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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157077
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】ポリ乳酸系繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/92 20060101AFI20241030BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20241030BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20241030BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20241030BHJP
【FI】
D01F6/92 307A
D01F6/62 305A
D01F6/62 305Z
C08L67/04
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071181
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】水光 俊介
(72)【発明者】
【氏名】岡本 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】小泉 聡
(72)【発明者】
【氏名】偉士大 宗紀
【テーマコード(参考)】
4J002
4J200
4L035
【Fターム(参考)】
4J002CF18W
4J002CF19X
4J002GK01
4J200AA04
4J200AA06
4J200BA05
4J200BA12
4J200BA14
4J200BA17
4J200CA06
4J200DA00
4J200DA01
4J200DA24
4J200EA07
4J200EA09
4L035AA05
4L035BB31
4L035BB40
4L035BB76
4L035BB91
4L035EE20
4L035HH01
(57)【要約】
【課題】 繊維強度は維持しつつも、柔軟性に優れたポリ乳酸系繊維を提供する。
【解決手段】 β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体と、ポリ乳酸系樹脂とを含むポリ乳酸系繊維。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体と、ポリ乳酸系樹脂とを含むポリ乳酸系繊維。
【請求項2】
前記β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体が、下記一般式(I)で表される、請求項1に記載のポリ乳酸系繊維。
【化1】
[一般式(I)中、Rは、水素原子、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基、炭素数2~20の直鎖状又は分岐状アルケニル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数7~12のアリールアルキル基、炭素数1~20の直鎖状アルキル基における末端の炭素原子に結合する1つの水素原子が下記式(X)で表される基で置換された酸素原子含有炭化水素基、又は、炭素数3~20の分岐状アルキル基の少なくとも1つの末端の炭素原子に結合する1つの水素原子が下記式(X)で表される基で置換された酸素原子含有炭化水素基を示す。下記式(X)中、*で示される結合手は、前記炭素数1~20の直鎖状アルキル基又は炭素数3~20の分岐状アルキル基と結合する。
【化2】
は、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基、炭素数2~20の直鎖状又は分岐状アルケニル基、炭素数6~12のアリール基、又は、炭素数7~12のアリールアルキル基を示す。
nは8~1,000の整数であり、mは8~1,000の整数である。
及びmが、複数存在する場合、これらは同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。]
【請求項3】
前記β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体の数平均分子量が、1,000以上100,000以下である、請求項1又は2に記載のポリ乳酸系繊維。
【請求項4】
小角X線散乱測定において10.0nm以上の長周期構造が観察される、請求項1又は2に記載のポリ乳酸系繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸系繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境保全の見地から、幅広い分野において、製品に用いられるプラスチック材料に対し環境負荷低減が求められている。環境負荷を低減すべく、「生分解性プラスチック」の一つであるポリ乳酸を用いたプラスチック材料の開発が盛んに行われている。しかし、ポリ乳酸からなる成形体や繊維は、石油系プラスチックと比べると脆く、柔軟性、及び耐熱性等に劣る傾向があり、さらに加水分解しやすいため、樹脂材料や各種繊維製品としての使用が制限されることがあった。
【0003】
そこで、硬くて脆いといった性質を持つポリ乳酸系繊維に、柔軟性を付与するために、例えば、特許文献1(特開2013-11033号公報)では、ポリグリセリン脂肪酸エステルまたはポリグリセリン縮合ヒドロキシ脂肪酸エステルをポリ乳酸系繊維に添加することにより、耐熱性を損なうことなく、少量の添加でポリ乳酸に柔軟性を付与されたポリ乳酸系繊維が得られることが記載されている。また、特許文献2(特開2010-84261号公報)では、平均重合度1~12のグリセリン誘導体をポリ乳酸系繊維に添加することにより、繊維内部に含有されるグリセリン誘導体が繊維に柔軟性を付与させると共に、外部からの衝撃を吸収し、クラックの発生や伝播を抑制することで耐摩耗性を向上できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-11033号公報
【特許文献2】特開2010-84261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2のように低分子量の添加剤を用いると、ポリ乳酸内での分散性がよく、十分な可塑効果を発現し、柔軟性を付与することができるが、結晶化速度の遅いポリ乳酸においては、添加剤によってポリ乳酸の結晶化が阻害されることにより、繊維の強度が添加量に応じて低下するという問題があった。
【0006】
したがって、本発明は、上記のような問題現状に鑑み、引張強度は維持しつつも、柔軟性に優れたポリ乳酸系繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の好適な態様を包含する。
<1> β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体と、ポリ乳酸系樹脂とを含むポリ乳酸系繊維。
<2> 前記β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体が、下記一般式(I)で表される、上記<1>に記載のポリ乳酸系繊維。
【化1】
[一般式(I)中、Rは、水素原子、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基、炭素数2~20の直鎖状又は分岐状アルケニル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数7~12のアリールアルキル基、炭素数1~20の直鎖状アルキル基における末端の炭素原子に結合する1つの水素原子が下記式(X)で表される基で置換された酸素原子含有炭化水素基、又は、炭素数3~20の分岐状アルキル基の少なくとも1つの末端の炭素原子に結合する1つの水素原子が下記式(X)で表される基で置換された酸素原子含有炭化水素基を示す。下記式(X)中、*で示される結合手は、前記炭素数1~20の直鎖状アルキル基又は炭素数3~20の分岐状アルキル基と結合する。
【化2】
は、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基、炭素数2~20の直鎖状又は分岐状アルケニル基、炭素数6~12のアリール基、又は、炭素数7~12のアリールアルキル基を示す。
nは8~1,000の整数であり、mは8~1,000の整数である。
及びmが、複数存在する場合、これらは同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。]
<3> 前記β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体の数平均分子量が、1,000以上100,000以下である、上記<1>又は<2>に記載のポリ乳酸系繊維。
<4> 小角X線散乱測定において10.0nm以上の長周期構造が観察される、上記<1>~<3>のいずれか1つに記載のポリ乳酸系繊維。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、繊維強度は維持しつつも、柔軟性に優れたポリ乳酸系繊維を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施態様の一例に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施態様は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下の記載に限定されない。また本明細書において、実施態様の好ましい形態を示すが、個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、好ましい形態である。数値範囲で示した事項について、いくつかの数値範囲がある場合、それらの下限値と上限値とを選択的に組み合わせて好ましい形態とすることができる。
なお、本明細書において、「XX~YY」との数値範囲の記載がある場合、「XX以上YY以下」を意味する。
【0010】
[ポリ乳酸系樹脂]
本実施態様において、ポリ乳酸系繊維にはポリ乳酸系樹脂を含む。本実施態様において用いられるポリ乳酸系樹脂としては、例えば、L-乳酸のホモポリマー、D-乳酸のホモポリマー、L-乳酸とD-乳酸との共重合体、DL-乳酸のホモポリマー、DL-乳酸とL-乳酸との共重合体、DL-乳酸とD-乳酸との共重合体、及び乳酸の環状2量体であるラクチドの重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。ポリ乳酸系樹脂は、好ましくはL-乳酸またはD-乳酸の含有率が95%以上であってもよく、より好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上である。95%以上とすることにより、結晶性が高くなり、操業性が良好であり、繊維強度が良好なものとなる。
【0011】
前記ポリ乳酸系樹脂として市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、ネイチャーワークス社製 商品名「INGEO」シリーズ、TOTALCORBION PLA社製 商品名「Luminy」シリーズ、ZhejiangHisun Biomaterials Co.,Ltd製 商品名「Revode」シリーズ、SUPLA Material TechnologyCo.,Ltd製 商品名「SUPLA」等が挙げられる。
【0012】
前記ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量は、溶融紡糸性の観点から、好ましくは50,000以上、より好ましくは100,000以上、さらに好ましくは150,000以上である。また、β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体との相容性の観点から、好ましくは600,000以下、より好ましくは550,000以下、さらに好ましくは500,000以下である。すなわち、ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量は、好ましくは50,000以上600,000以下である。ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により標準ポリスチレン換算で求めることができる。また、市販品を用いる場合は、カタログ値を採用してもよい。
【0013】
[β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体]
本実施態様において、ポリ乳酸系繊維にはβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体を含む。本実施態様において用いられるβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体(以下、単に「重合体」と称すことがある。)としては、下記一般式(I)で表される重合体が好ましい。下記重合体は、一般式(I)で表される構造を有することにより、ポリ乳酸系樹脂の優れた改質剤となる。下記重合体は、β-メチル-δ-バレロラクトンを開環重合した重合体であって、分子末端にある少なくとも1つの水酸基が他の官能基に変性されているため、熱分解性の低下が抑制された重合体となる。
【0014】
また、前記重合体は、分子末端の構造及び末端数により、ポリ乳酸系繊維の引張破断伸度を向上することができ、加えて結晶化速度の向上、耐衝撃性の向上、耐加水分解性の向上、その他機能、及び取り扱い性のバランスが良好な性状を発現できることが期待される。さらに、重合体の原料はβ-メチル-δ-バレロラクトンであるから、本実施態様のポリ乳酸系繊維は、良好な生分解性を有することが考えられる。
【0015】
一般式(I)中、Rは、水素原子、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基、炭素数2~20の直鎖状又は分岐状アルケニル基、炭素数6~12のアリール基、又は、炭素数7~12のアリールアルキル基を示す。なお、上記「分岐状アルキル基」の場合、炭素数は3~20であり、上記「分岐状アルケニル基」の場合、炭素数は3~20である。
【0016】
また、一般式(I)中、Rは、上記置換基の他に、炭素数1~20の直鎖状アルキル基における末端の炭素原子に結合する1つの水素原子が下記式(X)で表される基で置換された酸素原子含有炭化水素基、又は、炭素数3~20の分岐状アルキル基の少なくとも1つの末端の炭素原子に結合する1つの水素原子が下記式(X)で表される基で置換された酸素原子含有炭化水素基を示す。下記式(X)中、*で示される結合手は、炭素数1~20の直鎖状アルキル基又は炭素数3~20の分岐状アルキル基と結合する。
【0017】
一般式(I)中、nは平均繰り返し数を示し、8~1,000の整数であり、好ましくは8~800、より好ましくは10~600、さらに好ましくは10~500、よりさらに好ましくは10~300である。nが8以上の整数であれば、より一層優れた改質効果が得られる。また、nが1,000以下の整数であれば、ポリ乳酸系樹脂と良好に相溶することができる。
【0018】
上記式(X)中のRは、後述するRと同義である。上記式(X)と結合する炭素数1~20の直鎖状アルキル基は、前述した「炭素数1~20の直鎖状アルキル基」として例示した基を同様に例示できる。上記式(X)と結合する炭素数1~20の直鎖状アルキル基は、好ましくは炭素数1~15の直鎖状アルキル基であり、より好ましくは炭素数1~10の直鎖状アルキル基であり、さらに好ましくは炭素数2~10の直鎖状アルキル基であり、よりさらに好ましくは炭素数2~5の直鎖状アルキル基である。
【0019】
上記式(X)と結合する炭素数3~20の分岐状アルキル基は、前述した「炭素数3~20の分岐状アルキル基」として例示した基を同様に例示できる。上記式(X)と結合する炭素数3~20の分岐状アルキル基は、好ましくは炭素数3~15の分岐状アルキル基であり、より好ましくは炭素数3~10の分岐状アルキル基であり、さらに好ましくは炭素数3~6の分岐状アルキル基であり、炭素数3~5の分岐状アルキル基であってもよい。
また、炭素数3~20の分岐状アルキル基の全ての末端の炭素原子に結合する1つの水素原子が、上記式(X)で表される基で置換された酸素原子含有炭化水素基であってもよい。
【0020】
上記式(X)中のmは平均繰り返し数を示し、8~1,000の整数であり、好ましくは8~800、より好ましくは10~500、さらに好ましくは10~300であり、10~100であってもよく、10~80であってもよく、10~60であってもよい。mが8以上の整数であれば、より一層優れた改質効果が得られる。また、mが1,000以下の整数であれば、ポリ乳酸系樹脂と良好に相溶することができる。
なお、Rにおいて、上記式(X)で表される基が複数存在する場合、これらは同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。また、上記式(I)において、R及びmは複数存在することがある。Rが複数存在する場合、これらは同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。また、mが複数存在する場合、これらは同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0021】
(数平均分子量(Mn))
前記重合体の数平均分子量は、より一層優れた柔軟化効果が得られやすい観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは1,500以上、さらに好ましくは2,000以上である。また、ポリ乳酸系樹脂との相溶の観点から、重合体の数平均分子量は、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、さらに好ましくは50,000以下である。すなわち、重合体の数平均分子量は、好ましくは1,000以上100,000以下である。
本明細書において、β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によって求めた標準ポリスチレン換算の数平均分子量である。詳細な測定方法は、実施例に記載の方法に従うことができる。
【0022】
(重量平均分子量(Mw))
前記重合体の重量平均分子量は、好ましくは1,500以上200,000以下である。重量平均分子量が1,500以上であればより一層優れた柔軟化効果を発現しやすい。重量平均分子量が200,000以下であればポリ乳酸系樹脂と相溶しやすくなる。重合体の重量平均分子量は、より好ましくは2,200以上、さらに好ましくは3,000以上である。また、重合体の数平均分子量は、より好ましくは160,000以下、さらに好ましくは125,000以下、よりさらに好ましくは100,000以下である。
本明細書において、β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によって求めた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。詳細な測定方法は、実施例に記載の方法に従うことができる。
【0023】
(分子量分布(Mw/Mn))
β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0~3.0、より好ましくは1.1~2.0、さらに好ましくは1.2~1.8である。
本明細書に記載の「分子量分布」は全て、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によって求めた標準ポリスチレン換算の数平均分子量及び重量平均分子量から求めた値である。数平均分子量及び重量平均分子量の詳細な測定方法は、実施例に記載の方法に従うことができる。
【0024】
(粘度)
本明細書において「粘度」とは、重合体をE型粘度計で測定する粘度である。測定温度は、分子量等に応じて最適化することができる。重合体の粘度は、より一層優れた柔軟化効果が発現される観点から、80℃で400mPa・s以上であることが好ましく、80℃で1,000mPa・s以上であることがより好ましい。また、ポリ乳酸系樹脂との相溶性の観点や液体用フィーダー内での流動性の観点から、80℃で200,000mPa・s以下であることが好ましく、80℃で150,000mPa・s以下であることがより好ましい。すなわち、重合体の粘度は、測定温度80℃で好ましくは400mPa・s以上200,000mPa・s以下である。
また、重合体をE型粘度計で測定する際、測定温度は分子量等に応じて設定することができる。重合体は、例えば、30℃で好ましくは3,500~150,000mPa・sの粘度、より好ましくは4,000~150,000mPa・sの粘度を有することも好ましい実施態様である。また、重合体は、例えば、60℃で好ましくは650~150,000mPa・sの粘度、より好ましくは800~150,000mPa・sの粘度を有することも好ましい実施態様である。
【0025】
(重合体の製造方法)
前記β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体の製造方法は、特に限定されない。一方で、生産性及び簡便性の観点、あるいは、高分子量の重合体を製造する場合、β-メチル-δ-バレロラクトンと、アルコール化合物又は水と、塩基触媒とを反応させた反応液に、末端変性剤を添加して末端変性反応を行う工程(以下、「反応工程」ともいう)を含む、製造方法を採用することが好適である。
上記製造方法は、β-メチル-δ-バレロラクトンと、アルコール化合物又は水と、塩基触媒とを反応させた反応液に、直接、末端変性剤を添加することを特徴とする。すなわち、β-メチル-δ-バレロラクトンを開環重合した後、一旦開環重合体を取り出すことなく、開環重合を行った反応器に末端変性剤を添加して、開環重合体の末端変性を行うことができる。反応工程は、開環重合反応と末端変性反応をワンポットで行うため、上記製造方法は、簡略化されたプロセスであるといえる。
なお、重合体は、上記製造方法に限定されて製造されるものではない。
【0026】
(β-メチル-δ-バレロラクトン)
前記重合体の製造に用いられるβ-メチル-δ-バレロラクトンとしては、公知の方法により製造したものを用いることができる。例えば、2-ヒドロキシ-4-メチルテトラヒドロピラン等を原料として、公知の方法により製造することができる(特公平6-53691号等)。
また、β-メチル-δ-バレロラクトンは、市販品を用いることもできるし、石化由来であるか、バイオ由来であるかを問わず用いることができる。
【0027】
本実施態様のポリ乳酸系繊維は、前記ポリ乳酸系樹脂と前記β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体とを含み、前記ポリ乳酸系樹脂100質量部に対し、前記β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体は、0.1質量部以上10質量部以下含有することが好ましく、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは1.0質量部以上である。また、より好ましくは8.0質量部以下である。
【0028】
(ポリ乳酸系繊維)
本実施態様のポリ乳酸系繊維は、単繊維繊度が0.1~100dtexであることが好ましく、より好ましくは0.1~30dtex、さらに好ましくは0.1~20dtexである。本実施態様に使用する繊維を得る手法としては、特に制限はなく、直紡方式、分割方式を採用することができる。0.5~100dtexの単繊維繊度の繊維を得る方法としては直紡方式が好ましく、0.3~1dtexの単繊維繊度の繊維を得る方法としては分割方式が好ましい。
【0029】
また、本実施態様のポリ乳酸系繊維の総繊度としては、特に限定はないが、50~10000dtexであることが好ましく、80~5000dtexがより好ましく、100~2000dtexがさらに好ましく、200~1000dtexが特に好ましい。また、フィラメント数としては、特に限定はないが、2~1000本であることが好ましく、5~500本がより好ましい。
【0030】
本実施態様のポリ乳酸系繊維は、融点が150℃以上であることが好ましく、より好ましくは160℃以上であり、さらに好ましくは170℃以上である。上記範囲内であれば十分な強度を有する繊維を得ることができる。さらに、ポリ乳酸は光学異性体であるD/L体の比率によって融点が異なることが知られているが、融点が150℃以上であれば結晶性に優れ、十分な強度をもった繊維を得ることができる。
【0031】
本実施態様のポリ乳酸系繊維は、引張強度が1.0cN/dtex以上であることが好ましい。より好ましくは2.0cN/dtex以上であり、さらに好ましくは3.0cN/dtex以上である。上限について特に制限はないが、6.0cN/dtex以下であってもよく、5.0cN/dtex以下、4.5cN/dtex以下であってもよい。また、伸度については、10%以上であることが好ましい。より好ましくは15%以上であり、さらに好ましくは20%以上である。上限について特に制限はないが、500%以下であってもよく、400%以下、300%以下であってもよい。
【0032】
本実施態様のポリ乳酸系繊維は、弾性率が5cN/dtex以上であることが好ましい。より好ましくは10cN/dtex以上である。上限について特に制限はないが、100cN/dtex以下であってもよく、80cN/dtex以下であってもよい。
【0033】
本実施態様のポリ乳酸系繊維は、引掛強度が1.0cN/dtex以上であることが好ましい。より好ましくは1.5cN/dtex以上であり、さらに好ましくは2.0cN/dtex以上である。上限について特に制限はないが、5.0cN/dtex以下であってもよく、4.0cN/dtex以下であってもよい。
また、結節強度が1.0cN/dtex以上であることが好ましい。より好ましくは1.5cN/dtex以上であり、さらに好ましくは2.0cN/dtex以上である。上限について特に制限はないが、5.0cN/dtex以下であってもよく、4.0cN/dtex以下であってもよい。
【0034】
本実施態様のポリ乳酸系繊維は、広角X線測定において子午線方向2θ=16.5°付近に観測される回折ピークを用いて結晶子サイズ-1が、1.0nm以上であることが好ましい。当該の範囲であれば、優れた力学物性を有するポリ乳酸系繊維を得ることができる。より好ましくは3.0nm以上であり、さらに好ましくは5.0nm以上である。上限について特に制限はないが、20.0nm以下であってもよく、17.0nm以下、10.0nm以下であってもよい。また、2θ=31°付近に観測される回折ピークを用いて結晶子サイズ-2が、1.0nm以上であることが好ましい。当該の範囲であれば、優れた力学物性を有するポリ乳酸系繊維を得ることができる。より好ましくは3.0nm以上であり、さらに好ましくは5.0nm以上である。上限について特に制限はないが、20.0nm以下であってもよく、17.0nm以下、10.0nm以下であってもよい。
【0035】
本実施態様のポリ乳酸系繊維は、小角X線散乱測定において10.0nm以上の長周期構造が観察されることが好ましい。より好ましくは12.0nm以上であり、さらに好ましく14.0nm以上である。上限について特に制限はないが、20.0nm以下が好ましい。ポリ乳酸に柔軟性を付与するために、例えば特許文献1(特開2013-11033号公報)のように低分子量成分からなる可塑剤を添加した場合、ポリ乳酸に可塑効果が発現しポリ乳酸が柔軟化する。しかしながら、可塑効果による結晶化の阻害も同時に起きるため、上述のように結晶化サイズの低下が起きる。一方で、本実施態様のβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体は常温で液状のポリマーであり、これをポリ乳酸に添加すると、β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体はポリ乳酸の非晶部に局在し、非晶部の密度を低下させるため、ポリ乳酸に柔軟化を付与することができる。さらにβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体が添加されたとしても、ポリ乳酸の結晶化サイズの低下は起きないため、ポリ乳酸内で結晶成分と非晶成分での密度差が生じ、この密度差に起因して小角X線散乱測定において長周期構造が観察される。
【0036】
本実施態様のポリ乳酸系繊維は、通常の溶融紡糸法により紡糸を行うことができ、例えば、低速、中速で溶融紡糸した後に延伸する方法、高速による直接紡糸延伸法、紡糸後に延伸と仮撚を同時に又は続いて行なう方法の任意の製造方法で製造することができる。
【0037】
もう少し具体的に説明すれば、前記ポリ乳酸系樹脂を、溶融押出機で溶融し、溶融ポリマー流を紡糸ヘッドに導きギヤポンプで計量し、所望の形状の紡糸ノズルから吐出させ、必要に応じて延伸処理などを行い、ついで巻き取ることにより、本実施態様の繊維を製造することができる。紡糸時の溶融温度は、ポリ乳酸系樹脂の融点等により適宜調製されるが、通常150~300℃程度が好ましい。紡糸ノズルから吐出された糸条は延伸せずにそのまま高速で巻き取るか必要に応じて延伸してもよい。延伸操作は、通常、ガラス転移点以上の温度において、破断伸度(HDmax)の0.55~0.9倍で延伸処理を行ってもよい。延伸が破断伸度の0.55倍未満では十分な強度を有する繊維が安定して得られにくく、破断伸度の0.9倍を超えると断糸や毛羽が発生しやすくなる。
【0038】
前記延伸処理は紡糸ノズルから吐出された後に一旦巻き取ってから延伸する場合と、紡糸に引き続いて延伸処理が施される場合があるが、本実施態様においてはいずれでもよい。また、延伸方法としては、一段延伸でも、二段延伸以上の多段延伸を行ってもよい。引取り速度は、一旦巻き取ってから延伸処理を行う場合、紡糸直結延伸の一工程で紡糸延伸して巻き取る場合、延伸を行わずに高速でそのまま巻き取る場合で異なるが、およそ500~6000m/の範囲で引き取ることができる。500m/未満では、生産性が劣るし、6000m/分を超えるような超高速では、繊維の断糸が起こりやすい。また、本実施態様の繊維断面形状は特に限定されず、通常の溶融紡糸の手法を用いてノズルの形状により真円状にも中空にも異型断面にもできる。繊維化や製織化での工程通過性の点からは真円が好ましい。
【0039】
さらに、延伸後、繊維の融点以下で熱セットすることが繊維の収縮を抑える観点で好ましい。好ましくは最終延伸温度以上かつ繊維の融点以下で熱セットすることで、繊維の結晶化が促進されるため、より高強度でかつ低熱収縮性の繊維を得ることができる。
【実施例0040】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、実施例における各種特性の測定及び評価は、次の方法により実施した。
【0041】
(数平均分子量及び重量平均分子量)
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算分子量として、数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を求めた。具体的な測定方法は次のとおりである。
【0042】
〈Mn15,000未満の場合〉
Mnが15,000未満の試料は、以下に従い測定し、Mn及びMwを求めた。テトラヒドロフラン(THF)溶液を溶離液として用いた。試料を樹脂換算で10mg計量し、1mLの上記溶離液に溶解させた。該溶液を0.2μmのメンブランフィルターを通して測定サンプルを作製した。測定条件は以下のとおりとした。
(測定条件)
装置:HLC-EcoSEC8320GPC(東ソー株式会社製)
カラム:KF-803 KF-802.5 KF-802(昭和電工株式会社製)3本を直列に連結した。
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:0.9mL/分
サンプル注入量:30μL
カラム温度:40℃
標準ポリスチレン:東ソー株式会社製PSt Oligomer Kit(分子量589~98,900)を用いて3次式で近似した。
検出器:RI検出器
【0043】
〈Mn15,000以上の場合〉
Mnが15,000の以上の試料は、以下に従い測定し、Mn及びMwを求めた。テトラヒドロフラン(THF)溶液を溶離液として用いた。試料を樹脂換算で1.0mg計量し、1mLの上記溶離液に溶解させた。該溶液を0.2μmのメンブランフィルターを通して測定サンプルを作製した。測定条件は以下のとおりとした。
(測定条件)
装置:HLC-8220GPC(東ソー株式会社製)
カラム:TSK-gel SuperMultiporeHZ-M(東ソー株式会社製)2本を直列に連結した。
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:0.35mL/分
サンプル注入量:10μL
カラム温度:40℃
標準ポリスチレン:ジーエルサイエンス株式会社製ポリスチレン分子量スタンダード(分子量580~1,214,000)を用いて3次式で近似した。
検出器:RI検出器
【0044】
(繊度、引張強度)
JIS L 1013に準じて測定した。
【0045】
(引掛強度)
JIS L 1013に準じて、引掛強さを測定し、引掛強さを繊度の2倍で割って算出した。
【0046】
(結節強度)
JIS L 1013に準じて、結節強さを測定し、結節強さを繊度で割って算出した。
【0047】
(結晶子サイズおよび長周期構造の測定)
〇広角X線測定
測定装置:ブルカー社製D8 DISCOVER IμS
検出器:2次元PSPC・VANTEC-500
測定条件:電流=1mA、電圧=50kV、カメラ距離=10cm、コリメーター径=ロング0.5mm、露光時間=10分、2θ軸=20°、θ軸=10°、χ軸=90°(赤道線)・0°(子午線)
サンプルは4本束とした。赤道線はサンプルが垂直方向に、子午線はサンプルが水平方向になるようχ軸の角度を変更した。
次いで、上記方法で得られた子午線方向2θ=16.5°付近および31°付近に観測される回折ピークを用いて結晶子サイズ-1および結晶子サイズ-2を見積もった。具体的には、ピーク位置(2θ)と半値幅より、シェラーの式から算出した。
【0048】
〇小角X線測定
測定装置:リガク・NANOPIX
検出器:半導体2次元検出器・HyPix-6000
測定条件:電流=30mA、電圧=40kV、入射光学系=2PHF、ビームストッパー径=4mm、カメラ位置=1300.87mm、露光時間=10分、サンプルは8本束とした。
次いで、上記方法で得られた小角プロファイルのピークトップ位置より、ブラックの式から算出した。
【0049】
(β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体の製造)
内容積500mLのガラス製4口フラスコを窒素置換し、イソアミルアルコールを7.9g(90ミリモル)、β-メチル-δ-バレロラクトンを231g(2,025ミリモル)投入して60℃に昇温した。そこへn-ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液)を0.84mL加え、60℃で60分撹拌した。
次いで上記ガラス製4口フラスコに無水酢酸11.0g(108ミリモル)と、5.5gのβ-メチル-δ-バレロラクトンに溶解させた4-ジメチルアミノピリジン0.55g(4.5ミリモル)を入れ、60℃で60分撹拌し、重合体を含む反応溶液を得た。得られた重合体を含む反応溶液を、トルエンと水による抽出、及び蒸留により精製することで、重合体155g(0.04ミリモル)を得た。得られたβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体は、前述の一般式(I)で示され、R=(CHCHCHCH、R=CH、n=25である。また、得られたβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体の数平均分子量は4000で、重量平均分子量は6000であった。
【0050】
(実施例1)
ポリ乳酸系樹脂(TOTAL CORBION PLA社製「L―130」L体純度>99%)100質量部に対して、上記方法で合成したβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体を0.5質量部添加し、2軸押出機内で混錬しつつ、溶融押出しした。0.2mmΦ×50ホ-ルの丸孔ノズルより紡糸温度240℃で吐出し、吐出速度と巻取速度との比(ドラフト)が47に調節し、巻取速度1000m/分の範囲で巻き取った。得られた原糸の単糸繊度は6.6dtexであった。ついで、ついで、1炉100℃での乾熱延伸にて延伸倍率3.71倍で延伸を施し100dtex/50フィラメントの延伸糸を得た。得られた延伸糸の評価を行い、結果を表1に示す。なお、柔軟性については、繊維の脆さを指標とする引掛強度および結節強度を用いて評価した。
得られたポリ乳酸系繊維は、引張強度が3.60cN/dtexでありつつ、引掛強度が2.70cN/dtex、結節強度が2.30cN/dtexであった。
【0051】
(実施例2~3)
β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体の添加率および延伸倍率を表1の通り変更した以外は実施例1と同様にして、ポリ乳酸系繊維を得た。結果を表1に示す。
【0052】
(参考例1)
β-メチル-δ-バレロラクトン系重合体を添加せず、延伸倍率を表1の通り変更した以外は実施例1と同様にして、ポリ乳酸系繊維を得た。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1より、実施例1~3のβ-メチル-δ-バレロラクトン系重合体を含有したポリ乳酸系繊維は、参考例1のポリ乳酸系繊維と比べ、引張強度の低下を抑えつつ、引掛強度や結節強度が向上したことで柔軟性が改善されたものであることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のポリ乳酸系繊維は、繊維強度は維持しつつも、柔軟性に優れるため、産業資材分野、農業資材分野、アパレル分野、航空機・自動車・船舶分野などをはじめとして多くの用途に極めて有効に使用することができる。