(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001569
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】点火不良予兆判定システム、及びそれを備えたバーナ
(51)【国際特許分類】
F23N 5/24 20060101AFI20231227BHJP
F23N 5/26 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
F23N5/24 A
F23N5/26 101H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100304
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】南 哲
(72)【発明者】
【氏名】志賀 俊久
【テーマコード(参考)】
3K068
【Fターム(参考)】
3K068NA01
(57)【要約】
【課題】完全に点火ができなくなる前に、点火不良の予兆を良好に判定する。
【解決手段】点火手段SRにより点火される時に、点火手段SRへ供給される電流値を計測する電流計測手段Amと、点火手段SRによるバーナ10への点火時に、電流計測手段Amにて計測された電流が、点火手段SRにて適正に点火される場合の適正電流値から導出される適正電流上限閾値を超える場合、点火不良の予兆が発生している可能性があると判定する点火不良予兆判定部S2を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変圧器にて昇圧された電圧が付与される点火手段により、燃料ガスと燃焼用空気との混合気に点火するバーナの点火不良予兆判定システムであって、
前記点火手段により点火される時に、前記点火手段へ供給される電流値を計測する電流計測手段と、
前記点火手段による前記バーナへの点火時に、前記電流計測手段にて計測された前記電流値が、前記点火手段にて適正に点火される場合の適正電流値から導出される適正電流上限閾値を超える場合、点火不良の予兆が発生している可能性があると判定する点火不良予兆判定部を有する点火不良予兆判定システム。
【請求項2】
前記点火不良の予兆の判定期間としての一の予兆判定期間において、前記変圧器により前記点火手段へ複数回の前記電圧の付与を実行する電圧付与部を備え、
前記点火不良予兆判定部は、一の前記予兆判定期間において、前記電圧付与部にて前記電圧が付与されたタイミングで、前記電流計測手段にて計測される前記電流値が、前記適正電流上限閾値を少なくとも2回以上連続して超える場合、前記点火不良の予兆が発生している可能性が高いと判定する請求項1に記載の点火不良予兆判定システム。
【請求項3】
前記点火不良の予兆の判定期間としての一の予兆判定期間において、前記変圧器により前記点火手段へ複数回の前記電圧の付与を実行する電圧付与部を備え、
前記点火不良予兆判定部は、一の前記予兆判定期間において、前記電圧付与部にて前記電圧が付与されたタイミングで、前記電流計測手段にて計測される前記電流値のうち、最初の零より大きい電流値は、前記点火不良の予兆の判定対象から除外する請求項1又は2に記載の点火不良予兆判定システム。
【請求項4】
前記点火不良の予兆の判定期間としての一の予兆判定期間において、前記変圧器により前記点火手段へ複数回の前記電圧の付与を実行する電圧付与部を備え、
前記点火不良予兆判定部は、一の前記予兆判定期間において、前記電圧付与部にて前記電圧が付与されたタイミングで、前記電流計測手段にて計測される前記電流値が、少なくとも2回以上連続して、前記適正電流上限閾値以下となると共に、当該適正電流上限閾値よりも低く且つ前記点火手段にて前記バーナへ適正に点火される場合の1回目の点火時点での電流値を除く電流値を基準として設定される適正電流下限値を超える値となる場合、当該予兆判定期間における点火を、前記点火不良の予兆の判定対象から除外する請求項1又は2に記載の点火不良予兆判定システム。
【請求項5】
前記点火手段にて前記バーナへ適正に点火される場合とは、前記点火手段としてのスパークロッドのスパークギャップが通常範囲に設定され、且つ前記点火手段の周囲温度が通常使用温度である場合であり、
前記適正電流上限閾値は、前記点火不良の予兆の判定期間としての一の予兆判定期間において、前記変圧器により複数回の前記電圧の付与を実行する電圧付与部を備える構成で前記電圧付与部にて前記電圧が付与されるタイミングで、前記電流計測手段にて最初に計測される値を除く零より高い電流値の平均値よりも高い値に設定されている請求項1又は2に記載の点火不良予兆判定システム。
【請求項6】
前記点火不良予兆判定部にて、前記点火不良の予兆が発生している可能性がある、又は前記点火不良の予兆が発生している可能性が高いと判定された場合に、外部に報知する報知部を備える請求項1又は2に記載の点火不良予兆判定システム。
【請求項7】
少なくとも、前記電流計測手段にて計測される電流値、及び前記点火不良予兆判定部による判定結果を、通信回線により受信して記憶する管理サーバを備える請求項1又は2に記載の点火不良予兆判定システム。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の点火不良予兆判定システムを備えたバーナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器にて昇圧された電圧が付与される点火手段により、燃料ガスと燃焼用空気との混合気に点火するバーナの点火不良予兆判定システム、及びそれを備えたバーナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示すように、スパークロッド等の点火手段により、燃料ガスと燃焼用空気との混合気に点火するバーナにおいて、バーナの火炎の有無を判定することにより点火不良の発生を判定する点火不良判定手段としての火炎センサと、当該点火不良判定手段にて点火不良を判定した場合に外部に報知する報知手段とを備えたバーナが知られている(特許文献1を参照)。
上記特許文献1に開示の技術では、点火不良が発生したと判定したときに報知手段により外部にアラーム等で報知されるため、点火不良の発生を知った作業員が現場にて対応することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示の技術では、点火不良の発生によりガス漏洩が継続することは防止できるものの、点火不良が発生した後の事後対応が基本となるため、現場では、突発的に発生した点火不良に伴うトラブルに対応する必要がある。結果、例えば、生産を急ぐ時期等にバーナの稼働を停止してトラブル対応をする必要があり、安定した稼働状態を保つために改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、点火不良の予兆を良好に判定して、安定したバーナの稼働状態を保つことが可能な点火不良予兆判定システム、及びそれを備えたバーナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための点火不良予兆判定システムは、
変圧器にて昇圧された電圧が付与される点火手段により、燃料ガスと燃焼用空気との混合気に点火するバーナの点火不良予兆判定システムであって、その特徴構成は、
前記点火手段により点火される時に、前記点火手段へ供給される電流値を計測する電流計測手段と、
前記点火手段による前記バーナへの点火時に、前記電流計測手段にて計測された前記電流値が、前記点火手段にて適正に点火される場合の適正電流値から導出される適正電流上限閾値を超える場合、点火不良の予兆が発生している可能性があると判定する点火不良予兆判定部を有する点にある。
【0007】
本発明の発明者らは、不着火等を含む点火不良が発生する前には、その予兆として、点火手段によるバーナの点火時に点火手段に供給される電流値が高くなる傾向にあることを新たに見出した。この要因の一つとしては、スパークロッド等から構成される点火手段の先端部が、経年使用により摩耗して短くなることにより、点火手段の先端部と接地部との間の距離であるスパークギャップが大きくなることが挙げられる。
発明者らは、
図6に示すように、点火時に点火手段としてのスパークロッドへ導かれる電流値(
図6でスパーク二次電流)とスパークギャップとの関係を、実験により取得している。当該
図6によれば、スパークギャップが一定距離以下(
図6でLa)であれば、スパークギャップが増加するに従って電流値が増加していることがわかる。ここで、スパークギャップが一定距離を超える(
図6でLb)と、絶縁状態となり電流値が零となるが、本発明に係る点火不良予兆判定システムでは、当該絶縁状態となる前に、点火不良の予兆を判定する。
上記特徴構成によれば、点火手段へ供給される電流値を計測する電流計測手段を備えると共に当該電流計測手段にて計測された電流値を逐次取得可能な点火不良予測判定部を備えた構成において、点火不良予兆判定部が、点火手段によるバーナへの点火時に、電流計測手段にて計測された電流値が、点火手段にて適正に点火される場合の適正電流値から導出される適正電流上限閾値を超える場合、点火不良の予兆が発生している可能性があると判定するので、スパークギャップが大きくなる等の要因により、点火不良が発生し易くなっていること(点火不良の予兆)を、点火手段に供給される電流値を用いて適切に判定できる。
尚、点火手段には、電源からの電力が変圧器にて昇圧されて供給されるのであるが、上述の電流計測手段にて計測される電流値は、変圧器の上流側(電源と変圧器との間)、又は変圧器の下流側(変圧器と点火手段との間)の何れで計測されたものであっても構わない。
以上より、点火不良の予兆を良好に判定することが可能な点火不良予兆判定システムを実現できる。
【0008】
点火不良予兆判定システムの更なる特徴構成は、
前記点火不良の予兆の判定期間としての一の予兆判定期間において、前記変圧器により前記点火手段へ複数回の前記電圧の付与を実行する電圧付与部を備え、
前記点火不良予兆判定部は、一の前記予兆判定期間において、前記電圧付与部にて前記電圧が付与されたタイミングで、前記電流計測手段にて計測される前記電流値が、前記適正電流上限閾値を少なくとも2回以上連続して超える場合、前記点火不良の予兆が発生している可能性が高いと判定する点にある。
【0009】
発明者らは、鋭意検討したところ、一の予兆判定期間(例えば、後述する実験では、約10秒程度の期間)において、点火手段に複数回に亘って電圧を付与する場合、点火不良の予兆があるときには、
図4に示すように、点火手段に供給される電流値Aaが通常よりも高くなる回数が2回以上となる傾向があるという知見を得た。
上記特徴構成によれば、点火不良予兆判定部は、一の予兆判定期間において、電圧付与部にて電圧が付与されたタイミングで、電流計測手段にて計測される電流値が、適正電流上限閾値を少なくとも2回以上連続して超える場合、点火不良の予兆が発生している可能性が高いと判定するから、点火不良の予兆が発生している可能性を、より精度良く判定できる。
【0010】
点火不良予兆判定システムの更なる特徴構成は、
前記点火不良の予兆の判定期間としての一の予兆判定期間において、前記変圧器により前記点火手段へ複数回の前記電圧の付与を実行する電圧付与部を備え、
前記点火不良予兆判定部は、一の前記予兆判定期間において、前記電圧付与部にて前記電圧が付与されたタイミングで、前記電流計測手段にて計測される前記電流値のうち、最初の零より大きい電流値は、前記点火不良の予兆の判定対象から除外する点にある。
【0011】
発明者らは、一の予兆判定期間において、電圧付与部にて電圧が付与されたタイミングで、電流計測手段にて計測される電流値のうち、
図5に示すように、最初の零より大きい電流値Abは、点火不良の予兆がない場合であっても、例外的に、比較的高くなる場合があるという知見を得た。
上記特徴構成によれば、点火不良予兆判定部は、一の予兆判定期間において、電圧付与部にて電圧が付与されたタイミングで、電流計測手段にて計測される電流値のうち、最初の零より大きい電流値は、点火不良の予兆の判定対象から除外するから、点火不良の予兆がない場合が、点火不良の予兆があると誤判定されることを防止でき、点火不良の予兆の判定の精度をより向上できる。
【0012】
点火不良予兆判定システムの更なる特徴構成は、
前記点火不良の予兆の判定期間としての一の予兆判定期間において、前記変圧器により前記点火手段へ複数回の前記電圧の付与を実行する電圧付与部を備え、
前記点火不良予兆判定部は、一の前記予兆判定期間において、前記電圧付与部にて前記電圧が付与されたタイミングで、前記電流計測手段にて計測される前記電流値が、少なくとも2回以上連続して、前記適正電流上限閾値以下となると共に、当該適正電流上限閾値よりも低く且つ前記点火手段にて前記バーナへ適正に点火される場合の1回目の点火時点での電流値を除く電流値を基準として設定される適正電流下限値を超える値となる場合、当該予兆判定期間における点火を、前記点火不良の予兆の判定対象から除外する点にある。
【0013】
発明者らは、
図5に示すように、点火手段へ供給される電流値は、予め設定可能な適正電流上限閾値(
図5で閾値α)以下で且つ適正電流下限閾値(
図5で閾値β)を超える電流値(
図5で電流値Ac)が、2回以上連続して続く場合には、点火手段による点火が適切に実行されているという知見を得た。
上記特徴構成の如く、点火不良予兆判定部が、一の予兆判定期間において、電圧付与部にて電圧が付与されたタイミングで、電流計測手段にて計測される電流値が、少なくとも2回以上連続して、適正電流上限閾値以下となると共に、当該適正電流上限閾値よりも低く且つ点火手段にてバーナへ適正に点火される場合の1回目の点火時点での電流値を除く電流値を基準として設定される適正電流下限値を超える値となる場合、当該予兆判定期間における点火を、点火不良の予兆の判定対象から除外することで、より一層、点火不良の予兆の判定精度を向上できる。
【0014】
点火不良予兆判定システムの更なる特徴構成は、
前記点火手段にて前記バーナへ適正に点火される場合とは、前記点火手段としてのスパークロッドのスパークギャップが通常範囲に設定され、且つ前記点火手段の周囲温度が通常使用温度である場合であり、
前記適正電流上限閾値は、前記点火不良の予兆の判定期間としての一の予兆判定期間において、前記変圧器により複数回の前記電圧の付与を実行する電圧付与部を備える構成で前記電圧付与部にて前記電圧が付与されるタイミングで、前記電流計測手段にて最初に計測される値を除く零より高い電流値の平均値よりも高い値に設定されている点にある。
【0015】
発明者らは、点火手段にてバーナへ適正に点火される場合とは、点火手段としてのスパークロッドのスパークギャップが通常範囲に設定され、且つ点火手段の周囲温度が通常使用温度である場合であり、適正電流上限閾値は、点火不良の予兆の判定期間としての一の予兆判定期間において、変圧器により複数回の電圧の付与を実行する電圧付与部を備える構成で電圧付与部にて電圧が付与されるタイミングで、電流計測手段にて最初に計測される値を除く零より高い電流値の平均値(例えば、
図5で電流値Acの平均値)よりも高い値に設定されていることが好ましいことを、発明者らは実験的に確認している。
【0016】
点火不良予兆判定システムの更なる特徴構成は、
前記点火不良予兆判定部にて、前記点火不良の予兆が発生している可能性がある、又は前記点火不良の予兆が発生している可能性が高いと判定された場合に、外部に報知する報知部を備える点にある。
【0017】
上記特徴構成によれば、点火不良の予兆が発生している可能性ある(或いは可能性が高い)ことが判明した時点で、その事実を報知する報知部が設けられているから、バーナにて点火ができなくなる前に、バーナの使用者が点火不良の予兆がある事実を知ることができ、余裕を持って、バーナのメンテナンス等を実施する時期を設定できる。結果、バーナが設けられる設備の安定稼働に寄与できる。
【0018】
点火不良予兆判定システムの更なる特徴構成は、
少なくとも、前記電流計測手段にて計測される電流値、及び前記点火不良予兆判定部による判定結果を、通信回線により受信して記憶する管理サーバを備える点にある。
【0019】
上記特徴構成によれば、例えば、複数のバーナの点火不良の予兆があるか否か等を、管理サーバにて一元管理でき、バーナのメンテナンス等を含めた効果的な管理を実現できる。
【0020】
上記目的を達成するためのバーナの特徴構成は、これまで説明してきた点火不良予兆判定システムを備える点にある。
【0021】
上記特徴構成によれば、これまで説明してきた点火不良予兆判定システムが奏するものと同一の作用効果を奏するバーナを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態に係る点火不良予兆判定システム、及びそれを備えたバーナの概略構成図である。
【
図2】点火手段によるバーナへの点火と消火を連続的に実行する場合の電流値(スパーク二次電流)、及びスパークロッド側面温度の経時変化を示すグラフ図である。
【
図3】点火不良の予兆がない場合における点火時の電流値の変化を示すグラフ図である。
【
図4】点火不良の予兆がある場合における点火時の電流値の変化を示すグラフ図である。
【
図5】点火不良の予兆がない場合における点火時の例外的な電流値の変化を示すグラフ図である。
【
図6】スパークギャップとスパーク二次電流の関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実施形態に係る点火不良予兆判定システム100、及びそれを備えたバーナ10は、点火不良の予兆を良好に判定することが可能なものに関する。
以下、
図1~6に基づいて、実施形態に係る点火不良予兆判定システム100、及びそれを備えたバーナ10について説明する。
【0024】
当該実施形態に係るバーナ10は、工業炉等に用いられる燃焼用バーナ10として利用可能なものであり、例えば、
図1に示すように、燃料ガスG(例えば、都市ガス13A)を通流する燃料ガス通流配管L1と、当該燃料ガス通流配管L1に連通接続され燃料ガスGを燃焼領域へ流出する燃料流出筒NLと、ブロア(図示せず)等にて圧送される燃焼用空気Aを通流する燃焼用空気通流配管L2と、当該燃焼用空気通流配管L2に連通接続され燃焼用空気Aを燃焼領域へ導くバーナ本体筒11と、燃料ガスGと燃焼用空気Aとの混合気に点火するスパークロッドSRとを備えて構成されている。
【0025】
スパークロッドSRは、電源Dから供給される電力の電圧を昇圧するトランスT(変圧器の一例)を介して電力供給を受け、カンタル棒等から構成される先端棒状部材TRの先端部TRaから、接地側としての燃料流出筒NLの先端部NLaへとスパークする形態で、混合気に点火する点火手段として働く。
スパークロッドSRでは、混合気への点火が適切に実施できなくなる点火不良が発生する場合がある。当該点火不良は、例えば、バーナ10が長期間に亘って使用されることにより、カンタル棒等から構成される先端棒状部材TRが経年劣化して短くなり、適正位置(例えば、
図1でXで示す部分)でスパークしないことが一つの原因と考えられている。他の原因としては、先端棒状部材TRの先端部TRa以外における絶縁が低下し、碍子割れ等が原因により、先端部TRa以外(先端棒状部材TRの基端側)で混合気が存在しない部分でスパークが発生すること等が挙げられる。
また、スパークロッドSRの周囲温度が上昇した場合にも、絶縁低下が発生することにより、通常は絶縁抵抗が高くスパークが発生しない箇所でスパークすることも点火不良の原因となり得る。ここで、スパーク二次電流は、
図6に示すように、スパークギャップが比較的短い場合(
図6でLa)、当該スパークギャップが大きくなるに従って大きくなり、スパークギャップが一定値以上に長くなる(
図6でLb)と、零になることが実験により判明している。
【0026】
当該実施形態に係るバーナ10では、このような点火不良の予兆の発生を判定するべく、以下に示す点火不良予兆判定システム100を備えて構成されている。
当該点火不良予兆判定システム100は、点火不良の予兆の判定期間としての一の予兆判定期間において、トランスTによりスパークロッドSRへ複数回の電圧の付与を実行する電圧付与部S1と、スパークロッドSRによる点火時にスパークロッドSRへ供給される電流を計測する電流計Am(電流計測手段の一例)と、スパークロッドSRによる点火時に電流計Amにて計測される電流値から点火不良の予兆を判定する点火不良予兆判定部S2と、スパークロッドSRによる点火時に電流計Amにて計測される電流値及び点火不良予兆判定部S2の判定結果等を記憶する記憶部S4と、スパークロッドSRによる点火時に電流計Amにて計測される電流値及び点火不良予兆判定部S2の判定結果等を、通信回線Nを介して外部の管理サーバKに送信する通信部S3と、点火不良予兆判定部S2にて点火不良の予兆が発生している可能性がある(又は点火不良の予兆が発生している可能性が高い)と判定された場合に外部に報知する警報器やモニタとしての(報知部H)とを備えて構成されている。
尚、電流計Amとしては、クランプメータ等が好適に用いられ、当該実施形態においては、トランスTとスパークロッドSRとの間に設けられている。
当該実施形態では、上述した電圧付与部S1、点火不良予兆判定部S2、記憶部S4、通信部S3は、ハードウェアとソフトウェアとが協働する形態で構成される制御装置Sにて実現される。
【0027】
ちなみに、管理サーバKでは、一のバーナ10からのデータ(点火時における電流値、点火不良の予兆の判定結果等)のみならず、複数のバーナ10からのデータを記憶し、点火不良の予兆を統合的に管理する。
【0028】
発明者らは、鋭意検討した結果、点火不良が生じる前には、スパークロッドSRに供給される電流値に、通常値とは異なる値となる変化が生じるという知見を得た。
当該実施形態に係る点火不良予兆判定システム100は、当該知見により以下の如く、点火不良の予兆を判定する。尚、点火不良予兆判定システム100を説明するにあたり、以下では、点火不良の予兆が発生しているスパークロッドSRを用いて、予兆判定期間(例えば、10秒未満の期間:
図3、4、5に図示される複数の点火時点を含む期間)において1秒毎に複数回の点火を行う(スパークロッドSRに電圧を付与する)点火期間と、点火を行わない(スパークロッドSRに電圧を付与しない)停止期間とを、繰り返し実行した場合のスパーク二次電流を経時的にプロットしたグラフ図(
図2~5)を用いる。ちなみに、
図2では、スパークロッド側面温度も図示しており、当該スパークロッド側面温度が大きく低下している時点は、点火不良が生じている時点である。
【0029】
さて、点火不良予兆判定部S2は、スパークロッドSRによる点火時に、電流計Amにて計測された電流値が、スパークロッドSRにて適正に点火される場合の適正電流値から導出される適正電流上限値(
図2、3、4でα)を超える場合、点火不良の予兆が発生している可能性があると判定する。
より好ましくは、
図4に示されるように、点火不良予兆判定部S2は、スパークロッドSRによる点火時に、電流計Amにて計測された電流値が、適正電流上限値(
図2、3、4でα)を少なくとも2回以上連続して超える場合、点火不良の予兆が発生している可能性があると判定する。ちなみに、
図4に示す例では、点火時点における電流値Aaが、4回連続してαを超えている。
【0030】
ここで、スパークロッドSRにて適正に点火される場合とは、スパークロッドSRのスパークギャップが通常範囲(例えば、3mm以上5mm以下の範囲)に設定され、且つスパークロッドSRの周囲温度が通常使用温度である場合を意味するものとする。
更に、適正電流上限閾値(
図2、3、4でα)は、スパークロッドSRにて適正に点火される場合に、一の予兆判定期間において、トランスTにて電圧が付与されるタイミング(以下、点火時点と呼ぶ場合がある)で、電流計Amにて最初に計測される零より高い値を除く電流値の平均値(例えば、
図5で電流値Acの平均値)よりも高い値に設定される。これは、発明者らが、鋭意検討した結果、スパークロッドSRにて適正に点火される場合、
図5に示すように、一の予兆判定期間において、最初の点火時点において計測される電流値(
図5でAb)が比較的高い値となるという知見によるものである。尚、当該実施形態では、電流値が0.05A未満の値は、実質的には電流が流れていないものとして扱うものとする。
【0031】
このように、適正電流上限閾値を設定することで、点火不良予兆判定部S2は、少なくとも、スパークロッドSRにて適正に点火される場合であって、点火時点に
図3に示すような電流値が比較的低い傾向になる場合を、点火不良の予兆が発生している可能性がないものと判定でき、スパークロッドSRにて適正に点火されない場合であって、点火時点に
図4に示すような電流値が比較的高い傾向になる場合を、点火不良の予兆が発生している可能性があるものと判定できる。
ここで、適正電流上限閾値は、スパークロッドSRにて適正に点火されない場合(
図4に示す場合)の点火時点の電流値に基づいても設定することが好ましく、例えば、スパークロッドSRにて適正に点火されない場合に、一の予兆判定期間における点火時点の電流値のうち最高値未満、又は一の予兆判定期間における点火時点の電流値のうち少なくとも最高値を含む高値(
図4でAa)の複数点の平均値未満の値に設定されることが好ましい。
【0032】
更に、発明者らは、
図5に示すように、スパークロッドSRにて適正に点火される場合であっても、例外的に、一の予兆判定期間における最初の零より大きい電流値(
図5でα)が、比較的高い値を示すことがあるという知見を発見した。
このような場合に対応するべく、点火不良予兆判定部S2は、一の予兆判定期間において、トランスTにて電圧が付与されたタイミングで、電流計Amにて計測される電流のうち、最初の零より大きい電流値は、点火不良の予兆の判定対象から除外する。
【0033】
更に、当該実施形態では、
図5に示すように、点火不良予兆判定部S2は、一の予兆判定期間において、トランスTにて電圧が付与されたタイミングで、電流計Amにて計測される電流が少なくとも2回以上連続して、適正電流上限閾値(
図5でα)以下となると共に、適正電流上限閾値よりも低く且つスパークロッドSRにてバーナ10へ適正に点火される場合の1回目の点火時点での電流値(
図5でAb)を除く電流値(
図5でAc)を基準として設定される適正電流下限値(
図5でβ)を超える値となる場合、当該予兆判定期間における点火を、点火不良の予兆の判定対象から除外する。これは、スパークロッドSRにてバーナ10へ適正に点火される場合の1回目の点火時点での電流値(
図5でAb)を除く電流値(
図5でAc)は、安定した約一定の電流値となることが実験的に確認されているためである。
尚、スパークロッドSRにてバーナ10へ適正に点火される場合の1回目の点火時点での電流値(
図5でAb)を除く電流値(
図5でAc)は、1回目の点火時点での電流値の直後の2回以上4回以下の電流値であることが好ましく、適正電流下限値(
図5でβ)は、これらの電流値の平均値未満の値として設定されることが好ましい。
【0034】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、制御装置Sには、スパークロッドSRによる点火時に電流計Amにて計測される電流値及び点火不良予兆判定部S2の判定結果等を記憶する記憶部S4を備える構成を示したが、当該記憶部S4は備えなくても構わない。
更に、点火不良予兆判定部S2は、制御装置Sではなく、管理サーバKに設けられる構成を採用しても構わない。
【0035】
(2)上記獅子形態では、電流計Amにて計測される電流値は、トランスTの上流側(電源DとトランスTとの間)、又はトランスTの下流側(トランスTとスパークロッドSRとの間)の何れで計測されたものであっても構わない。
【0036】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の点火不良予兆判定システム、及びそれを備えたバーナは、完全に点火ができなくなる前に、点火不良の予兆を良好に判定することが可能な点火不良予兆判定システム、及びそれを備えたバーナとして、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0038】
10 :バーナ
100 :点火不良予兆判定システム
Am :電流計
A :燃焼用空気
G :燃料ガス
H :報知部
K :管理サーバ
S1 :電圧付与部
S2 :点火不良予兆判定部
SR :スパークロッド
T :トランス