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特開2024-156868新規がん抗原及びそれらの抗原に対する抗体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156868
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】新規がん抗原及びそれらの抗原に対する抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/40 20060101AFI20241029BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20241029BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241029BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20241029BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20241029BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241029BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241029BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20241029BHJP
   C07K 1/20 20060101ALI20241029BHJP
   C07K 1/28 20060101ALI20241029BHJP
   C07K 1/18 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241029BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20241029BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241029BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
C07K16/40 ZNA
C07K16/28
C12N15/13
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
C07K1/20
C07K1/28
C07K1/18
A61P35/00
A61K47/68
A61K39/395 T
A61P43/00 105
A61K39/395 E
G01N33/574 A
C07K16/40
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024127667
(22)【出願日】2024-08-02
(62)【分割の表示】P 2020567713の分割
【原出願日】2020-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2019009845
(32)【優先日】2019-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.UNIX
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】根津 淳一
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 達史
(72)【発明者】
【氏名】星野 真由美
(72)【発明者】
【氏名】木村 直紀
(72)【発明者】
【氏名】長野 光司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 邦泰
(72)【発明者】
【氏名】横田 ゆかり
(57)【要約】      (修正有)
【課題】正常組織ではほとんど発現が認められないかまたはわずかであり癌細胞において特異的に高発現する抗原に結合するかまたはそれを認識する抗体を提供する。
【解決手段】特定の配列を含み、XPR1、NOX1、MARVELD3 isoform 1、MARVELD3 isoform 2、SPINT2、MANSC1、SLC12A2、CDCP1、SEZ6L2、FLVCR1、SLC7A5、STEAP1、MMP14、TNFRSF21、TMPRSS4のうちのいずれかのタンパク質の細胞外ドメインに結合する、単離された抗体を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、XPR1、NOX1、MARVELD3 isoform 1、MARVELD3 isoform 2、SPINT2、MANSC1、SLC12A2、CDCP1、SEZ6L2、FLVCR1、SLC7A5、STEAP1、MMP14、TNFRSF21、TMPRSS4のうちのいずれかのタンパク質に結合するかまたは当該タンパク質を認識する、単離された抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は血漿中での安定性が高く、副作用も少ないことから医薬品として注目されている。中でもIgG型の抗体医薬は多数上市されており、現在も数多くの抗体医薬が開発されている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
抗体医薬を用いた癌治療薬として、これまでのCD20抗原に対するリツキサン、EGFR抗原に対するセツキシマブ、HER2抗原に対するハーセプチン等が承認されている(非特許文献3)。これらの抗体分子は、癌細胞に発現している抗原に対して結合し、ADCC活性等によって癌細胞に対する傷害活性を発揮する。こうしたADCC活性等による細胞傷害活性は、治療用抗体の標的細胞に発現する抗原の数に依存することが知られている(非特許文献4)ため、標的となる抗原の発現量が高いことが治療用抗体の効果の観点からは好ましい。しかし、抗原の発現量が高くても、正常組織に抗原が発現していると、正常細胞に対してADCC活性等の傷害活性を発揮してしまうため、副作用が大きな問題となる。そのため、癌治療薬として治療用抗体が標的とする抗原は、癌細胞に特異的に発現していることが好ましい。例えば、癌抗原として知られているEpCAM抗原に対する抗体分子は、癌治療薬として有望と考えられていたが、EpCAM抗原は膵臓にも発現していることが知られており、実際、臨床試験において、抗EpCAM抗体を投与することによって、膵臓に対する細胞傷害活性により膵炎の副作用がみられることが報告されている(非特許文献5)。
【0004】
ADCC活性による細胞傷害活性を発揮する抗体医薬の成功を受けて、天然型ヒトIgG1のFc領域のN型糖鎖のフコースを除去することによるADCC活性の増強(非特許文献6)、天然型ヒトIgG1のFc領域のアミノ酸置換によりFcγRIIIaへの結合を増強することによるADCC活性の増強(非特許文献7)等によって強力な細胞傷害活性を発揮する第二世代の改良抗体分子が報告されている。上述のNK細胞が介在するADCC活性以外のメカニズムで癌細胞に傷害活性を発揮する抗体医薬として、強力な細胞傷害活性のある薬物を抗体とコンジュゲートしたAntibody Drug Conjugate(ADC)(非特許文献8)、および、T細胞を癌細胞にリクルートすることによって癌細胞に対する傷害活性を発揮する低分子抗体(非特許文献9)等のより強力な細胞傷害活性を発揮する改良抗体分子も報告されている。
【0005】
こうしたより強力な細胞傷害活性を発揮する抗体分子は、抗原の発現が多くはない癌細胞に対しても細胞傷害活性を発揮することが出来る一方で、抗原の発現が少ない正常組織に対しても癌細胞と同様に細胞傷害活性を発揮してしまう。実際、EGFR抗原に対する天然型ヒトIgG1であるセツキシマブと比較して、CD3とEGFRに対する二重特異性抗体であるEGFR-BiTEはT細胞を癌細胞にリクルートすることによって癌細胞に対して強力な細胞傷害活性を発揮し抗腫瘍効果を発揮することができる。その一方で、EGFRは正常組織においても発現しているため、EGFR-BiTEをカニクイザルに投与した際に深刻な副作用が現れることも認められている(非特許文献10)。また、癌細胞で高発現しているCD44v6に対する抗体にmertansineを結合させたADCであるbivatuzumab mertansineは、CD44v6が正常組織においても発現していることから、臨床において重篤な皮膚毒性および肝毒性が認められている(非特許文献11)。
【0006】
このように抗原の発現が少ないような癌細胞に対しても強力な細胞傷害活性を発揮することが出来る抗体を用いた場合、標的抗原が極めて癌特異的に発現している必要があるが、ハーセプチンの標的抗原であるHER2やセツキシマブの標的抗原であるEGFRが正常組織にも発現しているように、極度に癌特異的に発現している癌抗原の数は限られていると考えられる。そのため、癌に対する細胞傷害活性を強化することはできるものの、正常組織に対する細胞傷害作用による副作用が問題となり得る。
【0007】
第二世代の抗体医薬に適用可能な技術として様々な技術が開発されており、エフェクター機能、抗原結合能、薬物動態、安定性を向上させる、あるいは、免疫原性リスクを低減させる技術等が報告されているが(非特許文献12)、上記のような副作用を解決し、抗体医薬を標的癌組織に特異的に作用させるためには、正常組織ではほとんど発現が認められないかまたはわずかであり癌細胞において特異的に発現する抗原を同定する必要性が依然として存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Monoclonal antibody successes in the clinic. Janice M Reichert, Clark J Rosensweig, Laura B Faden & Matthew C Dewitz, Nat. Biotechnol. (2005) 23, 1073 - 1078
【非特許文献2】The therapeutic antibodies market to 2008. Pavlou AK, Belsey MJ., Eur. J. Pharm. Biopharm. (2005) 59 (3), 389-396
【非特許文献3】Monoclonal antibodies: versatile platforms for cancer immunotherapy. Weiner LM, Surana R, Wang S., Nat. Rev. Immunol. (2010) 10 (5), 317-327
【非特許文献4】Differential responses of human tumor cell lines to anti-p185HER2 monoclonal antibodies. Lewis GD, Figari I, Fendly B, Wong WL, Carter P, Gorman C, Shepard HM, Cancer Immunol. Immunotherapy (1993) 37, 255-263
【非特許文献5】ING-1, a monoclonal antibody targeting Ep-CAM in patients with advanced adenocarcinomas. de Bono JS, Tolcher AW, Forero A, Vanhove GF, Takimoto C, Bauer RJ, Hammond LA, Patnaik A, White ML, Shen S, Khazaeli MB, Rowinsky EK, LoBuglio AF, Clin. Cancer Res. (2004) 10 (22), 7555-7565
【非特許文献6】Non-fucosylated therapeutic antibodies as next-generation therapeutic antibodies. Satoh M, Iida S, Shitara K., Expert Opin. Biol. Ther. (2006) 6 (11), 1161-1173
【非特許文献7】Optimizing engagement of the immune system by anti-tumor antibodies: an engineer's perspective. Desjarlais JR, Lazar GA, Zhukovsky EA, Chu SY., Drug Discov. Today (2007) 12 (21-22), 898-910
【非特許文献8】Antibody-drug conjugates: targeted drug delivery for cancer. Alley SC, Okeley NM, Senter PD., Curr. Opin. Chem. Biol. (2010) 14 (4), 529-537
【非特許文献9】BiTE: Teaching antibodies to engage T-cells for cancer therapy. Baeuerle PA, Kufer P, Bargou R., Curr. Opin. Mol. Ther. (2009) 11 (1), 22-30
【非特許文献10】T cell-engaging BiTE antibodies specific for EGFR potently eliminate KRAS- and BRAF-mutated colorectal cancer cells. Lutterbuese R, Raum T, Kischel R, Hoffmann P, Mangold S, Rattel B, Friedrich M, Thomas O, Lorenczewski G, Rau D, Schaller E, Herrmann I, Wolf A, Urbig T, Baeuerle PA, Kufer P., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2010) 107 (28), 12605-12610
【非特許文献11】Phase I trial with the CD44v6-targeting immunoconjugate bivatuzumab mertansine in head and neck squamous cell carcinoma. Riechelmann H, Sauter A, Golze W, Hanft G, Schroen C, Hoermann K, Erhardt T, Gronau S., Oral Oncol. (2008) 44 (9), 823-829
【非特許文献12】Antibody engineering for the development of therapeutic antibodies. Kim SJ, Park Y, Hong HJ., Mol. Cells. (2005) 20 (1), 17-29
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示中の発明は上記のような状況に鑑みてなされたものであり、非限定的な一態様において、正常組織ではほとんど発現が認められないかまたはわずかであり癌細胞において特異的に高発現する抗原に結合するかまたはそれを認識する抗体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
非限定的な一態様において、本発明者らは、鋭意研究の結果、癌組織でのタンパク質発現が高く、隣接正常組織および正常組織で発現が低い細胞表面タンパク質として、XPR1、NOX1、MARVELD3 isoform 1、MARVELD3 isoform 2、SPINT2、MANSC1、SLC12A2、CDCP1、SEZ6L2、FLVCR1、SLC7A5、STEAP1、MMP14、TNFRSF21、およびTMPRSS4を見出した。また、本発明者らは、これらのタンパク質が、大腸癌組織(特にKRAS変異を持つ大腸癌組織)および/または肺癌組織で高発現の癌特異性が高い抗原であることを見出した。
【0011】
本開示はこのような知見に基づくものであり、具体的には以下に例示的に記載する実施態様を包含するものである。
[1] 下記いずれかのタンパク質に結合する、単離された抗体:
XPR1、NOX1、MARVELD3 isoform 1、MARVELD3 isoform 2、SPINT2、MANSC1、SLC12A2、CDCP1、SEZ6L2、FLVCR1、SLC7A5、STEAP1、MMP14、TNFRSF21、TMPRSS4。
[2] 前記タンパク質の細胞外ドメインに結合する、[1]に記載の抗体。
[3] (1)配列番号:1で示されるXPR1、
(2)配列番号:2で示されるNOX1、
(3)配列番号:3で示されるMARVELD3 isoform 1、
(4)配列番号:4で示されるMARVELD3 isoform 2、
(5)配列番号:5で示されるSPINT2、
(6)配列番号:7で示されるMANSC1、
(7)配列番号:8で示されるSLC12A2、
(8)配列番号:9で示されるCDCP1、
(9)配列番号:12で示されるSEZ6L2、
(10)配列番号:13で示されるFLVCR1、
(11)配列番号:14で示されるSLC7A5、
(12)配列番号:15で示されるSTEAP1、
(13)配列番号:16で示されるMMP14、
(14)配列番号:17で示されるTNFRSF21、および
(15)配列番号:18で示されるTMPRSS4
のいずれかに結合する、[1]または[2]に記載の抗体。
[4] (1)配列番号:1で示されるアミノ酸配列における下記:
アミノ酸1番目から108番目、111番目から122番目、159番目から171番目、177番目から216番目、423番目から448番目、473番目から502番目、660番目から670番目、674番目から696番目、177番目から190番目、428番目から448番目、660番目から670番目、244番目、256番目から273番目、257番目から270番目、258番目から264番目、258番目から268番目、256番目から270番目、258番目から273番目、260番目から270番目、293番目から314番目、336番目から343番目、337番目から344番目、338番目から341番目、340番目から342番目、340番目から344番目、343番目から344番目、340番目から345番目、368番目から372番目、392番目から398番目、397番目から401番目、398番目から402番目、420番目から442番目、420番目から506番目、465番目から479番目、497番目から507番目、498番目から508番目、529番目から555番目、529番目から570番目、582番目から586番目、1番目から234番目、1番目から236番目、293番目から318番目、367番目から442番目、369番目から473番目、500番目から507番目、529番目から696番目、589番目から696番目
のいずれかである、XPR1の細胞外ドメイン、
(2)配列番号:2で示されるアミノ酸配列における下記:
アミノ酸44番目から54番目、131番目から161番目、242番目から258番目、1番目から4番目、1番目から11番目、18番目から55番目、28番目から44番目、31番目から44番目、32番目から46番目、34番目から50番目、70番目から102番目、70番目から103番目、117番目から176番目、120番目から172番目、122番目から166番目、122番目から172番目、124番目から168番目、190番目から208番目、191番目から204番目、223番目から266番目、223番目から267番目、227番目から269番目、228番目から391番目、228番目から396番目、404番目、420番目から564番目
のいずれかである、NOX1の細胞外ドメイン、
(3)配列番号:3で示されるアミノ酸配列における下記:
アミノ酸222番目から266番目、223番目から269番目、227番目から264番目、227番目から268番目、229番目から263番目、231番目から265番目、321番目から362番目、322番目から357番目、323番目から357番目、324番目から357番目、324番目から358番目
のいずれかである、MARVELD3 isoform 1の細胞外ドメイン、および
(4)配列番号:4で示されるアミノ酸配列における下記:
アミノ酸101番目から111番目、163番目から198番目、1番目から266番目、1番目から270番目、216番目から271番目、222番目から269番目、226番目から271番目、227番目から268番目、227番目から271番目、248番目から271番目、316番目から364番目、322番目から360番目、323番目から359番目、324番目から360番目、326番目から360番目、327番目から360番目
のいずれかである、MARVELD3 isoform 2の細胞外ドメイン
のいずれかに結合する、[1]または[2]に記載の抗体。
[4A] [1]、[2]、[3](1)、[4](1)のいずれか一つに記載の抗体であって、当該抗体はXPR1に結合可能であり、以下:
(a1) 配列番号:35のアミノ酸配列からなるHVR-H1、配列番号:36のアミノ酸配列からなるHVR-H2、配列番号:37のアミノ酸配列からなるHVR-H3、配列番号:38のアミノ酸配列からなるHVR-L1、配列番号:39のアミノ酸配列をからなるHVR-L2、および配列番号:40のアミノ酸配列からなるHVR-L3を含む抗体;
(a2) 配列番号:41のVH配列および配列番号:42のVL配列を含む抗体;
(a3) (a1)から(a2)のいずれか一つの抗体とXPR1中の同じエピトープに結合する抗体;
(a4) (a1)から(a2)のいずれか一つの抗体のXPR1への結合と競合する抗体;
(a5) 競合アッセイにおいて、(a1)から(a2)のいずれか一つの抗体のXPR1への結合を50%以上阻止する抗体;
(a6) 配列番号:41のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列および配列番号:42のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列を含む抗体;
から選ばれる、抗体。
[4B] [1]、[2]、[3](2)、[4](2)のいずれか一つに記載の抗体であって、当該抗体はNOX1に結合可能であり、以下:
(b1) 配列番号:67のアミノ酸配列からなるHVR-H1、配列番号:68のアミノ酸配列からなるHVR-H2、配列番号:69のアミノ酸配列からなるHVR-H3、配列番号:70のアミノ酸配列からなるHVR-L1、配列番号:71のアミノ酸配列をからなるHVR-L2、および配列番号:72のアミノ酸配列からなるHVR-L3を含む抗体;
(b2) 配列番号:75のアミノ酸配列からなるHVR-H1、配列番号:76のアミノ酸配列からなるHVR-H2、配列番号:77のアミノ酸配列からなるHVR-H3、配列番号:78のアミノ酸配列からなるHVR-L1、配列番号:79のアミノ酸配列をからなるHVR-L2、および配列番号:80のアミノ酸配列からなるHVR-L3を含む抗体;
(b3) 配列番号:73のVH配列および配列番号:74のVL配列を含む抗体;
(b4) 配列番号:81のVH配列および配列番号:82のVL配列を含む抗体;
(b5) (b1)から(b4)のいずれか一つの抗体とNOX1中の同じエピトープに結合する抗体;
(b6) (b1)から(b4)のいずれか一つの抗体のNOX1への結合と競合する抗体;
(b7) 競合アッセイにおいて、(b1)から(b4)のいずれか一つの抗体のNOX1への結合を50%以上阻止する抗体;
(b8) 配列番号:73のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列および配列番号:74のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列を含む抗体;
(b9) 配列番号:81のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列および配列番号:82のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列を含む抗体;
から選ばれる、抗体。
[4C] [1]、[2]、[3](3)、[3](4)、[4](3)、[4](4)のいずれか一つに記載の抗体であって、当該抗体はMARVELD3 isoform 1および/またはMARVELD3 isoform 2に結合可能であり、以下:
(c1) 配列番号:43のアミノ酸配列からなるHVR-H1、配列番号:44のアミノ酸配列からなるHVR-H2、配列番号:45のアミノ酸配列からなるHVR-H3、配列番号:46のアミノ酸配列からなるHVR-L1、配列番号:47のアミノ酸配列をからなるHVR-L2、および配列番号:48のアミノ酸配列からなるHVR-L3を含む抗体;
(c2) 配列番号:51のアミノ酸配列からなるHVR-H1、配列番号:52のアミノ酸配列からなるHVR-H2、配列番号:53のアミノ酸配列からなるHVR-H3、配列番号:54のアミノ酸配列からなるHVR-L1、配列番号:55のアミノ酸配列をからなるHVR-L2、および配列番号:56のアミノ酸配列からなるHVR-L3を含む抗体;
(c3) 配列番号:49のVH配列および配列番号:50のVL配列を含む抗体;
(c4) 配列番号:57のVH配列および配列番号:58のVL配列を含む抗体;
(c5) (c1)から(c4)のいずれか一つの抗体とMARVELD3 isoform 1および/またはMARVELD3 isoform 2中の同じエピトープに結合する抗体;
(c6) (c1)から(c4)のいずれか一つの抗体のMARVELD3 isoform 1および/またはMARVELD3 isoform 2への結合と競合する抗体;
(c7) 競合アッセイにおいて、(c1)から(c4)のいずれか一つの抗体のMARVELD3 isoform 1および/またはMARVELD3 isoform 2への結合を50%以上阻止する抗体;
(c8) 配列番号:49のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列および配列番号:50のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列を含む抗体;
(c9) 配列番号:57のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列および配列番号:58のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列を含む抗体;
から選ばれる、抗体。
[5] 細胞傷害活性を有する、[1]から[4C]のいずれか一つに記載の抗体。
[6] インターナライズ活性を有する、[1]から[5]のいずれか一つに記載の抗体。
[7] モノクローナル抗体である、[1]から[6]のいずれか一つに記載の抗体。
[8] ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体である、[1]から[7]のいずれか一つに記載の抗体。
[9] 抗体断片である、[1]から[8]のいずれか一つに記載の抗体。
[10] 全長IgG抗体である、[1]から[8]のいずれか一つに記載の抗体。
[11] 多重特異的抗体である、[1]から[10]のいずれか一つに記載の抗体。
[12] T細胞受容体複合体結合ドメインを更に含む、[11]に記載の抗体。
[13] 前記多重特異的抗体は、前記タンパク質に対する結合ドメインを一つ含む、[11]または[12]に記載の抗体。
[14] Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域を含む、[11]から[13]のいずれか一つに記載の抗体。
[15] 前記Fc領域は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のFc領域より低いFcγ受容体結合活性を有する、[14]に記載の抗体。
[16] 前記抗体は細胞傷害活性を有し、当該細胞傷害活性がT細胞依存的細胞傷害活性である、[12]または[15]に記載の抗体。
[17] 前記T細胞受容体複合体結合ドメインは、T細胞受容体に対する結合活性を有するT細胞受容体結合ドメインである、[12]から[16]のいずれか一つに記載の抗体。
[18] 前記T細胞受容体複合体結合ドメインは、CD3に対する結合活性を有するCD3結合ドメインである、[12]から[16]のいずれか一つに記載の抗体。
[19] 前記CD3結合ドメインは、CD3ε鎖に結合可能である、[18]に記載の抗体。
[20] 前記CD3結合ドメインは、抗体重鎖可変領域と抗体軽鎖可変領域を含むドメインである、[18]または[19]に記載の抗体。
[20A] 前記CD3結合ドメインは、以下:
(d1) 配列番号:59のアミノ酸配列からなるHVR-H1、配列番号:60のアミノ酸配列からなるHVR-H2、配列番号:61のアミノ酸配列からなるHVR-H3、配列番号:62のアミノ酸配列からなるHVR-L1、配列番号:63のアミノ酸配列をからなるHVR-L2、および配列番号:64のアミノ酸配列からなるHVR-L3を有する抗体可変領域を含むドメイン;
(d2) 配列番号:65のVH配列および配列番号:66のVL配列を有する抗体可変領域を含むドメイン;
(d3) (d1)から(d2)のいずれか一つの抗体可変領域とCD3中の同じエピトープに結合する抗体可変領域を含むドメイン;
(d4) (d1)から(d2)のいずれか一つの抗体可変領域のCD3への結合と競合する抗体可変領域を含むドメイン;
(d5) 競合アッセイにおいて、(d1)から(d2)のいずれか一つの抗体可変領域のCD3への結合を50%以上阻止する抗体可変領域を含むドメイン;
(d6) 配列番号:65のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列および配列番号:66のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列を有する抗体可変領域を含むドメイン;
から選ばれる、[18]から[20]のいずれか一つに記載の抗体。
[21] 前記多重特異的抗体は二重特異的抗体である、[11]から[20A]のいずれか一つに記載の抗体。
[22] [1]から[21]のいずれか一つに記載の抗体をコードする、単離された核酸。
[23] [22]に記載の核酸を含む、宿主細胞。
[24] [1]から[21]のいずれか一つに記載の抗体を製造する方法であって、抗体が製造されるように[23]に記載の宿主細胞を培養することを含む、方法。
[25] 前記宿主細胞から前記抗体を回収する工程をさらに含む、[24]に記載の方法。
[26] [1]から[21]のいずれか一つに記載の抗体および細胞傷害剤を含む、イムノコンジュゲート。
[27] [1]から[21]のいずれか一つに記載の抗体および薬学的に許容される担体を含む、薬学的製剤。
[28] 医薬品としての使用のための、[1]から[21]のいずれか一つに記載の抗体。
[29] がんの治療における使用のための、[1]から[21]のいずれか一つに記載の抗体。
[30] 前記がんは肺がんであり、前記抗体は、XPR1、SPINT2、SEZ6L2、FLVCR1、SLC7A5、STEAP1、MMP14、TNFRSF21、TMPRSS4のいずれかに結合する、[29]に記載の抗体。
[31] 前記肺がんはEGFRのドライバー変異、BRAFのドライバー変異、ERBB2のドライバー変異、ALK融合遺伝子発現、RET/ROS1融合遺伝子発現から選ばれる一つ以上を有さない肺がんである、[30]に記載の抗体。
[32] 前記肺がんは肺腺癌である、[30]または[31]に記載の抗体。
[33] 前記がんは大腸がんであり、前記抗体は、NOX1、MARVELD3 isoform 1、MARVELD3 isoform 2、SPINT2、MANSC1、SLC12A2、CDCP1のいずれかに結合する、[29]に記載の抗体。
[34] 前記大腸がんはKRAS変異を有する大腸がんである、[33]に記載の抗体。
[35] 傷害活性誘導における使用のための、[1]から[21]のいずれか一つに記載の抗体。
[36] 医薬品の製造における、[1]から[21]のいずれか一つに記載の抗体の使用。
[37] がん治療のための医薬品の製造における、[1]から[21]のいずれか一つに記載の抗体の使用。
[38] 前記がんは肺がんであり、前記抗体は、XPR1、SPINT2、SEZ6L2、FLVCR1、SLC7A5、STEAP1、MMP14、TNFRSF21、TMPRSS4のいずれかに結合する、[37]に記載の使用。
[39] 前記肺がんはEGFRのドライバー変異、BRAFのドライバー変異、ERBB2のドライバー変異、ALK融合遺伝子発現、RET/ROS1融合遺伝子発現から選ばれる一つ以上を有さない肺がんである、[38]に記載の使用。
[40] 前記肺がんは肺腺癌である、[38]または[39]に記載の使用。
[41] 前記がんは大腸がんであり、前記抗体は、NOX1、MARVELD3 isoform 1、MARVELD3 isoform 2、SPINT2、MANSC1、SLC12A2、CDCP1、のいずれかに結合する、[37]に記載の使用。
[42] 前記大腸がんはKRAS変異を有する大腸がんである、[41]に記載の使用。
[43] 細胞傷害活性を誘導する医薬品の製造における、[1]から[21]のいずれか一つに記載の抗体の使用。
[44] がんを有する個体を治療する方法であって、[1]から[21]のいずれか一つに記載の抗体の有効量を該個体に投与することを含む、方法。
[45] 前記がんは肺がんであり、前記抗体は、XPR1、SPINT2、SEZ6L2、FLVCR1、SLC7A5、STEAP1、MMP14、TNFRSF21、TMPRSS4のいずれかに結合する、[44]に記載の方法。
[46] 前記肺がんはEGFRのドライバー変異、BRAFのドライバー変異、ERBB2のドライバー変異、ALK融合遺伝子発現、RET/ROS1融合遺伝子発現から選ばれる一つ以上を有さない肺がんである、[45]に記載の方法。
[47] 前記肺がんは肺腺癌である、[45]または[46]に記載の方法。
[48] 前記がんは大腸がんであり、前記抗体は、NOX1、MARVELD3 isoform 1、MARVELD3 isoform 2、SPINT2、MANSC1、SLC12A2、CDCP1のいずれかに結合する、[44]に記載の方法。
[49] 前記大腸がんはKRAS変異を有する大腸がんである、[48]に記載の方法。
[50] 個体中で細胞傷害活性を誘導する方法であって、細胞傷害活性を誘導するために、[1]から[21]のいずれか一つに記載の抗体の有効量を該個体に投与する工程を含む、方法。
[51] 生物学的サンプルにおけるXPR1、NOX1、MARVELD3 isoform 1、MARVELD3 isoform 2、SPINT2、MANSC1、SLC12A2、CDCP1、SEZ6L2、FLVCR1、SLC7A5、STEAP1、MMP14、TNFRSF21、またはTMPRSS4の存在を検出する方法であって、検出対象となるタンパク質に結合可能な[1]から[21]のいずれか一つに記載の抗体を、検出対象となるタンパク質への結合が許容される条件下で当該生物学的サンプルと接触させることを含む、方法。
[52] 生物学的サンプルにおけるがん細胞を検出する方法であって、[1]から[21]の何れか一つに記載の抗体を、当該抗体の抗原となるタンパク質への結合が許容される条件下で当該生物学的サンプルと接触させることを含む、方法。
[53] 生物学的サンプルにおける大腸がん細胞を検出する方法であって、NOX1、MARVELD3 isoform 1、MARVELD3 isoform 2、SPINT2、MANSC1、SLC12A2、またはCDCP1に結合可能な [1]から[21]のいずれか一つに記載の抗体を、当該抗体の抗原となるタンパク質への結合が許容される条件下で当該生物学的サンプルと接触させることを含む、方法。
[54] 生物学的サンプルにおけるKRAS変異を有する大腸がん細胞を検出する方法であって、NOX1、MARVELD3 isoform 1、MARVELD3 isoform 2、SPINT2、MANSC1、SLC12A2、またはCDCP1に結合可能な [1]から[21]のいずれか一つに記載の抗体を、当該抗体の抗原となるタンパク質への結合が許容される条件下で当該生物学的サンプルと接触させることを含む、方法。
[55] 生物学的サンプルにおける肺がん細胞を検出する方法であって、XPR1、SPINT2、SEZ6L2、FLVCR1、SLC7A5、STEAP1、MMP14、TNFRSF21、またはTMPRSS4に結合可能な [1]から[21]のいずれか一つに記載の抗体を、当該抗体の抗原となるタンパク質への結合が許容される条件下で当該生物学的サンプルと接触させることを含む、方法。
[56] 生物学的サンプルにおける、EGFRのドライバー変異、BRAFのドライバー変異、ERBB2のドライバー変異、ALK融合遺伝子発現、RET/ROS1融合遺伝子発現から選ばれる一つ以上を有さない肺がん細胞を検出する方法であって、XPR1、SPINT2、SEZ6L2、FLVCR1、SLC7A5、STEAP1、MMP14、TNFRSF21、またはTMPRSS4に結合可能な [1]から[21]のいずれか一つに記載の抗体を、当該抗体の抗原となるタンパク質への結合が許容される条件下で当該生物学的サンプルと接触させることを含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1-1】各標的抗原候補のタンパク質発現を示す図である。縦軸は分子名とタンパク質発現の定量値(iBAQ値)、横軸は解析した組織を示した。各組織由来の全サンプルのLC-MSデータ(N=3)をすべてプロットした。●は大腸癌組織ではKRAS変異を持つサンプル、肺癌組織ではドライバー変異を持つサンプルを示しており、○は前述の変異を持たないサンプルを示している。
図1-2】図1-1の説明を参照。
図1-3】図1-1の説明を参照。
図1-4】図1-1の説明を参照。
図1-5】図1-1の説明を参照。
図1-6】図1-1の説明を参照。
図1-7】図1-1の説明を参照。
図1-8】図1-1の説明を参照。
図1-9】図1-1の説明を参照。
図1-10】図1-1の説明を参照。
図1-11】図1-1の説明を参照。
図1-12】図1-1の説明を参照。
図1-13】図1-1の説明を参照。
図1-14】図1-1の説明を参照。
図1-15】図1-1の説明を参照。
図1-16】図1-1の説明を参照。
図2】MARVELD3のアイソフォーム1および2のアミノ酸配列(それぞれ配列番号3および4)のアライメントを示した図である。Raleigh D.R. et al., Mol. Biol. Cell 21, 2010のFig 1Aを基に細胞外領域の部分を下線で示した。
図3-1】大腸癌サンプルでのMARVELD3アイソフォーム1および2特異的ペプチドの発現量比較。図3-1はMARVELD3アイソフォーム2の発現量、図3-2はMARVELD3アイソフォーム1の発現量を示した図である。アイソフォーム2特異的ペプチドとしてEKPAEMFEF、アイソフォーム1特異的ペプチドとしてQLDQQYTILRが同定されたため、これらのペプチドのシグナル強度で発現量を比較した。縦軸はアイソフォーム1および2特異的ペプチドのシグナル強度を横軸は大腸癌および隣接正常組織のサンプル名(各サンプルについてLC-MS解析をN=3で実施)を示した。黒のバーはKRAS変異を持つサンプル、グレーのバーはKRAS変異を持たないサンプルを示した。
図3-2】図3-1の説明を参照。
図4-1】XPR1, NOX1, MARVELD3アイソフォーム2(それぞれ配列番号1、2、および4)の細胞表面局在解析結果を示す図である。各タンパク質の全アミノ酸配列の中でuniprotのTopology情報における膜貫通領域は一重線枠で、細胞外領域は二重線枠で囲んでいる。点線は過剰発現細胞で同定したペプチドを示し、黒の下線でアミノ酸を太字にした部分は内在性のタンパク質から同定されたペプチドを示している。
図4-2】図4-1の説明を参照。
図4-3】図4-1の説明を参照。
図5-1】NCI-H2227細胞とHLC-1細胞におけるXPR1発現量を示す図である。
図5-2】Caco-2細胞におけるMARVELD3 isoform2の発現量を示す図である。
図6】CellTrace FarRedで染色された画分(空プラスミドベクターが導入された細胞)とCellTrace FarRedで染色されなかった画分(ヒトXPR1-Myc発現プラスミドベクターが導入された細胞)それぞれのAlexa488染色を示す図である。
図7】抗ヒトXPR1/抗ヒトCD3二重特異性抗体の細胞増殖阻害率を示す図である。
図8】抗ヒトXPR1/抗ヒトCD3二重特異性抗体の細胞増殖阻害率を示す図である。
図9】CellTrace FarRedで染色された画分(空プラスミドベクターが導入された細胞)とCellTrace FarRedで染色されなかった画分(ヒトMARVELD3 isoform2発現プラスミドベクターが導入された細胞)それぞれのAlexa488染色を示す図である。
図10】抗ヒトMARVELD3 isoform2/抗ヒトCD3二重特異性抗体の細胞増殖阻害率を示す図である。
図11】CellTrace FarRedおよびCellTrace Violetで染色されなかった画分(ヒトNOX1-Strep導入細胞)、CellTrace FarRedおよびCellTrace Violetで染色された画分(NOX1_Nx1B_564-myc導入細胞)、CellTrace FarRedのみで染色された画分(空プラスミドベクターが導入された細胞)それぞれのAlexa488染色を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
I.定義
用語「抗標的タンパク質抗体」または「標的タンパク質に結合する抗体」は、充分なアフィニティで標的タンパク質と結合することのできる抗体であって、その結果その抗体が標的タンパク質を標的化したときに診断剤および/または治療剤として有用であるような、抗体のことをいう。一態様において、無関係な非標的タンパク質への抗標的タンパク質抗体の結合の程度は、(例えば、放射免疫測定法 (radioimmunoassay: RIA) により)測定したとき、抗体の標的タンパク質への結合の約10%未満である。特定の態様において、標的タンパク質に結合する抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、または≦0.001nM(例えば、10-8M以下、例えば10-8M~10-13M、例えば、10-9M~10-13M)の解離定数 (Kd) を有する。特定の態様において、抗標的タンパク質抗体は、異なる種からの標的タンパク質間で保存されている標的タンパク質のエピトープに結合する。
【0014】
「アフィニティ」は、分子(例えば、抗体)の結合部位1個と、分子の結合パートナー(例えば、抗原)との間の、非共有結合的な相互作用の合計の強度のことをいう。別段示さない限り、本明細書で用いられる「結合アフィニティ」は、ある結合対のメンバー(例えば、抗体と抗原)の間の1:1相互作用を反映する、固有の結合アフィニティのことをいう。分子XのそのパートナーYに対するアフィニティは、一般的に、解離定数 (Kd) により表すことができる。アフィニティは、本明細書に記載のものを含む、当該技術分野において知られた通常の方法によって測定され得る。結合アフィニティを測定するための具体的な実例となるおよび例示的な態様については、下で述べる。
【0015】
参照ポリペプチド配列に対する「パーセント (%) アミノ酸配列同一性」は、最大のパーセント配列同一性を得るように配列を整列させてかつ必要ならギャップを導入した後の、かつ、いかなる保存的置換も配列同一性の一部と考えないとしたときの、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基の、百分率比として定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決める目的のアラインメントは、当該技術分野における技術の範囲内にある種々の方法、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、Megalign (DNASTAR) ソフトウェア、またはGENETYX(登録商標)(株式会社ゼネティックス)などの、公に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用することにより達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列のアラインメントをとるための適切なパラメーターを決定することができる。
【0016】
ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムは、ジェネンテック社の著作であり、そのソースコードは米国著作権庁 (U.S. Copyright Office, Wasington D.C., 20559) に使用者用書類とともに提出され、米国著作権登録番号TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、ジェネンテック社 (Genentech, Inc., South San Francisco, California) から公に入手可能であるし、ソースコードからコンパイルしてもよい。ALIGN-2プログラムは、Digital UNIX V4.0Dを含むUNIXオペレーティングシステム上での使用のためにコンパイルされる。すべての配列比較パラメーターは、ALIGN-2プログラムによって設定され、変動しない。
アミノ酸配列比較にALIGN-2が用いられる状況では、所与のアミノ酸配列Aの、所与のアミノ酸配列Bへの、またはそれとの、またはそれに対する%アミノ酸配列同一性(あるいは、所与のアミノ酸配列Bへの、またはそれとの、またはそれに対する、ある%アミノ酸配列同一性を有するまたは含む所与のアミノ酸配列A、ということもできる)は、次のように計算される:分率X/Yの100倍。ここで、Xは配列アラインメントプログラムALIGN-2によって、当該プログラムのAおよびBのアラインメントにおいて同一である一致としてスコアされたアミノ酸残基の数であり、YはB中のアミノ酸残基の全数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合、AのBへの%アミノ酸配列同一性は、BのAへの%アミノ酸配列同一性と等しくないことが、理解されるであろう。別段特に明示しない限り、本明細書で用いられるすべての%アミノ酸配列同一性値は、直前の段落で述べたとおりALIGN-2コンピュータプログラムを用いて得られるものである。
【0017】
本明細書で用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、所望の抗原結合活性を示す限りは、これらに限定されるものではないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)および抗体断片を含む、種々の抗体構造を包含する。
【0018】
「抗体断片」は、完全抗体が結合する抗原に結合する当該完全抗体の一部分を含む、当該完全抗体以外の分子のことをいう。抗体断片の例は、これらに限定されるものではないが、Fv、Fab、Fab'、Fab’-SH、F(ab')2;ダイアボディ;線状抗体;単鎖抗体分子(例えば、scFv);および、抗体断片から形成された多重特異性抗体(多重特異的抗体)を含む。
【0019】
用語「全長抗体」、「完全抗体」、および「全部抗体」は、本明細書では相互に交換可能に用いられ、天然型抗体構造に実質的に類似した構造を有する、または本明細書で定義するFc領域を含む重鎖を有する抗体のことをいう。
【0020】
「天然型抗体」は、天然に生じる様々な構造を伴う免疫グロブリン分子のことをいう。例えば、天然型IgG抗体は、ジスルフィド結合している2つの同一の軽鎖と2つの同一の重鎖から構成される約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端に向かって、各重鎖は、可変重鎖ドメインまたは重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域 (VH) を有し、それに3つの定常ドメイン(CH1、CH2、およびCH3)が続く。同様に、N末端からC末端に向かって、各軽鎖は、可変軽鎖ドメインまたは軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域 (VL) を有し、それに定常軽鎖 (CL) ドメインが続く。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる、2つのタイプの1つに帰属させられてよい。
【0021】
用語「可変領域」または「可変ドメイン」は、抗体を抗原へと結合させることに関与する、抗体の重鎖または軽鎖のドメインのことをいう。天然型抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメイン(それぞれVHおよびVL)は、通常、各ドメインが4つの保存されたフレームワーク領域 (FR) および3つの超可変領域 (HVR) を含む、類似の構造を有する。(例えば、Kindt et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., page 91 (2007) 参照。)1つのVHまたはVLドメインで、抗原結合特異性を与えるに充分であろう。さらに、ある特定の抗原に結合する抗体は、当該抗原に結合する抗体からのVHまたはVLドメインを使ってそれぞれVLまたはVHドメインの相補的ライブラリをスクリーニングして、単離されてもよい。例えばPortolano et al., J. Immunol. 150:880-887 (1993); Clarkson et al., Nature 352:624-628 (1991) 参照。
【0022】
本明細書で用いられる用語「超可変領域」または「HVR」は、配列において超可変であり(「相補性決定領域」または「CDR」(complementarity determining region))、および/または構造的に定まったループ(「超可変ループ」)を形成し、および/または抗原接触残基(「抗原接触」)を含む、抗体の可変ドメインの各領域のことをいう。通常、抗体は6つのHVRを含む:VHに3つ(H1、H2、H3)、およびVLに3つ(L1、L2、L3)である。本明細書での例示的なHVRは、以下のものを含む:
(a) アミノ酸残基26-32 (L1)、50-52 (L2)、91-96 (L3)、26-32 (H1)、53-55 (H2)、および96-101 (H3)のところで生じる超可変ループ (Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987));
(b) アミノ酸残基24-34 (L1)、50-56 (L2)、89-97 (L3)、31-35b (H1)、50-65 (H2)、 および95-102 (H3)のところで生じるCDR (Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991));
(c) アミノ酸残基27c-36 (L1)、46-55 (L2)、89-96 (L3)、30-35b (H1)、47-58 (H2)、および93-101 (H3) のところで生じる抗原接触 (MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996));ならびに、
(d) HVRアミノ酸残基46-56 (L2)、47-56 (L2)、48-56 (L2)、49-56 (L2)、26-35 (H1)、26-35b (H1)、49-65 (H2)、93-102 (H3)、および94-102 (H3)を含む、(a)、(b)、および/または(c)の組合せ。
別段示さない限り、HVR残基および可変ドメイン中の他の残基(例えば、FR残基)は、本明細書では上記のKabatらにしたがって番号付けされる。
【0023】
「フレームワーク」または「FR」は、超可変領域 (HVR) 残基以外の、可変ドメイン残基のことをいう。可変ドメインのFRは、通常4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、およびFR4からなる。それに応じて、HVRおよびFRの配列は、通常次の順序でVH(またはVL)に現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0024】
本明細書で用語「Fc領域」は、少なくとも定常領域の一部分を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために用いられる。この用語は、天然型配列のFc領域および変異体Fc領域を含む。一態様において、ヒトIgG重鎖Fc領域はCys226から、またはPro230から、重鎖のカルボキシル末端まで延びる。ただし、Fc領域のC末端のリジン (Lys447) またはグリシン‐リジン(Gly446-Lys447)は、存在していてもしていなくてもよい。本明細書では別段特定しない限り、Fc領域または定常領域中のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD 1991 に記載の、EUナンバリングシステム(EUインデックスとも呼ばれる)にしたがう。
【0025】
「機能性Fc領域」は、天然型配列Fc領域の「エフェクター機能」を備える。例示的な「エフェクター機能」は、C1q結合;CDC;Fc受容体結合;ADCC;貪食作用;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体;B cell receptor: BCR)の下方制御等を含む。そのようなエフェクター機能は一般に、Fc領域が結合ドメイン(例えば、抗体可変ドメイン)と組み合わされることを必要とし、そして、例えば本明細書の定義の中で開示される様々な測定法を用いて評価され得る。
【0026】
抗体の「クラス」は、抗体の重鎖に備わる定常ドメインまたは定常領域のタイプのことをいう。抗体には5つの主要なクラスがある:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMである。そして、このうちいくつかはさらにサブクラス(アイソタイプ)に分けられてもよい。例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2である。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインを、それぞれ、α、δ、ε、γ、およびμと呼ぶ。
【0027】
「ヒト抗体」は、ヒトもしくはヒト細胞によって産生された抗体またはヒト抗体レパートリーもしくは他のヒト抗体コード配列を用いる非ヒト供給源に由来する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を備える抗体である。このヒト抗体の定義は、非ヒトの抗原結合残基を含むヒト化抗体を、明確に除外するものである。
【0028】
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVRからのアミノ酸残基およびヒトFRからのアミノ酸残基を含む、キメラ抗体のことをいう。ある態様では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、当該可変領域においては、すべてのもしくは実質的にすべてのHVR(例えばCDR)は非ヒト抗体のものに対応し、かつ、すべてのもしくは実質的にすべてのFRはヒト抗体のものに対応する。ヒト化抗体は、任意で、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部分を含んでもよい。抗体(例えば、非ヒト抗体)の「ヒト化された形態」は、ヒト化を経た抗体のことをいう。
【0029】
用語「キメラ」抗体は、重鎖および/または軽鎖の一部分が特定の供給源または種に由来する一方で、重鎖および/または軽鎖の残りの部分が異なった供給源または種に由来する抗体のことをいう。
【0030】
本明細書でいう用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体のことをいう。すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、生じ得る変異抗体(例えば、自然に生じる変異を含む変異抗体、またはモノクローナル抗体調製物の製造中に発生する変異抗体。そのような変異体は通常若干量存在している。)を除いて、同一でありおよび/または同じエピトープに結合する。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。したがって、修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体の集団から得られるものである、という抗体の特徴を示し、何らかの特定の方法による抗体の製造を求めるものと解釈されるべきではない。例えば、本開示にしたがって用いられるモノクローナル抗体は、これらに限定されるものではないが、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部を含んだトランスジェニック動物を利用する方法を含む、様々な手法によって作成されてよく、モノクローナル抗体を作製するためのそのような方法および他の例示的な方法は、本明細書に記載されている。
【0031】
参照抗体と「同じエピトープに結合する抗体」は、競合アッセイにおいてその参照抗体が自身の抗原へする結合を50%以上阻止する抗体のことをいい、また逆にいえば、参照抗体は、競合アッセイにおいて前述の抗体が自身の抗原へする結合を50%以上阻止する。例示的な競合アッセイが、本明細書で提供される。
【0032】
例示的な競合アッセイにおいて、固定化された標的抗原(XPR1、NOX1、MARVELD3 isoform 1、MARVELD3 isoform 2、SPINT2、MANSC1、SLC12A2、CDCP1、SEZ6L2、FLVCR1、SLC7A5、STEAP1、MMP14、TNFRSF21、またはTMPRSS4)は、当該標的抗原に結合する第1の標識された抗体(例えば、XPB0062、NXA0125、NXA0164、MDA0279、またはMDA0314)および当該標的抗原への結合に関して第1の抗体と競合する能力に関して試験される第2の未標識の抗体を含む溶液中でインキュベートされる。第2の抗体は、ハイブリドーマ上清に存在し得る。対照として、固定化された標的抗原が、第1の標識された抗体を含むが第2の未標識の抗体を含まない溶液中でインキュベートされる。第1の抗体の標的抗原に対する結合を許容する条件下でのインキュベーションの後、余分な未結合の抗体が除去され、固定化された標的抗原に結合した標識の量が測定される。固定化された標的抗原に結合した標識の量が対照サンプルと比較して試験サンプルにおいて実質的に減少している場合、それは第2の抗体が標的抗原への結合に関して第1の抗体と競合していることを示す。Harlow and Lane (1988) Antibodies: A Laboratory Manual ch.14 (Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY) を参照のこと。
【0033】
Fc受容体
「Fc受容体」または「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体のことをいう。いくつかの態様において、FcRは、天然型ヒトFcRである。いくつかの態様において、FcRは、IgG抗体に結合するもの(ガンマ受容体)であり、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIサブクラスの受容体を、これらの受容体の対立遺伝子変異体および選択的スプライシングによる形態を含めて、含む。FcγRII受容体は、FcγRIIA(「活性化受容体」)およびFcγRIIB(「阻害受容体」)を含み、これらは主としてその細胞質ドメインにおいて相違する類似のアミノ酸配列を有する。活性化受容体FcγRIIAは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシン活性化モチーフ (immunoreceptor tyrosine-based activation motif: ITAM) を含む。阻害受容体FcγRIIBは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシン阻害モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based inhibition motif: ITIM)を含む。(例えば、Daeron, Annu. Rev. Immunol. 15:203-234 (1997) を参照のこと。)FcRは、例えば、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457-92 (1991);Capel et al., Immunomethods 4:25-34 (1994);およびde Haas et al., J. Lab. Clin. Med 126:330-41 (1995)において総説されている。将来同定されるものを含む他のFcRも、本明細書の用語「FcR」に包含される。
【0034】
用語「Fc受容体」または「FcR」はまた、母体のIgGの胎児への移動(Guyer et al., J. Immunol. 117:587 (1976)およびKim et al., J. Immunol. 24:249 (1994))ならびに免疫グロブリンのホメオスタシスの調節を担う、新生児型受容体FcRnを含む。FcRnへの結合を測定する方法は公知である(例えば、Ghetie and Ward., Immunol. Today 18(12):592-598 (1997); Ghetie et al., Nature Biotechnology, 15(7):637-640 (1997); Hinton et al., J. Biol. Chem. 279(8):6213-6216 (2004); WO2004/92219 (Hinton et al.)を参照のこと)。
【0035】
インビボでのヒトFcRnへの結合およびヒトFcRn高アフィニティ結合ポリペプチドの血漿半減期は、例えばヒトFcRnを発現するトランスジェニックマウスもしくはトランスフェクトされたヒト細胞株においてまたは変異Fc領域を伴うポリペプチドが投与される霊長類において測定され得る。WO2000/42072 (Presta) は、FcRに対する結合が増加したまたは減少した抗体変異体を記載している。例えば、Shields et al. J. Biol. Chem. 9(2):6591-6604 (2001) も参照のこと。
【0036】
「エフェクター機能」は、抗体のFc領域に起因する、抗体のアイソタイプによって異なる生物学的活性のことをいう。抗体のエフェクター機能の例には次のものが含まれる:C1q結合および補体依存性細胞傷害(complement dependent cytotoxicity:CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞介在性細胞傷害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity: ADCC);貪食作用;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御;および、B細胞活性化。
【0037】
抗体依存性細胞介在性細胞傷害
「抗体依存性細胞介在性細胞傷害」または「ADCC」は、抗体のFc領域が特定の細胞傷害性細胞(例えば、NK細胞、好中球およびマクロファージ)上に存在するFc受容体 (FcR) に結合しそれによってこれらの細胞傷害性エフェクター細胞が抗原を有する標的細胞に特異的に結合することができそしてその後にその標的細胞を細胞毒によって殺傷することができるようになる、細胞傷害の一形態のことをいう。ADCCを媒介するプライマリ細胞であるNK細胞はFcγRIIIのみを発現し、単球はFcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIを発現する。造血細胞上のFcRの発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457-92 (1991) の第464頁の表3にまとめられている。目的の分子のADCC活性を評価するために、インビトロADCC測定法、例えば米国特許第5,500,362号もしくは第5,821,337号または米国特許第6,737,056号 (Presta) に記載のものが実施され得る。そのような測定法に有用なエフェクター細胞は、PBMCおよびNK細胞を含む。あるいはまたは加えて、目的の分子のADCC活性は、例えばClynes et al. PNAS (USA) 95:652-656 (1998)に開示される動物モデルのような動物モデルにおいて、インビボで評価されてもよい。
【0038】
補体依存性細胞傷害
「補体依存性細胞傷害」または「CDC」は、補体の存在下での標的細胞の溶解のことをいう。古典的補体経路の活性化は、(適切なサブクラスの)抗体(対応する抗原に結合している)への補体系の第1要素(C1q)の結合によって開始される。補体活性化を評価するため、例えばGazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202:163 (1996) に記載のCDC測定法が実施され得る。改変されたFc領域アミノ酸配列を伴うポリペプチド変異体(変異Fc領域を伴うポリペプチド)および増加または減少したC1q結合能は、例えば、米国特許第6,194,551号B1およびWO1999/51642に記載されている。例えば、Idusogie et al. J. Immunol. 164: 4178-4184 (2000) も参照のこと。
【0039】
ヒトエフェクター細胞
「ヒトエフェクター細胞」は、1つまたは複数のFcRを発現し、エフェクター機能を発揮する白血球のことをいう。特定の態様において、この細胞は、少なくともFcγRIIIを発現し、ADCCエフェクター機能を発揮する。ADCCを媒介するヒト白血球の例は、末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell: PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞傷害性T細胞および好中球を含む。エフェクター細胞は、天然の供給源から、例えば血液から単離され得る。
【0040】
本開示の抗体と薬物との複合体は細胞内に取り込まれた場合、当該複合体に連結された増殖抑制剤または毒性ペプチド等の細胞傷害性物質によって当該抗体を取り込んだ細胞に細胞死を誘導することが可能である。従って、増殖抑制剤または毒性ペプチド等の細胞傷害性物質が連結された抗体は、さらにインターナライズ活性を有することが好ましい。本開示において「インターナライズ活性を有する抗体」とは、細胞表面上の標的タンパク質に結合した際に細胞内(細胞質内、小胞内、他の小器官内等)に輸送される抗体を意味する。抗体がインターナライズ活性を有するか否かは当業者に公知の方法を用いて確認することができる。例えば、標識物質が結合した抗体をその標的タンパク質を発現する細胞に接触させ当該標識物質が細胞内に取り込まれたか否かを確認する方法、増殖抑制剤または毒性ペプチド等の細胞傷害性物質を結合した抗体を、その標的タンパク質を発現する細胞に接触させた結果、当該細胞に細胞死が誘導されたか否かを確認する方法、等により確認することができる。
【0041】
「イムノコンジュゲート」は、1つまたは複数の異種の分子にコンジュゲートされた抗体である(異種の分子は、これに限定されるものではないが、細胞傷害剤を含む)。
【0042】
本明細書でいう用語「細胞傷害剤」は、細胞の機能を阻害するまたは妨げる、および/または細胞の死または破壊の原因となる物質のことをいう。細胞傷害剤は、これらに限定されるものではないが、放射性同位体(例えば、211At、131I、125I、90Y、186Re、188Re、153Sm、212Bi、32P、212PbおよびLuの放射性同位体);化学療法剤または化学療法薬(例えば、メトトレキサート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド類(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン、または他のインターカレート剤);増殖阻害剤;核酸分解酵素などの酵素およびその断片;抗生物質;例えば、低分子毒素または細菌、真菌、植物、または動物起源の酵素的に活性な毒素(その断片および/または変異体を含む)などの、毒素;および、以下に開示される、種々の抗腫瘍剤または抗がん剤を含む。
【0043】
「裸抗体」は、異種の部分(例えば、細胞傷害部分)または放射性標識にコンジュゲートされていない抗体のことをいう。裸抗体は、薬学的製剤中に存在していてもよい。
【0044】
用語「薬学的製剤」は、その中に含まれた有効成分の生物学的活性が効果を発揮し得るような形態にある調製物であって、かつ製剤が投与される被験体に許容できない程度に毒性のある追加の要素を含んでいない、調製物のことをいう。
【0045】
「薬学的に許容される担体」は、被験体に対して無毒な、薬学的製剤中の有効成分以外の成分のことをいう。薬学的に許容される担体は、これらに限定されるものではないが、緩衝液、賦形剤、安定化剤、または保存剤を含む。
【0046】
ある剤(例えば、薬学的製剤)の「有効量」は、所望の治療的または予防的結果を達成するために有効である、必要な用量におけるおよび必要な期間にわたっての、量のことをいう。
【0047】
本明細書で用いられる「治療」(および、その文法上の派生語、例えば「治療する」、「治療すること」など)は、治療される個体の自然経過を改変することを企図した臨床的介入を意味し、予防のためにも、臨床的病態の経過の間にも実施され得る。治療の望ましい効果は、これらに限定されるものではないが、疾患の発生または再発の防止、症状の軽減、疾患による任意の直接的または間接的な病理的影響の減弱、転移の防止、疾患の進行速度の低減、疾患状態の回復または緩和、および寛解または改善された予後を含む。いくつかの態様において、本開示の抗体は、疾患の発症を遅らせる、または疾患の進行を遅くするために用いられる。
【0048】
「個体」または「被験体」は哺乳動物である。哺乳動物は、これらに限定されるものではないが、飼育動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ウマ)、霊長類(例えば、ヒト、およびサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、ならびに、げっ歯類(例えば、マウスおよびラット)を含む。特定の態様では、個体または被験体は、ヒトである。
【0049】
がん
用語「がん」および「がん性」は、調節されない細胞成長/増殖によって典型的に特徴づけられる哺乳動物における生理学的状態のことをいうまたは説明するものである。がんの例は、がん腫、リンパ腫(例えば、ホジキンおよび非ホジキンリンパ腫)、芽細胞腫、肉腫、および白血病を含むが、これらに限定されない。そのようながんのより詳細な例は、扁平上皮細胞がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺の腺がん、肺の扁平上皮がん、腹膜のがん、肝細胞がん、消化管がん、膵がん、神経膠腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝がん、膀胱がん、ヘパトーマ、乳がん、結腸がん、結腸直腸がん、子宮内膜または子宮がん、唾液腺がん、腎がん、肝がん、前立腺がん、外陰部がん、甲状腺がん、肝細胞がん、白血病および他のリンパ球増殖性障害、ならびに様々なタイプの頭頸部がんを含む。
【0050】
腫瘍
用語「腫瘍」は、悪性か良性かによらず、すべての新生物性細胞成長および増殖ならびにすべての前がん性およびがん性細胞および組織のことをいう。用語「がん」、「がん性」、「細胞増殖性障害」、「増殖性障害」および「腫瘍」は、本明細書でいう場合、相互に排他的でない。
【0051】
本明細書において、「ドライバー変異」とは、がんの発生や悪性化の直接的な原因となる遺伝子変異を意味し、例えば、肺癌や大腸癌の重要なドライバー変異として、ALK, RET/ROS1, KRAS, EGFR, BRAF, ERBB2における遺伝子変異が挙げられる。ドライバー変異の非限定的な例としては、例えば表2に記載されている変異が挙げられる。
【0052】
一態様において、本開示の抗体は、肺がんの治療、予防、および診断のうちの少なくとも一つに有用である。特定の態様において、本開示の抗体は、EGFRのドライバー変異、BRAFのドライバー変異、ERBB2のドライバー変異、ALK融合遺伝子発現、RET/ROS1融合遺伝子発現から選ばれる一つ以上を有さない肺がんの治療、予防、および診断のうちの少なくとも一つに有用である。別の態様において、本開示の抗体は、大腸がんの治療、予防、および診断のうちの少なくとも一つに有用である。特定の態様において、本開示の抗体は、KRAS変異を有する大腸がんの治療、予防、および診断のうちの少なくとも一つに有用である。
【0053】
「単離された」抗体は、そのもともとの環境の成分から分離されたものである。いくつかの態様において、抗体は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点分離法 (isoelectric focusing: IEF)、キャピラリー電気泳動)またはクロマトグラフ(例えば、イオン交換または逆相HPLC)で測定して、95%または99%を超える純度まで精製される。抗体の純度の評価のための方法の総説として、例えば、Flatman et al., J. Chromatogr. B 848:79-87 (2007) を参照のこと。
【0054】
「単離された」核酸は、そのもともとの環境の成分から分離された核酸分子のことをいう。単離された核酸は、その核酸分子を通常含む細胞の中に含まれた核酸分子を含むが、その核酸分子は染色体外に存在しているかまたは本来の染色体上の位置とは異なる染色体上の位置に存在している。
【0055】
本開示の抗体「をコードする単離された核酸」は、抗体の重鎖および軽鎖(またはその断片)をコードする1つまたは複数の核酸分子のことをいい、1つのベクターまたは別々のベクターに乗っている核酸分子、および、宿主細胞中の1つまたは複数の位置に存在している核酸分子を含む。
【0056】
本明細書で用いられる用語「ベクター」は、それが連結されたもう1つの核酸を増やすことができる、核酸分子のことをいう。この用語は、自己複製核酸構造としてのベクター、および、それが導入された宿主細胞のゲノム中に組み入れられるベクターを含む。あるベクターは、自身が動作的に連結された核酸の、発現をもたらすことができる。そのようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」とも称される。
【0057】
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」、および「宿主細胞培養物」は、相互に交換可能に用いられ、外来核酸を導入された細胞(そのような細胞の子孫を含む)のことをいう。宿主細胞は「形質転換体」および「形質転換細胞」を含み、これには初代の形質転換細胞および継代数によらずその細胞に由来する子孫を含む。子孫は、親細胞と核酸の内容において完全に同一でなくてもよく、変異を含んでいてもよい。オリジナルの形質転換細胞がスクリーニングされたまたは選択された際に用いられたものと同じ機能または生物学的活性を有する変異体子孫も、本明細書では含まれる。
【0058】
II.組成物および方法
一局面において、本開示は、肺がん、大腸がん等のがんにおいて特異的に高発現しているタンパク質を見出したことに一部基づくものである。特定の態様において、XPR1、NOX1、MARVELD3 isoform 1、MARVELD3 isoform 2、SPINT2、MANSC1、SLC12A2、CDCP1、SEZ6L2、FLVCR1、SLC7A5、STEAP1、MMP14、TNFRSF21、TMPRSS4のうちのいずれかの標的タンパク質に結合する抗体が提供される。本開示の抗体は、例えば、肺がん、大腸がん等のがんの診断または治療のために、有用である。
【0059】
例示的標的タンパク質
本明細書でいう用語「標的タンパク質」は、別段示さない限り、霊長類(例えば、ヒト)およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)などの哺乳動物を含む、任意の脊椎動物供給源からの任意の天然型標的タンパク質のことをいう。この用語は、「全長」のプロセシングを受けていない標的タンパク質も、細胞中でのプロセシングの結果生じるいかなる形態の標的タンパク質も包含する。この用語はまた、自然に生じる標的タンパク質の変異体、例えば、スプライス変異体や対立遺伝子変異体も包含する。例示的な本開示の標的タンパク質のアミノ酸配列を、配列番号:1(XPR1)、配列番号:2(NOX1)、配列番号:3(MARVELD3 isoform 1)、配列番号:4(MARVELD3 isoform 2)、配列番号:5(SPINT2)、配列番号:7(MANSC1)、配列番号:8(SLC12A2)、配列番号:9(CDCP1)、配列番号:12(SEZ6L2)、配列番号:13(FLVCR1)、配列番号:14(SLC7A5)、配列番号:15(STEAP1)、配列番号:16(MMP14)、配列番号:17(TNFRSF21)、および配列番号:18(TMPRSS4)に示した。例示的な本開示の標的タンパク質の説明を以下に記載する。
【0060】
XPR1
XPR1 (xenotropic and polytropic retrovirus receptor)は、Xenotropic/polytropic mouse leukemia viruses (X/P-MLVs)が感染し細胞内に侵入するための受容体である。XPR1は、696アミノ酸からなり、その配列中には6か所のアスパラギン型糖鎖結合配列、8つの細胞膜貫通ドメイン、ならびに4つの細胞外ループを有する (Proc Natl Acad Sci USA. 1999;96:927-932. doi: 10.1073/pnas.96.3.927.、Proc Natl Acad Sci USA. 1999;96:1385-1390. doi: 10.1073/pnas.96.4.1385.、Nat Genet. 1999;21:216-219)。本タンパク質の細胞での本来の機能はわかっていない。XPR1と相同性の高い分子は哺乳動物では見いだされていないが、yeastではGタンパク質結合分裂シグナルに関与するSYG1タンパク質(J Biol Chem. 1995;270:25435-25444) と一定の相同性が認められている。また、XPR1のN末親水性領域においてはアカパンカビ (Neurospora crassa)のNUC-2S、出芽酵母 (S. cerevisiae) の PHO81 と PHO85(Trends Genet. 1995;11:209-211、Trends Biochem Sci. 1996;21:383-387、Mol Gen Genet. 1996;252:709-716)と低いながらも相同性がみられる。これら分子はリン酸の輸送制御に関与していることからXPR1はシグナル伝達、リン酸輸送の調節に関与しているのではないかと考えられている(Proc Natl Acad Sci USA. 1999;96:1385-1390. doi: 10.1073/pnas.96.4.1385.)。また、骨髄細胞やマクロファージではRANKL刺激によってXPR1のmRNA発現が上昇するとの報告があり、RANKL-RANKシグナルによってその発現が制御されていることが示唆されている(Biochem Biophys Res Commun. 2010 Aug 20;399(2):129-32)。
XPR1は4つの細胞外ループ(ECL1~4)を有するが、とりわけウイルスが侵入するための受容体として重要なのはECL3とECL4であり、この領域のアミノ酸変異がウイルス感染の感受性の違いに影響することが知られている。(J Virol. 2007 Oct; 81(19):10550-7、Retrovirology. 2009 Oct 7; 6():87、J Virol. 2010 Nov; 84(22):11970-80、J Virol. 1999 Nov; 73(11):9362-8、Retrovirology. 2005 Dec 15; 2():76、Retrovirology. 2010 Nov30; 7:101、Virology. 2016 Oct; 497: 53-58)
XPR1の癌における発現や機能に関してはこれまで報告はない。
XPR1 [NP_004727.2](配列番号:1)は696アミノ酸から成り、各種トポロジー予測ソフト(PSORT II, UniProt, Phobius, PolyPhobius)による解析、および論文情報(Proc Natl Acad Sci USA. 1999;96:927-932. doi: 10.1073/pnas.96.3.927.、Proc Natl Acad Sci USA. 1999;96:1385-1390. doi: 10.1073/pnas.96.4.1385.、Nat Genet. 1999;21:216-219)から、XPR1アイソフォーム1を認識するTRAB抗体のエピトープとして、以下のアミノ酸領域が考えられる:244, 256-273, 257-270, 258-264, 258-268, 258-273, 260-270, 293-314, 336-343, 337-344, 338-341, 340-342, 340-344, 340-345, 368-372, 392-398, 397-401, 398-402, 420-442, 420-506, 465-479, 497-507, 498-508, 529-555, 529-570, 582-586。一方、2つのトポロジー予測ソフト(TMHMM, Tmpred)では細胞外領域の予測が大きく異なり、XPR1アイソフォーム1を認識するTRAB抗体のエピトープとして、以下のアミノ酸領域が考えられる:1-234, 1-236, 293-318, 367-442, 369-473, 500-507, 529-696, 589-696。
【0061】
NOX1(NADPH OXIDASE HOMOLOG 1、NOH1、MITOGENIC OXIDASE 1、MOX1、GP91-2)
NADPH oxidase はROSの産生を担う膜結合酵素複合体であり、触媒ドメインであるNOXファミリーと他の数種類のタンパク質によって構成されている。NOXファミリーは7種類のファミリーメンバー、すなわち、NOX 1~5、DUOX1, 2、が知られており、NOX1はそのファミリーメンバーの1つである(Physiol Rev. 2007, 87, 245-313、Cell Mol Life Sci. 2012, 69, 2327-2343)。
ROSは一般的には細胞障害性物質、変異原性物質として働き、細胞にダメージを与えることでさまざまな慢性疾患(動脈硬化症、高血圧、炎症)の発症に関与していると考えられている(Free Radical Biol. Med., 2007, 43, 332-347、Cancer Sci., 2009, 100 (8), 1382-1388)。その一方で癌においてはROSレベルの上昇が確認されており、ROSが癌の進展に重要な役割を果たしていると考えられており(Cancer. Lett., 2008, 266 (1), 37-52)、実際、多くの癌種でNOX/DUOXの発現上昇が確認されている(Anticancer Agents Med Chem. 2013, 13(3):502-14、Clinical Science, 2015, 128, 863-875)。
大腸癌においてもNOX1の発現上昇が認められ、特にK-Ras変異とNOX1の発現が一致していることが報告されている (Int J Cancer. 2008,123(1):100-7)。KRas変異による下流シグナルの活性化に伴いsenescenceが誘導されるが、NOX1によって産生されたROSがsenescenceの誘導に重要な役割を果たしていることが報告されている (Genes Cells. 2013 Jan;18 (1):32-41)。
NOX1 [NP_008983.2](配列番号:2)は546アミノ酸から成り、各種トポロジー予測ソフト(PSORT II, UniProt, TMHMM, Tmpred, Phobius, PolyPhobius)による解析、および論文情報(Gene. 2001, 16;269(1-2):131-40、Biochem Biophys Res Commun. 2014, 17;443(3):1060-5)から、NOX1を認識するTRAB抗体のエピトープとして、以下のアミノ酸領域が考えられる:1-4, 1-11, 18-55, 28-44, 31-44, 32-46, 34-50, 70-102, 70-103, 117-176, 120-172, 122-166, 122-172, 124-168, 190-208, 191-204, 223-266, 223-267, 227-269, 228-391, 228-396, 404, 420-564。
【0062】
MARVELD3(MarvelD3、Marveld3、marveld3)
上皮細胞や内皮細胞の細胞間接着面はTight junction (TJ) と呼ばれ、claudin, occludin、tricellulin、そして marvelD3の4種類のタンパク質で構成される。そのうちoccludin、tricellulin、そして marvelD3は、marvel domainを有することからTJ-associated marvel protein (TAMP) familyと呼ばれる。これらTJタンパク質は、いずれもN末、C末ドメインを細胞内に有し、細胞外ループを2つ持つ4回膜タンパク質であると考えられている (Mol. Biol. Cell. 2010, 21, 1200-1213. doi:10.1091/mbc.E09-08-0734)。
marvelD3には、2つのアイソフォームが存在する (BMC Cell Biol. 2009, Dec 22; 10:95. doi: 10)。アイソフォーム1 [NP_001017967.2] (配列番号:3)は410アミノ酸を、アイソフォーム2 [NP_443090.4] (配列番号:4)は401アミノ酸をコードしている。TMPREDを用いたアミノ酸配列に基づく構造予測においても、marvelD3は他のTJタンパク質と同様にN末端、C末端が細胞内で、4つの膜貫通ドメインと2つの細胞外ループを持つタンパク質であると推測される(http://www.ch.embnet.org/software/TMPRED_form.html)。
また、2つのアイソフォームのアミノ酸配列を比較すると、N末側198アミノ酸は両者で共通であるが、それ以降のC末側配列は両アイソフォームで全く異なっている (BMC Cell Biol. 2009, Dec 22; 10:95. doi: 10)。培養細胞や各種臓器においてはアイソフォーム1、2とも遺伝子レベルでの発現が確認されているが、タンパク質レベルでの発現は解析されていない (BMC Cell Biol. 2009, Dec 22; 10:95. doi: 10)。さらに2つのアイソフォームの機能の違い等に関しても分かっていない。
内在性発現株、あるいは強制発現株いずれにおいてもmarvelD3はoccludinとともに細胞junctionに共局在することが確認されている(BMC Cell Biol. 2009, Dec 22; 10:95. doi: 10)。さらに細胞膜上でmarvelD3は、homophilicにシスで結合し、かつoccludin、tricellulinともheterophilicにシスで結合することが示されており、他のTAMPsとの相互作用によりTJ形成に関与していることが示されている(J Cell Sci 2013, 126: 554-564)。
癌におけるmarvelD3の役割については、未分化な膵臓癌細胞、およびsnailによってEMTを誘導した膵臓癌細胞で発現が低下するとの報告がある以外ほとんどわかっていない(Exp Cell Res. 2011, Oct 1; 317(16): 2288-98)。
各種トポロジー予測ソフト(PSORT II, UniProt, TMHMM, Tmpred, Phobius, PolyPhobius)による解析、および論文情報(Mol. Biol. Cell. 2010, 21, 1200-1213. doi:10.1091/mbc.E09-08-0734、BMC Cell Biol. 2009, Dec 22; 10:95. doi: 10)から、MARVELD3アイソフォーム1を認識するTRAB抗体のエピトープとして、以下のアミノ酸領域が考えられる:222-266, 223-269, 227-264, 227-268, 229-263, 231-265, 321-362, 322-357, 323-357, 324-357, 324-358。同様に、MARVELD3アイソフォーム2を認識するTRAB抗体のエピトープとして、以下のアミノ酸領域が考えられる:1-266, 1-270, 216-271, 222-269, 226-271, 227-268, 227-271, 248-271, 316-364, 322-360, 323-359, 324-360, 326-360, 327-360。なお、一部の予測ソフトの解析結果では、前述とは異なり3つの膜貫通ドメインを持つ結果となっている。
【0063】
SPINT2
SPINT2(Kunitz-type protease inhibitor 2)[NP_066925.1](配列番号:5)はserine proteaseを抑制する二つの細胞外Kunitzドメインを有する膜貫通タンパク質である(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_066925.1)。
【0064】
MANSC1
MANSC1(MANSC domain-containing protein 1)は[NP_060520.2](配列番号:7)で示すタンパク質である(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_060520.2)。
【0065】
SLC12A2
SLC12A2(solute carrier family 12 member 2)[NP_001037.1](配列番号:8)はナトリウムや塩化物の分泌や取り込みに関わる膜タンパク質であり、イオンバランスと細胞容積の制御に重要な役割を持つと言われている(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_001037.1)。
【0066】
CDCP1
CDCP1(CUB domain-containing protein 1)[NP_073753.3](配列番号:9)は3つの細胞外ドメインを有する膜貫通タンパク質であり、Srcファミリーキナーゼによってリン酸化されることが知られている(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_073753.3)。
【0067】
SEZ6L2
SEZ6L2(Seizure 6-like protein 2)[NP_963869.2](配列番号:12)は細胞膜に局在するタンパク質であり、神経細胞における小胞体機能に関連する可能性があると言われている(https://www.uniprot.org/uniprot/Q6UXD5;https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_963869.2)。
【0068】
FLVCR1
FLVCR1(Feline leukemia virus subgroup C receptor-related protein 1)[NP_054772.1](配列番号:13)はヘムトランスポーターの一種であり、赤血球の形成に重要な役割を果たすと考えられている(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_054772.1)。
【0069】
SLC7A5
SLC7A5(Solute carrier family 7 member 5)は[NP_003477.4](配列番号:14)で示すタンパク質であり、Large neutral amino acids transporter small subunit 1とも呼ばれる(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_003477.4)。
【0070】
STEAP1
STEAP1(Metalloreductase STEAP1)は[NP_036581.1](配列番号:15)で示すタンパク質であり、MetalloreductaseとしてFe3+をFe2+に還元する能力、及びCu2+をCu1+に還元する能力を有する(https://www.uniprot.org/uniprot/Q9UHE8;https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_036581.1)。
【0071】
MMP14
MMP14(Matrix metalloproteinase-14)は[NP_004986.1](配列番号:16)で示すタンパク質であり、細胞外マトリックス等を分解するエンドペプチダーゼ(endopeptidase)活性を有する(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_004986.1)。
【0072】
TNFRSF21
TNFRSF21(Tumor necrosis factor receptor superfamily member 21)は[NP_055267.1](配列番号:17)で示すタンパク質であり、nuclear factor kappa-Bやmitogen-activated protein kinase 8を活性化することによりアポトーシスを誘導すると考えられている。Death receptor 6 (DR6)とも呼ばれる(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_055267.1)。
【0073】
TMPRSS4
TMPRSS4(Transmembrane protease serine 4)は[NP_063947.1](配列番号:18)で示すタンパク質であり、セリンプロテアーゼの一種である可能性がある(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/NP_063947.1)。
【0074】
A.例示的抗体
一局面において、本開示はXPR1、NOX1、MARVELD3 isoform 1、MARVELD3 isoform 2、SPINT2、MANSC1、SLC12A2、CDCP1、SEZ6L2、FLVCR1、SLC7A5、STEAP1、MMP14、TNFRSF21、TMPRSS4のうちのいずれかの標的タンパク質に結合する、単離された抗体を提供する。特定の態様において、本開示の抗体は、前記標的タンパク質の細胞外ドメインに結合する。特定の態様において、本開示の抗体は、細胞傷害活性を有する。特定の態様において、本開示の抗体は、インターナライズ活性を有する。
【0075】
一局面において、本開示はXPR1に結合可能な抗体(XPR1結合抗体)を提供する。
特定の態様において、本開示のXPR1結合抗体は、配列番号:1で示されるXPR1アミノ酸配列における下記:
アミノ酸1番目から108番目、111番目から122番目、159番目から171番目、177番目から216番目、423番目から448番目、473番目から502番目、660番目から670番目、674番目から696番目、177番目から190番目、428番目から448番目、660番目から670番目、244番目、256番目から273番目、257番目から270番目、258番目から264番目、258番目から268番目、256番目から270番目、258番目から273番目、260番目から270番目、293番目から314番目、336番目から343番目、337番目から344番目、338番目から341番目、340番目から342番目、340番目から344番目、343番目から344番目、340番目から345番目、368番目から372番目、392番目から398番目、397番目から401番目、398番目から402番目、420番目から442番目、420番目から506番目、465番目から479番目、497番目から507番目、498番目から508番目、529番目から555番目、529番目から570番目、582番目から586番目、1番目から234番目、1番目から236番目、293番目から318番目、367番目から442番目、369番目から473番目、500番目から507番目、529番目から696番目、589番目から696番目のいずれかに示す配列をエピトープとする。
特定の態様において、本開示のXPR1結合抗体は以下(a1)から(a6)のいずれかである:
(a1) 配列番号:35のアミノ酸配列からなるHVR-H1、配列番号:36のアミノ酸配列からなるHVR-H2、配列番号:37のアミノ酸配列からなるHVR-H3、配列番号:38のアミノ酸配列からなるHVR-L1、配列番号:39のアミノ酸配列をからなるHVR-L2、および配列番号:40のアミノ酸配列からなるHVR-L3を含む抗体;
(a2) 配列番号:41のVH配列および配列番号:42のVL配列を含む抗体;
(a3) (a1)から(a2)のいずれか一つの抗体とXPR1中の同じエピトープに結合する抗体;
(a4) (a1)から(a2)のいずれか一つの抗体のXPR1への結合と競合する抗体;
(a5) 競合アッセイにおいて、(a1)から(a2)のいずれか一つの抗体のXPR1への結合を50%以上阻止する抗体;
(a6) 配列番号:41のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列および配列番号:42のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列を含む抗体。
【0076】
一局面において、本開示はNOX1に結合可能な抗体(NOX1結合抗体)を提供する。
特定の態様において、本開示のNOX1結合抗体は、
配列番号:2で示されるアミノ酸配列における下記:
アミノ酸44番目から54番目、131番目から161番目、242番目から258番目、1番目から4番目、1番目から11番目、18番目から55番目、28番目から44番目、31番目から44番目、32番目から46番目、34番目から50番目、70番目から102番目、70番目から103番目、117番目から176番目、120番目から172番目、122番目から166番目、122番目から172番目、124番目から168番目、190番目から208番目、191番目から204番目、223番目から266番目、223番目から267番目、227番目から269番目、228番目から391番目、228番目から396番目、404番目、420番目から564番目のいずれかに示す配列をエピトープとする。
特定の態様において、本開示のNOX1結合抗体は以下(b1)から(b9)のいずれかである:
(b1) 配列番号:67のアミノ酸配列からなるHVR-H1、配列番号:68のアミノ酸配列からなるHVR-H2、配列番号:69のアミノ酸配列からなるHVR-H3、配列番号:70のアミノ酸配列からなるHVR-L1、配列番号:71のアミノ酸配列をからなるHVR-L2、および配列番号:72のアミノ酸配列からなるHVR-L3を含む抗体;
(b2) 配列番号:75のアミノ酸配列からなるHVR-H1、配列番号:76のアミノ酸配列からなるHVR-H2、配列番号:77のアミノ酸配列からなるHVR-H3、配列番号:78のアミノ酸配列からなるHVR-L1、配列番号:79のアミノ酸配列をからなるHVR-L2、および配列番号:80のアミノ酸配列からなるHVR-L3を含む抗体;
(b3) 配列番号:73のVH配列および配列番号:74のVL配列を含む抗体;
(b4) 配列番号:81のVH配列および配列番号:82のVL配列を含む抗体;
(b5) (b1)から(b4)のいずれか一つの抗体とNOX1中の同じエピトープに結合する抗体;
(b6) (b1)から(b4)のいずれか一つの抗体のNOX1への結合と競合する抗体;
(b7) 競合アッセイにおいて、(b1)から(b4)のいずれか一つの抗体のNOX1への結合を50%以上阻止する抗体;
(b8) 配列番号:73のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列および配列番号:74のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列を含む抗体;
(b9) 配列番号:81のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列および配列番号:82のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列を含む抗体。
【0077】
一局面において、本開示はMARVELD3 isoform1に結合可能な抗体(MARVELD3 isoform1結合抗体)を提供する。
特定の態様において、本開示のMARVELD3 isoform1結合抗体は、配列番号:3で示されるアミノ酸配列における下記:
アミノ酸222番目から266番目、223番目から269番目、227番目から264番目、227番目から268番目、229番目から263番目、231番目から265番目、321番目から362番目、322番目から357番目、323番目から357番目、324番目から357番目、324番目から358番目のいずれかに示す配列をエピトープとする。
【0078】
一局面において、本開示はMARVELD3 isoform2に結合可能な抗体(MARVELD3 isoform2結合抗体)を提供する。
特定の態様において、本開示のMARVELD3 isoform2結合抗体は、配列番号:4で示されるアミノ酸配列における下記:
アミノ酸101番目から111番目、163番目から198番目、1番目から266番目、1番目から270番目、216番目から271番目、222番目から269番目、226番目から271番目、227番目から268番目、227番目から271番目、248番目から271番目、316番目から364番目、322番目から360番目、323番目から359番目、324番目から360番目、326番目から360番目、327番目から360番目のいずれかに示す配列をエピトープとする。
特定の態様において、本開示のMARVELD3 isoform2結合抗体は以下(c1)から(c9)のいずれかである:
(c1) 配列番号:43のアミノ酸配列からなるHVR-H1、配列番号:44のアミノ酸配列からなるHVR-H2、配列番号:45のアミノ酸配列からなるHVR-H3、配列番号:46のアミノ酸配列からなるHVR-L1、配列番号:47のアミノ酸配列をからなるHVR-L2、および配列番号:48のアミノ酸配列からなるHVR-L3を含む抗体;
(c2) 配列番号:51のアミノ酸配列からなるHVR-H1、配列番号:52のアミノ酸配列からなるHVR-H2、配列番号:53のアミノ酸配列からなるHVR-H3、配列番号:54のアミノ酸配列からなるHVR-L1、配列番号:55のアミノ酸配列をからなるHVR-L2、および配列番号:56のアミノ酸配列からなるHVR-L3を含む抗体;
(c3) 配列番号:49のVH配列および配列番号:50のVL配列を含む抗体;
(c4) 配列番号:57のVH配列および配列番号:58のVL配列を含む抗体;
(c5) (c1)から(c4)のいずれか一つの抗体とMARVELD3 isoform 1および/またはMARVELD3 isoform 2中の同じエピトープに結合する抗体;
(c6) (c1)から(c4)のいずれか一つの抗体のMARVELD3 isoform 1および/またはMARVELD3 isoform 2への結合と競合する抗体;
(c7) 競合アッセイにおいて、(c1)から(c4)のいずれか一つの抗体のMARVELD3 isoform 1および/またはMARVELD3 isoform 2への結合を50%以上阻止する抗体;
(c8) 配列番号:49のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列および配列番号:50のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列を含む抗体;
(c9) 配列番号:57のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列および配列番号:58のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列を含む抗体。
【0079】
本開示のさらなる局面において、上述の態様の任意のものによる抗標的タンパク質抗体は、キメラ、ヒト化、またはヒト抗体を含む、モノクローナル抗体である。一態様において、抗標的タンパク質抗体は、例えば、Fv、Fab、Fab’、scFv、ダイアボディ、またはF(ab’)2断片などの、抗体断片である。別の態様において、抗体は、例えば、全長IgG抗体や、本明細書で定義された他の抗体クラスまたはアイソタイプの、全長抗体である。
【0080】
さらなる局面において、上述の態様の任意のものによる抗標的タンパク質抗体は、単独または組み合わせで、以下の項目1~7に記載の任意の特徴を取り込んでもよい。
【0081】
1.抗体のアフィニティ
特定の態様において、本明細書で提供される抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nMまたは≦0.001nM(例えば、10-8M以下、例えば10-8M~10-13M、例えば10-9M~10-13M)の解離定数 (Kd) を有する。
【0082】
一態様において、Kdは、放射性標識抗原結合測定法 (radiolabeled antigen binding assay: RIA) によって測定される。一態様において、RIAは、目的の抗体のFabバージョンおよびその抗原を用いて実施される。例えば、抗原に対するFabの溶液中結合アフィニティは、非標識抗原の漸増量系列の存在下で最小濃度の (125I) 標識抗原によりFabを平衡化させ、次いで結合した抗原を抗Fab抗体でコーティングされたプレートにより捕捉することによって測定される。(例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881(1999) を参照のこと)。測定条件を構築するために、MICROTITER(登録商標)マルチウェルプレート (Thermo Scientific) を50mM炭酸ナトリウム (pH9.6) 中5μg/mlの捕捉用抗Fab抗体 (Cappel Labs) で一晩コーティングし、その後に室温(およそ23℃)で2~5時間、PBS中2% (w/v) ウシ血清アルブミンでブロックする。非吸着プレート (Nunc #269620) において、100 pMまたは26 pMの [125I]-抗原を、(例えば、Presta et al., Cancer Res. 57:4593-4599 (1997) における抗VEGF抗体、Fab-12の評価と同じように)目的のFabの段階希釈物と混合する。次いで、目的のFabを一晩インキュベートするが、このインキュベーションは、平衡が確実に達成されるよう、より長時間(例えば、約65時間)継続され得る。その後、混合物を、室温でのインキュベーション(例えば、1時間)のために捕捉プレートに移す。次いで溶液を除去し、プレートをPBS中0.1%のポリソルベート20(TWEEN-20(登録商標))で8回洗浄する。プレートが乾燥したら、150μl/ウェルのシンチラント(MICROSCINT-20(商標)、Packard)を添加し、TOPCOUNT(商標)ガンマカウンター (Packard) においてプレートを10分間カウントする。最大結合の20%以下を与える各Fabの濃度を、競合結合アッセイにおいて使用するために選択する。
【0083】
別の態様によれば、Kdは、BIACORE(登録商標)表面プラズモン共鳴アッセイを用いて測定される。例えば、BIACORE(登録商標)-2000またはBIACORE(登録商標)-3000 (BIAcore, Inc., Piscataway, NJ) を用いる測定法が、およそ10反応単位 (response unit: RU) の抗原が固定されたCM5チップを用いて25℃で実施される。一態様において、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ (CM5、BIACORE, Inc.) は、供給元の指示にしたがいN-エチル-N’- (3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミドヒドロクロリド (EDC) およびN-ヒドロキシスクシンイミド (NHS) を用いて活性化される。抗原は、およそ10反応単位 (RU) のタンパク質の結合を達成するよう、5μl/分の流速で注入される前に、10mM酢酸ナトリウム、pH4.8を用いて5μg/ml(およそ0.2μM)に希釈される。抗原の注入後、未反応基をブロックするために1Mエタノールアミンが注入される。キネティクスの測定のために、25℃、およそ25μl/分の流速で、0.05%ポリソルベート20(TWEEN-20(商標))界面活性剤含有PBS (PBST) 中のFabの2倍段階希釈物 (0.78nM~500nM) が注入される。結合速度 (kon) および解離速度 (koff) は、単純な1対1ラングミュア結合モデル(BIACORE(登録商標)評価ソフトウェアバージョン3.2)を用いて、結合および解離のセンサーグラムを同時にフィッティングすることによって計算される。平衡解離定数 (Kd) は、koff/kon比として計算される。例えば、Chen et al., J. Mol. Biol. 293:865-881 (1999) を参照のこと。上記の表面プラズモン共鳴アッセイによってオン速度が106M-1s-1を超える場合、オン速度は、分光計(例えばストップフロー式分光光度計 (Aviv Instruments) または撹拌キュベットを用いる8000シリーズのSLM-AMINCO(商標)分光光度計 (ThermoSpectronic))において測定される、漸増濃度の抗原の存在下でのPBS、pH7.2中20nMの抗抗原抗体(Fab形態)の25℃での蛍光発光強度(励起=295nm;発光=340nm、バンドパス16nm)の増加または減少を測定する蛍光消光技術を用いることによって決定され得る。
【0084】
2.抗体断片
特定の態様において、本明細書で提供される抗体は、抗体断片である。抗体断片は、これらに限定されるものではないが、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、Fv、および scFv断片、ならびに、後述する他の断片を含む。特定の抗体断片についての総説として、Hudson et al. Nat. Med. 9:129-134 (2003) を参照のこと。scFv断片の総説として、例えば、Pluckthun, in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., (Springer-Verlag, New York), pp.269-315 (1994);加えて、WO93/16185;ならびに米国特許第5,571,894号および第5,587,458号を参照のこと。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含みインビボ (in vivo) における半減期の長くなったFabおよびF(ab')2断片についての論説として、米国特許第5,869,046号を参照のこと。
【0085】
ダイアボディは、二価または二重特異的であってよい、抗原結合部位を2つ伴う抗体断片である。例えば、EP404,097号; WO1993/01161; Hudson et al., Nat. Med. 9:129-134 (2003); Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-6448 (1993) 参照。トリアボディ (triabody) やテトラボディ (tetrabody) も、Hudson et al., Nat. Med. 9:129-134 (2003) に記載されている。
【0086】
シングルドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインのすべてもしくは一部分、または軽鎖可変ドメインのすべてもしくは一部分を含む、抗体断片である。特定の態様において、シングルドメイン抗体は、ヒトシングルドメイン抗体である(Domantis, Inc., Waltham, MA;例えば、米国特許第6,248,516号B1参照)。
【0087】
抗体断片は、これらに限定されるものではないが、本明細書に記載の、完全抗体のタンパク質分解的消化、組み換え宿主細胞(例えば、大腸菌 (E. coli) またはファージ)による産生を含む、種々の手法により作ることができる。
【0088】
3.キメラおよびヒト化抗体
特定の態様において、本明細書で提供される抗体は、キメラ抗体である。特定のキメラ抗体が、例えば、米国特許第4,816,567号;および、Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855 (1984) に記載されている。一例では、キメラ抗体は、非ヒト可変領域(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、またはサルなどの非ヒト霊長類に由来する可変領域)およびヒト定常領域を含む。さらなる例において、キメラ抗体は、親抗体のものからクラスまたはサブクラスが変更された「クラススイッチ」抗体である。キメラ抗体は、その抗原結合断片も含む。
【0089】
特定の態様において、キメラ抗体は、ヒト化抗体である。典型的には、非ヒト抗体は、親非ヒト抗体の特異性およびアフィニティを維持したままでヒトへの免疫原性を減少させるために、ヒト化される。通常、ヒト化抗体は1つまたは複数の可変ドメインを含み、当該可変ドメイン中、HVR(例えばCDR(またはその部分))は非ヒト抗体に由来し、FR(またはその部分)はヒト抗体配列に由来する。ヒト化抗体は、任意で、ヒト定常領域の少なくとも一部分を含む。いくつかの態様において、ヒト化抗体中のいくつかのFR残基は、例えば、抗体の特異性またはアフィニティを回復または改善するために、非ヒト抗体(例えば、HVR残基の由来となった抗体)からの対応する残基で置換されている。
【0090】
ヒト化抗体およびその作製方法は、Almagro and Fransson, Front. Biosci. 13:1619-1633 (2008)において総説されており、また、例えば、Riechmann et al., Nature 332:323-329 (1988); Queen et al., Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 86:10029-10033 (1989); 米国特許第5,821,337号、第7,527,791号、第6,982,321号、および第7,087,409号;Kashmiri et al., Methods 36:25-34 (2005)(特異性決定領域 (specificity determining region: SDR) グラフティングを記載);Padlan, Mol. Immunol. 28:489-498 (1991) (リサーフェイシングを記載); Dall’Acqua et al., Methods 36:43-60 (2005) (FRシャッフリングを記載);ならびに、Osbourn et al., Methods 36:61-68 (2005) およびKlimka et al., Br. J. Cancer, 83:252-260 (2000) (FRシャッフリングのための「ガイドセレクション」アプローチを記載) において、さらに記載されている。
【0091】
ヒト化に使われ得るヒトフレームワーク領域は、これらに限定されるものではないが:「ベストフィット」法(Sims et al. J. Immunol. 151:2296 (1993) 参照)を用いて選択されたフレームワーク領域;軽鎖または重鎖可変領域の特定のサブグループのヒト抗体のコンセンサス配列に由来するフレームワーク領域(Carter et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992) および Presta et al. J. Immunol., 151:2623 (1993) 参照);ヒト成熟(体細胞変異)フレームワーク領域またはヒト生殖細胞系フレームワーク領域(例えば、Almagro and Fransson, Front. Biosci. 13:1619-1633 (2008) 参照);および、FRライブラリのスクリーニングに由来するフレームワーク領域(Baca et al., J. Biol. Chem. 272:10678-10684 (1997) および Rosok et al., J. Biol. Chem. 271:22611-22618 (1996) 参照)を含む。
【0092】
4.ヒト抗体
特定の態様において、本明細書で提供される抗体は、ヒト抗体である。ヒト抗体は、当該技術分野において知られる種々の手法によって製造され得る。ヒト抗体は、van Dijk and van de Winkel, Curr. Opin. Pharmacol. 5: 368-74 (2001) および Lonberg, Curr. Opin. Immunol. 20:450-459 (2008) に、概説されている。
【0093】
ヒト抗体は、抗原チャレンジ(負荷)に応答して完全ヒト抗体またはヒト可変領域を伴う完全抗体を産生するように改変されたトランスジェニック動物へ免疫原を投与することにより、調製されてもよい。そのような動物は、典型的にはヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部もしくは一部分を含み、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部もしくは一部分は、内因性の免疫グロブリン遺伝子座を置き換えるか、または、染色体外にもしくは当該動物の染色体内にランダムに取り込まれた状態で存在する。そのようなトランスジェニックマウスにおいて、内因性の免疫グロブリン遺伝子座は、通常不活性化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を得る方法の総説として、Lonberg, Nat. Biotech. 23:1117-1125 (2005) を参照のこと。また、例えば、XENOMOUSE(商標)技術を記載した米国特許第6,075,181号および第6,150,584号;HUMAB(登録商標)技術を記載した米国特許第5,770,429号;K-M MOUSE(登録商標)技術を記載した米国特許第7,041,870号;ならびに、VELOCIMOUSE(登録商標)技術を記載した米国特許出願公開第2007/0061900号を、併せて参照のこと。このような動物によって生成された完全抗体からのヒト可変領域は、例えば、異なるヒト定常領域と組み合わせるなどして、さらに修飾されてもよい。
【0094】
ヒト抗体は、ハイブリドーマに基づいた方法でも作ることができる。ヒトモノクローナル抗体の製造のための、ヒトミエローマおよびマウス‐ヒトヘテロミエローマ細胞株は、既に記述されている。(例えば、Kozbor J. Immunol., 133: 3001 (1984);Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp.51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987);およびBoerner et al., J. Immunol., 147: 86 (1991) 参照。)ヒトB細胞ハイブリドーマ技術を介して生成されたヒト抗体も、Li et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:3557-3562 (2006) に述べられている。追加的な方法としては、例えば、米国特許第7,189,826号(ハイブリドーマ細胞株からのモノクローナルヒトIgM抗体の製造を記載)、および、Ni, Xiandai Mianyixue, 26(4):265-268 (2006)(ヒト-ヒトハイブリドーマを記載)に記載されたものを含む。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)も、Vollmers and Brandlein, Histology and Histopathology, 20(3):927-937 (2005) およびVollmers and Brandlein, Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology, 27(3):185-91 (2005)に記載されている。
【0095】
ヒト抗体は、ヒト由来ファージディスプレイライブラリから選択されたFvクローン可変ドメイン配列を単離することでも生成できる。このような可変ドメイン配列は、次に所望のヒト定常ドメインと組み合わせることができる。抗体ライブラリからヒト抗体を選択する手法を、以下に述べる。
【0096】
5.ライブラリ由来抗体
本開示の抗体は、所望の1つまたは複数の活性を伴う抗体についてコンビナトリアルライブラリをスクリーニングすることによって単離してもよい。例えば、ファージディスプレイライブラリの生成や、所望の結合特性を備える抗体についてそのようなライブラリをスクリーニングするための、様々な方法が当該技術分野において知られている。そのような方法は、Hoogenboom et al. in Methods in Molecular Biology 178:1-37 (O'Brien et al., ed., Human Press, Totowa, NJ, 2001) において総説されており、さらに例えば、McCafferty et al., Nature 348:552-554;Clackson et al., Nature 352: 624-628 (1991); Marks et al., J. Mol. Biol. 222: 581-597 (1992); Marks and Bradbury, in Methods in Molecular Biology 248:161-175 (Lo, ed., Human Press, Totowa, NJ, 2003); Sidhu et al., J. Mol. Biol. 338(2): 299-310 (2004); Lee et al., J. Mol. Biol. 340(5): 1073-1093 (2004); Fellouse, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101(34):12467-12472 (2004);およびLee et al., J. Immunol. Methods 284(1-2): 119-132(2004) に記載されている。
【0097】
特定のファージディスプレイ法において、VHおよびVL遺伝子のレパートリーは、ポリメラーゼ連鎖反応 (polymerase chain reaction: PCR) により別々にクローニングされ、無作為にファージライブラリ中で再結合され、当該ファージライブラリは、Winter et al., Ann. Rev. Immunol., 12: 433-455 (1994) に述べられているようにして、抗原結合ファージについてスクリーニングされ得る。ファージは、典型的には、単鎖Fv (scFv) 断片としてまたはFab断片としてのいずれかで、抗体断片を提示する。免疫化された供給源からのライブラリは、ハイブリドーマを構築することを要さずに、免疫源に対する高アフィニティ抗体を提供する。あるいは、Griffiths et al., EMBO J, 12: 725-734 (1993) に記載されるように、ナイーブレパートリーを(例えば、ヒトから)クローニングして、免疫化することなしに、広範な非自己および自己抗原への抗体の単一の供給源を提供することもできる。最後に、ナイーブライブラリは、Hoogenboom and Winter, J. Mol. Biol., 227: 381-388 (1992) に記載されるように、幹細胞から再編成前のV-遺伝子セグメントをクローニングし、超可変CDR3領域をコードしかつインビトロ (in vitro) で再構成を達成するための無作為配列を含んだPCRプライマーを用いることにより、合成的に作ることもできる。ヒト抗体ファージライブラリを記載した特許文献は、例えば:米国特許第5,750,373号、ならびに、米国特許出願公開第2005/0079574号、2005/0119455号、第2005/0266000号、第2007/0117126号、第2007/0160598号、第2007/0237764号、第2007/0292936号、および第2009/0002360号を含む。
【0098】
ヒト抗体ライブラリから単離された抗体または抗体断片は、本明細書ではヒト抗体またはヒト抗体断片と見なす。
【0099】
6.多重特異性抗体
特定の態様において、本明細書で提供される抗体は、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)である。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる部位に結合特異性を有する、モノクローナル抗体である。特定の態様において、結合特異性の1つは、標的タンパク質に対するものであり、もう1つは他の任意の抗原へのものである。特定の態様において、二重特異性抗体は、標的タンパク質の異なった2つのエピトープに結合してもよい。二重特異性抗体は、標的タンパク質を発現する細胞に細胞傷害剤を局在化するために使用されてもよい。二重特異性抗体は、全長抗体としてまたは抗体断片として調製され得る。
【0100】
特定の態様において、本明細書で提供される多重特異性抗体は、T細胞リダイレクト抗体(T cell redirecting antibody:TRAB)である。そのような抗体は、2種類以上の本開示の標的タンパク質、すなわち、癌細胞に特異的に高発現しているタンパク質、およびT細胞に発現しているタンパク質と相互作用するため、細胞傷害活性をもつT細胞と癌細胞をクロスリンクすることで抗腫瘍活性を高める作用がある。
【0101】
T細胞に発現しているタンパク質(CD3εやTCR)と癌細胞に発現しているタンパク質(癌抗原)を認識する二重特異性抗体として、BiTE分子であるブリナツモマブ(blinatumomab)やカツマキソマブ(Catumaxomab)が知られている。これらの分子は、2つの抗原結合ドメイン(scFvあるいはFab)によりそれぞれ癌抗原とT細胞に発現しているCD3ε鎖に結合し、T細胞と癌抗原発現細胞を細胞間架橋することができる。これにより、このようなT細胞リダイレクト抗体は、T細胞をエフェクター細胞として癌抗原発現細胞に対して強い細胞傷害活性を誘導することが可能である。
【0102】
特定の態様において、本開示の多重特異性抗体は、本開示の標的タンパク質に対する結合ドメインと、T細胞受容体複合体結合ドメインを含み、任意でT細胞依存的細胞傷害活性を有する。そのような本開示の多重特異性抗体は、T細胞を本開示の標的タンパク質を細胞表面に発現する細胞にリダイレクトし、当該細胞に対してT細胞による細胞傷害活性を誘導することが可能である。特定の態様において、本開示の多重特異性抗体は、Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域を含み、任意でIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のFc領域より低いFcγ受容体結合活性を有するFc領域を含む。特定の態様において、本開示の多重特異性抗体は、本開示の標的タンパク質に対する結合ドメインを一つ含む。本開示の多重特異性抗体に含まれるT細胞受容体複合体結合ドメインは、一態様ではT細胞受容体に対する結合活性を有するT細胞受容体結合ドメインであり、別の態様ではCD3に対する結合活性を有するCD3結合ドメインである。特定の態様において、本開示の多重特異性抗体に含まれるCD3結合ドメインは、CD3ε鎖に結合可能であり、任意で抗体重鎖可変領域と抗体軽鎖可変領域を含むドメインである。
【0103】
特定の態様において、本開示の多重特異性抗体に含まれるCD3結合ドメインは、以下(d1)から(d6)のいずれかである:
(d1) 配列番号:59のアミノ酸配列からなるHVR-H1、配列番号:60のアミノ酸配列からなるHVR-H2、配列番号:61のアミノ酸配列からなるHVR-H3、配列番号:62のアミノ酸配列からなるHVR-L1、配列番号:63のアミノ酸配列をからなるHVR-L2、および配列番号:64のアミノ酸配列からなるHVR-L3を有する抗体可変領域を含むドメイン;
(d2) 配列番号:65のVH配列および配列番号:66のVL配列を有する抗体可変領域を含むドメイン;
(d3) (d1)から(d2)のいずれか一つの抗体可変領域とCD3中の同じエピトープに結合する抗体可変領域を含むドメイン;
(d4) (d1)から(d2)のいずれか一つの抗体可変領域のCD3への結合と競合する抗体可変領域を含むドメイン;
(d5) 競合アッセイにおいて、(d1)から(d2)のいずれか一つの抗体可変領域のCD3への結合を50%以上阻止する抗体可変領域を含むドメイン;
(d6) 配列番号:65のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVH配列および配列番号:66のアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有するVL配列を有する抗体可変領域を含むドメイン。
【0104】
多重特異性抗体を作製するための手法は、これらに限定されるものではないが、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖ペアの組み換え共発現(Milstein and Cuello, Nature 305: 537 (1983)、WO93/08829、およびTraunecker et al., EMBO J. 10: 3655 (1991) 参照)、およびknob-in-hole技術(例えば、米国特許第5,731,168号参照)を含む。多重特異性抗体は、Fcヘテロ二量体分子を作製するために静電ステアリング効果 (electrostatic steering effects) を操作すること (WO2009/089004A1);2つ以上の抗体または断片を架橋すること(米国特許第4,676,980号およびBrennan et al., Science, 229: 81 (1985)参照);ロイシンジッパーを用いて2つの特異性を有する抗体を作成すること(Kostelny et al., J. Immunol., 148(5):1547-1553 (1992) 参照);「ダイアボディ」技術を用いて二重特異性抗体断片を作製すること(Hollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993) 参照);および、単鎖Fv (scFv) 二量体を用いること(Gruber et al., J. Immunol., 152:5368 (1994) 参照);および、例えばTutt et al. J. Immunol. 147: 60 (1991) に記載されるように三重特異性抗体を調製すること、によって作製してもよい。
【0105】
「オクトパス抗体」を含む、3つ以上の機能的抗原結合部位を伴う改変抗体も、本明細書では含まれる(例えば、米国特許出願公開第2006/0025576号A1参照)。
【0106】
本明細書で抗体または断片は、標的タンパク質と別の異なる抗原とに結合する1つの抗原結合部位を含む、「デュアルアクティングFab」または「DAF」も含む(例えば、米国特許出願公開第2008/0069820号参照)。
【0107】
7.抗体変異体
特定の態様において、本明細書で提供される抗体のアミノ酸配列変異体も、考慮の内である。例えば、抗体の結合アフィニティおよび/または他の生物学的特性を改善することが、望ましいこともある。抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体をコードするヌクレオチド配列に適切な修飾を導入すること、または、ペプチド合成によって、調製されてもよい。そのような修飾は、例えば、抗体のアミノ酸配列からの欠失、および/または抗体のアミノ酸配列中への挿入、および/または抗体のアミノ酸配列中の残基の置換を含む。最終構築物が所望の特徴(例えば、抗原結合性)を備えることを前提に、欠失、挿入、および置換の任意の組合せが、最終構築物に至るために行われ得る。
【0108】
a)置換、挿入、および欠失変異体
特定の態様において、1つまたは複数のアミノ酸置換を有する抗体変異体が提供される。置換的変異導入の目的部位は、HVRおよびFRを含む。保存的置換を、表1の「好ましい置換」の見出しの下に示す。より実質的な変更を、表1の「例示的な置換」の見出しの下に提供するとともに、アミノ酸側鎖のクラスに言及しつつ下で詳述する。アミノ酸置換は目的の抗体に導入されてもよく、産物は、例えば、保持/改善された抗原結合性、減少した免疫原性、または改善したADCCまたはCDCなどの、所望の活性についてスクリーニングされてもよい。
【0109】
【表1】
【0110】
アミノ酸は、共通の側鎖特性によって群に分けることができる:
(1) 疎水性:ノルロイシン、メチオニン (Met)、アラニン (Ala)、バリン (Val)、ロイシン (Leu)、イソロイシン (Ile);
(2) 中性の親水性:システイン (Cys)、セリン (Ser)、トレオニン (Thr)、アスパラギン (Asn)、グルタミン (Gln);
(3) 酸性:アスパラギン酸 (Asp)、グルタミン酸 (Glu);
(4) 塩基性:ヒスチジン (His)、リジン (Lys)、アルギニン (Arg);
(5) 鎖配向に影響する残基:グリシン (Gly)、プロリン (Pro);
(6) 芳香族性:トリプトファン (Trp)、チロシン (Tyr)、フェニルアラニン (Phe)。
非保存的置換は、これらのクラスの1つのメンバーを、別のクラスのものに交換することをいう。
【0111】
置換変異体の1つのタイプは、親抗体(例えば、ヒト化またはヒト抗体)の1つまたは複数の超可変領域残基の置換を含む。通常、その結果として生じ、さらなる研究のために選ばれた変異体は、親抗体と比較して特定の生物学的特性における修飾(例えば、改善)(例えば、増加したアフィニティ、減少した免疫原性)を有する、および/または親抗体の特定の生物学的特性を実質的に保持しているであろう。例示的な置換変異体は、アフィニティ成熟抗体であり、これは、例えばファージディスプレイベースのアフィニティ成熟技術(例えば本明細書に記載されるもの)を用いて適宜作製され得る。簡潔に説明すると、1つまたは複数のHVR残基を変異させ、そして変異抗体をファージ上に提示させ、特定の生物学的活性(例えば、結合アフィニティ)に関してスクリーニングを行う。
【0112】
改変(例えば、置換)は、例えば抗体のアフィニティを改善するために、HVRにおいて行われ得る。そのような改変は、HVRの「ホットスポット」、すなわち、体細胞成熟プロセスの間に高頻度で変異が起こるコドンによってコードされる残基(例えば、Chowdhury, Methods Mol. Biol. 207:179-196 (2008) を参照のこと)および/または抗原に接触する残基において行われ得、得られた変異VHまたはVLが結合アフィニティに関して試験され得る。二次ライブラリからの構築および再選択によるアフィニティ成熟が、例えば、Hoogenboom et al. in Methods in Molecular Biology 178:1-37 (O’Brien et al., ed., Human Press, Totowa, NJ, (2001)) に記載されている。アフィニティ成熟のいくつかの態様において、多様性は、任意の様々な方法(例えば、エラープローンPCR、チェーンシャッフリングまたはオリゴヌクレオチド指向変異導入)によって成熟のために選択された可変遺伝子に導入される。次いで、二次ライブラリが作製される。次いで、このライブラリは、所望のアフィニティを有する任意の抗体変異体を同定するためにスクリーニングされる。多様性を導入する別の方法は、いくつかのHVR残基(例えば、一度に4~6残基)を無作為化するHVR指向アプローチを含む。抗原結合に関与するHVR残基は、例えばアラニンスキャニング変異導入またはモデリングを用いて、具体的に特定され得る。特に、CDR-H3およびCDR-L3がしばしば標的化される。
【0113】
特定の態様において、置換、挿入、または欠失は、そのような改変が抗原に結合する抗体の能力を実質的に減少させない限り、1つまたは複数のHVR内で行われ得る。例えば、結合アフィニティを実質的に減少させない保存的改変(例えば、本明細書で提供されるような保存的置換)が、HVRにおいて行われ得る。そのような改変は、例えば、HVRの抗原接触残基の外側であり得る。上記の変異VHおよびVL配列の特定の態様において、各HVRは改変されていないか、わずか1つ、2つ、もしくは3つのアミノ酸置換を含む。
【0114】
変異導入のために標的化され得る抗体の残基または領域を同定するのに有用な方法は、Cunningham and Wells (1989) Science, 244:1081-1085によって記載される、「アラニンスキャニング変異導入」と呼ばれるものである。この方法において、一残基または一群の標的残基(例えば、荷電残基、例えばアルギニン、アスパラギン酸、ヒスチジン、リジン、およびグルタミン酸)が同定され、中性または負に荷電したアミノ酸(例えば、アラニンもしくはポリアラニン)で置き換えられ、抗体と抗原の相互作用が影響を受けるかどうかが決定される。この初期置換に対して機能的感受性を示したアミノ酸位置に、さらなる置換が導入され得る。あるいはまたは加えて、抗体と抗原の間の接触点を同定するために、抗原抗体複合体の結晶構造を解析してもよい。そのような接触残基および近隣の残基を、置換候補として標的化してもよく、または置換候補から除外してもよい。変異体は、それらが所望の特性を含むかどうかを決定するためにスクリーニングされ得る。
【0115】
アミノ酸配列の挿入は、配列内部への単一または複数のアミノ酸残基の挿入と同様、アミノ末端および/またはカルボキシル末端における1残基から100残基以上を含むポリペプチドの長さの範囲での融合も含む。末端の挿入の例は、N末端にメチオニル残基を伴う抗体を含む。抗体分子の他の挿入変異体は、抗体のN-またはC-末端に、酵素(例えば、ADEPTのための)または抗体の血漿半減期を増加させるポリペプチドを融合させたものを含む。
【0116】
b)グリコシル化変異体
特定の態様において、本明細書で提供される抗体は、抗体がグリコシル化される程度を増加させるまたは減少させるように改変されている。抗体へのグリコシル化部位の追加または削除は、1つまたは複数のグリコシル化部位を作り出すまたは取り除くようにアミノ酸配列を改変することにより、簡便に達成可能である。
【0117】
抗体がFc領域を含む場合、そこに付加される炭水化物が改変されてもよい。哺乳動物細胞によって産生される天然型抗体は、典型的には、枝分かれした二分岐のオリゴ糖を含み、当該オリゴ糖は通常Fc領域のCH2ドメインのAsn297にN-リンケージによって付加されている。例えば、Wright et al. TIBTECH 15:26-32 (1997) 参照。オリゴ糖は、例えば、マンノース、N‐アセチルグルコサミン (GlcNAc)、ガラクトース、およびシアル酸などの種々の炭水化物、また、二分岐のオリゴ糖構造の「幹」中のGlcNAcに付加されたフコースを含む。いくつかの態様において、本開示の抗体中のオリゴ糖の修飾は、特定の改善された特性を伴う抗体変異体を作り出すために行われてもよい。
【0118】
一態様において、Fc領域に(直接的または間接的に)付加されたフコースを欠く炭水化物構造体を有する抗体変異体が提供される。例えば、そのような抗体におけるフコースの量は、1%~80%、1%~65%、5%~65%または20%~40%であり得る。フコースの量は、例えばWO2008/077546に記載されるようにMALDI-TOF質量分析によって測定される、Asn297に付加されたすべての糖構造体(例えば、複合、ハイブリッド、および高マンノース構造体)の和に対する、Asn297における糖鎖内のフコースの平均量を計算することによって決定される。Asn297は、Fc領域の297位のあたりに位置するアスパラギン残基を表す(Fc領域残基のEUナンバリング)。しかし、複数の抗体間のわずかな配列の多様性に起因して、Asn297は、297位の±3アミノ酸上流または下流、すなわち294位~300位の間に位置することもあり得る。そのようなフコシル化変異体は、改善されたADCC機能を有し得る。例えば、米国特許出願公開第2003/0157108号 (Presta, L.) ;第2004/0093621号 (Kyowa Hakko Kogyo Co., Ltd) を参照のこと。「脱フコシル化」または「フコース欠損」抗体変異体に関する刊行物の例は、US2003/0157108; WO2000/61739; WO2001/29246; US2003/0115614; US2002/0164328; US2004/0093621; US2004/0132140; US2004/0110704; US2004/0110282; US2004/0109865; WO2003/085119; WO2003/084570; WO2005/035586; WO2005/035778; WO2005/053742; WO2002/031140; Okazaki et al. J. Mol. Biol. 336:1239-1249 (2004); Yamane-Ohnuki et al. Biotech. Bioeng. 87: 614 (2004) を含む。脱フコシル化抗体を産生することができる細胞株の例は、タンパク質のフコシル化を欠くLec13 CHO細胞(Ripka et al. Arch. Biochem. Biophys. 249:533-545 (1986);米国特許出願公開第US2003/0157108号A1、Presta, L;およびWO2004/056312A1、Adams et al.、特に実施例11)およびノックアウト細胞株、例えばアルファ-1,6-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子FUT8ノックアウトCHO細胞(例えば、Yamane-Ohnuki et al. Biotech. Bioeng. 87: 614 (2004);Kanda, Y. et al., Biotechnol. Bioeng., 94(4):680-688 (2006);およびWO2003/085107を参照のこと)を含む。
【0119】
例えば抗体のFc領域に付加された二分枝型オリゴ糖がGlcNAcによって二分されている、二分されたオリゴ糖を有する抗体変異体がさらに提供される。そのような抗体変異体は、減少したフコシル化および/または改善されたADCC機能を有し得る。そのような抗体変異体の例は、例えば、WO2003/011878 (Jean-Mairet et al.) ;米国特許第6,602,684号 (Umana et al.);およびUS2005/0123546 (Umana et al.) に記載されている。Fc領域に付加されたオリゴ糖中に少なくとも1つのガラクトース残基を有する抗体変異体も提供される。そのような抗体変異体は、改善されたCDC機能を有し得る。そのような抗体変異体は、例えば、WO1997/30087 (Patel et al.);WO1998/58964 (Raju, S.); およびWO1999/22764 (Raju, S.) に記載されている。
【0120】
c)Fc領域変異体
特定の態様において、本明細書で提供される抗体のFc領域に1つまたは複数のアミノ酸修飾を導入して、それによりFc領域変異体を生成してもよい。Fc領域変異体は、1つまたは複数のアミノ酸ポジションのところでアミノ酸修飾(例えば、置換)を含む、ヒトFc領域配列(例えば、配列番号:6、19、20、21のそれぞれで示すヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のFc領域)を含んでもよい。
【0121】
特定の態様において、すべてではないがいくつかのエフェクター機能を備える抗体変異体も、本開示の考慮の内であり、当該エフェクター機能は、抗体を、そのインビボでの半減期が重要であるが、特定のエフェクター機能(補体およびADCCなど)は不要または有害である場合の適用に望ましい候補とするものである。CDCおよび/またはADCC活性の減少/欠乏を確認するために、インビトロ および/またはインビボ の細胞傷害測定を行うことができる。例えば、Fc受容体(FcR)結合測定は、抗体がFcγR結合性を欠く(よってADCC活性を欠く蓋然性が高い)一方でFcRn結合能を維持することを確かめるために行われ得る。ADCCを媒介するプライマリ細胞であるNK細胞はFcγRIIIのみを発現するが、一方単球はFcγRI、FcγRII、FcγRIIIを発現する。造血細胞上のFcRの発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol. 9:457-492 (1991) の第464頁のTable 3にまとめられている。目的の分子のADCC活性を評価するためのインビトロ測定法(アッセイ)の非限定的な例は、米国特許第5,500,362号(例えば、 Hellstrom, I. et al. Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 83:7059-7063 (1986) 参照)および Hellstrom, I et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 82:1499-1502 (1985);米国特許第5,821,337号(Bruggemann, M. et al., J. Exp. Med. 166:1351-1361 (1987) 参照)に記載されている。あるいは、非放射性の測定法を用いてもよい(例えば、ACT1(商標)non-radioactive cytotoxicity assay for flow cytometry (CellTechnology, Inc. Mountain View, CA);および、CytoTox 96(登録商標)non-radioactive cytotoxicity assays 法 (Promega, Madison, WI) 参照)。このような測定法に有用なエフェクター細胞は、末梢血単核細胞 (peripheral blood mononuclear cell: PBMC) およびナチュラルキラー (natural killer: NK) 細胞を含む。あるいはまたは加えて、目的の分子のADCC活性は、例えば、Clynes et al. Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 95:652-656 (1998) に記載されるような動物モデルにおいて、インビボで評価されてもよい。また、抗体がC1qに結合できないこと、よってCDC活性を欠くことを確認するために、C1q結合測定を行ってもよい。例えば、WO2006/029879 および WO2005/100402のC1qおよびC3c結合ELISAを参照のこと。また、補体活性化を評価するために、CDC測定を行ってもよい(例えば、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202:163 (1996);Cragg, M.S. et al., Blood 101:1045-1052 (2003);およびCragg, M.S. and M.J. Glennie, Blood 103:2738-2743 (2004) 参照)。さらに、FcRn結合性およびインビボでのクリアランス/半減期の決定も、当該技術分野において知られた方法を用いて行い得る(例えばPetkova, S.B. et al., Int'l. Immunol. 18(12):1759-1769 (2006) 参照)。
【0122】
減少したエフェクター機能を伴う抗体は、Fc領域残基238、265、269、270、297、327、および329の1つまたは複数の置換を伴うものを含む(米国特許第6,737,056号)。このようなFc変異体は、残基265および297のアラニンへの置換を伴ういわゆる「DANA」Fc変異体(米国特許第7,332,581号)を含む、アミノ酸ポジション265、269、270、297、および327の2つ以上の置換を伴うFc変異体を含む。
【0123】
FcRsへの増加または減少した結合性を伴う特定の抗体変異体が、記述されている。(米国特許第6,737,056号;WO2004/056312、およびShields et al., J. Biol. Chem. 9(2): 6591-6604 (2001) を参照のこと。)
【0124】
特定の態様において、抗体変異体は、ADCCを改善する1つまたは複数のアミノ酸置換(例えば、Fc領域のポジション298、333、および/または334(EUナンバリングでの残基)のところでの置換)を伴うFc領域を含む。
【0125】
いくつかの態様において、例えば米国特許第6,194,551号、WO99/51642、およびIdusogie et al. J. Immunol. 164: 4178-4184 (2000) に記載されるように、改変された(つまり、増加したか減少したかのいずれかである)C1q結合性および/または補体依存性細胞傷害 (CDC) をもたらす改変が、Fc領域においてなされる。
【0126】
増加した半減期、および新生児型Fc受容体(FcRn:母体のIgG類を胎児に移行させる役割を負う(Guyer et al., J. Immunol. 117:587 (1976) and Kim et al., J. Immunol. 24:249 (1994)))に対する増加した結合性を伴う抗体が、米国特許出願公開第2005/0014934号A1(Hinton et al.) に記載されている。これらの抗体は、Fc領域のFcRnへの結合性を増加する1つまたは複数の置換をその中に伴うFc領域を含む。このようなFc変異体は、Fc領域残基:238、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424、または434の1つまたは複数のところでの置換(例えば、Fc領域残基434の置換(米国特許第7,371,826号))を伴うものを含む。
【0127】
Fc領域変異体の他の例については、Duncan & Winter, Nature 322:738-40 (1988);米国特許第5,648,260号;米国特許第5,624,821号;およびWO94/29351も参照のこと。
【0128】
d)システイン改変抗体変異体
特定の態様において、抗体の1つまたは複数の残基がシステイン残基で置換された、システイン改変抗体(例えば、「thioMAbs」)を作り出すことが望ましいだろう。特定の態様において、置換を受ける残基は、抗体の、アクセス可能な部位に生じる。それらの残基をシステインで置換することによって、反応性のチオール基が抗体のアクセス可能な部位に配置され、当該反応性のチオール基は、当該抗体を他の部分(薬剤部分またはリンカー‐薬剤部分など)にコンジュゲートして本明細書でさらに詳述するようにイムノコンジュゲートを作り出すのに使用されてもよい。特定の態様において、以下の残基の任意の1つまたは複数が、システインに置換されてよい:軽鎖のV205(Kabatナンバリング);重鎖のA118(EUナンバリング);および重鎖Fc領域のS400(EUナンバリング)。システイン改変抗体は、例えば、米国特許第7,521,541号に記載されるようにして生成されてもよい。
【0129】
e)抗体誘導体
特定の態様において、本明細書で提供される抗体は、当該技術分野において知られておりかつ容易に入手可能な追加の非タンパク質部分を含むように、さらに修飾されてもよい。抗体の誘導体化に好適な部分は、これに限定されるものではないが、水溶性ポリマーを含む。水溶性ポリマーの非限定的な例は、これらに限定されるものではないが、ポリエチレングリコール (PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ1,3ジオキソラン、ポリ1,3,6,トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマーまたはランダムコポリマーのいずれでも)、および、デキストランまたはポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール類(例えばグリセロール)、ポリビニルアルコール、および、これらの混合物を含む。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、その水に対する安定性のために、製造において有利であるだろう。ポリマーは、いかなる分子量でもよく、枝分かれしていてもしていなくてもよい。抗体に付加されるポリマーの数には幅があってよく、1つ以上のポリマーが付加されるならそれらは同じ分子であってもよいし、異なる分子であってもよい。一般的に、誘導体化に使用されるポリマーの数および/またはタイプは、これらに限定されるものではないが、改善されるべき抗体の特定の特性または機能、抗体誘導体が規定の条件下での療法に使用されるか否か、などへの考慮に基づいて、決定することができる。
【0130】
別の態様において、抗体と、放射線に曝露することにより選択的に熱せられ得る非タンパク質部分との、コンジュゲートが提供される。一態様において、非タンパク質部分は、カーボンナノチューブである(Kam et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102: 11600-11605 (2005))。放射線はいかなる波長でもよく、またこれらに限定されるものではないが、通常の細胞には害を与えないが抗体‐非タンパク質部分に近接した細胞を死滅させる温度まで非タンパク質部分を熱するような波長を含む。
【0131】
B.抗体作製方法
所望の結合活性を有する抗体を作製する方法は当業者において公知であり、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体として取得され得る。本開示の抗体としては、哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好適に作製され得る。哺乳動物由来のモノクローナル抗体には、ハイブリドーマにより産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主細胞によって産生されるもの等が含まれる。
【0132】
抗体取得のために免疫される哺乳動物としては、特定の動物に限定されるものではないが、ハイブリドーマ作製のための細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましい。一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター、あるいはウサギ、サル等が好適に使用される。
【0133】
公知の方法にしたがって上記の動物が感作抗原により免疫される。例えば、一般的な方法として、感作抗原が哺乳動物の腹腔内または皮下に注射によって投与されることにより免疫が実施される。具体的には、PBS(Phosphate-Buffered Saline)や生理食塩水等で適当な希釈倍率で希釈された感作抗原が、所望により通常のアジュバント、例えばフロイント完全アジュバントと混合され、乳化された後に、該感作抗原が哺乳動物に4から21日毎に数回投与される。また、感作抗原の免疫時には適当な担体が使用され得る。特に分子量の小さい部分ペプチドが感作抗原として用いられる場合には、アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン等の担体タンパク質と結合した該感作抗原ペプチドを免疫することが望ましい場合もある。
【0134】
また、所望の抗体を産生するハイブリドーマは、DNA免疫を使用し、以下のようにしても作製され得る。DNA免疫とは、免疫動物中で抗原タンパク質をコードする遺伝子が発現され得るような態様で構築されたベクターDNAが投与された当該免疫動物中で、感作抗原が当該免疫動物の生体内で発現されることによって、免疫刺激が与えられる免疫方法である。蛋白質抗原が免疫動物に投与される一般的な免疫方法と比べて、DNA免疫には、次のような優位性が期待される。
-膜蛋白質の構造を維持して免疫刺激が与えられ得る
-免疫抗原を精製する必要が無い
【0135】
DNA免疫によって本開示のモノクローナル抗体を得るために、まず、抗原タンパク質を発現するDNAが免疫動物に投与される。抗原タンパク質をコードするDNAは、PCRなどの公知の方法によって合成され得る。得られたDNAが適当な発現ベクターに挿入され、免疫動物に投与される。発現ベクターとしては、たとえばpcDNA3.1などの市販の発現ベクターが好適に利用され得る。ベクターを生体に投与する方法として、一般的に用いられている方法が利用され得る。たとえば、発現ベクターが吸着した金粒子が、gene gunで免疫動物個体の細胞内に導入されることによってDNA免疫が行われる。
【0136】
このように哺乳動物が免疫され、血清中における抗原に結合する抗体力価の上昇が確認された後に、哺乳動物から免疫細胞が採取され、細胞融合に供される。好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が使用され得る。
【0137】
前記免疫細胞と融合される細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞が用いられる。ミエローマ細胞は、スクリーニングのための適当な選択マーカーを備えていることが好ましい。選択マーカーとは、特定の培養条件の下で生存できる(あるいはできない)形質を指す。選択マーカーには、ヒポキサンチン-グアニン-ホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損(以下HGPRT欠損と省略する)、あるいはチミジンキナーゼ欠損(以下TK欠損と省略する)などが公知である。HGPRTやTKの欠損を有する細胞は、ヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン感受性(以下HAT感受性と省略する)を有する。HAT感受性の細胞はHAT選択培地中でDNA合成を行うことができず死滅するが、正常な細胞と融合すると正常細胞のサルベージ回路を利用してDNAの合成を継続することができるためHAT選択培地中でも増殖するようになる。
【0138】
HGPRT欠損やTK欠損の細胞は、それぞれ6チオグアニン、8アザグアニン(以下8AGと省略する)、あるいは5'ブロモデオキシウリジンを含む培地で選択され得る。これらのピリミジンアナログをDNA中に取り込む正常な細胞は死滅する。他方、これらのピリミジンアナログを取り込めないこれらの酵素を欠損した細胞は、選択培地の中で生存することができる。この他G418耐性と呼ばれる選択マーカーは、ネオマイシン耐性遺伝子によって2-デオキシストレプタミン系抗生物質(ゲンタマイシン類似体)に対する耐性を与える。細胞融合に好適な種々のミエローマ細胞が公知である。
【0139】
このようなミエローマ細胞として、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J. Immunol.(1979)123 (4), 1548-1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81, 1-7)、NS-1(C. Eur. J. Immunol.(1976)6 (7), 511-519)、MPC-11(Cell(1976)8 (3), 405-415)、SP2/0(Nature(1978)276 (5685), 269-270)、FO(J. Immunol. Methods(1980)35 (1-2), 1-21)、S194/5.XX0.BU.1(J. Exp. Med.(1978)148 (1), 313-323)、R210(Nature(1979)277 (5692), 131-133)等が好適に使用され得る。
【0140】
基本的には公知の方法、たとえば、ケーラーとミルステインらの方法(Methods Enzymol.(1981)73, 3-46)等に準じて、前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合が行われる。
【0141】
より具体的には、例えば細胞融合促進剤の存在下で通常の栄養培養液中で、前記細胞融合が実施され得る。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等が使用され、更に融合効率を高めるために所望によりジメチルスルホキシド等の補助剤が添加されて使用される。
【0142】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定され得る。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1から10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用され、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液が好適に添加され得る。
【0143】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温されたPEG溶液(例えば平均分子量1000から6000程度)が通常30から60%(w/v)の濃度で添加される。混合液が緩やかに混合されることによって所望の融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。次いで、上記に挙げた適当な培養液が逐次添加され、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等が除去され得る。
【0144】
このようにして得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択され得る。所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間(通常、係る十分な時間は数日から数週間である)上記HAT培養液を用いた培養が継続され得る。次いで、通常の限界希釈法によって、所望の抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングが実施される。
【0145】
このようにして得られたハイブリドーマは、細胞融合に用いられたミエローマが有する選択マーカーに応じた選択培養液を利用することによって選択され得る。例えばHGPRTやTKの欠損を有する細胞は、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択され得る。すなわち、HAT感受性のミエローマ細胞を細胞融合に用いた場合、HAT培養液中で、正常細胞との細胞融合に成功した細胞が選択的に増殖し得る。所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、上記HAT培養液を用いた培養が継続される。具体的には、一般に、数日から数週間の培養によって、所望のハイブリドーマが選択され得る。次いで、通常の限界希釈法によって、所望の抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングが実施され得る。
【0146】
所望の抗体のスクリーニングおよび単一クローニングが、公知の抗原抗体反応に基づくスクリーニング方法によって好適に実施され得る。所望の抗体は、例えば、FACS(fluorescence activated cell sorting)によってスクリーニングされ得る。FACSは、蛍光抗体と接触させた細胞をレーザー光で解析し、個々の細胞が発する蛍光を測定することによって細胞表面への抗体の結合を測定することを可能にするシステムである。
【0147】
FACSによって本開示のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングするためには、まず産生される抗体が結合する抗原を発現する細胞を調製する。スクリーニングのための好ましい細胞は、当該抗原を強制発現させた哺乳動物細胞である。宿主細胞として使用した形質転換されていない哺乳動物細胞を対照として用いることによって、細胞表面の抗原に対する抗体の結合活性が選択的に検出され得る。すなわち、宿主細胞に結合せず、抗原を強制発現させた細胞に結合する抗体を産生するハイブリドーマを選択することによって、所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマが取得され得る。
【0148】
あるいは対象となる抗原を発現した細胞を固定化し、当該抗原発現細胞に対する抗体の結合活性がELISAの原理に基づいて評価され得る。たとえば、ELISAプレートのウェルに抗原発現細胞が固定化される。ハイブリドーマの培養上清をウェル内の固定化細胞に接触させ、固定化細胞に結合する抗体が検出される。モノクローナル抗体がマウス由来の場合、細胞に結合した抗体は、抗マウスイムノグロブリン抗体によって検出され得る。これらのスクリーニングによって選択された、抗原に対する結合能を有する所望の抗体を産生するハイブリドーマは、限界希釈法等によりクローニングされ得る。
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは通常の培養液中で継代培養され得る。また、該ハイブリドーマは液体窒素中で長期にわたって保存され得る。
【0149】
当該ハイブリドーマを通常の方法に従い培養し、その培養上清から所望のモノクローナル抗体が取得され得る。あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖せしめ、その腹水からモノクローナル抗体が取得され得る。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに好適なものである。
【0150】
当該ハイブリドーマ等の抗体産生細胞からクローニングされる抗体遺伝子によってコードされる抗体も好適に利用され得る。クローニングした抗体遺伝子を適当なベクターに組み込んで宿主に導入することによって、当該遺伝子によってコードされる抗体が発現する。抗体遺伝子の単離と、ベクターへの導入、そして宿主細胞の形質転換のための方法は例えば、Vandammeらによって既に確立されている(Eur.J. Biochem.(1990)192 (3), 767-775)。下記に述べるように組換え抗体の製造方法もまた公知である。
【0151】
抗体の可変領域(V領域)をコードするcDNAを取得するためには、通常、まずハイブリドーマから全RNAが抽出される。細胞からmRNAを抽出するための方法として、たとえば次のような方法を利用することができる。
-グアニジン超遠心法(Biochemistry (1979) 18 (24), 5294-5299)
-AGPC法(Anal. Biochem. (1987) 162 (1), 156-159)
【0152】
抽出されたmRNAは、例えばmRNA Purification Kit (GEヘルスケアバイオサイエンス製)等を使用して精製され得る。あるいは、QuickPrep mRNA Purification Kit (GEヘルスケアバイオサイエンス製)などのように、細胞から直接全mRNAを抽出するためのキットも市販されている。このようなキットを用いて、ハイブリドーマからmRNAが取得され得る。得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域をコードするcDNAが合成され得る。cDNAは、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業社製)等によって合成され得る。また、cDNAの合成および増幅のために、SMART RACE cDNA 増幅キット(Clontech製)およびPCRを用いた5'-RACE法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1988) 85 (23), 8998-9002、Nucleic Acids Res. (1989) 17 (8), 2919-2932)が適宜利用され得る。更にこうしたcDNAの合成の過程においてcDNAの両末端に後述する適切な制限酵素サイトが導入され得る。
【0153】
得られたPCR産物から目的とするcDNA断片が精製され、次いでベクターDNAと連結される。このように組換えベクターが作製され、大腸菌等に導入されコロニーが選択された後に、該コロニーを形成した大腸菌から所望の組換えベクターが調製され得る。そして、該組換えベクターが目的とするcDNAの塩基配列を有しているか否かについて、公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法等により確認される。
【0154】
可変領域をコードする遺伝子を取得するためには、可変領域遺伝子増幅用のプライマーを使った5'-RACE法を利用するのが簡便である。まずハイブリドーマ細胞より抽出されたRNAを鋳型としてcDNAが合成され、5'-RACE cDNAライブラリーが得られる。5'-RACE cDNAライブラリーの合成にはSMART RACE cDNA 増幅キットなど市販のキットが適宜用いられる。
【0155】
得られた5'-RACE cDNAライブラリーを鋳型として、PCR法によって抗体遺伝子が増幅される。公知の抗体遺伝子配列をもとにマウス抗体遺伝子増幅用のプライマーがデザインされ得る。これらのプライマーは、イムノグロブリンのサブクラスごとに異なる塩基配列である。したがって、サブクラスは予めIso Stripマウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(ロシュ・ダイアグノスティックス)などの市販キットを用いて決定しておくことが望ましい。
【0156】
具体的には、たとえばマウスIgGをコードする遺伝子の取得を目的とするときには、重鎖としてγ1、γ2a、γ2b、γ3、軽鎖としてκ鎖とλ鎖をコードする遺伝子の増幅が可能なプライマーが利用され得る。IgGの可変領域遺伝子を増幅するためには、一般に3'側のプライマーには可変領域に近い定常領域に相当する部分にアニールするプライマーが利用される。一方5'側のプライマーには、5' RACE cDNAライブラリー作製キットに付属するプライマーが利用される。
【0157】
こうして増幅されたPCR産物を利用して、重鎖と軽鎖の組み合せからなるイムノグロブリンが再構成され得る。再構成されたイムノグロブリンの、抗原に対する結合活性を指標として、所望の抗体がスクリーニングされ得る。たとえば次のようにしてスクリーニングされ得る;
(1)ハイブリドーマから得られたcDNAによってコードされるV領域を含む抗体を所望の抗原発現細胞に接触させる工程、
(2)該抗原発現細胞と抗体との結合を検出する工程、および
(3)該抗原発現細胞に結合する抗体を選択する工程。
【0158】
抗体と該抗原発現細胞との結合を検出する方法は公知である。具体的には、先に述べたFACSなどの手法によって、抗体と該抗原発現細胞との結合が検出され得る。抗体の結合活性を評価するために該抗原発現細胞の固定標本が適宜利用され得る。
【0159】
結合活性を指標とする抗体のスクリーニング方法として、ファージベクターを利用したパニング法も好適に用いられる。ポリクローナルな抗体発現細胞群より抗体遺伝子を重鎖と軽鎖のサブクラスのライブラリーとして取得した場合には、ファージベクターを利用したスクリーニング方法が有利である。重鎖と軽鎖の可変領域をコードする遺伝子は、適当なリンカー配列で連結することによってシングルチェインFv(scFv)を形成することができる。scFvをコードする遺伝子をファージベクターに挿入することにより、scFvを表面に発現するファージが取得され得る。このファージと所望の抗原との接触の後に、抗原に結合したファージを回収することによって、目的の結合活性を有するscFvをコードするDNAが回収され得る。この操作を必要に応じて繰り返すことにより、所望の結合活性を有するscFvが濃縮され得る。
【0160】
目的とする抗体のV領域をコードするcDNAが得られた後に、当該cDNAの両末端に挿入した制限酵素サイトを認識する制限酵素によって該cDNAが消化される。好ましい制限酵素は、抗体遺伝子を構成する塩基配列に出現する頻度が低い塩基配列を認識して消化する。更に1コピーの消化断片をベクターに正しい方向で挿入するためには、付着末端を与える制限酵素の挿入が好ましい。上記のようにして消化された抗体のV領域をコードするcDNAを適当な発現ベクターに挿入することによって、抗体発現ベクターが取得され得る。このとき、抗体定常領域(C領域)をコードする遺伝子と、前記V領域をコードする遺伝子とがインフレームで融合されれば、キメラ抗体が取得される。ここで、キメラ抗体とは、定常領域と可変領域の由来が異なることをいう。したがって、マウス-ヒトなどの異種キメラ抗体に加え、ヒト-ヒト同種キメラ抗体も、本開示におけるキメラ抗体に含まれる。予め定常領域を有する発現ベクターに、前記V領域遺伝子を挿入することによって、キメラ抗体発現ベクターが構築され得る。具体的には、たとえば、所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAを保持した発現ベクターの5'側に、前記V領域遺伝子を消化する制限酵素の制限酵素認識配列が適宜配置され得る。同じ組み合わせの制限酵素で消化された両者がインフレームで融合されることによって、キメラ抗体発現ベクターが構築される。
【0161】
モノクローナル抗体の製造には、抗体遺伝子が発現制御領域による制御の下で発現するように発現ベクターに組み込まれる。抗体を発現するための発現制御領域とは、例えば、エンハンサーやプロモーターを含む。また、発現した抗体が細胞外に分泌されるように、適切なシグナル配列がアミノ末端に付加され得る。発現されたポリペプチドから、シグナル配列がそのカルボキシル末端部分から切断され、抗体が細胞外に分泌され得る。次いで、この発現ベクターによって適当な宿主細胞が形質転換されることによって、抗体をコードするDNAを発現する組換え細胞が取得され得る。
【0162】
抗体遺伝子の発現のために、抗体重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)をコードするDNAは、それぞれ別の発現ベクターに組み込まれる。H鎖とL鎖が組み込まれたベクターによって、同じ宿主細胞に同時に形質転換(co-transfect)されることによって、H鎖とL鎖を備えた抗体分子が発現され得る。あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAが単一の発現ベクターに組み込まれることによって宿主細胞が形質転換され得る(国際公開WO 94/11523を参照のこと)。
【0163】
単離された抗体遺伝子を適当な宿主に導入することによって抗体を作製するための宿主細胞と発現ベクターの多くの組み合わせが公知である。これらの発現系は、いずれも上述の本開示の標的タンパク質に結合するドメインやT細胞受容体複合体結合ドメインを単離するのに応用され得る。
【0164】
真核細胞が宿主細胞として使用される場合、動物細胞、植物細胞、あるいは真菌細胞が適宜使用され得る。具体的には、動物細胞としては、次のような細胞が例示され得る。
(1)哺乳類細胞、:CHO、COS、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、Hela、Veroなど
(2)両生類細胞:アフリカツメガエル卵母細胞など
(3)昆虫細胞:sf9、sf21、Tn5など
【0165】
あるいは植物細胞としては、ニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)などのニコティアナ(Nicotiana)属由来の細胞による抗体遺伝子の発現系が公知である。植物細胞の形質転換には、カルス培養した細胞が適宜利用され得る。
【0166】
更に真菌細胞としては、次のような細胞を利用することができる。
-酵母:サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)などのサッカロミセス(Saccharomyces)属、メタノール資化酵母(Pichia pastoris)などのPichia属
-糸状菌:アスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルス(Aspergillus)属
【0167】
また、原核細胞を利用した抗体遺伝子の発現系も公知である。たとえば、細菌細胞を用いる場合、大腸菌(E. coli)、枯草菌などの細菌細胞が適宜利用され得る。これらの細胞中に、目的とする抗体遺伝子を含む発現ベクターが形質転換によって導入される。形質転換された細胞をin vitroで培養することにより、当該形質転換細胞の培養物から所望の抗体が取得され得る。
【0168】
組換え抗体の産生には、上記宿主細胞に加えて、トランスジェニック動物も利用され得る。すなわち所望の抗体をコードする遺伝子が導入された動物から、当該抗体を得ることができる。例えば、抗体遺伝子は、乳汁中に固有に産生されるタンパク質をコードする遺伝子の内部にインフレームで挿入することによって融合遺伝子として構築され得る。乳汁中に分泌されるタンパク質として、たとえば、ヤギβカゼインなどを利用され得る。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片はヤギの胚へ注入され、当該注入された胚が雌のヤギへ導入される。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ(またはその子孫)が産生する乳汁からは、所望の抗体が乳汁タンパク質との融合タンパク質として取得され得る。また、トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、ホルモンがトランスジェニックヤギに対して投与され得る(Bio/Technology (1994), 12 (7), 699-702)。
【0169】
本明細書において記載される抗原結合分子がヒトに投与される場合、例えば、当該分子における各種結合ドメインとして、抗体の可変領域を含むドメインを用いる場合は、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体由来の抗原結合ドメインが適宜採用され得る。遺伝子組換え型抗体には、例えば、ヒト化(Humanized)抗体等が含まれる。これらの改変抗体は、公知の方法を用いて適宜製造される。
【0170】
本明細書において記載される抗原結合分子における各種結合ドメインを作製するために用いられる抗体の可変領域は、通常、4つのフレームワーク領域(FR)にはさまれた3つの相補性決定領域(complementarity-determining region ; CDR)で構成されている。CDRは、実質的に、抗体の結合特異性を決定している領域である。CDRのアミノ酸配列は多様性に富む。一方FRを構成するアミノ酸配列は、異なる結合特異性を有する抗体の間でも、高い同一性を示すことが多い。そのため、一般に、CDRの移植によって、ある抗体の結合特異性を、他の抗体に移植することができるとされている。
【0171】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される。具体的には、ヒト以外の動物、たとえばマウス抗体のCDRをヒト抗体に移植したヒト化抗体などが公知である。ヒト化抗体を得るための一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウスの抗体のCDRをヒトのFRに移植するための方法として、たとえばOverlap Extension PCRが公知である。Overlap Extension PCRにおいては、ヒト抗体のFRを合成するためのプライマーに、移植すべきマウス抗体のCDRをコードする塩基配列が付加される。プライマーは4つのFRのそれぞれについて用意される。一般に、マウスCDRのヒトFRへの移植においては、マウスのFRと同一性の高いヒトFRを選択するのが、CDRの機能の維持において有利であるとされている。すなわち、一般に、移植すべきマウスCDRに隣接しているFRのアミノ酸配列と同一性の高いアミノ酸配列からなるヒトFRを利用するのが好ましい。
【0172】
また連結される塩基配列は、互いにインフレームで接続されるようにデザインされる。それぞれのプライマーによってヒトFRが個別に合成される。その結果、各FRにマウスCDRをコードするDNAが付加された産物が得られる。各産物のマウスCDRをコードする塩基配列は、互いにオーバーラップするようにデザインされている。続いて、ヒト抗体遺伝子を鋳型として合成された産物のオーバーラップしたCDR部分を互いにアニールさせて相補鎖合成反応が行われる。この反応によって、ヒトFRがマウスCDRの配列を介して連結される。
【0173】
最終的に3つのCDRと4つのFRが連結されたV領域遺伝子は、その5'末端と3'末端にアニールし適当な制限酵素認識配列を付加されたプライマーによってその全長が増幅される。上記のように得られたDNAとヒト抗体C領域をコードするDNAとをインフレームで融合するように発現ベクター中に挿入することによって、ヒト型抗体発現用ベクターが作成できる。該組込みベクターを宿主に導入して組換え細胞を樹立した後に、該組換え細胞を培養し、該ヒト化抗体をコードするDNAを発現させることによって、該ヒト化抗体が該培養細胞の培養物中に産生される(欧州特許公開EP 239400、国際公開WO1996/002576参照)。
【0174】
上記のように作製したヒト化抗体の抗原への結合活性を定性的又は定量的に測定し、評価することによって、CDRを介して連結されたときに該CDRが良好な抗原結合部位を形成するようなヒト抗体のFRが好適に選択できる。必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するようにFRのアミノ酸残基を置換することもできる。たとえば、マウスCDRのヒトFRへの移植に用いたPCR法を応用して、FRにアミノ酸配列の変異を導入することができる。具体的には、FRにアニーリングするプライマーに部分的な塩基配列の変異を導入することができる。このようなプライマーによって合成されたFRには、塩基配列の変異が導入される。アミノ酸を置換した変異型抗体の抗原への結合活性を上記の方法で測定し評価することによって所望の性質を有する変異FR配列が選択され得る(Sato, K.et al., Cancer Res, 1993, 53, 851-856)。
【0175】
また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物(国際公開WO1993/012227、WO1992/003918、WO1994/002602、WO1994/025585、WO1996/034096、WO1996/033735参照)を免疫動物とし、DNA免疫により所望のヒト抗体が取得され得る。
【0176】
さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体のV領域が一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現される。抗原に結合するscFvを発現するファージが選択され得る。選択されたファージの遺伝子を解析することにより、抗原に結合するヒト抗体のV領域をコードするDNA配列が決定できる。抗原に結合するscFvのDNA配列を決定した後、当該V領域配列を所望のヒト抗体C領域の配列とインフレームで融合させた後に適当な発現ベクターに挿入することによって発現ベクターが作製され得る。当該発現ベクターを上記に挙げたような好適な発現細胞中に導入し、該ヒト抗体をコードする遺伝子を発現させることにより当該ヒト抗体が取得される。これらの方法は既に公知である(国際公開WO1992/001047、WO1992/020791、WO1993/006213、WO1993/011236、WO1993/019172、WO1995/001438、WO1995/015388参照)。
【0177】
ファージディスプレイ法以外にも、ヒト抗体ライブラリを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術として、無細胞翻訳系を使用する技術、細胞またはウイルス表面に抗原結合分子を提示する技術、エマルジョンを使用する技術等が知られている。例えば、無細胞翻訳系を使用する技術としては、終止コドンの除去等によりリボゾームを介してmRNAと翻訳されたタンパク質の複合体を形成させるリボゾームディスプレイ法、ピューロマイシン等の化合物を用いて遺伝子配列と翻訳されたタンパク質を共有結合させるcDNAディスプレイ法、mRNAディスプレイ法や、核酸に対する結合タンパク質を用いて遺伝子と翻訳されたタンパク質の複合体を形成させるCISディスプレイ法等が使用され得る。また、細胞またはウイルス表面に抗原結合分子を提示する技術としては、ファージディスプレイ法以外にも、E. coliディスプレイ法、グラム陽性菌ディスプレイ法、酵母ディスプレイ法、哺乳類細胞ディスプレイ法、ウイルスディスプレイ法等が使用され得る。エマルジョンを使用する技術としては、エマルジョン中に遺伝子及び翻訳関連分子を内包させることによる、インビトロウイルスディスプレイ法等が使用され得る。これらの方法は既に公知である(Nat Biotechnol. 2000 Dec;18(12):1287-92、Nucleic Acids Res. 2006;34(19):e127、Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Mar 2;101(9):2806-10、Proc Natl Acad Sci U S A. 2004 Jun 22;101(25):9193-8、Protein Eng Des Sel. 2008 Apr;21(4):247-55、Proc Natl Acad Sci U S A. 2000 Sep 26;97(20):10701-5、MAbs. 2010 Sep-Oct;2(5):508-18、Methods Mol Biol. 2012;911:183-98)。
【0178】
C.測定法(アッセイ)
本明細書で提供される抗標的タンパク質抗体は、当該技術分野において知られている種々の測定法によって、同定され、スクリーニングされ、または物理的/化学的特性および/または生物学的活性について明らかにされてもよい。
【0179】
1.結合測定法およびその他の測定法
一局面において、本開示の抗体は、例えばELISA、ウエスタンブロット等の公知の方法によって、その抗原結合活性に関して試験される。
【0180】
2.活性測定法
一局面において、生物学的活性を有する本開示の抗体のそれを同定するための測定法が提供される。生物学的活性は、例えば、細胞傷害活性(ADCC活性、CDC活性等)およびインターナライズ活性を含んでよい。また、このような生物学的活性をインビボおよび/またはインビトロで有する抗体が、提供される。
【0181】
D.イムノコンジュゲート
本開示はまた、1つまたは複数の細胞傷害剤(例えば化学療法剤または化学療法薬、増殖阻害剤、毒素(例えば細菌、真菌、植物もしくは動物起源のタンパク質毒素、酵素的に活性な毒素、もしくはそれらの断片)または放射性同位体)にコンジュゲートされた本開示の抗体を含むイムノコンジュゲートを提供する。
【0182】
一態様において、イムノコンジュゲートは、抗体が、これらに限定されるものではないが以下を含む1つまたは複数の薬剤にコンジュゲートされた、抗体-薬剤コンジュゲート (antibody-drug conjugate: ADC) である:メイタンシノイド(米国特許第5,208,020号、第5,416,064号、および欧州特許第0,425,235号B1参照);例えばモノメチルオーリスタチン薬剤部分DEおよびDF(MMAEおよびMMAF)(米国特許第5,635,483号および第5,780,588号および第7,498,298号参照)などのオーリスタチン;ドラスタチン;カリケアマイシンまたはその誘導体(米国特許第5,712,374号、第5,714,586号、第5,739,116号、第5,767,285号、第5,770,701号、第5,770,710号、第5,773,001号、および第5,877,296号;Hinman et al., Cancer Res. 53:3336-3342 (1993);ならびにLode et al., Cancer Res. 58:2925-2928 (1998) 参照);ダウノマイシンまたはドキソルビシンなどのアントラサイクリン(Kratz et al., Current Med. Chem. 13:477-523 (2006);Jeffrey et al., Bioorganic & Med. Chem. Letters 16:358-362 (2006);Torgov et al., Bioconj. Chem. 16:717-721 (2005);Nagy et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97:829-834 (2000);Dubowchik et al., Bioorg. & Med. Chem. Letters 12:1529-1532 (2002);King et al., J. Med. Chem. 45:4336-4343 (2002);および米国特許第6,630,579号参照);メトトレキサート;ビンデシン;ドセタキセル、パクリタキセル、ラロタキセル、テセタキセル、およびオルタタキセルなどのタキサン;トリコテセン;ならびにCC1065。
【0183】
別の態様において、イムノコンジュゲートは、これらに限定されるものではないが以下を含む酵素的に活性な毒素またはその断片にコンジュゲートされた、本明細書に記載の抗体を含む:ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、外毒素A鎖(緑膿菌 (Pseudomonas aeruginosa) 由来)、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、アルファ-サルシン、シナアブラギリ (Aleurites fordii) タンパク質、ジアンチンタンパク質、ヨウシュヤマゴボウ (Phytolacca americana) タンパク質(PAPI、PAPIIおよびPAP-S)、ツルレイシ (momordica charantia) 阻害剤、クルシン (curcin)、クロチン、サボンソウ (saponaria officinalis) 阻害剤、ゲロニン、ミトゲリン (mitogellin)、レストリクトシン、フェノマイシン、エノマイシン、ならびにトリコテセン。
【0184】
別の態様において、イムノコンジュゲートは、放射性コンジュゲートを形成するために放射性原子にコンジュゲートされた本明細書に記載の抗体を含む。様々な放射性同位体が放射性コンジュゲートの製造に利用可能である。例は、211At、131I、125I、90Y、186Re、188Re、153Sm、212Bi、32P、212PbおよびLuの放射性同位体を含む。放射性コンジュゲートを検出のために使用する場合、放射性コンジュゲートは、シンチグラフィー検査用の放射性原子(例えばTc-99mもしくは123I)、または、核磁気共鳴 (NMR) イメージング(磁気共鳴イメージング、MRIとしても知られる)用のスピン標識(例えばここでもヨウ素-123、ヨウ素-131、インジウム-111、フッ素-19、炭素-13、窒素-15、酸素-17、ガドリニウム、マンガン、または鉄)を含み得る。
【0185】
抗体および細胞傷害剤のコンジュゲートは、様々な二官能性タンパク質連結剤を用いて作製され得る。例えばN-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート (SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート (SMCC)、イミノチオラン (IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えば、アジプイミド酸ジメチルHCl)、活性エステル(例えば、スベリン酸ジスクシンイミジル)、アルデヒド(例えば、グルタルアルデヒド)、ビス-アジド化合物(例えば、ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン)、ジイソシアネート(例えば、トルエン2,6-ジイソシアネート)、およびビス活性フッ素化合物(例えば、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)である。例えば、リシン免疫毒素は、Vitetta et al., Science 238:1098 (1987) に記載されるようにして調製され得る。炭素-14標識された1-イソチオシアナトベンジル-3-メチルジエチレントリアミン五酢酸 (MX-DTPA) は、抗体への放射性核種のコンジュゲーションのための例示的なキレート剤である。WO94/11026を参照のこと。リンカーは、細胞内での細胞傷害薬の放出を促進する「切断可能なリンカー」であり得る。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、光不安定性リンカー、ジメチルリンカー、またはジスルフィド含有リンカー(Chari et al., Cancer Res. 52:127-131 (1992);米国特許第5,208,020号)が使用され得る。
【0186】
本明細書のイムノコンジュゲートまたはADCは、(例えば、Pierce Biotechnology, Inc., Rockford, IL., U.S.Aから)市販されているBMPS、EMCS、GMBS、HBVS、LC-SMCC、MBS、MPBH、SBAP、SIA、SIAB、SMCC、SMPB、SMPH、スルホ-EMCS、スルホ-GMBS、スルホ-KMUS、スルホ-MBS、スルホ-SIAB、スルホ-SMCC、およびスルホ-SMPB、ならびにSVSB(スクシンイミジル-(4-ビニルスルホン)ベンゾエート)を含むがこれらに限定されない架橋試薬を用いて調製されるコンジュゲートを明示的に考慮するが、これらに限定されない。
【0187】
E.診断および検出のための方法および組成物
特定の態様において、本明細書で提供される抗標的タンパク質抗体のいずれも、生物学的サンプルにおける標的タンパク質の存在を検出するのに有用である。本明細書で用いられる用語「検出」は、定量的または定性的な検出を包含する。特定の態様において、生物学的サンプルは、細胞または組織、例えば、心臓、肝臓、肺、腎臓、脾臓、大腸、骨髄の細胞または組織を含む。
【0188】
一態様において、診断方法または検出方法において使用するための本開示の抗体が提供される。さらなる局面において、生物学的サンプル中の標的タンパク質の存在を検出する方法が提供される。特定の態様において、この方法は、標的タンパク質への本明細書に記載の抗体の結合が許容される条件下で本明細書に記載の抗体と生物学的サンプルを接触させること、および当該抗体と標的タンパク質の間で複合体が形成されたかどうかを検出することを含む。そのような方法は、インビトロの方法またはインビボの方法であり得る。一態様において、本開示の抗体は、例えば標的タンパク質が患者を選択するためのバイオマーカーである場合、本開示の抗体を用いる治療に適合する被験体を選択するために使用される。
【0189】
本開示の抗体を用いて診断され得る例示的な障害は、肺がん(例えば肺腺がん)、大腸がん等のがんを含む。
【0190】
特定の態様において、標識された抗標的タンパク質抗体が提供される。標識は、直接的に検出される標識または部分(例えば、蛍光標識、発色標識、高電子密度標識、化学発光標識、および放射性標識)ならびに、例えば酵素反応または分子間相互作用を通じて間接的に検出される部分(例えば酵素またはリガンド)を含むが、これらに限定されない。例示的な標識は、これらに限定されるものではないが、以下を含む:放射性同位体32P、14C、125I、3Hおよび131I、希土類キレートなどの発蛍光団またはフルオレセインおよびその誘導体、ローダミンおよびその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン、ホタルルシフェラーゼおよび細菌ルシフェラーゼ(米国特許第4,737,456号)などのルシフェラーゼ、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、西洋ワサビペルオキシダーゼ (horseradish peroxidase: HRP)、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、単糖オキシダーゼ(例えばグルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼおよびグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ)、ウリカーゼおよびキサンチンオキシダーゼなどの複素環オキシダーゼ、過酸化水素を用いて色素前駆体を酸化する酵素(例えばHRP、ラクトペルオキシダーゼ、またはミクロペルオキシダーゼ)と連結されたもの、ビオチン/アビジン、スピン標識、バクテリオファージ標識、安定なフリーラジカル類、ならびにこれらに類するもの。
【0191】
F.薬学的製剤
一局面において、本開示は、本明細書に記載の抗標的タンパク質抗体の薬学的製剤を提供する。特定の態様において、本開示の薬学的製剤は、がん治療剤、がん予防剤、またはがん診断剤である。そのような製剤は、所望の純度を有する抗体を、1つまたは複数の任意の薬学的に許容される担体 (Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)) と混合することによって、凍結乾燥製剤または水溶液の形態で、調製される。薬学的に許容される担体は、概して、用いられる際の用量および濃度ではレシピエントに対して非毒性であり、これらに限定されるものではないが、以下のものを含む:リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸およびメチオニンを含む、抗酸化剤;保存料(オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル、またはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾールなど);低分子(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む、単糖、二糖、および他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース、ソルビトールなどの、砂糖類;ナトリウムなどの塩形成対イオン類;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);および/またはポリエチレングリコール (PEG) などの非イオン系表面活性剤。本明細書の例示的な薬学的に許容される担体は、さらに、可溶性中性活性型ヒアルロニダーゼ糖タンパク質 (sHASEGP)(例えば、rHuPH20 (HYLENEX(登録商標)、Baxter International, Inc.) などのヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質)などの間質性薬剤分散剤を含む。特定の例示的sHASEGPおよびその使用方法は(rHuPH20を含む)、米国特許出願公開第2005/0260186号および第2006/0104968号に記載されている。一局面において、sHASEGPは、コンドロイチナーゼなどの1つまたは複数の追加的なグリコサミノグリカナーゼと組み合わせられる。
【0192】
例示的な凍結乾燥抗体製剤は、米国特許第6,267,958号に記載されている。水溶液抗体製剤は、米国特許第6,171,586号およびWO2006/044908に記載のものを含み、後者の製剤はヒスチジン-アセテート緩衝液を含んでいる。
【0193】
本明細書の製剤は、治療または予防される特定の適応症のために必要であれば1つより多くの有効成分を含んでもよい。互いに悪影響を与えあわない相補的な活性を伴うものが好ましい。例えば、細胞傷害剤をさらに提供することが望ましい。このような有効成分は、意図された目的のために有効である量で、好適に組み合わせられて存在する。
【0194】
有効成分は、例えば液滴形成(コアセルベーション)手法によってまたは界面重合によって調製されたマイクロカプセル(それぞれ、例えば、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセル、およびポリ(メタクリル酸メチル)マイクロカプセル)に取り込まれてもよいし、コロイド状薬剤送達システム(例えば、リポソーム、アルブミン小球体、マイクロエマルション、ナノ粒子、およびナノカプセル)に取り込まれてもよいし、マクロエマルションに取り込まれてもよい。このような手法は、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980) に開示されている。
【0195】
徐放性製剤を調製してもよい。徐放性製剤の好適な例は、抗体を含んだ固体疎水性ポリマーの半透過性マトリクスを含み、当該マトリクスは例えばフィルムまたはマイクロカプセルなどの造形品の形態である。
【0196】
生体内 (in vivo) 投与のために使用される製剤は、通常無菌である。無菌状態は、例えば滅菌ろ過膜を通して濾過することなどにより、容易に達成される。
【0197】
G.治療的方法および治療用組成物
本明細書で提供される抗体のいずれも、治療的な方法において使用されてよい。
一局面において、医薬品としての使用のための、本開示の抗体が提供される。さらなる局面において、がんの治療における使用のための、本開示の抗体が提供される。特定の態様において、治療方法における使用のための、本開示の抗体が提供される。特定の態様において、本開示は、がん(例えば、肺がん、大腸がん)を有する個体を治療する方法であって、当該個体に本開示の抗体の有効量を投与する工程を含む方法における使用のための、本開示の抗体を提供する。このような態様の1つにおいて、方法は、当該個体に少なくとも1つの(例えば後述するような)追加治療剤の有効量を投与する工程を、さらに含む。さらなる態様において、本開示は、細胞傷害活性誘導における使用のための本開示の抗体を提供する。特定の態様において、本開示は、個体において細胞傷害活性を誘導する方法であって、細胞傷害活性を誘導するために当該個体に本開示の抗体の有効量を投与する工程を含む方法における使用のための、本開示の抗体を提供する。上記態様の任意のものによる「個体」は、好適にはヒトである。
【0198】
さらなる局面において、本開示は医薬品の製造または調製における本開示の抗体の使用を提供する。一態様において、医薬品は、がん(例えば、肺がん、大腸がん)の治療のためのものである。さらなる態様において、医薬品は、がん(例えば、肺がん、大腸がん)を治療する方法であって、がん(例えば、肺がん、大腸がん)を有する個体に医薬品の有効量を投与する工程を含む方法における使用のためのものである。このような態様の1つにおいて、方法は、当該個体に少なくとも1つの(例えば後述するような)追加治療剤の有効量を投与する工程を、さらに含む。さらなる態様において、医薬品は、細胞傷害活性誘導のためのものである。さらなる態様において、医薬品は、個体において細胞傷害活性を誘導する方法であって、細胞傷害活性を誘導するために当該個体に医薬品の有効量を投与する工程を含む方法における使用のためのものである。上記態様の任意のものによる「個体」は、ヒトであってもよい。
【0199】
前記局面の一態様において、当該局面の一態様において、本開示は、肺がんの治療における使用のための本開示の抗体または医薬品であって、肺がん患者から得られた生物試料におけるEGFRのドライバー変異、BRAFのドライバー変異、ERBB2のドライバー変異、ALK融合遺伝子発現、RET/ROS1融合遺伝子発現から選ばれる一つ以上の有無を評価し、EGFRのドライバー変異、BRAFのドライバー変異、ERBB2のドライバー変異、ALK融合遺伝子発現、RET/ROS1融合遺伝子発現から選ばれる一つ以上を有さない肺がん患者を本開示の抗体または医薬品による治療に対する応答者として選択し、当該選択された肺がん患者に投与するための、本開示の抗体または医薬品を提供する。別の態様において、本開示は、大腸がんの治療における使用のための本開示の抗体または医薬品であって、大腸がん患者から得られた生物試料におけるKRAS変異の有無を評価し、KRAS変異を有する大腸がん患者を本開示の抗体または医薬品による治療に対する応答者として選択し、当該選択された大腸がん患者に投与するための、本開示の抗体または医薬品を提供する。EGFRのドライバー変異、BRAFのドライバー変異、ERBB2のドライバー変異、ALK融合遺伝子発現、RET/ROS1融合遺伝子発現、およびKRAS変異の有無を評価する方法は当技術分野において公知であり、例えば本明細書の実施例に記載されている方法が挙げられる。
【0200】
さらなる局面において、本開示はがん(例えば、肺がん、大腸がん)を治療する方法(がんを有する個体を治療する方法と同義)を提供する。一態様において、方法は、そのようながん(例えば、肺がん、大腸がん)を有する個体に本開示の抗体の有効量を投与する工程を含む。そのような態様の1つにおいて、方法は、当該個体に少なくとも1つの(後述するような)追加治療剤の有効量を投与する工程を、さらに含む。上記態様の任意のものによる「個体」は、ヒトであってもよい。
【0201】
前記局面の一態様において、前記方法は、肺がんを有する個体から得られた生物試料におけるEGFRのドライバー変異、BRAFのドライバー変異、ERBB2のドライバー変異、ALK融合遺伝子発現、RET/ROS1融合遺伝子発現から選ばれる一つ以上の有無を評価すること;EGFRのドライバー変異、BRAFのドライバー変異、ERBB2のドライバー変異、ALK融合遺伝子発現、RET/ROS1融合遺伝子発現から選ばれる一つ以上を有さない個体を本開示の抗体による治療に対する応答者として選択すること;および当該選択された個体に本開示の抗体を投与すること、を含む。別の態様において、前記方法は、大腸がんを有する個体から得られた生物試料におけるKRAS変異の有無を評価すること;KRAS変異を有する個体を本開示の抗体による治療に対する応答者として選択すること;および当該選択された個体に本開示の抗体を投与すること、を含む。
【0202】
さらなる局面において、本開示は個体において細胞傷害活性を誘導するための方法を提供する。一態様において、方法は、細胞傷害活性を誘導するために個体に本開示の抗体の有効量を投与する工程を含む。一態様において、「個体」は、ヒトである。
【0203】
さらなる局面において、本開示は、本明細書で提供される抗体の任意のものを含む、薬学的製剤を提供する(例えば上述の治療的方法の任意のものにおける使用のための)。一態様において、薬学的製剤は、本明細書で提供される抗体の任意のものと、薬学的に許容される担体とを含む。別の態様において、薬学的製剤は、本明細書で提供される抗体の任意のものと、少なくとも1つの(例えば後述するような)追加治療剤とを含む。
【0204】
本開示の抗体は、療法において、単独または他の剤との組み合わせのどちらでも使用され得る。例えば、本開示の抗体は、少なくとも1つの追加の治療剤と同時投与されてもよい。特定の態様において、追加治療剤は、細胞傷害剤である。
【0205】
上述したような併用療法は、併用投与(2つ以上の治療剤が、同じまたは別々の製剤に含まれる)、および個別投与を包含し、個別投与の場合、本開示の抗体の投与が追加治療剤の投与に先立って、と同時に、および/または、続いて、行われ得る。一態様において、本開示の抗体の投与および追加治療剤の投与は、互いに、約1か月以内、または約1、2、または3週間以内、または約1、2、3、4、5、または6日以内に行われる。本開示の抗体は、放射線療法と組み合わせて使用されることもできる。
【0206】
本開示の抗体(および、任意の追加治療剤)は、非経口投与、肺内投与、および経鼻投与、また局所的処置のために望まれる場合は病巣内投与を含む、任意の好適な手段によって投与され得る。非経口注入は、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、または皮下投与を含む。投薬は、投与が短期か長期かに一部応じて、例えば、静脈内注射または皮下注射などの注射によるなど、任意の好適な経路によってなされ得る。これらに限定されるものではないが、単回投与または種々の時点にわたる反復投与、ボーラス投与、および、パルス注入を含む、種々の投薬スケジュールが本明細書の考慮の内である。
【0207】
本開示の抗体は、優良医療規範 (good medical practice) に一致したやり方で、製剤化され、投薬され、また投与される。この観点から考慮されるべきファクターは、治療されているその特定の障害、治療されているその特定の哺乳動物、個々の患者の臨床症状、障害の原因、剤を送達する部位、投与方法、投与のスケジュール、および医療従事者に公知の他のファクターを含む。抗体は、必ずしもそうでなくてもよいが、任意で、問題の障害を予防するまたは治療するために現に使用されている1つまたは複数の剤とともに、製剤化される。そのような他の剤の有効量は、製剤中に存在する抗体の量、障害または治療のタイプ、および上で論じた他のファクターに依存する。これらは通常、本明細書で述べたのと同じ用量および投与経路で、または本明細書で述べた用量の約1から99%で、または経験的/臨床的に適切と判断される任意の用量および任意の経路で、使用される。
【0208】
疾患の予防または治療のために、本開示の抗体の適切な用量(単独で用いられるときまたは1つまたは複数の他の追加治療剤とともに用いられるとき)は、治療される疾患のタイプ、抗体のタイプ、疾患の重症度および経過、抗体が予防的目的で投与されるのか治療的目的で投与されるのか、薬歴、患者の臨床歴および抗体に対する応答、ならびに、主治医の裁量に依存するだろう。抗体は、患者に対して、1回で、または一連の処置にわたって、好適に投与される。疾患のタイプおよび重症度に応じて、例えば、1回または複数回の別々の投与によるにしても連続注入によるにしても、約1μg/kgから15 mg/kg(例えば、0.1mg/kg~10mg/kg)の抗体が、患者に対する投与のための最初の候補用量とされ得る。1つの典型的な1日用量は、上述したファクターに依存して、約1μg/kgから100mg/kg以上まで、幅があってもよい。数日またはより長くにわたる繰り返しの投与の場合、状況に応じて、治療は通常疾患症状の所望の抑制が起きるまで維持される。抗体の1つの例示的な用量は、約0.05mg/kg から約 10mg/kgの範囲内である。よって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kg、もしくは 10mg/kgの1つまたは複数の用量(またはこれらの任意の組み合わせ)が、患者に投与されてもよい。このような用量は、断続的に、例えば1週間毎にまたは3週間毎に(例えば、患者が約2から約20、または例えば約6用量の抗体を受けるように)、投与されてもよい。高い初回負荷用量の後に、1回または複数回の低用量が投与されてもよい。しかし、他の投薬レジメンも有用であり得る。この療法の経過は、従来の手法および測定法によって、容易にモニタリングされる。
【0209】
上述の製剤または治療的方法のいずれについても、本開示の抗体の代わりにまたはそれに追加して、本開示のイムノコンジュゲートを用いて実施してもよいことが、理解されよう。
【0210】
H.製品
本開示の別の局面において、上述の障害の治療、予防、および/または診断に有用な器材を含んだ製品が、提供される。製品は、容器、および当該容器上のラベルまたは当該容器に付属する添付文書を含む。好ましい容器としては、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、IV溶液バッグなどが含まれる。容器類は、ガラスやプラスチックなどの、様々な材料から形成されていてよい。容器は組成物を単体で保持してもよいし、症状の治療、予防、および/または診断のために有効な別の組成物と組み合わせて保持してもよく、また、無菌的なアクセスポートを有していてもよい(例えば、容器は、皮下注射針によって突き通すことのできるストッパーを有する静脈内投与用溶液バッグまたはバイアルであってよい)。組成物中の少なくとも1つの有効成分は、本開示の抗体である。ラベルまたは添付文書は、組成物が選ばれた症状を治療するために使用されるものであることを示す。さらに製品は、(a)第一の容器であって、その中に収められた本開示の抗体を含む組成物を伴う、第一の容器;および、(b)第二の容器であって、その中に収められたさらなる細胞傷害剤またはそれ以外で治療的な剤を含む組成物を伴う、第二の容器を含んでもよい。本開示のこの態様における製品は、さらに、組成物が特定の症状を治療するために使用され得ることを示す、添付文書を含んでもよい。あるいはまたは加えて、製品はさらに、注射用制菌水 (BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液、およびデキストロース溶液などの、薬学的に許容される緩衝液を含む、第二の(または第三の)容器を含んでもよい。他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、およびシリンジなどの、他の商業的観点またはユーザの立場から望ましい器材をさらに含んでもよい。
【0211】
上述の製品のいずれについても、本開示の抗体の代わりにまたはそれに追加して、本開示のイムノコンジュゲートを含んでもよいことが、理解されよう。
【実施例0212】
(実施例1)ヒト組織およびその遺伝子解析
(1-1)大腸癌組織、肺癌組織、隣接正常組織および正常組織の入手
分析対象とするヒト組織はAsterand社、ILS bio社、およびAll cells社から購入された。大腸癌組織および大腸癌組織に隣接する正常組織として、同一ドナー(ステージIIIまたはIV)由来の大腸癌組織および大腸癌組織に隣接する正常組織ペアを12セット(12ドナー由来合計24検体)、当該12ドナーのうち2ドナーからのリンパ節転移した癌組織を2検体ずつ加えて合計28検体を入手した。
【0213】
肺癌組織及び肺癌組織に隣接する正常組織として、肺腺癌(Lung adenocarcinoma)組織14検体および肺腺癌に隣接する正常組織10検体を入手した。このうち同一ドナー由来の癌組織と隣接正常組織は2セットあり、その他は同一ドナー由来のものではない。
正常組織として、心臓、肝臓、肺、腎臓、脾臓、大腸、骨髄の正常組織または隣接正常組織を3検体ずつ入手した。
【0214】
(1-2)ヒト肺癌組織のALK, RET融合遺伝子解析(RNA-seq解析)
実施例1-1で入手した肺癌組織がドライバー融合遺伝子(ALK, RET/ROS1)を持つかどうかを調べるためにRNA-seq解析(タカラバイオ株式会社)を行った。3mm程度の大きさの組織片2~3片から、 NucleoSpinTissue(マッハライ・ナーゲル社)を用いてメーカー推奨の方法でtotal RNAを抽出した。Total RNAサンプルからTruSeq RNA Sample Prep Kit v2(イルミナ社)を使用し、メーカー推奨の方法でDNAライブラリーを作製した。作製したDNAライブラリーを混合し、イルミナ社シーケンサーHiSeqを用いて、1レーン、100 base両末端シーケンス解析を実施し、シーケンサー付属のソフトウェアにより塩基配列(リード配列)を得た。融合遺伝子解析は、STAR-Fusion(https://github.com/STAR-Fusion/STAR-Fusion)を用いて行った。
その結果、入手した肺癌組織14サンプルのうち、RET/ROS1融合遺伝子を持つものはなく、ALK融合遺伝子を持つものが1例(485475RF)存在することが明らかとなった(表2)。
【0215】
(1-3)ヒト大腸癌組織および肺癌組織のドライバー変異解析(Exome-seq解析)
実施例1-1で入手した癌組織がドライバー変異(KRAS, EGFR, BRAF, ERBB2)を持つかどうかを調べるためにExome-seq解析(タカラバイオ株式会社)を行った。3mm程度の大きさの組織片2~3片から、NucleoSpinTissue(マッハライ・ナーゲル社)を用いてメーカー推奨の方法でゲノムDNAを抽出した。ゲノムDNAサンプルからSureSelect XT Human All Exon V6(Agilent社)を使用し、メーカー推奨の方法でDNAライブラリーを作製した。作製したDNAライブラリーを混合し、イルミナ社シーケンサーHiSeqを用いて、100 base両末端解析を実施し、シーケンサー付属のソフトウェアにより塩基配列(リード配列)を得た。変異解析はCLC Genomics Server(QIAGEN社)を用いて行った。
その結果、大腸癌組織では12ドナー由来のサンプル中、7例(1170614F, 1171659F, 39694FT, 39697FT, 39698FT, 39705FT, 40644FT)でKRASのドライバー変異を持つことが明らかとなった。また肺癌組織ではEGFRのドライバー変異を持つものが3例(1191924F, 1160304F, 1245371F)、BRAFのドライバー変異を持つものが2例(1186142F, 1209913F)、KRASのドライバー変異を持つものが3例(1177695F, 1185682F, 463102XF)存在することが明らかとなった(表2)。
【0216】
【表2】
検出されたドライバー変異に関して、表2にまとめた。ILS40636FM1、ILS40636FM2、ILS40644FM1、およびILS40644FM2はリンパ節に転移した癌組織の結果であり、その他は大腸癌および肺癌組織の結果である。
【0217】
(実施例2)ヒト組織のタンパク質発現解析(プロテオミクス解析)
実施例1-1で入手した組織ブロックを凍結状態のまま液体窒素が入った乳鉢に入れて、乳棒で叩き、大きさ3mm程度の組織片にした。組織片のうちの2~3片はチューブに移され、マルチビーズショッカー(安井器械)によって細かく粉砕された。粉砕された組織に組織溶解バッファー(2%デオキシコール酸/100mM重炭酸アンモニウム、Protease inhibitor cocktail (Roche), PhosSTOP (Roche))を添加し、アコースティックソルビライザー(Covaris社)またはBioruptor(ソニック・バイオ株式会社)を用いて超音波破砕し、15,000rpm、30minの遠心分離によって不溶物を除去して、上清を回収し、組織抽出液とした。骨髄はPBSで洗浄後、沈殿した細胞に組織溶解バッファーを加えて、他組織と同様にして組織抽出液を得た。
【0218】
組織抽出液中のタンパク質をジチオトレイトールにより還元、ヨードアセトアミドによりアルキル化した後、TCA/acetone沈殿によってタンパク質を沈殿させた。タンパク質を8M尿素/400mM重炭酸アンモニウム溶液で溶解し、タンパク質溶解液は蒸留水で4倍希釈され、希釈されたタンパク質溶解液に対してREDS(Rapid Enzyme Digestion System) (エーエムアール株式会社)を用いてリジルエンドペプチダーゼおよびトリプシンでタンパク質を消化し、ペプチド溶液を得た。ペプチド溶液はMonospin C18 (GL Science)を用いてメーカー推奨の方法により脱塩された。その後、脱塩されたペプチド溶液はPierceTM High pH Reversed-Phase Peptide Fractionation Kit (ThermoFisher Scientific)またはAssayMAP Bravo cartridge RP-S (Agilent)を用いてメーカー推奨の方法で分画され、おのおのの画分はnano-LC system (Ultimate3000, Dionex社)にQ-Exactive (ThermoFisher Scientific)を繋げたLC-MS解析システムで分析された。
LC-MS解析後のRaw dataを使用してMaxQuant (http://www.biochem.mpg.de/5111795/maxquant)を用いてデータベース検索を行い、タンパク質を同定し、定量値(iBAQ)を取得した。データベース検索は以下のパラメーターで行った。Taxonomy: uniprot human, Fixed modification: carbamidomethylation (C), Variable modification: oxidation (M); deamidation (NQ), Acetyl (protein N-term), FDR (protein, peptide) <1%。MaxQuantの出力ファイル”proteinGroups.txt”に対して以下の処理を行い、定量値を算出した。
1. 同じ遺伝子にアサインされているProtein groupのシグナル強度(Intensity)を合計し、遺伝子レベルのIntensityを算出する。
2. 遺伝子ごとに、トリプシン処理によって生じ得るフラグメント数でIntensityを正規化し、iBAQスコアを計算する。
3. サンプルごとに、スコアの平均値が1,000,000になるように正規化を実施。
【0219】
合計で10,000以上のタンパク質を同定し、各タンパク質のiBAQ値を得た。癌でのタンパク質発現が高く、隣接正常組織および正常組織で発現が低い細胞表面タンパク質を大腸癌から7タンパク質(SPINT2, MARVELD3, MANSC1, NOX1, SLC12A2, CDCP1, CEACAM5)、肺癌から10タンパク質(SPINT2, PVRL4, SEZ6L2, XPR1, FLVCR1, SLC7A5, STEAP1, MMP14, TNFRSF21, TMPRSS4)選抜し、標的抗原候補とした。
【0220】
選抜された候補のタンパク質の発現を図1-1~図1-16に示した。大腸癌サンプルの分析において、CEACAM5(配列番号:10)は現在臨床試験を実施中の抗原であり、抗原の発現プロファイルを比較する指標となる。 CEACAM5は正常組織、隣接正常組織でもある程度の発現が認められるが、癌ではほぼ全例でそれ以上に高発現となっていた。NOX1、MARVELD3、MANSC1は正常組織でのタンパク質発現は確認できず、KRAS変異を持つ3~4例の大腸癌組織において高発現(中央値以上)であり、大腸癌組織と隣接する正常組織における発現レベルとは大きな差が認められ、CEACAM5とは異なるタイプの発現プロファイルを示していた。SPINT2, SLC12A2, CDCP1は正常組織および大腸癌組織と隣接する正常組織である程度の発現が認められるが、大腸癌組織ではそれ以上に高発現となっており、CEACAM5と似たような発現プロファイルを示していた。肺癌サンプルの分析において、PVRL4(配列番号:11)は臨床試験が進行しており、抗原の発現プロファイルを比較する指標となる。PVRL4およびXPR1は正常組織でのタンパク質発現は確認できず、肺癌組織で高発現の癌特異性が極めて高い抗原だった。TMPRSS4およびTNFRSF21は正常組織での発現は認められなかったが、肺癌組織での発現量は中程度であった。SLC7A5, STEAP1, FLVCR1, SEZ6L2, MMP14およびSPINT2は正常組織および肺癌組織と隣接する正常組織である程度の発現が認められるが、肺癌組織ではそれ以上に高発現となっていた。
【0221】
(実施例3)大腸癌からの標的抗原候補MARVELD3のアイソフォーム発現解析
MARVELD3にはisoform1と2が存在することが知られており、細胞内領域のアミノ酸配列は非常によく似ているが、細胞外領域は大きく異なる(図2)。
【0222】
がん組織で高発現のものがどちらのアイソフォームかを調べるためにプロテオミクス解析において同定されたMARVELD3のペプチド断片のLC-MSにおけるピーク強度を確認した。同定ペプチドのリストおよび定量値は実施例1-2で解析したMaxQuantのoutputファイルの一つであるModificationSpecificPeptides.txtを使用した。アイソフォーム1, 2共通のペプチド断片に加えて、アイソフォーム2特異的断片はKRAS変異を持つ大腸癌組織7検体中4検体で検出されており(3回のLC-MS解析のうち2回以上)、隣接正常組織では3回中2回以上検出されているものはなかった(図3-1)。アイソフォーム1特異的断片はKRAS変異を持つ大腸癌組織7検体中2検体で検出された(図3-2)。したがってアイソフォーム2の方がより多くのKRAS変異を持つ大腸癌組織で高発現していると推察された。
【0223】
(実施例4)標的候補抗原の細胞表面局在解析
XPR-1, MARVELD3 (isoform2), NOX1の細胞表面局在を確認するために、Expi293細胞(ThermoFisher Scientific社)にmyc-tagを付加したXPR-1およびMARVELD3 (isoform2)をExpiFectamine(ThermoFisher Scientific社)を用いてメーカー推奨の方法で過剰発現させたもの、およびこれらの3タンパク質を高発現していると推察されるC2BBe1, SW403, SW1463, DMS79 (ATCC)およびHLC-1 細胞(Riken)を用いて細胞表面プロテオミクス解析を実施した。細胞はPBSで洗浄後、細胞膜不透過性のビオチン試薬(Sulfo-NHS-LC-biotin, ThermoFisher Scientific社)とインキュベートすることによって細胞表面タンパク質のN末端およびリジンの側鎖のアミノ基をビオチンラベルした。Covaris社のアコースティックソルビライザーまたはBioruptor(ソニック・バイオ株式会社)を用いて、回収した細胞を超音波破砕し、細胞抽出液を得た。
【0224】
細胞抽出液中のタンパク質をメタノール/クロロホルム法により沈殿させて、8M尿素/400mM重炭酸アンモニウム溶液に溶解した。ジチオトレイトールにより還元、ヨードアセトアミドによりアルキル化した後、トリプシンによりタンパク質を消化してペプチド溶液を得た。ペプチド溶液をNeutravidin FG beads(多摩川精機)と混合し、洗浄後、溶出して、ビオチン化ペプチドを精製した。
精製したビオチン化ペプチドはnano-LC system (Ultimate3000, Dionex社)にQ-Exactive (ThermoFisher Scientific)またはOrbitrap fusion Lumos (ThermoFisher Scientific)を繋げたLC-MS解析システムを用いて分析した。
LC-MS解析後のRaw dataを用いてMaxQuant (http://www.biochem.mpg.de/5111795/maxquant)を用いてデータベース検索を行い、ビオチン化ペプチドおよびタンパク質を同定し、定量値を取得した。データベース検索は以下のパラメーターで行った。Taxonomy: uniprot human, Fixed modification: carbamidomethylation (C), Variable modification: oxidation (M), Acetyl (Protein N-term), NHS-LC-biotin (N-term); NHS-LC-biotin (K), FDR (protein, peptide) <1%。同定ペプチドのリストおよび定量値はMaxQuantのoutputファイルの一つであるModificationSpecificPeptides.txtを使用した。この方法で検出されるビオチン化ペプチドの配列と発現量から、分析対象タンパク質が細胞膜に発現しているか否かを判別でき、細胞外領域の特定も可能である。
【0225】
XPR1過剰発現細胞からはアミノ酸番号1-108, 111-122, 159-171, 177-216, 423-448, 473-502, 660-670, 674-696のビオチン化ペプチドが検出されていた(図4)。またHLC-1あるいはDMS-79細胞の内在性タンパク質からアミノ酸番号177-190, 428-448, 660-670のビオチン化ペプチドが検出されていた(図4-1)。このことからXPR1は細胞表面に局在することが確認され、uniprotでは細胞内領域とされている領域が細胞外領域であることが示唆された。
【0226】
NOX1はC2BBe1, SW1463, あるいはSW403細胞からアミノ酸番号44-54, 131-161, 242-258のビオチン化ペプチドが検出されたため、細胞表面に局在することが確認された。(図4-2)。
【0227】
MARVELD3アイソフォーム2は過剰発現細胞からはアミノ酸番号101-111および163-198のビオチン化ペプチドが検出されたが、内在性タンパク質のビオチン化ペプチドは解析した細胞からは検出できなかった(図4-3)。MARVELD3アイソフォーム2の細胞外領域とされている部分はビオチンラベルされるリジンの数が少ないため、ビオチン化ペプチドを検出するのが難しいのかもしれない。
【0228】
(実施例5)細胞株のタンパク質発現解析(プロテオミクス解析)
HLC-1細胞(Riken), NCI-H2227細胞(ATCC), Caco-2細胞(Riken)は細胞溶解バッファー(1%NP-40, 50mMTris-Cl (pH7.5), 150mM NaCl, Protease inhibitor cocktail (Roche))に懸濁されて、アコースティックソルビライザー(Covaris社)により、超音波破砕され、細胞抽出液とされた。
細胞抽出液中のタンパク質はジチオトレイトールにより還元、ヨードアセトアミドによりアルキル化された後、メタノール/クロロホルム沈殿によって沈殿された。沈殿されたタンパク質は8M尿素/400mM重炭酸アンモニウム溶液で溶解され、蒸留水で4倍希釈された後、リジルエンドペプチダーゼおよびトリプシンで消化され、ペプチド溶液が得られた。ペプチド溶液はMonospin C18 (GL Science)を用いてメーカー推奨の方法により脱塩された。その後、脱塩されたペプチド溶液はAssayMAP Bravo cartridge RP-S (Agilent)を用いてメーカー推奨の方法で分画され、おのおのの画分はnano-LC system (ThermoFisher Scientific)にQ-Exactive (ThermoFisher Scientific)を繋げたLC-MS解析システムで分析された。
LC-MS解析後のRaw dataはMaxQuant (http://www.biochem.mpg.de/5111795/maxquant)を用いてデータベース検索が行われ、タンパク質が同定され、定量値(iBAQ、Intensity Based Absolute Quantification)が得られた。データベース検索は以下のパラメーターで行われた。Taxonomy: uniprot human, Fixed modification: carbamidomethylation (C), Variable modification: oxidation (M); deamidation (NQ), Acetyl (protein N-term), FDR (protein, peptide) <1%。MaxQuantの出力ファイル”proteinGroups.txt”に記載されているXPR1およびMARVELD3のiBAQ値を図5-1および図5-2に示した。
【0229】
(実施例6)抗XPR1抗体の作製
ヒトXPR1全長(配列番号:1)のC末端にTTペプチド配列(FNNFTVSFWLRVPKVSASHLE、配列番号:22)を付加した分子(ヒトXPR1-TT、塩基配列番号23、アミノ酸配列番号24)を発現するプラスミドベクターが作製された。作製されたプラスミドベクターにより、4羽のニュージーランドホワイトラビット(北山ラベス)がgene gun法およびin vivo electroporation法にて6回免疫され、最終免疫から1週間後のウサギから末梢血単核球及び脾細胞が回収された。表面IgG陽性B細胞が回収されたウサギ由来細胞からPE標識抗ウサギIgG抗体(Southern biotech)を用いてMACSで濃縮され培養された。培養されたB細胞の中からヒトXPR1に結合する抗体を分泌するB細胞がマイクロマニピュレーターCellCelector (ALS)付属の蛍光顕微鏡で同定され、マイクロマニピュレーターCellCelector (ALS)にてマイクロウェルプレートに回収された。回収されたB細胞からRT-PCRにてウサギ免疫グロブリンの可変領域を構成する遺伝子がクローニングされた。これらのウサギ免疫グロブリンの可変領域のDNA断片は,組換え抗体を作製するために、IgG定常領域を含む発現ベクターに挿入された。抗ヒトXPR1抗体は当業者公知の方法にて調製された。調製された抗ヒトXPR1抗体は、表3に示された。
【0230】
【表3】
【0231】
抗ヒトCD3抗体として、T細胞受容体を構成するCD3ε鎖に結合してT細胞受容体の活性化シグナルを誘導するCE115TR(重鎖可変領域配列番号:65、軽鎖可変領域配列番号:66)は当業者公知の方法で調製された。本発明者らは、当業者公知の方法で抗ヒトXPR1抗体と抗CD3抗体から成る二重特異性抗体を調製した。調製された抗ヒトXPR1/抗ヒトCD3二重特異性抗体は、表4に示された。二重特異性抗体の抗ヒトXPR1側の重鎖定常領域配列は配列番号:83、抗ヒトXPR1側の軽鎖定常領域配列は配列番号:85、抗ヒトCD3側の重鎖定常領域配列は配列番号:84、抗ヒトCD3側の軽鎖定常領域配列は配列番号:86で示す配列である。
【0232】
【表4】
【0233】
(実施例7)抗ヒトXPR1抗体のヒトXPR1への結合の確認
ヒトXPR1全長(アミノ酸配列番号:1)のC末端にMycタグ配列(EQKLISEEDL、配列番号:25)を付加した分子 (ヒトXPR1-Myc、塩基配列番号:26、アミノ酸配列番号:27)を哺乳細胞で発現するプラスミドベクターが構築された。構築されたプラスミドベクターをExpi293細胞(Thermo Fisher Scientific)に導入することで、Expi293細胞に一過性にタンパク質を発現させた。同時にコントロールとして空プラスミドベクターが導入されたExpi293細胞も調製された。空プラスミドベクターが導入されたExpi293細胞がCellTrace FarRed(Thermo Fisher Scientific)で染色された後、ヒトXPR1-Mycを発現させたExpi293細胞と混ぜてから、実施例6で作製された抗ヒトXPR1抗体と反応させた。その後、anti-human IgG Fc cross-adsorbed Alexa488 (Invitrogen)を反応させ、抗ヒトXPR1抗体を染色した。死細胞はDAPI(sigma-aldrich)で染色した。抗体を反応させた細胞はFACS Aria III(Becton, Dickinson and Company)で測定された。得られたデータはFlowJo ver.10にて解析された。DAPIの蛍光で染色されなかった生細胞画分はCellTrace FarRedで染色された画分(空プラスミドベクターが導入された細胞)とCellTrace FarRedで染色されなかった画分(ヒトXPR1-Myc発現プラスミドベクターが導入された細胞)に分けられ、それぞれに対するAlexa488の染色を確認したところ、CellTrace FarRedで染色されなかった画分(ヒトXPR1-Myc発現プラスミドベクターが導入された細胞)がCellTrace FarRedで染色された画分(空プラスミドベクターが導入された細胞)に対し優位なAlexa488染色が認められた(図6)。このことから、実施例6で作製された抗ヒトXPR1抗体は細胞に発現したヒトXPR1に結合することが確認できた。
【0234】
(実施例8)抗ヒトXPR1/抗ヒトCD3二重特異性抗体の細胞傷害活性アッセイ
ヒトPBMC(末梢血単核細胞)を用いたLDH細胞傷害活性アッセイ
実施例6で作製された抗ヒトXPR1/抗ヒトCD3二重特異性抗体の細胞傷害活性はLDHリリース法(LDH Cytotoxicity Detection Kit: TAKARA)にて評価された。まず、培養液(RPMI1640に10%FBS添加した溶液)で終濃度4倍に希釈した各濃度(0.04, 0.004, 0.0004mg/mL)の抗体溶液を96ウェルU底プレートの各ウェルに50μLずつ添加した。次に、標的細胞として、HLC-1が1x10E5細胞/mL、NCI-H2227が2x10E5細胞/mLとなる様調整され、各ウェルの最終細胞数が1x10^4細胞/ウェルとなる様に各100μL/ウェル、または50μL/ウェルで播種され、U底プレートは室温にて15分間静置された。エフェクター細胞として、ヒトPBMC(末梢血単核細胞)は4x10E6細胞/mL、または2x10E6細胞/mLとなるよう調整され、HLC-1細胞が播種されたウェルに4x10E6細胞/mLのもの、NCI-H2227細胞が播種されたウェルに2x10E6細胞/mLのものが、各ウェルに50μL添加された。その後、U底プレートが5%炭酸ガスインキュベータ中において37℃で約24時間程度静置され、遠心された。U底プレートにおいて、前記標的細胞とエフェクター細胞と抗体が添加されたウェル以外、培養液のみが添加されたウェル、標的細胞とエフェクター細胞のみが添加された(抗体が添加されていない)ウェル、標的細胞とエフェクター細胞とTriton X-100が添加された(抗体が添加されていない)ウェルも準備された。
U底プレートの各ウェル中の培養上清100μLが96ウェル平底プレートに移された。Catalyst溶液が1mLのH2Oに溶解され、Catalyst溶液:dye溶液が1:45となるようにdye溶液と混合された。Catalyst溶液およびdye溶液の混合溶液は培養上清が移された96ウェル平底プレートに分注され、平底プレートが室温で15-30分静置された。
各ウェルの492nmの吸光度が測定され、同時に測定された対照波620nmにおける吸光度を使用して492-620nm吸光度が算出された。各ウェルの492-620nm吸光度を以下の式に当てはめ、細胞増殖阻害率(Cytotoxicity)が算出された。
A: 標的細胞とエフェクター細胞と抗体が添加されたウェルの492-620nm吸光度
B: 標的細胞とエフェクター細胞のみが添加されたウェルの492-620nm吸光度
C: 標的細胞とエフェクター細胞とTriton X-100が添加されたウェルの492-620nm吸光度
D: 培養液のみのウェル(ブランク)の492-620nm吸光度平均値

抗ヒトXPR1/抗ヒトCD3二重特異性抗体は容量依存的な細胞増殖阻害活性を示した(図7図8)。
【0235】
(実施例9)抗ヒトMARVELD3 isoform2抗体の作製
ヒトMARVELD3 isoform2(塩基配列番号:28、アミノ酸配列番号:4)を発現するプラスミドベクターが構築された。構築されたプラスミドベクターにより、4羽のニュージーランドホワイトラビット(北山ラベス)がgene gun法およびin vivo electroporation法にて6回免疫され、最終免疫から1週間後のウサギから末梢血単核球及び脾細胞が回収された。表面IgG陽性B細胞が回収されたウサギ由来細胞からPE標識抗ウサギIgG抗体(Southern biotech)を用いてMACSで濃縮され、培養された。培養されたB細胞の中からヒトMARVELD3 isoform2に結合する抗体を分泌するB細胞がマイクロマニピュレーターCellCelector (ALS)付属の蛍光顕微鏡で同定され、マイクロマニピュレーターCellCelector (ALS)にてマイクロウェルプレートに回収された。回収されたB細胞からRT-PCRにてウサギ免疫グロブリンの可変領域を構成する遺伝子がクローニングされた。これらのウサギ免疫グロブリンの可変領域のDNA断片は,組換え抗体を作製するために、IgG定常領域を含む発現ベクターに挿入された。抗ヒトMARVELD3 isoform2抗体は当業者公知の方法にて調製された。調製された抗ヒトMARVELD3 isoform2抗体は、表5に示された。
【0236】
【表5】
【0237】
抗ヒトCD3抗体として、T細胞受容体を構成するCD3ε鎖に結合してT細胞受容体の活性化シグナルを誘導するCE115TR(重鎖可変領域配列番号:65、軽鎖可変領域配列番号:66)は当業者公知の方法で調製された。本発明者らは、当業者公知の方法で抗ヒトMARVELD3 isoform2抗体と抗CD3抗体から成る二重特異性抗体を調製した。調製された抗ヒトMARVELD3 isoform2/抗ヒトCD3二重特異性抗体は、表6に示された。二重特異性抗体の抗ヒトMARVELD3 isoform2側の重鎖定常領域配列は配列番号:83、抗ヒトMARVELD3 isoform2側の軽鎖定常領域配列は配列番号:85、抗ヒトCD3側の重鎖定常領域配列は配列番号:84、抗ヒトCD3側の軽鎖定常領域配列は配列番号:86で示す配列である。
【0238】
【表6】
【0239】
(実施例10)抗ヒトMARVELD3 isoform2抗体のMARVELD3 isoform2への結合の確認
ヒトMARVELD3 isoform2全長(アミノ酸配列番号:4)のN末端メチオニンの後にMycタグ配列(EQKLISEEDL、配列番号:25)を付加した分子(Myc-ヒトMARVELD3、塩基配列番号29、アミノ酸配列番号30)を哺乳細胞で発現するプラスミドベクターがExpi293細胞(Thermo Fisher Scientific)に導入され、Expi293細胞に一過性にタンパク質を発現させた。同時にコントロールとして空プラスミドベクターが導入されたExpi293細胞も調製された。空プラスミドベクターが導入されたExpi293細胞がCellTrace FarRed(Thermo Fisher Scientific)で染色された後、ヒトMARVELD3 isoform2を発現させたExpi293細胞と混ぜてから、実施例9で作製された抗ヒトMARVELD3 isoform2抗体と反応させた。その後、anti-human IgG Fc cross-adsorbed Alexa488 (Invitrogen)を反応させ、抗ヒトMARVELD3 isoform2抗体を染色した。死細胞はDAPI(sigma-aldrich)で染色した。抗体を反応させた細胞はFACS Aria III(Becton, Dickinson and Company)で測定された。得られたデータはFlowJo ver.10にて解析された。DAPIの蛍光で染色されなかった生細胞画分をCellTrace FarRedで染色された画分(空プラスミドベクター導入細胞)とCellTrace FarRedで染色されなかった画分(ヒトXPR1-Myc発現プラスミドベクター導入細胞)に分けて、それぞれに対するAlexa488の染色を確認したところ、CellTrace FarRedで染色されなかった画分(ヒトMARVELD3 isoform2発現プラスミドベクターが導入された細胞)がCellTrace FarRedで染色された画分(空プラスミドベクターが導入された細胞)に対し優位なAlexa488染色が認められた(図9)。このことから、実施例9で作製された抗ヒトMARVELD3 isoform2抗体は細胞に発現したヒトMARVELD3 isoform2に結合することが確認できた。
【0240】
(実施例11)抗ヒトMARVELD3 isoform2/抗ヒトCD3二重特異性抗体の細胞傷害活性アッセイ
ヒト末梢血単核細胞を用いた細胞傷害活性アッセイ
実施例9で作製された抗ヒトMARVELD3 isoform2/抗ヒトCD3二重特異性抗体の細胞傷害活性は、xCELLigenceリアルタイムセルアナライザー(Roche Diagnostics)を使用して決定された細胞増殖阻害率に基づいて評価された。使用した標的細胞は、Caco-2細胞であった。 まずE-Plate 96(Roche Diagnostics)プレートの各ウェルに培地が50μLずつ加えられた。Caco-2細胞はディッシュから剥がされ、1.3 x 103細胞/ウェル(50μl /ウェル)で播種された。次に、xCELLigenceリアルタイムセルアナライザーを使用して、生細胞アッセイが開始された。翌日、プレートがxCELLigenceリアルタイムセルアナライザーから取り外され、さまざまな濃度(0.1、1.0、10μg/mL)で調製された各抗体50μLがプレートの各ウェルに加えられた。50μLのヒトPBMC懸濁液(5 x 104細胞/ウェル)が更に加えられた。プレートが再びxCELLigenceリアルタイムセルアナライザーに配置され、生細胞アッセイが開始された。反応は、37℃、5%炭酸ガス下で実施された。細胞増殖阻害率(%)は、ヒトPBMCを添加してから72時間後のセルインデックス値を使用して、以下に示す式に従って決定された。計算に使用されるセルインデックス値は、抗体の添加直前のセルインデックス値が1になるように正規化された。
Aは抗体非添加ウェル(ターゲット細胞とヒトPBMCのみ)の平均セルインデックス値を示し、Bは各ウェルの平均セルインデックス値を示す。測定は3回繰り返された。

抗KLH/CD3二重特異性抗体、TR01H113//MDA0279、TR01H113//MDA0314の細胞傷害活性は、PBMC(末梢血単核細胞)を使用して測定された。コントロールである抗KLH/CD3二重特異性抗体に対し、TR01H113//MDA0279、およびTR01H113//MDA0314は高い細胞増殖阻害率を示した(図10)。
【0241】
(実施例12)ヒトNOX1タンパク質の調製
ヒトNOX1全長配列(アミノ酸配列番号:2)のC末端にTwin-Strepタグ配列 (WSHPQFEKGGGSGGGSGGSAWSHPQFEK、配列番号:31) を付加した分子(ヒトNOX1-Strep、アミノ酸配列番号:34)をコードする遺伝子が合成され、哺乳細胞発現用ベクターにクローニングされた。この発現ベクターをExpi293細胞(Thermo Fisher Scientific)に導入することで、一過性にタンパク質を発現させた。
得られた細胞は遠心により回収され、終濃度1% Fos-choline 14/ 0.2% Cholesterol hemisuccinateが添加され、ヒトNOX1--Strepタンパク質が可溶化された。可溶化タンパク質サンプルはStrep-Tactin XT Superflow (IBA GmbH) を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製された。ヒトNOX1--Strepタンパク質を含む画分が回収され、終濃度が2 mg/mLのAmphipol A8-35溶液 (Anatrace) が添加された。直後にBio-Beads SM-2 Adsorbent Media (BIO-RAD) を添加し、4℃、12-16時間インキュベートすることで、Fos-choline 14/ Cholesterol hemisuccinateを除去するとともに、ヒトNOX1--Strepタンパク質がAmphipol A8-35に再構成された。再構成されたヒトNOX1--Strepタンパク質サンプルはSuperdex 200 increase 10/300カラム (GE Healthcare) を用いたゲル濾過クロマトグラフィーにより精製された。ヒトNOX1--Strepタンパク質を含む画分が回収され、50 kDa MWCOの限外濾過膜を用いて濃縮された。濃縮後のサンプルに対して、終濃度が2 mg/mLのAmphipol A8-35が添加され、最終調製品とした。
【0242】
(実施例13)抗ヒトNOX1抗体の作製
実施例12で調製されたヒトNOX1-Strepタンパク質を用いて2羽のニュージーランドホワイトラビット(北山ラベス)が4回免疫され,最終免疫から6日後のウサギから末梢血単核球及び脾細胞が回収された。ヒトNOX1(配列番号:2)の1番から564番目のアミノ酸のN末端にNeurexin 1B-deltaのシグナル配列と膜貫通領域を融合させ(Cell. 2018 Nov 1;175(4):1131-1140.e11.)、C末端にMycタグ配列(EQKLISEEDL)を付加した分子(NOX1_Nx1B_564-myc、塩基配列番号:32、アミノ酸配列番号:33)をコードする遺伝子が合成され、哺乳細胞発現用プラスミドベクターにクローニングされた。構築されたプラスミドベクターを用いて、8羽のニュージーランドホワイトラビット(北山ラベス)がgene gun法およびTropis (PharmaJet)デバイスにより6回免疫され,最終免疫から6日もしくは7日後のウサギから脾細胞が回収された。表面IgG陽性B細胞が回収されたウサギ由来細胞からPE標識抗ウサギIgG抗体(Southern biotech)を用いてMACSおよびFACSで濃縮され培養された。培養されたB細胞の中からヒトNOX1に結合する抗体を分泌するB細胞がマイクロマニピュレーターCellCelector (ALS)付属の蛍光顕微鏡で同定され、マイクロマニピュレーターCellCelector (ALS)にてマイクロウェルプレートに回収された。回収されたB細胞からRT-PCRにてウサギ免疫グロブリンの可変領域を構成する遺伝子がクローニングされた。これらのウサギ免疫グロブリンの可変領域のDNA断片は、組換え抗体を作製するために、IgG定常領域を含む発現ベクターに挿入された。抗ヒトNOX1抗体は当業者公知の方法にて調製された。調製された抗ヒトNOX1抗体は、表7に示された。
【0243】
【表7】
【0244】
抗ヒトCD3抗体として、T細胞受容体を構成するCD3ε鎖に結合してT細胞受容体の活性化シグナルを誘導するCE115TR(重鎖可変領域配列番号:65、軽鎖可変領域配列番号:66)は当業者公知の方法で調製された。本発明者らは、当業者公知の方法で抗ヒトNOX1抗体と抗CD3抗体から成る二重特異性抗体を調製した。調製された抗ヒトNOX1/抗ヒトCD3二重特異性抗体は、表8に示された。二重特異性抗体の抗ヒトNOX1側の重鎖定常領域配列は配列番号:83、抗ヒトXPR1側の軽鎖定常領域配列は配列番号:85、抗ヒトCD3側の重鎖定常領域配列は配列番号:84、抗ヒトCD3側の軽鎖定常領域配列は配列番号:86で示す配列である。
【0245】
【表8】
【0246】
(実施例14)抗ヒトNOX1抗体のヒトNOX1への結合の確認
ヒトNOX1-Strep(アミノ酸配列番号:34)を発現するプラスミドベクターもしくはNOX1_Nx1B_564-myc(アミノ酸配列番号:33) を発現するプラスミドベクターをExpi293細胞(Thermo Fisher Scientific)に導入することで、一過性にタンパク質を発現させた。同時にコントロールとして空プラスミドベクターが導入されたExpi293細胞も調製された。これらの細胞は4%パラフォルムアルデヒドおよび1%ジギトニンで処理された。空プラスミドベクターが導入されたExpi293細胞がCellTrace FarRed(Thermo Fisher Scientific)で染色され、ヒトNOX1-Strepを発現するプラスミドベクターが導入されたExpi293細胞がCellTrace FarRedおよびCellTrace Violet(Thermo Fisher Scientific)で染色された後、NOX1_Nx1B_564-mycを発現させたExpi293細胞と混ぜてから、実施例13で作製された抗ヒトNOX1抗体と反応させた。
その後、anti-human IgG Fc cross-adsorbed Alexa488(Invitrogen)を反応させ、抗ヒトNOX1抗体を染色した。抗体を反応させた細胞はFACS Aria III(Becton, Dickinson and Company)で測定された。得られたデータはFlowJo ver.10にて解析された。CellTrace FarRedで染色された画分(空プラスミドベクター導入細胞)、染色されなかった画分(ヒトNOX1-Strep導入細胞)、CellTrace FarRedおよびCellTrace Violet(NOX1_Nx1B_564-myc導入細胞)で染色された画分に分けられ、それぞれに対するAlexa488の染色が確認された。染色されなかった画分(ヒトNOX1-Strep導入細胞)、CellTrace FarRedおよびCellTrace Violet(NOX1_Nx1B_564-myc導入細胞)で染色された画分でCellTrace FarRedで染色された画分(空プラスミドベクターが導入された細胞)に対し優位な染色が認められた(図11)。このことから、実施例13で作製された抗ヒトNOX1抗体は細胞に発現したヒトNOX1に結合することが確認できた。
【0247】
前述の発明は、明確な理解を助ける目的のもと、実例および例示を用いて詳細に記載したが、本明細書における記載および例示は、本開示の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。本明細書で引用したすべての特許文献および科学文献の開示は、その全体にわたって、参照により明示的に本明細書に組み入れられる。
【産業上の利用可能性】
【0248】
本開示の抗体は、細胞傷害活性およびインターナライズ活性のうちの少なくとも1つを有し、がん(例えば、肺がん、大腸がん)の治療および予防のうちの一方または両方に有用である。
図1-1】
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図1-4】
図1-5】
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図1-11】
図1-12】
図1-13】
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図2
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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【手続補正書】
【提出日】2024-08-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
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