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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156792
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド及び記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
B41J2/14 301
B41J2/14 611
【審査請求】有
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024124106
(22)【出願日】2024-07-31
(62)【分割の表示】P 2022512109の分割
【原出願日】2021-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2020059483
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020059484
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020059485
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135828
【弁理士】
【氏名又は名称】飯島 康弘
(72)【発明者】
【氏名】田畑 周平
(72)【発明者】
【氏名】東別府 誠
(72)【発明者】
【氏名】平山 武
(72)【発明者】
【氏名】志村 元
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 幸弘
(57)【要約】      (修正有)
【課題】圧電素子に生じる応力を低減することでヘッドの耐久性を向上させる。
【解決手段】圧電アクチュエータ13は、第1活性領域53A及び第2活性領域53Bを有している。第1活性領域は、圧力室21の中央部に重なっている。第2活性領域は、第1活性領域よりも加圧面側に位置しており、圧力室の周縁部及び圧力室の外側の領域に重なっている。第1活性領域だけでなく、第2活性領域を駆動することによって、圧電素子全体としての変位を大きくすることができる。第2活性領域は、圧力室の外縁付近において応力が大きくなりやすいが、第1活性領域に印加される電界の強度を第2活性領域に印加される電界の強度よりも大きくすることによって、第2活性領域に加えられる応力を低減し、ヘッドの耐久性を向上することができる。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧面と、当該加圧面に開口している圧力室とを有している流路部材と、
前記加圧面に重なっている圧電アクチュエータと、
前記圧電アクチュエータを駆動するドライバと、
を有しており、
前記圧電アクチュエータは、前記加圧面に垂直な方向を厚み方向と呼称するとき、
前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の中央部に重なっている第1活性領域と、
前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記第1活性領域よりも前記加圧面側に位置しており、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の周縁部及び前記圧力室の外側の領域に重なっている第2活性領域と、を有しており、
前記ドライバは、液体を吐出するための液体吐出制御において、前記第1活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の一方を生じる期間の少なくとも一部において前記第2活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の前記一方を生じるように、前記第1活性領域に対して前記厚み方向に印加される第1電界の強度と、前記第2活性領域に対して前記厚み方向に印加される第2電界の強度とを制御し、
前記液体吐出制御において、前記第1電界の強度の最大値が前記第2電界の強度の最大値よりも大きい
液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記厚み方向の位置が互いに異なり、それぞれ前記第1電界の印加及び前記第2電界の印加の少なくとも一方を行う3つ以上の電極を有しており、
前記3つ以上の電極の前記厚み方向における3つ以上の位置のうち互いに隣り合う位置にあり、前記第1電界を印加する2つの電極の、前記厚み方向における距離が、前記3つ以上の位置のうち互いに隣り合う位置にあり、前記第2電界を印加する2つの電極の、前記厚み方向における距離よりも短い
請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記液体吐出制御において、前記第1電界を印加する2つの電極の電位差の最大値と、前記第2電界を印加する2つの電極の電位差の最大値とが同じである
請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記圧電アクチュエータは、前記圧電アクチュエータの前記流路部材とは反対側を第1側と呼称し、前記圧電アクチュエータの前記流路部材側を第2側と呼称するとき、
前記第1側から前記第2側へ順に積層されている、第1圧電体層、第2圧電体層、第3圧電体層及び第4圧電体層と、
前記第1圧電体層の前記第1側の面に重なっており、平面透視において前記中央部に重なっている第1電極と、
前記第1圧電体層の前記第2側の面に重なっており、平面透視において前記中央部に重なっている第2電極と、
前記第2圧電体層の前記第2側の面に重なっており、平面透視において前記中央部、前記周縁部及び前記外側の領域に重なっている第3電極と、
前記第4圧電体層の前記第2側の面に重なっており、平面透視において前記周縁部及び前記外側の領域に重なっている第4電極と、を有しており、
前記第1活性領域は、
前記第1圧電体層における前記第1電極と前記第2電極とに挟まれた領域と、
前記第2圧電体層における前記第2電極と前記第3電極の前記中央部に重なっている部分とに挟まれた領域と、を有し、
前記第2活性領域は、
前記第3及び前記第4圧電体層における、前記第3電極の前記周縁部及び前記外側の領域に重なっている部分と前記第4電極とに挟まれた領域を有している
請求項1~3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第1圧電体層のうちの前記第1活性領域を構成する部分と、前記第2圧電体層のうちの前記第1活性領域を構成する部分とは互いに逆向きに分極されており、
前記第3及び前記第4圧電体層のうちの前記第2活性領域を構成する部分は、前記第1圧電体層のうちの前記第1活性領域を構成する部分の分極の向きと同一の向きに分極されており、
前記液体吐出制御において、前記第1電極及び前記第3電極は同電位とされ、前記第2電極及び前記第4電極は同電位とされ、前記第1電極及び前記第3電極の電位と、前記第2電極及び前記第4電極の電位との電位差によって前記第1電界及び前記第2電界が印加される
請求項4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記第3圧電体層の厚さ及び前記第4圧電体層の厚さの合計が、前記第1圧電体層の厚さ及び前記第2圧電体層の厚さそれぞれよりも厚い
請求項4又は5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記圧電アクチュエータは、前記第3圧電体層の前記第2側の面に重なり、平面透視において前記第2活性領域の外側に位置する導体パターンを有している
請求項4~6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記加圧面の平面透視において、前記第2活性領域のうち前記圧力室の外側に位置する第2部分の面積が、前記第2活性領域のうち前記圧力室に重なっている第1部分の面積よりも大きい
請求項1~7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記加圧面の平面視において、前記圧力室の外縁のうち、圧力室の中心回りの角度で180°以上に相当する部分が円弧によって構成されている
請求項1~8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記圧力室の中心を通り、前記加圧面に直交する断面において、前記第2活性領域のうち前記圧力室の外側に位置する第2部分の幅が、前記第2活性領域のうち前記圧力室に重なっている第1部分の幅よりも大きい
請求項1~9のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記第2活性領域と前記流路部材との間に絶縁層を有している
請求項1~10のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記圧電アクチュエータは、圧電体からなり、前記第1活性領域の外周につながっている非活性領域を有しており、
前記ドライバは、前記液体吐出制御が行われていないときに前記非活性領域に対して前記厚み方向に電界を印加する再配向制御を実行する
請求項1~11のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
前記圧電アクチュエータは、
前記非活性領域に対して前記加圧面とは反対側に重なっている再配向電極と、
前記非活性領域と前記第2活性領域との間に位置している中間電極と、
前記第2活性領域に対して前記加圧面側に重なっている下部電極と、を有しており、
前記ドライバは、
前記液体吐出制御では、前記中間電極及び前記下部電極に電圧を印加することによって前記第2活性領域に電界を印加し、
前記再配向制御では、前記再配向電極及び前記下部電極に電圧を印加することによって、又は前記再配向電極及び前記中間電極に電圧を印加することによって、前記非活性領域に電界を印加する
請求項12に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項14】
前記圧電アクチュエータは、前記中間電極よりも前記加圧面とは反対側に位置しており、前記第1活性領域の少なくとも一部を挟んで前記中間電極と対向している上部電極を有しており、
前記ドライバは、
前記液体吐出制御では、前記上部電極及び前記中間電極に電圧を印加することによって前記第1活性領域に電界を印加し、
前記再配向制御では、前記中間電極に電位を付与せずに、前記再配向電極及び前記下部電極に電圧を印加することによって、前記非活性領域に電界を印加する
請求項13に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項15】
前記圧電アクチュエータは、圧電体からなり、前記第1活性領域の外周につながっている非活性領域を有しており、
前記ドライバは、前記液体吐出制御が行われていないときに前記非活性領域に対して前記厚み方向に電界を印加する再配向制御を実行し、
前記非活性領域は、前記第1及び前記第2圧電体層における、前記再配向電極と前記第4電極とに挟まれた領域を有している
請求項4~7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項16】
加圧面と、当該加圧面に開口している圧力室とを有している流路部材と、
前記加圧面に重なっている圧電アクチュエータと、
前記圧電アクチュエータを駆動するドライバと、
を有しており、
前記圧電アクチュエータは、前記加圧面に垂直な方向を厚み方向と呼称するとき、
前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の中央部に重なっている第1活性領域と、
前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記第1活性領域よりも前記加圧面側に位置しており、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の周縁部及び前記圧力室の外側の領域に重なっている第2活性領域と、を有しており、
前記ドライバは、液滴を吐出する制御において、前記第1活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の一方を生じる期間の少なくとも一部において前記第2活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の前記一方を生じるように、前記第1活性領域に対して前記厚み方向に印加される電界の強度と、前記第2活性領域に対して前記厚み方向に印加される電界の強度とを制御し、
前記加圧面の平面透視において、前記第2活性領域のうち前記圧力室の外側に位置する第2部分の面積が、前記第2活性領域のうち前記圧力室に重なっている第1部分の面積よりも大きい
液体吐出ヘッド。
【請求項17】
加圧面と、当該加圧面に開口している圧力室とを有している流路部材と、
前記加圧面に重なっている圧電アクチュエータと、
前記圧電アクチュエータを駆動するドライバと、
を有しており、
前記圧電アクチュエータは、前記加圧面に垂直な方向を厚み方向と呼称するとき、
前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の中央部に重なっている第1活性領域と、
前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記第1活性領域よりも前記加圧面側に位置しており、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の周縁部及び前記圧力室の外側の領域に重なっている第2活性領域と、
圧電体からなり、前記第1活性領域の外周につながっている非活性領域と、を有しており、
前記ドライバは、
前記第1活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の一方を生じる期間の少なくとも一部において前記第2活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の前記一方を生じるように、前記第1活性領域に対して前記厚み方向に印加される電界の強度と、前記第2活性領域に対して前記厚み方向に印加される電界の強度とを制御する液体吐出制御と、
前記液体吐出制御が行われていないときに前記非活性領域に対して前記厚み方向に電界を印加する再配向制御と、を実行する
液体吐出ヘッド。
【請求項18】
液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドを制御する制御部と、
を有しており、
前記液体吐出ヘッドは、
加圧面と、当該加圧面に開口している圧力室とを有している流路部材と、
前記加圧面に重なっている圧電アクチュエータと、を有しており、
前記圧電アクチュエータは、前記加圧面に垂直な方向を厚み方向と呼称するとき、
前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の中央部に重なっている第1活性領域と、
前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記第1活性領域よりも前記加圧面側に位置しており、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の周縁部及び前記圧力室の外側の領域に重なっている第2活性領域と、を有しており、
前記制御部は、液体を吐出するための液体吐出制御において、前記第1活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の一方を生じる期間の少なくとも一部において前記第2活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の前記一方を生じるように、前記第1活性領域に対して前記厚み方向に印加される第1電界の強度と、前記第2活性領域に対して前記厚み方向に印加される第2電界の強度とを制御し、
前記液体吐出制御において、前記第1電界の強度の最大値が前記第2電界の強度の最大値よりも大きい
記録装置。
【請求項19】
液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドを制御する制御部と、
を有しており、
前記液体吐出ヘッドは、
加圧面と、当該加圧面に開口している圧力室とを有している流路部材と、
前記加圧面に重なっている圧電アクチュエータと、を有しており、
前記圧電アクチュエータは、前記加圧面に垂直な方向を厚み方向と呼称するとき、
前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の中央部に重なっている第1活性領域と、
前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記第1活性領域よりも前記加圧面側に位置しており、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の周縁部及び前記圧力室の外側の領域に重なっている第2活性領域と、を有しており、
前記制御部は、液滴を吐出する制御において、前記第1活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の一方を生じる期間の少なくとも一部において前記第2活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の前記一方を生じるように、前記第1活性領域に対して前記厚み方向に印加される電界の強度と、前記第2活性領域に対して前記厚み方向に印加される電界の強度とを制御し、
前記加圧面の平面透視において、前記第2活性領域の前記外側の領域に重なっている面積が、前記第2活性領域の前記圧力室に重なっている面積よりも大きい
記録装置。
【請求項20】
液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドを制御する制御部と、
を有しており、
前記液体吐出ヘッドは、
加圧面と、当該加圧面に開口している圧力室とを有している流路部材と、
前記加圧面に重なっている圧電アクチュエータと、を有しており、
前記圧電アクチュエータは、前記加圧面に垂直な方向を厚み方向と呼称するとき、
前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の中央部に重なっている第1活性領域と、
前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記第1活性領域よりも前記加圧面側に位置しており、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の周縁部及び前記圧力室の外側の領域に重なっている第2活性領域と、を有しており、
前記制御部は、
前記第1活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の一方を生じる期間の少なくとも一部において前記第2活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の前記一方を生じるように、前記第1活性領域に対して前記厚み方向に印加される電界の強度と、前記第2活性領域に対して前記厚み方向に印加される電界の強度とを制御する液体吐出制御と、
前記液体吐出制御が行われていないときに前記非活性領域に前記厚み方向に沿う電界を印加する再配向制御と、を実行する
記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体吐出ヘッド、及び当該液体吐出ヘッドを有する記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッド等に用いられる圧電アクチュエータが知られている(例えば特許文献1及び2)。例えば、ユニモルフ型の圧電アクチュエータは、液体(インク)が満たされている圧力室の上方開口を覆う振動板と、振動板に重なる圧電体層とを有している。圧電体層が面に沿う方向に伸長又は収縮することによって、圧電アクチュエータはバイメタルのように撓み変形を生じる。これにより、圧力室に圧力が付与され、液体が吐出される。圧電体層は、例えば、平面視において圧力室の中央部に重なる領域において電圧が印加されて面に沿う方向に伸長又は収縮する。特許文献1及び2では、圧電体からなる振動板のうち平面視において圧力室の外縁側に位置する部分にも電圧が印加される構成が開示されている。特許文献3及び4では、圧電体に電界を印加して分極処理を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-182448号公報
【特許文献2】特開2010-155386号公報
【特許文献3】特開2006-158127号公報
【特許文献4】特開2010-228144号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係る液体吐出ヘッドは、流路部材と、圧電アクチュエータと、ドライバと、を有している。前記流路部材は、加圧面と、当該加圧面に開口している圧力室とを有している。前記圧電アクチュエータは、前記加圧面に重なっている。前記ドライバは、前記圧電アクチュエータを駆動する。前記圧電アクチュエータは、第1活性領域と、第2活性領域と、を有している。前記加圧面に垂直な方向を厚み方向と呼称する。このとき、前記第1活性領域は、前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の中央部に重なっている。前記第2活性領域は、前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記第1活性領域よりも前記加圧面側に位置しており、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の周縁部及び前記圧力室の外側の領域に重なっている。前記ドライバは、液体を吐出するための液体吐出制御において、前記第1活性領域に対して前記厚み方向に印加される第1電界の強度と、前記第2活性領域に対して前記厚み方向に印加される第2電界の強度とを制御する。この制御により、前記第1活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の一方を生じる期間の少なくとも一部において前記第2活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の前記一方を生じる。前記液体吐出制御において、前記第1電界の強度の最大値が前記第2電界の強度の最大値よりも大きい。
【0005】
本開示の一態様に係る液体吐出ヘッドは、流路部材と、圧電アクチュエータと、ドライバと、を有している。前記流路部材は、加圧面と、当該加圧面に開口している圧力室とを有している。前記圧電アクチュエータは、前記加圧面に重なっている。前記ドライバは、前記圧電アクチュエータを駆動する。前記圧電アクチュエータは、第1活性領域と、第2活性領域と、を有している。前記加圧面に垂直な方向を厚み方向と呼称する。このとき、前記第1活性領域は、前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の中央部に重なっている。前記第2活性領域は、前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記第1活性領域よりも前記加圧面側に位置しており、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の周縁部及び前記圧力室の外側の領域に重なっている。前記ドライバは、液滴を吐出する制御において、前記第1活性領域に対して前記厚み方向に印加される電界の強度と、前記第2活性領域に対して前記厚み方向に印加される電界の強度とを制御する。これにより、前記第1活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の一方を生じる期間の少なくとも一部において前記第2活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の前記一方を生じる。前記加圧面の平面透視において、前記第2活性領域のうち前記圧力室の外側に位置する第2部分の面積が、前記第2活性領域のうち前記圧力室に重なっている第1部分の面積よりも大きい。
【0006】
本開示の一態様に係る液体吐出ヘッドは、流路部材と、圧電アクチュエータと、ドライバと、を有している。前記流路部材は、加圧面と、当該加圧面に開口している圧力室とを有している。前記圧電アクチュエータは、前記加圧面に重なっている。前記ドライバは、前記圧電アクチュエータを駆動する。前記圧電アクチュエータは、第1活性領域と、第2活性領域と、非活性領域と、を有している。前記加圧面に垂直な方向を厚み方向と呼称する。このとき、前記第1活性領域は、前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の中央部に重なっている。前記第2活性領域は、前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記第1活性領域よりも前記加圧面側に位置しており、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の周縁部及び前記圧力室の外側の領域に重なっている。前記非活性領域は、圧電体からなり、前記第1活性領域の外周につながっている。前記ドライバは、液体吐出制御と、再配向制御と、を実行する。前記液体吐出制御では、前記ドライバは、前記第1活性領域に対して前記厚み方向に印加される電界の強度と、前記第2活性領域に対して前記厚み方向に印加される電界の強度とを制御する。これにより、前記第1活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の一方を生じる期間の少なくとも一部において前記第2活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の前記一方を生じる。前記再配向制御では、前記ドライバは、前記液体吐出制御が行われていないときに前記非活性領域に対して前記厚み方向に電界を印加する。
【0007】
本開示の一態様に係る記録装置は、液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドを制御する制御部と、を有している。前記液体吐出ヘッドは、流路部材と、圧電アクチュエータと、を有している。前記流路部材は、加圧面と、当該加圧面に開口している圧力室とを有している。前記圧電アクチュエータは、前記加圧面に重なっている。また、前記圧電アクチュエータは、第1活性領域と、第2活性領域と、を有している。前記加圧面に垂直な方向を厚み方向と呼称する。このとき、前記第1活性領域は、前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の中央部に重なっている。前記第2活性領域は、前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記第1活性領域よりも前記加圧面側に位置しており、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の周縁部及び前記圧力室の外側の領域に重なっている。前記制御部は、液体を吐出するための液体吐出制御において、前記第1活性領域に対して前記厚み方向に印加される第1電界の強度と、前記第2活性領域に対して前記厚み方向に印加される第2電界の強度とを制御する。これにより、前記第1活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の一方を生じる期間の少なくとも一部において前記第2活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の前記一方を生じる。前記液体吐出制御において、前記第1電界の強度の最大値が前記第2電界の強度の最大値よりも大きい。
【0008】
本開示の一態様に係る記録装置は、液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドを制御する制御部と、を有している。前記液体吐出ヘッドは、流路部材と、圧電アクチュエータと、を有している。前記流路部材は、加圧面と、当該加圧面に開口している圧力室とを有している。前記圧電アクチュエータは、前記加圧面に重なっている。また、前記圧電アクチュエータは、第1活性領域と、第2活性領域と、を有している。前記加圧面に垂直な方向を厚み方向と呼称する。このとき、前記第1活性領域は、前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の中央部に重なっている。前記第2活性領域は、前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記第1活性領域よりも前記加圧面側に位置しており、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の周縁部及び前記圧力室の外側の領域に重なっている。前記制御部は、液滴を吐出する制御において、前記第1活性領域に対して前記厚み方向に印加される電界の強度と、前記第2活性領域に対して前記厚み方向に印加される電界の強度とを制御する。これにより、前記第1活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の一方を生じる期間の少なくとも一部において前記第2活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の前記一方を生じる。前記加圧面の平面透視において、前記第2活性領域の前記外側の領域に重なっている面積が、前記第2活性領域の前記圧力室に重なっている面積よりも大きい。
【0009】
本開示の一態様に係る記録装置は、液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドを制御する制御部と、を有している。前記液体吐出ヘッドは、流路部材と、圧電アクチュエータと、を有している。前記流路部材は、加圧面と、当該加圧面に開口している圧力室とを有している。前記圧電アクチュエータは、前記加圧面に重なっている。また、前記圧電アクチュエータは、第1活性領域と、第2活性領域と、非活性領域と、を有している。前記加圧面に垂直な方向を厚み方向と呼称する。このとき、前記第1活性領域は、前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の中央部に重なっている。前記第2活性領域は、前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記第1活性領域よりも前記加圧面側に位置しており、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の周縁部及び前記圧力室の外側の領域に重なっている。前記非活性領域は、圧電体からなり、前記第1活性領域の外周につながっている。前記制御部は、液体吐出制御と、再配向制御と、を実行する。前記液体吐出制御では、前記制御部は、前記第1活性領域に対して前記厚み方向に印加される電界の強度と、前記第2活性領域に対して前記厚み方向に印加される電界の強度とを制御する。これにより、前記第1活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の一方を生じる期間の少なくとも一部において前記第2活性領域が前記加圧面に沿う方向において伸長及び収縮の前記一方を生じる。前記再配向制御では、前記制御部は、前記液体吐出制御が行われていないときに前記非活性領域に前記厚み方向に沿う電界を印加する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】第1実施形態に係る記録装置の側面図である。
図1B】第1実施形態に係る記録装置の平面図である。
図2】第1実施形態に係る液体吐出ヘッドの一部の平面図である。
図3図2のIII-III線における断面図である。
図4】第1実施形態に係る液体吐出ヘッドの圧力室の平面図である。
図5】第1実施形態に係る液体吐出ヘッドの圧電アクチュエータ及び流路部材の上部を模式的に示す断面図である。
図6】第1実施形態に係る圧電アクチュエータにおける圧電体層の分極方向を示す模式的な断面図である。
図7】第1実施形態に係る液体吐出ヘッドの一部の分解斜視図である。
図8図7の一部拡大図である。
図9】第1実施形態に係る液体吐出ヘッドの導体層の一部を簡略化して示す平面図である。
図10図9のX-X線における断面図である。
図11】第1実施形態に係る液体吐出ヘッドにおける液体を吐出するときの電位を示す模式的な断面図である。
図12】第1実施形態に係る液体吐出ヘッドにおける分極処理のときの電位を示す模式的な断面図である。
図13】第2実施形態に係る液体吐出ヘッドの模式的な断面図である。
図14】第3実施形態に係る液体吐出ヘッドの模式的な断面図である。
図15】第4実施形態に係る液体吐出ヘッドの模式的な断面図である。
図16】第5実施形態に係る液体吐出ヘッドの模式的な断面図である。
図17A】変形例に係る圧電体層の構成を示す断面図である。
図17B】他の変形例に係る圧電体層の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の図面は、模式的なものである。従って、細部は省略されることがある。また、寸法比率は現実のものと必ずしも一致しない。複数の図面相互の寸法比率も必ずしも一致しない。特定の寸法が実際よりも大きく示され、特定の形状が誇張されることもある。
【0012】
第2実施形態以降の説明においては、基本的に、先に説明された実施形態との相違部分について述べる。特に言及が無い事項については、先に説明された実施形態と同様とされたり、先に説明された実施形態から類推されたりしてよい。また、複数の実施形態間においては、互いに対応する構成については、細部が異なっていても、互いに同一の符号を付すことがある。
【0013】
本開示における「相似」は、数学でいう相似を含むが、これに限定されない。数学でいう相似は、一の形状を拡大若しくは縮小したときに(又はそのようなスケール変換をしないときに)、他の形状と合同になることをいう。しかし、技術常識等に照らして合理的に考えて、この数学の相似に近い関係が成り立てば、相似であるとみなされてよい。例えば、楕円形と、当該楕円形の外縁から一定距離で内側又は外側に位置する外縁を有する楕円形とは、長径と短径との比が両者の間で異なるから、数学でいう相似ではない。しかし、このような関係も本開示における相似に含まれてよい。
【0014】
また、本開示における種々の形状を示す用語(例えば、「円」、「楕円」又は「長方形」)は、これらの用語が数学において示す形状を含むが、これに限定されない。例えば、楕円は、外側に凸となる曲線のみによって構成されており、互いに概ね直交する長手方向と短手方向とを特定できる形状であればよい。また、例えば、長方形は、角部が面取りされていてもよい。
【0015】
<第1実施形態>
(プリンタの全体構成)
図1(a)は、本開示の一実施形態に係る液体吐出ヘッド2(以下で単にヘッドということがある。)を含むカラーインクジェットプリンタ1(記録装置の一例。以下で単にプリンタということがある)の概略の側面図である。図1(b)は、プリンタ1の概略の平面図である。
【0016】
なお、ヘッド2又はプリンタ1は、任意の方向を鉛直方向とすることが可能であるが、便宜上、図1(a)の紙面上下方向を鉛直方向として、上面又は下面等の語を用いることがある。また、平面視又は平面透視の語は、特に断りがない限り、図1(a)の紙面上下方向に見ることをいうものとする。
【0017】
プリンタ1は、印刷用紙P(記録媒体の一例)を給紙ローラ80Aから回収ローラ80Bへと搬送することにより、印刷用紙Pをヘッド2に対して相対的に移動させる。なお、給紙ローラ80A及び回収ローラ80B並びに後述する各種のローラは、印刷用紙Pとヘッド2とを相対移動させる移動部85を構成している。制御部88は、画像や文字等のデータである印刷データ等に基づいて、ヘッド2を制御して、印刷用紙Pに向けて液体を吐出させ、印刷用紙Pに液滴を着弾させて、印刷用紙Pに印刷などの記録を行なう。
【0018】
本実施形態では、ヘッド2はプリンタ1に対して固定されており、プリンタ1はいわゆるラインプリンタとなっている。記録装置の他の実施形態としては、ヘッド2を印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向(例えば略直交する方向)に移動させつつ液滴を吐出する動作と、印刷用紙Pの搬送とを交互に行なう、いわゆるシリアルプリンタが挙げられる。
【0019】
プリンタ1には、印刷用紙Pと略平行となるように、4つの平板状のヘッド搭載フレーム70(以下で単にフレームと言うことがある)が固定されている。各フレーム70には図示しない5個の孔が設けられており、5個のヘッド2がそれぞれの孔の部分に搭載されている。1つのフレーム70に搭載されている5つのヘッド2は、1つのヘッド群72を構成している。プリンタ1は、4つのヘッド群72を有しており、合計20個のヘッド2が搭載されている。
【0020】
フレーム70に搭載されたヘッド2は、液体を吐出する部位が印刷用紙Pに面するようになっている。ヘッド2と印刷用紙Pとの間の距離は、例えば0.5~20mm程度とされる。
【0021】
20個のヘッド2は、制御部88と直接接続されていてもよいし、印刷データを分配する分配部を介して制御部88と接続されていてもよい。例えば、制御部88が印刷データを1つの分配部へ送信し、1つの分配部が印刷データを20個のヘッド2に分配してもよい。また、例えば、4つのヘッド群72に対応する4つの分配部へ制御部88が印刷データを分配し、各分配部は、対応するヘッド群72内の5つのヘッド2に印刷データを分配してもよい。
【0022】
ヘッド2は、図1(a)の手前から奥へ向かう方向、図1(b)の上下方向に細長い長尺形状を有している。1つのヘッド群72内において、3つのヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向(例えば略直交する方向)に沿って並んでおり、他の2つのヘッド2は搬送方向に沿ってずれた位置で、3つのヘッド2の間にそれぞれ一つずつ並んでいる。別の表現をすれば、1つのヘッド群72において、ヘッド2は、千鳥状に配置されている。ヘッド2は、各ヘッド2で印刷可能な範囲が、印刷用紙Pの幅方向、すなわち、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向に繋がるように、あるいは端が重複するように配置されており、印刷用紙Pの幅方向に隙間のない印刷が可能になっている。
【0023】
4つのヘッド群72は、印刷用紙Pの搬送方向に沿って配置されている。各ヘッド2には、図示しない液体供給タンクから液体(例えばインク)が供給される。1つのヘッド群72に属するヘッド2には、同じ色のインクが供給されるようになっており、4つのヘッド群72で4色のインクが印刷できる。各ヘッド群72から吐出されるインクの色は、例えば、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)及びブラック(K)である。このようなインクを印刷用紙Pに着弾させることにより、カラー画像を印刷できる。
【0024】
プリンタ1に搭載されているヘッド2の個数は、単色で、1つのヘッド2で印刷可能な範囲を印刷するのであれば、1つでもよい。ヘッド群72に含まれるヘッド2の個数や、ヘッド群72の個数は、印刷する対象や印刷条件により適宜変更できる。例えば、さらに多色の印刷をするためにヘッド群72の個数を増やしてもよい。また、同色で印刷するヘッド群72を複数配置して、搬送方向に交互に印刷すれば、同じ性能のヘッド2を使用しても搬送速度を速くできる。これにより、時間当たりの印刷面積を大きくすることができる。また、同色で印刷するヘッド群72を複数準備して、搬送方向と交差する方向にずらして配置して、印刷用紙Pの幅方向の解像度を高くしてもよい。
【0025】
さらに、色のあるインクを印刷する以外に、印刷用紙Pの表面処理をするために、コーティング剤などの液体を、ヘッド2で、一様に、あるいはパターンニングして印刷してもよい。コーティング剤としては、例えば、記録媒体として液体が浸み込み難いものを用いる場合において、液体が定着し易いように、液体受容層を形成するものを使用できる。他に、コーティング剤としては、記録媒体として液体が浸み込み易いものを用いる場合において、液体のにじみが大きくなり過ぎたり、隣に着弾した別の液体とあまり混じり合わないように、液体浸透抑制層を形成するものを使用できる。コーティング剤は、ヘッド2で印刷する以外に、制御部88が制御する塗布機76で一様に塗布してもよい。
【0026】
プリンタ1は、記録媒体である印刷用紙Pに印刷を行なう。印刷用紙Pは、給紙ローラ80Aに巻き取られた状態になっており、給紙ローラ80Aから送り出された印刷用紙Pは、フレーム70に搭載されているヘッド2の下側を通り、その後2つの搬送ローラ82Cの間を通り、最終的に回収ローラ80Bに回収される。印刷する際には、搬送ローラ82Cを回転させることで印刷用紙Pは、一定速度で搬送され、ヘッド2によって印刷される。
【0027】
続いて、プリンタ1の詳細について、印刷用紙Pが搬送される順に説明する。給紙ローラ80Aから送り出された印刷用紙Pは、2つのガイドローラ82Aの間を通った後、塗布機76の下を通る。塗布機76は、印刷用紙Pに、上述のコーティング剤を塗布する。
【0028】
印刷用紙Pは、続いて、ヘッド2が搭載されたフレーム70を収納した、ヘッド室74に入る。ヘッド室74は、印刷用紙Pが出入りする部分などの一部において外部と繋がっているが、概略、外部と隔離された空間である。ヘッド室74は、必要に応じて、制御部88等によって、温度、湿度、及び気圧等の制御因子が制御される。ヘッド室74では、プリンタ1が設置されている外部と比較して、外乱の影響を少なくできるので、上述の制御因子の変動範囲を外部よりも狭くできる。
【0029】
ヘッド室74には、5個のガイドローラ82Bが配置されており、印刷用紙Pは、ガイドローラ82Bの上を搬送される。5個のガイドローラ82Bは、側面から見て、フレーム70が配置されている方向に向けて、中央が凸になるように配置されている。これにより、5個のガイドローラ82Bの上を搬送される印刷用紙Pは、側面から見て円弧状になっており、印刷用紙Pに張力を加えることで、各ガイドローラ82B間の印刷用紙Pが平面状になるように張られる。2つのガイドローラ82Bの間には、1つのフレーム70が配置されている。フレーム70は、その下を搬送される印刷用紙Pと平行になるように、設置される角度が少しずつ変えられている。
【0030】
ヘッド室74から外に出た印刷用紙Pは、2つの搬送ローラ82Cの間を通り、乾燥機78の中を通り、2つのガイドローラ82Dの間を通り、回収ローラ80Bに回収される。印刷用紙Pの搬送速度は、例えば、100m/分とされる。各ローラは、制御部88によって制御されてもよいし、人によって手動で操作されてもよい。
【0031】
乾燥機78で乾燥することにより、回収ローラ80Bにおいて、重なって巻き取られる印刷用紙P同士が接着したり、未乾燥の液体が擦れることが起き難くなる。高速で印刷するためには、乾燥も速く行なう必要がある。乾燥を速くするため、乾燥機78では、複数の乾燥方式により順番に乾燥してもよいし、複数の乾燥方式を併用して乾燥してもよい。そのような際に用いられる乾燥方式としては、例えば、温風の吹き付け、赤外線の照射、加熱したローラへの接触などがある。赤外線を照射する場合は、印刷用紙Pへのダメージを少なくしつつ乾燥を速くできるように、特定の周波数範囲の赤外線を当ててもよい。印刷用紙Pを加熱したローラに接触させる場合は、印刷用紙Pをローラの円筒面に沿って搬送させることで、熱が伝わる時間を長くしてもよい。ローラの円筒面に沿って搬送させる範囲は、ローラの円筒面の1/4周以上がよく、さらにローラの円筒面の1/2周以上にするのがよい。UV硬化インク等を印刷する場合には、乾燥機78の代わりに、あるいは乾燥機78に追加してUV照射光源を配置してもよい。UV照射光源は、各フレーム70の間に配置してもよい。
【0032】
プリンタ1は、ヘッド2をクリーニングするクリーニング部を備えていてもよい。クリーニング部は、例えば、ワイピング及び/又はキャッピングによって洗浄を行なう。ワイピングは、例えば、柔軟性のあるワイパーで、液体が吐出される部位の面、例えば吐出面11a(後述)を擦ることで、その面に付着していた液体を取り除く。キャッピングしての洗浄は、例えば、次のように行なう。まず、液体を吐出される部位、例えば吐出面11aを覆うようにキャップを被せる(これをキャッピングと言う)ことで、吐出面11aとキャップとで、略密閉されて空間が作られる。そのような状態で、液体の吐出を繰り返すことで、吐出孔3(後述)に詰まっていた、標準状態よりも粘度が高くなっていた液体や、異物等を取り除く。キャッピングしてあることで、洗浄中の液体がプリンタ1に飛散し難く、液体が、印刷用紙Pやローラ等の搬送機構に付着し難くなる。洗浄を終えた吐出面11aを、さらにワイピングしてもよい。ワイピング及び/又はキャッピングによる洗浄は、プリンタ1に取り付けられているワイパー及び/又はキャップを人が手動で操作して行なってもよいし、制御部88によって自動で行なってもよい。
【0033】
記録媒体は、印刷用紙P以外に、ロール状の布などでもよい。また、プリンタ1は、印刷用紙Pを直接搬送する代わりに、搬送ベルトを搬送して、記録媒体を搬送ベルトに置いて搬送してもよい。そのようにすれば、枚葉紙、裁断された布、木材又はタイルなどを記録媒体にできる。さらに、ヘッド2から導電性の粒子を含む液体を吐出するようにして、電子機器の配線パターンなどを印刷してもよい。またさらに、ヘッド2から反応容器などに向けて所定量の液体の化学薬剤又は化学薬剤を含んだ液体を吐出させて、反応させるなどして、化学薬品を作製してもよい。
【0034】
また、プリンタ1に、位置センサ、速度センサ及び/又は温度センサなどを取り付けて、制御部88が、各センサからの情報から分かるプリンタ1各部の状態に応じて、プリンタ1の各部を制御してもよい。例えば、ヘッド2の温度、ヘッド2に液体を供給する液体供給タンクの液体の温度、及び/又は液体供給タンクの液体がヘッド2に加えている圧力などが、吐出される液体の吐出特性(例えば吐出量及び/又は吐出速度)に影響を与えている場合などに、それらの情報に応じて、液体を吐出させる駆動信号を変えるようにしてもよい。
【0035】
(吐出面)
図2は、ヘッド2の印刷用紙Pに対向する面(吐出面11a)の一部を示す平面図である。この図では、便宜上、D1軸、D2軸及びD3軸からなる直交座標系を付している。D1軸は、ヘッド2と印刷用紙Pとの相対移動の方向に平行に定義されている。D1軸の正負と、ヘッド2に対する印刷用紙Pの進行方向との関係は、本実施形態の説明では特に問わない。D2軸は、吐出面11a及び印刷用紙Pに平行で、かつD1軸に直交するように定義されている。D2軸の正負も特に問わない。D3軸は、吐出面11a及び印刷用紙Pに直交するように定義されている。-D3側(図2の紙面手前側)は、ヘッド2から印刷用紙Pへの方向である。なお、単にD3方向という場合、+D3側に向かう+D3方向と、-D3側に向かう-D3方向とのいずれでもよいものとする。既述のように、ヘッド2は、D2方向を長手方向とする形状であり、ここでは、その長手方向の一端側部分が示されている。
【0036】
吐出面11aは、例えば、ヘッド2の印刷用紙Pに対向する面の大部分を構成している平面である。また、吐出面11aは、例えば、D2方向を長手方向とする概略矩形状とされている。吐出面11aには、インク滴を吐出する複数の吐出孔3が開口している。複数の吐出孔3は、ヘッド2と印刷用紙Pとの相対移動の方向(D1方向)に直交する方向(D2方向)の位置を互いに異ならせて配置されている。従って、移動部85によってヘッド2と印刷用紙Pとを相対移動させつつ、複数の吐出孔3からインク滴を吐出することにより、任意の2次元画像が形成される。
【0037】
より具体的には、複数の吐出孔3は、複数行(図示の例では16行)で配列されている。すなわち、複数の吐出孔3によって、複数の吐出孔行5が構成されている。複数の吐出孔行5同士において、複数の吐出孔3のD2方向における位置は互いに異なっている。これにより、各吐出孔行5における吐出孔3のピッチよりも狭いピッチでD2方向に並ぶ複数のドットを印刷用紙Pに形成することが可能となっている。ただし、ヘッド2は、1行のみ吐出孔行5を有する構成であっても構わない。
【0038】
複数の吐出孔行5は、例えば、概略、互いに平行であり、また、互いに同等の長さを有している。図示の例では、吐出孔行5は、ヘッド2と印刷用紙Pとの相対移動の方向に直交する方向(D2方向)に平行になっている。ただし、吐出孔行5は、D2方向に対して傾斜していてもよい。また、図示の例では、複数の吐出孔行5間の隙間の大きさ(D1方向の間隔)は均等ではない。これは、例えば、ヘッド2内部の流路の配置の都合に起因する。もちろん、吐出孔行5間の隙間の大きさは均等とされてもよい。
【0039】
(ヘッド本体)
図3は、図2のIII-IIIにおける断面図である。図3の紙面下方は、印刷用紙P側である。ここでは、主として、1つの吐出孔3に係る構成が示されている。また、ここでは、ヘッド2のうち、吐出面11aを含むヘッド本体7(すなわち吐出面11a側の一部のみ)が示されている。なお、ヘッド本体7が液体吐出ヘッドと捉えられてもよい。
【0040】
ヘッド本体7は概略板状の部材であり、板状の表裏の一方は既述の吐出面11aとなっている。ヘッド本体7の厚さは、例えば、0.5mm以上2mm以下である。ヘッド本体7は、圧電素子の機械的歪により液体に圧力を付与して液滴を吐出するピエゾ式のヘッドである。ヘッド本体7は、それぞれ吐出孔3を含む複数の吐出素子9を有している。複数の吐出素子9及び複数の吐出素子9に関わる構成(例えば複数の吐出素子9に接続される配線)は、基本的に、互いに同様の構成とされてよい。複数の吐出素子9は、吐出面11aに沿って2次元的に配列されている。
【0041】
また、別の観点では、ヘッド本体7は、液体(インク)が流れる流路が形成されている概略板状の流路部材11と、流路部材11内の液体に圧力を付与するための圧電アクチュエータ13とを有している。複数の吐出素子9は、流路部材11及び圧電アクチュエータ13により構成されている。吐出面11aは、流路部材11によって構成されている。流路部材11の吐出面11aとは反対側の面を加圧面11bというものとする。
【0042】
流路部材11は、共通流路15と、共通流路15にそれぞれ接続されている複数の個別流路17(図3では1つを図示)とを有している。各個別流路17は、既述の吐出孔3を有しており、また、共通流路15から吐出孔3へ順に、接続流路19、圧力室21及び部分流路23を有している。
【0043】
複数の個別流路17及び共通流路15には液体が満たされている。複数の圧力室21の容積が変化して液体に圧力が付与されることにより、複数の圧力室21から複数の部分流路23へ液体が送出され、複数の吐出孔3から複数の液滴が吐出される。また、複数の圧力室21へは複数の接続流路19を介して共通流路15から液体が補充される。圧電アクチュエータ13(圧電素子27)は、例えば、圧力室21側へ撓み変形を生じることによって、及び/又は圧力室21側とは反対側へ撓んだ状態から平らな状態に復帰することによって、圧力室21内の液体に圧力を付与する。
【0044】
流路部材11は、例えば、複数のプレート25A~25J(以下、A~Jを省略することがある。)が積層されることにより構成されている。プレート25には、複数の個別流路17及び共通流路15を構成する複数の穴(主として貫通孔。凹部にすることも可)が形成されている。複数のプレート25の厚み及び積層数は、複数の個別流路17及び共通流路15の形状等に応じて適宜に設定されてよい。複数のプレート25は、適宜な材料により形成されてよい。例えば、複数のプレート25は、金属又は樹脂によって形成されている。プレート25の厚さは、例えば、10μm以上300μm以下である。プレート25同士は、例えば、プレート25間に介在する不図示の接着剤によって互いに固定されている。
【0045】
(流路形状)
流路部材11内の各流路の具体的な形状及び寸法等は適宜に設定されてよい。図示の例では、以下のとおりである。
【0046】
共通流路15は、ヘッド2の長手方向(図3では紙面貫通方向)に延びている。共通流路15は、1本のみ設けられてもよいが、例えば、互いに並列に複数本で設けられている。共通流路15の横断面の形状は、矩形状とされている。
【0047】
複数の個別流路17(別の観点では吐出素子9)は、各共通流路15の長さ方向に配列されている。ひいては、複数の個別流路17に個別に含まれている複数の吐出孔3も共通流路15に沿って配列されている。図2に示したような吐出孔3の配列においては、例えば、1本の共通流路15の両側それぞれに2行ずつ吐出孔3が配列されてよい。そして、4本の共通流路15に合計で16行の吐出孔3が配列されてよい。
【0048】
圧力室21は、例えば、加圧面11bに開口しており、圧電アクチュエータ13によって塞がれている。なお、圧力室21は、プレート25によって塞がれていてもよい。ただし、これは、圧力室21を塞ぐプレート25を流路部材11の一部として捉えるか、圧電アクチュエータ13の一部として捉えるかの問題と考えることもできる。本開示の説明では、圧力室21よりも上方側の層(プレート)は、圧電アクチュエータ13の一部として捉えるものとする。
【0049】
複数の圧力室21の形状は、例えば、互いに同一である。各圧力室21の形状は適宜に設定されてよい。例えば、圧力室21は、加圧面11bに沿って一定の厚さで広がる薄型形状に形成されている。ただし、圧力室21は、厚さが異なる部位を有していてもよい。薄型形状は、例えば、平面視のいずれの径よりも厚さが小さい形状である。
【0050】
なお、径は、例えば、平面図形の中心を通って平面図形を横断する直線の、平面図形内に位置する部分の長さである。平面視において中心(あるいは中央等)という場合(平面図形について中心という場合)、特に断りが無い限り、中心は、例えば、図心とされてよい。図心は、平面図形の重心であり、その点を通る任意の軸に対する断面一次モーメントが0になる点である。
【0051】
圧力室21の平面形状は、例えば、互いに直交する長手方向及び短手方向を有する形状(例えば菱形又は楕円形)であってもよいし、そのような方向を概念できない形状(例えば円形)であってもよい。また、長手方向及び短手方向と複数の圧力室21の配列態様との関係も任意である。本実施形態の説明では、後述するように、円形と楕円形とを足し合わせた形状を例に取る。別の観点では、長手方向と短手方向とを概念できる形状を例に取る。図示の例では、図3の紙面左右方向が圧力室21の長手方向である。当該方向は、例えば、共通流路15が延びる方向に交差(例えば直交)する方向であり、また、別の観点では、ヘッド本体7の短手方向である。
【0052】
なお、圧力室21の加圧面11bに平行な断面の形状が上下方向において一定でない態様においては、本開示における圧力室21の平面形状の説明は、例えば、加圧面11b(圧力室21の開口面)における平面形状に適用されてよい。圧力室21において、圧電アクチュエータ13から受ける圧力に及ぼす影響が大きい形状は、加圧面11bにおける形状だからである。
【0053】
部分流路23は、圧力室21から吐出面11aに向かって延びている。部分流路23の形状は、概略、円柱状である。なお、部分流路23は、圧力室21から吐出面11aに向かって上下方向に傾斜して延びていてもよいし(図示の例)、傾斜せずに延びていてもよい。また、部分流路23は、その横断面の面積が上下の位置によって異なっていてもよい。平面視において、部分流路23は、例えば、圧力室21の所定方向(例えば平面視における圧力室21の長手方向)の端部に繋がっている。
【0054】
吐出孔3は、部分流路23の底面(圧力室21とは反対側の面)の一部に開口している。吐出孔3は、例えば、部分流路23の底面の概ね中央に位置している。ただし、吐出孔3は、部分流路23の底面の中央に対して偏心して設けられていてもよい。吐出孔3の縦断面の形状は、吐出面11a側ほど径が小さくなるテーパ状とされている。ただし、吐出孔3は、一部又は全部が逆テーパであってもよい。
【0055】
接続流路19は、例えば、共通流路15の上面から上方へ延びる部位と、当該部位からプレート25に沿う方向に延びる部位と、当該部位から上方に延びて圧力室21の下面に接続されている部位とを有している。プレート25に沿う部位は、流れ方向に直交する断面積が小さくされており、いわゆるしぼりとして機能する。平面視において、接続流路19の圧力室21に対する接続位置は、例えば、圧力室21の下面のうちの当該下面の中央に対して部分流路23とは反対側の端部とされている。
【0056】
複数の圧力室21の配列の態様については、概略、図2を参照して説明した複数の吐出孔3の配列の態様の説明が援用されてよい。ただし、複数の圧力室21の配列の態様と、複数の吐出孔3の配列の態様とは異なっていても構わない。例えば、複数の部分流路23の形状を互いに異ならせることなどによって、複数の圧力室21の配列の態様と、複数の吐出孔3の配列の態様とが異なっていてもよい。そして、例えば、複数の圧力室21は、図2に示した複数の吐出孔3とは異なり、D1方向及びD2方向の双方において一様に分布したり(圧力室21の行間のピッチが一定とされたり)、吐出孔行5の数よりも少ない行数で配列されたりしてよい。
【0057】
(圧力室の平面形状)
図4は、圧力室21の平面図である。この図において、圧力室21は、実線で示されている。
【0058】
圧力室21の平面形状は、例えば、円形C1の領域と、円形C1の領域から所定方向(紙面上下方向)の両側に突出した領域R2(一方の領域R2にハッチングを付す。)とを足し合わせた形状である。領域R2の円形C1とは反対側の外縁(実線で示されている外縁)は、外側に膨らむ曲線である。この曲線の曲率(一定でない場合は平均値)は、例えば、円形C1の曲率よりも大きい。
【0059】
上記の圧力室21の平面形状は、円形C1と、楕円形C2との、互いに重なる領域(点線で囲まれた領域)及び互いに重ならない領域(実線と点線とで囲まれた領域)を足し合わせた形状と捉えることができる。すなわち、円形C1及び楕円形C2それぞれをベン図における閉曲線とみなしたときに、圧力室21の平面形状は、和集合(別の観点では論理和)に相当している。
【0060】
より詳細には、円形C1の中心と、楕円形C2の中心とは一致している(中心O1参照)。楕円形C2の長径rLは、円形C1の半径r1よりも長く、かつ楕円形C2の短径rSは、円形C1の半径r1よりも短い。そして、楕円形C2の長手方向の両端側の領域R2は、円形C1の外側に位置している。
【0061】
ただし、領域R2の円形C1とは反対側の外縁(実線で示されている外縁)は、曲率が一定であってもよい。すなわち、領域R2は、楕円の両端として概念される形状ではなく、円形C1の半径よりも半径が小さい円形の一部として概念される形状であってもよい。
【0062】
このような形状の各種の寸法(例えば半径r1、長径rL及び短径rSの相対長さ)は適宜に設定されてよい。一例を以下に挙げる。長径rLは、半径r1の1.2倍以上1.8倍以下とされてよい。領域R2の円形C1とは反対側の外縁の曲率の平均から求めた曲率半径は、半径r1の0.3倍以上0.6倍以下とされてよい。
【0063】
以上に説明した圧力室21の形状は、換言すれば、その外縁の大部分(全部であってもよいものとする。)が円弧によって構成されている形状である。例えば、圧力室21の外縁は、圧力室21の中心回りの角度で180°以上に相当する部分が円弧によって構成されている。
【0064】
以下の説明では、圧力室21の「中央部」及び「周縁部」の語を用いることがある。中央部21aは、図4において、その外縁が2点鎖線Ln1によって示されている。中央部21aは、例えば、平面視において、圧力室21の中心O1を含み、圧力室21の外縁から中心O1側に離れている領域である。周縁部21bは、図4において、その内縁が2点鎖線Ln1によって示されているとともに、その外縁が圧力室21の外縁を示す実線によって示されている。周縁部21bは、例えば、平面視において、圧力室21の外縁(基本的にその全周)に接しており、圧力室21の中心から離れている領域である。
【0065】
中央部21aと周縁部21bとは、中央部21aの外縁と周縁部21bの内縁とが互いに離れている態様で定義可能であるし、中央部21aの外縁と周縁部21bの内縁とが一致している態様で定義可能であるし、中央部21aの外縁側部分と周縁部21bの内縁側部分とが互いに重複している態様で定義可能である。実施形態の説明では、便宜上、中央部21aの外縁と周縁部21bの内縁とが互いに一致している態様で中央部21a及び周縁部21bを定義する。
【0066】
平面視において、中央部21a及び周縁部21bの形状及び寸法は適宜に設定されてよい。以下の説明では、便宜上、後述する種々の部位又は部材(例えば後述する各種の電極)の位置及び寸法を中央部21a及び周縁部21bの位置及び寸法との比較において説明することがある。ただし、実際の製品においては、逆に、各種の部位又は部材の位置及び寸法から中央部21a及び周縁部21bの位置及び寸法が特定されてよい。従って、中央部21a及び周縁部21bの形状及び寸法については、後述する各種の部位又は部材の位置及び寸法が参照されてよい。
【0067】
また、以下の説明では、圧力室21の外縁によって内縁が規定され、図4の2点鎖線Ln2によって外縁が規定される領域を圧力室21の外側の領域11eということがある。すなわち、圧力室21の非配置領域(広義の圧力室21の外側の領域)のうち、圧力室21の周囲の領域を外側の領域11eということがある。この領域11eの形状及び寸法についても、後述する各種の部位又は部材の位置及び寸法が参照されてよい。
【0068】
(圧電アクチュエータ)
図3に戻って、圧電アクチュエータ13は、例えば、複数の圧力室21に亘る広さを有する概略板状である。圧電アクチュエータ13は、板形状の表面及び裏面として第1面13a及び第2面13bを有している。本実施形態では、第1面13aは、流路部材11とは反対側の面であり、第2面13bは、流路部材11側の面である。圧電アクチュエータ13は、吐出素子9毎に(圧力室21毎に)圧力室21に圧力を付与する圧電素子27を有している。すなわち、圧電アクチュエータ13は、第1面13aに沿う方向の複数の位置に複数の圧電素子27を有している。
【0069】
圧電アクチュエータ13は、第2面13bに沿って広がる複数の層状部材が積層されて構成されている。具体的には、例えば、圧電アクチュエータ13は、第1面13a側から第2面13b側へ順に、第1圧電体層29A~第4圧電体層29D(以下、単に圧電体層29ということがある。)を有している。また、圧電アクチュエータ13は、上記の圧電体層29の表面又は間の位置において、第1面13a側から第2面13b側へ順に、第1導体層31A~第5導体層31E(以下、単に導体層31ということがある。)を有している。特に図示しないが、圧電アクチュエータ13は、第1導体層31Aを覆う絶縁層(例えばソルダーレジスト)を有していてもよい。
【0070】
各圧電体層29は、複数の圧力室21(別の観点では複数の圧電素子27)に亘って実質的に隙間無く広がっている。「実質的に」としているのは、例えば、導体層同士を接続するための貫通導体(後述)が絶縁層を貫通していてもよいことなどからである(以下、同様。)。各導体層31は、例えば、後に詳述するように、複数の圧力室21に対応して設けられた複数の電極を含むなど、適宜な平面形状を有している。
【0071】
(圧電アクチュエータの動作原理の概要)
図5は、圧電アクチュエータ13及び流路部材11の上部(プレート25J)を模式的に示す断面図である。この図は、例えば、図3とは異なる方向(図2のIII-III線とは異なる方向)の断面を示しており、例えば、図4のV-V線に対応している。この図において、断面であることを示すハッチングは省略されている。また、この図は、後述するように、第1活性領域53Aおよび第2活性領域53Bに電界を印加して圧電アクチュエータ13が屈曲した状態を示しており、電界を印加していないときの圧電アクチュエータ13は、ほぼフラットな形状を有している。
【0072】
図5では、図3に示した第1圧電体層29A及び第2圧電体層29Bは、主圧電体層51Aとして概念されている(図示されている。)。同様に、図5では、図3に示した第3圧電体層29C及び第4圧電体層29Dは、副圧電体層51Bとして概念されている(図示されている。)。以下、主圧電体層51A及び副圧電体層51Bを単に圧電体層51といい、両者を区別しないことがある。
【0073】
圧電体層51は、液滴を吐出するときに駆動される活性領域53(53A及び53B)と、駆動されない非活性領域55(55A~55C。55Cは図6参照。)と、を有している。活性領域53は、分極されており、かつ液滴の吐出時に分極方向又はその反対方向の電界が印加される領域である。非活性領域55は、分極されていない領域、並びに/又は、液滴の吐出時に分極方向及びその反対方向のいずれの方向の電界も印加されない領域である。なお、分極された領域とは、例えば、分極処理により自発分極の向きがある程度揃えられた領域である。
【0074】
より具体的には、主圧電体層51Aは、平面透視において圧力室21の中央部21aに重なっている第1活性領域53Aと、その外側に隣接している第1非活性領域55Aとを有している。副圧電体層51Bは、平面透視において圧力室21の中央部21aに重なっている第2非活性領域55Bと、その外側に隣接している第2活性領域53Bとを有している。第1非活性領域55A及び第2活性領域53Bは、別の観点では、平面透視において、圧力室21の周縁部21b及び圧力室21の外側の領域11eに重なっている。
【0075】
第1活性領域53Aは、分極方向が厚み方向(D3方向)とされている。そして、第1活性領域53Aに対して分極方向と同じ方向に電界(別の観点では電圧。以下、同様。)が印加されると、第1活性領域53Aは、図5において矢印で示されているように、面に沿う方向において収縮する。一方、第2非活性領域55Bは収縮しない。その結果、第1活性領域53A及び第2非活性領域55B全体は、これらの両端に描かれた矢印でも示されているように、バイメタルのように圧力室21側に凸となる撓み変形を生じる。
【0076】
第2活性領域53Bは、分極方向が厚み方向(D3方向)とされている。そして、第2活性領域53Bに対して分極方向と同じ方向に電界が印加されると、第2活性領域53Bは、図5において矢印で示されているように、面に沿う方向において収縮する。一方、第1非活性領域55Aは収縮しない。その結果、図5に示すように、第2活性領域53B及び第1非活性領域55A全体は、バイメタルのように圧力室21側に凹となる撓み変形を生じる。
【0077】
ここで、第2活性領域53B及び第1非活性領域55Aのうち、圧力室21の外側に位置する部分(第2活性領域53Bについては第2部分53Bbということがある。)は、プレート25Jに接合されることによって、その撓み変形が拘束されている。従って、図5に示すように、第2活性領域53B及び第1非活性領域55Aが圧力室21側に凹となる撓み変形を生じると、第2活性領域53B及び第1非活性領域55Aのうち圧力室21に重なる部分(第2活性領域53Bについては第1部分53Baということがある。)は、片持ち梁のように圧力室21側に撓むことになる。ひいては、第1活性領域53A及び第2非活性領域55Bは、圧力室21側に変位する。
【0078】
従って、第1活性領域53Aに対して分極方向に電界を印加するとともに、第2活性領域53Bに対して分極方向に電界を印加することによって、第1活性領域53Aに対してのみ分極方向に電界を印加した場合よりも、第1活性領域53Aの中心位置の、圧力室21側への変位を大きくできる。これにより圧力室21の体積を減少させるときの体積変化量を大きくすることができる。なお、同様に、圧力室21の体積を増加させるときに、第1活性領域53Aに対して分極方向とは逆方向に電界を印加するとともに、第2活性領域53Bに対して分極方向とは逆方向に電界を印加して、第1活性領域53Aおよび第2活性領域53Bを、面に沿う方向に伸長させるようにしてもよい。それにより第1活性領域53Aの中心位置の変位を大きくして、圧力室の体積の増加量を大きくすることができる。
【0079】
圧電アクチュエータ13の曲げ剛性に関して、中立面は、厚み方向の適宜な位置とされてよい。例えば、中立面は、概略、主圧電体層51Aと副圧電体層51Bとの境界に位置している。当該境界と中立面とのずれは、例えば、主圧電体層51Aの厚さ及び副圧電体層51Bの厚さのうちの薄い方の厚さの1/4未満である。
【0080】
(活性領域及び非活性領域の平面形状)
圧電アクチュエータの構造によって、活性領域53の平面形状は、厚み方向(D3方向)において異なることがある。例えば、後述する説明から理解されるように、本実施形態では、第1活性領域53Aにおいて、第1圧電体層29Aによって構成される部分と、第2圧電体層29Bによって構成される部分とは、互いに平面形状を異ならせることが可能である。以下の説明では、活性領域53(又は非活性領域55)の平面形状は、厚み方向において概ね一定である態様を例にとる。活性領域53(又は非活性領域55)の平面形状が厚み方向において一定でない態様においては、以下の平面形状に関する説明は、厚み方向のいずれの位置の平面形状に適用されてもよく、例えば、平面透視において最も面積が小さい平面形状に適用されてよい。
【0081】
第1非活性領域55A及び/又は第2活性領域53Bは、例えば、平面透視において第1活性領域53A及び/又は第2非活性領域55Bを囲んでいる。より詳細には、例えば、前者は後者を全周に亘って囲んでいる。ただし、前者は、後者を全周に亘って囲んでいなくてもよい。例えば、前者は、後者をその中心回りに270°以上360°未満の範囲で囲んでいてもよい。
【0082】
平面透視において、第1活性領域53A(その外縁側部分)と第2活性領域53B(その内縁側部分)とは、互いに離れていてもよいし、互いに隣接していてもよいし(図示の例)、互いに重複していてもよい。別の観点では、第1活性領域53Aと、第2活性領域53Bの内側に隣接する第2非活性領域55Bとは互いに同一の形状及び寸法であってもよいし(図示の例)、そうでなくてもよい。同様に、第1活性領域53Aの外側に隣接する第1非活性領域55Aと、第2活性領域53Bとは互いに同一の形状及び大きさであってもよいし(図示の例)、そうでなくてもよい。
【0083】
本実施形態の説明では、便宜上、第1活性領域53Aの外縁と、圧力室21の中央部21aの外縁とが一致するように、圧力室21の中央部21aを定義するものとする。また、既述のように、本実施形態の説明では、便宜上、中央部21a及び周縁部21bは、互いに隣接するように定義される。従って、第1活性領域53Aは、圧力室21の周縁部21bとは重なっていない。第2活性領域53Bは、周縁部21bの少なくとも外縁側に重なっており、また、中央部21aの少なくとも中心に重なっていない。上記のように、第1活性領域53Aの外縁側部分と第2活性領域53Bの内縁側部分との重複の有無は任意である。従って、第2活性領域53Bは、周縁部21bの内縁側部分に重なっていなくてもよいし、周縁部21bの全体に過不足なく重なっていてもよいし(図示の例)、周縁部21bに加えて、中央部21aの外縁側部分に重なっていてもよい。
【0084】
第1活性領域53Aの平面形状及びその寸法(図4に示す中央部21aの形状及び寸法を参照)は適宜に設定されてよい。第1活性領域53Aの平面形状は、圧力室21の平面形状と相似であってもよいし(図示の例)、相似でなくてもよい。いずれにせよ、圧力室21の平面形状に関する説明は、第1活性領域53Aの平面形状に援用されてよい。また、平面透視において、第1活性領域53Aの中心と、圧力室21の中心とは、概ね一致していてもよいし(図示の例)、ずれていてもよい。
【0085】
平面視における第1活性領域53Aの大きさは、適宜に設定されてよい。例えば、平面透視において、第1活性領域53Aの面積が圧力室21の面積に占める割合は、40%以上又は50%以上とされてよく、また、70%以下又は80%以下とされてよく、上記の下限と上限とは適宜に組み合わされてよい。一例として、50%以上及び70%以下を挙げることができる。また、例えば、第1活性領域53Aと圧力室21とで同一方向の径同士又は円相当径同士を比較したとき、第1活性領域53Aの径は、圧力室21の径に対して、0.6倍以上又は0.7倍以上とされてよく、また、0.9倍以下とされてよく、上記の下限と上限とは適宜に組み合わされてよい。
【0086】
第2活性領域53Bの平面形状及びその寸法(図4に示す2点鎖線Ln1と2点鎖線Ln2との間の環状の領域の形状及びその寸法を参照)は適宜に設定されてよい。例えば、第2活性領域53Bの平面形状は、第1活性領域53Aを囲む環状の領域である。ここでいう環状は、円形状又は楕円状のものに限定されない。例えば、環状の内縁及び/又は外縁は、凹凸を有していてもよいし、多角形(例えば矩形)であってもよい。
【0087】
第2活性領域53Bの内縁及び/又は外縁の形状は、例えば、圧力室21の平面形状及び/又は第1活性領域53Aの平面形状と相似であってもよいし(図示の例)、相似でなくてもよい。いずれにせよ、圧力室21の平面形状に関する説明は、第2活性領域53Bの内縁及び外縁の形状に援用されてよい。また、平面透視において、第2活性領域53Bの外縁がなす形状の中心と、圧力室21の中心及び/又は第1活性領域53Aの中心とは、概ね一致していてもよいし(図示の例)、ずれていてもよい。
【0088】
平面透視したときに第1活性領域53Aの外縁と第2活性領域53Bの内縁とがずれている態様において、両者の距離は適宜に設定されてよい。例えば、両者の距離は、第1活性領域53Aの径(例えば最小径、最大径又は円相当径)の10%以下又は5%以下とされてよい。この上限値は、第1活性領域53Aの外縁が第2活性領域53Bの内縁よりも内側に位置している態様、前者が後者よりも外側に位置している態様のいずれに適用されてもよい。
【0089】
第2活性領域53Bの外縁の、圧力室21の外縁からの距離は、適宜に設定されてよい。例えば、当該距離は、圧力室21の径(例えば最小径、最大径又は円相当径)の1/20以上、1/10以上又は1/5以上とされてよく、また、1倍以下、1/2以下、1/3以下又は1/5以下とされてよく、前記の下限と上限とは、矛盾しない限り、適宜に組み合わされてよい。一例を挙げると、圧力室21の径は、200μm以上400μm以下であり、このときの圧力室21の外縁から第2活性領域53Bの外縁までの距離は50μm以上200μm以下である。
【0090】
圧力室21の外縁から第2活性領域53Bの内縁までの距離w1(符号は図4参照)、圧力室21の外縁から第2活性領域53Bの外縁までの距離w2(符号は図4参照)とは、いずれが他方よりも大きくてもよい。距離w1は、換言すれば、第2活性領域53Bのうち圧力室21に重なる第1部分53Baの幅である。距離w2は、換言すれば、第2活性領域53Bのうち圧力室21の外側に位置する第2部分53Bbの幅である。ここでは、距離w1及びw2を平面視で示しているが、距離w1及びw2は、図3のように圧力室21の中心を通り、加圧面11bに直交する断面(縦断面)において比較されてもよい。
【0091】
本実施形態では、距離w1が距離w2よりも短い態様を例に取る。距離w1が距離w2よりも短いという場合、例えば、第2活性領域53Bの全周に亘って距離w1が距離w2よりも短い態様だけでなく、第2活性領域53Bの周方向の大部分において距離w1が距離w2よりも短い態様を含んでよい。圧力室21の形状に起因して、又は電極へ電位を付与するための配線の形状に起因して、第2活性領域53Bには、特異的な部分が設けられることがあることからである。例えば、上記の周方向の大部分は、圧力室21の中心回りの角度で270°以上、300°以上又は330°以上の範囲とされてよい。距離w1が距離w2よりも短い態様において、距離w1と距離w2との比率は適宜に設定されてよい。例えば、距離w1は、距離w2の0.9倍以下、0.8倍以下又は0.7倍以下とされてよい。
【0092】
平面透視において、第2活性領域53Bのうち圧力室21に重なる第1部分53Baの面積と、第2活性領域53Bのうち圧力室21の外側に位置する第2部分53Bbの面積とはいずれが他方よりも大きくてもよい。本実施形態の説明では、第1部分53Baの面積が第2部分53Bbの面積よりも小さい態様を例に取る。当該態様において、両者の面積の比は適宜に設定されてよい。例えば、第1部分53Baの面積は、第2部分53Bbの面積の0.9倍以下、0.8倍以下又は0.7倍以下とされてよい。
【0093】
なお、例えば、第1部分53Baと第2部分53Bbとが相似形の場合においては、後者が前者に対して外側に位置するから、後者の方が前者よりも周方向の長さが長い。従って、例えば、距離w1と距離w2とが等しくても、第1部分53Baの面積の方が第2部分53Bbの面積よりも小さい。このことから理解されるように、特に図示しないが、距離w1が距離w2よりも長く、第1部分53Baの面積の方が第2部分53Bbの面積よりも小さいという態様も可能である。
【0094】
流通されている製品において、第1部分53Ba及び第2部分53Bbの面積の相違、並びに距離w1及び距離w2の相違等は、適宜に測定されてよい。例えば、X線CT(Computed Tomography)を用いて、ヘッド本体7を分解することなく、電極面積、及び電極と圧力室21とのずれ等が測定され、ひいては、第1部分53Ba及び第2部分53Bbの面積、並びに距離w1及び距離w2が測定されてよい。また、例えば、ヘッド本体7を複数の位置で分断し、電子顕微鏡を用いて断面を観察することによって、電極面積、及び電極と圧力室21とのずれ等が測定され、ひいては、第1部分53Ba及び第2部分53Bbの面積、並びに距離w1及び距離w2が測定されてよい。
【0095】
第1非活性領域55Aは、例えば、主圧電体層51Aのうちの第1活性領域53A以外の領域のうち、平面透視において第2活性領域53Bと重なる領域であると定義されてよい。従って、第1非活性領域55Aの内縁は、第1活性領域53Aの外縁に一致し、第1非活性領域55Aの外縁は、第2活性領域53Bの外縁に一致する。本実施形態では、平面透視において、第1活性領域53Aの外縁と、第2活性領域53Bの内縁とは、概ね一致するから、第1非活性領域55Aの平面形状及びその寸法は、第2活性領域53Bの平面形状及びその寸法と概ね同じである。
【0096】
第2非活性領域55Bは、例えば、副圧電体層51Bのうちの圧力室21に重なる領域であって、かつ第2活性領域53B以外の領域であると定義されてよい。第2活性領域53Bが環状の場合においては、第2非活性領域55Bは、第2活性領域53Bに囲まれた領域であり、その外縁は、第2活性領域53Bの内縁に一致する。
【0097】
(圧電体層)
図3に戻り、圧電体層29の材料は、例えば、強誘電性を有するセラミックス材料とされてよい。セラミック材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系、NaNbO系、BaTiO系、(BiNa)TiO系、BiNaNb15系のものを挙げることができる。ただし、圧電体層29の材料は、セラミック材料以外とされても構わない。圧電体層29の材料は、単結晶であってもよいし、多結晶であってもよいし、無機材料であってもよいし、有機材料であってもよいし、強誘電体であってもなくてもよいし、焦電体であってもなくてもよい。複数の圧電体層29の材料は、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0098】
圧電体層29は、概略、一定の厚さで平面状に広がっており、換言すれば、概略、平板状である。その広さは、概略、圧電アクチュエータ13の広さと同等である。圧電体層29の厚さは、適宜に設定されてよい。複数の圧電体層29の厚さは、互いに同一であってもよいし(図示の例)、互いに異なっていてもよい。圧電体層29の厚さの一例を挙げると、10μm以上40μm以下である。
【0099】
図示の例では、複数の圧電体層29の厚さは、互いに同一である。別の観点では、第3圧電体層29Cの厚さ及び第4圧電体層29Dの厚さの合計は、第1圧電体層29Aの厚さ及び第2圧電体層29Bの厚さのそれぞれよりも厚い。この厚さの関係が成り立つ範囲内で、複数の圧電体層29の厚さは、互いに異なっていてもよい。なお、互いに比較される2以上の圧電体層29の厚さが同一といっても、誤差が存在してもよいことはもちろんであり、また、導体層31の厚さで差異が存在してもよい。
【0100】
図6は、圧電体層29の分極方向を示す模式的な断面図である。この図は、例えば、図5と同様に、図4のV-V線に対応している。この図において、白抜きの矢印は、分極方向を示している。この図において、断面であることを示すハッチングは省略されている。
【0101】
点線で示されているように、圧電アクチュエータ13は、既述の第1活性領域53A、第2活性領域53B、第1非活性領域55A及び第2非活性領域55Bを有している。また、第1圧電体層29A~第4圧電体層29Dにおいて、第1非活性領域55A及び第2活性領域53Bの外側の領域を第3非活性領域55Cというものとする。
【0102】
第1活性領域53Aにおいて、第1圧電体層29Aの分極方向と、第2圧電体層29Bの分極方向とは互いに逆向きとされている。従って、第1活性領域53Aにおいては、第1圧電体層29A及び第2圧電体層29Bに対して互いに逆向きの電界を印加することによって、これらの圧電体層(29A及び29B)を共に収縮させ(図5)、又はこれらの圧電体層(29A及び29B)を共に伸長させることができる。
【0103】
第1活性領域53Aにおいて、第1圧電体層29A及び第2圧電体層29Bの分極方向は、いずれが+D3方向又は-D3方向とされてもよい。本実施形態の説明では、第1圧電体層29Aの分極方向が-D3方向とされ、第2圧電体層29Bの分極方向が+D3方向とされている態様を例に取る。
【0104】
第2活性領域53Bにおいて、第3圧電体層29Cの分極方向と、第4圧電体層29Dの分極方向とは互いに同一とされている。従って、例えば、第2活性領域53Bにおいては、第3圧電体層29C及び第4圧電体層29Dに対して共に同一の電界を印加することによって、これらの圧電体層(29C及び29D)を共に収縮させ(図5)、又は共に伸長させることができる。
【0105】
第2活性領域53Bの分極方向は、+D3方向及び-D3方向のいずれであってもよい。また、第2活性領域53Bの分極方向は、第1活性領域53Aにおける第1圧電体層29A及び第2圧電体層29Bのいずれの分極方向と同一であってもよい。本実施形態の説明では、第2活性領域53Bの分極方向が第1活性領域53Aにおける第1圧電体層29Aの分極方向と同一である態様を例に取る。
【0106】
非活性領域55(55A~55C)は、分極されていてもよいし、分極されていなくてもよい。図示の例では、第1非活性領域55Aは分極されており、第2非活性領域55B及び第3非活性領域55Cは分極されていない。
【0107】
第1非活性領域55Aの分極方向は、厚み方向(D3方向)とされている。第1非活性領域55Aの分極方向は、+D3方向及び-D3方向のいずれであってもよいし、また、第1活性領域53A及び第2活性領域53Bの分極方向との関係も任意である。例えば、第1非活性領域55Aの分極方向は、第2活性領域53Bの分極方向と同一であってもよいし、逆であってもよい。本実施形態の説明では、第1非活性領域55Aの分極方向が第2活性領域53Bの分極方向と同一である態様を例に取る。
【0108】
(導体層)
図3に戻って、第1導体層31Aは、第1圧電体層29Aの上面に位置している。第2導体層31Bは、第1圧電体層29Aと第2圧電体層29Bとの間に位置している。第3導体層31Cは、第2圧電体層29Bと第3圧電体層29Cとの間に位置している。第4導体層31Dは、第3圧電体層29Cと第4圧電体層29Dとの間に位置している。第5導体層31Eは、第4圧電体層29Dと流路部材11(プレート25J)との間に位置している。
【0109】
導体層31の材料は、例えば、適宜な金属材料とされてよい。金属材料としては、例えば、Ag-Pd系の合金及びAu系の合金が用いられてよい。複数の導体層31の材料は、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。一の導体層31は、1種類の材料によって一体的に構成されていてもよいし、互いに異なる材料が積層されて構成されていてもよい。一の導体層31の材料は、平面方向の互いに異なる位置同士で同一である。ただし、一部の領域の材料が他の領域の材料と異なっていてもよい。
【0110】
導体層31は、概略、一定の厚さで平面状に広がっている。導体層31の厚さは、適宜に設定されてよい。また、複数の導体層31の厚さは、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。各層の厚さは、例えば、圧電体層29の厚さよりも薄くされている。導体層31の厚さの一例を挙げると、0.5μm以上3μm以下とされてよい。
【0111】
(導体層の形状)
図7及び図8は、圧電アクチュエータ13及び流路部材11の上部(プレート25J)の分解斜視図である。図7では、平面視におけるヘッド本体7の一部の領域であって、複数の圧電素子27が含まれる領域が示されている。図8では、1つの圧電素子27が含まれる領域が示されている。これらの図では、便宜上、導体層31の表面にハッチングを付している。
【0112】
これらの図では、圧電アクチュエータ13は、第5導体層31Eを除いて、各圧電体層29と、その上面(+D3側の面)に重なる導体層31との2層を組み合わせた板状部材に分解されて示されている。これは、図示の便宜上のものであり、製造過程において、このような4つの板状部材がそれぞれ作製されることを意味していない。例えば、製造過程において、各導体層31は、圧電体層29の下面(-D3側の面)に設けられてもよい。
【0113】
(第1導体層)
第1導体層31Aは、例えば、圧力室21(圧電素子27)毎に、第1電極33と、再配向電極35とを有している。第1電極33は、液滴を吐出するときに第1活性領域53A(より詳細にはそのうちの第1圧電体層29Aによって構成されている部分)に電圧を印加することに寄与する。再配向電極35は、液滴を吐出していないときに、第2非活性領域55B(その一部又は大部分)に対して分極処理を施して、圧電アクチュエータ13の特性劣化を低減することに寄与する。
【0114】
各圧電素子27において、第1電極33と再配向電極35とは互いに分離されており、互いに別個に電位が付与される。第1電極33と再配向電極35との距離は適宜に設定されてよい。例えば、両者の距離は、短絡が生じない範囲で極力短くされてよい。
【0115】
(第1電極)
第1電極33は、いわゆる個別電極である。すなわち、複数の第1電極33は、その形状の観点において、また、電気的観点において、互いに分離されている。そして、複数の第1電極33は、互いに異なる電位が付与されることが可能となっている。
【0116】
第1電極33は、例えば、第1活性領域53Aに電圧を印加することに寄与する電極本体33aと、電極本体33aと圧電アクチュエータ13の外部の信号線とを接続するための引出部33bとを有している。外部の信号線は、例えば、特に図示しないが、圧電アクチュエータ13の第1面13aに対向するFPC(フレキシブル配線板)が有している配線パターンである。なお、電極本体33aのみが第1電極と捉えられ、引出部33bは、配線と捉えられてもよい。
【0117】
電極本体33aの平面形状及びその寸法は、例えば、第1活性領域53Aの平面形状及びその寸法と概ね同じである。従って、第1活性領域53Aの平面形状及びその寸法についての既述の説明は、電極本体33aの平面形状及びその寸法に援用されてよい。既述のように、活性領域53は分極されており、かつ液滴の吐出時に電圧が印加される領域である。従って、第1活性領域53Aのうち第1圧電体層29Aによって構成されている部分の外縁は、電極本体33aの外縁と一致するか、これよりも内側に位置する。
【0118】
引出部33bは、例えば、平面透視において、電極本体33aから圧力室21の外部まで延び出ている。そして、引出部33bのうち圧力室21の外部に位置する部分(例えば電極本体33aとは反対側の端部)が外部の信号線に接合される。これにより、当該接合が圧電素子27による圧力室21への圧力付与に及ぼす影響が低減される。
【0119】
引出部33bの具体的な形状、寸法及び位置等は適宜に設定されてよい。例えば、引出部33bは、電極本体33aの所定方向(図示の例ではD1方向)の一方側の端部から前記所定方向の前記一方側へ直線状に延びている。当該所定方向は、任意の方向とされてよい。図示の例では、電極本体33aの長手方向である。また、引出部33bの幅は、例えば、概略一定であり、また、電極本体33aの径(例えば最小径)よりも小さい。図示の例とは異なり、引出部33bは、屈曲又は湾曲する部分を有していてもよい。また、引出部33bの電極本体33aとは反対側の端部は、他の部分に比較して拡幅されていてもよい。また、引出部33bは、平面透視したとき、第2活性領域53Bの外縁がなす形状内に収まっていてもよいし(図示の例)、収まっていなくてもよい。
【0120】
(再配向電極)
複数の再配向電極35は、その形状の観点において、また、電気的観点において、互いに分離されている。すなわち、再配向電極35は、個別電極となっている。ただし、後述する説明から理解されるように、複数の再配向電極35は、互いに同一の電位が付与されてよい。従って、図示の例とは異なり、第1導体層31Aは、例えば、互いに隣り合う再配向電極35同士を接続する配線を有していてもよい。また、例えば、第1導体層31Aは、第1電極33の配置領域を除いて隙間無く第1圧電体層29Aに広がる電極(第4導体層31Dを参照)を再配向電極として有していてもよい。
【0121】
再配向電極35は、例えば、平面視において、第2非活性領域55Bの概ね全体に電圧を印加可能であってもよいし、一部(内縁側、中央側又は外縁側)に対してのみ電圧を印加可能であってもよいし、第2非活性領域55Bだけでなく、第3非活性領域55Cに対しても電圧を印加可能であってもよい。
【0122】
図示の例では、再配向電極35は、第1非活性領域55Aの概ね全体に電圧を印加可能で、第3非活性領域55Cには電圧を印加しないように構成されている。すなわち、再配向電極35は、平面透視において、第1非活性領域55Aに対して、概ね、過不足無く重なる形状とされている。従って、第1非活性領域55Aの平面形状及びその寸法に関する既述の説明は、再配向電極35の平面形状及びその寸法に援用されてよい。
【0123】
ただし、再配向電極35は、第1非活性領域55Aとは異なり、第1電極33の引出部33bの位置において途切れており、C字状に形成されている。なお、ここでいうC字状も、環状と同様に、内縁及び/又は外縁が円形状又は楕円状のものに限定されない。
【0124】
また、第1圧電体層29Aのうち平面視において電極本体33aの外側に位置する部分は、液滴の吐出時に電圧が印加されないから、第1非活性領域55Aを構成する。一方、再配向電極35の内縁は、第1電極33と短絡しないように電極本体33aの外縁から外側に離れている。従って、再配向電極35が第1非活性領域55Aの全体に概ね重なるといっても、再配向電極35の内縁は、第1非活性領域55Aのうち第1圧電体層29Aによって構成されている部分の内縁よりも外縁側に位置している。
【0125】
再配向電極35の平面形状(途切れている部分を除く)が第1活性領域53Aの平面形状と相似形である態様において、再配向電極35の外縁は、図示の例とは異なり、第1非活性領域55Aの外縁(既述のように第2活性領域53Bの外縁によって定義される。)に対して、内側に位置してもよいし、外側に位置してもよい。すなわち、第1非活性領域55Aのうち外縁側の一部に分極処理が施されなかったり、第1非活性領域55Aに加えて第3非活性領域55Cにも分極処理が施されたりしてもよい。
【0126】
(第2導体層)
第2導体層31Bは、例えば、圧力室21(圧電素子27)毎に設けられている第2電極37と、複数の第2電極37を互いに接続している複数の配線39とを有している。第2電極37は、圧力室21に圧力を付与して液滴を吐出するときに第1活性領域53A(より詳細には第1圧電体層29A及び第2圧電体層29Bの双方)に電圧を印加することに寄与する。複数の配線39は、第2電極37に電位を付与することに寄与する。
【0127】
(第2電極)
複数の第2電極37は、その形状の観点において、互いに分離されている。別の観点では、隣り合う第2電極37の間には導体の非配置領域が位置している。すなわち、形状の観点において、第2電極37は、個別電極である。ただし、既述のように、複数の第2電極37は、複数の第1電極33とは異なり、複数の配線39によって互いに接続されて互いに同一の電位とされる。
【0128】
第2電極37の形状及び寸法は、例えば、第1電極33の電極本体33aの形状及び寸法と概ね同様とされている。そして、平面透視したとき、第2電極37及び電極本体33aは、概ね互いに過不足無く重なる。換言すれば、平面透視したとき、第2電極37の外縁は、電極本体33aの外縁と概ね一致する。別の観点では、平面透視したとき、第2電極37は、再配向電極35と重ならない。電極本体33a(第1活性領域53A)の平面形状及びその寸法に関する説明は、第2電極37の形状及び寸法に適宜に援用されてよい。
【0129】
ただし、より厳密に見たときに、平面透視において、第2電極37の外縁は、その一部又は全部が、電極本体33aの外縁に位置してもよいし、電極本体33aの外縁と再配向電極35の内縁との間に位置してもよいし、再配向電極35の内縁に位置してもよい。本開示の説明において、第2電極37の外縁が電極本体33aの外縁に一致する(又は両電極が過不足無く重なる)というとき、上記の全ての態様を含むことがある。厳密に見て一致するという場合であっても、両者の間に誤差が存在してもよいことはもちろんである(他の電極等についても同様。)。
【0130】
なお、図示の例とは異なり、第2電極37の外縁は、電極本体33aの外縁に対して、内側又は外側に若干ずれていてもよい。別の観点では、後述する説明から理解されるように、第1圧電体層29Aにおいて電圧が印加される領域と、第2圧電体層29Bにおいて電圧が印加される領域とは異なっていてもよい。さらに別の観点では、電圧が印加される領域が分極されていることが前提となるが、第1活性領域53Aは、第1圧電体層29Aによって構成される部分と、第2圧電体層29Bによって構成される部分とで広さが異なっていてもよい。
【0131】
(第2導体層の配線)
複数の配線39の数、位置、形状及び寸法等は適宜に設定されてよい。例えば、配線39は、D2方向に隣り合う第2電極37同士を接続していてもよいし(図示の例)、D2方向以外の方向(D1方向又はD1方向に傾斜する方向)に隣り合う第2電極37同士を接続していてもよいし、これらの接続の2以上を組み合わせた接続を実現していてもよい。図示の例では、配線39は、第1電極33の引出部33bが延びる方向に対して交差(より詳細には直交)する方向に延びている。ひいては、配線39と引出部33bとは重なっていない。
【0132】
また、例えば、配線39は、直線状に延びていてもよいし(図示の例)、屈曲又は湾曲していてもよい。また、例えば、配線39は、その長さ方向に亘って概略一定の幅であってもよいし(図示の例)、長さ方向の位置によって幅が異なっていてもよい。配線39の幅は、第2電極37の間に隙間が形成されるように(第2電極37が形状に関して個別電極となるように)、配線37の幅方向における第2電極37の径よりも小さい。例えば、前者は、後者の1/2以下、1/3以下又は1/4以下とされてよい。
【0133】
(第3導体層)
第3導体層31Cは、例えば、圧力室21(圧電素子27)毎に設けられている第3電極41を有している。第3電極41は、例えば、圧力室21に圧力を付与して液滴を吐出するときに、第1活性領域53A(より詳細にはそのうちの第2圧電体層29Bによって構成されている部分)に電圧を印加することに寄与するとともに、第2活性領域53B(より詳細には第3圧電体層29C及び第4圧電体層29Dの双方)に電圧を印加することに寄与する。第3電極41は、第1電極33と同様に、いわゆる個別電極である。すなわち、複数の第3電極41は、その形状の観点において、また、電気的観点において、互いに分離されている。
【0134】
第3電極41の平面形状及びその寸法は、例えば、概略、第1電極33と再配向電極35とを足し合わせたもの(別の観点では第1活性領域53A及び第2活性領域53Bを足し合わせたもの)の平面形状及びその寸法と同様とされている。そして、平面透視したとき、第3電極41は、第1電極33、再配向電極35、及びこれらの電極(33及び35)の隙間に対して(第1活性領域53A及び第2活性領域53Bに対して)、概ね過不足無く重なる。第2活性領域53Bの外縁の形状及びその寸法に係る説明は、第3電極41の平面形状及びその寸法に援用されてよい。
【0135】
第3電極41の平面形状及びその寸法と、再配向電極35の外縁がなす形状及びその寸法とは互いに異なっていてもよい。例えば、平面透視したときに、再配向電極35の外縁は、第3電極41の外縁に対して、内側に位置していてもよいし、外側に位置していてもよい。また、例えば、第3電極41は、平面透視したときに、電極本体33aと再配向電極35との間にて電極本体33aの外縁に沿って延びるスリットを有していてもよい。
【0136】
(第4導体層)
第4導体層31Dは、例えば、圧電アクチュエータ13において、第1面13a側の部分と第2面13b側の部分との構造的な特性を均等化することに寄与している。従って、後述する動作の説明からも理解されるように、本実施形態では、第4導体層31Dは、圧電体層29に対して電圧を印加することには寄与していない。第4導体層31Dは、省略されても構わない。
【0137】
第4導体層31Dの形状、寸法及び位置は、例えば、平面透視において、圧電体層29に電圧を印加する電極に重ならないように設定されている。電圧を印加する電極は、本実施形態では、既述の第1電極33、再配向電極35、第2電極37及び第3電極41、並びに後述する第4電極45である。これにより、第4導体層31Dは、上記の電極によって圧電体層29に対して電圧を印加する妨げになる蓋然性が低減されている。
【0138】
ただし、第4導体層31Dは、上記電極の一部と重なる領域を含んでいてもよい。例えば、再配向電極35が第3電極41の外縁及び第4電極45の外縁よりも外側に位置する領域(第3非活性領域55Cに重なる領域)を有している場合において、第4導体層31Dは、上記の外側に位置する領域と重なる領域を含んでいてもよい。この場合、第4導体層31Dは、第3非活性領域55Cのうち第1圧電体層29A~第3圧電体層29Cによって構成されている部分の再配向に寄与し得る。
【0139】
第4導体層31Dの形状及び寸法は適宜に設定されてよい。図示の例では、第4導体層31Dは、圧力室21(圧電素子27)毎に開口43が形成された形状とされている。換言すれば、第4導体層31Dは、開口43を除けば、第4圧電体層29D上に隙間無く広がるベタ状である。
【0140】
開口43の平面形状及びその寸法は、例えば、第3電極41(別の観点では第1活性領域53A及び第2活性領域53Bの論理和)の平面形状及びその寸法と概ね同様とされている。そして、平面透視したとき、開口43は、第3電極41に対して概ね過不足無く重なる。第2活性領域53Bの外縁の形状及びその寸法の説明は、開口43の平面形状及びその寸法に援用されてよい。
【0141】
ただし、開口43は、第3電極41よりも大きくされていてもよい。これにより、例えば、第3電極41(及び他の電極)と第4導体層31Dとが重複する蓋然性を低減できる。また、開口43を大きくした方が、第1面13a側の部分と第2面13b側の部分との構造的な特性を均等化するという目的に合致する場合もある。第3電極41よりも大きい開口43の形状は、第3電極41(別の観点では圧力室21)の形状と相似形であってもよいし、相似形でなくてもよい。
【0142】
第4導体層31Dの平面形状(パターン)は、開口43が形成された形状以外に種々可能である。例えば、第4導体層31Dの平面形状は、適宜な方向に延びる複数の線状パターンを含んで構成されていてもよいし、開口43以外にも開口を有するメッシュ状であってもよい。
【0143】
(第5導体層)
第5導体層31Eは、例えば、圧力室21(圧電素子27)毎に設けられている第4電極45を有している。第4電極45は、例えば、圧力室21に圧力を付与して液滴を吐出するときに第2活性領域53B(より詳細には第3圧電体層29C及び第4圧電体層29Dの双方)に電圧を印加することに寄与する。また、第4電極45は、例えば、液滴を吐出していないときに、第2非活性領域55B(その一部又は大部分)に対して分極処理を施して、圧電アクチュエータ13の特性劣化を低減することに寄与する。
【0144】
複数の第4電極45は、その形状の観点において、互いに分離されている。従って、形状の観点においては、複数の第4電極45は、個別電極である。ただし、複数の第4電極45は、複数の第1電極33とは異なり、互いに同一の電位が付与される。具体的には、図示の例では、複数の第4電極45は、金属からなるプレート25Jによって互いに電気的に接続される。なお、本実施形態とは異なり、プレート25Jを樹脂プレートにすることなどによって加圧面11bを絶縁性にし、流路部材11を介した複数の第4電極45の電気的接続をしないようにしてもよい。
【0145】
第4電極45の平面形状及びその寸法は、例えば、概略、再配向電極35の平面形状及びその寸法と概ね同様とされている。別の観点では、第4電極45の平面形状及びその寸法は、第3電極41のうち、第1電極33の電極本体33aと重ならない領域(外周側の領域)の平面形状及びその寸法と概ね同様とされている。さらに別の観点では、第4電極45の平面形状及びその寸法は、第2活性領域53Bの平面形状及びその寸法と概ね同様とされている。第2活性領域53Bの平面形状及びその寸法に係る説明は、第4電極45の平面形状及びその寸法に援用されてよい。
【0146】
平面透視において、第4電極45の内縁は、電極本体33aの外縁(再配向電極35の内縁)及び第2電極37の外縁に概ね一致する。第4電極45の内縁は、第2電極37の外縁と同様に、より厳密に見たときに、平面透視において、その一部又は全部が、電極本体33aの外縁に位置してもよいし、電極本体33aの外縁と再配向電極35の内縁との間に位置してもよいし、再配向電極35の内縁に位置してもよい。本開示の説明において、第4電極45の内縁が電極本体33aの外縁に一致するというとき、上記の全ての態様を含むことがある。なお、第4電極45の内縁は、電極本体33aの外縁及び/又は第2電極37の外縁に対して内側又は外側に若干ずれていてもよい。
【0147】
平面透視において、第4電極45の外縁は、例えば、再配向電極35の外縁、第3電極41の外縁及び開口43の縁部に概ね一致する。ただし、再配向電極35と第3電極41との関係と同様に、再配向電極35の外縁は、第4電極45の外縁に対して、内側又は外側に位置していてもよい。また、開口43と第3電極41との関係と同様に、開口43は、第4電極45よりも大きくされたりしてよい。また、なお、第4電極45の外縁は、第3電極41の外縁に対して内側又は外側にずれていてもよい。
【0148】
(導体層の電気的接続)
第1電極33は、既に述べたように、圧電素子27毎に個別に電位(駆動信号)が付与される電極であり、また、圧電アクチュエータ13の第1面13aに対向する不図示のFPCから引出部33bに電位が付与される。例えば、引出部33bの電極本体33aとは反対側の端部は、FPCの配線パターンと不図示のバンプによって接合される。バンプは、例えば、はんだ(鉛フリーはんだを含む)によって構成されている。
【0149】
第3電極41も、既に述べたように、圧電素子27毎に個別に電位(駆動信号)が付与される電極である。ただし、本実施形態では、第3電極41は、自己が属する圧電素子27の第1電極33と同一の電位が付与される。同一の電位の付与は、例えば、圧電アクチュエータ13内において第1電極33と第3電極41とが電気的に接続されることによって実現されてよい。
【0150】
上記の第1電極33と第3電極41との接続は、適宜な導体によって実現されてよい。例えば、図3に示すように、第1圧電体層29A及び第2圧電体層29Bを貫通する貫通導体47によって第1電極33と第3電極41とが接続されてよい。図8では、第1電極33及び第3電極41のうち、貫通導体47によって接続される位置を点線で結んでいる。貫通導体47の第1電極33に対する接続位置は、例えば、引出部33bのうちの平面透視において圧力室21の外部に位置する部分(より詳細には、例えば、外側の領域11eに位置する部分)とされてよい。また、貫通導体47の第3電極41に対する接続位置は、上記の貫通導体47の引出部33bに対する接続位置の直下の位置とされてよい。
【0151】
この他、特に図示しないが、例えば、第1圧電体層29Aを貫通し、第1電極33に接続される貫通導体と、第2圧電体層29Bを貫通し、第3電極41に接続される貫通導体と、第1圧電体層29Aと第2圧電体層29Bとの間に位置し、上記2つの貫通導体を接続する層状配線とが設けられてもよい。また、第3電極41の電位が第1電極33の電位とは異なる電位とされる態様においては、例えば、平面透視において再配向電極35と重ならない位置まで延びる引出部を第3電極41に設け、当該引出部に接続されるとともに圧電アクチュエータ13の第1面13aに露出する貫通導体を設けてよい。そして、当該貫通導体又はその上に重なるパッドと不図示のFPCの配線パターンとを接合してもよい。
【0152】
再配向電極35は、例えば、第1電極33と同様に、不図示のFPCとバンプを介して接合されることによって電位が付与されてよい。このときの再配向電極35の接合位置は、適宜な位置とされてよい。例えば、再配向電極35のうち、電極本体33aを挟んで引出部33bとは反対側に位置する部分が接合位置とされてよい。及び/又は、例えば、接合位置は、平面透視において圧力室21に重ならない位置とされてよい。これにより、引出部33bに対する接合と同様に、接合が圧力室21の圧力に及ぼす影響が低減される。
【0153】
この他、特に図示しないが、例えば、再配向電極35に圧力室21から離れる方向へ延びる引出部を設け、当該引出部にFPCを接合してもよい。また、複数の再配向電極35は、互いに別個に電位が付与される必要は無い。従って、複数の再配向電極35を互いに接続する配線と、複数の再配向電極35に共通に接続されたパッドとを設け、当該パッドにFPCを接合してもよい。
【0154】
複数の第4電極45は、既述のように、本実施形態では、金属からなるプレート25Jによって互いに電気的に接続されており、同一の電位が付与される。プレート25Jは、例えば、基準電位が付与されてよい。このとき、プレート25Jは、フレームグランド及びシグナルグランド(例えば圧電アクチュエータ13に接続される不図示のFPCの基準電位部)の一方のみに接続されてもよいし、双方に接続されてもよく、後者の場合において、双方に直接に接続されてもよいし、一方を介して他方に接続されてもよい。接続のための構成は任意である。
【0155】
複数の第2電極37は、既述のように、複数の配線39によって接続されており、互いに同一の電位が付与される。また、第4導体層31Dは、複数の開口43が形成されているものの、基本的に一つの導体パターンであるから、当然にその全体に同一の電位が付与される。また、本実施形態では、複数の第2電極37と第4導体層31Dとは互いに同一の電位が付与される。複数の第2電極37及び第4導体層31Dは、例えば、圧電体層29を貫通する貫通導体を設けることなどによって、圧電アクチュエータ13の第1面13aに対向する不図示のFPCに電気的に接続されてよい。貫通導体の構成は適宜に設定されてよい。以下に、一例を示す。
【0156】
図9は、第2導体層31Bの一部の拡大平面図である。この図では、複数の第2電極37がD2方向に並ぶことによって構成されている行が2つだけ示されている。また、この図では、説明の便宜上、1行が含む複数の第2電極37の数が4つであるものと仮定している。
【0157】
各行において、複数の第2電極37は、既述のように、複数の配線39によって接続されている。さらに、各行の両端には、行の外側(-D2側又は+D2側)へ延びる配線39が設けられている。この両端の配線39は、複数の行に交差する方向(D1方向)に延びる共通配線49に接続されている。これにより、複数の行は、互いに接続されている。共通配線49は、第2導体層31Bの一部である。
【0158】
図10は、図9のX-X線における断面図である。
【0159】
図9及び図10に示すように、平面透視において共通配線49と重なる位置には、圧電体層29を貫通する貫通導体57が設けられている。具体的には、図10に示すように、第2圧電体層29B及び第3圧電体層29Cを貫通する貫通導体57が設けられている。これにより、共通配線49と第4導体層31Dとが接続されている。ひいては、複数の第2電極37と第4導体層31Dとは同一の電位とされている。
【0160】
また、第1圧電体層29Aを貫通する貫通導体57も設けられている。これにより、圧電アクチュエータ13の第1面13aに対向する不図示のFPCと、複数の第2電極37及び第4導体層31Dとを電気的に接続可能となっている。具体的には、例えば、第1圧電体層29Aを貫通する貫通導体57の上には、パッド59が設けられており、このパッド59とFPCの不図示の信号線とが不図示のバンプによって接合される。
【0161】
図9において点線で示すように、貫通導体57は、例えば、共通配線49に沿って複数設けられてよい。これにより、同電位とされる電極の電位が安定する。もちろん、貫通導体57は、1カ所のみに設けられても構わない。共通配線49の上方に位置する貫通導体57と、共通配線49の下方に位置する貫通導体57とは、平面透視において互いに重なっていてもよいし、互いに重なっていなくてもよい。
【0162】
特に図示しないが、第4圧電体層29Dを貫通する貫通導体57が設けられてもよい。この貫通導体57によって、プレート25J(別の観点では第4電極45)と、第2電極37及び第4導体層31Dとが電気的に接続されてもよい。
【0163】
(導体層に付与される電位)
図11は、液滴を吐出するときに導体層31に付与される電位を示す模式的な断面図である。また、図12は、第1非活性領域55Aに対して分極処理を行うときに導体層31に付与される電位を示す模式的な断面図である。これらの図は、例えば、図5と同様に、図4のV-V線に対応している。これらの図において、断面であることを示すハッチングは省略されている。圧電体層29の断面内に示されている矢印は、液滴を吐出するサイクル内の所定の時点における電圧(電界)の方向を示している。
【0164】
これらの図では、圧電アクチュエータ13に電力を供給して圧電アクチュエータ13を駆動するドライバ61が示されている。ただし、ここで示されているドライバ61の構成は、導体層31に付与される電位を分かりやすく図示するための便宜上のものである。従って、実際のドライバ61の構成は、図示の構成と異なっていてよい。
【0165】
ドライバ61は、例えば、IC(Integrated Circuit)によって構成されている。ドライバ61は、例えば、圧電アクチュエータ13の第1面13aに対向する不図示のFPCに実装されることなどによって、ヘッド2に搭載されていてよい。ただし、ドライバ61は、ヘッド2に搭載されていなくてもよい。ドライバ61と制御部88との間の役割分担は適宜に設定されてよい。例えば、以下に説明するドライバ61の動作の一部又は全部は、制御部88によって実行されてもよい。ドライバ61は、制御部88と別個に概念することが困難なハードウェア構成で設けられていても構わない。ドライバ61及び制御部88の全体を制御部として捉えてもよい。
【0166】
ドライバ61は、例えば、液滴を吐出するための電力を出力可能な第1信号源63と、分極処理のための電力を出力可能な第2信号源65と、これらの信号源と圧電アクチュエータ13との接続を制御するスイッチ部67とを有している。なお、スイッチ部67は、液滴を吐出するための電力と、分極処理のための電力とのいずれが圧電アクチュエータ13に付与されるかを分かりやすく図示するためのものである。実際には、スイッチ部67が設けられず、第1信号源63及び第2信号源65の動作によって、液滴を吐出するための電力及び分極処理のための電力が選択的に出力されてよい。また、第1信号源63及び第2信号源65は、一部が共通化されていてもよい。
【0167】
図11及び図12では、シグナルグランド及び/又はフレームグランドとしての基準電位部69が示されている。基準電位が付与される導体層31と、基準電位部69との接続は、ドライバ61を介したものであってもよいし、ドライバ61を介していなくてもよい。基準電位部69の接続に係る図示の構成は、導体層31間の電位差等を分かりやすく示すための便宜上のものに過ぎない。
【0168】
(液体吐出制御)
図5を参照して説明したように、液滴を吐出するときは、第1信号源63は、第1活性領域53A及び第2活性領域53Bに対して、分極方向と同一方向(又は逆方向)に電圧(電界)を印加する。図6を参照して説明したように、本実施形態では、第1活性領域53Aにおいて、第1圧電体層29Aの分極方向と、第2圧電体層29Bの分極方向とは互いに逆向きであり、また、第2活性領域53Bの分極方向は、第1活性領域53Aのうち第1圧電体層29Aによって構成されている部分の分極方向と同じである。従って、図11において矢印y1及びy2で示されているように、ドライバ61(第1信号源63)は、第1活性領域53Aにおいて、第1圧電体層29Aに印加される電圧と、第2圧電体層29Bに印加される電圧とが逆向きになり、かつ第2活性領域53Bに印加される電圧が、第1活性領域53Aのうち第1圧電体層29Aによって構成されている部分に印加される電圧と同じ向きになるように、導体層31に電位を付与する。
【0169】
より詳細には、図示の例では、第2電極37及び第4電極45には基準電位が付与されている。第1電極33及び第3電極41には基準電位よりも高い電位(別の観点では極性が正の電位)が付与されている。これにより、第1電極33と第2電極37との間(第1活性領域53Aのうち第1圧電体層29Aによって構成されている部分)には、前者から後者への向きに電圧が印加される。第2電極37と第3電極41の第2電極37と重複する領域との間(第1活性領域53Aのうち第2圧電体層29Bによって構成されている部分)には、後者から前者への向きに電圧が印加される。第3電極41の第4電極45と重なる領域と第4電極45との間には、前者から後者への向きの電圧が印加される。
【0170】
上記では、分極方向と同一方向に電圧が印加される場合について説明したが、第1電極33及び第3電極41に基準電位よりも低い電位(別の観点では極性が負の電位)を付与することによって、分極方向に対して逆方向に電圧を印加することができる。また、上記の説明では、図6に図示した分極方向を前提としたが、分極方向が図6とは逆向きである場合においては、上記の電位の高低(正負)は、逆となる。
【0171】
上記の説明では、第2電極37及び第4電極45に基準電位が付与されるものとして説明した。ただし、第4電極45を金属製のプレート25Jに電気的に接続しないようにしつつ(例えば後述する実施形態参照)、第2電極37及び第4電極45に基準電位以外の電位を付与してもよい。例えば、第2電極37及び第4電極45に対して、第1電極33及び第3電極41の電位とは異なり、かつ基準電位よりも高い又は低い電位を付与してもよい。また、第2電極37及び第4電極45に対して個別に電位を付与可能に導体層31の構成及び貫通導体の配置を変更する必要があるが、上記とは逆に、第1電極33及び第3電極41に対して基準電位を付与し、第2電極37及び第4電極45に対して基準電位よりも高い又は低い電位を付与してもよい。従って、本実施形態を上位概念化すると、第1電極33及び第3電極41に対して同一の電位(第1電位)を付与し、第2電極37及び第4電極45に対して同一の電位(第2電位)を付与し、両電位の差によって第1活性領域53Aに印加される電界(第1電界)及び第2活性領域53Bに印加される電界(第2電界)を形成しているということができる。
【0172】
上記以外の態様によって、第1活性領域53A及び第2活性領域53Bに対して分極方向と同一方向に電圧が印加されても構わない。例えば、第1電極33と第3電極41とを互いに接続しないようにし、第1電極33の電位及び第3電極41の電位が、互いに異なっているとともに、いずれも第2電極37の電位よりも高く(又は低く)されてよい。また、例えば、第2電極37の電位及び第4電極45の電位が、互いに異なっているとともに、いずれも第3電極41の電位よりも低く(又は高く)されてよい。
【0173】
液滴の吐出のための電圧を印加するとき、再配向電極35及び第4導体層31Dは、例えば、基準電位が付与されていてもよいし、電気的に浮遊状態(積極的に電位が付与されていない状態)とされていてもよい。図11の例では、再配向電極35は、電気的に浮遊状態とされている。また、第4導体層31Dは、本実施形態では、既述のように、第2電極37と接続されていることから、基準電位が付与されている。
【0174】
圧力室21に圧力を付与するときの圧電素子27の駆動方式としては、公知の種々の方式、又は公知の種々の方式を応用したものが採用されてよい。代表的な駆動方式としては、いわゆる引き打ち式を挙げることができる。引き打ち式を採用した場合におけるドライバ61の動作は、例えば、以下のとおりである。
【0175】
ドライバ61は、液滴の吐出前に予め第1電極33及び第3電極41に基準電位(別の観点では第2電極37及び第4電極45の電位と同じ電位。以下、同様。)よりも高い電位を付与している。これにより、圧電素子27は、圧力室21側に撓み変形を生じた状態とされている。液滴を吐出するタイミングが到来すると、ドライバ61は、第1電極33及び第3電極41に基準電位を付与する。これにより、圧電素子27は平らな状態に戻り始め、ひいては、圧力室21の容積は増加し始める。別の観点では、圧電素子27は、固有振動数での振動を開始する。その後、圧力室21の容積は最大となり、再び減少していく。容積の減少に伴って圧力室21の圧力は高くなっていく。そして、圧力が略最大となるタイミングで、第1電極33及び第3電極41に対して基準電位よりも高い電位を付与する。これにより、最初に加えた振動と、次に加えた振動とが重なり、より大きい圧力が圧力室21内に付与される。このように、ドライバ61は、第2電極37及び第4電極45の電位よりも高い電位を基準として、一定期間低電位となるパルス状の駆動信号を第1電極33及び第3電極41に入力する。
【0176】
ドライバ61は、例えば、記録媒体に形成すべきドットの大きさに応じて、パルス状の駆動信号の振幅を変えたり、及び/又は駆動信号の数を変えたりする。これにより、吐出される液滴が大きくされたり、1つのドットに対して2以上の液滴が吐出されたりする。
【0177】
これまでの説明から理解されるように、液滴を吐出するとき、第1活性領域53Aに印加される電圧の変化と、第2活性領域53Bに印加される電圧の変化とは同一である。従って、第1活性領域53Aが伸長する期間と第2活性領域53Bが伸長する期間とは互いに同一であり、また、第1活性領域53Aが収縮する期間と第2活性領域53Bが収縮する期間とは互いに同一である。換言すれば、第1活性領域53Aが収縮及び伸長の一方を生じる期間と、第2活性領域53Bが収縮及び伸長の前記一方を生じる期間とは同一である。上位概念化して言えば、第1活性領域53Aが伸長及び収縮の一方を生じる期間と、第2活性領域53Bが伸長及び収縮の前記一方を生じる期間とは、少なくとも一部同士が重複する。
【0178】
引き打ち式の説明から理解されるように、ここでいう収縮及び伸長の前記一方を生じる期間は、第1活性領域53A及び第2活性領域53Bに積極的に電圧を印加する期間に限定されない。例えば、収縮及び伸長の前記一方を生じる期間は、液滴を吐出するタイミングが到来したときに第1電極33及び第3電極41の電位を基準電位にした期間であってもよい。この期間は、第1活性領域53A及び第2活性領域53Bに電圧が印加されない期間と捉えることができる。ただし、いずれにせよ、ドライバ61は、液体吐出制御において、第1活性領域53Aが伸長及び収縮の一方を生じる期間の少なくとも一部において第2活性領域53Bが伸長及び収縮の前記一方を生じるように、第1活性領域53Aに印加される電界の強度と、第2活性領域53Bに対して印加される電界の強度とを制御しているといえる。
【0179】
第1活性領域53A及び第2活性領域53Bの間で電圧が印加される期間を互いにずらすことも可能である。例えば、複数の第4電極45に対して個別に電位を付与可能に、圧電アクチュエータを構成する。そして、例えば、上記の引き打ち式の例において、液滴の吐出前においては、第4電極45に対して第3電極41の電位と同じ電位を付与して第2活性領域53Bの収縮は利用せず、第3電極41の電位を基準電位よりも高い電位に戻すときに、第4電極に対して基準電位を付与して第2活性領域53Bの収縮を利用してもよい。その逆に、液滴の吐出前に第2活性領域53Bの収縮を利用してもよい。液滴の吐出量(画像データに応じて記録媒体上に形成されるドットの大きさ)に応じて、第2活性領域53Bの収縮の利用の有無が変更されてもよい。なお、これらのいずれの態様も、第1活性領域53Aが伸長及び収縮の一方を生じる期間と、第2活性領域53Bが伸長及び収縮の前記一方を生じる期間とは、少なくとも一部同士が重複しているといえる。
【0180】
第2電極37及び第4電極45は同一の電位(基準電位)が付与されている。従って、第3電極41と第2電極37との間の電位差と、第3電極41と第4電極45との間の電位差は同一である。換言すれば、第1活性領域53Aのうち第2圧電体層29Bによって構成されている部分に印加される電圧と、第2活性領域53Bに印加される電圧とは同一である。一方、前者の電圧は、1層の圧電体29(29B)の厚みに対して印加されるのに対して、後者の電圧は、2層の圧電体層(29C及び29D)の厚みに対して印加される。従って、前者の電圧が形成する電界の強度は、後者の電圧が形成する電界の強度よりも強い。同様のことは、第1活性領域53Aのうち第1圧電体層29Aによって構成される部分と、第2活性領域53Bとについても言える。別の観点では、液体を吐出するとき、第1活性領域53Aにおける電界の強度(別の観点ではその変化量)は、第2活性領域53Bにおける電界の強度よりも大きくなっている。
【0181】
本実施形態においては、液体吐出制御において、第1活性領域53Aに印加される電界及び第2活性領域53Bに印加される電界は、共に上昇又は下降する。本実施形態とは異なり、両電界が共に同様に変化しない態様においては、第1活性領域53Aに印加される電界の強度と、第2活性領域53Bに印加される電界の強度とは、例えば、最大値同士が比較されてよい。また、例えば、引き打ち式においては、その具体的な駆動波形にもよるが、吐出タイミングが到来する直前の、圧電素子27を圧力室21側に撓ませた状態に維持する電界は、吐出中の電界ではないが、液体吐出制御において活性領域53に印加される電界の最大値として参照されてよい。第1活性領域53Aに印加される電界と、第2活性領域53Bに印加される電界とが別個に制御される態様においては、互いに比較される電界の強度の最大値は、互いに異なる時点のものであってよい。
【0182】
(再配向制御)
第1非活性領域55Aは、圧電素子27の撓み変形に伴って面に沿う方向の応力を繰り返し受けると、ドメインウォールの移動(ドメインスイッチング)を生じる。その結果、圧電素子27の変位が低下する。そこで、第1非活性領域55Aに対して分極処理を施し、第1非活性領域55Aの分極を一定に保つことによって、変位の低下を低減できる。
【0183】
再配向電極35による分極処理は、液滴が吐出されていない適宜な時期に行われてよい。例えば、分極処理は、印刷が行われていないときに、プリンタ1に対するユーザの操作をトリガとして行われてよい。すなわち、分極処理は、任意の時期に行われてよい。また、例えば、制御部88は、印刷回数をカウントし、所定回数の印刷が完了したときに分極処理を行ってもよい。プリンタ1が出荷されたとき、第1非活性領域55Aは、分極処理がなされていない状態であってもよいし、再配向電極35による分極処理によって実現される分極と同様の分極が生じた状態であってもよい。
【0184】
図6を参照して説明したように、本実施形態では、第1非活性領域55Aは、厚み方向に分極されている。分極処理においては、図12において矢印で示すように、ドライバ61(第2信号源65)は、第1非活性領域55Aの分極方向と同一方向に電圧(直流電圧)を印加する。このときの電圧は、例えば、第1非活性領域55Aの抗電界を超える強度の電界を形成する電圧とされ、また、分極が飽和状態となる電圧以上の電圧とされよい。
【0185】
上記のように電圧を印加するために、図示の例では、再配向電極35は、基準電位よりも高い電位(別の観点では極性が正の電位)が付与されている。第3電極41は、電気的に浮遊状態とされている。第4電極45は、基準電位が付与されている。これにより、再配向電極35と第4電極45との間に電界が形成される。その間に介在する第3電極41は、電気的に浮遊状態とされているので、上記電界の形成の妨げになりにくい。そして、上記電界は、第1非活性領域55A及び第2活性領域53Bに印加される。
【0186】
上記では、分極方向が図6で示したように下向きである態様を前提とした。分極方向が逆方向である態様においては、基準電位よりも低い電位(別の観点では極性が負の電位)が再配向電極35に付与されてよい。また、第4電極45(換言すれば再配向電極35とで電界を形成する電極)を金属製のプレート25Jに電気的に接続しないようにして、当該電極に基準電位以外の電位を付与してもよい。この場合において、再配向電極35に付与される電位は、基準電位であってよいし、基準電位以外の電位であってもよい。
【0187】
分極処理のための電圧を印加するとき、第1電極33、第2電極37及び第4導体層31Dは、例えば、基準電位が付与されていてもよいし、電気的に浮遊状態とされていてもよい。本実施形態では、既述のように、第1電極33は第3電極41と電気的に接続されていることから、電気的に浮遊状態とされている。また、第2電極37及び第4導体層31Dは、基準電位が付与されている。
【0188】
ヘッド本体7の製造方法は、公知の種々の方法、又は公知の種々の方法を応用したものと同様とされてよい。例えば、圧電アクチュエータ13は、圧電体層29となるセラミックグリーンシートに導体層31及び貫通導体となる導電ペーストを配置し、その後、セラミックグリーンシートを積層して焼成することによって作製されてよい。流路部材11は、エッチング等によって流路となる貫通孔が形成された複数のプレート25を接着剤によって接着することによって作製されてよい。そして、圧電アクチュエータ13と流路部材11とを接着剤によって接合することによってヘッド本体7が作製されてよい。
【0189】
活性領域53の分極処理は、例えば、圧電アクチュエータ13の焼成後の適宜な時期(例えば圧電アクチュエータ13と流路部材11との接合後)において行われてよい。分極処理では、例えば、図11において矢印y1及びy2で示した電界が印加されるように、第1電極33、第2電極37、第3電極41及び第4電極45に対して直流電圧を印加する。このときの電圧は、例えば、活性領域53の抗電界を超える強度の電界を形成する電圧とされ、また、分極が飽和状態となる電圧以上の電圧とされよい。
【0190】
以上のとおり、本実施形態では、液体吐出ヘッド2は、流路部材11と、圧電アクチュエータ13と、ドライバ61とを有している。流路部材11は、加圧面11bと、当該加圧面11bに開口している圧力室21とを有している。圧電アクチュエータ13は、加圧面11bに重なっている。ドライバ61は、圧電アクチュエータ13を駆動する。圧電アクチュエータ13は、第1活性領域53A及び第2活性領域53Bを有している。加圧面11bに垂直な方向(D3方向)を厚み方向と呼称するとき、第1活性領域53Aは、厚み方向に分極されている圧電体からなり、加圧面11bの平面透視において圧力室21の中央部21aに重なっている。第2活性領域53Bは、厚み方向に分極されている圧電体からなり、第1活性領域53Aよりも加圧面11b側に位置しており、加圧面11bの平面透視において圧力室21の周縁部21b及び圧力室21の外側の領域11eに重なっている。ドライバ61は、液体吐出制御において、第1活性領域53Aが加圧面11bに沿う方向において伸長及び収縮の一方を生じる期間の少なくとも一部において第2活性領域53Bが加圧面11bに沿う方向において伸長及び収縮の前記一方を生じるように、第1活性領域53Aに対して厚み方向に印加される第1電界(図11の矢印y1)の強度と、第2活性領域53Bに対して厚み方向に印加される第2電界(図11の矢印y2)の強度とを制御する。液体吐出制御において、第1電界の強度の最大値が第2電界の強度の最大値よりも大きい。
【0191】
従って、例えば、第1活性領域53Aだけでなく、第2活性領域53Bを駆動することによって、圧電素子27全体としての変位を大きくすることができる。第2活性領域53Bは、流路部材11によって圧力室21の外側の領域11eに重なる領域の変形が規制されることから、圧力室21の外縁付近において応力が大きくなりやすい。しかし、第1活性領域53Aに印加される電界の強度を第2活性領域53Bに印加される電界の強度よりも大きくすることによって、圧電素子27全体としての変位を大きくする上述の効果を維持しつつ、第2活性領域53Bに加えられる応力を低減することができる。第2活性領域53Bに加えられる応力を低減することによって、ヘッド2の耐久性を向上させることができる。
【0192】
また、本実施形態では、ヘッド2は、3つ以上の電極(33、37、41及び45)を有している。当該3つ以上の電極は、厚み方向の位置が互いに異なり、それぞれ第1活性領域53Aに対する第1電界の印加及び第2活性領域53Bに対する第2電界の印加の少なくとも一方を行う。前記の3つ以上の電極の厚み方向における3つ以上の位置のうち互いに隣り合う位置にあり、第1電界を印加する2つの電極の、厚み方向における距離(33と37との距離及び37と41との距離の少なくとも一方)を第1の距離とする。前記の3つ以上の位置のうち互いに隣り合う位置にあり、第2電界を印加する2つの電極の、厚み方向における距離(41と45との距離)を第2の距離とする。このとき、第1の距離が第2の距離よりも短い。
【0193】
従って、例えば、第1活性領域53Aに印加される第1電界を形成する電圧(電位差)と、第2活性領域53Bに印加される第2電界を形成する電圧(電位差)とが同一であるとしても、第1電界の強度は第2電界の強度よりも強くなる。このような理由から、第1電界の強度を第2電界の強度よりも強くすることが容易化される。
【0194】
また、本実施形態では、上記の電極間の距離の関係が成り立つことに加えて、液体吐出制御において、第1活性領域53Aに対して第1電界を印加する上記2つの電極の電位差(33と37との電位差及び/又は37と41との電位差)の最大値と、第2活性領域53Bに対して第2電界を印加する上記2つの電極(41及び45)の電位差の最大値とが同じである。
【0195】
この場合、例えば、第1電界を印加する2つの電極の一方と、第2電界を印加する2つの電極の一方とを接続し(又は1つの電極に統合し)、第1電界を印加する2つの電極の他方と、第2電界を印加する2つの電極の他方とを接続することができる。その結果、簡素な構成で、第1電界の強度を第2電界の強度よりも強くすることができる。
【0196】
また、本実施形態では、圧電アクチュエータは、第1圧電体層29A~第4圧電体層29D、並びに第1電極33、第2電極37、第3電極41及び第4電極45を有している。圧電アクチュエータ13の流路部材11とは反対側(+D3側)を第1側と呼称し、圧電アクチュエータ13の流路部材11側(-D3側)を第2側と呼称する。このとき、第1圧電体層29A~第4圧電体層29Dは、第1側から第2側へ順に積層されている。第1電極33は、第1圧電体層29Aの第1側の面に重なっており、平面透視において圧力室21の中央部21aに重なっている。第2電極37は、第1圧電体層29Aの第2側の面に重なっており、平面透視において中央部21aに重なっている。第3電極41は、第2圧電体層29Bの第2側の面に重なっており、平面透視において中央部21a、圧力室21の周縁部21b及び圧力室21の外側の領域11eに重なっている。第4電極45は、第4圧電体層29Dの第2側の面に重なっており、平面透視において周縁部21b及び外側の領域11eに重なっている。第1活性領域53Aは、第1圧電体層29Aにおける第1電極33と第2電極37とに挟まれた領域と、第2圧電体層29Bにおける第2電極37と第3電極41の中央部21aに重なっている部分とに挟まれた領域と、を有している。第2活性領域53Bは、第3圧電体層29C及び第4圧電体層29Dにおける、第3電極41の周縁部21b及び外側の領域11eに重なっている部分と第4電極45とに挟まれた領域を有している。
【0197】
この場合、例えば、簡素な構成で、第1活性領域53Aに印加される第1電界を第2活性領域53Bに印加される第2電界よりも大きくすることができる。例えば、第1活性領域53Aにおいては厚み方向の位置が互いに異なる3つの電極(33、37及び41)によって2つの圧電体層29(29A及び29B)に電圧が印加され、第2活性領域53Bにおいては2つの電極によって2つの圧電体層29(29C及び29D)に電圧が印加される。従って、上述した第1活性領域53Aに電圧を印加する2つの電極の距離を第2活性領域53Bに電圧を印加する2つの電極の距離を短くする構成を実現することが容易である。この距離の関係による効果によって、第1活性領域53A(29A及び29Bのそれぞれ)に印加される電圧と、第2活性領域53B(29C及び29Dの双方)に印加される電圧とを同一にすることができるから、例えば、電位の増加を抑え、構成を簡素化できる。また、第3電極41が、第1活性領域53Aに対する電圧印加と、第2活性領域53Bに対する電圧印加とに兼用されることから、電極の数(導体層31の数)を低減できる。
【0198】
また、本実施形態では、第1圧電体層29Aのうちの第1活性領域53Aを構成する部分と、第2圧電体層29Bのうちの第1活性領域53Aを構成する部分とは互いに逆向きに分極されている。第3圧電体層29C及び第4圧電体層29Dのうちの第2活性領域53Bを構成する部分は、第1圧電体層29Aのうちの第1活性領域53Aを構成する部分の分極の向きと同一の向きに分極されている。液体吐出制御において、第1電極33及び第3電極41は同電位とされ、第2電極37及び第4電極45は同電位とされ、第1電極33及び第3電極41の電位と、第2電極37及び第4電極45の電位との電位差によって、第1活性領域53Aに対する第1電界の印加と、第2活性領域53Bに対する第2電界の印加とが行われる。
【0199】
この場合、例えば、2種の電位のみで、3つの領域(第1活性領域53Aのうちの第1圧電体層29Aによって構成されている部分、第1活性領域53Aのうちの第2圧電体層29Bによって構成されている部分、及び第2活性領域53B)に対して、それぞれの領域の分極方向(又はその反対方向)に電界を印加することができる。従って、圧電アクチュエータ13及びドライバ61の構成が簡素化される。
【0200】
また、本実施形態では、第3圧電体層29Cの厚さ及び第4圧電体層29Dの厚さの合計が、第1圧電体層29Aの厚さ及び第2圧電体層29Bの厚さそれぞれよりも厚い。
【0201】
この場合、別の観点では、第1電極33と第2電極37との距離、及び第2電極37と第3電極41との距離のそれぞれが、第3電極41と第4電極45との距離よりも短くなる。その結果、例えば、第1活性領域53Aのうち第1圧電体層29Aによって構成される部分に印加される電界、及び第1活性領域53Aのうち第2圧電体層29Bによって構成される部分に印加される電界のそれぞれを第2活性領域53Bに印加される電界よりも大きくしやすい。
【0202】
また、本実施形態では、圧電アクチュエータ13は、第3圧電体層29Cの第2側(-D3側)の面に重なり、平面透視において第2活性領域53Bの外側に位置する導体パターン(第4導体層31D)を有している。
【0203】
ここで、本実施形態では、上記のように、第1活性領域53Aの電圧の印加のためには3つの電極(33、37及び41)が配置され、第2活性領域53Bの電圧の印加のためには2つの電極(41及び45)が配置されている(ただし、第3電極41は共用されている。)。従って、圧電アクチュエータ13においては、第1側(+D3側)における導体の体積が第2側における導体の体積よりも大きくなりやすい。しかし、第4導体層31Dが設けられていることによって、導体の体積(別の観点では導体が圧電体内に占める割合)を+D3側と-D3側とで同等にすることが容易化される。その結果、例えば、焼成時における収縮及び/又は使用中における温度変化に伴う伸縮に起因して意図されていない撓み変形が生じる蓋然性が低減される。
【0204】
また、本実施形態では、加圧面11bの平面透視において、第2活性領域53Bのうち圧力室の外側に位置する第2部分53Bbの面積が、第2活性領域53Bのうち圧力室21に重なっている第1部分53Baの面積よりも大きい。
【0205】
第2活性領域53Bの外縁(別の観点では第2部分53Bbの外縁)が圧力室21の外縁に近づくと、圧力室21の外縁付近において応力集中が生じやすい。しかし、第2部分53Bbの面積が第1部分53Baの面積よりも大きいことによって、第2活性領域53Bの外縁を圧力室21の外縁から遠ざけやすくなる。ひいては、上記の応力集中を緩和できる。その結果、例えば、圧力室21の周囲において、圧電アクチュエータ13と流路部材11との接合に劣化が生じる蓋然性を低減できる。加えて、既述のように、第1活性領域53Aに印加される第1電界の強度を第2活性領域53Bに印加される第2電界の強度よりも大きくする(第2電界を相対的に小さくする)ことによって、第2活性領域53Bに加えられる応力を低減することができる。その結果、例えば、上述した圧力室21の外縁付近において応力集中を緩和する効果が向上する。
【0206】
また、本実施形態では、加圧面11bの平面視において、圧力室21の外縁のうち、圧力室21の中心回りの角度で180°以上に相当する部分が円弧によって構成されている。
【0207】
この場合、平面視において応力は円弧によって均等に分散される。すなわち、応力が特異的に高くなる蓋然性が低減される。その結果、例えば、上述した応力緩和の効果が向上する。特に、圧力室21の平面形状が円形である場合(図4の円形C1のみによって圧力室21が構成されている場合)、上記の効果が向上する。
【0208】
また、本実施形態では、圧力室21の中心を通り、加圧面11bに直交する断面において、第2部分53Bbの幅w2が、第1部分53Baの幅w1よりも大きい。
【0209】
この場合、第2活性領域53Bの外縁を圧力室21の外縁から遠ざけることができる。従って、第2部分53Bbの面積が第1部分53Baの面積よりも大きいことによる効果の説明で述べた応力集中が緩和される。第2部分53Bbの面積が第1部分53Baの面積よりも大きく、かつ幅w2が幅w1よりも大きいと、応力集中の緩和の効果が更に向上する。
【0210】
また、本実施形態では、圧電アクチュエータ13は非活性領域(第1非活性領域55A)を有している。第1非活性領域55Aは、圧電体からなり、第1活性領域53Aの外周につながっている。ドライバ61は再配向制御(図12)を実行する。再配向制御では、ドライバ61は、液滴吐出制御が行われていないときに第1非活性領域55Aに対して厚み方向に電界を印加する。
【0211】
従って、例えば、既述のように、第1非活性領域55Aのドメインスイッチングに起因する変位の低下が生じる蓋然性を分極処理によって低減できる。第1非活性領域55Aは、第1活性領域53Aの応力と第2活性領域53Bの応力との双方を受ける部分であり、ドメインスイッチングが生じやすい。このような第1非活性領域55Aの分極処理を行うことによって、効率的に変位の低下を低減することができる。加えて、既述のように、第1活性領域53Aに印加される第1電界の強度を第2活性領域53Bに印加される第2電界の強度よりも大きくする(第2電界を相対的に小さくする)ことによって、第2活性領域53Bに加えられる応力を低減することができる。ひいては、第2活性領域53Bから第1非活性領域55Aに加えられる応力を低減できる。その結果、第1非活性領域55Aにおいてドメインスイッチングが生じる蓋然性を低減し、第1非活性領域55Aに分極処理を施す頻度を低減することができる。
【0212】
また、本実施形態では、圧電アクチュエータ13は、再配向電極35と、中間電極(第3電極41)と、下部電極(第4電極45)とを有している。再配向電極35は、非活性領域(第1非活性領域55A)に対して加圧面11bとは反対側(+D3側)に重なっている。第3電極41は、第1非活性領域55Aと第2活性領域53Bとの間に位置している。第4電極45は、第2活性領域53Bに対して加圧面11b側(-D3側)に重なっている。ドライバ61は、液体吐出制御では、第3電極41及び第4電極45に電圧を印加することによって第2活性領域53Bに電界を印加する。また、ドライバ61は、再配向制御では、再配向電極35と、第3電極41及び第4電極45の一方(本実施形態では第4電極45)とに電圧を印加することによって第1非活性領域55Aに電界を印加する。
【0213】
この場合、第4電極45(又は第3電極41)は、液滴の吐出のための電界の印加と、分極処理のための電界の印加とに共用されることになる。すなわち、圧電アクチュエータ13の構成が簡素化される。
【0214】
また、本実施形態では、上記の構成に加えて、圧電アクチュエータ13は、上部電極(第2電極37)を有している。第2電極37は、中間電極(第3電極41)よりも加圧面11bとは反対側(+D3側)に位置しており、第1活性領域53Aの少なくとも一部を挟んで第3電極41と対向している。ドライバ61は、液体吐出制御では、第2電極37及び第3電極41に電圧を印加することによって第1活性領域53Aに電界を印加する。また、ドライバ61は、再配向制御では、第3電極41に電位を付与せずに、再配向電極35及び第4電極45に電圧を印加することによって、非活性領域(第1非活性領域55A)に電界を印加する。
【0215】
この場合、例えば、第3電極41は、液滴を吐出する制御において、第1活性領域53A及び第2活性領域53Bの双方に対する電界の印加に利用される。その結果、圧電アクチュエータ13の構成が簡素化される。その一方で、分極処理においては、第3電極41は、電気的に浮遊状態とされるから、再配向電極35及び第4電極45による電界の印加の妨げとなりにくい。再配向電極35及び第4電極45によって分極処理がなされることによって、第1非活性領域55Aだけでなく、第2活性領域53Bの分極処理も行われる。その結果、第1非活性領域55Aにおけるドメインスイッチングに起因する特性低下だけでなく、第2活性領域53Bにおけるドメインスイッチングに起因する特性低下も低減することができる。
【0216】
また、本実施形態では、圧電アクチュエータは、上述したように、第1圧電体層29A~第4圧電体層29D、並びに第1電極33、第2電極37、第3電極41及び第4電極45を有することによって、第1活性領域53A及び第2活性領域53Bが構成されている。そして、非活性領域(第1非活性領域55A)は、第1圧電体層29A及び第2圧電体層29Bにおける、再配向電極35と第4電極45とに挟まれた領域を有している。
【0217】
この場合、例えば、既述のように、簡素な構成で、第1活性領域53Aに印加される電界を第2活性領域53Bに印加される電界よりも大きくすることができる。ひいては、簡素な構成で、第2活性領域53Bに加えられる応力を低減し、第2活性領域53Bから第1非活性領域55Aに加えられる応力を低減できる。
【0218】
<第2実施形態>
図13は、第2実施形態に係るヘッド207を示す模式的な断面図であり、第1実施形態の図12に対応している。すなわち、図13は、第1非活性領域55Aに対して分極処理を行うときに導体層31に付与される電位を示している。
【0219】
第1実施形態の分極処理では、再配向電極35及び第4電極45によって第1非活性領域55Aに対して電界が印加された。第2実施形態の分極処理では、再配向電極35及び第3電極41によって第1非活性領域55Aに対して電界が印加される。より詳細には、図示の例では、再配向電極35は、基準電位よりも高い電位(別の観点では極性が正の電位)が付与されている。第3電極41は、基準電位が付与されている。
【0220】
上記では、分極方向が図6で示したように下向きである態様を前提とした。分極方向が逆方向である態様においては、基準電位よりも低い電位(別の観点では極性が負の電位)が再配向電極35に付与されてよい。第3電極41に基準電位以外の電位を付与してもよい。この場合において、再配向電極35に付与される電位は、基準電位であってよいし、基準電位以外の電位であってもよい。
【0221】
上記のように分極処理のための電圧を印加するとき、第1電極33、第2電極37、第4電極45及び第4導体層31Dは、例えば、基準電位が付与されていてもよいし、電気的に浮遊状態とされていてもよい。本実施形態では、既述のように、第1電極33は第3電極41と電気的に接続されていることから、基準電位が付与されている。第2電極37、第4電極45及び第4導体層31Dは、基準電位が付与されている。
【0222】
<第3実施形態>
図14は、第3実施形態に係るヘッド307を示す模式的な断面図であり、第1実施形態の図11に対応している。
【0223】
第1実施形態では、第5導体層31E(第4電極45)は、流路部材11(プレート25J)に接しており、また、圧力室21内に露出していた。一方、本実施形態では、第5導体層31Eと流路部材11との間に絶縁層30が介在している。別の観点では、第2活性領域53Bと流路部材11との間には絶縁層30が介在している。絶縁層30は、圧電アクチュエータ13の一部として捉えられてもよいし、流路部材11の一部として捉えられてもよいし、これらとは別個の部材として捉えられてもよい。図14では、絶縁層30は、圧電アクチュエータ13及び流路部材11とは別個の部材として符号が示されている。
【0224】
絶縁層30は、無機材料であってもよいし、有機材料であってもよい。無機材料は、圧電材料であってもよいし、圧電材料でなくてもよい。圧電材料は、圧電体層29の材料と同一であってもよいし、異なっていてもよく、また、圧電体層29と共に焼成されるものであってもよいし、そうでないものであってもよい。圧電材料でない無機材料としては、例えば、SiOを挙げることができる。また、有機材料としては、樹脂を挙げることができる。焼成によって形成される圧電材料以外の材料からなる絶縁層30は、例えば、CVD(chemical vapor deposition)等の適宜な薄膜形成法によって圧電アクチュエータ13の下面に形成されてもよいし、接着剤によって圧電アクチュエータ13又は流路部材11に貼り合わされてもよい。
【0225】
絶縁層30は、例えば、圧電体層29と同様に、一定の厚さで複数の圧力室21が配置されている領域に亘って実質的に隙間無く広がっている。ただし、絶縁層30が比較的薄い場合において、第2活性領域53B(第4電極45)の直下及びその周囲にのみ絶縁層30を配置することも不可能ではない。絶縁層30の厚さは適宜に設定されてよい。例えば、絶縁層30の厚さは、圧電体層29の厚さよりも薄くてもよいし(図示の例)、同等でもよいし、厚くてもよい。絶縁層30の厚さは、例えば、後述する効果(強度及び/又は絶縁性)の観点、及び/又は圧電アクチュエータ13の中立面の位置に及ぼす影響等を考慮して、適宜に設定されてよい。
【0226】
複数の第4電極45は、複数の第2電極37と同様に、第5導体層31Eが含む配線によって互いに接続されてよい。また、実施形態とは異なり、複数の第4電極45は、配線及び貫通導体を介して、圧電アクチュエータ13の第1面13aに対向する不図示のFPCの複数の信号線と個別に接続されてもよい。
【0227】
以上のとおり、ヘッド307は、第2活性領域53Bと流路部材11との間に絶縁層30を有している。
【0228】
この場合、例えば、流路部材11から第2活性領域53Bに加えられる応力が絶縁層30によって緩和される。例えば、第2活性領域53Bは、圧力室21の外側の領域11eに重なっている部分の変形が流路部材11によって拘束され、圧力室21の外縁に重なる位置における応力が高くなりやすい。この応力が緩和される。また、絶縁層30は、第2活性領域53Bに対して厚み方向に電圧を印加する電極(第4電極45)を覆うことになる。その結果、例えば、第4電極45を金属製の流路部材11から絶縁することができる。また、第4電極45が圧力室21内の液体に触れなくなる。その結果、例えば、液体の種類にもよるが、第4電極45に腐食が生じる蓋然性が低減される。
【0229】
<第4実施形態>
図15は、第4実施形態に係るヘッド407を示す模式的な断面図であり、第1実施形態の図11に対応している。
【0230】
本実施形態の圧電アクチュエータ413では、第1実施形態における第5導体層31Eは設けられていない。そして、第4導体層31Dが、第1実施形態の第4電極45に相当する第4電極445を有している。第2活性領域53Bは、第3圧電体層29Cのうち第3電極41と第4電極445とが重なる部分によって構成されており、第4圧電体層29Dによっては構成されていない。本実施形態は、第3実施形態と同様に、第2活性領域53Bと流路部材11との間に絶縁層(本実施形態では第4圧電体層29D)が介在している態様であるということもできる。
【0231】
第4電極445の形状は、第2活性領域53Bに重なる限り、適宜な形状とされてよい。例えば、第4電極445の形状は、第1実施形態の第4電極45と、第1実施形態の第4導体層31Dの形状とを足し合わせた形状とされてよい。換言すれば、本実施形態の第4導体層31Dは、第1実施形態の第4導体層31Dにおいて、開口43の外縁を電極本体33aの外縁及び/又は第2電極37の外縁に概ね一致させた形状とされてよい。また、例えば、第4電極445の形状は、第1実施形態の第4電極45の形状と同様とされてよい。この場合、例えば、複数の第4電極445は、第2電極37と同様に、第4導体層31Dが含む複数の配線によって互いに接続されてよい。また、複数の第4電極445は、個別に電位が付与されることが可能に、適宜な配線及び貫通導体と接続されていてもよい。
【0232】
液体を突出するとき、及び分極処理を行うときに第4電極445に付与される電位は、例えば、第1実施形態の第4電極45と同様である。この場合、図示の例では、第1活性領域53Aにおける電極間の距離と、第2活性領域53Bにおける電極間の距離とが概ね等しいことから、第1活性領域53Aに印加される電界の強度と、第2活性領域53Bに印加される電界の強度とは概ね等しい。
【0233】
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、第1活性領域53Aに印加される電界の強度を第2活性領域53Bに印加される電界の強度よりも強くしてよい。このような電界の強度の関係を実現する方法は種々存在する。例えば、電極に付与される電位は第1実施形態と同様としつつ、第3圧電体層29Cの厚さを第1圧電体層29Aの厚さ及び第2圧電体層29Bの厚さそれぞれよりも厚くしてよい。また、例えば、第2電極37と第4電極445とを非接続として両者に互いに別個の電位を付与可能とし、第3電極41と第2電極37との電位差を第3電極41と第4電極45との電位差よりも大きくしてもよい。
【0234】
以上のとおり、ヘッド407は、第3実施形態と同様に、第2活性領域53Bと流路部材11との間に絶縁層(第4圧電体層29D)を有している。従って、例えば、第3実施形態で述べた効果と同様の効果が奏される。
【0235】
<第5実施形態>
図16は、第5実施形態に係るヘッド507を示す模式的な断面図であり、第1実施形態の図11に対応している。この図では、図6と同様に、白抜きの矢印によって分極方向も示されている。
【0236】
第1実施形態では、第1活性領域53Aは2層の圧電体層29によって構成され、第2活性領域53Bは2層の圧電体層29によって構成された。本実施形態の圧電アクチュエータ513では、第1活性領域53Aは1層の第5圧電体層29Eによって構成され、第2活性領域53Bは1層の第6圧電体層29Fによって構成されている。
【0237】
このような構成において、図5を参照して説明した第1活性領域53A及び第2活性領域53Bの動作を実現する、分極方向、電極構造及び電位の組み合わせは種々可能である。図示の例では、以下のとおりである。
【0238】
圧電アクチュエータ513は、第1実施形態と同様に、上面側から下面側へ順に、第1電極33(及び再配向電極35)と、第3電極41と、第4電極45とを有している。第1活性領域53Aは、第5圧電体層29Eのうち第1電極33と第3電極41とに挟まれた領域を有している。第2活性領域53Bは、第6圧電体層29Fのうち第3電極41と第4電極45とに挟まれた領域を有している。第4電極45は、絶縁層30によって流路部材11から絶縁されており、基準電位以外の電位を付与可能となっている。
【0239】
第1活性領域53A及び第2活性領域53Bの分極方向は互いに逆方向とされている。液体吐出制御において、両者の間に位置している第3電極41には基準電位が付与される。第1電極33及び第4電極45には、基準電位に対する極性が同一の電位が付与される。これにより、第1活性領域53A及び第2活性領域53Bは、いずれも収縮し、又はいずれも伸長する。
【0240】
ドライバ561は、第1電極33に電位を付与する信号源63Aと、第4電極45に電位を付与する信号源63Bとを有しており、第1電極33及び第4電極45に互いに異なる電位を付与可能となっている。従って、本実施形態においても、第1実施形態と同様に、第1活性領域53Aに印加される電界を第2活性領域53Bに印加される電界よりも大きくすることができる。図示の例とは異なり、第1電極33及び第4電極45は、互いに接続されて同一の電位が付与されてもよい。
【0241】
(圧電体層の変形例)
図17Aは、変形例に係る圧電体層29の構成を示す断面図であり、図10の領域XVIIの拡大図である。
【0242】
第1圧電体層29Aの上面には、第1電極33と再配向電極35との間に位置する溝29vが設けられていてもよい。溝29vは、例えば、第1電極33の外縁に沿って第1電極33を囲むように延びている。換言すれば、溝29vは、環状に延びている。ただし、溝29vは、一部において途切れていてもよい。例えば、引出部33bに対して電極本体33aとは反対側となる位置においては溝29vは設けられていなくてもよい。
【0243】
溝29vの幅は、例えば、第1電極33と再配向電極35との隙間の大きさ以下の範囲で適宜に設定されてよい。溝29vの幅は、溝29vの長さ方向の位置によらずに一定であってもよいし、溝29vの長さ方向の位置に応じて変化していてもよい。溝29vの深さは、例えば、第1圧電体層29Aの厚さ未満の範囲で適宜に設定されてよい。例えば、溝29vの深さは、第1圧電体層29Aの厚さの1/2未満であってもよいし、1/2以上であってもよい。なお、溝29vの深さは、第1圧電体層29Aの厚さと同等とすることも可能である。
【0244】
溝29vは、適宜な方法によって形成されてよい。例えば、第1圧電体層29Aとなるセラミックグリーンシートに対して、又は焼成後の第1圧電体層29Aに対して、レーザー加工を行うことによって形成されてよい。
【0245】
このように溝29vを設けると、例えば、第1電極33及び再配向電極35を構成する金属材料がこれらの電極の間の領域に移動する(マイグレーションを生じる)蓋然性が低減される。その結果、第1電極33及び再配向電極35が短絡する蓋然性を低減することができる。別の観点では、平面視において、第1電極33と再配向電極35との距離を短くして、第1非活性領域55Aのうち第1活性領域53Aに隣接する部分に対して分極処理を施すことが容易化される。ひいては、分極処理による圧電アクチュエータの特性維持の効果が向上する。なお、マイグレーションは、エレクトロマイグレーション及び/又はエレクトロケミカルマイグレーションである。
【0246】
図17Bは、他の変形例に係る圧電体層29の構成を示す断面図であり、図17Aと同様の図である。
【0247】
上述した溝29vには、絶縁体32が配置されてもよい。絶縁体32は、例えば、第1圧電体層29Aの材料に比較して、電極材料のマイグレーションが生じる蓋然性が低い材料によって構成されている。例えば、絶縁体32は、樹脂によって構成されてよい。樹脂は、CVD等の適宜な方法によって溝29v内に配置されてよい。
【0248】
絶縁体32の配置によって、例えば、マイグレーションが生じる蓋然性を低減する効果を向上させることができる。また、例えば、マイグレーションが生じる蓋然性を低減する効果を得つつ、溝29vに起因して圧電アクチュエータの強度が低下する蓋然性を低減することができる。
【0249】
なお、以上の実施形態において、第3電極41は中間電極の一例である。第4電極45又は445は下部電極の一例である。
【0250】
本開示に係る技術は、上述した実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0251】
例えば、第1非活性領域は、分極処理が行われなくてもよい。すなわち、ヘッドにおいて、分極処理のための構成は設けられなくてもよい。液体吐出制御において、第1活性領域が伸長及び収縮の一方を生じる期間の少なくとも一部において第2活性領域が伸長及び収縮の前記一方を生じる制御(第1制御とする。)以外の制御が行われてもよい。例えば、第1活性領域が伸長及び収縮の一方を生じる期間の少なくとも一部において第2活性領域が伸長及び収縮の他方を生じる制御(第2の制御とする。)が行われてもよい。そして、大きな液滴を吐出するときは第1制御が行われ、小さな液滴を吐出するときは第2制御が行われてもよい。ヘッドは液体を循環させるものであってもよい。
【0252】
本開示に係る実施形態からは、種々の概念を抽出可能である。例えば、加圧面の平面透視において、第2活性領域のうち圧力室の外側に位置する第2部分の面積が、第2活性領域のうち圧力室に重なっている第1部分の面積よりも大きい液体吐出ヘッドの概念を抽出可能である。また、圧電アクチュエータが、第1活性領域の外周につながっている非活性領域(圧電体からなる)を有しており、ドライバが、液体吐出制御が行われていないときに非活性領域に対して厚み方向に電界を印加する再配向制御を実行する液体吐出ヘッドの概念を抽出可能である。これらの概念に係る液体吐出ヘッドにおいては、実施形態とは異なり、第1活性領域に印加される電界(第1電界)の強度の最大値と、第2活性領域に印加される電界(第2電界)の強度の最大値とは、互いに同等であってもよいし、後者が前者よりも大きくてもよい。
【符号の説明】
【0253】
1…プリンタ(記録装置)、2…液体吐出ヘッド、7…ヘッド本体(液体吐出ヘッド)、11…流路部材、11b…加圧面、11e…(圧力室に対して)外側の領域、13…圧電アクチュエータ、21…圧力室、21a…(圧力室の)中央部、21b…(圧力室の)周縁部、53A…第1活性領域、53B…第2活性領域、53Ba…(第2活性領域の)第1部位、53Bb…(第2活性領域の)第2部位、55A…第1非活性領域、61…ドライバ。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
【手続補正書】
【提出日】2024-08-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧面と、当該加圧面に開口している圧力室とを有している流路部材と、
前記加圧面に重なっている圧電アクチュエータと、
前記圧電アクチュエータを駆動するドライバと、
を有しており、
前記圧電アクチュエータは、前記加圧面に垂直な方向を厚み方向と呼称するとき、
前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の中央部に重なっている第1活性領域と、
前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記第1活性領域よりも前記加圧面側に位置しており、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の内側の周縁部及び前記圧力室の外側の領域に重なっている第2活性領域と、
前記第2活性領域と前記流路部材との間に位置している絶縁層と、を有しており、
前記ドライバは、前記加圧面に沿う方向における伸長及び収縮の一方を第1変形、他方を第2変形と称するとき、液体を吐出するための液体吐出制御において、印加される電界が変わることによって、前記第1活性領域が前記第1変形を生じる期間の少なくとも一部において前記第2活性領域が前記第1変形を生じるように、前記第1活性領域に対して前記厚み方向に印加される第1電界の強度と、前記第2活性領域に対して前記厚み方向に印加される第2電界の強度とを制御する
液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記絶縁層は、前記第1活性領域を構成している圧電体層の厚みよりも薄い
請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記絶縁層は、前記第2活性領域を構成している圧電体層の厚みよりも薄い
請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記圧電アクチュエータは、前記第1活性領域に電界を加える、前記厚み方向に互いに積層的な複数の第1活性領域電極と、前記第2活性領域に電界を加える、前記厚み方向に互いに積層的な複数の第2活性領域電極と、を有し、
前記第1活性領域電極のうちで最も前記加圧面側の電極と、前記第2活性領域電極のうちで最も前記加圧面とは反対側の電極とは、同じ層に位置するとともに、電気的に接続されて兼用電極を構成している
請求項1~3のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第1活性領域電極のうちで前記兼用電極と対向している電極と、前記第2活性領域電極のうちで前記兼用電極と対向している電極と、は電気的に接続されている
請求項4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記第2活性領域に対して前記加圧面とは反対側に位置し、かつ前記第1活性領域の外周に繋がっている圧電体が、前記第1活性領域の厚さに亘って非活性領域となっている
請求項1~5のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記第1活性領域に対して前記加圧面側に位置し、かつ前記第2活性領域の内側の圧電体が、前記第2活性領域の厚さに亘って非活性領域となっている
請求項1~6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記液体吐出制御は、待機状態で待機して、吐出した後、前記待機状態に戻るものであり、
前記第2活性領域が前記液体吐出制御で生じる前記第1変形は、前記待機状態よりも伸びる伸長又は前記待機状態よりも縮む収縮である
請求項1~7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記液体吐出制御は、前記第1活性領域が前記第1変形した状態に移行するタイミングと、第2活性領域が前記第1変形した状態に移行するタイミングとが合っている、
請求項1~8のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記厚み方向の位置が互いに異なり、それぞれ前記第1電界の印加及び前記第2電界の印加の少なくとも一方を行う3つ以上の電極を有しており、
前記3つ以上の電極の前記厚み方向における3つ以上の位置のうち互いに隣り合う位置にあり、前記第1電界を印加する2つの電極の、前記厚み方向における距離が、前記3つ以上の位置のうち互いに隣り合う位置にあり、前記第2電界を印加する2つの電極の、前記厚み方向における距離よりも短い
請求項1~9のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記液体吐出制御において、前記第1電界を印加する2つの電極の電位差の最大値と、前記第2電界を印加する2つの電極の電位差の最大値とが同じである
請求項1~10のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記圧電アクチュエータは、前記圧電アクチュエータの前記流路部材とは反対側を第1側と呼称し、前記圧電アクチュエータの前記流路部材側を第2側と呼称するとき、
前記第1側から前記第2側へ順に積層されている、第1圧電体層及び第2圧電体層と
前記第1圧電体層の前記第1側の面に重なっており、平面透視において前記中央部に重なっている第1電極と、
前記第1圧電体層の前記第2側の面に重なっており、平面透視において前記中央部に重なっている第2電極と、
前記第2圧電体層の前記第2側の面に重なっており、平面透視において前記中央部、前記周縁部及び前記外側の領域に重なっている第3電極と、を有しており、
前記第1活性領域は、
前記第1圧電体層における前記第1電極と前記第2電極とに挟まれた領域と、
前記第2圧電体層における前記第2電極と前記第3電極の前記中央部に重なっている部分とに挟まれた領域と、を有し、
前記第3電極の前記周縁部及び前記外側の領域に重なっている部分の前記第2側に前記第2活性領域が配置されている
請求項1~11のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
前記第2圧電体層から前記第2側へ順に積層されている、第3圧電体層及び第4圧電体層と、
前記第4圧電体層の前記第2側の面に重なっており、平面透視において前記周縁部及び前記外側の領域に重なっている第4電極と、を有しており、
前記第2活性領域は、
前記第3及び前記第4圧電体層における、前記第3電極の前記周縁部及び前記外側の領域に重なっている部分と前記第4電極とに挟まれた領域を有している
請求項12に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項14】
前記第1圧電体層のうちの前記第1活性領域を構成する部分と、前記第2圧電体層のうちの前記第1活性領域を構成する部分とは互いに逆向きに分極されており、
前記第3及び前記第4圧電体層のうちの前記第2活性領域を構成する部分は、前記第1圧電体層のうちの前記第1活性領域を構成する部分の分極の向きと同一の向きに分極されており、
前記液体吐出制御において、前記第1電極及び前記第3電極は同電位とされ、前記第2電極及び前記第4電極は同電位とされ、前記第1電極及び前記第3電極の電位と、前記第2電極及び前記第4電極の電位との電位差によって前記第1電界及び前記第2電界が印加される
請求項13に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項15】
前記第3圧電体層の厚さ及び前記第4圧電体層の厚さの合計が、前記第1圧電体層の厚さ及び前記第2圧電体層の厚さそれぞれよりも厚い
請求項13又は14に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項16】
前記圧電アクチュエータは、前記第3圧電体層の前記第2側の面に重なり、平面透視において前記第2活性領域の外側に位置する導体パターンを有している
請求項13~15のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項17】
前記加圧面の平面透視において、前記第2活性領域のうち前記圧力室の外側に位置する第2部分の面積が、前記第2活性領域のうち前記圧力室に重なっている第1部分の面積よりも大きい
請求項1~16のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項18】
前記加圧面の平面視において、前記圧力室の外縁のうち、圧力室の中心回りの角度で180°以上に相当する部分が円弧によって構成されている
請求項1~17のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項19】
前記圧力室の中心を通り、前記加圧面に直交する断面において、前記第2活性領域のうち前記圧力室の外側に位置する第2部分の幅が、前記第2活性領域のうち前記圧力室に重なっている第1部分の幅よりも大きい
請求項1~18のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項20】
前記圧電アクチュエータは、圧電体からなり、前記第1活性領域の外周につながっている非活性領域を有しており、
前記ドライバは、前記液体吐出制御が行われていないときに前記非活性領域に対して前記厚み方向に電界を印加する再配向制御を実行する
請求項1~19のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項21】
前記圧電アクチュエータは、
前記非活性領域に対して前記加圧面とは反対側に重なっている再配向電極と、
前記非活性領域と前記第2活性領域との間に位置している中間電極と、
前記第2活性領域に対して前記加圧面側に重なっている下部電極と、を有しており、
前記ドライバは、
前記液体吐出制御では、前記中間電極及び前記下部電極に電圧を印加することによって前記第2活性領域に電界を印加し、
前記再配向制御では、前記再配向電極及び前記下部電極に電圧を印加することによって、又は前記再配向電極及び前記中間電極に電圧を印加することによって、前記非活性領域に電界を印加する
請求項20に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項22】
前記圧電アクチュエータは、前記中間電極よりも前記加圧面とは反対側に位置しており、前記第1活性領域の少なくとも一部を挟んで前記中間電極と対向している上部電極を有しており、
前記ドライバは、
前記液体吐出制御では、前記上部電極及び前記中間電極に電圧を印加することによって前記第1活性領域に電界を印加し、
前記再配向制御では、前記中間電極に電位を付与せずに、前記再配向電極及び前記下部電極に電圧を印加することによって、前記非活性領域に電界を印加する
請求項21に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項23】
前記圧電アクチュエータは、
圧電体からなり、前記第1活性領域の外周につながっている非活性領域と、
前記第2活性領域の前記第2側の面に重なっており、平面透視において前記周縁部及び前記外側の領域に重なっている第4電極と、
前記第1圧電体層の前記第1側の面に重なっており、平面透視において前記周縁部及び前記外側の領域に重なっている再配向電極と、を有しており、
前記ドライバは、前記液体吐出制御が行われていないときに前記非活性領域に対して前記厚み方向に電界を印加する再配向制御を実行し、
前記非活性領域は、前記第1及び前記第2圧電体層における、前記再配向電極と前記第4電極とに挟まれた領域を有している
請求項12~16のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項24】
前記液体吐出制御において、前記第1電界の強度の最大値が前記第2電界の強度の最大値よりも大きい
請求項1~23のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項25】
液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドを制御する制御部と、
を有しており、
前記液体吐出ヘッドは、
加圧面と、当該加圧面に開口している圧力室とを有している流路部材と、
前記加圧面に重なっている圧電アクチュエータと、を有しており、
前記圧電アクチュエータは、前記加圧面に垂直な方向を厚み方向と呼称するとき、
前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の中央部に重なっている第1活性領域と、
前記厚み方向に分極されている圧電体からなり、前記第1活性領域よりも前記加圧面側に位置しており、前記加圧面の平面透視において前記圧力室の内側の周縁部及び前記圧力室の外側の領域に重なっている第2活性領域と、
前記第2活性領域と前記流路部材との間に位置している絶縁層と、を有しており、
前記制御部は、前記加圧面に沿う方向における伸長及び収縮の一方を第1変形、他方を第2変形と称するとき、液体を吐出するための液体吐出制御において、印加される電界が変わることによって、前記第1活性領域が前記第1変形を生じる期間の少なくとも一部において前記第2活性領域が前記第1変形を生じるように、前記第1活性領域に対して前記厚み方向に印加される第1電界の強度と、前記第2活性領域に対して前記厚み方向に印加される第2電界の強度とを制御する
記録装置。