(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157042
(43)【公開日】2024-11-06
(54)【発明の名称】アデノウイルスの免疫測定方法及び免疫測定器具
(51)【国際特許分類】
C07K 16/08 20060101AFI20241029BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20241029BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20241029BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20241029BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20241029BHJP
G01N 33/536 20060101ALI20241029BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20241029BHJP
【FI】
C07K16/08 ZNA
C12Q1/02
C12M1/34 B
G01N33/569 L
G01N33/543 545A
G01N33/536 C
C07K16/08
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024140817
(22)【出願日】2024-08-22
(62)【分割の表示】P 2023007332の分割
【原出願日】2020-04-16
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 恭
(72)【発明者】
【氏名】桑原 三和
(57)【要約】
【課題】被検試料中に含まれるアデノウイルスを迅速、かつ、簡便に、しかも高感度で検出および測定し得るモノクローナル抗体、これを用いたアデノウイルスの免疫測定方法および免疫測定器具を提供する。
【解決手段】本発明は、配列番号1に示すアミノ酸配列の21~944番目の配列を有するポリペプチドと抗原抗体反応するモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片、これを用いた免疫測定方法および免疫測定器具を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示すアミノ酸配列の21~944番目の配列を有するポリペプチドと抗原抗体反応するモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項2】
配列番号1に示すアミノ酸配列の21~131番目、266~412番目、及び448~944番目から選ばれる少なくとも1つの範囲の配列を有するポリペプチドと抗原抗体反応する、請求項1記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項3】
配列番号1のアミノ酸配列の21~115番目、266~385番目、及び451~944番目から選ばれる少なくとも1つの範囲の配列を有するポリペプチドと抗原抗体反応する、請求項1または2記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項4】
配列番号1のアミノ酸配列の21~45、56~115番目、266~385番目、451~485番目、526~575番目、581~615番目、656~725番目、766~795番目、801~830番目、851~875番目、及び886~944番目から選ばれる少なくとも1つの範囲の配列を有するポリペプチドと抗原抗体反応する、請求項1または2記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載するモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片と、検体中のアデノウイルスとの抗原抗体反応を利用してアデノウイルスを免疫測定することを含む、アデノウイルスの免疫測定方法。
【請求項6】
前記免疫測定方法がサンドイッチ法であり、前記モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が標識または固相の少なくともいずれか一方に使用される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載するモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片を含む、アデノウイルスの免疫測定器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アデノウイルスの免疫測定方法及び免疫測定器具並びにそのための抗アデノウイルス抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
アデノウイルスは、急性熱性咽頭炎、咽頭結膜炎、急性気道炎、ウイルス性肺炎などの呼吸器疾患、急性濾胞性結膜炎、流行性角結膜炎などの眼疾患、感染性胃腸炎などの消化器疾患、尿道炎などの泌尿器疾患などの病原体として知られている。現在、アデノウイルスはA~Gの7種に分類され、80を超える型が存在している。51型までは血清型として報告されたが、52型以降は全塩基配列の決定による遺伝型として報告されている(非特許文献1)。アデノウイルスはヒトに感染した場合、多彩な臨床症状を呈し、特異的な病状が少ない為、臨床症状からアデノウイルスの感染を証明することは困難である。また、アデノウイルスの感染性は高く、集団感染を防ぐ為には早期にウイルスの感染を証明する事が必要とされている。
【0003】
迅速かつ簡便にアデノウイルスを検出する方法として、抗アデノウイルス抗体を用いた免疫クロマト法やEIAを用いた方法も開発されているが、採取できる試料の量が少ない眼科領域での陽性率は60%以下であり、より高感度の迅速診断法またはこれに用いることのできる抗アデノウイルスモノクローナル抗体が求められている。
【0004】
国立感染症研究所の発生動向調査では、アデノウイルス関連疾患として、咽頭結膜熱、感染性胃腸炎、流行性角結膜炎の患者発生情報が把握されている。急性呼吸器疾患、咽頭結膜熱はB、C、E種のアデノウイルス、感染性胃腸炎はA、F、G種のアデノウイルス、流行性角結膜炎はB、D、E種のアデノウイルスが原因として知られる(非特許文献2)。B種のアデノウイルス3型及びE種のアデノウイルス4型は、流行性角結膜炎及び咽頭結膜熱の最も一般的な病因であり、D種のアデノウイルス8型、19型及び37型は、いくつかの国、特に東アジア及び東南アジアにおける流行性角結膜炎の大発生の原因でもある。アデノウイルス8型、19型及び37型は、院内感染の疫学的原因としてよく知られている。最近、アデノウイルスにより引き起こされる院内感染が公衆衛生における重要な社会問題となっており、病院における経済的及び倫理的問題となっている。
【0005】
現在アデノウイルスに反応するモノクローナル抗体は複数作製され報告されている。例えば、アデノウイルスの特定の亜型に反応するモノクロナール抗体を用いてアデノウイルスを検出する方法が報告されている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Seto D, et al., J Virol 85: 5701-5702, 2011
【非特許文献2】IASR Vol. 38 p.133-135: 2017年7月号
【特許文献1】特開2000-290298
【特許文献2】特開2000-290299
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、現在作製されている、アデノウイルスに対するモノクローナル抗体は、いずれもアデノウイルスの検出の感度は十分ではなく、より高感度に反応するモノクローナル抗体が求められている。また、従来の抗アデノウイルスモノクロナール抗体はエピトープのアミノ酸配列が特定されていないため、再現性に劣るという問題があった。
本発明は、被検試料中に含まれるアデノウイルスを迅速、かつ、簡便に、しかも高感度で検出および測定し得るモノクローナル抗体、これを用いたアデノウイルスの免疫測定方法および免疫測定器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題につき鋭意検討した結果、アデノウイルスをより高感度に検出するためには、アデノウイルスに含まれる特定のアミノ酸配列をエピトープとするモノクロナール抗体を用いることが有効であることを見出して本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 配列番号1に示すアミノ酸配列の21~944番目の配列を有するポリペプチドと抗原抗体反応するモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片。
[2] 配列番号1に示すアミノ酸配列の21~131番目、266~412番目、及び448~944番目から選ばれる少なくとも1つの範囲の配列を有するポリペプチドと抗原抗体反応する、[1]に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片。
[3] 配列番号1のアミノ酸配列の21~115番目、266~385番目、及び451~944番目から選ばれる少なくとも1つの範囲の配列を有するポリペプチドと抗原抗体反応する、[1]または[2]に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片。
[4] 配列番号1のアミノ酸配列の21~45、56~115番目、266~385番目、451~485番目、526~575番目、581~615番目、656~725番目、766~795番目、801~830番目、851~875番目、及び886~944番目から選ばれる少なくとも1つの範囲の配列を有するポリペプチドと抗原抗体反応する、[1]または[2]に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片。
[5] [1]~[4]のいずれか1つに記載するモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片と、検体中のアデノウイルスとの抗原抗体反応を利用してアデノウイルスを免疫測定することを含む、アデノウイルスの免疫測定方法。
[6] 前記免疫測定方法がサンドイッチ法であり、前記モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が標識または固相の少なくともいずれか一方に使用される、[5]に記載の方法。
[7] [1]~[4]のいずれか1つに記載するモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片を含む、アデノウイルスの免疫測定器具。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、被検試料中に含まれるアデノウイルスを迅速、かつ、簡便に、しかも高感度で検出および測定し得るモノクローナル抗体、これを用いたアデノウイルスの免疫測定方法および免疫測定器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例3で行ったウエスタンブロッティングの結果を示す図である。
【
図2】実施例3で行った電気泳動後のゲルをCBBで染色した結果を示す図である。
【
図3-1】3型アデノウイルスGB株ヘキソン蛋白質のペプチドライブラリーのインデックス1~51を示す図である。
【
図3-2】3型アデノウイルスGB株ヘキソン蛋白質のペプチドライブラリーのインデックス52~102を示す図である。
【
図3-3】3型アデノウイルスGB株ヘキソン蛋白質のペプチドライブラリーのインデックス103~152を示す図である。
【
図3-4】3型アデノウイルスGB株ヘキソン蛋白質のペプチドライブラリーのインデックス153~187を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。
【0013】
<モノクロナール抗体またはその抗原結合性断片>
本発明のモノクロナール抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号1に示すアミノ酸配列の21~944番目の配列を有するポリペプチドと抗原抗体反応する。配列番号1のアミノ酸配列は、944アミノ酸残基から構成される3型アデノウイルスGB株ヘキソン単量体蛋白質(GenBank Accession No. AB330084.1)の配列である。ウェスタンブロット法によるアデノウイルスの検出に本発明のモノクロナール抗体またはその抗原結合性断片を用いることで、分子量100kD付近の単量体と考えられるバンドと、200~300kDの三量体と考えられるバンドに抗原抗体反応による特異的なシグナルを検知することができる。ただし、単量体と思われる100kD付近のバンドに対しては非常に弱い反応しか認められない。
【0014】
好ましい態様では、本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号1のアミノ酸配列の21~131番目、266~412番目、及び448~944番目から選ばれる少なくとも1つの範囲の配列を有するポリペプチドと抗原抗体反応する。なお、配列番号1のアミノ酸配列の132~265番目及び413~447番目の配列は、アデノウイルスの亜型間で保存性が低い配列と考えられる。
また、別の好ましい態様では、本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号1のアミノ酸配列の21~115番目、266~385番目、及び451~944番目から選ばれる少なくとも1つの範囲の配列を有するポリペプチドと抗原抗体反応する。
さらに、別の好ましい態様では、本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号1のアミノ酸配列の21~45、56~115番目、266~385番目、451~485番目、526~575番目、581~615番目、656~725番目、766~795番目、801~830番目、851~875番目、及び886~944番目から選ばれる少なくとも1つの範囲の配列を有するポリペプチドと抗原抗体反応する。
上記の範囲のアミノ酸配列のポリペプチドと抗原抗体反応するモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片を用いることにより、高感度にアデノウイルスを検出することができる。
【0015】
本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、重鎖及び軽鎖からなる基本構造を有し、重鎖及び軽鎖はそれぞれ抗原に特異的に結合することが可能な可変領域を有する。VHは重鎖の可変領域を指し、VLは軽鎖の可変領域を指す。重鎖及び軽鎖の可変領域には、それぞれ相補性決定領域(CDR)、すなわち、CDR1、CDR2及びCDR3、並びにフレームワーク領域(FR)のアミノ酸配列が含まれる。例えば、可変領域は、3つのCDRと共に3又は4のFR(例えば、FR1、FR2、FR3及び任意でFR4)を含む。
【0016】
本発明のモノクローナル抗体には、4本鎖の抗体(例えば、2本の軽鎖及び2本の重鎖)、組換え抗体又は修飾抗体(例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、CDR移植抗体、霊長類化抗体、脱免疫化抗体、類似ヒト化(synhumanized)抗体、半抗体、二重特異性抗体)が含まれる。また、モノクローナル抗体のクラスはIgGに限定されず、IgMやIgYでもよい。
【0017】
本発明において、モノクローナル抗体の抗原結合性断片とは、モノクローナル抗体の抗原結合部位のみを分離させた断片であり、例えば、公知の方法により作製された、Fab、Fab’、F(ab’)2、一本鎖抗体(scFv)などの特異的な抗原結合性を有する断片が挙げられる。
【0018】
(モノクローナル抗体の作製方法)
本発明のモノクローナル抗体は、公知の免疫学的手法を用い、本発明のモノクローナル抗体が抗原抗体反応する上記特定のアミノ酸配列を含むアデノウイルスを含む複合体や抽出物、あるいは該アデノウイルス又はそれらの部分ペプチドを被免疫動物に免疫し、被免疫動物の細胞を用いてハイブリドーマを作製することにより得ることができる。免疫に用いるペプチドの長さは特に限定されないが、好ましくは5アミノ酸以上、より好ましくは10アミノ酸以上のペプチドを用いて免疫原とすることができる。
【0019】
免疫原は培養液から得ることもできるが、本発明のモノクローナル抗体が抗原抗体反応する上記特定のアミノ酸配列を含むアデノウイルス抗原をコードするDNAをプラスミドベクターに組み込み、これを宿主細胞に導入して発現させることにより得ることもできる。免疫原とするアデノウイルス抗原またはその部分ペプチドは、以下に例示するようなタンパク質との融合タンパク質として発現させ、精製の後、または未精製のまま免疫原として用いることもできる。融合タンパク質の作製には、当業者が「タンパク質発現・精製タグ」として一般的に用いる、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)、チオレドキシン(TRX)、Nusタグ、Sタグ、HSVタグ、FRAGタグ、ポリヒスチジンタグなどが利用できる。これらとの融合タンパク質は、消化酵素を用いて上記のアデノウイルス抗原あるいはその部分ペプチド部分とそれ以外のタグ部分とを切断し、分離精製した後に免疫原として用いることが好ましい。
【0020】
免疫した動物からのモノクローナル抗体の調製は、周知のケラーらの方法(Kohler et al., Nature, vol, 256, p495-497(1975))により容易に行うことができる。すなわち、免役した動物から、脾細胞やリンパ球等の抗体産生細胞を回収し、これを常法によりマウスミエローマ細胞と融合させてハイブリドーマを作製し、得られたハイブリドーマを限界希釈法等によりクローニングし、クローニングされた各ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体のうち、動物の免疫に用いた抗原と抗原抗体反応するモノクローナル抗体を選択する。
【0021】
腹水や培養上清からのモノクローナル抗体の精製は、公知のイムノグロブリン精製法を用いることができる。例えば、硫酸アンモニウムや硫酸ナトリウムを用いた塩析による分画法、PEG分画法、エタノール分画法、DEAEイオン交換クロマトグラフィー法、ゲルろ過法などが挙げられる。また、免疫動物種とモノクローナル抗体のクラスに応じて、プロテインA、プロテインG、プロテインLのいずれかを結合させた担体を用いたアフィニティクロマトグラフィー法によっても精製することが可能である。
【0022】
<免疫測定方法>
【0023】
本発明においては、上述したモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片を用いることにより、アデノウイルスを非常に高感度で検出することができる。以下、実施例の前までの記載において、文脈からそうでないことが明らかな場合を除き、「モノクローナル抗体」は、「モノクローナル抗体またはその抗原結合性断片」を意味する。
【0024】
本発明において、アデノウイルスの検出は、上述したモノクローナル抗体と検体中のアデノウイルスとの抗原抗体反応を利用してアデノウイルスを免疫測定することにより行う。モノクローナル抗体がアデノウイルスと抗原抗体反応するとは、モノクローナル抗体がアデノウイルスに特異的に反応するという意味である。「特異的」とは、抗原のタンパク質とモノクローナル抗体が混じり合う液系において、該抗体が抗原タンパク質以外の成分と検出可能なレベルで抗原抗体反応を起こさないか、または何らかの結合反応や会合反応を起こしたとしても、該抗体と抗原タンパク質との抗原抗体反応よりも明らかに弱い反応しか起こさないことを意味する。
【0025】
本発明において、免疫測定法としては、競合法、凝集法、ウェスタンブロット法、免疫染色法、サンドイッチ法など、当業者にとって周知のいずれの方法も用いることができる。
【0026】
本発明の免疫測定方法としては、サンドイッチ法が好ましい。サンドイッチ法自体は免疫測定の分野において周知であり、例えばイムノクロマトグラフィー法やELISA法により行うことができる。これらのサンドイッチ法自体はいずれも周知であり、本発明の方法は、上記した特定のモノクローナル抗体を用いること以外は、周知のサンドイッチ法により行うことができる。
【0027】
サンドイッチ法には、抗原を認識する2種類の抗体(固相に固定化される固定化抗体と、標識抗体)が用いられるが、本発明の方法では、これらの2種類の抗体のうち、少なくともいずれか一方が、上記した本発明のモノクローナル抗体である。固相に固定化される固定化抗体は、単位面積当りに固定化可能な抗体量が限られているので、感度向上という本発明の目的をより良く達成するためには、少なくとも固定化抗体に本発明のモノクローナル抗体を用いることが好ましい。なお、単一の分子又は単一の複合体の中に、該モノクローナル抗体により認識される抗原が少なくとも2つ存在する場合には、単一種類の該モノクローナル抗体を固相化抗体及び標識抗体として用いてサンドイッチ法を行うことも可能である。
【0028】
サンドイッチ法を検出原理とする免疫測定において、抗体が固定化される固相としては、抗体を公知技術により固定可能なものは全て用いることができ、例えば、毛細管作用を有する多孔性薄膜(メンブレン)、粒子状物質、試験管、樹脂平板など公知のものを任意に選択できる。また、抗体を標識する物質としては、酵素、放射性同位体、蛍光物質、発光物質、有色粒子、コロイド粒子などを用いることができる。前述の種々の材料による免疫測定法の中でも、特に臨床検査の簡便性と迅速性の観点から、メンブレンを用いたラテラルフロー式の免疫測定法が好ましい。
【0029】
本発明において、モノクローナル抗体を用いてアデノウイルスを定量又は半定量する場合でも、定量や半定量は必然的に「測定」を伴うので、本発明における「測定」に包含される。すなわち、本発明において、免疫測定の「測定」には、定量、半定量、検出のいずれもが包含される。
【実施例0030】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1) 抗アデノウイルスモノクローナル抗体の作製
1.アデノウイルス抗原の調製
アデノウイルスを感受性のある哺乳類細胞に感染させ、数日間培養した後にアデノウイルス感染細胞の培養液を紫外線照射で不活化したものを用いた。
【0032】
2.抗アデノウイルスモノクローナル抗体の作製
1.のアデノウイルス不活化抗原をBALB/cマウスに免疫し、一定期間飼育したマウスから脾臓を摘出し、ケラーらの方法(Kohler et al., Nature, vol, 256, p495-497(1975))によりマウスミエローマ細胞(P3×63)と融合し、抗アデノウイルス抗体を産生するハイブリドーマ細胞株が複数得られた。
取得した細胞株をプリスタン処理したBALB/cマウスに腹腔投与し、約2週間後、抗体含有腹水を採取した。得られた腹水から、プロテインAカラムを用いたアフィニティクロマトグラフィー法によりIgGを精製し、精製抗アデノウイルスモノクローナル抗体を複数得た。
【0033】
以下の実施例では、複数得られた抗アデノウイルスモノクローナル抗体のうち、反応性および特異性を考慮して選択した2つの抗体1及び抗体2を用いた。
【0034】
(実施例2) アデノウイルスを測定する免疫測定器具
1.抗アデノウイルス抗体のニトロセルロースメンブレンへの固定化
実施例1で作製した抗アデノウイルス抗体(抗体2)を緩衝液で希釈した液及び抗マウスIgG抗体を準備し、PETフィルムで裏打ちされたニトロセルロースメンブレンのサンプルパッド側に抗アデノウイルス抗体、吸収体側に抗マウスIgG抗体をそれぞれ線状に塗布した。その後、ニトロセルロースメンブレンを温風下で十分に乾燥させ、抗アデノウイルス抗体固定化メンブレンを得た。
【0035】
2.抗アデノウイルス抗体の着色ポリスチレン粒子への固定化
実施例1で作製した抗アデノウイルス抗体(抗体1)を着色ポリスチレン粒子に共有結合させた後に、着色ポリスチレン粒子を浮遊液に懸濁させた。次いで、超音波処理により十分に分散させた、抗アデノウイルス抗体結合着色ポリスチレン粒子を得た。本明細書においては、ここで得られた粒子を抗アデノウイルス抗体固定化粒子と呼ぶ。
【0036】
3.抗アデノウイルス抗体結合着色ポリスチレン粒子の塗布・乾燥
2で作製した抗アデノウイルス抗体固定化粒子をグラスファイバー不織布に所定量塗布し、温風下で十分に乾燥させた。本明細書においては、ここで得られたパッドを標識抗体パッドと呼ぶ。
【0037】
4.アデノウイルス検査デバイスの作製
1で作製した抗アデノウイルス抗体固定化メンブレンと2および3で作製した標識抗体パッドを他部材(バッキングシート、吸収帯、サンプルパッド)とを貼り合せて5mm幅に切断し、アデノウイルス検査デバイスとした。
【0038】
5.アデノウイルス検査デバイスの反応性の確認
各型のアデノウイルス感染細胞の培養液を緩衝液で希釈し、それぞれの型のアデノウイルスの2倍希釈系列を調製した。
調製したアデノウイルス希釈液を検体浮遊液(10mM Tris(pH8.0)、1w/v%ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、3 w/v%アルギニン、3 w/v%BSA)に添加し、4で作製したアデノウイルス検査デバイスに50μL滴加した後、5分間静置した。
【0039】
抗マウスIgG抗体及び抗アデノウイルス抗体の両方の塗布位置で発色を目視で確認できた場合に+(陽性)と判定する。抗マウスIgG抗体の塗布位置のみで発色を目視で確認でき、抗アデノウイルス抗体の塗布位置で発色を目視で確認できない場合は-(陰性)と判定する。また、抗マウスIgG抗体の塗布位置で発色を目視で確認できない場合は無効と判定する。
陽性と判定された最小のアデノウイルス濃度を最小検出感度とし、結果を表1に示す。
【0040】
【0041】
表1に示された通り、本発明の抗アデノウイルス抗体を用いた免疫測定器具は、A~D種に属する多くの型のアデノウイルスに対し反応することが確認できた。
また、53型、54型、56型、64型、79型、81型、85型の各亜型に対する反応も確認できた。
【0042】
6.アデノウイルス検査デバイスの特異性の確認
4で作製したアデノウイルス検査デバイスに、呼吸器感染症を引き起こすウイルスを含む検体浮遊液を50μL滴加し、5分間静置した。
抗マウスIgG抗体及び抗アデノウイルス抗体の両方の塗布位置で発色を目視で確認できた場合に+と判定する。抗マウスIgG抗体の塗布位置のみで発色を目視で確認でき、抗アデノウイルス抗体の塗布位置で発色を目視で確認できない場合は-と判定する。また、抗マウスIgG抗体の塗布位置で発色を目視で確認できない場合は無効と判定する。
結果を表2に示す。
【0043】
【0044】
表2に示された通り、本発明の抗アデノウイルス抗体を用いた免疫測定器具は、アデノウイルスに反応するものの、他の呼吸器感染症の病因ウイルスに対して交差反応性を示さないことから、アデノウイルスに対して特異的に反応することが確認できた。
【0045】
7.アデノウイルス検査デバイスの性能比較
4で作製したアデノウイルス検査デバイス(本品)の最小検出感度を、市販のアデノウイルスキットと比較した。
アデノウイルス感染細胞の培養液をそれぞれ緩衝液を用いて希釈し、2倍希釈系列を調製した。アデノウイルス希釈液を含む検体浮遊液を本品に50μL滴加し、5分間静置後に判定した。市販キットについては、規定量のアデノウイルス希釈液を検体として、各キットの添付文書に従って試験を実施し判定した。
本品で陽性と判定された最大のアデノウイルス希釈倍率を「1」としたとき、市販のアデノウイルスキットが陽性と判定された最大の希釈倍率を相対感度とし、表3に示す。
【0046】
【0047】
表3に示された通り、本発明の抗アデノウイルス抗体を用いた免疫測定器具は、2型アデノウイルスに対する反応性は最も高く、その他の型のアデノウイルスに対してもキットAと並んで最も高い反応性を有することが確認できた。
【0048】
(実施例3) 抗アデノウイルスモノクローナル抗体の抗原認識部位
実施例1で得た抗アデノウイルスモノクローナル抗体の抗原認識部位をウエスタンブロッティング及びLC-MS/MSで確認した。
【0049】
1.アデノウイルス濃縮液の調製
アデノウイルスをA549細胞に感染させ、培養した。培養7日目にアデノウイルス感染細胞を回収し、超音波処理により細胞を破砕した。細胞破砕液から遠心により細胞残渣を除去し、アデノウイルス濃縮液を得た。
【0050】
2.還元処理なしのサンプル調製
1で得たアデノウイルス濃縮液の2倍希釈系列を調製し、終濃度が62.5mM Tris-HCl(pH6.5)、10w/v%グリセロール、2.3w/v%SDS、0.05%BPB(色素)となるように各試薬を添加し、加熱変性処理をせずに定法のSDS-PAGEを行った。
【0051】
3.還元処理ありのサンプル調製
1で得たアデノウイルス濃縮液の2倍希釈系列を調製し、終濃度が62.5mM Tris-HCl(pH6.5)、10w/v%グリセロール、2.3w/v%SDS、0.05%BPB(色素)、5% 2-メルカプトエタノールとなるように各試薬を添加し、95℃で1分間の加熱変性処理後、定法のSDS-PAGEを行った。
【0052】
4.ウエスタンブロッティング
2及び3で得られた泳動後のゲルを、PVDF膜に転写した。スキムミルクでブロッキングを行った後、PBS-Tweenで十分に洗浄した。PBS-Tweenで3.8 μg/mLに調整した抗アデノウイルス抗体を室温で1時間反応させた。PBS-Tweenで十分に洗浄した後、3000倍に希釈したHRP標識抗マウス抗体を室温で1時間反応させた。PBS-Tweenで十分に洗浄した後、化学発光検出試薬を用いてシグナルを検出した。
ウエスタンブロッティングの結果を
図1に示す。
【0053】
図1に示したとおり、実施例1で作出された2つの抗体(抗体1、抗体2)はどちらも2(還元処理なし)で得られたサンプル中に含まれる200kD付近の蛋白質(ヘキソン三量体)に強く反応した(左図)。還元処理により、ヘキソン三量体は単量体となっていると考えられ、3(還元処理あり)で得られたサンプルでは100kD付近の蛋白質(ヘキソン単量体)に非常に弱い反応が認められた(右図)。
2及び3で得られた泳動後のゲルをCBBで染色した結果を
図2に示す。
【0054】
図2の矢印で示したとおり、2(還元処理なし)で得られたサンプル中に含まれる主要な蛋白質は200kD付近(左図)、3(還元処理あり)で得られたサンプルでは100~150kDであった(右図)。図中の四角形で示したそれぞれの染色領域を切出した後、トリプシンによる加水分解を経てLC-MS/MSでアミノ酸配列を解析した。得られたペプチド断片をMascot(Ver. 2.5)(Matrix Science社)及びScaffold(Proteome Software社)を用いて解析した結果、どちらの染色領域もアデノウイルスのヘキソン蛋白質を主要な構成成分とすることが明らかとなった。
【0055】
図1及び
図2より、実施例1で得られた2つの抗体はどちらもヘキソン単量体よりもヘキソン3量体の蛋白質に強く反応し、単量体のヘキソン蛋白質とは弱い反応を示すことが分かった。本発明の抗体とヘキソン単量体との反応は弱い反応ではあるが、単量体中の特定の配列と抗原抗体反応する本発明の抗体はアデノウイルスの検出に非常に有効であることが示された。
【0056】
(実施例4) ペプチドマイクロアレイPepStar(JPT Peptide Technologies社製、以下「Pepstar」と称する)による抗アデノウイルスモノクローナル抗体のアデノウイルスヘキソンタンパク質に対する反応性解析
1.PepStarの作製
3型アデノウイルスGB株ヘキソン蛋白質(GenBank Accession No. AB330084.1)のアミノ酸配列情報をもとに、表4に示すペプチドライブラリーに示すペプチドを固定化したペプチドマイクロアレイPepstar(JPT Peptide Technologies社製)を購入した。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
2.Pepstarによる抗アデノウイルスモノクローナル抗体の反応性解析
実施例1で作製した2種類の抗アデノウイルス抗体を緩衝液で希釈し、それぞれの抗体をPepstar上で30℃で1時間反応させた。反応後、1μg/mlの二次蛍光標識抗マウスIgG抗体を対応するウェルに加え、1時間反応させた。ウェル上の反応生成物を洗浄および乾燥した後に、スライドを635 nmの高解像度レーザースキャナーでスキャンして、蛍光強度プロファイルを取得した。得られた結果の画像を定量化して、各ペプチドの平均ピクセル値を得た。
得られた結果を視覚化し、個々の結合領域を比較するために、白色(結合なし)から赤色(強い結合)に色分けされた蛍光強度を示すヒートマップ図(
図3)を作成した。
【0062】
図3のヒートマップの結果より、実施例1にて作成した2種類の抗アデノウイルスモノクローナル抗体のアデノウイルスのヘキソンタンパク質に対する反応領域が明らかになった。
【0063】
なお、本発明において配列番号1は以下の配列である。
【化1-1】
【化1-2】
【化1-3】
【化1-4】