(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156704
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】ナノ操作された治療用ステルス細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 5/16 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
C12N5/16
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024112574
(22)【出願日】2024-07-12
(62)【分割の表示】P 2021521288の分割
【原出願日】2019-10-18
(31)【優先権主張番号】62/747,980
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】514137997
【氏名又は名称】オハイオ・ステイト・イノベーション・ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ギャレゴ-ペレス,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】カーソン,ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ドゥアルテ サンミゲール,シルビア エム.
(72)【発明者】
【氏名】イギータ-カストロ,ナタリア
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高運動性GSC及び/又はMDSCクローンなどの、腫瘍で見られる高運動性細胞を、脳などの体内の新しい再発病巣を探索し破壊することができる、自己破壊性細胞ミサイル(治療用ステルス細胞と呼ぶ)に再プログラミングする方法を提供する。
【解決手段】治療用ステルス細胞を産生する方法であって、
(a)運動性の高い亜集団について対象から腫瘍細胞を選別し;そして
(b)前記亜集団に抗がん剤を送達するように再プログラミングすることを含む、方法
である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療用ステルス細胞を産生する方法であって、
(a)運動性の高い亜集団について対象から腫瘍細胞を選別し;そして
(b)前記亜集団に抗がん剤を送達するように再プログラミングすることを含む、方法
。
【請求項2】
前記亜集団を、化学誘引物質勾配を使用する遊走アッセイにおいて選別する、請求項1
に記載の方法。
【請求項3】
前記亜集団を、ナノテクスチャー付及び/又はバイオミメティック表面を使用する遊走
アッセイにおいて選別する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記亜集団を、トランスウェル遊走アッセイ又はBoydenチャンバーアッセイにお
いて選別する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記亜集団を、抗腫瘍タンパク質、オリゴヌクレオチド、又はその組み合わせをコード
化する導入遺伝子を異種発現するように再プログラミングする、請求項1~4のいずれか
一項に記載の方法。
【請求項6】
前記導入遺伝子が、メタロプロテイナーゼ-3の組織阻害剤(TIMP-3)をコード
化する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記亜集団を、キルスイッチシステムで再プログラミングする、請求項1~6のいずれ
か一項に記載の方法。
【請求項8】
前記亜集団がCD11b+Ly6CloLy6G+骨髄由来サプレッサ細胞である、請
求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記亜集団をフローサイトメトリによって選別する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法によって産生される複数の治療用ステルス細
胞を含む、組成物。
【請求項11】
薬剤的に許容される賦形剤をさらに含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
対象における腫瘍を治療する方法であって、前記対象に有効量の請求項11に記載の組
成物を投与することを含む、方法。
【請求項13】
前記腫瘍が乳がんである、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、その全体が参照により本明細書中に組み込まれる、2018年10月19日に
出願された米国特許仮出願番号62/747,980の優先権を主張する。
【0002】
腫瘍細胞の転移は、がん関連死の主な要因である(>90%)(Gallego-Pe
rez,D.et al.Lab Chip 12:4424-4432(2012);
Fidler,I.J.Nat Rev Cancer 3:453-458(2003
);Gupta,G.P.& Massague,J.Cell 127:679-69
5(2006))。特に、多形性膠芽腫(GBM)は、侵襲性の高い致死型脳腫瘍である
(Bellail,A.C.,et al.Int J Biochem Cell B
iol 36:1046-1069(2004))。この高悪性度の腫瘍は、明確な頭蓋
内拡散パターンを示し、事前に整列された白質路に沿って単一細胞として効果的に転移す
る(Gallego-Perez,D.et al.Lab Chip 12:4424
-4432(2012);Bellail,A.C.,et al.Int J Bio
chem Cell Biol 36:1046-1069(2004))。侵襲性表現
型のGBMが細胞運動性によって調節されることを示す証拠はますます増えている(Gi
ese,A.,et al.J Clin Oncol 21:1624-1636(2
003))。さらに、再発は主に、従来の療法に対して耐性である、神経膠腫幹細胞(G
SC)として知られる、運動性の高い腫瘍開始細胞のサブセットによって引き起こされる
ようである(Calabrese,C.et al.Cancer Cell 11:6
9-82(2007);Ghotra,V.P.,et al.Int J Radia
t Biol 85,955-962(2009))。GSCは科学界及び医学界から大
きな関心を集め続けているので、GSCが拡散して脳内での新しい腫瘍増殖巣を発生させ
るメカニズムをより良く理解し対抗するために、新しい分析及びエンジニアリングツール
が必要である。しかしながら、GSC運動性及び治療耐性に関する研究は、発がん性形質
転換に関する継続的な取り組みと比べて限定されている。これは、一つには、GSCの特
定のサブセット、又はGBMニッチからの他の関心対象の細胞を、研究、診断及び/又は
治療目的で特定、研究、及び操作するために有効なツールが存在しないためである。イン
ビボ画像化による単一クローンレベルでの腫瘍の特定決定は非常に困難である(Irim
ia,D.& Toner,M.Integr Biol(Camb)1:506-51
2(2009);Condeelis,J.& Segall,J.E.Nat Rev
Cancer 3:921-930(2003))。さらに、組織外植片のエクスビボ
分析用の現行の技術は、面倒で限定的である傾向がある(Johnson,J.et a
l.Tissue Eng Part C Methods 15:531-540(2
009))。一方、従来のインビトロアッセイ(Boyden,S.J Exp Med
115,453-466(1962);Albini,A.& Benelli,R.
Nat Protoc 2,504-511(2007);Rao,J.S.Nat R
ev Cancer 3,489-501(2003);Yamada,K.M.& C
ukierman,E.Cell 130,601-610(2007);Liang,
C.C.,Park,A.Y.& Guan,J.L.Nat Protoc 2,32
9-333(2007))は、生理学的に関連性がない、及び/又は高度に不均質な細胞
集団のバルク挙動(bulk behavior)にのみ注目したエンドポイント試験で
ある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
高い転移及び治療耐性能を示すGSC及びMDSCのサブセットがある。これらの知見
は、GSC及びMDSCがモノリシック集団ではなく、特定のクローナルサブセットが著
しくより「高悪性度」の表現型を示し、おそらくは疾患再発を推進する一因となり得るこ
とを示唆する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本明細書中で開示されるのは、これらの高運動性GSC及び/又はMDSCクローンな
どの、腫瘍で見られる高運動性細胞を、脳などの体内の新しい再発病巣を探索し破壊する
ことができる、「自己破壊性」細胞「ミサイル」(本明細書中では治療用ステルス細胞と
呼ぶ)に「再プログラミング」する方法である。運動性が増強された細胞を、異種集団か
ら選別し、次いで腫瘍溶解性ウイルスプラスミドカクテルなどの抗がん剤の決定的送達に
よって「自己破壊性」にすることができる。
【0005】
開示された方法は、治療用ステルス細胞を作製するために対象から細胞を選別すること
を含み得る。いくつかの実施形態では、細胞は、治療される対象からの血球又は腫瘍生検
など、自己由来である。しかしながら、場合によっては、細胞はアロジェニックである。
【0006】
開示された方法は、運動性の高い亜集団について対象から細胞を選別し、次に抗がん剤
を送達するように当該亜集団を再プログラミングすることを含み得る。いくつかの実施形
態では、亜集団は化学誘引物質勾配を使用する遊走アッセイで選別することができる。特
に、化学誘引物質勾配は、治療される腫瘍によって産生されるケモカインを含み得る。例
えば、いくつかの実施形態では、化学誘引物質はMatrigel(登録商標)を含む。
いくつかの実施形態では、化学誘引物質は腫瘍細胞馴化培地を含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、亜集団は、ナノテクスチャー付及び/又はバイオミメティッ
ク表面を使用する遊走アッセイで選別する。例えば、MDSCは、生化学的刺激の非存在
下で、事前に整列された構造的キューに反応し、これに沿って誘導することができる。し
たがって、いくつかの実施形態では、表面は、マイクロスケール又はナノスケールの突起
/溝を含む。例えば、突起/溝の深さ及び幅は、100nm~1μm、1μm~10μm
、500nm~5μmを含む100nm~10μmの寸法を有し得る。突起/溝は、まっ
すぐな溝を含む様々な形状及びパターンを有し得る。
【0008】
いくつかの実施形態では、亜集団は、トランスウェル遊走アッセイ又は細胞浸潤アッセ
イで選別される。トランスウェル遊走アッセイは、多孔質膜を通過する細胞の数を測定し
、一方、細胞浸潤アッセイは、細胞外マトリックスを介した侵襲性細胞遊走に焦点を当て
る。
【0009】
亜集団が選別され、任意選択的に拡大されると、細胞は次に、抗腫瘍タンパク質、オリ
ゴヌクレオチド、又はその組み合わせをコード化する導入遺伝子を異種発現するように再
プログラミングすることができる。
【0010】
効率的な「安全スイッチ」の導入を使用して、場合によっては、重篤な移植片対宿主病
のリスクを軽減することができる。したがって、いくつかの実施形態では、亜集団はまた
、キルスイッチシステムで再プログラミングされる。これまでに最も広く研究されている
安全スイッチは、HSV I由来チミジンキナーゼ(HSV-TK)遺伝子産物である。
非免疫原性安全スイッチシステムも開発されており、これは、修飾ヒトFK506結合タ
ンパク質と連結されたヒトアポトーシス促進分子(例えば、カスパーゼ9)(すなわち、
iCasp9)から構成される融合タンパク質を含む。これらの安全スイッチは、FK5
06の二つの合成変異体の二量体からなる化学二量化誘導物質(CID)の注射によって
活性化することができる。他の誘導可能な自己破壊的キルスイッチが開発中であり、開示
された治療用ステルス細胞において使用することができる。
【0011】
また、開示された方法によって産生される複数の治療用ステルス細胞を含む組成物も開
示する。特定の実施形態において、組成物は薬剤的に許容される賦形剤をさらに含む。
【0012】
対象における腫瘍を治療する方法であって、当該対象に有効量の開示された医薬組成物
を投与することを含む方法も開示されている。開示された方法を使用して、任意の固形腫
瘍を治療することができる。特定の実施形態では、腫瘍は、治療用ステルス細胞を発生さ
せるために使用した細胞源と合致する。例えば、乳がん生検から得た高運動性MDSCを
再プログラミングして、乳がんを治療することができる。同様に、多形性膠芽腫(GBM
)生検から得た高運動性GSC/MDSCを再プログラミングして、GBMを治療するこ
とができる。
【0013】
本発明の一つ以上の実施形態の詳細を添付の図面及び以下の説明に記載する。本発明の
他の特徴、目的、及び利点は、説明、及び図面、並びに特許請求の範囲から明らかになる
であろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】
図1A~1Eは、遊走ベースの選別/「クロマトグラフィー」の結果を示す。
図1Aは、ナノテクスチャー付表面がガイドされた運動性を誘導することを示す。高運動性を有するクローンは、化学誘引によって収集チャンバー中に誘引される。
図1Bは、GSCを用いた研究によって、高運動性クローンが抗miR363療法に対して耐性であったことが分かることを示す。
図1Cは、MDSCの遊走ベースの選別によって、バルクMDSCと比較して、優れた運動性を有するクローンサブセットが明らかになったことを示す。
図1Dは、選別によって、顆粒球(P4)及び単球(P5)サブタイプを有する多様な表現型が示されたことを示す。また、低(P6)Ly6-C/G又は高(P3)Ly6-C/Gを示す分類されていないサブタイプも存在していた。
図1Eは、高運動性を有するMDSCクローンがP4又はP3のいずれかであったことを示す。*p<0.05。
【
図2】
図2は、再プログラミング/管理されたGSC及び/又はMDSCを、GBMを有するマウスに頭蓋内注射し、腫瘍進行をモニタリングする様子を図示する。
【
図3】
図3は、MDSCがテクスチャー付/バイオミメティック表面上で(すなわち、ガイドされた)著しい運動性を示すことを示す。一方、TCP上で培養されたMDSCは、限定された運動性を示す。これらの結果は、腫瘍細胞と同様に、MDSCが、腫瘍細胞転移をインビボで増強する同じ構造的キューに反応し得ることを示唆する。*p<0.05。
【
図4A-B】
図4A及び4Bは、MDSCをプラットフォームの片側に選択的に播種し、走化性により一方向に遊走させる、遊走クロマトグラフィーセットアップを示す。表面ナノテクスチャーは、ガイドされた運動性に基づいたクローン分離を引き起こす。
図4Cは、高速移動する細胞vs低速移動する細胞の速度を示す。
図4D及び4Eは、高速移動するクローンが、低速移動するクローン(例えば、バルクMDSC)と比較して異なる表現型を有することを示すフローサイトメトリ分析を含む。*p<0.05。
【
図5A】
図5A及び5Bは、黒色腫患者からの循環MDSCの単一クローン運動性アッセイを示す。各患者についての速度の相違(
図5A)及び有効変位の相違(
図5B)。結果から、ある特定の患者由来のMDSCが速度の増強を示すことが分かる。しかしながら、有効変位(すなわち、出発位置から終了位置までの幾何学的距離)を考慮する場合、低速のある特定のMDSCバッチは、有意な変位を示し、これは、より高い指向性/持続性運動性(走化性無し)を反映するものであり得る。P1:ステージIIIC、txニボルマブ+手術;P2:ステージIV、txニボルマブ;P3:ステージIV V600E/BRAF、tx放射線+ペムブロリズマブ;P4:ステージIV、txニボルマブ+イピルママブ(ipilumamab);P5:ステージIV、txペムブロリズマブ/イピルママブ(ipilumamab)/ニボルマブ;P6:ステージIV V600E/BRAF、INF-αで治療)。
【
図6A】
図6A及び6Bは、ナノテクスチャー付表面を使用して、標準的TCPで観察されない薬物感受性を明らかにできることを示す。
図6Aは、患者由来のMDSCの単一クローン運動性アッセイが、イブルチニブに反応した特定のクローンサブセット(平均速度>40μm/h)の阻害を示すことを示す。
図6Bは、TCPでの単一クローン運動性によって、MDSC転移に対するイブルチニブの影響は明らかにならなかったことを示す。
【
図7A】
図7Aおよび
図7Bは、関心対象のクローンの自動的脱離を可能にするための統合型マイクロ流体を有する遊走クロマトグラフィー用装置を示す。
図7Cおよび
図7Dは、遊走ベースの分離が起こると、内在するマイクロ流体システムを使用して、所定の位置に冷水を連続的に流すことができ、PINIPAM層の熱作動により、関心対象のMDSCクローンの選択的脱離が促進されることを示す。
【
図8A】
図8Aは、MDSCと非がん性MCF10Aとを同時培養することで、MCF10Aクローン群において運動性が増強されたことを示す。
図8Bは、免疫蛍光分析によって、同時培養条件が、上皮型カドヘリンなどの上皮マーカーの発現の減少、及びある特定のクローンにおける間葉性マーカー(例えば、ビメンチン)の増加を引き起こしたことがわかることを示す。
図8Cは、MDSCとすでに高悪性のMDAMB-231細胞とを同時培養することによって、MDA-MB-231集団における運動性の大きな変化が起こらなかったことを示す。●:単独培養、■:50:50同時培養、▲:90:10同時培養(MDSC:乳がん/組織細胞)。
【
図9】
図9は、MDSCと乳房組織/がん細胞とを同時培養することで、特に、MDA-MB-231と同時培養した場合に、ある特定のMDSCクローンの速度の著しい増加が起こったことを示す。これらの結果は、MDSC運動性が転移細胞の存在下で正に調節されて腫瘍の外側への同時転移、及び腫瘍細胞転移プロセスの間の継続した免疫保護が促進されることを潜在的に示唆する。
【
図10A-B】
図10A~10Eは、MDSCが整列された構造的キューに反応し、ガイドされた転移パターンを示すことを示す。
図10Aは、それぞれ腫瘍間質を回避及び浸潤するために事前に整列された構造的キュー(例えば、再構築されたECM、血管壁)を使用する侵襲性がん細胞及び浸潤性MDSCを示す腫瘍微小環境の概略図である。
図10Bは、単一クローンレベルで構造的にガイドされたMDSC遊走を評価するために用いられるPDMSベースのバイオミメティックテクスチャー付表面のSEM顕微鏡写真(MDSC実物大模型と重ね合わせたもの)である。
図10Cは、テクスチャー付表面vs対照/TCP表面上で培養されたMDSCのアクチン-核染色を示す。MDSCは、TCPと比較して、テクスチャー付表面上で、整列された/より遊走性の高い形態をとる。
図10D及び10Eは、テクスチャー付表面vs対照/TCP表面上の単一クローン転移トラック(
図10D)及びMDSCの定量化(
図10E)を示し、事前に整列された構造的キューに曝露された場合のMDSCの増強された転移能(すなわち、平均単一クローン速度及び正味トラック距離)を裏付ける。正味トラック距離は、トラッキング期間中に細胞が移動した幾何学的距離を反映したものである。*p<0.01及び‡p<0.02(t検定、n=4)。
【
図11A-B】
図11A~11Iは、MDSC亜集団が、異なる転移及び遺伝子発現パターンを示すことを示す。
図11A及び11Bは実験計画の概略図である。ここでは、MSC-2培養物を、フローサイトメトリによって、顆粒球MDSC(CD11b
+Ly6C
loLy6G
+)及び単球MDSC(CD11b
+Ly6C
hiLy6G
-)、並びにCD11b
+Ly6C
+Ly6G
+細胞を含む三つの異なる亜集団に選別した。次いで、各集団を、テクスチャー付PDMS上での単一クローン運動性アッセイ並びに炎症誘発マーカー及び抗炎症マーカーのqRT-PCR分析に供した。
図11Cは、テクスチャー付表面上で培養した異なるMSC-2サブタイプのアクチン-核染色を示す。顆粒球MDSCはそれらのカウンターパートと比較してより整列された遊走しやすい形態を示す傾向があった。
図11Dは、テクスチャー付表面上での各サブタイプの単一クローン転移(すなわち、平均速度及び正味トラック距離)定量化を示す。*p=0.006、**p<0.001、ψp=0.001、‡p=0.09(二元配置ANOVA、n=4)。
図11Eは各集団の単一クローントラックを示す。
図11Fは、担癌マウス(すなわち、ヌードマウスにおいてヒト細胞から発生した同所性乳がん)に注入された(すなわち、尾静脈から)、蛍光標識されたフロー選別MDSCvs「新しい」/非選別MDSCを示す。右側の写真は、1週から4週までの腫瘍進行/増殖を示す。
図11Gは、注射後24時間のMDSC浸潤の程度を検出するために撮像した腫瘍及び他の標的臓器を示す。
図11H及び11Iは、各サブタイプの炎症誘発性遺伝子(
図11H)及び抗炎症遺伝子(
図11I)のqRT-PCR分析を示す。*p<0.001、**p<0.0001、‡p=0.03(二元配置ANOVA、n=3~4)。
【
図12A】
図12A~12Gは、単一MDSC亜集団が、全表現型範囲にわたる補充を駆動できる表現型の可塑性を示すようであることを示す。
図12Aは実験計画の概略図である。
図12Bは、単一クローン転移(すなわち、平均速度及び正味トラック距離)研究では、7日までに三つの集団すべてで有意差が示されなかったことを示す。
図12C~12Eは、フローサイトメトリ分析により、全亜集団の選別後1日までは比較的純粋なままであったが、7日までに、表現型の全範囲が出発細胞集団に関係なく補充されたことが示唆されることを示す。*p<0.0001、‡p=0.01、#p=0.03、ψp=0.0001(二元配置ANOVA/Tukeyの多重比較、n=3~4)。
図12F及び12Gは、選別後7日での炎症誘発性遺伝子(
図12F)及び抗炎症遺伝子(
図12G)のqRT-PCR分析を示す。*p=0.006、**p=0.01(二元配置ANOVA/Tukeyの多重比較、n=3~6)。
【
図13A】
図13A及び13Bは、黒色腫患者由来の循環MDSCが、単一クローンレベルで異なる転移プロフィールを示すことを示す。
図13A及び13Bは、平均単一クローン速度(
図13A)及び正味トラック距離(
図13B)が、ある特定の患者について、患者集団の残りと比較して有意に高い傾向を有していたことを示し、これは、患者のバックグラウンドを反映するものであり得る。
【
図14A】
図14A~14Fは、患者由来のMDSCの異なる亜集団が、異なる転移能を示すことを示す。
図14A~14Cは、黒色腫患者MDSCが、フローサイトメトリにより顆粒球(CD11b
+CD15
+CD14
-)及び単球(CD11b
+CD15
-CD14
+)亜集団に選別されたことを示す。
図14D~14Fは、マウスMDSCにおける観察結果と同様に、患者由来のMDSCの顆粒球亜集団も、単球サブタイプと比較して増大した転移(すなわち、平均単一クローン速度及び正味トラック距離)能力を示すことを示す。*p=0.0005、**p=0.002(Mann-Whitney、n=3)。
【
図15A】
図15A及び15Bは、フローサイトメトリで選別された亜集団についての時間の関数として炎症誘発性マーカー(
図15A)及び抗炎症マーカー(
図15B)の遺伝子発現の差を示す。*p<0.0001、‡p=0.06(二元配置ANOVA/Sidakの多重比較、n=3~6)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示をさらに詳細に記載する前に、本開示は記載した特定の実施形態に限定されず、
したがって、もちろん変化し得ることを理解されたい。また、本明細書中で使用する用語
は、特定の実施形態を説明するためだけであり、本開示の範囲は添付の特許請求の範囲に
よってのみ限定されるため、限定することを意図するものではないことも理解されたい。
【0016】
値の範囲が提示されている場合、当該範囲の上限と下限との間の、文脈上明らかに別段
の記載が無い限り下限の単位の10分の1までの各介在値、及び記載した範囲内の記載し
た任意の他の値又は介在する値は、本開示内に含まれると理解される。これらのより小さ
な範囲の上限及び下限は独立してこのより小さな範囲内に含まれ得、記載した範囲内で特
に除外される限界値がない限り、これもまた本開示の範囲内に含まれる。記載した範囲が
限界値の一方または両方を含む場合、それらの含まれる限界値のいずれか又は両方を除外
した範囲も本開示に含まれる。
【0017】
特に別段の定めのない限り、本明細書中で使用されるすべての科学技術用語は、本開示
が属する分野の当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載さ
れているものと同様または同等の任意の方法および材料も、本開示の実施または試験に使
用できるが、ここでは好ましい方法および材料について記載する。
【0018】
本明細書で言及するすべての刊行物及び特許は、各々の刊行物又は特許が参照により本
明細書中に組み込まれることが具体的かつ個別に示されているかのように参照により本明
細書中に組み込まれ、言及される刊行物と関連して方法及び/又は材料を開示し説明する
ように参照により本明細書中に組み込まれる。任意の刊行物の言及は、出願日以前のその
開示についてであり、本開示が先行開示によりそのような刊行物に先行する権利が与えら
れないことを認めるものと解釈されるべきではない。さらに、提示される公開日は、独立
して確認される必要がある可能性がある実際の公開日とは異なる可能性がある。
【0019】
本開示を読むと当業者には明らかになるように、本明細書中で記載し図示した個々の実
施形態の各々は、本開示の範囲又は主旨から逸脱することなく、他のいくつかの実施形態
のいずれかの特徴から容易に分離することができるか又はいずれかの特徴と容易に組み合
わせることができる成分及び特徴であり得る個別の成分及び特徴を有する。任意の言及さ
れる方法は、言及される事象の順序で、又は論理的に可能である任意の他の順序で実施す
ることができる。
【0020】
本開示の実施形態は、別段の指示のない限り、当該技術分野の技術範囲内である、化学
、生物学などの技術を採用する。
【0021】
以下の実施例は、如何にして本明細書中で開示され請求される方法を実施し、プローブ
を使用するかの完全な開示及び説明を当業者に提供するために記載する。数値(例えば、
量、温度など)に関する精度を確保するよう努めたが、多少の誤差や偏差がある。別段の
指示がない限り、部は重量部であり、温度は℃であり、圧力は大気圧又は大気圧付近であ
る。標準温度及び圧力は20℃及び1気圧と定義される。
【0022】
本開示の実施形態を説明する前に、別段の指示のない限り、本開示は、変動し得るので
、特定の材料、試薬、反応材料、製造プロセスなどに限定されないことを理解されたい。
また、本明細書中で使用される術語は、単に特定の実施形態を記載する目的のためであり
、限定的であることを意図するものではないことも理解されたい。本開示ではまた、ステ
ップを、これが論理的に可能である異なる順で実行できることも可能である。
【0023】
明細書及び添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数形「a」、「an」及び「th
e」は、文脈で明らかに別段の記載が明示されていない限り、複数の指示対象を含むこと
に留意されたい。
【0024】
「自殺遺伝子」は、本明細書中で使用する場合、アポトーシスにより細胞を自殺させる
遺伝子を指す。これらの遺伝子の活性化は多くのプロセスに起因し得るが、アポトーシス
を誘導する主な細胞「スイッチ」はp53タンパク質である。自殺遺伝子の刺激又は導入
(遺伝子療法による)を使用して、がん細胞をより受攻性、化学療法に対してより感受性
にすることによって、がん又は他の増殖性疾患を治療することができる。がん細胞におい
て発現された遺伝子の一部は、無害な物質を腫瘍にとって有毒である物質に変換できる、
哺乳動物においてみられない酵素の他の遺伝子に結合される。この感受性を媒介する自殺
遺伝子は、不活性な薬物を、核酸の合成を阻害する有毒な代謝拮抗物質に変換するウイル
ス又は細菌酵素をコード化することができる。
【0025】
高運動性GSC及び/又はMDSCクローンは、ナノチップ支持単一クローン運動性ク
ロマトグラフィーなどの遊走ベースの選別によって異種集団から選別することができる。
遊走ベースの細胞選別の方法は、集団の残りと比較して増強された転移能を示すクローン
サブセット及び/又は細胞亜集団を特定することを含む。そのような細胞は、本質的に原
発性腫瘍へのホーミング/浸潤及び/又は転移性増殖の傾向が高く、したがって、より効
率的な薬物/遺伝子送達ビヒクルとしての役割を果たし得る。高転移性クローンサブセッ
トを特定することで、様々な方法で達成することができる。
【0026】
一つの選択肢は、細胞混合物をミクロ又はナノテクスチャー付表面上にラインで播種す
ることであり、これにより、細胞の接触でガイドされた方向性遊走が誘導される。例えば
、MDSCは、生化学的刺激の非存在下で、事前に整列された構造的キューに反応し、こ
れに沿ってガイドすることができる。
【0027】
細胞は、細胞が遊走する特定方向を規定する化学誘引物質勾配に曝露することができ、
「高速移動する」クローンは、それらが化学誘引物質に向かって遊走するにつれ、容器中
に次第に収集することができる。化学誘引物質の非存在下でこの選別を実施することはま
た、化学誘引物質の非存在下でさえも、単一方向運動性(すなわち、収集容器へ向かう)
をより示しやすい可能性があるクローンサブセットを特定する一方法として使用すること
ができる。これらの細胞が必ずしも最速の移動物であるとは限らなくても、それらが単一
方向で持続的運動性を示す能力は、インビボで転移する能力の増強に翻訳することができ
(例えば、遊走速度が高いが、方向性が欠如した細胞は、必ずしも最も有効な「浸潤物」
であるとは限らない可能性がある)、これはまた、これらのクローンを、原発性腫瘍及び
/又は転移性増殖への増強された薬物/遺伝子送達に望ましいものにする。
【0028】
転移能が増強した細胞を選択するための別の方法は、トランスウェルシステム(例えば
、8ミクロン孔)での転位アッセイによるものであり得る。例えば、細胞をトランスウェ
ルのトップチャンバー上に播種することができ、転移能が増強した細胞は孔を横切ってボ
トムチャンバーへと徐々に転位し、ボトムチャンバーで、それらをさらなる修飾(遺伝子
/薬物送達適用のため)のために収集することができる。
【0029】
本明細書中で開示されるように、細胞の開示された亜集団はCD11b+Ly6Clo
Ly6G+骨髄由来サプレッサ細胞である。したがって、いくつかの実施形態では、高運
動性細胞は、CD11b、Ly6C、及びLy6Gと選択的に結合する抗体の組み合わせ
を使用した腫瘍由来のGSC及び/又はMDSCの細胞選別によって得られる。
【0030】
いくつかの実施形態では、細胞は、原発性腫瘍細胞由来である(例えば、ルーチンの生
検から単離される)。いくつかの実施形態では、細胞は、骨髄由来サプレッサ細胞由来で
ある(例えば、循環から単離される)。しかしながら、開示された方法は、がん性組織に
浸潤しやすい任意の他の細胞タイプ(例えば、他の単球、T細胞など)に適用することが
できる。
【0031】
高播種性クローンの事前選択が完了したら、これらの細胞をまず増殖させることができ
、次いで、導入遺伝子のウイルス又は非ウイルス(例えば、バルクエレクトロポレーショ
ン、組織ナノトランスフェクション)送達、及び/又はCRISPR/CAS9で駆動さ
れる導入遺伝子挿入を含む様々な経路を介して遺伝子操作することができる。このステッ
プの目標は、これらの細胞による抗腫瘍タンパク質、オリゴ、及び/又は他の物体(例え
ば、glut1、mir146、腫瘍溶解性ウイルスなど)の産生を誘導することである
。これらの高運動性亜集団の遺伝子操作が完了したら、これらの細胞を次いで、がん性増
殖を根絶することを目的として、全身的(例えば、血液中、リンパ系)、又は局所的(原
発性腫瘍若しくは転移性腫瘍へ)のいずれかで患者に戻すことができる。いくつかの実施
形態では、導入遺伝子はメタロプロテイナーゼ-3の組織阻害剤(TIMP-3)をコー
ド化する。
【0032】
がん用途について、これらの細胞を操作(トランスフェクションを介して)して、炎症
誘発性分子(例えば、ccl4、mir146、glut1)を発現して、腫瘍、又は抗
転移成分(例えば、timp3)へのT細胞浸潤を促進して、がん転移を防止することが
できる。
【0033】
いくつかの実施形態では、MDSCを使用して、抗炎症分子を送達するアルツハイマー
病若しくは糖尿病などの他の状態、又は他の形態の脳損傷(例えば、虚血性脳卒中)での
治療法を施し、この場合、MDSCは自然にホーミングして、一旦、血管新生促進及び/
若しくは前神経、又は抗炎症剤などの治療カーゴを送達できる。
【0034】
これらの自己細胞は、(患者に注射して戻す前に)薬物誘導性(例えば、ドキシサイク
リン)「キルスイッチ」システムでさらに操作して、治療用細胞の作用が必要なくなった
らそれらを根絶することができる。キルスイッチシステムは当該技術分野で公知であり、
したがって、好適なキルスイッチシステムを選択し採用することは当業者の管轄内である
。
【0035】
本発明の多数の実施形態を記載してきた。それでも、本発明の主旨及び範囲から逸脱す
ることなく様々な修正をなすことができると理解される。したがって、他の実施形態は、
以下の特許請求の範囲内に含まれる。
【実施例0036】
実施例1:ナノエンジニアリング治療用ステルス細胞
GSCの転移能、並びにそれらが免疫系又は標準的治療を回避する能力は、引き続き主
要な致死因子であり続ける。ナノスケールツールを使用して、高い転移及び治療耐性能を
示すGSCの特定のサブセットを単離し研究した(
図1)。
【0037】
また、MDSCを用いたパイロット試験によって、GSCと同様に、顕著な転移能力を
有するクローンサブセットが明らかになった(
図1)。これらの知見は、GSC及びMD
SCがモノリシック集団ではないこと、そして特定のクローンサブセットが、おそらくは
疾患再発を引き起こす原因となり得る、有意により「高悪性度の」表現型を示すことを示
唆している。この実施例で開示するのは、高運動性GSC及び/又はMDSCクローンを
、脳内の新しい再発病巣を捜索し破壊できる「自己破壊性」細胞「ミサイル」に再プログ
ラミングすることによって、GBM再発を最小限に抑える、斬新なハイリスク/ハイリタ
ーンのアプローチの開発である。運動性が増強されたGSC及びMDSCを、
図1に示す
ように、ナノチップ支持単一クローン運動性「クロマトグラフィー」によって異種集団か
ら選別する。これらの細胞を次いで、限定されたクローン性増殖(2~5継代)に供し、
続いて腫瘍溶解性ウイルスプラスミドカクテルの決定的なナノチャンネルベースの送達(
Gallego-Perez,D.et al.Nanomedicine 12:39
9-409(2016))によって「自己破壊的」にする。これらのウイルスは従来型療
法とは異なるメカニズムによってがん細胞を殺滅することができ、したがって、GSCを
根絶するための有望な治療法の選択肢として提案されている(Cripe,T.P.,e
t al.Mol Ther 17:1677-1682(2009))。
【0038】
一連のインビトロ試験を行って、長時間優れた運動性を保持しつつ、GSC又はMDS
Cの選択されたサブグループが「自己破壊性」となる最適プラスミド投与量及び比率を決
定する。これらの「管理」されているが高運動性のGSC/MDSC集団を次に、担GB
Mマウスに、効果的に転移させ、病変した脳全体にわたって治療用ビリオンを戦略的に放
出することを目的として頭蓋内注射(一緒に、また別々に)する(
図2)。
【0039】
また、再プログラミング/薬物化MDSCの全身送達の比較実験を、これらの細胞が病
変した脳にホーミングすることができ、腫瘍進行を妨害することができることを検証する
ために、担GBMマウスにおいて実施する。最新式画像化技術(例えば、IVIS、PE
T、MRI)を使用して、治療用GSC/MDSCの結果をモニタリングする。細胞ベー
スの腫瘍溶解性ウイルス療法で、腫瘍溶解性ウイルス粒子を用いた直接治療と比較して有
望な結果が以前に示されているが(Power,A.T.& Bell,J.C.Mol
Ther 15:660-665(2007))、主な制限は、今までのところ研究さ
れてきた細胞のほとんどが、特にGSCの頭蓋内転移のペースと比較した場合、転移能が
低減することである。一方、管理/再プログラミングされたGSC又はMDSCは、免疫
系に対するステルス能力に加えて、本質的に高い頭蓋内運動性を有し得、したがって、そ
れらをコロニー化させ、病変した脳をより効果的に監視し治療することを可能にする。
実施例2:マウスMDSCの構造的にガイドされた転移
【0040】
最近の研究で、MDSCは、生化学的刺激の非存在下で、事前に整列された構造的キュ
ーに反応し、事前に整列された構造的キューに沿ってガイドできることが示されている(
図3~4)。これに対して、組織培養ポリスチレン(TCP)に関する単一クローン運動
性アッセイで、低い転移能が明らかになり(
図3)、腫瘍細胞と同様に、MDSC転移/
浸潤はおそらくは構造的にガイドされた遊走に好ましいことを示唆している。チップ支持
された遊走クロマトグラフィー研究によって、高悪性度がん性細胞に相当する、集団の残
りと比較して転移能が増強されたクローンサブセットが明らかになった(
図4A~4C)
。高速移動するクローンのフローサイトメトリ分析によって、そのような集団が主にLy
6-G
high/Ly6-C
low(顆粒球)及びLy6-G
high/Ly6-C
hi
gh(未特定)であることが明らかになった。低速移動するクローンの表現型は、単球(
Ly6-G
low/Ly6-C
high)及び顆粒球の間、並びに未特定の変異体Ly6
-G
low/Ly6-C
low及びLy6-G
high/Ly6-C
highの間でより
均等に分布していた。したがって、MDSCは、明らかに、転移能が改善された特殊化ク
ローンサブセットを有し、これは、おそらくは腫瘍/神経節をコロニー化して免疫抑制を
発揮しやすい。そのようなクローンサブセットは、したがって、がんとの闘いにおける新
しい治療標的であり得る。
実施例3:患者MDSCの構造的にガイドされた転移
【0041】
次に、患者由来のMDSCもまた、生化学的刺激の非存在下で構造的にガイドされた遊
走を示すか否かを試験した。異なる治療法の下での、異なるステージの黒色腫患者の末梢
血から単離されたMDSCを約24時間追跡した。各患者のMDSCは独自の転移パター
ン/サインを示し、一部の患者は、バルク集団と比較して移動性が増強されたクローンサ
ブセットを示し(
図5)、これは25μm/h未満でクラスター化したままであった。特
に、一部の患者は、その速度が25μm/h未満で全体的にクラスター化したMDSCを
有し、おそらくは一見したところ「静止」集団を示すものであり、おそらくは悪性腫瘍の
タイプ、及び/又は療法の様式/ステージを反映するものである。インビボ活性及び/又
は疾患転帰のそれらのレベルの代理としての役割を果たし得る、これらの因子及びMDS
Cの単一クローン転移能/サインの間の明らかな相関関係を確立するためにさらなる研究
が必要とされるが、これらのデータは、MDSCがモノリシックではないこと、及び運動
性に関連するメカニズムを調査することで、潜在的に、改善された療法だけでなく新しい
診断/予後ツールの開発のための道を開くことができるという考えをさらに裏付ける。
実施例4:構造的にガイドされた遊走は薬物感受性を明らかにする
【0042】
腫瘍/神経節へのMDSC遊走/浸潤を損なうことは、免疫抑制負荷を低減するため実
行可能な戦略であり得る。ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)の阻害剤は通常、血液
がんの治療で用いられてきた。BTKは、細胞遊走を含む多くの生物学的プロセスで役割
を果たす。MDSCはBTKを発現するが、イブルチニブ(BTK-阻害剤)の存在下で
のTCPに関する単一クローン運動性アッセイは、遊走に対して顕著な効果を示さなかっ
た(
図6)。これに対して、バイオミメティック表面に関する運動性アッセイは、MDS
Cの高運動性サブセットの選択的ターゲティングを示すようである(
図5)。そのような
結果は、遊走によって駆動される変化(例えば、細胞骨格アラインメント)が、MDSC
における薬物感受性を部分的に調節し得ることを示す。
実施例5:遊走クロマトグラフィーのバイオミメティックプラットフォーム
【0043】
院内のナノファブリケーション専門技術(すなわち、接触/投影ベースのリソグラフィ
―、及びソフトリソグラフィ―)を利用して、ポリジメチルシロキサン(PDMS)から
事前に整列された構造的キュー(幅約300nm)を作製する。テクスチャー付表面を次
に、アルゴンプラズマ(30ワット、約1000microTorr)下で熱応答性ポリ
(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)で官能化する。PINIPAMコ
ーティングされた基体(厚さ約100μm)を次に、配列されたマイクロチャンネルを有
するマイクロ流体システム(幅50μm、ピッチ500μm、独立して操作、
図7)と結
合させる。これらのチャンネルを使用して、テクスチャー付PDMSの下に冷水を選択的
に流し、PINIPAMからの熱活性化による選択的細胞脱離(すなわち、弱疎水性から
高親水性へスイッチ)を促進する。ナノテクスチャー付表面は、走査電子顕微鏡法(SE
M)及び原子間力顕微鏡法(AFM)によって特徴づけられる。PNIPAMコーティン
グは、異なる温度での接触角測定、X線光電子分光法(XPS)及びフーリエ変換赤外分
光(FTIR)により検証される。
実施例6:MDSC運動性
【0044】
MDSCは、標準的手順を使用してプロトコルOSU-09142の下で、乳がん腫瘍
患者の新たに入手した組織(すなわち、末梢血、腫瘍及びリンパ系組織)から単離する。
腫瘍細胞/組織はまた、標準的手順36を使用して収集される。遊走クロマトグラフィー
は、GM-CSF(200ng/mL)を化学誘引物質として使用してバイオミメティッ
ク表面(
図4、7)上で実施される。異なるソースMDSC(すなわち、循環vs腫瘍v
sリンパ組織-常在性)の単一クローン遊走は、培養チャンバーを取り付けた共焦点顕微
鏡でタイムラプス顕微鏡法により記録する。画像は、24~72時間の間10分ごとに収
集し、Fijiにプラグインされたマニュアルトラッカーを使用して後処理/分析する。
異なる運動性の程度を示すMDSCクローンは、プラットフォームのマイクロチャンネル
を選択的に「操作」することによって単離される。細胞は、出発位置からの移動距離に応
じて高運動性vs中運動性vs低運動性として区分される(
図7)。これらのクローンサ
ブセットの生物力学(すなわち、剛性及び収縮性)を次に、後述するような、単細胞の粘
弾性特性を分析するためにco-I Ghadialiによって開発された技術である振
動AFM、及び牽引力顕微鏡法(TFM)によって分析する。さらに、フローサイトメト
リは、単球(CD15
+/CD14
+)及び顆粒球(CD15
+/CD14
-)マーカー
、及びそれらの組み合わせについて実施する。各クローンサブセットにおける免疫抑制活
性を評価するために、CFSE標識されたT細胞を用いて(異なる濃度で)培養し、T細
胞増殖をフローサイトメトリによって評価する。RMPI培地単独、及びSIINFEK
Lペプチドをそれぞれ負の対照及び正の対照として使用する。最後に、最強の抑制活性を
有するクローンサブセットを、後述するように、単一細胞シーケンシングによってさらに
分析する。
実施例7:BTK阻害
【0045】
高移動性及び/又は免疫抑制性クローンが異なるソースMDSCから特定されたら、B
TK阻害剤(すなわち、イブルチニブ)がガイドされた転移を妨害する程度を評価する。
まず、免疫ブロット法を使用して、各クローンサブセットが0~10μMイブルチニブに
曝露されるBTK及びリン酸化BTK(p-BTK)のレベルを評価する。各クローンサ
ブセットを次にナノテクスチャー付表面上に播種し(約103~104細胞/cm2)、
0~10μMイブルチニブに曝露しつつ、ガイドされた遊走をタイムラプス顕微鏡法によ
ってモニタリングする。画像をFijiによって処理/分析する。ACP-196(選択
的かつ不可逆的BTK阻害剤)及びGDC-0853(選択的かつ可逆的BTK阻害剤)
を用いた実験を比較目的で実施する。イブルチニブへの曝露後に、AFM及びTFMを再
度使用して、それぞれ単一細胞剛性及び収縮性を評価する。MDSC運動性及び生物力学
に対するBTK阻害の効果を、オープンでOSUにて実施されたOSU CCCの支援を
受けた臨床研究(OSU-18015)の援助のもとでイブルチニブを投与された乳がん
患者でさらに評価する。インフォームドコンセントを得た後、30ccの末梢血を治療前
及び療法開始後2週及び4週で採取する。MDSCを単離し、単一クローン運動性及び生
物力学(すなわち、AFM及びTFM)を前述のように評価する。
実施例8:MDSC/腫瘍細胞転移の相互調節
【0046】
予備調査により、MDSCは移動性が改善された特殊化クローンサブセットを有し、こ
れはおそらくは、腫瘍/リンパ系組織をコロニー化するか、又は高侵襲性腫瘍細胞と共に
同時転移しやすく、転移の早期に「保護的」免疫抑制を提供することが示されている。バ
イオミメティック表面上でのパイロット試験(
図8~9)によより、MDSCの存在によ
って非がん性乳房組織細胞のクローンサブセットにおいて増強された運動性上皮から間葉
転移が引き起こされたことが示され(
図8A~8B)、MDSCは、健常組織において潜
在的ながん性変化を誘導する能力を有し得ることを示唆する。これに対して、MDSCは
、高攻撃性乳がん細胞の全運動性パターンにおいて顕著な変化を誘導するようではなかっ
た(
図8C)。興味深いことに、最も悪性度の高い瘍細胞は、MDSCにおける単一クロ
ーン運動性で最強の変化を誘導した(
図9)。MDSCは、40μm/h付近/未満でク
ラスター化する単一クローン速度から、場合によって約100μm/hに達し得る速度ま
で移動し、高悪性度腫瘍細胞からの増強されたサイトカイン/ケモカイン分泌による可能
性が高い。
実施例9:単一クローンレベルでのガイドされた遊走研究によって、腫瘍関連骨髄由来
サプレッサ細胞集団において興味深い治療法の可能な標的が明らかになる
【0047】
方法
【0048】
テクスチャー付PDMS表面:マイクロテクスチャー付PDMS表面は、レプリカ成形
プロセスによってフォトリソグラフィーでパターン化したケイ素マスターから作製した。
突起及び溝の平行配列(幅2μm、高さ2μm、2μm間隔)はまず、S1813フォト
レジストを使用した標準的UVフォトリソグラフィーによってケイ素マスター上にパター
ン形成した。PDMSと硬化剤の10:1混合物を次いでマスター上にキャストし、数時
間脱気させ硬化させた。PDMSを次にマスターから脱型し、単一細胞遊走実験のために
マルチウェルプレート上に配置した。走査電子顕微鏡法(SEM)を使用して、表面形態
を特徴づけた。
【0049】
MDSC培養:マウスMDSC細胞株(MSC-2)はGregoire Migno
t氏から寄贈された。MSC-2細胞は、25mM HEPES、10%熱不活化ウシ胎
仔血清(FBS)、1%抗生物質-抗真菌剤、及び1mMピルビン酸ナトリウムを追加し
たRPMI1640培地中で培養した。患者由来のMDSCは、RosetteSep
HLA-骨髄系細胞濃縮キット(Stemcell Technologies)を使用
して末梢血から濃縮し、続いてFicoll-Paque遠心分離(GE health
care)を行った。MDSCを続いて抗HLA-DR MicroBeads(Mil
tenyi Biotec)を使用して15分間4℃にてHLA-DRneg細胞の負の
選択により単離し、MS-MACSカラムを用いて単離した。サンプルはヒト対象研究の
IRB認可プロトコルの下でインフォームドコンセントを取得した。
【0050】
単一細胞遊走アッセイ:約1.5×105MSC-2細胞を播種し、通常の培地中のテ
クスチャー付PDMS表面又はTCP対照上に数時間播種して接着させた。細胞は、倒立
顕微鏡に取り付けた細胞培養チャンバー(Okolab)を用いて16時間にわたって1
0分ごとにタイムラプス顕微鏡法により撮像した。画像は、Fijiにプラグインしたマ
ニュアルトラッカーを用いて分析した。単一細胞変位データを次にMATLABにより分
析して、速度及び正味トラック移動距離を決定した。
【0051】
フローサイトメトリベースの分析及び選別:以下の抗体をMSC-2細胞について使用
した:抗CD11b-FITC、抗Ly6-C-APC及び抗Ly6-G-PE、すべて
Biolegendから購入。患者由来のMDSCについて、我々は、Beckman
Coulterから購入した抗CD33-APC、抗CD11b-AP、及び抗HLA-
DR-PECy7を使用した。データは、LSRIIフローサイトメーター(BD Bi
osciences)を使用して取得した。すべての色をそれらの各アイソタイプ対照及
び染色していないサンプルに対して評価した。
【0052】
遺伝子発現分析:全RNAは、TRizol試薬(ThermoFisher)を使用
して抽出した。逆転写反応は、スーパースクリプトVILO cDNA合成キット(Th
ermoFisher)での20μl反応において500~1000ngのRNAを使用
して実施した。cDNAをテンプレートとして使用して、予め指定されたプライマーを使
用した定量的リアルタイムPCRにより炎症誘発及び抗炎症遺伝子の発現レベルを測定し
た。リアルタイムPCR反応は、QuantStudio 3リアルタイムPCR Sy
stemとTaqMan fast advance chemistry(Therm
o Scientific)を以下の条件で使用して実施した:95℃で10分、95℃
で1分、60℃で1分、及び72℃で1分を40サイクル。遺伝子発現をハウスキーピン
グ遺伝子GAPDH及びATP-6に対して正規化した。
【0053】
同所性腫瘍異種移植:免疫不全ヌードマウス(Jackson Laboratory
)、6~8週令をまず乳房脂肪体中の1000000個のヒト乳がん細胞(MDA-MB
-231)に注入して、腫瘍を生成させた。腫瘍発生の4週間後に、選別されたMDSC
亜集団を、一般的細胞膜標識用PKH67緑色蛍光細胞リンカーキット(Millipo
re Sigma)を、製造業者によって示唆される指示にしたがって使用して染色した
。次に、担癌マウスに約2.5×105MDSCを尾静脈から注入した。次に、注射の1
日後にマウスを収集し、腫瘍、肺、及び脾臓をIVIS Imaging System
(Xenogen Imaging Technologies)で特徴づけた。すべて
の動物実験は、オハイオ州立大学の実験室動物の管理及び使用委員会によって承認された
プロトコルにしたがって実施した。
【0054】
統計分析:全統計分析をSigma Plot 12又はGraphPad Pris
m 7で実施した。我々は、実験ごとにn=3~6複製を使用した。複製数、統計試験、
及び有意性のレベルに関する具体的な情報は、図の説明文で見出すことができる。
【0055】
結果及び考察
【0056】
MDSCはトポグラフィー的キューに応答し、構造的にガイドされた転移パターンを示
す。構造的にガイドされた細胞転移は、原発性腫瘍からのがん性細胞の逃避並びに末梢器
官及び組織における転移性増殖の確立において役割を果たすことが知られている。高攻撃
性がん細胞は、とりわけ、細胞外マトリックス(ECM)、白質路、血管の基底膜、及び
軟膜下/腹膜下空間からの径方向に配向したフィブリルを含む、組織内の事前に整列され
た身体構造上の微細構造に優先的に沿って拡散する、異なる拡散性パターンを示す傾向が
ある(
図10A)(Gallego-Perez D,et al.Lab Chip
2012,12:4424-4432;Bellail AC,et al.Int J
Biochem Cell Biol 2004,36:1046-1069; Jo
hnson J,et al.Tissue Eng Part C Methods
2009,15:531-540)。マイクロ及びナノスケールツールを使用して、これ
らの生理学的に関連する条件下で論理的にがん細胞の運動性をプローブするために使用す
ることができるシステムを開発してきた(Gallego-Perez D,et al
.Lab Chip 2012,12:4424-4432;Bellail AC,e
t al.Int J Biochem Cell Biol 2004,36:104
6-1069;Johnson J,et al.Tissue Eng Part C
Methods 2009,15:531-540;Irimia D,et al.
Integr Biol(Camb)2009, 1:506-512;Doyle A
D,et al.J Cell Biol 2009,184:481-490;Pet
rie RJ, et al.Nat Rev Mol Cell Biol 2009
,10:538-549)。様々ながん性細胞において迅速かつ高度に方向性の運動性を
模倣するためにトポグラフィー的又は細胞限局キューが使用されてきたが(Galleg
o-Perez D,et al.Lab Chip 2012,12:4424-44
32;Johnson J,et al.Tissue Eng Part C Met
hods 2009,15:531-540;Irimia D,et al.Inte
gr Biol(Camb)2009,1:506-512;Sidani M,et
al.J Mammary Gland Biol Neoplasia 2006,1
1:151-163;Provenzano PP,et al.BMC Med 20
06,4:38;Wong IY,et al.Nat Mater 2014,13:
1063-1071)、腫瘍関連MDSCの転移/浸潤能に対するそのようなキューの影
響を検討する研究はない。次に試験したのは、MDSCが、侵襲性がん性細胞に類似した
、構造的にガイドされた転移パターンを示すことによりトポグラフィー的キューに応答す
るか否かであった。ネズミMDSC細胞株であるMSC-2をモデルとして使用した(S
tiff A,et al.Cancer Res 2016, 76:2125-21
36;Trikha P,et al.Oncoimmunology 2016,5:
e1214787)。これらの細胞を、フォトリソグラフィーにより作成したケイ素マス
ターからレプリカ成形を介して作製し、がん細胞転移研究で先に試験した寸法(約2μm
×2μm、2μm間隔)を有する平行な突起及び溝の配列として設計された、マイクロテ
クスチャー付ポリジメチルシロキサン(PDMS)表面(
図10B)上に配置した(Ga
llego-Perez D,et al.Nano Lett 2016,16:53
26-5332;Gallego-Perez D,et al.Lab Chip 2
012,12:4424-4432;Kim SH,et al.Cancer Cel
l 2016,29:201-213;Gu SQ,et al.Nucleic Ac
ids Res 2016,44:5811-5819)。MDSC運動性を単一クロー
ンレベルにてリアルタイムでタイムラプス顕微鏡法によりモニタリングした。標準的細胞
培養表面(すなわち、組織培養ポリスチレン又はTCP)上に播種した細胞を比較目的で
使用した。結果から、MDSCが、TCP上で単一クローンレベルにて限定された運動性
を示し(
図10C~10E)、ほとんどの細胞は丸みのある形態を示す(
図10C)こと
がわかる。一方、テクスチャー付表面は、MDSCの一部で細胞骨格及び形態学的再配列
(すなわち、アラインメント)を明らかに誘導し(
図10C)、これは、運動性の増大に
つながった(
図10D、10E)。平均単一クローン速度は、TCP上の約20μm/h
と比較してテクスチャー付表面上で約40μm/hの最大値に達した。単一クローンの有
効変位の尺度である正味トラック距離は、TCP上の<100 μmと比較してテクスチ
ャー付表面上で16時間の期間にわたって約400μmの最大値に達した。特に、テクス
チャー付表面上で遊走するMDSCは、転移可能性において有意なクローン間変動性を示
し、細胞は、低運動性から高運動性の全領域に及んだ。これに対して、TCP上で遊走す
るMDSCは、著しく低いクローン間変動性を示した。がん患者に由来する循環MDSC
に関する研究(
図13)は、顕著なクローン間変動性を示す高運動性MDSC集団の存在
をさらに確認し、一部のクローンは、約200μmh
-1までの平均ガイドされた遊走速
度及び16時間の期間にわたって1mmに迫る全正味変位を示した。しかしながら、患者
由来の循環MDSCのある特定の集団は、限定された全体的運動性を示し、これは潜在的
に原発悪性腫瘍の直接的反映であり得る(例えば、タイプ、ステージ、変異)及び/又は
現行の治療法(表1~3)。
【表1】
【表2】
【表3】
【0057】
MDSC亜集団は異なる転移能を示す。運動性における明らかなクローン間変動性に基
づいて、我々は、標準的MDSC命名法に基づいて、顆粒球(CD11b
+Ly6C
lo
Ly6G
+)及び単球(CD11b
+Ly6C
hiLy6G
-)亜集団へのフローサイト
メトリベースの選別によりMDSC集団をさらに階層化しプローブした(
図11A~11
C)(Bronte V,et al.Nat Commun 2016,7:1215
0)。CD11b
+Ly6C
+Ly6G
+細胞の亜集団もまた、フローサイトメトリデー
タから特定され、我々の分析に含まれていた。フロー選別された亜集団を次に、炎症誘発
及び抗炎症マーカーのqRT-PCR分析に加えて、前述のように、テクスチャー付表面
上での構造的にガイドされた運動性研究に供した。単一クローン転移研究は、単離でプロ
ーブされる場合、顆粒球MDSCが単球MDSC及びCD11b
+Ly6C
+Ly6G
+
亜集団と比較して優れた転移能を有し(
図11D)、単一クローンは場合によっては16
時間の期間にわたって>100μm/h及び約1.5mmの平均速度及び正味変位に達し
たことを示す。そして単球MDSC及びCD11b
+Ly6C
+Ly6G
+亜集団内の一
部のクローンは相対的に高い平均遊走速度約50μm/hを示すが、正味変位は相当限定
され、したがって、これらの細胞は顆粒球MDSCと比較して非常に短距離及び/又は無
秩序な運動性パターンを示す傾向があることが示唆された(
図11E)。これらの観察結
果は、インビボ研究によってさらに確認され(
図11F、11G)、この研究では、担癌
マウスに選別vs「新しい」/非選別MDSCの蛍光標識された懸濁液を全身注射し、I
VISを使用して、腫瘍ニッチvs末梢器官/組織内のMDSC蓄積を記録した。顆粒球
MDSCを注射されたマウスは、腫瘍内でより顕著な蛍光シグナル蓄積を示した(
図11
G)。がん患者由来の循環MDSCを用いた平行単一クローン運動性研究(
図14)もま
た、顆粒球亜集団(CD11b
+CD15
+CD14
-)が単球亜集団(CD11b
+C
D15
-CD14
+)と比較して増強された運動性を示すことを示唆する。炎症誘発性マ
ーカーのMSC-2細胞遺伝子発現分析は、「新しい」(すなわち、非選別)MDSC集
団と、精製された顆粒球、単球、及びCD11b
+Ly6C
+Ly6G
+亜集団との間の
TNF-α、iNOS、及びIL-27の発現において統計的に有意な差はないことを示
す。しかしながら、IL-6は、新しい集団vsフロー選別された亜集団において有意に
過剰発現された。一方、抗炎症マーカーの遺伝子発現分析により、フロー選別された顆粒
球亜集団が、新しいフロー選別された単球MDSC及びCD11b
+Ly6C
+Ly6G
+亜集団と比較して、アルギナーゼ及びIL-10を過剰発現する傾向を有することが示
唆される。まとめると、これらの結果は、顆粒球MDSC亜集団が、がん性組織を拡散し
コロニー化させやすいだけでなく、単球MDSC及びCD11b
+Ly6C
+Ly6G
+
亜集団と比較して抗炎症/抑制マーカー抗炎症/抑制マーカーを過剰発現しやすいようで
あることを示唆する。
【0058】
MDSC亜集団は、長期の培養条件下で集団ホメオスタシスを駆動する表現型の可塑性
を示す。MSC-2細胞の顆粒球MDSC及び単球MDSCの異なる亜集団、並びにCD
11b
+Ly6C
+Ly6G
+細胞へのフローベースの精製後に、細胞を1~7日間培養
中で維持した。表現型の可塑性をフローサイトメトリにより第1日及び第7日により評価
した。単一クローン運動性アッセイ及び遺伝子発現分析を第7日に実施した(
図12A)
。驚くべきことに、そして我々がフローベースの選別の直後に見出したものと対照的に;
第7日までに三つの集団すべてにわたって転移特性において有意差は検出されなかった(
図12B)。全ての集団について平均単一クローン速度は約50μmh
-1以内にとどま
ったが、その一方で、全体的正味トラック距離は約200μm未満にとどまった。フロー
サイトメトリ分析によって、選別の1日後に、精製集団は依然として培養の大部分(約8
0%)を構成するが、第7日までに、集団の全階層が再確立されたことが示され(
図12
C~12E)、おそらくは、MDSC集団における集団のホメオスタシス/異種性の維持
における細胞可塑性の役割を示唆する。精製顆粒球亜集団由来の細胞培養(
図12C)は
、例えば、単球MDSC及びCD11b
+Ly6C
+Ly6G
+細胞を生じさせ、単球の
亜集団は、第1日~第7日で最も急な増加を示し(約7倍変化)、CD11b
+Ly6C
+Ly6G
+集団は、第7日までに約3倍増加を示した。一方、精製単球MDSC由来の
培養は、顆粒球集団と比較して7日までにCD11b
+Ly6C
+Ly6G
+集団を掃除
させやすかった(約2.5倍増加)。最終的に、精製CD11b
+Ly6C
+Ly6G
+
集団由来の培養は、単球MDSCと比較して、第7日まで顆粒球MDSCを生じさせやす
く(約3倍増加)、これは第1日と第7日との間で有意な増加を示さなかった。第7日で
の炎誘発性マーカー(
図12F)及び抗炎症マーカー(
図12G)の遺伝子発現プロフィ
ールは、集団にわたってより微細な差を示し、選別/精製された亜集団と比べて「新しい
」MDSC集団においてそれぞれ増大及び減少したiNOS及びIL-6発現を示した。
しかしながら、0日(すなわち、選別/精製当日)と7日との間の発現プロフィールを比
較すると、より顕著な差がみられ、三つの集団すべてについて炎症誘発性iNOSの発現
が全体的に増加し、顆粒球亜集団のみについてアルギナーゼ1及びIl-10が有意に減
少した(
図15)。
【0059】
ミクロ及びナノスケールの技術は、医学的応用に細胞生物学の様々な態様を調査及び/
又は調節するために広く使用されている(Gallego-Perez D,et al
.Nano Lett 2016,16:5326-5332;Gallego-Per
ez D,et al.Lab Chip 2012,12:4424-4432;Ki
m SH,et al.Cancer Cell 2016,29:201-213;G
u SQ,et al.Nucleic Acids Res 2016,44:581
1-5819;Minata M,et al.Cell reports 2019,
26:1893-1905;Shukla VC,et al.Trends in b
iotechnology 2018,36:549-561;Benavente-B
abace A,et al.Biosens Bioelectron 2014,6
1:298-305;Fei Z,et al.Analytical Chemist
ry 2013,85:1401-1407;Chang L,et al.Small
2016,12:5971-5980;Chang L,et al.Lab Chi
p 2015,15:3147-3153;Gallego-Perez D,et a
l.Biomed Microdevices 2012,14:779-789;Ga
llego-Perez D,et al.Nanomedicine 2016,12
:399-409;Gallego-Perez D,et al.Nature na
notechnology 2017,12:974; Wu Y,et al.Sma
ll 2013,9:2358-2367;Zhao X,et al.Advance
d Science 2015,2;Zhao X,et al.Anal Chem
2015,87:3208-3215)。ミクロスケールのエンジニアリングツールを使
用して、腫瘍関連MDSCが侵襲性がん性細胞と同様に構造的にガイドされた遊走パター
ンを示すことを実証した。単一クローン運動性分析によって、MDSC集団内及び全体に
わたって(すなわち、患者由来のMDSCについて)明らかな不均質性が明らかになり、
ネズミ由来のMDSC及び患者由来のMDSCの両方において転移能が増強されたクロー
ン性サブセットの存在が確認された。ヌードマウスにおけるフローサイトメトリベースの
選別、遺伝子発現分析、及び同所性腫瘍異種移植実験と合わせた運動性追跡調査研究は、
顆粒球亜集団が増加した転移及び腫瘍浸潤能力、並びに増強された抗炎症活性を示しやす
く、このため、この集団が、がんにおいて魅力的な治療標的となる可能性があることを示
唆している。しかしながら、その後の研究は、そのようなクローンサブセットの著しく動
的かつ可塑性の性質を明らかにし、精製されたMDSC亜集団は、あらゆるMDSC表現
型を生じさせることによって迅速に集団的ホメオスタシスに達する。腫瘍常在性MDSC
の優性表現型に関して矛盾する報告があるが(すなわち、顆粒球対単球)(Kumar
V,et al.Trends in immunology 2016,37:208
-220;Hossain F, et al.Cancer immunology
research 2015,3:1236-1247;Haverkamp JM,e
t al.European journal of immunology 2011
,41:749-759;Mairhofer DG,et al.Journal o
f Investigative Dermatology 2015,135:278
5-2793;Bozkus CC,et al.The Journal of Im
munology 2015,195:5237-5250)、我々の単一クローン転移
及び表現型の可塑性の結果は、顆粒球MDSCがおそらくは、腫瘍ニッチに浸潤するため
により良好に備えられる潜在的メカニズムを指摘し、このメカニズムでは、顆粒球MDS
Cはその後も顆粒球のままである、及び/又は腫瘍タイプ含む複数の因子に応じて、単球
MDSCを生じさせる。興味深いことに、がん患者由来の循環MDSCを用いた単一クロ
ーン転移は、MDSC運動性は、患者のバックグラウンド(例えば、がんの種類/ステー
ジ、治療法など)に潜在的に影響を受ける可能性があり、したがって、エクスビボでの循
環MDSCの転移パターンが疾患及び/又は治療進行をモニタリングするために使用でき
るか否かを判定するためにさらなる研究が必要であることを示唆する。
【0060】
別段の記載がある場合を除き、本明細書中で使用するすべての科学技術用語は、開示さ
れた発明が属する分野の当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。本明細書
中で言及する刊行物及びそこで引用される資料は参照により具体的に組み込まれる。
【0061】
当業者は、本明細書中で記載する発明の特定の実施形態の多くの均等物が分かっている
か、又は慣例的な実験のみを用いて確認することができるであろう。そのような均等物は
、以下の特許請求の範囲に含まれることが意図される。