ての先端部を交換することによってきれいにすることができる。
【0082】
実施例2:分子プロフィール及び分析
本明細書に記載されているシステムは、分子分析のために検体含有溶媒をマススペクトロメーターに輸送するために回収導管をマススペクトロメーター入口と直接接続することによって動作する。この設定は、動作詳細を大幅に簡略化し、イオン化源の使用を排除する。プローブが組織と相互作用した後、その溶媒は、その後、マススペクトロメーターに輸送され、付加的なイオン化源を必要とせず直接注入される。それぞれ10μLの溶媒液滴が入口に別々に送達されるようシステムが完全に自動化されるため、マススペクトロメーターはその性能に全く影響なく動作する。脱離エレクトロスプレーイオン化などの他の溶媒抽出アンビエントイオン化技術により観察されるものと類似した豊富な分子情報がこの手法で得られる。イオン化メカニズムは、入口イオン化と類似のものであってもよい。入口イオン化方法に関して、イオン化は、気圧から真空の間の入口の圧力低下領域において生じる。いくつかの溶媒系をデバイスに使用することができる。この実施例において、さまざまな比のエタノール及び水の混合物も調査し、同様の結果を得たが、デバイスの完全な生物学的適合性を確実にするために、唯一の溶媒として水を使用した。実証するために、これらのサンプルを、5:1及び20:1(HO:EtOH)から構成される溶媒による抽出後に分析し、EtOHがPE(40:6)(m/z 790.539)及びPE(38:4)(m/z 766.540)のような、より多くのPE脂質の抽出を助けることになることを発見した(図3の結果を参照)。
【0083】
分子情報を得る際のMasSpec Penの有効性を、薄い組織切片及び組織サンプルの小片を分析することによって試験した。まず、16μmの厚い組織切片を、溶媒として純水を使用してMasSpec Penに関する上記の自動化動作ステップに従って標準的な組織スライドガラス上で分析した。MasSpec Penのさまざまなリザーバーの直径を有するいくつかのプローブ先端部を試験し、マウス脳組織灰白質、白質、またはより大きな採取サイズに関する混合組成物の脂質化学種の特徴を示す質量スペクトルを得た。図2は、マウス脳組織切片の灰白質領域から、2.7mmのペン先端部を使用してネガティブイオンモードで得た代表的な質量スペクトル、及びスライドガラスの領域(サンプルなし)から得た代表的なバックグラウンド質量スペクトルを示す。MasSpec Penのいくつかの直径を試験し、類似の質量スペクトルプロフィールを得、より大きなペン先端部の直径に対して増加したトータルイオンカウントが観察された(図17)。
【0084】
図2Bは、全分析期間の間に得られたトータルイオンクロマトグラムを示す。0.5分の時点において(図2Bの挿入グラフを参照)、純粋なガラスと接触させることによって、バックグラウンド質量スペクトルを得た。質量スペクトルから分かるとおり、この質量スペクトルで、非常にきれいなバックグラウンドシグナルを得た。3.4分の時点において(図2A)、MasSpec Penを、上で述べたのと同じ手順に従ってマウス脳組織切片に適用した。注目すべきことに、豊富な分子プロフィールが観察された。生体組織のアンビエントイオン化マススペクトロメトリーを使用して一般に検出される脂質シグナルが、ネガティブイオンモード質量スペクトルに高い相対強度で観察され、脂肪酸(FA)、セラミド(Cer)、グリセロホスホイノシトール(PI)、グリセロホスホエタノールアミン(PE)、グリセロホスホセリン(PS)及びステロール脂質(ST)を含んでいた。一次及び二次内因性代謝産物も質量スペクトルにおいて観察された。ポジティブイオンモードでは、ジラディルグリセロール(DG)、グリセロホスホコリン(PC)及びスフィンゴリン脂質(SM)も検出された。スペクトル中の脂質の大半を同定するために、高分解粉体質量分析器(分解能を140,000とセットした)を利用した。
【0085】
マウス脳組織切片の灰白質領域から得たネガティブイオンモード質量スペクトルは、溶媒ベースのアンビエントイオン化MS技術を使用して生体組織から一般に検出される脂質化学種の脱プロトン化されたものまたは塩素付加体と対応するさまざまなイオンを含む、豊富な分子情報を示した。高い相対的存在量のピークを、m/z 120~350の脂肪酸(FA)、m/z 700~1100のスルファチドなどのスフィンゴ脂質及びm/z 500~700のセラミド(Cer)の塩素付加体、ならびにm/z 700~1100のグリセロホスホイノシトール(PI)、グリセロホスホエタノールアミン(PE)、グリセロホスホセリン(PS)及び二価カルジオリピン(CL)などのグリセロリン脂質(GL)と同定した。m/z 1100~1800のより高い質量範囲では、GL二量体及び一価CLが観察された。m/z 145.061のグルタミン、m/z 146.045のグルタメート、m/z 174.041のN-アセチルアスパラギン酸及びm/z 215.033のヘキソースの塩素付加体を含む、小さな代謝産物と仮に同定したさまざまなピークが、高い質量精度測定及びタンデムマススペクトロメトリーデータ(表1)に基づいてm/z 120~250のより低い質量範囲において検出された。重要なことに、同じマウス脳の異なる組織切片の灰白質から得たネガティブイオンモード質量スペクトル(RSD=9.3%、n=9)は、DESI-MSIに関して同じ方法を使用して報告されたもの(RSD=8.0%、n=5)に匹敵する再現性があった。ポジティブイオンモードでは、得られた質量スペクトルは、ジアシルグリセロール(DG)、PE、及びグリセロホスホコリン(PC)と同定された高い相対的存在量の一般に観察される分子種を示した(図18)。構造解釈のためにフラグメントイオンの十分な強度が達成された場合に、高い質量精度測定、ならびにタンデムMS分析を使用して仮の割り当てを行った。タンデムMS実験によって得た質量誤差及びフラグメントイオンのm/zを、原稿全体をとおして同定されたすべての化学種に関して表1、2、3、4及び5に記載する。なお、複合脂質のFA鎖における二重結合の異性が厳密な構造割り当てを複雑にし、これが、FA鎖が脂質化学種に仮に割り当てられる理由である(Dill et al.,Analytical and Bioanalytical Chemistry,12,2011)。
【0086】
MasSpec Penスペクトルを、同様のMSパラメータ下であるが、生体組織から脂質の抽出に関する高い効率のため、一般的に適用されるアセトニトリル及びジメチルホルムアミド溶媒系を使用して得たDESIスペクトルと比較した。興味深いことに、ネガティブイオンモードでは、抽出溶媒として水を使用したMasSpec Penからのスペクトルは、m/z 500からm/z 1800の大量の分子種をACN及びDMFを使用したDESIからのスペクトルと共有し、PE(40:6)(m/z 790.539)及びPE(38:4)(m/z 766.539)などのやや高い比率のPE脂質を伴う。図6A~Bは、PI(38:4)(m/z 885.550)及びPS(38:6)(m/z 834.529)がMasSpec Pen及びDESIからの両スペクトルにおける主ピークであったことを示す。さらに、スペクトルにおいて、さらに高いm/zのイオンの群がm/z 1500からm/z 1600の質量範囲に示され、これを、一価カルジオリピン(CL)及び/またはグリセロリン脂質二量体であると仮に割り当てた。
【0087】
さらなる分析は、ネガティブイオンモードで検出された分子種を、溶媒として水及び同様の実験条件を使用して同じマウス脳の連続した組織切片から得たDESI質量スペクトルにおいて観察された分子種と比較した。MasSpec Pen及びDESIを使用して得た質量スペクトルは、0.9の算出コサイン類似度で類似しており、多数の分子種を類似の相対的存在量及び信号対雑(S/N)比で共有していた(図6C)。さまざまな比率の水とエタノールの混合物を含む、他の溶媒系も、MasSpec Pen用の溶媒系として調査した。得られた質量スペクトルは、相対的存在量が異なるが純水を使用して得た質量スペクトルにおいて観察されたものと類似の脂質化学種を示した(図3B)。したがって、デバイスの完全な生体適合性を確保するために、行った以下のすべてのMasSpec Pen実験に対して溶媒として水を選択した。
【0088】
システムの性能を評価するために、同じ組織切片及び異なる組織切片に対して連続分析を行い、システムが、サンプル内及び異なるサンプル間で極めて再現性があることを証明した。
【0089】
ヒトがん及び正常な組織切片の分子分析。アンビエントイオン化マススペクトロメトリーは、ヒトのがん組織の分子診断に関して広く調査されてきた。正常及び腫瘍サンプルを区別するための本明細書に記載されているMasSpec Penシステムの能力を試験するために、乳房、腎臓、リンパ節、甲状腺及び卵巣を含む、5つの異なる組織タイプの62のヒト組織サンプルを分析した。各組織タイプに関して溶媒系として水を使用してネガティブイオンモードで得た質量スペクトルは、高い相対的存在量の代謝産物及び脂質とともにDESI-MSによって一般的に観察される分子イオンを示した。ヒト試料の種間及び種内分析におけるMasSpec Penの性能を統計学的に評価するために、主成分分析(PCA)を利用した。すべてで全分散の85%超を含む最初の3つの成分を本研究に使用することに留意すべきである。図9A~Bから分かるとおり、正常な甲状腺及び腎臓組織は、腫瘍組織と十分に区別された。驚くべきことに、ネガティブイオンモード下におけるヒト組織切片の分析の間、一連の多価化学種が検出され、高い質量精度測定及びタンデムマススペクトロメトリー分析によってチモシンβ-4と同定された(図7)。各試料の代表的なスペクトルを図5に示す。注目すべきことに、ヒトの正常な甲状腺及びがん組織から得た分子プロフィールは、疾患状態の診断に役立つ異なる分子パターンを示している。分析したすべての他のがん組織に関しても同様の結果を得た。
【0090】
MasSpec Penの能力を試験して、正常及び腫瘍ヒト乳房(n=5正常な乳房、n=5乳管癌)ならびに甲状腺(n=5正常な甲状腺、n=4甲状腺乳頭癌、及びn=1濾胞性甲状腺腺腫)組織の20の薄い組織切片を分析した。ネガティブイオンモードで得た各組織タイプに関する質量スペクトルは、DESI-MSIによってヒト組織から一般的に観察される豊富な種類の分子イオンを高い相対的存在量の代謝産物、脂肪酸、及び複合脂質とともに示した。例えば、甲状腺乳頭癌組織切片に関して得た質量スペクトルは、さまざまな二価CL、ならびにPI(38:4)(m/z 885.550)、PI(36:4)(m/z 857.518)、PE(38:4)(m/z 766.539)、及びPE(36:2)(m/z 742.539)などのその他のグリセロリン脂質を含むDESI-MSIによって診断マーカーと以前に同定された脂質化学種(Zhang et al.,Cancer Research,76,2016)を示した(表2)。正常な甲状腺組織切片に関して異なる質量スペクトルプロフィールを得、これは、高い相対的存在量のヨウ素と同定されたm/z 126.904、グルタミンと同定されたm/z 145.050、アスコルビン酸と同定されたm/z 175.024、C36H78O9N3Iと仮に割り当てられたm/z 822.472、及びPI(38:4)と同定されたm/z 885.551を示した(図8B)。興味深いことに、m/z 991.091(z=-5)、m/z 1239.113(z=-4)、及びm/z 1652.484(z=-3)を含む異なる電荷状態(z)の一連の多価分子イオンが分析したすべての組織切片から得た質量スペクトルで検出された。これらのイオンを、高い質量精度測定に基づいて異なる電荷状態のタンパク質チモシンβ-4と仮に同定した(図7及び表1)。特に、分析したヒト組織切片から得たデータに対して行った主成分分析(PCA)は、腫瘍組織と正常な組織の間の分離を示した(図9)。
【0091】
新鮮組織サンプルの分子分析。MasSpec Penデバイスを形態に関係なく新鮮組織サンプルに対して動作するよう設計した。新鮮組織分析に関してデバイスを試験するために、新鮮マウス脳組織を最初に使用した。マウス脳組織切片または新鮮脳組織から得たスペクトルに有意な差は確認されなかった。図4A~4Bは、マウス脳新鮮組織及び組織切片のほぼ同一のマススペクトロメトリーパターンを示しており、これは、MasSpec Penからの抽出プロセスが異なるサンプル調製ステップに対して同様に働くことを示す。その後、甲状腺及びリンパ節の2つのタイプの新鮮ヒト試料をさらに分析した。正常及び癌性甲状腺新鮮組織サンプルのスペクトルを図8に示した。
【0092】
組織バンクから入手したすべての凍結試料は、冷凍庫で-80℃未満に適切に保存し、使用前に室温で解凍したことに留意すべきである。新鮮ヒト試料から収集したデータもPCAによって処理した。記録されたスペクトルのPCAは、正常サンプルと腫瘍サンプルの間に明らかな相違を示している(図10A~10B)。したがって、新鮮な正常サンプル及び患部サンプルを区別するためにMasSpec Penが利用できるであろうことを確定している。サンプル採取プロセスによる組織への損傷が観察されなかったことに留意すべきである。
【0093】
表1:選択されたネガティブイオンモード分子イオンの同定に関してマウス脳組織から得たデータ。
【表1】
【0094】
表2.選択されたネガティブイオンモード分子イオンの同定に関してヒト甲状腺組織から得たデータ。
【表2】
【0095】
表3.選択されたネガティブイオンモード分子イオンの同定に関してヒト卵巣組織から得たデータ。
【表3】
【0096】
表4.選択されたネガティブイオンモード分子イオンの同定に関してヒト肺組織から得たデータ。
【表4】
【0097】
表5.選択されたネガティブイオンモード分子イオンの同定に関してヒト乳房組織から得たデータ。
【表5】
【0098】
表6.この試験に使用した253のヒト組織サンプルの患者基本情報。
【表6】
【0099】
材料及び方法。
マススペクトロメーター。Q Exactive Hybrid Quadrupole-Orbitrapマススペクトロメーター(Thermo Scientific、サンホゼ、CA)を使用した。m/z 120~1800の範囲でフルスキャンを行い、その他のマススペクトロメトリーパラメータを以下に挙げた:分解能 140000、マイクロスキャン 2、最大注入時間 300ms、キャピラリー温度 350℃及びS-レンズ RFレベル 100。
【0100】
生体組織。野生型マウス脳をBioreclamation IVTから購入した。乳房、甲状腺、リンパ節、卵巣、及び腎臓を含む、62の凍結ヒト組織試料を、Cooperative Human Tissue Network及びBaylor College Tissue Bankから入手した。サンプルを、-80℃の冷凍庫で保存した。CryoStar(商標)NX50クライオスタットを使用して組織スライドを16μmで切断した。凍結組織試料を使用前に室温下で解凍した。
【0101】
統計分析。データのパターンを明らかにするためにIBM SPSS Statistics 22.0(IBM Corporation、アーモンク、NY、米国)を使用して主成分分析(PCA)を行った。未処理データを直接使用して分析を行った。700~900のm/z範囲の上位の相対強度の10個のピークをPCAのために使用した。一般に、3つの成分すべてで全分散の85%超を含む最初の3つの成分を本結果に使用している。
【0102】
実施例3:手持ち及び腹腔鏡使用のためのシステム自動化
MasSpec Pen設計に使用したすべての材料(PDMS及びPTFE)ならびに溶媒(水のみ)は生物学的に適合しているため、このシステムは、リアルタイム分析のために手持ち様式で手術に使用される高い潜在能力を有する。その他に、デバイスの寸法が小さいため、それを、アクセサリーポートまたはそのロボットアームの1つによりダ・ヴィンチ手術システムなどのロボット手術システムに組み込むことさえできる。ヒトの体腔のいくつかの領域は、手術中に迅速に採取され、分子署名のデータベース及び機械学習アルゴリズムを使用することによって分析することができる。したがって、それぞれの採取領域に対する診断結果がリアルタイムで得られる。このシステムは、組織のリアルタイムキャラクタリゼーション及び診断が必要とされる多種多様な腫瘍学的及びその他の外科的処置(子宮内膜症など)に広く使用することができる。
【0103】
実施例4:組織サンプルの予測分析
MasSpec Pen設計を、正常な組織サンプルとともに乳癌、肺癌、卵巣癌、または甲状腺癌を有する患者からの組織サンプルを分析するために使用した。これらのサンプルを分析する前に、サンプルを質量対電荷比(m/z)が0.01に最も近くなるように丸め、トータルイオンクロマトグラム(TIC)を正規化することによって処理した。すべてのバックグラウンドm/zピーク及び患者サンプルのうちの10%未満に現れたピークも除去した。全質量範囲を分析に使用した。訓練された分類器は、lassoロジスティック回帰モデルとした。がんの存在が分析された組織サンプルに関して、すべての分類器に関する全般的な性能結果を表7に示す。全般的な結果は、96.3%の精度、96.4%の感度、及び96.2%の特異度を有する。
表7:すべての正常対すべてのがんの実際の判定に対する組織サンプル予測
【表7】
【0104】
肺癌の存在が分析された組織サンプルに関して、表8は、組織サンプルの識別に使用した質量対電荷値(m/z)をその特定の値に対する関連係数とともに示す。
表8:正常な肺対肺癌に関する肺癌の質量対電荷値(m/z)及び係数
【表8】
【0105】
表9は、分析率ならびに各サンプルの分類を、行に実際の(組織学的)判定及び列に予測値とともに示す。がん組織サンプルの、サンプルは、96.8%の精度、97.9%の感度、95.7%の特異度及び0.97のAUCで特定された。
表9:肺癌に関する実際の判定に対する組織サンプル予測
【表9】
【0106】
表10及び表11に示したとおり正常な肺対腺癌サンプルに対して同様の分析を行った。サンプルは、92.2%の精度、88.2%の感度、93.6%の特異度、及び0.98のAUCで特定された。
表10:正常な肺対腺癌に関する肺癌の質量対電荷値(m/z)及び係数
【表10】
表11:肺扁平上皮癌に関する実際の判定に対する組織サンプル予測
【表11】
【0107】
表12及び表13に示したとおり正常な肺対扁平上皮サンプルに対して同様の分析を行った。サンプルは、93.8%の精度、88.2%の感度、95.7%の特異度、及び0.93のAUCで特定された。
表12:正常な肺対肺扁平上皮癌に関する肺癌の質量対電荷値(m/z)及び係数
【表12】
表13:肺癌に関する実際の判定に対する組織サンプル予測
【表13】
【0108】
上記の肺癌に対して行った分析と同様に、卵巣癌、甲状腺癌、及び乳癌を用いて同様の分析を行い、サンプルの各セットに関するそれぞれのm/zピーク及び係数を示す。卵巣癌サンプルは、94.7%の精度、100%の感度、89.7%の特異度、及び0.98のAUCで検出された。甲状腺癌サンプルは、94.7%の精度、90.9%の感度、96.3%の特異度、及び0.93のAUCで検出された。最後に、乳癌サンプルは、95.6%の精度、87.5%の感度、100%の特異度、及び1.00のAUCで検出された。
表14:卵巣癌の質量対電荷値(m/z)及び係数
【表14】
表15:卵巣癌に関する実際の判定に対する組織サンプル予測
【表15】
表16:正常な甲状腺対良性腫瘍に関する甲状腺癌の質量対電荷値(m/z)及び係数
【表16】
表17:正常な甲状腺対良性腫瘍に関する実際の判定に対する組織サンプル予測
【表17】
表18:正常な甲状腺対悪性腫瘍に関する甲状腺癌の質量対電荷値(m/z)及び係数
【表18】
表19:正常な甲状腺対良性腫瘍に関する実際の判定に対する組織サンプル予測
【表19】
表20:正常な乳房対乳癌に関する甲状腺癌の質量対電荷値(m/z)及び係数
【表20】
表21:正常な乳房対乳癌に関する実際の判定に対する組織サンプル予測
【表21】
【0109】
実施例5:MasSpec Penシステムの空間分解能
MasSpec Penシステムの空間分解能を試験し、特定の箇所を使用してさらに高い空間分解能を判定できるであろうことを確認した。試験は、マウス脳の白質対灰白質を使用して行った。図11A~11Eに示されているのは、特定のサイズの箇所を用いて試験した脳の部分を示している。特に、サンプル箇所1は、その箇所が主に灰白質から構成されたことを示している。
【0110】
実施例6:組織サンプルの非破壊分子分析
MasSpec Penは、組織の硬さ及び形態に関係なく直接組織試料に動作するよう設計した。MasSpec Penの性能を試験して、マウス脳ならびにヒト乳房、甲状腺、肺及び卵巣組織を含むさまざまな臓器からの柔らかい組織サンプル(0.1~5g)を分析した。周囲条件において、前に記載した同じ自動化動作ステップに従い単純な一段階実験により組織分析を行った。MasSpec Pen先端部を、抽出が行われる間の3sの期間、組織サンプルの表面と穏やかに接触させた。マウス脳の灰白質の領域に対して得られた質量スペクトルは、再現性があり(RSD=4.6%、n=10)、マウス脳組織切片の質量スペクトルと極めて類似しており(0.93のコサイン類似度)(図4)、それにより組織表面における抽出プロセスが組織形状及び硬さとは関係なく効率的に行われることが示された。同様に、とりわけ、上皮及びがん細胞から構成される組織のヒト組織サンプルのMasSpec Pen分析は、豊富な分子情報をもたらした。間質などの柔らかい結合組織から主に構成された非がん組織試料は、あまり豊富でない質量スペクトルプロフィールをもたらした。特に、分析した正常な乳癌組織サンプルの多くは脂肪含有を示し、これは、水と混和しないため、乳癌組織または正常な乳癌腺と比較した場合に質量スペクトルにあまり豊富ではないトータルイオンカウントをもたらした。
【0111】
MasSpec Pen分析後のすべての組織サンプルの視覚的及び微視的検査から、調べた領域の組織サンプルの形態に検知可能な損傷は示されなかった。図15は、MasSpec Pen分析の前、最中、後の肺組織サンプルから得た光学イメージを示す。分析した領域において組織に確認できる損傷は見られなかったが、豊富な質量スペクトルプロフィールを得た(図15)。なお、組織は小さな水滴にさらされるだけで、リザーバーからマススペクトロメーターに液滴を輸送するために真空が使用されないため、MasSpec Penの自動化され、時間制御された動作ステップは組織損傷を防ぐ。したがって、これらの結果は、MasSpec Penが組織サンプルから豊富な分子情報を得るための非破壊アプローチであるという証拠を提供する。
【0112】
実施例7:ヒト組織におけるがんの分子診断及び統計的予測
MasSpec Penを使用してヒト組織サンプルから得た分子情報が診断に役立ち、疾患状態の予測に役立つかどうかを次に評価した。95の肺サンプル(47の正常なサンプルならびに17の腺癌、17の扁平上皮癌、及び14のその他の組織学的サブタイプのがんサンプルを含む48のがんサンプル)、57の卵巣サンプル(29の正常及び28のHGSC)、57の甲状腺サンプル(27の正常、11の濾胞性甲状腺腺腫及び18の甲状腺乳頭癌)、及び45の乳房サンプル(29の正常及び16の乳管癌)を含む、MasSpec Penを使用した合計253のヒト組織試料(図11)。患者人口統計学情報を表6に示す。MasSpec Pen分析後、分析した領域の境界を定め、一連の光学イメージにより示した。その後、サンプルの平行する小片を、凍結し、境界を定めた領域で切断し、H&E染色し、組織病理学によって評価して、診断を導き出した。主たる細胞組成物を含むサンプルのみ及び明白な診断を使用して、分子データベースを構築した。がんサンプルに対して得られた組織学的に実証された質量スペクトルは、アンビエントイオン化MS技術を使用して潜在的な疾患マーカーとして以前に示されたいくつかの脂質及び代謝産物と同定された分子種を示した。肺癌組織に関して、PI(36:1)と同定されたm/z 863.565、PG(36:2)と同定されたm/z 773.542、PG(34:1)と同定されたm/z 747.514などの特徴的な分子マーカー及びFA(18:1)と同定されたm/z 281.249などの脂肪酸が観察された(図15及び表4)。正常な肺に関して、PI(38:4)と同定されたm/z 885.550、及びPE(36:1)と同定されたm/z 744.552が観察された。乳癌組織に対して得られた質量スペクトルは、DESI-MSI(29、30)によって前に示されたPI(38:4)と同定されたm/z 885.550、PI(36:1)と同定されたm/z 863.565、PG(36:2)と同定されたm/z 773.542、ならびにFA(20:4)と同定されたm/z 303.233、及びFA(18:1)と同定されたm/z 281.249などのいくつかのFAを含む診断用脂質マーカーを示した(表5)。分析した253のすべてのヒト組織サンプルに対して得られたデータに対して行ったPCAは、各臓器に関してがんと正常な組織の間の分離を示した(図11)。
【0113】
MasSpec Pen分子署名ががん及び正常な組織の予測に役立つかどうかを評価するために、組織学的に実証された質量スペクトルデータベースを使用して分類モデルを構築するためにLasso法を適用した。モデルの性能を、リーブ・ワン・ペイシェント・アウト・クロス・バリデーションアプローチにより評価し、がんに対する感度及び特異度、ならびに精度及びAUCによって判定した(表22)。乳癌(n=45)に関して、87.5%の感度、100%の特異度(AUC=1.0)、95.6%の全体的な精度が達成され、これは、DESI-MSI(98.2%の精度、n=126)(Guenther et al.,Cancer Research,75,2015))、iKnife(95.5%の精度、n=10)(Balog et al.,Science Translational Medicine,5,2013)、及び脂質及びタンパク質のMALDIイメージング(94.1%の精度、n=68)(31)を使用して報告された結果と類似している。HGSC(n=57)に関して、100%の感度、89.7%の特異度、及び94.7%の精度が達成され(AUC=0.98)、これもDESI-MSI(97.1%の精度、n=31)(Sans et al.,Cancer Research,2017)によって得られた分類結果と類似している。肺癌(n=956)に関して、98.097.9%の感度、95.7%の特異度、及び96.89%の精度が達成された(AUC=0.97)。肺癌組織学的サブタイプに基づいて予測する場合、それぞれ扁平上皮癌及び腺癌に対して93.8%及び92.2%の精度が達成された。調査した甲状腺腫瘍サンプルは、良性濾胞性甲状腺腺腫(FTA)及び悪性甲状腺乳頭癌(PTC)サンプルを含んでいた。それぞれに対する分類器を構築し、FTAに対して94.7%の精度及びPTCに対して97.8%の精度を得た。全体的に、調査した4つのタイプのがんすべてに対して96.4%の感度、96.2%の特異度及び96.3%の精度が達成された。これらの結果は、MasSpec Penによってヒト組織サンプルから得た分子情報が高度にがんの予測に役立つことを示している。さらに、この結果は、MasSpec Penを使用して得た分子データに対して構築された統計的分類器が確固としたものであり、組織サンプルの迅速な臨床診断のための自動化アプローチに使用できることを示している。
【0114】
表22:MasSpec Penを使用して得たサンプル及び結果の説明。病理診断、患者サンプルの数、ならびにリーブ・ワン・アウト・クロス・バリデーションアプローチを使用して得たLasso予測の感度、特異度、精度、及び曲線下面積を示す。
【表22】
【0115】
実施例8:組織学的に異なる癌周辺組織領域のサンプル内分析
組織学的に異なる領域を特定するためのMasSpec Penの能力を、正常な卵巣間質組織に隣接するHGSCの領域を含む1つのヒト組織サンプルで評価した。図14Aに示した光学イメージにおいて境界を定めたとおりの組織サンプルの5つの連続する箇所を、直径が1.5mmのMasSpec Penを使用して分析した。MasSpec Penによって分析した領域を含むサンプルの組織切片を、H&E染色に供し、組織病理学で評価した。箇所1及び2は、専門家の病理医が正常な間質と診断したが、領域4及び5は、HGSCと診断した。箇所3は、がん領域と正常な間質組織領域の間の境界部にあり、約50%腫瘍組織及び約50%正常な間質組織を示した。図14Bは、箇所1、3及び5に対して得られた質量スペクトルを示す。箇所5、HGSCに対して得られたスペクトルは、統計的分類器を構築するためにエクスビボで分析したHGSC組織において検出された特徴的な脂質マーカーを示す(表3)。正常な卵巣間質組織と診断された箇所1に対して得られた質量スペクトルは、エクスビボで分析した間質組織に対しても観察された分子イオンをあまり豊富でない量で示した。箇所3は、分析した領域内に存在する正常な間質組織の寄与により、低い総存在量でHGSCの分子プロフィールの特徴を示した。5つの箇所に対して得られた質量スペクトルは、その後、独立した検証セットとして本発明者らの卵巣癌分子分類器によって評価した。注目すべきことに、これは、予測した箇所1及び2を正常と、3、4及び5をがんと適切に分類した(図14C)。組織学的に異なる領域を含む異なる組織サンプルに対して同様の結果を得た(図19)。これらの結果は、MasSpec Penによって得た分子情報が正常細胞とがん細胞の混合組成物を用いて境界領域でがんを検出するために使用できることを示している。
【0116】
実施例9:手術中のヒト乳癌のマウスモデルのインビボ分析
インビボ分子診断ツールとして完全な適合性を確保するために生体適合性材料を用いてMasSpec Penを設計した。MasSpec Penを、ヒト乳癌のマウスモデルを使用したインビボ組織分析に関して試験した。BT474 HER2+乳癌細胞を、胸腺欠損ヌードマウスの皮下に移植した(n=3)。250mmの平均になるまで4週間にわたって腫瘍を増殖させた。すべての手術及びMasSpec Pen分析手技は、麻酔下で行った。手術用刃を使用して、腫瘍周辺の皮膚の組織弁を切開した後、皮膚組織弁を腫瘍の表面から注意深く切り分けた。露出した腫瘍を、その後、前に記載した同じ自動化実験ステップに従ってMasSpec Penを使用して分析した。図16Aは、手術の開始前、分析前(及び皮膚の外科的除去後)、MasSpec Pen分析中、ならびに分析後の麻酔下の動物の光学イメージを示す。腫瘍の上部、部分的な腫瘍摘出後の腫瘍の中心、ならびに隣接する正常な柔らかい結合組織の複数の位置を含むいくつかの組織領域を、調査した各動物に対して分析した。腫瘍領域に対して得られた質量スペクトルは、ヒト乳房組織において観察される多くの分子種を、隣接する正常な柔らかい結合組織領域に対して得られたものとは明らかに異なるプロフィールで示す(図16B)。H&E染色した組織切片の得られた光学イメージによって示されるとおり、分析した組織領域に対するMasSpec Pen分析による観察可能な巨視的または微視的損傷は光学顕微鏡法を使用して検出されなかった(図20)。さらに、手術中のMasSpec Pen分析による動物の健康への明白な影響は観察されなかった。インビボ分析後、新たに切除した腫瘍試料もエクスビボで分析し、同じ組織領域の再分析プロセスのためである可能性が高い、相対的存在量の変動にもかかわらずインビボ分析において観察されたものと共通の脂質化学種を含む質量スペクトルを得た(図21)。これらの結果は、MasSpec Penがインビボ分子評価及びがん診断に適していることを示唆している。
【0117】
実施例10:材料及び方法
試験デザイン:この試験の目的は、ヒト組織サンプルにおいてがんを非破壊分析し、診断するための新規のマススペクトロメトリーベースのプローブの可能性を評価することである。この試験では、正常ならびにがんの乳房、肺、甲状腺、及び卵巣組織を含む282人の患者から得たヒト組織サンプルの分子プロフィールを調査した。すべての患者サンプルは、承認された施設内審査委員会(IRB)プロトコルの下でCooperative Human Tissue Network(CHTN)、Asterand Biosciences(デトロイト、MI)、MD Anderson Tissue Bank、及びBaylor College of Medicine Tissue Bankから入手した。組織サンプルにMasSpec Penを使用して得た質量スペクトルを、正規化し、バックグラウンド除去し、分類モデルを構築するための統計的技術を使用して分析した。専門委員会による正式認可病理医(J.L、W.Y、及びN.C)が、分析した組織サンプルから得たH&E染色した組織切片を評価した。マススペクトロメトリー分析からの取得物についてのあらゆる情報は病理医には見えないようにした。サンプルは、細胞組成物中に実質的な不均一性があると病理医によって判断された場合、統計分析から除外し、それには28のサンプルが含まれた。承認されたInstitutional Animal Care and Use Committee(IACUC)プロトコルの下でインビボ動物モデル実験を行った。
【0118】
MasSpec Penの設計及びエンジニアリング:3D印刷機(Model uPrint SE plus)を使用して、重要な構成要素--PDMS(Dow Corning、ミッドランド、MI、米国)プローブ先端部を印刷した。ペン先端部を、陰性モデルによりエラストマーを注入成形した後、モデルを溶解除去することによって作製した。陰性モデルを、SolidWorks計算機援用設計(CAD)ソフトウェアを使用して設計した後、ABSプラスチック(Stratasys、イーデンプレーリー、MN、米国)及び可溶性サポート材を使用して3D印刷機によりかたどった堆積物を融合した。その後、サポート材を除去するために、サポート材が完全に溶解するまでサポート除去装置(SCA-1200HT、SCA)及び溶媒(EcoWorks)を使用して70℃で24時間、部品を洗浄した。注入成形のために、PDMSエラストマーベース及び硬化剤の混合物(Sylgard 184、Dow Corning)をそれぞれ10:1の重量比で調製した。その混合物を、3D印刷モデルに注ぎ、オーブン(10GCE-LT、Quincy Lab)において74℃で1時間硬化させた後、アセトン(Fisher Scientific、ウォルサム、MA、米国)とともに密閉容器に入れて、溶解させた。最終洗浄ステップは、あらゆる残りのABSを除去するために、先端部をアセトン中で超音波処理しておいた。PTFE管(ID 1/32インチ、OD 1/16インチ、Cole-Parmer、ヴァーノン・ヒルズ、IL、米国)を、実験のためにプローブ先端部に直接挿入した。
【0119】
データ取得:すべての実験を、Q Exactive Hybrid Quadrupole-Orbitrapマススペクトロメーター(Thermo Fisher Scientific、サンホゼ、CA)により行った。分解能140,000、350℃のキャピラリー温度及び100のS-レンズ RFレベルを使用してm/z 120~1800の範囲でフルスキャンを行った。野生型マウス脳をBioreclamationIVT(ウェストベリー、NY)から購入した。凍結した乳房、甲状腺、卵巣、及び肺を含む合計282のヒト組織試料を入手し、サンプルが室温で解凍される分析まで-80℃の冷凍庫で保存した。その組織を表面に置き、示した実験ステップを使用したMasSpec Penによって分析した。実験後に、分析した組織領域に注釈を付け、凍結し、16μmの組織切片をCryoStar(商標)NX50クライオスタットを使用して作製した。組織小片のさまざまな領域のさらなる組織切片をMS分析のために得た。切片が室温に置かれ、MasSpec Penによって分析される分析まで、組織切片を凍結状態に維持した。その後、組織切片をH&E染色し、組織病理学によって評価した。分子データベースのための基準として病理診断を使用した。
【0120】
インビボ実験:インビボ実験を、マウスが麻酔(2%イソフルラン、98%O2)下にある間のマウス動物モデルを使用した腫瘍の外科的摘出中に行った。BT474 HER2+細胞を、10%FBS、1% L-グルタミン、及び1%インスリンを加えた改変最小必須培地(IMEM、Invitrogen、カールズバッド、CA)中、5%O及び37℃で80~90%の集密度まで増殖させた。血球計数器及びトリパンブルー色素排除により細胞を計数した。雌の胸腺欠損ヌードマウス(N=3)の襟首の皮下に0.72mgの60日放出17β-エストラジオールペレット(Innovative Research of America、サラソタ、FL)を埋め込んだ。およそ24時間後に、20%成長因子低減マトリゲルを含む無血清IMEM培地中のBT474乳癌細胞(10)を、マウスの右脇腹の皮下に注射した(100μLの全注射)。腫瘍を、直径0.7~1.0cm(250mmの平均)に到達するまで週に1回増殖に関して観察した。その時点で、マウスが麻酔(2%イソフルラン、98%O)下にある間にすべての外科手技を行った。手術用刃を使用して、腫瘍の周囲に推定1~2cmの間隔を残して皮膚の組織弁を切開し、その後、皮膚組織弁を腫瘍の表面から切り分けた。MasSpec Penを使用していくつかの領域において分析した腫瘍及び隣接する正常な組織を露出させるために皮膚を折り返した。その後、腫瘍の小片を、メスを使用して切除し、エクスビボで分析した。診断のために、MasSpec Penによって分析した腫瘍組織領域に注釈を付け、急速凍結し、切断し、H&E染色に供した。
【0121】
統計分析:それぞれ10秒間のMasSpec Pen分析の間に入手した3つの質量スペクトルの平均を使用して、分子データベースを構築した。Xcalibur未処理データを、Microsoft Excelスプレッドシート形式に変換した。スペクトルの全質量範囲を、m/z値を小数第2位に丸めることによってビンに分割した。すべての質量スペクトルは、実験間で生じる可能性のあるシグナル強度のわずかな変動を明らかにするために、トータルイオンカウント(TIC)に従って、またはm/z 885.55の絶対強度に最初に正規化した。その後、バックグラウンドピークならびに分析したサンプルの少なくとも10%に現れないピークを、ランダムノイズを低減するために除外した。
【0122】
それぞれの組織切片(乳房または甲状腺)に関して、分析したそれぞれの組織切片の4つの代表的な質量スペクトルを、ウェブサイト組込み関数を使用した主成分分析(PCA)のためにmetaboanalyst(http://www.metaboanalyst.ca/)にインポートした。スコアプロット及びローディングプロットを、それぞれの組織タイプに対してウェブサイトにより生成した。それぞれの柔らかい組織サンプルタイプ(乳房、甲状腺、肺、及び卵巣)に関して、そのデータをRプログラミング言語にインポートした。PCAは、前処理したデータの平均0へのセンタリング及びRのprcomp関数を使用した主成分の計算によって行った。最初に3つの主成分をR用のrgl及びpca3dパッケージを用いて視覚化した。組織分類に関して、CRAN R言語ライブラリーのglmnetパッケージを使用してLasso法を適用した。Lassoを使用して生成されたモデルは、「スパース」モデル、すなわち、特徴のサブセットのみを含むモデルをもたらすため、その他の正則化法よりも解釈が簡単である。統計学的に情報を与えるそれぞれの特徴に対する数学的重みは、特定のクラスを特徴付けする際に質量スペクトルの特徴が有する重要性に応じてLassoによって算出する(がん対正常、またはがんサブタイプ対正常)。訓練セット内の予測精度を評価するために、リーブ・ワン・アウト・クロス・バリデーションアプローチを使用して分類を行った。訓練された分類器の性能を、感度、特異度、精度、及びAUCによって判断した。
・・・
【0123】
本明細書において開示され、特許請求される方法のすべては、本開示に照らして過度の実験を行うことなく生成し、実行することができる。本発明の組成物及び方法を好適な実施形態の項に記載してきたが、本発明の概念、趣旨及び範囲から逸脱することなく本明細書に記載の方法及び方法のステップまたはステップの順序に変化が適用されてもよいことは当業者には明白であろう。さらに具体的には、化学的及び生理学的の両方で関連する特定の薬剤が本明細書に記載されている薬剤に置換されてもよく、それと同時に同じまたは同様の結果が達成されるであろうことは明白であろう。当業者に明白なすべてのそのような類似の代替物及び改変物は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨、範囲及び概念の範囲内にあると考えられる。
図1A-C】
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図1J
図1K
図1L
図1M
図1N
図1O
図1P
図1Q
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6A
図6B
図6C
図7
図8A
図8B
図9
図10A-B】
図11
図12A-E】
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図14A-C】
図15A
図15B
図16A-B】
図17
図18
図19
図20
図21
図22
【手続補正書】
【提出日】2024-07-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象からの組織サンプルを評価するための方法であって、
液体サンプルをマススペクトロメトリー分析に供し、ここで、前記液体サンプルは、固定または個別の体積の溶媒を対象の組織部位に適用し、適用された溶媒を回収することによって得られたものであり、それにより、複数の質量対電荷(m/z)比を含むマススペクトロメトリープロフィールを得ること;および
前記マススペクトロメトリープロフィールに基づいて前記液体サンプルを特徴付けること;
を含み:
前記液体サンプルを特徴付けることは、前記組織部位が以下を含むかを決定することを含む、方法:
正常な肺、乳房、卵巣、もしくは甲状腺細胞;
良性の肺、乳房、卵巣、もしくは甲状腺細胞;または
癌性の肺、乳房、卵巣、もしくは甲状腺細胞。
【請求項2】
前記固定または個別の体積の溶媒は、前記溶媒を溶媒導管を通して移動させるための機械式ポンプを使用して適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記適用された溶媒を回収することは、陰圧をかけて前記サンプルを回収導管に引き込むこと、および/または、ガス圧をかけて前記サンプルを回収導管に押し込むことを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶媒は、前記回収導管とは異なる溶媒導管を通して適用される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ガス圧は、前記溶媒導管および前記回収導管とは異なるガス導管を通してかけられる、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記固定または個別の体積の溶媒は、前記組織部位から構造的に分離されて前記組織部位と流体接触しているプローブを用いて適用され、続いて回収され、
前記プローブは、リザーバー、第1の導管、第2の導管、および第3の導管を備え:
前記リザーバーは、第1の導管、第2の導管、および第3の導管と流体連結しており;
前記第1の導管は、溶媒を含むチャンバーと流体連結しており;
前記第2の導管は、ガス供給部と流体連結しており;かつ
前記第3の導管は、前記マススペクトロメーターと流体連結しており;
液体サンプルは、第3の導管を介してマススペクトロメーターに移される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記固定または個別の体積の溶媒は、スプレーとして適用されない、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記固定または個別の体積の溶媒は、液滴として適用される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記固定または個別の体積の溶媒は、100psig未満の圧力を使用して適用される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記方法は、検知可能な物理的損傷を前記組織にもたらさない、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記溶媒は、水、エタノール、またはそれらの組合せを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
溶媒の前記個別の体積は、約0.1~100μLの間である、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記適用された溶媒を回収することは、前記適用するステップ後の0.1~30秒の間である、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
複数の組織部位からの複数の液体サンプルを回収することをさらに含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記液体サンプルはプローブにより回収され、前記プローブは、異なるサンプルの回収の間に洗浄され;前記プローブは、使い捨てであり、異なるサンプルの回収の間に替えられ;または、前記プローブは回収先端部を備え、前記液体サンプルが収集された後に前記プローブから前記回収先端部を取り出すことをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記液体サンプルは、エクスビボで前記組織部位から得られる、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記プロフィールが、175.02、187.01、201.04、215.03、306.08、313.16、330.98、332.90、357.10、409.23、615.17、722.51、744.55、747.52、748.52、771.52、773.53、861.55、863.57、885.55、および886.55からなる群から選択される少なくとも5つの質量対電荷(m/z)比を含む場合に、前記組織部位は癌性の肺細胞を含むものと特定される、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記プロフィールが、124.01、175.02、175.03、283.27、313.16、および341.27からなる群から選択される少なくとも3つの質量対電荷(m/z)比を含む場合に、前記組織部位は癌性の卵巣細胞を含むものと特定される、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記プロフィールが、175.02、191.02、191.05、283.27、341.27、353.16、432.20、433.21、615.17、822.47、および822.48からなる群から選択される少なくとも5つの質量対電荷(m/z)比を含む場合に、前記組織部位は癌性の甲状腺細胞を含むものと特定される、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記プロフィールが、187.04、268.80、279.92、283.27、341.27、345.16、381.21、687.51、742.54、および766.54から成る群から選択される少なくとも5つの質量対電荷(m/z)比を含む場合に、前記組織部位は癌性の乳房細胞を含むものと特定される、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【外国語明細書】