(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156750
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】接合体とその接合方法及びマイクロ流体デバイスとその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/14 20060101AFI20241029BHJP
B81B 1/00 20060101ALI20241029BHJP
B81C 3/00 20060101ALI20241029BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20241029BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20241029BHJP
B32B 7/04 20190101ALI20241029BHJP
B32B 27/16 20060101ALI20241029BHJP
B32B 17/10 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
B29C65/14
B81B1/00
B81C3/00
G01N37/00 101
B32B27/00 C
B32B27/00 101
B32B7/04
B32B27/16
B32B17/10
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024120295
(22)【出願日】2024-07-25
(62)【分割の表示】P 2021508265の分割
【原出願日】2020-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2019056376
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】595067707
【氏名又は名称】フコク物産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095636
【弁理士】
【氏名又は名称】早崎 修
(72)【発明者】
【氏名】大山 智子
(72)【発明者】
【氏名】田口 光正
(72)【発明者】
【氏名】小沢 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】小谷 卓司
(72)【発明者】
【氏名】山田 高史
(57)【要約】
【課題】シリコーンの成形体と他のシリコーンの成形体間の複数の接触点で、シリコーンの成形体間を同時に強固に接合する接合体の接合方法と、シリコーンを素材として用いても、マイクロ流路内の試料の収着を抑制できるマイクロ流体デバイスとその製造方法を提供する。
【解決手段】第1成形体又は第2成形体が接触する1又は2以上の接触点に電離放射線を照射し、接合する。マイクロ流路を形成するシリコーンの成形体は、電離放射線が透過することにより、ガス透過性が低下し、シリコーンの成形体内への収着を抑制できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオルガノシロキサンを主成分とする1又は2以上の第1成形体と、ポリオルガノシロキサン若しくはガラスを主成分とする1又は2以上の第2成形体とを複数同時に接合する接合体の接合方法であって、
前記第1成形体および前記第2成形体が接触した状態で、これらが接触する1又は2以上の接触点に、電子線、ガンマ線、エックス線のうちのいずれか1つからなる電離放射線を照射し、前記接触点の界面において、前記第1成形体のシロキサン主鎖と前記第2成形体のシロキサン主鎖とを前記電離放射線による電離放射線架橋で共有結合することを特徴とする接合方法。
【請求項2】
前記電離放射線は、電子線またはガンマ線のいずれかであり、前記接触点における前記電離放射線の吸収線量が860kGy以上であることを特徴とする請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
前記電離放射線は、電子線であり、前記電子線の加速電圧が500keV以上であることを特徴とする請求項1に記載の接合方法。
【請求項4】
第1成形シートと、
前記第1成形シートに積層される第2成形シートとを備え、
積層方向で接する前記第1成形シートの第1積層面と前記第2成形シートの第2積層面が、その間にマイクロ流路を形成した状態で接合され、前記第1成形シートと前記第2成形シートが一体に積層されたマイクロ流体デバイスであって、
前記第1成形シートは、ポリオルガノシロキサンから形成されるとともに、
前記第2成形シートは、ポリオルガノシロキサン、ガラス若しくは前記第2積層面にシロキサンの皮膜が形成された有機樹脂から形成され、
積層方向で接する前記第1積層面と前記第2積層面が、前記第1積層面と前記第2積層面を透過する、電子線、ガンマ線、エックス線のうちのいずれか1つからなる電離放射線によって、前記第1積層面のシロキサン主鎖と前記第2積層面のシロキサン主鎖とが前記電離放射線による電離放射線架橋で共有結合し、前記第1成形シートと前記第2成形シートが一体に積層されることを特徴とするマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
前記マイクロ流路の形成部位を除く前記第1積層面と前記第2積層面の少なくともいずれかの積層面に、一体に積層される前記第1成形シートと前記第2成形シートの側面に連通する凹溝若しくはスリットからなる応力緩和部が形成されていることを特徴とする請求項4に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
前記電離放射線は、電子線であることを特徴とする請求項4又は請求項5のいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
第1成形シートと第2成形シートを積層し、
積層方向で対向する前記第1成形シートの第1積層面と前記第2成形シートの第2積層面との間にマイクロ流路が形成された状態で、前記マイクロ流路の形成部位を除く前記第1積層面と前記第2積層面間を接合するマイクロ流体デバイスの製造方法であって、
ポリオルガノシロキサンからなる前記第1成形シートと、ポリオルガノシロキサン、ガラス若しくは前記第2積層面にシロキサンの皮膜が形成された有機樹脂からなる前記第2成形シートとを積層し、
積層した前記第1成形シートと前記第2成形シートを相対位置決めし、
相対位置決めして積層した前記第1成形シート及び/又は前記第2成形シートに電子線、ガンマ線、エックス線のうちのいずれか1つからなる電離放射線を照射し、前記第1積層面と前記第2積層面とが接触する接触面において、前記第1積層面のシロキサン主鎖と前記第2積層面のシロキサン主鎖とを前記電離放射線による電離放射線架橋で共有結合し、
前記マイクロ流路の形成部位を除く前記第1積層面と前記第2積層面とを接合することを特徴とするマイクロ流体デバイスの製造方法。
【請求項8】
1又は2以上の前記第1成形シートと1又は2以上の前記第2成形シートを交互に多段に積層し、
積層方向で隣り合う全ての前記第1成形シートと前記第2成形シートを相対位置決めし、
相対位置決めして多段に積層した前記第1成形シート及び/又は前記第2成形シートに前記電離放射線を照射し、
前記マイクロ流路の形成部位を除く全ての前記第1積層面と前記第2積層面を同時に接合することを特徴とする請求項7に記載のマイクロ流体デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記第1成形シート及び/又は前記第2成形シートを前記積層方向に貫通する貫通孔が、前記第1積層面と前記第2積層面との間に形成される前記マイクロ流路に連通するように、前記積層方向で隣り合う全ての前記第1成形シートと前記第2成形シートを相対位置決めすることを特徴とする請求項8に記載のマイクロ流体デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記マイクロ流路の形成部位を除く前記第1積層面と前記第2積層面の少なくともいずれかの積層面に、前記第1積層面と前記第2積層面を接合して一体化される前記第1成形シートと前記第2成形シートの側面に連通する凹溝若しくはスリットからなる応力緩和部が形成されていることを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイスの製造方法。
【請求項11】
前記マイクロ流路と前記凹溝の前記第1積層面と前記第2積層面からの深さが同一であることを特徴とする請求項10に記載のマイクロ流体デバイスの製造方法。
【請求項12】
前記マイクロ流路の形成部位を含む前記第1成形シート及び/又は前記第2成形シートの全面に、前記積層方向に沿って前記電離放射線を照射することを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイスの製造方法。
【請求項13】
前記電離放射線は、電子線であることを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電離放射線を照射し、ポリオルガノシロキサン(以下、シリコーンともいう)の成形体とシリコーン若しくはガラスの成形体間が接合した接合体の接合方法と、シリコーンの成形シートとシリコーン若しくはガラスの成形シートとが積層された、その間にマイクロ流路を形成した状態で電離放射線により接合されたマイクロ流体デバイスとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオルガノシロキサンを主成分とするシリコーンは、耐熱性・絶縁性・耐候性・低毒性・透明性などを持つ加工性に優れた材料で、電機・電子部品、輸送機械、建築部材、生活用品、医用品など様々な分野で使用される樹脂材料であることから、シリコーンの成形体(以下、説明の便宜上単にシリコーンという)の加工技術やシリコーン間若しくはシリコーンとガラスを接合する技術の開発が求められている。
【0003】
シリコーン自体にはある程度の自己吸着性があるが、より強固に接合する方法として、接合するシリコーンの表面に、大気圧プラズマ若しくはエキシマUVを照射して表面を活性化し、その後、活性化させた表面間を貼り合わせて接合する接合方法が特許文献1、特許文献2等で知られている。しかしながら、大気圧プラズマ等の照射による表面改質は、一過性で持続性に欠けることから、表面改質後、直ちにシリコーン間を貼り合わせなければならないという制約があった。
【0004】
表面改質が一過性であるという問題について、本願の発明者は、シリコーンの表面に、吸収線量が2MGy以上の電子線を照射して凹状部を形成し、凹状部の1μm以上の表層厚さで、上記表面改質に比べて親水性が長期間安定した新たなシリコーンの加工方法を開発した(非特許文献1)。
【0005】
また、近年は再生医療・創薬・診断分野において、試料を混合、反応、合成、抽出、分析する等の用途で用いるマイクロ流体デバイスの需要が高まり、シリコーンは、生体適合性、耐薬性、低自家蛍光性、光学的透明性、離型性に優れ、ガラスに比べ安価で使い捨て可能であるため、マイクロ流体デバイスの基材として一般的に用いられている。代表的な構造のマイクロ流体デバイスは、表面に幅500nm乃至1mm程度の微細なマイクロ流路が凹設されたシリコーンからなる基材シートに、マイクロ流路を覆うシリコーン若しくはガラスからなるカバーシートを積層し、積層して対向する基材シートとカバーシートの積層面間を接合して、積層する両者を一体化して形成している。
【0006】
基材シートとカバーシートの接合に接着剤を使用する既存の接合方法を用いると、接合面からマイクロ流路内に接着剤の成分(例えば有機溶剤)が漏れ出し、マイクロ流路に注入される試料への影響が懸念されることから、従来は、特許文献1や特許文献2に示すように、基材シートとカバーシートの積層の際に対向する積層面に大気圧プラズマ若しくはエキシマUVを照射して、積層面を表面改質し、その後、両積層面を密着して重ね合わせ、一定時間放置することにより接合している。このシリコーンからなる基材シートとカバーシートの積層面に電子線を照射し、積層面を表面改質して接合することも、特許文献3で知られている。
【0007】
また、シリコーンの基台上にガラス基板を重ねておき、ガラス基板の表面から真空紫外光を照射し、ガラス基板に対向するシリコーンの基台の積層面に10nm以下の酸化膜を形成し、酸化膜を介してシリコーンの基台とガラス基板を接合した光接着方法が特許文献4に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-154898号公報
【特許文献2】特許第3714338号公報
【特許文献3】特開2014-21081号公報
【特許文献4】特開2004-331731号公報
【非特許文献1】T.G.Oyama et al.,Applied Physics Letters,112,213704(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1乃至特許文献3に開示された接合方法は、シリコーンの表面から深さ数10nmの範囲を表面改質して、シリコーン間を接合する技術であり、シリコーン深部を改質することは困難であった。
【0010】
また、上記表面改質処理による接合では、接合するシリコーンの接合面に予め大気圧プラズマ若しくはエキシマUVを照射するので、接合するシリコーン間を分離させる必要があり、更に、表面改質は一過性であるので、表面改質処理後素早く接合面間を密着させるという接合工程上の制約があった。
【0011】
シリコーンの基材シートとカバーシートの積層面を表面改質し、基材シートとカバーシートを接合し、基材シートとカバーシートが一体に積層されたマイクロ流体デバイスとする特許文献1乃至特許文献3に記載の製造方法においても、プラズマ照射や真空紫外線照射によって積層面を表面改質した後、基材シートとカバーシート間を相対位置決め(アライメント)して、表面改質した積層面間を密着し、密着させた状態を所定時間保持するという煩雑な製造工程を要していた。また、このマイクロ流路が凹設された基材シートとマイクロ流路を覆うカバーシートとのアライメント作業には、高精度が要求され、しかも一度積層面間を密着させると、張り直しができないため、製造歩留まりが低いという問題があった。
【0012】
特許文献4に記載の光接着方法によれば、シリコーンの基材シート上にガラスのカバーシートを積層させた状態のまま、ガラスのカバーシートの表面から真空紫外光を照射し、基材シートとカバーシートを接合できるが、カバーシートを真空紫外光が透過するガラスで形成する必要があり、また、真空紫外光の照射によりシリコーンの基材シートの表面に形成される酸化膜を介して基材シートとカバーシートを接合するので、接合むらや十分な接合強度で接合できないという問題がある。
【0013】
また、それぞれマイクロ流路が凹設された複数の基材シートを多段に積層し、多段の各積層面の間に形成される複数のマイクロ流路へそれぞれ試料を注入して、高速並列処理を可能とするマイクロ流体デバイスや、多段に積層される各基材シートに、その両面に形成されるマイクロ流路間に連通する連通孔を穿設し、三次元の経路のマイクロ流路を形成するマイクロ流体デバイスが望まれているが、積層する基材シートとカバーシート毎に高精度に位置決めして密着させる必要がある特許文献1乃至特許文献3に記載の接合方法や、真空紫外光を照射する特許文献4に記載の光接着方法では、これらの多段のマイクロ流体デバイスを製造するのは極めて困難である。
【0014】
更に、シリコーンは、上述の通り、マイクロ流体デバイスの材料として好適であるが、2-3μm程度の無数の微細孔を有する多孔質の構造であるので、ガスバリア性に欠け、低分子化合物を収着(sorption,固体状のポリマー内に吸収)する。そのため、シリコーンで囲われたマイクロ流路内に試料の水溶液を注入するとその濃度が著しく低下し、水溶性の試料を培養、分析するマイクロ流体デバイスの材料としては適さないと考えられていた。
【0015】
更に、代表的なシリコーンであるポリジメチルシロキサン(以下、PDMSという)は、接触角が105度と疎水性であるので、マイクロ流体デバイスの微細なマイクロ流路内では表面張力によって液状の試料が滞るおそれがあった。
【0016】
本発明は、このような従来の問題点を考慮してなされたものであり、シリコーンの成形体と他のシリコーン若しくはガラスの成形体間の複数の接触点で、これらの成形体間を同時に強固に接合する接合体(シリコーン接合体)の接合方法を提供することを目的とする。
【0017】
また、シリコーンの成形体の一定範囲の物性を変化させるシリコーン接合体の接合方法を提供することを他の目的とする。
【0018】
また、積層面間にマイクロ流路が形成されるシリコーンの一組の成形シート間をアライメント後に、積層面間を強固に接合し、一組の成形シートを一体に積層することができるマイクロ流体デバイスとその製造方法を提供することを目的とする。
【0019】
また、各積層面間にマイクロ流路が形成され、多段に積層された複数のシリコーンの成形シートを一括してアライメントした後、各積層面間を強固に接合し、複数の成形シートを多段に一体に積層することができるマイクロ流体デバイスとその製造方法を提供することを目的とする。
【0020】
また、マイクロ流路を形成するシリコーンの成形シートにガスバリア性を加え、マイクロ流路に注入する試料の収着を抑制するマイクロ流体デバイスとその製造方法を提供することを目的とする。
【0021】
また、マイクロ流路を形成するシリコーンの成形シートを疎水性から親水性に変化させ、マイクロ流路内での試料の流動を妨げないマイクロ流体デバイスとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上述の目的を達成するため、請求項1に記載の接合体の接合方法は、ポリオルガノシロキサンを主成分とする1又は2以上の第1成形体と、ポリオルガノシロキサン若しくはガラスを主成分とする1又は2以上の第2成形体とを複数同時に接合する接合体の接合方法であって、
前記第1成形体および前記第2成形体が接触した状態で、これらが接触する1又は2以上の接触点に、電子線、ガンマ線、エックス線のうちのいずれか1つからなる電離放射線を照射し、前記接触点の界面において、前記第1成形体のシロキサン主鎖と前記第2成形体のシロキサン主鎖とを前記電離放射線による電離放射線架橋で共有結合することを特徴とする。
【0023】
電離放射線が透過する範囲に存在する接触点では、接触点の界面での第1成形体と第2成形体のシロキサン主鎖間が電離放射線架橋により共有結合し、強固に接合される。
【0024】
請求項2に記載の接合体の接合方法は、前記電離放射線が、電子線またはガンマ線のいずれかであり、前記接触点における前記電離放射線の吸収線量が860kGy以上であることを特徴とする。
【0025】
第1成形体と第2成形体の接触点での接合強度は、接触点での電離放射線の吸収線量に依存し、電離放射線の吸収線量が860kGy以上であると、接触点で強固に接合する。
【0026】
請求項3に記載の接合体の接合方法は、前記電離放射線が、電子線であり、前記電子線の加速電圧が500keV以上であることを特徴とする
【0027】
加速電圧が大きいほど、電離放射線の入射方向に沿った深部まで、第1成形体および第2成形体を電離放射線が透過することができる。加速電圧が500keV以上の電子線を用いることで、シリコーン接合体を構成する第1成形体または第2成形体として厚みのある材料を用いることができる。
【0028】
請求項4に記載のマイクロ流体デバイスは、第1成形シートと、前記第1成形シートに積層される第2成形シートとを備え、積層方向で接する前記第1成形シートの第1積層面と前記第2成形シートの第2積層面が、その間にマイクロ流路を形成した状態で接合され、前記第1成形シートと前記第2成形シートが一体に積層されたマイクロ流体デバイスであって、前記第1成形シートは、ポリオルガノシロキサンから形成されるとともに、前記第2成形シートは、ポリオルガノシロキサン、ガラス若しくは前記第2積層面にシロキサンの皮膜が形成された有機樹脂から形成され、積層方向で接する前記第1積層面と前記第2積層面が、前記第1積層面と前記第2積層面を透過する、電子線、ガンマ線、エックス線のうちのいずれか1つからなる電離放射線によって、前記第1積層面のシロキサン主鎖と前記第2積層面のシロキサン主鎖とが前記電離放射線による電離放射線架橋で共有結合し、前記第1成形シートと前記第2成形シートが一体に積層されることを特徴とする。
【0029】
積層方向で対向するポリオルガノシロキサンから形成された第1積層面とポリオルガノシロキサン、ガラス若しくはシロキサンの皮膜が形成された第2積層面の界面では、第1積層面と第2積層面のシロキサン主鎖間が電離放射線架橋により共有結合し、強固に接合されている。
【0030】
第1積層面と第2積層面間にマイクロ流路が形成された第1成形シートは、電離放射線が透過することにより、結合エネルギーの低い疎水性のCH3(メチル基)等の側鎖が電離放射線を受けて消失し、結合エネルギーの高い親水性のシロキサン主鎖が表れる。その結果、マイクロ流路は、疎水性から親水性に変化した第1成形シートに形成される。
【0031】
同様に、第1積層面と第2積層面間にマイクロ流路が形成された第1成形シートは、電離放射線が透過することにより、不規則な柔構造のシロキサン主鎖が多数の箇所で隣接するシロキサン主鎖と共有結合して拘束され、ガスバリア性を有するように変化する。その結果、マイクロ流路は、ガスバリア性を有する第1成形シートに形成される。
【0032】
請求項5に記載のマイクロ流体デバイスは、 マイクロ流路の形成部位を除く前記第1積層面と前記第2積層面の少なくともいずれかの積層面に、一体に積層される前記第1成形シートと前記第2成形シートの側面に連通する凹溝若しくはスリットからなる応力緩和部が形成されていることを特徴とする。
【0033】
第1積層面と第2積層面の少なくともいずれかの積層面に形成された応力緩和部で、第1成形シート又は第2成形シートに電離放射線が透過することにより発生する歪みが吸収され、第1積層面と第2積層面が接合されても、一体に積層された第1成形シートと第2成形シートとが歪みむらによって撓むことがない。
【0034】
第1積層面と第2積層面を電離放射線が透過することにより、第1積層面と第2積層面の界面に発生するガスは、応力緩和部を通して、一体に積層される第1成形シートと第2成形シートの側面から外部に放出される。
【0035】
請求項6に記載のマイクロ流体デバイスは、電離放射線が、電子線であることを特徴とする。
【0036】
第1積層面と第2積層面は、高い指向性を有し、照射タイミングの制御が容易である電子線で接合される。
【0037】
請求項7に記載のマイクロ流体デバイスの製造方法は、第1成形シートと第2成形シートを積層し、積層方向で対向する前記第1成形シートの第1積層面と前記第2成形シートの第2積層面との間にマイクロ流路が形成された状態で、前記マイクロ流路の形成部位を除く前記第1積層面と前記第2積層面間を接合するマイクロ流体デバイスの製造方法であって、ポリオルガノシロキサンからなる前記第1成形シートと、ポリオルガノシロキサン、ガラス若しくは前記第2積層面にシロキサンの皮膜が形成された有機樹脂からなる前記第2成形シートとを積層し、積層した前記第1成形シートと前記第2成形シートを相対位置決めし、相対位置決めして積層した前記第1成形シート及び/又は前記第2成形シートに電子線、ガンマ線、エックス線のうちのいずれか1つからなる電離放射線を照射し、前記第1積層面と前記第2積層面とが接触する接触面において、前記第1積層面のシロキサン主鎖と前記第2積層面のシロキサン主鎖とを前記電離放射線による電離放射線架橋で共有結合し、前記マイクロ流路の形成部位を除く前記第1積層面と前記第2積層面とを接合することを特徴とする。
【0038】
相対位置決めして積層した第1成形シート及び/又は第2成形シートに電離放射線を照射することにより、積層方向で対向するポリオルガノシロキサンから形成された第1積層面とポリオルガノシロキサン、ガラス若しくはシロキサンの皮膜が形成された第2積層面の界面では、第1積層面と第2積層面のシロキサン主鎖間が電離放射線架橋により共有結合し、強固に接合される。
【0039】
ポリオルガノシロキサンから形成された第1成形シート及び/又は第2成形シートに電離放射線を照射することにより、結合エネルギーの低い疎水性のCH3(メチル基)等の側鎖が電離放射線を受けて消失し、結合エネルギーの高い親水性のシロキサン主鎖が表れる。その結果、マイクロ流路は、疎水性から親水性に変化した第1成形シート及び/又は第2成形シートに形成される。
【0040】
同様に、ポリオルガノシロキサンから形成された第1成形シート及び/又は第2成形シートに電離放射線を照射することにより、不規則な柔構造のシロキサン主鎖が多数の箇所で隣接するシロキサン主鎖と共有結合して拘束され、ガスバリア性を有するように変化する。その結果、マイクロ流路は、ガスバリア性を有する第1成形シート及び/又は第2成形シートに形成される。
【0041】
請求項8に記載のマイクロ流体デバイスの製造方法は、1又は2以上の前記第1成形シートと1又は2以上の前記第2成形シートを交互に多段に積層し、積層方向で隣り合う全ての前記第1成形シートと前記第2成形シートを相対位置決めし、相対位置決めして多段に積層した前記第1成形シート及び/又は前記第2成形シートに前記電離放射線を照射し、マイクロ流路の形成部位を除く全ての前記第1積層面と前記第2積層面を同時に接合することを特徴とする。
【0042】
交互に多段に積層した第1成形シートと第2成形シートを相対位置決めした後、多段に積層した第1成形シートと第2成形シート間が同時に強固に接合される。
【0043】
ポリオルガノシロキサンから形成された全ての第1成形シート及び/又は第2成形シートは、電離放射線を照射する一工程で同時に疎水性から親水性に変化し、ガスバリア性が付与される。
【0044】
請求項9に記載のマイクロ流体デバイスの製造方法は、前記第1成形シート及び/又は前記第2成形シートを積層方向に貫通する貫通孔が、前記第1積層面と前記第2積層面との間に形成されるマイクロ流路に連通するように、前記積層方向で隣り合う全ての前記第1成形シートと前記第2成形シートを相対位置決めすることを特徴とする。
【0045】
第1成形シート及び/又は第2成形シートを積層方向に貫通する貫通孔が、マイクロ流路に連通するように、積層方向で隣り合う全ての第1成形シートと第2成形シートを相対位置決めした後、多段に積層した第1成形シートと第2成形シート間が同時に強固に接合される。
【0046】
請求項10に記載のマイクロ流体デバイスの製造方法は、前記マイクロ流路の形成部位を除く前記第1積層面と前記第2積層面の少なくともいずれかの積層面に、前記第1積層面と前記第2積層面を接合して一体化される前記第1成形シートと前記第2成形シートの側面に連通する凹溝若しくはスリットからなる応力緩和部が形成されていることを特徴とする。
【0047】
第1積層面と第2積層面の少なくともいずれかの積層面に形成された応力緩和部で、第1成形シート又は第2成形シートに電離放射線が透過することにより発生する歪みが吸収されるので、第1成形シートと第2成形シートを多段に積層して、湾曲する変位が累積されても、多段に積層した全体で大きく湾曲したり、撓むことがない。
【0048】
ポリオルガノシロキサンから形成された第1成形シート及び/又は第2成形シートに電離放射線を照射して、第1成形シート及び/又は第2成形シートの内部に発生するガスは、凹溝若しくはスリットからなる応力緩和部を介して、接合して一体化される第1成形シートと第2成形シートの側面から外部に放出される。
【0049】
請求項11に記載のマイクロ流体デバイスの製造方法は、前記マイクロ流路と前記凹溝の前記第1積層面と前記第2積層面からの深さが同一であることを特徴とする。
【0050】
フォトリソグラフィー技術によるレジストエッチングあるいは電鋳工法により、マイクロ流路と凹溝を形成する同一高さの突部を有する型が容易に得られる。
【0051】
請求項12に記載のマイクロ流体デバイスの製造方法は、前記マイクロ流路の形成部位を含む前記第1成形シート及び/又は前記第2成形シートの全面に、積層方向に沿って電離放射線を照射することを特徴とする。
【0052】
マイクロ流路の形成部位を含む第1成形シート及び/又は第2成形シートの全面に電離放射線を照射するので、ポリオルガノシロキサンから形成されるマイクロ流路の内面が、親水性に変化し、ガスバリア性を有する。
【0053】
請求項13に記載のマイクロ流体デバイスの製造方法は、前記電離放射線が、電子線であることを特徴とする。
【0054】
全ての第1積層面と第2積層面間は、高い指向性を有し、照射タイミングの制御が容易である電子線で接合される。
【発明の効果】
【0055】
請求項1の発明によれば、第1成形体又は第2成形体が接触する1又は2以上の接触点を同時に強固に接合できる。
【0056】
また、ポリオルガノシロキサンを主成分とする第1成形体又は第2成形体の表面から接触点までの範囲で水接触角を低下させることができる。
【0057】
請求項4の発明によれば、第1成形シートと第2成形シートは、積層した状態で電離放射線の照射により接合されているので、接合工程前に、第1成形シートと第2成形シートのアライメントを行うことができる。
【0058】
積層面の間にマイクロ流路が形成された第1成形シートと第2成形シートを、疎水性から親水性に変化させることができるので、マイクロ流路に注入された水溶液試料が表面張力によってマイクロ流路内で滞ることがない。
【0059】
また、積層面の間にマイクロ流路が形成された第1成形シートと第2成形シートがガスバリア性を有し、シリコーンをマイクロ流体デバイスの材料として用いても、マイクロ流路に注入された低分子化合物等の試料の収着を抑制できる。
【0060】
請求項5の発明によれば、第1積層面と第2積層面を透過する電離放射線により接合されても、一体に積層された第1成形シートと第2成形シートは、歪みむらによって撓むことがなく平面を維持する。
【0061】
また、第1積層面と第2積層面を電離放射線が透過しても、第1積層面と第2積層面の界面にガスが滞留することがなく、残留ガスによる界面のボイドの発生を抑制できる。
【0062】
請求項6の発明によれば、第1積層面と第2積層面が、高い指向性を有し、照射タイミングの制御が容易である電子線で接合されるので、第1成形シートと第2成形シートが一体に積層されたマイクロ流体デバイスの量産が容易となる。
【0063】
請求項7の発明によれば、積層した第1成形シートと第2成形シートを相対位置決めした後に、第1成形シート及び/又は第2成形シートに電離放射線を照射し、相互を接合するので、接合前に第1成形シートと第2成形シートの相対位置決めを繰り返して行うことができる。
【0064】
積層面の間にマイクロ流路が形成された第1成形シート及び/又は第2成形シートを、疎水性から親水性に変化させることができるので、マイクロ流路に注入された液状の試料が表面張力によってマイクロ流路内で滞ることがない。
【0065】
また、積層面の間にマイクロ流路が形成された第1成形シート及び/又は第2成形シートにガスバリア性を付与することができるので、シリコーンをマイクロ流体デバイスの材料として用いても、マイクロ流路に注入された低分子化合物等の試料の収着を抑制できる。
【0066】
請求項8の発明によれば、交互に多段に積層した全ての第1成形シートと第2成形シートを、その間にマイクロ流路を形成した状態で相対位置決めした後に、積層方向で隣り合う全ての第1成形シートと第2成形シート間を同時に強固に接合できるので、多数のマイクロ流路を並列に形成し、若しくはマイクロ流路を立体形状に形成したマイクロ流体デバイスを容易に製造できる。
【0067】
全ての第1積層面と第2積層面の間に形成された各マイクロ流路を、ポリオルガノシロキサンから形成され、親水性に変化した第1成形シート及び/又は第2成形シートに形成できる。
【0068】
また、積層面間にマイクロ流路が形成される第1成形シート及び/又は第2成形シートがポリオルガノシロキサンから形成される成形シートであっても、その成形シートにガスバリア性を付与することができる。
【0069】
請求項9の発明によれば、第1成形シート及び/又は第2成形シートを積層方向に貫通する貫通孔がマイクロ流路に連通するように、交互に多段に積層した全ての第1成形シートと第2成形シートを相対位置決めした後に、積層方向で隣り合う全ての第1成形シートと第2成形シート間を同時に強固に接合できるので、マイクロ流路が立体形状に形成されるマイクロ流体デバイスを容易に製造できる。
【0070】
請求項10の発明によれば、多段に積層した第1成形シート及び/又は第2成形シートに電離放射線を照射し、第1積層面と第2積層面を接合する工程において、接合面の一部に歪みが発生しても、接合面に形成する応力緩和部を越えて歪みが拡大することがなく、接合される各第1成形シートと第2成形シートを平坦に維持できる。従って、第1成形シートと第2成形シートを交互に多段に一体に積層しても、第1積層面と第2積層面の間に形成されるマイクロ流路の一部が傾斜したり、内径が変化することがなく、多段に積層した全体で大きく湾曲したり、撓むこともない。
【0071】
多段に積層した第1成形シート及び/又は第2成形シートに電離放射線を照射し、ポリオルガノシロキサンから形成された第1成形シート及び/又は第2成形シートの内部にガスが発生しても、ポリオルガノシロキサンの微細孔と接合面に形成される応力緩和部を介して外部に放出されるので、残留ガスにより第1成形シートや第2成形シートに発生するボイドを抑制できる。
【0072】
請求項11の発明によれば、マイクロ流路と応力緩和部の凹溝を、高精度の成形が可能な電鋳の金型あるいはフォトリソグラフィー技術によるレジストエッチング型で成形することができる。
【0073】
請求項12の発明によれば、マイクロ流路の内面が親水性に変化し、マイクロ流路に注入された水溶液試料がマイクロ流路内で滞ることがなく、マイクロ流路に注入された低分子化合物等の試料の収着を抑制できる。
【0074】
又、全てのマイクロ流路に電離放射線が透過するので、マイクロ流路内が滅菌される。
【0075】
請求項13の発明によれば、全ての第1積層面と第2積層面が、高い指向性を有し、照射タイミングの制御が容易である電子線で接合されるので、第1成形シートと第2成形シートが一体に積層されたマイクロ流体デバイスの量産が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【
図1】本発明の第1実施の形態に係るシリコーン接合体1の製造過程を示し、(a)は、仮止め体1’を、(b)は、仮止め体1’に電離放射線を照射する工程を、(c)は、電離放射線を照射して第1成形体2と第2成形体3間が接合されたシリコーン接合体1を、それぞれ示す側面図である。
【
図2】ガンマ線を照射して接合された2枚のPDMSフィルム5A、5Bの接合強度を比較する方法を説明する説明図である。
【
図3】加速電圧が異なる電子線をPDMSに照射して接合体を得る場合の接合可能範囲を示すグラフである。
【
図4】電子線を照射して、10枚のPDMSフィルム間を接合したシリコーン接合体の平面側から撮影した写真である。
【
図5】
図4のシリコーン接合体を側面側から撮影した写真である。
【
図6】第2実施の形態に係るマイクロ流体デバイス10の分解斜視図である。
【
図7】マイクロ流体デバイス10の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0077】
以下、本発明の第1実施の形態にかかるシリコーン接合体1と、そのシリコーン接合体1の製造方法を、
図1を用いて説明する。
図1において、接合体1は、3個の第1成形体2(2a、2b、2c)と、3個の第2成形体3(3a、3b、3c)とから構成され、相互が接触する接触領域4a~4hで後述する共有結合により結合されている。
【0078】
〈シリコーン接合体の製造方法〉
シリコーン接合体1の製造方法は、1又は2以上の第1成形体2と1又は2以上の第2成形体3とが接触する接触点に電離放射線を照射する工程を含む。かかる電離放射線照射工程は、前記第1成形体2と第2成形体3とが接触した状態で電離放射線を照射する。換言すると、第1成形体2と第2成形体3とを接触させた仮止め体に対して、電離放射線を照射する工程を含む。かかる電離放射線照射により、第1成形体2と第2成形体3とが接触する接触点でこれら成形体を接合する。
【0079】
図1(a)に、電離放射線を照射する前の仮止め体を示す。図示するように、第1成形体2と第2成形体3は、相互が接触する全ての接触領域4a~4hで接触を維持するように仮保持された仮止め体1’となっている。かかる仮止め体1’は、図示しない冶具等で各成形体の接触状態を保持してもよいし、シリコーンが有する自己吸着性を利用して各成形体の接触状態を保持してもよい。
【0080】
第1成形体2は、ポリオルガノシロキサンを主成分とするものであれば、他の物質を含有していてもよい。ここで、主成分とは、ポリオルガノシロキサン含有量が50質量%以上のものをいう。好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上のポリオルガノシロキサンを含む。例えば、他の成形体との積層面にシロキサン皮膜が形成されたシクロオレフィンポリマー(COP)等の有機樹脂で形成してもよい。また、ポリオルガノシロキサンを主成分とするとは、実質的にポリオルガノシロキサンからなるものを含む。
【0081】
また、第2成形体3は、ポリオルガノシロキサンを主成分とするもの、あるいは、SiO2(ガラス)を主成分とするガラスで形成するものである。ここでSiO2(ガラス)を主成分とするとは、SiO2含有量が50質量%以上のものをいい、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上のSiO2を含む。
【0082】
ここで、ポリオルガノシロキサンは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を含む。以下、ポリオルガノシロキサンがPDMSの場合を例として、接合体および接合体の製造方法について説明する。
図1(a)に示す実施の形態において、第1成形体2と第2成形体3は、いずれもポリオルガノシロキサンからなり、それぞれ所望の形状に形成されている。
【0083】
この第1実施の形態において、第1成形体2a、2b、2cと、第2成形体3a、3b、3cの各形状は、フィルム状、球状など任意の形状とすることができ、各接触領域4a~4hや各内部に中空の箇所があってもよく、凹部や凸部が形成されていてもよい。また、上記第1成形体2と上記第2成形体3は、所望の位置で接触を容易とするための位置決め機構を有していてもよい。
【0084】
次に、上記仮止め体1’に電離放射線を照射する。かかる電離放射線の照射により、該電離放射線が透過する深さDの範囲内に存在する接触点もしくは接触領域で上記第1成形体2と第2成形体3を接合する。
図1(b)に示す実施の形態では、鉛直方向に沿った上方から下方に向かって電離放射線を照射しており、仮止め体1’の接触領域4a~4hを接合している。
【0085】
本実施の形態において、電離放射線は従来公知のものを使用可能であり、例えば電子線、ガンマ線、エックス線が挙げられる。かかる電離放射線を1種または複数種、組み合わせて照射を行ってもよい。
【0086】
電離放射線が電子線である場合に、仮止め体1’に電子線が透過する深さDは、電子線の加速電圧により変化し、加速電圧が高いほどDは長くなる。例えば、密度0.965g/cm3のPDMSに500keVの電子線を一方向から照射する場合、Dは約1.5mmであり、その間に中空の領域が存在する場合には、Dは更に長くなる。従って、PDMSからなる仮止め体1’の第1成形体2aの表面から接触領域4dまでの電離放射線の入射方向に沿った長さが1.5mmである場合には、加速電圧が500keVの電子線を照射する。
【0087】
電離放射線がコバルト60からのガンマ線である場合に、PDMSからなる仮止め体1’にガンマ線が透過する深さDは、約300mmであり、その間に中空の領域が存在する場合には、Dは更に長くなる。
【0088】
電離放射線の照射により一度に接合できる接触点若しくは接触領域4は、電離放射線が透過するDの範囲であればいくつ存在してもよい。例えば、100μm厚のフィルム状のシリコーン成形体またはガラス成形体が5枚積層されている場合には、表面から500μm以上の深さまで透過する電離放射線を照射して、全ての成形体間を一度に接合できる。
【0089】
電離放射線の照射条件は特に限定されないが、例えば、電子線を用いる場合、10keV以上が好ましく、30keV以上がより好ましく、500keV以上がさらに好ましい。かかる加速電圧は、接合対象の厚みに応じて適宜設定すればよい。前述したとおり、電子線の加速電圧が大きいほど、電子線が透過する深さDが大きくなる。電子線の加速電圧の上限は特に限定されないが、例えば10MeV以下で設定すればよく、例えば5MeV以下とすればよい。
【0090】
また、各接触領域4a~4hにおける電離放射線(例えば、電子線またはガンマ線)の吸収線量は、各接触領域4a~4hにおいて強固に接合するように200kGy以上とすることが好ましく、500kGy以上とするのがより好ましく、860kGy以上とすることがさらに好ましい。吸収線量が大きいほど、後述する共有結合が多く形成される。ただし、吸収線量が大きすぎると、第1成形体または第2成形体の機械的強度が低下するため、例えば40MGy以下とすることが好ましく、20MGy以下とするのがより好ましい。
【0091】
また、電離放射線の照射スポットサイズは、接合する接触点若しくは接触領域4が電離放射線が透過する範囲に含まれている限り任意であり、照射スポットを動かさない固定照射であっても、照射スポットを移動させるスキャン照射のいずれであってもよい。
【0092】
なお、上記電離放射線の照射は、1回または複数回数の工程で組み合わせて照射を行ってもよく、また、接合体(仮止め体)に対して一方向から電離放射線を照射してもよいし、照射方向を変更してもよい。更に、各接触領域4a~4hの接合は、上記電離放射線の照射に加えて、プラズマ処理等による接触面の表面改質や接着剤などを用いた既存の接合方法を、組み合わせてもよい。
【0093】
仮止め体1’に電離放射線を照射すると、
図1(b)に破線で示すように、ポリオルガノシロキサン(例えばPDMS)からなる第1成形体2a、2b、2cと、第2成形体3a、3b、3cに電離放射線が透過する。ポリオルガノシロキサン(例えばPDMS)は、電離放射線を受けて、CH
3(メチル基)等の側鎖が切り離されて、ガスなどとなって飛散する。そのため、シロキサン主鎖間は、
(1式)
【化4】
(2式)
【化5】
(3式)
【化6】
(1式、2式、3式において、Rは有機基を示し、互いに同一若しくは異なっていてもよい)のいずれかの構造式に示す (-Si-O-Si-)のシロキサン結合による共有結合で結合する。
【0094】
上記1式、2式、3式において、Rは有機基であれば特に限定されない。例えば、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基など)、アリール基(フェニル基、ナフチル基など)、または水素原子などが挙げられ、好ましくはメチル基である。
【0095】
電離放射線は、第1成形体2a、2b、2cと第2成形体3a、3b、3cが接触する各接触領域4a~4h(即ち接触点)も透過する。これらの接触領域4a~4hに臨むポリオルガノシロキサン(例えばPDMS)は、同様に電離放射線を受けて、CH3(メチル基)等の側鎖が切り離され、各接触領域4a~4hの界面において、(-Si-O-)基を有するPDMSとPDMS若しくはガラスが、(1)式乃至(3)式に示す構造の(-Si-O-Si-)からなるシロキサン結合で共有結合する。
【0096】
すなわち、電離放射線の入射方向(鉛直方向)に沿って、仮止め体1’の表面(第1成形体2aの表面または第2成形体3aの表面)から電離放射線が透過する深さDの範囲にある全ての接触領域4a~4h(即ち接触点)において接触する第1成形体2a、2b、2cと第2成形体3a、3b、3c間が同時に強固に接合され、全体が一体の
図1(c)に示すシリコーン接合体1が得られる。
【0097】
また、第1成形体2a、2b、2cまたは第2成形体3a、3b、3cがポリオルガノシロキサン(例えばPDMS)を主体とするものである場合、上記電離放射線の入射方向に沿って電離放射線が透過する範囲内(電離放射線照射面から深さDまでの範囲)の第1成形体と第2成形体中を構成するポリオルガノシロキサン(例えばPDMS)は、電離放射線を受けて、シロキサン主鎖間が(1)式乃至(3)式に示す構造の(-Si-O-Si-)からなるシロキサン結合で共有結合する。即ち、上記電離放射線が透過する範囲内に存在する第1成形体と第2成形体の接合点および第1成形体または第2成形体の接合点から500nm以上離れた領域で、上記(1)式乃至(3)式に示す構造の共有結合が形成される。
【0098】
ポリオルガノシロキサン(例えばPDMS)を主体とする第1成形体または第2成形体に上記電離放射線が照射されると、疎水性のCH3(メチル基)等の側鎖が電離放射線を受けて消失し、親水性のシロキサンの主鎖が表れる。その結果、ポリオルガノシロキサンを主成分とする成形体の表面(電離放射線照射面)から接触点までの範囲で、成形体の水に対する接触角が低下する。即ち、ポリオルガノシロキサンを主成分とする第1成形体又は第2成形体の表面から電離放射線が透過するまでの範囲で水接触角を低下させることができる。例えば、第1成形体または第2成形体がPDMSを主体とするものである場合、電離放射線照射前の水接触角は約105度程度であるが、電離放射線照射後は当該水接触角を100度以下、好ましくは90度以下、より好ましくは80度以下に低減することができる。
【0099】
また、ポリオルガノシロキサン(例えばPDMS)を主体とする第1成形体または第2成形体に上記電離放射線が照射されると、当該成形体の電離放射線透過範囲において上記(1)式乃至(3)式に示す構造の共有結合が形成される。即ち、ポリオルガノシロキサンを主成分とする成形体の表面(電離放射線照射面)から電離放射線が透過するまでの範囲で、不規則な柔構造のシロキサン主鎖が多数の箇所で隣接するシロキサン主鎖と共有結合して拘束され、ガスバリア性を有するように変化する。例えば、電離放射線照射前のガスバリア性と比較して、ガス透過性が90%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下に低減する。換言すると、接合体の電離放射線透過領域は、電離放射線非透過領域と比較して、ガス透過性が低下しており、電離放射線領域透過領域のガス透過性は電離放射線非透過領域の90%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、70%以下がより好ましい。
【0100】
なお、接合体のガスバリア性(ガス透過性)は、酸素透過性および/または水蒸気透過性を指標として評価し得る。酸素透過性はJIS K7126-1 付属書2に、水蒸気透過性はJIS K7129-1 A法に準拠して評価することができる。
【0101】
第1成形体2a、2b、2cと第2成形体3a、3b、3cの構造が、上記構造に変化しているかどうかは、電離放射線を照射する前に比べて3%以上、炭素もしくは炭素を含む構造(メチル基など)が減少するのでエックス線光電子分光装置やフーリエ変換赤外分光法で、上記構造変化を確認することができる。
【0102】
〈シリコーン接合体〉
本明細書で開示するシリコーン接合体1は、ポリオルガノシロキサンを主成分とする1又は2以上の第1成形体と、ポリオルガノシロキサン若しくはガラスを主成分とする1又は2以上の第2成形体とが接合された接合体であって、第1成形体と第2成形体とが1以上の接合点で接合したものである。第1成形体と第2成形体については、上記シリコーン接合体1の製造方法で説明したものと同等のものを適宜選択して用いればよい。ここでの詳細な説明は割愛する。
【0103】
シリコーン接合体1は、第1成形体と第2成形体の接合点の界面において、(1)式乃至(3)式に示す構造の(-Si-O-Si-)からなるシロキサン結合で、これらの成形体が結合している。
【0104】
シリコーン接合体1は、ポリオルガノシロキサンを主成分とする成形体のうち、接合体を製造する過程で電離放射線が透過した領域において、該ポリオルガノシロキサンのシロキサン主鎖が上記(1)式乃至(3)式に示す構造の(-Si-O-Si-)からなるシロキサン結合で結合されている。換言すると、第1成形体または第2成形体の少なくとも一方が、上記接合点から500nm以上の深さにおいて、(1)式乃至(3)式に示す構造の(-Si-O-Si-)からなるシロキサン結合でシロキサン主鎖間が結合している。かかる第1成形体または第2成形体の内部に形成されるシロキサン結合が確認される深さは、当該成形体の厚みにもよるが、少なくとも接合点から500nm以上であり、好ましくは800nm以上であり、より好ましくは1000nm以上離れた領域で確認することができる。
【0105】
(1)式乃至(3)式に示す構造の(-Si-O-Si-)からなるシロキサン結合の存在は、エックス線光電子分光装置やフーリエ変換赤外分光法で、上記構造変化を確認することができる。
【0106】
また、上記構造では、疎水性のCH3(メチル基)等の側鎖が電離放射線を受けて飛散し、親水性のシロキサン主鎖が表れるので、電離放射線が透過した第1成形体2a、2b、2cと第2成形体3a、3b、3cも、水に対する接触角が低下する。
【0107】
また、第1成形体2a、2b、2cと第2成形体3a、3b、3cのPDMSの不規則な柔構造のシロキサンの主鎖が多数の箇所で隣接するシロキサンの主鎖と共有結合して拘束され、ガスバリア性を有するように変化し、電離放射線の照射前に比べてガス透過性が3%以上抑制される。ガス透過性の変化は、圧力センサやガスクロマトグラフなどで酸素または水蒸気が試験片を透過する量を測定することで評価することができる。
【0108】
更に、電離放射線が透過した第1成形体2a、2b、2cと第2成形体3a、3b、3cは、電離放射線の吸収線量に依存して収縮し、圧縮弾性率は電離放射線の照射前に比べて5%以上上昇する。例えば、電離放射線の吸収線量を適宜設定することで、電離放射線照射前の弾性率と比較して、好ましくは8%以上、より好ましくは10%以上、弾性率が上昇した接合体を得ることができる。換言すると、接合体の電離放射線透過領域は、電離放射線非透過領域と比較して、弾性率が5%以上上昇しており、好ましくは電離放射線透過領域の弾性率が電離放射線非透過領域の8%以上、より好ましくは10%以上上昇した接合体を得ることができる。なお、弾性率の上限は特に限定されないが、弾性率が高すぎると機械強度が低下しがちである。このため、例えば弾性率は50MPa以下とするのが好ましい。弾性率の変化は、走査型プローブ顕微鏡や圧縮試験で確認できる。
【0109】
(実施例1)
(ガンマ線によるPDMSフィルム間の接合)
厚さ1mm、幅1.5cm、長さ2cmの2枚のPDMSフィルム5A、5Bを1cm重ねて水平に配置し、ガンマ線(コバルト60)を、700kGy、860kGy、1000kGy、1640kGyの4種類の吸収線量にかえて照射し、その後、
図2に示すように、2枚のPDMSフィルム5A、5Bを矢印で図示する長手方向の逆方向に引っ張り、PDMSフィルム5A、5B間の接合強度を比較した。
【0110】
その結果、表1に示すように、吸収線量が700kGy以下では、材料破壊が生じる前に剥離した。また、吸収線量が860kGy以上で剥離前に材料破壊が生じる程度にPDMSフィルム5A、5B間は強固に接合する。
【0111】
【0112】
(実施例2)
(電子線による多段マイクロ流体デバイスを構成する成形シート間の接合)
各積層面間にマイクロ流路が形成された状態で積層される11枚のPDMSからなる成形シートに、積層方向に沿って電子線を照射し、11枚の成形シート間の接合状態を確認した。
【0113】
成形シートは、積層面にマイクロ流路が微細加工された厚さ0.5mmのPDMSからなる成形シートであり、11枚の成形シートを積層して仮止めした全体の厚さは、5.5mmとなっている。11枚の成形シート間をまとめて接合するための電子線の加速電圧や照射エネルギー(吸収線量)は、シミュレーション結果から選択する。例えば、
図3は、PDMSに加速電圧が異なる電子線を照射したときに電子線が透過する深さ、すなわち接合可能範囲(D)を、モンテカルロシミュレーションコードで計算したものである。加速電圧に応じ、接合可能範囲Dが拡大することを示している。
【0114】
そこで、このシミュレーション結果をもとに、厚さ0.5mmのPDMSの成形シートを11枚積層して仮止めした積層体に対して、加速電圧2MeVの電子線を積層体の平均の吸収線量が2.2MGyとなるまで照射したところ、11枚のPDMSの成形シート間が完全に接合されたマイクロ流体デバイスが得られた。
【0115】
(実施例3)
(電子線によるPDMSフィルム間の接合)
厚さ0.5mm、1辺の長さが20mmの正方形PDMSフィルムを10枚積層した状態で仮止めし、加速電圧2MeVの電子線を積層体の平均の吸収線量が2MGyとなるまで照射した。
【0116】
その結果、
図4、
図5に示すように、10枚のPDMSフィルムが各積層面間で完全に接合されたシリコーン接合体が得られた。このシリコーン接合体は、
図4に示すように、高い透明性を保っている。
【0117】
(実施例4)
(ガス透過性の評価)
厚さ1mm、15cm角のPDMSシートに1MeVの電子線を約2.2MGy照射し、未照射のPDMSシートと酸素透過性と水蒸気透過性を比較した。酸素透過性はJIS K7126-1 付属書2に、水蒸気透過性はJIS K7129-1 A法に準拠して評価した。結果を以下の表2に示すように、PDMSの酸素透過性、水蒸気透過性ともに照射後に減少しており、本発明によりガス透過性が低下し、ガスバリア性が向上することがわかる。
【0118】
【0119】
(実施例5)
(硬さの評価)
厚さ500μm、10mm×20mmのPDMSフィルムを3枚重ねたサンプルにガンマ線(コバルト60)を1.6MGy照射して接合した。照射前後、すなわち接合前後のサンプルの圧縮弾性率を、クリープメーター(RE2-3305B、山電)を用い、加重20Nで評価したところ、照射前は約3MPaであったヤング率が、照射後は約5.5MPaに上昇することがわかった。この結果から、本発明によりPDMSの圧縮弾性率が上昇することがわかる。
【0120】
次に、本発明の第2実施の形態に係るマイクロ流体デバイス10とその製造方法を、
図6、
図7を用いて説明する。このマイクロ流体デバイス10は、2枚のカバーシート11a、11bと2枚のベースシート12a、12bを交互に4段に積層して構成され、積層方向で対向するカバーシート11の積層面13とベースシート12の積層面14の間に形成されるマイクロ流路15に有機化合物、生体試料などの微量の試料を注入し、マイクロ流路15内に注入される試料を混合、反応、合成、抽出、分離、若しくは分析する用途で使用される。
【0121】
図7に示すように、上方から3段目のカバーシート11bは、その上方のベースシート12aに対向する上積層面13aにマイクロ流路15を形成する凹部15aが凹設されたベースシートを兼ね、また、上方から2段目のベースシート12aは、カバーシート11bの上積層面13aに凹設された凹部15aを覆うカバーシートを兼ねている。これにより、カバーシート11とベースシート12を4段に重ねた各積層面13、14の間に3段に分かれたマイクロ流路15が並列に形成される。
【0122】
マイクロ流体デバイス10の素材として、シリコーン(PDMS)は、生体適合性、耐薬性、低自家蛍光性、光学的透明性、離型性に優れ、ガラスに比べ安価で使い捨て可能であることから、ここでは、カバーシート11とベースシート12のいずれもポリオルガノシロキサンの一種であるPDMSから形成されるが、積層面13、14にシロキサンの皮膜が形成されたシクロオレフィンポリマー(COP)等の有機樹脂で形成してもよい。また、積層方向で積層面13、14が対向するカバーシート11とベースシート12がいずれもガラスで形成されるものでなければ、カバーシート11とベースシート12のいずれか一方をSiO2を主成分とするガラスで形成してもよい。
【0123】
カバーシート11とベースシート12は、それぞれPDMSを成形材料として、電鋳の金型を用いたインジェクション成形で厚さが1.5mmの平板状に形成され、2段目から4段目のカバーシート11b、ベースシート12a、12bの表面(上積層面13a、14a)に、幅及び深さが500nm乃至1mmのマイクロ流路15を形成する凹部15aと、凹部15aと同一深さの応力緩和部となる多数の凹溝16が形成されている。
【0124】
マイクロ流路15を形成する凹部15aは、マイクロ流体デバイス10の用途に応じて、その長さや形状、本数が任意に設計され、凹部15aの一端は、後述する注入孔18や排出孔19にマイクロ流路15に連通させるために、
図6に示すように、凹部15aの幅より長い内径の円筒形となっている。カバーシート11とベースシート12の各積層面13、14の間に3段に並列に形成されたマイクロ流路15の間は、2段目から4段目のカバーシート11b、ベースシート12a、12bにそれぞれ貫通する貫通孔17を介して連通している。
【0125】
また、応力緩和部となる多数の凹溝16は、直交する2方向に沿った多数の凹溝16が、マイクロ流路15を形成する凹部15aの形成部位を除くカバーシート11bの上積層面13aとベースシート12a、12bの上積層面14aの全域に、それぞれ交差して格子状にむらなく形成される。凹溝16は、カバーシート11bとベースシート12a、12bの端面まで連続して形成されるので、カバーシート11a、11bとベースシート12a、12bを交互に4段に積層したマイクロ流体デバイス10の側面で外部に連通する。
【0126】
本実施の形態によれば、カバーシート11bとベースシート12a、12bの表面(上積層面13a、14a)に凹設するマイクロ流路15を形成する凹部15aや応力緩和部となる凹溝16を同一の深さとするので、微細なマイクロ流路15を形成する凹部15aや凹溝16を高精度に成形可能な電鋳の金型を用いてインジェクション成形により形成することができる。
【0127】
最上段のカバーシート11aには、2段目のベースシート12aとの間に形成されるマイクロ流路15に連通する位置に、マイクロ流路15へ試料を注入する注入孔18とマイクロ流路15から試料を排出する排出孔19が穿設されている。
【0128】
尚、上述のように、ベースシート12とカバーシート11は、いずれもインジェクション成形で成形しているが、金型を用いて量産可能に成形できれば、流動数、PDMSの種類、ベースシート12やカバーシート11の形状に合わせて、適宜トランスファー成形、コンプレッション成形等の種々の成形法で成形することができる。
【0129】
上述のように構成された2枚のカバーシート11a、11bと2枚のベースシート12a、12bは、
図7に示すように、積層方向で対向する各積層面13、14間に電子線を照射することにより一体に接合され、各積層面13、14の間にマイクロ流路15が3段に並列に形成されたマイクロ流体デバイス10となっている。
【0130】
以下、このマイクロ流体デバイス10を製造する方法を説明する。始めに、上述したようにインジェクション成形で成形した2枚のカバーシート11a、11bと2枚のベースシート12a、12bを、最下段のベースシート12bから最上段のカバーシート11aまで順に下段側のシートに上段側のシートを相対位置決めしながら重ねていく。すなわち、4段目のベースシート12bの上積層面14aに凹設されたマイクロ流路を形成する凹部15aに3段目のカバーシート11bに穿設された貫通孔17が一致するように、ベースシート12bの上積層面14aにカバーシート11bの下積層面13bを貼り合わせ、その後、カバーシート11bの上積層面13aに凹設されたマイクロ流路を形成する凹部15aに2段目のベースシート12aに穿設された貫通孔17が一致するように、カバーシート11bの上積層面13aにベースシート12aの下積層面14bを貼り合わせ、更にその後、2段目のベースシート12aの上積層面14aに凹設されたマイクロ流路を形成する円筒形となった凹部15aの各一端に、1段目のカバーシート11aに穿設された注入孔18と排出孔19が一致するように、ベースシート12aの上積層面14aにカバーシート11aの下積層面13bを貼り合わせる。
【0131】
カバーシート11とベースシート12間を相対位置決めしながら積層方向で対向する上下の積層面13、14を貼り合わせる上記アライメント工程では、積層面13、14間が接合されるものではないので、正確に位置決めされるまで何度も剥離させて張り直すことができる。また、PDMSには、ある程度の自己吸着性があるので、所定の治具などを用いずに、相対位置決めして交互に重ねた2枚のカバーシート11a、11bと、2枚のベースシート12a、12bを積層状態で仮保持できる。
【0132】
続いて、4枚のシート11a、11b、12a、12bを積層させた積層体に、電離放射線を照射して、積層方向で対向する全てのカバーシート11の積層面13とベースシート12の積層面14間を同時に接合するが、PDMSのシートを4段重ねた積層体の厚さが6mmであることから、
図3に示すシミュレーション結果を参照し、加速電圧2MeVの電子線を照射する。
【0133】
電子線は、積層体の積層方向(鉛直方向)に沿って、最上段のカバーシート11aの平面全体にむらなく照射し、これにより、積層方向で対向する全てのカバーシート11の積層面13とベースシート12の積層面14間が同時に強固に接合され、2枚のカバーシート11a、11bと2枚のベースシート12a、12bが交互に一体に積層されたマイクロ流体デバイス10が製造される。
【0134】
このマイクロ流体デバイス10は
図7の破線で示すように、上下のマイクロ流路15間を貫通孔17を介して連通させているので、所望のマイクロ流路15を立体形状で設計できる。
【0135】
電子線を照射する工程では、マイクロ流路15の形成部位を含む2枚のカバーシート11a、11bと2枚のベースシート12a、12bの全域に電子線が透過する。従って、マイクロ流路15の内壁面の水に対する接触角は低下し、マイクロ流路15に注入される水溶液が表面張力によってマイクロ流路15内に滞ることがない。
【0136】
同様に、電子線を照射する工程では、マイクロ流路15の形成部位を含む2枚のカバーシート11a、11bと2枚のベースシート12a、12bの全域に電子線が透過するので、PDMSからなるカバーシート11a、11bと2枚のベースシート12a、12bのガス透過率が低下する。その結果マイクロ流路15に注入された試料のカバーシート11a、11b、ベースシート12a、12b内への収着を抑制できる。
【0137】
更に、マイクロ流路15には、積層面13、14の間に外部と遮断された状態で電子線が透過することで、試料を注入する前のマイクロ流路15内が滅菌される。
【0138】
更に、カバーシート11a、11bと2枚のベースシート12a、12bに電子線か透過することにより収縮するが、応力緩和部である凹溝16において収縮歪みが吸収されるので、カバーシート11a、11bと2枚のベースシート12a、12bの平坦に維持できる。その結果、カバーシート11とベースシート12を多段に重ねても、マイクロ流体デバイス10の全体が大きく湾曲したり、撓むこともない。
【0139】
更に、PDMSからなるカバーシート11やベースシート12に電子線か透過することにより、CH3(メチル基)等の側鎖がガスとなってカバーシート11やベースシート12内に発生するが、PDMSの微細孔と応力緩和部である凹溝16を介して外部に放出されるので、カバーシート11やベースシート12内、若しくはその積層面13、14にボイドが発生する恐れがない。
【0140】
この第2実施の形態では、電子線を照射して、交互に積層されるカバーシート11とベースシート12間を接合しているが、ガンマ線、エックス線などの他の電離放射線を照射して接合してもよい。
【0141】
また、上実施の形態では、4段に積層したカバーシート11とベースシート12間を電離放射線を照射して接合したが、仮止めされた積層体の全ての接合する積層面間に電離放射線が到達する限り、カバーシート11とベースシート12を多段に積層したマイクロ流体デバイス10にも適用できる。
【0142】
また、電離放射線を照射する照射方向は、上記鉛直方向に限らず、また、カバーシート11の積層面13とベースシート12の積層面14の全面を接合する必要がなければ、仮保持した積層体の表面の一部に電子線を照射してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明は、複数の箇所でシリコーンの成形体間を接合して製造されるシリコーン接合体に適している。
【符号の説明】
【0144】
1 シリコーン接合体
2(2a、2b、2c) 第1成形体
3(3a、3b、3c) 第2成形体
4a~4h 接触領域
10 マイクロ流体デバイス
11a、11b カバーシート(第1成形シート)
12a、12b ベースシート(第2成形シート)
13 積層面(第1成形面)
14 積層面(第2積層面)
15 マイクロ流路
16 凹溝(応力緩和部)