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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157061
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】ウイルス不活化組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/06 20060101AFI20241030BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20241030BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20241030BHJP
   A61K 33/30 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
A61K33/06
A61P31/16
A61P31/14
A61K33/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021134418
(22)【出願日】2021-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】506228733
【氏名又は名称】株式会社シマニシ科研
(72)【発明者】
【氏名】石井 清堅
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA02
4C086HA03
4C086HA04
4C086HA05
4C086HA07
4C086HA10
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB33
(57)【要約】
【課題】本発明は新型コロナウイルス及びインフルエンザウイルスを不活化するために、金属塩を主成分とする酸溶出液の適正な希釈水溶液からなるウイルス不活化組成物を提供する。
【解決手段】
ウイルス不活化組成物であって、花崗岩を代表とする火成岩、接触変成岩、及び/又はその風化体を無機酸及び/又は有機酸で溶出した多数の金属塩を主成分とする溶出液の希釈水溶液からなることを特徴とするウイルス不活化組成物で解決される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
新型コロナウイルス(SARS-CoV2)、及びインフルエンザウイルスを不活化するウイルス不活化組成物であって、花崗岩を代表とする火成岩、接触変成岩、及び/又はその風化体を無機酸及び/又は有機酸で溶出した多数の金属塩を主成分とする溶出液の希釈水溶液からなることを特徴とするウイルス不活化組成物。
【請求項2】
花崗岩の風化体を原料にし、前記溶出液は、硫酸であり、前記金属塩を構成する金属は鉄、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、亜鉛、バリウム、銅、ニッケル、チタン、カルシウム、マンガン、ナトリウム、コバルト、リチウム、シリコン、モリブデン、バナジウム、タングステン、ルビシウム、ゲルマニウム、セレニウム、から選択される6種以上か、そのすべてを含有し、さらに非金属成分としてリンを含むことを特徴とする請求項1記載のウイルス不活化組成物。
【請求項3】
前記ウイルス不活化組成物は、80倍以上、800倍以下の希釈倍率で希釈され、口腔内で少なくとも5秒間とめ置かれ及び/又は含嗽されたのち、300秒に達するか又は達するまでに排出されるか嚥下され、口腔内粘膜に付着した及び口腔内で増殖した新型コロナウイルス(SARS-CoV2)を不活化することを特徴とする請求項1、2のいずれかに記載の新型コロナウイルス(SARS-CoV2)用口腔内消毒剤。
【請求項4】
前記ウイルス不活化組成物は、800倍以上、4000倍以下の希釈倍率で希釈され、口腔内に少なくとも1秒間とめ置かれ、及び又は含嗽されたのち、20秒に達するか又は達するまでに、排出されるか嚥下され、口腔内粘膜に付着したインフルエンザウイルスを不活化することを特徴とする請求項1、2のいずれかに記載のインフルエンザウイルス用口腔内消毒剤。
【請求項5】
前記ウイルス不活化組成物は、50倍以上、4000倍以下の希釈倍率で希釈され、不織布、織布、編地に含浸付着され身体の洗浄に供されるか、及び/又は飛沫が付着する対象物の消毒用に使用され、さらに身体の一部や、治療に使用した医療機器を浸漬、又は噴霧、又はスプレーされることにより身体又は医療機器に付着した新型コロナウイルス(SARS-CoV2)を不活化することを特徴とする請求項1、2のいずれかに記載の消毒剤。
【請求項6】
請求項5の消毒剤をウイルス不活化剤として適用される衛生用品であって、該衛生用品はウエットティッシュ、又はおしぼり、又はウエットタオル、又は消毒液であること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鼻腔、口腔、上気道感染症を引き起こす新型コロナウイルス(SARS-CoV2)やインフルエンザウイルスを不活化するウイルス不活化組成物に関し、口腔内消毒用、身体の洗浄に供される衛生用品に適したウイルス不活化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
人類とウイルスの歴史は人類が誕生した時から始まり、幾度となくパンデミックを繰り返しながら、長い歴史の中で人類に禍をもたらしてきた。その原因となるいくつかのウイルスについて、近年その感染メカニズムが徐々に解明されるようになってきた。
【0003】
例えば感染症を引き起こす麻疹ウイルスは飛沫核感染(空気感染)、飛沫感染、接触感染と様々な感染経路を有し、その感染力は極めて強い。人の体内に入った麻疹ウイルスは免疫を担う全身のリンパ組織を中心に増殖し、強い免疫機能抑制状態を生じるため合併した別の細菌の感染症が重症化する。またポリオウイルスは脊髄や脳幹、大脳皮質に存在する運動神経細胞に感染し下肢の麻痺を引き起こす。エイズウイルス(HIV)は免疫細胞にある受容体に感染するため免疫不全を引き起こす。ヘルペスウイルス(HSV)は活発にウイルスを輩出している個人との濃厚接触に起因し、感染後は神経節に潜伏し、そこから周期的に出現して症状を引き起こす。
【0004】
一方、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)やインフルエンザウイルスの感染経路は飛沫感染、接触感染と言われている。特に新型コロナウイルス(SARS-CoV2)は鼻腔、口腔から侵入したウイルスの一部は鼻腔、口腔内の口腔粘膜に付着し、そこから気管、気管支へと侵入し肺胞に達する。これはインフルエンザウイルスや新型コロナウイルス(SARS-CoV2)のスパイク蛋白が鍵の役割を果たし、細胞表面の受容体という鍵穴に取りつき感染するが、受容体は鼻腔、口腔、気道上皮の細胞にあるので、最初に呼吸器系上皮細胞が感染するといわれている。さらに新型コロナウイルスは歯茎や頬の内側、舌の細胞に直接感染し、口の中で増殖するという報告もある。
【0005】
特許文献1には、雲母系鉱物由来の含ミネラル群溶液による殺菌消毒剤が開示されている。含ミネラル群溶液は・OHラジカルを生成する事による酸化作用によって殺菌・消毒作用をもたらし、大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、サルモネラ菌、サルモネラチフス菌、ヒト免疫不全ウイルスに対する殺菌消毒効果を記載している。
【先行技術文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-238004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスは、麻疹ウイルスやポリオウイルス、エイズウイルス、ヘルペスウイルスと異なり最初に呼吸器系上皮細胞や、直接口腔内で感染が始まり増殖するので、口腔内でのウイルスの不活化が強く望まれている。
【0008】
先行技術文献には麻疹ウイルスやヒト免疫ウイルス、ヘルペスウイルス、ポリオウイルスに対する不活化効果が記載されているものの、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスに関する記載は見当たらない。
【0009】
上述したようにウイルスはその種類により固有の性質を持ち、これに抗する不活化剤もウイルスの種類によって異なるものであり、先行技術文献はインフルエンザウイルスや新型コロナウイルスに対する不活化を示唆するものではない。
【0010】
また麻疹ウイルスやポリオウイルス、エイズウイルス、ヘルペスウイルスは身体に付着し、鼻腔、口腔から人体にウイルスが侵入したとしても、一旦感染が始まると殺菌消毒剤は直接ウイルスと接触する事はなく、侵入したウイルスを不活化させる処方についての記載はない。
【0011】
現在、一般的に使用される殺菌消毒剤は、エチルアルコールやイソプロピルアルコールといったアルコール類、フェノール、クレゾール、クロルヘキシジン等のフェノール類、塩素ガス、次亜塩素酸ナトリウム、ヨード・ヨードカリ液、ヨードチンキ等のハロゲン類、
さらにはホルムアルデヒド、グルタールアルデヒド等のアルキル化剤、その他過酸化水素、過マンガン酸カリ等の酸化剤、石鹸等の界面活性剤の群が使用されている。
【0012】
この中でも、抗ウイルス用としてエチルアルコール、次亜塩素酸ナトリウム、ポビドンヨード、グルタールアルデヒド、過マンガン酸カリが使用され、口腔、咽頭の消毒用にポビドンヨード、過酸化水素が有効とされている。
【0013】
この中で、口腔、咽頭用に適用できるのはポビドンヨードであり、その7%溶液とその希釈液が新型コロナウイルスの不活化に有効と伝えられている。しかしながら、1回のうがい液には14~28mgのヨウ素が含まれる。それによる体内への吸収量は定かでないが、1日に接種できるヨウ素の上限値は3mgと定められていることから、1日に複数回のうがいは難しい。この基準を長期間超えると甲状腺に異常が起こるとされている。
【0014】
以上のように現状では、口腔内で増殖し、口腔内が一種の培養器となっているにも関わらず、口腔内、鼻腔、咽頭、喉頭に直接作用し、そこに付着、増殖する新型コロナウイルスを不活化する消毒剤は見出されていない。
【0015】
一方、感染経路の一つとされる接触感染への対応も望まれている。身体に付着したウイルスや喀痰や糞便の消毒、さらには人が触れる部分への消毒は、一般的にはエチルアルコールや次亜塩素酸液が使用されているが、使用頻度が増えるにしたがい皮膚の皮脂成分も同時に減少し、肌荒れ等を引き起こす原因となっている。この問題を解決し、皮膚にも悪影響を及ばさず、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスの不活化にも効果を示す液状の組成物は見出されてはいない。
【0016】
本発明は新型コロナウイルス及びインフルエンザウイルスを不活化するために、金属塩を主成分とする酸溶出液の適正な希釈水溶液からなるウイルス不活化組成物を提供し、さらには鼻腔、口腔から人体に接触、又は侵入したウイルスを不活化させる適正な処方に基づく口腔内消毒剤、及び衛生用品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明はマグマが冷却固化した岩石であり、花崗岩、かんらん岩、斑れい岩、閃緑岩、コマチアイト、玄武岩、安山岩、流紋岩、花崗斑岩を母岩とし、これらの風化体や紛体を無機酸や有機酸に溶解することで多種のミルラル成分を溶出し、得られたミネラル群溶液を飲料水で特定の範囲に希釈する事でミネラル群水溶液が新型コロナウイルス(SARS-CoV2)、インンフルエンザウイルス、を不活化することを見出し本発明に到達した。
【0018】
上記ミネラル群溶液の中でも、雲母系鉱物であるバーミュキュライトを含有した風化腐食花崗岩を原料として使用し、溶出率の高い無機酸で溶出したミネラル群溶液は、ヒ素、鉛、水銀、クロム、カドミウムを含まず、ミネラル成分として鉄、マグネシウム、カリウム、マンガン、カルシウム、アルミニウム、亜鉛、シリコン、ナトリウム、銅、リン、チタン、ニッケル、コバルト、モリブデン、リチウム、バナジウム、タングステン、ルビシウム、ゲルマニウム、セレニウム、バリウムを含む多種の金属塩と非金属塩としてリンを含有する溶出液となり好ましい。
【0019】
使用する無機酸としては硫酸や塩酸、有機酸として酢酸やクエン酸、L-酒石酸、コハク酸、乳酸、等があるが、ミネラル成分の溶出に比較的容易な無機酸が好ましく、さらには殺菌、抗ウイルス効果から硫酸が最も好ましい。
【0020】
本発明のウイルス不活化組成物がウイルスを不活化するメカニズムは、多種の金属成分と酸とが複雑に作用し合っており、完全に解明されているわけではなく、確立された不活化理論ではないが、多種の遷移金属や非金属が酸によって金属塩や非金属塩を生成し、多種の金属が錯塩を形成し、その結果として強い酸化力を有するヒドロキシラジカル・OHを生成するものと考えている。ヒドロキシラジカル・OHは酸素としての電子状態が不安定であるため、周りの物質から電子を引き抜く力、即ち酸化力が強いため、ウイルスに直接作用すると考えられ、一方でウイルス不活化組成物を体内にとりこむことで、生体内のいろいろな反応の過程でヒドロキシラジカル・OHが生成され、その強力な酸化作用でウイルスにたいする消毒作用としての働き、免疫の機能を維持、向上するとも考えている。
【0021】
風化腐蝕花崗岩を原料とし、硫酸で溶出した多種の金属塩と非金属塩を含有する溶出液はpHが0.1~2.0と強い酸性を呈するが、多種で多量の金属成分と錯体を形成しているため皮膚や細胞上皮に化学熱傷を引き起こすことはない。ただこの溶出液はウイルス不活化作用が大きい反面、強い酸性は口腔内にある味覚センサーに作用し強い刺激となることから、口腔内消毒剤とするには溶出液を飲料水で希釈する必要がある。また身体皮膚上に付着したり、身体が接触する対象物に付着したウイルスを不活化する場合、溶出液は不活化作用は大きい反面、酸化力大きいため、対象物の変色、劣化を引き起こすため、溶出液を飲料水で希釈する必要がある。
【0022】
すなわち本発明は、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)を不活化するウイルス不活化組成物を、新型コロナウイルスを標的にした口腔内消毒剤とする場合、ウイルス不活化組成物を、80~800倍に希釈する。この希釈したウイルス不活化組成物を口腔内に取り込み、少なくとも5秒間とめ置き及び/又は含嗽したのち、300秒に達するか又は達するまでに排出するか嚥下し、口腔内粘膜に付着した及び口腔内で増殖した新型コロナウイルス(SARS-CoV2)を不活化する。
【0023】
インフルエンザウイルスを標的にした口腔内消毒剤とする場合、ウイルス不活化組成物は、800~5000倍に希釈する。この希釈したウイルス不活化組成物を口腔内に取り込み、少なくとも1秒間とめ置き、及び/又は含嗽したのち、20秒に達するか又は達するまでに、排出するか嚥下し、口腔内粘膜に付着したインフルエンザウイルスを不活化する。
【0024】
身体及び/又は身体の一部または治療に使用された医療機器に付着した新型コロナウイルスを標的にした場合、ウイルス不活化組成物は50~4000倍に希釈し、この希釈したウイルス不活化組成物を不織布や織布、編地に含浸付着し身体の洗浄に供するか、及び/又は飛沫が付着する対象物の消毒用に使用され、さらに身体の一部や治療に使用した医療機器を浸漬するか、身体の一部や治療に使用した医療機器に噴霧、又はスプレーされることで、身体又は医療機器に付着した新型コロナウイルス(SARS-CoV2)を不活化する衛生用品及び消毒液により解決される。
【発明の効果】
【0025】
本発明のウイルス不活化組成物は新型コロナウイルス(SARS-CoV2)、インフレンザウイルスの不活化に優れ、人体の細胞に対する毒性はなく、安全であり、それぞれのウイルスに適正な倍率で希釈された本発明の口腔内消毒剤は、口腔内に付着、増殖したウイルスを不活化することができ、さらには口腔内にとめ置いた口腔内消毒剤をそのまま嚥下することもできることから、咽頭、喉頭蓋に付着、増殖したウイルスの一部の不活化も可能となる。また本発明の新型コロナウイルス用衛生用品や消毒液は手や指のような身体の表皮に付着した新型コロナウイルスを不活化除去でき、医療機器に付着したウイルスも消毒液に浸漬、噴霧、スプレーする事で不活化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】溶出液の希釈倍率とpH値
図2】コントロールに対する各検体のウイルス減少率
図3】コントロールのウイルス感染価を100とした場合の本発明のウイルス感染価
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)やインフルエンザウイルスに適する溶出液の適正な希釈倍率を見出すため、溶出液の希釈倍率ごとにpH値を測定し、数値を対数グラフにプロットしたものである。図1より希釈倍率が50倍以下の希釈水溶液はpH<1.0であり、レモン果汁がpH=2.5前後であることから、その酸味より強い酸っぱさと刺激を感じる。一方4000倍ではpH≒3であり、その希釈水溶液はレモン果汁より酸味が少ない。
【0028】
被験者5名により希釈倍率の異なる希釈水溶液を口腔内に取り込み、その時に感じる酸味と刺激の度合いを各人ごと記録し、さらに口腔内に希釈水溶液をとめ置き、一定時間ごとに酸による味覚と刺激度に耐え得るかの合否を確認した。
【0029】
50倍、80倍、150倍、400倍、800倍、1600倍、3200倍の希釈倍率それぞれの希釈水溶液を口腔内に取り込み、とめ置いた時に耐えうる時間は希釈倍率により異なり、その時間は1~300秒が適正な時間であった。
【0030】
結果として、口腔内消毒剤とする場合、口腔内に取り込んだ時に感じる酸味と刺激の度合いから、希釈倍率は80倍以上が必要であり、80倍希釈水溶液の場合、とめ置く時間は120秒迄であった。希釈倍率800倍の場合口腔内にとめ置く時間は300秒以下で、それ以上では僅かながら感覚に異常を感じる被験者がいた。
【0031】
以上より、新型コロナウイルスを標的とする場合、80倍より低い倍率の希釈水溶液は短時間で且つ高い確率でウイルスは死滅させるものの、口腔内で感じる酸味と刺激が大きくなり、口腔内に希釈水溶液をとどめ置くことに苦痛を感じるため、実用上としては使用できない。また800倍より高い倍率の希釈水溶液では口腔内にとどめ置くことの違和感は小さくなるが、一方ウイルスの死滅率が低下し不活化効果は低下する。したがって、新型コロナウイルス用口腔内消毒剤として適正な溶出液の希釈倍率は80~800倍であり、好ましくは希釈倍率が120~500倍である。さらに、口腔内にとめ置く時間は5~300秒が適切であることが判明した。
【0032】
尚、新型コロナウイルスの場合使用する目的に応じ、例えば、感染者の場合は80倍以上で且つ80倍に近い倍数の希釈水溶液が好ましく、感染していないが感染を予防する目的で使用する場合では、希釈倍率は800倍を超えず且つ800倍に近い領域を選択すればよい。
【0033】
インフルエンザウイルスを標的とする場合、800倍の希釈水溶液でウイルスを1秒で死滅させることができる。日常的に感染予防として口腔内消毒剤を使用する場合は酸味と刺激をほとんど感じることはない3000倍の希釈水溶液でも有効である。したがって、インフルエンザウイルス用口腔内消毒剤として適正な溶出液の希釈倍率は800~5000倍であり、好ましくは希釈倍率が1500~3000倍である。
【0034】
一方、身体に付着したウイルスや喀痰や糞便の消毒、さらには人が触れる部分への消毒を標的とする場合では、酸味や刺激に配慮する必要はないため、希釈倍率を口腔内消毒剤より広範囲に設定でき、50倍~4000倍に希釈された水溶液が使用できる。50倍未満で溶出液に近くなるほど酸化作用により、わずかではあるが皮膚に刺激を感じたり、希釈水溶液を担持する不織布やタオルなどの変色を起こすこともあるため、適用することは難しい。また5000倍を超える場合はウイルスに対する不活化効果が低下して、好ましくない。
【0035】
尚、希釈液に用いられる飲料水は、飲用できる水であれば特に制限を設けるものではないが、水道水、石清水、湧水等の他、蒸留水、生理食塩水、あるいは希釈酸による味覚と刺激度が強い場合、これを緩和する目的で、果汁や甘味料を添加してもよい。
【実施例0036】
(ウイルス不活化評価)
雲母系鉱物であるバーミキュライトを含有した風化腐食花崗岩を原材料とし、原材料:無機酸液を4:3~4の重量比で加え,80度に加熱撹拌し数時間経過させ、その後濾過して金属や非金属の硫酸塩や酸化物や錯塩を含む溶出液を生成した。使用した無機酸は25%硫酸は25%とした。得られた溶出液を飲料水で150倍に希釈し、得られた本発明の新型コロナウイルス不活化用口腔内消毒剤を被検体として以下の方法でウイルス不活化性能を評価した。
【0037】
コントロール:反応時間0分のウイルス溶液
リファレンス:水道水
ウイルス:新型ヒトコロナウイルス(SARS-CoV2 WK-521)
ウイルス力価(原液):3.6×10 TCID50/mL
細胞:Vero細胞
試験概要:検体に対してウイルス液を混合させ、反応時間後にウイルス液を採取し、細胞へ感染させ感染性ウイルス量を測定した。
【0038】
ウイルスの準備:Vero細胞を3.0×10cell/mLに調整後、10mLを75cmのティッシュカルチャーに注ぎ、37C、CO2濃度5%のインキュベーターで1日培養後、10~10TCID50/mL程度のSARS-CoV2を100μL播種し、その後3日間培養後、TCID50法に基づきウイルス力価を測定した。
細胞を準備:Vero細胞を1.0×10cell/mLに調整後、96well plateに100μwellずつ播種し、37°C、CO2濃度5%のインキュベーターで1日培養した。
被検体の準備:被検体975μLを247well plateに播種した。
【0039】
ウイルスと検体の反応:ウイルス液25μLを被検体に混合し反応させた。反応時間は1分とし、その後、反応を停止させるため、ウイルス混合液100μLを無血清のDMEM培地900μLに添加した。
【0040】
Vero細胞への添加と培養:被検体の準備で希釈した液を、ウイルスの準備で準備した細胞に、1被検体・1反応時間あたり3wellずつ100μL/well播種した。37°C、CO2濃度5%のインキュベーターで1日間培養した後、感染ウイルス量を測定し、各被検体の抗ウイルス活性を評価した。
【0041】
結果を表1に示し、棒グラフとして図3に示す。すなわちコントロールのウイルス感染価を100とした場合の各検体におけるウイルス感染価反応時間が0分におけるウイルス感染価に対して、1分後の0.6%までウイルスの減少が確認された。
【0042】
また、コントロールに対する各検体のウイルス減少率を表2、棒グラフを図2に示す。すなわち本発明の新型コロナウイルス不活化用口腔内消毒剤は、反応時間0分におけるウイルス感染価に対し、1分後に99.4%の減少が確認できた。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【実施例0045】
実施例1と同じ溶出液を飲料水で2000倍に希釈し、得られた本発明のインフルエンザウイルス不活化用口腔内消毒剤を被検体として以下の方法でウイルス不活化性能を評価した。
【0046】
コントロール:反応時間0分のウイルス溶液
ウイルス:インフルエンザウイルス H1N1 A/PR/8・34
細胞:MDCK細胞(イヌ腎細胞)
試験方法:インフルエンザウイルス不活化用口腔内消毒剤1.08mLをチューブに分注後、リン酸緩衝液(PBS)を用いて5-10×10pfu/mL調整したインフルエンザウイルス溶液0.12mL混合し、撹拌したものを試験液とした。
【0047】
試験液は室温下で静置し、反応をおこなった。直後、1分、5分経過ごとに試験液から溶液を回収し、0.2%ウシ血清含有ダルベッコ改変イーグル培養地1.08mLと混合した。0.2%FBS-DMEM培地による希釈を複数回繰り返し、10倍段階希釈系を作成し、10倍段階希釈液を事前に準備した宿主細胞に各1mL/well滴下し、37°C5%CO2下で1時間感染処理をおこなった。ウイルス感染後、細胞上清を0.8%オキソイド寒天溶液に置換し、37°C5%CO2下で2日間培養し、5%グルタルアルデヒド溶液で固定で、染色し、形成されたプラーク数の測定データを元にウイルス感染力価を測定した。
【0048】
結果として溶出液を2000倍に希釈した、本発明のインフルエンザウイルス用口腔内消毒液は作用直後から99.988%以上のウイルス不活化を確認できた。結果を表3に示す。
【0049】
【表3】
【実施例0050】
(細胞毒性試験)
実施例1で使用した発明の新型コロナウイルス不活化用口腔内消毒剤が細胞に毒性を示さない事を確認するために細胞毒性評価を行った。
【0051】
実施例1で実施した「ウイルスと検体の反応」の試験を、ウイルス液の代わりに無血清DMEM25μLで行い、被検体に接触した溶液を調整し、細胞毒性を評価した。細胞で起きるMTTの色素をホルマザン色素へ還元する酵素活性を光学的に測定する。これにより、細胞が死滅等により減少した場合は、発光量が小さくなる。
【0052】
Vero細胞を1.0×10cella/mLに調整後、96WELLplateに播種し、37°C、CO2濃度5%のインキュベーターで1日培養した。
各被検体975μLを24wellplateに播種した。無血清DMEM25μLを被検体に混合し1分間反応させ、反応を停止し、希釈した溶液をそれぞれ培養したVero細胞に1被検体あたり3wellずつ100μL/well播種し、37°C、5%CO2下で1日培養した。MTT溶液を各wellに10μLずつ添加し、37°C、5%CO2下で2時間呈色反応させ、可溶化溶液を100μLずつ添加し、マイクロプレートリーダを用いて595nmの吸光度値を測定した。
【0053】
結果を表4に示す。表4から本発明の新型コロナウイルス用口腔内消毒剤はこの溶液に接する細胞に対する毒性はない事が確認された。
【0054】
【表4】
【実施例0055】
被験者5名による新型コロナ用口腔内消毒剤の適正希釈倍率と、口腔内に取り込み、とめ置いた時の、感じる酸味と刺激性の大きさを体験し、酸味については5ランクに分けて各人が評価しその中間値を表5に示す。刺激性は4ランクに分け、とめ置く時間ごとに可否を判定した。5名の内不可の判定人数に応じて×→4名以上不可、▲→2~3名が不可、△→1名が不可、○→全員が可として表6に結果を示す。
【0056】
【表5】
【0057】
【表6】
【実施例0058】
新型コロナウイルス(SARS-CoV2)不活化する消毒剤をポリプロピレン製不織布に一定量付着し、ウェットティッシュとした。得られた衛生用品は新型コロナウイルス消毒用の使い捨て用品として最適であった。
図1
図2
図3