(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157038
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】半導体装置および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/739 20060101AFI20241029BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20241029BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20241029BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20241029BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20241029BHJP
H01L 29/41 20060101ALI20241029BHJP
H01L 21/8234 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
H01L29/78 655B
H01L29/06 301D
H01L29/06 301V
H01L29/78 658A
H01L29/78 657D
H01L29/78 652Q
H01L29/78 657C
H01L29/78 657F
H01L29/78 655G
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/91 C
H01L29/78 652G
H01L29/78 652P
H01L29/06 301G
H01L29/78 655F
H01L29/06 301F
H01L29/44 Y
H01L27/06 102A
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024139927
(22)【出願日】2024-08-21
(62)【分割の表示】P 2023006873の分割
【原出願日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2019228409
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020087349
(32)【優先日】2020-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020189026
(32)【優先日】2020-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 浩介
(72)【発明者】
【氏名】吉村 尚
(72)【発明者】
【氏名】瀧下 博
(72)【発明者】
【氏名】内田 美佐稀
(72)【発明者】
【氏名】根本 道生
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 奈央
(72)【発明者】
【氏名】窪内 源宜
(57)【要約】 (修正有)
【課題】半導体基板のドナー濃度は精度よく調整する半導体装置及び半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】半導体装置100は、上面21及び下面23を有し、酸素を含む半導体基板10と、半導体基板の前記下面側に配置された、水素化学濃度の第1のピーク133と、前記第1のピークよりも前記半導体基板の前記上面側に配置され、水素ドナーを含み、前記半導体基板の深さ方向におけるドナー濃度分布が実質的に略平坦で第2のピーク141の間の平坦部とを備え、酸素の酸素化学濃度のうち水素ドナーを生成するのに寄与する酸素化学濃度の割合を示す酸素寄与率が、1×10
-5以上、7×10
-4以下であり、前記平坦部において、水素ドナーを生成するのに寄与する酸素の濃度が、水素化学濃度より低く、前記平坦部における水素ドナー濃度が、2×10
12/cm
3以上、5×10
14/cm
3以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面および下面を有し、酸素を含む半導体基板と、
前記半導体基板の前記下面側に配置された、水素化学濃度の第1のピークと、
前記第1のピークよりも前記半導体基板の前記上面側に配置され、水素ドナーを含み、前記半導体基板の深さ方向におけるドナー濃度分布が実質的に平坦な平坦部と
を備え、
前記酸素の酸素化学濃度のうち前記水素ドナーを生成するのに寄与する前記酸素化学濃度の割合を示す酸素寄与率が、1×10-5以上、7×10-4以下であり、
前記平坦部において、前記水素ドナーを生成するのに寄与する前記酸素の濃度が、前記水素化学濃度より低く、
前記平坦部における水素ドナー濃度が、2×1012/cm3以上、5×1014/cm3以下である
半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体基板の所定の深さに水素を注入して拡散させることでドナーを形成し、基板抵抗を調整する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
特許文献1 米国特許出願公開第2018/0019306号明細書
【解決しようとする課題】
【0003】
半導体基板のドナー濃度は精度よく調整されることが好ましい。
【一般的開示】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、上面および下面を有し、酸素を含む半導体基板を備える半導体装置を提供する。半導体装置は、半導体基板の下面側に配置された、水素化学濃度の第1のピークを備えてよい。半導体装置は、第1のピークよりも半導体基板の上面側に配置され、水素ドナーを含み、半導体基板の深さ方向におけるドナー濃度分布が実質的に(ほぼ)平坦な平坦部を備えてよい。酸素の酸素化学濃度のうち水素ドナーを生成するのに寄与する酸素化学濃度の割合を示す酸素寄与率が、1×10-5以上、7×10-4以下であってよい。平坦部において、水素ドナーを生成するのに寄与する酸素の濃度が、水素化学濃度より低くてよい。平坦部における水素ドナー濃度が、1×1012/cm3以上、5×1014/cm3以下であってよい。
【0005】
酸素寄与率が、5×10-4以下であってよい。
【0006】
酸素寄与率が、1×10-4以上であってよい。
【0007】
半導体基板は、バルク・ドナーを含んでよい。平坦部のドナー濃度が、バルク・ドナー濃度よりも高くてよい。
【0008】
半導体装置は、半導体基板の上面側に配置された、水素またはヘリウムの化学濃度の第2のピークを備えてよい。平坦部は、第2のピークよりも半導体基板の下面側に配置されていてよい。水素化学濃度のうち水素ドナーを生成するのに寄与する水素化学濃度の割合を示す水素寄与率が、0.001以上、0.3以下であってよい。平坦部の空孔濃度が、1×1011/cm3以上、1×1014/cm3以下であってよい。
【0009】
第1のピークの水素化学濃度は、第2のピークの水素化学濃度よりも高くてよい。
【0010】
平坦部における酸素化学濃度が、1×1017atoms/cm3以上であってよい。
【0011】
平坦部における炭素化学濃度が、1×1013atoms/cm3以上、1×1016atoms/cm3以下であってよい。
【0012】
平坦部における酸素化学濃度に前記酸素寄与率を乗じた値と、平坦部の空孔濃度との和を水素ドナー濃度の第1の値としてよい。平坦部のドナー濃度から、バルク・ドナー濃度を減じた差を水素ドナー濃度の第2の値としてよい。水素ドナー濃度の第2の値に対する水素ドナー濃度の第1の値の比が、0.1以上10以下であってよい。
【0013】
本発明の第2の態様においては、上面および下面を有し、酸素を含む半導体基板を備える半導体装置を提供する。半導体装置は、半導体基板の下面側に配置された、水素化学濃度の第1のピークを備えてよい。半導体装置は、第1のピークよりも半導体基板の上面側に配置され、水素ドナーを含み、半導体基板の深さ方向におけるドナー濃度分布が実質的に(ほぼ)平坦な平坦部を備えてよい。半導体基板は、バルク・ドナーを含んでよい。平坦部のドナー濃度が、バルク・ドナー濃度よりも高くてよい。酸素の酸素化学濃度のうち水素ドナーを生成するのに寄与する酸素化学濃度の割合を示す酸素寄与率を平坦部における酸素化学濃度に乗じた値と、前記平坦部の空孔濃度との和を水素ドナー濃度の第1の値としてよい。平坦部のドナー濃度から、バルク・ドナー濃度を減じた差を水素ドナー濃度の第2の値としてよい。水素ドナー濃度の第2の値に対する水素ドナー濃度の第1の値の比が、0.1以上10以下であってよい。
【0014】
本発明の第3の態様においては、上面および下面を有し、酸素および炭素を含む半導体基板を備える半導体装置を提供する。半導体装置は、半導体基板の下面側に配置された、水素化学濃度の第1のピークを備えてよい。半導体装置は、第1のピークよりも半導体基板の上面側に配置され、水素ドナーを含み、半導体基板の深さ方向におけるドナー濃度分布が実質的に(ほぼ)平坦な平坦部を備えてよい。半導体基板は、バルク・ドナーを含んでよい。平坦部のドナー濃度が、バルク・ドナー濃度よりも高くてよい。酸素の酸素化学濃度のうち水素ドナーを生成するのに寄与する酸素化学濃度の割合を示す酸素寄与率を平坦部における酸素化学濃度に乗じた値と、炭素の炭素化学濃度のうち水素ドナーを生成するのに寄与する炭素化学濃度の割合を示す炭素寄与率を平坦部における炭素化学濃度に乗じた値と、平坦部の空孔濃度との和を水素ドナー濃度の第3の値としてよい。平坦部のドナー濃度から、バルク・ドナー濃度を減じた差を水素ドナー濃度の第2の値としてよい。水素ドナー濃度の第2の値に対する水素ドナー濃度の第3の値の比が、0.1以上10以下であってよい。
【0015】
本発明の第4の態様においては、半導体装置の製造方法を提供する。製造方法は、上面および下面を有する半導体基板の酸素化学濃度を測定する濃度測定段階を備えてよい。製造方法は、半導体基板の下面から、半導体基板の深さ方向の厚みの半分以上を通過するように、荷電粒子線を注入する粒子注入段階を備えてよい。製造方法は、荷電粒子線を注入した後に、半導体基板を熱処理する熱処理段階を備えてよい。粒子注入段階における荷電粒子線の注入条件、および、熱処理段階における熱処理条件の少なくとも一方を、酸素化学濃度に応じて調整してよい。
【0016】
濃度測定段階において、半導体基板の炭素化学濃度を更に測定してよい。粒子注入段階において、酸素化学濃度および炭素化学濃度に応じて荷電粒子線の注入条件を調整してよい。
【0017】
半導体基板の予め定められた深さ位置において、製造方法によって生成すべき水素ドナーの濃度をNVOH1、実際に生成された水素ドナーの濃度をNVOH2、粒子注入段階によって形成される空孔濃度をNV、酸素化学濃度をCOX、炭素化学濃度をCC、酸素化学濃度のうち水素ドナーを生成するのに寄与する酸素化学濃度の割合を示す酸素寄与率をξ、炭素化学濃度のうち水素ドナーを生成するのに寄与する炭素化学濃度の割合を示す炭素寄与率をηとして、
NVOH1=NV+ξCOX+ηCCであり、
0.1≦NVOH1/NVOH2≦10であってよい。
【0018】
注入段階において、荷電粒子線として水素イオンを注入してよい。
【0019】
製造方法は、熱処理段階よりも前に、半導体基板の下面側に水素イオンを注入する水素注入段階を備えてよい。
【0020】
製造方法は、半導体基板に酸素を導入する酸素導入段階を備えてよい。
【0021】
半導体基板の酸素化学濃度に基づいて、水素注入段階における水素イオンの注入条件を調整してよい。
【0022】
粒子注入段階における荷電粒子線の注入深さに基づいて、水素注入段階における水素イオンの注入条件、および、熱処理段階における熱処理条件を調整してよい。
【0023】
半導体基板に酸素を導入する酸素導入段階を備えてよい。
【0024】
半導体基板のバルク・ドナー濃度に更に基づいて、粒子注入段階における荷電粒子線の注入条件、および、熱処理段階における熱処理条件の少なくとも一方を調整してよい。
【0025】
製造方法は、半導体基板を研削する研削段階を備えてよい。製造方法は、研削後の半導体基板の厚みを測定する基板厚測定段階を備えてよい。半導体基板の厚みに更に基づいて、粒子注入段階における荷電粒子線の注入条件、および、熱処理段階における熱処理条件の少なくとも一方を調整してよい。
【0026】
粒子注入段階において、複数の半導体基板に対して、それぞれの半導体基板毎に注入条件を調整してよい。熱処理段階において、複数の半導体基板に対して共通に熱処理条件を調整してよい。
【0027】
半導体基板の厚みに基づいて、水素注入段階における水素イオンの注入条件を調整してよい。
【0028】
基板厚測定段階において、半導体基板のエッジ終端構造部における半導体基板の厚みを測定してよい。
【0029】
本発明の第5の態様においては、半導体装置の製造方法を提供する。製造方法は、上面および下面を有する半導体基板の不純物濃度を取得する濃度取得段階を備えてよい。製造方法は、半導体基板の下面から、半導体基板の深さ方向の厚みの半分以上を通過するように、荷電粒子線を注入する粒子注入段階を備えてよい。製造方法は、荷電粒子線を注入した後に、半導体基板を熱処理する熱処理段階を備えてよい。粒子注入段階において、不純物濃度に応じて荷電粒子線の注入深さを調整してよい。
【0030】
濃度取得段階において、半導体基板のバルク・ドナー濃度、酸素化学濃度および炭素化学濃度の少なくとも一つを取得してよい。
【0031】
粒子注入段階において、酸素化学濃度のうち水素ドナーを生成するのに寄与する酸素化学濃度の割合を示す酸素寄与率ξ、および、炭素化学濃度のうち水素ドナーを生成するのに寄与する炭素化学濃度の割合を示す炭素寄与率ηの少なくとも一つに基づいて、荷電粒子線の注入深さを調整してよい。
【0032】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】半導体装置100の一例を示す断面図である。
【
図2】
図1のA-A線に示した位置における、水素化学濃度C
H、酸素化学濃度C
OX、空孔濃度N
V、寄与水素濃度N
H、および、寄与酸素濃度N
OXの深さ方向の分布を示している。
【
図3】熱処理後の水素化学濃度C
H、酸素化学濃度C
OX、寄与酸素濃度N
OX、および、VOH欠陥濃度N
VOHの深さ方向の分布を示している。
【
図4】熱処理後のドナー濃度D
Dの分布の一例を示す図である。
【
図5B】平坦部150におけるバルク・ドナー濃度D0、水素ドナー濃度Db、ドナー濃度Ddの他の分布例である。
【
図5C】平坦部150におけるバルク・ドナー濃度D0、水素ドナー濃度Db、ドナー濃度Ddの他の分布例である。
【
図6】ドナー濃度増加量と、酸素化学濃度C
OXとの関係を示す図である。
【
図7】ドナー濃度増加量と、酸素化学濃度C
OXとの関係を示す図である。
【
図8】水素イオンのドーズ量と、酸素寄与率ξおよび空孔濃度N
Vとの関係を示す図である。
【
図9】水素イオンのドーズ量と、酸素寄与率ξおよび空孔濃度N
Vとの関係を示す図である。
【
図10】半導体装置100の一例を示す上面図である。
【
図13】
図12のF-F線の位置における、深さ方向のキャリア濃度分布の一例を示す図である。
【
図16】半導体装置100の製造方法の一例を示す図である。
【
図17】荷電粒子線の注入量の算出方法の他の例を示す図である。
【
図18】半導体装置100の製造方法の他の例を示す図である。
【
図19】デバイス製造段階S1606の一例を示す図である。
【
図20】デバイス製造段階S1606の他の例を示す図である。
【
図21】酸素寄与率ξと、第2のピーク141が配置される深さ位置Z1との関係を示す図である。
【
図22】空孔濃度N
Vと、第2のピーク141が配置される深さ位置Z1との関係を示す図である。
【
図23】
図1のA-A線に示した位置における、熱処理後の水素化学濃度C
H、炭素化学濃度C
C、寄与炭素濃度N
C、および、VOH欠陥濃度N
VOHの深さ方向の分布を示している。
【
図24】ドナー濃度増加量と、炭素化学濃度C
Cとの関係を示す図である。
【
図25】ドナー濃度増加量と、酸素化学濃度C
OXとの関係を示す図である。
【
図26】深さ位置Z1への水素イオンドーズ量と、炭素寄与率ηとの関係を示す図である。
【
図27】炭素化学濃度C
Cが小さいグループにおける、酸素寄与率ξと、水素イオンドーズ量D
Hとの関係を示す図である。
【
図28】炭素化学濃度C
Cが小さいグループにおける、空孔濃度N
Vと、水素イオンドーズ量D
Hとの関係を示す図である。
【
図29】半導体装置100の製造方法の一例を示す図である。
【
図30】空孔濃度N
Vと深さ位置Z1との関係の他の例を示す図である。
【
図31】酸素寄与率ξと深さ位置Z1との関係の他の例を示す図である。
【
図32】炭素寄与率ηと深さ位置Z1との関係を示す図である。
【
図33A】電気的な目標特性に対する空孔濃度のヘリウムイオンドーズ量依存性を示すグラフである。
【
図33B】電気的な目標特性に対する酸素寄与率のヘリウムイオンドーズ量依存性を示すグラフである。
【
図33C】電気的な目標特性に対する炭素寄与率のヘリウムイオンドーズ量依存性を示すグラフである。
【
図34A】電気的な目標特性における換算空孔濃度Nv´のヘリウムイオン深さ依存性を示すグラフである。
【
図34B】電気的な目標特性における換算酸素寄与率ξ´のヘリウムイオン深さ依存性を示すグラフである。
【
図34C】電気的な目標特性における換算炭素寄与率η´のヘリウムイオン深さ依存性を示すグラフである。
【
図35】半導体装置100の製造方法の他の例を示す図である。
【
図36】半導体装置100の製造方法の他の例を示す図である。
【
図37】半導体装置100の製造方法の他の例を示す図である。
【
図38】バルク・ドナー濃度と、荷電粒子の注入深さZ1との関係を示す図である。
【
図39】半導体装置100の製造方法の他の例を示す図である。
【
図40】エッジ終端構造部90における等電位面308の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0035】
本明細書においては半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」、他方の側を「下」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面を上面、他方の面を下面と称する。「上」、「下」の方向は、重力方向または半導体装置の実装時における方向に限定されない。
【0036】
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する場合がある。直交座標軸は、構成要素の相対位置を特定するに過ぎず、特定の方向を限定するものではない。例えば、Z軸は地面に対する高さ方向を限定して示すものではない。なお、+Z軸方向と-Z軸方向とは互いに逆向きの方向である。正負を記載せず、Z軸方向と記載した場合、+Z軸および-Z軸に平行な方向を意味する。
【0037】
本明細書では、半導体基板の上面および下面に平行な直交軸をX軸およびY軸とする。また、半導体基板の上面および下面と垂直な軸をZ軸とする。本明細書では、Z軸の方向を深さ方向と称する場合がある。また、本明細書では、X軸およびY軸を含めて、半導体基板の上面および下面に平行な方向を、水平方向と称する場合がある。
【0038】
また、半導体基板の深さ方向における中心から、半導体基板の上面までの領域を、上面側と称する場合がある。同様に、半導体基板の深さ方向における中心から、半導体基板の下面までの領域を、下面側と称する場合がある。
【0039】
本明細書において「同一」または「等しい」のように称した場合、製造ばらつき等に起因する誤差を有する場合も含んでよい。当該誤差は、例えば10%以内である。
【0040】
本明細書においては、不純物がドーピングされたドーピング領域の導電型をP型またはN型として説明している。本明細書においては、不純物とは、特にN型のドナーまたはP型のアクセプタのいずれかを意味する場合があり、ドーパントと記載する場合がある。本明細書においては、ドーピングとは、半導体基板にドナーまたはアクセプタを導入し、N型の導電型を示す半導体またはP型の導電型を示す半導体とすることを意味する。
【0041】
本明細書においては、ドーピング濃度とは、熱平衡状態におけるドナーの濃度またはアクセプタの濃度を意味する。本明細書においては、ネット・ドーピング濃度とは、ドナー濃度を正イオンの濃度とし、アクセプタ濃度を負イオンの濃度として、電荷の極性を含めて足し合わせた正味の濃度を意味する。一例として、ドナー濃度をND、アクセプタ濃度をNAとすると、任意の位置における正味のネット・ドーピング濃度はND-NAとなる。本明細書では、ネット・ドーピング濃度を単にドーピング濃度と記載する場合がある。
【0042】
ドナーは、半導体に電子を供給する機能を有している。アクセプタは、半導体から電子を受け取る機能を有している。ドナーおよびアクセプタは、不純物自体には限定されない。例えば、半導体中に存在する空孔(V)、酸素(O)および水素(H)が結合したVOH欠陥は、電子を供給するドナーとして機能する。本明細書では、VOH欠陥を水素ドナーと称する場合がある。
【0043】
本明細書においてP+型またはN+型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が高いことを意味し、P-型またはN-型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が低いことを意味する。また、本明細書においてP++型またはN++型と記載した場合には、P+型またはN+型よりもドーピング濃度が高いことを意味する。本明細書の単位系は、特に断りがなければSI単位系である。長さの単位をcmで表示することがあるが、諸計算はメートル(m)に換算してから行ってよい。
【0044】
本明細書において化学濃度とは、電気的な活性化の状態によらずに測定される不純物の原子密度を指す。化学濃度は、例えば二次イオン質量分析法(SIMS)により計測できる。上述したネット・ドーピング濃度は、電圧-容量測定法(CV法)により測定できる。また、拡がり抵抗測定法(SR法)により計測されるキャリア濃度を、ネット・ドーピング濃度としてよい。CV法またはSR法により計測されるキャリア濃度は、熱平衡状態における値としてよい。また、N型の領域においては、ドナー濃度がアクセプタ濃度よりも十分大きいので、当該領域におけるキャリア濃度を、ドナー濃度としてもよい。同様に、P型の領域においては、当該領域におけるキャリア濃度を、アクセプタ濃度としてもよい。本明細書では、N型領域のドーピング濃度をドナー濃度と称する場合があり、P型領域のドーピング濃度をアクセプタ濃度と称する場合がある。
【0045】
また、ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度分布がピークを有する場合、当該ピーク値を当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度が実質的に(ほぼ)均一な場合等においては、当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度の平均値をドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。本明細書において、単位体積当りの濃度表示にatоms/cm3、または、/cm3を用いる。この単位は、半導体基板内のドナーまたはアクセプタ濃度、または、化学濃度に用いられる。atоms表記は省略してもよい。尚、本発明における各濃度は、室温における値でよい。室温における値は、一例として300K(ケルビン)(約26.9℃)のときの値を用いてよい。
【0046】
SR法により計測されるキャリア濃度が、ドナーまたはアクセプタの濃度より低くてもよい。拡がり抵抗を測定する際に電流が流れる範囲において、半導体基板のキャリア移動度が結晶状態の値よりも低い場合がある。キャリア移動度の低下は、格子欠陥等による結晶構造の乱れ(ディスオーダー)により、キャリアが散乱されることで生じる。
【0047】
CV法またはSR法により計測されるキャリア濃度から算出したドナーまたはアクセプタの濃度は、ドナーまたはアクセプタを示す元素の化学濃度よりも低くてよい。一例として、シリコンの半導体においてドナーとなるリンまたはヒ素のドナー濃度、あるいはアクセプタとなるボロン(ホウ素)のアクセプタ濃度は、これらの化学濃度の99%程度である。一方、シリコンの半導体においてドナーとなる水素のドナー濃度は、水素の化学濃度の0.1%から10%程度である。
【0048】
図1は、半導体装置100の一例を示す断面図である。半導体装置100は半導体基板10を備える。半導体基板10は、半導体材料で形成された基板である。一例として半導体基板10はシリコン基板である。
【0049】
半導体基板10には、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor:IGBT)等のトランジスタ素子、および、還流ダイオード(FWD)等のダイオード素子の少なくとも一方が形成されている。
図1においては、トランジスタ素子およびダイオード素子の、各電極および半導体基板10の内部に設けられた各領域を省略している。
【0050】
本例の半導体基板10は、N型のバルク・ドナーが全体に分布している。バルク・ドナーは、半導体基板10の元となるインゴットの製造時に、インゴット内に略一様に含まれたドーパントによるドナーである。本例のバルク・ドナーは、水素以外の元素である。バルク・ドナーのドーパントは、例えばV族、VI族の元素であり、例えばリン、アンチモン、ヒ素、セレンまたは硫黄であるが、これに限定されない。本例のバルク・ドナーは、リンである。バルク・ドナーは、P型の領域にも含まれている。半導体基板10は、半導体のインゴットから切り出したウエハであってよく、ウエハを個片化したチップであってもよい。半導体のインゴットは、チョクラルスキー法(CZ法)、磁場印加型チョクラルスキー法(MCZ法)、フロートゾーン法(FZ法)のいずれかで製造されよい。本例におけるインゴットは、MCZ法で製造されている。
【0051】
MCZ法で製造された基板に含まれる酸素化学濃度は一例として1×1017~7×1017atoms/cm3である。FZ法で製造された基板に含まれる酸素化学濃度は一例として1×1015~5×1016atoms/cm3である。バルク・ドナー濃度は、半導体基板10の全体に分布しているバルク・ドナーの化学濃度を用いてよく、当該化学濃度の90%から100%の間の値であってもよい。リンなどのV族、VI族のドーパントがドープされた半導体基板では、バルク・ドナー濃度は、1×1011/cm3以上、3×1013/cm3以下であってよい。V族、VI族のドーパントがドープされた半導体基板のバルク・ドナー濃度は、好ましくは1×1012/cm3以上、1×1013/cm3以下である。また、半導体基板10は、リン等のドーパントを含まないノンドープ基板を用いてもよい。その場合、ノンドーピング基板のバルク・ドナー濃度(NB0)は例えば1×1010/cm3以上、5×1012/cm3以下である。ノンドーピング基板のバルク・ドナー濃度(NB0)は、好ましくは1×1011/cm3以上である。ノンドーピング基板のバルク・ドナー濃度(NB0)は、好ましくは5×1012/cm3以下である。
【0052】
半導体基板10は、上面21および下面23を有する。上面21および下面23は、半導体基板10の2つの主面である。本明細書では、上面21および下面23と平行な面における直交軸をX軸およびY軸、上面21および下面23と垂直な軸をZ軸とする。
【0053】
半導体基板10には、所定の深さ位置Z1に、荷電粒子線が下面23から注入されている。本明細書においては、下面23からのZ軸方向の距離を、深さ位置と称する場合がある。深さ位置Z1は、下面23からのZ軸方向の距離がZ1の位置である。深さ位置Z1は、半導体基板10の上面21側に配置されている。深さ位置Z1に荷電粒子線を注入するとは、荷電粒子が半導体基板10の内部を通過する平均距離(飛程とも称される)が、Z1であることを指す。荷電粒子は、所定の深さ位置Z1に応じた加速エネルギーで加速されて、半導体基板10の内部に導入される。
【0054】
荷電粒子が半導体基板10の内部を通過した領域を通過領域106とする。
図1の例では、半導体基板10の下面23から、深さ位置Z1までが通過領域106である。荷電粒子は、通過領域106に格子欠陥を形成できる粒子である。荷電粒子は例えば、水素イオン、ヘリウムイオン、または、電子である。荷電粒子は、XY面における半導体基板10の全面に注入されてよく、一部の領域だけに注入されてもよい。
【0055】
半導体基板10は、深さ位置Z1において荷電粒子濃度の第2のピーク141を有する。本例では、荷電粒子は水素である。つまり本例の半導体基板10は、深さ位置Z1において、水素化学濃度の第2のピーク141を有する。第2のピーク141は、深さ方向(Z軸方向)における水素化学濃度分布におけるピークである。第2のピークは、ヘリウム化学濃度分布におけるピークであってもよい。
【0056】
半導体基板10において荷電粒子が通過した通過領域106には、荷電粒子が通過したことにより、単原子空孔(V)、複原子空孔(VV)等の、空孔を主体とする格子欠陥が形成されている。空孔に隣接する原子は、ダングリング・ボンドを有する。格子欠陥には格子間原子や転位等も含まれ、広義ではドナーやアクセプタも含まれ得るが、本明細書では空孔を主体とする格子欠陥を空孔型格子欠陥、空孔型欠陥、あるいは単に格子欠陥と称する場合がある。また、半導体基板10への荷電粒子注入により、格子欠陥が多く形成されることで、半導体基板10の結晶性が強く乱れることがある。本明細書では、この結晶性の乱れをディスオーダーと称する場合がある。
【0057】
また、半導体基板10の全体には酸素が含まれる。当該酸素は、半導体のインゴットの製造時において、意図的にまたは意図せずに導入される。また、通過領域106の少なくとも一部の領域には、水素が含まれる。当該水素は、半導体基板10の内部に意図的に注入されてよい。
【0058】
本例においては、深さ位置Z2に、下面23から水素イオンが注入されている。本例の水素イオンはプロトンである。本例の半導体基板10は、深さ位置Z2において水素化学濃度の第1のピーク133を有する。
図1においては、第2のピーク141、第1のピーク133を破線で模式的に示している。深さ位置Z2は、通過領域106に含まれてよい。本例の深さ位置Z2は、半導体基板10の下面23側に配置されている。なお、深さ位置Z1に注入された水素が、通過領域106に拡散してよく、他の方法で通過領域106に水素が導入されてもよい。これらの場合、深さ位置Z2には水素イオンが注入されていなくてもよい。
【0059】
半導体基板10に通過領域106が形成され、且つ、半導体基板10に水素イオンが注入された後において、半導体基板10の内部では、水素(H)、空孔(V)および酸素(O)が結合し、VOH欠陥が形成される。また、半導体基板10を熱処理することで水素が拡散し、VOH欠陥の形成が促進される。また、通過領域106を形成した後に熱処理することで、水素が空孔と結合できるので、水素が半導体基板10の外部に放出されるのを抑制できる。
【0060】
VOH欠陥は、電子を供給するドナーとして機能する。本明細書では、VOH欠陥を単に水素ドナーと称する場合がある。本例の半導体基板10では、通過領域106に水素ドナーが形成される。各位置における水素ドナーのドーピング濃度は、各位置における水素の化学濃度よりも低い。水素の化学濃度に対して、水素ドナー(VOH欠陥)のドーピング濃度に寄与する水素の化学濃度の割合を水素寄与率とする。水素寄与率とは、所定の領域(例えば下面または上面からの深さ位置)における全ての水素原子の濃度の中で、VOH欠陥を構成する水素原子の濃度の割合と考えてよい。水素寄与率は0.1%~30%(すなわち0.001以上、0.3以下)の値であってよい。本例では、水素寄与率は1%~5%である。なお、特に断りがなければ、本明細書では、水素の化学濃度分布に相似する分布を有するVOH欠陥も、通過領域106の空孔欠陥の分布に相似するVOH欠陥も、水素ドナー、またはドナーとしての水素と称する。
【0061】
半導体基板10の通過領域106に水素ドナーを形成することで、通過領域106におけるドナー濃度を、バルク・ドナー濃度よりも高くできる。通常は、半導体基板10に形成すべき素子の特性、特に定格電圧または耐圧に対応させて、所定のバルク・ドナー濃度を有する半導体基板10を準備しなければならない。これに対して、
図1に示した半導体装置100によれば、荷電粒子のドーズ量を制御することで、半導体基板10のドナー濃度を調整できる。このため、素子の特性等に対応していないバルク・ドナー濃度の半導体基板を用いて、半導体装置100を製造できる。半導体基板10の製造時におけるバルク・ドナー濃度のバラツキは比較的に大きいが、荷電粒子のドーズ量は比較的に高精度に制御できる。このため、荷電粒子を注入することで生じる格子欠陥の濃度も高精度に制御でき、通過領域のドナー濃度を高精度に制御できる。
【0062】
深さ位置Z1は、上面21を基準として、半導体基板10の厚みの半分以下の範囲に配置されていてよく、半導体基板10の厚みの1/4以下の範囲に配置されていてもよい。深さ位置Z2は、下面23を基準として、半導体基板10の厚みの半分以下の範囲に配置されていてよく、半導体基板10の厚みの1/4以下の範囲に配置されていてもよい。ただし、深さ位置Z1および深さ位置Z2はこれらの範囲に限定されない。
【0063】
図2は、
図1のA-A線に示した位置における、水素化学濃度C
H、酸素化学濃度C
OX、空孔濃度N
V、寄与水素濃度N
H、および、寄与酸素濃度N
OXの深さ方向の分布を示している。
図2は、荷電粒子および水素イオンを注入した直後における、各分布を示す。つまり
図2は、半導体基板10に荷電粒子および水素イオンを注入した後であって、室温(25℃)よりも高温の熱処理を行う前における各分布を示している。
【0064】
図2の横軸は、下面23からの深さ位置を示しており、縦軸は、単位体積当たりの各濃度を対数軸で示している。
図2における化学濃度は、例えばSIMS法で計測される。
図2においては、バルク・ドナー濃度N
B0を破線で示している。バルク・ドナー濃度N
B0は、半導体基板10の全体で均一であってよい。また、半導体基板10の深さ方向における中央の深さ位置をZcとする。
【0065】
水素化学濃度CHの分布は、深さ位置Z1に第2のピーク141を有し、深さ位置Z2に第1のピーク133を有する。水素化学濃度CHは、深さ位置Z1およびZ2のそれぞれにおいて極大値を示している。水素化学濃度CHの第2のピーク141および第1のピーク133は、水素化学濃度CHの最小値よりも1000倍以上大きい。第1のピーク133は、第2のピーク141よりも大きくてよい。第1のピーク133は、第2のピーク141の10倍以上であってよく、100倍以上であってもよい。
【0066】
水素化学濃度CHの分布は、第2のピーク141から上面21に向かって水素化学濃度CHが減少する上側裾143と、第2のピーク141から下面23に向かって水素化学濃度CHが減少する下側裾142を有する。下面23から水素イオンが注入された場合、下側裾142は、上側裾143よりも緩やかである。本明細書において裾が緩やかとは、対応するピーク値の半値となる位置が、対応するピーク位置から、より離れていることを指す。
【0067】
寄与水素濃度NHは、VOH欠陥を形成する水素の濃度である。VOH欠陥には、水素の他に空孔および酸素が含まれるので、寄与水素濃度NHは、空孔および酸素の濃度に依存して変化する場合がある。寄与水素濃度NHは、水素化学濃度CHの0.1%~30%であってよい。
【0068】
寄与水素濃度NHの分布は、水素化学濃度CHの分布と相似形である。寄与水素濃度NHは、深さ位置Z1またはその近傍に第1の寄与濃度ピーク161を有し、深さ位置Z2またはその近傍に第2の寄与濃度ピーク151を有する。
【0069】
酸素は、インゴットの製造時に導入される場合が多く、半導体基板10の内部においては一様に分布することが多い。酸素化学濃度COXは、半導体基板10の全体に渡って均一であってよい。他の例では、酸素化学濃度COXは、半導体基板10の下面23から上面21に向かって、単調に増加してよく、単調に減少してもよい。また、半導体基板10の上面21または下面23の近傍の酸素は、半導体基板10の外部に放出される場合がある。酸素化学濃度COXは、上面21および下面23の近傍においては、上面21および下面23に向かって単調に減少してもよい。上面21および下面23の近傍とは、例えば上面21または下面23からの距離が1μm以内の領域であるがこれに限定されない。上面21および下面23の近傍以外においては、酸素化学濃度COXは、上述したように均一であってよく、単調に増加または減少していてよい。
【0070】
酸素化学濃度COXは、3×1015atoms/cm3以上、2×1018atoms/cm3以下であってよい。なお本明細書において半導体基板10の酸素化学濃度COXを規定した場合、特に説明が無ければ、第2のピーク141と、第1のピーク133との間の全体が、当該酸素濃度の規定を満たしている。第2のピーク141と、下面23との間の全体が当該酸素濃度の規定を満たしてよく、半導体基板10の全体が当該酸素濃度の規定を満たしていてもよい。酸素化学濃度COXは、1×1016atoms/cm3以上であってよく、1×1017atoms/cm3以上であってもよい。酸素化学濃度COXは、1×1018atoms/cm3以下であってよく、1×1017atoms/cm3以下であってもよい。
【0071】
寄与酸素濃度NOXは、VOH欠陥を形成する酸素の濃度を指す。VOH欠陥には、酸素の他に空孔および水素が含まれるので、寄与酸素濃度NOXは、空孔および水素の濃度に依存して変化する場合がある。本明細書では、寄与酸素濃度NOXと酸素化学濃度COXとの比を酸素寄与率ξとする。つまり、ξ=NOX/COXである。酸素寄与率ξとは、所定の領域(例えば下面または上面からの深さ位置)における全ての酸素原子の濃度の中で、VOH欠陥を構成する酸素原子の濃度の割合と考えてよい。ξは、0以上、1以下である。酸素寄与率の単位は無次元量である。
【0072】
寄与酸素濃度NOXの分布は、酸素化学濃度COXの分布と相似形であってよい。例えば寄与酸素濃度NOXは、半導体基板10の深さ方向において均一であってよく、単調に増加または減少してよい。あるいはまた、寄与酸素濃度NOXは、所定の深さ位置においてピークを有する濃度分布を有してよい。
【0073】
空孔濃度NVは、深さ位置Zdに空孔ピーク171を有する。深さ位置Zdは、深さ位置Z1と同一であってよく、深さ位置Z1よりもわずかに下面23側に配置されていてもよい。寄与水素濃度NHは、空孔濃度NVと同一の深さ位置に第1の寄与濃度ピーク161を有してよい。
【0074】
半導体基板10に荷電粒子を注入すると、半導体基板10の注入面から荷電粒子の飛程部分までの領域に、ダメージが導入される。ダメージとは、結晶格子の乱れのことであり、空孔、転位の他、アモルファス状態の場合もある。空孔濃度NVは、深さ位置Z2においてもピークを有してよい。空孔濃度NVは、2つのピーク間において、実質的に(ほぼ)均一であってよく、単調に増加してよく、単調に減少してもよい。荷電粒子が電子の場合は、空孔濃度NVは、半導体基板10の上面から下面にわたって実質的に(ほぼ)均一であってよく、単調に増加してよく、単調に減少してもよく、所定の深さ位置でピークを有するなだらかな分布であってもよい。空孔濃度NVは、例えばTRIM(Transport of Ions in Matter)として知られるソフトウェアを用いて算出できる(例えば、http://www.srim.org/参照。http://srim.org/SRIM/SRIM%2008.pdf、http://srim.org/SRIM/SRIM%2009.pdfには、TRIMのマニュアルが開示されている。当該マニュアルのPart2には、空孔濃度を算出する方法が記載されている。)。熱処理前においては、ほとんどの空孔は、水素で終端されていないと考えられる。
【0075】
図3は、熱処理後の水素化学濃度C
H、酸素化学濃度C
OX、寄与酸素濃度N
OX、および、VOH欠陥濃度N
VOHの深さ方向の分布を示している。熱処理することで、第2のピーク141および第1のピーク133から、上面21側および下面23側に水素が拡散する。熱処理後においても、各ピークの濃度の大小関係、比率、値等、ならびに、酸素化学濃度は、
図2に示した熱処理前と同一としてよい。これにより、第2のピーク141および第1のピーク133の間の水素化学濃度C
Hが増大する。本例では、高濃度の第1のピーク133を設けているので、第1のピーク133から、より多くの水素が拡散する。このため、深さ位置Z2から深さ位置Z1に向かう領域において、半分以上の長さに渡って水素化学濃度C
Hが単調に減少している。水素化学濃度C
Hは、深さ位置Z2から、深さ位置Zcよりも上面21側まで単調に減少してよい。
【0076】
熱処理により、空孔におけるダングリング・ボンドを水素が終端する。その結果、VOH欠陥(終端ダングリング・ボンド)のドナーが形成される。VOH欠陥濃度NVOHは、寄与水素濃度NH、寄与酸素濃度NOX、空孔濃度NVに依存する。本例のVOH欠陥濃度NVOHは、深さ位置Z1の近傍に第1のVOHピーク191を有し、深さ位置Z2の近傍に第2のVOHピーク181を有する。第1のVOHピーク191は、深さ位置Zdに配置されてよい。本例では、第2のVOHピーク181は、第1のVOHピーク191よりも高濃度である。
【0077】
また、半導体基板10は、深さ位置Z1および深さ位置Z2の間に、平坦部150を有する。平坦部150は、VOH欠陥濃度NVOHの分布が、実質的に(ほぼ)平坦となる領域である。平坦部150は、深さ位置Z1および深さ位置Z2の間の半分以上の長さに渡って設けられてよく、75%以上の長さに渡って設けられてもよい。
【0078】
平坦部150において、寄与酸素濃度NOXは、水素化学濃度COXよりも小さい。この場合、水素化学濃度COXは、平坦部150における最小値を用いてよい。寄与酸素濃度NOXは、水素化学濃度COXの10%以下であってもよい。
【0079】
図4は、熱処理後のドナー濃度D
Dの分布の一例を示す図である。
図4においては、水素化学濃度C
H、酸素化学濃度C
OX、バルク・ドナー濃度N
B0を合わせて示している。水素化学濃度C
Hおよび酸素化学濃度C
OXは、
図3の例と同一である。バルク・ドナー濃度N
B0は、
図2の例と同一である。
【0080】
本例のドナー濃度DDは、バルク・ドナー濃度NB0に、VOH欠陥濃度NVOHを加算した濃度である。ドナー濃度NB0は、深さ位置Zdに第1のドナーピーク121を有し、深さ位置Z2に第2のドナーピーク111を有する。本例では、第2のドナーピーク111は、第1のドナーピーク121よりも高濃度である。また、平坦部150において、ドナー濃度DDは実質的に(ほぼ)平坦である。平坦部150のドナー濃度DDは、バルク・ドナー濃度NB0よりも高い。
【0081】
図5Aは、平坦部150を説明する図である。平坦部150は、ドナー濃度D
Dが、所定の最大値maxと所定の最小値minとの間となっている領域が、深さ方向において連続している部分である。最大値maxは、当該領域におけるドナー濃度の最大値を用いてよい。最小値minは、最大値maxの50%の値であってよく、70%の値であってよく、90%の値であってもよい。
【0082】
あるいは、深さ方向の所定範囲におけるドナー濃度分布の平均濃度に対して、ドナー濃度分布の値が、当該ドナー濃度分布の平均濃度の±50%以内にあってよく、±30%以内にあってよく、±10%以内にあってよい。上述したように、平坦部150におけるVOH欠陥濃度NVOHも、ドナー濃度DDと同様に実質的に(ほぼ)平坦である。
【0083】
図5Bは、平坦部150におけるバルク・ドナー濃度D0、水素ドナー濃度Db、ドナー濃度Ddの他の分布例である。平坦部150が深さ方向で傾きを有する点で、
図5Aの例と異なる。本例の半導体基板10の厚さは120μmである。本図の縦軸はリニア・スケールである。水素イオンの注入面からの深さが、20μmから80μmまでを所定の領域とする。所定の領域は、水素イオンが貫通し、且つ、ドナー濃度Ddに局所的なピークが無い領域である。本例の所定の領域の厚みは、半導体基板10の厚さに対して50%である。本例のバルク・ドナー濃度D0は、3.1×10
13/cm
3であり、150Ωcmに相当する。各深さにおけるバルク・ドナー濃度D0と、水素ドナーDbの値の和が、ドナー濃度Ddである。
【0084】
所定の領域の両端の濃度を直線で結んだ分布を、直線近似分布としてよい。直線近似分布は、所定の領域における濃度を一次関数でフィッティングさせた直線であってもよい。また、直線近似分布は、各濃度分布の局所的なピークを除いた分布を、一次関数でフィッティングさせた直線であってもよい。また、直線近似分布を中心として、直線近似分布の値の30%の幅を有する帯状の範囲を、帯状範囲と称する。所定の領域における濃度分布が単調に増加または減少するとは、所定の領域の両端の濃度値が異なっており、且つ、当該濃度分布が上述した帯状範囲に含まれる状態を指す。帯状範囲は、直線近似分布の値の20%の幅を有してよく、10%の幅を有してもよい。
【0085】
ドナー濃度Ddの直線近似分布214は、注入面からの距離が増加するほど、濃度が増加する分布である。水素イオンが貫通した所定の領域において形成される空孔の濃度が、注入面からの距離が増加するほど、濃度が増加する分布となる。当該形成された空孔に存在するダングリング・ボンドを、拡散した水素が終端することにより、空孔濃度分布に従った水素ドナー濃度分布が形成される。本例においては、水素イオンが貫通した所定の領域において、直線近似分布214に対し、ドナー濃度Ddはおよそ±7%の値の変動がある。ドナー濃度Ddの当該変動を、帯状範囲216とする。つまり本例の帯状範囲216の幅は、直線近似分布214の値の±7%の幅を有する。半導体基板10の厚みの30%以上の厚さの所定の領域において、ドナー濃度Dbの分布が帯状範囲216の範囲内に存在する場合に、ドナー濃度Dbの分布を平坦分布としてよい。すなわち、この所定の領域を、水素ドナー平坦領域としてよい。なお、ドナー濃度Ddの直線近似分布214は、注入面からの距離が増加するほど、濃度が減少する分布であってもよい。
【0086】
図5Cは、バルク・ドナー濃度D0、水素ドナー濃度Db、ドナー濃度Ddの分布の他の例である。本例では、平坦部150の傾きがさらに大きい点で、
図5Bの例と異なる。本例では、水素イオンの注入面からの深さが10μmから70μmまでを所定の領域とする。本例においても、半導体基板10の厚さ(120μm)に対する所定の領域の厚みは、
図5Bの例と同じ50%である。
【0087】
ドナー濃度Ddの直線近似分布214は、注入面からの距離が増加するほど、濃度が増加する分布である。ただし、本例の直線近似分布214は、
図5Bの直線近似分布214よりも増加の傾きが大きい。また、所定の領域において、直線近似分布214に対し、ドナー濃度Ddはおよそ±17%の値の変動がある。ドナー濃度Ddの当該変動を、帯状範囲216とする。帯状範囲216の幅は、直線近似分布214の値の±17%の幅を有する。よって、半導体基板10の厚みの30%以上の厚さの所定の領域において、ドナー濃度Dbの分布が帯状範囲216の範囲内に存在する場合に、ドナー濃度Dbの分布を平坦分布としてよい。すなわち、この所定の領域を水素ドナー平坦領域としてよい。
【0088】
水素ドナー平坦領域は、半導体基板の厚みの20%以上、80%以下の範囲に設けられてよい。水素ドナー平坦領域における直線近似分布214の傾きの絶対値は、深さ(μm)に対して、0/(cm3・μm)以上、2×1012/(cm3・μm)以下であってよく、0/(cm3・μm)より大きく、1×1012/(cm3・μm)以下であってもよい。さらに、水素ドナー平坦領域における直線近似分布214の傾きの絶対値は、深さ(μm)に対して、1×1010/(cm3・μm)以上、1×1012/(cm3・μm)以下であってよく、1×1010/(cm3・μm)以上、5×1011/(cm3・μm)以下であってもよい。ここで、5×1011/(cm3・μm)は、5×1015/cm4と同じ傾き(同等)である。
【0089】
直線近似分布214の傾きの別の指標として、片対数傾きを用いてもよい。所定の領域の一方の端の位置をx1(cm)、他方の端の位置x2(cm)とする。x1における濃度をN1(/cm3)、x2における濃度をN2(/cm3)とする。所定の領域における片対数傾きη(/cm)を、η=(log10(N2)-lоg10(N1))/(x2-x1)と定義する。水素ドナー平坦領域における直線近似分布214の片対数傾きηの絶対値は、0/cm以上、50/cm以下であってよく、0/cm以上、30/cm以下であってもよい。さらに、水素ドナー平坦領域における直線近似分布214の片対数傾きηの絶対値は、0/cm以上、20/cm以下であってよく、0/cm以上、10/cm以下であってもよい。
【0090】
水素イオンが通過した通過領域には、水素が通過することで生じた空孔(V、VV等)が、深さ方向に実質的に(ほぼ)一様の濃度で分布すると考えられる。また、半導体基板10の製造時等に注入される酸素(O)も、深さ方向に一様に分布すると考えられる。一方、半導体装置100の製造プロセスにおいて、1100℃以上の高温処理を行う過程で、半導体基板10の上面21または下面23から、酸素が半導体基板10の外部に拡散してよい。その結果、半導体基板10の上面21または下面23に向かって、酸素濃度が減少してもよい。
【0091】
図1から
図5Cにおいて説明した半導体装置100によれば、荷電粒子のドーズ量により空孔濃度N
Vを制御でき、また、水素イオンのドーズ量により水素化学濃度C
Hを制御できる。このため、平坦部150のドナー濃度D
Dを容易に制御できる。また、荷電粒子の注入位置Z1を調整することで、平坦部150を形成する範囲を容易に制御できる。
【0092】
次に、半導体基板10における酸素寄与率ξの範囲等を説明する。半導体装置100が完成した状態の、深さ位置Z1から深さ位置Z2までの任意の位置における最終ドーピング濃度をNFとする。ドーピング濃度NFは、式(1)で示される。
NF=NB0+NVOH ・・・式(1)
ここで、VOH欠陥濃度NVOHは、水素で終端された空孔の濃度と、寄与酸素濃度NOX(すなわちξCOX)との和であるとする。平坦部150においては、VOH欠陥の濃度は水素で終端された空孔濃度と寄与酸素濃度に律速するためである。なお、本例では水素化学濃度CHが十分高いので、深さ位置Z1から深さ位置Z2までの実質的に(ほぼ)全ての空孔が、水素で終端されている。つまり、空孔濃度は水素で終端された空孔濃度NVであるとしてよい。従って、式(2)が得られる。
NVOH=NV+ξCOX ・・・式(2)
式(1)および式(2)から、式(3)が得られる。
NF=NB0+NV+ξCOX ・・・式(3)
【0093】
ここで、水素注入および熱処理の条件が同一で、バルク・ドナー濃度NB0が同一で、且つ、酸素化学濃度COXが異なる2つの半導体基板を用いて、半導体装置100を形成した場合を検討する。第1の半導体基板における最終ドーピング濃度をNF1、第2の半導体基板における最終ドーピング濃度をNF2とする。また、第1の半導体基板における酸素化学濃度をCOX1、第2の半導体基板における酸素化学濃度をCOX2とする。
【0094】
水素注入の条件が同一なので、それぞれの半導体基板における空孔濃度NVは同一である。このため、2つの半導体基板において酸素寄与率ξも同一とする。式(3)から式(4)および(5)が得られる。
NF1=NB0+NV+ξCOX1 ・・・式(4)
NF2=NB0+NV+ξCOX2 ・・・式(5)
ここで、NF2>NF1とする。
【0095】
最終ドーピング濃度の差は、VOH欠陥濃度NVOHの差ΔNVOHである。従って、式(4)および(5)から式(6)が得られる。
NF2-NF1=ΔNVOH
=ξ(COX2-COX1)
ξ=ΔNVOH/(COX2-COX1) ・・・式(6)
【0096】
また、式(2)および(6)から式(7)が得られる。
NV=NVOH-ξCOX
=NVOH-(ΔNVOH/(COX2-COX1))COX ・・・式(7)
式(7)から、酸素寄与率ξが与えられれば、任意のVOH欠陥濃度NVOHおよび酸素化学濃度COXに対して、空孔濃度NVを算出できる。
【0097】
図6は、ドナー濃度増加量と、酸素化学濃度C
OXとの関係を示す図である。本例では、荷電粒子および水素イオンを注入する前の半導体基板と、荷電粒子および水素イオンを注入して熱処理した後の半導体基板との2つの基板について、深さ位置Zcにおける各キャリア濃度をSR法で測定し、その差分をドナー濃度増加量とした。ドナー濃度増加量は、VOH欠陥濃度N
VOHに対応する。また、本例の半導体基板の酸素化学濃度C
OXは、深さ方向において均一に分布する。
【0098】
図6においては、深さ位置Z1を100μmとし、深さ位置Z1に水素イオンを注入した。本例では、深さ位置Z1への水素イオンのドーズ量が、3×10
12ions/cm
2、1×10
13ions/cm
2、3×10
13ions/cm
2の3種類について示している。
図6に示されるように、酸素化学濃度C
OXに比例して、ドナー濃度増加量が直線的に増大している。
【0099】
図6の例において、酸素化学濃度C
OXとドナー濃度増加量(すなわちN
VOH)との関係を直線で近似した近似式を算出する。
図6では、水素イオンのドーズ量が3×10
13ions/cm
2の例を直線601で近似し、水素イオンのドーズ量が1×10
13ions/cm
2の例を直線602で近似し、水素イオンのドーズ量が3×10
12ions/cm
2の例を直線603で近似している。
【0100】
各直線を式(8)であらわす。
NVOH=a×COX+b ・・・式(8)
このとき、最小二乗法のフィッティングにより、各直線の傾きaおよび切片bは下記の通りである。
直線601:a=2.96303×10-4、b=2.18399×1013
直線602:a=1.87895×10-4、b=1.47920×1013
直線603:a=7.58824×10-5、b=6.38380×1012
なお、式(2)と式(8)を比べると、a=ξ、b=NVである。
【0101】
図7は、ドナー濃度増加量と、酸素化学濃度C
OXとの関係を示す図である。本例では、深さ位置Z1を50μmとしている。他の条件は、
図6と同一である。本例においても、酸素化学濃度C
OXに比例して、ドナー濃度増加量が直線的に増大している。
【0102】
図8は、水素イオンのドーズ量と、酸素寄与率ξおよび空孔濃度N
Vとの関係を示す図である。
図8は、
図6の例で求めたaおよびbをプロットし、曲線で近似している。本例では、深さ位置Z1への水素イオンドーズ量D
Hに対して、酸素寄与率ξおよび空孔濃度N
Vをべき関数で近似している。これは、水素イオンドーズ量D
Hが0に近づくと、酸素寄与率ξは0になると考えられるためである。酸素寄与率ξを対数関数で近似すると、酸素寄与率ξが0になるときに、水素イオンドーズ量D
Hが0より大きい有限値となる。また、水素イオンドーズ量D
Hが更に小さくなると、酸素寄与率ξが負の値になってしまう。空孔濃度N
Vについても同様である。
【0103】
図8では、酸素寄与率ξと水素イオンドーズ量の関係を曲線801で近似し、空孔濃度N
Vと水素イオンドーズ量の関係を曲線802で近似している。曲線801を式(9)であらわし、曲線802を式(10)であらわす。このとき、最小二乗法のフィッティングにより、各係数c~fは下記の通りである。
ξ=c×(D
H)
d ・・・式(9)
ただし、c=3.11503×10
-12、d=5.94169×10
-1
N
V=e×(D
H)
f ・・・式(10)
ただし、e=1.36398×10
6、f=5.36782×10
-1
【0104】
水素イオンドーズ量DHが小さすぎると、VOH欠陥濃度NVOHが小さくなる。この場合、バルク・ドナー濃度NB0のばらつきを吸収できるだけのドナー濃度増加量を確保することが困難になる。このため、水素イオンドーズ量は、1×1011ions/cm2以上であることが好ましい。このとき、式(9)から酸素寄与率ξは、1×10-5以上である。また、水素イオンドーズ量DHが大きすぎると、酸素および水素濃度によって形成できるVOH欠陥濃度に比べて、空孔濃度NVが高くなりすぎてしまう。このため、VOH欠陥にならない空孔が多くなってしまう。水素イオンドーズ量は、1.2×1014ions/cm2以下であることが好ましい。このとき、式(9)から酸素寄与率ξは、7×10-4以下である。つまり、酸素寄与率ξは、1×10-5以上、7×10-4以下であってよい。酸素寄与率ξは、1×10-4以上であってよい。酸素寄与率ξは、5×10-4以下であってよい。同様に、空孔濃度NVは、1×1011/cm3以上、1×1014/cm3以下であってよい。空孔濃度NVは、1×1012/cm3以上であってよく、1×1013/cm3以上であってよい。空孔濃度NVは、3×1013/cm3以下であってよい。空孔濃度NVは、VOH欠陥濃度NVOHと、寄与酸素濃度NOXとの差分(NVOH-NOX)から算出してよい。VOH欠陥濃度NVOHは、最終ドーピング濃度NFと、バルク・ドナー濃度NB0との差分(NF-NB0)から算出してよい。
【0105】
酸素化学濃度COXとして、MCZ基板の一般的な値を用いる。つまり、COXは、1×1017~7×1017/cm3である。NOX=ξ×COXなので、寄与酸素濃度NOXは、1×1012/cm3~5×1014/cm3である。式(2)から、NVOH=NV+NOXである。すなわち、VOH欠陥濃度NVOHは、2×1012/cm3以上、6×1014/cm3以下であってよい。VOH欠陥濃度NVOHは、1×1013/cm3以上であってよい。VOH欠陥濃度NVOHは、5×1014/cm3以下であってよい。
【0106】
図9は、水素イオンのドーズ量と、酸素寄与率ξおよび空孔濃度N
Vとの関係を示す図である。
図9は、
図7の例(すなわちZ1=50μm)に対応する。
図9では、酸素寄与率ξと水素イオンドーズ量の関係を曲線901で近似し、空孔濃度N
Vと水素イオンドーズ量の関係を曲線902で近似している。曲線901を式(12)であらわし、曲線902を式(11)であらわす。このとき、最小二乗法のフィッティングにより、各係数c~fは下記の通りである。
ξ=c×(D
H)
d ・・・式(11)
ただし、c=1.53343×10
-12、d=6.25800×10
-1
N
V=e×(D
H)
f ・・・式(12)
ただし、e=3.11098×10
3、f=7.41056×10
-1
【0107】
本例においても、酸素寄与率ξは、
図8の例と同一の範囲であってよい。空孔濃度N
Vも、
図8の例と同一の範囲であってよい。寄与酸素濃度N
OXも、
図8の例と同一の範囲であってよい。VOH欠陥濃度も、
図8の例と同一の範囲であってよい。
【0108】
平坦部150において、酸素化学濃度COXの最大値Omaxと、最小値Ominとの比をνとする。つまり、ν=Omin/Omaxである。比νは、0.1以上、1以下であってよい。比νが小さいと、VOH欠陥濃度NVOHの深さ方向におけるばらつきが大きくなり、半導体基板10の耐圧が劣化する場合がある。比νは、0.3以上であってよく、0.5以上であってもよい。比νは、0.95以下であってよく、0.9以下であってもよい。
【0109】
平坦部150には、炭素が含まれてよい。平坦部150の炭素化学濃度は、1×1013atoms/cm3以上、1×1016atoms/cm3以下であってよい。炭素化学濃度は、1×1014atoms/cm3以上であってよい。炭素化学濃度は、5×1015atoms/cm3以下であってよく、2×1015atoms/cm3以下であってもよい。VOH欠陥濃度NVOHに対する炭素化学濃度の寄与については後述する。
【0110】
図10は、半導体装置100の一例を示す上面図である。
図10においては、各部材を半導体基板10の上面に投影した位置を示している。
図10においては、半導体装置100の一部の部材だけを示しており、一部の部材は省略している。
【0111】
半導体装置100は、半導体基板10を備えている。半導体基板10は、
図1から
図9において説明した各濃度の分布を有してよい。ただし半導体基板10は、
図1から
図9において説明した各濃度ピークとは異なる他の濃度ピークを更に有していてよい。後述するバッファ領域20のように、水素イオンを注入して半導体基板10におけるN型領域を形成する場合がある。この場合、水素化学濃度分布は、
図2等において説明した水素化学濃度分布の他に、局所的な水素濃度ピークを有し得る。また、後述するエミッタ領域12のように、リン等の水素以外のN型不純物を注入して半導体基板10におけるN型領域を形成する場合がある。この場合、ドナー濃度分布は、
図4等において説明したドナー濃度分布の他に、局所的なドナー濃度ピークを有し得る。
【0112】
半導体基板10は、上面視において端辺162を有する。本明細書で単に上面視と称した場合、半導体基板10の上面側から見ることを意味している。本例の半導体基板10は、上面視において互いに向かい合う2組の端辺162を有する。
図10においては、X軸およびY軸は、いずれかの端辺162と平行である。またZ軸は、半導体基板10の上面と垂直である。
【0113】
半導体基板10には活性部160が設けられている。活性部160は、半導体装置100が動作した場合に半導体基板10の上面と下面との間で、深さ方向に主電流が流れる領域である。活性部160の上方には、エミッタ電極が設けられているが
図10では省略している。
【0114】
活性部160には、IGBT等のトランジスタ素子を含むトランジスタ部70と、還流ダイオード(FWD)等のダイオード素子を含むダイオード部80の少なくとも一方が設けられている。
図10の例では、トランジスタ部70およびダイオード部80は、半導体基板10の上面における所定の配列方向(本例ではX軸方向)に沿って、交互に配置されている。他の例では、活性部160には、トランジスタ部70およびダイオード部80の一方だけが設けられていてもよい。
【0115】
図10においては、トランジスタ部70が配置される領域には記号「I」を付し、ダイオード部80が配置される領域には記号「F」を付している。本明細書では、上面視において配列方向と垂直な方向を延伸方向(
図10ではY軸方向)と称する場合がある。トランジスタ部70およびダイオード部80は、それぞれ延伸方向に長手を有してよい。つまり、トランジスタ部70のY軸方向における長さは、X軸方向における幅よりも大きい。同様に、ダイオード部80のY軸方向における長さは、X軸方向における幅よりも大きい。トランジスタ部70およびダイオード部80の延伸方向と、後述する各トレンチ部の長手方向とは同一であってよい。
【0116】
ダイオード部80は、半導体基板10の下面と接する領域に、N+型のカソード領域を有する。本明細書では、カソード領域が設けられた領域を、ダイオード部80と称する。つまりダイオード部80は、上面視においてカソード領域と重なる領域である。半導体基板10の下面には、カソード領域以外の領域には、P+型のコレクタ領域が設けられてよい。本明細書では、ダイオード部80を、後述するゲート配線までY軸方向に延長した延長領域81も、ダイオード部80に含める場合がある。延長領域81の下面には、コレクタ領域が設けられている。
【0117】
トランジスタ部70は、半導体基板10の下面と接する領域に、P+型のコレクタ領域を有する。また、トランジスタ部70は、半導体基板10の上面側に、N型のエミッタ領域、P型のベース領域、ゲート導電部およびゲート絶縁膜を有するゲート構造が周期的に配置されている。
【0118】
半導体装置100は、半導体基板10の上方に1つ以上のパッドを有してよい。本例の半導体装置100は、ゲートパッド164を有している。半導体装置100は、アノードパッド、カソードパッドおよび電流検出パッド等のパッドを有してもよい。各パッドは、端辺162の近傍に配置されている。端辺162の近傍とは、上面視における端辺162と、エミッタ電極との間の領域を指す。半導体装置100の実装時において、各パッドは、ワイヤ等の配線を介して外部の回路に接続されてよい。
【0119】
ゲートパッド164には、ゲート電位が印加される。ゲートパッド164は、活性部160のゲートトレンチ部の導電部に電気的に接続される。半導体装置100は、ゲートパッド164とゲートトレンチ部とを接続するゲート配線を備える。
図10においては、ゲート配線に斜線のハッチングを付している。
【0120】
本例のゲート配線は、外周ゲート配線130と、活性側ゲート配線131とを有している。外周ゲート配線130は、上面視において活性部160と半導体基板10の端辺162との間に配置されている。本例の外周ゲート配線130は、上面視において活性部160を囲んでいる。上面視において外周ゲート配線130に囲まれた領域を活性部160としてもよい。また、外周ゲート配線130は、ゲートパッド164と接続されている。外周ゲート配線130は、半導体基板10の上方に配置されている。外周ゲート配線130は、アルミニウム等を含む金属配線であってよい。
【0121】
活性側ゲート配線131は、活性部160に設けられている。活性部160に活性側ゲート配線131を設けることで、半導体基板10の各領域について、ゲートパッド164からの配線長のバラツキを低減できる。
【0122】
活性側ゲート配線131は、活性部160のゲートトレンチ部と接続される。活性側ゲート配線131は、半導体基板10の上方に配置されている。活性側ゲート配線131は、不純物がドープされたポリシリコン等の半導体で形成された配線であってよい。
【0123】
活性側ゲート配線131は、外周ゲート配線130と接続されてよい。本例の活性側ゲート配線131は、Y軸方向の略中央で一方の外周ゲート配線130から他方の外周ゲート配線130まで、活性部160を横切るように、X軸方向に延伸して設けられている。活性側ゲート配線131により活性部160が分割されている場合、それぞれの分割領域において、トランジスタ部70およびダイオード部80がX軸方向に交互に配置されてよい。
【0124】
また、半導体装置100は、ポリシリコン等で形成されたPN接合ダイオードである不図示の温度センス部や、活性部160に設けられたトランジスタ部の動作を模擬する不図示の電流検出部を備えてもよい。
【0125】
本例の半導体装置100は、上面視において、活性部160と端辺162との間に、エッジ終端構造部90を備える。本例のエッジ終端構造部90は、外周ゲート配線130と端辺162との間に配置されている。エッジ終端構造部90は、半導体基板10の上面側の電界集中を緩和する。エッジ終端構造部90は、活性部160を囲んで環状に設けられたガードリング、フィールドプレートおよびリサーフのうちの少なくとも一つを備えていてよい。
【0126】
図11は、
図10における領域Dの拡大図である。領域Dは、トランジスタ部70、ダイオード部80、および、活性側ゲート配線131を含む領域である。本例の半導体装置100は、半導体基板10の上面側の内部に設けられたゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、ウェル領域11、エミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15を備える。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、それぞれがトレンチ部の一例である。また、本例の半導体装置100は、半導体基板10の上面の上方に設けられたエミッタ電極52および活性側ゲート配線131を備える。エミッタ電極52および活性側ゲート配線131は互いに分離して設けられる。
【0127】
エミッタ電極52および活性側ゲート配線131と、半導体基板10の上面との間には層間絶縁膜が設けられるが、
図11では省略している。本例の層間絶縁膜には、コンタクトホール54が、当該層間絶縁膜を貫通して設けられる。
図11においては、それぞれのコンタクトホール54に斜線のハッチングを付している。
【0128】
エミッタ電極52は、ゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、ウェル領域11、エミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15の上方に設けられる。エミッタ電極52は、コンタクトホール54を通って、半導体基板10の上面におけるエミッタ領域12、コンタクト領域15およびベース領域14と接触する。また、エミッタ電極52は、層間絶縁膜に設けられたコンタクトホールを通って、ダミートレンチ部30内のダミー導電部と接続される。エミッタ電極52は、Y軸方向におけるダミートレンチ部30の先端において、ダミートレンチ部30のダミー導電部と接続されてよい。
【0129】
活性側ゲート配線131は、層間絶縁膜に設けられたコンタクトホールを通って、ゲートトレンチ部40と接続する。活性側ゲート配線131は、Y軸方向におけるゲートトレンチ部40の先端部41において、ゲートトレンチ部40のゲート導電部と接続されてよい。活性側ゲート配線131は、ダミートレンチ部30内のダミー導電部とは接続されない。
【0130】
エミッタ電極52は、金属を含む材料で形成される。
図11においては、エミッタ電極52が設けられる範囲を示している。例えば、エミッタ電極52の少なくとも一部の領域はアルミニウムまたはアルミニウム‐シリコン合金、例えばAlSi、AlSiCu等の金属合金で形成される。エミッタ電極52は、アルミニウム等で形成された領域の下層に、チタンやチタン化合物等で形成されたバリアメタルを有してよい。さらにコンタクトホール内において、バリアメタルとアルミニウム等に接するようにタングステン等を埋め込んで形成されたプラグを有してもよい。
【0131】
ウェル領域11は、活性側ゲート配線131と重なって設けられている。ウェル領域11は、活性側ゲート配線131と重ならない範囲にも、所定の幅で延伸して設けられている。本例のウェル領域11は、コンタクトホール54のY軸方向の端から、活性側ゲート配線131側に離れて設けられている。ウェル領域11は、ベース領域14よりもドーピング濃度の高い第2導電型の領域である。本例のベース領域14はP-型であり、ウェル領域11はP+型である。
【0132】
トランジスタ部70およびダイオード部80のそれぞれは、配列方向に複数配列されたトレンチ部を有する。本例のトランジスタ部70には、配列方向に沿って1以上のゲートトレンチ部40と、1以上のダミートレンチ部30とが交互に設けられている。本例のダイオード部80には、複数のダミートレンチ部30が、配列方向に沿って設けられている。本例のダイオード部80には、ゲートトレンチ部40が設けられていない。
【0133】
本例のゲートトレンチ部40は、配列方向と垂直な延伸方向に沿って延伸する2つの直線部分39(延伸方向に沿って直線状であるトレンチの部分)と、2つの直線部分39を接続する先端部41を有してよい。
図11における延伸方向はY軸方向である。
【0134】
先端部41の少なくとも一部は、上面視において曲線状に設けられることが好ましい。2つの直線部分39のY軸方向における端部どうしを先端部41が接続することで、直線部分39の端部における電界集中を緩和できる。
【0135】
トランジスタ部70において、ダミートレンチ部30はゲートトレンチ部40のそれぞれの直線部分39の間に設けられる。それぞれの直線部分39の間には、1本のダミートレンチ部30が設けられてよく、複数本のダミートレンチ部30が設けられていてもよい。ダミートレンチ部30は、延伸方向に延伸する直線形状を有してよく、ゲートトレンチ部40と同様に、直線部分29と先端部31とを有していてもよい。
図11に示した半導体装置100は、先端部31を有さない直線形状のダミートレンチ部30と、先端部31を有するダミートレンチ部30の両方を含んでいる。
【0136】
ウェル領域11の拡散深さは、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の深さよりも深くてよい。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30のY軸方向の端部は、上面視においてウェル領域11に設けられる。つまり、各トレンチ部のY軸方向の端部において、各トレンチ部の深さ方向の底部は、ウェル領域11に覆われている。これにより、各トレンチ部の当該底部における電界集中を緩和できる。
【0137】
配列方向において各トレンチ部の間には、メサ部が設けられている。メサ部は、半導体基板10の内部において、トレンチ部に挟まれた領域を指す。一例としてメサ部の上端は半導体基板10の上面である。メサ部の下端の深さ位置は、トレンチ部の下端の深さ位置と同一である。本例のメサ部は、半導体基板10の上面において、トレンチに沿って延伸方向(Y軸方向)に延伸して設けられている。本例では、トランジスタ部70にはメサ部60が設けられ、ダイオード部80にはメサ部61が設けられている。本明細書において単にメサ部と称した場合、メサ部60およびメサ部61のそれぞれを指している。
【0138】
それぞれのメサ部には、ベース領域14が設けられる。メサ部において半導体基板10の上面に露出したベース領域14のうち、活性側ゲート配線131に最も近く配置された領域をベース領域14-eとする。
図11においては、それぞれのメサ部の延伸方向における一方の端部に配置されたベース領域14-eを示しているが、それぞれのメサ部の他方の端部にもベース領域14-eが配置されている。それぞれのメサ部には、上面視においてベース領域14-eに挟まれた領域に、第1導電型のエミッタ領域12および第2導電型のコンタクト領域15の少なくとも一方が設けられてよい。本例のエミッタ領域12はN+型であり、コンタクト領域15はP+型である。エミッタ領域12およびコンタクト領域15は、深さ方向において、ベース領域14と半導体基板10の上面との間に設けられてよい。
【0139】
トランジスタ部70のメサ部60は、半導体基板10の上面に露出したエミッタ領域12を有する。エミッタ領域12は、ゲートトレンチ部40に接して設けられている。ゲートトレンチ部40に接するメサ部60は、半導体基板10の上面に露出したコンタクト領域15が設けられていてよい。
【0140】
メサ部60におけるコンタクト領域15およびエミッタ領域12のそれぞれは、X軸方向における一方のトレンチ部から、他方のトレンチ部まで設けられる。一例として、メサ部60のコンタクト領域15およびエミッタ領域12は、トレンチ部の延伸方向(Y軸方向)に沿って交互に配置されている。
【0141】
他の例においては、メサ部60のコンタクト領域15およびエミッタ領域12は、トレンチ部の延伸方向(Y軸方向)に沿ってストライプ状に設けられていてもよい。例えばトレンチ部に接する領域にエミッタ領域12が設けられ、エミッタ領域12に挟まれた領域にコンタクト領域15が設けられる。
【0142】
ダイオード部80のメサ部61には、エミッタ領域12が設けられていない。メサ部61の上面には、ベース領域14およびコンタクト領域15が設けられてよい。メサ部61の上面においてベース領域14-eに挟まれた領域には、それぞれのベース領域14-eに接してコンタクト領域15が設けられてよい。メサ部61の上面においてコンタクト領域15に挟まれた領域には、ベース領域14が設けられてよい。ベース領域14は、コンタクト領域15に挟まれた領域全体に配置されてよい。
【0143】
それぞれのメサ部の上方には、コンタクトホール54が設けられている。コンタクトホール54は、ベース領域14-eに挟まれた領域に配置されている。本例のコンタクトホール54は、コンタクト領域15、ベース領域14およびエミッタ領域12の各領域の上方に設けられる。コンタクトホール54は、ベース領域14-eおよびウェル領域11に対応する領域には設けられない。コンタクトホール54は、メサ部60の配列方向(X軸方向)における中央に配置されてよい。
【0144】
ダイオード部80において、半導体基板10の下面と隣接する領域には、N+型のカソード領域82が設けられる。半導体基板10の下面において、カソード領域82が設けられていない領域には、P+型のコレクタ領域22が設けられてよい。カソード領域82およびコレクタ領域22は、半導体基板10の下面23と、バッファ領域20との間に設けられている。
図11においては、カソード領域82およびコレクタ領域22の境界を点線で示している。
【0145】
カソード領域82は、Y軸方向においてウェル領域11から離れて配置されている。これにより、比較的にドーピング濃度が高く、且つ、深い位置まで形成されているP型の領域(ウェル領域11)と、カソード領域82との距離を確保して、耐圧を向上できる。本例のカソード領域82のY軸方向における端部は、コンタクトホール54のY軸方向における端部よりも、ウェル領域11から離れて配置されている。他の例では、カソード領域82のY軸方向における端部は、ウェル領域11とコンタクトホール54との間に配置されていてもよい。
【0146】
図12は、
図11におけるe-e断面の一例を示す図である。e-e断面は、エミッタ領域12およびカソード領域82を通過するXZ面である。本例の半導体装置100は、当該断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52およびコレクタ電極24を有する。
【0147】
層間絶縁膜38は、半導体基板10の上面に設けられている。層間絶縁膜38は、ホウ素またはリン等の不純物が添加されたシリケートガラス等の絶縁膜、熱酸化膜、および、その他の絶縁膜の少なくとも一層を含む膜である。層間絶縁膜38には、
図11において説明したコンタクトホール54が設けられている。
【0148】
エミッタ電極52は、層間絶縁膜38の上方に設けられる。エミッタ電極52は、層間絶縁膜38のコンタクトホール54を通って、半導体基板10の上面21と接触している。コレクタ電極24は、半導体基板10の下面23に設けられる。エミッタ電極52およびコレクタ電極24は、アルミニウム等の金属材料で形成されている。本明細書において、エミッタ電極52とコレクタ電極24とを結ぶ方向(Z軸方向)を深さ方向と称する。
【0149】
半導体基板10は、N型またはN-型のドリフト領域18を有する。ドリフト領域18は、トランジスタ部70およびダイオード部80のそれぞれに設けられている。
【0150】
トランジスタ部70のメサ部60には、N+型のエミッタ領域12およびP-型のベース領域14が、半導体基板10の上面21側から順番に設けられている。ベース領域14の下方にはドリフト領域18が設けられている。メサ部60には、N+型の蓄積領域16が設けられてもよい。蓄積領域16は、ベース領域14とドリフト領域18との間に配置される。
【0151】
エミッタ領域12は半導体基板10の上面21に露出しており、且つ、ゲートトレンチ部40と接して設けられている。エミッタ領域12は、メサ部60の両側のトレンチ部と接していてよい。エミッタ領域12は、ドリフト領域18よりもドーピング濃度が高い。
【0152】
ベース領域14は、エミッタ領域12の下方に設けられている。本例のベース領域14は、エミッタ領域12と接して設けられている。ベース領域14は、メサ部60の両側のトレンチ部と接していてよい。
【0153】
蓄積領域16は、ベース領域14の下方に設けられている。蓄積領域16は、ドリフト領域18よりもドーピング濃度が高いN+型の領域である。ドリフト領域18とベース領域14との間に高濃度の蓄積領域16を設けることで、キャリア注入促進効果(IE効果)を高めて、オン電圧を低減できる。蓄積領域16は、各メサ部60におけるベース領域14の下面全体を覆うように設けられてよい。
【0154】
ダイオード部80のメサ部61には、半導体基板10の上面21に接して、P-型のベース領域14が設けられている。ベース領域14の下方には、ドリフト領域18が設けられている。メサ部61において、ベース領域14の下方に蓄積領域16が設けられていてもよい。
【0155】
トランジスタ部70およびダイオード部80のそれぞれにおいて、ドリフト領域18の下にはN+型のバッファ領域20が設けられてよい。バッファ領域20のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。バッファ領域20は、ドリフト領域18よりもドーピング濃度の高いピーク25を有する。ピーク25のドーピング濃度とは、ピーク25の頂点におけるドーピング濃度を指す。また、ドリフト領域18のドーピング濃度は、ドーピング濃度分布が実質的に(ほぼ)平坦な領域におけるドーピング濃度の平均値を用いてよい。
【0156】
本例のバッファ領域20は、半導体基板10の深さ方向(Z軸方向)において、3つ以上のピーク25を有する。バッファ領域20のピーク25は、例えば水素(プロトン)またはリンの濃度ピークである。バッファ領域20は、ベース領域14の下端から広がる空乏層が、P+型のコレクタ領域22およびN+型のカソード領域82に到達することを防ぐフィールドストップ層として機能してよい。本明細書では、バッファ領域20の上端の深さ位置をZfとする。深さ位置Zfは、ドーピング濃度が、ドリフト領域18のドーピング濃度より高くなる位置であってよい。
【0157】
トランジスタ部70において、バッファ領域20の下には、P+型のコレクタ領域22が設けられる。コレクタ領域22のアクセプタ濃度は、ベース領域14のアクセプタ濃度より高い。コレクタ領域22は、ベース領域14と同一のアクセプタを含んでよく、異なるアクセプタを含んでもよい。コレクタ領域22のアクセプタは、例えばボロンである。
【0158】
ダイオード部80において、バッファ領域20の下には、N+型のカソード領域82が設けられる。カソード領域82のドナー濃度は、ドリフト領域18のドナー濃度より高い。カソード領域82のドナーは、例えば水素またはリンである。なお、各領域のドナーおよびアクセプタとなる元素は、上述した例に限定されない。コレクタ領域22およびカソード領域82は、半導体基板10の下面23に露出しており、コレクタ電極24と接続している。コレクタ電極24は、半導体基板10の下面23全体と接触してよい。エミッタ電極52およびコレクタ電極24は、アルミニウム等の金属材料で形成される。
【0159】
半導体基板10の上面21側には、1以上のゲートトレンチ部40、および、1以上のダミートレンチ部30が設けられる。各トレンチ部は、半導体基板10の上面21から、ベース領域14を貫通して、ドリフト領域18に到達している。エミッタ領域12、コンタクト領域15および蓄積領域16の少なくともいずれかが設けられている領域においては、各トレンチ部はこれらのドーピング領域も貫通して、ドリフト領域18に到達している。トレンチ部がドーピング領域を貫通するとは、ドーピング領域を形成してからトレンチ部を形成する順序で製造したものに限定されない。トレンチ部を形成した後に、トレンチ部の間にドーピング領域を形成したものも、トレンチ部がドーピング領域を貫通しているものに含まれる。
【0160】
上述したように、トランジスタ部70には、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30が設けられている。ダイオード部80には、ダミートレンチ部30が設けられ、ゲートトレンチ部40が設けられていない。本例においてダイオード部80とトランジスタ部70のX軸方向における境界は、カソード領域82とコレクタ領域22の境界である。
【0161】
ゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面21に設けられたゲートトレンチ、ゲート絶縁膜42およびゲート導電部44を有する。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁を覆って設けられる。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁の半導体を酸化または窒化して形成してよい。ゲート導電部44は、ゲートトレンチの内部においてゲート絶縁膜42よりも内側に設けられる。つまりゲート絶縁膜42は、ゲート導電部44と半導体基板10とを絶縁する。ゲート導電部44は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。
【0162】
ゲート導電部44は、深さ方向において、ベース領域14よりも長く設けられてよい。当該断面におけるゲートトレンチ部40は、半導体基板10の上面21において層間絶縁膜38により覆われる。ゲート導電部44は、ゲート配線に電気的に接続されている。ゲート導電部44に所定のゲート電圧が印加されると、ベース領域14のうちゲートトレンチ部40に接する界面の表層に電子の反転層によるチャネルが形成される。
【0163】
ダミートレンチ部30は、当該断面において、ゲートトレンチ部40と同一の構造を有してよい。ダミートレンチ部30は、半導体基板10の上面21に設けられたダミートレンチ、ダミー絶縁膜32およびダミー導電部34を有する。ダミー導電部34は、エミッタ電極52に電気的に接続されている。ダミー絶縁膜32は、ダミートレンチの内壁を覆って設けられる。ダミー導電部34は、ダミートレンチの内部に設けられ、且つ、ダミー絶縁膜32よりも内側に設けられる。ダミー絶縁膜32は、ダミー導電部34と半導体基板10とを絶縁する。ダミー導電部34は、ゲート導電部44と同一の材料で形成されてよい。例えばダミー導電部34は、ポリシリコン等の導電材料で形成される。ダミー導電部34は、深さ方向においてゲート導電部44と同一の長さを有してよい。
【0164】
本例のゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、半導体基板10の上面21において層間絶縁膜38により覆われている。なお、ダミートレンチ部30およびゲートトレンチ部40の底部は、下側に凸の曲面状(断面においては曲線状)であってよい。本明細書では、ゲートトレンチ部40の下端の深さ位置をZtとする。
【0165】
ドリフト領域18は、
図4等において説明した平坦部150を含んでよい。つまりドリフト領域18は、主にバルク・ドナー濃度と、水素ドナー(VOH欠陥)濃度とによって定まるドナー濃度を有する。ドリフト領域18には、水素化学濃度C
Hの第2のピーク141が配置されていてよい。ドリフト領域18以外の領域には、局所的にドーパントが注入されている。このため、これらの領域におけるドーピング濃度は、
図4等において説明したドナー濃度D
Dとは異なる。
【0166】
図13は、
図12のF-F線の位置における、深さ方向のキャリア濃度分布の一例を示す図である。
図13においては、水素濃度分布C
Hの一部を合わせて示している。
図13の縦軸は、対数軸である。
【0167】
本例のバッファ領域20におけるキャリア濃度分布は、深さ方向において異なる位置に設けられた複数のピーク25を有する。ピーク25は、ドナー濃度のピークである。ピーク25は、不純物として水素を有してよい。複数のピーク25を設けることで、空乏層がコレクタ領域22に達することを、より抑制できる。第2のドナーピーク111は、バッファ領域20における、いずれかのピーク25として機能してよい。
【0168】
一例として第2のドナーピーク111は、バッファ領域20の複数のピーク25のうち、半導体基板10の下面23から最も離れたピークとして機能してよい。平坦部150は、バッファ領域20に含まれる第2のドナーピーク111から、第1のドナーピーク121の間に配置されている。
【0169】
第2のドナーピーク111は、バッファ領域20の複数のピーク25のうち、第2のドナーピーク111の次に下面23から離れたピーク25よりも、ドナー濃度が高くてよい。第2のドナーピーク111の濃度を高くすることで、平坦部150を形成しやすくなる。水素化学濃度分布CHは、深さ位置Z2と、下面23との間に、1つ以上の水素濃度ピーク194を有してよい。水素濃度ピーク194は、バッファ領域20に配置されてよい。水素濃度ピーク194は、ピーク25と同一の深さ位置に配置されてよい。
【0170】
本例の蓄積領域16は、複数のピーク26を有している。ピーク26は、ドナー濃度のピークである。本例の第1のドナーピーク121は、蓄積領域16よりも、下面23側に配置されている。第1のドナーピーク121と、蓄積領域16との間には、平坦部150よりもドーピング濃度の低い領域180が設けられていてよい。領域180のドーピング濃度は、バルク・ドナー濃度NB0であってよい。
【0171】
また半導体装置100は、半導体基板10として、半導体インゴット製造時にリン(P)等のドーパントがインゴット全体にドーピングされないノンドーピング基板を用いてもよい。この場合、領域180のベースドーピング濃度Dnは、バルク・ドーピング濃度NB0よりも低い。ベースドーピング濃度Dnは、例えば1×1010atoms/cm3以上、5×1012atoms/cm3以下である。ベースドーピング濃度Dnは、1×1011atoms/cm3以上であってよい。ベースドーピング濃度Dnは、5×1012atoms/cm3以下であってよい。
【0172】
図14は、
図10におけるg-g断面の一例を示す図である。
図14に示す断面は、エッジ終端構造部90およびトランジスタ部70を含むXZ面である。なお、エッジ終端構造部90およびトランジスタ部70の間において、半導体基板10の上方には、外周ゲート配線130が配置されている。外周ゲート配線130は、エミッタ電極52と分離して設けられている。また、エッジ終端構造部90およびトランジスタ部70の間において、半導体基板10の上面21には、ウェル領域11が配置されている。本例のウェル領域11は、トレンチ部よりも浅い範囲に設けられている。トランジスタ部70の構造は、
図10から
図12において説明したトランジスタ部70と同様である。
【0173】
エッジ終端構造部90には、複数のガードリング92、複数のフィールドプレート94およびチャネルストッパ174が設けられている。エッジ終端構造部90において、下面23に接する領域には、コレクタ領域22が設けられていてよい。各ガードリング92は、上面21において活性部160を囲むように設けられてよい。複数のガードリング92は、活性部160において発生した空乏層を半導体基板10の外側へ広げる機能を有してよい。これにより、半導体基板10内部における電界集中を防ぐことができ、半導体装置100の耐圧を向上できる。
【0174】
本例のガードリング92は、上面21近傍にイオン注入により形成されたP型の半導体領域である。ガードリング92の底部の深さは、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の底部より浅くてよい。
【0175】
ガードリング92の上面は、層間絶縁膜38により覆われている。フィールドプレート94は、金属またはポリシリコン等の導電材料で形成される。フィールドプレート94は、エミッタ電極52と同じ材料で形成されてよい。フィールドプレート94は、層間絶縁膜38上に設けられている。フィールドプレート94は、層間絶縁膜38に設けられた貫通孔を通って、ガードリング92に接続されている。
【0176】
チャネルストッパ174は、端辺162における上面21および側面に露出して設けられる。チャネルストッパ174は、ドリフト領域18よりもドーピング濃度の高いN型の領域である。チャネルストッパ174は、活性部160において発生した空乏層を半導体基板10の端辺162において終端させる機能を有する。
【0177】
本例では、水素化学濃度の第2のピーク141は、ウェル領域11の底部と、半導体基板10の下面23との間に配置されている。第2のピーク141は、エッジ終端構造部90にも設けられてよい。また、第2のピーク141は、エッジ終端構造部90と、トランジスタ部70との間にも設けられてよい。第2のピーク141は、半導体基板10のXY面全体に設けられてよい。
図1等に示した通過領域106は、半導体基板10の下面23から、第2のピーク141まで形成される。
【0178】
図15は、
図10におけるg-g断面の他の例を示す図である。本例においては、ウェル領域11が、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の下端よりも深くまで設けられている。他の構造は、
図14の例と同一であってよい。当該断面において少なくとも一つのトレンチ部は、ウェル領域11の内部に配置されてよい。
図15の例では、最もエッジ終端構造部90に近い一つのトレンチ部が、ウェル領域11の内部に配置されている。
【0179】
本例の第2のピーク141は、ウェル領域11の下端と、半導体基板10の上面21との間に配置されている。他の例では、第2のピーク141は、ウェル領域11の下端と、半導体基板10の下面23との間に配置されてもよい。
【0180】
図16は、半導体装置100の製造方法の一例を示す図である。本例の製造方法は、基板準備段階S1600、デバイス製造段階S1606、濃度測定段階S1602、および、注入量算出段階S1604を備える。
【0181】
基板準備段階S1600において、半導体基板10を準備する。半導体基板10は、例えばMCZ基板である。濃度測定段階S1602では、半導体基板10の酸素化学濃度COXを測定する。濃度測定段階S1602では、FTIR法(赤外吸収分光法)により、酸素化学濃度を測定してよい。また、濃度測定段階S1602では、半導体基板10の基板抵抗値(Ω・cm)を更に測定してよい。
【0182】
注入量算出段階S1604では、S1602で測定した酸素化学濃度に基づいて、深さ位置Z1に注入する荷電粒子線の注入量を算出する。上述したように、荷電粒子線の注入量により、形成されるVOH欠陥濃度を制御できる。注入量算出段階S1604においては、
図4等において説明した平坦部150の基板抵抗値が所定の目標抵抗値となるように、荷電粒子線の注入量を算出してよい。目標抵抗値は、半導体装置100の製造者により設定されてよい。平坦部150の基板抵抗値は、平坦部150のドナー濃度と一対一に対応する。このため、平坦部150の基板抵抗値が目標抵抗値となるような、ドナー濃度増加量が定まる。荷電粒子線の注入量、ドナー濃度増加量、および、酸素化学濃度との関係は、
図6および
図7に示したように、実験的に予め取得できる。注入量算出段階S1604においては、予め取得した上記の関係に基づいて、荷電粒子線の注入量を算出してよい。
【0183】
上述した式(11)および(12)を式(2)に代入すると、式(13)が得られる。
NVOH=c×(DH)d+e×(DH)f×COX ・・・式(13)
また、式(1)から式(13)は式(14)となる。
NF-NB0=c×(DH)d+e×(DH)f×COX ・・・式(14)
【0184】
最終ドーピング濃度NFは設定値であり、バルク・ドナー濃度NB0は測定値または半導体ウエハの仕様値から既知である。酸素化学濃度COXは、S1602の測定により既知である。パラメータc、d、e、fは、上述したように実験的に予め取得できる。従って、式(14)の変数は、荷電粒子の注入量(本例では水素イオンのドーズ量DH)のみである。式(14)を数値的に解くことで、荷電粒子の注入量を算出できる。式(14)から得られた荷電粒子の注入量DHは、式(8)、式(10)および式(11)のフィッティングにおける各データの値のばらつきを反映した幅(誤差)を有してよい。すなわち、荷電粒子の注入量DHは、式(13)または式(14)から得られた値に対して、例えば±50%の範囲であれば、式(13)または式(14)から得られた値と考えてよい。
【0185】
本例のデバイス製造段階S1606は、粒子注入段階S1608、水素注入段階S1610および熱処理段階S1612を有する。デバイス製造段階S1606は、
図10から
図12において説明した各構成を形成する段階を有するが、
図16では省略している。
【0186】
粒子注入段階S1608では、半導体基板10の下面23から、半導体基板10の深さ方向の厚みの半分以上を通過するように、荷電粒子線を注入する。S1608では、荷電粒子線として、プロトン等の水素イオンを注入してよい。これにより、
図2に示したような第2のピーク141が形成される。また、
図2に示したような空孔濃度N
Vの分布が形成される。S1608における荷電粒子線の注入量は、注入量算出段階S1604で算出した注入量に調整される。これにより、平坦部150が目標抵抗値となるような濃度の空孔を形成できる。
【0187】
なお、荷電粒子線が電子線の場合、第2のピーク141は形成されない。この場合でも、電子線の注入量に応じた濃度の空孔が形成される。このため、電子線の注入量を調整することで、平坦部150が目標抵抗値となるような濃度の空孔を形成できる。
【0188】
水素注入段階S1610では、半導体基板10の下面23側に水素イオンを注入する。S1608では、
図1等において説明した深さ位置Z2に水素イオンを注入する。水素注入段階S1610では、S1608で形成した空孔を十分に終端できる濃度の水素イオンを注入してよい。粒子注入段階S1608および水素注入段階S1610は、熱処理段階S1612よりも前に行われる。
【0189】
熱処理段階S1612では、半導体基板10を熱処理する。熱処理段階S1612の熱処理温度は、350℃以上、380℃以下であってよい。このような方法により、半導体基板10の酸素化学濃度にばらつきがあっても、平坦部150の抵抗値を目標値に調整できる。
【0190】
粒子注入段階S1608の前に、
図12に示した構造のうち、半導体基板10の上面21側の構造を形成してよい。上面21側の構造とは、各トレンチ部、エミッタ領域12、ベース領域14、蓄積領域16、層間絶縁膜38およびエミッタ電極52を含んでよい。また、粒子注入段階S1608の前に、カソード領域82およびコレクタ領域22を形成してよい。粒子注入段階S1608においては、ゲートトレンチ部40の下端よりも下面23側の深さ位置Z1に荷電粒子線を注入してよい。これにより、荷電粒子線注入によるダメージが、ゲート絶縁膜42に影響することを抑制できる。
【0191】
図17は、荷電粒子線の注入量の算出方法の他の例を示す図である。本例の荷電粒子線は水素イオンである。
図17は、酸素化学濃度とドナー濃度増加量との関係を示す上段グラフ、および、水素イオンドーズ量と酸素化学濃度の逆数との関係を示す下段グラフを含む。上段グラフは、
図6のグラフの一部を拡大した図である。
【0192】
上段グラフにおいて、ドナー濃度増加量の目標値を一点鎖線で示している。目標増加量は、平坦部150の抵抗値を目標値にするための増加量である。上段グラフから、直線602、603において、目標増加量に対応する酸素化学濃度が得られる。下段グラフは、上段グラフから得られた酸素化学濃度の逆数と、直線602、603における水素イオンドーズ量との関係をプロットしている。また、下段グラフにおいては、酸素化学濃度の逆数と、水素イオンドーズ量との関係を曲線で近似している。
【0193】
下段グラフで示される関係を予め取得しておけば、半導体装置100の製造に用いる半導体基板10の酸素化学濃度から、注入すべき水素イオンドーズ量を算出できる。例えば、半導体基板10の酸素化学濃度が3.7×1017atoms/cm3の場合、酸素化学濃度の逆数は、2.8×10-18である。下段グラフの関係から、2.8×10-18に対応する水素イオンドーズ量は、4.2×1012ions/cm2と算出できる。下段グラフの関係は、ドナー濃度の目標増加量に応じて変化する。このため、上段グラフの関係を予め取得しておけば、ドナー濃度の目標増加量および酸素化学濃度から、注入すべき水素イオンドーズ量を算出できる。
【0194】
図18は、半導体装置100の製造方法の他の例を示す図である。本例の製造方法は、
図16に示した例に対して、酸素導入段階S1802を更に備える。他の段階は、
図16の例と同一である。酸素導入段階S1802は、粒子注入段階S1608より前に行う。
【0195】
酸素導入段階S1802は、半導体基板10の内部に酸素を導入する。酸素導入段階S1802は、酸素含有雰囲気で半導体基板10を熱処理することで、半導体基板10に酸素を導入してよい。酸素導入段階S1802においては、半導体基板10の酸素化学濃度が、予め定められた範囲内となるように酸素を導入してよい。半導体基板10に酸素を導入することで、平坦部150のドナー濃度を調整しやすくなる。例えば、S1600において準備した半導体基板10における酸素化学濃度が低く、VOH欠陥を十分に形成できない場合であっても、半導体基板10に酸素を導入することで、酸素化学濃度を高くできる。
【0196】
酸素導入段階S1802において導入された酸素化学濃度(導入濃度と称する)は、酸素導入段階S1802の前における半導体基板10の酸素化学濃度(原濃度と称する)よりも大きくてよい。導入濃度は、上述した熱処理の温度、時間、雰囲気中の酸素濃度等の条件により精度よく制御できるので、導入濃度の割合を原濃度よりも大きくすることで、半導体基板10の酸素化学濃度のばらつきを低減できる。導入濃度は原濃度の2倍以上であってよく、5倍以上であってよく、10倍以上であってもよい。
【0197】
酸素導入段階S1802においては、濃度測定段階S1602において測定された酸素化学濃度に応じて、半導体基板10に酸素を導入してもよい。例えば酸素導入段階S1802で導入する酸素化学濃度と、濃度測定段階S1602において測定された酸素化学濃度との和が所定の目標値となるように、酸素を導入してよい。濃度測定段階S1802は、酸素導入段階S1802を行った後の半導体基板10の酸素化学濃度を測定してもよい。この場合、荷電粒子線の注入量を更に精度よく算出できる。
【0198】
図19は、デバイス製造段階S1606の一例を示す図である。本例のデバイス製造段階S1606は、上面側プロセスS1902と、下面側プロセスS1904とを有する。上面側プロセスS1902は、半導体基板10の上面21側の構造を形成する段階である。上面21側の構造は、例えばトレンチ部、エミッタ領域12、ベース領域14、蓄積領域16、ウェル領域11、エミッタ電極52、ゲート配線、ガードリング92、フィールドプレート94、チャネルストッパ174、および、層間絶縁膜38を含む。下面側プロセスS1904は、半導体基板10の下面23側の構造を形成する段階である。下面23側の構造は、例えばカソード領域82、コレクタ領域22、バッファ領域20、および、コレクタ電極24を含む。
【0199】
本例においては、上面側プロセスS1902において、酸素導入段階S1802を行う。酸素導入段階S1802は、上面21側の構造を形成するのに行う熱処理段階を兼ねていてもよい。例えば酸素導入段階S1802は、エミッタ領域12、ベース領域14または蓄積領域16にドーパントを注入した後に行う熱処理段階であってよい。
【0200】
本例においては、下面側プロセスS1904において、粒子注入段階S1608、水素注入段階S1610および熱処理段階S1612を行う。水素注入段階S1610および熱処理段階S1612は、バッファ領域20を形成するプロセスの一部であってよい。つまり、水素注入段階S1610は、バッファ領域20のいずれかのピーク25を形成してよい。熱処理段階S1612は、バッファ領域20の複数のピーク25の位置に水素イオンを注入した後に行ってよい。
【0201】
図20は、デバイス製造段階S1606の他の例を示す図である。本例のデバイス製造段階S1606は、下面側プロセスS1904において酸素導入段階S1802を行う点で、
図19の例と相違する。他の段階は、
図19の例と同一である。酸素導入段階S1802は、下面23側の構造を形成するのに行う熱処理段階を兼ねていてもよい。例えば酸素導入段階S1802は、コレクタ領域22またはカソード領域82にドーパントを注入した後に行う熱処理段階であってよい。本例においても、酸素導入段階S1802は、水素注入段階S1610よりも前に行う。酸素導入段階S1802は、荷電粒子注入段階S1608よりも前に行ってよい。
【0202】
図21は、酸素寄与率ξと、第2のピーク141が配置される深さ位置Z1との関係を示す図である。
図21においては、水素イオンドーズ量が、3×10
14ions/cm
2、1×10
14ions/cm
2、3×10
13ions/cm
2、1×10
13ions/cm
2、3×10
12ions/cm
2、または、1×10
12ions/cm
2のそれぞれの場合について、酸素寄与率ξと深さ位置Z1との関係を示している。
【0203】
図8および
図9に示したように、酸素寄与率ξは、深さ位置Z1によって変化する。
図8において四角でプロットされた各点を、
図21におけるZ1=100μmの深さ位置にプロットしている。また、
図9において四角でプロットされた各点を、
図21におけるZ1=50μmの深さ位置にプロットしている。更に、Z1=150μmの深さ位置におけるプロットを
図21に追加している。水素イオンドーズ量が3×10
14ions/cm
2、1×10
14ions/cm
2、および、1×10
12ions/cm
2については、
図21におけるプロットを省略している。これらのプロットを、水素イオンドーズ量毎に最小二乗法で直線近似(横軸がリニア、縦軸が常用対数)した線を、
図21において太線で示している。酸素寄与率ξは、深さ位置Z1に対して指数関数的に減少してよい。
【0204】
図21に示す関係と、深さ位置Z1に対する水素イオンのドーズ量D
Hと、深さ位置Z1から、酸素寄与率ξを検出できる。深さ位置Z1は、半導体装置100の水素化学濃度分布におけるピークの位置から測定できる。また、ドーズ量D
Hは、深さ位置Z1に頂点を有する水素化学濃度の山形のピークについて、深さ方向に水素化学濃度を積分することで測定できる。積分範囲は、一例として水素化学濃度のピーク値の10%における全幅(FW10%M)であってよい。あるいは、ドーズ量D
Hは、水素化学濃度のピーク値に半値全幅(FWHM)を掛けた値であってもよい。
【0205】
例えば、深さ位置Z1が120μmであり、ドーズ量D
Hが5×10
12ions/cm
2の場合を、
図21において黒丸で示している。この場合、酸素寄与率ξはおよそξ=1.2×10
-4である。当該値をξ1とする。
【0206】
図22は、空孔濃度N
Vと、第2のピーク141が配置される深さ位置Z1との関係を示す図である。
図21においては、水素イオンドーズ量が、3×10
14ions/cm
2、1×10
14ions/cm
2、3×10
13ions/cm
2、1×10
13ions/cm
2、3×10
12ions/cm
2、または、1×10
12ions/cm
2のそれぞれの場合について、酸素寄与率ξと深さ位置Z1との関係を示している。
図8および
図9に示したように、空孔濃度N
Vについても酸素寄与率ξと同様に、深さ位置Z1によって変化する。
図22のグラフは、
図21のグラフと同様に作成している。空孔濃度N
Vは、深さ位置Z1に対して指数関数的に減少してよい。
【0207】
図22に示す関係と、深さ位置Z1に対する水素イオンのドーズ量D
Hと、深さ位置Z1から、空孔濃度N
Vを検出できる。深さ位置Z1およびドーズ量D
Hは、
図21において説明したように、半導体装置100から測定できる。例えば、深さ位置Z1が120μmであり、ドーズ量D
Hが5×10
12ions/cm
2の場合を、
図22において黒丸で示している。この場合、空孔濃度N
VはおよそN
V=7×10
12ions/cm
3である。当該値をN
V1とする。
【0208】
算出した酸素寄与率ξ1および空孔濃度NV1と、酸素化学濃度COXから、式(2)を用いてVOH欠陥濃度NVOH1(水素ドナー濃度の第1の値)を算出できる。つまり、第1の値NVOH1は、平坦部150における酸素化学濃度に酸素寄与率を乗じた値と、平坦部150の空孔濃度との和である。酸素化学濃度COXは、半導体装置100における酸素化学濃度を測定すればよい。例えば酸素化学濃度COXが2×1017atoms/cm3の場合、VOH欠陥濃度NVOH1は下記のようになる。
NVOH1=7×1012+1.2×10-4×2×1017=3.1×1013(atoms/cm3)
【0209】
一方で、VOH欠陥濃度NVOHは、半導体装置100の特性から測定できる。例えば、VOH欠陥濃度NVOHは、最終ドーピング濃度NFと、バルク・ドナー濃度NB0との差分(NF-NB0)から測定できる。最終ドーピング濃度NFと、バルク・ドナー濃度NB0は、半導体装置100から測定できる。測定したVOH欠陥濃度NVOHをNVOH2(水素ドナー濃度の第2の値)とする。つまり、第2の値NVOH2は、平坦部150のドナー濃度から、バルク・ドナー濃度を減じた差分である。例えば、最終ドーピング濃度NFが7×1013(atoms/cm3)、バルク・ドナー濃度NB0が2×1012(atoms/cm3)の場合、VOH欠陥濃度NVOH2は下記のようになる。
NVOH2=7×1013-2×1012=6.8×1013(atoms/cm3)
算出したNVOH1が、実測値のNVOH2に十分一致していれば、算出した酸素寄与率ξ1および空孔濃度NV1が概ね正しいと判定できる。すなわち、水素ドナー濃度の第2の値NVOH2に対する、水素ドナー濃度の第1の値NVOH1の比NVOH1/NVOH2が、0.1≦NVOH1/NVOH2≦10であれば、十分一致しているとしてよい。上記の例の場合、NVOH1/NVOH2=3.1×1013/6.8×1013≒0.46であり、算出した酸素寄与率ξ1および空孔濃度NV1は正しい。
【0210】
算出したNVOH1が、実測値のNVOH2に十分一致しており、または、算出した酸素寄与率ξ1が所定の範囲内であれば、半導体装置100の酸素寄与率ξは、当該範囲内にあると判定できる。同様に、算出したNVOH1が、実測値のNVOH2に十分一致しており、または、算出した空孔濃度NV1が所定の範囲内であれば、半導体装置100の空孔濃度NV1は、当該範囲内にあると判定できる。
【0211】
0.2≦NVOH1/NVOH2≦5の場合に、算出したNVOH1が、実測値のNVOH2に十分一致していると判定してもよい。また、0.3≦NVOH1/NVOH2≦3の場合に、算出したNVOH1が、実測値のNVOH2に十分一致していると判定してもよい。0.5≦NVOH1/NVOH2≦2の場合に、算出したNVOH1が、実測値のNVOH2に十分一致していると判定してもよい。
【0212】
式(1)においては、水素ドナー(VOH欠陥)の生成において酸素の寄与を考慮した。ただし、後述するように深さ位置Z1が浅い場合、水素イオンドーズ量が高い場合、または、炭素化学濃度が高い場合等のように、水素ドナーの生成に炭素の寄与が無視できない場合も考えられる。炭素の化学濃度に対して、水素ドナーのドーピング濃度に寄与する炭素の化学濃度の割合を炭素寄与率ηとする。炭素寄与率ηとは、所定の領域(例えば下面または上面からの深さ位置)における全ての炭素原子の化学濃度の中で、水素ドナーの形成に寄与した炭素原子の化学濃度の割合と考えてよい。炭素寄与率ηは、炭素化学濃度を増加させた場合に、炭素化学濃度の増加量に対する、水素ドナーの濃度の増加量の割合としてもよい。炭素寄与率は、0.01%~10%(すなわち0.0001以上、0.1以下)の値であってよい。
【0213】
図23は、
図1のA-A線に示した位置における、熱処理後の水素化学濃度C
H、酸素化学濃度C
OX、炭素化学濃度C
C、寄与酸素濃度N
OX、寄与炭素濃度N
C、および、VOH欠陥濃度N
VOHの深さ方向の分布を示している。本例の半導体装置100は、炭素化学濃度C
Cおよび寄与炭素濃度N
C以外の構成および製造方法は、
図1から
図22において説明した半導体装置100と同様である。
【0214】
炭素は、インゴットの製造時に導入される場合が多く、半導体基板10の内部においては一様に分布することが多い。炭素化学濃度CCは、半導体基板10の全体に渡って均一であってよい。他の例では、炭素化学濃度CCは、半導体基板10の下面23から上面21に向かって、単調に増加してよく、単調に減少してもよい。また、半導体基板10の上面21または下面23の近傍の炭素は、半導体基板10の外部に放出される場合がある。炭素化学濃度CCは、酸素化学濃度COXと同様に、上面21および下面23の近傍においては、上面21および下面23に向かって単調に減少してもよい。上面21および下面23の近傍以外においては、炭素化学濃度CCは、上述したように均一であってよく、単調に増加または減少していてよい。
【0215】
平坦部150における炭素化学濃度CCは、1×1013atoms/cm3以上、1×1016atoms/cm3以下であってよい。炭素化学濃度CCは、1×1014atoms/cm3以上であってよい。炭素化学濃度CCは、5×1015atoms/cm3以下であってよく、2×1015atoms/cm3以下であってもよい。炭素化学濃度CCは、酸素化学濃度COXより小さくてよい。炭素化学濃度CCは、酸素化学濃度COXの1/100以下であってよく、1/1000以下であってもよい。なお本明細書において半導体基板10の炭素化学濃度CCを規定した場合、特に説明が無ければ、第2のピーク141と、第1のピーク133との間の全体が、当該炭素化学濃度の規定を満たしている。第2のピーク141と、下面23との間の全体が当該炭素化学濃度の規定を満たしてよく、半導体基板10の全体が当該炭素化学濃度の規定を満たしていてもよい。
【0216】
寄与炭素濃度NCは、VOH欠陥を形成するのに寄与する炭素の濃度を指す。炭素化学濃度CCが変化すると、VOH欠陥の濃度も変化する場合があることが、実験的に確認できている。本明細書では、寄与炭素濃度NCと炭素化学濃度CCとの比を炭素寄与率ηとする。つまり、η=NC/CCである。炭素寄与率ηは、0以上、1以下である。炭素寄与率ηの単位は無次元量である。
【0217】
寄与炭素濃度NCの分布は、炭素化学濃度CCの分布と相似形であってよい。例えば寄与炭素濃度NCは、半導体基板10の深さ方向において均一であってよく、単調に増加または減少してよい。また、寄与炭素濃度NCは、所定の深さ位置においてピークを有する分布を有してよい。
【0218】
次に、半導体基板10における炭素寄与率ηの範囲等を説明する。炭素寄与率ηを考慮した場合のVOH欠陥濃度NVOHを式(2a)とする。
NVOH=NV+ξCOX+ηCC ・・・式(2a)
式(2a)のVOH欠陥濃度NVOHは、式(2)で説明したVOH欠陥濃度NVOHに、炭素化学濃度CCと炭素寄与率ηの積を加算している。つまり、炭素が存在することにより増加する水素ドナー濃度を、式(2)のVOH欠陥濃度NVOHに加算している。なお、炭素が寄与して生成される水素ドナーはVOH欠陥に限定されないが、式(2a)では、炭素が存在することにより増加する水素ドナー濃度を、VOH欠陥濃度NVOHに含めている。
【0219】
図24は、ドナー濃度増加量と、炭素化学濃度C
Cとの関係を示す図である。本例のドナー濃度増加量の測定方法は、
図6の例と同様である。また、本例の半導体基板10の炭素化学濃度C
Cは、深さ方向において均一に分布する。
【0220】
図24においては、深さ位置Z1を50μmとした。本例では、深さ位置Z1への水素イオンのドーズ量が、3×10
12ions/cm
2、1×10
13ions/cm
2、3×10
13ions/cm
2の3種類について示している。水素イオンのドーズ量が3×10
13ions/cm
2のサンプルをプロット621で示し、水素イオンのドーズ量が1×10
13ions/cm
2のサンプルをプロット622で示し、水素イオンのドーズ量が3×10
12ions/cm
2のサンプルをプロット623で示している。また、各プロットの大きさは、酸素化学濃度C
OXの大きさを示している。
図24に示されるように、炭素化学濃度C
Cに比例して、ドナー濃度増加量が実質的に(ほぼ)直線的に増大している。
【0221】
図24の例において、炭素化学濃度C
Cとドナー濃度増加量との関係を直線で近似した近似式を算出する。
図24では、水素イオンのドーズ量が3×10
13ions/cm
2の例を直線611で近似し、水素イオンのドーズ量が1×10
13ions/cm
2の例を直線612で近似し、水素イオンのドーズ量が3×10
12ions/cm
2の例を直線613で近似している。
【0222】
各直線を式(8a)であらわす。
NVOH=a×CC+b ・・・式(8a)
このとき、最小二乗法のフィッティングにより算出した各直線の傾きaおよび切片bは下記の通りである。
直線611:a=5.00851×10-2、b=6.46656×1013
直線612:a=2.35891×10-2、b=4.14509×1013
直線613:a=7.13212×10-3、b=2.26076×1013
【0223】
図24に示すように、VOH欠陥形成において、炭素化学濃度C
Cと酸素化学濃度C
OXとの間には、必ずしも強い相関がない。例えば、炭素化学濃度C
Cが6×10
14atoms/cm
3の場合と、8×10
14atoms/cm
3の場合のように、炭素化学濃度C
Cが同じオーダーの半導体基板10を比較すると、酸素化学濃度C
OX(プロットの大きさ)は、それぞれ9×10
15atoms/cm
3と、2.4×10
17atoms/cm
3であり、10倍以上の差がある。一方で、炭素化学濃度C
Cが2.5×10
15atoms/cm
3の半導体基板10は、上記の例に比べて炭素化学濃度C
Cが3倍程度高い。ただし、当該半導体基板10の酸素化学濃度C
OXは、4×10
17atoms/cm
3であり、酸素化学濃度C
OXの差異はそれほど大きくない。
【0224】
図25は、ドナー濃度増加量と、酸素化学濃度C
OXとの関係を示す図である。本例では、
図24に示した各プロットを、炭素化学濃度C
Cが小さい(1×10
15atoms/cm
3以下)グループと、炭素化学濃度C
Cが大きい(2×10
15atoms/cm
3以上)のグループに分けて、ドナー濃度増加量と、酸素化学濃度C
OXとの関係を直線で近似している。
【0225】
図25においては、水素イオンのドーズ量が3×10
13ions/cm
2であるプロットのうち、炭素化学濃度C
Cが大きいグループを直線631で示し、炭素化学濃度C
Cが小さいグループを直線641で示している。また、水素イオンのドーズ量が1×10
13ions/cm
2であるプロットのうち、炭素化学濃度C
Cが大きいグループを直線632で示し、炭素化学濃度C
Cが小さいグループを直線642で示している。また、水素イオンのドーズ量が3×10
12ions/cm
2であるプロットのうち、炭素化学濃度C
Cが大きいグループを直線633で示し、炭素化学濃度C
Cが小さいグループを直線643で示している。
【0226】
各直線を式(8)で示した場合に、各直線の傾きaおよび切片bは下記の通りである。
直線631:a=3.64419×10-4、b=4.15739×1013
直線641:a=2.80673×10-4、b=4.15739×1013
直線632:a=2.04534×10-4、b=2.21483×1013
直線642:a=1.67965×10-4、b=2.21483×1013
直線633:a=8.60908×10-5、b=8.32518×1013
直線643:a=8.05915×10-5、b=8.32518×1013
水素イオンのドーズ量が等しい場合、切片である空孔濃度NVは実質的に(ほぼ)同じ値である。酸素の場合と同様に、炭素化学濃度が0に近づくと空孔濃度NVは一定値に収束すると考えるのが自然である。
【0227】
炭素化学濃度CCが大きいグループの直線の傾きは、炭素化学濃度CCが小さいグループの直線の傾きよりも大きくなっている。つまり、炭素化学濃度CCが増加することで、ドナー濃度増加量が増加している。さらに、水素イオンのドーズ量が増加することで、ドナー濃度増加量が増加している。すなわち、酸素化学濃度COXの増加量に対するVOH欠陥濃度NVOHの増加量の比(直線の傾き)が大きくなっている。
【0228】
各直線の傾きaは酸素寄与率ξである。炭素化学濃度CCの増加により、酸素寄与率ξがα倍になったとする。なおα≧1である。VOH欠陥濃度NVOHは式(2b)となる。
NVOH=NV+αξCOX ・・・式(2b)
式(2a)と式(2b)を比較すると、式(15)が得られる。
ξCOX+ηCC=αξCOX
η=(α-1)(COX/CC)ξ ・・・式(15)
【0229】
式(15)に示されるように、炭素寄与率ηは、単位炭素化学濃度あたりの酸素化学濃度COX/CCと、ξの増加分である(α-1)ξとの積であらわされる。つまり、炭素寄与率ηは、酸素化学濃度COXと、酸素寄与率ξに依存する。
【0230】
図25に示すように、水素イオンのドーズ量が同じで、炭素化学濃度C
Cが増加すると、酸素化学濃度C
OXの増加量に対するVOH欠陥濃度N
VOHの増加量の比(直線の傾きξ)がα倍増加し、寄与炭素濃度N
C=ηC
Cが増加する。つまり、炭素化学濃度C
Cの増加だけでなく、酸素化学濃度C
OXの作用によっても寄与炭素濃度N
Cが増加し、増加した寄与炭素濃度N
CによりVOH欠陥濃度N
VOHが増加する。このことは、炭素が寄与して増加したドナーが、VOH欠陥とは別のドナーである可能性を示唆している。本明細書では、炭素が寄与して増加したドナーを、VOH-C欠陥と称する場合がある。
【0231】
図26は、深さ位置Z1への水素イオンドーズ量と、炭素寄与率ηとの関係を示す図である。
図26においては、深さ位置Z1が50μm、100μm、150μmの3通りの半導体基板10の特性を示している。本例では、
図8における酸素寄与率ξと同様に、深さ位置Z1への水素イオンドーズ量D
Hに対して、炭素寄与率ηをべき関数で近似している。
【0232】
図26では、Z1=50μmの場合の水素イオンドーズ量と、炭素寄与率ηとの関係を曲線811で近似し、Z1=100μmの場合の水素イオンドーズ量と、炭素寄与率ηとの関係を曲線812で近似し、Z1=150μmの場合の水素イオンドーズ量と、炭素寄与率ηとの関係を曲線813で近似している。各曲線801を式(15)であらわす。このとき、各曲線の係数g、hは下記の通りである。
η=g×(D
H)
h ・・・式(15)
曲線811:g=2.57839×10
-13、h=7.95528×10
-1
曲線812:g=1.35314×10
-21、h=1.38598
曲線813:g=3.49381×10
-31、h=2.07102
【0233】
図27は、炭素化学濃度C
Cが小さいグループにおける、酸素寄与率ξと、水素イオンドーズ量D
Hとの関係を示す図である。炭素化学濃度C
Cが小さいグループとは、
図25において説明したように、炭素化学濃度C
Cが1×10
15atoms/cm
3以下のグループである。酸素寄与率ξは炭素化学濃度の影響が無い場合の値であるため、炭素化学濃度C
Cが小さいグループの値を用いる。
図27においては、深さ位置Z1が50μm、100μm、150μmの3通りの半導体基板10の特性を、それぞれ曲線821、曲線822、曲線823で示している。各曲線は、
図8の例と同様に、各プロットをべき関数で近似した曲線である。
【0234】
図28は、炭素化学濃度C
Cが小さいグループにおける、空孔濃度N
Vと、水素イオンドーズ量D
Hとの関係を示す図である。空孔濃度N
Vについても、炭素化学濃度の影響が無い場合の値であるため、炭素化学濃度C
Cが小さいグループの値を用いる。
図28においては、深さ位置Z1が50μm、100μm、150μmの3通りの半導体基板10の特性を、それぞれ曲線831、曲線832、曲線833で示している。各曲線は、
図8の例と同様に、各プロットをべき関数で近似した曲線である。
【0235】
図26から
図28において説明した各曲線は、いずれもべき関数であらわされる。このため式(2a)は、式(13a)となる。
N
VOH=c×(D
H)
d+e×(D
H)
f×C
OX+g×(D
H)
h×C
C ・・・式(13a)
また、式(1)から式(13a)は式(14a)となる。
N
F-N
B0=c×(D
H)
d+e×(D
H)
f×C
OX+g×(D
H)
h×C
C ・・・式(14a)
【0236】
最終ドーピング濃度NFは設定値であり、バルク・ドナー濃度NB0は測定値または半導体ウエハの仕様値から既知である。酸素化学濃度COXおよび炭素化学濃度CCは、SIMS法等によって半導体基板10における各濃度を測定することで得られる。パラメータc、d、e、f、g、hは、実験的に予め取得できる。従って、式(14a)の変数は、荷電粒子の注入量(本例では水素イオンのドーズ量DH)のみであり、式(14a)の右辺は当該注入量に対して変化しない定数となる。
【0237】
式(14a)を数値的に解くことで、最終ドーピング濃度N
Fの設定値に対して、半導体基板10に注入すべき荷電粒子のドーズ量を算出できる。式(14a)から得られた荷電粒子の注入量D
Hは、
図26から
図28において説明した各フィッティングにおける各データの値のばらつきを反映した幅(誤差)を有してよい。すなわち、荷電粒子の注入量D
Hは、式(13a)または式(14a)から得られた値に対して、例えば±50%の範囲であれば、式(13a)または式(14a)から得られた値と考えてよい。
【0238】
図29は、半導体装置100の製造方法の一例を示す図である。本例の製造方法は、濃度測定段階S1602および注入量算出段階S1604における工程が、
図18において説明した例と異なる。濃度測定段階S1602および注入量算出段階S1604以外の工程は、
図18の例と同様である。
【0239】
本例の濃度測定段階S1602においては、酸素化学濃度C
OXに加え、半導体基板10の炭素化学濃度C
Cを更に測定する点で、
図18における濃度測定段階S1602と相違する。他の点は、
図18に関連して説明した例と同様である。濃度測定段階S1602では、FTIR法(赤外吸収分光法)により、各濃度を測定してよい。
【0240】
注入量算出段階S1604では、S1602で測定した酸素化学濃度および炭素化学濃度に基づいて、深さ位置Z1に注入する荷電粒子線の注入量を算出する。上述したように、荷電粒子線の注入量により、形成されるVOH欠陥濃度を制御できる。注入量算出段階S1604においては、式(13a)または式(14a)に基づいて、注入量を算出してよい。S1604においては、
図4等において説明した平坦部150の基板抵抗値が、最終ドーピング濃度N
Fの設定値となるように、荷電粒子線の注入量を算出してよい。
【0241】
このような方法により、半導体基板10のバルク・ドナー濃度にばらつきがあっても、平坦部150の抵抗値を目標値に調整できる。半導体基板10の予め定められた深さ位置において、生成すべき水素ドナーの濃度をNVOH1、実際に生成された水素ドナーの濃度をNVOH2とする。当該深さ位置は、平坦部150に含まれていてよい。当該深さ位置は、半導体基板10の深さ方向における中心であってもよい。
【0242】
生成すべき水素ドナーの濃度をNVOH1は、式(2a)から式(16)となる。式(16)で示されるNVOH1は、第3の値の一例である。
NVOH1=NV+ξCOX+ηCC ・・・式(16)
上述したように、空孔濃度NV、酸素化学濃度COX、炭素化学濃度CC、酸素寄与率ξ、炭素寄与率ηは、半導体基板10を測定することで取得できる。また、実際に生成された水素ドナーの濃度NVOH2は、上述した製造方法による処理前の半導体基板10のドナー濃度NB0と、処理後の半導体基板10のドナー濃度NFの差分から取得できる。当該ドナー濃度の差分は、平坦部150で測定してよい。半導体基板10のドナー濃度NB0は、SIMSまたはSRの測定で得られる。SIMSならば、処理後の半導体基板10からも半導体基板10のドナー濃度NB0を得ることができる。
【0243】
図30は、空孔濃度N
Vと深さ位置Z1との関係の他の例を示す図である。
図30においては、水素イオンドーズ量が、3×10
14ions/cm
2、1×10
14ions/cm
2、3×10
13ions/cm
2、1×10
13ions/cm
2、3×10
12ions/cm
2、または、1×10
12ions/cm
2のそれぞれの場合について、酸素寄与率ξと深さ位置Z1との関係を示している。本例の関係は、
図22に示した関係と実質的に(ほぼ)同様である。一つの例として、深さ位置Z1が120μmであり、ドーズ量D
Hが5×10
12ions/cm
2の場合を、
図30において黒四角で示している。この場合、空孔濃度N
VはおよそN
V=6×10
12ions/cm
3である。当該値をN
V2とする。他の例として、深さ位置Z1が23μmであり、ドーズ量D
Hが3×10
12ions/cm
2の場合を、
図30において黒ダイヤで示している。この場合、空孔濃度N
VはおよそN
V=1.3×10
13ions/cm
3である。当該値をN
V2とする。
【0244】
図31は、酸素寄与率ξと深さ位置Z1との関係の他の例を示す図である。
図31においては、水素イオンドーズ量が、3×10
14ions/cm
2、1×10
14ions/cm
2、3×10
13ions/cm
2、1×10
13ions/cm
2、3×10
12ions/cm
2、または、1×10
12ions/cm
2のそれぞれの場合について、酸素寄与率ξと深さ位置Z1との関係を示している。本例では、
図21に示した例に比べて、水素イオンドーズ量が高い例における酸素寄与率ξの深さ位置Z1に対する依存性が小さくなっている。つまり、
図31に示す直線の傾きが小さくなっている。一つの例として、深さ位置Z1が120μmであり、ドーズ量D
Hが5×10
12ions/cm
2の場合を、
図31において黒四角で示している。この場合、酸素寄与率ξはおよそξ=1.1×10
-4である。当該値をξ2とする。他の例として、深さ位置Z1が23μmであり、ドーズ量D
Hが3×10
12ions/cm
2の場合を、
図31において黒ダイヤで示している。この場合、酸素寄与率ξはおよそξ=1.0×10
-4である。当該値をξ3とする。
【0245】
図32は、炭素寄与率ηと深さ位置Z1との関係を示す図である。酸素寄与率ξと同様に、深さ位置Z1が大きいほど、炭素寄与率ηが指数関数的に減少する。炭素寄与率ηの深さ位置Z1に対する依存性は強い。また、水素イオンドーズ量が高いと、炭素寄与率ηは高くなる。一つの例として、深さ位置Z1が120μmであり、ドーズ量D
Hが5×10
12ions/cm
2の場合を、
図32において黒四角で示している。この場合、炭素寄与率ηはおよそη=2.1×10
-4である。当該値をη2とする。他の例として、深さ位置Z1が23μmであり、ドーズ量D
Hが3×10
12ions/cm
2の場合を、
図32において黒ダイヤで示している。この場合、炭素寄与率ηはおよそη=3.0×10
-3である。当該値をη3とする。
【0246】
図30および
図32に示すように、炭素寄与率ηの深さ位置Z1に対する依存性は、空孔濃度N
Vの深さ位置Z1に対する依存性と同程度の強さである。このため、炭素は、空孔との相互作用が大きいことがわかる。式(15)および
図25等に関連して説明したように、VOH欠陥濃度N
VOH-酸素化学濃度C
OX特性の傾きの増加が、VOH欠陥とは異なるドナーによることが示唆されていることを踏まえると、当該ドナーは、少なくとも空孔(V)、酸素(O)、水素(H)、炭素(C)で形成されていると推測される。上述したように、当該ドナーをVOH-C欠陥と称する。VOH-C欠陥は、水素ドナーの一例である。
【0247】
図32に示されるように、炭素寄与率ηが大きいのは、深さ位置Z1が浅く、荷電粒子(水素イオン)ドーズ量が高い場合である。このため、深さ位置Z1が所定値(例えば100μm)よりも浅い場合には、
図29において説明したように、炭素化学濃度C
Cに基づいて、荷電粒子ドーズ量を設定してよい。当該所定値は、70μmであってよく、50μmであってもよい。また、深さ位置Z1が予め設定された所定値よりも浅く、且つ、炭素化学濃度C
Cが所定値(例えば1×10
13atoms/cm
3)以上の場合に、炭素化学濃度C
Cに基づいて、荷電粒子ドーズ量を設定してもよい。当該所定値は、5×10
13atoms/cm
3であってよく、1×10
14atoms/cm
3であってもよい。
【0248】
(実施例1)
深さ位置Z1が120μm、水素イオンドーズ量DHが5×1012ions/cm2の例を考える。また、酸素化学濃度COXは4.0×1017atoms/cm3、炭素化学濃度CCは2.0×1015atoms/cm3であり、最終ドーピング濃度NFは7×1013/cm3であり、バルク・ドナー濃度NB0は2×1012/cm3である。
【0249】
上述のように
図30、
図31および
図32のそれぞれにおける黒四角および黒ダイヤと各図に示した関係から、空孔濃度N
Vは約6×10
12/cm
3、酸素寄与率ξは約1.1×10
-4、炭素寄与率は約2.1×10
-4である。
図30、
図31および
図32に示した関係は、複数の半導体基板10を測定することで、実験的に予め取得してよい。
【0250】
式(16)から、NVOH1は下式のように計算できる。
NVOH1=6.0×1012+1.1×10-4×4.0×10172.1×10-4×2.0×1015=5.04×1013/cm3
また、NVOH2は下式のように計算できる。
NVOH2=NF-NB0=7×1013-2×1012=6.8×1013/cm3
したがって、NVOH1/NVOH2は下式のように計算できる。
NVOH1/NVOH2=5.04×1013/6.8×1013=0.74
上述した0.1≦NVOH1/NVOH2≦10の範囲内であるので、実施例1では、NVOH1とNVOH2とが、十分一致していると判定できる。
【0251】
(実施例2)
深さ位置Z1が23μm、水素イオンドーズ量DHが3×1012ions/cm2の例を考える。また、酸素化学濃度COXは1.5×1017atoms/cm3、炭素化学濃度CCは5.1×1014atoms/cm3であり、最終ドーピング濃度NFは1.4×1014/cm3であり、バルク・ドナー濃度NB0は7.4×1013/cm3である。
【0252】
図30、
図31および
図32に示した関係から、空孔濃度N
Vは約1.3×10
13/cm
3、酸素寄与率ξは約1.0×10
-4、炭素寄与率は約3.0×10
-3である。式(16)から、N
VOH1は3.0×10
13/cm
3である。また、N
VOH2は6.6×10
13/cm
3である。
したがって、N
VOH1/N
VOH2は下式のように計算できる。
N
VOH1/N
VOH2=3.0×10
13/6.6×10
13=0.45
上述した0.1≦N
VOH1/N
VOH2≦10の範囲内であるので、実施例2では、N
VOH1とN
VOH2とが、十分一致していると判定できる。
【0253】
N
VOH1/N
VOH2が当該範囲内にある場合に、
図29において説明した製造方法のように、酸素化学濃度C
OXおよび炭素化学濃度C
Cの測定結果に基づいて、荷電粒子のドーズ量を設定したと判定してよい。さらにN
VOH1/N
VOH2は、0.2以上であってよく、0.3以上であってよく、0.5以上であってもよい。N
VOH1/N
VOH2は、5以下であってよく、3以下であってよく、2以下であってもよい。
【0254】
なお、炭素寄与率ηを考慮した荷電粒子ドーズ量は、荷電粒子が水素イオンでない場合でも、同様に算出できる。例えば荷電粒子がヘリウムイオンの場合、ヘリウムイオンを注入する深さ位置Z1に対して、式(13b)のパラメータc~hを予め取得する。なお、DHeは、深さ位置Z1に対するヘリウムイオンドーズ量(ions/cm2)である。
NVOH=c×(DHe)d+e×(DHe)f×COX+g×(DHe)h×CC ・・・式(13b)
当該パラメータは、複数種類の深さ位置Z1について取得してよい。
【0255】
また、半導体基板10の酸素化学濃度COXおよび炭素化学濃度CCを、製造工程の開始前に測定して取得する。そして、生成すべきNVOHの設定値に応じたヘリウムイオンドーズ量DHeを、式(13b)から算出する。
【0256】
図33A、
図33B、
図33Cは、電気的な目標特性に対する空孔濃度、酸素寄与率、炭素寄与率のヘリウムイオンドーズ量依存性を示すグラフである。
図33Bおよび
図33Cにおいては、ヘリウムイオンを注入する深さ位置Z1が、Z1=a、Z1=b、Z1=cの3つの例を示している。式(13)、式(13a)、式(13b)は、生成すべきN
VOH以外の目標特性にも適用できる。当該目標特性は、例えば半導体装置100の耐圧(V
B)、IGBTのオン電圧(V
CE)、スイッチング時間(t
off)、ダイオードの順電圧降下(V
F)、逆回復時間(t
rr)等である。
【0257】
目標特性を得るには、
図29と同様のフローにて半導体装置を製造してよい。すなわち、あらかじめS1602にて酸素、炭素の濃度を測定し、S1604にてヘリウムイオンの注入量(ドーズ量)を算出する。当該注入量にてS1608でヘリウムイオンを注入する。S1610の水素イオン注入は行ってもよいし、行わなくてもよい。これらの場合、電気的な目標特性をFとすると、例えば式(13b)は下式のように変形できる。
F=Nv´+ξ´C
OX+η´C
C
=c×(D
He)
d+e×(D
He)
f×C
OX+g×(D
He)
h×C
C… 式(15)
右辺の第一項は、ヘリウムイオン注入および熱処理によって形成された空孔濃度Nvに、電気特性Fに換算する係数をかけたNv´である。第二項のCoxの係数部分は、目標特性Fに対する酸素寄与率ξ´であり、上述の酸素寄与率ξに電気特性Fに換算する係数をかけた量である。第三項のCcの係数部分は、目標特性Fに対する炭素寄与率η´であり、上述の炭素寄与率ηに電気特性Fに換算する係数をかけた量である。式(15)は、あらかじめ、ヘリウムイオンの深さが2~3種類またはそれ以上について、
図33A、
図33B、
図33Cの少なくとも一つのグラフを作成し、求めておく。すなわち、パラメータc、d、e、f、g、hは、実験的に予め取得できる。従って、式(15)の変数は、ヘリウムイオンの注入量のみであり、式(15)の右辺は当該注入量に対して変化しない定数となる。
【0258】
半導体基板10に注入すべきヘリウムイオンのドーズ量は、式(15)を数値的に解くことで算出できる。なお、式(15)から得られたヘリウムイオンの注入量DHeは、下記に説明する各フィッティングにおける各データの値のばらつきを反映した幅(誤差)を有してよい。すなわち、ヘリウムイオンの注入量DHeは、式(15)から得られた値に対して、例えば±50%の範囲であれば、式(15)から得られた値と考えてよい。
【0259】
電気的な目標特性Fは、上述の例の各特性に対して、下式のように変形できる。
VB=c×(DHe)d+e×(DHe)f×COX+g×(DHe)h×CC
VCE=c×(DHe)d+e×(DHe)f×COX+g×(DHe)h×CC
toff=c×(DHe)d+e×(DHe)f×COX+g×(DHe)h×CC
VF=c×(DHe)d+e×(DHe)f×COX+g×(DHe)h×CC
trr=c×(DHe)d+e×(DHe)f×COX+g×(DHe)h×CC
これらの式において、パラメータc~hは、目標特性に応じて異なる値となる。パラメータc~hの単位は、目標特性の単位、ヘリウムイオンのドーズ量の単位、酸素化学濃度の単位、炭素化学濃度の単位と整合のとれる単位であってよい。
【0260】
図34A、
図34B、
図34Cは、電気的な目標特性における換算空孔濃度Nv´、換算酸素寄与率ξ´および換算炭素寄与率η´それぞれの、ヘリウムイオン深さ依存性を示すグラフである。各図では、深さ位置Z1へのヘリウムイオンドーズ量が、D
He1、D
He2、D
He3、D
He4、D
He5、D
He6の6つの例を示している。実験的に予め取得したパラメータc、d、e、f、g、hにより、ヘリウムイオン深さに対する換算空孔濃度Nv´、換算酸素寄与率ξ´および換算炭素寄与率η´も予め算出できる。このグラフを用いて、半導体装置が、
図29のフローに基づいて製造されたかどうかがわかる。
【0261】
ヘリウムイオンの注入深さZ1は、半導体基板10におけるヘリウム原子の原子密度分布(化学濃度分布)を例えばSIMSによって測定し、当該濃度分布のピーク値の注入面からの深さとする。注入面は、ヘリウム原子の化学濃度分布が、ピーク位置から裾を深く引く方の主面を注入面としてよい。ヘリウムイオンのドーズ量は、測定したヘリウム原子の化学濃度分布を、注入面から深さ方向で積分することにより得られた積分値としてよい。以上により算出したヘリウムイオンの深さとドーズ量を、
図34A、B、Cのグラフにおいて内挿することにより、換算空孔濃度Nv´、換算酸素寄与率ξ´および換算炭素寄与率η´がわかる。酸素および炭素の化学濃度は、SIMSにより求めることができる。これらの値を式(15)に代入することで、電気特性値F1を求める。
【0262】
一方、実際の電気特性F2は半導体装置100の電気的測定により得ることができる。これにより、算出値F1と測定値F2の比が、0.1以上10以下であれば、半導体装置が、
図29のフローに基づいて製造されたと言える。上述した第1の値または第3の値は、算出値F1の一例であり、第2の値は、測定値F2の一例である。
【0263】
図35は、半導体装置100の製造方法の他の例を示す図である。本例の製造方法は、
図16から
図34Cにおいて説明した例における濃度測定段階S1602および注入量算出段階S1604に代えて、パラメータ取得段階S3502および条件調整段階S3503を備える点で相違する。他の段階は、
図16から
図34Cにおいて説明した例と同様である。
図35においては、酸素導入段階S1802を示していないが、本例の製造方法は、
図18において説明した酸素導入段階S1802を有してよく、有していなくてもよい。
【0264】
パラメータ取得段階S3502においては、基板準備段階S1600で準備した半導体基板10に関するパラメータを取得する。
図16等において説明した濃度測定段階S1602は、パラメータ取得段階S3502の一例である。当該パラメータは、
図16から
図34Cにおいて説明した酸素化学濃度、または、炭素化学濃度等のパラメータを含んでよい。パラメータ取得段階S3502においては、半導体基板10に関するパラメータを測定してよく、半導体基板10の仕様値または設計値等を取得してもよい。パラメータ取得段階S3502においては、半導体基板10の水素ドナー濃度に影響を与えるパラメータ、または、半導体装置100の耐圧に影響を与えるパラメータを取得してよい。パラメータ取得段階S3502では、半導体基板10に含まれる酸素化学濃度、炭素化学濃度、酸素寄与率ξおよび炭素寄与率ηの少なくとも一つを取得してよい。これらのパラメータは、水素ドナー濃度および半導体装置100の耐圧に影響を与えうる。また、パラメータ取得段階S3502では、半導体基板10の厚み、および、バルク・ドナー濃度の少なくとも一方を取得してよい。これらのパラメータは、半導体装置100の耐圧に影響を与えうる。
【0265】
条件調整段階S3503においては、パラメータ取得段階S3502で取得した少なくとも一つのパラメータに基づいて、粒子注入段階S1608における粒子注入条件、水素注入段階S1610における水素注入条件、および、熱処理段階S1612における熱処理条件の一つまたは複数の条件を調整する。条件調整段階S3503においては、半導体基板10の水素ドナー濃度、または、半導体装置100の耐圧が所定の目標値に近づくように、これらの条件を調整してよい。
図16等における注入量算出段階S1604は、条件調整段階S3503の一例である。粒子注入条件は、荷電粒子のドーズ量および注入深さZ1(例えば
図2参照)の少なくとも一方を含む。水素注入条件は、水素イオンのドーズ量および注入深さZ2(例えば
図2参照)の少なくとも一方を含む。熱処理条件は、熱処理温度および熱処理時間の少なくとも一方を含む。
【0266】
例えば、パラメータ取得段階S3502において取得したパラメータが、半導体基板10に水素ドナーが生成されにくい状態を示している場合、条件調整段階S3503では、各段階の条件を、半導体基板10における水素ドナーの生成を促進する条件に調整する。例えば半導体基板10の酸素化学濃度が低いと、VOH欠陥が生成されにくくなる。一方で、粒子注入段階S1608における荷電粒子線のドーズ量を高くすること、水素イオン注入段階S1610における水素イオンのドーズ量を高くすること、熱処理段階S1612における熱処理温度を高くすること、および、熱処理段階S1612における熱処理時間を長くすることは、いずれもVOH欠陥の生成を促進する。条件調整段階S3503は、これらの処理の少なくとも一つを行ってよい。同様に、半導体基板10の酸素化学濃度が高いと、VOH欠陥が生成されやすくなる。一方で、粒子注入段階S1608における荷電粒子線のドーズ量を低くすること、水素イオン注入段階S1610における水素イオンのドーズ量を低くすること、熱処理段階S1612における熱処理温度を低くすること、および、熱処理段階S1612における熱処理時間を短くすることは、いずれもVOH欠陥の生成を抑制する。条件調整段階S3503は、これらの処理の一つを行ってよく、複数の処理を組み合わせて行ってもよい。また、半導体基板10の炭素化学濃度が高いと、VOH欠陥が生成されやすい傾向があり、炭素化学濃度が低いと、VOH欠陥が生成されにくい傾向がある。酸素寄与率ξおよび炭素寄与率ηについては上述した通りである。条件調整段階S3503は、これらのパラメータに基づいて、酸素化学濃度と同様の処理を行ってよい。
【0267】
また、パラメータ取得段階S3502において取得したパラメータが、半導体装置100の耐圧が低くなる状態を示している場合、条件調整段階S3503では、各段階の条件を、半導体装置100の耐圧を向上させる条件に調整する。例えば半導体基板10の厚みが小さいと、半導体装置100の耐圧は小さくなる。一方で、半導体基板10に生成する水素ドナーの濃度を低くすると、例えばドリフト領域18のドーピング濃度が低くなる。これにより、半導体装置100の耐圧は向上する。荷電粒子のドーズ量、または、水素イオンのドーズ量を低くすることで、水素ドナーの濃度は低くできる。また、熱処理温度を低く、または、熱処理時間を短くすることで、水素ドナーの濃度は低くできる。また、半導体基板10における通過領域106のZ軸方向の長さを小さくすると、高濃度の平坦部150(
図3参照)のZ軸方向の長さが小さくなる。これにより、半導体装置100の耐圧は向上する。通過領域106の長さは、荷電粒子の注入位置Z1を、下面23に近づけることで短くできる。条件調整段階S3503は、これらの処理の一つを行ってよく、複数の処理を組み合わせて行ってもよい。
【0268】
また、半導体基板10のバルク・ドナー濃度NB0が高いと、ドリフト領域18のドーピング濃度が高くなり、半導体装置100の耐圧は小さくなる。条件調整段階S3503は、バルク・ドナー濃度NB0に対しても、半導体基板10の厚みと同様の処理を行ってよい。
【0269】
条件調整段階S3503では、取得したパラメータと、予め設定される基準値との差分または比に基づいて、各段階の条件を調整してよい。当該差分および比に対して、各段階の条件をどれだけ調整すればよいかは、実験等により予め決定されてよい。このように、取得したパラメータに基づいて、各段階の条件を調整することで、半導体装置100の特性を調整できる。また、半導体装置100の特性のばらつきを低減できる。
【0270】
図36は、半導体装置100の製造方法の他の例を示す図である。本例の製造方法は、
図35におけるパラメータ取得段階S3502として、濃度測定段階S1602を行う。他の段階は、
図35の例と同様である。また、濃度測定段階S1602では、
図16等の例と同様に、半導体基板10の酸素化学濃度を測定する。
【0271】
条件調整段階S3503では、粒子注入段階S1608における荷電粒子線の注入条件、水素注入段階S1610における水素イオンの注入条件、および、熱処理段階S1612における熱処理条件の少なくともいずれかを、酸素化学濃度に応じて調整する。条件調整段階S3503では、
図16等の例と同様に、荷電粒子線の注入条件を調整してよい。
【0272】
水素注入段階S1610における水素イオンの注入条件を調整する場合、水素イオンのドーズ量を調整してよい。水素イオンのドーズ量を調整することで、通過領域106に拡散する水素濃度を調整して、通過領域106に生成される水素ドナー濃度を調整できる。条件調整段階S3503では、酸素化学濃度が酸素基準値より高い場合に水素イオンのドーズ量を水素基準値より低くし、酸素化学濃度が酸素基準値より低い場合に水素イオンのドーズ量を水素基準値より高くしてよい。これにより、酸素化学濃度のばらつきの影響を低減して、通過領域106のドーピング濃度を精度よく調整できる。
【0273】
熱処理段階S1612における熱処理条件を調整する場合、熱処理温度および熱処理時間の少なくとも一方を調整してよい。熱処理温度または熱処理時間を調整することで、通過領域106への水素拡散を調整し、また、水素ドナーの生成を調整できる。条件調整段階S3503では、酸素化学濃度が酸素基準値より高い場合に熱処理温度を温度基準値より低くし、酸素化学濃度が酸素基準値より低い場合に熱処理温度を温度基準値より高くしてよい。同様に、酸素化学濃度が酸素基準値より高い場合に熱処理時間を時間基準値より短くし、酸素化学濃度が酸素基準値より低い場合に熱処理時間を時間基準値より長くしてよい。これにより、酸素化学濃度のばらつきの影響を低減して、通過領域106のドーピング濃度を精度よく調整できる。
【0274】
なお、濃度測定段階S1602では、
図29の例と同様に、半導体基板10の炭素化学濃度を更に測定してもよい。条件調整段階S3503では、炭素化学濃度に更に基づいて、各段階の条件を調整してよい。炭素化学濃度が高いほうが、水素ドナーの濃度が高くなる傾向がある。条件調整段階S3503では、炭素化学濃度が炭素基準値より高い場合に、水素ドナーの形成を抑制するように条件を調整し、炭素化学濃度が炭素基準値より低い場合に、水素ドナーの形成を促進するように条件を調整してよい。
【0275】
また、条件調整段階S3503では、粒子注入段階S1608における荷電粒子線の注入深さZ1に基づいて、水素注入段階S1610における水素イオンの注入条件、および、熱処理段階S1612における熱処理条件を調整してもよい。荷電粒子線の注入深さZ1に応じて、通過領域106の長さが変化し、半導体基板10の内部に形成される格子欠陥の総量が変化する。水素ドナーの総形成量は、格子欠陥の総量に依存する。このため、荷電粒子線の注入深さZ1に応じて、水素ドナーの総形成量が変化する。条件調整段階S3503では、水素ドナーの総形成量が所定の基準値に近づくように、水素イオンの注入条件、および、熱処理条件の少なくとも一方を調整してよい。条件調整段階S3503では、酸素化学濃度に応じて算出した水素イオンの注入条件、または、熱処理条件を、荷電粒子線の注入深さZ1に基づいて補正してよい。
【0276】
また、複数の半導体装置100を製造する場合において、粒子注入段階S1608における注入条件の調整、および、水素注入段階S1610における注入条件の調整は、半導体基板10毎(半導体装置100毎)に行ってよい。また、熱処理段階S1612における熱処理条件の調整は、複数の半導体基板10に対して共通に行ってよい。複数の半導体基板10に対する熱処理は、共通の熱処理炉に複数の半導体基板10を投入して並行して行ってよい。それぞれの半導体基板10に対する荷電粒子または水素イオンの注入は、半導体基板10毎に行ってよい。このような処理により、複数の半導体基板10に対する調整を効率よく行うことができる。
【0277】
図37は、半導体装置100の製造方法の他の例を示す図である。本例の製造方法は、
図35におけるパラメータ取得段階S3502として、濃度取得段階S3702を行う。他の段階は、
図35または
図36の例と同様である。
【0278】
濃度取得段階S3702では、半導体基板10の所定の領域における不純物濃度の情報を取得する。濃度取得段階S3702では、半導体基板10を測定することで当該情報を取得してよく、半導体基板10の当該情報の設計値または仕様値等を取得してもよい。半導体基板10の所定の領域は、例えば半導体基板10の深さ方向における中央位置であるが、これに限定されない。半導体基板10の上面21または下面23における不純物濃度を取得してもよい。濃度取得段階S3702では、半導体装置100の完成時における、ドリフト領域18のドーピング濃度に影響を与える不純物濃度を取得してよい。一例として、濃度取得段階S3702では、酸素化学濃度、炭素化学濃度、および、バルク・ドナー濃度N
B0のうちの少なくとも一つを取得する。酸素化学濃度または炭素化学濃度を取得した場合の条件調整段階S3503の処理は、
図36の例と同様であってよい。
【0279】
本例の条件調整段階S3503では、バルク・ドナー濃度NB0に基づいて、粒子注入段階S1608における荷電粒子線の注入条件、水素注入段階S1610における水素イオンの注入条件、および、熱処理段階S1612における熱処理条件の少なくともいずれかを調整する。
【0280】
半導体装置100の製造が完了した状態におけるドリフト領域18の最終ドーピング濃度は、バルク・ドナー濃度N
B0と、水素ドナー濃度に依存する。このため、バルク・ドナー濃度N
B0にばらつきが生じると、最終ドーピング濃度にもばらつきが生じてしまう。条件調整段階S3503では、バルク・ドナー濃度N
B0と、所定のバルク基準値との乖離を相殺するように、各段階の条件を調整する。つまり、条件調整段階S3503では、バルク・ドナー濃度N
B0がバルク基準値より小さい場合には、水素ドナーの生成量が増加するように各段階の条件を調整し、バルク・ドナー濃度N
B0がバルク基準値より大きい場合には、水素ドナーの生成量が減少するように各段階の条件を調整する。各段階において水素ドナーの生成量を調整する方法は、
図35および
図36の例と同様である。これにより、最終ドーピング濃度のばらつきを低減できる。
【0281】
条件調整段階S3503では、ドリフト領域18のドーピング濃度の積分値が、所定の基準値に近づくように各条件を調整してもよい。一例として、条件調整段階S3503は、取得した不純物濃度に基づいて、粒子注入段階S1608における荷電粒子線の注入深さを調整する。注入深さを調整することで、通過領域106の長さを調整して、ドリフト領域18のドーピング濃度の積分値を調整できる。
【0282】
また、条件調整段階S3503では、酸素寄与率ξ、および、炭素寄与率ηの少なくとも一つに更に基づいて、各段階の条件を調整してもよい。これにより、水素ドナーの形成量を更に精度よく調整できる。
【0283】
図38は、バルク・ドナー濃度と、荷電粒子の注入深さZ1との関係を示す図である。本例では、濃度取得段階S3702において取得したバルク・ドナー濃度をN
B0、バルク基準値をN
Br、N
B0とN
Brとの比をγとする。つまり、N
B0=γ・N
Brである。また、条件調整前の荷電粒子の注入深さをZ1
r、条件調整後の荷電粒子の注入深さをZ1、Z1とZ1
rとの比をεとする。つまり、Z1=ε・Z1
rである。注入深さZは、半導体基板10の下面23から注入位置までの距離を示している。
【0284】
図38に示すように、条件調整段階S3503は、γが大きいほどεが小さくなるように、荷電粒子の注入深さZ1を調整する。γが大きいほど、
図13に示したバルク・ドナー濃度N
B0は大きくなる。このため、ドリフト領域18のドーピング濃度が高くなり、半導体基板10の耐圧が低下する場合がある。これに対して、εを小さくして注入深さZ1と下面23に近づけることで、高濃度の平坦部150が形成される長さを短くして、ドリフト領域18におけるドーピング濃度の積分値を小さくできる。これにより、半導体基板10の耐圧低下を抑制できる。
【0285】
図39は、半導体装置100の製造方法の他の例を示す図である。本例の製造方法は、
図35におけるパラメータ取得段階S3502として、基板厚測定段階S3902を行う。また、基板厚測定段階S3902の前に、半導体基板10を研削して厚みを調整する研削段階S3901を備える。他の段階は、
図35、
図36または
図37の例と同様である。
【0286】
研削段階S3901では、半導体装置100が有するべき耐圧に応じて、半導体基板10の厚みを調整してよい。研削段階S3901は、粒子注入段階S1608よりも前に行ってよく、水素注入段階S1610よりも前に行ってもよい。研削段階S3901では、半導体基板10の下面23をCMP等により研磨してよい。
【0287】
基板厚測定段階S3902では、半導体基板10の所定の領域における厚みを測定する。基板厚測定段階S3902では、複数の箇所で測定した厚みの平均値を用いてもよい。基板厚測定段階S3902では、活性部160における厚みを測定してよく、エッジ終端構造部90における厚みを測定してもよい。
【0288】
条件調整段階S3503では、測定した半導体基板10の厚みに基づいて、粒子注入段階S1608における荷電粒子線の注入条件、水素注入段階S1610における水素イオンの注入条件、および、熱処理段階S1612における熱処理条件の少なくともいずれかを調整する。
【0289】
半導体基板10の厚みにばらつきが生じると、半導体装置100の耐圧にばらつきが生じる場合がある。条件調整段階S3503では、半導体基板10の厚みと、所定の厚み基準値との乖離を相殺するように、各段階の条件を調整する。つまり、条件調整段階S3503では、半導体基板10の厚みが厚み基準値より小さい場合には、耐圧が増加するように各段階の条件を調整し、半導体基板10の厚みが厚み基準値より大きい場合には、耐圧が減少するように各段階の条件を調整する。ドリフト領域18におけるドーピング濃度の積分値を小さくすることで半導体装置100の耐圧を大きくでき、当該積分値を大きくすることで半導体装置100の耐圧を小さくできる。ドーピング濃度の積分値は、ドリフト領域18における水素ドナーの形成量で調整できる。水素ドナーの形成量は、上述したように、各段階の条件により調整できる。
【0290】
本例では、エッジ終端構造部90における半導体基板10の厚みを測定して、エッジ終端構造部90に対して各注入条件を調整してよい。活性部160とエッジ終端構造部90とで、荷電粒子および水素イオンの注入条件が異なっていてもよい。これにより、エッジ終端構造部90におけるドーピング濃度および耐圧を精度よく制御できる。
【0291】
図40は、エッジ終端構造部90における等電位面308の一例を示す図である。エッジ終端構造部90の構造は、
図14の例と同様である。第2のピーク141よりも下面23側には、バルク・ドナー濃度よりも高濃度の領域が形成されている。そのため、等電位面308は、第2のピーク141の近傍で曲率が変化する。これにより、等電位面308は半導体基板10の上面21の近傍において半導体装置100の外周側に拡がる。このため、等電位面308が半導体装置100の外周側にどの程度広がるかは、半導体基板10の上面21と、第2のピーク141との距離Zbに依存する。
【0292】
条件調整段階S3503は、エッジ終端構造部90における半導体基板10の厚みに基づいて、エッジ終端構造部90に対する荷電粒子の注入深さZ1を調整してよい。これにより、距離Zbを精度よく制御できる。これにより、エッジ終端構造部90における空乏層が、横方向に広がりすぎることを抑制できる。このため、エッジ終端構造部90の外周方向の長さを短くでき、半導体装置100の上面21の面積を小さくできる。
【0293】
また、条件調整段階S3503は、エッジ終端構造部90に対する各注入条件を調整してよい。これにより、第2のピーク141よりも下側のドーピング濃度を精度よく調整できるので、等電位面308の広がり方を更に制御できる。
【0294】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。
【0295】
請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0296】
10・・・半導体基板、11・・・ウェル領域、12・・・エミッタ領域、14・・・ベース領域、15・・・コンタクト領域、16・・・蓄積領域、18・・・ドリフト領域、20・・・バッファ領域、21・・・上面、22・・・コレクタ領域、23・・・下面、24・・・コレクタ電極、25・・・ピーク、26・・・ピーク、29・・・直線部分、30・・・ダミートレンチ部、31・・・先端部、32・・・ダミー絶縁膜、34・・・ダミー導電部、38・・・層間絶縁膜、39・・・直線部分、40・・・ゲートトレンチ部、41・・・先端部、42・・・ゲート絶縁膜、44・・・ゲート導電部、52・・・エミッタ電極、54・・・コンタクトホール、60、61・・・メサ部、70・・・トランジスタ部、80・・・ダイオード部、81・・・延長領域、82・・・カソード領域、90・・・エッジ終端構造部、92・・・ガードリング、94・・・フィールドプレート、100・・・半導体装置、106・・・通過領域、111・・・第2のドナーピーク、121・・・第1のドナーピーク、130・・・外周ゲート配線、131・・・活性側ゲート配線、133・・・第1のピーク、141・・・第2のピーク、142・・・下側裾、143・・・上側裾、150・・・平坦部、151・・・第2の寄与濃度ピーク、160・・・活性部、161・・・第1の寄与濃度ピーク、162・・・端辺、164・・・ゲートパッド、171・・・空孔ピーク、174・・・チャネルストッパ、180・・・領域、181・・・第2のVOHピーク、191・・・第1のVOHピーク、194・・・水素濃度ピーク、214・・・直線近似分布、216・・・帯状範囲、308・・・等電位面、601、602、603、611、612、613、631、632、633、641、642、643・・・直線、621、622、623・・・プロット、801、802、811、812、813、821、822、823、831、832、833、901、902・・・曲線
【手続補正書】
【提出日】2024-09-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の深さ方向におけるドナー濃度分布において、前記半導体基板の上面側に配置された第1のピークと、
前記ドナー濃度分布において前記半導体基板の下面側に配置された第2のピークと、
前記第1のピークと前記第2のピークとの間で前記半導体基板の中央の深さ位置を含む所定の領域に設けられ、前記半導体基板のバルク・ドナー濃度よりもドナー濃度が高く、且つ、前記ドナー濃度分布が平坦な平坦部と
を備え、
前記第1のピークと前記第2のピークとの間の全体の酸素化学濃度が、3×1015atoms/cm3以上、2×1018atoms/cm3以下である
半導体装置。
【請求項2】
前記平坦部の炭素化学濃度が、1×1013atoms/cm3以上、1×1016atoms/cm3以下である
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記平坦部の炭素化学濃度が、1×1014atoms/cm3以上、2×1015atoms/cm3以下である
請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
半導体基板の深さ方向におけるドナー濃度分布において、前記半導体基板の上面側に配置された第1のピークと、
前記ドナー濃度分布において前記半導体基板の下面側に配置された第2のピークと、
前記第1のピークと前記第2のピークとの間の所定の領域に設けられ、前記半導体基板のバルク・ドナー濃度よりもドナー濃度が高く、且つ、前記ドナー濃度分布が平坦な平坦部を備え、
前記第1のピークと前記第2のピークとの間の全体の酸素化学濃度が、3×1015atoms/cm3以上、2×1018atoms/cm3以下であり、
前記平坦部の炭素化学濃度が、1×1013atoms/cm3以上、1×1016atoms/cm3以下である
半導体装置。
【請求項5】
前記第1のピークと前記第2のピークとの間の全体の酸素化学濃度が、1×1017atoms/cm3以上、1×1018atoms/cm3以下である
請求項1から4のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第1のピーク及び前記第2のピークは、前記半導体基板の上面側に設けられたトレンチ部の下端と、前記半導体基板の下面に接する第1導電型のカソード領域または第2導電型のコレクタ領域との間に、配置されている
請求項1から5のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記平坦部は、前記第1のピークと前記第2のピークとの間の75%以上の長さに渡って設けられている
請求項1から6のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記平坦部は、前記半導体基板の厚みの20%以上、80%以下の範囲に設けられている
請求項1から7のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記第2のピークは、前記下面を基準として、半導体基板の厚みの1/4以下の範囲に配置されている
請求項1から8のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記第1のピークは、前記上面を基準として、半導体基板の厚みの1/4以下の範囲に配置されている
請求項9に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記平坦部は、前記平坦部の深さ方向の前記ドナー濃度分布における平均濃度に対して±50%の範囲内のドナー濃度を有する
請求項1から10のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項12】
前記平坦部は、前記平坦部の深さ方向の前記ドナー濃度分布における平均濃度に対して±30%の範囲内のドナー濃度を有する
請求項1から10のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記平坦部は、前記平坦部の深さ方向の前記ドナー濃度分布における平均濃度に対して±10%の範囲内のドナー濃度を有する
請求項1から10のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項14】
前記ドナー濃度分布において、前記所定の領域の両端を直線で結んだ直線近似分布は、前記下面からの距離が増加するほど濃度が増加している
請求項1から13のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項15】
前記所定の領域は、水素イオンが貫通した領域である
請求項1から14のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項16】
前記所定の領域は、水素ドナー平坦領域であり、
前記トレンチ部の下端と、前記カソード領域または前記コレクタ領域との間に、ヘリウム化学濃度のピークが設けられる
請求項6に記載の半導体装置。
【請求項17】
前記平坦部のドナー濃度が、2×1012/cm3以上、5×1014/cm3以下である
請求項1から16のいずれか1項に記載の半導体装置。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0004
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の1つの態様においては、半導体基板の深さ方向におけるドナー濃度分布において、前記半導体基板の上面側に配置された第1のピークと、前記ドナー濃度分布において前記半導体基板の下面側に配置された第2のピークと、前記第1のピークと前記第2のピークとの間で前記半導体基板の中央の深さ位置を含む所定の領域に設けられ、前記半導体基板のバルク・ドナー濃度よりもドナー濃度が高く、且つ、前記ドナー濃度分布が平坦な平坦部とを備え、前記第1のピークと前記第2のピークとの間の全体の酸素化学濃度が、3×10
15
atoms/cm
3
以上、2×10
18
atoms/cm
3
以下である半導体装置を提供する。本発明の他の態様においては、半導体基板の深さ方向におけるドナー濃度分布において、前記半導体基板の上面側に配置された第1のピークと、前記ドナー濃度分布において前記半導体基板の下面側に配置された第2のピークと、前記第1のピークと前記第2のピークとの間の所定の領域に設けられ、前記半導体基板のバルク・ドナー濃度よりもドナー濃度が高く、且つ、前記ドナー濃度分布が平坦な平坦部を備え、前記第1のピークと前記第2のピークとの間の全体の酸素化学濃度が、3×10
15
atoms/cm
3
以上、2×10
18
atoms/cm
3
以下であり、前記平坦部の炭素化学濃度が、1×10
13
atoms/cm
3
以上、1×10
16
atoms/cm
3
以下である半導体装置を提供する。本発明の他の態様においては、上面および下面を有し、酸素を含む半導体基板を備える半導体装置を提供する。半導体装置は、半導体基板の下面側に配置された、水素化学濃度の第1のピークを備えてよい。半導体装置は、第1のピークよりも半導体基板の上面側に配置され、水素ドナーを含み、半導体基板の深さ方向におけるドナー濃度分布が実質的に(ほぼ)平坦な平坦部を備えてよい。酸素の酸素化学濃度のうち水素ドナーを生成するのに寄与する酸素化学濃度の割合を示す酸素寄与率が、1×10-5以上、7×10-4以下であってよい。平坦部において、水素ドナーを生成するのに寄与する酸素の濃度が、水素化学濃度より低くてよい。平坦部における水素ドナー濃度が、1×1012/cm3以上、5×1014/cm3以下であってよい。