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2024-156950液状食品の加熱調理により生じる膜生成の抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156950
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】液状食品の加熱調理により生じる膜生成の抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 23/00 20160101AFI20241029BHJP
   A23L 29/25 20160101ALI20241029BHJP
【FI】
A23L23/00
A23L29/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024131977
(22)【出願日】2024-08-08
(62)【分割の表示】P 2020031800の分割
【原出願日】2020-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2019033595
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】太田 瑛美
(72)【発明者】
【氏名】山崎 宏樹
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ホワイトソース、シチューソース、ハヤシソース、デミグラスソース、パスタソース、カレーソース、スープ等といった澱粉を含有する液状食品の加熱調理後に生じる表面の膜生成を抑制する方法、及び加熱調理により生じる膜の生成が抑制された液状食品を提供する。
【解決手段】澱粉を0.05~20重量%含有する液状食品において、アラビアガムを0.04~20重量%含有させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉を0.05~20重量%含有する液状食品において、アラビアガムを0.04~20重量%含有させることを特徴とする、液状食品の加熱調理により生じる膜生成の抑制方法。
【請求項2】
前記液状食品が、更に油脂を0.05~40重量%含有する、請求項1に記載の液状食品の加熱調理により生じる膜生成の抑制方法。
【請求項3】
前記液状食品が、更に乳成分を無脂乳固形分換算で0.01~20重量%含有する、請求項1又は2に記載の液状食品の加熱調理により生じる膜生成の抑制方法。
【請求項4】
液状食品が、ホワイトソース、シチューソース、ハヤシソース、デミグラスソース、パスタソース、カレーソース又はスープである、請求項1乃至3に記載の液状食品の加熱調理により生じる膜生成の抑制方法。
【請求項5】
澱粉を0.05~20重量%含有する液状食品において、アラビアガムを0.04~20重量%含有することを特徴とする、加熱調理により生じる膜生成が抑制された液状食品。
【請求項6】
前記液状食品が、更に油脂を0.05~40重量%含有する、請求項5に記載の加熱調理により生じる膜生成が抑制された液状食品。
【請求項7】
前記液状食品が、更に乳成分を無脂乳固形分換算で0.01~20重量%含有する、請求項5又は6に記載の加熱調理により生じる膜生成が抑制された液状食品。
【請求項8】
液状食品が、ホワイトソース、シチューソース、ハヤシソース、デミグラスソース、パスタソース、カレーソース又はスープである、請求項5乃至7に記載の加熱調理により生じる膜生成が抑制された液状食品。
【請求項9】
アラビアガムを含有することを特徴とする、澱粉を0.05~20重量%含有する液状食品における加熱調理により生じる膜生成抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホワイトソース、シチューソース、ハヤシソース、デミグラスソース、パスタソース、カレーソース、スープ等といった澱粉、又は更に油脂や乳成分を含有する液状食品について、加熱調理により生じる膜の生成を抑制する方法、及び加熱調理により生じる膜の生成が抑制された液状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ホワイトソース、シチューソース、ハヤシソース、デミグラスソース、パスタソース、カレーソース、スープ等の澱粉、又は更に油脂や乳成分を含有する液状食品は、原料を混合し、加熱して製造するのが一般的であるが、加熱調理により製造した後、表面に被膜が生じる場合がある。液状食品の表面に膜が生じる現象としては、牛乳を加熱した時に生じる、「ラムスデン現象」が知られている。前記澱粉又は油脂や乳成分を含有する液状食品の表面被膜生成の仕組みは定かではないが、恐らくラムスデン現象と全く異なるのではなく、澱粉や、併用する油脂、乳成分等が総合的に関与しているか、又は、油脂と乳成分とのラムスデン現象を澱粉が助長しているのではないかと考えられる。
【0003】
特許文献1には、澱粉を0.1~10重量%含有する液状食品において、水溶性ヘミセルロースを0.5~5重量%含有することを特徴とする液状食品の膜生成抑制方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4110030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、液状食品の膜生成抑制方法を検討する中で、特許文献1に記載される方法では、水溶性ヘミセルロースに由来する風味が液状食品本来の風味を損ねたり、液状食品に好ましくない色調を与える場合があるという新たな課題を発見した。本発明は、かかる事情に鑑みて開発されたものであり、ホワイトソース、シチューソース、ハヤシソース、デミグラスソース、パスタソース、カレーソース、スープ等といった澱粉、又は更に油脂や乳成分を含有する液状食品について、液状食品本来の風味や色調を損ねることなく、加熱調理により生じる膜の生成を抑制する方法、及び加熱調理により生じる膜の生成が抑制された液状食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み、ホワイトソース、シチューソース、ハヤシソース、デミグラスソース、パスタソース、カレーソース、スープ等の澱粉を含有する液状食品において、添加する安定剤等に特に注目して鋭意研究を重ねていたところ、澱粉を0.05~20重量%含有する液状食品において、アラビアガムを一定量添加することにより、液状食品本来の風味や色調を損ねることなく、加熱調理により生じる被膜を有意に抑制できることを見いだした。
【0007】
また、更に油脂を0.05~40重量%含有する液状食品や、更に乳成分を無脂乳固形分換算で0.01~20重量%含有する液状食品にも、アラビアガムを一定量添加することにより、液状食品本来の風味や色調を損ねることなく、有意な膜生成抑制効果を発揮することを見いだした。
【0008】
すなわち本発明は以下の態様を有する;
項1:澱粉を0.05~20重量%含有する液状食品において、アラビアガムを0.04~20重量%含有させることを特徴とする、液状食品の加熱調理により生じる膜生成抑制方法。
項2:前記液状食品が、更に油脂を0.05~40重量%含有する、請求項1に記載の液状食品の加熱調理により生じる膜生成抑制方法。
項3:前記液状食品が、更に乳成分を無脂乳固形分換算で0.01~20重量%含有する、請求項1又は2に記載の液状食品の加熱調理により生じる膜生成抑制方法。
項4:液状食品が、ホワイトソース、シチューソース、ハヤシソース、デミグラスソース、パスタソース、カレーソース又はスープである、項1乃至3に記載の液状食品の加熱調理により生じる膜生成抑制方法。
項5:澱粉を0.05~20重量%含有する液状食品において、アラビアガムを0.04~20重量%含有することを特徴とする、加熱調理により生じる膜生成が抑制された液状食品。
項6:前記液状食品が、更に油脂を0.05~40重量%含有する、請求項5に記載の加熱調理により生じる膜生成が抑制された液状食品。
項7:前記液状食品が、更に乳成分を無脂乳固形分換算で0.01~20重量%含有する、請求項5又は6に記載の加熱調理により生じる膜生成が抑制された液状食品。
項8:液状食品が、ホワイトソース、シチューソース、ハヤシソース、デミグラスソース、パスタソース、カレーソース又はスープである、項5乃至7に記載の加熱調理により生じる膜生成が抑制された液状食品。
項9:アラビアガムを含有することを特徴とする、澱粉を0.05~20重量%含有する液状食品における加熱調理により生じる膜生成抑制剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ホワイトソース、シチューソース、ハヤシソース、デミグラスソース、パスタソース、カレーソース、スープ等といった澱粉、又は更に油脂や乳成分を含有する液状食品について、液状食品本来の風味や色調を損ねることなく、加熱調理により生じる膜の生成を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[液状食品の加熱調理により生じる膜生成の抑制方法]
本発明は、澱粉を0.05~20重量%含有する液状食品において、アラビアガムを0.04~20重量%含有させることを特徴とする、液状食品の加熱調理により生じる膜生成抑制方法に関する。
【0011】
本発明において、液状食品とは、小麦粉等の澱粉や、必要に応じて、油脂や乳成分といった材料を使用し、澱粉の糊化を利用して調理した液状の食品をいう。
【0012】
本発明に係る液状食品に含まれる澱粉としては、小麦粉等の小麦由来の澱粉;ワキシーコーンスターチ、コーンスターチ等のトウモロコシ由来の澱粉;タピオカ由来の澱粉;サツマイモ由来の澱粉;ジャガイモ由来の澱粉;サゴヤシ由来の澱粉等や、それらの加工澱粉を適宜選択して用いることができる。液状食品中の澱粉の含有量は、好ましくは0.05~20重量%、より好ましくは0.075~15重量%、更に好ましくは0.1~10重量%、より更に好ましくは1~10重量%である。
【0013】
油脂としては、バター、生クリーム等の乳脂肪分;ラード、豚脂、牛脂等の動物油脂;植物油脂;これらの分別油脂、硬化油脂、エステル交換油脂等の中から1種又は2種以上を併用することができる。植物油脂の例としては、大豆油、菜種油、綿実油、コーン油、ひまわり油、オリーブ油、サフラワー油、パーム油、パーム核油、ヤシ油等を挙げることができる。澱粉含有液状食品中の油脂の含有量は、好ましくは0.05~40重量%、より好ましくは0.05~30重量%、更に好ましくは0.075~20重量%、より更に好ましくは0.1~10重量%、特に好ましくは、0.8~10重量%、より特に好ましくは1~10重量%である。
【0014】
乳成分としては、牛乳、生クリーム、脱脂粉乳、全脂粉乳、全脂加糖練乳、脱脂加糖練乳、サワークリーム等が挙げられる。澱粉含有液状食品中の乳成分の含有量は、無脂乳固形分換算で好ましくは0.01~20重量%、より好ましくは0.05~20重量%、更に好ましくは0.075~15重量%、より更に好ましくは0.1~10重量%、特に更に好ましくは0.5~10重量%である。
【0015】
かかる液状食品は、原料に澱粉が含まれることにより、加熱調理後に被膜が生成しやすくなる。更に、澱粉と、油脂又は乳成分の2成分が含まれるとその傾向が顕著となり、澱粉、油脂及び乳成分の3成分が含まれるとより顕著となる。このように、液状食品に澱粉、油脂及び乳成分の3成分が含まれる場合に、特に本発明の方法は有効であり、液状食品本来の風味や色調を損ねることなく、加熱調理により生じる膜の生成を有意に抑制することができる。
【0016】
本発明に係る液状食品の具体例として、ホワイトソース、シチューソース、ハヤシソース、デミグラスソース、パスタソース、カレーソース、クリームソース、ベシャメルソース、カスタードクリーム、葛湯、あんかけ惣菜、スープ、グラタン、ドリア、タレ(焼肉用、焼き鳥用)等、又はこれらに具材が添加された調理済み食品を例示することができる。調理済み食品に用いる具材としては、例えば牛肉、豚肉、鶏肉等の畜肉類、全卵、卵黄、卵白等の卵、魚介類、ジャガイモ、人参、玉葱等の野菜類等を挙げることができる。この中でも、ホワイトソース、シチューソース、ハヤシソース、デミグラスソース、パスタソース、カレーソース又はスープは、澱粉に加えて、油脂、乳成分を含む製品が多く、加熱調理後の膜の生成が問題となっており、これら液状食品に対して本発明は特に高い効果を示すものである。
【0017】
本発明で言うアラビアガムは、マメ科植物であるアカシア属の植物(例えば、アカシア・セネガル(Acaciasenegal)やアカシア・セイアル(Acaciaseyal)等)の樹液から得られる多糖類である。多種の多糖類が知られているが、上記の新たな課題に対して検討した結果、驚くべきことに、アラビアガムが、澱粉、又は更に油脂や乳成分を含有する液状食品について、液状食品本来の風味や色調を損ねることなく、加熱調理により生じる膜の生成を抑制できることが見出された。
アラビアガムの分子構造は、完全に明らかにはされていないが、ガラクトース、アラビノース、ラムノース、及びグルクロン酸を構成糖とすることが知られている。
アラビアガムは商業的に入手することができ、かかる製品としては、例えば、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「ガムアラビックSD」等が挙げられる。
【0018】
本発明ではまた、アラビアガムとして、前記アラビアガムを改質した、改質アラビアガムを用いることも可能である。
改質アラビアガムは、通常のアラビアガムと比較し、重量平均分子量やアラビノガラクタンタンパク質含量が高く、乳化性に優れたアラビアガムであり、重量平均分子量が150万以上であるか、又はアラビノガラクタン蛋白量含量が17重量%以上であるアラビアガムである。アラビアガムの重量平均分子量及びアラビノガラクタンタンパク質含量は、MALLS(多角度光散乱光度計)、RI(屈折率)を検出器としてオンラインで接続したゲル濾過クロマトグラフィー法(GPC-MALLS)により求めることができる。
【0019】
改質の方法としては、例えば、90~180℃で15分~72時間加熱処理する方法や、アラビアガムから金属塩を除去又は低減する方法などが挙げられる。アラビアガムから金属塩を除去又は低減する方法としては、例えば、有機溶媒中でのイオン交換処理、電気整理透析膜、又はイオン交換樹脂等による脱塩処理が例示できる。これら改質アラビアガムは、上記規定を満たすものが得られる製造方法であれば特に限定されないが、例えば、特表2006-522202号公報に記載された方法、即ちアラビアガムを110℃以上で10時間以上加熱することにより得ることができる。このような改質アラビアガムは商業的に入手可能であり、例えば、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社のSUPERGUM(商標)などが利用される。
【0020】
本発明は、前記液状食品にアラビアガムを使用することにより、液状食品本来の風味や色調を損ねることなく、液状食品の加熱調理により生じる膜の生成を有意に抑制することができる。前記液状食品に対するアラビアガムの含有量は、液状食品の含有する澱粉や油脂、乳成分の量や水分量により前後するが、好ましくは0.04~20重量%、より好ましくは0.05~20重量%、更に好ましくは0.1~15重量%、より更に好ましくは0.3~10重量%、殊更に好ましくは0.4~10重量%、より殊更に好ましくは0.45~10重量%、特に好ましくは0.5~10重量%、より特に好ましくは0.5~5重量%の範囲になるように添加する。アラビアガムを前記範囲になるように添加することで、液状食品に過度な粘度が付与されることなく、液状食品の加熱調理により生じる膜生成を有意に抑制することができる。
【0021】
本発明は、液状食品の加熱調理により生じる膜の生成を抑制する方法として、前記液状食品にアラビアガムを含有することを特徴とするが、本発明の効果を妨げない限りにおいて、その他の食品、食品添加剤を任意に添加することが出来る。
【0022】
例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド等の乳化剤;一般の動植物性油脂や油溶性ビタミンであるトコフェロール類;キサンタンガム、ウェランガム、ガラクトマンナン(例えば、グァーガム、ローカストビーンガム、タラガム等)、脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、カラギナン(例えば、カッパ型、イオタ型、ラムダ型等)、タマリンドシードガム、グルコマンナン、サイリウムシードガム、マクロホモプシスガム、寒天、ペクチン(例えば、HMペクチン、LMペクチン等)、アルギン酸、アルギン酸塩(例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム等)、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カードラン、トラガントガム、ガティガム、アラビノガラクタン、カラヤガム、プルラン、大豆多糖類、ファーセレラン、キチン、セルロース類(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、発酵セルロース、結晶セルロース等)、デンプン類(例えば、デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルボキシメチルスターチ、ヒドロキシプロピルスターチ、α化デンプン、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、リン酸架橋デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、酢酸デンプン等)、デキストリン類(例えば、ポリデキストロース、難消化性デキストリン、シクロデキストリン等)、ヒアルロン酸、キトサン等の多糖類;ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール等の糖アルコール;卵白;プラズマパウダー;ラクトアルブミン;植物性蛋白質等が挙げられる。
【0023】
アラビアガムの液状食品への添加時期であるが、例えば、予め、澱粉や、必要に応じて油脂、乳成分や他の原料とともに、製造時の仕込み水に加え、攪拌混合及び加熱することができる。更に必要に応じて各種の具材を加えても良い。また、原料を攪拌混合及び加熱した後にアラビアガムを加えても良い。即ち、澱粉の糊化前後どちらの時期に添加しても、加熱調理により生じる膜生成の抑制効果を発揮する。
【0024】
本発明に係る液状食品は、調製時、加熱殺菌を行うことで、常温、チルド、冷凍等の流通に適した製品とすることができる。加熱殺菌の条件として、100~150℃、10~60分間程度の加熱を行うレトルト殺菌や、80~98℃、15~90分程度のボイル殺菌やスチーム殺菌、UHT殺菌、HTST殺菌、オートクレーブ殺菌等の殺菌方法を挙げることができる。レトルト殺菌することにより、常温流通可能な液状食品となる。
【0025】
本発明によれば、澱粉、又は更に油脂や乳成分を含有する液状食品について、液状食品本来の風味や色調を損ねることなく、加熱調理により生じる膜生成を有意に抑制することができる。ここでいう加熱調理は、上記の加熱殺菌だけでなく、オーブンによる焼成等を含む。中でも、オーブンによる焼成後には、膜が生成しやすく、また、生成した膜が厚く、硬くなりやすく、シワができやすいことが問題であり、食感や外観に悪影響を及ぼす。しかしながら、本発明によれば、オーブンによる焼成後であっても、膜の生成を有意に抑制することができる。
【0026】
[加熱調理により生じる膜生成が抑制された液状食品]
本発明はまた、澱粉を0.05~20重量%含有する液状食品において、アラビアガムを0.04~20重量%含有することを特徴とする、加熱調理により生じる膜生成が抑制された液状食品に関する。
【0027】
本発明に係る加熱調理により生じる膜生成が抑制された液状食品の具体的、及び該液状食品に含まれる、澱粉、油脂、乳成分、アラビアガム、その他の食品、食品添加物等の詳細は、上記の[液状食品の加熱調理により生じる膜生成抑制方法]の項に記載した通りである。
【0028】
本発明に係る加熱調理により生じる膜生成が抑制された液状食品におけるアラビアガムの含有量は、液状食品の含有する澱粉や油脂、乳成分の量や水分量により前後するが、好ましくは0.04~20重量%、より好ましくは0.05~20重量%、更に好ましくは0.1~15重量%、より更に好ましくは0.3~10重量%、殊更に好ましくは0.4~10重量%、より殊更に好ましくは0.45~10重量%、特に好ましくは0.5~10重量%、より特に好ましくは0.5~5重量%の範囲になるように添加する。アラビアガムを前記範囲になるように添加することで、過度な粘度が付与されることなく、加熱調理により生じる膜生成が有意に抑制された液状食品を製造することができる。
【0029】
[液状食品における加熱調理により生じる膜生成抑制剤]
本発明はまた、アラビアガムを含有することを特徴とする、澱粉を0.05~20重量%含有する液状食品における加熱調理により生じる膜生成抑制剤に関する。
【0030】
本発明に係る膜生成抑制剤が対象とする液状食品の具体的、及び該液状食品に含まれる、澱粉、油脂、乳成分、その他の食品、食品添加物等の詳細は、上記の[液状食品の加熱調理により生じる膜生成抑制方法]の項に記載した通りである。
【0031】
本発明に係る膜生成抑制剤におけるアラビアガムの含有量は、他の成分の含有量、製剤の形態、食材の種類等により適宜変更され、限定はされない。
【0032】
本発明に係る膜生成抑制剤は、アラビアガムを含有していればその製法は特に限定されない。その形態も粉状、顆粒状、溶液状、ペースト状など、求められる用途や対象食品によって好適な形態をとることが可能であり、好ましくは粉体又は顆粒状、より好ましくは粉体である。本発明に係る膜生成抑制剤がアラビアガム以外の成分を含む場合は、アラビアガム及びその他の成分を粉体混合したもの、又は粉体混合後、流動層造粒機等を用いて顆粒状にしたものが好適に使用できる。なお、顆粒状にする際には、アラビアガムをバインダー液に溶解して利用することもできる。
【0033】
本発明に係る膜生成抑制剤は、本発明の効果を奏する限り、デキストリン、澱粉、糖類等の賦形剤や無機塩、有機酸塩などの塩類、乳化剤等を含んでいてもよい。
【0034】
また、本発明に係る膜生成抑制剤は、本発明の効果を奏する限り、食品への使用が許可されている各種多糖類を配合することができる。例えば、キサンタンガム、ウェランガム、ガラクトマンナン(例えば、グァーガム、ローカストビーンガム、タラガム等)、脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、カラギナン(例えば、カッパ型、イオタ型、ラムダ型等)、タマリンドシードガム、グルコマンナン、サイリウムシードガム、マクロホモプシスガム、寒天、ペクチン(例えば、HMペクチン、LMペクチン等)、アルギン酸、アルギン酸塩(例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム等)、カードラン、トラガントガム、ガティガム、アラビノガラクタン、カラヤガム、プルラン、大豆多糖類、ファーセレラン、キチン、セルロース類(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、発酵セルロース、結晶セルロース等)、デンプン類(例えば、デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルボキシメチルスターチ、ヒドロキシプロピルスターチ、α化デンプン、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、リン酸架橋デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、酢酸デンプン等)、デキストリン類(例えば、ポリデキストロース、難消化性デキストリン等)等が挙げられる。
【0035】
本発明に係る膜生成抑制剤の液状食品に対する添加量は、液状食品の含有する澱粉や油脂、乳成分の量や水分量により前後するが、液状食品中のアラビアガムの含有量が、好ましくは0.04~20重量%、より好ましくは0.05~20重量%、更に好ましくは0.1~15重量%、より更に好ましくは0.3~10重量%、殊更に好ましくは0.4~10重量%、より殊更に好ましくは0.45~10重量%、特に好ましくは0.5~10重量%、より特に好ましくは0.5~5重量%の範囲になるように添加する。アラビアガムを前記範囲になるように本発明に係る膜生成抑制剤を添加することで、液状食品に過度な粘度が付与されることなく、加熱調理により生じる膜生成が有意に抑制することができる。
【実施例0036】
以下、本発明の内容を以下の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。尚、本発明において特に記載しない限り、「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を意味するものとし、文中「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」印は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを示す。
【0037】
実験例1:ホワイトソース(澱粉、脂質及び乳成分含有)への添加試験1
表1の処方に従い、以下の手順でホワイトソース(澱粉の含有量5.75%、油脂の含有量5.4%、乳成分の含有量(無脂乳固形分換算)1.3%)を調製した。
(1)牛乳、無塩バター、サラダ油及び水を混合し、小麦粉(澱粉の含有量75%)、砂糖、加工澱粉及び試料(大豆多糖類、アラビアガム製剤又はアラビアガム)を添加して、85℃で10分間撹拌した。
(2)食塩を添加し、更に5分間撹拌した後、室温(20℃)まで冷却した。
【0038】
次に、上記で調製したホワイトソース60gをココット皿に入れ、コンベクションオーンにて230℃10分間の焼成を行なった。焼成後のホワイトソースの表面を目視にて確認し、以下の基準で膜の生成状態を観察した。
+++:厚く、硬い膜が生成しており、シワが多く見られる。
++:膜が生成しており、シワが見られる。
+:わずかに膜が生成しているが、シワは見られない。
-:膜が生成していない。
結果を表2及び3に示す。
【0039】
さらに、冷蔵(5℃)にて一晩冷却したホワイトソースを喫食し、風味の官能評価を行なった。また、同ホワイトソースの色調を目視にて確認した。
結果を表2及び3に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】

大豆多糖類:SM-900*
アラビアガム製剤(注1):サンサポート※D-100*(アラビアガム90%、プルラン10%含有製剤)
【0042】
【表3】
【0043】
表2及び3に示すとおり、アラビアガム及び大豆多糖類を含有しない比較例1-1では、焼成後のホワイトソースの上部に厚く、硬い膜が生成し、シワが多く見られた。
大豆多糖類を含有する比較例1-2及び1-3では、焼成後のホワイトソースの膜生成を抑制することができた。具体的には、大豆多糖類を2%含有する比較例1-2では、わずかに膜が生成したものの、シワは見られず、加熱調理による膜生成が抑制された。また、大豆多糖類を5%含有する比較例1-3では、膜が生成せず、加熱調理による膜生成が顕著に抑制された。しかしながら、比較例1-2及び1-3では、大豆多糖類に由来する大豆臭により、ホワイトソース本来の風味が損なわれていた。また、比較例1-2及び1-3では、ホワイトソースが黄色味の強い色調となり、ホワイトソース本来の色調が損なわれていた。
アラビアガムを含有する実施例1-1~1-4では、大豆多糖類を含有する比較例1-2及び1-3と同等に、焼成後のホワイトソースの膜生成を抑制することができた。具体的には、アラビアガム製剤又はアラビアガムを2%含有する実施例1-1及び1-3では、わずかに膜が生成したものの、シワは見られず、加熱調理による膜生成が抑制された。
また、アラビアガム製剤又はアラビアガムを5%含有する実施例1-2及び1-4では、膜が生成せず、加熱調理による膜生成が顕著に抑制された。更に、実施例1-1~1-4では、比較例1-1と変わらぬホワイトソース本来の風味を有するか、わずかに香ばしさがあるもののホワイトソース本来の風味を損ねないものであった。また、実施例1-1~1-4では、比較例1-1と変わらぬホワイトソース本来の色調を有するか、わずかに黄色味があるもののホワイトソース本来の色調を損ねないものであった。なお、実施例1-1~1-4では、比較例1-1に比べて滑らかな食感を有していた。
【0044】
実験例2:ホワイトソース(澱粉、脂質及び乳成分含有)への添加試験2
以下の実施例2-1~2-9では、表4に示す処方に従い、以下の手順でホワイトソース(澱粉の含有量5.75%、油脂の含有量5.89%、乳成分の含有量(無脂乳固形分換算)1.37%)を調製した。
(1)牛乳(油脂の含有量3.8%、無脂乳固形分の含有量8.8%)、無塩バター(油脂の含有量83.0%、無脂乳固形分の含有量1.2%)、サラダ油及び水を混合し、小麦粉(澱粉の含有量75%)、砂糖、加工澱粉及びアラビアガム製剤を添加して、85℃で10分間撹拌した。
(2)食塩を添加し、更に5分間撹拌した後、室温(20℃)まで冷却した。
【0045】
次に、上記で調製したホワイトソース60gをココット皿に入れ、コンベクションオーブンにて230℃10分間の焼成を行なった。焼成後のホワイトソースの表面を目視にて確認し、実験例1と同様の基準で膜の生成状態を観察した。
結果を表5に示す。
【0046】
【表4】
【0047】
【表5】
【0048】
表5に示すとおり、アラビアガム製剤を含有する実施例2-1~2-9では、焼成後のホワイトソースの膜生成を抑制することができた。具体的には、アラビアガム製剤を0.05%、0.1%、0.5%、1%及び2%含有する実施例2-1~2-5では、わずかに膜が生成したものの、シワは見られず、加熱調理による膜生成が抑制された。なお、アラビアガム製剤を0.5%、1%及び2%含有する実施例2-3~2-5では、0.05%及び0.1%含有する実施例2-1及び2-2より、膜生成の抑制効果がわずかに優れていた。アラビアガム製剤を5%、10%、15%及び20%含有する実施例2-6~2-9では、膜が生成せず、加熱料理による膜生成が顕著に抑制された。なお、風味と食感の観点からは、実施例2-3~2-6の範囲、即ちアラビアガム製剤の含有量が0.5%~5%の間がより好ましいものであった。
【0049】
実験例3:ホワイトソース(澱粉、脂質及び乳成分含有)への添加試験3
表6の処方にて、実験例2と同様の手順でホワイトソース(澱粉含有量は表6参照、油脂の含有量5.89%、乳成分の含有量(無脂乳固形分換算)1.37%)を調製した。また、材料は実験例2と同様のものを使用した。実験例1と同様の基準で膜の生成状態を観察した。
結果を表6に示す。
【0050】
【表6】
【0051】
表6に示すとおり、実施例3-1及び3-2では、わずかに膜が生成したものの、シワは見られず、加熱調理による膜生成が抑制された。また、実施例3-3~3-6では、膜が生成せず、加熱料理による膜生成が顕著に抑制された。これらより、アラビアガム製剤を添加することで、澱粉の含有量に関わらず焼成後のホワイトソースの膜生成を抑制することが明らかとなった。なお、風味と食感の観点からは、アラビアガム製剤の含有量が5%以下のものがより好ましかった。
【0052】
実験例4:ホワイトソース(澱粉、脂質及び乳成分含有)への添加試験4
表7の処方にて、実験例2と同様の手順でホワイトソース(澱粉含有量5.75%、油脂の含有量表7参照、乳成分の含有量(無脂乳固形分換算)表7参照)を調製した。また、材料は実験例2と同様のものを使用した。なお、実施例4-6に関しては、牛乳を乳化油脂(油脂の含有量4.9%)に置き換えて使用した。実験例1と同様の基準で膜の生成状態を観察した。
結果を表7に示す。
【0053】
【表7】

乳化油脂:ホワイトソースベース(日油株式会社製)
【0054】
表7に示すとおり、実施例4-1~4-8では、わずかに膜が生成したものの、シワは見られず、加熱調理による膜生成が抑制された。これらより、油脂及び無脂乳固形分含有量が異なるホワイトソースにおいても、アラビアガム製剤を添加することで、澱粉の含有量に関わらず焼成後のホワイトソースの膜生成を抑制することが明らかとなった。
【0055】
実験例5:カレーソース(澱粉、脂質及び乳成分含有)への添加試験
表8の処方に従い、以下の手順でカレーソース(澱粉の含有量6.05%、油脂の含有量7.38%、乳成分の含有量(無脂乳固形分換算)0.88%)を調製した。
(1)水、牛乳(油脂の含有量3.8%、無脂乳固形分の含有量8.8%)、ラード、小麦粉(澱粉の含有量75%)、砂糖、加工澱粉及びアラビアガム製剤を添加して、85℃で10分攪拌した。
(2)残りの原料を添加し、更に5分間攪拌した後、耐熱性容器に移し、室温(20℃)まで冷却した。
【0056】
室温にて冷却後のカレーの表面を目視にて確認し、実験例1と同様の基準で膜の生成状態を観察した。
結果を表9に示す。
【0057】
【表8】
【0058】
【表9】
【0059】
表9に示すとおり、アラビアガム製剤を含有しない比較例5-1では、室温にて冷却後のカレーの上部には厚く、硬い膜が生成し、シワが多く見られた。一方、アラビアガム製剤を含有する実施例5-1~5-6では、室温にて冷却後のカレーの膜生成を抑制することができた。具体的には、アラビアガム製剤を1%及び2%含有する実施例5-1及び5-2ではわずかに膜が生成したものの、シワは見られず、膜生成が抑制された。なお、実施例5-2では実施例5-1より膜生成の抑制効果が優れていた。アラビアガム製剤を5%、10%、15%、及び20%含有する実施例5-3~5-6では、膜が生成せず、膜生成が顕著に抑制された。なお、風味と食感の観点からは、実施例5-1~5-3、即ちアラビアガム製剤の含有量が1~5%のものがより好ましかった。