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特開2024-157079音場補正装置および音場補正プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157079
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】音場補正装置および音場補正プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04S 7/00 20060101AFI20241030BHJP
   H04R 3/04 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
H04S7/00 320
H04R3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071185
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001487
【氏名又は名称】フォルシアクラリオン・エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100078880
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100183760
【弁理士】
【氏名又は名称】山鹿 宗貴
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 哲生
【テーマコード(参考)】
5D162
5D220
【Fターム(参考)】
5D162AA09
5D162CA11
5D162CA21
5D162CC18
5D162DA22
5D220AA05
5D220AB01
(57)【要約】
【課題】オーディオ信号の位相制御に伴う音像定位の劣化を抑えること。
【解決手段】音場補正装置は、複数のチャンネルのそれぞれに対応するオーディオ信号の位相を周波数毎に調整するための位相制御データに基づいて移動体内の音場を補正する装置であり、移動体内の人の位置を検知する検知部と、検知部により検知された人の位置に応じて、オーディオ信号に対する位相制御データの設定を行う設定部と、を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のチャンネルのそれぞれに対応するオーディオ信号の位相を周波数毎に調整するための位相制御データに基づいて移動体内の音場を補正する音場補正装置において、
前記移動体内の人の位置を検知する検知部と、
前記検知部により検知された人の位置に応じて、前記オーディオ信号に対する前記位相制御データの設定を行う設定部と、を備える、
音場補正装置。
【請求項2】
前記位置は、前記位相制御データに基づく音場補正の対象となる第1の位置と、前記位相制御データに基づく音場補正の対象でない第2の位置であり、
前記検知部により前記第2の位置に人が検知されると、前記設定部は、前記位相制御データを音場補正に適用するデータとして設定しない、
請求項1に記載の音場補正装置。
【請求項3】
前記位相制御データは、複数のフィルタのフィルタ係数を含み、
前記位置は、前記位相制御データに基づく音場補正の対象となる第1の位置と、前記位相制御データに基づく音場補正の対象でない第2の位置であり、
前記検知部により前記第2の位置に人が検知されない場合、前記設定部は、前記複数のフィルタのうち、第1の数のフィルタを、音場補正に適用する音場補正フィルタとして設定し、
前記検知部により前記第2の位置に人が検知される場合、前記設定部は、前記複数のフィルタのうち、前記第1の数よりも少ない第2の数のフィルタを、前記音場補正フィルタとして設定する、
請求項1に記載の音場補正装置。
【請求項4】
前記設定部は、前記複数のフィルタのうち、前記音場補正フィルタとして設定されないフィルタを、前記オーディオ信号の振幅を周波数毎に調整するためのフィルタとして設定する、
請求項3に記載の音場補正装置。
【請求項5】
前記位置は、前記位相制御データに基づく音場補正の対象となる第1の位置と、前記位相制御データに基づく音場補正の対象でない第2の位置であり、
前記検知部により前記第2の位置に人が検知されない場合、前記設定部は、制御対象帯域において、第1の帯域幅の位相が調整されるように、前記位相制御データを設定し、
前記検知部により前記第2の位置に人が検知される場合、前記設定部は、前記制御対象帯域において、前記第1の帯域幅よりも狭い第2の帯域幅の位相が調整されるように、前記位相制御データを設定する、
請求項1に記載の音場補正装置。
【請求項6】
前記第2の位置は、前記移動体内の所定の列に設置された座席のうち、前記移動体の幅方向中央に位置する座席の位置である、
請求項2から請求項5の何れか一項に記載の音場補正装置。
【請求項7】
複数のチャンネルのそれぞれに対応するオーディオ信号の位相を周波数毎に調整するための位相制御データに基づいて移動体内の音場を補正する音場補正プログラムであって、
前記移動体内の人の位置を検知し、
検知された人の位置に応じて、前記オーディオ信号に対する前記位相制御データの設定を行う、処理を、コンピュータに実行させる、
音場補正プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音場補正装置および音場補正プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車室内には複数の位置にスピーカが設置されている。例えば、右ドア部(運転席側ドア部)の右フロントスピーカと左ドア部(助手席側ドア部)の左フロントスピーカは、車室空間の中心線を挟んで対称となる位置に設置されている。しかし、これらのスピーカは、リスナの聴取位置(運転席や助手席、後部座席など)を基準に考えると、対称となる位置にはない。
【0003】
例えばリスナが運転席に座る場合、右フロントスピーカとリスナとの距離と、左フロントスピーカとリスナとの距離は等しい距離にはならない。右ハンドル車の場合、前者の距離が後者の距離よりも短い。そのため、両ドア部のスピーカから音が同時に出力されると、運転席に座るリスナの耳には、右フロントスピーカから出力された音が届き、その後、左フロントスピーカから出力された音が届くことが一般的である。リスナの聴取位置と複数のスピーカのそれぞれとの間の距離の差(各スピーカから放出された再生音が到達する時間の差)により、ハース効果による音像定位の偏りが発生する。
【0004】
このような音像定位の偏りを改善する音場補正装置が知られている。例えば特許文献1に記載の音場補正装置は、各スピーカに出力されるオーディオ信号の位相を周波数毎に調節することによって音像定位を改善する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-106359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に例示される音場補正装置では、各スピーカに出力されるオーディオ信号の位相を周波数毎に調節することにより、移動体内のターゲット位置(例えば運転席など)で音像定位が改善される。但し、オーディオ信号の位相制御を行った場合であっても、移動体内の全ての位置で音像定位が改善されるわけではない。オーディオ信号の位相制御を行うことにより、ターゲット位置以外のリスナに対しては、音像定位が劣化することがある。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑み、オーディオ信号の位相制御に伴う音像定位の劣化を抑えることができる音場補正装置および音場補正プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る音場補正装置は、複数のチャンネルのそれぞれに対応するオーディオ信号の位相を周波数毎に調整するための位相制御データに基づいて移動体内の音場を補正する装置であり、移動体内の人の位置を検知する検知部と、検知部により検知された人の位置に応じて、オーディオ信号に対する位相制御データの設定を行う設定部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、オーディオ信号の位相制御に伴う音像定位の劣化を抑えることができる音場補正装置および音場補正プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る音場補正システムが設置された車両を模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る音場補正システムの構成を示すブロック図である。
図3】本発明の一実施形態に係る音場補正装置の機能ブロック図である。
図4】本発明の一実施形態に係る音場補正装置に備えられるフィルタ処理部のフィルタ構成を示すブロック図である。
図5】本発明の一実施形態において音場補正装置の制御部により実行されるIIR(Infinite Impulse Response)フィルタ設定処理のフローチャートを示す。
図6】本発明の一実施形態に係る音場補正装置に備えられるIIRフィルタを用いた位相制御の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の説明は、本発明の一実施形態に係る音場補正装置および音場補正プログラムに関する。なお、共通の又は対応する要素については、同一又は類似の符号を付して、重複する説明を適宜簡略又は省略する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る音場補正システム1が設置された車両A(一例として右ハンドル車)を模式的に示す図である。図2は、この音場補正システム1の構成を示すブロック図である。
【0013】
車両Aの車室内に、5つの座席が設置される。具体的には、車室内の一列目に運転席SFR、助手席SFLが設置され、2列目(後部座席列)に3つの座席が設置される。3つの座席は、運転席後方の右後部座席SRR、2列目中央の中央後部座席SRC、助手席後方の左後部座席SRLである。
【0014】
図1及び図2に示されるように、音場補正システム1は、音場補正装置2、ОMS(Occupant Monitoring System)3および4基のスピーカSPを備える。
【0015】
4基のスピーカSPは、スピーカSPFR、SPFL、SPRR、SPRLである。スピーカSPFRは、右フロントドア部に埋設された右フロントスピーカである。スピーカSPFLは、左フロントドア部に埋設された左フロントスピーカである。スピーカSPRRは、右リアドア部に埋設された右リアスピーカである。スピーカSPRLは、左リアドア部に埋設された左リアスピーカである。
【0016】
音場補正装置2は、本発明の一実施形態に係る音場補正方法および音場補正プログラムを実行するコンピュータの一例である。音場補正装置2は、オーディオ装置であってもよく、また、ナビゲーション装置やIVI(In-Vehicle Infotainment)の一部をなす装置であってもよい。また、音場補正装置2は、車載型の装置に限らない。音場補正装置2は、スマートフォン、フィーチャフォン、タブレット端末、PC(Personal Computer)、PDA(Personal Digital Assistant)、PND(Portable Navigation Device)、携帯ゲーム機などの他の形態の装置であってもよい。
【0017】
音場補正装置2は、スピーカSPFR、SPFLに対応するIIR型オールパスフィルタ対を用いた位相制御により、ターゲット位置(運転席SFR、助手席SFL)における音場補正を行う。また、音場補正装置2は、スピーカSPRR、SPRLに対応するIIR型オールパスフィルタ対を用いた位相制御により、ターゲット位置(右後部座席SRR、左後部座席SRL)における音場補正を行う。
【0018】
本実施形態では、運転席SFR、助手席SFL、右後部座席SRR、左後部座席SRLの位置は、位相制御データに基づく音場補正の対象となるターゲット位置(第1の位置の一例)である。中央後部座席SRCの位置は、位相制御データに基づく音場補正の対象でない非ターゲット位置(第2の位置の一例)である。
【0019】
第2の位置の一例である中央後部座席SRCは、移動体の一例である車両A内の2列目(所定の列の一例)に設置された座席のうち、車両Aの幅方向中央に位置する座席である。
【0020】
何れの座席位置をターゲット位置とし非ターゲット位置とするかは、例えば、車種や移動体の形態(例えば、乗用車、バス、トラック、飛行機)等に応じて適宜変更することができる。
【0021】
音場補正用のIIRフィルタのフィルタ係数は、例えば、特許文献1に記載の方法で演算されて、音場補正装置2のフラッシュメモリ16に予め格納されている。
【0022】
音場補正装置2は、IIR型オールパスフィルタ対を用いた位相制御により、対応するスピーカ対に出力されるオーディオ信号の位相を周波数毎に調節する。そうすることで、ターゲット位置で音像定位が改善される。但し、非ターゲット位置(位相制御データに基づく音場補正の対象でない位置であり、本実施形態では中央後部座席SRC)では、ターゲット位置で音像定位を改善したトレードオフとして、音像定位が劣化したり振幅特性が崩れて音質が劣化したりする。
【0023】
附言するに、中央後部座席SRCの位置を基準としたとき、スピーカSPRRとスピーカSPRLは、対象となる位置にある。そのため、中央後部座席SRCでは、オーディオ信号の位相制御を行わずとも、音像定位の偏りがそもそも生じにくい。このような音場となっている中央後部座席SRCでは、ターゲット位置での音場補正を行うことに伴う音像定位の劣化が生じやすい。
【0024】
そこで、音場補正装置2は、移動体の一例である車両A内の人の位置を検知し、検知された人の位置に応じて位相制御データ(複数のチャンネルのそれぞれに対応するオーディオ信号の位相を周波数毎に調整するためのデータ)の設定を行い、この設定に基づいてオーディオ信号に対するフィルタ処理を行う、という一連の処理を実行する。これにより、例えば、非ターゲット位置における、オーディオ信号の位相制御に伴う音像定位の劣化が抑えられる。
【0025】
ОMS3は、車内カメラで撮影された車室内の画像を解析して各座席の着座者の有無を判定する。音場補正装置2は、ОMS3より受信したデータに基づいて、車両A内の人の位置(すなわち着座者の位置)を検知する。
【0026】
図2に示されるように、音場補正装置2は、制御部10、プレイヤ11、D/Aコンバータ12、アンプ13、表示部14、操作部15およびフラッシュメモリ16を備える。
【0027】
音場補正装置2は、例えば、図2に示されていない他の構成を備えてもよく、また、ОMS3等が組み込まれた構成であってもよい。すなわち、音場補正装置2の態様には自由度があり、各種の設計変更が可能である。
【0028】
プレイヤ11は、音源と接続される。プレイヤ11は、音源より入力されるオーディオ信号を再生して、制御部10に出力する。
【0029】
音源は、例えば、デジタルオーディオデータを格納したCD(Compact Disc)、SACD(Super Audio CD)等のディスクメディア、HDD(Hard Disk Drive)、USB(Universal Serial Bus)等のストレージメディア、スマートフォン、タブレット端末、ネットワークを介してストリーム配信を行うサーバなどである。
【0030】
制御部10は、例えば、LSI(Large Scale Integration)として構成されており、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などを備える。
【0031】
制御部10は、RAMのワークエリアに展開されたプログラムを実行する。制御部10により実行されるプログラムには、本発明の一実施形態に係る音場補正プログラム100が含まれる。
【0032】
制御部10は、例えばシングルプロセッサまたはマルチプロセッサであり、少なくとも1つのプロセッサを含む。複数のプロセッサを含む構成とした場合、制御部10は、単一の装置としてパッケージ化されたものであってもよく、音場補正装置2内で物理的に分離した複数の装置で構成されてもよい。
【0033】
制御部10によるフィルタ処理後のオーディオ信号は、D/Aコンバータ12によりアナログ信号に変換される。このアナログ信号は、アンプ13で増幅されて、各スピーカSPに出力される。これにより、例えば音源に収録された楽曲が各スピーカSPから車室内で再生される。
【0034】
表示部14は、各種画面を表示する装置であり、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)、有機EL(Electro Luminescence)などのディスプレイを含む。表示部14は、タッチパネルを含む構成としてもよい。
【0035】
操作部15は、メカニカル方式、静電容量無接点方式、メンブレン方式等のスイッチ、ボタン、ノブ、ホイール等の操作子を含む。表示部14がタッチパネルを含む場合、このタッチパネルも操作部15の一部をなす。
【0036】
フラッシュメモリ16は、各種プログラムおよび各種データを格納する。一例として、フラッシュメモリ16は、音場補正用のIIRフィルタのフィルタ係数を格納する。
【0037】
図3は、音場補正装置2の機能ブロック図である。音場補正装置2は、図3に示されるように、機能ブロックとして、着座者検知部110、データ設定部120およびフィルタ処理部130を含む。各機能ブロックは、コンピュータの一例である音場補正装置2が実行する音場補正プログラム100により実現される。各機能ブロックは、一部または全部が専用の論理回路等のハードウェアにより実現されてもよい。
【0038】
着座者検知部110は、移動体の一例である車両A内の着座者の位置を検知する。データ設定部120は、着座者検知部110により検知された着座者の位置に応じて位相制御データの設定を行う。フィルタ処理部130は、データ設定部120の設定に基づいてオーディオ信号に対するフィルタ処理を行う。これにより、例えば、非ターゲット位置における、オーディオ信号の位相制御に伴う音像定位の劣化が抑えられる。
【0039】
図4は、フィルタ処理部130のフィルタ構成を示すブロック図である。
【0040】
図4に示されるように、フィルタ処理部130は、IIRフィルタ部132F、132R、イコライザ136FR、136FL、136RR、136RLを含む。
【0041】
IIRフィルタ部132Fは、3つのIIRフィルタ134FRおよび3つのIIRフィルタ134FLを含む。
【0042】
3つのIIRフィルタ134FRは、カスケード接続されており、Rチャンネルのオーディオ信号Rが入力される。オーディオ信号Rは、カスケード接続された3つのIIRフィルタ134FRによるフィルタ処理後、イコライザ136FRでイコライジングされて、スピーカSPFRに出力される。
【0043】
3つのIIRフィルタ134FLは、カスケード接続されており、Lチャンネルのオーディオ信号Lが入力される。オーディオ信号Lは、カスケード接続された3つのIIRフィルタ134FLによるフィルタ処理後、イコライザ136FLでイコライジングされて、スピーカSPFLに出力される。
【0044】
IIRフィルタ部132Rは、3つのIIRフィルタ134RRおよび3つのIIRフィルタ134RLを含む。
【0045】
3つのIIRフィルタ134RRは、カスケード接続されており、Rチャンネルのオーディオ信号Rが入力される。オーディオ信号Rは、カスケード接続された3つのIIRフィルタ134RRによるフィルタ処理後、イコライザ136RRでイコライジングされて、スピーカSPRRに出力される。
【0046】
3つのIIRフィルタ134RLは、カスケード接続されており、Lチャンネルのオーディオ信号Lが入力される。オーディオ信号Lは、カスケード接続された3つのIIRフィルタ134RLによるフィルタ処理後、イコライザ136RLでイコライジングされて、スピーカSPRLに出力される。
【0047】
制御部10は、車両A内の着座者の位置に応じて、IIRフィルタ部132F内およびIIRフィルタ部132R内の各IIRフィルタのフィルタ係数を設定する。以下、IIRフィルタの設定処理の具体例を3つ説明する。
【0048】
《設定処理例1》
図5は、設定処理例1に係るIIRフィルタ設定処理のフローチャートを示す。例えば音場補正システム1が起動すると、ОMS3が判定データを制御部10に定期的に送信する。この判定データを制御部10が受信すると、図5のIIRフィルタ設定処理の実行が開始される。
【0049】
制御部10は、ОMS3より受信したデータに基づいて、車両A内の着座者の位置を検知する。運転席SFRだけに着座者がいる場合(ステップS101:YES)、制御部10は、音場補正装置2の動作モードを第1モードに設定する(ステップS102)。
【0050】
具体的には、第1モードでは、制御部10は、IIRフィルタ部132F内およびIIRフィルタ部132R内の全てのIIRフィルタを、運転席SFRをターゲット位置とした音場補正のためのオールパスフィルタとして使用する。
【0051】
第1モードでは、IIRフィルタ部132F内およびIIRフィルタ部132R内の全てのIIRフィルタのフィルタ係数(位相制御データの一例)が、運転席SFRで適切な音像定位を得るための値に設定される。
【0052】
本実施形態において音場補正のために用いられるオールパスフィルタのフィルタ係数は、例えば、特許文献1に記載の方法で演算されて、音場補正装置2のフラッシュメモリ16に予め格納されている。ステップS102では、制御部10は、フラッシュメモリ16のなかから、第1モードに対応するフィルタ係数を読み出して、各IIRフィルタに設定する。
【0053】
このようなフィルタ係数が設定されることにより、運転席SFRで適切な音像定位が得られる。
【0054】
運転席SFR以外の座席(但し中央後部座席SRCを除く。)にも着座者がいる場合(ステップS101:NO、ステップS103:NO)、制御部10は、音場補正装置2の動作モードを第2モードに設定する(ステップS104)。
【0055】
具体的には、第2モードでは、制御部10は、IIRフィルタ部132F内の全てのIIRフィルタを、運転席SFRおよび助手席SFLをターゲット位置とした音場補正のためのオールパスフィルタとして使用する。また、制御部10は、IIRフィルタ部132R内の全てのIIRフィルタを、右後部座席SRRおよび左後部座席SRLをターゲット位置とした音場補正のためのオールパスフィルタとして使用する。
【0056】
第2モードでは、フロントスピーカSPに対応するIIRフィルタ部132F内の全てのIIRフィルタのフィルタ係数が、運転席SFRおよび助手席SFLで適切な音像定位を得るための値に設定される。また、リアスピーカSPに対応するIIRフィルタ部132R内の全てのIIRフィルタのフィルタ係数が、右後部座席SRRおよび左後部座席SRLで適切な音像定位を得るための値に設定される。
【0057】
このようなフィルタ係数が設定されることにより、運転席SFR、助手席SFL、右後部座席SRR、左後部座席SRLの各座席で適切な音像定位が得られる。
【0058】
中央後部座席SRCにも着座者がいる場合(ステップS101:NO、ステップS103:YES)、制御部10は、音場補正装置2の動作モードを第3モードに設定する(ステップS105)。ここでは転席SFR、助手席SFL、右後部座席SRR、左後部座席SRL、中央後部座席SRC、に着座者がいる例を説明する。
【0059】
具体的には、第3モードでは、制御部10は、フロントスピーカSPに対応するIIRフィルタ部132F内の全てのIIRフィルタを、運転席SFRおよび助手席SFLをターゲット位置とした音場補正のためのオールパスフィルタとして使用する。一方、制御部10は、リアスピーカSPに対応するIIRフィルタ部132R内の全てのIIRフィルタをオールパスフィルタとして使用しない。すなわち、IIRフィルタ部132Rに入力されたオーディオ信号RおよびLは、フィルタ処理されずにIIRフィルタ部132Rより出力される。
【0060】
制御部10は、OMS3の判定データに基づき中央後部座席SRCの着座者を検知すると、位相制御データの一例であるオールパスフィルタのフィルタ係数を音場補正に適用するデータとして設定しない。
【0061】
この場合、運転席SFR、助手席SFLの各座席で適切な音像定位が得られる。右後部座席SRR、左後部座席SRLの各座席では、オーディオ信号の位相制御による音像定位の改善が得られないものの、中央後部座席SRCでは、オーディオ信号の位相制御に伴う音像定位の劣化が抑えられる。言い換えると、中央後部座席SRCでは、オーディオ信号の位相制御を行わないことにより、適切な音像定位が得られる。
【0062】
リアスピーカSPに対応するIIRフィルタ部132Rにおいてオールパスフィルタを用いた位相制御を行わない場合、オールパスフィルタを用いた位相制御を行う場合と比べて、主に後部座席列で音質が劣化することがある。
【0063】
そこで、第3モードでは、制御部10は、各チャンネルについて、IIRフィルタ部132R内の少なくとも1つのIIRフィルタをイコライザとして使用してもよい。この「イコライザ」は、パラメトリックイコライザ、ピーキングフィルタ、ノッチフィルタなどに読み替えられてもよい。
【0064】
第3モードにおいて、オールパスフィルタとして使用しないIIRフィルタ部132R内のIIRフィルタをイコライザとして使用することにより、例えば、周波数上のディップやピークを抑制して、後部座席列の各座席で聴取される楽曲等の音質の劣化を抑えることができる。
【0065】
より具体的な例示として、ボーカルの帯域でディップが生じると、リスナにはボーカルがぼやけて聴こえる。オールパスフィルタとして使用しないIIRフィルタ部132R内のIIRフィルタをイコライザとして使用して、例えばディップが生じる帯域をブーストすると、ボーカルが明瞭に聴こえる。ボーカルが明瞭に聴こえることで音像定位が明瞭となって改善する場合がある。
【0066】
附言するに、一部のIIRフィルタをイコライザとして使用してオーディオ信号の振幅特性を調整することにより、オールパスフィルタを用いた位相制御を行わないことによる、右後部座席SRR、左後部座席SRLの各座席での、音像定位の劣化を抑制することができる。
【0067】
このように、データ設定部120として動作する制御部10は、音像定位および音質の劣化を抑制するため、音場補正フィルタの一例であるオールパスフィルタとして設定されないIIRフィルタを、オーディオ信号の振幅を周波数毎に調整するためのフィルタ(イコライザ、パラメトリックイコライザ、ピーキングフィルタ、ノッチフィルタなど)として設定してもよい。
【0068】
上記の設定処理例1では、運転席SFR、助手席SFL、右後部座席SRR、左後部座席SRL、中央後部座席SRCに着座者がいる場合の第3モードを説明したが、第3モード時の音場補正装置2の動作は、上記で説明した処理内容に限らない。制御部10は、例えば助手席SFLに着座者が検知されなかった場合、前席に対応するIIRフィルタ部132F内の全てのIIRフィルタのフィルタ係数を、第1モードのように、運転席SFRで適切な音像定位を得るための値に設定するように動作してもよい。
【0069】
《設定処理例2》
図5に示されるフローチャートを援用して設定処理例2を説明する。
【0070】
設定処理例2において、第1モード(ステップS102)および第2モード(ステップS104)の内容は、設定処理例1と同じである。
【0071】
第3モード(ステップS105)では、制御部10は、フロントスピーカSPに対応するIIRフィルタ部132F内の全てのIIRフィルタを、設定処理例1と同様に、運転席SFRおよび助手席SFLをターゲット位置とした音場補正のためのオールパスフィルタとして使用する。一方、リアスピーカSPに対応するIIRフィルタ部132Rについては、制御部10は、一部のIIRフィルタだけをオールパスフィルタとして使用する。
【0072】
例示的には、制御部10は、各チャンネルについて、IIRフィルタ部132R内でカスケード接続された3つのIIRフィルタのうち、1つまたは2つのIIRフィルタをオールパスフィルタとして使用し、残りのIIRフィルタをオールパスフィルタとして使用しない。
【0073】
設定処理例2では、制御部10がリアスピーカSPに対応するIIRフィルタ部132R内の複数のIIRフィルタのうち一部のIIRフィルタをオールパスフィルタとして使用してオーディオ信号の位相制御を行うことにより、右後部座席SRR、左後部座席SRLの各座席で音像定位が改善される。同時に、残りのIIRフィルタをオールパスフィルタとして使用しないことにより、中央後部座席SRCでは、オーディオ信号の位相制御に伴う音像定位の劣化が抑えられる。
【0074】
すなわち、設定処理例2では、中央後部座席SRC(第2の位置の一例)に着座者が検知されない場合、データ設定部120として動作する制御部10は、複数(例えばカスケード接続された3つ)のIIRフィルタのうち、第1の数のIIRフィルタ(例えばカスケード接続された3つのIIRフィルタ)を、オールパスフィルタ(音場補正に適用する音場補正フィルタの一例)として設定する。
【0075】
中央後部座席SRCに着座者が検知される場合、データ設定部120として動作する制御部10は、複数(例えばカスケード接続された3つ)のIIRフィルタのうち、第1の数よりも少ない第2の数のフィルタ(例えば、カスケード接続された3つのIIRフィルタのうち、1つまたは2つのIIRフィルタ)を、オールパスフィルタとして設定する。
【0076】
設定処理例2においても、データ設定部120として動作する制御部10は、音像定位および音質の劣化を抑制するため、音場補正フィルタの一例であるオールパスフィルタとして設定されないIIRフィルタを、オーディオ信号の振幅を周波数毎に調整するためのフィルタ(イコライザ、パラメトリックイコライザ、ピーキングフィルタ、ノッチフィルタなど)として設定してもよい。
【0077】
《設定処理例3》
図5に示されるフローチャートを援用して設定処理例3を説明する。
【0078】
設定処理例3においても、第1モード(ステップS102)および第2モード(ステップS104)の内容は、設定処理例1と同じである。
【0079】
図6に、リアスピーカSPに対応するIIRフィルタ部132R内のIIRフィルタを用いた位相制御の一例を示す。
【0080】
図6中、縦軸は、位相(単位:degree)を示し、横軸は、周波数(単位:Hz)を示す。図6中、太線は、第2モード時にIIRフィルタ部132R内の全てのIIRフィルタを使用して行われる位相制御(言い換えると、周波数上の位相特性)を示す。
【0081】
図6の例では、200Hz付近から400Hz付近までの帯域および1200Hz付近から1400Hz付近までの帯域の位相が調整される。200Hz付近から400Hz付近までの幅W1の帯域は、例えば制御対象帯域であるボーカルの帯域に含まれる。
【0082】
設定処理例3において、第3モード(ステップS105)では、第2モードと同様に、フロントスピーカSPに対応するIIRフィルタ部132F内の全てのIIRフィルタのフィルタ係数が、運転席SFRおよび助手席SFLで適切な音像定位を得るための値に設定される。
【0083】
設定処理例3において、第3モード(ステップS105)では、リアスピーカSPに対応するIIRフィルタ部132R内の全てのIIRフィルタのフィルタ係数が、右後部座席SRRおよび左後部座席SRLで適切な音像定位を得るための値に設定される。
【0084】
但し、この第3モードでは、リアスピーカSPに対応するIIRフィルタ部132R内の各IIRフィルタに対して第2モード時と異なるフィルタ係数が設定される。これにより、図6中、破線で示されるように、位相が調整される帯域が幅W1の帯域から幅W2の帯域に狭められる。
【0085】
すなわち、設定処理例3において、第3モードでは、第2モードと比べて、制御対象帯域であるボーカルの帯域のうち、位相が調整される帯域が狭められて、位相制御量が全体として減る。
【0086】
これにより、右後部座席SRR、左後部座席SRLの各座席において、音像定位が適度に改善されるとともに、位相制御量を全体として減らしたことに伴い、中央後部座席SRCにおける音像定位の劣化が抑えられる。
【0087】
このように、設定処理例3では、中央後部座席SRC(第2の位置の一例)に着座者が検知されない場合、データ設定部120として動作する制御部10は、制御対象帯域(例えばボーカルの帯域)において、帯域幅W1(第1の帯域幅の一例)の位相が調整されるように、IIRフィルタのフィルタ係数(位相制御データの一例)を設定する。
【0088】
中央後部座席SRCに着座者が検知される場合、データ設定部120として動作する制御部10は、制御対象帯域において、帯域幅W2(第1の帯域幅よりも狭い第2の帯域幅の一例)の位相が調整されるように、IIRフィルタのフィルタ係数を設定する。
【0089】
以上が本発明の例示的な実施形態の説明である。本発明の実施形態は、上記に説明したものに限定されず、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えば明細書中に例示的に明示される実施形態等又は自明な実施形態等を適宜組み合わせた内容も本願の実施形態に含まれる。
【符号の説明】
【0090】
1 :音場補正システム
2 :音場補正装置
10 :制御部
11 :プレイヤ
12 :D/Aコンバータ
13 :アンプ
14 :表示部
15 :操作部
16 :フラッシュメモリ
100 :音場補正プログラム
110 :着座者検知部
120 :データ設定部
130 :フィルタ処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6