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特開2024-156745ヒト胚性幹細胞の侵害受容器分化のための方法およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156745
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】ヒト胚性幹細胞の侵害受容器分化のための方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/079 20100101AFI20241029BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20241029BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241029BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20241029BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20241029BHJP
   C07K 14/495 20060101ALN20241029BHJP
【FI】
C12N5/079
C12N5/0735
C12N5/10
C12N5/079 ZNA
C12N15/09 Z ZNA
C07K14/705
C07K14/495
C12N15/09 Z
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024119468
(22)【出願日】2024-07-25
(62)【分割の表示】P 2021214212の分割
【原出願日】2021-12-28
(31)【優先権主張番号】61/396,257
(32)【優先日】2010-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】500213834
【氏名又は名称】メモリアル スローン ケタリング キャンサー センター
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ローレンツ スチューダー
(72)【発明者】
【氏名】スチュアート エム. チャンバース
(57)【要約】
【課題】ヒト胚性幹細胞の侵害受容器分化のための方法およびその使用方法を提供する。
【解決手段】本発明は、幹細胞生物学の分野、特に、ヒト胚性幹細胞(hESC)、ヒト誘導多能性幹細胞(hiPSC)、体性幹細胞、がん幹細胞、または系列特異的に分化することができる任意の他の細胞を含み得るが、これらに限定されない、多能性または多分化能性幹細胞の系列特異的分化に関する。特に、新規培養条件を用いてhESCおよび/またはhiPSCの系列特異的分化を侵害受容器(すなわち侵害受容器細胞)へと向かわせる方法を述べる。本発明の方法を用いて作製される侵害受容器は、インビトロでの薬剤発見アッセイにおける使用、疼痛研究における使用、および末梢神経系(PNS)の疾患または損傷を逆転させる治療薬としての使用を含むが、これらに限定されない、様々な用途に関してさらに考慮される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SOX10を発現する神経堤中間細胞への幹細胞の定方向性分化を誘導する方法であって、前記方法は、以下:
a)最大4日間にわたって、幹細胞を含む細胞培養物においてSMADシグナル伝達の阻害を誘導することであって、前記SMADシグナル伝達の阻害の誘導が、前記細胞を、TGFβシグナル伝達のインヒビターおよびBMPシグナル伝達のインヒビターと接触させることを含む、阻害を誘導すること;
b)最大192時間にわたって、前記細胞培養物においてウィングレス(Wnt)シグナル伝達の活性化を誘導し、前記細胞培養物においてFGF受容体ファミリーシグナル伝達の阻害を誘導し、前記細胞培養物においてノッチシグナル伝達の阻害を誘導することであって、前記Wntシグナル伝達の活性化の誘導が、前記細胞を、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)のインヒビターと接触させることを含む、誘導すること
を含み、
ここで、工程a)が工程b)の前に行われ、
ここで、工程b)が、前記SMADシグナル伝達の阻害の初期誘導から4日以内に行われる、方法
【請求項2】
前記TGFβシグナル伝達のインヒビターが、SB431542である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記TGFβシグナル伝達のインヒビターが、SB431542を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記BMPシグナル伝達のインヒビターが、LDN193189およびノギンから選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記BMPシグナル伝達のインヒビターが、LDN193189を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記GSK3βのインヒビターが、CHIR99021である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記GSK3βのインヒビターが、CHIR99021を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記Wntシグナル伝達の活性化の初期誘導が、前記SMADシグナル伝達の阻害の初期誘導から2日目である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記FGF受容体ファミリーが、VEGF受容体、FGF受容体、およびPDGFチロシンキナーゼ受容体を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記FGF受容体ファミリーシグナル伝達の阻害の誘導が、前記細胞を、FGF受容体ファミリーシグナル伝達のインヒビターと接触させることを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記FGF受容体ファミリーシグナル伝達のインヒビターが、SU5402である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記FGF受容体ファミリーシグナル伝達のインヒビターが、SU5402を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記ノッチシグナル伝達の阻害の誘導が、前記細胞を、ノッチシグナル伝達のインヒビターと接触させることを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ノッチシグナル伝達のインヒビターが、DAPTおよびDAP-BpBから選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ノッチシグナル伝達のインヒビターが、DAPTまたはDAP-BpBを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記神経堤中間細胞が、BRN3AおよびISL1から選択される少なくとも1つのマーカーをさらに発現する、請求項1~1のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記マーカーがタンパク質または核酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記幹細胞が多能性幹細胞である、請求項1~1のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記多能性幹細胞が、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記幹細胞がヒト幹細胞である、請求項1または19に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞培養物における前記SMADシグナル伝達の阻害が、2日間にわたって誘導される、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞生物学の分野、特に、ヒト胚性幹細胞(hESC)、ヒト誘導多能性幹細胞(hiPSC)、体性幹細胞、がん幹細胞、または系列特異的に分化することができる任意の他の細胞を含み得るが、これらに限定されない、多能性(pluripotent)または多分化能性(multipotent)幹細胞の系列特異的分化に関する。特に、新規培養条件を用いてhESCおよび/またはhiPSCの系列特異的分化を侵害受容器(すなわち侵害受容器細胞)へと向かわせる方法を述べる。本発明の方法を用いて作製される侵害受容器は、インビトロでの薬剤発見アッセイにおける使用、疼痛研究における使用、および末梢神経系(PNS)の疾患または損傷を逆転させる治療薬としての使用を含むが、これらに限定されない、様々な用途に関してさらに考慮される。さらに、疾患モデリングにおける使用のためにヒト多能性幹細胞からメラノサイトを生産するための組成物および方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
胚性および体性幹細胞はあらゆる細胞型に分化する能力を有する:それらは、したがって、特徴付けられた細胞集団を侵すかまたは損傷/傷害を与える疾患のための細胞置換療法に極めて適する。それらの直接の治療的価値を超えて、系列特異的分化幹細胞はまた、系列特異的疾患を処置する治療分子の詳細または送達について同定する、確認する、試験するためのインビトロスクリーニングアッセイ、細胞系列特異化および分化の複雑な機構のさらなる解明、ならびに診断または予後マーカーとしての使用に関してさらに考慮することができる、正常状態と疾患または損傷状態との間の重要な生化学的相違を同定することを含む、様々な目的のための有用な研究ツールでもある。
【0003】
神経変性疾患のための治療薬およびモデル系としての胚性および体性幹細胞の能力は広く探求されてきた。しかし、胚性および体性幹細胞の定方向性分化に関する研究および技術開発の多くは、ハンチントン病、アルツハイマー病、パーキンソン病および多発性硬化症などの、中枢神経系(CNS)の疾患の分野で行われてきた。末梢神経系(PNS)の系列に向かう胚性および体性幹細胞の定方向性分化に関する知識は、現在のところ十分ではない。PNSは、筋骨格制御および外部刺激の知覚を統合する体性神経系、ならびに心拍および呼吸などの内臓器官の機能を調節する自律神経系から構成される。シャルコー・マリー・トゥース病、ギヤン・バレー症候群およびヒルシュスプルング病を含むPNSの多数の疾患が存在する。PNSの末梢感覚ニューロンの疾患は、傷害を引き起こす有害刺激に応答して重度の疼痛を生じさせるかまたは有害刺激に応答することができないようにするので、特に社会的負担が大きく、それらには、家族性自律神経障害、先天性無痛症、糖尿病性ニューロパシー、および水痘または帯状疱疹の感染による損傷などの疾患が含まれる。
【0004】
末梢感覚ニューロン疾患の病理学を理解すること、ならびに処置方法の開発は、ヒト末梢感覚ニューロンを得ることの難しさによって妨げられている;現在の方法は、3~5週齢のヒト胚からの手操作による単離またはまれな外科手術手技に限定される。胚性幹細胞または体性幹細胞の、特定の末梢感覚ニューロン、特に疼痛を知覚する末梢感覚ニューロンである侵害受容器への定方向性分化は、研究および治療の両適用のためのそのような細胞の理想的な再生産可能供給源となる。最近、胚性幹細胞に由来するニューロン中間体から末梢感覚ニューロンを生産することが試みられている。しかし、これらの技術は、ニューロン中間体が必要であること、マウス間質細胞との共培養、そのような末梢感覚ニューロンを誘導するための時間の長さ、低い収率、混合ニューロン型を含む純粋でない細胞集団、PNS生成ニューロンの限られた生存期間と不十分な特性付けによって制限されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、夾雑マウス間質細胞を使用せずに高い純度と収率で胚性または体性幹細胞から直接、末梢感覚ニューロン、特に侵害受容器を生産する方法が当分野において求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、幹細胞生物学の分野、特に、ヒト胚性幹細胞(hESC)、ヒト誘導多能性幹細胞(hiPSC)、体性幹細胞、がん幹細胞、または系列特異的に分化することができる任意の他の細胞を含み得るが、これらに限定されない、多能性または多分化能性幹細胞の系列特異的分化に関する。特に、新規培養条件を用いてhESCおよび/またはhiPSCの系列特異的分化を侵害受容器(すなわち侵害受容器細胞)へと向かわせる方法を記載する。本発明の方法を用いて作製される侵害受容器は、インビトロでの薬剤発見アッセイにおける使用、疼痛研究における使用、および末梢神経系(PNS)の疾患または損傷を逆転させる治療薬としての使用を含むが、これらに限定されない、様々な用途に関してさらに考慮される。さらに、疾患モデリングにおける使用のためにヒト多能性幹細胞からメラノサイトを生産するための組成物および方法を提供する。
【0007】
当分野における制約を克服することおよび/または欠陥を軽減することが本発明の1つの目的である。1つの実施形態では、本発明は、i)幹細胞(例えばhESC、hiPSC、体性幹細胞、がん幹細胞、ヒトまたは哺乳動物多能性細胞等)を得ること;ii)二重SMADシグナル伝達を阻害する条件下で前記幹細胞を培養すること;ならびにiii)FGFおよびノッチシグナル伝達を阻害し、Wntシグナル伝達を活性化する条件下で前記細胞をさらに培養することを含む、侵害受容器を生産する方法を提供する。本明細書で使用される場合、「阻害する」または「ブロックする」という用語は、化合物(すなわちインヒビター)での処理の際に細胞の特定のシグナル伝達経路の活性のレベルが、そのような化合物で処理していないままであるかまたは対照で処理した細胞の前記シグナル伝達経路の活性と比較して低下することを意味する。本明細書で使用される場合、「活性化する」という用語は、化合物(すなわちアクチベーター)での処理の際に細胞の特定のシグナル伝達経路の活性のレベルが、そのような化合物で処理していないままであるかまたは対照で処理した細胞の前記シグナル伝達経路の活性と比較して上昇することを意味する。特定のシグナル伝達経路の何らかのレベルの阻害または活性化は、そのような阻害または活性化が幹細胞の定方向性分化を生じさせる場合、本発明の実施形態とみなされる。1つの実施形態では、培養のための方法は、フィーダーを含まない系のための条件を含む。1つの実施形態では、幹細胞を単層で培養する。好ましい実施形態では、培養のための方法は、化合物SB431542、LDN1933189、SU5402、CHIR99021およびDAPTを含む培地の使用を企図する。1つの実施形態では、分化細胞は、培養細胞の集団の少なくとも10%から100%までである。1つの実施形態では、分化細胞は、ISL1、BRN3A、RET、RUNX1およびNTRK1を含む群からの1つ以上のマーカーを発現する。1つの実施形態では、前記マーカーの発現は、培養細胞の集団の少なくとも10%から100%までにおいて発現される。好ましい実施形態では、分化細胞は侵害受容器である。好ましい実施形態では、幹細胞はhESCまたはhiPSCである。
【0008】
1つの実施形態では、本発明は、i)SMADシグナル伝達およびTGFβ/アクチビン-ノーダルシグナル伝達(TGFβ/Activin-Nodal signaling)の両方をブロックする第一インヒビターまたはインヒビターの組合せ;ii)FGFシグナル伝達をブロックする第二インヒビター;iii)ノッチシグナル伝達をブロックする第三インヒビター;ならびにiv)Wntシグナル伝達のアクチベーター、を含むキットを提供する。1つの実施形態では、第一インヒビターは、LDN193189およびSB431542、それらの組合せ、それらの混合物を含む群から選択される。1つの実施形態では、第二インヒビターは、SU5402およびその誘導体を含む。1つの実施形態では、第三インヒビターは、DAPTおよびその誘導体を含む。1つの実施形態では、アクチベーターは、CHIR99021およびその誘導体を含む。1つの実施形態では、キットはヒト幹細胞をさらに含む。1つの実施形態では、キットは、本発明を実施するための指示書をさらに提供する。
【0009】
1つの実施形態では、本発明は、i)SMADシグナル伝達およびTGFβ/アクチビン-ノーダルシグナル伝達の両方をブロックする第一インヒビターまたはインヒビターの組合せ;ii)FGFシグナル伝達をブロックする第二インヒビター;iii)ノッチシグナル伝達をブロックする第三インヒビター;ならびにiv)Wntシグナル伝達のアクチベーター、を含むキットを提供する。1つの実施形態では、前記第一インヒビターは、SB431542、LDN193189、それらの組合せおよびそれらの混合物を含む群から選択される。1つの実施形態では、前記第二インヒビターは、SU5402およびその誘導体を含む。1つの実施形態では、前記第三インヒビターは、DAPTおよびその誘導体を含む。1つの実施形態では、前記アクチベーターは、CHIR99021およびその誘導体を含む。1つの実施形態では、前記キットは指示書をさらに含む。1つの実施形態では、前記キットはヒト幹細胞をさらに含む。1つの実施形態では、前記ヒト幹細胞はヒト胚性幹細胞である。1つの実施形態では、前記ヒト幹細胞はヒト誘導多能性幹細胞である。
【0010】
本発明は、分化幹細胞の末梢感覚ニューロンサブタイプを評価するための方法をさらに企図する。この方法のある実施形態は、顕微鏡分析、機能アッセイ、特定の系列に関連するマーカーの発現または下方調節の測定を利用することができる。好ましい実施形態では、該方法は、ISL1、BRN3A、RET、RUNX1およびNTRK1を含む群から選択される侵害受容器特異化に関連するマーカーを測定することを含む。
【0011】
1つの実施形態では、本発明は、幹細胞の定方向性分化を誘導するための方法であって、a)i)ヒト幹細胞を含む細胞培養物;ii)SMADシグナル伝達およびTGFβ/アクチビン-ノーダルシグナル伝達の両方をブロックする第一インヒビターまたはインヒビターの組合せ;iii)FGFシグナル伝達をブロックする第二インヒビター;iv)ノッチシグナル伝達をブロックする第三インヒビター;ならびにv)Wntシグナル伝達のアクチベーター、を提供すること、b)前記幹細胞を、SMADシグナル伝達およびTGFβ/アクチビン-ノーダルシグナル伝達の両方をブロックする前記第一インヒビターまたはインヒビターの組合せと、インビトロで0~48時間(より典型的には1~48時間)接触させること、ならびにc)前記幹細胞を、FGFシグナル伝達をブロックする第二インヒビター;ノッチシグナル伝達をブロックする第三インヒビター;およびWntシグナル伝達のアクチベーターと、さらに192時間まで(またはさらには240時間まで)さらに接触させること、を含む方法を提供する。1つの実施形態では、前記第一インヒビターは、SB431542、LDN193189、それらの組合せおよびそれらの混合物を含む群から選択される。1つの実施形態では、前記第二インヒビターは、SU5402およびその誘導体を含む。1つの実施形態では、前記第三インヒビターは、DAPTおよびその誘導体を含む。1つの実施形態では、前記アクチベーターは、CHIR99021およびその誘導体を含む。1つの実施形態では、前記幹細胞はヒト胚性幹細胞である。1つの実施形態では、前記幹細胞はヒト誘導多能性幹細胞である。1つの実施形態では、前記分化細胞はニューロン細胞である。1つの実施形態では、前記ニューロン細胞は侵害受容器である。1つの実施形態では、前記分化細胞は、ISL1、BRN3A、RET、RUNX1およびNTRK1を含む群からの1つ以上のマーカーを発現する。1つの実施形態では、前記分化細胞は外部刺激に応答する。
【0012】
本発明は、本発明の方法によって生成される侵害受容器の使用をさらに企図する。1つの実施形態では、侵害受容器は、抗疼痛治療薬として使用できる化合物を同定するインビトロアッセイにおいて使用される。1つの実施形態では、侵害受容器は、侵害受容器の機能を検討するために使用される。1つの実施形態では、侵害受容器は、PNSの損傷または疾患に罹患しているかまたはその危険性がある動物におけるインビボでの細胞置換療法として使用される。
【0013】
1つの実施形態では、本発明は、生物学的作用物質をスクリーニングする方法であって、a)i)侵害受容器;およびii)試験化合物、を提供すること;b)前記侵害受容器を前記試験化合物と接触させ、侵害受容器機能の活性化または阻害を測定すること、を含む方法を提供する。1つの実施形態では、前記侵害受容器はヒト幹細胞に由来する。
【0014】
1つの実施形態では、本発明は、第一シグナル伝達インヒビター、第二シグナル伝達インヒビターおよび第三シグナル伝達インヒビターを含むキットであって、前記第一インヒビターはトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)/アクチビン-ノーダルシグナル伝達を低下させることができ、前記第二インヒビターはSmall Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)シグナル伝達を低下させることができ、そして前記第三インヒビターは、ウイングレス(wingless(Wnt))シグナル伝達の活性化のためにグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)を低下させることができる、キットを提供する。1つの実施形態では、前記第一インヒビターは、SB431542、その誘導体およびその混合物からなる群より選択される低分子である。1つの実施形態では、前記第二インヒビターは、LDN193189、その誘導体およびその混合物からなる群より選択される低分子である。1つの実施形態では、前記第三インヒビターは、CHIR99021およびその誘導体からなる群より選択される。1つの実施形態では、前記キットは、線維芽細胞増殖因子(FGF)受容体ファミリーシグナル伝達を低下させる第四インヒビターをさらに含み、前記FGF受容体ファミリーシグナル伝達には、血管内皮増殖因子(VEGF)受容体、線維芽細胞増殖因子(FGF)受容体および血小板由来増殖因子(PDGF)チロシンキナーゼ受容体が含まれる。1つの実施形態では、前記第四インヒビターは、SU5402およびその誘導体からなる群より選択される。1つの実施形態では、前記キットは、ノッチシグナル伝達を低下させることができる第五インヒビターをさらに含む。1つの実施形態では、前記第五インヒビターは、N-[N-(3,5-ジフルオロフェナセチル(difluorophenacetyl))-L-アラニル]-S-フェニルグリシンt-ブチルエステル(DAPT)およびその誘導体からなる群より選択される。1つの実施形態では、前記キットは、ネスチン、
【0015】
【化1】
【0016】
からなる群より選択されるタンパク質の発現の検出のために使用される抗体をさらに含む。1つの実施形態では、前記キットは、ネスチン、
【0017】
【化2】
【0018】
からなる群より選択される遺伝子のmRNA発現の検出のためのPCRプライマーをさらに含む。1つの実施形態では、前記キットは、プロタキキニン-1(Protachykinin-1(TAC1))、小胞グルタミン酸輸送体2(VGLUT2)および溶質キャリアファミリー15メンバー3(solute carrier family 15, member 3(SLC15A3))からなる群より選択されるタンパク質の発現の検出のために使用される抗体をさらに含む。1つの実施形態では、前記キットは、プロタキキニン-1(TAC1)、小胞グルタミン酸輸送体2(VGLUT2)および溶質キャリアファミリー15メンバー3(SLC15A3)からなる群より選択される遺伝子のmRNA発現の検出のためのPCRプライマーをさらに含む。1つの実施形態では、前記キットは、第三インヒビターを添加する2日前に第一および第二インヒビターを添加するための工程が含まれる指示書をさらに含む。1つの実施形態では、前記キットは、前記第三インヒビター、前記第四インヒビターおよび前記第五インヒビターの組合せを添加する2日前に第一および第二インヒビターを添加するための工程が含まれる指示書をさらに含む。1つの実施形態では、前記キットは、0~10日目に前記インヒビターを順々に毎日供給するための工程が含まれる指示書をさらに含む。1つの実施形態では、前記キットは、神経幹細胞前駆体を作製するための工程および侵害受容器細胞を作製するための工程が含まれる指示書をさらに含む。1つの実施形態では、前記キットはヒト幹細胞をさらに含む。1つの実施形態では、前記ヒト幹細胞はヒト胚性幹細胞である。1つの実施形態では、前記ヒト幹細胞はヒト誘導多能性幹細胞である。1つの実施形態では、前記ヒト幹細胞はトランスジェニックSOX10::GFP細菌人工染色体(BAC)ヒト多能性(puripotent)幹細胞(hPSC)である。
【0019】
1つの実施形態では、本発明は、幹細胞の定方向性分化を誘導するための方法であって、a)i)ヒト幹細胞を含む細胞培養物;およびii)第一シグナル伝達インヒビター、第二シグナル伝達インヒビターおよび第三シグナル伝達インヒビター(但し、前記第一インヒビターはトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)/アクチビン-ノーダルシグナル伝達を低下させることができ、前記第二インヒビターはSmall Mothers
Against Decapentaplegic(SMAD)シグナル伝達を低下させることができ、そして前記第三インヒビターは、ウイングレス(Wnt)シグナル伝達の活性化のためにグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)を低下させることができる)を提供すること;b)前記幹細胞を前記第一インヒビターおよび前記第二インヒビターとインビトロで48時間まで(またはさらには96時間まで)接触させること;ならびにc)幹細胞の定方向性分化を誘導するために前記阻害された幹細胞を前記第三インヒビターとさらに192時間まで(またはさらには240時間まで)さらに接触させること、を含み、前記分化幹細胞が、神経堤幹細胞、神経堤系列細胞およびニューロン系列細胞からなる群より選択される、方法を提供する。1つの実施形態では、前記第一インヒビターは、SB431542、その誘導体およびその混合物からなる群より選択される低分子である。1つの実施形態では、前記第二インヒビターは、LDN193189、その誘導体およびその混合物からなる群より選択される低分子である。1つの実施形態では、前記第三インヒビターは、CHIR99021およびその誘導体からなる群より選択される。1つの実施形態では、前記キットは、線維芽細胞増殖因子(FGF)受容体ファミリーシグナル伝達を低下させる第四インヒビターをさらに含み、前記FGF受容体ファミリーシグナル伝達には、血管内皮増殖因子(VEGF)受容体、線維芽細胞増殖因子(FGF)受容体および血小板由来増殖因子(PDGF)チロシンキナーゼ受容体が含まれる。1つの実施形態では、前記第四インヒビターは、SU5402およびその誘導体からなる群より選択される。1つの実施形態では、前記キットは、ノッチシグナル伝達を低下させることができる第五インヒビターをさらに含む。1つの実施形態では、前記第五インヒビターは、N-[N-(3,5-ジフルオロフェナセチル)-L-アラニル]-S-フェニルグリシンt-ブチルエステル(DAPT)およびその誘導体からなる群より選択される。1つの実施形態では、前記キットは、ニューロン系列細胞のペプチド作動性侵害受容器細胞への定方向性分化のために、第四インヒビターおよび第五インヒビターをさらに含み、前記第四インヒビターはSU5402およびその誘導体からなる群より選択され、前記第五インヒビターはN-[N-(3,5-ジフルオロフェナセチル)-L-アラニル]-S-フェニルグリシンt-ブチルエステル(DAPT)およびその誘導体からなる群より選択される。1つの実施形態では、前記ペプチド作動性侵害受容器細胞は、OCT4、DLK1、PAX6、SOX10、POU4F1(BRN3A)、ISL1、NEUROG2、NEUROG1、NTRK1、RET、RUNX1、VGLUT2、TAC1およびTRPV1からなる群より選択されるマーカーを発現する。1つの実施形態では、前記ペプチド作動性侵害受容器細胞は、ISL1、POU4F1(BRN3A)、RET、RUNX1およびNTRK1からなる群より選択されるマーカーを発現する。1つの実施形態では、前記マーカーは、タンパク質および核酸からなる群より選択される。1つの実施形態では、前記ペプチド作動性侵害受容器細胞は、サブスタンスPおよびカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)を共発現する。1つの実施形態では、前記ペプチド作動性侵害受容器細胞は外部刺激に応答して活動電位を生じさせ、前記外部刺激は電流である。1つの実施形態では、前記分化したペプチド作動性侵害受容器細胞は、前記幹細胞を前記第一インヒビターおよび前記第二インヒビターと接触させた後8~18日以内、より典型的には10~15日以内に高度に富化されたニューロンの集団内に存在する。1つの実施形態では、前記幹細胞はヒト胚性幹細胞である。1つの実施形態では、前記幹細胞はヒト誘導多能性幹細胞である。
【0020】
1つの実施形態では、本発明は、生物学的作用物質をインビトロでスクリーニングする方法であって、a)i)幹細胞の定方向性分化からインビトロで誘導される侵害受容器細胞;およびii)試験化合物、を提供すること;ならびにb)前記侵害受容器細胞を前記試験化合物と接触させ、侵害受容器機能を測定すること(但し、前記機能は活動電位の測定値である)を含む方法を提供する。1つの実施形態では、前記侵害受容器細胞は、ヒト幹細胞に由来する。
【0021】
1つの実施形態では、本発明は、メラノサイトの定方向性分化のためのキットを提供する。
【0022】
1つの実施形態では、本発明は、メラノサイトの定方向性分化のための方法を提供する。
【0023】
1つの実施形態では、本発明は、メラノサイト系列の細胞集団を提供するための方法を提供する。
【0024】
1つの実施形態では、本発明は、成熟メラノサイト細胞集団を提供するための方法を提供する。
【0025】
定義
本明細書で使用される場合、「キット」という用語は、物質を送達するための任意の送達システムを指す。細胞分化に関連して、キットは、幹細胞と接触させるための物質の組合せを指してもよく、そのような送達システムは、適切な容器(例えばチューブ等)中での反応試薬(例えば化合物、タンパク質、検出試薬(PAX6抗体など)等)および/または支持物質(例えば緩衝液、細胞分化を実施するための指示文書等)の貯蔵、輸送または送達(1つの場所から別の場所への)を可能にするシステムを含む。例えば、キットは、シグナル伝達経路を阻害するための関連反応試薬、例えば、SB431542(もしくはSB431542代替物)等のようなトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)/アクチビン-ノーダルシグナル伝達を低下させるためのインヒビター、SMADシグナル伝達を低下させるためのインヒビターである、LDN193189(もしくはLDN193189代替物)等、CHIR99021(もしくはCHIR99021代替物)等のような、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)を低下させるためのインヒビター、一例として、β-カテニンのシグナル伝達抑制についての、さもなければWNTシグナル伝達アクチベーター(WNTアゴニスト)として知られるウイングレス(WntもしくはWnts)シグナル伝達の活性化のためのインヒビター、SU5402(もしくはSU5402代替物)等のような、線維芽細胞増殖因子(FGF)受容体ファミリーシグナル伝達を低下させることを含む、FGF受容体ファミリーシグナル伝達のインヒビター(但し、前記FGF受容体ファミリーシグナル伝達には、血管内皮増殖因子(VEGF)受容体、線維芽細胞増殖因子(FGF)受容体および血小板由来増殖因子(PDGF)チロシンキナーゼ受容体シグナル伝達が含まれる)、DAPT(もしくはDAPT代替物)等のような、ノッチシグナル伝達のインヒビター、ならびに/または支持物質を含む、1つ以上の筺体(例えば箱もしくはバッグ、試験管、エッペンドルフ管、毛細管、マルチウエルプレート等)を含む。1つの実施形態ではキット中の試薬は、溶液中に存在してもよく、凍結されていてもよく、または凍結乾燥されていてもよい。1つの実施形態ではキット中の試薬は、個別の容器中に存在してもよく、またはLSB、3i、CHIR、Mel試薬等の組合せのような特定の組合せとして提供されてもよい。
【0026】
本明細書で使用される場合、「シグナル伝達タンパク質」に関する「シグナル伝達」という用語は、膜受容体タンパク質へのリガンド結合または何らかの他の刺激によって活性化されるかまたはさもなければ影響されるタンパク質を指す。シグナル伝達タンパク質の例には、SMAD、β-カテニンを含むWNT複合体タンパク質、ノッチ、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)、アクチビン、ノーダルおよびグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)タンパク質が含まれる。多くの細胞表面受容体または細胞内受容体タンパク質に関して、リガンド-受容体相互作用は細胞の応答と直接結びついてはいない。リガンド活性化受容体は、細胞挙動へのリガンドの最終的な生理的作用が生じる前に、最初に細胞の内部で他のタンパク質と相互作用しなければならない。しばしば、いくつかの相互作用性細胞タンパク質の一連の挙動は、受容体の活性化または阻害後に変化する。受容体活性化によって誘導される細胞変化の全体のセットがシグナル伝達機構またはシグナル伝達経路と呼ばれる。
【0027】
本明細書で使用される場合、「ノッチ」という用語は、少なくとも4つのノッチ受容体(ノッチ-1、-2、-3および-4と称される)の1つ以上に結合する少なくとも5つのリガンド(例えばJagged-1、-2ならびにDelta様(Dll)-1、-3および-4と称される)によって表されるシグナル伝達経路を指す。ノッチシグナル伝達は、TACE(TNFα変換酵素)および/またはγセクレターゼ/プレセニリン複合体による少なくとも1つのタンパク質分解切断を生じさせる受容体-リガンド相互作用によって開始される。このタンパク質分解切断は、細胞内ドメインタンパク質(NIC、ノッチの機能的活性形態)の放出を生じさせ、前記タンパク質は核に移行して、DNA結合タンパク質であるCBF-1(CSLまたはRBP-Jκとも称される)に結合する。NICのCBF-1への結合は、リプレッサー複合体を移動させ、CBF-1を転写活性化因子に変換するMAML1およびヒストンアセチルトランスフェラーゼなどの核内コアクチベータをリクルートする。CBF-1/ノッチ相互作用は、一例として、Hes(ヘアリー/エンハンサー・オブ・スプリット(Hairy/Enhancer of Split))、Hey(YRPWと関連するヘアリー/エンハンサー・オブ・スプリット)(HesR、HRT、HERP、CHFおよびグリッドロックとしても知られる)、NF-κBおよびPPARファミリーの転写因子、およびp2lCIP1/WAF1およびサイクリンDなどの細胞周期調節因子を含む、様々な標的遺伝子の発現を生じさせる。Hes(Hes-1を含む)およびHey(Hey1およびHey2を含む)ファミリーメンバーは、ノッチ活性化の直接の下流標的である転写因子の例である。ノッチシグナル伝達経路の複雑さを考慮すると、当然ながらノッチ活性化または阻害の結果を予測することは困難である。多数のノッチ受容体およびリガンド(各々が独自の発現パターンを有する)が存在するだけでなく、数多くの標的遺伝子およびノッチと他のシグナル伝達カスケードとの間の潜在的クロストークがこのシステムをさらに複雑にする。
【0028】
本明細書で使用される場合、「シグナル」という用語は、細胞の構造および機能の変化を制御する内部および外部因子を指す。それらは化学的または物理的性質がある。
【0029】
本明細書で使用される場合、「リガンド」という用語は、受容体(R)に結合する分子およびタンパク質を指し、その例には、トランスフォーミング増殖因子β、アクチビン、ノーダル、骨形成タンパク質(BMP)等が含まれるが、これらに限定されない。
【0030】
本明細書で使用される場合、シグナル伝達分子もしくはシグナル伝達分子の経路を阻害することに関する「インヒビター」という用語、またはSMADシグナル伝達のインヒビターなどの「シグナル伝達インヒビター」という用語は、分子または経路のシグナル伝達機能を妨げる(すなわち低減するか、または抑制するか、または排除するか、またはブロックする)化合物または分子(例えば低分子、ペプチド、ペプチドミメティック、天然化合物、siRNA、アンチセンス核酸、アプタマーまたは抗体)を指す。言い換えると、インヒビターは、指定されるタンパク質(シグナル伝達分子、指定されるシグナル伝達分子に関与する任意の分子、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)などの指定される関連分子)(例えば本明細書で述べるシグナル伝達分子を含むが、これらに限定されない)の任意の活性を変化させる任意の化合物または分子であって、一例として、SMADシグナル伝達と直接接触すること、SMAD mRNAと接触すること、SMADのコンフォメーション変化を生じさせること、SMADタンパク質レベルを低下させること、またはSMADとシグナル伝達パートナー(例えば本明細書で述べるものを含む)との相互作用を妨げること、およびSMAD標的遺伝子(例えば本明細書で述べるもの)の発現に影響を及ぼすことを介して、任意の活性を変化させる任意の化合物または分子である。インヒビターはまた、上流のシグナル伝達分子を遮断することによってSMADの生物学的活性を間接的に調節する分子を含む。例えば、シグナル伝達分子および作用の例として、細胞外ドメイン内で、骨形成タンパク質を隔離し、ALK受容体1、2、3および6の活性化を阻害し、したがって下流のSMAD活性化を阻止する、ノギンが挙げられる。同じく、コーディン(Chordin)、サーベラス(Cerberus)、フォリスタチン(Follistatin)も、同様にSMADシグナル伝達の細胞外アクチベーターを隔離する。膜貫通タンパク質であるBambiも、細胞外TGFβシグナル伝達分子を隔離する偽受容体として働く。アクチビン、ノーダル、TGFβおよびBMPをブロックする抗体は、SMADシグナル伝達の細胞外アクチベーターを中和するための使用等に関して考慮される。したがって1つの実施形態では、本発明のインヒビターは、デフォルト細胞(default cell)型から非デフォルト細胞(non-default cell)型へと分化を誘導する(変化させる)かまたは改変する。例えば、本発明の方法の1つは、非デフォルト神経前駆細胞を生じさせる少なくとも3つのインヒビターを含む。好ましい実施形態では、本発明のインヒビターは、本発明の侵害受容器細胞を生産するために本明細書で述べるように、非デフォルト細胞型へと細胞分化を向かわせるためにデフォルトシグナル伝達を「改変する」または「低下させる」または「ブロックする」。したがって、本発明のインヒビターは、本発明の侵害受容器細胞を生産するのに役立つシグナル分子活性の上昇または低下のための天然化合物または低分子である。インヒビターは、指定シグナル伝達分子から上流の分子に結合して影響を及ぼすこと(次に指定分子の阻害を生じさせることになる)によって誘導される阻害に加えて、競合的阻害(別の公知の結合化合物の結合を排除または低減するように活性部位に結合する)およびアロステリック阻害(化合物がそのタンパク質の活性部位に結合するのを妨げるようにタンパク質のコンフォメーションを変化させるように、タンパク質に結合する)の観点から説明される。一部の場合には、インヒビターは、実際にシグナル伝達標的と接触することによってシグナル伝達標的またはシグナル伝達標的経路を阻害することを指す「直接インヒビター」と称される;例えば、γセクレターゼの直接インヒビターは、γセクレターゼタンパク質に結合するDAPT分子である。例示的な直接インヒビターには、リドカイン、ミリシトリン、慢性カプサイシン(chronic capsaicin)、ショウノウ、アミロライド、カプサゼピン、リノピルジン、および全般的な神経機能をブロックする大部分の局所麻酔薬が含まれるが、これらに限定されない。
【0031】
本明細書で使用される場合、「細胞外シグナル伝達の影響」という用語は、細胞外シグナル伝達分子(例えば、本明細書で述べる低分子などの試験物質、薬学的薬剤、受容体に対するリガンド、サイトカイン、ケモカイン、可溶性因子、接着分子または他のシグナル伝達分子)が細胞(例えば真核細胞)に及ぼす作用を指す。一部の実施形態では、細胞外シグナル伝達は、SMAD活性などのシグナル伝達活性を低減し、SMAD活性化動態を改変し、またはSMAD標的遺伝子の発現パターンを改変する。
【0032】
本明細書で使用される場合、「Sma Mothers Against Decapentaplegic」または「Small Mothers Against Decapentaplegic」または「SMAD」という用語は、シグナル伝達分子を指す。
【0033】
本明細書で使用される場合、「アクチベーター」、「活性化すること」という用語は、本発明の細胞の定方向性分化を生じさせる分子を活性化するための化合物を指す。例示的なアクチベーターには、有害な熱/低温、機械的刺激、化学的刺激(メントール、ピペリン、急性カプサイシン、シンナムアルデヒド、ブラジキニン、ATP、プロスタグランジン、炎症性サイトカイン、酸性生理食塩水、線維芽細胞増殖因子(FGF)等)が含まれるが、これらに限定されない。
【0034】
本明細書で使用される場合、「LSB」という用語は、細胞においてトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)/アクチビン-ノーダルシグナル伝達およびSmall Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)シグナル伝達からなるシグナル伝達を低下させるかまたはブロックすることができる2つの化合物LDN-193189およびSB431542の組合せを指す。
【0035】
本明細書で使用される場合、「SB431542」という用語は、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)/アクチビン-ノーダルシグナル伝達を低下させるかまたはブロックすることができる分子であって、CAS番号301836-41-9、分子式C2218、および4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]-ベンズアミドの名称を有する分子を指し、例えば、以下の構造を参照のこと。
【0036】
【化3】
【0037】
本明細書で使用される場合、「LDN193189」という用語は、C2522の化学式を有する、低分子DM-3189、IUPAC名称4-(6-(4-(ピペラジン-1-イル)フェニル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル)キノリンを指す。LDN193189はSMADシグナル伝達インヒビターとして機能することができる。LDN193189はまた、ALK2、ALK3およびALK6、プロテインチロシンキナーゼ(PTK)の極めて強力な低分子インヒビターであり、I型TGFβ受容体のALK1およびALK3ファミリーのメンバーのシグナル伝達を阻害し、骨形成タンパク質(BMP)BMP2、BMP4、BMP6、BMP7およびアクチビンサイトカインシグナルを含む多数の生物学的シグナルの伝達、ならびにその後のSmad1、Smad5およびSmad8のSMADリン酸化の阻害を生じさせる(参照により本明細書に組み込まれる、Yuら(2008)Nat Med 14:1363-1369;Cunyら(2008)Bioorg.Med.Chem.Lett.18:4388-4392)。
【0038】
【化4】
【0039】
本明細書で使用される場合、「ドルソモルフィン」という用語は、CAS番号866405-64-3、分子式C2425Oおよび6-[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェニル]-3-(4-ピリジニル)-ピラゾロ[1,5-a]ピリミジンジヒドロクロリドの名称を有する分子を指し、例えば、以下の構造を参照のこと。
【0040】
【化5】
【0041】
本明細書で使用される場合、「LSB/C」または「LSB-C」という用語は、WNTアゴニストとして働くグリコーゲンシンターゼキナーゼ3βインヒビター、例えばCHIR99021に加えて、細胞のトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)/アクチビン-ノーダルシグナル伝達およびSmall Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)シグナル伝達からなるシグナル伝達を組合せで低下させるかまたはブロックすることができる、LDN-193189とSB431542などの2つの化合物の組合せを指す。
【0042】
本明細書で使用される場合、「グリコーゲンシンターゼキナーゼ3βインヒビター」または「GSK3βインヒビター」という用語は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β酵素を阻害する化合物を指し、例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Dobleら、J Cell Sci.2003;116:1175-1186参照。本発明の目的に関して、GSK3βインヒビターはWNTシグナル伝達経路を活性化することができ、例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Cadiganら、J Cell Sci.2006;119:395-402;Kikuchiら、Cell Signalling.2007;19:659-671参照。
【0043】
本明細書で使用される場合、「CHIR99021」または「アミノピリミジン」または「3-[3-(2-カルボキシエチル)-4-メチルピロール-2-メチリデニル]-2-インドリノン」という用語は、IUPAC名称6-(2-(4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(4-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)ピリミジン-2-イルアミノ)エチルアミノ)ニコチノニトリルを指す。CT99021は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)の低分子化学的インヒビター/WNTシグナル伝達経路のアクチベーターの一例であり、高度に選択的であって、関連するキナーゼと無関係なキナーゼのパネルに対して千倍に近い選択性を示し、ヒトGSK3βに対してはIC50=6.7nMおよびげっ歯動物GSK3βホモログに対してはナノモルのIC50値を有する。
【0044】
【化6】
【0045】
本明細書で使用される場合、「3つのインヒビター」または「3i」という用語は、3つの低分子CHIR99021、SU5402およびDAPTの組合せを指す。他の実施形態では、3つのインヒビターは、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)の阻害/WNTシグナル伝達のアクチベーター(すなわちWNTアゴニスト)、ノッチシグナル伝達インヒビター、すなわちノッチシグナル伝達を低下させることができるγセクレターゼインヒビター、および線維芽細胞増殖因子受容体の阻害(すなわちインドリノン誘導体は線維芽細胞増殖因子受容体インヒビターの一例である)の組み合わせ阻害ができる、3つの化合物(すなわち低分子)の組合せを指す。
【0046】
【化7】
【0047】
本明細書で使用される場合、「ノッチインヒビター」または「ノッチシグナル伝達インヒビター」という用語は、DAPT、γセクレターゼインヒビター(GSI)、例えばトリペプチドアルデヒドインヒビター、γセクレターゼインヒビターXIIおよびペプチドミメティックインヒビター(LY-411,575)などの、ノッチ活性化を阻害する能力を有する任意の化合物を指す。
【0048】
本明細書で使用される場合、「γセクレターゼインヒビター」または「GSI」という用語は、下流のノッチシグナル伝達の抑制を生じさせる、ノッチ分子の活性ドメインの生成を防ぐ新規クラスの作用物質を指す。
【0049】
本明細書で使用される場合、「γセクレターゼインヒビター」という用語は、マルチサブユニット膜貫通プロテアーゼであるγセクレターゼを阻害する能力を有する化合物を指す。γセクレターゼの標的(すなわち基質)の一例は、例えば、ノッチシグナル伝達であり、他のγセクレターゼ基質には、低密度リポタンパク質(LDL)受容体関連タンパク質、E-カドヘリンおよびErbB-4が含まれる。DAPT、γセクレターゼインヒビターXIIなどのγセクレターゼインヒビターは、それゆえ、ノッチを含むそのようなγセクレターゼ基質のタンパク質分解をブロックする。
【0050】
本明細書で使用される場合、「DAPT」という用語は、C2326の化学式を有する、N-[(3,5-ジフルオロフェニル)アセチル]-L-アラニル-2-フェニル]グリシン-1,1-ジメチルエチルエステル;LY-374973、N-[N-(3,5-ジフルオロフェナセチル)-L-アラニル]-S-フェニルグリシンt-ブチルエステル;N-[N-(3,5-ジフルオロフェナセチル)-L-アラニル]-S-フェニルグリシンt-ブチルエステルとしても知られる、ジペプチド性γセクレターゼ特異的インヒビターと表される、ノッチを阻害するγセクレターゼインヒビターの一例を指す。
【0051】
【化8】
【0052】
DAPT誘導体の一例は、光活性化可能なDAPT誘導体、DAP-BpB(N-[N-(3,5-ジフルオロフェナセチル)-L-アラニル]-(S)-フェニルグリシン-4-(4-(8-ビオチンアミド)オクチルアミノ)ベンゾイル)ベンジル)メチルアミド)である。
【0053】
本明細書で使用される場合、「線維芽細胞増殖因子受容体インヒビター」または「FGFRインヒビター」という用語は、SU5402、PD173074等のような低分子を指す。FGFRインヒビターの一例は、インドリノン誘導体SU5402であり、例示的な構造を以下に示す。
【0054】
【化9】
【0055】
本明細書で使用される場合、「SU5402」という用語は、C1716の化学式および化学名:2-[(1,2-ジヒドロ-2-オキソ-3H-インドール-3-イリデン)メチル]-4-メチル-1H-ピロール-3-プロパン酸を有する低分子を指す(参照により本明細書に組み込まれる、Sunら(1999)Design,synthesis and evaluations of substituted 3-[(3- or 4-carboxyethylpyrrol-2-yl)methylidenyl]indolin-2-ones as inhibitors of VEGF,FGF and PDGF receptor tyrosine kinases.J.Med.Chem.42 5120;Patersonら(2004)Preclinical studies of fibroblast growth factor receptor 3 as a therapeutic target in multiple myeloma.Br.J.Haematol.124 595;Tanakaら(2005)FGF-induced vesicular release of sonic hedgehog and retinoic acid in leftward nodal flow is critical for left-right determination.Nature 435:172)。
【0056】
本明細書で使用される場合、「誘導体」という用語は、類似のコア構造を有する化学化合物を指す。
【0057】
本明細書で使用される場合、リガンドに関する「WNT」または「ウイングレス」という用語は、FrizzledおよびLRPDerailed/RYK受容体ファミリーの中の受容体のような、WNT受容体と相互作用することができる分泌タンパク質の群(すなわちヒトにおけるInt1(integration 1))を指す。
【0058】
本明細書で使用される場合、シグナル伝達経路に関する「WNT」または「ウイングレス」という用語は、β-カテニンで媒介されるかまたはβ-カテニンを含まない、WntファミリーリガンドおよびWntファミリー受容体(FrizzledおよびLRPDerailed/RYK受容体など)からなるシグナル経路を指す。本明細書で述べる目的に関して、好ましいWNTシグナル伝達経路は、β-カテニンによる媒介、すなわちWNT/β-カテニンを含む。
【0059】
【化10】
【0060】
本明細書で使用される場合、「PD 173074」という用語は、化学名:N-[2-[[4-(ジエチルアミノ)ブチル]アミノ]-6-(3,5-ジメトキシフェニル)ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル]-N’-(1,1-ジメチルエチル)尿素を有する低分子を指す(参照により本明細書に組み込まれる、Bansalら(2003)Specific inhibitor of FGF receptor signaling:FGF-2-mediated effects on proliferation,differentiation,and MAPK activation are inhibited by PD 173074 in oligodendrocyte-lineage cells.J.Neurosci.Res.74:486)。
【0061】
本明細書で使用される場合、組成物およびこの組成物を使用する方法に関する「LSB-3i」または「LSB3i」という用語は、侵害受容器を生じさせるニューロン系列細胞の定方向性分化に関して本明細書で述べる例示的な方法において使用されるような、ニューロン系列細胞を産生することができるLSB分子(または等価物)の組合せおよびニューロン系列細胞の定方向性分化の能力を有する3i分子(または等価物)を指す。
【0062】
本明細書で使用される場合、「骨形成タンパク質」または「BMP」という用語は、TGFβスーパーファミリーのタンパク質中の、配列相同性に基づきGDF(増殖/分化因子)を含む、BMPサブファミリーのメンバーであるタンパク質および対応する遺伝子を指す(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Yamashitaら(1996)Bone 19:569参照)。BMPの例には、BMP1、BMP2等が含まれる。BMP/GDFは、アミノ酸配列相同性に基づきサブセットに分類される。分類は:1)BMP-2およびBMP-4;2)BMP-3およびBMP-3b;3)BMP-5、BMP-6、BMP-7およびBMP-8;4)BMP-9およびBMP-10;5)BMP-12、BMP-13およびBMP-14;ならびに6)BMP-11およびGDF-8と提案される(例えば、そのすべてが参照により本明細書に組み込まれる、Yamashitaら(1996)Bone 19:569,Hogan(1996)Genes Dev.10:1580,Mehlerら(1997)Trends Neurosci.20:309,Ebendalら(1998)J.Neurosci.Res.51:139参照)。TGFβスーパーファミリーのリガンドには、骨形成タンパク質(BMP)、増殖および分化因子(GDF)、抗ミュラーホルモン(AMH)、アクチビン、ノーダル、TGFβ等のような分子が含まれる。TGFβファミリーには:TGFβ1、TGFβ2、TGFβ3が含まれる。BMPと同様に、TGFβは胚形成および細胞分化に関与するが、それらはまた、アポトーシスおよび他の機能にも関与する。それらはTGFβ受容体2型(TGFBR2)に結合する。
【0063】
本明細書で使用される場合、「骨形成タンパク質受容体」または「骨形成タンパク質受容体II型」または「BMPR2」という用語は、骨形成タンパク質に結合するセリン/トレオニンキナーゼ受容体を指す。
【0064】
本明細書で使用される場合、「LSB-Mel」という用語は、特異的マーカー、すなわちc-kitの発現に基づいて同定され、単離される、メラノサイト前駆細胞(メラノサイト前駆体)を生産するための、細胞のLSB/C処理とそれに続くBMP4およびエンドセリン-3(EDN3)との接触を含む、定方向性分化組成物および方法を指す。
【0065】
本明細書で使用される場合、「成熟色素性メラノサイト」という用語は、色素性メラノソームを産生する色素細胞、例えばBMP4およびcAMPと接触させた本発明のメラノサイト前駆細胞を指す。
【0066】
本明細書で使用される場合、「胚性幹細胞」という用語は、培養下で長期間分化せずに分裂することができる、着床前段階の胚から誘導され、3つの一次胚葉の細胞および組織へと発生することが公知である、原始(未分化)細胞を指す。ヒト胚性幹細胞は、ヒトである胚性幹細胞、例えばWA-09を指す。
【0067】
本明細書で使用される場合、「胚性幹細胞系」という用語は、数日間、数か月間から数年間まで分化せずに増殖することが可能である、インビトロ条件下で培養された胚性幹細胞の集団を指す。
【0068】
本明細書で使用される場合、「幹細胞」という用語は、培養下で無限に分裂し、特異化した細胞を生じさせる能力を有する細胞を指す。ヒト幹細胞は、ヒトである幹細胞を指す。
【0069】
本明細書で使用される場合、「ヒト胚性幹細胞」または「hESC」という用語は、培養下で長期間分化せずに分裂することができ、3つの一次胚葉の細胞および組織へと発生することが公知である、初期ヒト胚(胚盤胞段階まで、および胚盤胞段階を含む)に由来する多能性幹細胞の一種を指す。
【0070】
本明細書で使用される場合、「全能性(totipotent)」という用語は、身体のすべての細胞型および胎盤などの胚体外組織を構成するすべての細胞型を生じさせる能力を指す。(多能性および多分化能性も参照のこと)。
【0071】
本明細書で使用される場合、「多分化能性(multipotent)」という用語は、身体の2つ以上の細胞型へと発生する能力を指す。多能性(pluripotent)および全能性も参照のこと。
【0072】
本明細書で使用される場合、「多能性(pluripotent)」という用語は、内胚葉、中胚葉および外胚葉を含む生物の3つの発生胚葉へと発生する能力を指す。
【0073】
本明細書で使用される場合、「体性(成体)幹細胞」という用語は、自己再生(実験室における)および分化の両方について限られた能力を有する、多くの器官および分化組織で認められる比較的まれな未分化細胞を指す。そのような細胞の分化能力は様々であるが、通常は起源の器官における細胞型に限定される。
【0074】
本明細書で使用される場合、「体細胞」という用語は、配偶子(卵子または精子)以外の身体中の任意の細胞を指し、時として「成体」細胞と称される。
【0075】
本明細書で使用される場合、「ニューロン系列細胞」という用語は、発生の間または成体において神経系(中枢および末梢の両方)または神経堤細胞運命に寄与する細胞を指す。神経系には、脳、脊髄および末梢神経系が含まれる。神経堤細胞運命には、脳神経、体幹神経、迷走神経、仙骨神経および心臓神経が含まれ、中外胚葉、頭軟骨、頭蓋骨、胸腺、歯、メラノサイト、虹彩色素細胞、脳神経節、脊髄神経節、交感/副交感神経節、内分泌細胞、腸神経系および心臓の部分を生じさせる。
【0076】
本明細書で使用される場合、「誘導多能性幹細胞」または「iPSC」という用語は、特定の胚性遺伝子(OCT4、SOX2およびKLF4導入遺伝子など)(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、TakahashiとYamanaka、Cell 126,663-676(2006)参照)が体細胞、例えばC14、C72等に導入されることによって形成される、胚性幹細胞に類似した、多能性幹細胞の一種を指す。
【0077】
本明細書で使用される場合、「特異化した細胞」という用語は、多細胞生物において特定の機能を果たす細胞の種類を指す。例えば、ニューロンなどの特異化した細胞の群は、協力して神経系などの系を形成する。
【0078】
本明細書で使用される場合、本発明の細胞に関する「侵害受容器」という用語は、活動電位および有害刺激の知覚(疼痛の認知に関与する)の能力を有するニューロンを指す。刺激には、温熱性刺激(熱および低温)、機械的刺激、化学的刺激および炎症が含まれるが、これらに限定されない。侵害受容器は、BRN3A、ISL1、TAC1、VGLUT2、SLC15A3などの、特定の遺伝子およびタンパク質を発現し、軸索様構造に沿った細胞体と2つの別個の突起と表される形態を含む細胞である。本発明の細胞に関する「機能的侵害受容器」は、本明細書で述べる遺伝子およびタンパク質の発現、本明細書で述べる形態を特徴とし、本明細書で述べるような活動電位を生じさせる能力を有する、定方向性分化から生じる細胞を指す。
【0079】
本明細書で使用される場合、「ペプチド作動性ニューロン」という用語は、一般に、異なるクラスのイオンチャネルの発現によって同定され、かつタキキニンなどの小さなペプチドの発現によって同定されるニューロンを指す。例えばペプチド作動性侵害受容器は、NTRK1およびタキキニンサブスタンスPを発現する。
【0080】
これに対し「非ペプチド作動性」ニューロンは、NTRK1またはサブスタンスPを発現しないニューロンを指す。
【0081】
本明細書で使用される場合、「神経外胚葉」という用語は、ニューロン系列の細胞を生じさせることができる、発生の初期または多能性幹細胞分化の間に認められる細胞または細胞運命を指す。
【0082】
本明細書で使用される場合、「細胞増殖のマーカー」という用語は、速い周期の細胞に関連する分子の発現を指し、前記分子は、典型的には成熟した遅い周期の細胞または周期がない(noncycling)細胞中には存在しない(すなわち活発に分裂している細胞には存在するが、長い周期時間を有する細胞または周期がない細胞中には存在しない)。そのようなマーカーの例には、細胞増殖のKi67マーカー(参照により本明細書に組み込まれる、Gerdesら、Int J Cancer 31:13-20(1983))および有糸分裂のG2/M期のホスホヒストンH3マーカー(参照により本明細書に組み込まれる、Hendzelら、Chromosoma 106:348-360(1997))が含まれる。
【0083】
本明細書で使用される場合、「増殖」という用語は、細胞数の増加を指す。
【0084】
本明細書で使用される場合、「分化」という用語は、特異化していない胚細胞が、心臓、肝臓または筋細胞などの特異化した細胞の特徴を獲得する過程を指す。分化は、通常は細胞表面に埋め込まれたタンパク質を含むシグナル伝達経路を通して、細胞の遺伝子と細胞の外側の物理的および化学的条件との相互作用によって制御される。
【0085】
本明細書で使用される場合、「定方向性分化」という用語は、本発明の侵害受容器細胞などの、特定の(例えば所望する)細胞型への分化を誘導する幹細胞培養条件の操作を指す。
【0086】
本明細書で使用される場合、幹細胞に関する「定方向性分化」という用語は、多能性状態からより成熟したかまたは特異化した細胞運命(例えば中枢神経系細胞、神経細胞、侵害受容器等)への幹細胞の移行を促進するための低分子、増殖因子タンパク質および他の増殖条件の使用を指す。
【0087】
本明細書で使用される場合、細胞に関する「分化を誘導する」という用語は、デフォルト細胞型(遺伝子型および/または表現型)を非デフォルト細胞型(遺伝子型および/または表現型)に変化させることを指す。したがって「幹細胞において分化を誘導する」とは、細胞を、遺伝子型(すなわちマイクロアレイなどの遺伝子分析によって決定される遺伝子発現の変化)および/または表現型(すなわちPAX6などのタンパク質またはHMB45陽性(+)であるがSOX10については陰性(-)のようなタンパク質のセットの発現の変化)など、幹細胞とは異なる特性を有する子孫細胞に分裂するように誘導することを指す。
【0088】
本明細書で使用される場合、「分化転換(transdifferentiation)」という用語は、1つの組織からの幹細胞または成熟細胞が別の組織の細胞へと分化する過程を指す。
【0089】
本明細書で使用される場合、「未分化」という用語は、まだ特異化した細胞型へと発生していない細胞を指す。
【0090】
本明細書で使用される場合、「細胞分化」という用語は、特異化していない細胞(すなわち幹細胞)がより明確な形態および機能を有するように発生または成熟する経路を指す(例えば、iPSCが神経堤前駆体へと進行し、ニューロン系列の細胞へ、神経堤細胞へ、ニューロンへ、侵害受容器細胞へ、ペプチド作動性侵害受容器または神経外胚葉へ、中枢神経系の細胞へと進行する)。
【0091】
本明細書で使用される場合、分化中の細胞系における細胞に関して使用される「分化」という用語は、細胞が1つの細胞型(例えば多分化能性、全能性または多能性分化可能細胞)から、標的分化細胞などの別の細胞型に分化する過程を指す。
【0092】
本明細書で使用される場合、細胞分化経路に関する「デフォルト」または「受動」という用語は、特異化していない細胞が、特定の化合物で処理されない場合、すなわち通常の細胞培養条件である場合、培養下で特定の分化細胞型になる経路を指す。言い換えると、デフォルト細胞は、細胞が分化細胞型を変化させることができる分子(すなわちモルフォゲン)と接触しない場合に生じ、例えば本発明のネスチン+TUJ1-細胞である。これに対し、細胞に関する「非デフォルト」は、デフォルト細胞とは異なる細胞型を生じる分化細胞型を指し、すなわち非デフォルト細胞は、TUJ1+ネスチン-ニューロン細胞、感覚ニューロン細胞、ペプチド作動性侵害受容器、メラノサイト等を含む、本発明の細胞のような非デフォルト条件から生じる分化細胞型である。デフォルト細胞はまた、後にデフォルト非ペプチド作動性侵害受容器となる非デフォルトTUJ1+ネスチン-細胞のように、細胞がモルフォゲンと接触して非デフォルト細胞となった後、続いて形態形成性化合物が存在しなければデフォルト細胞であり得る。
【0093】
本明細書で使用される場合、「細胞運命決定」のような、細胞に関する「運命」という用語は、一般に、その子孫細胞がインビボまたはインビトロ培養条件に依存して様々な細胞型または少数の特定細胞型になることができる、遺伝的に決定された系列を有する細胞を指す。言い換えると、細胞の所定の運命は、細胞が別の細胞型ではなくある1つの細胞型になるように特定の分化経路へと運命づけるその環境によって決定され、例えば、「神経運命」を有する幹細胞の子孫細胞は、筋細胞または皮膚細胞ではなく神経細胞になる。典型的には、細胞の「運命」は、高度に特異的な条件下を除いて不可逆性である。別の例では、「CNS運命」は、中枢神経系に関連する細胞になることができる細胞を指す。逆に、神経細胞になることを運命づけられた細胞は、「神経前駆細胞」と呼ぶことができる。
【0094】
本明細書で使用される場合、「神経突起伸長」という用語は、細胞からの細胞質の長く伸びた、膜に包まれた突出の観察を指す。
【0095】
本明細書で使用される場合、「ドーパミンニューロン」または「ドーパミン作動性ニューロン」という用語は、一般に、ドーパミンを発現することができる細胞を指す。「中脳ドーパミンニューロン」または「mDA」は、前脳構造における推定上のドーパミン発現細胞および前脳構造におけるドーパミン発現細胞を指す。
【0096】
本明細書で使用される場合、「神経幹細胞」という用語は、ニューロンおよびグリア(支持)細胞を生じさせることができる、成体神経組織において認められる幹細胞を指す。グリア細胞の例には、星状細胞および希突起神経膠細胞が含まれる。
【0097】
本明細書で使用される場合、「ニューロン」という用語は、神経系の主要な機能単位である神経細胞を指す。ニューロンは細胞体とその突起-軸索および1つ以上の樹状突起からなる。ニューロンは、シナプスにおいて神経伝達物質を放出することによって他のニューロンまたは細胞に情報を伝達する。
【0098】
本明細書で使用される場合、「細胞培養」という用語は、研究または医学的処置のための人工培地におけるインビトロでの細胞の成長を指す。
【0099】
本明細書で使用される場合、「培地」という用語は、ペトリ皿、マルチウエルプレート等のような培養容器中で細胞を覆う液体を指し、細胞に栄養を与え、支持する栄養分を含む。培地はまた、細胞に所望の変化を生じさせるために添加される増殖因子も含み得る。
【0100】
本明細書で使用される場合、「フィーダー層」という用語は、多能性幹細胞を維持するために共培養において使用される細胞を指す。ヒト胚性幹細胞培養に関して、典型的なフィーダー層には、培養下で分裂するのを防ぐように処理されたマウス胚性線維芽細胞(MEF)またはヒト胚性線維芽細胞が含まれる。
【0101】
本明細書で使用される場合、細胞培養に関する「継代」という用語は、一連の細胞成長および増殖後に細胞を分離し、洗浄して、新たな培養容器に接種する過程を指す。培養細胞が通過した一連の継代の数は、その年齢および予想される安定性の指標である。
【0102】
本明細書で使用される場合、遺伝子またはタンパク質に関連する「発現する」という用語は、マイクロアレイアッセイ、抗体染色アッセイ等のようなアッセイを用いて観察することができるmRNAまたはタンパク質が生じることを指す。
【0103】
本明細書で使用される場合、「ペアードボックス遺伝子6(paired box gene 6)」または「PAX6」という用語は、非デフォルト神経前駆細胞のマーカーを指す。
【0104】
本明細書で使用される場合、本発明の分化中の細胞に関する「TUJ1」または「ニューロン特異的クラスIIIβチューブリン」という用語は、神経前駆細胞などの初期神経ヒト細胞分化のマーカーを指し、PNSおよびCNSのニューロンにおいて発現が認められる。
【0105】
本明細書で使用される場合、本発明の分化中の細胞に関する「ネスチン」という用語は、神経堤幹細胞およびCNS神経幹細胞のマーカーである中間径フィラメント関連タンパク質を指す。
【0106】
本明細書で使用される場合、SMAD分子に関する「ホモ二量体」という用語は、ジスルフィド結合などにより、共に連結されたSMADの少なくとも2つの分子を指す。
【0107】
本明細書で使用される場合、「EDN3」という用語は、両能性グリア-メラノサイト幹細胞などの神経堤由来細胞系列で一般的に認められる細胞表面受容体EDNRBに結合するエンドセリンファミリーの内皮由来タンパク質からの分泌ペプチドを指す。EDN3アミノ酸配列の一例は:アクセッション番号NP_000105;アクセッションPI14138(EDN3 HUMAN)におけるエンドセリン3(配列番号1)である:
【0108】
【化11】
【0109】
本明細書で使用される場合、「ノギン」という用語は、骨形成タンパク質4(BMP4)などの、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)スーパーファミリーのシグナル伝達タンパク質のメンバーに結合し、それを不活性化する分泌ホモ二量体糖タンパク質を指す。
【0110】
ノギンは、典型的にはグリコシル化されたジスルフィド結合二量体としてヒト細胞において発現される65kDaタンパク質である(Groppeら(2002).Nature 420,636-642;Xuら(2005)Nat Methods 2,185-190;Wangら(2005)Biochem Biophys Res Commun 330:934-942)。ノギンアミノ酸配列の一例は、アクセッション番号U79163、単一アミノ酸マウスノギン(配列番号2)である:
【0111】
【化12】
【0112】
本明細書で使用される場合、「lefty」という用語は、「EBAF」または「子宮内膜出血関連因子」または「左右軸決定因子A」としても知られる、LEFTY1、LEFTY2、LEFTYA等を含むがこれらに限定されない、TGFβを阻害するトランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーの新規メンバーを指す。leftyタンパク質は、哺乳動物における器官系の左右非対称性決定のために必要である。
【0113】
本明細書で使用される場合、「アクチビン」という用語は、アクチビンA、アクチビンB等のような、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)スーパーファミリーのメンバーを指す。
【0114】
本明細書で使用される場合、「トランスフォーミング増殖因子β」または「TGFβ」という用語は、多様な細胞型の増殖と分化を調節するサイトカインを指す。
【0115】
本明細書で使用される場合、「ノーダル」という用語は、TGFβファミリーのシグナル伝達分子のメンバーを指す。ノーダルシグナル伝達は、神経外胚葉デフォルト経路に沿ったヒト胚性幹細胞の分化を阻害する(Vallierら、Dev.Biol.275,403-421)。
【0116】
本明細書で使用される場合、「ALK」または「未分化リンパ腫キナーゼ」または「未分化リンパ腫受容体チロシンキナーゼ」または「Ki-1」という用語は、膜関連チロシンキナーゼ受容体を指す。
【0117】
本明細書で使用される場合、I型セリン/トレオニンキナーゼ受容体に関する「ALK5」という用語は、TGFβ1に結合して、TGFβ1受容体として機能する未分化リンパ腫受容体チロシンキナーゼ5受容体を指す。
【0118】
本明細書で使用される場合、I型セリン/トレオニンキナーゼ受容体に関する「ALK7」という用語は、ノーダルおよびノーダル関連タンパク質に結合して、ノーダルおよびノーダル関連タンパク質受容体として機能する未分化リンパ腫受容体チロシンキナーゼ7受容体を指す。
【0119】
本明細書で使用される場合、細胞を本発明の化合物と「接触させる」という用語は、「接触した」細胞を生じさせるために、化合物を、細胞と触れることを可能にする位置に置くことを指す。接触は任意の適切な方法を用いて達成され得る。例えば、1つの実施形態では、接触は、化合物を細胞のチューブに添加することによる。接触はまた、化合物を細胞の培養物に添加することによって達成され得る。
【0120】
本明細書で使用される場合、「付着細胞」という用語は、培養容器の底部または側面に接着してインビトロで増殖する細胞を指し、付着細胞は、細胞外マトリックス分子等を介して容器と接触してもよく、付着しておらず、培養容器から細胞を取り出すために酵素の使用を必要としない懸濁培養中の細胞と異なり、この細胞を培養皿/容器から分離するためには酵素、すなわちトリプシン、ディスパーゼ等の使用を必要とする。
【0121】
本明細書で使用される場合、「マーカー」または「細胞マーカー」という用語は、特定の細胞または細胞型を同定する遺伝子またはタンパク質を指す。細胞のマーカーは1つのマーカーに限定されなくてもよく、複数のマーカーは、指定される群のマーカーが1つの細胞または細胞型を別の細胞または細胞型から同定し得るように、マーカーの「パターン」を表し得る。例えば、本発明の侵害受容器細胞は、侵害受容器細胞を、あまり分化していない前駆細胞から、すなわちTUJ1陽性およびネスチン陰性侵害受容器を、非侵害受容器細胞または前駆体細胞、すなわちTUJ1陰性およびネスチン陽性細胞から区別する1つ以上のマーカーを発現する。
【0122】
本明細書で使用される場合、染色に関する「陽性細胞」という用語は、マーカーを発現し、したがってそのマーカーに関して、対照または比較細胞を上回る検出可能な定量的および/または定性的量で「染まる」細胞を指す。陽性細胞はまた、ネスチン等のような分子に関して染まる細胞も表し得る。
【0123】
本明細書で使用される場合、「陰性細胞」という用語は、ネスチン抗体検出法等との接触後に染まらない細胞のような、マーカーに関して検出可能なシグナルが存在しない細胞を指す。
【0124】
本明細書で使用される場合、「DAPI」という用語は、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール・2HCl蛍光染色法を指す。DAPI蛍光染色法は周知であり、数多くの例の1つとして、DAPI Nucleic Acid Stain,2006,Molecular Probes,Inc.,Eugene,Oregon,97402,USA参照。
【0125】
本明細書で使用される場合、「レポーター遺伝子」または「レポーター構築物」という用語は、発色タンパク質、GFPなどの蛍光タンパク質またはβ-ガラクトシダーゼ(lacZ遺伝子)などの酵素のような、容易に検出可能または容易にアッセイ可能なタンパク質をコードする核酸を含む遺伝的構築物を指す。
【0126】
本明細書で使用される場合、「GFP」という用語は、標的遺伝子の発現の指示マーカーとして典型的に使用される、細胞内での発現に際して蛍光タンパク質を生成することができる任意の緑色蛍光タンパク質DNA配列を指す。GFPの例としては、Pacific jellyfish、オワンクラゲ(Aequoria Victoria)などの腔腸動物から単離されるGFP配列、および「eGFP」などのその合成配列誘導体が含まれる。
【0127】
「試料」という用語は、その最も広い意味で使用される。1つの意味では、細胞または組織を指すことができる。また別の意味では、任意の供給源から得られる検体または培養物を含むことが意図され、液体、固体および組織を包含する。環境試料には、表面物質、土壌、水および工業試料などの環境物質が含まれる。これらの例は、本発明に適用できる試料の種類を限定すると解釈されるべきではない。
【0128】
本明細書で使用される場合、用語「精製された」、「精製する」、「精製」、「単離された」、「単離する」、「単離」およびその文法的等価物は、試料からの少なくとも1つの汚染物質の量の低減を指す。例えば、所望細胞型は、非ニューロン細胞から単離された分化ニューロン細胞のように、望ましくない細胞型の量の対応する低減によって、少なくとも10%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、さらに一層好ましくは少なくとも75%、最も好ましくは少なくとも90%精製される。言い換えると、「精製する」およびその等価物は、試料からの特定の細胞(例えば望ましくない細胞)の除去を指す。例えば、本発明のTUJ1+ニューロン細胞の精製集団を提供するために、TUJ1+ネスチン-ニューロン細胞を、本明細書で述べるように、混合細胞集団をフローサイトメトリによってNTRK1+とNTRK1-細胞に選別することにより、汚染ネスチン+TUJ1-ニューロン細胞の除去によって精製する;ニューロン侵害受容器細胞も、本発明の組成物および方法を含む細胞培養の指定された方法を使用することにより、非侵害受容器細胞(デフォルト細胞)から精製されるかまたは「選択される」。非侵害受容器細胞の除去または選択は、試料中の所望侵害受容器細胞の割合の増加を生じさせる。
【0129】
したがって細胞型の精製は、所望細胞、すなわち試料中の侵害受容器の「富化」、すなわち量の増加をもたらす。
【0130】
物体(例えば細胞、組織等)および/または化学物質(例えばタンパク質、アミノ酸配列、核酸配列、コドン等)に適用される場合、本明細書で使用される場合、「天然に生じる」という用語は、その物体および/または化合物が天然に認められる/認められたことを意味する。例えば、天然に生じる細胞は、胚細胞などの、天然の供給源から単離することができる、生物中に存在する細胞を指し、ここで、前記細胞は実験室においてヒトによって意図的に改変されていない。
【0131】
本明細書で使用される場合、「インビトロ」という用語は、人工環境および人工環境内で起こる過程または反応を指す。インビトロ環境は、試験管および細胞培養物に例示されるが、これらに限定されない。
【0132】
本明細書で使用される場合、「インビボ」という用語は、自然環境(例えば動物または細胞)および胚発生、細胞分化、神経管形成等のような自然環境内で起こる過程または反応を指す。
【0133】
本明細書で開示される任意の細胞に関して行われる場合、「から誘導された」または「から樹立された」または「から分化された」という用語は、細胞系、組織中の親細胞(例えば任意の操作、例えば、限定されることなく、単細胞単離、インビボでの培養、例えばタンパク質、化学物質、放射線、ウイルスによる感染を用いた処理および/または変異誘発、モルフォゲン等のようなDNA配列でのトランスフェクション、培養親細胞中に含まれる任意の細胞の選択(連続培養などによる)を用いて分離された胚または液体など)から得られた(例えば単離された、精製された等)細胞を指す。誘導された細胞は、増殖因子、サイトカイン、サイトカイン処理の選択進行、接着性、接着性の欠如、選別手順等に対する応答によって混合集団から選択することができる。
【0134】
本明細書で使用される場合、「細胞」という用語は、単細胞ならびに細胞の集団(すなわち2つ以上)を指す。集団は、ニューロン細胞の集団または未分化胚細胞の集団などの、1つの細胞型を含む純粋な集団であり得る。あるいは、集団は、2つ以上の細胞型、例えば混合細胞集団を含み得る。集団中の細胞数を限定することは意図されず、例えば細胞の混合集団は少なくとも1つの分化細胞を含み得る。1つの実施形態では、混合集団は少なくとも1つの分化細胞を含み得る。本発明では、細胞集団が含み得る細胞型の数に制限はない。
【0135】
本明細書で使用される場合、「高度に富化された集団」という用語は、比較集団よりも高いパーセンテージまたは量でマーカーを発現する、培養皿中の細胞の集団などの細胞の集団を指し、例えば、LSBに接触した細胞培養物を2日目にCHIR/SUまたはCHIR/DAPTで処理すると、SU/DAPTでの処理と比較して高度に富化された集団を生じる。
【0136】
「細胞生物学(cell biologyまたはcellular biology)」という用語は、細胞の解剖学的構造および機能、例えば細胞の生理的性質、構造、小器官、およびそれらの環境との相互作用、それらの生活環、分裂および死などの、生細胞の研究を指す。
【0137】
「関心対象のヌクレオチド配列」という用語は、その操作が、当業者により、何らかの理由で(例えば疾患を処置する、改善された品質を与える、宿主細胞における関心対象のタンパク質の発現、リボザイムの発現等)望ましいと判断され得る任意のヌクレオチド配列(例えばRNAまたはDNA)を指す。そのようなヌクレオチド配列には、構造遺伝子(例えばレポーター遺伝子、選択マーカー遺伝子、がん遺伝子、薬剤耐性遺伝子、増殖因子等)のコード配列、mRNAまたはタンパク質産物をコードしない非コード調節配列(例えばプロモーター配列、ポリアデニル化配列、終結配列、エンハンサー配列等)が含まれるが、これらに限定されない。
【0138】
本明細書で使用される場合、「関心対象のタンパク質」という用語は、関心対象の核酸によってコードされるタンパク質を指す。
【0139】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチドまたは前駆体(例えばプロインスリン)の産生のために必要なコード配列を含む核酸(例えばDNAまたはRNA)配列を指す。ポリペプチドは、完全長コード配列によって、または、完全長もしくはフラグメントの所望活性もしくは機能特性(例えば酵素活性、リガンド結合、シグナル伝達等)が保持されている限り、コード配列の任意の部分によってコードされ得る。この用語はまた、構造遺伝子のコード領域を包含し、かつ5’および3’末端の両方においてコード領域に隣接して位置する配列(末端上の約1kb以上の距離にわたり、これにより、遺伝子が完全長mRNAの長さに対応する)を含む。コード領域の5’側に位置し、mRNA上に存在する配列を5’非翻訳配列と称する。コード領域の3’側または下流に位置し、mRNA上に存在する配列を3’非翻訳配列と称する。「遺伝子」という用語は、cDNAおよびゲノム形態の遺伝子の両方を包含する。遺伝子のゲノム形態またはクローンは、「イントロン」または「介在領域」または「介在配列」と称される非コード配列で分断されたコード領域を含む。イントロンは、核RNA(hnRNA)に転写される遺伝子のセグメントである;イントロンはエンハンサーなどの調節エレメントを含み得る。イントロンは、核または一次転写産物から除去されるかまたは「スプライシングによって除去される」;イントロンは、それゆえ、メッセンジャーRNA(mRNA)転写産物中には存在しない。mRNAは、翻訳の間、新生ポリペプチドにおけるアミノ酸の配列または順序を指定するように機能する。
【0140】
本明細書で使用される場合、「遺伝子発現」という用語は、遺伝子内にコードされる遺伝情報を、遺伝子の「転写」を介して(すなわちRNAポリメラーゼの酵素作用によって)RNA(例えばmRNA、rRNA、tRNAまたはsnRNA)に変換する過程、およびタンパク質をコードする遺伝子については、mRNAの「翻訳」を介してタンパク質に変換する過程を指す。遺伝子発現はこの過程の多くの段階で調節され得る。「上方調節」または「活性化」は、遺伝子発現産物(すなわちRNAまたはタンパク質)の産生を増大させる調節を指し、「下方調節」または「抑制」は、産生を減少させる調節を指す。上方調節または下方調節に関与する分子(例えば転写因子)は、しばしば、それぞれ「アクチベーター」および「リプレッサー」と呼ばれる。
【0141】
本明細書で使用される場合、「をコードする核酸分子」、「をコードするDNA配列」、「をコードするDNA」、「をコードするRNA配列」および「をコードするRNA」という用語は、デオキシリボ核酸またはリボ核酸の鎖に沿ったデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドの順序または配列を指す。これらのデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドの順序は、ポリペプチド(タンパク質)鎖に沿ったアミノ酸の順序を決定する。DNAまたはRNA配列は、したがって、アミノ酸配列をコードする。
【0142】
「単離されたオリゴヌクレオチド」または「単離されたポリヌクレオチド」におけるように、核酸に関して使用される場合の「単離された」という用語は、その天然供給源において通常付随している少なくとも1つの成分または夾雑物から同定され、分離されている核酸配列を指す。単離された核酸は、それが天然で認められるのとは異なる形態または状況で存在する。これに対し、単離されていない核酸は、天然で存在する状態で認められるDNAおよびRNAなどの核酸である。例えば、所与のDNA配列(例えば遺伝子)は、宿主細胞の染色体上で隣接遺伝子の近傍に認められ;特定のタンパク質をコードする特定のmRNA配列などのRNA配列は、多数のタンパク質をコードする数多くの他のmRNAとの混合物として細胞内で認められる。しかし、所与のタンパク質をコードする単離された核酸は、一例として、所与のタンパク質を通常発現する細胞内の核酸であって、核酸が天然の細胞とは異なる染色体位置にあるか、または天然で認められるものとは異なる核酸配列が隣接している、核酸を含む。単離された核酸、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖形態で存在し得る。単離された核酸、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドがタンパク質を発現するために利用される場合、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは最小限でもセンス鎖またはコード鎖を含むが(すなわちオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは一本鎖であり得る)、センス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含み得る(すなわちオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは二本鎖であり得る)。
【0143】
本明細書で使用される場合、本発明の細胞に関する「メラノサイト」という用語は、一般に、PSCに由来する細胞を指し、例えば、初期メラノサイトが挙げられ、これは、Sox10、HMB45、c-kit、必須のメラノサイト転写因子MITF-MまたはMITFM、小眼球症関連転写因子(MITF)のアイソフォーム、メラノサイトにおいて発現される塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックスロイシンジッパー転写因子ファミリーのメンバー、チロシナーゼ(TYR)、チロシナーゼ関連タンパク質1(TYR-1)、TYR関連タンパク質2/ドーパクロムトートメラーゼ(DCT)等を含むマーカーの群を発現し、プレメラノソーム(premelosome)および/またはメラノソームを含有し、明らかな色素(肉眼でまたは顕微鏡検査によって観察される)を伴うかまたは伴わない。成熟メラノサイトは、典型的には色素性メラノソームを含み、チロシナーゼ陽性であり、チロシナーゼ関連タンパク質1(TRP1)等のようなメラノサイトタンパク質を発現する。
【0144】
本明細書で使用される場合、本発明の細胞に関する「初期メラノサイト」または「メラニン芽細胞」または「メラノサイト前駆体」または「メラノサイト前駆細胞」という用語は、成熟メラノサイトへとさらに分化することができる、Sox10::GFPおよびMITFならびにc-kitを共発現する細胞を指す。1つの実施形態では、Sox10::GFPは推定上のメラノサイト前駆体のマーカーである。別の実施形態では、c-kitは推定上のメラノサイト前駆体のマーカーである。さらなる実施形態では、Sox10::GFP/c-kit二重陽性細胞は、推定上のメラノサイト前駆体細胞である。
【0145】
本明細書で使用される場合、本発明の細胞に関する「HMB45+」という用語は、初期(段階)メラノサイト(すなわち未熟メラノサイト)、網膜色素上皮の色素細胞に分化することができる細胞、未熟メラノソームを含む成熟メラノサイトなどの、プレメラノソーム糖タンパク質、すなわちヒトPmel17(参照により本明細書に組み込まれる、Theosら、Pigment Cell Res.2005.18(5):322-36)を発現する細胞を指す。
【0146】
本明細書で使用される場合、「疾患モデリング」という用語は、障害の結果としてヒトにおいて認められる特定の徴候または症状を模倣するために実験生物またはインビトロ細胞培養物を使用する過程を指す。1つの実施形態では、神経障害を生じさせる遺伝子変異を有するヒトに由来するヒト多能性幹細胞を増殖させ、そのヒトにおいて認められるのと類似の欠陥を保持する神経細胞へと分化させることができる。
したがって本発明は以下の項目を提供する:
(項目1) 第一シグナル伝達インヒビター、第二シグナル伝達インヒビター、および第三シグナル伝達インヒビターを含むキットであって、ここで、該第一インヒビターはトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)/アクチビン-ノーダルシグナル伝達を低下させることができ、該第二インヒビターはSmall Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)シグナル伝達を低下させることができ、および該第三インヒビターは、ウイングレス(Wnt)シグナル伝達の活性化のためにグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)を低下させることができる、キット。
(項目2) 上記第一インヒビターが、SB431542、その誘導体およびその混合物からなる群より選択される低分子である、項目1に記載のキット。
(項目3) 上記第二インヒビターが、LDN193189、その誘導体およびその混合物からなる群より選択される低分子である、項目1に記載のキット。
(項目4) 上記第三インヒビターが、CHIR99021およびその誘導体からなる群より選択される、項目1に記載のキット。
(項目5) 線維芽細胞増殖因子(FGF)受容体ファミリーシグナル伝達を低下させる第四インヒビターをさらに含む項目1に記載のキットであって、該FGF受容体ファミリーシグナル伝達が、血管内皮増殖因子(VEGF)受容体、線維芽細胞増殖因子(FGF)受容体および血小板由来増殖因子(PDGF)チロシンキナーゼ受容体を含む、キット。
(項目6) 上記第四インヒビターが、SU5402およびその誘導体からなる群より選択される、項目5に記載のキット。
(項目7) ノッチシグナル伝達を低下させることができる第五インヒビターをさらに含む、項目1に記載のキット。
(項目8) 上記第五インヒビターが、N-[N-(3,5-ジフルオロフェナセチル)-L-アラニル]-S-フェニルグリシンt-ブチルエステル(DAPT)およびその誘導体からなる群より選択される、項目7に記載のキット。
(項目9) ネスチン、
【化14】

からなる群より選択されるタンパク質の発現の検出のために使用される抗体をさらに含む、項目1に記載のキット。
(項目10) ネスチン、
【化15】

からなる群より選択される遺伝子のmRNA発現の検出のためのPCRプライマーをさらに含む、項目1に記載のキット。
(項目11) プロタキキニン-1(TAC1)、小胞グルタミン酸輸送体2(VGLUT2)および溶質キャリアファミリー15メンバー3(SLC15A3)からなる群より選択されるタンパク質の発現の検出のために使用される抗体をさらに含む、項目1に記載のキット。
(項目12) プロタキキニン-1(TAC1)、小胞グルタミン酸輸送体2(VGLUT2)および溶質キャリアファミリー15メンバー3(SLC15A3)からなる群より選択される遺伝子のmRNA発現の検出のためのPCRプライマーをさらに含む、項目1に記載のキット。
(項目13) 指示書をさらに含む項目1に記載のキットであって、該指示書が、上記第三インヒビターを添加する2日前に、上記第一インヒビターおよび上記第二インヒビターを添加するための工程を含む、キット。
(項目14) 指示書をさらに含む項目1に記載のキットであって、該指示書が、神経幹細胞前駆体を作製するための工程および侵害受容器細胞を作製するための工程を含む、キット。
(項目15) ヒト幹細胞をさらに含む、項目1に記載のキット。
(項目16) 上記ヒト幹細胞がヒト胚性幹細胞である、項目15に記載のキット。
(項目17) 上記ヒト幹細胞がヒト誘導多能性幹細胞である、項目15に記載のキット。
(項目18) 上記ヒト幹細胞がトランスジェニックSOX10::GFP細菌人工染色体(BAC)ヒト多能性幹細胞(hPSC)である、項目13に記載のキット。
(項目19) 幹細胞の定方向性分化を誘導するための方法であって、
a)
i)ヒト幹細胞を含む細胞培養物;および
ii)第一シグナル伝達インヒビター、第二シグナル伝達インヒビター、および第三シグナル伝達インヒビターであって、ここで、該第一インヒビターはトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)/アクチビン-ノーダルシグナル伝達を低下させることができ、該第二インヒビターはSmall Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)シグナル伝達を低下させることができ、および該第三インヒビターは、ウイングレス(Wnt)シグナル伝達の活性化のためにグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)を低下させることができる、第一シグナル伝達インヒビター、第二シグナル伝達インヒビター、および第三シグナル伝達インヒビター;
を提供する工程;
b)該幹細胞を該第一インヒビターおよび該第二インヒビターとインビトロで48時間まで接触させる工程;ならびに
c)該阻害された幹細胞を、幹細胞の定方向性分化を誘導するために、該第三インヒビターとさらに192時間までさらに接触させる工程
を含み、該分化した幹細胞は神経堤幹細胞である、方法。
(項目20) 上記第一インヒビターが、SB431542、その誘導体およびその混合物からなる群より選択される低分子である、項目19に記載の方法。
(項目21) 上記第二インヒビターが、LDN193189、その誘導体およびその混合物からなる群より選択される低分子である、項目19に記載の方法。
(項目22) 上記第三インヒビターが、CHIR99021およびその誘導体からなる群より選択される、項目19に記載の方法。
(項目23) 線維芽細胞増殖因子(FGF)受容体ファミリーシグナル伝達を低下させる第四インヒビターをさらに含む項目19に記載の方法であって、該FGF受容体ファミリーシグナル伝達が、血管内皮増殖因子(VEGF)受容体、線維芽細胞増殖因子(FGF)受容体および血小板由来増殖因子(PDGF)チロシンキナーゼ受容体を含む、方法。
(項目24) 上記第四インヒビターが、SU5402およびその誘導体からなる群より選択される、項目23に記載の方法。
(項目25) ノッチシグナル伝達を低下させることができる第五インヒビターをさらに含む、項目19に記載の方法。
(項目26) 上記第五インヒビターが、N-[N-(3,5-ジフルオロフェナセチル)-L-アラニル]-S-フェニルグリシンt-ブチルエステル(DAPT)およびその誘導体からなる群より選択される、項目25に記載の方法。
(項目27) ニューロン系列細胞のペプチド作動性侵害受容器細胞への定方向性分化のために、第四インヒビターおよび第五インヒビターをさらに含む項目19に記載の方法であって、該第四インヒビターがSU5402およびその誘導体からなる群より選択され、該第五インヒビターがN-[N-(3,5-ジフルオロフェナセチル)-L-アラニル]-S-フェニルグリシンt-ブチルエステル(DAPT)およびその誘導体からなる群より選択される、方法。
(項目28) 上記ペプチド作動性侵害受容器細胞が、OCT4、DLK1、PAX6、SOX10、POU4F1(BRN3A)、ISL1、NEUROG2、NEUROG1、NTRK1、RET、RUNX1、VGLUT2、TAC1およびTRPV1からなる群より選択されるマーカーを発現する、項目27に記載の方法。
(項目29) 上記ペプチド作動性侵害受容器細胞が、ISL1、POU4F1(BRN3A)、RET、RUNX1およびNTRK1からなる群より選択されるマーカーを発現する、項目27に記載の方法。
(項目30) 上記マーカーがタンパク質および核酸からなる群より選択される、項目27に記載の方法。
(項目31) 上記ペプチド作動性侵害受容器細胞が、サブスタンスPおよびカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)を共発現する、項目27に記載の方法。
(項目32) 上記ペプチド作動性侵害受容器細胞が外部刺激に応答して活動電位を生じ、該外部刺激が電流である、項目27に記載の方法。
(項目33) 上記分化したペプチド作動性侵害受容器細胞が、上記幹細胞を上記第一インヒビターおよび上記第二インヒビターと接触させた後10~15日以内に、高度に富化されたニューロンの集団内に存在する、項目27に記載の方法。
(項目34) 上記幹細胞がヒト胚性幹細胞である、項目19に記載の方法。
(項目35) 上記幹細胞がヒト誘導多能性幹細胞である、項目19に記載の方法。
(項目36) 生物学的作用物質をインビトロでスクリーニングする方法であって、
a)
i)幹細胞の定方向性分化からインビトロで誘導される侵害受容器細胞;および
ii)試験化合物
を提供する工程;ならびに
b)該侵害受容器細胞を該試験化合物と接触させて、侵害受容器機能を測定する工程であって、該機能は活動電位の測定値である、工程
を含む、方法。
(項目37) 上記侵害受容器細胞がヒト幹細胞に由来する、項目36に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0147】
図1図1は、例示的なLSB3i分化スキームを示す、本発明の方法の好ましい実施形態である。LDN-193189およびSB431542(LSB)を使用して二重SMAD阻害を誘導した場合、CHIR99021、SU5402およびDAPT(3i)を分化の2日目に添加したときに最適ニューロン分化が認められた。4日目から開始して、その後の期間25%の漸増量で増加させながらN2培地を添加して、KSRを置き換えた。hESCを、間質フィーダー層を使用せずに単細胞単層として平板培養した。最初の5日間、分化を制限し、神経分化を促進するためにBMP(LDN193189に例示される)およびTGF/ノーダル/アクチビン(SB431542に例示される)の組合せ阻害(LSB)を使用する。初期誘導の48時間後に3つの付加的なインヒビター(CHIR99021、DAPT、SU5402に例示される;集合的に3iと称する)を適用する。5日目から10日目までLDN193189を含めた場合と除外した場合で分化に差は生じない。要約すると、細胞に毎日供給し、出現する神経細胞集団を支持するために培地をKSRからN2に移行させる。---+L---は、5日目から10日目までLDNを添加した2連の培養物を示す。
図2図2は、LSB3iの例示的な効率を示し、LSB処理と3i処理の組合せを使用する本発明の好ましい実施形態が、LSB処理単独と比較してニューロン様細胞集団の生成を効率的に促進することを明らかにする(A、B)。ニューロンのマーカーであるTUJ1の染色に際し、LSB単独と比較してhPSC処理の48時間後に3i(CHIR99021、DAPT、SU5402)を添加した場合、はるかに高い数の陽性細胞が認められ、LSB単独では、多数のPAX6緑色/暗細胞と少数のTUJ1+(赤色/明)細胞を示した(C、D)。細胞を再スポットし、細胞周期中の細胞の数を定量化するためにKi67発現(桃色/明細胞)を使用した。3iを添加した場合、LSB単独と比較してほぼ1/3のKi67(+)細胞が認められ、有糸分裂後のニューロンを示している。LSB(E)およびLSB3i(F)で処理したhPSCにおけるKi67(桃色/明細胞)および(E、F)ホスホヒストンH3(PPH3)(赤色/明細胞)の発現を比較すると、12日目までに増殖の著しい低下を示した。(G)細胞内FACSを用いて前駆細胞(ネスチン陽性細胞;灰色のバー)およびニューロン(TUJ1陽性細胞;白色のバー)の数を測定した。細胞の約5%だけがTUJ1陽性であるLSB処理単独に対し、3iを添加した場合は細胞の75%超がTUJ1陽性である。3i組成物の好ましい実施形態と比較して3つのインヒビターのうち1つまたは2つを添加した場合は、同じレベルのTUJ1細胞は達成されない。しかし、SU5402またはDAPTのいずれかに加えてCHIRでLSB細胞を処理すると(C)、53%超のニューロンを達成し、TUJ1+ニューロンの形成において、γセクレターゼインヒビターおよび線維芽細胞増殖因子受容体インヒビターから選択される少なくとも1つのインヒビターと組み合わせてCHIR、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)インヒビター/WNTシグナル伝達のアクチベーター(すなわちWNTアゴニスト)が必要であることを指示する。(A、B)についてのスケールバーは200μmを示し、(C、D)については100μmを示す。
図3図3は、例示的なLSB3iニューロンが侵害受容器であったことを示し、LSB処理と3i処理の組合せを使用する本発明の好ましい実施形態が、LSB処理単独と比較して侵害受容器の生成を効率的に促進することを明らかにする。LSB処理と3i処理の組合せの使用からのTUJ1陽性ニューロンは、12日目に免疫蛍光によって測定される、(A)ISL1、(B)BRN3A、(C)RETおよび(D)RUNX1を発現する。(E)61%超の細胞が10日目にNTRK1を発現し、同時にLSB3iで処理したhiPSCは、中等度の効率でニューロンを形成する(FACSによって測定される)。合わせて考慮するとこれらの結果は、LSB処理と3i処理の組合せの使用を用いて生成されるニューロンの圧倒的多数が侵害受容器であることを指示する。スケールバーは100μmを示す。
図4図4は、LSB3iを使用して例示的なiPS細胞が侵害受容器へと誘導されたことを示す。hiPSC系(例えばC14)をLSB3iで処理した場合、図3に示すのと同様のニューロンが認められる。図4は、LSB処理と3i処理の組合せを使用する本発明の好ましい実施形態が、LSB処理単独と比較してhiPSC集団からの侵害受容器の生成を効率的に促進することを明らかにする。hiPSC系(C14)の、LSB処理と3i処理の組合せを使用する本発明の好ましい実施形態からのTUJ1陽性ニューロンは、12日目に免疫蛍光によって測定される(A)ISL1、(B)BRN3A、(C)RETおよび(D)RUNX1を発現する。2つの別個のhiPSC系(C14およびC72)も侵害受容器を生成することができる。(E)細胞内FACSを用いて、示されている処理についての前駆細胞(ネスチン陽性細胞;灰色のバー)およびニューロン(TUJ1陽性細胞;白色のバー)の数を測定した。スケールバーは100μmを示す。
図5図5は、例示的なSOX10発現を示し、LSB処理と3i処理の組合せを使用する本発明の好ましい実施形態が、神経堤幹細胞様状態を含む経路を介して侵害受容器分化を駆動することを明らかにする。神経堤幹細胞の出現を観察するため、トランスジェニックSOX10::GFP BAC hESC細胞系を、A)LSB、B)LSBとCHIR99021(LSB/C)、ならびにC)LSB3iで処理し、蛍光顕微鏡検査により、B)およびC)において多数の緑色(明GFP+細胞)を示した。D)およびE)は、フローサイトメトリ分析後の処理細胞集団におけるGFPの定量的発現を示す。トランスジェニックSOX10::GFP BAC hESC系を使用して、8日目までに64%超の細胞において神経堤幹細胞のマーカーであるSOX10の発現を検出することができる。D)およびE)に示すようにSOX10::GFP+発現が加速され、LSBとCHIR99021(LSB/C)またはLSB処理単独と比較して、より早期に、最大発現(大きなGFP+集団)(12日目までに80%GFP+)が生じた。LSB値はベースラインのすぐ上であり、LSB/C点は黒色の線(LSBとLSB3iの間)であり、LSB3i値は赤色(明)線でつないでいる。スケールバー=50μm。
図6図6は、細胞がまだOCT4発現を保持しているときに添加した3iの例示的表示であり、LSB処理と3i処理の組合せを使用する本発明の好ましい実施形態が、分化経路の非常に早期(hESC集団がまだ多能性特性を保持している)に始まる侵害受容器分化を駆動することを明らかにする。(A)LSB誘導後、CHIR99021、DAPT、SU5402を様々な日に7つの2連の培養物に添加し(すなわち1日目~7日目の各々の日に1つの培養物)、11日目に細胞を固定した場合、2日目に関して最大の細胞生存率および最も均一なTUJ1発現が認められる。したがって、2日目が3i添加の最適時点であることが発見された。(B)これは、ノギンおよびSB431542(NSB)中で培養した細胞が多能性のマーカーであるOCT4を発現し続け、神経細胞運命のマーカーであるPAX6をまだ発現していない時点(星印によって示す染色の欠如参照)に対応する。PAX6発現によって示される、細胞がニューロン系列に拘束された時点である5~7日目に3iを添加した場合は深刻な細胞死が認められる。A)5、6および7日目に添加した3i、ならびにB)培養の6日目のDAPI染色参照。核の4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)染色(明青色)に加えてOCT4(赤色/暗)およびPAX6(緑色/明)に結合した抗体を同定するために細胞を染色した。
図7図7は、例示的なLSB3i処理した人工hPSC(SOX10::GFP細胞)が、神経堤中間細胞であって、活動電位を生じさせることができる双極侵害受容器へと加速された速度で成熟する、神経堤中間細胞の発生を示したことを示す。フローサイトメトリを使用してSOX10::GFP陰性細胞からSOX10::GFP+細胞を選別した。SOX10::GFP+をLSB3iで処理した場合、それらは(A)ISL1および(B)BRN3A陽性ニューロンを生じさせた(生産した)。LSB3iニューロンは(C)グルタミン酸および(D)TRPV1に関して染色された。(E)各々のTUJ1陽性ニューロンは、2つの別個の成長円錐を有する双極形態を示し、(F)極性を伴ってMAP2を発現した。1か月後、(G)ニューロン細胞体は、(H)サブスタンスPおよび(I)CGRPに関して陽性の神経節を形成するようにクラスターを形成する。(J)95pA(赤色のトレース)は、LSB3i侵害受容器から成熟単一活動電位を誘発するのに十分である。スケールバーは、100μm(A~DとF~I)および50μm(E)を示す。
図8図8は、例示的なLSB3i処理したiPSCクローンC72が速やかに侵害受容器表現型を獲得したことを示す。LSB3i処理したiPSCクローンC72細胞からのTUJ1陽性クローン(緑色/明軸索染色)は、A)ISL1、B)BRN3A、C)RETおよびD)RUNX1(細胞体の赤色/桃色染色)を発現した。
図9図9は、例示的なNTRK1 FACS選別がhiPSC由来のLSB3iニューロンを富化したことを示す。分化10日目のNTRK1 FACS選別は、NTRK1+細胞におけるTUJ1陽性(緑色/明軸索染色)ニューロンを増加させ、C14およびC72両細胞系からネスチン(赤色)陽性前駆体(NTRK1-)細胞集団を除去した。細胞を、マトリゲルでコートした培養容器に入れた24時間後に、DAPIに加えてTUJ1およびネスチンで免疫染色した。
図10図10は、LSB3i侵害受容器の例示的な遺伝子発現を示す。LSB処理細胞とLSB3i処理細胞の両方について2、3、5、7、9および15日目に遺伝子発現分析を実施した。(a)神経外胚葉、神経堤、ニューロンおよび侵害受容器(それぞれN.E.、N.C.、Nn.およびNoci.)のマーカーを検査した場合、分化の異なる段階が認められる。(b)LSB3iについて15日目に、倍数変化による上位20の有意な上方調節(赤色)および下方調節(青色)遺伝子をLSB処理細胞と比較した。(c)OCT4、DLK1、PAX6、SOX10、POU4F1(BRN3A)、ISL1、NEUROG2、NEUROG1、NTRK1、VGLUT2、TAC1およびTRPV1の発現はペプチド作動性侵害受容器の出現と一致する。
図11図11は、SOX10::GFP BAC細胞系において誘導された遺伝子の例示的なqRT-PCR検証を示す。SSEA-4に関して選別したhPSC、および神経培養物からHNK1+を選別することによって神経堤幹細胞を富化するためのこれまでの方法(参照により本明細書に組み込まれる、Leeら、Nat Biotechnol 25,1468-1475)と比較して、SOX10::GFP BACを用いて選別したGFP+細胞は、qRT-PCRによって測定したとき神経堤遺伝子SOX10、p75およびAP2Bを発現する細胞が大きく富化されていた。
図12図12は、例示的なLSB3i侵害受容器が2つの別個の成長円錐を有することを示す。LSBとの初期接触後12日目に継代し、LSB3i侵害受容器を固定して、TUJ1抗体(緑色;明領域)およびDAPI(青色/暗い核)で染色した場合、2つの別個の成長円錐が、これらの代表的細胞において認められ得、その間に、DAPI(青色/より暗い楕円領域)核領域によって示される細胞体があり、様々な軸索様形状と大きさを有する。一方の端は、樹状突起に類似する複雑な分枝(上部)を示し、他方の端はシナプス終末に類似した球状形状(下部)を示した。一般に、本発明のペプチド作動性侵害受容器の形態は感覚ニューロンの形態に合致した。
図13図13は、メラノサイト前駆体/メラニン芽細胞の例示的な特異化と単離を示す。11日目のLSB-Cプロトコールは、Sox10::GFP、MITFを共発現するメラノサイト前駆体の誘導を支持した(A、右のパネル)。MITF単一陽性集団も認められた(A、左のパネル)。c-Kitはメラノサイト前駆体の潜在的マーカーとして同定された。LSB-C分化後に低いパーセンテージのSox10::GFP、c-kit共発現細胞が認められた(B、橙色集団)。qRT-PCR分析により、二重陽性集団においてメラノサイトマーカーMITFMおよびDctの富化が確認された(C)。BMP4およびEDN3での処理(「LSB-Mel」)は、Sox10::GFP、c-kit二重陽性の推定上のメラノサイト前駆体集団の誘導を増強した(D)。LSB-Mel処理後に単離されたSox10::GFP、c-kit二重陽性細胞は、有意により高いレベルのメラノサイトマーカーMITFMおよびDctを示した(E)。すべての誤差バーは平均値の標準誤差(s.e.m.)を示す。p<0.05。
図14図14は、メラノサイト前駆体の例示的な増殖と成熟を示す。分化条件の要約(A)。BMP4およびEDN3を伴うLSB-C(LSB-Mel)条件での特異化後、細胞を11日目に選別し、再接種した。選別後(PS)細胞を、c-kitリガンド(SCF)、エンドセリン3(EDN3)、線維芽細胞増殖因子(FGF)およびCHIRを含む成熟培地に維持した。PS6日目に明視野顕微鏡検査によって認められた色素細胞は、メラノサイトマーカーMITFに関して陽性であったが、Sox10::GFPレポーターが下方調節されていると思われた(B)。Sox10::GFP、c-kit二重陰性を除くすべての集団が、最終的にMITF発現細胞および肉眼で見える色素クラスターを生じさせたが、その割合は異なっていた(C)。BMP4およびcAMPでの処理は、メラノサイトに特有の紡錘様形態を示す色素細胞への分化を増強した(D)。
図15図15は、成熟メラノサイトの例示的な特性付けを示す。LSB-Melプロトコールで誘導した成熟メラノサイトの純粋な集団は、培養下で8週間超後にMITF、Sox10、Tyrp1およびHMB45を含む一般的なメラノサイトマーカーの発現を維持する(A)。メラノサイトは、継代の数週間にわたってそれらの暗く色素沈着した表現型を保持する(B)。色素沈着レベルを評価するために1×10細胞をペレット化し、写真撮影した。成熟メラノサイトの電子顕微鏡超微細構造特性付け(C、D)。LSB-Mel由来メラノサイトの細胞質中の数多くの暗く色素沈着したメラノソームの存在がTEMによって観察できる(C)。メラノソーム小胞の段階IからIVへの成熟に伴うメラニン色素の存在および進行性沈着に注目されたい(D)。
図16図16は、例示的なLSB-Mel培地処方物がメラノサイトの増殖のためにリノール酸を必要としたこと、およびメラノサイト系列の概略図を示す。顕微鏡像の上に示す培地成分は、処方物から除外された培地成分である;Ph=位相差;BF=明視野。例示的な概略図は、本発明において発生したメラノサイト系列の細胞を同定するために使用したメラノサイト前駆体マーカーを示す。
図17図17は、例示的な分化モデルを示す。多能性胚性ヒト幹細胞の早期LSB処理は、栄養外胚葉、中内胚葉および非神経外胚葉細胞運命を阻害し、このことは、神経外胚葉運命を有する細胞を生じる。初期LSB処理後2日目にCHIR99021、SU5402およびDAPT(3i)を添加すると、8日目までに神経堤幹細胞同定マーカーを誘導し、加速して(LSB-CおよびLSB処理に比べて)、10日目までに神経堤幹細胞のペプチド作動性侵害受容器への速やかな分化を促進した。
【発明を実施するための形態】
【0148】
発明の詳細な説明
本発明は、幹細胞生物学の分野、特に、ヒト胚性幹細胞(hESC)、ヒト誘導多能性幹細胞(hiPSC)、体性幹細胞、がん幹細胞、または系列特異的に分化することができる任意の他の細胞を含み得るが、これらに限定されない、多能性または多分化能性幹細胞の系列特異的分化に関する。特に、新規培養条件を用いてhESCおよび/またはhiPSCの系列特異的分化を侵害受容器(すなわち侵害受容器細胞)へと向かわせる方法を述べる。本発明の方法を用いて作製される侵害受容器は、インビトロでの薬剤発見アッセイにおける使用、疼痛研究における使用、および末梢神経系(PNS)の疾患または損傷を逆転させる治療薬としての使用を含むが、これらに限定されない、様々な用途に関してさらに考慮される。さらに、疾患モデリングにおける使用のためにヒト多能性幹細胞からメラノサイトを生産するための組成物および方法を提供する。
【0149】
本明細書に含まれる説明から、当業者は、本発明の本質的特性を容易に確認することができ、またその精神および範囲から逸脱することなく、本発明を様々な用途および条件に適合させ、本発明を最大限に利用するために本発明に変更および修正を加えることができる。以下で述べる実施形態および実施例は、単に例示と解釈されるべきであり、いかなる意味においても本発明の範囲の限定と解釈されるべきではない。
【0150】
発明者は以前に、幹細胞の分化を神経細胞集団へと向かわせる二重SMAD阻害の使用を開示しており、CNSと神経堤子孫の比率は処置開始の時点での細胞の集密度に依存し;高い平板培養密度、すなわち高い集密度はCNS子孫を生じ、一方低い平板培養密度、すなわち低い集密度は神経堤子孫を生じることを開示した。発明者はさらに、分化したCNSニューロン子孫の機能的ドーパミン作動性ニューロンへのパターン形成が達成できることを開示した。
【0151】
本明細書で述べる本発明は、神経堤由来細胞系列である機能的侵害受容器を、連続的な、SMADシグナル伝達の阻害、次いでFGFおよびノッチシグナル伝達の阻害ならびにWntシグナル伝達の活性化により、高密度平板培養された胚性または体性幹細胞から約10日間で直接分化させることができ、そしてそのような機能的侵害受容器をインビトロで7日間以上維持することができるという予想外の新規観察を開示する。
【0152】
特に、ヒト多能性幹細胞の定方向性分化において使用する化合物を発見するためにコンビナトリアル低分子スクリーニングを行った。このスクリーニングの間に、PSCを有糸分裂後ニューロンに変換する低分子が見出された。具体的には、経路インヒビターである5つの低分子、すなわちSB431542、LDN-193189、CHIR99021、SU5402およびDAPTの組合せが、本明細書で述べる特定の試験条件下で、いかなる組換え増殖因子も存在せずに、10日以内の分化でhPSCから>75%の効率でニューロンを生成するのに十分であることが発見された。したがって、本発明の組成物(キットを含む)および方法の使用は、hPSCからペプチド作動性侵害受容器の少なくとも50%の収率、または少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも75%の効率をもたらす。生じたこれらのヒトニューロンは、NTRK1、BRN3A、ISL1、NEUROG1、サブスタンスPおよびCGRPを含む侵害受容感覚ニューロン運命の標準的なマーカーを発現した。この低分子に基づくニューロン運命獲得の加速は、通常のインビボ発生と比較して3~5倍速い時間枠内で起こり(参照により本明細書に組み込まれる、Bystronら、Nat Neurosci 9:880-886(2006))、特定のシグナル伝達経路の阻害がヒトニューロン細胞発生の時期を加速するのに十分であることを示した。ペプチド作動性侵害受容器のこの迅速で潜在的に拡大可能な(すなわち多数の成熟感覚ペプチド作動性侵害受容器ニューロンを生産するためのバッチ処理)、高い効率の誘導は、ヒト疼痛知覚の研究における使用のための医学的に適切な細胞型を生産するためのこの新規方法への前例のないアクセスを可能にした。コンビナトリアル低分子スクリーニングは、hPSC生物学における新しい世代の定方向性分化戦略のための強力な方法ツールである。
【0153】
10日以内の成熟感覚ペプチド作動性侵害受容器ニューロンのインビトロ生産のための組成物および方法のこの発見は、成熟感覚ニューロンを生産するために現在の方法よりも有意に少ない時間を示す。この発見以前には、hPSCからの有糸分裂後ニューロンのインビトロ誘導は、典型的には30日間以上続く長い培養期間を必要とした(参照により本明細書に組み込まれる、Zhangら、Methods Mol Biol 584:355-366(2010);Elkabetzら、Genes Dev 22:152-165(2008))。この時間のかかるhPSCのインビトロ分化は、インビボでのヒト発生の時系列を反映すると考えられた(Perrier,Proc Natl Acad Sci USA 101:12543-12548(2004))。そこで、1つの実施形態では、成熟ペプチド作動性侵害受容器ニューロンを生産するための組成物および方法は、5つの化合物の少なくとも1つ、すなわちSB431542、LDN-19318または等価物との初期接触後30日未満の培養を含む。したがって、ペプチド作動性侵害受容器は、5つの化合物の少なくとも1つとの初期接触後29日未満、25日未満、20日未満、15日未満、12日未満、および10日未満で入手され得る。
【0154】
ヒト発生の遅い速度を克服するインビトロ戦略を同定することは、基礎生物学およびヒト疾患モデリングにおいてhPSCの最大の可能性を実現するための重要な課題である(参照により本明細書に組み込まれる、Saha,Cell Stem Cell 5,584-595(2009))。発明者は本明細書において、多能性細胞を成熟ニューロンに変化させるための低分子に基づく新規方法の発見を述べる。そこで1つの実施形態では、多能性細胞を成熟侵害受容器細胞への分化に向かわせる。さらに、発明者は、様々な形態および高い数で成熟ニューロン、すなわち侵害受容器細胞を生産するための物質および方法を述べる。
【0155】
I.ニューロン前駆体(系列)細胞を誘導するための細胞培養法:ヒト多能性幹細胞をSB431542およびLDN-193189と接触させることにより、ニューロン系列細胞が生産された。
【0156】
以下の実施例は、本発明の開発の間に使用するニューロン系列の細胞を提供するための例示的な方法を述べる。
【0157】
二重SMAD阻害は、以前にhPSCからある1種のニューロン系列細胞を誘導するための迅速で極めて有効な方法として使用された(参照により本明細書に組み込まれる、Chambersら、Nat Biotechnol 27(2009))。ノギンを含む分子によって誘導されたこれらのニューロン系列細胞は、中枢神経系細胞、すなわち神経細胞運命への発生を可能にするデフォルト経路を有していた。補足試験は、ノギンの代わりに低分子ドルソモルフィン(DM)を使用することにより、少なくとも一部には類似の細胞が生産されるが、培養物の一貫性(consistency)に差があることを報告した(参照により本明細書に組み込まれる、Kimら、Robust enhancement of neural differentiation from human
ES and iPS cells regardless of their innate difference in differentiation propensity.Stem Cell Rev 6,270-281(2010);Zhouら、High-Efficiency Induction of Neural Conversion in hESCs and hiPSCs with a Single Chemical Inhibitor of TGF-beta Superfamily Receptors.Stem Cells,504(2010))。
【0158】
発明者は、LDN処理細胞と同じ発生段階、同じマーカーの大部分の発現、および様々なニューロン系列を作製する類似の発生可能性の能力を示すにも関わらずノギンを用いて生成された細胞は、LDNを用いて誘導された神経細胞と比較して、前後軸において前方であること(すなわちより前脳、より多くの細胞がFOXG1を発現する等)などの相違も示すことを認めた。そこで、数あるシグナル伝達経路の中でも特にBMPを阻害するためにノギンの代わりにLDNを使用したが、ノギンとLDNは、BMPを阻害すること以外に、異なる他の種類の活性を有すると考えられる。
【0159】
一部にはノギンを使用することの高コストのゆえに、発明者は、BMPインヒビターの使用が神経細胞運命の細胞を生産する際にノギンの代わりになり得ると考えた。そのため、hPSCから原始神経外胚葉、神経細胞運命を有する細胞、すなわちCNS細胞を生成するために、SB431542と組み合わせて、低分子BMPインヒビター、LDN-193189(参照により本明細書に組み込まれる、Yuら、Nat Med 14,1363-1369(2008))を使用し、本発明の開発の間にノギンに取って代わることを認めた(図2A)。この組合せ処理を、これら2つのインヒビターLDN-193189とSB431542の組合せに関してLSBと称した。
【0160】
一般に、細胞分化は、SMADシグナル伝達の二重阻害で高集密度単層のhESまたはhiPSを処理することによって開始された。好ましい実施形態は、50%~100%の集密度パーセンテージを利用し、最も好ましい実施形態は70%~80%の集密度を利用する。本発明の好ましい集密度を達成するために必要な初期平板培養密度が、細胞型、大きさ、平板培養効率、生存率、接着および当業者の側に過度の実験を課すことなく経験的に決定することができる他のパラメータに依存することは当業者に明らかである。SMADの二重阻害は、ノギン、SB431542、LDN193189、ドルソモルフィン、またはTGFβ、BMPおよびアクチビン/ノーダルシグナル伝達をブロックする他の分子を含む様々な化合物を用いて達成できる。好ましい実施形態は、SB431542およびLDN193189(集合的にLSB)を、0.1μM~250μM、より好ましくは1~25μM、最も好ましくは10μMのSB431542および10~5000nM、最も好ましくは100~500nMのLDN193189の濃度で含む組成物を利用する。
【0161】
II.定方向性分化における使用のための化合物:本発明のニューロン系列細胞を使用して低分子をスクリーニングすることにより、定方向性分化における使用のための低いPAX6および高いTUJ1ニューロン細胞を生じる化合物がもたらされた。
【0162】
以下の実施例は、定方向性分化における使用のための低分子候補化合物をスクリーニングするために実施例IIからのニューロン系列の例示的細胞を使用することを述べる。
【0163】
具体的には、二重SMAD阻害(LSB)に関連して、すなわちヒトES細胞を、約400の条件下で候補化合物(すなわち低分子)をスクリーニングするために(ヒトES細胞から出発する有糸分裂後ニューロンマーカーの獲得を加速し得る低分子の組合せを見出すため)、最初にLSB(LDN-193189およびSB431542)で処理した。CNSに発生することができる細胞を決定するために細胞運命を決定するために、発生試験において重要であることが公知であり、しばしば使用される細胞シグナル伝達経路(例えばFGF、ノッチ、WNT、SHH(ソニック・ヘッジホッグ)等のようなシグナル伝達経路)を標的とする(変化させる)分子から候補化合物を選択した。一例として、4種のインヒビター(すなわちSU/DAPT/CHIR/シクロパミン)をLSB処理からの異なる日に異なる組合せで試験した(細胞培地中の細胞に供給した)。各々の処理を、次に、10日目にTUJ1/PAX6発現に関してスクリーニングした。処理条件の一例として、LSBを毎日供給し、4日目から10日目まで毎日CHIRおよびSUを培地に添加して細胞に供給した。
【0164】
一般に、スクリーニング処理の結果は、死細胞を含む多数の培養物を生じさせた。言い換えると、このスクリーニングにおける生存可能な培養条件は、非生存可能条件(すなわち細胞死)よりもはるかに低い頻度であることが分かった(例えばSU/DAPTを初期培養物に、すなわち2日目より前に添加した場合)。発明者は、CNS幹細胞は生存のためにFGFシグナル伝達およびγセクレターゼ活性/ノッチシグナル伝達に依存し、そのためCHIRが存在しない場合、SU/DAPTが細胞をCNSから神経堤に切り替わるように誘導したとき、切り替わるのではなく、細胞が死亡したと考えた。
【0165】
LSBの添加後10日目に、スクリーニングの間生存した細胞をヒト神経外胚葉マーカーPAX6(参照により本明細書に組み込まれる、Zhangら、Cell Stem Cell 7,90-100(2010))の喪失およびTUJ1発現によるニューロン分化の開始(参照により本明細書に組み込まれる、Leeら、Cell Motil Cytoskeleton 17,118-132(1990))に関して観察した。細胞を、免疫蛍光(immunoF)により、ニューロン(TUJ1+)に関して染色し、PX6のC末端に結合する抗体を使用して神経外胚葉の喪失(より少ないPAX6+細胞の観察)に関して染色した。このスクリーニングをインヒビターの数多くの組合せ(例えばSU、SU/DAPT、SU/DAPT/CHIR、DAPT/CHIR、SU/CHIR、SU/シクロパミン等)で実施し、それらを組合せの日(例えば0~10日目、1~10日目、2~10日目、3~10日目等)に様々な毎日の供給物に添加した。一般に、最も高い量のTUJ1+/PAX6-染色を示す条件および化合物を、さらなる分析のための細胞を提供することについての成功として選択するために、各々の処理によって生成された細胞のTUJ1+/PAX6-染色の相対的な量を観察することによって結果を決定した。細胞の免疫染色によりTUJ1+/PAX6-である細胞を生産するためのスクリーニング試験において失敗とみなされた低分子の一例はシクロパミンであった。シクロパミンは、それをいつ添加した場合でも、TUJ1/PAX6染色を生じさせることに関して細胞に影響を及ぼさないと思われた。言い換えると、細胞形態は、免疫蛍光により10日目にLSB単独で処理した細胞と同様のままであった(すなわち>90%PAX6+および<10%TUJ1+)。
【0166】
しかし、スクリーニングの間に、発明者は、LSB処理の2日目に添加した3つの低分子の特定の組合せ(SU5402、CHIR99021およびDAPT;3つのインヒビターについて3iと称する)が(図6AおよびB)、分化の10日目にhPSCにおいてPAX6発現を無くし、TUJ1を誘導することを発見した(図2AおよびB)。LSB処理の2日目において処理細胞はまだ、神経細胞運命を有することまたは神経細胞運命へと発生する能力を有することに関して不明であったので、これは驚くべき発見であった。その代わりに、3i処理は細胞を神経細胞運命から離れて神経堤細胞へと向かわせ、それらは本発明の侵害受容器細胞へとさらに分化した。
【0167】
次に、いずれのシグナル伝達経路がPAX6+TUJ1-ヒトES細胞集団をPAX6-TUJ1+集団に変換することに関与すると考えられるかを見出すために、これらの低分子の各々に関する機能を検討した。最初に、SU5402は、VEGF、FGFおよびPDGFチロシンキナーゼシグナル伝達の強力なインヒビターと報告された(参照により本明細書に組み込まれる、Sunら、J Med Chem 42,5120-5130(1999))。そこで一般に、低分子の少なくとも1つはFGFRシグナル伝達経路を阻害することに関与すると考えられた。第二に、CHIR99021は、GSK-3βの選択的阻害(β-カテニンを安定化する)によるWNTアゴニストと報告された(参照により本明細書に組み込まれる、Bennettら、J Biol Chem 277,30998-31004(2002))。そこで一般に、低分子の少なくとも1つはグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)を阻害することに関与すると考えられた。1つの実施形態では、この低分子は選択的に、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)阻害などを介して、WNTシグナル伝達経路の少なくとも1つを活性化することができる。そして第三に、DAPTは、ノッチシグナル伝達をブロックすることができるγセクレターゼインヒビターと報告された(参照により本明細書に組み込まれる、Doveyら、J Neurochem 76,173-181(2001))。そこで一般に、低分子の少なくとも1つは少なくとも1つのノッチシグナル伝達経路を阻害することに関与すると考えられた。そこで1つの実施形態では、低分子の1つは非選択的または汎ノッチインヒビター(pan-Notch inhibitor)と考えられた。別の実施形態では、インヒビターの1つは、少なくとも1つのノッチシグナル伝達経路をブロックすることができる、γセクレターゼ分子のインヒビターである。それゆえ、1つの例示的な実施形態では、インヒビターの組合せは、本発明のPAX6-TUJ1+ヒトニューロン細胞を生産するために、FGFRシグナル伝達経路を阻害することに関与する少なくとも1つの低分子、少なくとも1つのノッチシグナル伝達経路を阻害することに関与する少なくとも1つの低分子、およびWNTシグナル伝達経路の少なくとも1つを活性化しつつGSK3βを阻害することに関与する少なくとも1つの低分子を含む。さらなる実施形態では、インヒビターの1つは、ノッチシグナル伝達経路中の少なくとも1つのγセクレターゼ分子をブロックすることができた。
【0168】
A.LSB-3i:FGFおよびノッチシグナル伝達の2つのインヒビターとWntシグナル伝達のアクチベーターとの組合せはTUJ1+ニューロン細胞を生産した。
【0169】
FGFおよびノッチシグナル伝達のインヒビターおよびWntシグナル伝達のアクチベーターを、LSB処理の開始の約2、3、4、5、6または7日後に添加した。FGFシグナル伝達の阻害は、SU5402、PD-161570、PD-173074、スラミンまたはFGFシグナル伝達経路をブロックする他の分子を含む様々な化合物を用いて達成することができる。ノッチシグナル伝達の阻害は、DAPT、L-685,458、化合物E、MK0752またはノッチシグナル伝達経路をブロックする他の分子を含む様々な化合物を用いて達成できる。
【0170】
Wntシグナル伝達の活性化は、CHIR99021、LiCl、TDZD-8、組換えWntまたはWntシグナル伝達経路を活性化する他の分子を含む様々な化合物を用いて達成できる。好ましい実施形態は、CHIR99021、DAPTおよびSU5402(集合的に3i)を、0.3~100μM、より好ましくは3~10μM、最も好ましくは3μMのCHIR99021;1~100μM、最も好ましくは10μMのDAPT;および0.5~200μM、より好ましくは5~20μM、最も好ましくは10μMのSU5402の濃度で含む組成物を利用する。
【0171】
LSBと3iの組合せで処理した幹細胞を11日目に固定し、生存率とニューロンマーカーTUJ1の発現に関して検査した。LSB処理の2日目に3iで処理しておいた集団は、最も高い生存率ならびにニューロンマーカーTUJ1の高発現を生じたが、LSB処理の5日後に3iで処理しておいた集団は、細胞毒性および細胞死を示した(図6A)。驚くべきことに、LSB処理後2日目に、細胞集団は、Oct4の発現が高いのでまだ前駆体様のままである(図6B)。LSB処理後6日目になってから、神経拘束(neural commitment)マーカーPax6が発現される;しかし3iでの6日目の処理は細胞毒性をもたらし、それによりLSBと3i処理の組合せによって誘導されたニューロン集団は多能性幹細胞から直接分化しており、ニューロン中間体からではないことを指示する。それゆえ、3iでの処理の好ましい実施形態はLSB処理後1~4日目の間であり、3iでの処理の最も好ましい実施形態はLSB処理後2日目である。加えて、3i組成物の3つの成分すべてが分化ニューロンの最大収率のために必要である(図2E)。
【0172】
TUJ1+ニューロン細胞は細胞増殖マーカーの発現の喪失を示す。
【0173】
以下の実施例は、TUJ1+ニューロン細胞の成熟(細胞周期)段階を決定するための例示的な方法を述べる。
【0174】
成熟後、培養下で生産されたニューロンは有糸分裂を受けることを停止し、それぞれ細胞増殖(参照により本明細書に組み込まれる、Gerdesら、Int J Cancer 31,13-20(1983))および有糸分裂のG2/M期(参照により本明細書に組み込まれる、Hendzelら、Chromosoma 106,348-360(1997))のマーカーであるKi67およびホスホヒストンH3(PHH3)を喪失した。それゆえ、3iと組み合わせたLSB(すなわちLSB3i)を使用して生産された細胞をより低い密度、約10~100,000細胞/cmに継代し、個々の細胞において、発現をより良好に評価するために固定した後、細胞増殖マーカーKi67およびホスホヒストンH3(PHH3)に関して試験した。特に、Ki67の発現は増殖の良好な予測因子であることが公知であった。そこで、3i化合物を伴わないLSB中で培養した細胞と比較して、12日後に、3iの存在下で培養された細胞では、より少ない細胞(それぞれ50%および16%)がKi67+およびpHH3+細胞を示した(図2C~F)。
【0175】
LSB/CHIR(CHIR99021:C)、SU/DAPT(SU5402/DAPT)、SU/CHIR(SU5402/CHIR99021)、DAPT、SU(SU5402)、CHIRに加えて、対照としてLSB単独と比較して、LSB3iを使用したニューロン分化の効率(パーセンテージ)を定量化するため、神経前駆体のマーカーであるネスチンおよびニューロン分化のマーカーであるβ3-チューブリン(TUJ1)についての細胞間FACS(intercellular FACS)染色を実施した(図2G)。LSB、SU/DAPT、DAPT、SUおよびCHIRの存在下では、大部分の細胞がネスチンを発現した。特に、LSB細胞集団の>95%がネスチン+であった。数多くの細胞が二重SMAD阻害後にネスチン染色を示したが定量化されず、一方より長期間、すなわち19日間培養した細胞はTUJ1+ニューロンを示し、これらの細胞の大部分が、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)を共発現し、このことは、潜在的なドーパミン作動性ニューロンを同定する(参照により本明細書に組み込まれる、Chambersら、Nat Biotechnol 27(2009))。逆に、LSBに接触した細胞を2日後に3i化合物と接触させた場合、10日後に約25%の細胞がネスチンを発現し、約75%の細胞がTUJ1を発現して、短期間、すなわち19日未満の細胞培養後のニューロン細胞運命への効率的な変換を明らかにした。
【0176】
驚くべきことに、LSB処理、次いで2日後に細胞をCHIR99021およびDAPTまたはSUのいずれか1つと接触させることにより、細胞集団の50%をTUJ1+細胞へと分化させた。3つのインヒビターの各々をLSB処理後に単独で使用した場合、20%以下の細胞がTUJ1+であった。それゆえ、CHIR99021は、この細胞集団のTUJ1+ニューロン細胞への定方向性分化の鍵となる寄与因子であることが発見された。発明者は、ネスチン+TUJ1-細胞のネスチン-TUJ1+ニューロン細胞への定方向性分化が、FGF受容体経路またはノッチシグナル伝達経路内のγセクレターゼのいずれかを阻害することに加えて、WNTシグナル伝達経路の少なくとも1つを活性化しつつGSK3βを阻害することに依存すると考えた。さらに、3i化合物の添加は、さらに25%のネスチン-TUJ1+ニューロン細胞の変換を生じさせた。図2G参照。
【0177】
要約すると、LSB処理の2日後に3i処理する好ましい実施形態から誘導されるニューロン集団をさらに検討した。この集団は、LSB単独で処理した細胞と比較してニューロンマーカーTUJ1の高発現(図2A、B)ならびにKi67の喪失(図2C、D)を示した。Ki67の喪失は、有糸分裂後分化ニューロンの特徴である細胞周期中の細胞の減少を示す。加えて、FACS分析は、LSBと3iからなる好ましい組成物で処理した細胞集団の75%超がTUJ1を発現し、これに対してLSB単独で処理した集団の99%が前駆体マーカーであるネスチンを発現することを明らかにした(図2G)。
【0178】
LSB処理の2日後に3i処理する好ましい実施形態から誘導されるニューロン集団をさらに検討した。この集団は、LSB単独で処理した細胞と比較してニューロンマーカーTUJ1の高発現(図2A、B)ならびにKi67の喪失(図2C、D)を示した。Ki67の喪失は、有糸分裂後分化ニューロンの特徴である細胞周期中の細胞の減少を示す。加えて、FACS分析は、LSBと3iからなる好ましい組成物で処理した細胞集団の75%超がTUJ1を発現し、これに対してLSB単独で処理した集団の99%が前駆体マーカーであるネスチンを発現することを明らかにした(図2E)。
【0179】
B.TUJ1+ニューロン細胞はCNS細胞マーカーではなくPNS細胞マーカーを発現した。
【0180】
以下の実施例は、本発明の開発の間に生産されるTUJ1陽性ニューロンの種類を同定するための例示的な方法を述べる。
【0181】
LSB処理の2日後に3i処理する好ましい実施形態から得られるニューロンのサブタイプをさらに特性づけるため、TUJ1陽性集団を様々なニューロンサブタイプのマーカーに関して染色した。具体的には、二重SMAD阻害プロトコールは、FOXG1(フォークヘッドボックスタンパク質G1)を発現する前脳前部正体(anterior forebrain identity)に偏ったPAX6+神経上皮細胞を生成することが公知であった(参照により本明細書に組み込まれる、Chambersら、Nat Biotechnol 27(2009))。それゆえ、LSB3i処理後のニューロンサブタイプ正体を決定するために、細胞を10日目により低い密度、約10~100,000細胞/cmに継代し、12日目に一連のマーカー発現に関して評価した。
【0182】
予想されるニューロン型はCNS運命であったので、試験した初期マーカーの大部分はCNS型細胞の同定のためのものであった。実際に、LSB細胞はこのサブタイプ(PAX6、FOXG1陽性)がデフォルトであるので、CNS前脳ニューロンが予想された。驚くべきことに、PNS細胞のマーカーであるISL1の染色が見出される前に、CNSマーカーについて少なくとも12の陰性結果(例示的な10を以下に示す)が得られた。ISL1は、運動ニューロンおよび末梢感覚ニューロンによって発現される。BRN3A発現を試験し、LSB/3i細胞によって発現することを認めた。それゆえ、発明者は、末梢感覚ニューロンの発生を示すBRN3A+/ISL1+ニューロンを発見した。以下の表A参照。
【0183】
表A:以下の遺伝子/タンパク質のリストは、本明細書で述べるLDN/3i誘導分化を使用して、細胞に関して陽性である(発現される)と予想された数多くのCNS運命分子を示す。しかし、これらの結果は例示的なCNSマーカーの欠如を示し、前記結果は、PNS系列に関する潜在的マーカー、すなわちISL1およびBRN3Aのその後の観察によって支持された。
【0184】
【数1】
【0185】
驚くべきことに、ISL1およびBRN3Aの均一な発現(赤色/細胞内のより暗い領域)(図3AおよびB)が本発明のTUJ1+細胞(緑色/赤色染色に比べてより明るい細胞体)で認められた。ISL1およびBRN3Aは感覚ニューロンについての鍵となるマーカーである(そのすべてが参照により本明細書に組み込まれる、ISL1:Sunら、Nat Neurosci 11,1283-1293(2008);BRN3A:Gerreroら、Proc Natl Acad Sci USA 90,10841-10845(1993))。この発見は、LSB3i処理から生じるニューロンがCNS細胞ではなくPNSであることを示した。これらの結果は、CNS前脳ニューロンサブタイプ(PAX6+、FOXG1陽性)がデフォルトであるLSB細胞と対照的であった。先行技術の教示によれば、平板培養密度によって示される、処理の開始の際の幹細胞の高い集密度はCNS由来ニューロン集団を生じさせるはずであるので、これは極めて予想外の観察である。しかし、侵害受容器は神経堤細胞集団に由来し、神経堤細胞集団は、先行技術の教示によれば、平板培養密度によって示される、処理の開始の際の幹細胞の低い集密度に由来する。言い換えると、予想は、LSB処理の開始の時点で>20,000細胞/cmの多能性幹細胞という高い初期平板培養密度は拘束CNSニューロン集団を生じさせるというものであった。これに対し、神経堤細胞を生じさせるには約10,000細胞/cmという低い初期平板培養密度が必要であることは公知であった(その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Chambersら、Nature Biotech,2009(図4の下半分参照))。
【0186】
LSB処理の2日後に3i処理する好ましい実施形態から得られるニューロンのサブタイプをさらに特性づけるため、TUJ1陽性集団を様々なニューロンサブタイプのマーカーに関して染色した。この集団は、ISL1、BRN3A、RETおよびRUNX1の発現に関して陽性であった(図3A~D)。FACS分析は、これらのニューロンの60%超がNTRK1に関して陽性であることを明らかにした(図3E)。
【0187】
これらのマーカーは集合的に、ニューロン集団が末梢感覚ニューロン、特に侵害受容器であることを示す。先行技術の教示によれば、平板培養密度によって示される、処理の開始の際の幹細胞の高い集密度はCNS由来ニューロン集団を生じさせるはずであるので、これは極めて予想外の観察である。しかし、侵害受容器は神経堤細胞集団に由来し、神経堤細胞集団は、先行技術の教示によれば、平板培養密度によって示される、処理の開始の際の幹細胞の低い集密度に由来する。それゆえ、2日目の3i処理とLSBの組合せの好ましい実施形態は、神経堤由来集団、すなわち侵害受容器の予想外の形成を生じさせる。本発明の一般性を確立するため、発明者は、hiPSCを幹細胞の供給源として使用して、LSB処理の2日後に3i処理を組み合わせる本発明の好ましい実施形態を反復した。現行技術はhiPSCを生産する多くの方法を述べており、当業者に公知である。LSB、次いで2日目に3iで処理した、高集密度で平板培養したhiPSC細胞は、侵害受容器マーカーISL1、BRN3A、RETおよびRUNX1に関して陽性のニューロン細胞の形成をもたらす(図4A~D)。
【0188】
C.PNS TUJ1+ニューロン細胞は侵害受容器-ペプチド作動性細胞マーカーを発現した。
【0189】
以下の実施例は、本明細書で述べる方法を用いていずれの型の末梢神経系(PNS)ニューロンが生産されたかを決定するための例示的な方法の使用を述べる。
【0190】
本明細書で述べる方法によっていずれの型のPNSニューロンが生産されるかは、感覚ニューロンおよび運動ニューロンなどのいくつかの種類の候補ニューロンが存在し、さらに固有受容器細胞、機械的受容器(mechanoceptor)細胞および侵害受容器細胞を含むPNS中の公知の感覚ニューロンの少なくとも3つの主要なサブセットが存在するので、不明であった。
【0191】
発生の間、初期段階の侵害受容器はペプチド作動性および非ペプチド作動性の両方であり、独自にNTRK1、RUNX1を発現し、次いでRETを発現した(RETに関する情報の例については、参照により本明細書に組み込まれる、Woolfら、Neuron
55,353-364(2007)参照)。TUJ1+ニューロンを含む2連の初期段階LSB3i培養物をRET発現に関して試験し(図3C)、このマーカーに関して陽性であることが見出され(TUJ1+染色(緑色/RET染色と比較してより明るい細胞体)および挿入されたRETの箱内のより明るい染色領域と比較して、赤色/大きい方の箱の細胞内のより暗い領域)(図3D)、また10日目にFACSによって測定した場合、培養下のすべての細胞の60%超がNTRK1を発現した(図3E)。
【0192】
要約すると、この集団はISL1、BRN3A、RETおよびRUNX1の発現に関して陽性であり(図3A~D)、初期段階侵害受容器(ペプチド作動性および非ペプチド作動性の両方)の産生を指示した。FACS分析は、これらのニューロンの60%超がNTRK1に関して陽性であることを明らかにした(図3E)。これらのマーカーは集合的に、ニューロン集団が末梢感覚ニューロン、特に侵害受容器であることを示す。
【0193】
それゆえ、2日目の3i処理とLSBの組合せの好ましい実施形態は、神経堤由来集団、すなわち侵害受容器の予想外の形成を生じさせる。
【0194】
さらに、発明者は、LSB/3i処理によって得られた細胞が神経堤へと移行し、CNS運命に分化する代わりにニューロゲニン1(NEUROG1)を一過性に発現するという本明細書で述べた観察に加えて、初期免疫蛍光結果、すなわちBRN3A+、ISL1+、アレイデータ、すなわちTAC1(サブスタンスP)発現を含む、いくつかの試験からの情報を組み合わせ、次にNTRK1マーカーを選択し、NTRK1+細胞を見出した。そこで、発明者は、生じるPNS細胞がおそらくペプチド作動性侵害受容器である可能性が高いと考えた。
【0195】
D.LSB3iはPNS TUJ1+侵害受容器-ペプチド作動性ニューロン細胞を再現可能に誘導した。
【0196】
以下の実施例は、再現性を決定するために本発明の例示的な方法を使用することを述べる。
【0197】
本発明の一般性を確立するため、発明者は、hiPSCを幹細胞の供給源として使用して、LSB処理の2日後に3i処理を組み合わせる本発明の好ましい実施形態を反復した。LSB3i処理の再現性を、誘導多能性幹細胞(hiPSC)系を含むさらなるhPSC系にわたって評価した。現行技術はhiPSCを生産する多くの方法を述べており、当業者に公知である。特に、Oct4(オクタマー結合転写因子4)、Sox2(SRY(性決定領域Y)ボックス2)、Klf4(クルッペル様因子4)およびc-Myc(転写因子p64)などの遺伝子を挿入することによって作製される2つのhiPSC系(C14およびC72)を使用して、効率的に神経化できる(neuralize)ことが示された(参照により本明細書に組み込まれる、Papapetrouら、Proc Natl Acad Sci.,USA 106(2009)参照)。
【0198】
次にPAX6発現をImmunoFによって検査した。C14およびC72細胞系のLSBおよびLSB3i処理は、図3A~Dに示すヒト細胞系と比較した場合、類似のニューロン染色結果を示した。上記で述べたように、ISL1、BRN3A、RET、RUNX1およびTUJ1に関して、例示的なC14染色結果を図4A~Dに示し、例示的なC72染色結果を図8A~Dに示す。
【0199】
C14およびC72細胞系のLSB処理はネスチン陽性細胞を均一に生じさせ(処理細胞集団の>95%)、FACSによって測定されるようにLSB3iの組合せで処理したときTUJ1+細胞を形成することができた(C14については40%およびC72については33%;図4E)。これらの結果を、図4EにおいてLSBおよびLSB3i結果に関して示される、LSBおよびLSB3iで処理したH9細胞系(すなわちhESC系)と比較した。さらに一層高いニューロン収率が(FACSによって測定された40%および33%から、NTRK1に関して選別した場合核染色の>90%がニューロンである)、NTRK1(神経栄養因子チロシンキナーゼ受容体1型)マーカー発現に関して選別した後バルク培養物を、N2培地を含むMatrigel(商標)でコートした培養容器に継代したとき、これら2つのhiPSC系において得られた。細胞をアキュターゼで解離させ、N2に再懸濁して、APC結合NTRK1抗体(R&D)と共に氷上で15分間インキュベートし、洗浄して、FACSのためにN2に再懸濁した。選別後、細胞をN2培地で24時間培養し、適切に固定した。細胞を収集し、BRN3A、ISL1、TUJ1およびDAPIに関して染色した。特に、代表的なNTRK1+LSB3i処理細胞集団におけるわずかなネスチン+細胞と比較して、LSB3i処理細胞からはC14およびC72両方のNTRK1-細胞に関して数多くのネスチン+細胞(赤色/暗染色)が示される(図9)。さらに、わずかなC14 NTRK1-細胞がTUJ1細胞系を発現したが、C27はより高い数のNTRK1-TUJ1+(緑色;鮮やかな染色)を示した。両細胞系は、DAPI(青色;明るい核)染色によって同定される細胞体と比較して認められるように、高い数のネスチン-TUJ1+細胞を示した。
【0200】
要約すると、LSB、次いで2日目に3iで処理し、高集密度で平板培養したhiPSC細胞は、侵害受容器マーカーISL1、BRN3A、RETおよびRUNX1に関して陽性のニューロン細胞の形成を生じさせた(図4A~D、図8A~Dおよび図9)。
【0201】
この低分子組合せアプローチを用いて、安定な成熟ニューロン細胞運命がhPSCから分化することができる速度は(図4)、最も驚くべき観察である。成熟ニューロン表現型の生成のための10~15日間という時間枠は、ヒト発生の間の侵害受容器出現の推定(30~50日間)(参照により本明細書に組み込まれる、Kitaoら、J Comp Neurol 371,249-257(1996))と比較してはるかに加速されている。ISL1およびBRN3Aの上方調節は、5日目から7日目の間に始まる、SOX10の発現と共存する。3iを添加する最適時点は二重SMAD阻害の2日目であり、2日目のソニック・ヘッジホッグでの処理がFOXA2発現およびヒト底板分化を促進するうえで最も有効であるという発明者の研究室からの以前の観察を反映する(参照により本明細書に組み込まれる、Fasanoら、Cell Stem Cell 6,336-347(2010))。これは、神経パターン形成がOCT4タンパク質発現の喪失に先だって起こり得ること、およびOCT4タンパク質の存在は前パターン形成事象を制限しないと思われることを示唆する。神経堤由来感覚ニューロンの誘導におけるCHIR99021の重要な役割は、おそらく、初期神経堤特異化において必須であることが公知であり(参照により本明細書に組み込まれる、Dorskyら、Nature 396,370-373(1998))、ナイーブ神経堤前駆体を感覚ニューロン系列へと指示することができる(参照により本明細書に組み込まれる、Leeら、Science 303,1020-1023(2004))、標準的なWNTシグナル伝達の活性化に関連する。
【0202】
マウス細胞の転写因子に基づく系列再プログラム化は、線維芽細胞から直接ニューロンを誘導する手段としてそれに値する注目を集めており(参照により本明細書に組み込まれる、Vierbuchenら、Nature 463,1035-1041(2010))、いつかはこの方法がヒト細胞で使用されるかもしれない。本明細書で示すデータは、LSB3iがヒト有糸分裂後ニューロンを速やかに誘導できることを明らかにした。LSB3iを含む方法を使用することの重要な利点の一部は、ヒト前駆体細胞、すなわちPSCからのヒト有糸分裂後ニューロンの生産の速度と効率であった。さらに、このプロトコールは、遺伝子操作または継代などの機械的介入処置を必要とせず、単一培養工程で10日以内に高度に富化されたニューロンの集団を生じさせた。
【0203】
LSB3iはまた、hPSCにおける系列特異化を駆動するためのコンビナトリアル低分子スクリーニングの使用の最初の例の1つである。発生決定点で繰り返し使用される発生経路の限られた数を考慮すると(参照により本明細書に組み込まれる、Brivanlouら、Science 295,813-818(2002))、本明細書で述べるアプローチはヒト多能性系列を特異化するために一般的に適用できるはずである。LSB3iで使用される5つの低分子の大部分は公知のシグナル伝達経路インヒビターであり、内因性シグナル伝達経路の抑制がhPSC運命を指示するうえで特に有効であることを示す。低分子を使用する場合、低分子がしばしば意図されないかまたは予想外の結果を生じさせる、オフターゲット効果は重要な考慮すべき事項であるが、本発明の開発の間に得られたデータは、この特定の発明において、内因性シグナル伝達経路の低分子組合せ阻害が、hPSC細胞運命を調節するための効率的で、非遺伝的な(DNAコード配列の変化なし)、種を超える、コスト効果的で、迅速な、かつ可逆的な手段を提供することを明らかにした。
【0204】
III.LSB-C:CHIR99021はLSB3i侵害受容器の生成のために必要であり、分化を神経堤幹細胞へと向かわせることが発見された。
【0205】
本発明の開発の間に、発明者は、LSB接触細胞が、LSB処理後2日目にCHR/SUまたはCHR/DAPTと接触した場合、高い数で侵害受容器へと分化するように指示され得るが、SU/DAPTではそれが起こらないことを発見した。さらに検討したとき、発明者は、驚くべきことにLSB-C、CHIRと接触したLSB処理細胞が神経堤幹細胞集団を生じさせることを発見した。
【0206】
A.CHIR99021(C)はLSB培養細胞(すなわちLSB-C)からニューロン分化を誘導するための鍵となる因子である。
【0207】
以下の実施例は、定方向性ニューロン分化を誘導するための各々の化合物の効果を試験するために例示的方法を使用することを述べる。
【0208】
実施例IIIのTUJ1+細胞の誘導に関連することが認められた各々の化合物の充足度に関する機構的な洞察を得るために、3i化合物の特定の組合せを、細胞間FACSを用いて測定されるネスチンおよびTUJ1の細胞発現を誘導することに関して試験した(図1Gに示す)。ネスチンをLSBニューロン系列細胞のマーカーとして使用し、下流の(すなわちより分化した)ニューロン細胞を同定するためにTUJ1を使用した。
【0209】
個々の因子のいずれもが高い数(60%超)のTUJ1+ニューロンを生じなかったが、その他の2つのシグナル阻害因子のいずれか1つと組み合わせたCHIR99021は、中等度の数のTUJ1+ニューロン(DAPTに関しては53%およびSU5402 に関しては58%)を生成することができた。これらのデータは、本明細書で使用した試験条件下で、CHIR99021がニューロン分化を加速するための鍵となる因子であり、SU5402およびDAPTは重要な、しかし付加的な刺激を提供したことを示す。
【0210】
加えて、3i組成物の3つの成分すべてが分化ニューロンの最大収率のために必要である(図2G)。
【0211】
B.CHIRとさらに接触した(D2)LSB接触細胞(D0)から神経堤幹細胞が誘導された。
【0212】
発明者は、これらのそれぞれのインヒビターの早期回収を使用した実験を介して、BMPシグナル伝達およびTGFβシグナル伝達が神経堤誘導のために最適化されることを認めた。次に、低分子GSK3βインヒビター(CHIR99021)を使用して、GSK3β阻害と共にWntシグナル伝達が活性化された。そこで発明者は、狭いウインドウ(2日目)のWntシグナル伝達が二重SMAD阻害プロトコールに関連して神経堤誘導を支配することを認めた。これら3つの経路についての最適化シグナル伝達を組み合わせた修正二重SMAD阻害プロトコール(LSB-C)は、集団の65%までにおいてSox10::GFPを発現する神経堤の誘導を増強した。
【0213】
IV.LSB3iおよびLSB-C誘導の人工SOX10+細胞は侵害受容器細胞を生産することができる。
【0214】
以下の実施例は、操作されたSox10+GFP発現ヒト細胞の定方向性分化のために本発明の例示的な方法を使用することを述べる。
【0215】
侵害受容器細胞は、ヒト発生の間に2種類の細胞中間体から生じると考えられる:具体的には、SOX10+ニワトリ胚神経堤細胞は脊髄に隣接する体幹侵害受容器細胞を生成できることが認められた(参照により本明細書に組み込まれる、Georgeら、Nat
Neurosci 10:1287-1293(2007))。加えて、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の頭部プラコード組織は、顔面組織中の三叉神経侵害受容器細胞集団に寄与した(参照により本明細書に組み込まれる、Schlosserら、J Comp Neurol 418:121-146(2000);Schlosserら、Dev Biol 294:303-351(2006))。
【0216】
そこで、ヒト細胞においてSOX10によって示される神経堤中間体細胞運命(参照により本明細書に組み込まれる、Aokiら、Dev Biol 259,19-33(2003);Leeら、Nat Biotechnol 25,1468-1475(2007))が、トランスジェニックSOX10::GFP細菌人工染色体(BAC)hPSC系を使用して分化の間に認められるかどうかを決定するために、以前に報告された方法(参照により本明細書に組み込まれる、Placantonakisら、Stem Cells 27:521-532(2009))を用いて、GFP遺伝子と共発現する富化された神経堤遺伝子マーカーを伴った、このSOX10::GFP(BAC)細胞系を生成した。SOX10:GFP細胞系はH9 hESC系のサブクローンであった。細胞を解離させ、Amaxaからの試薬(溶液V)、プロトコール(B-16)および装置を用いて遺伝子送達を実施した。ヌクレオフェクトした(nucleofected)(核にトランスフェクトした)DNAは、Gene Expression Nervous System Atlas[GENSAT](アクセッション番号:GENSAT1-BX1086)から入手した、挿入されたGFPとSOX10遺伝子を含む細菌人工染色体(BAC)であった。次にBACを、pL452プラスミドから切り出した選択カセットからGENSAT BACへのcre/LoxP組換えを使用して、選択のためにネオマイシン耐性遺伝子を含むように改変した(参照により本明細書に組み込まれる、Tomishimaら、Stem cells 25(1):39-45.Epub 2006 Sep 21(2007)参照)。遺伝子送達後、hESCを、ネオマイシン耐性選択のためにG418の存在下で単細胞として接種し、クローンを手操作で採取して、分化後にGFPの存在に関してスクリーニングした。qRT-PCRによりGFP細胞を選別してSOX10および他の神経堤マーカーの発現を確認した。
【0217】
2つの付加的な2連の試料を各々LSBの1つと接触させ、次にCHIR99021(LSB/C)またはLSBと3iに接触させて、LSBで分化を開始させた後4、8、12および16日目に、GFP発現をFACS同定およびSOX10::GFP+細胞の選別によって測定した。
【0218】
CHIR99021が存在した場合は、培養下でこれらの処理細胞の70%超が、培養条件に応じて分化の12日目までにSOX10::GFP+になった(LSB/Cについては70%およびLSB3iについては80%;図5DおよびE)。この結果は、細胞の大部分が神経堤正体を発現することを示し、CHIR99021がLSB3i侵害受容器細胞の生成のために必要であるという発明者の観察を支持した。したがって、LSB3i処理細胞はLSB/C処理したhPSCと比較してより迅速に神経堤運命を獲得したので(図5DおよびE)、SU5402およびDAPTと接触させることに加えて、チロシン受容体キナーゼ受容体およびノッチシグナル伝達を阻害するこれらの低分子による組合せ阻害は、それぞれ、神経堤細胞運命を加速した。発明者は、CHIRは神経堤および感覚ニューロンを誘導し、SUは神経堤マーカー発現およびニューロン分化を加速すると考えた。最後に、発明者は、CHIRおよびSUと組み合わせたDAPTはニューロン分化を加速すると考えた。さらに、LSBと組み合わせたCHIR99021の使用、すなわちLSB/Cは、操作されたSOX::GFP細胞を読み出しとして使用した場合、12日から16日目までの間にLSB3iと比較して、60%超のネスチン-TUJl+ニューロン細胞の遅い変換速度を生じさせた。
【0219】
V.本明細書で述べる方法によって生産されたNTRK1+ヒト侵害受容器細胞はインサイチューラット侵害受容器細胞に類似した電気生理学的応答を示した。
【0220】
以下の実施例は、本明細書で述べる方法によって生産された侵害受容器細胞の機能的能力を決定するために本発明の例示的な方法を使用することを述べる。
【0221】
LSB3i由来ニューロンが本物の侵害受容器ニューロン細胞であることを確認するために、LSB3i処理細胞を機能、成熟段階および挙動に関して検査した。侵害受容器細胞を生じさせる多能性幹細胞のLSB3i処理が得られた後、10~100,000細胞/cmの平板培養密度から長期培養物を樹立し、ヒトβNGF、BDNFおよびGDNFを添加したN2培地での培養下で10日目、30日目に継代した(さらなる詳細については実施例I参照)。より長期の培養条件下でのこれらの細胞の生存率は、NTRK1+侵害受容器状態と対応して、NGF依存性であることが認められた。LSB3i侵害受容器は、グルタミン酸(図7C)に加えて、先に示したように高レベルのTUJ1、ISL1、BRN3A(図7A~C)を発現した。グルタミン酸産生は、興奮性グルタミン酸作動性ニューロン、すなわちグルタミン酸を放出する侵害受容求心性線維、および有害刺激についての重要なイオンチャネルであるカプサイシン受容体TRPV1(図7D)と一致した。培養下で15日目に2つの別個の成長突起を各々のニューロンについて同定することができた(図7E図12)。
【0222】
樹状突起マーカーMAP2は、主として、極性を有する形式(polarized fashion)において、2つの突起の一方において発現された(図7F)。ニューロンの双極性は、末梢神経節における感覚ニューロンの役割と一致し、細胞体は背根神経節に位置し、脊髄と末梢の両方に向けて突起を突き出す(参照により本明細書に組み込まれる、Woolfら、Neuron 55,353-364(2007);Georgeら、Nat Neurosci 10,1287-1293(2007))。
【0223】
神経成長因子(NGF)の存在下で、ニューロンを長期間培養した(例えば、細胞を10日目に継代し、30日目まで培養した)。LSBを5日目に細胞から回収し、10日目に3iを回収して、その日にNGF/GDNF/BDNFを培地に添加した。10日目から30日目までニューロンにNGF/GDNF/BDNFを供給した。初期LSB処理からの日数で30日目に、ニューロンは神経節様構造へと自己組織化し始めたことが認められた。このタイプの形態は末梢感覚ニューロンに共通する(参照により本明細書に組み込まれる、Marmigereら、Nat Rev Neurosci 8,114-127(2007))(図7G、HおよびI)。
【0224】
成熟侵害受容器は、典型的には、ペプチド作動性感覚ニューロンによって発現されるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)およびサブスタンスP(神経ペプチド)などの神経ペプチドの発現に依存して、ペプチド作動性または非ペプチド作動性のいずれかである(参照により本明細書に組み込まれる、Woolfら、Neuron 55,353-364(2007))。これに対し、非ペプチド作動性ニューロンはCGRPもサブスタンスPも発現せず、レクチンIBへの結合などの他のマーカーを有する。
【0225】
それゆえ、LSB3i誘導ニューロンを、FACSを用いて、NTRK1発現に関して(上記で述べた方法参照)、NTRK1+およびNTRK1-集団に選別した(選別細胞の例については図7G参照)。NTRK1+細胞はサブスタンスPおよびCGRPの両方に関して陽性であり、主としてペプチド作動性侵害受容器表現型を示した(図7HおよびI;分化の30日目)。
【0226】
感覚ニューロン正体の主要な機能的特徴(すなわち機能)は、それらの電気生理学的特性である(参照により本明細書に組み込まれる、Fangら、J Physiol 565,927-943(2005))。NTRK1+選別ニューロンを、培養ニューロンについての標準的な電気生理学技術によっても試験した(その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Placantonakisら、Stem Cells.2009,Figure 5に一例が示されている)。
【0227】
NTRK1+細胞は、電気生理学的特徴である、特徴的な単一活動電位(AP)、発火パターンを示し、平均膜静止電位は初期LSB3i処理後21日目までに67±4mVであった。LSB3iヒトニューロンにおいて生じるAPのタイミングおよび活動曲線の形状を図7J(太い赤線参照)および以下の表1に示す。これらの結果は、以前に一次麻酔成体ラット侵害受容器の電気生理学的報告において述べられたものと同様であった(参照により本明細書に組み込まれる、Fangら、J Physiol 565,927-943(2005))。
【0228】
【表1-1】
【0229】
VI.包括的な遺伝子発現分析は遺伝子発現の例示的な時期を示す。
【0230】
以下の実施例は、本明細書で述べる方法によって生産される侵害受容器細胞および他の細胞型の包括的な遺伝子発現を決定するための例示的な方法の使用を述べる。
【0231】
誘導分化過程の間の事象(すなわちマーカー発現)の時期をさらに特性づけるため、LSBおよびLSB3i処理した両方のhPSCに関して、包括的な遺伝子発現分析を精密時間分解能(fine temporal resolution)で実施した(2、3、5、7、9および15日目、NCBI Gene Expression Omnibus(GEO)アクセッション番号GSE26867)。神経外胚葉、神経堤、ニューロンおよび侵害受容器に関する選択マーカーを分析した場合(以下の表2参照)、各々について分化の異なる段階を認めることができた(図10)。
【0232】
【表2-1】
【0233】
この遺伝子発現分析(図10B、Cおよび上記表2)は免疫蛍光結果の大部分と一致した。例えば、遺伝子分析は、成熟中のニューロンにおいて、ISL1、POU4F1(BRN3A)、SOX10、TAC1(サブスタンスPのプロペプチド)、NTRK1およびグルタミン酸小胞輸送体VGLUT2遺伝子がすべて上方調節される(すなわち培養下の多くの細胞が経時的にこれらのマーカーの発現を増加させる)ことを示した。同時にこれらのマーカーは誘導細胞で増加することが認められたが、hESC由来の原始神経外胚葉についてのマーカー、特にDLK1、LHX2、OTX2、LEFTY2、PAX6およびHES5は下方調節される(すなわち培養下のより少数の細胞で発現される)ことが認められた。
【0234】
しかし、成熟侵害受容器で発現されると予想される、ソマトスタチン(SST)およびSOX10の発現が、15日目にLSB3i処理細胞培養物で認められた。しかし、SSTはまた、発生中の感覚ニューロンにおいても発現されることが示された。それゆえ、発明者は、このマーカーが15日目の未熟細胞の存在を示していると考えた。いくぶん下方調節されているが、SOX10の発現はまた、大部分の細胞がニューロンであると思われる時点でも観察された。SOX10は細胞がニューロンに分化するとともに下方調節されると予想されたので、この観察は意外であった。15日目の培養物の細胞におけるSSTおよびSOX10発現というこの予想外の発見から、すべての細胞が侵害受容器細胞になるわけではなく、約20~30%であると考えられた。これは、他の成熟細胞型(シュヴァン細胞など)がSOX10を発現し続けることを示した。
【0235】
二重SMAD阻害によって生産されるhESC由来の原始神経外胚葉細胞培養物は(各々が参照により本明細書に組み込まれる、Chambersら、Nat Biotechnol 27(2009);Fasanoら、Cell Stem Cell 6,336-347(2010))、DLK1、LHX2、OTX2、LEFTY2、PAX6およびHES5遺伝子の高発現を示した。同様に、hESC由来の原始神経外胚葉細胞培養物がLSBを用いた二重SMAD阻害によって生産された場合も、これらの遺伝子について類似の高発現が観察された(図10B、Cおよび以下の表3参照)。これらの遺伝子は、LSB3i処理の間は低減し、この間、本発明の開発において侵害受容器が生産された。
【0236】
【表3-1】
【0237】
加えて、時間的トランスクリプトーム分析は、機械的受容器細胞(mechanoceptor)および固有受容器細胞とは異なる、侵害受容器中間体細胞運命についてのさらなる証拠を提供した。ニューロゲニン塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックスタンパク質は、マウス発生の間に背根神経節における神経発生の2つの逐次的な波を媒介する(参照により本明細書に組み込まれる、Marmigereら、Nat Rev Neurosci 8,114-127(2007);Maら、Genes Dev 13,1717-1728(1999))。NEUROG2(ニューロゲニン2)によって示される最初の波は機械的受容器細胞および固有受容器細胞を生じさせ、NEUROG1(ニューロゲニン1)によって示される2番目の波は侵害受容器細胞を生じさせる。hPSCをLSBで処理した場合、NEUROG2発現は7日目までに強力に誘導される(図10Cおよび以下の表4)。これに対し、LSB3iで処理したhPSCは、7日目までにあまり顕著ではないNEUROG2の誘導を示すが、9日目までにNEUROG1の選択的誘導を示す(図10C)。
【0238】
【表4-1】
【0239】
VII.例示的な侵害受容器細胞を提供するために本発明の組成物および方法を用いて企図される大規模培養。
【0240】
以下の企図される説明は、本明細書で述べる方法によって生産される侵害受容器細胞の大規模生産のための例示的な方法および使用を示す。
【0241】
LSB3iを使用する、拡大可能な生成(すなわち比較的少数の細胞、例えば実施例、前出で述べるような48穴プレートの1.5×10細胞/穴、および企図される96穴プレートでの5×10細胞/穴を含む両培養物から、hPSC由来侵害受容器の大規模バッチ培養(例えば18 15cm皿のバッチで1×10~1×10細胞(約5.5×10細胞))まで、侵害受容器細胞を生成するための成功をおさめると考えられる方法)。これらの方法は、基礎生物学試験における使用のため、ならびにヒトおよび動物における医学適用に適用できる薬剤発見のために、化合物を試験する際に使用するためのhPSC由来侵害受容器細胞を提供することが企図される。特に、発明者は、ヒトおよび動物における急性および慢性疼痛を軽減する処置のために本発明の組成物および方法を使用することを企図する。
【0242】
特に、例示的な侵害受容器細胞、例えばペプチド作動性侵害受容器細胞を、7×10~7×10の例示的な非限定的範囲で(70%の効率の侵害受容器細胞収集が企図される)提供するために、本明細書で述べる培地および例示的化合物を使用して、例示的な1×10~1×10hPSC細胞をバッチ胚様体培養物において増殖させる大規模バッチ培養が企図される。例示的な侵害受容器細胞は、TAC1、VGLUT2およびSLC15A3などの侵害受容器細胞を同定する遺伝子(すなわちmRNAおよびタンパク質)を発現すると考えられる。例示的な侵害受容器細胞は、ISL1、BRN3A、RET、RUNX1、サブスタンスP、CGRP等のような同定マーカーを発現すると考えられる。
【0243】
要約すると、発明者は、基礎生物学ならびにヒトおよび動物において侵害受容器細胞に関連する状態、特に疼痛の試験および処置のための薬剤発見における、新規プラットフォームを提供するために本発明の組成物および方法を使用することを企図する。
【0244】
VIII.ヒト多能性幹細胞からのメラノサイトの誘導:LSB-Mel、LDN-193189、SB431542、CHIR99021、EDNR3およびBMP。
【0245】
メラノサイトは、主として表皮で認められる色素産生細胞であり、メラノサイトは表皮においてUV照射が誘導するDNA損傷に対する光防護バリアを確立する。メラノサイト生物学の欠損は、白皮症、白斑およびまだら症を含む多くの色素沈着障害に関連する。メラノサイトは悪性黒色腫の起源細胞である。しかし、これらの障害の理解/処置は、インビトロでのヒトメラノサイトの試験に適した実験系の欠如により限られている。
【0246】
本発明の開発の間に、ヒト多能性細胞の神経細胞前駆体および神経堤(NC)前駆体の両方への迅速で極めて効率的な分化を生じさせるプロトコールが発見された。皮膚メラノサイトは神経堤細胞前駆体に由来するので、発明者は、成熟メラノサイトへのメラノサイト系列に沿った分化を指示するためにLSB-C由来の神経堤細胞系列細胞を使用する方法を発見した。言い換えると、多能性ESC(胚性幹細胞)を神経堤前駆体細胞になるように誘導し(LSB-C)、それをメラノサイト前駆体になるように誘導して、次に分化メラノサイトになるように誘導した。この行程は、多能性ESCが神経堤前駆体を経て、より拘束されたメラノサイト前駆体に向かい、その後最終的に分化状態を確立する、メラノサイト系列に沿った連続的特異化(progressive specification)としてモデル化された(図16の、これらの段階の各々についての例示的なマーカーを示す概略図参照)。発明者は、メラノサイト発生の分子機構を同定するための新規アッセイにおけるこれらの定方向性分化メラノサイトの使用を企図する。特に、発明者は、患者特異的誘導多能性幹細胞(iPSC)を誘導するための最近確立されたアプローチと組み合わせて、これらの定方向性分化メラノサイトを使用するアッセイを企図する。この新規定方向性分化メラノサイトは、白皮症、白斑、まだら症、黒色腫および悪性黒色腫等を含む、ヒト疾患のメラノサイト関連モデルについてのアッセイを生み出すことが企図される。
【0247】
A.ヒトESCからの神経堤の誘導(メラノサイトを生産するための定方向性分化における第一工程)。
【0248】
メラノサイトは、神経外胚葉と非神経外胚葉との間の境界で原腸形成の間に生じる神経堤(NC)として知られる、脊椎動物に特有の細胞の一過性遊走集団から生じる。多分化能性神経堤は、一部には、NC細胞の解剖学的位置(軸レベル)によって決定される広範囲の誘導体に分化する。
【0249】
文献中の多大の証拠が、Wnt、BMPおよびTGFβシグナル伝達を早期神経堤特異化における重要要件として同定した。これらのうちで、後の2つの経路は二重SMAD阻害プロトコールの低分子処理によって能動的に阻害される。本明細書で述べるように、発明者は、BMPおよびTGFβシグナル伝達が、それらのそれぞれのインヒビターの早期回収を介して神経堤誘導のために最適化されることを発見した。さらに、本明細書で述べるように、後でWntシグナル伝達を活性化する、低分子GSK3βインヒビター(CHIR99021)の使用は、処理の2日目にLSB処理細胞に添加された場合、神経堤幹細胞マーカーを発現する集団を生産することが見出された。そこで、3つの経路すべてについて最適化されたシグナル伝達を組み合わせる修正二重SMAD阻害プロトコールをSox10::GFP細胞系に関して使用し、Sox10::GFPを発現する神経堤の誘導を集団の65%に増強することを認めた(LSB-C処理)。
【0250】
B.神経堤由来のメラニン芽細胞の系列特異化と単離。
【0251】
LSB-Cで誘導したSox10::GFPを発現するNCを、次に、メラノサイト系列に沿って分化する能力に関して試験した。Sox10::GFPおよび、メラノサイト系列において発現されるがメラノサイト系列に特有というわけではないマーカーである、MITFを共発現する細胞の同定を介して、推定上のメラノサイト前駆体の存在が修正分化プロトコール(LSB-C)の11日目に確認された(図13A)。
【0252】
これらの細胞集団の誘導をさらに最適化し、その後特定の型のメラノサイト前駆体を単離または精製するために、メラノサイト系列の同定を可能にする細胞表面マーカーが必要であった。文献の調査後、c-kitを推定上のメラノサイト前駆体についての候補マーカーとして同定した。Sox10::GFP+細胞において試験したc-kitのマーカーは、早期メラノサイトマーカーの発現が大きく富化された(図13C)、Sox10::GFP/c-kit共発現細胞の低いパーセンテージ(約9%)の存在を確認した(図13B)。分化プロトコールのさらなる最適化は、Sox10::GFP/c-kit二重陽性細胞の存在度(abundance)が、メラノサイト特異化に関与する2つの因子、BMP4およびエンドセリン3での付加的な処理(LSB-Mel、図13D~E)を介してほぼ4倍に増加したことを明らかにした。
【0253】
C.メラノサイトの増殖と成熟。
【0254】
発明者は、推定上のメラノサイト前駆体が選別後の培養下でわずか6日間の付加的な日数後に色素沈着状態に成熟できることを発見した(図14A~B)。驚くべきことに、発明者は、Sox10::GFP/c-kit二重陽性集団および2つのマーカーの各々についての単一陽性の集団の両方が、動態は異なるが、色素細胞を生じさせることを認め(図14C)、3つの集団の間の系列階層を示した(cKit+/SOX10-、cKit-/SOX10+、cKit+/SOX10+)。これら3つのメラノサイト系列細胞の同定は、メラノサイト系列に沿った分化中間体の単離を可能にすると考えられた。
【0255】
これらのメラノサイト前駆体細胞の使用により、成熟メラノサイト表現型を有する細胞を誘導し、支持することができる最適成熟条件が、そのような成熟を支持すると考えられる数多くの化合物を使用して同定された。評価したメラノサイトの特性には、紡錘形態、色素沈着およびメラノソーム形成の誘導が含まれた。
【0256】
発明者は、BMP4およびcAMPの培地への添加が成熟紡錘様形態および色素沈着を促進することを発見した(図14D)。成熟メラノサイトマーカーMITF、SOX10、Tyrp1およびHMB45の発現に基づき、SCF、EDN3、FGF、Wnt(CHIR)、BMP4およびcAMPを含む培地で細胞を8週間(長期)増殖させた場合、メラノサイトの純粋な培養物が得られた(図15A)。色素濃度を評価するために長期LSB-MEL細胞を遠心分離したとき、暗色ペレットが認められた(図15B)。成熟メラノサイトの電子顕微鏡超微細構造特性付けは、様々な発生段階において(図15D)、LSB-Mel由来メラノサイトの細胞質において多数の暗く色素沈着したメラノソームの存在を明らかにした(図15C)。
【0257】
D.メラノサイトはヒト多能性幹細胞から誘導される:LSB-メラノサイト(LSB-Mel)。
【0258】
以下は、関連疾患モデリングにおける使用のためのメラノサイトを提供するための例示的な組成物および方法を述べる。
【0259】
SOX10::GFP細菌人工染色体(BAC)ヒト胚性幹細胞(hESC)レポーター系を作製した。このことは、この細胞系が低分子との接触に応答する際のインビトロでの神経堤細胞誘導の観察を可能にした。Sox10は、多分化能性神経堤幹細胞の最も堅調な早期マーカーであり、メラノサイト前駆体を含む一部の神経堤誘導体においても発現されることが認められた。これまでの成熟スキームで得られるよりも高い純度と数でメラノサイト培養物を生産するために、このレポーター系を使用して、定方向性分化スキームの開発において神経堤集団を将来を見越して(prospectively)同定し、単離した(図14、LSB-C)。
【0260】
二重SMAD阻害プロトコール(参照により本明細書に組み込まれる、Chambersら、Nat.Biotech.(2009))において、SMADシグナル伝達を阻害する2つの低分子で処理したヒト多能性幹細胞(hPSC)は、CNS神経組織を効率的に生産した。加えてhESCをより低い密度で平板培養した場合、低レベルの自発的神経堤細胞誘導が認められた(例えば、約3%のSoxl0::GFP+神経堤型細胞が認められた)。しかし、研究における使用のためおよび医学的試験のためには、より多くの神経堤型細胞が必要であった。さらに、メラノサイト研究のためには、低レベルの自発的分化では提供されない、より多数の細胞を有するより純粋な集団が必要であった。
【0261】
本発明の開発の間に、発明者は、メラノサイト前駆体、成熟中のメラノサイトおよび成熟メラノサイトの高度に純粋な産物を生産するように、神経堤誘導のための二重SMAD阻害プロトコールを最適化する方法を発見した。
【0262】
具体的には、本発明のメラノサイトを生産する、以下の時系列の培養条件を開発した:0および1日目にLDNおよびSB(3iを含む方法におけるLDNおよびSBと同じ濃度範囲を使用する)を供給する;2日目にLDN、SB、CHIR(本明細書で述べる3iを含む方法におけるLDN、SBおよびCHIRと同じ濃度範囲を使用する)を供給する;1つの実施形態では、3日目にSB、CHIR(本明細書で述べる3iを含む方法におけるSBおよびCHIRと同じ濃度範囲を使用する)を供給し、別の実施形態では、3日目にLDN、SB、CHIR(本明細書で述べる3iを含む方法におけるLDN、SBおよびCHIRと同じ濃度範囲を使用する)を供給する;4日目および5日目にCHIR
(本明細書で述べる3iを含む方法におけるCHIRと同じ濃度範囲を使用する)を供給する;6日目から11日目までCHIR、BMP4およびEDN3(本明細書で述べる3iを含む方法におけるCHIRと同じ濃度範囲を使用し、BMP4およびEDN3については以下の濃度範囲参照)を供給する。11日目に細胞を継代し、8週間までMEL培地(CHIRを含む)を供給した。
【0263】
MEL培地は、メラノサイトに関して富化され、これにより、8週間までに細胞培養物は100%までの純粋な集団を示した。したがってこのLSB-MEL法/プロトコールは、メラノサイト生産の高い効率を有していた。発明者はまた、メラノサイトの発生の間、リノール酸がMEL培地中の少なくとも1つの必要成分であることを発見した(図16参照)。
【0264】
メラノサイトの発生の間に、多数の前駆体段階が以下の順序で認められた:神経堤幹細胞、胚性グリア-メラニン芽幹細胞、成体メラノサイト幹細胞、メラノサイト。図13の例示的な概略図参照。
【0265】
図13 メラノサイト前駆体/メラニン芽細胞の特異化と単離。
【0266】
11日目のLSB-Cプロトコールは、Soxl0::GFP、MITFを共発現するメラノサイト前駆体の誘導を支持した(A、右のパネル)。MITF単一陽性集団も認められた(A、左のパネル)。c-Kitはメラノサイト前駆体の潜在的マーカーとして同定された。LSB-C分化後に低いパーセンテージのSox10::GFP、c-kit共発現細胞が認められた(B、橙色集団)。qRT-PCR分析により、二重陽性集団においてメラノサイトマーカーMITFM(塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックスロイシンジッパータンパク質)およびDct(ドーパクロムトートメラーゼ(ドーパクロムδイソメラーゼ、チロシン関連タンパク質2))の富化が確認された(C)。BMP4およびEDN3での処理(「LSB-Mel」)は、Sox10::GFP、c-kit二重陽性の推定上のメラノサイト前駆体集団の誘導を増強した(D)。LSB-Mel処理後に単離されたSox10::GFP、c-kit二重陽性細胞は、有意により高いレベルのメラノサイトマーカーMITFMおよびDctを示した(E)。誤差バーはs.e.m.を示す。p<0.05。
【0267】
図14 メラノサイト前駆体の増殖と成熟。
【0268】
分化条件の要約(A)。BMP4およびEDN3を伴うLSB-C(LSB-Mel)条件での特異化後、細胞を11日目に選別し、再接種した。選別後(PS)細胞を、c-kitリガンド(SCF)、エンドセリン3(EDN3)、線維芽細胞増殖因子(FGF)およびWntアクチベーターを含む成熟培地に維持した。PS6日目に明視野顕微鏡検査によって認められた色素細胞は、メラノサイトマーカーMITFに関して陽性であったが、Sox10::GFPレポーターが下方調節されていると思われた(B)。Sox10::GFP、c-kit二重陰性を除くすべての集団が、最終的にMITF発現細胞および肉眼で見える色素クラスターを生じさせたが、その割合は異なっていた(C)。BMP4およびcAMPでの処理は、メラノサイトに特有の紡錘様形態を示す色素細胞への分化を増強した(D)。
【0269】
図15 成熟メラノサイトの特性付け。
【0270】
LSB-Melプロトコールで誘導した成熟メラノサイトの純粋な集団は、培養下で8週間超後にMITF、Sox10、Tyrp1(チロシナーゼ関連タンパク質1)およびHMB45を含む一般的なメラノサイトマーカーの発現を維持する(A)。メラノサイトは、継代の数週間にわたってそれらの暗く色素沈着した表現型を保持する(B)。色素沈着レベルを評価するために1×10細胞をペレット化し、写真撮影した。成熟メラノサイトの電子顕微鏡超微細構造特性付け(C、D)。LSB-Mel由来メラノサイトの細胞質中の数多くの暗く色素沈着したメラノソームの存在がTEMによって観察された(C)。メラノソーム小胞の段階IからIVへの成熟に伴うメラニン色素の存在および進行性沈着に注目されたい(D)。
【0271】
それゆえ、発明者は、二重SMAD阻害プロトコール、LSBが、ヒト胚性幹細胞からSoxl0::GFPを発現する神経堤集団を迅速かつ効率的に生成することを明らかにした。この修正プロトコールは、c-kit発現によって、将来を見越して同定され、単離される、低レベルのメラノサイト前駆体の誘導を支持した。これらの細胞の誘導は、BMP4およびEDN3での処理を介してさらに増強された。メラノサイト前駆体は、その後、BMP4およびcAMPの存在下でインビトロでさらに培養した後、色素沈着状態へと成熟した。
【0272】
【数2】
【0273】
R&DからのBMP4についての濃度範囲は10ng/ml~100ng/ml(1つの実施形態では25ng/ml)を使用し、American Peptide CompanyからのEDNは25~300nM(1つの実施形態では100nM)を使用する。
【0274】
図16 メラノサイトの増殖のためにリノール酸を必要とする、例示的なLSB-MEL培地処方物を示す。顕微鏡像の上に示す培地成分は、処方物から除外された培地成分である;Ph=位相差;BF=明視野。例示的な概略図は、本発明の細胞を同定するために使用したメラノサイト前駆体マーカーを示す。
【0275】
したがって発明者は、インビトロでの神経堤の誘導ための迅速で明確なプロトコールを発見し、開発した。さらに、発明者は、これらの細胞のメラノサイトへの定方向性分化のための組成物および方法を開発するために、インビトロでの神経堤細胞の誘導のためのこの迅速で明確なプロトコールを使用した。これらのメラノサイトは、長期培養およびユーメラニンの持続的生産のそれらの能力において独特であった。
【0276】
それゆえ、ヒト胚性幹細胞(hESC)からのメラノサイトの誘導は、メラノサイト疾患生物学のさらなる探求のための有益なツールを提供すると考えられる。
【0277】
実験
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態および態様を説明するための助けとなるものであり、その範囲を限定すると解釈されるべきではない。以下の実験の開示では、以下の略語を適用する:N(規定度);M(モル濃度);mM(ミリモル濃度);μM(マイクロモル濃度);mol(モル);mmol(ミリモル);μmol(マイクロモル);nmol(ナノモル);pmol(ピコモル);g(グラム);mg(ミリグラム);μg(マイクログラム);ng(ナノグラム);pg(ピコグラム);L(リットル);ml(ミリリットル);μl(マイクロリットル);cm(センチメートル);mm(ミリメートル);μm(マイクロメートル);nm(ナノメートル);U(単位);min(分);sおよびsec(秒);deg(度);pen(ペニシリン)、strep(ストレプトマイシン)ならびに℃ 10(セ氏温度/セルシウス度)。
【0278】
以下の処方物は、本発明の実施形態を開発する際に使用するための例示的な細胞培養培地を述べる。
【0279】
維持のためのhESC培地(1リットル):800mLのDMEM/F12、200mLのノックアウト血清代替物、5mLの200mM L-グルタミン、5mLのPen/Strep、10mLの10mM MEM最小非必須15アミノ酸溶液、55μMの13-メルカプトエタノールおよびbFGF(最終濃度は4ng/mLである)。
【0280】
hESC分化のためのKSR培地(1リットル):820mLのノックアウトDMEM、150mLのノックアウト血清代替物、10mLの200mM L-グルタミン、10mLのPen/Strep、10mLの10mM MEMおよび55μMの13-メルカプトエタノール。
【0281】
hESC分化のためのN2培地(1リットル):985mlの蒸留HOとDMEM/F12粉末、1.55gのグルコース(Sigma、カタログ番号G7021)、2.00gの重炭酸ナトリウム(Sigma、カタログ番号S5761)、プトレシン(100mLの蒸留水に溶解した1.61gの100μLアリコート;Sigma、カタログ番号P5780)、プロゲステロン(100mLの100%エタノールに溶解した0.032gの20μLアリコート;Sigma、カタログ番号P8783)、亜セレン酸ナトリウム(蒸留水中の0.5mM溶液の60μLアリコート;Bioshop Canada、カタログ番号SEL888)、および100mgのトランスフェリン(Celliance/Millipore、カタログ番号4452-01)、および10mLの5mM NaOH中の25mgのインスリン(Sigma、カタログ番号16634)。
【0282】
PMEF(初代マウス胚性線維芽細胞(PMEF)フィーダー細胞)を調製するための10%FBSを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(1リットル):885mLのDMEM、100mLのFBS、10mLのPen/Strepおよび5mLのL-グルタミン。
【0283】
MS-5フィーダー細胞培地を調製するための10%FBSを含むα最小必須培地(MEM)(1リットル):890mLのαMEM、100mLのFBS、10mLのPen/Strepゼラチン溶液(500ml):0.5gのゼラチンを500mlの温かい(50~60℃)Milli-Q水に溶解する。室温に冷却する。
【実施例0284】
(実施例I)
実験材料および方法
以下の実施例は、本発明の開発の間に使用される例示的な材料および方法を述べる。
【0285】
細胞および培養条件。ヒト胚性幹細胞(hESC)細胞(WA-09;32~50継代)およびhiPSC系(C14、C72;10~20継代)を、12~15,000細胞/cmで事前にプレートに入れておいた(pre-plate)マウス胚性線維芽細胞(MEF、Globalstem,Rockville,State of Maryland,United States of America(USA))と共に培養した。ヒト誘導多能性幹細胞(hiPSC)系を、報告されているように(参照により本明細書に組み込まれる、Papapetrouら、Proc Natl Acad Sci
USA 106(2009))生成した。ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)/F12、20%ノックアウト血清代替物、1mM L-グルタミン(Invitrogen,Carlsbad,State of California,USA)、100μM MEM非必須アミノ酸(Invitrogen)および0.1mM β-メルカプトエタノール(Invitrogen)を含む培地を作製した。6ng/mlの線維芽細胞増殖因子2(FGF-2、R&D Systems,Minneapolis,State of Minnesota)を滅菌ろ過後に添加し、細胞に毎日供給して、6U/mLディスパーゼ(Worthington Biochemical,Lakewood,State of New Jersey,USA)を使用して週1回継代した。SOX10::GFP細菌人工染色体細胞系を、報告されているように(参照により本明細書に組み込まれる、Placantonakisら、Stem Cells 27,521-532(2009))生成した。
【0286】
神経および侵害受容器誘導。先に報告されているように(参照により本明細書に組み込まれる、Chambersら、Nat Biotechnol 27(2009))神経誘導を実施した。簡単に述べると、細胞を収集し、次にACCUTASE(Sigma-Aldrich Corp.St.Louis,Missouri,USA)を使用して単細胞懸濁液にして、30分間ゼラチン上に置き、マウス胚性線維芽細胞(MEF)フィーダー細胞(MEF)(MEFはゼラチンコートプレートに接着する)を除去した。非接着細胞を収集し、10ng/ml FGF-2および10μM Y-27632(rhoキナーゼインヒビター-Tocris Bioscience)を含むMEF馴化hESC培地の存在下で、20~40,000細胞/cmの密度でマトリゲル処理した皿に入れた。820mlのノックアウトDMEM、150mlのノックアウト血清代替物、1mM L-グルタミン、100μM MEM非必須アミノ酸および0.1mM β-メルカプトエタノールを含むノックアウト血清代替物(KSR)培地を使用して細胞が集密になったときに神経分化を開始させた。SMADシグナル伝達を阻害するため、100nM LDN-193189および10μM SB431542を0日目(SMADシグナル伝達インヒビターLSBを添加した日)から5日目まで毎日添加した。細胞に毎日供給し(すなわちインヒビターの6回の供給、D0、D1、D2、D3、D4およびD5)、4日目から開始して1日おきに25%の漸増量で増加させて、N2培地を初期培地に添加した(10日目の100%N2まで)。2日目から10日目まで毎日、3つのインヒビター(特に指示されない限り)を3μM CHIR99021、10μM SU5402および10μM DAPTで添加することによって侵害受容器誘導を開始させた。10日目以後、長期培養培地は、10~100ng/mlヒトβ神経増殖因子(NGF)、10~100ng/ml脳由来神経栄養因子(BDNF)および10~100ng/mlグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)を含むN2培地からなった。
【0287】
顕微鏡検査、抗体およびフローサイトメトリ(FACS)。細胞を4%パラホルムアルデヒドで20分間固定し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄して、PBS中の0.5%Triton Xを用いて透過処理し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の1%BSA(ウシ血清アルブミン)を使用してブロックした。グルタミン酸染色のために、0.05%グルタルアルデヒドを固定液に添加した。顕微鏡検査のために使用した一次抗体は、PAX6;ペアードボックス遺伝子6(無虹彩症、角膜炎)(Covance,Princeton,New Jersey,USA)、TUJ1;ニューロン特異的クラスIIIβ-チューブリン(Covance,Princeton,New Jersey,USA)、Ki67;抗原KI-67;MKI67(Sigma-Aldrich Corp.St.Louis,Missouri,USA)、ISL1(Developmental Studies Hybridoma Bank;DSHB)、BRN3A;脳特異的ホメオボックス/POUドメインタンパク質3A(Chemicon,Billerica,Massachusetts,USA)、RET;がん原遺伝子チロシンプロテインキナーゼ受容体(R&D)、RUNX1;Runt関連転写因子1(Sigma-Aldrich Corp.St.Louis,Missouri,USA)、MAP2;微小管関連タンパク質2(Sigma-Aldrich Corp.St.Louis,Missouri,United States of America)、TRPV1;一過性受容体電位カチオンチャンネルサブファミリーVメンバー1(Neuromics Inc.,Minneapolis,United States of America)、サブスタンスP(Neuromics Inc.,Minneapolis,United States of America)、CGRP;カルシトニン遺伝子関連ペプチド(Neuromics Inc.,Minneapolis,United States of America)を含んだ。フローサイトメトリのために、BD Cytofix/Cytoperm Kit(BD Biosciences Pharmingen)を用いて細胞を固定し、1つの実施形態では、細胞を4%パラホルムアルデヒド中にさらに固定した。フローサイトメトリ用の一次結合抗体はNTRK1(神経栄養チロシンキナーゼ受容体、1型)-APC(R&D Systems,Inc.,Minneapolis,Minnesota,USA)、ネスチン-Alexa647(BD Biosciences Pharmingen,San Diego,California,USA)、TUJl-Alexa488(BD Biosciences Pharmingen,San Diego,California,USA)であった。
【0288】
電気生理学。神経栄養チロシンキナーゼ受容体、1型(NTRK1)+選別細胞を10~12日目にポリオルニチン/ラミニン/フィブロネクチン処理したカバーガラススリップ上に置き、長期培養培地中でさらに3週間成熟させた。カバースリップを、以下を含む(mM)人工脳脊髄液に移した:125 NaCl、2.5 KC1、1.25 KHPO、1 MgCl、2 CaCl、25 NaHCO、1.3アスコルビン酸、2.4ピルビン酸および25グルコース(95%Oおよび5%COで通気、室温)。落射蛍光照射、電荷結合素子カメラおよび2つの水浸レンズ(×10および×60)を備えた赤外線微分干渉(DIC)顕微鏡(Olympus)を使用して細胞を視覚化し、記録用電極を細胞に標的化した。ガラス製記録用電極(7~9MΩ抵抗)に、130mMグルコン酸カリウム、16mM KCl、2mM MgCl、0.2mM EGTA、10mM HEPES、4mM NaATP、0.4mM NaGTPおよび0.2%Alexa-568からなる細胞内溶液(mM、pH 7.25)を満たした。閾値電流での活動電位特性を、一連の漸増25pA 300ms電流ステップの適用後に細胞記録から決定した。記録を収集し、Axopatch 700B増幅器およびpCLAMP10ソフトウエア(Molecular Devices,Sunnyvale,California,United States)を用いて分析した。
【0289】
遺伝子発現プロファイリング。Trizol LSを使用してLSBまたはLSB3i処理したhPSCの分化の2、3、5、7、9および15日目に全RNAを単離した。試料をMemorial Sloan-Kettering Cancer Center
(MSKCC)Genomics Core Facilityによって処理し、Illumina Human HT-12 v4 Expression BeadChipにハイブリダイズした。Bioconductor project(www.bioconductor.org)からのIllumina分析パッケージ(LUMI)を統計プログラミング言語R(http://cran.r-project.org/)と共に使用して標準化およびモデルに基づく発現測定値を計算した。発現値は倍数変化のlogである。多重検定の補正p値が<0.05である場合、ペアワイズ比較のカットオフは有意であった。
【0290】
定量的リアルタイムPCR。RNeasyキット(Qiagen)を使用して全RNAを抽出した。各々の試料について、1ugの全RNAをDNA汚染に関して処理し、Quantitect RTキット(Qiagen)を使用して逆転写した。増幅した物質を、Mastercycler RealPlex2(Eppendorf)でQuantitect SYBR緑色プローブおよびPCRキット(Qiagen)を使用して検出した。すべての結果をHPRT対照に標準化しており、それらは、各々のデータ点において2~3の独立した生物学的試料の4~6の技術的複製物からの結果である。
【0291】
(実施例II)
ヒト多能性幹細胞をSB431542およびLDN-193189(LSB)と接触させることによりニューロン系列細胞が生産された。
【0292】
以下の実施例は、本発明の開発の間に使用するニューロン系列の細胞を提供するための例示的な方法を述べる。
【0293】
二重SMAD阻害は、以前にhPSCからある1種のニューロン系列細胞を誘導するための迅速で極めて有効な方法として使用された(参照により本明細書に組み込まれる、Chambersら、Nat Biotechnol 27(2009))。ノギンを含む分子によって誘導されたこれらのニューロン系列細胞は、中枢神経系細胞、すなわち神経細胞運命への発生を可能にするデフォルト経路を有していた。補足試験は、ノギンの代わりに低分子ドルソモルフィン(DM)を使用することにより、少なくとも一部には類似の細胞が生産されるが、培養物の一貫性(consistency)に差があることを報告した(参照により本明細書に組み込まれる、Kimら、Robust enhancement of neural differentiation from human
ES and iPS cells regardless of their innate difference in differentiation propensity.Stem Cell Rev 6,270-281(2010);Zhouら、High-Efficiency Induction of Neural Conversion in hESCs and hiPSCs with a Single Chemical Inhibitor of TGF-beta Superfamily Receptors.Stem Cells,504(2010))。
【0294】
発明者は、LDN処理細胞と同じ発生段階、同じマーカーの大部分の発現、および様々なニューロン系列を作製する類似の発生可能性の能力を示すにも関わらずノギンを用いて生成された細胞は、LDNを用いて誘導された神経細胞と比較して、前後軸において前方であること(すなわちより前脳、より多くの細胞がFOXG1を発現する等)などの相違も示すことを認めた。そこで、数あるシグナル伝達経路の中でも特にBMPを阻害するためにノギンの代わりにLDNを使用したが、ノギンとLDNは、BMPを阻害すること以外に、異なる他の種類の活性を有すると考えられる。
【0295】
一部にはノギンを使用することの高コストのゆえに、発明者は、BMPインヒビターの使用が神経細胞運命の細胞を生産する際にノギンの代わりになり得ると考えた。そのため、hPSCから原始神経外胚葉、神経細胞運命を有する細胞、すなわちCNS細胞を生成するために、SB431542と組み合わせて、低分子BMPインヒビター、LDN-193189(参照により本明細書に組み込まれる、Yuら、Nat Med 14,1363-1369(2008))を使用し、本発明の開発の間にノギンに取って代わることを認めた(図2A)。この組合せ処理を、これら2つのインヒビターLDN-193189とSB431542の組合せに関してLSBと称した。
【0296】
(実施例III)
本発明のニューロン系列細胞を使用して低分子をスクリーニングすることにより、低いPAX6および高いTUJ1ニューロン細胞を生じる化合物がもたらされた。
【0297】
以下の実施例は、定方向性分化における使用のための低分子候補化合物をスクリーニングするために実施例IIからのニューロン系列の例示的細胞を使用することを述べる。
【0298】
具体的には、二重SMAD阻害(LSB)に関連して、すなわちヒトES細胞を、約400の条件下で候補化合物(すなわち低分子)をスクリーニングするために(ヒトES細胞から出発する有糸分裂後ニューロンマーカーの獲得を加速し得る低分子の組合せを見出すため)、最初にLSB(LDN-193189およびSB431542)で処理した。CNSに発生することができる細胞を決定するために細胞運命を決定するために、発生試験において重要であることが公知であり、しばしば使用される細胞シグナル伝達経路(例えばFGF、ノッチ、WNT、SHH(ソニック・ヘッジホッグ)等のようなシグナル伝達経路)を標的とする(変化させる)分子から候補化合物を選択した。一例として、4種のインヒビター(すなわちSU/DAPT/CHIR/シクロパミン)をLSB処理からの異なる日に異なる組合せで試験した(細胞培地中の細胞に供給した)。各々の処理を、次に、10日目にTUJ1/PAX6発現に関してスクリーニングした。処理条件の一例として、LSBを毎日供給し、4日目から10日目まで毎日CHIRおよびSUを培地に添加して細胞に供給した。
【0299】
一般に、スクリーニング処理の結果は、死細胞を含む多数の培養物を生じさせた。言い換えると、このスクリーニングにおける生存可能な培養条件は、非生存可能条件(すなわち細胞死)よりもはるかに低い頻度であることが分かった(例えばSU/DAPTを初期培養物に、すなわち2日目より前に添加した場合)。発明者は、CNS幹細胞は生存のためにFGFシグナル伝達およびγセクレターゼ活性/ノッチシグナル伝達に依存し、そのためCHIRが存在しない場合、SU/DAPTが細胞をCNSから神経堤に切り替わるように誘導したとき、切り替わるのではなく、細胞が死亡したと考えた。
【0300】
LSBの添加後10日目に、スクリーニングの間生存した細胞をヒト神経外胚葉マーカーPAX6(参照により本明細書に組み込まれる、Zhangら、Cell Stem Cell 7,90-100(2010))の喪失およびTUJ1発現によるニューロン分化の開始(参照により本明細書に組み込まれる、Leeら、Cell Motil Cytoskeleton 17,118-132(1990))に関して観察した。細胞を、免疫蛍光(immunoF)により、ニューロン(TUJ1+)に関して染色し、PX6のC末端に結合する抗体を使用して神経外胚葉の喪失(より少ないPAX6+細胞の観察)に関して染色した。このスクリーニングをインヒビターの数多くの組合せ(例えばSU、SU/DAPT、SU/DAPT/CHIR、DAPT/CHIR、SU/CHIR、SU/シクロパミン等)で実施し、それらを組合せの日(例えば0~10日目、1~10日目、2~10日目、3~10日目等)に様々な毎日の供給物に添加した。一般に、最も高い量のTUJ1+/PAX6-染色を示す条件および化合物を、さらなる分析のための細胞を提供することについての成功として選択するために、各々の処理によって生成された細胞のTUJ1+/PAX6-染色の相対的な量を観察することによって結果を決定した。細胞の免疫染色によりTUJ1+/PAX6-である細胞を生産するためのスクリーニング試験において失敗とみなされた低分子の一例はシクロパミンであった。シクロパミンは、それをいつ添加した場合でも、TUJ1/PAX6染色を生じさせることに関して細胞に影響を及ぼさないと思われた。言い換えると、細胞形態は、免疫蛍光により10日目にLSB単独で処理した細胞と同様のままであった(すなわち>90%PAX6+および<10%TUJ1+)。
【0301】
しかし、スクリーニングの間に、発明者は、LSB処理の2日目に添加した3つの低分子の特定の組合せ(SU5402、CHIR99021およびDAPT;3つのインヒビターについて3iと称する)が(図6AおよびB)、分化の10日目にhPSCにおいてPAX6発現を無くし、TUJ1を誘導することを発見した(図2AおよびB)。LSB処理の2日目において処理細胞はまだ、神経細胞運命を有することまたは神経細胞運命へと発生する能力を有することに関して不明であったので、これは驚くべき発見であった。その代わりに、3i処理は細胞を神経細胞運命から離れて神経堤細胞へと向かわせ、それらは本発明の侵害受容器細胞へとさらに分化した。
【0302】
次に、いずれのシグナル伝達経路がPAX6+TUJ1-ヒトES細胞集団をPAX6-TUJ1+集団に変換することに関与すると考えられるかを見出すために、これらの低分子の各々に関する機能を検討した。最初に、SU5402は、VEGF、FGFおよびPDGFチロシンキナーゼシグナル伝達の強力なインヒビターと報告された(参照により本明細書に組み込まれる、Sunら、J Med Chem 42,5120-5130(1999))。そこで一般に、低分子の少なくとも1つはFGFRシグナル伝達経路を阻害することに関与すると考えられた。第二に、CHIR99021は、GSK-3βの選択的阻害(β-カテニンを安定化する)によるWNTアゴニストと報告された(参照により本明細書に組み込まれる、Bennettら、J Biol Chem 277,30998-31004(2002))。そこで一般に、低分子の少なくとも1つは、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(GSK3β)阻害を介して、WNTシグナル伝達経路の少なくとも1つを活性化することに関与すると考えられた。そして第三に、DAPTは、ノッチシグナル伝達をブロックすることができるγセクレターゼインヒビターと報告された(参照により本明細書に組み込まれる、Doveyら、J Neurochem 76,173-181(2001))。そこで一般に、低分子の少なくとも1つは少なくとも1つのノッチシグナル伝達経路を阻害することに関与すると考えられた。そこで1つの実施形態では、低分子の1つは非選択的または汎ノッチインヒビター(pan-Notch inhibitor)と考えられた。別の実施形態では、インヒビターの1つは、少なくとも1つのノッチシグナル伝達経路をブロックすることができる、γセクレターゼ分子のインヒビターである。それゆえ、1つの例示的な実施形態では、インヒビターの組合せは、本発明のPAX6-TUJ1+ヒトニューロン細胞を生産するために、FGFRシグナル伝達経路を阻害することに関与する少なくとも1つの低分子、少なくとも1つのノッチシグナル伝達経路を阻害することに関与する少なくとも1つの低分子、およびWNTシグナル伝達経路の少なくとも1つを活性化しつつGSK3βを阻害することに関与する少なくとも1つの低分子を含む。さらなる実施形態では、インヒビターの1つは、ノッチシグナル伝達経路中の少なくとも1つのγセクレターゼ分子をブロックすることができた。
【0303】
(実施例IV)
TUJ1+ニューロン細胞は細胞増殖マーカーの発現の喪失を示す。
【0304】
以下の実施例は、TUJ1+ニューロン細胞の成熟(細胞周期)段階を決定するための例示的な方法を述べる。
【0305】
成熟後、培養下で生産されたニューロンは有糸分裂を受けることを停止し、それぞれ細胞増殖(参照により本明細書に組み込まれる、Gerdesら、Int J Cancer 31,13-20(1983))および有糸分裂のG2/M期(参照により本明細書に組み込まれる、Hendzelら、Chromosoma 106,348-360(1997))のマーカーであるKi67およびホスホヒストンH3(PHH3)を喪失した。それゆえ、3iと組み合わせたLSB(すなわちLSB3i)を使用して生産された細胞をより低い密度、約10~100,000細胞/cmに継代し、個々の細胞において、発現をより良好に評価するために固定した後、細胞増殖マーカーKi67およびホスホヒストンH3(PHH3)に関して試験した。特に、Ki67の発現は増殖の良好な予測因子であることが公知であった。そこで、3i化合物を伴わないLSB中で培養した細胞と比較して、12日後に、3iの存在下で培養された細胞では、より少ない細胞(それぞれ50%および16%)がKi67+およびpHH3+細胞を示した(図2C~F)。
【0306】
LSB/CHIR(CHIR99021:C)、SU/DAPT(SU5402/DAPT)、SU/CHIR(SU5402/CHIR99021)、DAPT、SU(SU5402)、CHIRに加えて、対照としてLSB単独と比較して、LSB3iを使用したニューロン分化の効率(パーセンテージ)を定量化するため、神経前駆体のマーカーであるネスチンおよびニューロン分化のマーカーであるβ3-チューブリン(TUJ1)についての細胞間FACS(intercellular FACS)染色を実施した(図2G)。LSB、SU/DAPT、DAPT、SUおよびCHIRの存在下では、大部分の細胞がネスチンを発現した。特に、LSB細胞集団の>95%がネスチン+であった。数多くの細胞が二重SMAD阻害後にネスチン染色を示したが定量化されず、一方より長期間、すなわち19日間培養した細胞はTUJ1+ニューロンを示し、これらの細胞の大部分が、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)を共発現し、このことは、潜在的なドーパミン作動性ニューロンを同定する(参照により本明細書に組み込まれる、Chambersら、Nat Biotechnol 27(2009))。逆に、LSBに接触した細胞を2日後に3i化合物と接触させた場合、10日後に約25%の細胞がネスチンを発現し、約75%の細胞がTUJ1を発現して、短期間、すなわち19日未満の細胞培養後のニューロン細胞運命への効率的な変換を明らかにした。
【0307】
驚くべきことに、LSB処理、次いで2日後に細胞をCHIR99021およびDAPTまたはSUのいずれか1つと接触させることにより、細胞集団の50%をTUJ1+細胞へと分化させた。3つのインヒビターの各々をLSB処理後に単独で使用した場合、20%以下の細胞がTUJ1+であった。それゆえ、CHIR99021は、この細胞集団のTUJ1+ニューロン細胞への定方向性分化の鍵となる寄与因子であることが発見された。発明者は、ネスチン+TUJ1-細胞のネスチン-TUJ1+ニューロン細胞への定方向性分化が、FGF受容体経路またはノッチシグナル伝達経路内のγセクレターゼのいずれかを阻害することに加えて、WNTシグナル伝達経路の少なくとも1つを活性化しつつGSK3βを阻害することに依存すると考えた。さらに、3i化合物の添加は、さらに25%のネスチン-TUJ1+ニューロン細胞の変換を生じさせた。図2G参照。
【0308】
要約すると、LSB処理の2日後に3i処理する好ましい実施形態から誘導されるニューロン集団をさらに検討した。この集団は、LSB単独で処理した細胞と比較してニューロンマーカーTUJ1の高発現(図2A、B)ならびにKi67の喪失(図2C、D)を示した。Ki67の喪失は、有糸分裂後分化ニューロンの特徴である細胞周期中の細胞の減少を示す。加えて、FACS分析は、LSBと3iからなる好ましい組成物で処理した細胞集団の75%超がTUJ1を発現し、これに対してLSB単独で処理した集団の99%が前駆体マーカーであるネスチンを発現することを明らかにした(図2G)。
【0309】
(実施例V)
TUJ1+ニューロンは、驚くべきことに、予想された中枢神経系(CNS)細胞ではなく末梢神経系(PNS)細胞であった。
【0310】
以下の実施例は、本発明の開発の間に生産されるTUJ1陽性ニューロンの種類を同定するための例示的な方法を述べる。
【0311】
LSB処理の2日後に3i処理する好ましい実施形態から得られるニューロンのサブタイプをさらに特性づけるため、TUJ1陽性集団を様々なニューロンサブタイプのマーカーに関して染色した。具体的には、二重SMAD阻害プロトコールは、FOXG1(フォークヘッドボックスタンパク質G1)を発現する前脳前部正体(anterior forebrain identity)に偏ったPAX6+神経上皮細胞を生成することが公知であった(参照により本明細書に組み込まれる、Chambersら、Nat Biotechnol 27(2009))。それゆえ、LSB3i処理後のニューロンサブタイプ正体を決定するために、細胞を10日目により低い密度、約10~100,000細胞/cmに継代し、12日目に一連のマーカー発現に関して評価した。
【0312】
予想されるニューロン型はCNS運命であったので、試験した初期マーカーの大部分はCNS型細胞の同定のためのものであった。実際に、LSB細胞はこのサブタイプ(PAX6、FOXG1陽性)がデフォルトであるので、CNS前脳ニューロンが予想された。驚くべきことに、PNS細胞のマーカーであるISL1の染色が見出される前に、CNSマーカーについて少なくとも12の陰性結果(例示的な10を以下に示す)が得られた。ISL1は、運動ニューロンおよび末梢感覚ニューロンによって発現される。BRN3A発現を試験し、LSB/3i細胞によって発現することを認めた。それゆえ、発明者は、末梢感覚ニューロンの発生を示すBRN3A+/ISL1+ニューロンを発見した。以下の表A参照。
【0313】
表A:以下の遺伝子/タンパク質のリストは、本明細書で述べるLDN/3i誘導分化を使用して、細胞に関して陽性である(発現される)と予想された数多くのCNS運命分子を示す。しかし、これらの結果は例示的なCNSマーカーの欠如を示し、前記結果は、PNS系列に関する潜在的マーカー、すなわちISL1およびBRN3Aのその後の観察によって支持された。
【0314】
【数3】
【0315】
驚くべきことに、ISL1およびBRN3Aの均一な発現(赤色/細胞内のより暗い領域)(図3AおよびB)が本発明のTUJ1+細胞(緑色/赤色染色に比べてより明るい細胞体)で認められた。ISL1およびBRN3Aは感覚ニューロンについての鍵となるマーカーである(そのすべてが参照により本明細書に組み込まれる、ISL1:Sunら、Nat Neurosci 11,1283-1293(2008);BRN3A:Gerreroら、Proc Natl Acad Sci USA 90,10841-10845(1993))。この発見は、LSB3i処理から生じるニューロンがCNS細胞ではなくPNSであることを示した。これらの結果は、CNS前脳ニューロンサブタイプ(PAX6+、FOXG1陽性)がデフォルトであるLSB細胞と対照的であった。先行技術の教示によれば、平板培養密度によって示される、処理の開始の際の幹細胞の高い集密度はCNS由来ニューロン集団を生じさせるはずであるので、これは極めて予想外の観察である。しかし、侵害受容器は神経堤細胞集団に由来し、神経堤細胞集団は、先行技術の教示によれば、平板培養密度によって示される、処理の開始の際の幹細胞の低い集密度に由来する。言い換えると、予想は、LSB処理の開始の時点で>20,000細胞/cmの多能性幹細胞という高い初期平板培養密度は拘束CNSニューロン集団を生じさせるというものであった。これに対し、神経堤細胞を生じさせるには約10,000細胞/cmという低い初期平板培養密度が必要であることは公知であった(その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Chambersら、Nature Biotech,2009(図4の下半分参照))。
【0316】
(実施例VI)
末梢神経系(PNS)ニューロンは初期段階侵害受容器細胞であることが見出された。
【0317】
以下の実施例は、本明細書で述べる方法を用いていずれの型の末梢神経系(PNS)ニューロンが生産されたかを決定するための例示的な方法の使用を述べる。
【0318】
本明細書で述べる方法によっていずれの型のPNSニューロンが生産されるかは、感覚ニューロンおよび運動ニューロンなどのいくつかの種類の候補ニューロンが存在し、さらに固有受容器細胞、機械的受容器(mechanoceptor)細胞および侵害受容器細胞を含むPNS中の公知の感覚ニューロンの少なくとも3つの主要なサブセットが存在するので、不明であった。
【0319】
発生の間、初期段階の侵害受容器はペプチド作動性および非ペプチド作動性の両方であり、独自にNTRK1、RUNX1を発現し、次いでRETを発現した(RETに関する情報の例については、参照により本明細書に組み込まれる、Woolfら、Neuron
55,353-364(2007)参照)。TUJ1+ニューロンを含む2連の初期段階LSB3i培養物をRET発現に関して試験し(図3C)、このマーカーに関して陽性であることが見出され(TUJ1+染色(緑色/RET染色と比較してより明るい細胞体)および挿入されたRETの箱内のより明るい染色領域と比較して、赤色/大きい方の箱の細胞内のより暗い領域)(図3D)、また10日目にFACSによって測定した場合、培養下のすべての細胞の60%超がNTRK1を発現した(図3E)。
【0320】
要約すると、この集団はISL1、BRN3A、RETおよびRUNX1の発現に関して陽性であり(図3A~D)、初期段階侵害受容器(ペプチド作動性および非ペプチド作動性の両方)の産生を指示した。FACS分析は、これらのニューロンの60%超がNTRK1に関して陽性であることを明らかにした(図3E)。これらのマーカーは集合的に、ニューロン集団が末梢感覚ニューロン、特に侵害受容器であることを示す。
【0321】
それゆえ、2日目の3i処理とLSBの組合せの好ましい実施形態は、神経堤由来集団、すなわち侵害受容器の予想外の形成を生じさせる。
【0322】
さらに、発明者は、LSB/3i処理によって得られた細胞が神経堤へと移行し、CNS運命に分化する代わりにニューロゲニン1(NEUROG1)を一過性に発現するという本明細書で述べた観察に加えて、初期免疫蛍光結果、すなわちBRN3A+、ISL1+、アレイデータ、すなわちTAC1(サブスタンスP)発現を含む、いくつかの試験からの情報を組み合わせ、次にNTRK1マーカーを選択し、NTRK1+細胞を見出した。そこで、発明者は、生じるPNS細胞がおそらくペプチド作動性侵害受容器である可能性が高いと考えた。
【0323】
(実施例VII)
LSB3i処理は再現可能である。
【0324】
以下の実施例は、再現性を決定するために本発明の例示的な方法を使用することを述べる。
【0325】
本発明の一般性を確立するため、発明者は、hiPSCを幹細胞の供給源として使用して、LSB処理の2日後に3i処理を組み合わせる本発明の好ましい実施形態を反復した。LSB3i処理の再現性を、誘導多能性幹細胞(hiPSC)系を含むさらなるhPSC系にわたって評価した。現行技術はhiPSCを生産する多くの方法を述べており、当業者に公知である。特に、Oct4(オクタマー結合転写因子4)、Sox2(SRY(性決定領域Y)ボックス2)、Klf4(クルッペル様因子4)およびc-Myc(転写因子p64)などの遺伝子を挿入することによって作製される2つのhiPSC系(C14およびC72)を使用して、効率的に神経化できる(neuralize)ことが示された(参照により本明細書に組み込まれる、Papapetrouら、Proc Natl Acad Sci.,USA 106(2009)参照)。
【0326】
次にPAX6発現をImmunoFによって検査した。C14およびC72細胞系のLSBおよびLSB3i処理は、図3A~Dに示すヒト細胞系と比較した場合、類似のニューロン染色結果を示した。上記で述べたように、ISL1、BRN3A、RET、RUNX1およびTUJ1に関して、例示的なC14染色結果を図4A~Dに示し、例示的なC72染色結果を図8A~Dに示す。
【0327】
C14およびC72細胞系のLSB処理はネスチン陽性細胞を均一に生じさせ(処理細胞集団の>95%)、FACSによって測定されるようにLSB3iの組合せで処理したときTUJ1+細胞を形成することができた(C14については40%およびC72については33%;図4E)。これらの結果を、図4EにおいてLSBおよびLSB3i結果に関して示される、LSBおよびLSB3iで処理したH9細胞系(すなわちhESC系)と比較した。さらに一層高いニューロン収率が(FACSによって測定された40%および33%から、NTRK1に関して選別した場合核染色の>90%がニューロンである)、NTRK1(神経栄養因子チロシンキナーゼ受容体1型)マーカー発現に関して選別した後バルク培養物を、N2培地を含むMatrigel(商標)でコートした培養容器に継代したとき、これら2つのhiPSC系において得られた。細胞をアキュターゼで解離させ、N2に再懸濁して、APC結合NTRK1抗体(R&D)と共に氷上で15分間インキュベートし、洗浄して、FACSのためにN2に再懸濁した。選別後、細胞をN2培地で24時間培養し、適切に固定した。細胞を収集し、BRN3A、ISL1、TUJ1およびDAPIに関して染色した。特に、代表的なNTRK1+LSB3i処理細胞集団におけるわずかなネスチン+細胞と比較して、LSB3i処理細胞からはC14およびC72両方のNTRK1-細胞に関して数多くのネスチン+細胞(赤色/暗染色)が示される(図9)。さらに、わずかなC14 NTRK1-細胞がTUJ1細胞系を発現したが、C27はより高い数のNTRK1-TUJ1+(緑色;鮮やかな染色)を示した。両細胞系は、DAPI(青色;明るい核)染色によって同定される細胞体と比較して認められるように、高い数のネスチン-TUJ1+細胞を示した。
【0328】
要約すると、LSB、次いで2日目に3iで処理し、高集密度で平板培養したhiPSC細胞は、侵害受容器マーカーISL1、BRN3A、RETおよびRUNX1に関して陽性のニューロン細胞の形成を生じさせた(図4A~D、図8A~Dおよび図9)。
【0329】
(実施例VIII)
CHIR99021(C)はLSB培養細胞(すなわちLSB-C)からニューロン分化を誘導するための鍵となる因子である。
【0330】
以下の実施例は、定方向性ニューロン分化を誘導するための各々の化合物の効果を試験するために例示的方法を使用することを述べる。
【0331】
実施例IIIのTUJ1+細胞の誘導に関連することが認められた各々の化合物の充足度に関する機構的な洞察を得るために、3i化合物の特定の組合せを、細胞間FACSを用いて測定されるネスチンおよびTUJ1の細胞発現を誘導することに関して試験した(図1Gに示す)。ネスチンをLSBニューロン系列細胞のマーカーとして使用し、下流の(すなわちより分化した)ニューロン細胞を同定するためにTUJ1を使用した。
【0332】
個々の因子のいずれもが高い数(60%超)のTUJ1+ニューロンを生じなかったが、その他の2つのシグナル阻害因子のいずれか1つと組み合わせたCHIR99021は、中等度の数のTUJ1+ニューロン(DAPTに関しては53%およびSU5402 に関しては58%)を生成することができた。これらのデータは、本明細書で使用した試験条件下で、CHIR99021がニューロン分化を加速するための鍵となる因子であり、SU5402およびDAPTは重要な、しかし付加的な刺激を提供したことを示す。
【0333】
加えて、3i組成物の3つの成分すべてが分化ニューロンの最大収率のために必要である(図2G)。
【0334】
(実施例IX)
人工SOX10+細胞は侵害受容器細胞を生産することができる。
【0335】
以下の実施例は、操作されたSox10+GFP発現ヒト細胞の定方向性分化のために本発明の例示的な方法を使用することを述べる。
【0336】
侵害受容器細胞は、ヒト発生の間に2種類の細胞中間体から生じると考えられる:具体的には、SOX10+ニワトリ胚神経堤細胞は脊髄に隣接する体幹侵害受容器細胞を生成できることが認められた(参照により本明細書に組み込まれる、Georgeら、Nat
Neurosci 10:1287-1293(2007))。加えて、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の頭部プラコード組織は、顔面組織中の三叉神経侵害受容器細胞集団に寄与した(参照により本明細書に組み込まれる、Schlosserら、J Comp Neurol 418:121-146(2000);Schlosserら、Dev Biol 294:303-351(2006))。
【0337】
そこで、ヒト細胞においてSOX10によって示される神経堤中間体細胞運命(参照により本明細書に組み込まれる、Aokiら、Dev Biol 259,19-33(2003);Leeら、Nat Biotechnol 25,1468-1475(2007))が、トランスジェニックSOX10::GFP細菌人工染色体(BAC)hPSC系を使用して分化の間に認められるかどうかを決定するために、以前に報告された方法(参照により本明細書に組み込まれる、Placantonakisら、Stem Cells 27:521-532(2009))を用いて、GFP遺伝子と共発現する富化された神経堤遺伝子マーカーを伴った、このSOX10::GFP(BAC)細胞系を生成した。SOX10:GFP細胞系はH9 hESC系のサブクローンであった。細胞を解離させ、Amaxaからの試薬(溶液V)、プロトコール(B-16)および装置を用いて遺伝子送達を実施した。ヌクレオフェクトした(nucleofected)(核にトランスフェクトした)DNAは、Gene Expression Nervous System Atlas[GENSAT](アクセッション番号:GENSAT1-BX1086)から入手した、挿入されたGFPとSOX10遺伝子を含む細菌人工染色体(BAC)であった。次にBACを、pL452プラスミドから切り出した選択カセットからGENSAT BACへのcre/LoxP組換えを使用して、選択のためにネオマイシン耐性遺伝子を含むように改変した(参照により本明細書に組み込まれる、Tomishimaら、Stem cells 25(1):39-45.Epub 2006 Sep 21(2007)参照)。遺伝子送達後、hESCを、ネオマイシン耐性選択のためにG418の存在下で単細胞として接種し、クローンを手操作で採取して、分化後にGFPの存在に関してスクリーニングした。qRT-PCRによりGFP細胞を選別してSOX10および他の神経堤マーカーの発現を確認した。
【0338】
2つの付加的な2連の試料を各々LSBの1つと接触させ、次にCHIR99021(LSB/C)またはLSBと3iに接触させて、LSBで分化を開始させた後4、8、12および16日目に、GFP発現をFACS同定およびSOX10::GFP+細胞の選別によって測定した。
【0339】
CHIR99021が存在した場合は、培養下でこれらの処理細胞の70%超が、培養条件に応じて分化の12日目までにSOX10::GFP+になった(LSB/Cについては70%およびLSB3iについては80%;図5DおよびE)。この結果は、細胞の大部分が神経堤正体を発現することを示し、CHIR99021がLSB3i侵害受容器細胞の生成のために必要であるという発明者の観察を支持した。したがって、LSB3i処理細胞はLSB/C処理したhPSCと比較してより迅速に神経堤運命を獲得したので(図5DおよびE)、SU5402およびDAPTと接触させることに加えて、チロシン受容体キナーゼ受容体およびノッチシグナル伝達を阻害するこれらの低分子による組合せ阻害は、それぞれ、神経堤細胞運命を加速した。発明者は、CHIRは神経堤および感覚ニューロンを誘導し、SUは神経堤マーカー発現およびニューロン分化を加速すると考えた。最後に、発明者は、CHIRおよびSUと組み合わせたDAPTはニューロン分化を加速すると考えた。さらに、LSBと組み合わせたCHIR99021の使用、すなわちLSB/Cは、操作されたSOX::GFP細胞を読み出しとして使用した場合、12日から16日目までの間にLSB3iと比較して、60%超のネスチン-TUJl+ニューロン細胞の遅い変換速度を生じさせた。
【0340】
(実施例X)
本明細書で述べる方法によって生産されたNTRK1+ヒト侵害受容器細胞は、ペプチド作動性細胞と一致する遺伝子発現、およびインサイチューラット侵害受容器細胞に類似した電気生理学的応答を示した。
【0341】
以下の実施例は、本明細書で述べる方法によって生産された侵害受容器細胞の機能的能力を決定するために本発明の例示的な方法を使用することを述べる。
【0342】
LSB3i由来ニューロンが本物の侵害受容器ニューロン細胞であることを確認するために、LSB3i処理細胞を機能、成熟段階および挙動に関して検査した。侵害受容器細胞を生じさせる多能性幹細胞のLSB3i処理が得られた後、10~100,000細胞/cmの平板培養密度から長期培養物を樹立し、ヒトβNGF、BDNFおよびGDNFを添加したN2培地での培養下で10日目、30日目に継代した(さらなる詳細については実施例I参照)。より長期の培養条件下でのこれらの細胞の生存率は、NTRK1+侵害受容器状態と対応して、NGF依存性であることが認められた。LSB3i侵害受容器は、グルタミン酸(図7C)に加えて、先に示したように高レベルのTUJ1、ISL1、BRN3A(図7A~C)を発現した。グルタミン酸産生は、興奮性グルタミン酸作動性ニューロン、すなわちグルタミン酸を放出する侵害受容求心性線維、および有害刺激についての重要なイオンチャネルであるカプサイシン受容体TRPV1(図7D)と一致した。培養下で15日目に2つの別個の成長突起を各々のニューロンについて同定することができた(図7E図12)。
【0343】
樹状突起マーカーMAP2は、主として、極性を有する形式(polarized fashion)において、2つの突起の一方において発現された(図7F)。ニューロンの双極性は、末梢神経節における感覚ニューロンの役割と一致し、細胞体は背根神経節に位置し、脊髄と末梢の両方に向けて突起を突き出す(参照により本明細書に組み込まれる、Woolfら、Neuron 55,353-364(2007);Georgeら、Nat Neurosci 10,1287-1293(2007))。
【0344】
神経成長因子(NGF)の存在下で、ニューロンを長期間培養した(例えば、細胞を10日目に継代し、30日目まで培養した)。LSBを5日目に細胞から回収し、10日目に3iを回収して、その日にNGF/GDNF/BDNFを培地に添加した。10日目から30日目までニューロンにNGF/GDNF/BDNFを供給した。初期LSB処理からの日数で30日目に、ニューロンは神経節様構造へと自己組織化し始めたことが認められた。このタイプの形態は末梢感覚ニューロンに共通する(参照により本明細書に組み込まれる、Marmigereら、Nat Rev Neurosci 8,114-127(2007))(図7G、HおよびI)。
【0345】
成熟侵害受容器は、典型的には、ペプチド作動性感覚ニューロンによって発現されるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)およびサブスタンスP(神経ペプチド)などの神経ペプチドの発現に依存して、ペプチド作動性または非ペプチド作動性のいずれかである(参照により本明細書に組み込まれる、Woolfら、Neuron 55,353-364(2007))。これに対し、非ペプチド作動性ニューロンはCGRPもサブスタンスPも発現せず、レクチンIBへの結合などの他のマーカーを有する。
【0346】
それゆえ、LSB3i誘導ニューロンを、FACSを用いて、NTRK1発現に関して(上記で述べた方法参照)、NTRK1+およびNTRK1-集団に選別した(選別細胞の例については図7G参照)。NTRK1+細胞はサブスタンスPおよびCGRPの両方に関して陽性であり、主としてペプチド作動性侵害受容器表現型を示した(図7HおよびI;分化の30日目)。
【0347】
感覚ニューロン正体の主要な機能的特徴(すなわち機能)は、それらの電気生理学的特性である(参照により本明細書に組み込まれる、Fangら、J Physiol 565,927-943(2005))。NTRK1+選別ニューロンを、培養ニューロンについての標準的な電気生理学技術によっても試験した(その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Placantonakisら、Stem Cells.2009,Figure 5に一例が示されている)。
【0348】
NTRK1+細胞は、電気生理学的特徴である、特徴的な単一活動電位(AP)、発火パターンを示し、平均膜静止電位は初期LSB3i処理後21日目までに67±4mVであった。LSB3iヒトニューロンにおいて生じるAPのタイミングおよび活動曲線の形状を図7J(太い赤線参照)および以下の表1に示す。これらの結果は、以前に一次麻酔成体ラット侵害受容器の電気生理学的報告において述べられたものと同様であった(参照により本明細書に組み込まれる、Fangら、J Physiol 565,927-943(2005))。
【0349】
【表1-2】
【0350】
(実施例XI)
本明細書で述べる組成物および方法によって生産される細胞の遺伝子発現。
【0351】
以下の実施例は、本明細書で述べる方法によって生産される侵害受容器細胞および他の細胞型の包括的な遺伝子発現を決定するための例示的な方法の使用を述べる。
【0352】
誘導分化過程の間の事象(すなわちマーカー発現)の時期をさらに特性づけるため、LSBおよびLSB3i処理した両方のhPSCに関して、包括的な遺伝子発現分析を精密時間分解能(fine temporal resolution)で実施した(2、3、5、7、9および15日目、NCBI Gene Expression Omnibus(GEO)アクセッション番号GSE26867)。神経外胚葉、神経堤、ニューロンおよび侵害受容器に関する選択マーカーを分析した場合(以下の表2参照)、各々について分化の異なる段階を認めることができた(図10)。
【0353】
【表2-2】
【0354】
この遺伝子発現分析(図10B、Cおよび上記表2)は免疫蛍光結果の大部分と一致した。例えば、遺伝子分析は、成熟中のニューロンにおいて、ISL1、POU4F1(BRN3A)、SOX10、TAC1(サブスタンスPのプロペプチド)、NTRK1およびグルタミン酸小胞輸送体VGLUT2遺伝子がすべて上方調節される(すなわち培養下の多くの細胞が経時的にこれらのマーカーの発現を増加させる)ことを示した。同時にこれらのマーカーは誘導細胞で増加することが認められたが、hESC由来の原始神経外胚葉についてのマーカー、特にDLK1、LHX2、OTX2、LEFTY2、PAX6およびHES5は下方調節される(すなわち培養下のより少数の細胞で発現される)ことが認められた。
【0355】
しかし、成熟侵害受容器で発現されると予想される、ソマトスタチン(SST)およびSOX10の発現が、15日目にLSB3i処理細胞培養物で認められた。しかし、SSTはまた、発生中の感覚ニューロンにおいても発現されることが示された。それゆえ、発明者は、このマーカーが15日目の未熟細胞の存在を示していると考えた。いくぶん下方調節されているが、SOX10の発現はまた、大部分の細胞がニューロンであると思われる時点でも観察された。SOX10は細胞がニューロンに分化するとともに下方調節されると予想されたので、この観察は意外であった。15日目の培養物の細胞におけるSSTおよびSOX10発現というこの予想外の発見から、すべての細胞が侵害受容器細胞になるわけではなく、約20~30%であると考えられた。これは、他の成熟細胞型(シュヴァン細胞など)がSOX10を発現し続けることを示した。
【0356】
二重SMAD阻害によって生産されるhESC由来の原始神経外胚葉細胞培養物は(各々が参照により本明細書に組み込まれる、Chambersら、Nat Biotechnol 27(2009);Fasanoら、Cell Stem Cell 6,336-347(2010))、DLK1、LHX2、OTX2、LEFTY2、PAX6およびHES5遺伝子の高発現を示した。同様に、hESC由来の原始神経外胚葉細胞培養物がLSBを用いた二重SMAD阻害によって生産された場合も、これらの遺伝子について類似の高発現が観察された(図10B、Cおよび以下の表3参照)。これらの遺伝子は、LSB3i処理の間は低減し、この間、本発明の開発において侵害受容器が生産された。
【0357】
【表3-2】
【0358】
加えて、時間的トランスクリプトーム分析は、機械的受容器細胞(mechanoceptor)および固有受容器細胞とは異なる、侵害受容器中間体細胞運命についてのさらなる証拠を提供した。ニューロゲニン塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックスタンパク質は、マウス発生の間に背根神経節における神経発生の2つの逐次的な波を媒介する(参照により本明細書に組み込まれる、Marmigereら、Nat Rev Neurosci 8,114-127(2007);Maら、Genes Dev 13,1717-1728(1999))。NEUROG2(ニューロゲニン2)によって示される最初の波は機械的受容器細胞および固有受容器細胞を生じさせ、NEUROG1(ニューロゲニン1)によって示される2番目の波は侵害受容器細胞を生じさせる。hPSCをLSBで処理した場合、NEUROG2発現は7日目までに強力に誘導される(図10Cおよび以下の表4)。これに対し、LSB3iで処理したhPSCは、7日目までにあまり顕著ではないNEUROG2の誘導を示すが、9日目までにNEUROG1の選択的誘導を示す(図10C)。
【0359】
【表4-2】
【0360】
(実施例XII)
例示的な侵害受容器細胞を提供するために本発明の組成物および方法を用いて企図される大規模培養。
【0361】
以下の企図される説明は、本明細書で述べる方法によって生産される侵害受容器細胞の大規模生産のための例示的な方法および使用を示す。
【0362】
LSB3iを使用する、拡大可能な生成(すなわち比較的少数の細胞、例えば実施例、前出で述べるような48穴プレートの1.5×10細胞/穴、および企図される96穴プレートでの5×10細胞/穴を含む両培養物から、hPSC由来侵害受容器の大規模バッチ培養(例えば18 15cm皿のバッチで1×10~1×10細胞(約5.5×10細胞))まで、侵害受容器細胞を生成するための成功をおさめると考えられる方法)。これらの方法は、基礎生物学試験における使用のため、ならびにヒトおよび動物における医学適用に適用できる薬剤発見のために、化合物を試験する際に使用するためのhPSC由来侵害受容器細胞を提供することが企図される。特に、発明者は、ヒトおよび動物における急性および慢性疼痛を軽減する処置のために本発明の組成物および方法を使用することを企図する。
【0363】
特に、例示的な侵害受容器細胞、例えばペプチド作動性侵害受容器細胞を、7×10~7×10の例示的な非限定的範囲で(70%の効率の侵害受容器細胞収集が企図される)提供するために、本明細書で述べる培地および例示的化合物を使用して、例示的な1×10~1×10hPSC細胞をバッチ胚様体培養物において増殖させる大規模バッチ培養が企図される。例示的な侵害受容器細胞は、TAC1、VGLUT2およびSLC15A3などの侵害受容器細胞を同定する遺伝子(すなわちmRNAおよびタンパク質)を発現すると考えられる。例示的な侵害受容器細胞は、ISL1、BRN3A、RET、RUNX1、サブスタンスP、CGRP等のような同定マーカーを発現すると考えられる。
【0364】
要約すると、発明者は、基礎生物学ならびにヒトおよび動物において侵害受容器細胞に関連する状態、特に疼痛の試験および処置のための薬剤発見における、新規プラットフォームを提供するために本発明の組成物および方法を使用することを企図する。
【0365】
【表5-1】
【0366】
【表5-2】
【0367】
【表5-3】
【0368】
以下の参考文献はそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0369】
【化13】
【0370】
(実施例XIII)
メラノサイトはヒト多能性幹細胞から誘導される:LSB-メラノサイト(LSB-Mel)。
【0371】
以下は、関連疾患モデリングにおける使用のためのメラノサイトを提供するための例示的な組成物および方法を述べる。
【0372】
SOX10::GFP細菌人工染色体(BAC)ヒト胚性幹細胞(hESC)レポーター系を作製した。このことは、この細胞系が低分子との接触に応答する際のインビトロでの神経堤細胞誘導の観察を可能にした。Sox10は、多分化能性神経堤幹細胞の最も堅調な早期マーカーであり、メラノサイト前駆体を含む一部の神経堤誘導体においても発現されることが認められた。これまでの成熟スキームで得られるよりも高い純度と数でメラノサイト培養物を生産するために、このレポーター系を使用して、定方向性分化スキームの開発において神経堤集団を将来を見越して(prospectively)同定し、単離した(図14、LSB-C)。
【0373】
二重SMAD阻害プロトコール(参照により本明細書に組み込まれる、Chambersら、Nat.Biotech.(2009))において、SMADシグナル伝達を阻害する2つの低分子で処理したヒト多能性幹細胞(hPSC)は、CNS神経組織を効率的に生産した。加えてhESCをより低い密度で平板培養した場合、低レベルの自発的神経堤細胞誘導が認められた(例えば、約3%のSoxl0::GFP+神経堤型細胞が認められた)。しかし、研究における使用のためおよび医学的試験のためには、より多くの神経堤型細胞が必要であった。さらに、メラノサイト研究のためには、低レベルの自発的分化では提供されない、より多数の細胞を有するより純粋な集団が必要であった。
【0374】
本発明の開発の間に、発明者は、メラノサイト前駆体、成熟中のメラノサイトおよび成熟メラノサイトの高度に純粋な産物を生産するように、神経堤誘導のための二重SMAD阻害プロトコールを最適化する方法を発見した。
【0375】
具体的には、本発明のメラノサイトを生産する、以下の時系列の培養条件を開発した:0および1日目にLDNおよびSB(3iを含む方法におけるLDNおよびSBと同じ濃度範囲を使用する)を供給する;2日目にLDN、SB、CHIR(本明細書で述べる3iを含む方法におけるLDN、SBおよびCHIRと同じ濃度範囲を使用する)を供給する;1つの実施形態では、3日目にSB、CHIR(本明細書で述べる3iを含む方法におけるSBおよびCHIRと同じ濃度範囲を使用する)を供給し、別の実施形態では、3日目にLDN、SB、CHIR(本明細書で述べる3iを含む方法におけるLDN、SBおよびCHIRと同じ濃度範囲を使用する)を供給する;4日目および5日目にCHIR
(本明細書で述べる3iを含む方法におけるCHIRと同じ濃度範囲を使用する)を供給する;6日目から11日目までCHIR、BMP4およびEDN3(本明細書で述べる3iを含む方法におけるCHIRと同じ濃度範囲を使用し、BMP4およびEDN3については以下の濃度範囲参照)を供給する。11日目に細胞を継代し、8週間までMEL培地(CHIRを含む)を供給した。
【0376】
MEL培地は、メラノサイトに関して富化され、これにより、8週間までに細胞培養物は100%までの純粋な集団を示した。したがってこのLSB-MEL法/プロトコールは、メラノサイト生産の高い効率を有していた。発明者はまた、メラノサイトの発生の間、リノール酸がMEL培地中の少なくとも1つの必要成分であることを発見した(図16参照)。
【0377】
メラノサイトの発生の間に、多数の前駆体段階が以下の順序で認められた:神経堤幹細胞、胚性グリア-メラニン芽幹細胞、成体メラノサイト幹細胞、メラノサイト。図13の例示的な概略図参照。
【0378】
図13 メラノサイト前駆体/メラニン芽細胞の特異化と単離。
【0379】
11日目のLSB-Cプロトコールは、Soxl0::GFP、MITFを共発現するメラノサイト前駆体の誘導を支持した(A、右のパネル)。MITF単一陽性集団も認められた(A、左のパネル)。c-Kitはメラノサイト前駆体の潜在的マーカーとして同定された。LSB-C分化後に低いパーセンテージのSox10::GFP、c-kit共発現細胞が認められた(B、橙色集団)。qRT-PCR分析により、二重陽性集団においてメラノサイトマーカーMITFM(塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックスロイシンジッパータンパク質)およびDct(ドーパクロムトートメラーゼ(ドーパクロムδイソメラーゼ、チロシン関連タンパク質2))の富化が確認された(C)。BMP4およびEDN3での処理(「LSB-Mel」)は、Sox10::GFP、c-kit二重陽性の推定上のメラノサイト前駆体集団の誘導を増強した(D)。LSB-Mel処理後に単離されたSox10::GFP、c-kit二重陽性細胞は、有意により高いレベルのメラノサイトマーカーMITFMおよびDctを示した(E)。誤差バーはs.e.m.を示す。p<0.05。
【0380】
図14 メラノサイト前駆体の増殖と成熟。
【0381】
分化条件の要約(A)。BMP4およびEDN3を伴うLSB-C(LSB-Mel)条件での特異化後、細胞を11日目に選別し、再接種した。選別後(PS)細胞を、c-kitリガンド(SCF)、エンドセリン3(EDN3)、線維芽細胞増殖因子(FGF)およびWntアクチベーターを含む成熟培地に維持した。PS6日目に明視野顕微鏡検査によって認められた色素細胞は、メラノサイトマーカーMITFに関して陽性であったが、Sox10::GFPレポーターが下方調節されていると思われた(B)。Sox10::GFP、c-kit二重陰性を除くすべての集団が、最終的にMITF発現細胞および肉眼で見える色素クラスターを生じさせたが、その割合は異なっていた(C)。BMP4およびcAMPでの処理は、メラノサイトに特有の紡錘様形態を示す色素細胞への分化を増強した(D)。
【0382】
図15 成熟メラノサイトの特性付け。
【0383】
LSB-Melプロトコールで誘導した成熟メラノサイトの純粋な集団は、培養下で8週間超後にMITF、Sox10、Tyrp1(チロシナーゼ関連タンパク質1)およびHMB45を含む一般的なメラノサイトマーカーの発現を維持する(A)。メラノサイトは、継代の数週間にわたってそれらの暗く色素沈着した表現型を保持する(B)。色素沈着レベルを評価するために1×10細胞をペレット化し、写真撮影した。成熟メラノサイトの電子顕微鏡超微細構造特性付け(C、D)。LSB-Mel由来メラノサイトの細胞質中の数多くの暗く色素沈着したメラノソームの存在がTEMによって観察された(C)。メラノソーム小胞の段階IからIVへの成熟に伴うメラニン色素の存在および進行性沈着に注目されたい(D)。
【0384】
それゆえ、発明者は、二重SMAD阻害プロトコール、LSBが、ヒト胚性幹細胞からSoxl0::GFPを発現する神経堤集団を迅速かつ効率的に生成することを明らかにした。この修正プロトコールは、c-kit発現によって、将来を見越して同定され、単離される、低レベルのメラノサイト前駆体の誘導を支持した。これらの細胞の誘導は、BMP4およびEDN3での処理を介してさらに増強された。メラノサイト前駆体は、その後、BMP4およびcAMPの存在下でインビトロでさらに培養した後、色素沈着状態へと成熟した。
【0385】
【数4】
【0386】
R&DからのBMP4についての濃度範囲は10ng/ml~100ng/ml(1つの実施形態では25ng/ml)を使用し、American Peptide CompanyからのEDNは25~300nM(1つの実施形態では100nM)を使用する。
【0387】
図16 メラノサイトの増殖のためにリノール酸を必要とする、例示的なLSB-MEL培地処方物を示す。顕微鏡像の上に示す培地成分は、処方物から除外された培地成分である;Ph=位相差;BF=明視野。例示的な概略図は、本発明の細胞を同定するために使用したメラノサイト前駆体マーカーを示す。
【0388】
したがって発明者は、インビトロでの神経堤の誘導ための迅速で明確なプロトコールを発見し、開発した。さらに、発明者は、これらの細胞のメラノサイトへの定方向性分化のための組成物および方法を開発するために、インビトロでの神経堤細胞の誘導のためのこの迅速で明確なプロトコールを使用した。これらのメラノサイトは、長期培養およびユーメラニンの持続的生産のそれらの能力において独特であった。
【0389】
上記明細書において言及したすべての刊行物および特許は、参照により本明細書に組み込まれる。記述した本発明の方法およびシステムの様々な修正および変法が、本発明の範囲および精神から逸脱することなく当業者に明らかである。本発明を特定の好ましい実施形態に関連して説明したが、特許請求に記載の本発明はそのような特定の実施形態に不当に限定されるべきでないことが了解されるべきである。実際に、細胞生物学、神経生物学、がん細胞生物学、分子生物学、生化学、化学、有機合成または関連分野の当業者に明らかな、本発明を実施するための記述した方法の様々な修正は、以下の特許請求の範囲内であることが意図されている。
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