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特開2024-156702免疫原性変異体ペプチドスクリーニングプラットフォーム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156702
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】免疫原性変異体ペプチドスクリーニングプラットフォーム
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6809 20180101AFI20241029BHJP
   C12Q 1/6804 20180101ALI20241029BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20241029BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20241029BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241029BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20241029BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
C12Q1/6809 Z ZNA
C12Q1/6804 Z
C07K14/47
C12N15/12
C12N15/62 Z
A61K39/00 D
A61K39/00 H
A61P35/00
A61P37/04
G01N33/53 M
C12Q1/6809 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024112292
(22)【出願日】2024-07-12
(62)【分割の表示】P 2022178874の分割
【原出願日】2015-09-10
(31)【優先権主張番号】62/048,742
(32)【優先日】2014-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ドゥラマーレ, レリア
(72)【発明者】
【氏名】ラパダス, パトリック
(72)【発明者】
【氏名】メルマン, イラ
(72)【発明者】
【氏名】ヤーダヴ, マヘーシュ
(72)【発明者】
【氏名】ジュンジュンワラ, スジット
(72)【発明者】
【氏名】リル, ジェニー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高スループットな方法で実施できる、疾患特異的免疫原性ペプチドを同定する方法を提供する。
【解決手段】a)各変異体コード配列が、基準試料と比較して配列に変異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列のセットを提供すること、及び
b)変異体コード配列によりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含む、変異体コード配列のセットから免疫原性変異体コード配列を選択すること、
を含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、
個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)各変異体コード配列が、基準試料と比較して配列に変異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列のセットを提供すること、及び
b)変異体コード配列によりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含む、変異体コード配列のセットから免疫原性変異体コード配列を選択すること、
を含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、
個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法。
【請求項2】
a)個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列に変異を有する、変異体コード配列の第1のセットを得ること、
b)個体における疾患組織のトランスクリプトーム配列に基づいて、第1のセットから発現変異体コード配列の第2のセットを選択すること、
c)発現変異体コード配列によりコードされるペプチドの、MHCクラスI分子(MHCI)と結合する能力予測に基づいて、第2のセットからエピトープ変異体コード配列の第3のセットを選択すること、
d)エピトープ変異体コード配列によりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含む、第3のセットから免疫原性変異体コード配列を選択すること、
を含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、
個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法。
【請求項3】
i)疾患組織からMHCI分子に結合した複数のペプチドを得ること、
ii)MHCI結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、
iii)MHCI結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、免疫原性変異体コード配列と相関させること
をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
a)個体の疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、
b)MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及び
c)MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、各変異体コード配列が、基準試料と比較して配列に変異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列のセットと相関させること
を含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、
個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法。
【請求項5】
a)個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列に変異を有する、変異体コード配列の第1のセットを得ること、
b)個体における疾患組織のトランスクリプトーム配列に基づいて、第1のセットから発現変異体コード配列の第2のセットを選択すること、
c)発現変異体コード配列によりコードされるペプチドの、MHCクラスI分子(MHCI)と結合する能力予測に基づいて、第2のセットからエピトープ変異体コード配列の第3のセットを選択すること、
d)疾患組織からMHCI分子に結合した複数のペプチドを得ること、
e)MHCI結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、
f)MHCI結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、エピトープ変異体コード配列の第3のセットと相関させること
を含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、
個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法。
【請求項6】
疾患特異的免疫原性変異体ペプチドの免疫原性を予測することをさらに含み、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドが、変異アミノ酸を含む、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
免疫原性を予測することが、以下のパラメーター、
i)MHCI分子に対するペプチドの結合親和性、
ii)ペプチドを含有するペプチド前駆体のタンパク質レベル、
iii)ペプチド前駆体をコードする転写物の発現レベル、
iv)免疫プロテアソームによるペプチド前駆体のプロセシング効率、
v)ペプチド前駆体の発現のタイミング、
vi)TCR分子に対するペプチドの結合親和性、
vii)ペプチド内の変異アミノ酸の位置、
viii)MHCI分子に結合したときのペプチドの溶媒曝露、
ix)MHCI分子に結合したときの変異アミノ酸の溶媒曝露、及び
x)ペプチドにおける芳香族残基の含有量、
xi)野生型残基と比較したときの変異アミノ酸の特性、
xii)ペプチド前駆体の性質
のうちの1つ又は複数に基づく、請求項1から3及び6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
免疫原性の予測が、HLAタイピング解析をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
MHCIに結合したペプチドが、MHCI/ペプチド複合体を疾患組織から単離し、ペプチドをMHCIから溶出することにより得られる、請求項3から8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
単離が、免疫沈降法により実施される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
免疫沈降法が、MHCIに特異的な抗体を使用して実施される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ペプチドが、質量分析に供する前にクロマトグラフィーによりさらに分離される、請求項9から11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
変異体コード配列の第1のセットを得ることが、
i)個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて、各変異体配列が基準試料と比較して配列に差異を有する、変異体配列の第1のセットを得ること、及び
ii)変異体配列の第1のセットから変異体コード配列を同定すること
を含む、請求項2、3、及び5から12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
同定された疾患特異的免疫原性変異体ペプチドの配列に基づいて、ペプチドを合成することをさらに含む、請求項1から13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
同定された疾患特異的免疫原性変異体ペプチドの配列に基づいて、ペプチドをコードする核酸を合成することをさらに含む、請求項1から13の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
ペプチドを免疫原性についてインビボで試験することをさらに含む、請求項1から15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
ペプチドを免疫原性についてインビトロで試験することをさらに含む、請求項1から15の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
疾患ががんである、請求項1から17の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
個体がヒトである、請求項1から18の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
請求項14又は15に記載の方法により得られる、疾患特異的免疫原性変異体ペプチド。
【請求項21】
請求項20に記載の疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを含む組成物。
【請求項22】
組成物が、2つ以上の疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを含む、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
アジュバントをさらに含む、請求項21又は22に記載の組成物。
【請求項24】
個体に有効量の請求項21から23の何れか一項に記載の組成物を投与することを含む、個体における疾患を治療する方法。
【請求項25】
個体が、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドが同定されたのと同じ個体である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記疾患特異的ペプチドが、請求項1から19の何れか一項に記載の方法により同定される、少なくとも1つの疾患特異的ペプチドを含む免疫原性組成物。
【請求項27】
前記疾患特異的ペプチドが、請求項1から19の何れか一項に記載の方法により同定される、疾患特異的ペプチドをコードする少なくとも1つの核酸を含む免疫原性組成物。
【請求項28】
前記疾患特異的ペプチドが、請求項1から19の何れか一項に記載の方法により同定される、複数の疾患特異的ペプチドを含む免疫原性組成物。
【請求項29】
前記疾患特異的ペプチドが、請求項1から19の何れか一項に記載の方法により同定される、複数の疾患特異的ペプチドをコードする核酸を含む免疫原性組成物。
【請求項30】
請求項21から23の何れか一項に記載の組成物を投与することを含む、疾患を有する個体における免疫応答を刺激する方法。
【請求項31】
別の薬剤を投与することをさらに含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
他の薬剤が、免疫調節剤である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
他の薬剤が、チェックポイントタンパク質のアンタゴニストである、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
他の薬剤が、PD-1のアンタゴニストである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
他の薬剤が、PD-L1のアンタゴニストである、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
a)請求項1から19の何れか一項に記載の方法により、個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定すること、
b)同定された疾患特異的免疫原性変異体ペプチドの配列に基づいて、ペプチド又はペプチドをコードする核酸を含む組成物を製造すること、
c)組成物を個体に投与すること
を含む、疾患を有する個体における免疫応答を刺激する方法。
【請求項37】
抗PD-1抗体を個体に投与することをさらに含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
抗PD-L1抗体を個体に投与することをさらに含む、請求項36に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願とのクロスリファレンス
本出願は、2014年9月10日出願の米国特許仮出願第62/048742号の優先権を主張し、その全内容すべてがあらゆる目的のため本明細書に参照により援用される。
【0002】
ASCIIテキストファイルでの配列表の提出
以下のASCIIテキストファイルでの提出の内容は、その全内容が本明細書に参照により援用される:コンピュータ可読形式(CRF)の配列表(ファイル名:146392027600SeqList.txt、記録日:2015年9月9日、サイズ:6KB)。
【0003】
本開示は、免疫療法を開発するのに有用な変異体ペプチドを同定する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
細胞媒介性免疫に関与する細胞傷害性Tリンパ球(細胞傷害性T細胞又はCD8 T細胞)は、細胞表面上のペプチドエピトープ又は抗原をスキャンすることにより細胞の健常性の変化をモニタリングする。ペプチドエピトープは、細胞タンパク質に由来し、細胞が現在の細胞プロセスの証拠を提示することを可能にするディスプレイ機構として寄与する。ネイティブ及び非ネイティブタンパク質(それぞれ、自己及び非自己と呼ばれることが多い)の両方が、ペプチドエピトープ提示のためにプロセシングされる。ほとんどの自己ペプチドが、天然タンパク質代謝回転及び欠陥リボソーム産物に由来する。非自己ペプチドは、ウイルス及び細菌感染、疾患、並びにがんなどの事象の過程で生成したタンパク質に由来しうる。
【0005】
ヒト腫瘍は、顕著な数の体細胞変異を担持することを特徴とする。したがって、変異を含有するペプチドの発現は、適応免疫系により非自己ネオエピトープとして認識できる。非自己抗原の認識の際、細胞傷害性T細胞は、免疫応答を引き起こし、非自己ネオエピトープをディスプレイする細胞のアポトーシスをもたらす。細胞傷害性T細胞適応免疫は高度に特異的な機構であり、感染細胞、疾患細胞、及びがん性細胞を除去するための効率的な手段である。免疫原性エピトープを同定することには大きな治療的価値がある。なぜなら、ワクチン接種を介した免疫原性エピトープへの曝露は、所望の細胞傷害性T細胞免疫応答を引き起こすために使用できるからである。免疫原性エピトープの役割が科学界及び医学界で知られて数十年が経過したが、効果的な抗腫瘍CD8 T細胞応答を駆動する抗原の同定は、ほとんど未知のままである。エピトープ提示及び細胞傷害性T細胞活性化に伴う複雑さが、それらの発見及び治療的使用を難しくしてきた。
【0006】
主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子は、細胞傷害性T細胞に対するペプチドエピトープ提示を担っている。ヒトにおいて、ヒト白血球抗原(HLA)系は、MHCクラスI及びクラスII分子をコードする遺伝子座である。HLA-A、-B、及び-C遺伝子は、MHCクラスI(MHCI)タンパク質をコードする。典型的には8~11アミノ酸長であるペプチドが、逆平行ベータシートの上に位置する2つのアルファヘリックスにより形成される溝との相互作用を通じてMHCI分子と結合する。ペプチド-MHCクラスI(pMHCI)分子のプロセシング及び提示は、a)タンパク質のプロテアーゼ媒介性消化、b)抗原プロセシング関連トランスポーター(TAP)により媒介される小胞体(ER)内へのペプチド輸送、c)新規合成MHCI分子を使用したpMHCIの形成、及びd)細胞表面へのpMHCIの輸送を含む一連の連続的段階を伴う。
【0007】
細胞表面上で、pMHCIは、T細胞受容体(TCR)を介して細胞傷害性T細胞と相互作用する。複雑なpMHCI-TCR相互作用に続いて、非自己抗原の同定が、関連酵素、共受容体、アダプター分子、及び転写因子により媒介される一連の生化学的事象を通じた細胞傷害性T細胞活性化をもたらしうる。活性化細胞傷害性T細胞は、増殖し、同定された免疫原性ペプチドエピトープに特異的なTCRを発現するエフェクターT細胞集団を生成する。同定された非自己エピトープに対するTCR特異性を有するT細胞の増幅は、活性化非自己エピトープをディスプレイする細胞の免疫媒介性アポトーシスをもたらす。
【0008】
免疫系を活性化させるための免疫原性エピトープの使用は、現在、がん治療における使用のために研究されている。がん細胞が正常組織に由来する一方で、体細胞変異はがんプロテアソームにおける多数の変化をもたらす。その結果、得られるMHCI提示ペプチドエピトープは、腫瘍関連抗原(TAA)又はネオエピトープと呼ばれ、正常及びがん組織間での細胞傷害性T細胞分化を可能にする。近年の研究は、変異体ペプチドが、CD4又はCD8 T細胞により非自己として認識されるエピトープとして寄与しうることを確証したが、以来、変異体ネオエピトープはほとんど記述されてこなかった。
【0009】
ペプチドベースの免疫療法の使用は、所望の細胞傷害性T細胞応答を刺激するペプチドエピトープの選択に左右される。具体的には、腫瘍抗原は、2つのカテゴリーに分類できる。すなわち、腫瘍関連自己抗原(たとえば、がん-精巣抗原、分化抗原)及び共有又は患者特有の変異体タンパク質に由来する抗原である。胸腺における自己抗原の提示は高アビディティT細胞の除去をもたらしうるので、変異体新抗原は、免疫原性がより高い可能性が高い。このような免疫療法用エピトープの開発は困難な探究であり、有効なエピトープの同定に有用な効率的な方法は、まだ開発されていない。
【0010】
免疫原性ペプチドエピトープの同定及び検証に多大な時間とコストがかかることが、有効なペプチドベースのがんワクチン接種の開発を妨げてきた。免疫原性エピトープの同定に伴う問題をさらに複雑にしているのは、がん細胞における変異の順列が多くの場合、患者特有であることである。変異体ネオエピトープの発見には、患者の腫瘍浸潤リンパ球の、その患者の腫瘍エクソーム配列からの情報に基づいて構築されたライブラリーからの抗原を認識する能力についての、労力のかかるスクリーニングが必要である。代わりに、変異体ネオエピトープは、質量分析により検出できる。しかしながら、変異体配列は検出を免れてきた。なぜなら、患者特有の変異体を含有しない公的プロテオームデータベースの使用では、それらの同定ができないからである。ペプチド-MHCI結合性又はペプチド免疫原性などの予測アルゴリズムの使用は、パーソナライズされた免疫原性エピトープの同定に応用される可能性がある。しかし、がん細胞内に含有される膨大な数の体細胞変異及び発現レベル変化は、高スループット免疫原性スクリーニングには大きすぎる規模の予測される免疫原性エピトープをもたらす。さらに、予測されるエピトープの貧弱な免疫原性の証拠により、現行の方法の有用性に対する疑問が喚起されている。
【0011】
当該技術分野で、ペプチドベースの免疫療法における使用に好適な免疫原性エピトープを同定する必要がある。具体的には、当該技術分野で、ペプチドベースのがん治療における使用のための免疫原性エピトープを同定する必要がある。さらに、当該技術分野で、パーソナライズされた遺伝子及び/又はプロテオーム解析に基づく免疫原性エピトープの予測のための、高スループット法が必要である。
【0012】
本明細書において引用されるすべての参考文献が、参照によりここに具体的に援用される。
【発明の概要】
【0013】
一態様における本出願は、a)各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列のセットを提供すること、及びb)変異体コード配列のセットから免疫原性変異体コード配列を選択することを含み、選択する工程が、変異体コード配列によりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法を提供する。いくつかの実施態様において、本方法は、a)個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、変異体コード配列の第1のセットを得ること、b)個体における疾患組織のトランスクリプトーム配列に基づいて、第1のセットから発現変異体コード配列の第2のセットを選択すること、c)発現変異体コード配列によりコードされるペプチドの、MHCクラスI分子(MHCI)と結合する能力予測に基づいて、第2のセットからエピトープ変異体コード配列の第3のセットを選択すること、及びd)エピトープ変異体コード配列によりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、第3のセットから免疫原性変異体コード配列を選択することを含む。
【0014】
いくつかの実施態様において、上述の方法のうちの任意のものによれば、方法は、i)疾患組織からMHCI分子に結合した複数のペプチドを得ること、ii)MHCI結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及びiii)MHCI結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、免疫原性変異体コード配列と相関させることをさらに含む。
【0015】
別の態様における本出願は、a)個体の疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、b)MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及びc)MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列のセットと相関させることを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法を提供する。
【0016】
いくつかの実施態様において、本方法は、a)個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、変異体コード配列の第1のセットを得ること、b)個体における疾患組織のトランスクリプトーム配列に基づいて、第1のセットから発現変異体コード配列の第2のセットを選択すること、c)発現変異体コード配列によりコードされるペプチドの、MHCクラスI分子(MHCI)と結合する能力予測に基づいて、第2のセットからエピトープ変異体コード配列の第3のセットを選択すること、d)疾患組織からMHCI分子に結合した複数のペプチドを得ること、e)MHCI結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及びf)MHCI結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、エピトープ変異体コード配列の第3のセットと相関させることを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する。いくつかの実施態様において、本方法は、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドの免疫原性を予測することをさらに含み、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドは、変異アミノ酸を含む。
【0017】
免疫原性を予測する工程を含む上述の方法のうちの任意のものによれば、免疫原性を予測することが、以下のパラメーター、i)MHCI分子に対するペプチドの結合親和性、ii)ペプチドを含有するペプチド前駆体のタンパク質レベル、iii)ペプチド前駆体をコードする転写物の発現レベル、iv)免疫プロテアソームによるペプチド前駆体のプロセシング効率、v)ペプチド前駆体をコードする転写物の発現のタイミング、vi)TCR分子に対するペプチドの結合親和性、vii)ペプチド内の変異アミノ酸の位置、viii)MHCI分子に結合したときのペプチドの溶媒曝露、ix)MHCI分子に結合したときの変異アミノ酸の溶媒曝露、x)ペプチドにおける芳香族残基の含有量、xi)野生型残基と比較したときの変異アミノ酸の特性、及びxii)ペプチド前駆体の性質のうちの1つ又は複数に基づく。いくつかの実施態様において、免疫原性を予測することは、HLAタイピング解析にさらに基づく。
【0018】
いくつかの実施態様において、疾患組織からMHCI分子に結合した複数のペプチドを得る工程を含む上述の方法のうちの任意の1つによれば、MHCIに結合したペプチドは、MHCI/ペプチド複合体を疾患組織から単離し、ペプチドをMHCIから溶出することにより得られる。いくつかの実施態様において、MHCI/ペプチド複合体の単離は、免疫沈降法により実施される。いくつかの実施態様において、免疫沈降法は、MHCIに特異的な抗体を使用して実施される。いくつかの実施態様において、単離ペプチドは、質量分析に供する前にクロマトグラフィーによりさらに分離される。
【0019】
いくつかの実施態様において、変異体コード配列の第1のセットを得る工程を含む上述の方法のうちの任意の1つによれば、変異体コード配列の第1のセットを得ることは、i)個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて、各変異体配列が基準試料と比較して配列に差異を有する、変異体配列の第1のセットを得ること、及びii)変異体配列の第1のセットから変異体コード配列を同定することを含む。
【0020】
いくつかの実施態様において、上述の方法のうちの任意のものによれば、本方法は、同定された疾患特異的免疫原性変異体ペプチドの配列に基づいて、ペプチドを合成することをさらに含む。いくつかの実施態様において、上述の方法のうちの任意のものによれば、本方法は、同定された疾患特異的免疫原性変異体ペプチドの配列に基づいて、ペプチドをコードする核酸を合成することをさらに含む。いくつかの実施態様において、本方法は、合成されたペプチドを免疫原性についてインビボで試験することをさらに含む。
【0021】
いくつかの実施態様において、上述の方法のうちの任意のものによれば、疾患はがんである。いくつかの実施態様において、上述の方法のうちの任意のものによれば、個体はヒトである。
【0022】
別の態様における本出願はまた、本明細書に記載の方法のうちの任意のものにより同定される疾患特異的変異体ペプチド又は疾患特異的変異体ペプチドの組成物を提供する。いくつかの実施態様において、組成物は、2つ以上の本明細書に記載の疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを含む。いくつかの実施態様において、組成物は、アジュバントをさらに含む。
【0023】
さらに別の態様における本出願はまた、個体に、本明細書に開示の疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定するための方法のうちの任意のものを用いて同定された疾患特異的変異体ペプチドを含む有効量の組成物を投与することを含む、個体における疾患を治療する方法を提供する。いくつかの実施態様において、個体は、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドが同定されたのと同じ個体である。
【0024】
本出願はまた、少なくとも1つの疾患特異的ペプチド又はこのような疾患特異的ペプチドの前駆体を含む免疫原性組成物を提供し、前記疾患特異的ペプチドは、本明細書に記載の方法のうちの任意のものにより同定される。いくつかの実施態様において、免疫原性組成物は、複数の疾患特異的ペプチドを含む。
【0025】
本出願はまた、疾患特異的ペプチドをコードする少なくとも1つの核酸を含む免疫原性組成物を提供し、前記疾患特異的ペプチドは、本明細書に記載の方法のうちの任意のものにより同定される。いくつかの実施態様において、免疫原性組成物は、それぞれが少なくとも1つの疾患特異的ペプチドをコードする複数の核酸を含む。いくつかの実施態様において、免疫原性組成物は、2つ以上(たとえば、3、4、5、6、7、8、9、又はそれ以上のうちの任意の数)の疾患特異的ペプチドをコードする核酸を含む。
【0026】
さらに別の態様における本出願はまた、本明細書に記載の任意の免疫原性組成物を投与することを含む、疾患を有する個体における免疫応答を刺激する方法を提供する。いくつかの実施態様において、本方法は、別の薬剤を投与することをさらに含む。いくつかの実施態様において、他の薬剤は、免疫調節剤である。いくつかの実施態様において、他の薬剤は、チェックポイントタンパク質である。いくつかの実施態様において、他の薬剤は、PD-1のアンタゴニスト(たとえば、抗PD1抗体)である。いくつかの実施態様において、他の薬剤は、PD-L1のアンタゴニスト(たとえば、抗PD-L1抗体)である。
【0027】
さらに別の態様における本出願はまた、a)上述の同定方法のうちの任意の1つにより、個体における疾患組織から疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定すること、b)同定された疾患特異的免疫原性変異体ペプチドの配列に基づいて、ペプチド又はペプチドをコードする核酸を含む組成物を製造すること、c)組成物を個体に投与することを含む、疾患を有する個体における免疫応答を刺激する方法を提供する。いくつかの実施態様において、本方法は、PD-1アンタゴニスト(たとえば、抗PD1抗体)を個体に投与することをさらに含む。いくつかの実施態様において、本方法は、PD-L1アンタゴニスト(たとえば、抗PD-L1抗体)を個体に投与することをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】免疫原性ペプチド同定の例示的方法を示す図である。
図2】Aは、MC-38細胞株のMHC分子上に提示されたエピトープとして同定された同定遺伝子の分布を、測定されたreads per kilobase of exon model per million mapped reads(RPKM)に対して示す図である。Bは、TRAMP-C1細胞株のMHC分子上に提示されたエピトープとして同定された同定遺伝子の分布を、測定されたRPKMに対して示す図である。
図3】MHC分子に結合したペプチドの構造モデル化を示す図である。
図4A-B】Aは、選択ペプチドで免疫化された野生型C57BL/6マウスにおけるペプチド特異的CD8 T細胞のパーセンテージを示す図である。Bは、脾臓及び腫瘍におけるデキストラマー陽性CD8 T細胞のパーセンテージを示す図である。
図4C-D】Cは、CD8 T細胞及びCD45T細胞の測定値を腫瘍体積に対して示す図である。Dは、全CD8 TIL集団及びAdpgk陽性CD8 TIL集団における、腫瘍特異的CD8 TIL共発現PD-1及びTIM-3のパーセンテージを示す図である。
図5A-B】Aは、MC-38腫瘍細胞での腫瘍チャレンジ後に、コントロール及び免疫原性ワクチンで処置されたマウスの腫瘍体積、並びにワクチン接種後のAdpgk陽性CD8 T細胞のパーセンテージを示す図である。矢印は、単一の動物からの測定値を示す。Bは、脾臓及び腫瘍におけるペプチド特異的CD8 T細胞のパーセンテージを示す図である。
図5C-D】Cは、CD45発現T細胞及びCD8発現T細胞として測定された、腫瘍における生細胞のパーセンテージを示す図である。Dは、ワクチン接種後の全CD8 T細胞集団におけるAdgpk特異的CD8 TIL共発現PD-1及びTIM-3のパーセンテージを示す図である。
図5E】ワクチン接種後のPD-1及びTIM-3表面発現のレベルを示す図である。
図5F】ワクチン接種後の腫瘍及び脾臓におけるIFN-γ発現CD8及びCD4 TILのパーセンテージを示す図である。
図5G】ワクチン接種後の腫瘍体積の測定値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本出願は、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定するための高効率スクリーニングプラットフォームを提供する。配列ベースの変異体同定法を、免疫原性予測及び/又は質量分析と組み合わせることにより、本明細書に記載の方法は、個体の疾患組織(たとえば腫瘍細胞)からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドの強力で効率的な同定を可能にする。これらのペプチド又はヌクレオチドベースの前駆体(たとえば、DNA又はRNA)は、様々な異なる用途、たとえばワクチンの開発、変異体ペプチド特異的治療剤(たとえば抗体治療剤又はT細胞受容体(「TCR」)ベースの治療剤)の開発、並びにT細胞応答の動態及び分布のモニタリングのためのツールの開発に有用でありうる。たとえば、個々のペプチド又はペプチドの集合を、比較結合親和性測定を行うために利用でき、又は、MHCマルチマーフローサイトメトリーにより抗原特異的T細胞応答を測定するために多量体化できる。本明細書に記載の方法は、オーダーメイド医療の文脈において特に有用であり、疾患個体から同定された変異体ペプチドを、その個体を治療するための治療剤(たとえば、ペプチド、DNA、又はRNAベースのワクチン)を開発するために使用できる。
【0030】
したがって、一態様における本出願は、配列ベースの変異体同定法を免疫原性予測と組み合わせることによる、個体の疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法を提供する。
【0031】
別の態様において、本出願は、配列ベースの変異体同定法を質量分析と組み合わせることによる、個体の疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法を提供する。
【0032】
また提供されるのは、本明細書に記載の方法のために有用なキット及びシステムである。さらに含まれるのは、ペプチド、このようなペプチドを提示する細胞、及び同定されたこのようなペプチドをコードする核酸を含む免疫原性組成物である。
【0033】
定義
本開示において使用する単数形「a」、「an」、及び「the」はまた、特に、内容上明示されない限り、それらが指示する用語の複数形を包含する。本明細書における「約」の値又はパラメーターへの言及は、その値又はパラメーター自体に向けられた変動を含む(及び記載する)。たとえば、「約X」を指す記載は、「X」の記載を含む。
【0034】
本明細書に記載の発明の態様及び実施態様は、態様及び実施態様から「なる」及び/又は「本質的になる」ことを含むことが理解される。
【0035】
本明細書において使用する「疾患特異的変異体ペプチド」は、疾患組織に存在するが、正常組織には存在しない、少なくとも1つの変異アミノ酸を含むペプチドを指す。「疾患特異的免疫原性変異体ペプチド」は、個体において免疫応答を引き起こすことが可能な疾患特異的変異体ペプチドを指す。疾患特異的変異体ペプチドは、たとえば、タンパク質における異なるアミノ酸をもたらす非同義変異(たとえば、点突然変異);終止コドンが修飾又は除去されて、新規腫瘍特異的配列をC末端に有するより長いタンパク質の翻訳をもたらす、リードスルー変異;成熟mRNA内のイントロンの包含をもたらし、それゆえユニーク腫瘍特異的タンパク質配列をもたらす、スプライス部位変異;2つのタンパク質の接合点において腫瘍特異的配列を有するキメラタンパク質をもたらす、染色体再編成(すなわち、遺伝子融合);及び、新規腫瘍特異的タンパク質配列を有する新しいオープンリーディングフレームをもたらす、フレームシフト変異又は欠失から生じうる。たとえば、Sensi及びAnichini,Clin Cancer Res,2006,v.12,5023-5032を参照のこと。
【0036】
本明細書において使用する「変異体コード配列」は、基準試料における配列と比較して差異を有する配列を指し、配列差異は、変異体コード配列に含有されるか、又はそれによりコードされるアミノ酸配列の変化をもたらす。変異体コード配列は、コードされたアミノ酸配列のアミノ酸変化をもたらす変異を有する核酸配列でありうる。代わりに、変異体コード配列は、アミノ酸変異を含有するアミノ酸配列でありうる。
【0037】
「発現変異体コード配列」は、個体の疾患組織に発現する変異体コード配列を指す。
【0038】
ペプチドを「コードする」核酸配列は、ペプチドのコード配列を含有する核酸を指す。ペプチドを「コードする」アミノ酸配列は、ペプチドの配列を含有するアミノ酸配列を指す。
【0039】
「エピトープ変異体コード配列」は、MHC分子(たとえば、MHCクラスI分子、又はMHCI)と結合するか、又は結合すると予測されるペプチドをコードする変異体コード配列を指す。
【0040】
「免疫原性変異体コード配列」は、免疫原性であると予測されるペプチドをコードする変異体コード配列を指す。
【0041】
本明細書において使用する「疾患組織」という用語は、個体における疾患と関連する組織を指し、複数の細胞を含む。「疾患組織試料」は、疾患組織の試料を指す。
【0042】
本明細書において使用する「ペプチド前駆体」は、目的のペプチドを含む個体の疾患組織に存在するポリペプチドを指す。たとえば、ペプチド前駆体は、免疫プロテアソームによりプロセシングされて目的のペプチドをもたらしうる、疾患組織に存在するポリペプチドであってもよい。
【0043】
免疫原性変異体ペプチドを同定する方法
態様における本出願の方法は、配列特異的変異体同定法を、免疫原性予測法と組み合わせる。たとえば、いくつかの実施態様において、a)各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを提供すること、及びb)変異体コード配列の第1のセットから免疫原性変異体コード配列を選択することを含み、選択する工程が、変異体コード配列によりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法が提供される。いくつかの実施態様において、疾患組織においてネオエピトープとして寄与する、個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法が提供される。いくつかの実施態様において、変異体コード配列のセットは、1、10、100、1,000、又は10,000よりも多くの異なる変異体コード配列を含む。いくつかの実施態様において、a)各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを得ること、及びb)変異体コード配列の第1のセットから免疫原性変異体コード配列を選択することを含み、選択する工程が、変異体コード配列によりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法が提供される。いくつかの実施態様において、選択する工程は、以下の1つ又は複数(たとえば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は11のうちの任意の数)のパラメーター、i)MHCI分子に対するペプチドの結合親和性、ii)ペプチドを含有するペプチド前駆体のタンパク質レベル、iii)ペプチド前駆体をコードする転写物の発現レベル、iv)免疫プロテアソームによるペプチド前駆体のプロセシング効率、v)ペプチド前駆体をコードする転写物の発現のタイミング、vi)TCR分子に対するペプチドの結合親和性、vii)ペプチド内の変異アミノ酸の位置、viii)MHCI分子に結合したときのペプチドの溶媒曝露、ix)MHCI分子に結合したときの変異アミノ酸の溶媒曝露、x)ペプチドにおける芳香族残基の含有量、xi)野生型残基と比較したときの変異アミノ酸の特性(たとえば、荷電から疎水性への変化、又はその逆)、及びxii)ペプチド前駆体の性質に基づいて、ペプチドの免疫原性を予測することを含む。
【0044】
いくつかの実施態様において、変異体コード配列の第1のセットは、まずフィルタリングされ、MHC分子と結合すると予測されるペプチドをコードする変異体コード配列(「エピトープ変異体コード配列」と呼ばれる)のより小さなセットを得ることができ、次に、変異体コード配列のより小さなセットが、免疫原性の予測に基づく選択に供される。このような実施態様において、本方法は、a)各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを提供すること、b)変異体コード配列の第1のセットによりコードされるペプチドの、MHC分子(たとえば、MHCクラスI分子、又はMHCI)と結合する能力予測に基づいて、第1のセットからエピトープ変異体コード配列の第2のセットを選択すること、及びc)エピトープ変異体コード配列の第2のセットから免疫原性変異体コード配列を選択することを含んでいてもよく、選択する工程は、エピトープ変異体コード配列によりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する。いくつかの実施態様において、本方法は、a)各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを得ること、b)変異体コード配列の第1のセットによりコードされるペプチドの、MHC分子(たとえば、MHCクラスI分子、又はMHCI)と結合する能力予測に基づいて、第1のセットからエピトープ変異体コード配列の第2のセットを選択すること、及びc)エピトープ変異体コード配列の第2のセットから免疫原性変異体コード配列を選択することを含み、選択する工程は、エピトープ変異体コード配列によりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する。いくつかの実施態様において、本方法は、機能解析により疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを検証することをさらに含む。いくつかの実施態様において、疾患はがんである。いくつかの実施態様において、個体は、ヒト個体(たとえば、がんを有するヒト個体)である。
【0045】
いくつかの実施態様において、a)個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを得ること、及びb)変異体コード配列の第1のセットから免疫原性変異体コード配列を選択することを含み、選択する工程が、変異体コード配列によりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法が提供される。いくつかの実施態様において、ゲノム配列は、全ゲノムシークエンシングにより得られる。いくつかの実施態様において、ゲノム配列は、全エクソームシークエンシングにより得られる。いくつかの実施態様において、ゲノム配列は、標的化ゲノム又はエクソームシークエンシングにより得られる。たとえば、疾患組織及び/又は基準試料におけるゲノム配列は、プローブのセット(たとえば、疾患関連遺伝子に特異的なプローブ)によりまず富化でき、その後、変異体同定のためにプロセシングされる。いくつかの実施態様において、変異体コード配列の第1のセットは、まずフィルタリングされ、エピトープ変異体コード配列のより小さなセットを得ることができ、次に、変異体コード配列のより小さなセットが、免疫原性の予測に基づく選択に供される。たとえば、いくつかの実施態様において、a)個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを得ること、b)変異体コード配列の第1のセットによりコードされるペプチドの、MHC分子(たとえば、MHCクラスI分子、又はMHCI)と結合する能力予測に基づいて、第1のセットからエピトープ変異体コード配列の第2のセットを選択すること、及びc)エピトープ変異体コード配列の第2のセットから免疫原性変異体コード配列を選択することを含み、選択する工程が、エピトープ変異体コード配列によりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法が提供される。いくつかの実施態様において、本方法は、機能解析により疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを検証することをさらに含む。いくつかの実施態様において、疾患はがんである。いくつかの実施態様において、個体は、ヒト個体(たとえば、がんを有するヒト個体)である。
【0046】
いくつかの実施態様において、a)個体における疾患組織のトランスクリプトーム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを得ること、及びb)変異体コード配列の第1のセットから免疫原性変異体コード配列を選択することを含み、選択する工程が、変異体コード配列によりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法が提供される。いくつかの実施態様において、トランスクリプトーム配列は、全トランスクリプトームRNA-Seqシークエンシングにより得られる。いくつかの実施態様において、転写配列は、標的化トランスクリプトームシークエンシングにより得られる。たとえば、疾患組織及び/又は基準試料におけるRNA又はcDNA配列は、プローブのセット(たとえば、疾患関連遺伝子に特異的なプローブ)によりまず富化でき、その後、変異体同定のためにプロセシングされる。いくつかの実施態様において、変異体コード配列の第1のセットは、まずフィルタリングされ、エピトープ変異体コード配列のより小さなセットを得ることができ、次に、変異体コード配列のより小さなセットが、免疫原性の予測に供される。たとえば、いくつかの実施態様において、a)個体における疾患組織のトランスクリプトーム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを得ること、b)エピトープ変異体コード配列の第1のセットによりコードされるペプチドの、MHC分子(たとえば、MHCクラスI分子、又はMHCI)と結合する能力予測に基づいて、第1のセットからエピトープ変異体コード配列の第2のセットを選択すること、及びc)変異体コード配列の第2のセットから免疫原性変異体コード配列を選択することを含み、選択する工程が、エピトープ変異体コード配列によりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法が提供される。
【0047】
いくつかの実施態様において、a)個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを提供すること、b)個体における疾患組織のトランスクリプトーム配列に基づいて、第1のセットから発現変異体コード配列の第2のセットを選択すること、及びc)発現変異体コード配列の第2のセットから免疫原性変異体コード配列を選択することを含み、選択する工程が、発現変異体コード配列によりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法が提供される。いくつかの実施態様において、本方法は、a)個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを得ること、b)個体における疾患組織のトランスクリプトーム配列に基づいて、第1のセットから発現変異体コード配列の第2のセットを選択すること、及びc)発現変異体コード配列の第2のセットから免疫原性変異体コード配列を選択することを含み、選択する工程は、発現変異体コード配列によりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する。
【0048】
いくつかの実施態様において、発現変異体コード配列の第2のセットは、フィルタリングされ、エピトープ変異体コード配列のより小さなセットを得ることができ、次に、変異体コード配列のより小さなセットが、免疫原性の予測に供される。したがって、たとえば、いくつかの実施態様において、a)個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを提供すること、b)個体における疾患組織のトランスクリプトーム配列に基づいて、第1のセットから発現変異体コード配列の第2のセットを選択すること、c)発現変異体コード配列の第2のセットによりコードされるペプチドの、MHC分子(たとえば、MHCクラスI分子、又はMHCI)と結合する能力予測に基づいて、第2のセットからエピトープ変異体コード配列の第3のセットを選択すること、及びd)エピトープ変異体コード配列の第3のセットから免疫原性変異体コード配列を選択することを含み、選択する工程が、エピトープ変異体コード配列によりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法が提供される。いくつかの実施態様において、本方法は、a)個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを得ること、b)個体における疾患組織のトランスクリプトーム配列に基づいて、第1のセットから発現変異体コード配列の第2のセットを選択すること、c)発現変異体コード配列の第2のセットによりコードされるペプチドの、MHC分子(たとえば、MHCクラスI分子、又はMHCI)と結合する能力予測に基づいて、第2のセットからエピトープ変異体コード配列の第3のセットを選択すること、及びd)エピトープ変異体コード配列の第3のセットから免疫原性変異体コード配列を選択することを含み、選択する工程は、エピトープ変異体コード配列によりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する。いくつかの実施態様において、本方法は、機能解析により疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを検証することをさらに含む。いくつかの実施態様において、疾患はがんである。いくつかの実施態様において、個体は、ヒト個体(たとえば、がんを有するヒト個体)である。
【0049】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の方法により同定される疾患特異的免疫原性変異体ペプチドは、変異体コード配列情報を、MHC分子と物理的に結合したペプチドの情報と相関させることにより、さらに検証される。本方法は、たとえば、疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及びMHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、免疫原性変異体コード配列であると予測されるペプチドと相関させることをさらに含みうる。質量分析及び相関法を、下の項にさらに記載する。
【0050】
別の態様において、配列特異的変異体同定法を質量分析と組み合わせる方法が提供される。たとえば、いくつかの実施態様において、a)個体の疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、b)MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及びc)MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列のセットと相関させることを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法が提供される。いくつかの実施態様において、MHCに結合した複数のペプチドは、MHC/ペプチド複合体を(たとえば免疫沈降法により)疾患組織から単離し、MHCからペプチドを溶出することにより得られる。いくつかの実施態様において、ペプチドは、タンデム質量分析に供される。いくつかの実施態様において、質量分析ベースのシークエンシングは、ペプチドを質量分析に供すること、及び、質量分析スペクトルを基準スペクトル(たとえば、基準試料における配列によりコードされる推定タンパク質の仮定の質量分析スペクトル)と比較することを含む。いくつかの実施態様において、質量分析配列情報は、相関工程前に、ペプチド長及び/又はアンカーモチーフの存在によりフィルタリングされる。いくつかの実施態様において、本方法は、機能解析により疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを検証することをさらに含む。いくつかの実施態様において、疾患はがんである。いくつかの実施態様において、個体は、ヒト個体(たとえば、がんを有するヒト個体)である。
【0051】
いくつかの実施態様において、a)各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを得ること、b)個体の疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、c)MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及びd)MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、変異体コード配列の第1のセットと相関させることを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法が提供される。いくつかの実施態様において、変異体コード配列の第1のセットは、フィルタリングされ、MHC分子と結合すると予測されるペプチドをコードする変異体コード配列(本明細書において以下では「エピトープ変異体コード配列」と呼ばれる)のより小さなセットを得ることができ、次に、変異体コード配列のより小さなセットが相関分析に供される。このような実施態様において、本方法は、a)各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを提供すること、b)変異体コード配列の第1のセットによりコードされるペプチドの、MHC分子(たとえば、MHCクラスI分子、又はMHCI)と結合する能力予測に基づいて、第1のセットからエピトープ変異体コード配列の第2のセットを選択すること、c)個体の疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、d)MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及びe)MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、エピトープ変異体コード配列の第2のセットと相関させ、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定することを含んでいてもよい。いくつかの実施態様において、本方法は、a)各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを得ること、b)変異体コード配列の第1のセットによりコードされるペプチドの、MHC分子(たとえば、MHCクラスI分子、又はMHCI)と結合する能力予測に基づいて、第1のセットからエピトープ変異体コード配列の第2のセットを選択すること、c)個体の疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、d)MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及びe)MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、エピトープ変異体コード配列の第2のセットと相関させることを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する。いくつかの実施態様において、本方法は、機能解析により疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを検証することをさらに含む。いくつかの実施態様において、疾患はがんである。いくつかの実施態様において、個体は、ヒト個体(たとえば、がんを有するヒト個体)である。
【0052】
いくつかの実施態様において、a)個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを得ること、b)個体の疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、c)MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及びd)MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、変異体コード配列の第1のセットと相関させることを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法が提供される。いくつかの実施態様において、ゲノム配列は、全ゲノムシークエンシングにより得られる。いくつかの実施態様において、ゲノム配列は、全エクソームシークエンシングにより得られる。いくつかの実施態様において、ゲノム配列は、標的化ゲノム又はエクソームシークエンシングにより得られる。たとえば、疾患組織及び/又は基準試料におけるゲノム配列は、プローブのセット(たとえば、疾患関連遺伝子に特異的なプローブ)によりまず富化でき、その後、変異体同定のためにプロセシングされる。
【0053】
いくつかの実施態様において、変異体コード配列の第1のセットは、フィルタリングされ、MHC分子と結合すると予測されるペプチドをコードする変異体コード配列(本明細書において以下では「エピトープ変異体コード配列」と呼ばれる)のより小さなセットを得ることができ、次に、変異体コード配列のより小さなセットが免疫原性の予測に供される。たとえば、いくつかの実施態様において、a)個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを得ること、b)変異体コード配列の第1のセットによりコードされるペプチドの、MHC分子(たとえば、MHCクラスI分子、又はMHCI)と結合する能力予測に基づいて、第1のセットからエピトープ変異体コード配列の第2のセットを選択すること、c)個体の疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、d)MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及びe)MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、エピトープ変異体コード配列の第2のセットと相関させることを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法が提供される。
【0054】
いくつかの実施態様において、a)個体における疾患組織のトランスクリプトーム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを得ること、b)個体の疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、c)MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及びd)MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、変異体コード配列の第1のセットと相関させることを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法が提供される。いくつかの実施態様において、トランスクリプトーム配列は、全トランスクリプトームRNA-Seqシークエンシングにより得られる。いくつかの実施態様において、トランスクリプトーム配列は、標的化トランスクリプトームシークエンシングにより得られる。たとえば、疾患組織及び/又は基準試料におけるRNA配列又はcDNA配列は、プローブのセット(たとえば、疾患関連遺伝子に特異的なプローブ)によりまず富化でき、その後、変異体同定のためにプロセシングされる。いくつかの実施態様において、変異体コード配列の第1のセットは、フィルタリングされ、エピトープ変異体コード配列のより小さなセットを得ることができ、次に、変異体コード配列のより小さなセットが、免疫原性の予測に供される。たとえば、いくつかの実施態様において、a)個体における疾患組織のトランスクリプトーム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを得ること、b)変異体コード配列の第1のセットによりコードされるペプチドの、MHC分子(たとえば、MHCクラスI分子、又はMHCI)と結合する能力予測に基づいて、第1のセットからエピトープ変異体コード配列の第2のセットを選択すること、c)個体の疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、d)MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及びe)MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、エピトープ変異体コード配列の第2のセットと相関させることを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法が提供される。
【0055】
いくつかの実施態様において、a)個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを提供すること、b)個体における疾患組織のトランスクリプトーム配列に基づいて、第1のセットから発現変異体コード配列の第2のセットを選択すること、c)個体の疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、d)MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及びe)MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、発現変異体コード配列の第2のセットと相関させることを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法が提供される。いくつかの実施態様において、本方法は、a)個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを得ること、b)個体における疾患組織のトランスクリプトーム配列に基づいて、第1のセットから発現変異体コード配列の第2のセットを選択すること、c)個体の疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、d)MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及びe)MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、発現変異体コード配列の第2のセットと相関させることを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する。
【0056】
いくつかの実施態様において、発現変異体コード配列の第2のセットは、フィルタリングされ、エピトープ変異体コード配列のより小さなセットが得ることができ、次に、変異体コード配列のより小さなセットが、免疫原性の予測に供される。したがって、たとえば、いくつかの実施態様において、a)個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを提供すること、b)個体における疾患組織のトランスクリプトーム配列に基づいて、第1のセットから発現変異体コード配列の第2のセットを選択すること、c)発現変異体コード配列の第2のセットによりコードされるペプチドの、MHC分子(たとえば、MHCクラスI分子、又はMHCI)と結合する能力予測に基づいて、第2のセットからエピトープ変異体コード配列の第3のセットを選択すること、d)個体の疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、e)MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及びf)MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、エピトープ変異体コード配列の第3のセットと相関させることを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法が提供される。いくつかの実施態様において、本方法は、a)個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを得ること、b)個体における疾患組織のトランスクリプトーム配列に基づいて、第1のセットから発現変異体コード配列の第2のセットを選択すること、c)発現変異体コード配列の第2のセットによりコードされるペプチドの、MHC分子(たとえば、MHCクラスI分子、又はMHCI)と結合する能力予測に基づいて、第2のセットからエピトープ変異体コード配列の第3のセットを選択すること、d)個体の疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、e)MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及びf)MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、エピトープ変異体コード配列の第3のセットと相関させることを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する。いくつかの実施態様において、本方法は、機能解析により疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを検証することをさらに含む。いくつかの実施態様において、疾患はがんである。いくつかの実施態様において、個体は、ヒト個体(たとえば、がんを有するヒト個体)である。
【0057】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の質量分析ベースの方法により同定される疾患特異的免疫原性変異体ペプチドは、ペプチドの免疫原性を予測することによりさらに選択される。いくつかの実施態様において、選択する工程は、以下の1つ又は複数(たとえば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は11のうちの任意の数)のパラメーター、i)MHCI分子に対するペプチドの結合親和性、ii)ペプチドを含有するペプチド前駆体のタンパク質レベル、iii)ペプチド前駆体をコードする転写物の発現レベル、iv)免疫プロテアソームによるペプチド前駆体のプロセシング効率、v)ペプチド前駆体をコードする転写物の発現のタイミング、vi)TCR分子に対するペプチドの結合親和性、vii)ペプチド内の変異アミノ酸の位置、viii)MHCI分子に結合したときのペプチドの溶媒曝露、ix)MHCI分子に結合したときの変異アミノ酸の溶媒曝露、x)ペプチドにおける芳香族残基の含有量、及びxi)ペプチド前駆体の性質に基づいて、ペプチドの免疫原性を予測することを含む。
【0058】
したがって、たとえば、いくつかの実施態様において、a)個体の疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、b)MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及びc)MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列に変異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列のセットと相関させ、変異体コード配列の第2のセットを得ること、及びd)変異体コード配列の第2のセットから免疫原性変異体コード配列を選択することを含み、選択する工程が、変異体コード配列の第2のセットによりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法が提供される。いくつかの実施態様において、a)各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列のセットを得ること、b)個体の疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、c)MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、d)MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、変異体コード配列の第1のセットと相関させ、変異体コード配列の第2のセットを得ること、及びe)変異体コード配列の第2のセットから免疫原性変異体コード配列を選択することを含み、選択する工程が、変異体コード配列の第2のセットによりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法が提供される。いくつかの実施態様において、本方法は、a)各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを提供すること、b)変異体コード配列の第1のセットによりコードされるペプチドの、MHC分子(たとえば、MHCクラスI分子、又はMHCI)と結合する能力予測に基づいて、第1のセットからエピトープ変異体コード配列の第2のセットを選択すること、c)個体の疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、d)MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、e)MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、エピトープ変異体コード配列の第2のセットと相関させ、変異体コード配列の第3のセットを得ること、及びf)変異体コード配列の第3のセットから免疫原性変異体コード配列を選択することを含み、選択する工程は、変異体コード配列の第3のセットによりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する。いくつかの実施態様において、本方法は、a)各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを得ること、b)変異体コード配列の第1のセットによりコードされるペプチドの、MHC分子(たとえば、MHCクラスI分子、又はMHCI)と結合する能力予測に基づいて、第1のセットからエピトープ変異体コード配列の第2のセットを選択すること、c)個体の疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、d)MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及びe)MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、エピトープ変異体コード配列のセットと相関させ、変異体コード配列の第3のセットを得ること、及びf)変異体コード配列の第3のセットから免疫原性変異体コード配列を選択することを含み、選択する工程は、変異体コード配列の第3のセットによりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する。いくつかの実施態様において、本方法は、機能解析により疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを検証することをさらに含む。いくつかの実施態様において、本方法は、機能解析により疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを検証することをさらに含む。いくつかの実施態様において、疾患はがんである。いくつかの実施態様において、個体は、ヒト個体(たとえば、がんを有するヒト個体)である。
【0059】
いくつかの実施態様において、a)個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを提供すること、b)個体における疾患組織のトランスクリプトーム配列に基づいて、第1のセットから発現変異体コード配列の第2のセットを選択すること、c)個体の疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、d)MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及びe)MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、発現変異体コード配列の第2のセットと相関させ、変異体コード配列の第3のセットを得ること、及びf)変異体コード配列の第3のセットから免疫原性変異体コード配列を選択することを含み、選択する工程が、変異体コード配列の第3のセットによりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法が提供される。いくつかの実施態様において、本方法は、a)個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを得ること、b)個体における疾患組織のトランスクリプトーム配列に基づいて、第1のセットから発現変異体コード配列の第2のセットを選択すること、c)個体の疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、d)MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及びe)MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、発現変異体コード配列の第2のセットと相関させ、変異体コード配列の第3のセットを得ること、及びf)変異体コード配列の第3のセットから免疫原性変異体コード配列を選択することを含み、選択する工程は、変異体コード配列の第3のセットによりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する。いくつかの実施態様において、本方法は、機能解析により疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを検証することをさらに含む。いくつかの実施態様において、疾患はがんである。いくつかの実施態様において、個体は、ヒト個体(たとえば、がんを有するヒト個体)である。
【0060】
いくつかの実施態様において、a)個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを提供すること、b)個体における疾患組織のトランスクリプトーム配列に基づいて、第1のセットから発現変異体コード配列の第2のセットを選択すること、c)発現変異体コード配列の第2のセットによりコードされるペプチドの、MHC分子(たとえば、MHCクラスI分子、又はMHCI)と結合する能力予測に基づいて、第2のセットからエピトープ変異体コード配列の第3のセットを選択すること、d)個体の疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、e)MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及びf)MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、エピトープ変異体コード配列の第3のセットと相関させ、変異体コード配列の第4のセットを得ること、及びg)変異体コード配列の第4のセットから免疫原性変異体コード配列を選択することを含み、選択する工程が、変異体コード配列の第4のセットによりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する、個体における疾患組織からの疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する方法が提供される。いくつかの実施態様において、本方法は、a)個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて、各変異体コード配列が基準試料と比較して配列の差異を有する、個体における疾患組織の変異体コード配列の第1のセットを得ること、b)個体における疾患組織のトランスクリプトーム配列に基づいて、第1のセットから発現変異体コード配列の第2のセットを選択すること、c)発現変異体コード配列の第2のセットによりコードされるペプチドの、MHC分子(たとえば、MHCクラスI分子、又はMHCI)と結合する能力予測に基づいて、第2のセットからエピトープ変異体コード配列の第3のセットを選択すること、d)個体の疾患組織からMHC分子に結合した複数のペプチドを得ること、e)MHC結合ペプチドを質量分析ベースのシークエンシングに供すること、及びf)MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、エピトープ変異体コード配列の第3のセットと相関させ、変異体コード配列の第4のセットを得ること、及びg)変異体コード配列の第4のセットから免疫原性変異体コード配列を選択することを含み、選択する工程は、変異体コード配列の第4のセットによりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含み、そのことにより、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定する。いくつかの実施態様において、本方法は、機能解析により疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを検証することをさらに含む。いくつかの実施態様において、疾患はがんである。いくつかの実施態様において、個体は、ヒト個体(たとえば、がんを有するヒト個体)である。
【0061】
本明細書においてまた提供されるのは、本明細書に記載の方法のうちの任意1つにより得られる疾患特異的免疫原性変異体ペプチドである。疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを、たとえば、疾患を治療するための組成物(たとえば、ワクチン組成物)を製造するために使用できる。代わりに、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを、変異体ペプチド特異的治療剤、たとえば治療抗体を製造するために使用できる。
【0062】
本明細書に記載の方法は、オーダーメイド医療の文脈において特に有用であり、本明細書に記載の方法のうちの任意の1つにより得られる疾患特異的な免疫原性変異体ペプチドが、同じ個体のための治療剤(たとえばワクチン又は治療抗体)を開発するために使用される。したがって、たとえば、いくつかの実施態様において、a)個体において疾患特異的な免疫原性変異体ペプチドを同定すること、及びb)ペプチドを合成すること、及びc)ペプチドを個体に投与することを含む、個体における疾患(たとえば、がん)を治療する方法が提供される。いくつかの実施態様において、a)個体から疾患組織試料を得ること、b)個体において疾患特異的な免疫原性変異体ペプチドを同定すること、及びc)ペプチドを合成すること、及びd)ペプチドを個体に投与することを含む、個体における疾患(たとえば、がん)を治療する方法が提供される。いくつかの実施態様において、a)個体において疾患特異的な免疫原性変異体ペプチドを同定すること、b)変異体ペプチドを特異的に認識する抗体(又はTCRアナログ、たとえば可溶性TCR)を製造すること、及びc)ペプチドを個体に投与することを含む、個体における疾患(たとえば、がん)を治療する方法が提供される。いくつかの実施態様において、a)個体から疾患組織試料を得ること、b)個体において疾患特異的な免疫原性変異体ペプチドを同定すること、c)変異体ペプチドを特異的に認識する抗体(又はTCRアナログ、たとえば可溶性TCR)を製造すること、及びd)ペプチドを個体に投与することを含む、個体における疾患(たとえば、がん)を治療する方法が提供される。いくつかの実施態様において、同定工程は、配列特異的変異体同定法を免疫原性予測法と組み合わせる。いくつかの実施態様において、同定工程は、配列特異的変異体同定法を質量分析と組み合わせる。本明細書に記載の疾患特異的な免疫原性変異体ペプチドの任意の同定する方法を、本明細書に記載の治療方法のために使用できる。
【0063】
変異体コード配列を得る
様々な実施態様における本明細書に記載の方法は、変異体コード配列を提供すること及び/又は得ることを含む。変異体コード配列は、一般に、たとえば、個体の疾患組織試料におけるゲノム又はRNA配列をシークエンシングし、配列を基準試料から得られるものと比較することにより得ることができる。
【0064】
いくつかの実施態様において、疾患組織は血液である。いくつかの実施態様において、疾患組織は固形組織(たとえば固形腫瘍)である。いくつかの実施態様において、疾患組織は細胞(たとえば、血中の循環がん細胞)の集合である。いくつかの実施態様において、疾患組織はリンパ球の集合である。いくつかの実施態様において、疾患組織は白血球の集合である。いくつかの実施態様において、疾患組織は上皮細胞の集合である。いくつかの実施態様において、疾患組織は結合組織である。いくつかの実施態様において、疾患組織は生殖細胞及び/又は多能性細胞の集合である。いくつかの実施態様において、疾患組織は芽細胞の集合である。
【0065】
好適な疾患組織試料には、腫瘍組織、腫瘍と隣接する正常組織、腫瘍とは遠位の正常組織、又は末梢血リンパ球が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施態様において、疾患組織試料は腫瘍組織である。いくつかの実施態様において、疾患組織試料は、がん細胞、たとえばがん細胞(たとえば、膵臓がん細胞)の微細針吸引又はで腹腔鏡検査により得られたがん細胞(たとえば、膵臓がん細胞)を含有する生検である。いくつかの実施態様において、生検細胞は、ペレットへと遠心され、固定され、解析前にパラフィン中に埋め込まれる。いくつかの実施態様において、生検細胞は、解析前に急速冷凍される。
【0066】
いくつかの実施態様において、疾患組織試料は、循環転移がん細胞を含む。いくつかの実施態様において、疾患組織試料は、循環性腫瘍細胞(CTC)を血液から分別することにより得ることができる。さらなる実施態様において、CTCは、原発腫瘍から分離され、体液中を循環する。さらなる実施態様において、CTCは、原発腫瘍から分離され、血流中を循環する。さらなる実施態様において、CTCは転移の指標である。いくつかの実施態様において、CTCは膵臓がん細胞である。いくつかの実施態様において、CTCは結腸直腸がん細胞である。いくつかの実施態様において、CTCは非小細胞肺癌細胞である。
【0067】
差異は、個体における疾患組織のゲノム配列に基づいて同定できる。たとえば、ゲノムDNAは、個体における疾患組織から得られ、配列解析に供されうる。次に、このようにして得られた配列を、基準試料から得られたものと比較できる。いくつかの実施態様において、疾患試料は、全ゲノムシークエンシングに供される。いくつかの実施態様において、疾患試料は、全エクソームシークエンシングに供され、すなわち、ゲノム配列中のエクソンのみがシークエンシングされる。いくつかの実施態様において、ゲノム配列は、基準試料との比較前に特異的配列について「富化」される。たとえば、特異的プローブを、配列解析に供する前に、特定の所望の配列(たとえば、疾患特異的配列)を富化するために設計できる。全ゲノムシークエンシング、全エクソームシークエンシング、及び標的化シークエンシングの方法は、当該技術分野で知られており、たとえば、Bentley,D.R.等,Accurate whole human genome sequencing using reversible terminator chemistry,Nature,2008,v.456,53-59;Choi,M.等,Genetic diagnosis by whole exome capture and massively parallel DNA sequencing,Proceedings of the National Academy of Sciences,2009,v.106(45),19096-19101;及びNg,S.B.等,Targeted capture and massively parallel sequencing of 12 human exomes,Nature,2009,v.461,272-276において報告されており、これらは参照によりここに援用される。
【0068】
いくつかの実施態様において、差異は、個体における疾患組織のトランスクリプトーム配列に基づいて同定される。たとえば、全又は部分トランスクリプトーム配列(たとえばRNA-Seq等の方法による)は、個体における疾患組織から得られ、配列解析に供されうる。次に、このようにして得られた配列を、基準試料から得られたものと比較できる。いくつかの実施態様において、疾患試料は、全トランスクリプトームRNA-Seqシークエンシングに供される。いくつかの実施態様において、トランスクリプトーム配列は、基準試料との比較前に特異的配列について「富化」される。たとえば、特異的プローブを、配列解析に供する前に、特定の所望の配列(たとえば、疾患特異的配列)を富化するために設計できる。全トランスクリプトームシークエンシング及び標的化シークエンシングの方法は、当該技術分野で知られており、たとえば、Tang,F.等,mRNA-Seq whole-transcriptome analysis of a single cell,Nature Methods,2009,v.6,377-382;Ozsolak,F.,RNA sequencing:advances,challenges and opportunities,Nature Reviews,2011,v.12,87-98;German,M.A等,Global identification of microRNA-target RNA pairs by parallel analysis of RNA ends,Nature Biotechnology,2008,v.26,941-946;及びWang,Z.等,RNA-Seq:a revolutionary tool for transcriptomics,Nature Reviews,2009,v.10,p.57-63において報告されている。いくつかの実施態様において、トランスクリプトームシークエンシング手法は、RNAポリ(A)ライブラリー、マイクロアレイ解析、並列シークエンシング、超並列シークエンシング、PCR、及びRNA-Seqを含むが、これらに限定されない。RNA-Seqは、トランスクリプトームの一部、又は実質的に全部をシークエンシングするための高スループット手法である。簡潔に述べれば、単離されたトランスクリプトーム配列集団が、一方又は両方の末端にアダプターが結合されたcDNA断片のライブラリーに変換される。増幅の有無にかかわらず、次に、各cDNA分子を解析し、典型的には30~400塩基対の、短いストレッチの配列情報を得る。次に、配列情報のこれらの断片は、基準ゲノム、基準転写物とアラインされるか、又は新規に組み合わされて、転写物の構造(すなわち転写境界)及び/又は発現のレベルを明らかにする。
【0069】
疾患組織における配列が得られると、それを、基準試料における対応する配列と比較できる。疾患組織における核酸配列を、基準試料における対応する配列とアラインすることにより、配列比較を核酸レベルで実行できる。次に、コードされるアミノ酸に1つ又は複数の変化をもたらす配列差異が同定される。代わりに、アミノ酸レベルで配列比較を実行でき、すなわち、核酸配列をまずインシリコでアミノ酸配列に変換し、そのあとに比較を実施する。
【0070】
いくつかの実施態様において、疾患組織からの配列と基準からのものとの比較は、当該技術分野で公知の手法、たとえばマニュアルアラインメント、FAST-All(FASTA)、及びBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)により完了できる。BLASTにより完了される配列比較は、疾患配列の入力及び基準配列の入力を必要とする。BLASTは、まず、2配列間の短配列一致を同定すること、すなわちシーディングと呼ばれるプロセスにより、疾患配列を基準データベースと比較する。配列一致が見つかると、スコアリングマトリックスを使用して、配列アラインメントの拡張が実施される。
【0071】
いくつかの実施態様において、基準試料は、マッチされた疾患のない組織試料である。本明細書において使用する「マッチされた」疾患のない組織試料は、疾患組織と同じ又は類似した組織タイプから選択されるものである。いくつかの実施態様において、マッチされた疾患のない組織及び疾患組織は、同じ個体に由来してもよい。いくつかの実施態様における本明細書に記載の基準試料は、同じ個体からの疾患のない試料である。いくつかの実施態様において、基準試料は、異なる個体(たとえば、疾患を有しない個体)からの疾患のない試料である。いくつかの実施態様において、基準試料は、異なる個体の集団から得られる。いくつかの実施態様において、基準試料は、ある生物体と関連づけられる公知の遺伝子のデータベースである。いくつかの実施態様において、基準試料は、ある生物体と関連づけられる公知の遺伝子と、マッチされた疾患のない組織試料からのゲノム情報との組合せであってもよい。いくつかの実施態様において、変異体コード配列は、アミノ酸配列における点突然変異をコードするか、又は含んでいてもよい。いくつかの実施態様において、変異体コード配列は、アミノ酸欠失又は挿入をコードするか、又は含んでいてもよい。
【0072】
いくつかの実施態様において、変異体コード配列のセットは、ゲノム配列に基づいてまず同定される。次に、この初期セットがさらにフィルタリングされ、トランスクリプトームシークエンシングデータベースにおける変異体コード配列の存在(したがって、「発現」とみなされる)に基づいて、発現変異体コード配列のより狭いセットを得ることができる。いくつかの実施態様において、変異体コード配列のセットは、トランスクリプトームシークエンシングデータベースを通じたフィルタリングにより、少なくとも約10、20、30、40、50倍、又はそれ以上の倍数で低減される。
【0073】
いくつかの実施態様において、変異体コード配列は、タンパク質において異なるアミノ酸をもたらす非同義変異(たとえば、点突然変異)から得られる配列である。いくつかの実施態様において、変異体コード配列は、終止コドンが修飾又は除去されて、新規腫瘍特異的配列をC末端に有するより長いタンパク質の翻訳をもたらす、リードスルー変異から得られる配列である。いくつかの実施態様において、変異体コード配列は、成熟mRNA内のイントロンの包含をもたらし、それゆえユニーク腫瘍特異的タンパク質配列をもたらす、スプライス部位変異から得られる配列である。いくつかの実施態様において、変異体コード配列は、2つのタンパク質の接合点において腫瘍特異的配列を有するキメラタンパク質をもたらす、染色体再編成(すなわち、遺伝子融合)から得られる配列である。いくつかの実施態様において、変異体コード配列は、新規腫瘍特異的タンパク質配列を有する新しいオープンリーディングフレームをもたらす、フレームシフト変異又は欠失から得られる配列である。いくつかの実施態様において、変異体コード配列は、1を超える変異から得られる配列である。いくつかの実施態様において、変異体コード配列は、1を超える変異機構から得られる配列である。
【0074】
エピトープ変異体コード配列を得る
いくつかの実施態様における本明細書に記載の変異体コード配列は、フィルタリングされ、MHC分子と結合すると予測されるペプチドをコードする変異体コード配列(「エピトープ変異体コード配列」)のより小さなセットが得られる。いくつかの実施態様において、変異体コード配列のセットは、MHC結合性予測プロセスを通じたフィルタリングにより、少なくとも約10、20、30、40、50、60、80、100、150、200、250、300倍、又はそれ以上の倍数で低減される。
【0075】
変異体コード配列によりコードされるペプチドのMHC(たとえばMHCI)結合能は、予測アルゴリズム、たとえばNETMHCにより評価できる。簡潔に述べれば、NETMHCは、Immune Epitope Database and Analysis Resource(IEDB)からの親和性データ及びSYFPEITHIからの溶出データの両方を使用した定量的ペプチドデータ上で訓練されたアルゴリズムである。8から14アミノ酸の間の長さのペプチドについて、MHCI結合性を予測できる。NETMHCは、55のMHC対立遺伝子(43ヒト及び12非ヒト)からの9アミノ酸長のアミノ酸配列上で訓練されたプレディクター(predictors)を使用する。より短い入力配列の予測を可能にするため、NETMHCは、8アミノ酸長のアミノ酸配列を仮想的に拡張する。9アミノ酸長よりも長い入力配列については、NETMHCは、入力配列内に含有されるあらゆる9アミノ酸長のアミノ酸配列を生成する。次にNETMHCは、訓練された人工ニューラルネットワーク及び位置特異的スコアリングマトリックスを使用して、MHC結合性を予測する。
【0076】
免疫原性変異体コード配列を選択する
いくつかの実施態様における本明細書において提供される方法は、変異体コード配列によりコードされる変異アミノ酸を含むペプチドの免疫原性を予測することを含む、免疫原性変異体コード配列を選択することをさらに含む。免疫原性の予測は、たとえば、ペプチド及び対応するペプチド前駆体の1つ又は複数のパラメーターを検討し、ペプチドが免疫原性である可能性を予測するプロセス(たとえば、インシリコプロセス)により実施できる。これらのパラメーターには、i)MHCI分子に対するペプチドの結合親和性、ii)ペプチドを含有するペプチド前駆体のタンパク質レベル、iii)ペプチド前駆体をコードする転写物の発現レベル、iv)免疫プロテアソームによるペプチド前駆体のプロセシング効率、v)ペプチド前駆体をコードする転写物の発現のタイミング、vi)TCR分子に対するペプチドの結合親和性、vii)ペプチド内の変異アミノ酸の位置、viii)MHCI分子に結合したときのペプチドの溶媒曝露、ix)MHCI分子に結合したときの変異アミノ酸の溶媒曝露、x)ペプチドにおける芳香族残基の含有量、及びxi)ペプチド前駆体の性質が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施態様において、免疫原性は、本明細書に記載の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個のパラメーターに基づく。
【0077】
いくつかの実施態様において、MHC分子に対するペプチドの結合親和性が、免疫原性を予測するために使用される。MHC分子に対するペプチドの結合親和性は、pMHCの安定性を予測するものでありえ、これはひいては、pMHCの持続的な提示を可能にしうるのであり、したがって、免疫細胞との潜在的相互作用のための細胞表面曝露を増加させる。結合親和性は、当該技術分野で公知の手法、たとえばRankPep、MHCBench、nHLAPred、SVMHC、NETMHCpan、及びPOPIを使用して予測でき、これらは、人工ニューラルネットワーク、平均相対結合性マトリックス、定量的マトリックス、及び安定化マトリックス法等の方法に基づく。いくつかの実施態様において、MHCに対するペプチドの結合親和性は、公知のアンカー位置に位置する特定のアミノ酸残基(MHC結合に関与するアミノ酸)の存在に基づく。いくつかの実施態様において、ペプチドの各残基が、結合へのその貢献度について評価される。いくつかの実施態様において、解析システムが、MHCと結合すると知られているペプチドで訓練される。いくつかの実施態様において、ペプチド-MHC分子の結合エネルギーが算出される。いくつかの実施態様において、MHCに結合するペプチドの予測親和性を評価するために、結合閾値、たとえばIC50値<500nMが使用される。
【0078】
いくつかの実施態様において、疾患組織におけるペプチド前駆体の発現レベルが、免疫原性を予測するために使用される。いくつかの実施態様において、タンパク質レベルが生化学的に(たとえばウェスタンブロット及びELISA)測定される。いくつかの実施態様において、タンパク質レベルは、公知の定量的質量分析法により測定できる。La Gruta等により実証されたとおり、疾患組織におけるペプチド前駆体の高発現レベルは、予測される免疫原性と相関させられうる。記述されたとおり、エピトーププロセシング経路内に供給される、より大量のペプチド前駆体の利用可能性は、エピトープ提示及び免疫原性応答の増加と正の相関があった(La Gruta, N. L.等, A virus-specific CD8+ T cell immunodominance hierarchy determined by antigen dose and precursor frequencies, Proceedings of the National Academy of Sciences, 2006, v.103, 994-999、参照によりここに援用する)。
【0079】
いくつかの実施態様において、疾患組織におけるペプチド前駆体をコードする転写物の発現レベルを、免疫原性を予測するために使用できる。いくつかの実施態様において、RNA発現レベルはRT-PCRにより測定される。いくつかの実施態様において、RNA発現レベルは配列解析により測定される。上で議論したとおり、エピトーププロセシング経路のため、ペプチド前駆体の利用可能性を増加させることは、前記ペプチド前駆体から得られる前記エピトープと関連づけられる免疫原性応答と、正の相関がある。さらに、mRNAレベルとタンパク質量との間の正の相関が観察されている(Ghaemmaghami,S.等,Global analysis of protein expression in yeast,Nature,2003,v.425,737-741、参照によりここに援用する)。したがって、疾患組織におけるペプチド前駆体をコードする転写物の発現レベルを、免疫原性を予測するために使用できる。
【0080】
いくつかの実施態様において、免疫プロテアソームによるペプチド前駆体のプロセシング効率が、免疫原性を予測するために使用される。本明細書において使用するペプチド前駆体の「プロセシング効率」は、原料アミノ酸配列(すなわち、より大きなペプチド又はタンパク質)が、MHCI分子との結合前に、発現、翻訳、転写、消化、輸送、及び任意のさらなるプロセシングを受ける効率を指す。「免疫プロテアソーム」は、エピトープ形成という最終的な目的のために、ペプチド及び/又はタンパク質前駆体を、小さなアミノ酸配列へと酵素的に消化するプロテアーゼの集合である。たとえば、Chen等により実証されたとおり、免疫プロテアソームのエピトープ前駆体を生成する能力は、免疫原性と直接相関する(Chen, W.等, Immunoproteasomes shape immunodominance hierarchies of antiviral CD8+ T cell repertoire and presentation of viral antigens, The Journal of Experimental Medicine, 2001, v.193, 1319-1326、参照によりここに援用する)。エピトーププロセシングに関与する段階についての知識を、得られたエピトープの免疫原性を予測するために使用できる。特に、免疫プロテアソームに関する研究は、それがMHCエピトープの製造において効率的であり、免疫プロテアソーム機構の理解が、免疫原性ペプチドの予測を容易にするだろうことを示唆する。
【0081】
いくつかの実施態様において、ペプチド前駆体の発現のタイミングを、免疫原性を予測するために使用できる。疾患進行の比較的早期に発現したタンパク質は、MHCエピトープとして提示される可能性がより高い(Moutaftsi, M.等, A consensus epitope prediction approach identifies the breadth of murine T CD8+-cell responses to vaccina virus, Nature Biotechnology, 2006, v.24, 817-819、参照によりここに援用する)。いくつかの実施態様において、疾患組織の比較分析を、遺伝子産物の時間的発現パターンを決定するために使用できる。いくつかの実施態様において、時間的発現パターンの推定は、他の同定される発現遺伝子産物と比較して、早期の時点で大量に提示される発現遺伝子産物の同定を可能にしうる。
【0082】
いくつかの実施態様において、T細胞受容体(TCR)とのペプチドエピトープの結合親和性を、免疫原性を予測するために使用できる。TCRとのペプチドエピトープの結合親和性を予測する方法は、当該技術分野で知られており、たとえば、Tung,C.-W.等,POPISK:T-cell reactivity prediction using support vector machines and string kernels,BMC Bioinformatics,2011,v.12,446において報告されており、これを参照によりここに援用する。
【0083】
いくつかの実施態様において、ペプチドにおける変異アミノ酸の位置が、免疫原性を予測するために使用される。ペプチドエピトープは、2つの異なるアンカー位置で、MHCI分子と結合する。アンカー位置間の間隔は、エピトープペプチド配列により測定して、アンカー位置を占めるアミノ酸を含まずに、約6~7アミノ酸により分離されている。2つのMHCIアンカー位置間のアミノ酸の間隔、すなわち、4~6位のアミノ酸における変異は、免疫原性応答と正の相関がある可能性がより高いことが報告されている(Calis, J. J. A.等, Properties of MHC class I presented peptides that enhance immunogenicity, PLOS Computational Biology, 2013, v.9, 1-13、参照によりここに援用する)。アミノ酸の配列位置は、1番の配列位置カウントを末端アミノ酸について開始することにより決定される。
【0084】
いくつかの実施態様において、MHC提示エピトープ上に提示されるペプチドの構造特性により、免疫原性を予測できる。MHC結合ペプチドの構造評価は、インシリコ3次元解析及び/又はタンパク質ドッキングプログラムにより実行できる。pMHC分子の構造を予測する方法は当該技術分野で知られており、たとえば、Marti-Renom,M.A.等,Comparative protein structure modeling of genes and genomes,Annual Review of Biophysics and Biomolecular Structure,2000,v.29,291-325、Chivian,D.等,Homology modeling using parametric alignment ensemble generation with consensus and energy-based model selection,Nucleic Acids Research,2006,v.34,e112、及びMcRobb,F.M.等,Homology modeling and docketing evaluation of aminergic G protein-coupled receptors,Journal of Chemical Information and Modeling,2010,v.50,626-637において報告されており、これらは参照によりここに援用される。たとえばRosettaアルゴリズムから取得される、MHC分子と結合するときの予測されるエピトープ構造の使用は、エピトープがMHC分子と結合するときの前記エピトープのアミノ酸残基の溶媒曝露度を評価するために使用できる。この情報を、ペプチドの免疫原性と実質的に相関させうる。たとえば、Park等により記述されたとおり、変異アミノ酸残基が野生型配列と比較してさらなる溶媒曝露を示す変異体ペプチドは、免疫原性の増加と正の相関がある(Park, M.-S.等., Accurate structure prediction of peptide-MHC complexes for identifying highly immunogenic antigens, Molecular Immunology, 2013, v.56, 81-90、参照によりここに援用する)。いくつかの実施態様において、MHC複合体上に提示されたときのペプチド全体の溶媒曝露が、免疫原性を予測するために使用される。いくつかの実施態様において、ペプチド上の変異アミノ酸の溶媒曝露が、免疫原性を予測するために使用される。
【0085】
いくつかの実施態様において、ペプチドにおける大きな及び/又は芳香族残基のエピトープ含有量を、免疫原性を予測するために使用できる。Calis等は、エピトープアミノ酸配列内の大きな及び/又は芳香族のアミノ酸残基の存在と、免疫原性との間の連関を観察した。具体的には、フェニルアラニン及びイソロイシン含有量は、エピトープ免疫原性と正の相関があることが報告された。上で議論したとおり、変異アミノ酸の位置及び構造評価の両方を、エピトープ免疫原性を予測するために使用できる。この議論に加えて、エピトープの4~6位内の大きな及び/又は芳香族残基が、大きな溶媒曝露度を有すると予測できることが仮定された。
【0086】
いくつかの実施態様において、ペプチド前駆体の性質を、変異体コードアミノ酸配列の免疫原性を予測するために使用できる。たとえば、疾患組織が腫瘍であるとき、がんと関連することが知られているペプチド前駆体配列が、免疫原性を予測するときに有用でありうる。しかしながら、がんと直接関連づけられないタンパク質からのペプチド前駆体配列もまた、たとえば、変異したとき、本発明の方法内で有用でありうる。
【0087】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載の少なくとも2つ(たとえば、3、4、5、6、7、8、9、又は10のうちの少なくとも任意の1つ)のパラメーターを、ペプチドの免疫原性を予測するために使用できる。いくつかの実施態様において、第1の予測評価を、変異体コードアミノ酸配列のセットを選択するために使用でき、それは続いて、第2の予測評価によりプロセシングされ、エピトープ免疫原性の累積予測をもたらす。エピトープ免疫原性を予測するために複数回の評価を使用できることは、本開示の一部として意図されている。代わりに、複数のパラメーターが並列的に評価され、様々なパラメーターの評価に基づく合成スコアが得られる。たとえば、パラメーターのそれぞれについてスコアを算出でき、各パラメーターにパーセンテージ重みを割り当てることができる。次に、合成スコアを、評価されたパラメーターのそれぞれのスコア及びパーセンテージ重みに基づいて算出できる。並列パラメーター評価と組み合わされた連続評価の組合せもまた使用できる。
【0088】
変異体コード配列における所定の差異について、様々な長さの複数の重複する推定変異体ペプチドを生成できる。一実施態様において、これらの複数の重複する推定変異体ペプチドは、免疫原性に基づいて順位付けされ、これは、本明細書に記載の1つ又は複数の解析を包含しうる。加えて、推定変異体ペプチドの順位付けは、順位付けプロセスを実行する者の好みに応じて、免疫原性決定に含めることができるか又は別個の解析と考えられる、当該技術分野で周知の任意の1つ又は複数の手段により達成できる。このような手段のいくつかの非限定的な例には、前駆体タンパク質の存在量、プロセシングの効率も含めたプロセシングされたプロテオーム内のペプチドの存在量、ペプチド-MHCI複合体内のペプチドの存在量が含まれる。可能な順位付け解析のさらなる例には、ペプチドの結合親和性、ペプチド-MHCI複合体の安定性、及び自己ペプチドとのペプチドの類似性又は差異性が含まれるが、これらに限定されない。代わりに、ペプチドを、当業者に周知であるか又は本明細書に記載されているこれら又は他の特性を測定する、質量分析法から生成されたデータとの相関に基づいて順位付けできる。いくつかの代表的な特性には、免疫原性を増加させる大きな又は芳香族のアミノ酸の存在又は非存在、及び、これらのアミノ酸がペプチド内に見出される特定の位置が含まれ、それらのアミノ酸に与えられる免疫原性の影響の好ましさは、ペプチドの中間の位置、たとえばペプチド4~6に見出される(たとえば、Calis等 PLOS, 9(10):e1003266 (2013)を参照のこと)。
【0089】
いくつかの実施態様において、免疫原性の予測は、HLA(ヒト白血球抗原)タイピング解析をさらに含む。MHCの多因性ゆえに、すべての人が、少なくとも3つの異なる抗原提示MHCクラスI分子及び3つ(又はときに4つ)のMHCクラスII分子をその細胞に発現する。実際、ほとんどの人の細胞上に発現する異なるMHC分子の数は、MHCの極端な多型及びMHC遺伝子産物の共優性発現ゆえに、より多くなる。いくつかのヒトMHCクラスI及びクラスII遺伝子の200を超える対立遺伝子が存在し、各対立遺伝子は、集団内に相対的に高い頻度で存在する。それゆえ、個体の両方の相同染色体上の対応するMHC遺伝子座が同じ対立遺伝子を有する確率はわずかしかなく、ほとんどの個体がMHC遺伝子座についてヘテロ接合である。単一の染色体上に見出されるMHC対立遺伝子の特定の組合せは、MHCハプロタイプとして知られている。MHC対立遺伝子の発現は共優性であり、ある遺伝子座の両方の対立遺伝子のタンパク質産物が細胞に発現し、両方の遺伝子産物がT細胞に抗原を提示可能である。したがって、各遺伝子座上の広範な多型は、個体に発現する異なるMHC分子の数を二倍にする可能性を有し、そのことにより、多因性を通じてすでに存在する多様性を増加させる(たとえば、概観については、Janeway’s Immunobiology, Murphy, Kenneth編, Garland Science, New York, NY (2011)を参照のこと)。HLAタイピングは、先行技術において公知のいくつかの方法のうちの任意の1つ、たとえばDNAベースの組織適合性アッセイを使用して達成できる。当該技術分野における方法の特定の例には、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)産物がさらに解析されるもの、たとえばPCR-RFLP(制限断片長多型)、PCR-SSO(配列特異的オリゴヌクレオチド)、PCR-SSP(配列特異的プライマー)、及びPCR-SBT(配列ベースタイピング)法を含む。したがって、目的のペプチドの提示に関与する特定の遺伝子多型タイプを決定することにより、変異体ペプチドの免疫原性についてのさらなる情報を提供できる。
【0090】
MHC分子に結合したペプチドを得る
いくつかの実施態様における本明細書において提供される方法は、個体の疾患組織からMHC分子に結合したペプチドを得ることを含む。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドは、免疫親和性法により単離される。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドは、アフィニティークロマトグラフィーにより単離される。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドは、免疫親和性アフィニティークロマトグラフィーにより単離される。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドは、免疫沈降法により単離される。
【0091】
いくつかの実施態様において、抗MHC抗体が、MHC/ペプチド分子を捕捉するために使用される。いくつかの実施態様において、任意選択的に異なる親和性及び/又は結合特性を有する、複数の抗MHC抗体を、MHC/ペプチド複合体を捕捉するために使用できる。好適な抗体には、HLAクラスIに特異的なモノクローナル抗体W6/32、及びHLA-A2に特異的なモノクローナル抗体BB7.2が含まれるが、これらに限定されない。
【0092】
いくつかの実施態様において、MHC/ペプチド複合体をまず単離でき、MHC結合ペプチドを続いてMHC分子から分離する。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドは、酸溶出によりMHC分子から分離される。いくつかの実施態様において、MHC分子からのMHC結合ペプチドの酸媒介性分離は、インタクトな細胞全体で、任意選択的に溶解細胞及び/又は細胞残余物の存在下で実施できる。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドは、酸性pHを有するバッファーへのpMHCの曝露後に、MHC分子から分離できる。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドは、弱酸溶出(MAE)によりMHC分子から分離できる。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドは、細胞外表面の弱酸溶出(MAE)により、MHC分子から分離できる。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドは、pMHC分子の変性により、MHC分子から分離できる。
【0093】
いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドを、質量分析ベースのシークエンシング前に、さらにプロセシングできる。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドを、質量分析ベースのシークエンシング前に濃縮できる。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドを、質量分析ベースのシークエンシング前に精製できる。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドを、質量分析ベースのシークエンシング前に分画できる。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドを、質量分析ベースのシークエンシング前に富化できる。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドを、質量分析ベースのシークエンシング前に、さらに酵素的に消化できる。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドが含有されうるバッファーを、質量分析ベースのシークエンシング前に交換できる。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドを、質量分析ベースのシークエンシング前に標識できる。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドを、質量分析ベースのシークエンシング前に共有結合的に標識できる。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドを、質量分析ベースのシークエンシング前に酵素的に標識できる。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドを、質量分析ベースのシークエンシング前に化学的に標識できる。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドを標識し、質量分析ベースのシークエンシング中のイオン化増強を可能にしうる。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドを標識し、質量分析ベースのシークエンシング中の定量を可能にしうる。いくつかの実施態様において、単離MHC結合ペプチドは、複数のソース及び/又は富化手順に由来してもよく、任意選択的に、質量分析ベースのシークエンシング前に集合的にプールされてもよい。
【0094】
質量分析ベースのペプチドシークエンシング
本明細書に記載の方法におけるMHC分子に結合したペプチドは、質量分析シークエンシングに供される。本明細書において使用する「質量分析ベースのシークエンシング」は、質量分析の使用によりペプチド及び/又はタンパク質のアミノ酸配列を同定する手法を指す。質量分析計は、個別のイオン化分子の質量対電荷(m/z)比を測定可能な機器であり、研究者が、未知の化合物を同定すること、公知の化合物を定量すること、並びに分子の構造及び化学特性を解明することを可能にする。本明細書において提供される方法は、MHCI分子に結合したペプチドエピトープの配列情報を得るために使用できる。いくつかの実施態様において、ペプチドエピトープの全配列を決定できる。いくつかの実施態様において、ペプチドエピトープの部分配列を決定できる。いくつかの実施態様において、ペプチドは、タンデム質量分析、たとえばタンデムクロマトグラフィー質量分析(たとえばLC-MS又はLC-MS-MS)に供される。
【0095】
いくつかの実施態様において、試料を単離して機器上にロードすることにより質量分析が開始される。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドを、質量分析前にクロマトグラフィー処理できる。いくつかの実施態様において、クロマトグラフィーは、液体クロマトグラフィーである。いくつかの実施態様において、クロマトグラフィーは、逆相クロマトグラフィーである。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドは、質量分析計内への導入前に、クロマトグラフィー分離でき、同時に濃縮できる。いくつかの実施態様において、クロマトグラフィー分離はオンラインであってもよく、クロマトグラフィー源から溶出するペプチドは、質量分析計内に直接進入する。いくつかの実施態様において、クロマトグラフィー分離はオフラインであってもよい。いくつかの実施態様において、オフラインクロマトグラフィー分離は、単離MHC結合ペプチドを分画するために使用できる。オフラインクロマトグラフィー分離は、典型的には、質量分析試料の分離及び/又は分画を伴い、得られた分離及び/又は分画試料はクロマトグラフィー系を出る際に、質量分析計内に直接導入されない。
【0096】
いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドは、公知の質量分析イオン化法(たとえば、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化、エレクトロスプレーイオン化、及び/又はナノエレクトロスプレーイオン化、大気圧化学イオン化)を使用してシークエンシングできる。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドは、質量分析計の外側で、内側で、及び/又はそれに進入する際に、イオン化できる。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドの陽イオンを、質量分析計において分析できる。続いて、イオンは、それらの質量対電荷比に従い、磁場への曝露を介して分離される。いくつかの実施態様において、セクター型機器が使用され、イオンは、イオンの質量対電荷比と直接相関する、機器の磁場を通過する際のイオンの軌道の偏向の強度に従い定量される。他の実施態様において、イオン質量対電荷比は、イオンが四重極を通過する際に、又は3次元若しくはリニアイオントラップ若しくはオービトラップにおける、又はフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計の磁場におけるそれらの運動に基づいて、測定される。機器は、各イオンの相対存在量を記録し、それは、元の試料の化学、分子及び/又は同位体組成を決定するために使用される。いくつかの実施態様において、飛行時間型機器が使用され、電場を利用し、その電位を通じてイオンを加速させ、各イオンが検出器に到達するのにかかる時間を測定する。この手法は、各イオンの運動エネルギーが同一であるよう、各イオンの電荷が均一であることに依存する。このシナリオにおける速度に影響する唯一の変数は質量であり、より軽いイオンがより速い速度で移動し、結果としてより早く検出器に到達する。得られたデータを強度対質量対電荷比(intensity vs. mass-to-charge ratio)のマススペクトル又はヒストグラムで表し、ピークはイオン化化合物又は断片を表す。
【0097】
マススペクトルデータは、タンデム質量分析により得ることができる。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドのペプチドシークエンシングのための情報を取得するための質量分析取得法は、データ依存的であってもよい。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドのペプチドシークエンシングのための情報を取得するための質量分析取得法は、データ独立的であってもよい。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドのペプチドシークエンシングのための情報を取得するための質量分析取得法は、測定された正確な質量分析に基づいていてもよい。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドのペプチドシークエンシングのための情報を取得するための質量分析取得法は、ペプチドマスフィンガープリンティングであってもよい。本発明において有用なマススペクトルデータは、ペプチドマスフィンガープリンティングにより得ることができる。ペプチドマスフィンガープリンティングは、タンパク質分解性消化により生成されたペプチドの混合物のスペクトルから観察された質量をデータベースに入力し、観察された質量を、公知のタンパク質の消化から生じた断片の予測された質量とインシリコで相関させることを伴う。試料質量に対応する公知の質量は、公知のタンパク質が試験された試料中に存在する証拠を提供する。
【0098】
いくつかの実施態様において、タンデム質量分析は、ペプチドイオンを気体と衝突させ、(たとえば、衝突により付与された振動エネルギーにより)断片化するプロセスを含む。断片化プロセスは、タンパク質に沿って様々な部位のペプチド結合において破断した切断産物をもたらす。観察された断片の質量を、多くの与えられたペプチド配列のうちの1つのための予測された質量のデータベースとマッチングでき、タンパク質の存在を予測できる。いくつかの実施態様において、質量分析取得法は、断片化法(たとえば、衝突誘起解離、パルス化Q解離、高エネルギー衝突解離、電子移動解離、及び電子移動解離、赤外多光子解離)を利用できる。
【0099】
いくつかの実施態様において、質量分析計から取得されるデータは、ペプチド配列を同定するために使用できる。いくつかの実施態様において、探索アルゴリズム(たとえば、SEQUEST及びMascot)を、ペプチド配列を取得マススペクトルに割り当てるために使用できる。いくつかの実施態様において、割り当てられたペプチド配列は、約5%未満の偽発見率を有していてもよい。いくつかの実施態様において、割り当てられたペプチド配列は、約1%未満の偽発見率を有していてもよい。いくつかの実施態様において、割り当てられたペプチド配列は、約0.5%未満の偽発見率を有していてもよい。いくつかの実施態様において、データベースは、探索アルゴリズムにより、ペプチド配列を取得スペクトルに割り当てるために使用できる。いくつかの実施態様において、探索アルゴリズムにより、ペプチド配列を取得スペクトルに割り当てるために使用されるデータベースは、生物体の公知の配列のデータベースであってもよい。いくつかの実施態様において、探索アルゴリズムにより、ペプチド配列を取得スペクトルに割り当てるために使用されるデータベースは、生物体の公知のタンパク質のデータベースであってもよい。いくつかの実施態様において、探索アルゴリズムにより、ペプチド配列を取得スペクトルに割り当てるために使用されるデータベースは、生物体の公知のゲノム配列のデータベースであってもよい。いくつかの実施態様において、探索アルゴリズムにより、ペプチド配列を取得スペクトルに割り当てるために使用されるデータベースは、疾患組織から得られた配列情報を含んでいてもよい。いくつかの実施態様において、探索アルゴリズムにより、ペプチド配列を取得スペクトルに割り当てるために使用されるデータベースは、疾患のない組織から得られた配列情報を含んでいてもよい。
【0100】
いくつかの実施態様において、スペクトルに割り当てられた配列は、アルゴリズムによる正確な断片イオン割当てを確証するために、マニュアルで検証できる。いくつかの実施態様において、合成ペプチド標準を、アルゴリズム割当て配列を確証するために使用できる。いくつかの実施態様において、MHC結合ペプチドから生成されたスペクトルを、ペプチド標準から生成されたスペクトルと比較できる。たとえば、比較は、基準に対する疾患組織ソースから取得されたスペクトルのm/z値に基づく、断片イオンのパターン、及び任意選択的に断片存在量又は強度のマッチングを伴っていてもよい。いくつかの実施態様において、マニュアルの検証は、完全ペプチド配列の配列割当てを確証できる。いくつかの実施態様において、マニュアルの検証は、ペプチド配列の部分セグメントの配列割当てを確証できる。
【0101】
質量分析及びゲノムデータの相関
いくつかの実施態様における本明細書において提供される方法は、MHC結合ペプチドの質量分析由来配列情報を、変異体コード配列のセットと相関させ、疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを同定することを含む。たとえば、MHC結合ペプチドの質量分析配列を、予測された疾患特異的免疫原性変異体ペプチドの集団をさらに選択するために使用できる。いくつかの実施態様において、質量分析ベースのエピトープ同定は、ゲノムベースの免疫原性エピトープ同定及び/又は予測を補足できる。いくつかの実施態様において、質量分析ベースのエピトープ同定は、ゲノムベースの免疫原性エピトープ同定及び/又は予測を確証できる。
【0102】
質量分析から得られたデータは、疾患組織のゲノム及び/又はトランスクリプトーム配列解析に基づく免疫原性ペプチド予測と相関させうる。一般に、質量分析ベースのシークエンシングから同定されたアミノ酸配列は、予測された免疫原性ペプチドのアミノ酸配列と比較され、部分配列アラインメントを含む領域が見出される。いくつかの実施態様において、質量分析を介して同定されたペプチドは、予測された免疫原性ペプチドの配列と正確に一致する配列である。いくつかの実施態様において、アミノ酸配列の長さは、質量分析を介して同定されたペプチドと、予測された免疫原性ペプチドのものとの間で変化してもよい。たとえば、質量分析を介して同定されたペプチドは、予測された免疫原性ペプチドと比較して、ペプチドのC及び/又はN末端に修飾(amended)された追加のアミノ酸を含有していてもよい。代わりに、変異アミノ酸を含む質量分析を介して同定されたペプチドは、予測された免疫原性ペプチドと比較して、C及び/又はN末端上により少ないアミノ酸を有していてもよい。これらの例示的実施態様において、変異アミノ酸及び変異アミノ酸を囲む配列は、質量分析を介して同定されたペプチド及び免疫原性と予測されたペプチドの両方で同じでなければならない。いくつかの実施態様において、質量分析ベースの配列を免疫原性ペプチド予測と相関させることから得られる結果は、予測された免疫原性配列を、質量分析ベースのシークエンシングを介してMHC分子により物理的に提示されると確証される配列とマッチングするものである。
【0103】
いくつかの実施態様において、取得される質量分析配列同定を、ペプチド長によりさらにフィルタリングできる。たとえば、いくつかの実施態様において、質量分析により同定されるMHC結合ペプチドの集団を、8又は9アミノ酸の長さである同定されたペプチド配列しか含まないように、さらにフィルタリングできる。
【0104】
免疫原性変異体ペプチドの機能検証
本明細書に記載の方法により同定される疾患特異的な免疫原性変異体ペプチドを、機能研究によりさらに検証できる。たとえば、ペプチドを、標的化免疫応答(たとえば、細胞傷害性T細胞により媒介されるもの)を活性化する能力に基づいて合成及び試験できる。いくつかの実施態様において、ペプチドは、化学的に合成される。いくつかの実施態様において、ペプチドは、組換え法により合成される。いくつかの実施態様において、ペプチドは、ペプチド前駆体分子をまず発現させ、次にそれが(たとえば免疫プロテアソームにより)プロセシングされて、目的のペプチドを生成することにより合成される。合成されたペプチドは、機能解析に供される前に、さらなる精製に供されうる。
【0105】
いくつかの実施態様において、合成の予測された疾患特異的免疫原性ペプチドが、細胞傷害性T細胞応答について試験するためにインビトロで使用される。いくつかの実施態様において、合成の予測された疾患特異的免疫原性ペプチドが、細胞傷害性T細胞応答について試験するためにインビボで使用される。
【0106】
いくつかの実施態様において、疾患特異的ペプチドの免疫原性は、マウスの免疫化により試験できる。いくつかの実施態様において、疾患特異的ペプチドの免疫原性は、免疫化後にCD8 T細胞応答を測定することにより試験できる。いくつかの実施態様において、CD8 T細胞応答は、MHCI/ペプチド特異的デキストラマーを使用して測定できる。いくつかの実施態様において、疾患特異的ペプチドの免疫原性は、腫瘍浸潤細胞(TIL)を解析することにより試験できる。
【0107】
いくつかの実施態様において、特異的エピトープ及び/又は細胞表面タンパク質の存在を測定できる。いくつかの実施態様において、ワクチン接種に由来するエピトープの存在を測定できる。いくつかの実施態様において、インターフェロンガンマ(IFN-γ)を測定できる。いくつかの実施態様において、プログラム細胞死1(PD-1)を測定できる。いくつかの実施態様において、T細胞免疫グロブリンムチン-3(TIM-3)を測定できる。いくつかの実施態様において、特異的タンパク質及び/又はエピトープを発現する細胞傷害性T細胞を測定できる。いくつかの実施態様において、特異的エピトープをディスプレイする細胞傷害性T細胞を測定できる。
【0108】
いくつかの実施態様において、疾患特異的ペプチドの免疫原性は、まず樹状細胞においてペプチドを発現させ、次に、T細胞により認識される提示抗原の能力について試験することにより、試験できる。いくつかの実施態様において、樹状細胞は患者から得られ、疾患特異的ペプチドが前記患者において同定されている。いくつかの実施態様において、疾患特異的ペプチドの免疫原性は、まずBリンパ球においてペプチドを発現させ、次に、T細胞により認識される提示抗原の能力について試験することにより、試験できる。いくつかの実施態様において、Bリンパ球は患者から得られ、疾患特異的ペプチドが前記患者において同定されている。たとえば、米国特許第8349558号を参照のこと。
【0109】
免疫原性ペプチドの組成物
本開示は、疾患特異的免疫原性ペプチドを同定する方法を提供する。免疫原性ペプチドを、標的化免疫応答(たとえば、細胞傷害性T細胞により媒介されるもの)を活性化する能力に基づいて同定できる。いくつかの実施態様において、同定された疾患特異的免疫原性ペプチドのアミノ酸配列を、薬学的に許容される組成物を開発するために使用できる。いくつかの実施態様において、組成物は、合成疾患特異的免疫原性ペプチドを含んでいてもよい。いくつかの実施態様において、組成物は、合成疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを含んでいてもよい。いくつかの実施態様において、組成物は、2つ以上の疾患特異的免疫原性ペプチドを含んでいてもよい。いくつかの実施態様において、組成物は、2つ以上の疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを含んでいてもよい。いくつかの実施態様において、2つ以上の疾患特異的免疫原性ペプチドは、2つ以上のユニークエピトープに対する細胞傷害性T細胞応答を活性化させてもよい。
【0110】
いくつかの実施態様において、組成物は、疾患特異的免疫原性ペプチドの前駆体(たとえば、タンパク質、ペプチド、DNA及びRNA)を含んでいてもよい。いくつかの実施態様において、疾患特異的免疫原性ペプチドの前駆体は、同定された疾患特異的免疫原性ペプチドを生成し、又はそれへと生成されてもよい。いくつかの実施態様において、疾患特異的免疫原性ペプチドの前駆体は、プロドラッグであってもよい。
【0111】
いくつかの実施態様において、疾患特異的免疫原性ペプチドを含む組成物は、薬学的に許容されうる。いくつかの実施態様において、疾患特異的免疫原性ペプチドを含む組成物は、アジュバントをさらに含んでいてもよい。たとえば、変異ペプチドをワクチンとして利用できる(Sahin等, Int. J. Cancer, 78:387-9 (1998); Stumiolo等, Nature Biotechnol, 17:555-61 (1999); Rammensee等, Immunol Rev 188:164-76 (2002);及びHannani等 Cancer J 17:351-358 (2011)を参照のこと)。さらに、ワクチンは、特定の患者の個人的必要性に従い、個別化成分を含有していてもよい。いくつかの実施態様において、ワクチンは、特定の患者において予測された免疫原性ペプチドに特異的であってもよい。いくつかの実施態様において、ワクチンは、1を超える免疫原性ペプチド又はペプチド前駆体を含有する。いくつかの実施態様において、ワクチンにおいて使用されるペプチドの長さは、長さが変化してもよい。いくつかの実施態様において、ペプチドは、約7~50アミノ酸の長さ(たとえば、約8、9、10、11、12、13、14、15、17、20、22、25、30、35、40、45、又は50アミノ酸の長さのうちの任意のもの)である。いくつかの実施態様において、ペプチドは、約8~12アミノ酸の長さである。いくつかの実施態様において、ペプチドは、約8~10アミノ酸の長さである。ペプチドをその単離形態で利用できるか、又は代わりに、ペプチドをMHC単離ペプチドの末端に付加して、より免疫原性が高いと判明しうる「長いペプチド」を生成できる(たとえば、Castle等, Cancer Res 72:1081-1091 (2012)を参照のこと)。いくつかの実施態様において、ペプチドはまたタグ化されていてもよく、又は融合タンパク質であってもよく、又は混成分子であってもよい。いくつかの実施態様において、ペプチドは、薬学的に許容される塩の形態である。
【0112】
いくつかの実施態様において、ワクチンは核酸ワクチンである。いくつかの実施態様において、核酸は、免疫原性ペプチド又はペプチド前駆体をコードする。いくつかの実施態様において、核酸ワクチンは、免疫原性ペプチド又はペプチド前駆体をコードする配列に隣接する配列を含む。いくつかの実施態様において、核酸ワクチンは、1を超える免疫原性エピトープを含む。いくつかの実施態様において、核酸ワクチンは、DNAベースのワクチンである。いくつかの実施態様において、核酸ワクチンは、RNAベースのワクチンである。いくつかの実施態様において、RNAベースのワクチンは、mRNAを含む。いくつかの実施態様において、RNAベースのワクチンは、裸のmRNAを含む。いくつかの実施態様において、RNAベースのワクチンは、修飾mRNA(たとえば、プロタミンを使用して分解から保護されたmRNA。修飾5’CAP構造を含有するmRNA、又は修飾ヌクレオチドを含有するmRNA)を含む。いくつかの実施態様において、RNAベースのワクチンは、一本鎖mRNAを含む。
【0113】
ポリヌクレオチドは、実質的に純粋でもよく、又は好適なベクター又は送達系に含有されていてもよい。好適なベクター及び送達系には、ウイルス、たとえばアデノウイルス、ワクシニアウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、アデノ随伴ウイルス又は1を超えるウイルスの要素を含有するハイブリッドに基づく系が含まれる。非ウイルス送達系には、カチオン性脂質及びカチオン性ポリマー(たとえば、カチオン性リポソーム)が含まれる。いくつかの実施態様において、物理的送達、たとえば「遺伝子銃」を用いたものを使用できる。
【0114】
いくつかの実施態様において、本明細書に記載のペプチドは、変異体ペプチド特異的治療剤、たとえば抗体治療剤を製造するために使用できる。たとえば、変異体ペプチドは、変異体ペプチドを特異的に認識する抗体を産生及び/又は同定するために使用できる。これらの抗体は、治療剤として使用できる。合成短ペプチドが、タンパク質反応性抗体を生成するために使用された。合成ペプチドで免疫化することの利点は、無制限量の純粋安定抗原を使用できることである。この手法は、短ペプチド配列を合成すること、それらを大きな担体分子に連結すること、及び選択した動物をペプチド-担体分子で免疫化することを伴う。抗体の特性は、一次配列情報に依存する。配列及び連結方法を注意深く選択することで、所望のペプチドに対する良好な応答を通常は生成できる。ほとんどのペプチドが、良好な応答を誘発できる。抗ペプチド抗体の利点は、それらを、変異体ペプチドのアミノ酸配列を決定した直後に調製でき、抗体製造のためにタンパク質の特定の領域を特異的に標的化できる点である。変異体ペプチドは高い免疫原性についてスクリーニングされてきたので、得られた抗体が腫瘍設定においてネイティブタンパク質を認識する確率は高い。ワクチンの状況と同様に、ペプチドの長さは、検討すべき別の重要な因子である。近似的に、10~15残基のペプチドが、抗ペプチド抗体産生に最適であり、より長いペプチドがより良好である。なぜなら、可能なエピトープの数がペプチド長とともに増加するからである。しかしながら、長いペプチドは、合成、精製、及び担体タンパク質との連結における困難性を増加させる。抗体の質は、ペプチドの質に依存する。ペプチド産物中に含有される副産物は、質の低い抗体をもたらしうる。
【0115】
ペプチド-担体タンパク質連結は、高力価抗体の産生に関与する別の因子である。ほとんどの連結方法は、アミノ酸の反応性官能基、たとえば-NH2、-COOH、-SH及びフェノール性-OHに依存する。部位特異的連結は最良の方法である。抗ペプチド抗体産生において使用される任意の好適な方法は、本発明の方法により同定されるペプチドとともに利用できる。2つのこのような公知の方法は、多重抗原ペプチド系(MAPs)及び脂質コアペプチド(LCP法)である。MAPsの利点は、コンジュゲーション方法を必要としない点である。担体タンパク質又はリンケージ結合(linkage bond)は、免疫化宿主内に導入されない。欠点の一つは、ペプチドの純度の制御がより難しくなる点である。加えて、MAPsは、いくつかの宿主の免疫応答系を迂回できる。LCP法は、他の抗ペプチドワクチン系よりも高い力価を提供することが知られており、したがって有利でありうる。
【0116】
本明細書においてまた提供されるのは、本明細書に開示の疾患特異的免疫原性変異体ペプチドを含む単離MHC/ペプチド複合体である。このようなMHC/ペプチド複合体は、たとえば、抗体、可溶型TCR、又はTCRアナログを同定するために使用できる。これらの抗体のあるタイプは、TCRミミックと呼ばれてきた。なぜならそれらは、特定のHLA環境の文脈において腫瘍関連抗原からのペプチドと結合する抗体だからである。このタイプの抗体は、表面上に複合体を発現する細胞の溶解を媒介するとともに、マウスを複合体を発現する移植がん細胞株から保護することが示されてきた(たとえば、Wittman等, J. of Immunol. 177:4187-4195 (2006)を参照のこと)。IgG mAbsとしてのTCRミミックの利点の一つは、親和性成熟を実施でき、分子が提示Fc領域を通じて免疫エフェクター機能と連結される点である。これらの抗体はまた、腫瘍に対する治療用分子、たとえば毒素、サイトカイン、又は薬物製品を標的化するために使用できる。ペプチド、たとえば非ハイブリドーマベースの抗体産生又は結合能を有する抗体断片、たとえばバクテリオファージ上の抗ペプチドFab分子の産生を使用して、本発明の方法を使用して選択されたものを使用して、他のタイプの分子が開発された。これらの断片はまた、腫瘍送達のための他の治療用分子、たとえば抗ペプチドMHC Fab-イムノトキシンコンジュゲート、抗ペプチドMHC Fab-サイトカインコンジュゲート及び抗ペプチドMHC Fab-薬物コンジュゲートにコンジュゲートできる。
【0117】
免疫原性ワクチンを含む治療の方法
本開示は、免疫原性ワクチンを含む治療の方法を提供する。いくつかの実施態様において、疾患(たとえばがん)のための治療の方法が提供され、これは、個体に免疫原性ペプチドを含む有効量の組成物を投与することを含んでいてもよい。いくつかの実施態様において、疾患(たとえばがん)のための治療の方法が提供され、これは、個体に免疫原性ペプチドの前駆体を含む有効量の組成物を投与することを含んでいてもよい。いくつかの実施態様において、免疫原性ワクチンは、薬学的に許容される疾患特異的免疫原性ペプチドを含んでいてもよい。いくつかの実施態様において、免疫原性ワクチンは、疾患特異的免疫原性ペプチドの薬学的に許容される前駆体(たとえば、タンパク質、ペプチド、DNA及びRNA)を含んでいてもよい。いくつかの実施態様において、疾患(たとえばがん)のための治療の方法が提供され、これは、個体に疾患特異的な免疫原性変異体ペプチドを特異的に認識する有効量の抗体を投与することを含んでいてもよい。いくつかの実施態様において、疾患(たとえばがん)のための治療の方法が提供され、これは、個体に疾患特異的な免疫原性変異体ペプチドを特異的に認識する有効量の可溶型TCR又はTCRアナログを投与することを含んでいてもよい。
【0118】
いくつかの実施態様において、がんは、カルシノーマ、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、白血病、扁平上皮がん、肺がん(小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺の腺がん、及び肺の扁平上皮癌がんを含む)、腹膜のがん、肝細胞がん、胃がん(gastric or stomach cancer)(胃腸がんを含む)、膵臓がん、膠芽細胞腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がん、肝がん、乳がん、結腸がん、メラノーマ、子宮内膜又は子宮癌、唾液腺がん、腎臓又は腎がん、肝臓がん、前立腺がん、外陰部がん、甲状腺がん、肝細胞がん、頭頸部がん、結腸直腸がん、直腸がん、軟組織肉腫、カポジ肉腫、B細胞リンパ腫(低悪性度/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)、小リンパ球性(SL)NHL、中悪性度/濾胞性NHL、中悪性度びまん性NHL、高悪性度免疫芽球性NHL、高悪性度リンパ芽球性NHL、高悪性度小型非開裂細胞性NHL、巨大病変NHL、マントル細胞リンパ腫、AIDS関連リンパ腫、及びワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症を含む)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、骨髄腫、ヘアリー細胞白血病、慢性骨髄芽球性白血病、及び移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)、並びに母斑症と関連する異常血管増殖、浮腫(たとえば、脳腫瘍と関連するもの)、及びメイグス症候群のうちの任意の1つである。
【0119】
本明細書に記載の方法は、オーダーメイド医療の文脈において特に有用であり、本明細書に記載の方法のうちの任意の1つにより得られる疾患特異的な免疫原性変異体ペプチドが、同じ個体のための治療剤(たとえばワクチン又は治療抗体)を開発するために使用される。したがって、たとえば、いくつかの実施態様において、a)個体において疾患特異的な免疫原性変異体ペプチドを同定すること、及びb)ペプチド又はペプチド前駆体を合成すること、及びc)ペプチドを個体に投与することを含む、個体における疾患(たとえば、がん)を治療する方法が提供される。いくつかの実施態様において、a)個体において疾患特異的な免疫原性変異体ペプチドを同定すること、b)変異体ペプチドを特異的に認識する抗体を製造すること、及びc)ペプチドを個体に投与することを含む、個体における疾患(たとえば、がん)を治療する方法が提供される。いくつかの実施態様において、同定工程は、配列特異的変異体同定法を免疫原性予測法と組み合わせる。いくつかの実施態様において、同定工程は、配列特異的変異体同定法を質量分析と組み合わせる。本明細書に記載の疾患特異的な免疫原性変異体ペプチドの任意の同定する方法を、本明細書に記載の治療方法のために使用できる。いくつかの実施態様において、本方法は、個体から疾患組織の試料を得ることをさらに含む。
【0120】
本明細書において提供される方法は、がんを有すると診断されているか、又は有する疑いのある個体(たとえば、ヒト)を治療するために使用できる。いくつかの実施態様において、個体はヒトであってもよい。いくつかの実施態様において、個体は少なくとも約35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、又は85歳のうちの任意の年齢であってよい。いくつかの実施態様において、個体は男性であってもよい。いくつかの実施態様において、個体は女性であってもよい。いくつかの実施態様において、個体は手術を拒否したことがあってもよい。いくつかの実施態様において、個体は医学的に手術不能であってもよい。いくつかの実施態様において、個体はTa、Tis、Tl、T2、T3a、T3b、又はT4の臨床病期であってもよい。いくつかの実施態様において、がんは再発性であってもよい。いくつかの実施態様において、個体は、がんと関連づけられる1つ又は複数の症候を示すヒトであってもよい。実施態様のいくつかにおいて、個体は、がんを発症する遺伝的又はそれ以外の素因(たとえば、危険因子を有する)があってもよい。
【0121】
本明細書において提供される方法は、アジュバント設定において実施できる。いくつかの実施態様において、本方法はネオアジュバント設定において実施され、すなわち、本方法は、一次的/決定的治療法の前に実施できる。いくつかの実施態様において、本方法は、以前に治療された個体を治療するために使用される。本明細書において提供される治療の方法のうちの任意のものを、以前に治療されていない個体を治療するために使用できる。いくつかの実施態様において、本方法は、一次選択治療法として使用される。いくつかの実施態様において、本方法は、二次選択治療法として使用される。
【0122】
いくつかの実施態様において、個体に免疫原性ワクチンを含む有効量の組成物を投与することを含む、個体における既存のがん腫瘍転移(たとえば、肺転移又はリンパ節への転移)の発生率又は負担を低減する方法が提供される。
【0123】
いくつかの実施形態において、個体に免疫原性ワクチンを含む有効量の組成物を投与することを含む、個体におけるがんの疾患進行時間を延長する方法が提供される。
【0124】
いくつかの実施形態において、個体に免疫原性ワクチンを含む有効量の組成物を投与することを含む、がんを有する個体の生存期間を延長する方法が提供される。
【0125】
いくつかの実施態様において、少なくとも1つ又は複数の化学療法剤を、免疫原性ワクチンを含む組成物に加えて投与できる。いくつかの実施態様において、1つ又は複数の化学療法剤は、異なるクラスの化学療法剤に属していてもよい(が、必ずしもそうではない)。
【0126】
いくつかの実施態様において、a)免疫原性ワクチン、及びb)免疫調節剤を投与することを含む、個体における疾患(たとえば、がん)を治療する方法が提供される。いくつかの実施態様において、a)免疫原性ワクチン、及びb)チェックポイントタンパク質のアンタゴニストを含む、個体における疾患(たとえば、がん)を治療する方法が提供される。いくつかの実施態様において、a)免疫原性ワクチン、及びb)プログラム細胞死1(PD-1)のアンタゴニスト、たとえば抗PD-1を投与することを含む、個体における疾患(たとえば、がん)を治療する方法が提供される。いくつかの実施態様において、a)免疫原性ワクチン、及びb)プログラム死-リガンド1(PD-L1)のアンタゴニスト、たとえば抗PD-L1を投与することを含む、個体における疾患(たとえば、がん)を治療する方法が提供される。いくつかの実施態様において、a)免疫原性ワクチン、及びb)細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)のアンタゴニスト、たとえば抗CTLA-4を投与することを含む、個体における疾患(たとえば、がん)を治療する方法が提供される。
【実施例0127】
実施例1
この実施例は、免疫原性ペプチドエピトープの予測のための例示的方法を実証する。
【0128】
全エクソームシークエンシングを、MC-38及びTRAMP-C1マウス腫瘍細胞株上で実施し、腫瘍特異的点突然変異を同定した。コード変異体を基準マウスゲノムに対して呼び出し、MC-38及びTRAMP-C1において、それぞれ4285及び949の非同義変異体を同定した。続いて、データをRNA-Seq解析により遺伝子発現についてフィルタリングし、1290及び67の変異遺伝子がそれぞれMC-38及びTRAMP-C1において発現したことを明らかにした。MC-38における170の予測されたネオエピトープ及びTRAMP-C1腫瘍における6の予測されたネオエピトープを、NETMHC-3.4アルゴリズムを使用して同定した。
【0129】
次に、トランスクリプトーム生成FASTAデータベースを使用した質量分析が、MC-38細胞株により提示された797のユニークH-2Kbエピトープ及び725のユニークH-2Dbエピトープ、並びにTRAMP-C1細胞株により提示された477のユニークH-2Kbエピトープ及び332のユニークH-2Dbエピトープを明らかにした。豊富な転写物に由来するペプチドは、MC-38(図2A)及びTRAMP-C1(図2B)細胞においてMHC1により提示される可能性がより高いことを観察した。
【0130】
MC-38及びTRAMP-C1におけるそれぞれ1290及び67のアミノ酸変化のうち、7(MC-38において7及びTRAMP-C1において0)だけがMHCI上に提示されると、質量分析により見出された(表1)。がん精巣自己抗原MAGE-D1に由来するエピトープの1つがまた、MC-38細胞において質量分析により検出された。これらのペプチドを、正確性を期してマニュアルで検証し、ペプチドの合成的に生成されたバージョンと比較した。これらのネオエピトープのうち1つを除くすべてが、MHCIと結合すると予測された(IC50<500nm、表1)。野生型(WT)及び変異転写物の両方が腫瘍細胞により発現し、対応するWTペプチドのほとんどもまたMHCIと結合すると予測されたとはいえ、それらのうち3つしか質量分析により検出されなかった。
【0131】
MHCIに対するペプチド結合親和性と免疫原性との間に相関があるとはいえ、他の要因もまた寄与する。たとえば、TCRとの変異アミノ酸の相互作用は、変異ペプチドを「非自己」と認識するために必須である可能性が高い。これは、対応するWTペプチドもまたMHCI上に提示されるときに特に当てはまる。7つのネオエピトープのうちの5つが、高い結合性予測スコアを示した(NETMHC-3.4によりIC50<50nM、表1)。他のネオエピトープは、より低い結合性予測スコアを示し、それらの免疫原性がより低いかもしれないことを示唆した。公開されているH-2Db及びH-2Kbの結晶構造及びRosettaベースのアルゴリズムを利用して、MHCIと複合した変異体ペプチドのそれぞれをモデル化し、各ネオエピトープにおける変異体残基がT細胞受容体と相互作用する可能性を解析した。一般に、ディスプレイされたペプチドのTCR認識は、ペプチド残基3から7との相互作用により媒介される。高い結合性スコアを有するペプチドのなかでも、Reps1及びAdpgkにおいてのみ、ペプチドはこの範囲内で変異を有する。構造モデル化はまた、変異された残基が、溶媒接触面に向かって配向され、したがって、免疫原性である良好な可能性を有すると判断されることを予測した(表1及び図3)。他方、Irgq、Aatf、Dpagt1ネオエピトープにおける変異は、ペプチドのC末端近傍に見出され、これはTCR結合領域の外側に当たる可能性が高く、これらのネオエピトープが免疫原性である可能性が低いことを示唆する(表1及び図3)。
【0132】
次に、変異腫瘍抗原の免疫原性を、野生型C57BL/6マウスを、アジュバントと組み合わせた変異エピトープをコードする長いペプチドで免疫化することにより評価し、MHCI/ペプチド特異的デキストラマーを使用してCD8 T細胞応答を測定した。図4Aに示すとおり、アジュバントのみの群と比較して、6つのペプチドのうち3つがCD8 T細胞応答を誘発した。Reps1及びAdpgkは、構造及び結合親和性予測に基づいて免疫原性であることが予測され、両方が強力なCD8 T細胞応答を誘発した。非免疫原性であると予測された4つのペプチドのうち、Dpagt1のみが弱いCD8 T細胞応答を誘導した。
【0133】
これらの変異ペプチドの免疫原性を、腫瘍の文脈において腫瘍浸潤細胞(TIL)を解析することにより確証した。Reps1、Adpgk、及びDpagt1に特異的なT細胞が、腫瘍床において富化することが観察された(図4B)。不均一性があったとはいえ、Adpgk特異的CD8 T細胞が、3つのうちで最も豊富であり、これは、MC-38腫瘍に特異的だった。なぜなら、Adpgk特異的CD8 T細胞は同系TRAMP-C1腫瘍において検出されなかったからである。興味深いことに、質量分析により同定された単一のがん精巣自己抗原(MAGE-D1)に由来するペプチドは、貧弱な免疫原性を示し、MAGE-D1に特異的なCD8 T細胞は腫瘍床において検出できなかった(データは示さず)。
【0134】
バルクTILが通常は、抗腫瘍応答をモニタリングするために解析され、これは真の評価を提供しないことがありうる。なぜなら、TILのほんのわずかしか腫瘍特異的でないからである。バルクTILと比較した抗腫瘍TILの頻度及び表現型を、3つの免疫原性ペプチドについてMHCI/ペプチド特異的デキストラマーを使用して調べた。腫瘍に浸潤する腫瘍特異的CD8 T細胞の頻度は最初は増加したが、腫瘍がさらに増殖するにつれて減少し、腫瘍における腫瘍特異的CD8 T細胞の頻度との腫瘍増殖の逆相関を示唆した(図4C)。興味深いことに、大多数(76.9±7.1%)の腫瘍特異的CD8 TILが、バルクTIL(52.6±3.6%)と比較して、T細胞消耗のマーカーであるPD-1及びTIM-3を共発現した(図4D)。腫瘍特異的CD8 TILはまた、高レベルの表面PD-1を発現した。
【0135】
ネオエピトープに対して誘導されたCD8 T細胞が、防御性抗腫瘍免疫を提供できるかどうかを決定するため、健常マウスを変異ペプチドワクチンで免疫化し、続いてMC-38腫瘍細胞でチャレンジした。アジュバントのみと比較して、ワクチン群のほとんどの動物において、腫瘍増殖が完全に阻害された(図5A)。この実験において腫瘍が増殖した単一の動物は、実際にはワクチンに応答しておらず、変異ペプチドに特異的なCD8 T細胞応答が防御を付与する可能性を強く支持する(図5A)。
【0136】
次に、ネオエピトープ特異的CD8 T細胞応答を、腫瘍を有するマウスにおいて免疫化時にそれらがさらに増幅されうるかどうかを確認するために評価した。単回の免疫化後、Adpgk反応性CD8 T細胞の頻度が、無感作健常動物と比較して腫瘍を有するマウスの脾臓において顕著に増加した(図4B)。腫瘍における全CD8 TILのなかでもAdgpk特異的CD8 T細胞の蓄積におけるほぼ3倍の増加もまた観察された(図5B)。ペプチドワクチン接種はまた、腫瘍におけるCD45細胞及びCD8T細胞の浸潤全体を増加させ、これは、腫瘍における全生細胞のなかでもネオエピトープ特異的CD8 T細胞の頻度のほぼ20倍の増加をもたらした(図5C)。
【0137】
さらに、ワクチン接種により誘導されたペプチド特異的細胞の表現型を解析した。TIM-3 PD-1 Adgpk特異的CD8 TILの頻度がワクチン接種後に低減し、これらの細胞上のPD-1及びTIM-3の表面発現もまた低減したことが見出された(図5D及び図5E)。これはアジュバント効果でありうる。なぜならそれは、アジュバントのみの群にも見られたからである。この結果は、腫瘍特異的T細胞が、ワクチン接種後により低い消耗表現型を示すことを示唆し、これは、ワクチン接種された腫瘍におけるIFN-γ発現CD8及びCD4 TILのより高いパーセンテージによりさらに確証された(図5F)。
【0138】
最後に、腫瘍特異的CD8 T細胞におけるこれらのワクチン誘導された定性的及び定量的変化を、確立された腫瘍の退縮に変換できるかどうかが評価された。このより困難な治療設定においてさえも、ワクチン接種されたマウスは、未処置コントロール又はアジュバントのみの群と比較して、腫瘍増殖の顕著な阻害を示した(図5G)。したがって、予測されたネオエピトープでの単純なペプチドワクチン接種が、十分なT細胞免疫を生成し、以前に確立された腫瘍を拒絶した。
【0139】
方法
MHCIペプチドプロファイリングを、H-2bバックグラウンドの2つのマウス細胞株、TRAMP-C1(ATCC)及びMC-38(Academisch Ziekenhuis Leiden)のH-2Kb及びH-2Dbリガンドームについて実施した。C57BL/6マウスに由来する細胞を、以前に記述されたとおり調製した。細胞株を調製する方法の完全な記載については、米国特許出願第13/087948号及び米国特許出願第11/00474号を参照する。各試料のMHCI分子を、2つの異なる抗体を使用して免疫沈降し、H-2Kb特異的及びH-2Db特異的ペプチドをそれぞれ抽出した。ペプチドを、逆相クロマトグラフィー(nanoAcquity UPLC系、Waters,Milford,MA)により、180分勾配を使用して分離した。溶出したペプチドを、エレクトロスプレーイオン化(ESI)源を備えたLTQ-Orbitrap Velosハイブリッド質量分析計(Thermo Fisher Scientific、Bremen,Germany)においてデータ依存取得(DDA)により解析した。Orbitrap(TOP3についてR=30,000、TOP5についてR=60,000)における高質量精度のフルスキャン(サーベイスキャン)を含む方法を使用してマススペクトルデータを取得し、5つの最も豊富な前駆体イオン(TOP5)についてOrbitrap(R=7500)において、又は、3つの最も豊富な前駆体イオン(TOP3)についてLTQにおいてのいずれかで、MS/MS(プロファイル)スキャンを続けた。7回の反復された注射及び解析が、試料の各セットについて実施された。
【0140】
変異体MC-38及びTRAMP-C1抗原ペプチドの同定に対応する合成ペプチドを、LTQ-Oritrap Elite質量分析計(ThermoFisher、Bremen,Germany)上で解析し、ADVANCE源(Michrom-Bruker、Fremont,CA)を使用して、1.2kVのスプレー電圧でイオン化した。Orbitrapにおいてm/z400で60,000M/ΔMの分解能で1つのフルMSスキャン(375~1600m/z)からなる方法を使用してマススペクトルデータを取得し、ペプチド断片イオンのLTQにおいてMS/MS(セントロイド)スキャンを続けた。
【0141】
MC-38及びTRAMP-C1がん細胞株からの1μgの全RNAを、TruSeqRNA試料調製キット(Illumina,CA)を使用してRNA-Seqライブラリーを生成するために使用した。全RNAを細胞株から精製し、200~300塩基対(bp)に断片化し、260bpの平均長だった。RNA-Seqライブラリーをマルチプレックス化(1レーン当たり2つ)し、HiSeq 2000上で製造者の推奨に従いシークエンシングした(Illumina、CA)。
【0142】
約5千万よりも多いペアードエンド(2×100bp)シークエンシングリードを、1試料当たり生成した。SureSelect Human All Exomeキット(50Mb)(Aglient、CA)を使用して、エクソーム捕捉を実施した。次に、エクソーム捕捉ライブラリーを、HiSeq 2000(Illumina、CA)上で、HiSeqシークエンシングキットを使用してシークエンシングした(200サイクル)。
【0143】
9290万のRNA断片をMC-38から、6530万をTRAMP-C1からシークエンシングした。エクソームシークエンシングについて、6000万リードを、各細胞株からシークエンシングした。リードを、GSNAP(Wu及びNacu, Bioinformatics, 2010, v.26, 873-881)を使用してマウスゲノム(NCBIビルド37又はmm9)にマッピングした。ユニークマッピングされたリードだけをさらなる分析のために維持した。8060万のRNA断片がMC-38試料において、5760万がTRAMP-C1試料においてユニークマッピングされた。5090万のエクソーム断片がMC-38において、5200万の断片がTRAMP-C1においてユニークマッピングされた。マウス遺伝子モデルを得るため、Refseqマウス遺伝子を、GMAPを使用してmm9ゲノムにマッピングし、次に、ゲノム配列を遺伝子モデルを製造するために使用した。
【0144】
エクソーム-seqベースの変異体を、GATK1を使用して呼び出した。10%以上の対立遺伝子頻度を有する変異体を維持した。変異体に、転写物に対する効果について変異体効果プレディクターツール2を使用してアノテートした。アミノ酸変化を解釈できる変異体のみを維持した。発現の証拠を有する変異体を得るために、エクソームベースの変異体位置を、RNA-Seqリードアラインメントで差異の証拠について確認した。2つを超えるRNA-Seqリードにより実証され、RNA-Seqに基づいて10%以上の対立遺伝子頻度で発現した変異体を維持した。
【0145】
各アミノ酸差異について、変異体全タンパク質配列を生成し、LC-MSスペクトルを検索するための基準データベースとして寄与する推定タンパク質のセットを形成した。ハプロタイプ情報なしでは、同じタンパク質における複数の差異は、データベースにおいて別個の変異体タンパク質として特徴づけられる。
【0146】
タンデムマススペクトル結果を、連結ターゲットデコイデータベースUniprotバージョン2011_12又はマウスタンパク質及び通常の実験室夾雑物、たとえばトリプシンを含むトランスクリプトーム生成FASTAデータベースに対して、Mascotアルゴリズムバージョン2.3.02(MatrixScience、London,UK)を使用したタンパク質データベース検索のために提示した。データを、酵素特異性なし、メチオニン酸化(+15.995Da)、及び20ppm前駆イオン質量許容差で検索した。
【0147】
断片イオン質量許容差を、LTQ又はOrbitrapにおいて取得されたMS/MSデータについて、それぞれ0.8Da又は0.05Daで特定した。検索結果を、線形判別アルゴリズム(LDA)を使用して、5%の推定ペプチド偽発見率(FDR)までフィルタリングした。変異体ペプチド同定のより高い信頼性のため、データを、H-2Kbデータについて8及びH-2Dbについて9のペプチド長か、又は正規表現を用いることのいずれかによりさらにフィルタリングし、以下の十分に特徴を明らかにされたアンカーモチーフ、H-2Kb:XXXX[FY]XX[MILV](配列番号22)及びH-2Db:XXXX[N]XXX[MIL](配列番号23)で、ペプチドを単離した。合成ペプチドを、配列を検証するために生成した。
【0148】
第1のモデルの生成について、ペプチド-MHC複合体構造を、変異体ペプチドとモデル構造におけるペプチドとの間の配列類似性に基づいてPDBから選択した。各変異体ペプチドモデルについて、以下のPDBコード、Reps1、2ZOL 4;Adpgk、1HOC 5;Dpagt1、3P9L 6;Cpne1、1JUF7;Irgq、1FFN 8;Aatf、1BZ9を使用した。Med12ペプチドは、合理的な開始モデルとして使用できる10アミノ酸長ペプチドと複合した公開されたH-2Kb結晶構造の欠如により、モデル化されなかった。次に、ペプチドを、COOT 10を使用して変異体形態へと修飾した。次に、これらの第1のモデルを、Rosetta FlexPepDockウェブサーバー11を使用して最適化し、最高点モデルをディスプレイのために選択した。
【0149】
各ペプチドについての最高点FlexPepDockモデルもまた調査され、生成された上位10のモデルについて骨格配置が類似することが見出された。ペプチド-MHCI画像を、Pymol(Schrodinger,LLC)を使用して生成した。
【0150】
年齢マッチングされた6~8週齢のC57BL/6マウス(The Jackson Laboratory)に、PBS中でアジュバント(50μgの抗CD40AbクローンFJK45プラス100mgのポリ(I:C)(Invivogen))とそれぞれ組み合わせた長いペプチド50mgを腹腔内注射した。マウスを第0日及び第14日に免疫化し、最終注射1週間後に、血液又は脾細胞のいずれかを、Ag-特異的CD8 T細胞の検出のために使用した。ペプチド特異的T細胞を同定するために、細胞をPEコンジュゲートデキストラマー(MHCI/ペプチド複合体;Immudex、Denmark)で20分間染色し、続いて、細胞表面マーカーCD3、CD4、CD8及びB220(BD Biosciences)で染色した。ペプチド配列は以下のとおりである。Reps1:GRVLELFRAAQLANDVVLQIMELCGATR(配列番号1)、Adpgk:GIPVHLELASMTNMELMSSIVHQQVFPT(配列番号2)、Dpagt1:EAGQSLVISASIIVFNLLELEGDYR(配列番号3)、Aatf:SKLLSFMAPIDHTTMSDDARTELFRS(配列番号4)、Irgq:KARDETAALLNSAVLGAAPLFVPPAD(配列番号5)、Cpne1:DFTGSNGDPSSPYSLHYLSPTGVNEY(配列番号6)、Med12:GPQEKQQRVELSSISNFQAVSELLTFE(配列番号7)。
【0151】
C57BL/6マウスの右側腹部に、1×10のMC-38腫瘍細胞を皮下移植した。全腫瘍を単離し、コラゲナーゼ及びDNAaseで消化し、TILを単離した。TILを、(上述のとおり)デキストラマーで染色し、続いて、CD45、Thy1.2、CD4、CD8(BD Biosciences)、PD-1(eBiosciences)及びTIM-3(R&D Systems)に対する抗体で染色した。Live/dead染色を、生細胞上でゲート開閉するために使用した。
【0152】
すべての動物に、ハンクス平衡塩溶液及びフェノールレッドフリーマトリゲル(Becton Dickinson Bioscience、San Jose,CA)中に懸濁された1×10のMC-38細胞を皮下接種(右後側腹部)した。予防研究のため、マウスをアジュバント(50mgの抗CD40プラス100mgのポリ(I:C))又は50μgのReps1、Adpgk及びDpagt1ペプチドをそれぞれ伴うアジュバントで、腫瘍接種の3週前に免疫化した。ペプチド特異的CD8 T細胞の誘導を、腫瘍細胞の接種の1日前に血中で測定した。腫瘍を有するマウスにおけるワクチン接種のため、1×10のMC-38腫瘍細胞での接種10日後(第10日におよそ100~150mmの体積を有する腫瘍のみが研究に含まれた)に、マウスにアジュバント又は50μgのReps1、Adpgk、及びDpagt1ペプチドをそれぞれ伴うアジュバントを注射した。測定値及び体重を1週間に2回収集した。初期体重の15%を超える体重減少を示す動物を毎日体重測定し、初期体重の20%を超えて減少した場合、安楽死させた。
【0153】
有害な臨床的問題を示した動物を、重症度に応じて1日毎まで、より頻繁に観察し、瀕死状態になった場合に安楽死させた。マウスは、腫瘍体積が3,000mmを超えた場合か、又は腫瘍が形成されなかった場合は3カ月後に、安楽死させた。研究全体を通じて、すべてのマウスの臨床観察を1週間に2回実施した。
【0154】
図1
図2
図3
図4A-B】
図4C-D】
図5A-B】
図5C-D】
図5E
図5F
図5G
【配列表】
2024156702000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-08-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の一発明。
【外国語明細書】