(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156912
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】識別装置、識別方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 21/32 20130101AFI20241029BHJP
A61B 5/1171 20160101ALI20241029BHJP
【FI】
G06F21/32
A61B5/1171 100
A61B5/1171 200
A61B5/1171
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024130062
(22)【出願日】2024-08-06
(62)【分割の表示】P 2020521814の分割
【原出願日】2019-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2018103301
(32)【優先日】2018-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100188813
【弁理士】
【氏名又は名称】川喜田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100202142
【弁理士】
【氏名又は名称】北 倫子
(74)【代理人】
【識別番号】100218981
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】安藤 貴真
(72)【発明者】
【氏名】是永 継博
(57)【要約】
【課題】より認証精度を向上させ得る技術を提供する。
【解決手段】装置は、光源と、イメージセンサと、プロセッサと、を備え、前記プロセッサは、前記光源に、ドットパターンをユーザの顔に投影する照射光を出射させ、前記イメージセンサに、前記顔からの光を検出させて画像信号を生成させ、前記画像信号に基づき、前記顔からの光の表面反射成分に基づく第1識別処理を実行し、前記画像信号に基づき、前記顔からの光の内部散乱成分に基づく第2識別処理を実行し、前記第1識別処理の結果、および前記第2識別処理の結果に基づき、前記ユーザの認証を行う。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
イメージセンサと、
プロセッサと、
を備え、
前記プロセッサは、
前記光源に、ドットパターンをユーザの顔に投影する照射光を出射させ、
前記イメージセンサに、前記顔からの光を検出させて画像信号を生成させ、
前記画像信号に基づき、前記顔からの光の表面反射成分に基づく第1識別処理を実行し、
前記画像信号に基づき、前記顔からの光の内部散乱成分に基づく第2識別処理を実行し、
前記第1識別処理の結果、および前記第2識別処理の結果に基づき、前記ユーザの認証を行う、装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、前記第1識別処理が成功したと判定し、かつ前記第2識別処理が成功したと判定した場合に、前記ユーザの認証が成功したと判定する、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記光源および前記イメージセンサは、車に備えられており、
前記プロセッサは前記ユーザの認証が成功したと判定した場合に、前記車を始動させる、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記プロセッサは、
前記表面反射成分に基づき、前記顔の凹凸を示す情報を生成し、
前記凹凸を示す情報に基づいて、前記第1識別処理を実行する、
請求項1または2に記載の装置。
【請求項5】
前記照射光の波長は、赤色から近赤外線の波長範囲に含まれる波長である、請求項1または2に記載の装置。
【請求項6】
少なくとも1つのプロセッサが実行する処理方法であって、
光源に、ドットパターンをユーザの顔に投影する照射光を出射させることと、
イメージセンサに、前記顔からの光を検出させて画像信号を生成させることと、
前記画像信号に基づき、前記顔からの光の表面反射成分に基づく第1識別処理を実行することと、
前記画像信号に基づき、前記顔からの光の内部散乱成分に基づく第2識別処理を実行することと、
前記第1識別処理の結果、および前記第2識別処理の結果に基づき、前記ユーザの認証を行うことと、を含む方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法を実行するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、識別装置、識別方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
個人識別の分野では、認証は、パスワード認証から生体認証へと遷移している。パスワード認証では、ユーザが入力したパスワードに基づいて認証が行われる。一方、生体認証では、人間の身体的特徴に関する情報に基づいて認証が行われる。生体認証には、忘却、漏洩、または総当り攻撃のリスクが少ないという利点がある。生体認証では、例えば、ユーザの体の一部を光で照射し、反射光を観察することにより、個人識別の情報が取得される。
【0003】
特許文献1は、ユーザの生体認証の精度を向上させる方法を開示している。特許文献1に記載の方法では、指紋認証と静脈認証とを組み合わせて、ユーザの生体認証が行われる。具体的には、ユーザの指の表面が、指紋認証用の900nmの波長の光と、静脈認証用の750nmの光とで照射される。それらの反射光に基づいてユーザの認証が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、より認証精度を向上させ得る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る識別装置は、光源と、イメージセンサと、ユーザの身体の特徴を示す生体データが格納されたメモリと、プロセッサと、を備える。前記プロセッサは、前記光源に、前記ユーザに照射されるパルス幅が0.2ns以上1μs以下のパルス光を出射させ、前記イメージセンサに、前記ユーザから戻った反射パルス光の少なくとも一部を検出させ、前記反射パルス光の前記少なくとも一部の強度の2次元分布に応じた信号を出力させ、前記信号と、前記生体データとを照合することにより、前記ユーザを識別する。
【発明の効果】
【0007】
本開示の技術によれば、より精度の高い生体認証が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】
図1Aは、本実施形態における識別装置の一例を模式的に示す図である。
【
図1B】
図1Bは、イメージセンサに到達する光の強度の時間変化の一例を示す図である。
【
図1C】
図1Cは、入力パルス光の幅を横軸に、センサ検出光量を縦軸に表した図である。
【
図1D】
図1Dは、イメージセンサの1つの画素の概略的な構成の一例を示す図である。
【
図1E】
図1Eは、イメージセンサの構成の一例を示す図である。
【
図1F】
図1Fは、1フレーム内の動作の一例を示す図である。
【
図1G】
図1Gは、制御回路による動作の概略を示すフローチャートである。
【
図2A】
図2Aは、光源から矩形パルス光が発せられてユーザから戻ってきた光がイメージセンサに到達する光信号の一例を表す図である。
【
図2B】
図2Bは、光源から矩形パルス光が発せられてユーザから戻ってきた光がイメージセンサに到達する光信号の他の例を表す図である。
【
図3A】
図3Aは、表面反射成分を検出する場合のタイミングチャートの一例を示す図である。
【
図3B】
図3Bは、内部散乱成分を検出する場合のタイミングチャートの一例を示す図である。
【
図4A】
図4Aは、光源からユーザに投影される2次元パターン光の分布の一例を模式的に示す図である。
【
図4B】
図4Bは、光源からユーザに投影される2次元パターン光の分布の他の例を模式的に示す図である。
【
図4C】
図4Cは、光源からユーザに投影される2次元パターン光の分布のさらに他の例を模式的に示す図である。
【
図5A】
図5Aは、一般的なカメラによってユーザを撮影している様子を模式的に示す図である。
【
図5B】
図5Bは、本実施形態における表面反射成分によるユーザの撮影の一例を模式的に示す図である。
【
図5C】
図5Cは、本実施形態における内部散乱成分によるユーザの撮影の一例を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、間接TOF法によってパルス光の往復時間を計測する原理を説明する図である。
【
図7】
図7は、本実施形態におけるTOF法によるユーザの撮影の一例を模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、制御回路が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、本実施形態における識別装置を自動車の車室内に搭載した一例を模式的に示す図である。
【
図10】
図10は、本実施形態における識別装置をモバイル端末に適用した一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0010】
本開示において、回路、ユニット、装置、部材又は部の全部又は一部、又はブロック図の機能ブロックの全部又は一部は、半導体装置、半導体集積回路(IC)、又はLSI(large scale integration)を含む一つ又は複数の電子回路によって実行されてもよい。LSI又はICは、一つのチップに集積されてもよいし、複数のチップを組み合わせて構成されてもよい。例えば、記憶素子以外の機能ブロックは、一つのチップに集積されてもよい。ここでは、LSIまたはICと呼んでいるが、集積の度合いによって呼び方が変わり、システムLSI、VLSI(very large scale integration)、若しくはULSI(ultra large scale integration)と呼ばれるものであってもよい。LSIの製造後にプログラムされる、Field Programmable Gate Array(FPGA)、又はLSI内部の接合関係の再構成又はLSI内部の回路区画のセットアップができるreconfigurable logic deviceも同じ目的で使うことができる。
【0011】
さらに、回路、ユニット、装置、部材又は部の全部又は一部の機能又は操作は、ソフトウエア処理によって実行することが可能である。この場合、ソフトウエアは一つ又は複数のROM、光学ディスク、ハードディスクドライブなどの非一時的記録媒体に記録され、ソフトウエアが処理装置(processor)によって実行されたときに、そのソフトウエアで特定された機能が処理装置(processor)および周辺装置によって実行される。システム又は装置は、ソフトウエアが記録されている一つ又は複数の非一時的記録媒体、処理装置(processor)、及び必要とされるハードウエアデバイス、例えばインターフェース、を備えていても良い。
【0012】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0013】
(実施の形態)
[1.識別装置]
まず、本開示の実施形態における識別装置100の構成について、
図1Aから
図1Gを用いて説明する。
【0014】
図1Aは、本実施形態における識別装置100の一例を模式的に示す図である。識別装置100は、光源10と、イメージセンサ20と、メモリ25と、制御回路30と、信号処理回路40とを備える。イメージセンサ20は、複数の光電変換素子22および複数の電荷蓄積部24を含む。本明細書において、制御回路30および信号処理回路40をまとめて、「プロセッサ」と称することがある。
【0015】
光源10は、ユーザ1の頭部に照射されるパルス光を出射する。イメージセンサ20は、ユーザ1の頭部から戻ってきたパルス光の少なくとも一部を検出する。制御回路30は、光源10およびイメージセンサ20を制御する。信号処理回路40は、イメージセンサ20から出力された信号を処理する。
【0016】
本実施形態では、制御回路30は、光源10を制御する光源制御部32と、イメージセンサ20を制御するセンサ制御部34とを含む。光源制御部32は、光源10から出射されるパルス光の強度、パルス幅、出射タイミング、および/または波長を制御する。センサ制御部34は、イメージセンサ20の各画素における信号蓄積のタイミングを制御する。
【0017】
以下、各構成要素をより詳細に説明する。
【0018】
[1-1.光源10]
光源10は、ユーザ1の頭部、例えば額に光を照射する。光源10から出射されてユーザ1に到達した光は、ユーザ1の表面で反射される表面反射成分I1と、ユーザ1の内部で散乱される内部散乱成分I2とに分かれる。内部散乱成分I2は、生体内部で1回反射もしくは散乱、または多重散乱する成分である。ユーザ1の額を光で照射する場合、内部散乱成分I2は、額の表面から奥に8mmから16mmほどの部位、例えば脳に到達し、再び識別装置100に戻る成分を指す。表面反射成分I1は、直接反射成分、拡散反射成分、および散乱反射成分の3つの成分を含む。直接反射成分は、入射角と反射角とが等しい反射成分である。拡散反射成分は、表面の凹凸形状によって拡散して反射する成分である。散乱反射成分は、表面近傍の内部組織によって散乱して反射する成分である。ユーザ1の額を光で照射する場合、散乱反射成分は、表皮内部で散乱して反射する成分である。以降、本開示では、ユーザ1の表面で反射する表面反射成分I1は、これら3つの成分を含むものとする。表面反射成分I1および内部散乱成分I2は、反射または散乱によって進行方向が変化し、その一部がイメージセンサ20に到達する。
【0019】
光源10は、制御回路30からの指示に従い、パルス光を所定の時間間隔または所定のタイミングで複数回繰り返し発生させる。光源10が発生させるパルス光は、例えば立ち下り期間がゼロに近い矩形波であり得る。立ち下り期間とは、パルス光の強度が減少を開始してから減少が終了するまでの期間である。パルス光の立ち下り期間における成分を、パルス光の後端とも称する。一般に、ユーザ1に入射した光は、様々な経路でユーザ1内を伝搬し、時間差を伴ってユーザ1の表面から出射する。このため、パルス光の内部散乱成分I2の後端は広がりを有する。被検部が額である場合、内部散乱成分I2の後端の広がりは、4ns程度である。このことを考慮すると、パルス光の立ち下り期間は、例えばその半分以下である2ns以下に設定され得る。立ち下り時間は、さらにその半分の1ns以下であってもよい。一方、パルス光の立ち上り期間における成分は、表面反射成分I1の検出に用いられ得る。立ち上り期間とは、パルス光の強度が増加を開始してから増加が終了するまでの期間である。パルス光の立ち上り期間における成分を、パルス光の前端とも称する。
【0020】
光源10は、LDなどのレーザなどの光源と、拡散板との組み合わせによって形成してもよい。レーザを用いることにより、時間応答性が高い光出力が可能になる。時間応答性が高い光出力は、鋭い立ち上り特性、または立ち下り特性の波形を有する。立ち上り特性および立ち下り特性は、それぞれ、Tr特性およびTf特性とも呼ばれる。拡散板を光源10の前に設置することにより、ユーザ1を2次元的に光で照射することもできる。
【0021】
光源10が発する光の波長は、例えば650nm以上950nm以下の波長範囲に含まれる任意の波長であり得る。この波長範囲は、赤色から近赤外線の波長範囲に含まれる。本明細書では、可視光のみならず赤外線についても「光」の用語を使用する。上記の波長範囲は、「生体の窓」と呼ばれており、生体内の水分および皮膚に比較的吸収されにくいという性質を有する。生体を検出対象にする場合、上記の波長範囲の光を使用することにより、検出感度を高くすることができる。
【0022】
本実施形態の識別装置100では、非接触でユーザ1を測定するため、網膜への影響を考慮して設計された光源10が用いられ得る。例えば、各国で策定されているレーザ安全基準のクラス1を満足する光源10が用いられ得る。クラス1が満足されている場合、被爆放出限界(AEL)が1mWを下回るほどの低照度の光がユーザ1に照射される。なお、光源10自体はクラス1を満たしていなくてもよい。例えば、拡散板またはNDフィルタなどが光源10の前に設置されて光が拡散あるいは減衰されることによってレーザ安全基準のクラス1が満たされていてもよい。
【0023】
従来、生体内部の深さ方向において異なる場所における吸収係数または散乱係数などの情報を区別して検出するために、ストリークカメラが使用されていた。例えば、特開平4-189349は、そのようなストリークカメラの一例を開示している。これらのストリークカメラでは、所望の空間分解能で測定するために、パルス幅がフェムト秒またはピコ秒の極超短パルス光が用いられていた。なお、本明細書において「パルス幅」とは、パルスの半値全幅を意味する。従来のストリークカメラを使用した方法に対し、本実施形態における識別装置100は、表面反射成分I1と内部散乱成分I2とを区別して検出することができる。したがって、光源10が発するパルス光は、極超短パルス光である必要はなく、パルス幅を任意に選択できる。
【0024】
額を光で照射する場合、内部散乱成分I2の光量は、表面反射成分I1の光量の数千分の1から数万分の1程度の非常に小さい値になり得る。さらに、レーザの安全基準を考慮すると、照射できる光の光量が極めて小さくなり、内部散乱成分I2の検出は非常に難しくなる。その場合でも、光源10が、比較的パルス幅の大きいパルス光を発生させれば、時間遅れを伴う内部散乱成分I2の積算量を増加させることができる。それにより、検出光量を増やし、SN比を向上させることができる。
【0025】
光源10は、例えばパルス幅が3ns以上のパルス光を発する。一般に、脳などの生体組織内で散乱された光の時間的な広がりは4ns程度である。
図1Bは、入力パルス光の幅が0ns、3ns、および10nsのそれぞれの場合において、イメージセンサ20に到達する光量の時間変化の一例を示している。
図1Bに示すように、光源10からのパルス光の幅を広げるにつれて、ユーザ1から戻ったパルス光の後端に現れる内部散乱成分I2の光量が増加する。
図1Cは、入力パルス光の幅を横軸に、イメージセンサ20で検出される光の光量を縦軸に表した図である。イメージセンサ20は、電子シャッタを備える。
図1Cの結果は、パルス光の後端がユーザ1の表面で反射されてイメージセンサ20に到達した時刻から1ns経過した後に電子シャッタを開いた条件で得られた。この条件を選択した理由は、パルス光の後端が到達した直後は、内部散乱成分I2に対する表面反射成分I1の比率が高いためである。
図1Cに示すように、光源10が発するパルス光のパルス幅を3ns以上にすると、イメージセンサ20で検出される光の光量を最大化することができる。
【0026】
また、光源10および電子シャッタの駆動回路によるタイミング制御の分解能は、0.2ns程度である。そのため、光源10のパルス幅は、例えば0.2ns以上に設定される。
【0027】
光源10は、パルス幅5ns以上、さらには10ns以上のパルス光を発光してもよい。一方、パルス幅が大きすぎても使用しない光が増えて無駄となる。よって、光源10は、例えば、パルス幅50ns以下のパルス光を発生させる。あるいは、光源10は、パルス幅30ns以下、さらには20ns以下のパルス光を発光してもよい。
【0028】
なお、光源10の照射パターンとしては、照射領域内において、均一な強度分布であってよい。これは以下の理由による。本実施形態における識別装置100では、時間的に表面反射成分I1が分離・低減される。これにより、ユーザ1上の照射点直下であるNull点においても内部散乱成分I2を検出することができる。したがって、本実施形態における識別装置100では、ユーザ1の被検部を空間的に広い範囲にわたって照射することにより、測定解像度を高めることができる。
【0029】
[1-2.イメージセンサ20]
イメージセンサ20は、光源10から出射され、ユーザ1で反射または散乱した光を受光する。イメージセンサ20は、2次元に配置された複数の光検出セルを有し、ユーザ1の2次元情報を一度に取得する。これにより、ユーザ1の被検部をスライドして検出するラインセンサと比較して、比較的短時間でユーザ1の2次元情報を取得することができる。本明細書において、光検出セルを「画素」とも称する。イメージセンサ20は、例えば、CCDイメージセンサまたはCMOSイメージセンサなどの任意の撮像素子である。
【0030】
イメージセンサ20は、電子シャッタを有する。電子シャッタは、撮像のタイミングを制御する回路である。本実施形態では、制御回路30におけるセンサ制御部34が、電子シャッタの機能を有する。電子シャッタは、受光した光を有効な電気信号に変換して蓄積する1回の信号蓄積の期間と、信号蓄積を停止する期間とを制御する。信号蓄積期間は、「露光期間」と称することもできる。以下の説明において、露光期間の幅を、「シャッタ幅」と称することがある。1回の露光期間が終了し次の露光期間が開始するまでの時間を、「非露光期間」と称することがある。以下、露光している状態を「OPEN」、露光を停止している状態を「CLOSE」と称することがある。
【0031】
イメージセンサ20は、電子シャッタによって露光期間および非露光期間をサブナノ秒、例えば、30psから1nsの範囲で調整できる。距離測定を目的としている従来のTOF(Time Of Flight)カメラは、被写体の明るさの影響を補正するため、光源10から出射され被写体で反射されて戻った光の全てを検出する。したがって、従来のTOFカメラでは、シャッタ幅が光のパルス幅よりも大きい必要があった。これに対し、本実施形態の識別装置100では、被写体の光量を補正する必要がない。このため、シャッタ幅がパルス幅よりも大きい必要はない。よって、シャッタ幅を、例えば、1ns以上30ns以下の値に設定できる。本実施形態の識別装置100によれば、シャッタ幅を縮小できるため、検出信号に含まれる暗電流の影響を低減することができる。
【0032】
ユーザ1の額を光で照射する場合、内部での光の減衰率が非常に大きい。例えば、入射光に対して出射光が、100万分の1程度にまで減衰し得る。このため、内部散乱成分I2を検出するには、1パルスの照射だけでは光量が不足する場合がある。レーザ安全性基準のクラス1での照射では特に光量が微弱である。この場合、光源10がパルス光を複数回発光し、それに応じてイメージセンサ20も電子シャッタによって複数回露光することによって検出信号を積算して感度を向上することができる。
【0033】
以下、イメージセンサ20の構成例を説明する。
【0034】
イメージセンサ20は、撮像面上に2次元的に配列された複数の画素を備え得る。各画素は、例えばフォトダイオードなどの光電変換素子と、1つまたは複数の電荷蓄積部とを備え得る。以下、各画素が、光電変換によって受光量に応じた信号電荷を発生させる光電変換素子と、パルス光の表面反射成分I1によって生じた信号電荷を蓄積する電荷蓄積部と、パルス光の内部散乱成分I2によって生じた信号電荷を蓄積する電荷蓄積部とを備える例を説明する。以下の例では、制御回路30は、イメージセンサ20に、ユーザ1の頭部から戻ったパルス光中の立ち下り開始前の部分を検出させることにより、表面反射成分I1を検出させる。制御回路30はまた、イメージセンサ20に、ユーザ1の頭部から戻ったパルス光中の立ち下り開始後の部分を検出させることにより、内部散乱成分I2を検出させる。光源10は、例えば2種類の波長の光を出射する。
【0035】
図1Dは、イメージセンサ20の1つの画素201の概略的な構成の一例を示す図である。なお、
図1Dは、1つの画素201の構成を模式的に示しており、実際の構造を必ずしも反映していない。この例における画素201は、光電変換を行うフォトダイオード203と、電荷蓄積部である第1の浮遊拡散層(Floating Diffusion)204、第2の浮遊拡散層205、第3の浮遊拡散層206、および第4の浮遊拡散層207と、信号電荷を排出するドレイン202とを含む。
【0036】
1回のパルス光の出射に起因して各画素に入射したフォトンは、フォトダイオード203によって信号電荷である信号エレクトロンに変換される。変換された信号エレクトロンは、制御回路30から入力される制御信号に従って、ドレイン202に排出されるか、第1の浮遊拡散層204、第2の浮遊拡散層205、第3の浮遊拡散層206、および第4の浮遊拡散層207のいずれかに振り分けられる。
【0037】
光源10からのパルス光の出射と、第1の浮遊拡散層204、第2の浮遊拡散層205、第3の浮遊拡散層206、および第4の浮遊拡散層207への信号電荷の蓄積と、ドレイン202への信号電荷の排出が、この順序で繰り返し行われる。この繰り返し動作は高速であり、例えば1フレームの時間内に、例えば数万回から数億回繰り返され得る。1フレームの時間は、例えば約1/30秒である。画素201は、最終的に、第1の浮遊拡散層204、第2の浮遊拡散層205、第3の浮遊拡散層206、および第4の浮遊拡散層207に蓄積された信号電荷に基づく4つの画像信号を生成して出力する。
【0038】
この例における制御回路30は、光源10に、第1の波長をもつ第1のパルス光と、第2の波長をもつ第2のパルス光とを、順に繰り返し出射させる。第1の波長および第2の波長として、ユーザ1の内部組織に対する吸収率が異なる2波長を選択することにより、ユーザ1の状態を分析することができる。
【0039】
制御回路30は、まず、光源10に、第1のパルス光を出射させる。制御回路30は、第1のパルス光の表面反射成分I1がフォトダイオード203に入射している第1の期間に、第1の浮遊拡散層204に信号電荷を蓄積させる。続いて、制御回路30は、第1のパルス光の内部散乱成分I2がフォトダイオード203に入射している第2の期間に、第2の浮遊拡散層205に信号電荷を蓄積させる。次に、制御回路30は、光源10に、第2のパルス光を出射させる。制御回路30は、第2のパルス光の表面反射成分I1がフォトダイオード203に入射している第3の期間に、第3の浮遊拡散層206に信号電荷を蓄積させる。続いて、制御回路30は、第2のパルス光の内部散乱成分I2がフォトダイオード203に入射している第4の期間に、第4の浮遊拡散層207に信号電荷を蓄積させる。
【0040】
このように、制御回路30は、第1のパルス光の発光を開始した後、所定の時間差を空けて、第1の浮遊拡散層204および第2の浮遊拡散層205に、フォトダイオード203からの信号電荷を順次蓄積させる。その後、制御回路30は、第2のパルス光の発光を開始した後、上記所定の時間差を空けて、第3の浮遊拡散層206および第4の浮遊拡散層207に、フォトダイオード203からの信号電荷を順次蓄積させる。以上の動作を複数回繰り返す。外乱光および環境光の光量を推定するために、光源10を消灯した状態で不図示の他の浮遊拡散層に信号電荷を蓄積する期間を設けてもよい。第1の浮遊拡散層204、第2の浮遊拡散層205、第3の浮遊拡散層206、および第4の浮遊拡散層207に蓄積された信号電荷量から、上記他の浮遊拡散層の信号電荷量を差し引くことにより、外乱光および環境光成分を除去した信号を得ることができる。
【0041】
なお、本実施形態では、画素ごとの電荷蓄積部の数を4としているが、目的に応じて1以上の任意の数に設計してよい。例えば、1種類の波長のみを用いる場合には、電荷蓄積部の数は2であってよい。また、使用する波長が1種類で、表面反射成分I1のみ、または内部散乱成分I2のみを検出する用途では、画素ごとの電荷蓄積部の数は1であってもよい。また、2種類以上の波長を用いる場合であっても、それぞれの波長を用いた撮像を別のフレームで行う場合には、電荷蓄積部の数は1であってもよい。後述するように、表面反射成分I1の検出と内部散乱成分I2の検出とをそれぞれ別のフレームで行う場合には、電荷蓄積部の数は1であってもよい。
【0042】
図1Eは、イメージセンサ20の構成の一例を示す図である。
図1Eにおいて、二点鎖線の枠で囲まれた領域が1つの画素201に相当する。画素201には1つのフォトダイオードが含まれる。
図1Eでは2行2列に配列された4画素のみを示しているが、実際にはさらに多数の画素が配置され得る。画素201は、第1の浮遊拡散層204、第2の浮遊拡散層205、第3の浮遊拡散層206、および第4の浮遊拡散層207を含む。第1の浮遊拡散層204、第2の浮遊拡散層205、第3の浮遊拡散層206、および第4の浮遊拡散層207に蓄積される信号は、あたかも一般的なCMOSイメージセンサの4画素の信号のように取り扱われ、イメージセンサ20から出力される。
【0043】
各画素201は、4つの信号検出回路を有する。各信号検出回路は、ソースフォロワトランジスタ309と、行選択トランジスタ308と、リセットトランジスタ310とを含む。この例では、リセットトランジスタ310が
図1Dに示すドレイン202に対応し、リセットトランジスタ310のゲートに入力されるパルスがドレイン排出パルスに対応する。各トランジスタは、例えば半導体基板に形成された電界効果トランジスタであるが、これに限定されない。図示されるように、ソースフォロワトランジスタ309の入力端子および出力端子の一方と、行選択トランジスタ308の入力端子および出力端子のうちの一方とが接続されている。ソースフォロワトランジスタ309の入力端子および出力端子の一方は、典型的にはソースである。行選択トランジスタ308の入力端子および出力端子のうちの一方は、典型的にはドレインである。ソースフォロワトランジスタ309の制御端子であるゲートは、フォトダイオード203に接続されている。フォトダイオード203によって生成された信号電荷は、フォトダイオード203とソースフォロワトランジスタ309との間の電荷蓄積部である浮遊拡散層に蓄積される。当該信号電荷は、正孔または電子である。
【0044】
図1Eには示されていないが、第1の浮遊拡散層204、第2の浮遊拡散層205、第3の浮遊拡散層206、および第4の浮遊拡散層207はフォトダイオード203に接続される。フォトダイオード203と第1の浮遊拡散層204、第2の浮遊拡散層205、第3の浮遊拡散層206、および第4の浮遊拡散層207との間には、スイッチが設けられ得る。このスイッチは、制御回路30からの信号蓄積パルスに応じて、フォトダイオード203と第1の浮遊拡散層204、第2の浮遊拡散層205、第3の浮遊拡散層206、および第4の浮遊拡散層207の各々との間の導通状態を切り替える。これにより、第1の浮遊拡散層204、第2の浮遊拡散層205、第3の浮遊拡散層206、および第4の浮遊拡散層207の各々への信号電荷の蓄積の開始と停止とが制御される。本実施形態における電子シャッタは、このような露光制御のための機構を有する。
【0045】
第1の浮遊拡散層204、第2の浮遊拡散層205、第3の浮遊拡散層206、および第4の浮遊拡散層207に蓄積された信号電荷は、行選択回路302によって行選択トランジスタ308のゲートがONにされることにより、読み出される。この際、第1の浮遊拡散層204、第2の浮遊拡散層205、第3の浮遊拡散層206、および第4の浮遊拡散層207の信号電位に応じて、ソースフォロワ電源305からソースフォロワトランジスタ309およびソースフォロワ負荷306へ流入する電流が増幅される。垂直信号線304から読み出されるこの電流によるアナログ信号は、列毎に接続されたアナログ-デジタル(AD)変換回路307によってデジタル信号データに変換される。このデジタル信号データは、列選択回路303によって列ごとに読み出され、イメージセンサ20から出力される。行選択回路302および列選択回路303は、1つの行の読出しを行った後、次の行の読み出しを行い、以下同様に、全ての行の浮遊拡散層の信号電荷の情報を読み出す。制御回路30は、全ての信号電荷を読み出した後、リセットトランジスタ310のゲートをオンにすることにより、全ての浮遊拡散層をリセットする。これにより、1つのフレームの撮像が完了する。以下同様に、フレームの高速撮像を繰り返すことにより、イメージセンサ20による一連のフレームの撮像が完結する。
【0046】
本実施の形態では、CMOS型のイメージセンサ20の例を説明したが、イメージセンサ20は他の種類の撮像素子であってもよい。イメージセンサ20は、例えば、CCD型であっても、単一光子計数型素子であっても、EMCCDまたはICCDなどの増幅型イメージセンサであっても構わない。
【0047】
図1Fは、本実施形態における1フレーム内の動作の一例を示す図である。
図1Fに示すように、1フレーム内で、第1のパルス光の発光と第2のパルス光の発光とを交互に複数回切り替えてもよい。このようにすると、2種類の波長による検出画像の取得タイミングの時間差を低減でき、動きがあるユーザ1であっても、ほぼ同時に第1および第2のパルス光での撮影が可能である。
【0048】
[1-3.メモリ25]
メモリ25には、事前に取得および登録されたユーザ1の身体の特徴を示す生体データが格納されている。この生体データをテンプレートと称する。メモリ25は、識別装置100に内蔵されてもよいし、外部に設けられてもよい。メモリ25は、例えば、1つまたは複数のROM、光学ディスク、またはハードディスクドライブであり得る。
【0049】
メモリ25に格納されている生体データは、例えば、ユーザ1の画像そのもの、または、その画像を特徴付けるデータであり得る。画像を特徴付けるデータは、例えば、ユーザ1の皮膚表面のテクスチャを示す情報、ユーザ1の血管の分布を示す情報、または、ユーザ1の特徴部分の凹凸を示す情報を含む。「ユーザ1の皮膚表面のテクスチャを示す情報」は、例えば、ユーザ1の皮膚表面のある箇所におけるしわ、または微小な凹凸の2次元分布の画素値をフーリエ変換することによって得られる周波数成分の2次元分布であり得る。この変換は、しわ、または微小な凹凸が、似たような2次元パターンの繰り返しを示す場合に有効である。「ユーザ1の血管の分布を示す情報」は、例えば、ユーザ1の静脈の分布を示す画像情報である。「ユーザ1の特徴部分の凹凸を示す情報」は、例えば、ユーザ1の眼窩、鼻、頬、頬骨、口、顎、および耳下のうちの少なくとも1つにおける凹凸を示す距離の2次元分布の画像情報である。ユーザ1の画像を特徴付けるデータを格納することにより、余分な情報を除去し、認識精度を高められるだけでなく、格納するデータ量を少なくすることができる。
【0050】
[1-4.制御回路30および信号処理回路40]
制御回路30は、光源10に、ユーザ1に照射されるパルス光を出射させる。制御回路30は、イメージセンサ20に、ユーザ1から戻った反射パルス光の少なくとも一部を検出させる。制御回路30は、光源10のパルス光発光タイミングと、イメージセンサ20のシャッタタイミングとの時間差を調整する。以下、当該時間差を「位相」または「位相遅れ」と称することがある。光源10の「発光タイミング」とは、光源10が発光するパルス光が立ち上りを開始するタイミングである。「シャッタタイミング」とは、露光を開始するタイミングである。制御回路30は、発光タイミングを変化させて位相を調整しても良いし、シャッタタイミングを変化させて位相を調整しても良い。
【0051】
制御回路30は、イメージセンサ20に、検出した光の強度分布に応じたユーザ1の2次元像を示す信号を出力させる。制御回路30は、信号処理回路40に、イメージセンサ20から出力された信号を処理させる。制御回路30は、イメージセンサ20の各画素で検出された信号からオフセット成分を取り除くように構成されてもよい。オフセット成分は、太陽光もしくは蛍光灯などの環境光、または外乱光による信号成分である。光源10が発光しない状態、つまり光源10の駆動をOFFにした状態で、イメージセンサ20が信号を検出することによって環境光、外乱光によるオフセット成分が見積もられる。
【0052】
制御回路30は、例えばプロセッサおよびメモリの組み合わせ、またはプロセッサおよびメモリを内蔵するマイクロコントローラ等の集積回路であり得る。制御回路30は、例えばプロセッサがメモリに記録されたプログラムを実行することにより、発光タイミングとシャッタタイミングとの調整、オフセット成分の見積り、およびオフセット成分の除去等を行う。
【0053】
信号処理回路40は、イメージセンサ20から出力された画像信号を処理する回路である。信号処理回路40は、画像処理等の演算処理を行う。信号処理回路40は、例えばデジタルシグナルプロセッサ(DSP)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)等のプログラマブルロジックデバイス(PLD)、または中央演算処理装置(CPU)もしくは画像処理用演算プロセッサ(GPU)とコンピュータプログラムとの組み合わせによって実現され得る。なお、制御回路30および信号処理回路40は、統合された1つの回路であってもよいし、分離された個別の回路であってもよい。また、信号処理回路40は、例えば遠隔地に設けられたサーバーなどの外部の装置の構成要素であってもよい。この場合、サーバーなどの外部の装置は通信手段を備え、光源10、イメージセンサ20、および制御回路30と相互にデータの送受信を行う。
【0054】
図1Gは、制御回路30による動作の概略を示すフローチャートである。制御回路30は、概略的には
図1Gに示す動作を実行する。なお、ここでは、一例として、内部散乱成分I2の検出のみを行う場合の動作を説明する。制御回路30は、まず、光源10に所定時間だけパルス光を発光させる(ステップS101)。このとき、イメージセンサ20の電子シャッタは電荷蓄積を停止した状態にある。制御回路30は、パルス光の一部がユーザ1の表面で反射されてイメージセンサ20に到達する期間が完了するまで、電子シャッタに電荷蓄積を停止させる。次に、制御回路30は、当該パルス光の他の一部がユーザ1の内部で散乱されてイメージセンサ20に到達するタイミングで、電子シャッタに電荷蓄積を開始させる(ステップS102)。所定時間経過後、制御回路30は、電子シャッタに電荷蓄積を停止させる(ステップS103)。続いて、制御回路30は、上記の電荷蓄積を実行した回数が所定の回数に達したか否かを判定する(ステップS104)。所定の回数は、例えば、千回以上10万回以下であり得る。ステップS104においてNoと判定すると、制御回路30は、Yesと判定するまで、ステップS101からS103を繰り返す。ステップS104においてYesと判定すると、制御回路30は、画素ごとの各浮遊拡散層に蓄積された信号電荷の総量に基づく2次元分布の画像を示す信号をイメージセンサ20に生成させて出力させる(ステップS105)。
【0055】
以上の動作により、測定対象の内部で散乱された光の成分を高い感度で検出することができる。なお、複数回の発光および露光は必須ではなく、必要に応じて行われる。なお、
図1Gに示すステップS101から105の動作は、表面反射成分I1の検出のみを行う場合にも適用できる。
【0056】
制御回路30は、イメージセンサ20から出力された信号と、メモリ25に格納された生体データとを照合することにより、ユーザ1を認証する。制御回路30の動作は以下の通りである。制御回路30は、信号処理回路40に、イメージセンサ20によって得られた情報から画像データを生成させる。制御回路30は、その画像データと、メモリ25に格納された生体データとを比較する。メモリ25にユーザ1の画像を特徴付けるデータが格納されている場合、信号処理回路40は、生成したユーザ1の画像から、その画像を特徴付けるデータを取り出し、制御回路30は、ユーザ1の画像を特徴付けるデータ同士を比較する。その他、制御回路30は、イメージセンサ20によって取得された情報と、事前に登録された情報との相関を単純に比較してもよい。また、制御回路30は、ディープラーニング、またはサポートベクターマシーンなどの機械学習によって取得したユーザの特徴に基づいてユーザ1を認証してもよい。
【0057】
[1-5.光学系]
識別装置100は、ユーザ1の2次元像をイメージセンサ20の受光面上に形成する結像光学系を備えてもよい。結像光学系の光軸は、イメージセンサ20の受光面に対して略直交する。結像光学系は、ズームレンズを含んでいてもよい。ズームレンズの位置が変化するとユーザ1の2次元像の拡大率が変更し、イメージセンサ20上の2次元像の解像度が変化する。したがって、ユーザ1までの距離が遠くても測定したい領域を拡大して詳細に観察することが可能となる。
【0058】
また、識別装置100は、ユーザ1とイメージセンサ20との間に光源10から発する波長の帯域またはその近傍の光のみを通過させる帯域通過フィルタを備えてもよい。これにより、環境光などの外乱成分の影響を低減することができる。帯域通過フィルタは、多層膜フィルタまたは吸収フィルタによって構成される。光源10の温度およびフィルタへの斜入射に伴う帯域シフトを考慮して、帯域通過フィルタの帯域幅は20から100nm程度の幅を持たせてもよい。
【0059】
また、識別装置100は、光源10とユーザ1との間、およびイメージセンサ20とユーザ1との間にそれぞれ偏光板を備えてもよい。この場合、光源10側に配置される偏光板とイメージセンサ側に配置される偏光板の偏光方向は直交ニコルの関係である。これにより、ユーザ1の表面反射成分I1のうち正反射成分、すなわち入射角と反射角が同じ成分がイメージセンサ20に到達することを防ぐことができる。つまり、表面反射成分I1がイメージセンサ20に到達する光量を低減させることができる。
【0060】
[2.時間分解撮像の動作]
本実施形態における識別装置100は、時間分解撮像により、表面反射成分I1と内部散乱成分I2とを区別して検出することができる。
【0061】
以下、本実施の形態における識別装置100の動作の例を説明する。
【0062】
図1Aに示すように、光源10がユーザ1にパルス光を照射すると、表面反射成分I1および内部散乱成分I2が発生する。表面反射成分I1および内部散乱成分I2の一部が、イメージセンサ20に到達する。内部散乱成分I2は、光源10から発せられてイメージセンサ20に到達するまでにユーザ1の内部を通過する。すなわち、内部散乱成分I2の光路長は、表面反射成分I1の光路長に比べて長くなる。したがって、内部散乱成分I2は、イメージセンサ20に到達する時間が表面反射成分I1に対して平均的に遅れる。
【0063】
時間分解撮像において、表面反射成分I1は、以下の動作によって取得される。
【0064】
図2Aは、光源10から矩形パルス光が発せられてユーザ1から戻ってきた光がイメージセンサ20に到達する光信号の一例を表す図である。横軸は信号(a)から(d)においていずれも時間(t)を表し、縦軸は信号(a)から(c)においては強度、信号(d)においては電子シャッタのOPENまたはCLOSEの状態を表す。信号(a)は、表面反射成分I1を示す。信号(b)は、内部散乱成分I2を示す。信号(c)は、表面反射成分I1(a)と内部散乱成分I2(b)との合算成分を示す。信号(d)は、ユーザ1の表面反射成分I1を取得するための電子シャッタタイミングを示す図である。
【0065】
図2Aにおける信号(d)に示すように、シャッタを切ることにより、イメージセンサ20上への戻った反射光のうち早く到達する成分を効率的に収集することができる。早く到達する成分はユーザ1での散乱が少ないことを意味し、ユーザ1の表面情報を含む。実質的に光が蓄積される時間はパルス波の前端のわずかな時間であるが、シャッタは必ずしもその期間だけである必要はない。
図2Aにおける信号(d)に示すように、CLOSE直前において電荷が蓄積されれば、パルス波の前端がイメージセンサ20に到達するよりも早い段階でシャッタをOPENしてもよい。これにより、ピコセカンドオーダの高価な高時間分解撮像装置は不要である。本実施形態における識別装置100は、安価なイメージセンサ20によって構成され得る。
【0066】
図2Aにおける信号(d)に示す動作を実行するために、制御回路30は、イメージセンサ20に、反射パルス光のうち、立ち上り期間の少なくとも一部の成分を検出させ、ユーザ1の2次元像を示す信号を出力させる。本実施形態において、イメージセンサ20から出力される信号とは、反射パルス光のうち、立ち上り期間の少なくとも一部の成分から取得された信号を含み得る。
【0067】
光源10は、矩形パルス波を照射する。このとき、パルス幅はpsオーダである必要はなく数nsでよい。したがって、安価な光源を用いることができる。パルス波の前端におけるTr特性が急進であれば、前端のみをシャッタ撮像した場合において、時間遅れを伴う不要な内部散乱成分I2が取得画像へ混入することを極力低減することができる。
【0068】
時間分解撮像において、内部散乱成分I2は、以下の動作によって取得される。
【0069】
図2Bは、光源10から矩形パルス光が発せられてユーザ1から戻ってきた光がイメージセンサ20に到達する光信号の他の例を表す図である。
図2Bにおける信号(a)から(c)は、それぞれ
図2Aにおける信号(a)から(c)と同様の時間変化を示している。
図2Bにおける信号(d)は、内部散乱成分I2を取得するための電子シャッタタイミングを示す図である。
【0070】
図2Bにおける信号(a)に示すように、表面反射成分I1は矩形を維持する。一方、
図2Bにおける信号(b)に示すように、内部散乱成分I2はさまざまな光路長を経た光の合算であるため、パルス光の後端で尾を引いたような特性を示す。すなわち、表面反射成分I1よりも立ち下り期間が長くなる。
図2Bにおける信号(c)の光信号から内部散乱成分I2の割合を高めて抽出するために、
図2Bにおける信号(d)に示すように、表面反射成分I1の後端以降に電子シャッタが電荷蓄積を開始する。表面反射成分I1の後端以降とは、表面反射成分I1が立ち下がった時またはその後である。このシャッタタイミングは、制御回路30によって調整される。前述した通り、本実施形態における識別装置100は表面反射成分I1とユーザ1の深部に到達した内部散乱成分I2とを区別して検出するため、パルス光幅およびシャッタ幅は任意である。したがって、従来のストリークカメラを使用した方法と異なり、簡便な構成によって内部散乱成分I2の取得を実現でき、コストを大幅に低下させることができる。
【0071】
図2Bにおける信号(d)に示す動作を実行するために、制御回路30は、イメージセンサ20に、反射パルス光のうち、立ち下り期間の少なくとも一部の成分を検出させ、ユーザ1の2次元像を示す信号を出力させる。本実施形態において、イメージセンサ20から出力される信号とは、反射パルス光のうち、立ち下り期間の少なくとも一部の成分から取得された信号を含み得る。
【0072】
図2Bにおける信号(a)では、表面反射成分I1の後端が垂直に立ち下がっている。言い換えると、表面反射成分I1が立ち下りを開始してから終了するまでの時間がゼロである。しかし、現実的には光源10が照射するパルス光自体が完全な垂直でなかったり、ユーザ1の表面に微細な凹凸があったり、表皮内での散乱により、表面反射成分I1の後端が垂直に立ち下がらないことがある。また、ユーザ1は不透明な物体であることから、表面反射成分I1は内部散乱成分I2よりも非常に光量が大きくなる。したがって、表面反射成分I1の後端が垂直な立ち下り位置からわずかにはみ出した場合であっても、内部散乱成分I2が埋もれてしまう可能性がある。また、電子シャッタの読み出し期間中の電子移動に伴う時間遅れにより、
図2Bにおける信号(d)に示すような理想的なバイナリな読み出しが実現できないことがある。したがって、制御回路30は電子シャッタのシャッタタイミングを表面反射成分I1の立ち下り直後よりやや遅らせてもよい。例えば、0.5nsから5ns程度遅らせてもよい。なお、電子シャッタのシャッタタイミングを調整する代わりに、制御回路30は光源10の発光タイミングを調整してもよい。制御回路30は、電子シャッタのシャッタタイミングと光源10の発光タイミングとの時間差を調整する。あまりにもシャッタタイミングを遅らせすぎると、もともと小さい内部散乱成分I2がさらに減少してしまう。このため、表面反射成分I1の後端近傍にシャッタタイミングを留めておいてもよい。センサ感度から想定されるユーザ1の散乱による時間遅れが4nsであるため、シャッタイミングの最大の遅らせ量は4ns程度である。
【0073】
光源10がパルス光を複数回発光し、各パルス光に対して同じ位相のシャッタタイミングで複数回露光することにより、内部散乱成分I2の検出光量を増幅しても良い。
【0074】
なお、ユーザ1とイメージセンサ20との間に帯域通過フィルタを配置することに替えて、またはそれに加えて、制御回路30が、光源10を発光させない状態で同じ露光時間で撮影することによってオフセット成分を見積もってもよい。見積もったオフセット成分は、イメージセンサ20の各画素で検出された信号から差分除去される。これによってイメージセンサ20上で発生する暗電流成分および/または外乱光を除去することができる。
【0075】
次に、1フレーム当たりの表面反射成分I1および内部散乱成分I2の検出方法の例を説明する。
【0076】
図3Aは、表面反射成分I1を検出する場合のタイミングチャートの一例を示している。表面反射成分I1の検出のために、例えば、
図3Aに示すように、パルス光がイメージセンサ20に到達する前にシャッタをOPENにし、パルス光の後端が到達するよりも前にシャッタをCLOSEにしてもよい。このようにシャッタを制御することにより、内部散乱成分I2の混入を少なくすることができる。ユーザ1の表面近傍を通過した光の割合を大きくすることができる。特に、シャッタCLOSEのタイミングを、イメージセンサ20への光の到達直後にしてもよい。これにより、光路長が比較的短い表面反射成分I1の割合を高めた信号検出が可能となる。他の表面反射成分I1の取得方法として、イメージセンサ20がパルス光全体を取得したり、光源10から連続光を照射して検出したりしてもよい。
【0077】
図3Bは、内部散乱成分I2を検出する場合のタイミングチャートの一例を示している。パルスの後端部分がイメージセンサ20に到達する期間にシャッタをOPENにすることにより、内部散乱成分I2の信号を取得することができる。
【0078】
本実施形態のように、同一カメラまたは同一センサによる時分割撮像を行えば、時間的および空間的なずれが発生しにくい。同一のセンサで表面反射成分I1および内部散乱成分I2の両方の信号を取得する場合、
図3Aおよび
図3Bに示すように、1フレームごとに取得する成分を切り替えてもよい。あるいは、
図1Dから
図1Fを参照して説明したように、1フレーム内で高速に取得する成分を交互に切り替えてもよい。その場合、表面反射成分I1と内部散乱成分I2の検出時間差を低減できる。
【0079】
さらに、表面反射成分I1と内部散乱成分I2のそれぞれの信号を、2つの波長の光を用いて取得してもよい。表面反射成分I1と内部散乱成分I2を、それぞれ2波長で取得する場合、例えば
図1Dから
図1Fを参照して説明したように、4種類の電荷蓄積を1フレーム内で高速に切り替える方法が利用され得る。そのような方法により、検出信号の時間的なずれを低減できる。
【0080】
[3.空間分解撮像の動作]
表面反射成分I1および内部散乱成分I2の各々は、前述した時間分解撮像の他に、空間分解撮像によっても取得することもできる。
【0081】
図4Aから
図4Cは、光源10からユーザ1に投影される2次元パターン光の分布の例を模式的に示す図である。
図4Aから
図4Cに示す例では、白部は光が存在する明部を表し、黒部は光が存在しない暗部を表す。
図4Aでは、複数の明部および複数の暗部が周期的に分布するチェッカパターンが示されている。
図4Bでは、明部の中に、複数の暗部がランダムに分布するドットパターンが示されている。
図4Cでは、暗部の中に、複数の明部がランダムに分布するドットパターンが示されている。
【0082】
制御回路30は、光源10に、ユーザ1に2次元パターンを投影する2次元パターン光を出射させる。
図4Aから
図4Cに示すように、2次元パターン光は、少なくとも1つの明部および少なくとも1つの暗部を含む。2次元パターン光は、例えば、2次元的な分布を有する遮光マスクを光源10の前に配置することによって得られる。あるいは、2次元パターン光は、デジタル・マイクロミラー・デバイス(DMD)、または空間光変調器(SLM)を用いて形成されてもよい。2次元パターン光は、連続光であってもよいし、パルス光であってもよい。
【0083】
図4Aから
図4Cに示すように、光源10から、チェッカパターン、またはドットパターンといった空間的に強度を変調させた2次元パターン光が出射される。2次元パターン光をユーザ1に投影すると、多くの光は明部から戻り、僅かな光が暗部から戻る。暗部から戻った反射光は、ユーザ1の内部において散乱された内部散乱成分I2を含み、表面反射成分I1を殆ど含まない。
【0084】
2次元パターン光によって内部散乱成分I2を検出するために、制御回路30は、イメージセンサ20に、2次元パターン光を投影されたユーザ1の、少なくとも1つの暗部から戻った反射光の少なくとも一部を検出させ、検出した反射光の上記の少なくとも一部の強度分布に応じた信号を出力させる。これにより、2次元パターン光がパルス光であれば、
図2Aまたは
図2Bにおける信号(b)に示す、内部散乱成分I2の前端から後端までの部分を取得することができる。本実施形態において、イメージセンサ20から出力される信号は、少なくとも1つの暗部から取得された上記信号を含み得る。
【0085】
一方、明部から戻った反射光は、表面反射成分I1および内部散乱成分I2の両方を含む。したがって、表面反射成分I1は、明部における検出データから、近傍の暗部における検出データを差し引くことによって算出することが可能である。この場合、空間解像度が低下する。その対策として、シングルショットで信号を取得するのではなく、例えば、2次元パターン光の分布をシフトさせたり、2次元パターン光の分布自体を変えたりして複数回信号を取得することが考えられる。これにより、空間解像度を低減させることなく、表面反射成分I1を取得することが可能になる。
【0086】
2次元パターン光によって表面反射成分I1を検出するために、制御回路30は、イメージセンサ20に、2次元パターン光を投影されたユーザ1の、少なくとも1つの暗部から戻った反射光の少なくとも一部と、少なくとも1つの明部から戻った反射光の少なくとも一部とを検出させる。制御回路30は、イメージセンサ20に、少なくとも1つの暗部から戻った反射光の上記の少なくとも一部の強度分布に応じた信号と、少なくとも1つの明部から戻った反射光の上記の少なくとも一部の強度分布に応じた信号とを出力させる。制御回路30は、信号処理回路40に、少なくとも1つの明部から取得された上記信号から、少なくとも1つの暗部から取得された上記信号を減算することにより、表面反射成分I1を算出させる。これにより、2次元パターン光がパルス光であれば、
図2Aまたは
図2Bにおける信号(a)に示す、表面反射成分I1の前端から後端までの部分を取得することができる。本実施形態において、イメージセンサ20から出力される信号は、少なくとも1つの暗部から取得された上記信号の他に、少なくとも1つの明部から取得された上記信号を含み得る。
【0087】
空間分解撮像と時間分解撮像とを組み合わせて、表面反射成分I1および内部散乱成分I2の各々を取得してもよい。
【0088】
2次元パターン光がパルス光である場合、少なくとも1つの明部から戻った反射パルス光の立ち上り期間の少なくとも一部を検出することにより、表面反射成分I1を取得してもよい。同様に、少なくとも1つの明部、または少なくとも1つの暗部から戻った反射パルス光の立ち下り期間の少なくとも一部を検出することにより、内部散乱成分I2を取得してもよい。反射パルス光の立ち上り期間の成分、および立ち下り期間の成分を検出する際における制御回路30および信号処理回路40の動作は、前述した通りである。
【0089】
[4.表面反射成分I1による生体認証、および内部散乱成分I2による生体認証]
本実施形態の識別装置100による生体認証の具体例を、一般的なカメラを使用した方法と比較して説明する。
【0090】
図5Aは、一般的なカメラ90によってユーザ1を撮影している様子を模式的に示す図である。ユーザ1を照射する光は、ユーザ1の表面の数ミリメートル内部にも進入する。そのため、従来のカメラ90では、ユーザ1から戻った反射光に含まれる表面反射成分I1および内部散乱成分I2の両方が検出される。表面反射成分I1および内部散乱成分I2の両方が混在した画像は、若干ぼやける可能性がある。そのため、一般的なカメラ90による顔認証では、他人受入率が増加したり、本人拒否率が増加したりするおそれがある。例えば、双子の兄弟を本人であると誤認したり、髪型を変更した場合に本人ではないと誤認したりする可能性がある。すなわち、一般的なカメラ90を用いた方法では、顔認証の精度が悪化し得る。
【0091】
図5Bは、本実施形態における表面反射成分I1によるユーザ1の撮影の一例を模式的に示す図である。本実施形態における識別装置100では、前述したように、時間分解撮像または空間分解撮像により、表面反射成分I1を検出することができる。これにより、しわ、または微小な凹凸などのユーザ1の皮膚表面のテクスチャを、より鮮明に検出することができる。表面反射成分I1から取得された情報と、メモリ25の生体データに含まれるユーザ1の皮膚表面のテクスチャを示す情報とを照合した結果を用いることにより、認証精度を高めることができる。その結果、本人拒否率、または他人受入率が低減される。
【0092】
図5Cは、本実施形態における内部散乱成分I2によるユーザ1の撮影の一例を模式的に示す図である。本実施形態における識別装置100では、前述したように、時間分解撮像または空間分解撮像により、内部散乱成分I2を検出することができる。これにより、ユーザ1の静脈などの血管の分布を、より鮮明に検出することができる。内部散乱成分I2から取得された情報と、メモリ25の生体データに含まれるユーザ1の血管の分布を示す情報とを照合した結果を用いることにより、認証精度を高めることができる。その結果、本人拒否率、または他人受入率が低減される。
【0093】
表面反射成分I1による認証と、内部散乱成分I2による認証とを組み合わせてもよい。例えば、用途に応じて、2つとも認証して、初めて認証成功としてもよいし、2つのうちの一方のみ認証すれば認証成功としてもよい。内部散乱成分I2を静脈認証とする場合、生体をより透過しやすい近赤外光が用いられ得る。一方、表面反射成分I1を顔紋認証とする場合、生体を透過しにくい青色域などの短波長の光が用いられ得る。このように、表面反射成分I1と内部散乱成分I2との検出に異種の波長の光を用いてもよい。
【0094】
内部散乱成分I2は、表面反射成分I1よりも、ユーザ1のより深部における生体情報を含む。そのため、静脈情報または内部細胞などの、表面反射成分I1とは異なる情報を取得することができる。したがって、表面反射成分I1では主として顔紋による認証をし、内部散乱成分I2では主として静脈による認証をするといった異なる複数種類の認証を実施することが可能になる。一方の認証に失敗しても、他方の認証によって認証の失敗を補うことができる。これは、安定して高精度な認証につながり、高いセキュリティを確保できる。また、他人がユーザ1に成りすます場合、両方の認証の偽造が必要であり、改ざんが極めて困難になる。このように、本実施形態における識別装置100により、偽造または改ざんがより困難な認証システムを実現することができる。
【0095】
また、複数種類の認証を独立して実施する以外にも、表面反射成分I1と内部散乱成分I2とを統合したデータを用いて、機械学習によって認証してもよい。異なる特徴をデータに含むことによって情報量が多くなり、機械学習による認識の正解率を向上させることができる。
【0096】
上記の他に、パルス光の往復時間から物体の距離を算出するTOF法により、ユーザ1を認証してもよい。TOF法により、イメージセンサ20とユーザ1の表面との間の距離の2次元分布を取得することができる。イメージセンサ20とユーザ1の表面との間の距離の2次元分布は、ユーザ1の表面の3次元分布とも言い得る。
【0097】
イメージセンサ20とユーザ1の表面との間の距離は、以下のようにして算出される。光源10から出射されたパルス光がユーザ1の表面で反射され、イメージセンサ20によって検出されるまでの往復時間をτとし、空気中の光速をcとする。そのとき、イメージセンサ20とユーザ1の表面との間の距離dは、d=cτ/2である。
【0098】
往復時間τを取得する方法として、直接TOF法と間接TOF法とがある。
【0099】
直接TOF法では、光の往復時間τを直接計測することにより、物体までの距離dが算出される。直接TOF法では、Δd=1mmの距離分解能を実現するための時間分解能は、Δτ=2Δd/c≒6.6ピコ秒である。このように、直接TOF法では、ミリ単位の距離分解能のために、ピコ秒単位の時間分解能を有する高速撮像が用いられる。
【0100】
一方、実用上よく用いられる間接TOF法では、反射パルス光の位相差からパルス光の往復時間τを計測することにより、物体までの距離dが算出される。反射パルス光の位相差は、出射パルス光と反射パルス光との時間のずれに相当する。間接TOF法では、パルス幅Δtが短いほど計測精度が高くなるわけではない。間接TOF法では、位相差を検出するために、出射光の光強度を矩形波または正弦波によって変調することが一般的である。
【0101】
図6は、間接TOF法によってパルス光の往復時間τを計測する原理を説明する図である。
図6における信号a)は、出射パルス光の光強度の時間変化を示し、
図6における信号(b)および信号(c)は、反射パルス光の強度の時間変化を示している。
【0102】
図6における信号(a)に示す例では、出射パルス光の光強度は、矩形波によって変調されている。位相差を精度よく測定するために、基本的には、出射パルス光の光強度は、光の往復時間τと同程度のオーダの速さで変調される。
【0103】
イメージセンサ20において電子シャッタをOPENにして強度を測定することにより、光パルスの位相差を検出することができる。
図6における信号(b)に示す例では、イメージセンサ20は、パルス光を出射してから時間t
0後に電子シャッタをOPENにして、反射パルス光の検出を開始する。開始時間t
0はパルス光のパルス幅Δtより長く、光の往復時間τよりも短い。すなわち、Δt<t
0<τである。イメージセンサ20は、電子シャッタをOPENにしてから、時間Δtごとに反射パルス光量に応じた信号電荷を蓄積する。最初の時間Δtの間に蓄積された信号電荷量をS
1とし、その次の時間Δtの間に蓄積された信号電荷の量をS
2とする。光の往復時間τと開始時間t
0との差は、[S
2/(S
1+S
2)]Δtに等しい。したがって、光の往復時間は、τ=t
0+[S
2/(S
1+S
2)]Δtである。蓄積された信号電荷量S
1、S
2から間接的に得られた光の往復時間τから、物体までの距離dが算出される。
【0104】
図6における信号(c)に示す例では、反射パルス光は、出射パルス光が出射し終える前に、イメージセンサ20に戻ってくる。すなわち、τ<Δtである。この場合、イメージセンサ20は、光源10からのパルス光の出射と同時に電子シャッタをOPENにして、時間Δtごとに反射パルス光量に応じた信号電荷を蓄積する。光の往復時間は、τ=[S
2/(S
1+S
2)]Δtである。
【0105】
TOF法では、制御回路30は、イメージセンサ20に、反射パルス光の少なくとも一部を検出させ、ユーザ1の表面の3次元分布を示す信号を出力させる。本実施形態において、イメージセンサ20から出力される信号とは、ユーザ1の表面の3次元分布を示す信号を含み得る。
【0106】
反射パルス光の少なくとも一部に含まれる表面反射成分I1をTOF法に用いれば、従来のTOF法と比較して、しわ、または微小な凹凸も含めたユーザ1の表面の3次元分布をより鮮明に検出することができる。
【0107】
直接TOF法では、反射パルス光の立ち上がり期間に含まれる表面反射成分I1を検出することにより、物体の距離を算出することができる。間接TOF法では、
図6における信号b)および信号(c)に示すように反射パルス光の前端から後端までの部分を検出して、物体の距離が算出される。空間分解撮像を用いれば、反射パルス光から、表面反射成分I1の前端から後端までの部分を分離することができる。
【0108】
また、空間分解撮像を用いれば、反射パルス光から、内部散乱成分I2の前端から後端までの部分を取得することもできる。内部散乱成分I2の前端から後端までの部分を間接TOF法に用いれば、イメージセンサ20とユーザ1の血管との間の距離の2次元分布、すなわち、ユーザ1の血管の3次元分布を取得することも可能である。
【0109】
図7は、本実施形態におけるTOF法によるユーザ1の撮影の一例を模式的に示す図である。
図7に示す例では、表面反射成分I1から、ユーザ1の表面の3次元分布が算出される。ユーザ1の表面の3次元分布から取得された情報と、メモリ25の生体データに含まれるユーザ1の特徴部分の凹凸を示す情報とを照合した結果を用いることにより、認証精度を高めることができる。その結果、本人拒否率、または他人受入率が低減される。なお、表面反射成分I1および内部散乱成分I2の両方を含む反射パルス光から、ユーザ1の表面の3次元分布を算出してもよい。
【0110】
次に、本実施形態における識別装置100を用いたユーザ1の生体認証の一連の処理を説明する。
【0111】
図8は、制御回路30が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【0112】
ステップS201において、制御回路30は、光源10に、ユーザ1を光で照射させる。時間分解撮像であれば、当該光はパルス光であり、空間分解撮像であれば、当該光は2次元パターン光である。時間分解撮像と空間分解撮像との組み合わせであれば、当該光は、2次元パターン光であり、かつ、パルス光である。
【0113】
ステップS202において、制御回路30は、イメージセンサ20に、ユーザ1から戻った反射光の少なくとも一部を検出させ、検出した光の強度分布に応じたユーザ1の2次元像を示す信号を出力させる。反射光がパルス光であれば、反射光の少なくとも一部は、例えば、パルス光の立ち上り期間の成分、または立ち下り期間の成分である。立ち上り期間の成分から表面反射成分I1が取得され、立ち下り期間の成分から内部散乱成分I2が取得される。間接TOF法によってユーザ1の表面の3次元分布を取得する場合、反射パルス光のうち、表面反射成分I1の前端から後端までの部分、または表面反射成分I1および内部散乱成分I2の合成成分の前端から後端までの部分が検出される。
【0114】
ステップS203において、制御回路30は、信号処理回路40に、出力した信号からユーザ1の画像を生成させ、その画像を特徴付けるデータを取り出す。表面反射成分I1から生成された画像を特徴付けるデータは、ユーザ1の皮膚表面のテクスチャを示す情報を含む。内部散乱成分I2から生成された画像を特徴付けるデータは、ユーザ1の血管の分布を示す情報を含む。TOF法であれば、表面反射成分I1から生成された画像、または表面反射成分I1と内部散乱成分I2との合成成分から生成された画像を特徴付けるデータは、ユーザ1の表面の3次元分布、すなわちユーザ1の特徴部分の凹凸を示す情報を含む。
【0115】
ステップS204において、制御回路30は、生成したユーザ1の画像から取り出したその画像を特徴付けるデータと、メモリに格納されたユーザ1の画像を特徴付けるデータとを比較する。
【0116】
ステップS205において、制御回路30は、比較される上記の2つのデータの差が基準値以下かどうかを判断する。例えば、TOF法によって取得されたユーザ1の表面の3次元分布の情報と、生体データに含まれるユーザ1の特徴部分の凹凸を示す情報とを比較する場合、判断基準の例は以下の通りである。制御回路30は、ユーザ1の表面の全ての計測点、または80%など一定の割合以上の計測点において、上記の2つのデータの差が基準値以下かどうかを評価する。
【0117】
上記の差が基準値以下であれば、ステップS206において、制御回路30は、ユーザ1が本人であると判断する。上記の差が基準値以下でなければ、ステップS207において、制御回路30は、ユーザ1が別人であると判断する。
【0118】
本実施形態における識別装置100により、ユーザ1の生体認証を非接触で実現することができる。したがって、認証時にユーザ1にかかる負担は少ない。
【0119】
ユーザ1の体の一部のうち、顔以外にも、手など他の部位を用いてもよい。例えば、指紋から表面反射成分I1を取得してもよいし、指の静脈から内部散乱成分I2を取得してもよい。手には、個人特有の指紋、または静脈が明瞭に現れやすく、認識精度が向上する。手をユーザ1の被検部とする場合、ガラスの上に手を置くことによって体動を抑えてもよい。このとき、ガラスと識別装置100との間に空間があると、カメラの焦点を合わすことができる利点がある。また、手認証の場合、クラス1を超える光量を光源10から出射することにより、イメージセンサ20上の検出信号のSN比を向上させることができる。
【0120】
次に、本実施形態における識別装置100の応用例を説明する。
【0121】
図9は、本実施形態における識別装置100を自動車の車室内に搭載した一例を模式的に示す図である。
図9に示すように、車室内に設けられた識別装置100により、運転者、すなわちユーザ1を識別してもよい。車のキーの代わりに、識別装置100によってユーザ1を識別して、車を始動させてもよい。自動運転時に識別装置100によって乗客を識別し、その識別結果を、乗客に応じてカスタマイズされた自動運転にフィードバックしてもよい。フィードバックとは、例えば、乗客が高齢者であればブレーキをやさしくする、ドライブ好きの乗客であれば爽快な走りのドライビングにするなどである。これにより、個人に適合した自動運転が可能になる。
【0122】
図10は、本実施形態における識別装置100をモバイル端末に適用した一例を模式的に示す図である。モバイル端末は、例えば、スマートフォン、タブレット、またはパーソナルコンピュータである。識別装置100におけるイメージセンサ20として、モバイル端末に内蔵されているイメージセンサを用いてもよい。
【0123】
本実施形態における識別装置100は、自動車またはモバイル端末以外にも、例えば、銀行もしくはコンビニエンスストアに設置されているATM、または住宅の玄関に適用してもよい。
【0124】
本実施形態における識別装置100は、2つ以上の認証の組み合わせによる高精度な認証を可能にする。本実施形態における識別装置100は、端末へのログインの認証の他、端末を用いたセキュリティ認証にも用いることが可能である。端末を用いたセキュリティ認証は、例えば、端末へのログイン後における、銀行口座へのログイン、または各種サービスのアカウントへのログインの認証を含む。従来のパスワード認証も併用し、本開示における認証を追加認証とするシステムにしてもよい。これにより、従来のパスワード認証のみが行われるシステムと比較して、ハッキングのリスクを低減し、さらに高いセキュリティを確保することができる。
【0125】
本開示は、制御回路30および信号処理回路40が実行する動作を含む方法も含む。
【0126】
以上のように、本開示は、以下の項目に記載の識別装置、および識別方法を含む。
【0127】
[項目1]
第1の項目に係る識別装置は、光源と、イメージセンサと、ユーザの身体の特徴を示す生体データが格納されたメモリと、プロセッサと、を備える。前記プロセッサは、前記光源に、前記ユーザに照射されるパルス幅が0.2ns以上1μs以下のパルス光を出射させ、前記イメージセンサに、前記ユーザから戻った反射パルス光の少なくとも一部を検出させ、前記反射パルス光の前記少なくとも一部の強度の2次元分布に応じた信号を出力させ、前記信号と、前記生体データとを照合することにより、前記ユーザを識別する。
【0128】
[項目2]
第1の項目に係る識別装置において、前記パルス光の前記パルス幅は、3ns以上50ns以下であってもよい。
【0129】
[項目3]
第1または第2の項目に係る識別装置において、前記イメージセンサは複数の画素を含み、前記プロセッサは、前記イメージセンサに、前記複数の画素の各々について、前記反射パルス光の前記少なくとも一部の前記強度に応じた電荷を、千回以上10万回以下繰り返して蓄積させ、前記信号は、前記複数の画素に蓄積された電荷の総量の2次元分布を示してもよい。
【0130】
[項目4]
第1から第3の項目のいずれかに係る識別装置において、前記生体データは、前記ユーザの皮膚表面のテクスチャを示す第1情報を含んでいてもよい。
【0131】
[項目5]
第4の項目に係る識別装置において、前記プロセッサは、前記イメージセンサに、前記反射パルス光のうち、前記反射パルス光の強度が増加を開始してから増加が終了するまでの期間である立ち上り期間の少なくとも一部の成分を検出することによって得た第1の信号を出力させ、前記第1の信号から取得された情報と、前記第1情報とを照合することにより前記ユーザを識別してもよい。
【0132】
[項目6]
第1から第5の項目のいずれかに係る識別装置において、前記生体データは、前記ユーザの血管の分布を示す第2情報を含んでいてもよい。
【0133】
[項目7]
第6の項目に係る識別装置において、前記プロセッサは、前記イメージセンサに、前記反射パルス光のうち、前記反射パルス光の強度が減少を開始してから減少が終了するまでの期間である立ち下り期間の少なくとも一部の成分を検出することによって得た第2の信号を出力させ、前記第2の信号から取得された情報と、前記第2情報とを照合することにより前記ユーザを識別してもよい。
【0134】
[項目8]
第1から第7の項目のいずれかに係る識別装置において、前記生体データは、前記ユーザの特徴部分の凹凸を示す第3情報を含んでいてもよい。
第1から第7の項目のいずれかに係る識別装置において、前記生体データは、前記ユーザの特徴部分の形状を示す第4情報を含んでいてもよい。
第1から第7の項目のいずれかに係る識別装置において、前記生体データは、前記ユーザの特徴部分の位置を示す第5情報を含んでいてもよい。
【0135】
[項目9]
第8の項目に係る識別装置において、前記プロセッサは、前記イメージセンサに、前記イメージセンサと前記ユーザの表面との間の距離の2次元分布を示す第3の信号を出力させ、前記第3の信号から取得された情報と、前記第3情報とを照合することにより前記ユーザを識別してもよい。
【0136】
[項目10]
第9の項目に係る識別装置において、前記プロセッサは、前記イメージセンサに、前記反射パルス光のうち、前記反射パルス光の強度が増加を開始してから増加が終了するまでの期間である立ち上り期間の少なくとも一部の成分を検出させ、前記成分から、前記距離の前記2次元分布を算出してもよい。
【0137】
[項目11]
第11の項目に係る識別装置は、光源と、イメージセンサと、ユーザの身体の特徴を示す生体データが格納されたメモリと、プロセッサと、を備える。前記生体データは、前記ユーザの皮膚表面のテクスチャを示す第1情報を含む。前記プロセッサは、前記光源に、少なくとも1つの明部および少なくとも1つの暗部を含む2次元パターンを前記ユーザに投影する照射光を出射させ、前記イメージセンサに、前記ユーザから戻った反射光の少なくとも一部を検出させ、前記反射光の前記少なくとも一部の強度の2次元分布に応じた信号を出力させ、前記信号と、前記メモリに格納された前記生体データとを照合することにより、前記ユーザを識別する。
【0138】
[項目12]
第11の項目に係る識別装置において、前記生体データは、前記ユーザの血管の分布を示す第2情報をさらに含んでいてもよい。
【0139】
[項目13]
第12の項目に係る識別装置において、前記プロセッサは、前記イメージセンサに、前記2次元パターンを投影された前記ユーザの、前記少なくとも1つの暗部から戻った第1の反射光の少なくとも一部を検出させ、前記第1の反射光の前記少なくとも一部の強度の2次元分布に応じた第1の信号を出力させ、前記第1の信号から取得した情報と、前記第2情報とを照合することにより、前記ユーザを識別してもよい。
【0140】
[項目14]
第13の項目に係る識別装置において、前記プロセッサは、前記イメージセンサに、前記2次元パターンを投影された前記ユーザの、前記少なくとも1つの明部から戻った第2の反射光の少なくとも一部を検出させ、前記第2の反射光の前記少なくとも一部の強度の2次元分布に応じた第2の信号を出力させ、前記第2の信号から前記第1の信号を減算することによって取得された情報と、前記第1情報とを照合することにより、前記ユーザを識別してもよい。
【0141】
[項目15]
第15の項目に係る識別装置において、前記プロセッサは、前記イメージセンサに、前記2次元パターンを投影された前記ユーザの、前記少なくとも1つの暗部から戻った第1の反射光の少なくとも一部を検出させ、前記少なくとも1つの明部から戻った第2の反射光の少なくとも一部を検出させ、前記第1の反射光の前記少なくとも一部の強度の2次元分布に応じた第1の信号を出力させ、前記第2の反射光の前記少なくとも一部の強度の2次元分布に応じた第2の信号を出力させ、前記第2の信号から前記第1の信号を減算することによって取得された情報と、前記第1情報とを照合することにより、前記ユーザを識別してもよい。
【0142】
[項目16]
第11の項目に係る識別装置において、前記照射光は、パルス光であってもよい。
【0143】
[項目17]
第16の項目に係る識別装置において、前記パルス光のパルス幅は、3ns以上50ns以下であってもよい。
【0144】
[項目18]
第16または第17の項目に係る識別装置において、前記イメージセンサは複数の画素を含み、前記プロセッサは、前記イメージセンサに、前記複数の画素の各々について、前記反射光の前記少なくとも一部の前記強度に応じた電荷を、千回以上10万回以下繰り返して蓄積させ、前記信号は、前記複数の画素に蓄積された電荷の総量の2次元分布を示していてもよい。
【0145】
[項目19]
第16から第18の項目のいずれかに係る識別装置において、前記生体データは、前記ユーザの特徴部分の凹凸を示す第3情報をさらに含んでいてもよい。
【0146】
[項目20]
第19の項目に係る識別装置において、前記プロセッサは、前記イメージセンサに、前記2次元パターンを投影された前記ユーザの、前記少なくとも1つの暗部から戻った第1の反射パルス光の少なくとも一部を検出させ、前記少なくとも1つの明部から戻った第2の反射パルス光の少なくとも一部を検出させ、前記第1の反射パルス光の前記少なくとも一部の強度の2次元分布に応じた第1の信号を出力させ、前記第2の反射パルス光の前記少なくとも一部の強度の2次元分布に応じた第2の信号を出力させ、前記第2の信号から前記第1の信号を減算することによって取得された情報と、前記第3情報とを照合することにより、前記ユーザを識別してもよい。
【0147】
[項目21]
第16から第18の項目のいずれかに係る識別装置において、前記生体データは、前記ユーザの血管の分布を示す第2情報をさらに含んでいてもよい。
【0148】
[項目22]
第21の項目に係る識別装置において、前記プロセッサは、前記イメージセンサに、前記2次元パターンを投影された前記ユーザの、前記少なくとも1つの暗部から戻った第1の反射パルス光の強度が減少を開始してから減少が終了するまでの期間である立ち下り期間の少なくとも一部を検出させ、前記第1の反射パルス光の前記立ち下り期間の前記少なくとも一部の強度の2次元分布に応じた第1の信号を出力させ、前記第1の信号から取得した情報と、前記第2情報とを照合することにより、前記ユーザを識別してもよい。
【0149】
[項目23]
第16から第18の項目のいずれかに係る識別装置において、前記プロセッサは、前記イメージセンサに、前記2次元パターンを投影された前記ユーザの、前記少なくとも1つの明部から戻った第2の反射パルス光の強度が増加を開始してから増加が終了するまでの期間である立ち上り期間の少なくとも一部を検出させ、前記第2の反射パルス光の前記立ち上り期間の前記少なくとも一部の強度の2次元分布に応じた第2の信号を出力させ、前記第2の信号から取得した情報と、前記第1情報とを照合することにより、前記ユーザを識別してもよい。
【0150】
[項目24]
第24の項目に係る識別方法は、光源と、イメージセンサとを備える識別装置を用いた識別方法であって、前記光源に、ユーザに照射されるパルス幅が0.2ns以上1μs以下のパルス光を出射させることと、前記イメージセンサに、前記ユーザから戻った反射パルス光の少なくとも一部を検出させて、前記反射パルス光の前記少なくとも一部の強度の2次元分布に応じた信号を出力させることと、前記信号と、前記ユーザの身体の特徴を示す生体データとを照合することにより、前記ユーザを識別することと、を含む。
【0151】
[項目25]
第25の項目に係る識別方法は、光源と、イメージセンサとを備える識別装置を用いた識別方法であって、前記光源に、少なくとも1つの明部および少なくとも1つの暗部を含む2次元パターンを前記ユーザに投影する照射光を出射させることと、前記イメージセンサに、前記ユーザから戻った反射光の少なくとも一部を検出させ、前記反射光の前記少なくとも一部の強度の2次元分布に応じた信号を出力させることと、前記信号と、前記ユーザの皮膚表面のテクスチャを示す生体データとを照合することにより、前記ユーザを識別することと、を含む。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本開示における識別装置は、非接触でユーザを個人識別するカメラ、または認証機器に有用である。識別装置は、セキュリティサービスに応用できる。
【符号の説明】
【0153】
1 ユーザ
10 光源
20 イメージセンサ
22 光電変換部
24 電荷蓄積部
25 メモリ
30 制御回路
32 光源制御部
34 センサ制御部
40 信号処理回路
100 識別装置
I1 表面反射成分
I2 内部散乱成分