(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157066
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】内燃機関のバルブタイミング制御装置
(51)【国際特許分類】
F01L 1/356 20060101AFI20241030BHJP
【FI】
F01L1/356 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021149087
(22)【出願日】2021-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【弁理士】
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 保英
【テーマコード(参考)】
3G018
【Fターム(参考)】
3G018AB02
3G018BA33
3G018DA57
3G018DA72
3G018DA83
3G018DA84
3G018DA85
3G018FA01
3G018FA07
3G018GA17
(57)【要約】
【課題】制御弁の交換作業性と、ロータと制御弁の搬送作業能率の向上を図り得る内燃機関のバルブタイミング制御装置を提供する。
【解決手段】ロータ14のバルブ収容孔14aの内周に一対の周方向係り止め部20,21と軸方向係り止め部22と、を有し、バルブボディ31の外周に嵌合溝35が設けられ、弾性クリップは、嵌合溝の軸方向抜け止め部と非円形溝35aに保持される円形状部36aと、円形状部の対向端末から径方向外側に突出し、軸方向係り止め部と前記各周方向係り止め部に係り止めする一対の突起部36b、36cと、を有し、両突起部が軸方向係り止め部と各周方向係り止め部に対して弾性的に係り止めし、あるいは係り止めが解除されて、制御弁をバルブ収容孔に対して着脱可能に取り付けるようになっている。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カムシャフトの端部にボルト固定されるロータを有し、前記ロータに作用する油圧によって吸気弁あるいは排気弁の開閉時期を可変にする内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記ロータに設けられたバルブ収容孔に収容され、前記ロータに作用する油圧を制御するための制御弁と、
前記バルブ収容孔の内周に設けられた係り止め部と、
前記制御弁の外周に配置されて、拡径方向へ弾性変形することで前記係り止め部に対して軸方向と周方向に係り止めし、縮径方向へ弾性変形することで前記係り止め部に対して軸方向と周方向の係り止めを解除して、前記制御弁を前記ロータのバルブ収容孔に対して着脱可能に取り付ける弾性クリップと、
を備えたことを特徴とする内燃機関のバルブタイミング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関のバルブタイミング装置であって、
前記バルブ収容孔の内周に有する前記係り止め部は、軸方向係り止め部と一対の周方向係り止め部と、を有し、
前記制御弁の外周に前記弾性クリップが嵌合する嵌合溝が設けられ、
前記嵌合溝は、軸方向抜け止め部および周方向位置決め部と、を有し、
前記弾性クリップは、前記軸方向抜け止め部と周方向位置決め部に保持される円形状部と、前記円形状部の対向端末から径方向外側に突出し、前記軸方向係り止め部と前記各周方向係り止め部に係り止めする一対の突起部と、を有し、縮径方向あるいは拡径方向へ弾性変形することで前記両突起部が前記軸方向係り止め部と各周方向係り止め部に対して係り止めし、あるいは係り止めが解除されて、前記制御弁を前記バルブ収容孔に対して着脱可能に取り付けることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング装置。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関のバルブタイミング装置であって、
前記バルブ収容孔の内周面に凹部が形成され、
前記一対の周方向係り止め部のうち、一方の周方向係り止め部が、前記凹部の前記バルブ収容孔の内側孔縁から周方向に切り欠いた溝部の一端縁に有し、他方の周方向係り止め部が、前記一方の周方向係り止め部と周方向で反対側の前記凹部の内面によって形成され、
前記軸方向係り止め部は、前記凹部の前記一方の周方向係り止め部側の端面から前記他方の周方向係り止め部の方向へ突出した突出部によって形成されていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記軸方向係り止め部は、前記突出部の前記一方の周方向係り止め部に対して直角あるいはほぼ直角に切り欠かれた端面に有することを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記凹部は、前記一方の周方向係り止め部側の壁面が前記ロータの周方向に円弧状に切り欠かれた空間部になっていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項6】
請求項3に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記ロータは、前記バルブ収容孔の内側孔縁に前記一方の周方向係り止め部と周方向から連続する環状溝部を有することを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項7】
請求項2に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記嵌合溝の周方向位置決め部は、前記嵌合溝の内壁面に設けられた非円形溝によって形成され、
前記弾性クリップの円形状部は、前記非円形溝に嵌合する非円形部を有することを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【請求項8】
請求項2に記載の内燃機関のバルブタイミング制御装置であって、
前記ロータは、複数のボルトによって前記カムシャフトに固定され、
前記軸方向係り止め部は、前記各ボルトの頭部に対して周方向に離れていることを特徴とする内燃機関のバルブタイミング制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のバルブタイミング制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載された従来のバルブタイミング制御装置は、内燃機関のカムシャフトの一端部に複数のボルトによって固定され、ハウジングの内部に相対回転可能に配置されたベーンロータと、ベーンロータのロータの内部軸心方向に有する収容孔に設けられて、ハウジングの内部に有する複数の油圧室に供給される油圧の流れを制御する制御弁と、を有している。前記制御弁は、前記複数のボルトのうち1本のボルトによって前記ロータの収容孔内に固定されている。
【0003】
これによって、制御弁を交換する際に、ロータをカムシャフトから取り外す必要がなく、一本のボルトを取り外すことにより制御弁を単独で取り外すことが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6408438号公報(
図1、
図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来のバルブタイミング制御装置にあっては、制御弁がロータに対してボルトによって固定されて、このボルトを取り外すと制御弁もロータから外れるようになっている。このため、ロータをカムシャフトに取り付ける前の搬送時には、ロータから制御弁を取り外した状態で別々に搬送しなければならない。したがって、これらロータと制御弁の搬送作業が煩雑になり、搬送作業能率の低下を招くそれがある。
【0006】
本発明は、搬送時には、予め制御弁をロータの収容孔内に弾性クリップにより安定かつ確実に取り付けておくことが可能になるので、搬送作業が簡素化されて搬送作業能率の向上を図り得る内燃機関のバルブタイミング制御装置を提供することを一つの目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の好ましい態様によれば、とりわけ、ロータに設けられたバルブ収容孔に収容され、前記ロータに作用する油圧を制御するための制御弁と、
前記バルブ収容孔の内周に設けられた係り止め部と、
前記制御弁の外周に配置されて、拡径方向へ弾性変形することで前記係り止め部に対して軸方向と周方向に係り止めし、縮径方向へ弾性変形することで前記係り止め部に対して軸方向と周方向の係り止めを解除して、前記制御弁を前記ロータのバルブ収容孔に対して着脱可能に取り付ける弾性クリップと、を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、制御弁の交換作業性が良好になると共に、ロータと制御弁の搬送作業が簡素化されて該搬送作業能率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る内燃機関のバルブタイミング制御装置の縦断面図である。
【
図2】バルブタイミング制御装置の主要部品の分解斜視図である。
【
図3】バルブタイミング制御装置のハウジング側の主要部品の分解斜視図である。
【
図4】(a)は
図3のA部を拡大して示す係り止め部の斜視図、(b)は係り止め部を別の方向から視た斜視図である。
【
図5】本実施形態に供される制御弁の分解斜視図である。
【
図6】本実施形態に供される弾性クリップを示し、(a)は弾性クリップを示す斜視図、(b)弾性クリップを逆さまにして示す斜視図である。
【
図7】制御弁に弾性クリップが取り付けられた状態を示し、(a)は制御弁の側面図、(b)は(a)のB-B線断面図、(c)は(b)のC-C線断面図である。
【
図8】本実施形態に供されるバルブボディをバルブ収容孔内で弾性クリップによって固定されている状態を示し、(a)は弾性クリップが係り止めしている状態をフロントカバー側から視た斜視図、(b)は(a)に示すD部の拡大図、(c)は(b)のD部方向とは反対側から視た斜視図である。
【
図9】弾性クリップの両突起部が各係り止め部に係り止めされている状態を示す要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る内燃機関のバルブタイミング制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態では、内燃機関のバルブタイミング制御装置を排気弁側に適用したものを示しているが、吸気弁側に適用することも可能である。
【0011】
図1は本発明に係る内燃機関のバルブタイミング制御装置の縦断面図、
図2はバルブタイミング制御装置の主要部品の分解斜視図、
図3はバルブタイミング制御装置のハウジング側の主要部品の分解斜視図である。
【0012】
バルブタイミング制御装置は、
図1~
図3に示すように、機関のクランクシャフトにより図外のタイミングチェーンを介して回転駆動される駆動回転体であるタイミングスプロケット(以下、スプロケットという。)1と、スプロケット1に対して相対回転可能に設けられた排気側のカムシャフト2と、スプロケット1とカムシャフト2との間に配置されて、該両者1,2の相対回転位相を変更する位相変更機構3と、該位相変更機構3を最進角側の相対回転位置でロックさせる図外のロック機構と、位相変更機構3とロック機構を作動させる油圧回路5と、を備えている。
【0013】
なお、駆動回転体としては、タイミングベルトによって回転力が伝達されるタイミングプーリであっても良い。
【0014】
スプロケット1は、円環板状に形成されて、外周にタイミングチェーンが巻回される歯車部1aが設けられている。また、スプロケット1は、後述するハウジング6が回転軸方向から結合されて、該ハウジング6の軸方向の一端開口を閉塞するカバー部材としての機能も有している。また、スプロケット1は、中央位置にカムシャフト2の軸方向の一端部2aが相対回転可能に挿入される挿入孔1bが貫通形成されている共に、外周部のハウジング6側の内側面には4つの雌ねじ孔1cが周方向の等間隔位置に設けられている。
【0015】
カムシャフト2は、図外のシリンダヘッド上に複数のカム軸受を介して回転自在に支持されている。このカムシャフト2は、外周面の回転軸方向の所定位置に図外の排気弁をバルブスプリングのばね力に抗して開作動させる回転カムが気筒毎に設けられている。また、カムシャフト2の一端部2aの内部軸心方向には、後述するバルブボディ31の軸方向の他端部が挿入配置される収容孔2bが形成されている。また、一端部2aの内部軸方向には、収容孔2bと連続して形成されて、後述する制御弁27から排出された油圧を外部に排出する段差径状のドレン通路孔2cが形成されている。
【0016】
また、カムシャフト2は、一端部2aの収容孔2bよりも径方向外側には3つの雌ねじ孔2dが一端部2aの先端面から内部軸方向に沿って形成されている。この各雌ねじ孔2dには、後述するロータ14を結合する複数本(本実施形態では3本)のボルト12の雄ねじ部が螺着するようになっている。
【0017】
位相変更機構3は、
図1~
図3に示すように、スプロケット1に対して複数(本実施形態では4本)のボルト13によって軸方向から結合され、内部に作動室を有する円筒状のハウジング6と、ハウジング6の内部に該ハウジング6に対して相対回転可能に収容された従動回転体であるベーンロータ7と、ハウジング6の作動室内にベーンロータ7を介して形成された複数(本実施形態ではそれぞれ4つ)の進角作動室9と遅角作動室10と、を備えている。
【0018】
ハウジング6は、圧粉金属を焼結して成形された焼結金属によって円筒状に形成されている。また、ハウジング6の軸方向の一端側には、該一端側の開口を閉塞するフロントカバー11が設けられている。
【0019】
ハウジング6は、内周面に複数(本実施形態では4つ)のシュー8a~8dが突設されている。この各シュー8a~8dは、正面視ほぼ台形状に形成されていると共に、内部軸方向には、各ボルト13が挿入される4つのボルト挿入孔8eがそれぞれ貫通形成されている。
【0020】
フロントカバー11は、例えば鉄系金属によって円盤状に形成されて、中央に比較的大径な挿入孔11aが貫通形成されている。また、フロントカバー11は、外周部の周方向のほぼ等間隔位置に前記各ボルト13が挿入される4つのボルト挿通孔11bが貫通形成されている。なお、各ボルト挿通孔11bの外端側孔縁には、ボルト13の頭部の円錐状下面が嵌合するザグリ部が形成されている。
【0021】
スプロケット1とハウジング6及びフロントカバー11は、各ボルト挿通孔11bや各ボルト挿入孔8eを挿入して先端部が雌ねじ孔1cに螺着する4本のボルト13によって回転軸方向から結合されている。
【0022】
ベーンロータ7は、ハウジング6と同じく焼結金属によって一体に形成されている。ベーンロータ7は、
図1及び
図3に示すように、中央のロータ14と、該ロータ14の外周面に円周方向のほぼ90°の等間隔位置に放射状に突設された複数(本実施形態では4つ)のベーン15a~15dと、から構成されている。
【0023】
ロータ14は、比較的大径な円柱状に形成され、中央の内部軸方向にカムシャフト2の収容孔2bと連続するバルブ収容孔14aが貫通形成されている。また、ロータ14は、回転軸方向の一端面(カムシャフト2側の後端面)にカムシャフト2の一端部2aの先端部が嵌合する円形状の嵌合溝14bが形成されている。また、ロータ14は、回転軸方向の他端面にフロントカバー11の挿入孔11aに回転可能に嵌入する円盤状の突部14eが一体に設けられている。
【0024】
ロータ14は、内部にそれぞれ4本の進角通路孔17と遅角通路孔18が径方向に沿って貫通形成されている。この各進角通路孔17と各遅角通路孔18は、内側の各一端部がバルブ収容孔14a(制御弁27)に開口している一方、外側の各他端部が対応する各進角作動室9と各遅角作動室10にそれぞれ開口している。
【0025】
また、ロータ14は、バルブ収容孔14aよりも径方向外側の位置に複数(本実施形態では3つ)のボルト挿入孔14cが回転軸方向に沿って貫通形成されている。
【0026】
図4(a)は
図3のA部を拡大して示す係り止め部の斜視図、(b)は係り止め部を別の方向から視た斜視図である。
【0027】
そして、バルブ収容孔14aの軸方向の一端部側の内周には、
図4(a)(b)に示すように、凹部である作業用孔19が形成されている。また、バルブ収容孔14aと作業用孔19との間に、後述する弾性クリップ36が嵌着される係り止め部である一対の周方向係り止め部20、21と軸方向係り止め部22が設けられている。
【0028】
作業用孔19は、バルブ収容孔14aの内周面から径方向に延びた正面視(フロントカバー11側から視て)逆R形状に形成されており、周方向の一方の部位19a(壁面)が円弧状に切欠形成され、他方の部位19b(壁面)がロータ14の径方向と平行に直線状に形成されている。この作業用孔19は、前記一方の部位19aの内側が空間部として構成され、この空間部を利用して後述する弾性クリップ36を挟み込む所定の治具の操作スペースを確保するようになっている。
【0029】
一対の周方向係り止め部20、21のうち、一方の周方向係り止め部20は、作業用孔19の内側端縁からバルブ収容孔14aの内側を円周方向に切り欠いた環状凹溝20aが形成されて、この環状凹溝20aの作業用孔19に臨む周方向端縁によって構成されている。
【0030】
一方の周方向係り止め部20を構成する環状凹溝20aは、例えば旋盤加工によってバルブ収容孔14aの内側を円周方向に沿って切削加工によって形成されて、この環状凹溝20aが他方の周方向係り止め部21まで延びている。
【0031】
他方の周方向係り止め部21は、作業用孔19の他方の部位19bである平坦状の壁面によって形成されている。つまり、他方の周方向係り止め部21は、単に弾性クリップ36の他方の突起部36cの側端縁全体が他方の部位19bに周方向から弾接するようになっている。
【0032】
一方の周方向係り止め部20と他方の周方向係り止め部21は、弾性クリップ36の各突起部36b、36cが拡径方向の弾性力によって係り止めしてバルブボディ31の周方向の回転を規制するようになっている。
【0033】
軸方向係り止め部22は、前記作業用孔19の一方の周方向係り止め部20側の壁部を他方の周方向係り止め部21の方向へ突出したほぼV字形状の突出部23であって、この突出部23の前記環状凹溝20aによって切り欠かれた内側面に形成されている。つまり、突出部23は、環状凹溝20aが一方の周方向係り止め部20に面する部位が一方の周方向係り止め部20に対して直角に切り欠かれており、この切り欠かれた内側面によって軸方向係り止め部22が形成されている。また、突出部23は、ロータ14のボルト挿入孔14c(ボルト12)と避けた位置に設けられている。
【0034】
各ベーン15a~15dは、その径方向の突出長さが比較的短く形成されて、それぞれが各シュー8a~8dの間に配置されている。また、1つの第1ベーン15a以外の3つのベーン15b~15dは、円周方向の巾がほぼ同一に設定されて比較的薄肉に形成されている。第1ベーン15aは、周方向の幅が大きく形成されて内部に図外のロック機構の一部が設けられている。
【0035】
各ベーン15a~15dの外周面にそれぞれ形成されたシール溝には、ハウジング6の内周面との間をシールするシール部材16がそれぞれ設けられている。また、ハウジング6の各シュー8a~8dの対向する各先端面8fは、ロータ14の外周面に倣って円弧状に形成されて、ロータ14の外周面との間を摺接しながらメタルシールするようになっている。
【0036】
また、ベーンロータ7は、進角側へ最大に相対回転すると、第1ベーン15aの一側面が対向する一つのシュー8aの対向側面に当接する。これによって、ベーンロータ7は、最大進角側の回転位置が規制されるようになっている。また、ベーンロータ7は、遅角側へ最大に相対回転すると、同じく第1ベーン15aの他側面が対向する他のシュー8dの対向側面に当接する。これによって、ベーンロータ7は、最大遅角側の回転位置が規制されるようになっている。
【0037】
各ベーン15a~15dの正逆回転方向の両側面と各シュー8の両側面との間には、前述した各進角作動室9と各遅角作動室10が設けられている。各進角作動室9と各遅角作動室10は、ロータ14の内部に径方向に向かって形成された前記各進角通路孔17と各遅角通路孔18の各他端部が開口している。
【0038】
各進角通路孔17と各遅角通路孔18は、それぞれ断面形状が円形状に形成されていると共に、後述する制御弁27のそれぞれ4つの進角ポート37及び遅角ポート38を介して油圧回路5にそれぞれに連通している。
【0039】
ロック機構は、ハウジング6に対してベーンロータ7を最進角側の回転位置に保持するものである。
【0040】
油圧回路5は、
図1に示すように、カムシャフト2の軸受ジャーナル部やカムシャフト2の内部軸方向に形成された供給通路25と、該供給通路25の上流側に設けられて、吐出通路26aを介して供給通路25に作動油圧を吐出するオイルポンプ26と、ロータ14の内部軸方向に設けられて、機関運転状態に応じて各進角通路孔17と各遅角通路孔18の流路を切り換える制御弁27と、該制御弁27の流路の切り換えによって、各進角、遅角作動室9、10のいずれか一方の作動油圧をオイルパン28に排出する排出通路26bと、ロータ14の内部に設けられて、オイルポンプ26から供給通路25に供給された油圧を制御弁27方向にのみ許容する逆止弁29と、を備えている。
【0041】
供給通路25は、上流部がオイルポンプ26の吐出通路26aと連通している一方、下流部がロータ14内の設けられた後述する凹部30に逆止弁29を介して連通している。
【0042】
オイルポンプ26は、一般的な例えばベーンタイプあるいはトロコイドタイプのものが用いられている。
【0043】
図5は制御弁の分解斜視図、
図6(a)は本実施形態に供される弾性クリップを示す斜視図、(b)同じく弾性クリップを逆さまにして示す斜視図、
図7は制御弁に弾性クリップが取り付けられた状態を示し、(a)は制御弁の側面図、(b)は(a)のB-B線断面図、(c)は(b)のC-C線断面図である。
【0044】
制御弁27は、
図1及び
図5に示すように、ロータ14のバルブ収容孔14aに収容された円筒状のバルブボディ31と、該バルブボディ31の内部軸方向に貫通形成されたバルブ孔31a内に摺動可能に設けられたスプール弁32と、該スプール弁32を
図1の左方向へ付勢するバルブスプリング33と、スプール弁32をバルブスプリング33のばね力に抗して
図1中、右方向へ押し出す電磁アクチュエータ34と、から主として構成されている。
【0045】
バルブボディ31は、例えば鉄系金属材によって内部中空状の円筒状に形成されて、内部軸方向にバルブ孔31aが貫通形成されている。バルブボディ31は、
図7(a)~(c)に示すように、電磁アクチュエータ34側の軸方向の一端部の外周に円環状の嵌合溝35が形成されている。バルブボディ31は、嵌合溝35に嵌着した弾性クリップ36によってバルブ収容孔14aの内部に着脱可能に取り付けられる。この弾性クリップ36による具体的な取り付け方法については後述する。
【0046】
バルブボディ31は、軸方向の一端部寄りの位置に進角ポート37が周壁の径方向へ貫通形成されていると共に、この進角ポート37の内側開口端に円環状の第1グルーブ溝が形成されている。また、軸方向の他端部寄りの位置には、遅角ポート38が周壁の径方向へ貫通形成されていると共に、この遅角ポート38の内側開口端に円環状の第2グルーブ溝が形成されている。
【0047】
進角ポート37と遅角ポート38との間、つまり第1グルーブ溝と第2グルーブ溝の間には、逆止弁29を通った油圧を、スプール弁32を介して進角ポート37あるいは遅角ポート38に導入する導入孔39が形成されている。この導入孔39は、バルブボディ31の周壁を径方向に沿って貫通形成されて、後述する径方向孔に連通している。
【0048】
バルブボディ31の一端部の周壁には、スプール弁32の第1通路溝32dと適宜連通する第1ドレン孔が形成されている。この第1ドレン孔は、排出通路26bを介してオイルパン28の内部と連通している。
【0049】
バルブボディ31の他端部に有する円盤状の端壁の中央には、スプール弁32を介して第2グルーブ溝と適宜連通する第2ドレン孔40が貫通形成されている、この第2ドレン孔40は、カムシャフト2のドレン通路孔2cと排出通路26bを介してオイルパン28の内部に連通している。
【0050】
各進角ポート37と各遅角ポート38は、
図1に示すように、それぞれの内側開口が第1、第2グルーブ溝を介してバルブ孔31a(スプール弁32)に臨み、外側開口が各進角通路孔17と各遅角通路孔18に径方向から連通している。
【0051】
嵌合溝35は、
図5及び
図7(a)~(c)に示すように、基本的にバルブボディ31の進角ポート37の外周に円環状に形成されて、全体が弾性クリップ36の軸方向抜け止め部になっている。また、嵌合溝35は、下側が一つの進角ポート37の存在によって横方向に切断された非円形溝35aとして形成されており、この非円形溝35aが弾性クリップ36の周方向位置決め部になっている。
【0052】
弾性クリップ36は、
図6(a)(b)に示すように、鉄系金属線材をほぼオーム形状に折り曲げて形成されており、円形状部36aと、該円形状部36aの対向端部に設けられた一対の突起部36b、36cと、を有している。
【0053】
円形状部36aは、両側が前記嵌合溝35に沿ったほぼ円弧状に形成されているが、各突起部36b、36cと反対側の下側の部位が非円形溝35aに嵌合する非円形部である直線部36dになっている。
【0054】
したがって、弾性クリップ36は、前述したように、嵌合溝35に弾性的に嵌合した状態で軸方向抜け止めされていると共に、直線部36dが非円形溝35aに嵌合した状態で周方向位置決めがなされている。
【0055】
一対の突起部36b、36cは、円形状部36aの対向端から径方向外側へ平行かつ直線状に延びており、軸方向の長さLがバルブボディ31の嵌合溝35に嵌合された状態で前述した作業用孔19の内周面の径方向外側面よりも短く形成されている。また、一対の突起部36b、36cは、自由状態における離間幅Wが一方の周方向係り止め部20と他方の周方向係り止め部21との間の距離より大きく設定されており、作業用孔19の内部では拡径方向の自身の弾性力によって軸方向係り止め部22と両方の周方向係り止め部20、21に係り止めされるようになっている。
【0056】
スプール弁32は、
図5及び
図7(c)に示すように、軸方向の一端部(バルブボディ31の一端部側)が閉止された円筒状に形成され、内部軸方向に第2ドレン孔40に連通する排出孔41が形成されている。スプール弁32は、軸方向の一端部と他端部の外周にバルブ孔31a内を摺動可能に案内する円環状の第1、第2ガイド部が設けられている。スプール弁32は、軸方向の中央寄りの両側に第1グルーブ溝と第2グルーブ溝を摺動位置に応じて開閉する第1、第2ランド部32a、32bが設けられている。この第1、第2ランド部32a、32bの間には、導入孔39と連通する円筒状の筒状通路溝32cが形成されている。
【0057】
さらに、スプール弁32の排出孔41が形成された周壁には、スプール弁32の軸方向の摺動位置に応じて排出孔41と各ランド部32a、32bの軸方向外側にある第1、第2通路溝32d、32eを介して第1、第2グルーブ溝に適宜連通する第1、第2連通孔32f、32gが径方向に貫通形成されている。
【0058】
バルブスプリング33は、バルブボディ31の他端部の内周段差部とスプール弁32の他端縁との間に配置されて、スプール弁32を
図1中、左方向へ付勢している。スプール弁32は、
図1中、最大左方向の移動位置がバルブボディ31の一端部31b内周に設けられたストッパリング42によって規制されるようになっている。
【0059】
逆止弁29は、
図1に示すように、ロータ14のカムシャフト2側の一端面から内部軸方向に沿って形成された凹部30内に設けられており、凹部30内を軸方向に沿って摺動可能な弁体42と、凹部30の開口端に固定されて、前記弁体42が離着座可能な円環状のバルブシート43と、弁体42をバルブシート43の着座方向へ付勢するチェックスプリング44と、を有している。
【0060】
凹部30は、円柱状に形成されていると共に、バルブシート43と反対側の底面に、チェックスプリング44の姿勢を直線状に保持する小径円柱状の突起部45がバルブシート43に向かって突設されている。
【0061】
また、凹部30の内周面30bの下面には、ロータ14の軸方向に沿った軸方向通路溝46が形成されている。この軸方向通路溝46は、横断面ほぼU字形状に形成されて、軸方向の一端部がバルブシート43の内面に位置し、軸方向の他端部が凹部30の底面まで延びている。 さらに、ロータ14のバルブ収容孔14aの内周面には、軸方向通路溝46とバルブボディ31の導入孔39とを連通する径方向孔47が設けられている。
【0062】
径方向孔47は、一端が軸方向通路溝46の軸方向の中央部及び他端部の底部に開口し、他端がバルブボディ31の導入孔39に開口して、軸方向通路溝46と導入孔39とを連通するようになっている。
【0063】
電磁アクチュエータ34は、
図1に示すように、合成樹脂材のケーシング51と、該ケーシング51の内部に磁性材のボビン52を介して収容された環状のコイル53と、該コイル53の外周を取り囲むように配置された磁性材の筒状部材54と、ボビン52の内周側に配置固定された磁性材の一対の第1、第2固定鉄心55、56と、を備えている。
【0064】
また、電磁アクチュエータ34は、両固定鉄心55、56の内周面に当接配置された非磁性材のスリーブ57と、該スリーブ57の内部に軸方向へ摺動可能に有する円柱状の可動鉄心58と、該可動鉄心58の先端部に取り付けられたプッシュロッド59と、前側の第1固定鉄心55の前端側に固定された磁性材である保持プレート60と、を備えている。
【0065】
ケーシング51は、筒状部51aと、該筒状部51aの後端部に一体に有し、電子コントロールユニットであるECU61に電気的に接続されるコネクタ部51bと、を備えている。筒状部51aは、有底の薄肉円筒状に形成されて、前端が開口形成されていると共に、内周面に筒状部材54が固定されている。コネクタ部51bは、ほぼ全体がケーシング51内に埋設された一対の端子片の各一端部がコイル53に接続されている。一方、外部に露出した各他端部51cは、ECU61側の雄コネクタの端子に接続されている。
【0066】
プッシュロッド59は、円柱軸状に形成されて、軸方向の先端部の先端面に鋼球状の押圧部がインサート成型されている。この押圧部は、スプール弁32の軸方向一端部に有する小径部32hの先端面に軸方向から当接している。また、このプッシュロッド59は、後端部から先端部の内部軸心方向に図外の空気抜き孔が貫通形成されている。
【0067】
保持プレート60は、円盤状に形成されて、内周部に可動鉄心58方向へ凹んだ円環凹部を有している。この円環凹部の中央には、プッシュロッド59の先端部が摺動可能に挿入される挿入孔が貫通形成されている。
【0068】
コイル53は、ECU61からの通電により励磁され、この励磁力によって可動鉄心58とプッシュロッド59を、
図1の右方向へ移動させる。これによって、プッシュロッド59は、スプール弁32をバルブスプリング33のばね力に抗して右方向へ移動させるようになっている。コイル53への通電量は、ECU61からのパルス電流によって可変制御されている
なお、スプール弁32は、コイル53への非通電によってバルブスプリング33のばね力で
図1に示す最大左方向位置に移動制御される。また、スプール弁32は、コイル53への通電中における通電量に応じて、
図1中、右方向の最大右方向位置に移動制御される。スプール弁32は、コイル53への通電量を制御することによって軸方向の中間移動位置に保持することも可能である。
【0069】
この中間移動位置では、第1、第2ランド部32a、32bが、各進角ポート37と各遅角ポート38を開いた状態にする。
【0070】
ECU61は、内部のコンピュータが図外のクランク角センサ(機関回転数検出)やエアーフローメータ、機関水温センサ、機関温度センサ、スロットルバルブ開度センサおよびカムシャフト2の現在の回転位相を検出するカム角センサなどの各種センサ類からの情報信号を入力して現在の機関運転状態を検出している。
【0071】
また、ECU61は、前述のように、電磁アクチュエータ34のコイル53への通電を遮断してスプール弁32を
図1の最大右方向の移動位置に制御する。あるいは、コイル53に対してパルス電流を出力して通電量(デューティ比)を制御して、最大左側の位置から中間移動位置、最大右方向の移動位置となるように連続的に可変制御するようになっている。
〔本実施形態の作用〕
以下、本実施形態に供されるバルブタイミング制御装置の作用を説明する。
【0072】
機関停止状態になると、オイルポンプ26も停止されて吐出通路26aから作動油圧が供給されないと共に、ECU61からコイル53への通電もなく非通電状態となる。したがって、スプール弁32は、
図1に示すように、バルブスプリング33のばね力で最大左方向の移動位置に保持されている。このとき、逆止弁29は、弁体42がチェックスプリング44のばね力によってバルブシート43に着座して通路孔43aを閉じている。
【0073】
次に、機関が始動されると、オイルポンプ26も駆動して吐出通路26aから供給通路25に作動油圧を圧送する。この始動初期の作動油圧が通路孔43aを介して弁体42の頭部に作用する。このため、弁体42は、チェックスプリング44のばね力に抗して後退移動して、バルブシート43から離間しつつ通路孔43aを開く。このとき、弁体42は、油圧によって突起部45に突き当たるまで最大に後退移動して作動油圧の十分な流量を確保する。
【0074】
このため、吐出通路26aから供給通路25内に流入した作動油圧は、バルブシート43の環状シート面43bと弁体42の頭部との間を通って軸方向通路溝46に直接的に流入する。軸方向通路溝46に流入した作動油圧は、径方向孔47を通って導入孔39に流入し、さらにスプール弁32の筒状通路溝32cを通って第1グルーブ溝と各進角ポート37に流入し、ここから各進角通路孔17を介して各進角作動室9に供給されて内部圧力が上昇する。
【0075】
同時に、スプール弁32は、各遅角ポート38と第2グルーブ溝及び第2通路溝32eを連通させている。このため、各遅角作動室10の作動油圧は、各遅角通路孔18などを通って排出孔41に流入する。さらに、ここからバルブボディ31の第2ドレン孔40を通ってドレン通路孔2cから排出通路26bを介してオイルパン28内に排出される。
【0076】
したがって、ベーンロータ7は、最進角の相対回転位置に維持されていることから、排気弁のバルブタイミングが進角側に制御された状態になる。これによって、機関の始動性が良好になる。
【0077】
この時点ではロック機構によってベーンロータ7がロックされている。したがって、カムシャフト2に発生する交番トルクによるベーンロータ7のばたつきなどを抑制できる。
【0078】
次に、機関運転状態の変化に伴って、ECU61からコイル53への通電量が大きくなると、可動鉄心58がプッシュロッド59を
図1中、最大右方向へ移動させる。これにより、スプール弁32は、バルブスプリング33のばね力に抗して最大右方向へ移動する。
【0079】
この状態では、スプール弁32は、第2ランド部32bが第2グルーブ溝を介して遅角ポート38と筒状通路溝32cと連通させる。同時に、第1ランド部32aが、各進角ポート37と第1通路溝32dとを連通させる。
【0080】
このため、逆止弁29の開かれた弁体42から軸方向通路溝46と径方向孔47を通った作動油圧は、筒状通路溝32c、第2グルーブ溝、遅角ポート38を通って、各遅角通路孔18から各遅角作動室10内に供給される。一方、各進角作動室9内の作動油圧は、各進角通路孔17から各進角ポート37、第1グルーブ溝と第1通路溝32dを通って排出孔41の内部に流入する。ここに流入した作動油圧は、さらに第2ドレン孔40とドレン通路孔2cを通って排出通路26bを介してオイルパン28内に排出される。なお、排出孔41に流入した作動油圧の一部は、第1通路溝32d及び第1ドレン孔を通って排出通路26bを介してオイルパン28内に排出される。したがって、各進角作動室9の内圧が低下すると共に、各遅角作動室10の内圧が上昇する。
【0081】
また、遅角作動室10に供給された作動油圧は、ロック機構のロック状態を解除する。これによって、ベーンロータ7は、回転規制が解除されてフリーな状態になる。
【0082】
したがって、ベーンロータ7は、各遅角作動室10の油圧の上昇に伴い他方向へ回転して最大遅角側へ相対回転する。これによって、排気弁は、開閉タイミングが最遅角位相特性になって吸気弁とのバルブオーバーラップが大きくなり、吸気充填効率が高くなって機関の出力トルクの向上が図れる。
〔ロータに対する制御弁の取り付け、取り外し方法〕
以下、制御弁27(バルブボディ31)を、ロータ14のバルブ収容孔14a内に弾性クリップ36によって取り付け、あるいは取り外す方法について説明する。なお、バルブボディ31のバルブ孔31a内には予めスプール弁32が収容配置されている。
【0083】
図8は本実施形態に供されるバルブボディをバルブ収容孔内で弾性クリップによって固定されている状態を示し、(a)は弾性クリップが係り止めしている状態をフロントカバー側から視た斜視図、(b)は(a)に示すD部の拡大図、(c)は(b)のD部方向とは反対側から視た斜視図である。
図9は弾性クリップの両突起部が各係り止め部に係り止めされている状態を示す要部拡大図である。
【0084】
まず、予め弾性クリップ36を、バルブボディ31に取り付けるには、弾性クリップ36の両突起部36b、36cを、拡径方向に開いた状態で
図5の矢印で示すように、バルブボディ31の下側から嵌合溝35に押し込む。
【0085】
そうすると、
図7(a)~(c)に示すように、弾性クリップ36は、自身の弾性復帰力で円形状部36aが嵌合溝35の両側の円弧状溝に弾性的に嵌合すると共に、直線部36dが嵌合溝35の非円形溝35aに嵌合する。このとき、弾性クリップ36の両突起部36b、36cは、嵌合溝35から上方へ平行に突出した状態になる。
【0086】
次に、この状態からバルブボディ31を、他端部側からバルブ収容孔14aに挿入するが、このとき、弾性クリップ36の両突起部36b、36cを所定の治具で外側から挟み込んで互いに近接方向(縮径方向)へ弾性変形させておく。この状態でバルブボディ31を、さらにバルブ収容孔14a内に押し込むと共に、所定治具によって挟み込まれた状態のまま各突起部36b、36cを作業用孔19内に入れる。
【0087】
続いて、所定治具による各突起部36b、36cの挟み込みを解除すると、弾性クリップ36は、自身の弾性復帰力で拡径方向へ弾性変形する。そうすると、一方の突起部36bの根元部が、一方の周方向係り止め部20に周方向から弾性的に係り止めすると同時に、軸方向係り止め部22に軸方向から係り止めする。これとともに、他方の突起部36cの外側縁全体が、他方の周方向係り止め部21に周方向から弾接して係り止めする。
【0088】
このため、バルブボディ31を、ロータ14のバルブ収容孔14aに弾性クリップ36によって安定かつ確実に固定することが可能になる。
【0089】
一方、バルブボディ31を、バルブ収容孔14aから取り外すには、所定治具を作業用孔19に挿入して弾性クリップ36の両突起部36b、36cを外側から挟み込みながら互いに近接方向(縮径方向)へ弾性変形させる。これによって、一方の突起部36bの根元部が、一方の周方向係り止め部20と軸方向係り止め部22との係り止め状態が解除されると共に、他方の突起部36cが、他方の周方向係り止め部21との係り止め(弾接)が解除される。
【0090】
そして、そのまま、バルブボディ31を、弾性クリップ36を介してバルブ収容孔14aから引き抜けば、制御弁27全体を簡単に取り外すことが可能になる。
【0091】
換言すれば、制御弁27(バルブボディ31)は、ロータ14に対して弾性クリップ36によって係り止めされ、あるいは係り止めが解除されるようになっている。このため、制御弁27を交換する際には、前記公報記載の従来技術のように、ロータ14をカムシャフト2からボルトを取り外すことなく、制御弁27を単独でロータ14から取り外すことができる。このため、制御弁27の交換作業が容易になる。
【0092】
さらに、ロータ14から制御弁27を取り外す際には、弾性クリップ36を所定の治具によって縮径方向へ変形させるだけでよいので、この取り外し作業も容易になる。
【0093】
しかも、ベーンロータ7を、カムシャフト2とは別個に搬送する際には、ロータ14に制御弁27を、弾性クリップ36を介して予めサブアッシーした状態で搬送することができる。このため、ロータ14と制御弁27を個別に搬送する場合に比較して搬送作業が容易になる。
【0094】
また、各周方向係り止め部20,21や軸方向係り止め部22を、単にバルブ収容孔14aの内周面に形成された作業用孔19を利用して形成できるため、別部材や複雑な形状が不要になることから、製造加工が容易になる。
【0095】
さらに、本実施形態によれば、弾性クリップ36をバルブ収容孔14aに挿入する際、あるいはバルブ収容孔14aから抜き取る際に、両突起部を挟み込む治具を作業用孔19、特に円弧状の一方の部位19a内に挿入して弾性クリップ36を縮径方向、あるいは拡径方向へ変形させることができる。つまり、一方の部位19a内を治具の挿入用として利用することができるので、弾性クリップ36のバルブ収容孔14aを介して各周方向係り止め部20,21や軸方向係り止め部22への取り付けあるいは取り外し作業が容易になる。
【0096】
さらに、弾性クリップ36の直線部36dがバルブボディ31の嵌合溝35の非円形溝35aに嵌合する。これによって、制御弁27が、弾性クリップ36を介してバルブ収容孔14a内に取り付けられると、弾性クリップ36によって周方向の自由な回転が規制される。したがって、制御弁27を、バルブ収容孔14a内で不用意な回転を規制することができる。
【0097】
さらに、軸方向係り止め部22を構成する突出部23は、各ボルト12とは避けた位置に設けられて、該ボルト12の頭部が重なり合わない。このため、カムシャフト2にロータ14が各ボルト12によって固定された状態で、制御弁27を単独でロータ14のバルブ収容孔14aから自由に取り外すことが可能になる。
【0098】
本実施形態では、前述したように、オイルポンプ26から圧送された作動油圧は、逆止弁29の弁体42の頭部に作用して該弁体42が後退移動すると、通路孔43aと軸方向通路溝46が速やかに連通して径方向孔47を介して各進角作動室9あるいは各遅角作動室10に速やかに供給される。つまり、弁体42の開弁に伴って連通路50bと軸方向通路溝46が速やかに連通することから、各作動室9,10への作動油圧の供給速度が速くなる。この結果、ハウジング6に対するベーンロータ7の進角側あるいは遅角側への相対回転応答性が向上する。
【0099】
本発明は、前記各実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば、軸方向通路溝46の周方向幅長さWや横断面形状などを仕様などに応じて任意に変更することが可能である。また、径方向孔47は、内径をスプール弁32の通路溝軸方向の長さなどの関係でさらに大きくすることも可能である。
【符号の説明】
【0100】
1…タイミングスプロケット(駆動回転体)、2…カムシャフト、2a…一端部、2b…雌ねじ孔、3…位相変更機構、5…油圧回路、6…ハウジング、7…ベーンロータ、9…進角作動室、10…遅角作動室、14…ロータ、14a…バルブ収容孔、15a~15d…ベーン、17…進角通路孔、18…遅角通路孔、26…オイルポンプ、19…作業用孔、19a…一方の部位、19b…他方の部位、20…一方の周方向係り止め部、21…他方の周方向係り止め部、22…軸方向係り止め部、23…突出部、27…制御弁、31…バルブボディ、32…スプール弁、35…嵌合溝(軸方向抜け止め部)、35a…非円形溝(周方向位置決め部)、36…弾性クリップ、36a…円形状部、36b・36c…突起部、36d…直線部(非円形部)。