(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156915
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】色素画像取得方法、色素画像取得装置、及び色素画像取得プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20241029BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20241029BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20241029BHJP
G06V 20/69 20220101ALI20241029BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
G01N21/17 A
G06T7/00 630
G06V20/69
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024130155
(22)【出願日】2024-08-06
(62)【分割の表示】P 2023543753の分割
【原出願日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2021137177
(32)【優先日】2021-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(72)【発明者】
【氏名】樋口 貴文
(72)【発明者】
【氏名】池村 賢一郎
(57)【要約】 (修正有)
【課題】分離画像の精度を高めつつスループットの向上を図ること。
【解決手段】色素画像取得システム1は、C個(Cは2以上の整数)の波長分布の励起光のそれぞれを試料Sに照射し、N個(Nは2以上の整数)の画素によってそれぞれが構成されるC個の蛍光画像を取得する画像取得装置3と、色素画像を生成する画像処理装置5と、を備え、画像処理装置5は、C個の蛍光画像の各画素の蛍光強度を基に、N個の画素をL個(Lは2以上N-1以下の整数)に画素群にクラスタリングして、C個の蛍光画像をクラスタリングした画素群毎に配列したL個のクラスタ行列を生成し、L個のクラスタ行列ごとにC個の蛍光画像を構成する画素群の蛍光強度の統計値を計算し、L個のクラスタ行列ごとのC個の蛍光画像の統計値を用いて、C個の蛍光画像を対象にアンミキシングを行い、K個(Kは2以上C以下の整数)の色素毎の分布を示すK個の色素画像を生成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C個(Cは2以上の整数)の波長分布の励起光のそれぞれを試料に照射し、N個(Nは2以上の整数)の画素によってそれぞれが構成される前記C個の蛍光画像を取得する画像取得ステップと、
前記C個の蛍光画像の各画素の強度値を基に、前記N個の画素をL個(Lは2以上N-1以下の整数)に画素群にクラスタリングして、前記C個の蛍光画像をクラスタリングした画素群毎に配列したL個のクラスタ行列を生成するクラスタリングステップと、
L個のクラスタ行列ごとにC個の蛍光画像を構成する前記画素群の前記強度値の統計値を計算する計算ステップと、
L個のクラスタ行列ごとの前記C個の蛍光画像の前記統計値を用いて、前記C個の蛍光画像を対象にアンミキシングを行い、K個(Kは2以上C以下の整数)の色素毎の分布を示す前記K個の色素画像を生成する画像生成ステップと、
を備える色素画像取得方法。
【請求項2】
C個(Cは2以上の整数)の波長分布の励起光のそれぞれを試料に照射し、N個(Nは2以上の整数)の画素によってそれぞれが構成される前記C個の蛍光画像を取得する画像取得装置と、
前記試料における色素の分布を示す色素画像を生成する画像処理装置と、を備え、
前記画像処理装置は、
前記C個の蛍光画像の各画素の強度値を基に、前記N個の画素をL個(Lは2以上N-1以下の整数)に画素群にクラスタリングして、前記C個の蛍光画像をクラスタリングした画素群毎に配列したL個のクラスタ行列を生成し、
L個のクラスタ行列ごとにC個の蛍光画像を構成する前記画素群の前記強度値の統計値を計算し、
L個のクラスタ行列ごとの前記C個の蛍光画像の前記統計値を用いて、前記C個の蛍光画像を対象にアンミキシングを行い、K個(Kは2以上C以下の整数)の色素毎の分布を示す前記K個の色素画像を生成する、
色素画像取得装置。
【請求項3】
C個(Cは2以上の整数)の波長分布の励起光のそれぞれを試料に照射することにより取得された蛍光画像であって、N個(Nは2以上の整数)の画素によってそれぞれが構成される前記C個の蛍光画像を基に、前記試料における色素の分布を示す色素画像を生成するための色素画像取得プログラムであって、
コンピュータを、
前記C個の蛍光画像の各画素の強度値を基に、前記N個の画素をL個(Lは2以上N-1以下の整数)に画素群にクラスタリングして、前記C個の蛍光画像をクラスタリングした画素群毎に配列したL個のクラスタ行列を生成するクラスタリング部、
L個のクラスタ行列ごとにC個の蛍光画像を構成する前記画素群の前記強度値の統計値を計算する計算部、及び
L個のクラスタ行列ごとの前記C個の蛍光画像の前記統計値を用いて、前記C個の蛍光画像を対象にアンミキシングを行い、K個(Kは2以上C以下の整数)の色素毎の分布を示す前記K個の色素画像を生成する画像生成部、
として機能させる色素画像取得プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態の一側面は、色素画像取得方法、色素画像取得装置、及び色素画像取得プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、生体組織等の試料を対象に複数の試料内物質を同時に染色する多重識別化の手法が用いられている。そして、多重識別化が行われた試料内の物質を観察するために、試料に励起光を照射して蛍光画像を取得することも行われている。例えば、下記非特許文献1には、複数の波長域の蛍光を観察した蛍光画像をブラインドアンミキシングして試料内物質ごとの分離画像を得るために、非負値行列因子分解(NMF: Nonnegative Matrix Factorization)の手法を適用することが開示されている。また、下記非特許文献2には、蛍光画像をアンミキシングする手法として、蛍光画像をクラスタリングして、クラスタリングされた各画素群で蛍光強度の最大値を抽出し、その最大値を基に分離画像を生成することが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Binjie Qin et al.,“Target/Background ClassificationRegularized Nonnegative Matrix Factorization for Fluorescence Unmixing”, IEEE TRANSACTIONS ON INSTRUMENTATION AND MEASUREMENT, VOL.65, NO.4, APRIL2016
【非特許文献2】Tristan D. McRae et al.,“Robust blind spectral unmixing forfluorescence microscopy using unsupervised learning”, PLOSONE, December 2,2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような従来の手法においては、アンミキシングによって取得される分離画像の精度を上げるためには、励起光の種類、観察する蛍光バンドの数、あるいは画像枚数を増加させる必要があるため、アンミキシングの計算時間が増加しスループットの低下を招く傾向にある。
【0005】
そこで、実施形態の一側面は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、アンミキシングによって取得される分離画像の精度を高めつつスループットの向上を図ることが可能な色素画像取得方法、色素画像取得装置、及び色素画像取得プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の第一の側面に係る色素画像取得方法は、C個(Cは2以上の整数)の波長分布の励起光のそれぞれを試料に照射し、N個(Nは2以上の整数)の画素によってそれぞれが構成されるC個の蛍光画像を取得する画像取得ステップと、C個の蛍光画像の各画素の強度値を基に、N個の画素をL個(Lは2以上N-1以下の整数)に画素群にクラスタリングして、C個の蛍光画像をクラスタリングした画素群毎に配列したL個のクラスタ行列を生成するクラスタリングステップと、L個のクラスタ行列ごとにC個の蛍光画像を構成する画素群の強度値の統計値を計算する計算ステップと、L個のクラスタ行列ごとのC個の蛍光画像の統計値を用いて、C個の蛍光画像を対象にアンミキシングを行い、K個(Kは2以上C以下の整数)の色素毎の分布を示すK個の色素画像を生成する画像生成ステップと、を備える。
【0007】
あるいは、実施形態の第二の側面に係る色素画像取得装置は、C個(Cは2以上の整数)の波長分布の励起光のそれぞれを試料に照射し、N個(Nは2以上の整数)の画素によってそれぞれが構成されるC個の蛍光画像を取得する画像取得装置と、試料における色素の分布を示す色素画像を生成する画像処理装置と、を備え、画像処理装置は、C個の蛍光画像の各画素の強度値を基に、N個の画素をL個(Lは2以上N-1以下の整数)に画素群にクラスタリングして、C個の蛍光画像をクラスタリングした画素群毎に配列したL個のクラスタ行列を生成し、L個のクラスタ行列ごとにC個の蛍光画像を構成する画素群の強度値の統計値を計算し、L個のクラスタ行列ごとのC個の蛍光画像の統計値を用いて、C個の蛍光画像を対象にアンミキシングを行い、K個(Kは2以上C以下の整数)の色素毎の分布を示すK個の色素画像を生成する。
【0008】
あるいは、実施形態の第三の側面に係る色素画像取得プログラムは、C個(Cは2以上の整数)の波長分布の励起光のそれぞれを試料に照射することにより取得された蛍光画像であって、N個(Nは2以上の整数)の画素によってそれぞれが構成されるC個の蛍光画像を基に、試料における色素の分布を示す色素画像を生成するための色素画像取得プログラムであって、コンピュータを、C個の蛍光画像の各画素の強度値を基に、N個の画素をL個(Lは2以上N-1以下の整数)に画素群にクラスタリングして、C個の蛍光画像をクラスタリングした画素群毎に配列したL個のクラスタ行列を生成するクラスタリング部、L個のクラスタ行列ごとにC個の蛍光画像を構成する画素群の強度値の統計値を計算する計算部、及びL個のクラスタ行列ごとのC個の蛍光画像の統計値を用いて、C個の蛍光画像を対象にアンミキシングを行い、K個(Kは2以上C以下の整数)の色素毎の分布を示すK個の色素画像を生成する画像生成部、として機能させる。
【0009】
上記第一の側面、上記第二の側面、あるいは上記第三の側面によれば、異なる波長分布の励起光を用いて試料の蛍光像を捉えたC個の蛍光画像が取得され、これらのC個の蛍光画像のN個の画素が各画素の強度値を基にL個の画素群にクラスタリングされ、C個の蛍光画像をL個の画素群毎に配列したL個のクラスタ行列が生成される。加えて、L個のクラスタ行列ごとにC個の蛍光画像を構成する画素群の強度値の統計値が計算され、それぞれのC個の蛍光画像の統計値を用いてC個の蛍光画像がアンミキシングされてK個の色素画像が生成される。これにより、観察に用いる励起光の種類、あるいは、観察する蛍光バンドの数が増加しても、アンミキシングを行う際の計算量を抑えることができる。また、クラスタリングされたクラスタ行列ごとの蛍光画像の統計値を用いてアンミキシングを行うことで、色素画像の分離の精度も向上させることができる。その結果、分離画像の精度を高めつつ分離画像を取得する際のスループットの向上を図ることができる。
【0010】
実施形態の色素画像取得方法は、[1]「C個(Cは2以上の整数)の波長分布の励起光のそれぞれを試料に照射し、N個(Nは2以上の整数)の画素によってそれぞれが構成される前記C個の蛍光画像を取得する画像取得ステップと、
前記C個の蛍光画像の各画素の強度値を基に、前記N個の画素をL個(Lは2以上N-1以下の整数)に画素群にクラスタリングして、前記C個の蛍光画像をクラスタリングした画素群毎に配列したL個のクラスタ行列を生成するクラスタリングステップと、
L個のクラスタ行列ごとにC個の蛍光画像を構成する前記画素群の前記強度値の統計値を計算する計算ステップと、
L個のクラスタ行列ごとの前記C個の蛍光画像の前記統計値を用いて、前記C個の蛍光画像を対象にアンミキシングを行い、K個(Kは2以上C以下の整数)の色素毎の分布を示す前記K個の色素画像を生成する画像生成ステップと、
を備える色素画像取得方法。」である。
【0011】
実施形態の色素画像取得方法は、[2]「前記クラスタリングステップでは、前記強度値の前記C個の励起光毎の分布情報を基に前記N個の画素をクラスタリングする、
上記[1]に記載の色素画像取得方法。」であってもよい。
【0012】
実施形態の色素画像取得方法は、[3]「前記蛍光画像の各画素に対応する蛍光波長に関する波長情報を取得する波長情報取得ステップをさらに備え、
前記クラスタリングステップでは、前記各画素に対応する前記波長情報を基に前記N個の画素をクラスタリングする、
上記[1]又は[2]に記載の色素画像取得方法。」であってもよい。
【0013】
実施形態の色素画像取得方法は、[4]「前記波長情報取得ステップでは、前記C個の波長分布のいずれかの波長分布の励起光を前記試料に照射し、前記試料からの蛍光を異なる波長特性で分離する波長情報取得光学系を介して分離し、分離された前記蛍光をそれぞれ撮像して複数の分離蛍光画像を取得し、前記複数の分離蛍光画像を基に前記波長情報を取得する、
上記[3]に記載の色素画像取得方法。」であってもよい。
【0014】
実施形態の色素画像取得方法は、[5]「前記波長情報取得ステップでは、前記C個の波長分布のいずれかの波長分布の励起光を前記試料に照射し、前記試料からの蛍光を少なくとも2つ以上の蛍光波長を検出可能なカメラで撮像して蛍光画像を取得し、前記蛍光画像を基に前記波長情報を取得する、
上記[3]に記載の色素画像取得方法。」であってもよい。
【0015】
実施形態の色素画像取得方法は、[6]「前記計算ステップでは、前記統計値を、前記画素群の前記強度値の積算値、最頻値、あるいは中間値に基づいて計算する、
上記[1]~[5]のいずれかに記載の色素画像取得方法。」であってもよい。
【0016】
実施形態の色素画像取得方法は、[7]「前記画像生成ステップでは、L個のクラスタ行列ごとの前記C個の蛍光画像の前記統計値を用いて、ミキシング行列を求め、前記ミキシング行列を用いてアンミキシングを行う、
上記[1]~[6]のいずれかに記載の色素画像取得方法。」であってもよい。
【0017】
実施形態の色素画像取得方法は、[8]「前記画像生成ステップでは、非負値行列因子分解を用いて、L個のクラスタ行列ごとの前記C個の蛍光画像の前記統計値を基に損失値を計算し、前記損失値の和を基に前記ミキシング行列を求める、
上記[7]に記載の色素画像取得方法。」であってもよい。
【0018】
実施形態の色素画像取得方法は、[9]「前記画像生成ステップでは、L個のクラスタ行列ごと前記損失値を前記統計値を基に補正し、補正した前記損失値の和を基に前記ミキシング行列を求める、
上記[8]に記載の色素画像取得方法。」であってもよい。
【0019】
実施形態の色素画像取得装置は、[10]「C個(Cは2以上の整数)の波長分布の励起光のそれぞれを試料に照射し、N個(Nは2以上の整数)の画素によってそれぞれが構成される前記C個の蛍光画像を取得する画像取得装置と、
前記試料における色素の分布を示す色素画像を生成する画像処理装置と、を備え、
前記画像処理装置は、
前記C個の蛍光画像の各画素の強度値を基に、前記N個の画素をL個(Lは2以上N-1以下の整数)に画素群にクラスタリングして、前記C個の蛍光画像をクラスタリングした画素群毎に配列したL個のクラスタ行列を生成し、
L個のクラスタ行列ごとにC個の蛍光画像を構成する前記画素群の前記強度値の統計値を計算し、
L個のクラスタ行列ごとの前記C個の蛍光画像の前記統計値を用いて、前記C個の蛍光画像を対象にアンミキシングを行い、K個(Kは2以上C以下の整数)の色素毎の分布を示す前記K個の色素画像を生成する、
色素画像取得装置。」である。
【0020】
実施形態の色素画像取得装置は、[11]「前記画像処理装置は、前記強度値の前記C個の励起光毎の分布情報を基に前記N個の画素をクラスタリングする、
上記[10]に記載の色素画像取得装置。」であってもよい。
【0021】
実施形態の色素画像取得装置は、[12]「前記画像処理装置は、
前記蛍光画像の各画素に対応する蛍光波長に関する波長情報をさらに取得し、
前記各画素に対応する前記波長情報を基に前記N個の画素をクラスタリングする、
上記[10]又は[11]に記載の色素画像取得装置。」であってもよい。
【0022】
実施形態の色素画像取得装置は、[13]「前記画像取得装置は、
前記C個の波長分布のいずれかの波長分布の励起光を前記試料に照射し、前記試料からの蛍光を異なる波長特性で分離する波長情報取得光学系を介して分離し、分離された前記蛍光をそれぞれ撮像して複数の分離蛍光画像を取得し、
前記画像処理装置は、前記複数の分離蛍光画像を基に前記波長情報を取得する、
上記[12]に記載の色素画像取得装置。」であってもよい。
【0023】
実施形態の色素画像取得装置は、[14]「前記画像取得装置は、前記C個の波長分布のいずれかの波長分布の励起光を前記試料に照射し、前記試料からの蛍光を少なくとも2つ以上の蛍光波長を検出可能なカメラで撮像して蛍光画像を取得し、前記蛍光画像を基に前記波長情報を取得する、
上記[12]に記載の色素画像取得装置。」であってもよい。
【0024】
実施形態の色素画像取得装置は、[15]「前記画像処理装置は、前記統計値を、前記画素群の前記強度値の積算値、最頻値、あるいは中間値に基づいて計算する、
上記[10]~[14]のいずれかに記載の色素画像取得装置。」であってもよい。
【0025】
実施形態の色素画像取得装置は、[16]「前記画像処理装置は、L個のクラスタ行列ごとの前記C個の蛍光画像の前記統計値を用いて、ミキシング行列を求め、前記ミキシング行列を用いてアンミキシングを行う、
上記[10]~[15]のいずれかに記載の色素画像取得装置。」であってもよい。
【0026】
実施形態の色素画像取得装置は、[17]「前記画像処理装置は、非負値行列因子分解を用いて、L個のクラスタ行列ごとの前記C個の蛍光画像の前記統計値を基に損失値を計算し、前記損失値の和を基に前記ミキシング行列を求める、
上記[16]に記載の色素画像取得装置。」であってもよい。
【0027】
実施形態の色素画像取得装置は、[18]「前記画像処理装置は、L個のクラスタ行列ごと前記損失値を前記統計値を基に補正し、補正した前記損失値の和を基に前記ミキシング行列を求める、
上記[17]に記載の色素画像取得装置。」であってもよい。
【0028】
実施形態の色素画像取得プログラムは、[19]「C個(Cは2以上の整数)の波長分布の励起光のそれぞれを試料に照射することにより取得された蛍光画像であって、N個(Nは2以上の整数)の画素によってそれぞれが構成される前記C個の蛍光画像を基に、前記試料における色素の分布を示す色素画像を生成するための色素画像取得プログラムであって、
コンピュータを、
前記C個の蛍光画像の各画素の強度値を基に、前記N個の画素をL個(Lは2以上N-1以下の整数)に画素群にクラスタリングして、前記C個の蛍光画像をクラスタリングした画素群毎に配列したL個のクラスタ行列を生成するクラスタリング部、
L個のクラスタ行列ごとにC個の蛍光画像を構成する前記画素群の前記強度値の統計値を計算する計算部、及び
L個のクラスタ行列ごとの前記C個の蛍光画像の前記統計値を用いて、前記C個の蛍光画像を対象にアンミキシングを行い、K個(Kは2以上C以下の整数)の色素毎の分布を示す前記K個の色素画像を生成する画像生成部、
として機能させる色素画像取得プログラム。」である。
【発明の効果】
【0029】
実施形態の一側面によれば、アンミキシングによって取得される分離画像の精度を高めつつスループットの向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】実施形態にかかる色素画像取得システム1の概略構成図である。
【
図2】
図1の画像取得装置3の構成を示す斜視図である。
【
図3】
図1の画像処理装置5のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】
図1の画像処理装置5の機能構成を示すブロック図である。
【
図5】
図4のクラスタリング部203による第1のクラスタリング機能によってクラスタリングされた画素群のイメージを示す図である。
【
図6】試料Sに含まれる複数の色素の励起光の吸収率の波長特性を示すグラフである。
【
図7】
図4のクラスタリング部203によって特定された重心蛍光波長の分布を示すグラフである。
【
図8】
図4のクラスタリング部203による第2のクラスタリング機能によってクラスタリングされた画素群のイメージを示す図である。
【
図9】
図4の統計値計算部204によって再生成される行列データY’及び色素行列データX’のイメージを示す図である。
【
図10】実施形態に係る色素画像取得方法の手順を示すフローチャートである。
【
図11】実施形態に係る色素画像取得システム1によって生成された色素画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0032】
図1は、実施形態にかかる色素画像取得装置である色素画像取得システム1の概略構成図である。色素画像取得システム1は、観察対象である生体組織等の試料内の色素の分布を特定するための色素画像を生成するための装置である。色素画像取得システム1によって生成される画像は、その画像の解析を通じた、薬剤の開発、治療法の検討等の目的に用いられる。そのため、色素画像取得システム1には、定量的に試料に含まれる多くの物質(色素)の分布を特定可能な画像を高スループットで生成することが求められる。色素画像取得システム1は、試料Sに励起光を照射してそれに応じて生じた蛍光の画像を取得する画像取得装置3と、画像取得装置3によって取得された画像をデータ処理する画像処理装置5とを備えている。画像取得装置3と画像処理装置5とは、それらの間で有線通信あるいは無線通信を用いて画像データが送受信可能に構成されていてもよいし、記録媒体を介して画像データが入出力可能に構成されていてもよい。
【0033】
図2は、
図1の画像取得装置3の構成を示す斜視図である。
図2においては、励起光の光路を矢印付きの点線で示し、蛍光の光路を矢印付きの実線で示す。画像取得装置3は、励起光源7、光源側フィルタセット9a、ダイクロイックミラー11、カメラ側フィルタセット9b、波長情報取得光学系13、第1のカメラ15a、及び第2のカメラ15bを含んで構成される。
【0034】
励起光源7は、複数の波長帯(波長分布)の励起光を切り替えて照射可能な光源であり、例えば、LED(Light Emitting Diode)光源、複数の単色レーザ光源からなる光源、あるいは白色光源と波長選択光学素子を組み合わせた光源などである。光源側フィルタセット9aは、励起光源7の励起光の光路上に設けられ、所定の複数の波長帯の光を透過させる性質を有するマルチバンドパスフィルタである。この光源側フィルタセット9aの透過波長帯は、使用されうる励起光の複数の波長帯に応じて設定される。ダイクロイックミラー11は、光源側フィルタセット9aと試料Sとの間に設けられ、励起光を試料Sに向けて反射し、それに応じて試料Sから発せられる蛍光を透過する性質を有する光学部材である。カメラ側フィルタセット9bは、ダイクロイックミラー11によって透過される蛍光の光路上に設けられ、所定の複数の波長帯の光を透過させる性質を有するマルチバンドパスフィルタである。このカメラ側フィルタセット9bの透過波長帯は、観察対象の試料Sに含みうる色素において生じる蛍光の波長帯に応じて設定される。
【0035】
波長情報取得光学系13は、カメラ側フィルタセット9bによって透過される蛍光の光路上に設けられ、蛍光の波長情報を取得するための光学系である。すなわち、波長情報取得光学系13は、試料Sからの蛍光を異なる波長特性で2つの光路に分離する。例えば、波長情報取得光学系13としては、波長が大きくなるに従って透過率が線形的に大きくなるような透過率の波長特性を有するダイクロイックミラーが用いられる。このようなダイクロイックミラーを用いた波長情報取得光学系13は、異なる波長特性で蛍光を分離し、波長が大きくなるほど反射率が小さくなるような波長特性で蛍光の一部を反射し、波長が大きくなるほど透過率が大きくなるような波長特性で蛍光の一部を透過する。この波長情報取得光学系13には、波長情報取得光学系13をカメラ側フィルタセット9bからの蛍光の光路上において着脱可能に支持する支持機構(図示せず)が設けられる。
【0036】
第1のカメラ15aは、N個(Nは2以上の整数、例えば、2048×2048)の画素によって構成される二次元画像を撮像する撮像装置であり、波長情報取得光学系13が蛍光の光路上に支持された際に、波長情報取得光学系13によって分離された蛍光の一方の成分を撮像して一方の分離蛍光画像を取得するカメラである。また、第1のカメラ15aは、波長情報取得光学系13が蛍光の光路上から離脱された際に、カメラ側フィルタセット9bを透過した蛍光を撮像し、蛍光画像を取得する。第1のカメラ15aは、取得した分離蛍光画像あるいは蛍光画像を、通信を用いて、あるいは記録媒体を介して、画像処理装置5に出力する。第2のカメラ15bは、第1のカメラ15aと同じN個の画素によって構成される二次元画像を撮像する撮像装置であり、波長情報取得光学系13が蛍光の光路上に支持された際に、波長情報取得光学系13によって分離された蛍光の他方の成分を撮像して他方の分離蛍光画像を取得するカメラである。第2のカメラ15bは、取得した分離蛍光画像を、通信を用いてあるいは記録媒体を介して画像処理装置5に出力する。
【0037】
なお、蛍光画像は、第1のカメラ15aによって取得された一方の分離蛍光画像、及び第2のカメラ15bによって取得された他方の分離蛍光画像を用いて、画像処理装置5によって画像を足し合わせることによって取得されてもよい。その場合は、波長情報取得光学系13における支持機構は除かれてもよい。
【0038】
次に、
図3および
図4を参照して、画像処理装置5の構成を説明する。
図3は、画像処理装置5のハードウェア構成の一例を示すブロック図であり、
図4は、画像処理装置5の機能構成を示すブロック図である。
【0039】
図3に示すように、画像処理装置5は、物理的には、プロセッサであるCPU(Central Processing Unit)101、記録媒体であるRAM(Random Access Memory)102又はROM(Read Only Memory)103、通信モジュール104、及び入出力モジュール106等を含んだコンピュータ等であり、各々は電気的に接続されている。なお、画像処理装置5は、入出力デバイスとして、ディスプレイ、キーボード、マウス、タッチパネルディスプレイ等を含んでいてもよいし、ハードディスクドライブ、半導体メモリ等のデータ記録装置を含んでいてもよい。また、画像処理装置5は、複数のコンピュータによって構成されていてもよい。
【0040】
図4に示すように、画像処理装置5は、機能的な構成要素として、画像取得部201、波長情報取得部202、クラスタリング部203、統計値計算部204、及び画像生成部205を備えている。
図4に示す画像処理装置5の各機能部は、CPU101及びRAM102等のハードウェア上にプログラム(実施形態にかかる色素画像取得プログラム)を読み込ませることにより、CPU101の制御のもとで、通信モジュール104、及び入出力モジュール106等を動作させるとともに、RAM102におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。画像処理装置5のCPU101は、このコンピュータプログラムを実行することによって
図4の各機能部を機能させ、後述する色素画像取得方法に対応する処理を順次実行する。なお、CPU101は、単体のハードウェアでもよく、ソフトプロセッサのようにFPGAのようなプログラマブルロジックの中に実装されたものでもよい。RAMやROMについても単体のハードウェアでもよく、FPGAのようなプログラマブルロジックの中に内蔵されたものでもよい。このコンピュータプログラムの実行に必要な各種データ、及び、このコンピュータプログラムの実行によって生成された各種データは、全て、ROM103、RAM102等の内蔵メモリ、又は、ハードディスクドライブなどの記憶媒体に格納される。以下、画像処理装置5の機能的な構成要素の機能について詳細に説明する。
【0041】
画像取得部201は、試料Sを対象とした予め指定されたC個(Cは2以上の整数)の蛍光画像を、画像取得装置3から取得する。これらのC個の蛍光画像は、波長情報取得光学系13が蛍光の光路上から離脱された状態で、C個の波長帯の励起光が試料Sにそれぞれ照射されて、それに応じて試料Sから生じた蛍光を撮像することによって生成されるN個の画素によって構成される蛍光画像である。このとき、取得される蛍光画像の個数C(試料Sに照射される励起光の波長帯の数C)は、試料Sに含まれうる色素の最大の数以上になるように予め指定される。なお、画像取得装置3がC個の蛍光画像を得る際の励起光の強度の比は同じとされているか、または、画像取得部201が、励起光の強度が同等とみなされる蛍光画像となるように、C個の蛍光画像の輝度値を相対的に補正するものとする。
【0042】
また、画像取得部201は、試料Sを対象とした予め指定されたC組の分離蛍光画像を、画像取得装置3から取得する。これらのC組の分離蛍光画像は、波長情報取得光学系13が蛍光の光路上に支持された状態で、C個の波長帯の励起光が試料Sにそれぞれ照射されて、それに応じて試料Sから生じた蛍光を2つの成分に分離して撮像することによって生成されるN個の画素によって構成される分離蛍光画像の組である。
【0043】
波長情報取得部202は、C組の分離蛍光画像のそれぞれを対象にして、一方の分離蛍光画像の蛍光強度(輝度値)と他方の分離蛍光画像の蛍光強度との比を計算することにより、蛍光の波長分布の重心を示す重心蛍光波長を推定する。このとき、波長情報取得部202は、下記のクラスタリング部203によってクラスタリングされた画素群を対象にして、一方の分離蛍光画像の蛍光強度の平均値と他方の分離蛍光画像の蛍光強度の平均値を計算し、これらの平均値の比を計算する。波長情報取得部202は、推定した重心蛍光波長を、蛍光波長に関する波長情報として取得する。
【0044】
クラスタリング部203は、画像取得部201によって取得されたC個の蛍光画像及び波長情報取得部202によって取得された波長情報を基に、C個の蛍光画像を構成するN個の画素を対象にクラスタリングを実行する。クラスタリングの処理に先立って、クラスタリング部203は、C個の蛍光画像のそれぞれを構成するN個の画素の蛍光強度の値を並列に一次元に配列した行列データYを生成する。
【0045】
次に、クラスタリング部203は、蛍光強度のC個の波長帯の励起光毎の分布情報を基に、N個の画素をC個の画素群にクラスタリングする機能(第1のクラスタリング機能)を有する。詳細には、クラスタリング部203は、蛍光強度の一番大きい励起光の波長帯が同一である画素を同一の画素群にクラスタリングする。
図5には、クラスタリング部203による第1のクラスタリング機能によってクラスタリングされた画素群のイメージを示し、
図6には、試料Sに含まれる複数の色素の励起光の吸収率の波長特性が示されている。
図5に示すように、試料Sに含まれる色素が、色素C
1、色素C
2、色素C
3の3種類であり、6種類の波長帯の励起光を用いて6個の蛍光画像が得られた場合を想定すると、クラスタリング部203は、6個の蛍光画像GC
1~GC
6に含まれるN個の画素を、6個の画素群PGr
1~PGr
6にクラスタリングする。
図6に示すように、一般に、種類の異なる色素は異なる吸収率の波長特性を有し、3種類の色素C
1,C
2,C
3も異なるピーク波長を有する波長特性CW
1,CW
2,CW
3を有する。従って、励起光の6種類の波長帯EW
1,EW
2,EW
3,EW
4,EW
5,EW
6において、吸収率が一番大きい色素は3種類の色素C
1,C
2,C
3のうちの1つと決まっている。例えば、波長帯EW
1の励起光の吸収率が一番大きいのは色素C
1であり、波長帯EW
2の励起光の吸収率が一番大きいのは色素C
1であり、波長帯EW
3の励起光の吸収率が一番大きいのは色素C
2である。この性質を利用して、クラスタリング部203は、第1のクラスタリング機能により、N個の画素を、同じ色素が分布する範囲の画素群にクラスタリングできる。ただし、第1のクラスタリング機能によりクラスタリングされた6個の画素群PGr
1~PGr
6は、3種類の色素C
1,C
2,C
3に1対1には対応していない。
【0046】
加えて、クラスタリング部203は、波長情報を基に、第1のクラスタリング機能によってクラスタリングしたC個の画素群をさらにL個(Lは2以上N-1以下の整数)の画素群にクラスタリングする機能(第2のクラスタリング機能)を有する。ここで、クラスタリングする画素群の数Lは、試料Sに存在しうる色素の種類の数に対応させて、画像処理装置5内に記憶されるパラメータとして予め設定される。すなわち、クラスタリング部203は、第1のクラスタリング機能によってクラスタリングしたC個の画素群毎に、その画素群に対応する励起光の波長帯を対象にして推定された重心蛍光波長を特定する。より具体的には、クラスタリング部203は、ある波長帯の吸収率が一番大きいとしてクラスタリングした画素群を対象にした波長情報を、波長情報取得部202から取得し、取得した波長情報を基に重心蛍光波長を特定する。この際、波長情報取得部202においては、その波長帯に対応して得られた一組の分離蛍光画像の画素群における蛍光強度の平均値を用いて、波長情報が取得される。さらに、クラスタリング部203は、C個の画素群毎に特定した重心蛍光波長の間の距離(値の近さ)を判断することにより、C個の画素群をL個の画素群にクラスタリングする。そして、クラスタリング部203は、C個の蛍光画像の画素の蛍光強度の値を一次元に並列に配列した行列データYを、L個の画素群毎のクラスタ行列に分割して再生成する。
【0047】
図7には、クラスタリング部203によって特定された重心蛍光波長の分布を示し、
図8には、クラスタリング部203による第2のクラスタリング機能によってクラスタリングされた画素群のイメージを示している。
図7及び
図8に示す例では、第1のクラスタリング機能によってクラスタリングされた6個の画素群PGr
1~PGr
6毎に重心蛍光波長FW
1~FW
6が特定され、重心蛍光波長の距離が互いに近い画素群PGr
1と画素群PGr
2とが、新たな画素群PGr
01にクラスタリングされ、同様に、画素群PGr
3と画素群PGr
4とが画素群PGr
02にクラスタリングされ、画素群PGr
5と画素群PGr
6とが画素群PGr
03にクラスタリングされる。これにより、C個の蛍光画像の画素を試料Sに含まれると想定される画素の分布に対応したL個の画素群に分けることができる。ただし、第2のクラスタリング機能による分割数Lは、蛍光画像の数C(励起光の波長帯の数C)以下に設定される。
【0048】
統計値計算部204は、試料Sを対象にして得られたL個のクラスタ行列を基に、C個の蛍光画像からK個(Kは2以上C以下の整数)の色素のそれぞれの分布を示すK個の色素画像を生成するためのミキシング行列Aを求める。一般に、非負値行列因子分解(NMF)の演算方式によれば、観測値行列である行列データYと、K個の色素画像を画素毎に一次元に並列に配列した色素行列データXとの関係は、ミキシング行列Aを用いて、下記式;
Y=AX
で表わされる。ここで、Yは、C行N列の行列データであり、Aは、C行K列の行列データであり、Xは、K行N列の行列データである。逆に、ミキシング行列Aの値が求まれば、色素行列データXは、ミキシング行列Aの逆行列A-1と行列データYとを用いて、下記式;
X=A-1Y
によって導き出すことができる(この処理をアンミキシングと言う。)。
【0049】
ここで、統計値計算部204は、クラスタリング部203によって生成された行列データYを、クラスタリング部203によってクラスタリングされた画素群単位で圧縮することによって、行列データY’を再生成する。詳細には、統計値計算部204は、行列データYの各行の蛍光強度を対象に、クラスタリングされたクラスタ行列の画素群毎に統計値を計算し、各行の画素群を、計算した統計値を有する1つの画素に圧縮する。これにより、統計値計算部204は、C行L列の行列データである行列データY’を再生成する。統計値計算部204は、統計値として、蛍光強度の積算値に基づいた平均値を計算してもよいし、蛍光強度の最頻値を計算してもよいし、蛍光強度の中間値を計算してもよい。
【0050】
さらに、統計値計算部204は、再生した行列データY’、及び、色素行列データXから同様にして圧縮される色素行列データX’にも、ミキシング行列Aを含む下記式;
Y’=AX’
が成立する性質を利用して、行列データY’を基にミキシング行列Aを導出する。
図9には、統計値計算部204によって再生成される行列データY’、及びそれに対応する色素行列データX’のイメージを示している。
図9に図示される1つの升目は行列データの1つの要素を表している。このように、3つの画素群PGr
01~PGr
03に分割された色素行列データX及び行列データYは、画素群PGr
01~PGr
03毎の統計値を代表値として、3列の色素行列データX’及び行列データY’に圧縮されたデータである。
【0051】
統計値計算部204は、次のようにして、行列データY’を基にミキシング行列Aを導出する。すなわち、統計値計算部204は、ミキシング行列Aに初期値を設定し、ミキシング行列Aの値を順次変更しながら下記のロス関数(損失値)Losを計算し、ロス関数Losの値を低減させるようなミキシング行列Aを導出する。なお、このロス関数には、L1ノルムλ|A|(λは正則化項を重視する度合いを示す係数)等の正則化項が追加されてもよい。
【数1】
上記式中、jは行列データの行の位置(励起光の波長帯に対応)を示すパラメータであり、行列の添え字1jは、1番目のクラスタ行列のj番目の行の行列データを示し、行列の添え字2jは、2番目のクラスタ行列のj番目の行の行列データを示し、行列の添え字3jは、3番目のクラスタ行列のj番目の行の行列データを示す。また、パラメータa、b、cは、行列データY’の各列の統計値の平均値を示している。
【0052】
上記のように、統計値計算部204は、クラスタリング部203によって分割されたL個のクラスタ行列毎に、C個の行列データY’の統計値を参照してロス関数を計算し、L個のロス関数の和を基にロス関数Losを計算し、そのロス関数Losを基にミキシング行列Aを求める。この際、統計値計算部204は、L個のクラスタ行列毎に計算したロス関数を、C個の行列データY’の統計値の平均値a,b,cで除算することによって補正してから、補正したロス関数の和を計算することによってロス関数Losを求めている。なお、統計値計算部204は、L個のクラスタ行列毎のロス関数を、差分値Y’-AX’の励起光の波長帯毎の行成分を励起光の各波長帯に対応するC個の統計値を用いて除算して補正することによって、計算してもよい。
【0053】
なお、上記式は、次のように一般化することもできる。つまり、統計値計算部204は、次のようにして、行列データY’を基にミキシング行列Aと色素行列データX’を導出する。すなわち、統計値計算部204は、ミキシング行列Aと色素行列データX’に初期値を設定し、ミキシング行列Aと色素行列データX’の値を順次変更しながら下記式を用いてロス関数(損失値)Losを計算し、ロス関数Losの値を低減させるようなミキシング行列Aと色素行列データX’を導出する。なお、このロス関数には、L1ノルムλ|A|(λは正則化項を重視する度合いを示す係数)等の正則化項が追加されてもよい。また、ミキシング行列Aと色素行列データX’が非負値になるような制約をかけて計算してもよい。
【数2】
上記式中、jは行列データの行の位置(励起光の波長帯に対応)を示すパラメータであり、iは行列データの列の位置(i番目のクラスタに対応)を示すパラメータである。また、w
ijは行列データの各要素の重みを表しており、各要素の値またはその標準偏差から計算しても良い。また、w
ijを全て同じ値にして各要素の重みを考慮しないことも可能である。なお、上記式における行列データY’の各列の統計値の平均値をa、b、c、…とし、w
1j=1/a、w
2j=1/b、w
3j=1/cと置き換えた式は、先に示したロス関数Losの式と同じとなる。
【0054】
上記のように、統計値計算部204は、クラスタリング部203によって分割されたL個のクラスタ行列毎に、C個の行列データY’の統計値を参照してロス関数を計算し、L個のロス関数Losiの和を基にロス関数Losを計算し、そのロス関数Losを基にミキシング行列Aを求める。なお、統計値計算部204は、L個のクラスタ行列毎のロス関数Losiを、差分値Y’-AX’の励起光の波長帯毎の行成分を励起光の各波長帯に対応するC個の統計値を用いて除算して補正することによって、計算してもよい。
【0055】
画像生成部205は、観察対象の試料Sを対象にして得られたC個の蛍光画像に対して、統計値計算部204によって導出されたミキシング行列Aを用いてアンミキシングすることによって、K個の色素画像を取得する。具体的には、画像生成部205は、クラスタリング部203によってC個の蛍光画像を基に生成された行列データYに、ミキシング行列Aの逆行列A-1を適用することにより、色素行列データXを計算する。そして、画像生成部205は、色素行列データXからK個の色素画像を再生し、再生したK個の色素画像を出力する。このときの出力先は、ディスプレイ、タッチパネルディスプレイ等の画像処理装置5の出力デバイスであってもよいし、画像処理装置にデータ通信可能に接続された外部の装置であってもよい。
【0056】
次に、本実施形態に係る色素画像取得システム1を用いた試料Sを対象にした観察処理の手順、すなわち、本実施形態に係る色素画像取得方法の流れについて説明する。
図10は、色素画像取得システム1による観察処理の手順を示すフローチャートである。
【0057】
まず、画像処理装置5の画像取得部201によって、試料Sを撮像したC個の蛍光画像及びC組の分離蛍光画像が取得される(ステップS1;画像取得ステップ)。次に、画像処理装置5のクラスタリング部203によって、C個の蛍光画像のN個の画素を並列に配列した行列データYが生成される(ステップS2)。
【0058】
さらに、画像処理装置5のクラスタリング部203によって、第1のクラスタリング機能が実行され、励起波長帯毎の蛍光強度の分布情報を用いて、蛍光画像のN個の画素がC個の画素群にクラスタリングされる(ステップS3;クラスタリングステップ)。次に、画像処理装置5の波長情報取得部202により、C個の画素群毎に、分離蛍光画像の組を参照して重心蛍光波長を示す波長情報が取得される(ステップS4;波長情報取得ステップ)。その後、画像処理装置5のクラスタリング部203により、第2のクラスタリング機能が実行され、C個の画素群毎に波長情報を基に特定した重心蛍光波長の間の距離が判断されることにより、C個の画素群がL個の画素群にクラスタリングされる(ステップS5;クラスタリングステップ)。
【0059】
次に、画像処理装置5の統計値計算部204により、L個の画素群の統計値を計算することにより、クラスタリング部203によって生成された行列データYを基に行列データY’が再生成される(ステップS6;計算ステップ)。そして、画像処理装置5の統計値計算部204により、行列データY’を基にミキシング行列Aが導出される(ステップS7;画像生成ステップ)。さらに、画像処理装置5の画像生成部205により、試料Sを対象にしたC個の蛍光画像を基に生成された行列データYがミキシング行列Aを用いてアンミキシングされることにより、K個の色素画像が再生される(ステップS8;画像生成ステップ)。最後に、画像処理装置5の画像生成部205によって、再生されたK個の色素画像が出力される(ステップS9)。以上により、試料Sを対象にした観察処理が完了する。
【0060】
以上説明した色素画像取得システム1によれば、異なる波長帯の励起光を用いて試料Sの蛍光像を捉えたC個の蛍光画像が取得され、これらのC個の蛍光画像のN個の画素が各画素の蛍光強度を基にL個の画素群にクラスタリングされ、C個の蛍光画像をL個の画素群毎に配列したL個のクラスタ行列が生成される。加えて、L個のクラスタ行列ごとにC個の蛍光画像を構成する画素群の蛍光強度の統計値が計算され、それぞれのC個の蛍光画像の統計値を用いてC個の蛍光画像がアンミキシングされてK個の色素画像が生成される。これにより、観察に用いる励起光の種類、あるいは、観察する蛍光バンドの数が増加しても、アンミキシングを行う際の計算量を抑えることができる。また、クラスタリングされたクラスタ行列ごとの蛍光画像の統計値を用いてアンミキシングを行うことで、色素画像の分離の精度も向上させることができる。その結果、分離された色素画像の精度を高めつつ色素画像を取得する際のスループットの向上を図ることができる。
【0061】
また、本実施形態においては、クラスタリングステップにおいて、蛍光強度のC個の励起光毎の分布情報を基にN個の画素がクラスタリングされている。これにより、励起光毎の蛍光強度によって画素をクラスタリングすることができ、そのクラスタリング結果を基にアンミキシングすることにより、色素画像の分離の精度を向上させることができる。
【0062】
また、本実施形態においては、第1のクラスタリング機能によってクラスタリングされた画素群毎に蛍光波長に関する波長情報を取得する波長情報取得ステップがさらに実行され、クラスタリングステップでは、各画素群に対応する波長情報を基にC個の画素群がL個の画素群にさらにクラスタリングされる。これにより、蛍光画像の各画素群に対応する蛍光波長を用いて画素をクラスタリングすることができ、そのクラスタリング結果を用いて蛍光画像をアンミキシングすることで、試料Sに存在しうる色素毎の色素画像の分離の精度を向上させることができる。
【0063】
また、本実施形態においては、C個の波長帯のいずれかの波長帯の励起光を用いて生じた試料Sからの蛍光が波長情報取得光学系13を介して2つの成分に分離され、分離された2つの成分の蛍光をそれぞれ撮像した分離蛍光画像の組が取得され、分離蛍光画像の組を基に波長情報が取得される。この場合、励起光の照射によって生じる試料Sからの蛍光が異なる波長特性で分離され、分離された蛍光を撮像した分離蛍光画像の組を基に波長情報が取得されるので、波長情報を精度よく解析することができる。その結果、色素画像の分離の精度を向上させることができる。
【0064】
複数の色素を含む試料を対象にした従来の蛍光イメージング手法では、光源に設けられた複数の透過波長帯をそれぞれ有する複数の励起光フィルタ(バンドパスフィルタ)を切り替えながら、複数の波長帯の励起光が順次照射され、それに応じて試料から生じる蛍光を複数の透過波長帯をそれぞれ有する複数の蛍光フィルタ(バンドパスフィルタ)を切り替えながら蛍光フィルタを介して撮像することにより、複数の蛍光画像が取得されていた。そのため、励起光フィルタの切り替えとそれに応じた蛍光フィルタの切り替えが必要となる。その結果、フィルタの切り替えの時間と、フィルタの切り替えに応じて試料Sの励起光の照射範囲を合わせるための試料Sのステージの位置調整の時間とが必要となるため、蛍光画像の取得時間が長くなる傾向にある。これに対して、本実施形態では、マルチバンドパスフィルタが光源側フィルタセット9a及びカメラ側フィルタセット9bとして用いられ、フィルタの切り替えが不要とされており、励起光源7も同視野で励起光の波長帯を切り替えることができるので、蛍光画像の取得時間を大幅に短縮できる。なお、本実施形態では、マルチバンドフィルタを用いて蛍光画像を撮像することで、それぞれの蛍光画像に複数の蛍光バンドの蛍光が混合して反映されるが、アンミキシング処理を行うことでK個の色素画像に高精度に分離することができる。
【0065】
さらに、本実施形態の計算ステップにおいては、クラスタ行列を圧縮する際に計算する統計値を、画素群の蛍光強度の積算値、最頻値、あるいは中間値に基づいて計算している。この場合、クラスタ行列における蛍光画像のL個の画素群の蛍光強度の全体的傾向を基にアンミキシングを実行することができ、生成される色素画像の精度を向上させることができる。
【0066】
さらに、本実施形態の画像生成ステップにおいては、L個のクラスタ行列ごとのC個の蛍光画像の統計値を用いて、ミキシング行列Aが求められ、ミキシング行列Aを用いてC個の蛍光画像がアンミキシングされている。こうすれば、クラスタリングされた蛍光画像のL個の画素群の統計値を基にミキシング行列Aが求められ、そのミキシング行列Aを用いてアンミキシングを実行することができ、生成される色素画像の精度を向上させることができる。従来は、ミキシング行列Aの導出を各色素のリファレンス情報(蛍光スペクトル、吸収スペクトル等)を基に計算することによって行っていた。本実施形態では、このようなリファレンス情報が未知の場合であっても、蛍光画像から得られる行列データYからミキシング行列Aを推定することができる。
【0067】
さらに、本実施形態の画像生成ステップにおいては、NMFの計算方式を用いて、L個のクラスタ行列ごとのC個の蛍光画像の統計値を基にロス関数を計算し、L個のクラスタ行列毎のロス関数の和であるロス関数Losを基にミキシング行列Aが求められている。こうすれば、クラスタリングされた蛍光画像のL個の画素群の統計値を基にロス関数が計算され、これらのロス関数の和を基にミキシング行列Aが求められ、そのミキシング行列Aを用いてアンミキシングを実行することができる。これにより、試料Sの蛍光画像における各色素の分布領域の大きさに差がある場合であっても、生成される色素画像の精度をさらに向上させることができる。すなわち、クラスタリングすることなく蛍光画像を対象にロス関数を計算する場合には、分布領域の相対的に大きい色素の分離精度が重視されるため、結果として分布領域の相対的に小さい色素の分離精度が低下してしまうが、本実施形態では、複数の色素の分離精度を一律に向上させることができる。
【0068】
また、本実施形態の画像生成ステップでは、L個のクラスタ行列ごとのロス関数を、クラスタ行列の統計値を基にした係数a,b,cで除算することで補正し、補正したロス関数の和を基にミキシング行列Aが求められてもよい。かかる構成を採れば、クラスタリングされた蛍光画像のL個の画素群の統計値を基にロス関数が計算され、ロス関数の和を求める際に統計値を基にそれぞれのロス関数が補正される。これにより、試料Sの蛍光画像における各色素の蛍光強度に差がある場合であっても、精度よく色素画像を生成することができる。すなわち、L個のロス関数を補正することなくロス関数Losを計算する場合には、蛍光強度の相対的に大きい色素の分離精度が重視されるため、結果として蛍光強度の相対的に小さい色素の分離精度が低下してしまうが、本実施形態では、複数の色素の分離精度を一律に向上させることができる。
【0069】
また、本実施形態では、クラスタリングの実行及び統計値を基にした行列データY’を用いたアンミキシングを行うことにより、色素画像を生成するための計算時間を大幅に短縮できる。例えば、1タイルが2048×2048個の画像をタイル数660分含む蛍光画像を処理対象とし、励起光のバンド数Cを“10”とした場合の計算時間は、クラスタリングを行わずに行列データYをそのまま用いてアンミキシングを行った場合に17,000秒程度であった。これに対して、本実施形態の手法によれば、処理データ数が大幅に削減されることにより、、クラスタリングの数Lを“6”とした場合の計算時間が0.06秒程度に大幅に削減される。それに加えて、本実施形態の手法によれば、統計値を用いてアンミキシングすることで色素画像の精度を維持することができる。
【0070】
図11には、本実施形態に係る色素画像取得システム1によって生成された色素画像の一例を示している。このように、本実施形態によれば、試料Sに含まれる色素であるローダミンの分布が精度よく得られる。従来のバンドパスフィルタを用いた蛍光イメージング手法と比較しても同等の精度の蛍光画像が得られることが分かった。
【0071】
以上、本発明の種々の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0072】
例えば、本実施形態の画像処理装置5においては、クラスタリングする画素群の数L及び色素画像の数Kが、試料Sに含まれる色素の数に応じて予めパラメータとして設定されているが、画像処理装置5がパラメータL,Kを順次変更して色素画像の生成を繰り返してもよい。例えば、クラスタ数L=C-1、色素数K=C-1としてアンミキシングを実行して色素画像を生成し、得られた色素毎の色素画像の精度が悪ければ、クラスタ数L及び色素数Kを、C-2、C-3、…と順次変更してアンミキシングを繰り返してもよい。
【0073】
また、本実施形態の色素画像取得システム1は、第1のカメラ15a及び第2のカメラ15bによって得られたC組の分離蛍光画像をそのまま用いてアンミキシングを実行して色素画像を生成してもよい。この場合のアンミキシング対象の蛍光画像の数は2×Cとなる。また、色素画像取得システム1は、カメラ側フィルタセット9bとして1つの蛍光バンドを透過するM個のバンドパスフィルタを切り替えて用い、その結果得られるM×C個の蛍光画像を対象にアンミキシングを実行してもよい。
【0074】
また、色素画像取得システム1は、複数の波長帯の励起光を同時に試料Sに向けて照射する複数の励起光源7を備え、複数の波長帯の励起光間の強度比を変更してC個の種類の波長分布の励起光を照射しながらC個の蛍光画像を取得してもよい。この場合も、複数の色素毎の色素画像を精度よく得ることができる。
【0075】
本実施形態に係る画像処理装置5は、クラスタリングされる前の行列データYを生成する際には、画像を構成するN個の画素を規定の規則で行方向に並べたデータとして生成してもよいし、ランダムな規則で行方向に並べたデータとして生成してもよい。ただし、1つの行列データYを構成するC行の蛍光画像のデータは同じ規則でN個の画素を並べたデータとして設定される。ランダムに配列することによって生成された行列データYを用いてもクラスタリングによって同じ行列データY’を再生成することができる。
【0076】
また、本実施形態に係る画像処理装置5は、クラスタリングされる前の行列データYを生成する際には、蛍光画像に含まれるバックグラウンド画素(色素の存在しない画素)は除外して生成してもよい。
【0077】
画像処理装置5における画素群のクラスタリングの手法としては、K-means法のような機械学習を用いた手法、ディープラーニングを用いた手法等が採用されてもよい。
【0078】
また、画像処理装置5における画素群のクラスタリングの手法としては、K-means法の他に、決定木、サポートベクタマシン、KNN(K最近傍)、自己組織化マップ、スペクトラルクラスタリング、混合ガウスモデル、DBSCAN、Affinity Propagation、MeanShift、Ward、Agglomerative Clustering、OPTICS、BIRCHのような機械学習を用いた手法、ディープラーニングを用いた手法等が採用されてもよい。また、クラスタリングを適用する前に行列データYに前処理を行ってもよい。例えば、Phasor Analysisや主成分分析、特異値分解、独立成分分析、線形判別分析、t-SNE、UMAP、その他機械学習などにより、各画素C次元のデータを次元削減してもよい。
【0079】
本実施形態の画像取得装置3は、波長情報取得光学系13として、上述したような波長に対して透過率が線形的に変化する波長特性を有する傾斜ダイクロイックミラーの他、1つの波長帯を透過するシングルバンドダイクロイックミラー、あるいは、複数の波長帯を透過するマルチバンドダイクロイックミラーが採用されてもよい。この際には、カメラ側フィルタセット9bとして上述したマルチバンドパスフィルタが採用されてもよいし、1つの波長帯を透過するシングルバンドパスフィルタが採用されてもよい。
【0080】
ここで、カメラ側フィルタセット9bとしてシングルバンドパスフィルタが採用され、波長情報取得光学系13として、波長λに対して透過率特性t(λ)=a
1λ+b
1の特性を有する傾斜ダイクロイックミラーが採用された場合は、画像処理装置5の波長情報取得部202は、下記式;
【数3】
を用いて重心蛍光波長を示す波長情報WLCを計算する。ここで、x
1は一方の分離蛍光画像の蛍光強度であり、X
2は他方の分離蛍光画像の蛍光強度である。一方、カメラ側フィルタセット9bとしてシングルバンドパスフィルタが採用され、波長情報取得光学系13として、シングルバンドダイクロイックミラーあるいはマルチバンドダイクロイックミラーが採用された場合は、画像処理装置5の波長情報取得部202は、下記式;
WL
ratio=x
2/x
1
を用いて波長情報WL
ratioを計算する。
【0081】
また、波長情報取得光学系13としては、ダイクロイックミラーには限定されず、同様の波長特性を有するフィルタセットが用いられてもよいし、蛍光を分割するビームスプリッタ(偏光ビームスプリッタ等)が用いられてもよい。また、異なる波長特性を有するフィルタを切り替えて使用して1つのカメラを用いて複数回撮像することにより1組の分離蛍光画像を得るようにしてもよい。また、波長情報取得光学系13によって分離した2つの成分の蛍光を1つのカメラで視野を分割して撮像するようにしてもよい。
【0082】
また、本実施形態の画像取得装置3の波長情報取得部202は、蛍光波長に関する波長情報を取得するために、少なくとも2つ以上の蛍光波長を検出可能なカメラを用いて取得された蛍光画像を用いて処理してもよい。このようなカメラは、例えば、カラーセンサ(カラーカメラ)あるいはマルチバンドセンサ(マルチバンドカメラ)等が挙げられる。例えば、カラーセンサを用いる場合、波長情報取得部202は、カラーセンサから得られるR画素、G画素、B画素の3つの強度値を比較することにより蛍光波長に関する情報を計算および取得することもできる。また、マルチバンドセンサの場合、波長情報取得部202は、マルチバンドセンサから得られる異なる波長ごとの強度値を比較することにより蛍光波長に関する情報を計算および取得することもできる。この場合も、蛍光を撮像した蛍光画像を基に波長情報が取得されるので、波長情報を精度よく解析することができる。その結果、色素画像の分離の精度を向上させることができる。
【0083】
本開示の色素画像取得方法においては、クラスタリングステップでは、強度値のC個の励起光毎の分布情報を基にN個の画素をクラスタリングする、ことが好適である。本開示の色素画像取得装置においては、画像処理装置は、強度値のC個の励起光毎の分布情報を基にN個の画素をクラスタリングする、ことが好適である。これにより、励起光毎の蛍光強度によって画素をクラスタリングすることができ、そのクラスタリング結果を基にアンミキシングすることにより、色素画像の分離の精度を向上させることができる。
【0084】
また、本開示の色素画像取得方法においては、蛍光画像の各画素に対応する蛍光波長に関する波長情報を取得する波長情報取得ステップをさらに備え、クラスタリングステップでは、各画素に対応する波長情報を基にN個の画素をクラスタリングする、ことも好適である。また、本開示の色素画像取得装置においては、画像処理装置は、蛍光画像の各画素に対応する蛍光波長に関する波長情報をさらに取得し、各画素に対応する波長情報を基にN個の画素をクラスタリングする、ことも好適である。これにより、蛍光画像の各画素に対応する波長情報を用いて画素をクラスタリングすることができ、そのクラスタリング結果を基にアンミキシングすることにより、色素画像の分離の精度を向上させることができる。
【0085】
また、本開示の色素画像取得方法においては、波長情報取得ステップでは、C個の波長分布のいずれかの波長分布の励起光を試料に照射し、試料からの蛍光を異なる波長特性で分離する波長情報取得光学系を介して分離し、分離された蛍光をそれぞれ撮像して複数の分離蛍光画像を取得し、複数の分離蛍光画像を基に波長情報を取得する、ことも好適である。また、本開示の色素画像取得装置においては、画像取得装置は、C個の波長分布のいずれかの波長分布の励起光を試料に照射し、試料からの蛍光を異なる波長特性で分離する波長情報取得光学系を介して分離し、分離された蛍光をそれぞれ撮像して複数の分離蛍光画像を取得し、画像処理装置は、複数の分離蛍光画像を基に波長情報を取得する、ことも好適である。この場合、励起光の照射によって生じる試料からの蛍光が異なる波長特性で分離され、分離された蛍光を撮像した複数の分離蛍光画像を基に波長情報が取得されるので、波長情報を精度よく解析することができる。その結果、色素画像の分離の精度を向上させることができる。
【0086】
また、本開示の色素画像取得方法においては、波長情報取得ステップでは、C個の波長分布のいずれかの波長分布の励起光を試料に照射し、試料からの蛍光を少なくとも2つ以上の蛍光波長を検出可能なカメラで撮像して蛍光画像を取得し、蛍光画像を基に波長情報を取得する、ことが好適である。また、本開示の色素画像取得装置においては、画像取得装置は、C個の波長分布のいずれかの波長分布の励起光を試料に照射し、試料からの蛍光を少なくとも2つ以上の蛍光波長を検出可能なカメラで撮像して蛍光画像を取得し、蛍光画像を基に波長情報を取得する、ことが好適である。この場合も、励起光の照射によって生じる試料からの蛍光を撮像した蛍光画像を基に波長情報が取得されるので、波長情報を精度よく解析することができる。その結果、色素画像の分離の精度を向上させることができる。
【0087】
さらに、本開示の色素画像取得方法においては、計算ステップでは、統計値を、画素群の強度値の積算値、最頻値、あるいは中間値に基づいて計算する、ことも好適である。さらに、本開示の色素画像取得装置においては、画像処理装置は、統計値を、画素群の強度値の積算値、最頻値、あるいは中間値に基づいて計算する、ことも好適である。この場合、クラスタリングされた蛍光画像のL個の画素群の強度値の全体的傾向を基にアンミキシングを実行することができ、生成される色素画像の精度を向上させることができる。
【0088】
なお、本開示の色素画像取得方法或いは色素画像取得装置においては、統計値を計算する前に外れ値あるいは一部の画素を除外してから計算しても良い。また、各画素は異なるクラスタに重複して含まれていてもよい。その場合、それぞれのクラスタでの統計値計算に利用される。
【0089】
またさらに、本開示の色素画像取得方法においては、画像生成ステップでは、L個のクラスタ行列ごとのC個の蛍光画像の統計値を用いて、ミキシング行列を求め、ミキシング行列を用いてアンミキシングを行う、ことも好適である。またさらに、本開示の色素画像取得装置においては、画像処理装置は、L個のクラスタ行列ごとのC個の蛍光画像の統計値を用いて、ミキシング行列を求め、ミキシング行列を用いてアンミキシングを行う、ことも好適である。こうすれば、クラスタリングされた蛍光画像のL個の画素群の統計値を基にミキシング行列が求められ、そのミキシング行列を用いてアンミキシングを実行することができ、生成される色素画像の精度を向上させることができる。
【0090】
さらにまた、本開示の色素画像取得方法においては、画像生成ステップでは、非負値行列因子分解を用いて、L個のクラスタ行列ごとのC個の蛍光画像の統計値を基に損失値を計算し、損失値の和を基にミキシング行列を求める、ことも好適である。さらにまた、本開示の色素画像取得装置においては、画像処理装置は、非負値行列因子分解を用いて、L個のクラスタ行列ごとのC個の蛍光画像の統計値を基に損失値を計算し、損失値の和を基にミキシング行列を求める、ことも好適である。こうすれば、クラスタリングされた蛍光画像のL個の画素群の統計値を基に損失値が計算され、損失値の和を基にミキシング行列が求められ、そのミキシング行列を用いてアンミキシングを実行することができる。これにより、試料の蛍光画像における各色素の分布領域の大きさに差がある場合であっても、生成される色素画像の精度を向上させることができる。
【0091】
また、本開示の色素画像取得方法においては、画像生成ステップでは、L個のクラスタ行列ごと損失値を統計値を基に補正し、補正した損失値の和を基にミキシング行列を求める、ことも好適である。また、本開示の色素画像取得装置においては、画像処理装置は、L個のクラスタ行列ごと損失値を統計値を基に補正し、補正した損失値の和を基にミキシング行列を求める、ことも好適である。かかる構成を採れば、クラスタリングされた蛍光画像のL個の画素群の統計値を基に損失値が計算され、損失値の和を求める際に統計値を基にそれぞれの損失値が補正される。これにより、試料の蛍光画像における各色素の蛍光強度に差がある場合であっても、精度よく色素画像を生成することができる。
【符号の説明】
【0092】
1…色素画像取得システム、3…画像取得装置、5…画像処理装置、7…励起光源、9a…光源側フィルタセット、9b…カメラ側フィルタセット、11…ダイクロイックミラー、15a,15b…カメラ、13…波長情報取得光学系、201…画像取得部、202…波長情報取得部、203…クラスタリング部、204…統計値計算部、205…画像生成部、C1,C2,C3…色素、GC1~GC6…蛍光画像、PGr01~PGr03,PGr1~PGr6…画素群、S…試料。