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特開2024-156971接着剤組成物および発泡性接着シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024156971
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】接着剤組成物および発泡性接着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/30 20180101AFI20241029BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20241029BHJP
   C09J 11/00 20060101ALI20241029BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
C09J7/30
C09J163/00
C09J11/00
H05K1/03 610L
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024134135
(22)【出願日】2024-08-09
(62)【分割の表示】P 2023094544の分割
【原出願日】2019-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2018180197
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】星 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】島田 信哉
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐ブロッキング性、接着性および耐割れ性が良好な発泡性接着シート、ならびに前記発泡性接着シートを用いた物品の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも接着層を有する発泡性接着シートであって、接着層は、エポキシ樹脂と、エポキシ樹脂と相溶した樹脂Xと、硬化剤と、発泡剤とを含有し、接着層は、エポキシ樹脂として、第一エポキシ樹脂および第二エポキシ樹脂を含有し、第二エポキシ樹脂の軟化温度は、第一エポキシ樹脂の軟化温度より高く、第二エポキシ樹脂のエポキシ当量は、第一エポキシ樹脂のエポキシ当量より大きく、前脂Xは、単量体成分または重合体成分として、アクリル酸エステル、酢酸ビニル、アセタール、ウレタン、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリルアミド、スチレン、塩化ビニル、アミド、アクリロニトリル、酢酸セルロース、フェノール、塩化ビニリデン等の少なくとも一種を含有する、発泡性接着シートである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも接着層を有する発泡性接着シートであって、
前記接着層は、エポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂と相溶した樹脂Xと、硬化剤と、発泡剤とを含有し、
前記接着層は、前記エポキシ樹脂として、第一エポキシ樹脂および第二エポキシ樹脂を含有し、
前記第二エポキシ樹脂の軟化温度は、前記第一エポキシ樹脂の軟化温度より高く、
前記第二エポキシ樹脂のエポキシ当量は、前記第一エポキシ樹脂のエポキシ当量より大きく、
前記樹脂Xは、単量体成分または重合体成分として、アクリル酸エステル、酢酸ビニル、アセタール、ウレタン、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリルアミド、スチレン、塩化ビニル、アミド、アクリロニトリル、酢酸セルロース、フェノール、塩化ビニリデン、塩化メチレン、メタクリロニトリルの少なくとも一種を含有し、
前記発泡性接着シートにおける、JIS P 8125に基づく曲げモーメントは、40gf・cm以上、600gf・cm以下であり、
前記発泡性接着シートを10cm×10cmに切り出し、切り出した2枚を重ね合わせ、ブロッキングテスターにて、3kg/cm、40℃、dryの条件にて3日間保管し、剥離する耐ブロッキング性試験を行った場合に、前記接着層の転移および剥離がなく、
前記発泡性接着シートを、20mm/s以上100mm/s以下の速度で、長さ100mmを、カッターで切断して得られる切断面を観察する耐割れ性試験を行った場合に、前記切断面に欠けおよび割れが生じない、発泡性接着シート。
【請求項2】
少なくとも接着層を有する発泡性接着シートであって、
前記接着層は、エポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂と相溶した樹脂Xと、硬化剤と、発泡剤とを含有し、
前記接着層は、前記エポキシ樹脂として、第一エポキシ樹脂および第二エポキシ樹脂を含有し、
前記第二エポキシ樹脂の軟化温度は、前記第一エポキシ樹脂の軟化温度より高く、
前記第二エポキシ樹脂の重合平均分子量は、前記第一エポキシ樹脂の重合平均分子量より大きく、
前記樹脂Xは、単量体成分または重合体成分として、アクリル酸エステル、酢酸ビニル、アセタール、ウレタン、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリルアミド、スチレン、塩化ビニル、アミド、アクリロニトリル、酢酸セルロース、フェノール、塩化ビニリデン、塩化メチレン、メタクリロニトリルの少なくとも一種を含有し、
前記発泡性接着シートにおける、JIS P 8125に基づく曲げモーメントは、40gf・cm以上、600gf・cm以下であり、
前記発泡性接着シートを10cm×10cmに切り出し、切り出した2枚を重ね合わせ、ブロッキングテスターにて、3kg/cm、40℃、dryの条件にて3日間保管し、剥離する耐ブロッキング性試験を行った場合に、前記接着層の転移および剥離がなく、
前記発泡性接着シートを、20mm/s以上100mm/s以下の速度で、長さ100mmを、カッターで切断して得られる切断面を観察する耐割れ性試験を行った場合に、前記切断面に欠けおよび割れが生じない、発泡性接着シート。
【請求項3】
第一部材および第二部材の間に、請求項1または請求項2に記載した発泡性接着シートを配置する配置工程と、
前記発泡性接着シートを発泡硬化させ、前記第一部材および前記第二部材を接着する接着工程と、
を有する物品の製造方法。
【請求項4】
第一部材および第二部材の間に、発泡性接着シートを配置する配置工程と、
前記発泡性接着シートを発泡硬化させ、前記第一部材および前記第二部材を接着する接着工程と、を有する物品の製造方法であって、
前記発泡性接着シートは、厚さ方向において、前記第一部材側から順に、第一接着層、基材および第二接着層を有し、
前記第一接着層および前記第二接着層の少なくとも一方は、発泡性を有する層であり、
前記発泡性を有する層は、非粘着性であり、
前記発泡性を有する層は、エポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂と相溶した樹脂Xと、硬化剤と、発泡剤とを含有し、
前記発泡性を有する層は、前記エポキシ樹脂として、第一エポキシ樹脂および第二エポキシ樹脂を含有し、
前記第二エポキシ樹脂の軟化温度は、前記第一エポキシ樹脂の軟化温度より高く、
前記第二エポキシ樹脂のエポキシ当量は、前記第一エポキシ樹脂のエポキシ当量より大きく、
前記樹脂Xは、単量体成分または重合体成分として、アクリル酸エステル、酢酸ビニル、アセタール、ウレタン、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリルアミド、スチレン、塩化ビニル、アミド、アクリロニトリル、酢酸セルロース、フェノール、塩化ビニリデン、塩化メチレン、メタクリロニトリルの少なくとも一種を含有し、
前記第一接着層および前記基材の間、ならびに、前記基材および前記第二接着層の間の少なくとも一方に、応力緩和層が配置され、
前記応力緩和層の厚さは、0.1μm以上10μm以下であり、
前記発泡性接着シートにおける、JIS P 8125に基づく曲げモーメントは、40gf・cm以上、600gf・cm以下であり、
前記発泡性接着シートを10cm×10cmに切り出し、切り出した2枚を重ね合わせ、ブロッキングテスターにて、3kg/cm、40℃、dryの条件にて3日間保管し、剥離する耐ブロッキング性試験を行った場合に、前記発泡性を有する層の転移および剥離がなく、
前記発泡性接着シートを、20mm/s以上100mm/s以下の速度で、長さ100mmを、カッターで切断して得られる切断面を観察する耐割れ性試験を行った場合に、前記切断面に欠けおよび割れが生じず、
前記第一部材および前記第二部材は、それぞれ、モーターに用いられるコイルおよびステーターである、物品の製造方法。
【請求項5】
第一部材および第二部材の間に、発泡性接着シートを配置する配置工程と、
前記発泡性接着シートを発泡硬化させ、前記第一部材および前記第二部材を接着する接着工程と、を有する物品の製造方法であって、
前記発泡性接着シートは、厚さ方向において、前記第一部材側から順に、第一接着層、基材および第二接着層を有し、
前記第一接着層および前記第二接着層の少なくとも一方は、発泡性を有する層であり、
前記発泡性を有する層は、非粘着性であり、
前記発泡性を有する層は、エポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂と相溶した樹脂Xと、硬化剤と、発泡剤とを含有し、
前記発泡性を有する層は、前記エポキシ樹脂として、第一エポキシ樹脂および第二エポキシ樹脂を含有し、
前記第二エポキシ樹脂の軟化温度は、前記第一エポキシ樹脂の軟化温度より高く、
前記第二エポキシ樹脂の重合平均分子量は、前記第一エポキシ樹脂の重合平均分子量より大きく、
前記樹脂Xは、単量体成分または重合体成分として、アクリル酸エステル、酢酸ビニル、アセタール、ウレタン、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリルアミド、スチレン、塩化ビニル、アミド、アクリロニトリル、酢酸セルロース、フェノール、塩化ビニリデン、塩化メチレン、メタクリロニトリルの少なくとも一種を含有し、
前記第一接着層および前記基材の間、ならびに、前記基材および前記第二接着層の間の少なくとも一方に、応力緩和層が配置され、
前記応力緩和層の厚さは、0.1μm以上10μm以下であり、
前記発泡性接着シートにおける、JIS P 8125に基づく曲げモーメントは、40gf・cm以上、600gf・cm以下であり、
前記発泡性接着シートを10cm×10cmに切り出し、切り出した2枚を重ね合わせ、ブロッキングテスターにて、3kg/cm、40℃、dryの条件にて3日間保管し、剥離する耐ブロッキング性試験を行った場合に、前記発泡性を有する層の転移および剥離がなく、
前記発泡性接着シートを、20mm/s以上100mm/s以下の速度で、長さ100mmを、カッターで切断して得られる切断面を観察する耐割れ性試験を行った場合に、前記切断面に欠けおよび割れが生じず、
前記第一部材および前記第二部材は、それぞれ、モーターに用いられるコイルおよびステーターである、物品の製造方法。
【請求項6】
第一部材と、第二部材と、前記第一部材および前記第二部材の間に配置された発泡性接着シートと、を有する、発泡前の物品であって、
前記発泡性接着シートは、厚さ方向において、前記第一部材側から順に、第一接着層、基材および第二接着層を有し、
前記第一接着層および前記第二接着層の少なくとも一方は、発泡性を有する層であり、 前記発泡性を有する層は、非粘着性であり、
前記発泡性を有する層は、エポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂と相溶した樹脂Xと、硬化剤と、発泡剤とを含有し、
前記発泡性を有する層は、前記エポキシ樹脂として、第一エポキシ樹脂および第二エポキシ樹脂を含有し、
前記第二エポキシ樹脂の軟化温度は、前記第一エポキシ樹脂の軟化温度より高く、
前記第二エポキシ樹脂のエポキシ当量は、前記第一エポキシ樹脂のエポキシ当量より大きく、
前記樹脂Xは、単量体成分または重合体成分として、アクリル酸エステル、酢酸ビニル、アセタール、ウレタン、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリルアミド、スチレン、塩化ビニル、アミド、アクリロニトリル、酢酸セルロース、フェノール、塩化ビニリデン、塩化メチレン、メタクリロニトリルの少なくとも一種を含有し、
前記第一接着層および前記基材の間、ならびに、前記基材および前記第二接着層の間の少なくとも一方に、応力緩和層が配置され、
前記応力緩和層の厚さは、0.1μm以上10μm以下であり、
前記発泡性接着シートにおける、JIS P 8125に基づく曲げモーメントは、40gf・cm以上、600gf・cm以下であり、
前記発泡性接着シートを10cm×10cmに切り出し、切り出した2枚を重ね合わせ、ブロッキングテスターにて、3kg/cm、40℃、dryの条件にて3日間保管し、剥離する耐ブロッキング性試験を行った場合に、前記発泡性を有する層の転移および剥離がなく、
前記発泡性接着シートを、20mm/s以上100mm/s以下の速度で、長さ100mmを、カッターで切断して得られる切断面を観察する耐割れ性試験を行った場合に、前記切断面に欠けおよび割れが生じず、
前記第一部材および前記第二部材は、それぞれ、モーターに用いられるコイルおよびステーターである、発泡前の物品。
【請求項7】
第一部材と、第二部材と、前記第一部材および前記第二部材の間に配置された発泡性接着シートと、を有する、発泡前の物品であって、
前記発泡性接着シートは、厚さ方向において、前記第一部材側から順に、第一接着層、基材および第二接着層を有し、
前記第一接着層および前記第二接着層の少なくとも一方は、発泡性を有する層であり、 前記発泡性を有する層は、非粘着性であり、
前記発泡性を有する層は、エポキシ樹脂と、前記エポキシ樹脂と相溶した樹脂Xと、硬化剤と、発泡剤とを含有し、
前記発泡性を有する層は、前記エポキシ樹脂として、第一エポキシ樹脂および第二エポキシ樹脂を含有し、
前記第二エポキシ樹脂の軟化温度は、前記第一エポキシ樹脂の軟化温度より高く、
前記第二エポキシ樹脂の重合平均分子量は、前記第一エポキシ樹脂の重合平均分子量より大きく、
前記樹脂Xは、単量体成分または重合体成分として、アクリル酸エステル、酢酸ビニル、アセタール、ウレタン、エチレン酢酸ビニル共重合体、アクリルアミド、スチレン、塩化ビニル、アミド、アクリロニトリル、酢酸セルロース、フェノール、塩化ビニリデン、塩化メチレン、メタクリロニトリルの少なくとも一種を含有し、
前記第一接着層および前記基材の間、ならびに、前記基材および前記第二接着層の間の少なくとも一方に、応力緩和層が配置され、
前記応力緩和層の厚さは、0.1μm以上10μm以下であり、
前記発泡性接着シートにおける、JIS P 8125に基づく曲げモーメントは、40gf・cm以上、600gf・cm以下であり、
前記発泡性接着シートを10cm×10cmに切り出し、切り出した2枚を重ね合わせ、ブロッキングテスターにて、3kg/cm、40℃、dryの条件にて3日間保管し、剥離する耐ブロッキング性試験を行った場合に、前記発泡性を有する層の転移および剥離がなく、
前記発泡性接着シートを、20mm/s以上100mm/s以下の速度で、長さ100mmを、カッターで切断して得られる切断面を観察する耐割れ性試験を行った場合に、前記切断面に欠けおよび割れが生じず、
前記第一部材および前記第二部材は、それぞれ、モーターに用いられるコイルおよびステーターである、発泡前の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、接着剤組成物および発泡性接着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
部材同士を接着する接着剤は、様々な分野で用いられており、その接着方法も、多くの方法が知られている。例えば特許文献1には、ゴルフクラブシャフトにラバーグリップを取り付る方法として、シャフトのグリップ部に両面接着テープや粘着テープ等を巻き付けた後、テープ表面とラバーグリップに設けたシャフト挿入孔の内部にシンナー等の揮発性の高い溶剤を塗布して、グリップ部をシャフト挿入孔内に挿入し、溶剤が揮発するまでしばらく放置する方法が開示されている。また、特許文献2には、1液性エポキシ接着剤により、CFRPパイプおよび金属部品を接着する方法が開示されている。
【0003】
特許文献3には、多官能エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂と、硬化剤としてのフェノール樹脂と、硬化触媒としてのイミダゾール系化合物と、感温性発泡剤とを含有してなる膨張性接着剤層を有し、少なくとも一つの該膨張性接着剤層の表面に離型剤が塗布された接着シートが開示されている。また、特許文献4には、アクリル系ポリマーと、エポキシ樹脂と、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等の熱可塑性樹脂と、エポキシ樹脂硬化剤とを含む接着剤が開示されている。なお、特許文献4には、接着剤がシート状であること(接着シート)、および、接着剤が発泡剤を含有することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-222445号公報
【特許文献2】特開2016-221784号公報
【特許文献3】特許6220100号明細書
【特許文献4】特開2017-203114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3、4には、発泡剤を含有する接着シート(発泡性接着シート)が開示されている。発泡性接着シートの使用方法として、例えば、部材間の隙間に発泡性接着シートを挿入し、その後、発泡性接着シートを発泡硬化させることで、部材同士を接着する方法が知られている。このような発泡性接着シートにおいては、発泡前における耐ブロッキング性、ならびに、発泡硬化後における接着性および耐割れ性が良好であることが望まれている。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、耐ブロッキング性、接着性および耐割れ性が良好な発泡性接着シートを得ることができる接着剤組成物を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示においては、エポキシ樹脂と、上記エポキシ樹脂と相溶したアクリル樹脂と、硬化剤と、発泡剤とを含有し、上記エポキシ樹脂として、軟化温度が50℃以上であり、かつ、エポキシ当量が5000g/eq以下である第一エポキシ樹脂と、軟化温度が上記第一エポキシ樹脂より高く、かつ、重量平均分子量が20,000以上である第二エポキシ樹脂と、を含有し、上記アクリル樹脂は、重量平均分子量が50,000以上である、接着剤組成物を提供する。
【0008】
また、本開示においては、少なくとも接着層を有する発泡性接着シートであって、上記接着層は、エポキシ樹脂と、上記エポキシ樹脂と相溶したアクリル樹脂と、硬化剤と、発泡剤とを含有し、上記接着層は、上記エポキシ樹脂として、軟化温度が50℃以上であり、かつ、エポキシ当量が5000g/eq以下である第一エポキシ樹脂と、軟化温度が上記第一エポキシ樹脂より高く、かつ、重量平均分子量が20,000以上である第二エポキシ樹脂と、を含有し、上記アクリル樹脂は、重量平均分子量が50,000以上である、発泡性接着シートを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本開示における接着剤組成物は、耐ブロッキング性、接着性および耐割れ性が良好な発泡性接着シートを得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示における発泡性接着シートの一例を示す概略断面図である。
図2】本開示における発泡性接着シートの他の例を示す概略断面図である。
図3】本開示における発泡性接着シートの他の例を示す概略斜視図である。
図4】本開示における発泡性接着シートの他の例を示す概略斜視図である。
図5】本開示における物品の製造方法の一例を示す概略断面図である。
図6】接着性の試験方法を説明する概略断面図である。
図7】実施例1におけるアクリル樹脂に対する動的粘弾性測定の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示における接着剤組成物および発泡性接着シートについて、詳細に説明する。
【0012】
A.接着剤組成物
本開示における接着剤組成物は、エポキシ樹脂と、上記エポキシ樹脂と相溶したアクリル樹脂と、硬化剤と、発泡剤とを含有し、上記エポキシ樹脂として、軟化温度が50℃以上であり、かつ、エポキシ当量が5000g/eq以下である第一エポキシ樹脂と、軟化温度が上記第一エポキシ樹脂より高く、かつ、重量平均分子量が20,000以上である第二エポキシ樹脂と、を含有し、上記アクリル樹脂は、重量平均分子量が50,000以上である。
【0013】
本開示によれば、第一エポキシ樹脂、第二エポキシ樹脂およびアクリル樹脂を組み合せて用いることで、耐ブロッキング性、接着性および耐割れ性が良好な発泡性接着シートを得ることが可能な接着剤組成物とすることができる。
【0014】
例えば、接着性の向上のみを図る場合、高分子量(高エポキシ当量)のエポキシ樹脂よりも低分子量(低エポキシ当量)のエポキシ樹脂を用いることが有効である。しかしながら、低分子量(低エポキシ当量)のエポキシ樹脂を用いた場合、例えば発泡性接着シートをロール状に巻き取った際に、低分子量(低エポキシ当量)のエポキシ樹脂同士が同化し、ブロッキングが生じやすくなる。
【0015】
これに対して、本開示においては、軟化温度が相対的に低く(結晶性が相対的に高く)、かつ、低分子量(低エポキシ当量)な第一エポキシ樹脂を用いる。第一エポキシ樹脂は、軟化温度以上の温度になると、急速に融解して低粘度の液状に変化する。そのため、接着性を向上させやすい。一方、第一エポキシ樹脂は、結晶性が相対的に高いため、結晶性が相対的に低いエポキシ樹脂または結晶性を有しないエポキシ樹脂と比較すると、ブロッキングの発生を抑制できる。しかしながら、第一エポキシ樹脂のみを用いた場合、ブロッキングの発生抑制効果が不十分である可能性や、接着層の粘着性(タック性)が高くなりすぎる可能性がある。そのため、本開示においては、軟化温度が相対的に高く(結晶性が相対的に低く)、かつ、高分子量な第二エポキシ樹脂をさらに用いる。これにより、ブロッキングの発生抑制効果を向上させることや、接着層の粘着性(タック性)を低く抑えることができる。一方、エポキシ樹脂として、上述した第一エポキシ樹脂および第二エポキシ樹脂を用いた場合、接着層の靭性が低くなり、耐割れ性が低下するという新たな課題が生じる。このような新たな課題に対して、本開示においては、エポキシ樹脂と相溶するアクリル樹脂をさらに用いることにより、耐ブロッキング性および接着性の向上を図りつつ、耐割れ性も向上させることができる。また、例えば、アクリル樹脂および第一エポキシ樹脂を用い、第二エポキシ樹脂を用いない場合、接着性は良好であるものの、硬く脆さがある上、第一エポキシ樹脂の拡散が大きい。そのため、耐割れ性が低下するだけではなく、ブロッキングの発生も生じやすい。また、例えば、アクリル樹脂および第二エポキシ樹脂を用い、第一エポキシ樹脂を用いない場合、良好な接着性が得られにくい。
【0016】
また、本開示における接着剤組成物は、発泡性接着シートの接着層を作製するために用いられることが好ましい。この場合、発泡性接着シートは、以下のような利点を有する。例えば特許文献1には、ゴルフクラブシャフトにラバーグリップを取り付る方法として、シャフトのグリップ部に両面接着テープや粘着テープ等を巻き付けた後、テープ表面とラバーグリップに設けたシャフト挿入孔の内部にシンナー等の揮発性の高い溶剤を塗布して、グリップ部をシャフト挿入孔内に挿入し、溶剤が揮発するまでしばらく放置する方法が開示されている。しかしながら、溶剤が揮発するまで待たねばならなかった。これに対して、発泡性接着シートの接着シートは、基本的に溶剤を含有していないため、作業効率を向上できるという利点を有する。
【0017】
また、例えば特許文献2には、1液性エポキシ接着剤により、CFRPパイプおよび金属部品を接着する方法が開示されている。しかしながら、1液性エポキシ接着剤を用いた場合、継ぎ目からはみ出した接着剤を拭き取る作業、接着剤が接触してはならない部分を養生テープで保護する作業が生じる場合がある。これに対して、発泡性接着シートの接着シートは、発泡硬化時に多少膨張するものの、液系接着剤に比べて、ハンドリング性が高いという利点を有する。
【0018】
1.エポキシ樹脂
本開示における接着剤組成物は、エポキシ樹脂として、第一エポキシ樹脂および第二エポキシ樹脂を含有する。なお、本開示におけるエポキシ樹脂は、少なくとも1つ以上のエポキシ基またはグリシジル基を有し、硬化剤との併用により架橋重合反応を起こして硬化する化合物である。エポキシ樹脂には、少なくとも1つ以上のエポキシ基またはグリシジル基を有する単量体も含まれる。
【0019】
(1)第一エポキシ樹脂
第一エポキシ樹脂は、軟化温度が50℃以上であり、かつ、エポキシ当量が5000g/eq以下である。第一エポキシ樹脂は、後述する第二エポキシ樹脂と比較して、軟化温度が相対的に低い(結晶性が相対的に高い)。第一エポキシ樹脂は、結晶性が相対的に高く、分子量が低いことから、接着性および耐ブロッキング性を向上させやすい。また、第一エポキシ樹脂は、分子量が低いため、架橋密度を高くでき、機械的強度、耐薬品性、硬化性が良好な接着層が得られる。また、第一エポキシ樹脂は、常温(23℃)で固体のエポキシ樹脂であることが好ましい。
【0020】
第一エポキシ樹脂の軟化温度は、通常、50℃以上であり、55℃以上であってもよく、60℃以上であってもよい。一方、第一エポキシ樹脂の軟化温度は、例えば150℃以下である。軟化温度は、JISK 7234に準拠し、環球法により測定できる。
【0021】
第一エポキシ樹脂のエポキシ当量は、例えば5000g/eq以下であり、3000g/eq以下であってもよく、1000g/eq以下であってもよく、600g/eq以下であってもよい。一方、第一エポキシ樹脂のエポキシ当量は、例えば90g/eq以上であり、100g/eq以上であってもよく、110g/eq以上であってもよい。エポキシ当量は、JIS K7236に準拠した方法により測定することができ、1グラム当量のエポキシ基を含む樹脂のグラム数である。
【0022】
第一エポキシ樹脂は、1官能のエポキシ樹脂であってもよく、2官能のエポキシ樹脂であってもよく、3官能のエポキシ樹脂であってもよく、4官能以上のエポキシ樹脂であってもよい。
【0023】
また、第一エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、通常、後述する第二エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)よりも小さい。第一エポキシ樹脂のMwは、例えば6,000以下であり、4,000以下であってもよく、3,000以下であってもよい。一方、第一エポキシ樹脂のMwは、例えば400以上である。Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した際のポリスチレン換算の値である。
【0024】
第一エポキシ樹脂は、150℃における溶融粘度が、例えば0.005Pa・s以上であり、0.015Pa・s以上であってもよく、0.03Pa・s以上であってもよく、0.05Pa・s以上であってもよく、0.1Pa・s以上であってもよい。溶融粘度が低すぎると、良好な発泡性が得られない可能性がある。また、第一エポキシ樹脂の溶融粘度が低すぎると(第一エポキシ樹脂の結晶性が高すぎると)、得られる接着層の接着層の粘着性(タック性)が高くなる可能性がある。その理由は、第一エポキシ樹脂の溶融粘度が低すぎると(第一エポキシ樹脂の結晶性が高すぎると)、第二エポキシ樹脂またはアクリル樹脂と相溶した際に、その結晶性が大きく低下し、接着剤組成物全体のTgが低下するためであると推測される。一方、第一エポキシ樹脂は、150℃における溶融粘度が、例えば10Pa・s以下であり、5Pa・s以下であってもよく、2Pa・s以下であってもよい。溶融粘度が高すぎると、得られる接着層の均一性が低下する可能性がある。溶融粘度は、JIS K6862に準拠し、ブルックフィールド形単一円筒回転粘度計、および、溶液を加温するためのサーモセルを用いて測定することにより求めることができる。
【0025】
次に、第一エポキシ樹脂の構成について説明する。第一エポキシ樹脂としては、例えば、芳香族系エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環系エポキシ樹脂が挙げられる。第一エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂やゴム変性エポキシ樹脂等の変性エポキシ樹脂が挙げられる。また、他の具体例としては、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、グリコール型エポキシ樹脂、ペンタエリスリトール型エポキシ樹脂が挙げられる。第一エポキシ樹脂は、一種であってもよく、二種以上であってもよい。
【0026】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、ビスフェノール骨格の繰り返し単位の数によって、常温で液体の状態、または常温で固体の状態で存在することができる。主鎖のビスフェノール骨格が、例えば2以上10以下であるビスフェノールA型エポキシ樹脂は、常温で固体である。特に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、耐熱性向上を図ることができる点で好ましい。
【0027】
特に、第一エポキシ樹脂は、下記一般式(1)で表されるビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0028】
【化1】
【0029】
一般式(1)において、Rは、C2m(mは1以上3以下である)で表される基であり、RおよびRは、それぞれ独立に、C2p+1(pは1以上3以下である)で表される基であり、nは、0以上10以下である。
【0030】
一般式(1)において、Rにおけるmは1であること、すなわち、Rは-CH-であることが好ましい。同様に、RおよびRにおけるpは1であること、すなわち、RおよびRは-CHであることが好ましい。また、一般式(1)のベンゼン環に結合する水素は、他の元素または他の基で置換されていてもよい。
【0031】
第一エポキシ樹脂の含有量は、接着剤組成物に含まれる樹脂成分を100質量部とした場合に、例えば、1質量部以上であり、3質量部以上であってもよく、5質量部以上であってもよく、10質量部以上であってもよく、15質量部以上であってもよく、25質量部以上であってもよい。第一エポキシ樹脂の含有量が少なすぎると接着性および耐ブロッキング性が低下する可能性がある。一方、第一エポキシ樹脂の含有量は、接着剤組成物に含まれる樹脂成分を100質量部とした場合に、例えば、90質量部以下であり、80質量部以下であってもよく、70質量部以下であってもよく、60質量部以下であってもよく、50質量部以下であってもよく、40質量部以下であってもよい。第一エポキシ樹脂の含有量が多すぎると、第二エポキシ樹脂およびアクリル樹脂の含有量が相対的に少なくなり、耐ブロッキング性、接着性および耐割れ性が両立できない可能性がある。
【0032】
(2)第二エポキシ樹脂
第二エポキシ樹脂は、軟化温度が第一エポキシ樹脂より高く、かつ、重量平均分子量が20,000以上である。第二エポキシ樹脂は、上述した第一エポキシ樹脂と比較して、軟化温度が相対的に高い(結晶性が相対的に低い)。第二エポキシ樹脂は、結晶性が相対的に低く、分子量が高いことから、耐ブロッキング性を向上させやすい。さらに、第二エポキシ樹脂は、結晶性が相対的に低く、分子量が高いことから、第一エポキシ樹脂による粘着性(タック性)の増加を抑制できる。また、第二エポキシ樹脂は、常温(23℃)で固体のエポキシ樹脂であることが好ましい。
【0033】
第二エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)は、通常、第一エポキシ樹脂の重量平均分子量(Mw)よりも大きい。第二エポキシ樹脂のMwは、通常、20,000以上であり、30,000以上であってもよく、35,000以上であってもよい。一方、第二エポキシ樹脂のMwは、例えば100,000以下である。
【0034】
第二エポキシ樹脂のエポキシ当量は、第一エポキシ樹脂のエポキシ当量に比べて、大きくてもよく、小さくてもよく、同じであってもよい。第二エポキシ樹脂のエポキシ当量は、例えば4000g/eq以上であり、5000g/eq以上であってもよく、6000g/eq以上であってもよい。一方、第二エポキシ樹脂のエポキシ当量は、例えば20000g/eq以下である。
【0035】
第二エポキシ樹脂は、1官能のエポキシ樹脂であってもよく、2官能のエポキシ樹脂であってもよく、3官能のエポキシ樹脂であってもよく、4官能以上のエポキシ樹脂であってもよい。
【0036】
第二エポキシ樹脂の軟化温度は、通常、第一エポキシ樹脂の軟化温度よりも高い。両者の差は、例えば10℃以上であり、20℃以上であってもよく、30℃以上であってもよい。第二エポキシ樹脂の軟化温度は、例えば80℃以上であり、90℃以上であってもよい。一方、第二エポキシ樹脂の軟化温度は、例えば180℃以下である。
【0037】
第二エポキシ樹脂の構成については、上述した第一エポキシ樹脂の構成と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0038】
第二エポキシ樹脂の含有量は、接着剤組成物に含まれる樹脂成分を100質量部とした場合に、例えば、10質量部以上であり、15質量部以上であってもよく、20質量部以上であってもよく、25質量部以上であってもよく、30質量部以上であってもよく、35質量部以上であってもよく、40質量部以上であってもよく、45質量部以上であってもよい。第二エポキシ樹脂の含有量が少なすぎると耐ブロッキング性が低下する可能性がある。一方、第二エポキシ樹脂の含有量は、接着剤組成物に含まれる樹脂成分を100質量部とした場合に、例えば、90質量部以下であり、85質量部以下であってもよく、80質量部以下であってもよく、75質量部以下であってもよい。第二エポキシ樹脂の含有量が多すぎると、第一エポキシ樹脂およびアクリル樹脂の含有量が相対的に少なくなり、耐ブロッキング性、接着性および耐割れ性が両立できない可能性がある。
【0039】
第一エポキシ樹脂および第二エポキシ樹脂の合計に対する、第一エポキシ樹脂の割合は、例えば5質量%以上であり、10質量%以上であってもよく、15質量%以上であってもよく、20質量%以上であってもよい。一方、第一エポキシ樹脂の上記割合は、例えば80質量%以下であり、75質量%以下であってもよく、60質量%以下であってもよい。
【0040】
また、接着剤組成物に含まれる全てのエポキシ樹脂に対する、第一エポキシ樹脂および第二エポキシ樹脂の合計の割合は、例えば50質量%以上であり、70質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0041】
2.アクリル樹脂
本開示におけるアクリル樹脂は、エポキシ樹脂と相溶した樹脂であって、さらに、その重量平均分子量が50,000以上の樹脂である。アクリル樹脂は、エポキシ樹脂と相溶することから、接着層の靭性を向上させやすい。その結果、耐割れ性を向上できる。また、接着層の靭性が向上することで、接着性の向上を図ることができる。さらに、アクリル樹脂が、発泡剤(例えば、シェル部がアクリロニトリルコポリマーの樹脂である発泡剤)の相溶化剤として働き、均一に分散、発泡することで接着性が向上すると考えられる。また、第一エポキシ樹脂は結晶性が相対的に高く、加熱時の溶融粘度(もしくは動的粘弾性)が低くなりすぎてしまい、発泡後の硬化時(発泡剤の発泡が終了してから接着剤組成物が硬化するまでの間)に収縮が起きてしまう可能性があるが、ある程度の分子量を有するアクリル樹脂を用いることで、溶融粘度を低くなりすぎることを抑制でき、発泡後の硬化時に収縮が起きにくくなる。また、アクリル樹脂がエポキシ樹脂と相溶することで、接着層表面の硬度を高く保つことができる。また、シート状にした際に、アクリル樹脂が非相溶であるとシート表面に柔軟な部位が形成されるため、被着体との界面が滑りにくくなり、作業性が低下することがある。
【0042】
本開示におけるアクリル樹脂は、エポキシ樹脂と相溶している。ここで、アクリル樹脂がエポキシ樹脂と相溶していることは、例えば、接着剤組成物を用いて接着層を作製し、その接着層の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したときに、ミクロンサイズの島が発生していないことから確認することができる。より具体的には、島の平均粒径が1μm以下であることが好ましい。中でも、島の平均粒径は、0.5μm以下であってもよく、0.3μm以下であってもよい。サンプル数は多いことが好ましく、例えば100以上である。観察するエリア面積は、100μm×100μmの範囲、もしくは、接着層の厚みが100μm以下の場合は、厚み×100μmの範囲で行う。
【0043】
アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、例えば50,000以上であり、70,000以上であってもよく、100,000以上であってもよい。一方、アクリル樹脂のMwは、例えば1,500,000以下である。アクリル樹脂の重量平均分子量は、GPC(溶離液:THF、標準物質:PS、試料:20μL、流量:1mL/min、カラム温度:40℃)により測定することができる。
【0044】
アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば90℃以上であり、100℃以上であってもよい。一方、アクリル樹脂のTgは、例えば180℃以下である。Tgは、JISK 7121に準拠し、示差走査熱量計(DSC)等の熱分析により測定できる。
【0045】
アクリル樹脂は、発泡開始温度で貯蔵弾性率(E’)が1×10Pa以下であってもよい。発泡開始時におけるE’が低いことで、流動性が向上し、良好な発泡性を得ることができる。一方、発泡開始温度におけるE’は、例えば1×10Pa以上である。なお、発泡開始温度は、発泡剤の種類に応じて異なる温度である。また、発泡剤として、二種以上の発泡剤を用いる場合は、主たる発泡反応の開始温度を発泡開始温度とする。
【0046】
アクリル樹脂は、硬化開始温度で貯蔵弾性率(E’)が1×10Pa以上であってもよい。上述したように、発泡後の硬化時(発泡剤の発泡が終了してから接着剤組成物が硬化するまでの間)に収縮が起きる場合があるが、硬化開始温度におけるE’が大きいことで、収縮を抑えることができ、良好な形状保持性を得ることができる。なお、硬化開始温度は、硬化剤の種類に応じて異なる温度である。また、硬化剤として、二種以上の硬化剤を用いる場合は、主たる硬化反応の開始温度を硬化開始温度とする。
【0047】
また、アクリル樹脂は、0℃以上100℃以下における貯蔵弾性率(E’)の平均値が、1×10Pa以上であってもよい。発泡前におけるE’の平均値が高いことで、良好な耐ブロッキング性を得ることができる。一方、0℃以上100℃以下の貯蔵弾性率(E’)の平均値は、例えば1×10Pa以下である。
【0048】
アクリル樹脂は、極性基を有していてもよい。極性基としては、例えば、エポキシ基、水酸基、カルボキシル基、ニトリル基、アミド基が挙げられる。
【0049】
アクリル樹脂は、アクリル酸エステル単量体の単独重合体であり、上記単独重合体を2種以上含む混合成分であってもよく、2種以上のアクリル酸エステル単量体の共重合体であり、共重合体を1以上含む成分であってもよい。また、アクリル樹脂は、上記単独重合体と上記共重合体との混合成分であってもよい。アクリル酸エステル単量体の「アクリル酸」には、メタクリル酸の概念も含まれる。具体的には、アクリル樹脂は、メタクリレートの重合体とアクリレートの重合体との混合物であってもよく、アクリレート-アクリレート、メタクリレート-メタクリレート、メタクリレート-アクリレート等のアクリル酸エステル重合体であってもよい。中でも、アクリル樹脂は、2種以上のアクリル酸エステル単量体の共重合体((メタ)アクリル酸エステル共重合体)を含むことが好ましい。
【0050】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成する単量体成分としては、例えば、特開2014-065889号公報に記載の単量体成分が挙げられる。上記単量体成分は、上述した極性基を有していてもよい。上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、例えば、エチルアクリレート-ブチルアクリレート-アクリロニトリル共重合体、エチルアクリレート-アクリロニトリル共重合体、ブチルアクリレート-アクリロニトリル共重合体が挙げられる。なお、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等の「アクリル酸」には、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等の「メタクリル酸」も含まれる。
【0051】
上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体としては、ブロック共重合体が好ましく、さらにメタクリレート-アクリレート共重合体等のアクリル系ブロック共重合体が好ましい。アクリル系ブロック共重合体を構成する(メタ)アクリレートとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジジルが挙げられる。これらの「アクリル酸」には、「メタクリル酸」も含まれる。
【0052】
メタクリレート-アクリレート共重合体の具体例としては、メチルメタクリレート-ブチルアクリレート-メチルメタクリレート(MMA-BA-MMA)共重合体等のアクリル系共重合体が挙げられる。MMA-BA-MMA共重合体には、ポリメチルメタクリレート-ポリブチルアクリレート-ポリメチルメタクリレート(PMMA-PBA-PMMA)のブロック共重合体も含まれる。
【0053】
アクリル系共重合体は、極性基を有していなくてもよく、また一部に上述した極性基を導入した変性物であってもよい。上記変性物は、エポキシ樹脂と相溶しやすいため、接着性がより向上する。
【0054】
中でも、アクリル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が10℃以下である第一重合体部分と、ガラス転移温度(Tg)が20℃以上である第二重合体部分とを有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体であることが好ましい。このような(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、柔らかいセグメントとなる第一重合体部分と、硬いセグメントとなる第二重合体部分とを有する。
【0055】
上記の効果の発現は、以下のように推定できる。上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体のような、柔らかいセグメントと、硬いセグメントとを併せ持つアクリル樹脂を用いることで、硬いセグメントが耐熱性に寄与し、柔らかいセグメントが靱性ないし柔軟性に寄与するため、耐熱性、靱性、柔軟性が良好な接着層が得られる。
【0056】
上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる第一重合体部分および第二重合体部分の少なくとも一方は、エポキシ樹脂に対して相溶性を有する。第一重合体部分がエポキシ樹脂に対して相溶性を有する場合には、柔軟性を高めることができる。また、第二重合体部分がエポキシ樹脂に対して相溶性を有する場合には、凝集性や靱性を高めることができる。
【0057】
第一重合体部分または第二重合体部分の一方がエポキシ樹脂に対して相溶性を有しない場合、(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、エポキシ樹脂に対して相溶性を有する重合体部分である相溶部位と、エポキシ樹脂に対して相溶性を有しない重合体部分である非相溶部位とを有することになる。この場合、接着剤組成物に上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体を添加すると、相溶部位がエポキシ樹脂と相溶し、非相溶部位がエポキシ樹脂と相溶しないため、微細な相分離が起こる。その結果、微細な海島構造が発現する。海島構造としては、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の種類、(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる第一重合体部分および第二重合体部分の相溶性、極性基導入による変性の有無によって異なり、例えば、エポキシ樹脂の硬化物および(メタ)アクリル酸エステル共重合体の相溶部位が海、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の非相溶部位が島であるような海島構造や、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の非相溶部位が海、エポキシ樹脂の硬化物および(メタ)アクリル酸エステル共重合体の相溶部位が島であるような海島構造、(メタ)アクリル酸エステル共重合体が海、エポキシ樹脂の硬化物が島であるような海島構造が挙げられる。このような海島構造を有することで、応力を分散させやすくすることができるので、界面破壊を避けることができ、発泡硬化後に優れた接着性が得られる。
【0058】
上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、中でもブロック共重合体であることが好ましく、特に、相溶部位を重合体ブロックA、非相溶部位を重合体ブロックBとするA-B-Aブロック共重合体であることが好ましい。さらには、第一重合体部分が非相溶部位、第二重合体部分が相溶部位であり、第一重合体部分を重合体ブロックB、第二重合体部分を重合体ブロックAとするA-B-Aブロック共重合体であることが好ましい。アクリル樹脂としてこのようなA-B-Aブロック共重合体を用いることにより、エポキシ樹脂の硬化物および(メタ)アクリル酸エステル共重合体の相溶部位が海、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の非相溶部位が島であるような海島構造の場合には、島部分を小さくすることができる。また、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の非相溶部位が海、エポキシ樹脂の硬化物および(メタ)アクリル酸エステル共重合体の相溶部位が島であるような海島構造の場合や、(メタ)アクリル酸エステル共重合体が海、エポキシ樹脂の硬化物が島であるような海島構造の場合には、海部分を小さくすることができる。
【0059】
また、上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、第一重合体部分または第二重合体部分の一部に上述の極性基を導入した変性物であってもよい。
【0060】
上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる第一重合体部分のTgは、10℃以下であり、-150℃以上、10℃以下の範囲内、中でも-130℃以上、0℃以下の範囲内、特に-110℃以上、-10℃以下の範囲内とすることができる。
【0061】
なお、第一重合体部分のTgは、「POLYMERHANDBOOK第3版」(John Wiley & Sons,Ink.発行)に記載された各単独重合体のTg(K)を基にして、下記式で計算により求めることができる。
1/Tg(K)=W/Tg+W/Tg+・・・・+W/Tg
;各単量体の質量分率
Tg;各単量体の単独重合体のTg(K)であり、ポリマーハンドブック(3rd Ed.,J.Brandrup and E.H.Immergut,WILEY INTERSCIENCE)中の値など、一般に公開されている掲載値を用いればよい。後述の第二重合体部分のTgも同様である。
【0062】
上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる第一重合体部分は、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよいが、中でも単独重合体であることが好ましい。第一重合体部分を構成する単量体成分および重合体成分は、Tgが所定の範囲である第一重合体部分を得ることができる単量体成分および重合体成分であればよく、例えばアクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸メチル等のアクリル酸エステル単量体や、酢酸ビニル、アセタール、ウレタン等の他の単量体、上述の極性基を含む極性基含有単量体、EVA等の共重合体が挙げられる。
【0063】
上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる第二重合体部分のTgは、20℃以上であり、20℃以上、150℃以下の範囲内、中でも30℃以上、150℃以下の範囲内、特に40℃以上、150℃以下の範囲内とすることができる。
【0064】
また、上記(メタ)アクリル酸エステル共重合体に含まれる第二重合体部分は、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよいが、中でも単独重合体であることが好ましい。第二重合体部分を構成する単量体成分は、Tgが所定の範囲である第二重合体部分を得ることができる単量体成分であればよく、例えばメタクリル酸メチル等のアクリル酸エステル単量体や、アクリルアミド、スチレン、塩化ビニル、アミド、アクリロニトリル、酢酸セルロース、フェノール、ウレタン、塩化ビニリデン、塩化メチレン、メタクリロニトリル等の他の単量体、上述の極性基を含む極性基含有単量体が挙げられる。
【0065】
上記の第一重合体部分および第二重合体部分を有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体の具体例としては、上記のMMA-BA-MMA共重合体が挙げられる。
【0066】
アクリル樹脂の含有量は、接着剤組成物に含まれる樹脂成分を100質量部とした場合に、例えば、1質量部以上であり、3質量部以上であってもよく、5質量部以上であってもよく、7質量部以上であってもよく、10質量部以上であってもよい。アクリル樹脂の含有量が少なすぎると耐割れ性および接着性が低下する可能性がある。一方、アクリル樹脂の含有量は、接着剤組成物に含まれる樹脂成分を100質量部とした場合に、例えば、60質量部以下であり、50質量部以下であってもよく、40質量部以下であってもよく、35質量部以下であってもよく、30質量部以下であってもよい。アクリル樹脂の含有量が多すぎると、第一エポキシ樹脂および第二エポキシ樹脂の含有量が相対的に少なくなり、耐ブロッキング性、接着性および耐割れ性が両立できない可能性がある。
【0067】
3.硬化剤
本開示における硬化剤としては、一般にエポキシ樹脂系接着剤に使用される硬化剤を用いることができる。硬化剤は、23℃で固体であることが好ましい。23℃で固体である硬化剤は、23℃で液体である硬化剤と比較して、保存安定性(ポットライフ)を長くすることができる。また、硬化剤は、潜在性硬化剤であってもよい。また、硬化剤は、熱により硬化反応が生じる硬化剤であってもよく、光により硬化反応が生じる硬化剤であってもよい。また、本開示においては、硬化剤を単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0068】
硬化剤の反応開始温度は、例えば110℃以上であり、130℃以上であってもよい。反応開始温度が低すぎると、反応が早期に開始され、樹脂成分の柔軟性や流動性が低い状態で硬化が生じ、均一な硬化が生じにくい可能性がある。一方、硬化剤の反応開始温度は、例えば、200℃以下である。反応開始温度が高すぎると、樹脂成分が劣化する可能性がある。なお、エポキシ樹脂のほかに、例えばフェノール樹脂等の耐熱性が高い樹脂を使用する場合には、樹脂成分の劣化が少ないため、硬化剤の反応開始温度は、例えば300℃以下であってもよい。硬化剤の反応開始温度は、示差走査熱量測定(DSC)により求めることができる。
【0069】
硬化剤の具体例としては、イミダゾール系硬化剤、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、チオール系硬化剤が挙げられる。
【0070】
イミダゾール系硬化剤としては、例えば、イミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、2-フェニルイミダゾールや、イミダゾール化合物のカルボン酸塩、エポキシ化合物との付加物が挙げられる。また、イミダゾール系硬化剤は、ヒドロキシル基を有することが好ましい。ヒドロキシ基同士の水素結合で結晶化するため、反応開始温度が高くなる傾向にある。
【0071】
フェノール系硬化剤としては、例えば、フェノール樹脂が挙げられる。さらに、フェノール樹脂としては、例えば、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂が挙げられる。耐割れ性等の観点から、Tgが110℃以下のフェノール型ノボラック樹脂が特に好ましい。また、フェノール系硬化剤およびイミダゾール系硬化剤を併用してもよい。その場合、イミダゾール系硬化剤を硬化触媒として用いることが好ましい。
【0072】
アミン系硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシレリレンジアミン(MXDA)等の脂肪族アミン;ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m-フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)等の芳香族アミン;脂環式アミン;ポリアミドアミンが挙げられる。また、アミン系硬化剤として、ジシアンジアミド(DICY)等のジシアンジアミド系硬化剤、有機酸ジヒドラジド系硬化剤、アミンアダクト系硬化剤、ケチミン系硬化剤を用いることができる。
【0073】
酸無水物系硬化剤としては、例えば、ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)等の脂環族酸無水物(液状酸無水物);無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)等の芳香族酸無水物が挙げられる。
【0074】
イソシアネート系硬化剤としては、例えば、ブロックイソシアネートが挙げられる。
【0075】
チオール系硬化剤としては、例えば、エステル結合型チオール化合物、脂肪族エーテル結合型チオール化合物、芳香族エーテル結合型チオール化合物が挙げられる。
【0076】
硬化剤の含有量は、接着剤組成物に含まれる樹脂成分を100質量部とした場合に、例えば、1質量部以上、40質量部以下である。例えば、硬化剤としてイミダゾール系硬化剤を主成分として用いる場合、硬化剤の含有量は、接着剤組成物に含まれる樹脂成分を100質量部とした場合に、例えば、1質量部以上、15質量部以下であることが好ましい。一方、硬化剤としてフェノール系硬化剤を主成分として用いる場合、硬化剤の含有量は、接着剤組成物に含まれる樹脂成分を100質量部とした場合に、例えば、5質量部以上、40質量部以下であることが好ましい。なお、硬化剤としてイミダゾール系硬化剤またはフェノール系硬化剤を主成分として用いるとは、硬化剤において、イミダゾール系硬化剤またはフェノール系硬化剤の質量割合が最も多いことをいう。
【0077】
4.発泡剤
本開示における発泡剤としては、一般に発泡性接着シートの接着層に使用される発泡剤を用いることができる。また、発泡剤は、熱により発泡反応が生じる発泡剤であってもよく、光により発泡反応が生じる発泡剤であってもよい。
【0078】
発泡剤の発泡開始温度は、エポキシ樹脂の軟化温度以上であり、かつ、エポキシ樹脂の硬化反応の活性化温度以下であることが好ましい。なお、エポキシ樹脂の軟化温度は、JIS K 2207に規定される環球式軟化温度試験法を用いて測定できる。発泡剤の発泡開始温度は、例えば、70℃以上であり、100℃以上であってもよい。反応開始温度が低すぎると、反応が早期に開始され、樹脂成分の柔軟性や流動性が低い状態で発泡が生じ、均一な発泡が生じにくい可能性がある。一方、発泡剤の反応開始温度は、例えば、210℃以下である。反応開始温度が高すぎると、樹脂成分が劣化する可能性がある。
【0079】
発泡剤としては、例えば、有機系発泡剤および無機系発泡剤が挙げられる。有機系発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、アゾビスホルムアミド、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ発泡剤、トリクロロモノフルオロメタン等のフッ化アルカン系発泡剤、パラトルエンスルホニルヒドラジド等のヒドラジン系発泡剤、p-トルエンスルホニルセミカルバジド等のセミカルバジド系発泡剤、5-モルホリル-1,2,3,4-チアトリアゾール等のトリアゾール系発泡剤、N,N-ジニトロソテレフタルアミド等のN-ニトロソ系発泡剤が挙げられる。一方、無機系発泡剤としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素アンモニウム、アジド類が挙げられる。
【0080】
また、発泡剤として、マイクロカプセル型発泡剤を用いてもよい。マイクロカプセル型発泡剤は、炭化水素等の熱膨張剤をコアとし、アクリロニトリルコポリマー等の樹脂をシェルとすることが好ましい。
【0081】
発泡剤の発泡倍率は、例えば1.5倍以上であり、3倍以上であってもよい。一方、発泡剤の含有倍率は、例えば15倍以下であり、10倍以下であってもよい。
【0082】
発泡剤の含有量は、接着剤組成物に含まれる樹脂成分を100質量部とした場合に、例えば、0.5質量部以上であり、2質量部以上であってもよい。一方、発泡剤の含有量は、例えば20質量部以下であり、15質量部以下であってもよい。
【0083】
5.接着剤組成物
本開示における接着剤組成物は、樹脂成分として、上述したエポキシ樹脂およびアクリル樹脂を少なくとも含有する。接着剤組成物は、樹脂成分として、エポキシ樹脂およびアクリル樹脂のみを含有していてもよく、他の樹脂をさらに含有していてもよい。他の樹脂としては、例えばウレタン樹脂が挙げられる。接着剤組成物に含まれる樹脂成分に対する、第一エポキシ樹脂、第二エポキシ樹脂およびアクリル樹脂の合計の割合は、例えば70質量%以上であり、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0084】
接着剤組成物の固形分における樹脂成分の割合は、例えば60質量%以上であり、70質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよい。
【0085】
接着剤組成物は、必要に応じて、シランカップリング剤、充填剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、架橋剤、着色剤を含有していてもよい。シランカップリング剤としては、例えば、エポキシ系シランカップリング剤が挙げられる。充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、三酸化アンチモン、ホウ酸亜鉛、モリブデン化合物、二酸化チタン等の無機充填剤が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤が挙げられる。
【0086】
接着剤組成物は、溶媒を含有していてもよく、溶媒を含有していなくてもよい。なお、本明細書における溶媒は、厳密な溶媒(溶質を溶解させる溶媒)のみならず、分散媒も含む広義の意味である。また、接着剤組成物に含まれる溶媒は、接着剤組成物を塗布乾燥して接着層を形成する際に揮発して除去される。
【0087】
本開示における接着剤組成物は、上述した各成分を混合し、必要に応じて混練、分散することにより、得ることができる。混合および分散方法としては、一般的な混練分散機、例えば、二本ロールミル、三本ロールミル、ペブルミル、トロンミル、ツェグバリ(Szegvari)アトライター、高速インペラー分散機、高速ストーンミル、高速度衝撃ミル、デスパー、高速ミキサー、リボンブレンダー、コニーダー、インテンシブミキサー、タンブラー、ブレンダー、デスパーザー、ホモジナイザー、超音波分散機が適用できる。
【0088】
本開示における接着剤組成物の用途は、特に限定されないが、発泡性接着シートの接着層に用いられることが好ましい。また、本開示における接着剤組成物を、そのまま接着剤として用いてもよい。
【0089】
B.発泡性接着シート
本開示における発泡性接着シートは、少なくとも接着層を有する発泡性接着シートであって、上記接着層は、エポキシ樹脂と、上記エポキシ樹脂と相溶したアクリル樹脂と、硬化剤と、発泡剤とを含有し、上記接着層は、上記エポキシ樹脂として、軟化温度が50℃以上であり、かつ、エポキシ当量が5000g/eq以下である第一エポキシ樹脂と、軟化温度が上記第一エポキシ樹脂より高く、かつ、重量平均分子量が20,000以上である第二エポキシ樹脂と、を含有し、上記アクリル樹脂は、重量平均分子量が50,000以上である。
【0090】
なお、本明細書において、「シート」には、「フィルム」と呼ばれる部材も含まれる。また、「フィルム」には、「シート」と呼ばれる部材も含まれる。
【0091】
図1および図2は、本開示における発泡性接着シートを例示する概略断面図である。図1における発泡性接着シート10は、接着層1のみを有する。図2における発泡性接着シート10は、第一接着層1a、基材2および第二接着層1bを厚さ方向において、この順に有する。また、図3は、本開示における発泡性接着シートを例示する概略斜視図である。図3における発泡性接着シート10は、接着層1における一方の面および他方の面が接するように巻回されている。なお、図示しないが、本開示における発泡性接着シートは、図2における第一接着層1aおよび第二接着層1bが接するように巻回されていてもよい。
【0092】
本開示によれば、接着層が、特定のエポキシ樹脂および特定のアクリル樹脂を含有するため、耐ブロッキング性、接着性および耐割れ性が良好な発泡性接着シートとすることができる。また、本開示における発泡性接着シートは、耐ブロッキング性が良好であるため、ブロッキング防止を目的とした離型層や離型シートを設ける必要はない。
【0093】
1.接着層
本開示における発泡性接着シートは、少なくとも接着層を有する。接着層は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、硬化剤および発泡剤を少なくとも含有する。これらの材料については、上記「A.接着剤組成物」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0094】
接着層の厚さは、特に限定されないが、例えば10μm以上であり、20μm以上であってもよい。接着層が薄すぎると、十分な接着性を得ることができない可能性がある。一方、接着層の厚さは、例えば200μm以下である。
【0095】
本開示における接着層は、非粘着性(タックフリー)であることが好ましい。非粘着性は、主に粘着力が低いという意味で一般に使用されており、本開示において、「非粘着性である」とは、発泡性接着シートをロール状に巻き取り、その後、抵抗なく容易に巻き出せる状態のことをいう。また、JIS Z0237(10.4.1_180°引き剥がし)に準拠した測定(被着体SUS304 BA)にて、例えば、粘着力が0(N/25mm)以上、0.1(N/25mm)以下であれば、非粘着性であると判断できる。
【0096】
接着層は、連続層であってもよく、不連続層であってもよい。不連続層としては、例えば、ストライプ、ドット等のパターンが挙げられる。また、接着層の表面が、エンボス等の凹凸形状を有していてもよい。
【0097】
接着層は、例えば、接着剤組成物を塗布し、溶剤を除去することで形成することができる。塗布方法としては、例えば、ロールコート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、コンマコート、ロッドコ-ト、ブレードコート、バーコート、ワイヤーバーコート、ダイコート、リップコート、ディップコートが挙げられる。
【0098】
2.基材
本開示における発泡性接着シートは、基材を有していてもよい。基材は絶縁性を有することが好ましい。また、基材は、シート状であることが好ましい。基材シートは、単層構造を有していてもよく、複層構造を有していてもよい。また、基材シートは、内部に多孔構造を有していてもよく、有していなくてもよい。
【0099】
基材としては、例えば、樹脂、不織布が挙げられる。樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、芳香族ポリエステル等のポリエステル樹脂;ポリカーボネート;ポリアリレート;ポリウレタン;ポリアミド、ポリエーテルアミド等のポリアミド樹脂;ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド等のポリイミド樹脂;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のポリスルホン樹脂;ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等のポリエーテルケトン樹脂;ポリフェニレンスルフィド(PPS);変性ポリフェニレンオキシドが挙げられる。樹脂のガラス転移温度は、例えば80℃以上であり、140℃以上であってもよく、200℃以上であってもよい。また、基材として、液晶ポリマー(LCP)を用いてもよい。
【0100】
一方、不織布としては、例えば、セルロース繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、液晶ポリマー繊維、ガラス繊維、金属繊維、カーボン繊維等の繊維を含む不織布が挙げられる。
【0101】
基材の厚さは、特に限定されないが、例えば2μm以上であり、5μm以上であってもよく、9μm以上であってもよい。一方、基材の厚さは、例えば200μm以下であり、100μm以下であってもよく、50μm以下であってもよい。
【0102】
3.発泡性接着シート
本開示における発泡性接着シートは、基材および接着層の間に、応力緩和層を有していてもよい。応力緩和層を設けることで、接着層の耐割れ性がさらに向上し、基材および接着層の密着性も向上する。例えば、図4における発泡性接着シート10では、第一接着層1a、基材2および第二接着層1bが、厚さ方向において、この順に配置されており、第一接着層1aおよび基材2の間に第一応力緩和層3aが配置され、基材2および第二接着層1bの間に第二応力緩和層3bが配置されている。なお、図4における発泡性接着シート10は、第一応力緩和層3aおよび第二応力緩和層3bの両方を有するが、どちらか一方のみを有していてもよい。
【0103】
応力緩和層は、樹脂および硬化剤を含有することが好ましい。樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、それらの少なくとも2種以上を共重合させた重合物等が挙げられる。一方、硬化剤としては、例えば、イソシアネート系硬化剤が挙げられる。また、例えば、反応基/NCO当量を1とした場合、樹脂(例えばポリエステル)に対してイソシアネート系硬化剤を、0.5質量%以上、10質量%以下の割合で添加することが好ましい。
【0104】
応力緩和層の厚さは、特に限定されないが、例えば0.1μm以上であり、0.2μm以上であってもよく、0.5μm以上であってもよい。応力緩和層が薄すぎると、十分な耐割れ性向上効果が得られない可能性がある。一方、応力緩和層の厚さは、例えば10μm以下である。応力緩和層自体は、通常、耐熱性が高くないため、応力緩和層が厚すぎると、耐熱性(高温下での接着力)が低下する可能性がある。
【0105】
本開示における発泡性接着シートが応力緩和層を有する場合、接着層は、フェノール樹脂を含有していてもよい。フェノール樹脂を添加することで耐熱性の向上が図れるが、その反面、耐割れ性が低下する可能性がある。これに対して、応力緩和層を設けることで、接着層がフェノール樹脂を含有する場合であっても、耐割れ性の低下を抑制できる。その結果、耐熱性の向上と、耐割れ性の低下抑制と、を両立した発泡性接着シートを得ることができる。フェノール樹脂は、耐熱性の点からビフェニル型が好ましい。また、フェノール樹脂は、フェノール核を変性した樹脂であってもよい。フェノール核を変性することで、例えば、耐熱性をより向上させることができる。
【0106】
応力緩和層は、例えば、樹脂組成物を塗布し、溶剤を除去することで形成することができる。塗布方法としては、例えば、ロールコート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビアコート、グラビアリバースコート、コンマコート、ロッドコ-ト、ブレードコート、バーコート、ワイヤーバーコート、ダイコート、リップコート、ディップコートが挙げられる。
【0107】
本開示における発泡性接着シートの厚さは、例えば10μm以上であり、20μm以上であってもよい。一方、発泡性接着シートの厚さは、例えば1000μm以下であり、200μm以下であってもよい。
【0108】
本開示における発泡性接着シートは、形状保持性が良好であることが好ましい。JIS P 8125に基づく曲げモーメントは、例えば40gf・cm以上であり、50gf・cm以上であってもよい。一方、上記曲げモーメントは、例えば600gf・cm以下であり、150gf・cm以下であってもよい。
【0109】
本開示における発泡性接着シートは、発泡硬化後における接着性が高いことが好ましい。JISK6850に基づくせん断強度(接着強度)は、23℃において、2.10MPa以上であることが好ましく、2.40MPa以上であることがより好ましく、3.0MPa以上であることがさらに好ましい。また、上記せん断強度(接着強度)は、200℃において、0.28MPa以上であることが好ましく、0.30MPa以上であることがより好ましい。
【0110】
本開示における発泡性接着シートは、発泡硬化後における電気絶縁性が高いことが好ましい。JIS C 2107に基づく絶縁破壊電圧は、3kV以上であることが好ましく、5kV以上であることがより好ましい。また、発泡硬化後の発泡性接着シートは、熱伝導率が0.1W/mK以上であることが好ましく、0.15W/mK以上であることがより好ましい。
【0111】
本開示における発泡性接着シートの用途は、特に限定されない。例えば、モーターにおけるコイルおよびステーターの接着に、本開示における発泡性接着シートを用いることができる。
【0112】
また、本開示においては、上述した発泡性接着シートを用いた物品の製造方法を提供することができる。すなわち、第一部材および第二部材の間に、上述した発泡性接着シートを配置する配置工程と、発泡性接着シートを発泡硬化させ、第一部材および第二部材を接着する接着工程とを有する物品の製造方法を提供することができる。例えば、図5に示すように、第一部材20aおよび第二部材20bの間に、上述した発泡性接着シート10を配置する(図5(a)、配置工程)。次に、例えば加熱により、発泡性接着シート10を発泡硬化させる(図5(b)、接着工程)。発泡硬化後の接着シート11により、第一部材20aおよび第二部材20bは接着(接合)される。
【0113】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例0114】
[実施例1~12、比較例1~4]
下記表1、表2に示す組成(質量%)の接着剤組成物を準備した。なお、表1、表2には記載されていないが、接着剤組成物は、溶媒として酢酸エチルを含有し、いずれも固形分濃度を35質量%に調整した。また、表1、表2に記載した各材料の詳細を表3に示す。
【0115】
次に、基材として、絶縁性の高いポリフェニレンサルファイドフィルム(PPSフィルム、厚さ100μm)を準備し、この基材の一方の面に、接着剤組成物を、塗工後の厚さが45μm~55μmとなるようにアプリケーターを用いて塗布した。その後、乾燥オーブンにて100℃で3分間乾燥させて接着層を形成した。基材の他方の面にも同様に接着層を形成し、基材の表裏にそれぞれ接着層が形成された発泡性接着シートを得た。
【0116】
[評価]
(耐ブロッキング性)
得られた発泡性接着シートを10cm×10cmに切り出し、切り出した2枚を重ね合わせた。ブロッキングテスターにて、3kg/cm、40℃、dryの条件にて3日間保管し、耐ブロッキング性を評価した。耐ブロッキング性は、以下の基準で評価した。
〇:接着層の転移や剥離がなく、シート同士が自然と剥離する。
△:接着層の転移や剥離がなく、シート同士が自然には剥離しないが、ごく軽い力で剥離する。
×:接着層の転移や剥離がある、もしくはシート同士が自然に剥離せず、剥離音が出るほど密着している。
【0117】
(耐割れ性)
得られた発泡性接着シートを、20mm/s以上100mm/s以下の速度で、長さ100mmを、カッター(オルファカッターナイフ Aプラス)で切断し、その切断面に欠けが生じるか否かを確認した。耐割れ性は、以下の基準で評価した。
〇:切断面に欠けや割れが全く生じない
×:切断面に欠けが生じ、割れた樹脂が飛び散る
【0118】
(接着性)
図6に示すように、アルミ片31(長さ100mm×幅25mm×厚さ1.5mm)を2枚用意した。そのうちの1枚のアルミ片31にスペーサー32(カプトンテープ)を所定の間隔を設けて配置した。スペーサーの厚さは、351μm(日東電工社製P-221を5枚重ねた厚さ)または418μm(日東電工社製P-221を6枚重ねた厚さ)とした。スペーサー32の間に、12.5mm×25mmに切り出した発泡性接着シート10を配置し、もう1枚のアルミ片31を配置し、クリップにて固定し、試験片を得た。
【0119】
試験片を熱オーブンに入れ、加熱することで、発泡性接着シート10を硬化させた。加熱条件は、150℃30分または180℃30分とした。加熱後の試験片を、JISK6850に準拠し、テンシロンRTF1350(エーアンドデイ社製)にて、せん断強度(接着強度)を測定した。引張速度は10mm/minとした。また、測定温度は、23℃または200℃とした。
評価基準(23℃)
〇:2.40MPa以上
△:2.10MPa以上、2.40MPa未満
×:2.10MPa未満
評価基準(200℃)
〇:0.28MPa以上
×:0.28MPa未満
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
【0122】
【表3】
【0123】
表1および表2に示されるように、実施例1~12では、耐ブロッキング性、接着性および耐割れ性がいずれも良好であることが確認された。これに対して、比較例1では、分子量が低いエポキシ樹脂を用いたため、ブロッキングが生じやすくなった。また、比較例2~4では、アクリル樹脂、第一エポキシ樹脂および第二エポキシ樹脂のいずれかを含有しないため、耐ブロッキング性、接着性および耐割れ性の両立を図ることができなかった。
【0124】
[参考例]
実施例1で使用したアクリル樹脂単体の動的粘弾性測定を行った。まず、アクリル樹脂を固形分が30質量%になるように酢酸エチルに溶解させた。次に、PETセパレーター(ニッパ社製PET50×1J2)に、厚さが50μmとなるようにアプリケーターを用いて塗布し、乾燥オーブンにて100℃で3分間乾燥させてポリマー層を形成した。セパレーターから剥離したポリマー層の貯蔵弾性率(E’)および損失正接(tanδ)を、固体粘弾性アナライザー(ティー・エイ・インスツルメント株式会社製、RSA-III)を用い、JIS K7244-1に準拠した動的粘弾性測定法(アタッチメントモード:圧縮モード、周波数:1Hz、温度:-30℃~200℃、昇温速度:10℃/分)にて測定した。その結果を図7に示す。
【0125】
図7に示すように、実施例1で使用したアクリル樹脂は、例えば熱発泡剤2の発泡開始温度(120℃)で貯蔵弾性率(E’)が1×10Pa以下であった。そのため、発泡開始時において、流動性が向上し、良好な発泡性を得ることができる。また、実施例1で使用したアクリル樹脂は、例えば硬化剤2の硬化開始温度(145℃)で貯蔵弾性率(E’)が1×10Pa以上であった。上述したように、発泡後の硬化時(発泡剤の発泡が終了してから接着剤組成物が硬化するまでの間)に収縮が起きる場合があるため、この際に、接着剤組成物がある程度の粘弾性を有することが好ましい。例えば第一エポキシ樹脂は、軟化温度以上の温度で、ほぼ液体のような状態となってしまう。これに対して、実施例1で使用したアクリル樹脂は、例えば硬化剤2の硬化開始温度(145℃)においても、E’が1×10Pa以上であるため、収縮を抑えることができ、良好な形状保持性を得ることができる。また、実施例1で使用したアクリル樹脂は、0℃以上100℃以下における貯蔵弾性率(E’)の平均値が1×10Pa以上あるため、良好な耐ブロッキング性を得ることができる。
【0126】
[実施例13]
下記表4に示す組成(質量%)の接着剤組成物を準備した。なお、表4には記載されていないが、接着剤組成物は、溶媒として酢酸エチルを含有し、いずれも固形分濃度を35質量%に調整した。また、表4に記載した各材料の詳細は、表3に示している。
【0127】
次に、基材として、絶縁性の高いポリフェニレンサルファイドフィルム(PPSフィルム、厚さ100μm)を準備し、両面に応力緩和層を形成した。具体的には、ポリエステル/塩化ビニル酢酸ビニル共重合体100質量部に対して、硬化剤(ポリイソシアネート)を2質量部の割合で準備し、さらに固形分が15%になるようにメトリエチルケトン(MEK)で希釈し、バーコーターにて基材に塗布、熱オーブンにて120℃3分間、乾燥させた。このようにして、基材の両面に、厚さ2μmの応力緩和層(第一応力緩和層および第二応力緩和層)を形成した。その後、得られた応力緩和層に対して、実施例1と同様の方法により接着層(第一接着層および第二接着層)を形成した。これにより、第一接着層、第一応力緩和層、基材、第二応力緩和層、および、第二接着層がこの順に配置された発泡性接着シートを得た。得られた発泡性接着シートに対して、実施例1と同様にして、耐ブロッキング性、耐割れ性および接着性を評価した。その結果を表4に示す。
【0128】
【表4】
【0129】
表4に示すように、実施例13では、耐ブロッキング性、接着性および耐割れ性がいずれも良好であることが確認された。実施例13では、フェノール樹脂を含有するため耐熱性の向上が図れるが、その反面、耐割れ性の低下が懸念される。しかしながら、応力緩和層を設けることで、耐熱性の向上と、耐割れ性の低下抑制と、を両立できることが確認された。
【0130】
[実施例14、15]
下記表5に示す組成(質量%)の接着剤組成物を準備した。なお、表5には記載されていないが、接着剤組成物は、溶媒として酢酸エチルを含有し、いずれも固形分濃度を35質量%に調整した。また、表5に記載した各材料の詳細は、表3に示している。
【0131】
次に、基材として、絶縁性の高いポリフェニレンサルファイドフィルム(PPSフィルム、厚さ100μm)を準備し、この基材の一方の面に、接着剤組成物を、塗工後の厚さが45μmとなるようにアプリケーターを用いて塗布した。その後、乾燥オーブンにて100℃で3分間乾燥させて接着層を形成した。基材の他方の面にも同様に接着層を形成し、基材の表裏にそれぞれ接着層が形成された発泡性接着シートを得た。
【0132】
【表5】
【0133】
表5に示すように、実施例14、15では、耐ブロッキング性、接着性および耐割れ性がいずれも良好であることが確認された。一方、実施例14、15では、耐ブロッキング性が多少低いことが確認された。これは、実施例14、15で用いた第一エポキシ樹脂の結晶性が高いこと(溶融粘度が低いこと)に起因して、得られた接着層の粘着性(タック性)が高くなったためであると推測される。そのため、第一エポキシ樹脂の結晶性は、高すぎないことが好ましいことが示唆された。
【符号の説明】
【0134】
1 … 接着層
2 … 基材
10 … 発泡性接着シート
11 … 発泡硬化後の接着シート
20 … 部材
100 … 物品
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7