(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156948
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】エンコーダ用反射型光学式スケール、反射型光学式エンコーダおよびエンコーダ用反射型光学式スケール用積層体
(51)【国際特許分類】
G01D 5/347 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
G01D5/347 110C
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024131913
(22)【出願日】2024-08-08
(62)【分割の表示】P 2024519479の分割
【原出願日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2022151118
(32)【優先日】2022-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】今井 剛
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高反射領域に入射した光の反射率を向上することが可能なエンコーダ用反射型光学式スケールを提供する。
【解決手段】高反射層1と保護層2とパターン状に設けられた低反射層3とを厚さ方向にこの順に有し、保護層の膜厚d(μm)、保護層への入射光の入射角θ(°)としたとき、下記式(1)を満たし、保護層が有機材料を含み、高反射層が金属基材である反射型光学式スケールと、低反射層が配置された側の表面に測定光源と、反射型光学式スケールからの反射光を検出する光検出器とを備え、測定光源の波長を850μmとした場合、保護層が露出する領域である高反射領域における反射率が50%以上である反射型光学式エンコーダを提供する。
d=mλ/[2n×cos{Arcsin(sinθ/n)}]・・・(1)
(n:保護層の屈折率、λ:入射光の波長(μm)、m:0.7以上1.3以下、または1.9以上2.3以下の範囲内である。)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高反射層と、保護層と、パターン状に設けられた低反射層とを、厚さ方向において、この順に有し、
前記低反射層が設けられた領域である低反射領域と、前記保護層が露出している領域である高反射領域と、を有し、
前記保護層の膜厚をd(μm)、前記保護層への入射光の入射角をθ(°)としたとき、下記式(1)を満たし、
前記保護層が、有機材料を含み、
前記高反射層が、金属基材である、エンコーダ用反射型光学式スケールと、
前記エンコーダ用反射型光学式スケールの前記低反射層が配置された側の表面に、測定光を照射する光源と、
前記エンコーダ用反射型光学式スケールからの反射光を検出する光検出器と、を備え、
前記測定光源の波長を850μmとした場合の前記高反射領域における反射率が、50%以上である、反射型光学式エンコーダ。
d=mλ/[2n×cos{Arcsin(sinθ/n)}] (1)
(式中、nは前記保護層の屈折率であり、λは前記入射光の波長(μm)であり、mは、0.7以上1.3以下、または1.9以上2.3以下の範囲内である。)
【請求項2】
前記低反射層が、前記保護層側から、金属クロム膜と、順不同に配置された、酸化クロム膜及び窒化クロム膜と、を有する、請求項1に記載の反射型光学式エンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンコーダ用反射型光学式スケール、反射型光学式エンコーダおよびエンコーダ用反射型光学式スケール用積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、制御機構を備えるサーボモータ等に光学式エンコーダが使用されている。光学式エンコーダには、透過型エンコーダと反射型エンコーダがあるが、反射型エンコーダは透過型エンコーダに比べて光路が短く、小型化、薄型化が容易であり、また、発光素子や受光素子の位置決めが不要であり組み立てが容易であるという利点を有する。
【0003】
反射型光学式エンコーダは、反射型光学式スケール、スケールに光を照射するLED等の光源、及びスケールからの反射光を検出する光検出器を含む。反射型光学式スケールは、反射領域(高反射領域)と非反射領域(低反射領域)が交互に配置され、反射領域における光の反射率は、非反射領域における光の反射率よりも高い。これにより、スケールから反射し光検出器に入射する光の強さは、スケールの位置の変化により強弱を生じる。光検出器は、スケールの位置が測長方向に移動することによって生じる光の強弱を検出する。反射型光学式エンコーダは、検出された光の強弱にしたがって、このスケールの位置の変位情報を処理し、位置情報を取得しうる。
【0004】
反射型光学式スケールに形成されている反射領域および非反射領域において、光検出器による誤検出を防ぎ、信号の検出精度を高めるためには、反射領域の反射率を高く、非反射領域の反射率を低くする必要がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、光学式エンコーダに用いられる反射板において、基材上に、光を反射する反射膜と、該反射膜を保護する保護層と、前記反射膜よりも光の反射率が低く、かつスリットパターンが形成されるパターン形成膜とが順次積層されていることを特徴とする反射板が開示されている。
【0006】
特許文献2では、低反射領域での反射率を十分に低減することを目的として、基材上に高反射領域と低反射領域とが交互に配置されたエンコーダ用反射型光学式スケールであって、上記低反射領域は、上記基材の一方の表面に配置された金属クロム膜と、上記金属クロム膜の上記基材とは反対側の表面に順不同に配置された、酸化クロム膜及び窒化クロム膜と、を有する低反射部を含み、上記高反射領域は、上記エンコーダ用反射型光学式スケールの上記基材とは反対側から入射する光の反射率が上記低反射領域よりも高い、エンコーダ用反射型光学式スケールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-241248号公報
【特許文献2】WO2021/201024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、金属等を含む高反射層上にパターン状の低反射層を形成する際には、高反射層上に直接低反射層を形成し、低反射層上に、例えば、フォトリソグラフィ等によりレジストパターンを形成し、レジストパターンをマスクとしてエッチングを行うことによって、パターン状の低反射層を得ていた。しかしながら、低反射層のエッチング時に、高反射層の表面が荒れて表面粗さが大きくなる場合や、高反射層の表面にエッチング残渣が生じる場合があり、高反射領域に入射した光の反射率が低下する問題があった。そこで、本願の発明者は、高反射層および低反射層との間に保護層を設けることを検討した。しかしながら、保護層を設けた場合であっても、高反射領域に入射した光の反射率が低下する場合があることを新たに知見した。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高反射領域に入射した光の反射率を向上することが可能なエンコーダ用反射型光学式スケールを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一実施形態は、エンコーダ用反射型光学式スケールであって、高反射層と、保護層と、パターン状に設けられた低反射層とを、厚さ方向において、この順に有し、上記低反射層が設けられた領域である低反射領域と、上記保護層が露出している領域である高反射領域と、を有し、上記保護層の膜厚をd(μm)、上記保護層への入射光の入射角をθ(°)としたとき、下記式(1)を満たす、エンコーダ用反射型光学式スケールを提供する。
d=mλ/[2n×cos{Arcsin(sinθ/n)}] (1)
(式中、nは上記保護層の屈折率であり、λは上記入射光の波長(μm)であり、mは、0<m≦0.3、または、p-0.3≦m≦p+0.3(pは1以上3以下の整数である)を満たす数である。)
【0011】
本開示の他の一実施形態は、エンコーダ用反射型光学式スケールであって、高反射層と、有機材料を含む保護層と、パターン状に設けられた低反射層とを、厚さ方向において、この順に有し、上記高反射層、上記保護層、および上記低反射層が設けられた領域である低反射領域と、上記高反射層および上記保護層が設けられた領域である高反射領域と、を有し、上記保護層の膜厚が、0.16μm以上1.0μm以下であり、測定光源の波長を850μmとした場合の上記高反射領域における反射率が、40%以上である、エンコーダ用反射型光学式スケールを提供する。
【0012】
本開示の他の一実施形態は、エンコーダ用反射型光学式スケールであって、高反射層と、有機材料を含む保護層と、パターン状に設けられた低反射層とを、厚さ方向において、この順に有し、上記高反射層、上記保護層、および上記低反射層が設けられた領域である低反射領域と、上記高反射層および上記保護層が設けられた領域である高反射領域と、を有し、測定光源の波長を850μmとした場合の上記低反射領域における反射率が、2%以下であり、下記式で示されるS/N比が30以上である、エンコーダ用反射型光学式スケールを提供する。
S/N比=高反射領域の反射率/低反射領域の反射率
【0013】
本開示の他の一実施形態は、上述のエンコーダ用反射型光学式スケールと、上記エンコーダ用反射型光学式スケールの上記低反射層が配置された側の表面に、測定光を照射する光源と、上記エンコーダ用反射型光学式スケールからの反射光を検出する光検出器と、を備えることを特徴とする反射型光学式エンコーダを提供する。
【0014】
本開示の他の一実施形態は、上述のエンコーダ用反射型光学式スケールを製造するためのエンコーダ用反射型光学式スケール用積層体であって、高反射層と、保護層と、低反射層形成用層とを、厚さ方向において、この順に有し、上記保護層の膜厚をd(μm)、上記保護層への入射光の入射角をθ(°)としたとき、下記式(1)を満たす、エンコーダ用反射型光学式スケール用積層体を提供する。
d=mλ/[2n×cos{Arcsin(sinθ/n)}] (1)
(式中、nは上記保護層の屈折率であり、λは上記入射光の波長(μm)であり、mは、0<m≦0.3、または、p-0.3≦m≦p+0.3(pは1以上3以下の整数である)を満たす数である。)
【0015】
本開示の他の一実施形態は、上述のエンコーダ用反射型光学式スケールを製造するためのエンコーダ用反射型光学式スケール用積層体であって、高反射層と、保護層とを、厚さ方向において、この順に有し、上記保護層の膜厚をd(μm)、上記保護層への入射光の入射角をθ(°)としたとき、下記式(1)を満たす、エンコーダ用反射型光学式スケール用積層体を提供する。
d=mλ/[2n×cos{Arcsin(sinθ/n)}] (1)
(式中、nは上記保護層の屈折率であり、λは上記入射光の波長(μm)であり、mは、0<m≦0.3、または、p-0.3≦m≦p+0.3(pは1以上3以下の整数である)を満たす数である。)
【発明の効果】
【0016】
本開示においては、高反射領域に入射した光の反射率を向上することが可能なエンコーダ用反射型光学式スケールを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールを例示する概略断面図である。
【
図2】本開示における反射型光学式エンコーダを例示する概略斜視図および部分拡大図である。
【
図3】本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールを例示する概略断面図である。
【
図4】本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールを例示する概略断面図である。
【
図5】実験例Aおよび実験例Bにおける、保護層の膜厚と平均反射率との関係を示すグラフである。
【
図6】実験例Aおよび実験例Bにおける、保護層の膜厚と平均規格反射率との関係を示すグラフである。
【
図7】実施例および参考例1の測定光波長および入射角を変化させた場合の反射率の測定結果である。
【
図8】比較例1および比較例2の測定光波長および入射角を変化させた場合の反射率の測定結果である。
【
図9】本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケール用積層体の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示は、エンコーダ用反射型光学式スケール、反射型光学式エンコーダおよびエンコーダ用反射型光学式スケール用積層体を実施態様に含む。以下、本開示の実施態様を、図面等を参照しながら説明する。ただし、本開示は多くの異なる態様で実施することが可能であり、下記に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、図面は説明をより明確にするため、実際の形態に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表わされる場合があるが、あくまで一例であって、本開示の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0019】
本明細書において、ある部材の上に他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」、あるいは「下に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上、あるいは直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方、あるいは下方に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含むものとする。また、本明細書において、ある部材の面に他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「面側に」または「面に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上、あるいは直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方、あるいは下方に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含むものとする。
【0020】
また、本明細書において、「エンコーダ用反射型光学式スケール」を単に「光学式スケール」と称する場合がある。
【0021】
本願の発明者は、上述したように、高反射層および低反射層との間に保護層を設けた場合であっても、高反射領域に入射した光の反射率が低下する問題について検討した。その結果、保護層の膜厚を、保護層の表面で反射する光と、保護層と高反射層との界面で反射する光とが強め合うような所定の範囲に調整することによって、高反射領域に入射した光の反射率を向上させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0022】
以下、本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケール、反射型光学式エンコーダおよびエンコーダ用反射型光学式スケール用積層体について詳細に説明する。
【0023】
A-1.エンコーダ用反射型光学式スケール
図1(a)は、本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールの一例を示す概略断面図である。
図1(a)に示すエンコーダ用反射型光学式スケール10は、高反射層1と、保護層2と、パターン状に設けられた低反射層3とを、厚さ方向D
Tにおいて、この順に有し、低反射層3が設けられた領域である低反射領域R1と、保護層2が露出している領域である高反射領域R2と、を有する。本開示においては、保護層2の膜厚dが、所定の範囲を満たすことを特徴とする。
図1(a)のエンコーダ用反射型光学式スケールは、低反射領域R1と高反射領域R2とが交互に配置されている。低反射領域R1は、高反射層1、保護層2、および低反射層3を有する。高反射領域R2は、高反射層1および保護層2を有する。また、
図1(b)は、
図1(a)のエンコーダ用反射型光学式スケール10の、低反射層3側から測定光が入射する様子を示している。光源から照射される光L1は、保護層2の表面と、高反射層1と保護層2との界面とで、反射する。上記高反射領域R2における光の反射率は、上記低反射領域R1における光の反射率よりも高い。なお、上記高反射領域R2における光の反射率、および上記低反射領域R1における光の反射率は、同一の波長および同一の入射角での反射率を示すものである。
【0024】
図2(a)は本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールを備える反射型光学式エンコーダの一例を示す概略斜視図であり、
図2(b)は、
図2(a)の反射型光学式エンコーダを上方向から見た部分拡大図である。本開示における反射型光学式エンコーダ100は、エンコーダ用反射型光学式スケール10を含み、更に、光源21と、光検出器22とを含む。
図2(a)においては、固定スリット23が光検出器22とエンコーダ用反射型光学式スケール10との間に配置されている。
【0025】
本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールは、保護層2の膜厚dを所定の範囲に調整することによって、高反射領域に入射した光の反射率を向上させることができる。
以下、本開示のエンコーダ用反射型光学式スケールについて詳細に説明する。
【0026】
1.保護層
本開示における保護層は、高反射層と、低反射層との間に配置される。保護層は、透明性を有し、また、高反射層を保護する機能を有する。保護層を設けることにより、低反射層をパターン状に形成する際のエッチング時に、高反射層の表面が荒れて表面粗さが大きくなる恐れがない。そのため、光の乱反射を抑制することができる。
【0027】
本開示において、保護層の厚さd(μm)は、保護層への入射光の入射角をθ(°)としたとき、以下の式(1)を満たすように調整される。
d=mλ/[2n×cos{Arcsin(sinθ/n)}] (1)
(式中、nは前記保護層の屈折率であり、λは上記入射光の波長(μm)であり、mは、0<m≦0.3、または、p-0.3≦m≦p+0.3(pは1以上3以下の整数である)を満たす数である。)
【0028】
なお、保護層の厚さを上記範囲とすることにより、高反射領域に入射した光の反射率を向上させることができる理由は、以下の通りである。屈折率が、空気<保護層<高反射層の関係にあるため、各界面において固定端反射となり、位相がπずれる。空気と保護層との界面で反射した光と、保護層と高反射層との界面で反射した光の位相が一致するとき、反射光は最も反射率の減衰を抑制することができる。反射光の位相が一致する条件が、上記式を満たす膜厚の時である。
【0029】
上記式(1)中、入射角θは、保護層への入射光の入射角である。後述するように、光学式スケール10は、光源21に対する位置によって、光の入射角が異なる場合がある(
図3)。上記式(1)における入射角θは、最も強い反射率を得たいスケール位置(例えば、メインパターンの位置)における入射角であり、例えば、0°であってもよいし、20°であってもよいし、40°であってもよいし、55°であってもよい。
【0030】
上記式(1)中、nは保護層の屈折率であり、λは入射光の波長(μm)であり、例えば、0.38μm以上1.0μm以下の範囲内のいずれかの波長であり、0.50μm以上1.0μm以下の範囲内のいずれかの波長であってもよい。
【0031】
上記式(1)中、mは、0<m≦0.3、または、p-0.3≦m≦p+0.3(pは1以上3以下の整数である)を満たす数である。pは、1、2、または3であり、好ましくは、1または2であり、より好ましくは、1である。
【0032】
図2(b)に示されるように、光学式スケール10は、光源21に対する位置によって、光の入射角が異なる場合がある。
図3(a)および
図3(b)は、それぞれ、
図2(b)中のP1での光の入射角およびP2での光の入射角を説明するための光学式スケールの概略断面図である。
図3(a)および
図3(b)に示すように、P1の位置における光の入射角θ
1は、光源21に近いP2の位置における光の入射角θ
2よりも大きい。入射角は、保護層の表面の垂線と、光源からの光L1の射出方向とがなす角度である。
【0033】
このように、本願の発明者は、光学式スケールにおける高反射領域の位置によって反射率のバラつきが大きくなる場合があることを新たに知見した。本開示においては、上記式(1)におけるmは、0より大きく0.3以下、0.7以上1.3以下、1.9以上2.3以下、または3.0以上3.3以下の範囲内であることが好ましい。mが上記範囲内であることにより、上述したような高反射領域の位置による反射率のバラつきも低減できる。
【0034】
保護層の材料としては、透明性を有し、高反射層を保護することができる材料であれば特に限定されず、有機材料、無機材料のいずれであってもよいが、有機材料が好ましい。
【0035】
光学式スケールの形状を所定の形状に整えるためのエッチング加工が容易であり、また、高反射層の種類にもよるが、無機材料と比較し、高反射層との密着性に優れるためである。また、有機材料で構成された保護層は、防汚性に優れるため、表面に不純物(コンタミ)が付着し難く、保護層の基材とは反対側の面における他の層との密着性も良好となる。
【0036】
さらに、無機材料と比較し、クラックの発生を抑制できる場合があり、上述した所定の厚みに調整することが容易である。また、無機材料と比較し、コスト面でも優れる。さらに、無機材料と比較し、接触角が高くなるため防汚機能が向上する。具体的には、保護層の水に対する接触角を、後述の範囲とすることが可能である。
【0037】
本開示において、保護層は1層であっても2層以上の複数層で構成されたものであってもよい。保護層が2層で構成される場合は、防汚性の観点から、最表面側(基材とは反対側)に有機材料で構成された保護層が配置され、他方に無機材料で構成された保護層が配置されることが好ましい。
【0038】
有機材料は、樹脂を含むことが好ましい。保護層に用いられる樹脂としては、透明性を有する保護層を得ることができる樹脂であれば特に限定されず、例えば、紫外線や電子線等の電離放射線の照射により硬化する電離放射線硬化性樹脂、加熱により硬化する熱硬化性樹脂等が挙げられる。具体的には、ノボラック系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂が好ましい。ノボラック系樹脂としては、中でもフェノールノボラック樹脂が好ましい。電気特性に優れ、帯電による不具合を抑制することができるためである。アクリル系樹脂としては、中でもペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの三官能以上のアクリレートが好ましい。光硬化性を高めることができるためである。エポキシ系樹脂としては、フルオレン構造を有するエポキシアクリレート樹脂が好ましい。耐熱性、密着性、耐薬品性が向上するためである。エポキシ系樹脂としては、カルドエポキシ樹脂も好ましい。優れた透明性、耐熱性、表面硬度、平坦性を付与できるためである。有機材料は、樹脂の他に、重合開始剤や各種添加剤等が含まれていてもよい。
【0039】
無機材料としては、無機化合物が挙げられる。無機化合物としては、例えば、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、スズ、ナトリウム、チタン、ホウ素、イットリウム、ジルコニウム、セリウム、亜鉛等の金属元素または非金属元素の酸化物、酸化窒化物、窒化物、酸化炭化物、酸化炭化窒化物等が挙げられる。特に、二酸化ケイ素(SiO2)が好ましい。無機化合物は、単独で用いてもよいし、上述の材料を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0040】
保護層と、高反射層とは、直接接していることが好ましい。また、保護層の屈折率は、高反射層の屈折率よりも小さいことが好ましい。保護層の屈折率は、例えば、1.1以上、3.0以下であり、1.1以上、1.65以下であってもよく、1.5以上、1.65以下であってもよい。
なお、上記屈折率は、光源のピーク波長の光に対する屈折率をいう。屈折率とは、真空中の光速を物質中の光速(より正確には位相速度)で割った値であり、物質中での光の進み方を記述する上での指標である。屈折率の測定方法は、エリプソメーターを用いて測定する方法を挙げることができる。エリプソメーターは、試料に対する入射光と反射光の偏光状態の変化を測定する分析装置である。
【0041】
保護層は撥水性を有することが好ましい。保護層の表面に汚れの原因となる物質を含む水が表面に付着したとしても、水を弾くことで、結果として汚れの原因となる物質が除去される。従って、高反射領域に汚れが付着することによる反射率の低下を抑制することができる。
【0042】
本開示における保護層の水に対する接触角は、例えば、50度以上90度以下であり、好ましくは62度以上90度以下であり、より好ましくは73度以上90度以下である。
水に対する接触角が上記範囲であると、防汚性が向上する。一方、水に対する接触角が上記範囲より小さいと、撥水性が十分ではなくなるため、優れた防汚性が得られない可能性がある。一方、水に対する接触角が上記範囲より大きいと、低反射層に有機膜を使用した場合、塗工時にハジキなどの不具合がおき、欠陥の原因となるおそれがある。
【0043】
ここで、水に対する接触角は、JIS R3257:1999の規定に準拠して測定する。
【0044】
2.高反射層
本開示における高反射層は、高反射性を有する。このような高反射層としては、金属基材、および基板の一方の面に配置された金属膜が挙げられる。
金属基材としては、ステンレス(以下、SUSとします。)製基材、アルミニウム製基材、銅製基材等が挙げられる。
【0045】
本開示においては、SUS製基材が好適に用いられる。SUSは金属クロムを含むため、SUS製基材上に直接金属クロム膜を含む低反射層をパターン状に設ける際に、エッチングにより荒れやすく、また、金属クロムのエッチング残渣が生じやすい。そのため、保護層を形成することによる効果、すなわち、エッチングによる高反射層の表面荒れを抑制する効果およびエッチング残渣の発生を抑制する効果をより顕著に得ることができる。
【0046】
このような金属基材の厚みの下限としては、0.05以上であることが好ましく、特に0.1mm以上であることが好ましい。一方、上記金属基材の厚みの上限としては、0.5mm以下であることが好ましい。
【0047】
本開示における高反射層は、基板の一方の面に配置された金属膜であってもよい。
この場合に用いられる基板としては、ガラス、樹脂等が挙げられる。また前述以外にも「金属膜とは異なる金属」を基材に用いてもよい。中でもガラスを用いたガラス基板であることが好ましい。ガラスは、線膨張係数が小さく、使用環境の温度変化に伴う寸法変化を抑制することができるからである。
【0048】
また、上記金属膜は、高反射率を有する金属から構成されていることが好ましい。金属としては、例えば、クロム、銀、アルミニウム、ロジウム、金、銅およびこれらの金属を主成分とする合金等が挙げられる。中でも、金属クロム膜が好ましい。金属クロム膜は、金属クロムからなる層である。
【0049】
金属膜の厚さとしては、例えば、0.05μm以上、0.3μm以下であり、0.1μm以上、0.2μm以下であってもよい。
【0050】
3.低反射層
本開示における低反射層は、保護層の高反射層側とは反対の面側に、パターン状に設けられる。低反射層としては、低反射領域に入射する光の反射率が、高反射領域に入射する光の反射率よりも小さければ、その構成は特に限定されない。例えば、低反射層は無機膜であってもよいし、有機膜であってもよい。
【0051】
本開示においては、高反射層側から、金属クロム膜と、金属クロム膜上に順不同に形成された酸化クロム膜及び窒化クロム膜との3層構造を有することが好ましい。このような低反射層であれば、波長領域380nm以上1000nm以下、特には、波長領域500nm以上1000nm以下の範囲内のいずれかの波長において、低反射領域に入射する光の反射率が、10%以下、好ましくは5%以下、更には1%以下まで下げることができる。一方、上記低反射領域の反射率は、例えば、0%以上である。具体的には、上記低反射領域の上記反射率は、例えば、0%以上10%以下であり、0%以上5%以下が好ましく、0%以上1%以下がより好ましく、特に0%以上0.5%以下がより好ましい。
【0052】
なお、上記低反射領域の反射率は、入射角0°~70°の範囲内のいずれかの角度において、上記範囲を満たすことが好ましい。そのため、高反射領域での反射率と低反射領域での反射率との差を大きくすることができる。また、金属クロムのみを準備すれば、反応性スパッタ等を利用することにより、容易に酸化クロム膜及び窒化クロム膜を形成することができる。更に、高精細のパターニングも酸化ケイ素膜と比較して容易に行うことができる。
【0053】
本明細書において、「金属クロム膜上に順不同に形成された、酸化クロム膜及び窒化クロム膜」とは、金属クロム膜、酸化クロム膜、および窒化クロム膜の順で形成されていてもよいし、金属クロム膜、窒化クロム膜、および酸化クロム膜の順で形成されていてもよいことを意味する。
【0054】
例えば、
図4(a)に示すエンコーダ用反射型光学式スケール10の低反射層3は、金属クロム膜3cと、上記金属クロム膜3c上に形成された窒化クロム膜3bと、窒化クロム膜3b上に形成された酸化クロム膜3aと、を有する。一方、
図4(b)に示すエンコーダ用反射型光学式スケール10の低反射層3は、金属クロム膜3cと、上記金属クロム膜3c上に形成された酸化クロム膜3aと、酸化クロム膜3a上に形成された窒化クロム膜3bと、を有する。
【0055】
低反射領域の最表面は、低反射層の酸化クロム膜又は窒化クロム膜の表面であることが好ましく、特に、酸化クロム膜の表面であることが好ましい。より効果的に、低反射領域での反射率を低減することができるからである。
【0056】
以下、「金属クロム膜、窒化クロム膜、酸化クロム膜がこの順に配置された低反射層」を第一仕様の低反射層、「金属クロム膜、酸化クロム膜、窒化クロム膜がこの順に配置された低反射層」を第二仕様の低反射層と称する。
【0057】
(i)第一仕様の低反射層
本仕様の低反射層は、基材側から、金属クロム膜、窒化クロム膜、酸化クロム膜がこの順に配置されている。本仕様の低反射層を有する低反射領域は、光源から照射された光の波長領域380nm以上1000nm以下、特には、波長領域500nm以上1000nm以下の範囲内のいずれかの波長における反射率を5%以下、特に0.5%以下まで下げることができるとともに、波長変化に対する反射率変化が緩やかであり、反射率の制御が容易となる。具体的には、上記反射率を0%以上5%以下に、特に、0%以上0.5%以下に下げることができる。以下、各層について詳細に説明する。
【0058】
(a)金属クロム膜
本仕様においては、金属クロム膜は保護層上に設けられている。金属クロム膜は、金属クロムからなる層である。金属クロム膜は、実質的に光源から照射された光を透過しない層であり、透過率が1.0%以下であることが好ましい。透過率は、(株)島津製作所製の分光光度計(MPC-3100)等を用いて測定することができる。膜厚は、例えば、40nm以上、好ましくは、70nm以上である。具体的には、上記膜厚は、例えば、40nm以上、500nm以下、好ましくは、70nm以上、200nm以下である。
【0059】
ここで、各部材の「厚み」とは、一般的な測定方法によって得られる厚みをいう。厚みの測定方法としては、例えば、触針で表面をなぞり凹凸を検出することによって厚みを算出する触針式の方法や、分光反射スペクトルに基づいて厚みを算出する光学式の方法等を挙げることができる。具体的には、ケーエルエー・テンコール株式会社製の触針式膜厚計P-15を用いて厚みを測定することができる。なお、厚みとして、対象となる部材の複数箇所における厚み測定結果の平均値が用いられてもよい。
【0060】
金属クロム膜の形成方法としては、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法などの物理蒸着法(PVD)が用いられる。
【0061】
(b)窒化クロム膜
本仕様における窒化クロム膜は、金属クロム膜と酸化クロム膜との間に配置されている。窒化クロム膜は、酸化窒化クロムや酸化窒化炭化クロム等とは異なり、その主成分がクロム及び窒素であり、クロム及び窒素以外の不純物を実質的に含有しない。
【0062】
窒化クロム(CrNx)膜のCrとNとの原子比率を表すxとしては、0.4以上1.1以下であることが好ましい。
【0063】
また、窒化クロム膜は、膜全体を100原子%として、クロム及び窒素の割合が80%以上100%以下の範囲内、中でも、90%以上100%以下の範囲内の純度が好ましい。不純物としては、例えば、水素、酸素、炭素等が含まれていても良い。
【0064】
窒化クロム膜の膜厚(TN)は、好ましくは5nm以上100nm以下の範囲内、特に10nm以上80nm以下の範囲内であることが好ましい。また、後述する酸化クロム膜の膜厚(TO)との関係において、波長が850nmの場合には、TNとTOとの合計が40nm以上、波長が550nmの場合には、TNとTOとの合計が20nm以上であることが好ましい。このような膜厚範囲であれば、上記範囲外である場合に比べ、低反射領域における反射率を容易に、10%以下、特には5%以下と低くすることができる。具体的には、上記反射率を0%以上10%以下に、特に、0%以上5%以下に下げることができる。更には、窒化クロム膜の膜厚(TN)は、紫色~赤外(380nm以上1000nm以下程度)領域全域、特には、緑色~赤外(500nm以上1000nm以下程度)領域全域における反射率を低減することが容易となるため、10nm以上80nm以下の範囲内が好ましい。
【0065】
窒化クロムの形成方法としては、例えば反応性スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法などの物理蒸着法(PVD)が用いられる。反応性スパッタ法の利用に際しては、アルゴン(Ar)ガス中に窒素を導入し、Crターゲットを用いた反応性スパッタリング法にて窒化クロム膜を成膜することができる。この際、窒化クロム膜の組成の制御は、Arガス、窒素ガスの割合を制御することにより行うことができる。
【0066】
(c)酸化クロム膜
酸化クロム膜は、窒化クロム膜上に形成されており、その主成分がクロム及び酸素であり、酸化窒化クロムや酸化窒化炭化クロム等とは異なり、クロム及び酸素以外の不純物を実質的に含有しない。
【0067】
酸化クロム(CrOy)膜のCrとOとの原子比率を表すyとしては、1.4以上2.1以下であることが好ましい。
【0068】
具体的には、酸化クロム膜は、膜全体を100原子%として、クロム及び酸素の割合が80%以上100%以下の範囲内、中でも、90%以上100%以下の範囲内の純度が好ましい。不純物として、水素、窒素、炭素等が含まれていても良い。
【0069】
酸化クロム膜の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは5nm以上100nm以下の範囲内、特に10nm以上80nm以下の範囲内であることが好ましい。また、酸化クロムの膜厚(TO)は、窒化クロム膜の膜厚(TN)との合計膜厚が上記「(i)第一仕様の低反射層 (b)窒化クロム膜」で記載した範囲となることが好ましい。更には、酸化クロム膜の膜厚(TO)は、紫色~赤外(380nm以上1000nm以下程度)領域全域、特には、緑色~赤外(500nm以上1000nm以下程度)領域全域における反射率を低減することが容易となるため、10nm以上65nm以下の範囲内が好ましい。
【0070】
酸化クロムの形成方法としては、例えば反応性スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法などの物理蒸着法(PVD)が用いられる。反応性スパッタ法の利用に際しては、アルゴン(Ar)ガス中に酸素を導入し、Crターゲットを用いた反応性スパッタリング法にて酸化クロム膜を成膜することができる。この際、酸化クロム膜の組成の制御は、Arガス、酸素ガスの割合を制御することにより行うことができる。
【0071】
(ii)第二仕様の低反射層
本仕様の低反射層は、保護層側から、金属クロム膜、酸化クロム膜、窒化クロム膜がこの順に配置されている。本仕様の低反射層を有する低反射領域は、光源から照射された光の波長領域380nm以上1000nm以下、特には、波長領域500nm以上1000nm以下の範囲内のいずれかの波長における反射率を5%以下、特に1%以下まで下げることができる。具体的には、上記反射率を0%以上5%以下に、特に、0%以上1%以下に下げることができる。以下、各層について詳細に説明する。
【0072】
(a)金属クロム膜
本仕様における金属クロム膜は、基材上に形成されている。金属クロム膜の詳細は上述した「(i)第一仕様の低反射層 (a)金属クロム膜」と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0073】
(b)酸化クロム膜
本仕様における酸化クロム膜は、金属クロム膜と窒化クロム膜との間に配置されている。膜厚は、特に限定されないが、例えば、好ましくは5nm以上60nm以下、特に10nm以上50nm以下の範囲内であることが好ましい。さらに、後述する窒化クロム膜の膜厚との関係を満たすことが好ましい。より確実に、低反射領域の波長領域380nm以上1000nm以下、特には、波長領域500nm以上1000nm以下の範囲内のいずれかの波長における反射率を10%以下、特には5%以下と低くすることができるからである。具体的には、上記反射率を0%以上10%以下に、特に、0%以上5%以下に下げることができる。
【0074】
更には、酸化クロム膜の膜厚(TO)は、紫色~赤外(380nm以上1000nm以下程度)領域全域、特には、緑色~赤外(500nm以上1000nm以下程度)領域全域における反射率を低減することが容易となるため、5nm以上35nm以下の範囲内が好ましい。
【0075】
その他の酸化クロム膜の物性、組成及び形成方法の詳細は、上述した「(i)第一仕様の低反射層 (c)酸化クロム膜」と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0076】
(c)窒化クロム膜
本仕様の窒化クロム膜は、酸化クロム膜上に形成されている。本仕様の窒化クロム膜の膜厚は特に限定されないが、例えば、好ましくは5nm以上100nm以下の範囲内、特に10nm以上80nm以下の範囲内であることが好ましい。更に、酸化クロム膜の膜厚(TO)との関係において、波長が850nmの場合には、TNとTOとの合計が30nm以上、波長が550nmの場合には、TNとTOとの合計が15nm以上であることが好ましい。更には、本仕様の窒化クロム膜の膜厚(TN)は、紫色~赤外(380nm以上1000nm以下程度)領域全域、特には、緑色~赤外(500nm以上1000nm以下程度)領域全域における反射率を低減することが容易となるため、10nm以上60nm以下の範囲内が好ましい。
【0077】
本開示における低反射層の形成方法は特に限定されないが、選択エッチングやリフトオフによって製造することができる。具体的には、高反射層上に配置された保護層上に、例えば、スパッタ法等により、金属クロム膜を形成し、その後、窒化クロム膜及び酸化クロム膜を形成する。次に、金属クロム膜、窒化クロム膜及び酸化クロム膜をフォトリソグラフィ及びエッチングによってパターニングすることで、パターン状の低反射層を製造することができる。エッチングとしては、塩素ガスと酸素ガスを含む反応ガスを高周波電界によってプラズマ化するように構成されたプラズマエッチングによるドライエッチング、または硝酸セリウムアンモニウム溶液による湿式エッチングが挙げられる。
【0078】
また、別の方法としては、保護層上にレジストパターンを形成し、スパッタリング法等の公知の真空製膜法を用いて、金属クロム膜、窒化クロム膜及び酸化クロム膜を形成する。その後、レジストパターンを除去することでレジストパターン直上に形成された金属クロム膜、窒化クロム膜、酸化クロム膜をリフトオフし、窒化クロム膜及び酸化クロム膜のパターンを得る方法によっても形成することができる。
【0079】
4.低反射領域
本開示における低反射領域は、波長領域380nm以上1000nm以下、特には、波長領域500nm以上1000nm以下の範囲内のいずれかの波長における反射率が、例えば、10%以下であり、5%以下であってもよく、2%以下であってもよく、1.5%以下であってもよく、1%以下であってもよい。具体的には、本開示における低反射領域の上記反射率は、例えば、0%以上、10%以下であり、0%以上、5%以下であってもよく、0%以上、2%以下であってもよく、0%以上、1.5%以下であってもよく、0%以上、1%以下であってもよい。なお、低反射領域の反射率は、入射角0°以上70°以下の範囲内のいずれかの角度において、上記範囲を満たすことが好ましい。低反射領域の最表面は、低反射層の酸化クロム膜又は窒化クロム膜の表面であることが好ましく、特に、酸化クロム膜の表面であることが好ましい。より効果的に、低反射領域での反射率を低減することができるからである。
【0080】
5.高反射領域
本開示における高反射領域は、上述した保護層が露出している領域であり、エンコーダ用反射型光学式スケールの低反射層側から入射する光の反射率が、低反射領域よりも高い。
【0081】
高反射領域は、入射する光が380nm以上1000nm以下の範囲内、特には、500nm以上1000nm以下の範囲内のいずれかの波長である場合に、入射角が0°以上70°以下の範囲において、反射率が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。具体的には、本開示における上記高反射領域の反射率は、例えば、50%以上、100%以下であり、60%以上、100%以下が好ましい。
【0082】
6.S/N比
本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールは、上述した通り、高反射領域の反射率を向上することが可能となることから、下記式で表されるS/N比を高くすることを可能とする。
S/N比=高反射領域の反射率/低反射領域の反射率
なお、上記式における高反射領域の反射率、および低反射領域の反射率は、同一波長および同一入射角での反射率を示すものである。
【0083】
本開示においては、上記S/N比を、30以上とすることが可能であり、中でも35以上であり、好ましくは40以上であり、特に好ましくは60以上とすることができる。
【0084】
7.光学式スケール
本開示における光学式スケールは、ロータリーエンコーダ用であってもよいし、リニアエンコーダ用であってもよい。中でも、ロータリーエンコーダ用が好ましい。光学式スケールの平面視形状は、限定されるものではなく、例えば、ロータリーエンコーダに用いられるものは、略ドーナツ形状、または略円形とし、リニアエンコーダに用いられるものは、略長方形とすることができる。
【0085】
本開示における光学式スケールの製造方法は、例えば、上述した高反射層を準備する工程と、高反射層上に上述した保護層を形成する工程と、保護層の高反射層側の面とは反対の面側に、低反射層をパターン状に形成する工程と、を有する。
【0086】
A-2.エンコーダ用反射型光学式スケールの他の態様
本開示においては、上記「A-1.エンコーダ用反射型光学式スケール」で説明したエンコーダ用反射型光学式スケールの態様とは異なる他の態様をも含むものである。
【0087】
1.第1の他の態様
本開示における第1の他の態様は、エンコーダ用反射型光学式スケールであって、高反射層と、有機材料を含む保護層と、パターン状に設けられた低反射層とを、厚さ方向において、この順に有し、上記高反射層、上記保護層、および上記低反射層が設けられた領域である低反射領域と、上記高反射層および上記保護層が設けられた領域である高反射領域と、を有し、上記保護層の膜厚が、0.16μm以上1.0μm以下であり、測定光源の波長を850μmとした場合の上記高反射領域における反射率が、40%以上である、エンコーダ用反射型光学式スケールである。
【0088】
本態様においては、保護層の膜厚が上述した範囲であるので、上記高反射層に有機材料を含む上記保護層を設けた場合であっても、高い反射率を維持することができる。
【0089】
本態様において、上記保護層は有機材料を含むものである。上記有機材料については、上記「A-1.エンコーダ用反射型光学式スケール」において説明したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0090】
また、本態様においては、上記保護層の膜厚は、0.16μm以上1.0μm以下である。
本態様における上記保護層の膜厚の下限は、0.16μm以上であれば特に限定されるものではないが、0.18以上であることが好ましく、より好ましくは0.20μm以上である。また、上記保護増の膜厚の上限は、1.0μm以下であれば特に限定されるものではないが、0.6μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.33μm以下である。
【0091】
本態様においては、測定光源の波長を850μmとした場合の上記高反射領域における反射率が、40%以上とされるが、45%以上であることが好ましく、特に50%以上であることがより好ましい。
【0092】
本態様における、上記保護層の材料に関する点、上記保護層の膜厚に関する点、および測定光源の波長を850μmとした場合の上記高反射領域における反射率に関する点以外については、上述した「A-1.エンコーダ用反射型光学式スケール」の項で説明したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0093】
2.第2の他の態様
本開示における第2の他の態様は、エンコーダ用反射型光学式スケールであって、高反射層と、有機材料を含む保護層と、パターン状に設けられた低反射層とを、厚さ方向において、この順に有し、上記高反射層、上記保護層、および上記低反射層が設けられた領域である低反射領域と、上記高反射層および上記保護層が設けられた領域である高反射領域と、を有し、測定光源の波長を850μmとした場合の上記低反射領域における反射率が、2%以下であり、下記式で示されるS/N比が30以上である、エンコーダ用反射型光学式スケールである。
S/N比=高反射領域の反射率/低反射領域の反射率
【0094】
本態様では、S/N比が30以上である、すなわち高反射領域での反射率と低反射領域での反射率との差が大きいため、光検出器の誤検出を防止することができる。その結果、反射型光学式エンコーダでは、光学式スケールの読み取りが容易であり、良好なエンコーダ特性を有するものとなる。
【0095】
本態様において、上記保護層は有機材料を含むものである。上記有機材料については、上記「A-1.エンコーダ用反射型光学式スケール」において説明したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0096】
本態様において、上記S/N比は30以上とされるが、より好ましくは35以上であり、中でも40以上であることが好ましく、特に60以上であることが好ましい。
【0097】
本態様では、測定光源の波長を850μmとした場合の上記低反射領域における反射率が、2%以下であれば特に限定されるものではないが、好ましくは1%以下、特に0.5%以下であることが好ましい。
【0098】
本態様における、上記保護層の材料に関する点、上記S/N比に関する点、および測定光源の波長を850μmとした場合の上記低反射領域における反射率に関する点以外については、上述した「A-1.エンコーダ用反射型光学式スケール」の項で説明したものと同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0099】
B.反射型光学式エンコーダ
本開示においては、上述したエンコーダ用反射型光学式スケールと、上記エンコーダ用反射型光学式スケールの上記低反射層が配置された側の表面に、測定光を照射する光源と、上記エンコーダ用反射型光学式スケールからの反射光を検出する光検出器と、を備えることを特徴とする反射型光学式エンコーダを提供する。
図2(a)は本開示の反射型光学式エンコーダの一例を示す概略斜視図である。
図2(a)については、上記「A.エンコーダ用反射型光学式スケール」で説明したため、ここでの説明は省略する。本開示のエンコーダは、上述したエンコーダ用反射型光学式スケールを有するため、高反射領域での反射率と低反射領域での反射率との差が大きいため、光検出器22の誤検出を防止することができる。その結果、反射型光学式エンコーダ100では、光学式スケール10の読み取りが容易であり、良好なエンコーダ特性を有する。
【0100】
1.エンコーダ用反射型光学式スケール
エンコーダ用反射型光学式スケールとしては、上述した「A.エンコーダ用反射型光学式スケール」で説明したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0101】
2.光源
光源としては、例えばLED(発光ダイオード)やレーザー等である。光源から照射される光L1の波長λは、例えば、紫色~赤外(380~1000nm程度)領域であり、緑色~赤外(500~1000nm程度)領域であってもよい。光学式スケール10に対する光の入射角度は、例えば、0°以上70°以下である。
本開示に用いられる光源の光L1の波長λは、上述した「A.エンコーダ用反射型光学式スケール」において、保護層の膜厚を決定するために用いた光の波長λと同程度の波長となる。
【0102】
3.光検出器
光検出器は、光学式スケールで反射された光を検出する。光検出器は、例えば、フォトダイオードや撮像素子などの受光素子(例えば、光電変換素子)を含む。
【0103】
4.その他
本開示における反射型光学式エンコーダは、光検出器とエンコーダ用反射型光学式スケールとの間に固定スリットを含んでもよい。固定スリットを設けることで、光検出器が受光する光量の変化が大きくなり、検出感度を向上させることができる。固定スリットは、光源とエンコーダ用反射型光学式スケールとの間に設けてもよい。
【0104】
C-1.エンコーダ用反射型光学式スケール用積層体
図9は本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケール用積層体の概略断面図である。
図9に示すエンコーダ用反射型光学式スケール用積層体50は、上述のエンコーダ用反射型光学式スケールを製造するためのエンコーダ用反射型光学式スケール用積層体であって、高反射層1と、保護層2と、低反射層形成用層30とを、厚さ方向Dにおいて、この順に有し、上記保護層の膜厚をd(μm)、上記保護層への入射光の入射角をθ(°)としたとき、下記式(1)を満たす。
d=mλ/[2n×cos{Arcsin(sinθ/n)}] (1)
(式中、nは上記保護層の屈折率であり、λは上記入射光の波長(μm)であり、mは、0<m≦0.3、または、p-0.3≦m≦p+0.3(pは1以上3以下の整数である)を満たす数である。)
【0105】
このようなエンコーダ用反射型光学式スケール用積層体は、保護層の膜厚が上記所定の範囲であるため、低反射層形成用層をパターニングすることによって、高反射領域に入射した光の反射率を向上することが可能な、上述のエンコーダ用反射型光学式スケールを製造することができる。さらに、mが、0より大きく0.3以下、0.7以上1.3以下、1.9以上2.3以下、または3.0以上3.3以下の範囲内であることにより、上述したような高反射領域の位置による反射率のバラつきも低減できる。
【0106】
1.高反射層および保護層
本開示における高反射層および保護層については、上述した「A.エンコーダ用反射型光学式スケール」で説明した内容と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0107】
2.低反射層形成用層
本開示における低反射層形成用層は、上述したパターン状の低反射層を形成するためのパターニングを施す前の層であり、保護層の高反射層側とは反対側の面の全面に設けられることが好ましい。低反射層形成用層の層構成は、上述したパターン状の低反射層を同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0108】
C-2.エンコーダ用反射型光学式スケール用積層体の他の態様
本開示においては、上記「C-1.エンコーダ用反射型光学式スケール用積層体」で説明したエンコーダ用反射型光学式スケール用積層体とは異なる他の態様をも含むものである。
【0109】
本態様におけるエンコーダ用反射型光学式スケール用積層体は、上述したエンコーダ用反射型光学式スケールを製造するためのエンコーダ用反射型光学式スケール用積層体であって、高反射層と、保護層とを、厚さ方向において、この順に有し、上記保護層の膜厚をd(μm)、上記保護層への入射光の入射角をθ(°)としたとき、下記式(1)を満たす、エンコーダ用反射型光学式スケール用積層体である。
d=mλ/[2n×cos{Arcsin(sinθ/n)}] (1)
(式中、nは上記保護層の屈折率であり、λは上記入射光の波長(μm)であり、mは、0<m≦0.3、または、p-0.3≦m≦p+0.3(pは1以上3以下の整数である)を満たす数である。)
【0110】
本態様のエンコーダ用反射型光学式スケール用積層体は、低反射層形成用層に関する点を除いて、上述した「C-1.エンコーダ用反射型光学式スケール用積層体」と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0111】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示の技術的範囲に包含される。
【実施例0112】
以下、実験例A、実験例B、実施例および比較例を示し、本開示をさらに説明する。
【0113】
(実験例Aおよび実験例B)
高反射層として金属クロム層(屈折率3.2)を有し、高反射層上に保護層として膜厚d(μm)の有機保護層(屈折率n=1.58)を有する積層体に対し、波長λ=850nmの光が、保護層側から入射角θ(θ=0°、20°、40°および55°)で入射した場合における反射率(それぞれ、R0、R20、R40、R55)をシミュレーションにより算出した。
この際、保護層の膜厚dを、下記式(1)において、入射角θ=0°として、mを変化させた値とした。
d=mλ/[2n×cos{Arcsin(sinθ/n)}] (1)
【0114】
また、R
0、R
20、R
40、R
55の平均値(平均反射率R
ave)、および最大反射率と最小反射率との差(反射率差ΔR)を算出した。さらに、R
0、R
20、R
40およびR
55を、保護層を設けなかった場合のθ=0°でのシミュレーション反射率(65.3%)で除した規格反射率(R′
0、R′
20、R′
40およびR′
55)、および規格反射率の平均値(平均規格反射率R′
ave)、最大規格反射率と最小規格反射率との差(規格反射率差ΔR′)を算出した。なお、上記保護層を設けなかった場合のθ=0°でのシミュレーション反射率(65.3%)は、高反射層の表面にエッチング残渣等が残っていない理想的な高反射層による反射率である。結果を表1~表3に示す。また、保護層の膜厚d(μm)と、平均反射率R
ave(%)との関係を示すグラフを
図5に示す。保護層の膜厚d(μm)と、平均規格反射率R′
ave(%)との関係を示すグラフを
図6に示す。
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
表1~表3に示されるように、保護層の膜厚dが上記(1)を満たす場合(実験例A)では、平均規格反射率R′aveが72%以上となり、反射率の低減が抑制されることが確認された。さらに、実験例A1~9(0.7≦m≦1.3)は、実験例B2(m=1.4)に対して規格反射率差ΔR′が小さく、高反射領域に入射した光の反射率のバラつきが抑制されることが確認された。同様に、実験例A12~16(1.9≦m≦2.3)は、実験例B4(m=2.4)、実験例B5(m=2.5)、および実験例A10(m=1.7)および実験例A11(m=1.8)に対して、規格反射率差ΔR′が小さいことが確認された。実験例A18~20(3.0≦m≦3.3)は、実験例A17(m=2.9)に対して、規格反射率差ΔR′が小さいことが確認された。
【0119】
(実施例)
まず、高反射層として鏡面加工が施されたSUS製基材(厚さ400μm)を準備した。次いで、SUS製基材の鏡面加工が施された面に、カルドエポキシ樹脂を含む保護層形成用組成物を塗布し、硬化させることによって、厚さ0.27μm、屈折率1.58の保護層を形成した。次に、金属クロム層、窒化クロム層および酸化クロム層を保護層側からこの順に有する低反射層をパターン状に形成した。これにより、評価用スケールを得た。
得られた評価用スケールの高反射領域の表面粗さ、光沢度(60°グロス値)、および反射率を以下の方法により測定した。また、反射率の平均値及びレンジを算出した。結果を表4に示す。なお、保護層の膜厚(0.27μm)は、上記(1)において入射角θ=0°、入射光の波長=0.85μmとした場合におけるm=1.0の値である。
【0120】
[反射率]
反射率は、島津製作所社製の分光光度計「SolidSpec-3700(商品名)」により測定した。この際、測定波長を850nm、(p偏光+s偏光)/2、入射角(評価用部材の表面の垂線と、入射光の方向とがなす角度)を5°~70°とした。なお、照射ビームサイズは約6mm×15mmである。
【0121】
[表面粗さ]
JIS B 0601-1994に準拠して、算術平均粗さRa、最大高さRy、十点平均粗さRzを測定した。
【0122】
[光沢度]
60°鏡面光沢度は、HANDY GLOSSMETER PG-II(NIPPON DENSHOKU)を用いて、JIS Z 8741に準拠して測定した。
【0123】
[水に対する接触角]
JIS R3257:1999の規定に準拠して測定した。
保護層の無い鏡面SUSの場合は31°であった(表4の比較例2)。鏡面SUSに無機材料の保護層を形成した場合は62°であった。鏡面SUSに有機材料の保護層を形成した場合は、73°(表4の実施例1)、75°(表4の比較例1)、所定の厚さ(0.16μm以上1.0μm以下)の平均の接触角は74.3°であった。
【0124】
(比較例1)
保護層の厚さを1.0μmとした以外は、実施例1と同様の方法で、評価用スケールを製造し、高反射領域の表面粗さ、光沢度および反射率を測定した。結果を表4に示す。
保護層の膜厚(1.0μm)は、上記(1)において入射角θ=0°、入射光の波長=0.85μmとした場合におけるm=3.7の値である。
【0125】
(比較例2)
高反射層として、鏡面加工が施されたSUS製基材(厚さ400μm)を準備した。次いで、保護層を形成せずに、金属クロム膜を形成した。その後、6分間、酸によるエッチングを行い、エッチングによる高反射層の表面粗さに対する影響を調査した。エッチング後の高反射層の表面粗さ、光沢度および反射率を測定した。結果を表4に示す。
【0126】
(参考例1~4)
高反射層(鏡面加工が施されたSUS製基材)に対し、酸によるエッチングを表4に示す時間行い、エッチング後の高反射層の表面粗さ、光沢度および反射率を測定した。結果を表4に示す。
【0127】
【0128】
表4の結果から、実施例1では、比較例1および比較例2よりも高い反射率が得られることが確認された。比較例2では、金属クロム膜のエッチング後に金属クロムの残渣が確認され、このエッチング残渣の影響により反射率が低下したと推察される。なお、エッチング時間を延長しても、残渣は消えなかった。
【0129】
なお、上記の反射率測定では照射ビームサイズが約6mm×15mmと比較的大きかったが、実際のエンコーダの受光部(高反射領域)のスケールは、例えば、100μm以下であり、通常50μm程度と小さい。比較例2のように高反射層の表面粗さが粗い場合、ビームサイズが小さい程反射率が悪化することが想定されるため、本開示による反射率増大の効果は、実際には更に顕著に得られるものと推察される。
【0130】
[反射率の角度依存性評価]
上記実施例、比較例1、比較例2、および参考例1の評価用スケールの高反射領域に対し、測定光の波長を400nm~900nmで変化させ、入射角を5°~70°を変化させて反射率を測定した。結果を、
図7(a)(実施例)、
図7(b)(参考例1)、
図8(a)(比較例1)、
図8(b)(比較例2)に示す。
【0131】
図7(a)に示されるように、実施例の評価用スケールにおける高反射領域は、参考例1(鏡面SUS製基材)と同程度の反射率および入射角依存性であった。
図8(a)に示されるように、保護層の膜厚の制御を行わないと、薄膜干渉により、反射率の入射角依存性が大きくなることが確認された。
図8(b)に示されるように、保護層を設けない場合には、高反射領域の反射率が低下することが確認された。これは、エッチング後の高反射層の表面粗さが大きいためと推察される。
【0132】
すなわち、本開示においては、以下の発明を提供できる。
[1] エンコーダ用反射型光学式スケールであって、高反射層と、保護層と、パターン状に設けられた低反射層とを、厚さ方向において、この順に有し、上記低反射層が設けられた領域である低反射領域と、上記保護層が露出している領域である高反射領域と、を有し、
前記保護層の膜厚をd(μm)、前記保護層への入射光の入射角をθ(°)としたとき、下記式(1)を満たす、エンコーダ用反射型光学式スケール。
d=mλ/[2n×cos{Arcsin(sinθ/n)}] (1)
(式中、nは前記保護層の屈折率であり、λは入射光の波長(μm)であり、mは、0<m≦0.3、または、p-0.3≦m≦p+0.3(pは1以上3以下の整数である)を満たす数である。)
[2] 前記mは、0より大きく0.3以下、0.7以上1.3以下、1.9以上2.3以下、または3.0以上3.3以下の範囲内である、[1]に記載のエンコーダ用反射型光学式スケール。
[3] 上記保護層が、有機材料を含む、[1]または[2]に記載のエンコーダ用反射型光学式スケール。
[4] 上記高反射層が、金属基材である、[1]から[3]のいずれかに記載のエンコーダ用反射型光学式スケール。
[5] 上記低反射層が、上記保護層側から、金属クロム膜と、順不同に配置された、酸化クロム膜及び窒化クロム膜と、を有する、[1]から[4]のいずれかに記載のエンコーダ用反射型光学式スケール。
[6] [1]から[5]までのいずれかに記載のエンコーダ用反射型光学式スケールと、上記エンコーダ用反射型光学式スケールの上記低反射層が配置された側の表面に、上記測定光を照射する光源と、上記エンコーダ用反射型光学式スケールからの反射光を検出する光検出器と、を備えることを特徴とする反射型光学式エンコーダ。
[7] [1]から[5]までのいずれかに記載のエンコーダ用反射型光学式スケールを製造するためのエンコーダ用反射型光学式スケール用積層体であって、高反射層と、保護層と、低反射層形成用層とを、厚さ方向において、この順に有し、
前記保護層の膜厚をd(μm)、前記保護層への入射光の入射角をθ(°)としたとき、下記式(1)を満たす、エンコーダ用反射型光学式スケール用積層体。
d=mλ/[2n×cos{Arcsin(sinθ/n)}] (1)
(式中、nは前記保護層の屈折率であり、λは上記入射光の波長(μm)であり、mは、0<m≦0.3、または、p-0.3≦m≦p+0.3(pは1以上3以下の整数である)を満たす数である。)
[8]
エンコーダ用反射型光学式スケールであって、
高反射層と、有機材料を含む保護層と、パターン状に設けられた低反射層とを、厚さ方向において、この順に有し、
上記高反射層、上記保護層、および上記低反射層が設けられた領域である低反射領域と、上記高反射層および上記保護層が設けられた領域である高反射領域と、を有し、
上記保護層の膜厚が、0.16μm以上1.0μm以下であり、
測定光源の波長を850μmとした場合の上記高反射領域における反射率が、40%以上である、エンコーダ用反射型光学式スケール。
[9]
エンコーダ用反射型光学式スケールであって、
高反射層と、有機材料を含む保護層と、パターン状に設けられた低反射層とを、厚さ方向において、この順に有し、
上記高反射層、上記保護層、および上記低反射層が設けられた領域である低反射領域と、上記高反射層および上記保護層が設けられた領域である高反射領域と、を有し、
測定光源の波長を850μmとした場合の上記低反射領域における反射率が、2%以下であり、
下記式で示されるS/N比が30以上である、エンコーダ用反射型光学式スケール。
S/N比=高反射領域の反射率/低反射領域の反射率
[10]
上記保護層の膜厚が、0.16μm以上1.0μm以下であり、
測定光源の波長を850μmとした場合の上記高反射領域における反射率が、40%以上である、[9]に記載のエンコーダ用反射型光学式スケール。
[11]
上記保護層の水に対する接触角が、50°以上90°以下である[1]から[5]までのいずれか、または[8]から[10]までのいずれかに記載のエンコーダ用反射型光学式スケール。
[12]
[1]から[5]までのいずれか、または[8]から[11]までのいずれかに記載のエンコーダ用反射型光学式スケールを製造するためのエンコーダ用反射型光学式スケール用積層体であって、
高反射層と、保護層とを、厚さ方向において、この順に有し、
上記保護層の膜厚をd(μm)、上記保護層への入射光の入射角をθ(°)としたとき、下記式(1)を満たす、エンコーダ用反射型光学式スケール用積層体。
d=mλ/[2n×cos{Arcsin(sinθ/n)}] (1)
(式中、nは上記保護層の屈折率であり、λは上記入射光の波長(μm)であり、mは、0<m≦0.3、または、p-0.3≦m≦p+0.3(pは1以上3以下の整数である)を満たす数である。)