(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157085
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20241030BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20241030BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
H01L29/78 658H
H01L29/78 653A
H01L29/78 657D
H01L29/78 655B
H01L29/78 655D
H01L29/78 655G
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071193
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000233273
【氏名又は名称】ミネベアパワーデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】生井 正輝
(72)【発明者】
【氏名】白石 正樹
(72)【発明者】
【氏名】森塚 翼
(57)【要約】
【課題】逆バイアス安全動作領域RBSOAが向上したRC-IGBTを有する半導体装置を提供する。
【解決手段】RC-IGBTを備えた半導体装置を、第1導電型の半導体基板、半導体基板の表面と接する第1電極、半導体基板の裏面と接する第2電極、半導体基板の表面側に形成された複数のトレンチ、トレンチ内の絶縁膜に覆われた第3電極、IGBT領域において第2電極と接する第2導電型の第1半導体層、ダイオード領域において第2電極と接する第1導電型の第2半導体層、第1半導体層および第2半導体層の上面に接する第1導電型の第3半導体層、第1電極およびトレンチ内の絶縁膜に接する第2導電型の第4半導体層、IGBT領域において第1電極およびトレンチ内の絶縁膜に接し、第4半導体層に囲われている第1導電型の第5半導体層、を有し、さらに、IGBT領域の中心近傍の半導体基板内に低ライフタイム領域を有する構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の半導体基板にIGBTおよびダイオードが形成された逆導通IGBTを備えた半導体装置であって、
第1導電型の前記半導体基板と、前記半導体基板の表面と接する第1電極と、前記半導体基板の裏面と接する第2電極と、前記半導体基板の表面側に形成された複数のトレンチと、前記トレンチ内に形成された絶縁膜と、前記絶縁膜に覆われた第3電極を備え、
前記IGBTが形成されたIGBT領域において前記第2電極と接する第2導電型の第1半導体層と、前記ダイオードが形成されたダイオード領域において前記第2電極と接する第1導電型の第2半導体層と、前記第1半導体層および前記第2半導体層の上面に接する第1導電型の第3半導体層と、前記第1電極および前記トレンチ内の前記絶縁膜に接する第2導電型の第4半導体層と、前記IGBT領域において前記第1電極および前記トレンチ内の前記絶縁膜に接し、前記第4半導体層に囲われている第1導電型の第5半導体層と、を有し、
前記IGBT領域の中心の近傍のIGBTセルの前記半導体基板内に、低ライフタイム領域を有している、
半導体装置。
【請求項2】
前記IGBT領域の中心の近傍の前記第1半導体層の不純物濃度が、前記IGBT領域の中心の近傍以外の部分における前記第1半導体層の不純物濃度よりも低い、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記IGBT領域の中心の近傍以外の部分のIGBTセルにおいては、前記第5半導体層が形成され、前記IGBT領域の中心の近傍のIGBTセルにおいては、前記第5半導体層が形成されていない、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記IGBT領域の中心の近傍の前記第1半導体層の不純物濃度が、前記IGBT領域の中心の近傍以外の部分における前記第1半導体層の不純物濃度よりも低い、請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記IGBT領域の中心の近傍のIGBTセルは、前記IGBT領域の中心の近傍以外の部分のIGBTセルと比較して、前記第5半導体層の数が少ない、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記IGBT領域の中心の近傍の前記第1半導体層の不純物濃度が、前記IGBT領域の中心の近傍以外の部分における前記第1半導体層の不純物濃度よりも低い、請求項5に記載の半導体装置。
【請求項7】
同一の半導体基板にIGBTおよびダイオードが形成された逆導通IGBTを備えた半導体装置であって、
第1導電型の前記半導体基板と、前記半導体基板の表面と接する第1電極と、前記半導体基板の裏面と接する第2電極と、前記半導体基板の表面側に形成された複数のトレンチと、前記トレンチ内に形成された絶縁膜と、前記絶縁膜に覆われた第3電極を備え、
前記IGBTが形成されたIGBT領域において前記第2電極と接する第2導電型の第1半導体層と、前記ダイオードが形成されたダイオード領域において前記第2電極と接する第1導電型の第2半導体層と、前記第1半導体層および前記第2半導体層の上面に接する第1導電型の第3半導体層と、前記第1電極および前記トレンチ内の前記絶縁膜に接する第2導電型の第4半導体層と、前記IGBT領域において前記第1電極および前記トレンチ内の前記絶縁膜に接し、前記第4半導体層に囲われている第1導電型の第5半導体層と、を有し、
前記IGBT領域の中心の近傍以外の部分のIGBTセルにおいては、前記第5半導体層が形成され、前記IGBT領域の中心の近傍のIGBTセルにおいては、前記第5半導体層が形成されていない
半導体装置。
【請求項8】
前記IGBT領域の中心の近傍の前記第1半導体層の不純物濃度が、前記IGBT領域の中心の近傍以外の部分における前記第1半導体層の不純物濃度よりも低い、請求項7に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一半導体装置内にIGBTとダイオードを備えた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
同一半導体装置内に、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor;絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)と、IGBTに対して逆並列に接続されたダイオードとを搭載した逆導通IGBT(RC-IGBT)は、周辺耐圧構造が1チップで共通化できる。これにより、各々単独で製造されたIGBTとダイオードを合わせたチップ面積よりも、RC-IGBTは、チップ面積を縮小することが可能である。
【0003】
また、RC-IGBTは、IGBT領域で発生した熱をダイオード側へ放熱し、ダイオード領域で発生した熱をIGBT側へ放熱するため、従来よりも高い電流密度、発熱密度で動作が可能となる。
【0004】
一方で、電流密度が高くなっても素子の破壊が起こらないように、IGBTの電流遮断能力を示す指標である、逆バイアス安全動作領域(Reverse Bias Safe Operating Area; RBSOA)の向上も同時に求められる。
【0005】
例えば、特許文献1には、IGBTのp+型コンタクト層を、外周領域のp型ウェル層に侵入するように形成することで、p+型コンタクト層とp型ウェル層の重なった部分が低抵抗となり、電位が増加しにくく、n+型エミッタ層への正孔電流の流入が低減し、逆バイアス安全動作領域(RBSOA)の低下を最小限にすることができる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された構成は、IGBTと外周領域との境界領域におけるRBSOAの低下を防げる効果はあるが、特許文献1には、RC-IGBTの中で広い面積を占めるIGBT活性領域におけるRBSOAの低下を防ぐ方法が提案されていない。
【0008】
上述した問題の解決のために、本発明においては、逆バイアス安全動作領域RBSOAが向上したRC-IGBTを有する半導体装置を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明の上記の目的およびその他の目的と本発明の新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面によって明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の半導体装置は、同一の半導体基板にIGBTおよびダイオードが形成された逆導通IGBTを備えた半導体装置である。
そして、本発明の半導体装置は、第1導電型の半導体基板と、半導体基板の表面と接する第1電極と、半導体基板の裏面と接する第2電極と、半導体基板の表面側に形成された複数のトレンチと、トレンチ内に形成された絶縁膜と、絶縁膜に覆われた第3電極を備える。
また、本発明の半導体装置は、IGBTが形成されたIGBT領域において第2電極と接する第2導電型の第1半導体層と、ダイオードが形成されたダイオード領域において第2電極と接する第1導電型の第2半導体層と、第1半導体層および第2半導体層の上面に接する第1導電型の第3半導体層と、第1電極およびトレンチ内の絶縁膜に接する第2導電型の第4半導体層と、IGBT領域において第1電極およびトレンチ内の絶縁膜に接し、第4半導体層に囲われている第1導電型の第5半導体層と、を有する。
【0011】
第1の本発明の半導体装置は、さらに、IGBT領域の中心の近傍のIGBTセルの半導体基板内に、低ライフタイム領域を有している構成である。
【0012】
第2の本発明の半導体装置は、さらに、IGBT領域の中心の近傍以外の部分のIGBTセルにおいては、第5半導体層が形成され、IGBT領域の中心の近傍のIGBTセルにおいては、第5半導体層が形成されていない構成である。
【発明の効果】
【0013】
第1の本発明の半導体装置の構成によれば、IGBT領域の中心の近傍のIGBTセルの半導体基板内に、低ライフタイム領域を有している。
IGBT領域の中心の近傍のIGBTセルにおいては、低ライフタイム領域によって、伝導度変調効果によるキャリアの蓄積量が減るので、ターンオフ動作において排出されるキャリアの総量を減らして、IGBTに内在する寄生サイリスタへ供給されるベース電流を減少させることができる。
これにより、IGBT領域でのラッチアップ破壊を防止して、逆バイアス安全動作領域RBSOAを向上することができる。
【0014】
第2の本発明の半導体装置の構成によれば、IGBT領域の中心の近傍以外の部分のIGBTセルにおいては、第5半導体層が形成され、IGBT領域の中心の近傍のIGBTセルにおいては、第5半導体層が形成されていない。
IGBT領域の中心の近傍のIGBTセルにおいて、第5半導体層が形成されていないので、IGBTに寄生サイリスタが形成されない。
これにより、IGBT領域でのラッチアップ破壊を防止して、逆バイアス安全動作領域RBSOAを向上することができる。
【0015】
なお、上述した以外の課題、構成および効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1の半導体装置の要部の拡大断面図である。
【
図2】実施例2の半導体装置の要部の拡大断面図である。
【
図3】実施例3の半導体装置の要部の拡大断面図である。
【
図4】実施例4の半導体装置の要部の拡大断面図である。
【
図6】従来の逆導通IGBTを有する半導体装置の要部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施の形態および実施例について、文章もしくは図面を用いて説明する。ただし、本発明に示す構造、材料、その他具体的な各種の構成等は、ここで取り上げた実施の形態や実施例に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。また、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
本発明の半導体装置は、同一の半導体基板にIGBTおよびダイオードが形成された逆導通IGBTを備えた半導体装置である。
そして、本発明の半導体装置は、第1導電型の半導体基板と、半導体基板の表面と接する第1電極と、半導体基板の裏面と接する第2電極と、半導体基板の表面側に形成された複数のトレンチと、トレンチ内に形成された絶縁膜と、絶縁膜に覆われた第3電極を備える。
また、本発明の半導体装置は、IGBTが形成されたIGBT領域において第2電極と接する第2導電型の第1半導体層と、ダイオードが形成されたダイオード領域において第2電極と接する第1導電型の第2半導体層と、第1半導体層および第2半導体層の上面に接する第1導電型の第3半導体層と、第1電極およびトレンチ内の絶縁膜に接する第2導電型の第4半導体層と、IGBT領域において第1電極およびトレンチ内の絶縁膜に接し、第4半導体層に囲われている第1導電型の第5半導体層と、を有する。
【0019】
第1の本発明の半導体装置は、さらに、IGBT領域の中心の近傍のIGBTセルの半導体基板内に、低ライフタイム領域を有している構成である。
【0020】
第2の本発明の半導体装置は、さらに、IGBT領域の中心の近傍以外の部分のIGBTセルにおいては、第5半導体層が形成され、IGBT領域の中心の近傍のIGBTセルにおいては、第5半導体層が形成されていない構成である。
【0021】
第1の本発明の半導体装置の構成によれば、IGBT領域の中心の近傍のIGBTセルの半導体基板内に、低ライフタイム領域を有している。
IGBT領域の中心の近傍のIGBTセルの半導体基板内に、低ライフタイム領域を有するので、IGBT領域の中心の近傍のIGBTセルにおいては、低ライフタイム領域によって、伝導度変調効果によるキャリアの蓄積量を減らすことができる。キャリアの蓄積量を減らすことができるので、ターンオフ動作において排出されるキャリアの総量を減らし、IGBTに内在するpnpn型寄生サイリスタへ供給されるベース電流が減少する。
これにより、上記のベース電流に起因する、IGBT領域でのラッチアップ破壊を防止して、逆バイアス安全動作領域RBSOAを向上することができる。
【0022】
第2の本発明の半導体装置の構成によれば、IGBT領域の中心の近傍以外の部分のIGBTセルにおいては、第5半導体層が形成され、IGBT領域の中心の近傍のIGBTセルにおいては、第5半導体層が形成されていない。
IGBT領域の中心の近傍のIGBTセルにおいて、第5半導体層が形成されていないので、IGBTに寄生サイリスタが形成されない。
これにより、寄生サイリスタのベース電流に起因する、IGBT領域でのラッチアップ破壊を防止して、逆バイアス安全動作領域RBSOAを向上することができる。
【0023】
上記の第1の本発明の半導体装置において、IGBT領域の中心の近傍の第1半導体層の不純物濃度が、IGBT領域の中心の近傍以外の部分における第1半導体層の不純物濃度よりも低い構成とすることができる。
この構成の場合、IGBT領域の中心の近傍では、第1半導体層の不純物濃度が、IGBT領域の他の部分の第1半導体層よりも低いので、順方向の電流導通時における少数キャリアの注入量を減らすことが可能となる。これにより、ターンオフ動作で、IGBT領域の中心の近傍においてボディ層(第4半導体層)へ排出される少数キャリアが少なくなり、寄生サイリスタのベース電流が抑制され、更なるRBSOAの向上が可能となる。
【0024】
上記の第1の本発明の半導体装置において、IGBT領域の中心の近傍以外の部分のIGBTセルにおいては、第5半導体層が形成され、IGBT領域の中心の近傍のIGBTセルにおいては、第5半導体層が形成されていない構成とすることができる。
この構成の場合、上記の第2の本発明の半導体装置と同様に、IGBT領域の中心の近傍のIGBTセルにおいて、IGBTに寄生サイリスタが形成されない。これにより、寄生サイリスタのベース電流に起因する、IGBT領域でのラッチアップ破壊を防止して、逆バイアス安全動作領域RBSOAを更に向上することができる。
【0025】
上記の第1の本発明の半導体装置において、IGBT領域の中心の近傍のIGBTセルは、IGBT領域の中心の近傍以外の部分のIGBTセルと比較して、第5半導体層の数が少ない構成とすることができる。
この構成の場合、IGBT領域の中心の近傍のIGBTセルは、IGBT領域の中心の近傍以外の部分のIGBTセルと比較して、第5半導体層の数が少ないので、寄生サイリスタ構造が形成されにくくなり、ラッチアップ破壊を抑制することができる。これにより、逆バイアス安全動作領域RBSOAを更に向上することができる。
【0026】
上記の第2の本発明の半導体装置において、IGBT領域の中心の近傍の第1半導体層の不純物濃度が、IGBT領域の中心の近傍以外の部分における第1半導体層の不純物濃度よりも低い構成とすることができる。
この構成の場合、IGBT領域の中心の近傍では、第1半導体層の不純物濃度が、IGBT領域の他の部分の第1半導体層よりも低いので、順方向の電流導通時における少数キャリアの注入量を減らすことが可能となる。これにより、ターンオフ動作で、IGBT領域の中心の近傍においてボディ層(第4半導体層)へ排出される少数キャリアが少なくなり、寄生サイリスタのベース電流が抑制され、更なるRBSOAの向上が可能となる。
【実施例0027】
続いて、半導体装置の具体的な実施例を説明する。
【0028】
(実施例1)
以下、実施例1の半導体装置の構成を、
図1を参照して説明する。
図1は、実施例1の半導体装置の要部の拡大断面図である。
図1は、逆導通IGBT(RC-IGBT)を備えた半導体装置のうち、IGBT領域およびダイオード領域を拡大した断面図を示している。
本実施例は、本発明の半導体装置をトレンチIGBTに適用した例を示している。
【0029】
本実施例の半導体装置は、
図1に示すように、互いに隣接する、IGBT領域100と、ダイオード領域200とを備えた構成を有する。
IGBT領域100には、IGBTが形成されている。
ダイオード領域200には、ダイオードが形成されている。
【0030】
そして、本実施例の半導体装置は、第1導電型の半導体基板1、半導体基板1の表面と接するエミッタ電極10、半導体基板1の裏面と接するコレクタ電極11、第2導電型のコレクタ層2、第1導電型のカソード層3、第1導電型のバッファ層4、を有する。
【0031】
エミッタ電極10とコレクタ電極11は、それぞれIGBT領域100およびダイオード領域200にわたって形成されている。
第2導電型(例えば、p型)のコレクタ層2は、IGBT領域100の半導体基板1の裏面側の部分に形成され、コレクタ電極11と接している。
第1導電型(例えば、n型)のカソード層3は、ダイオード領域200の半導体基板1の裏面側の部分に形成され、コレクタ電極11と接している。
第1導電型(例えば、n型)のバッファ層4は、コレクタ層2およびカソード層3の、コレクタ電極11と接する面と反対側の面に接して配置されている。
【0032】
IGBT領域100およびダイオード領域200のそれぞれにおいて、半導体基板1の表面側の部分に、第2導電型のボディ層5が形成されている。
また、IGBT領域100においては、ボディ層5の表面側の部分に、第1導電型(例えば、n型)のエミッタ層6が形成されている。
半導体基板1のうち、バッファ層4とボディ層5の間の部分は、第1導電型(例えば、n型)のバリア層7となっている。この第1導電型のバリア層7は、第1導電型がn型の場合にはホールバリア層として作用し、第1導電型がp型の場合には電子バリア層として作用する。
【0033】
本実施例の半導体装置は、さらに、IGBT領域100およびダイオード領域200のそれぞれにおいて、半導体基板1の表面から裏面方向に向かうように形成されたトレンチ20を有する。トレンチ20は、半導体基板1の表面から、ボディ層5を貫通して、バリア層7の上部までにわたって形成されている。
そして、IGBT領域100のトレンチ20の内側には、絶縁膜21と、その絶縁膜21の内側に形成されたゲート電極12が、設けられている。
また、ダイオード領域200のトレンチ20の内側には、絶縁膜21と、その絶縁膜21の内側に形成されたトレンチ内エミッタ電極13が、設けられている。
IGBT領域100の第1導電型のエミッタ層6は、トレンチ20の外側に接して、左右に形成されている。
【0034】
トレンチ10の内側のゲート電極12とエミッタ電極10とは、トレンチ20の上に形成された層間絶縁膜22によって、電気的に分離されている。
【0035】
ここで、
図1に示すような、IGBT領域100およびダイオード領域200を備えた半導体装置における、キャリアの移動について説明する。ここでは、上記の第1導電型がn型であり、第2導電型がp型であり、多数キャリアが電子であり、少数キャリアが正孔である構成として、説明を行う。
IGBT領域100の半導体基板1は、順方向の電流導通時には、伝導度変調効果によって少数キャリアである正孔が注入されて、キャリア(電子および正孔)が蓄積された状態になる。
電流導通状態から遮断状態へと変移するターンオフ動作の際には、IGBT領域100に蓄積されたキャリアのうち正孔が、IGBTセルのボディ層5を介してエミッタ電極10へ流れ込む。また、蓄積されていた正孔の一部は、ダイオード領域200側のボディ層5へも流れ込むため、ダイオード領域200近傍のIGBTセル内のボディ層5から排出される正孔が少なくなり、IGBTに内在する寄生サイリスタ構造(エミッタ層6/ボディ層5/半導体基板1とバッファ層4/コレクタ層2)のベース電流が減少する。
【0036】
ダイオード領域200近傍のIGBTセルは、寄生サイリスタ構造のラッチアップの原因となるベース電流が減少するので、逆バイアス安全動作領域(RBSOA)が向上する。
一方、ダイオード領域200から遠い位置にあるIGBT領域100の中心100Cの近傍(
図1の左端部)のIGBTセルでは、ダイオード領域200のボディ層5へ正孔の一部が流れる効果が得られない。そのため、IGBT領域100の中心100Cの近傍のIGBTセルでは、逆バイアス安全動作領域(RBSOA)が向上せず、破壊が集中する可能性がある。
【0037】
そこで、本実施例では、
図1に示すように、IGBT領域100の中心100C近傍のIGBTセル(即ち、IGBT領域100の中心部に配置されたIGBTセル)の半導体基板1内に、キャリアの寿命を短くした、低ライフタイム領域300を設けている。
低ライフタイム領域300は、半導体基板1の他の部分よりもキャリアの寿命を短くされており、これにより、キャリアである正孔や電子が短い時間で消失する特徴を有する。
この低ライフタイム領域300を形成することにより、キャリアの寿命が短くなるため、IGBT領域100に電流導通時に蓄積されるキャリアを減少させることができる。
蓄積されるキャリアが減少するので、ターンオフ動作でIGBT領域100中心近傍のIGBTセル内のボディ層5からエミッタ電極10へ流れるキャリアが減少し、寄生サイリスタのベース電流も減少する。これにより、IGBT領域100中心100C近傍における、ラッチアップ破壊を防止できる。
【0038】
なお、上記の第1導電型がp型であり、第2導電型がn型であり、多数キャリアが正孔であり、少数キャリアが電子である構成であっても、同様に、IGBT領域100の中心100C近傍の半導体基板1内に、低ライフタイム領域300を設けることができる。そして、低ライフタイム領域300を設けることにより、IGBT領域100中心100C近傍における、ラッチアップ破壊を防止できる。
【0039】
低ライフタイム領域300は、例えば、低ライフタイム領域300を形成する部分以外の裏面側にマスクを設けて、プロトン等の軽イオンを半導体基板1内に注入することにより、作製することができる。軽イオンを半導体基板1内に注入するので、注入された部分の半導体基板1は、格子欠陥が導入されてキャリアの寿命が短くなる。
【0040】
本実施例の半導体装置によれば、IGBT領域100の中心100C近傍のIGBTセルの半導体基板1内に、キャリアの寿命を短くした、低ライフタイム領域300を設けている。
低ライフタイム領域300によって、キャリアの寿命が短くなるため、IGBT領域100に電流導通時に蓄積されるキャリアを減少させることができる。
これにより、ターンオフ動作でIGBT領域100中心近傍のIGBTセル内のボディ層5からエミッタ電極10へ流れるキャリアが減少し、寄生サイリスタのベース電流も減少するので、IGBT領域100中心100C近傍でのラッチアップ破壊を防止できる。
【0041】
(実施例2)
次に、実施例2の半導体装置の構成について、
図2を参照して説明する。
図2は、実施例2の半導体装置の要部の拡大断面図である。なお、実施例1の
図1と同一の構成には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0042】
図2に示すように、本実施例の半導体装置は、
図1に示した実施例1と同様に、IGBT領域100の中心100C近傍のIGBTセルの半導体基板1内に、キャリアの寿命を短くした、低ライフタイム領域300を設けている。
【0043】
本実施例の半導体装置は、さらに、
図2に示すように、コレクタ層2を、IGBT領域100の中心100Cの近傍(即ち、IGBT領域100の中心部)では低濃度コレクタ層2aとし、IGBT領域100のそれ以外の部分では、高濃度コレクタ層2bを形成している。そして、高濃度コレクタ層2bは、実施例1のコレクタ層2と同じ不純物濃度であり、低濃度コレクタ層2aは、実施例1のコレクタ層2より低い不純物濃度である。
【0044】
本実施例の半導体装置によれば、IGBT領域100の中心100Cの近傍ではコレクタ層が低濃度コレクタ層2aとなっていることで、順方向の電流導通時における少数キャリアの注入量を減らすことが可能となる。
これにより、ターンオフ動作で、IGBT領域100の中心100Cの近傍のボディ層5へ排出される少数キャリア(例えば、正孔)が少なくなり、寄生サイリスタのベース電流が抑制され、更なるRBSOAの向上が可能となる。
【0045】
(実施例3)
次に、実施例3の半導体装置の構成について、
図3を参照して説明する。
図3は、実施例3の半導体装置の要部の拡大断面図である。なお、実施例1の
図1と同一の構成には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0046】
図3に示すように、本実施例の半導体装置は、
図1に示した実施例1と同様に、IGBT領域100の中心100C近傍のIGBTセル(即ち、IGBT領域100の中心部に配置されたIGBTセル)の半導体基板1内に、キャリアの寿命を短くした、低ライフタイム領域300を設けている。
【0047】
本実施例の半導体装置は、さらに、
図3に示すように、IGBT領域100の中心100C近傍のIGBTセル(即ち、IGBT領域100の中心部に配置されたIGBTセル)が、エミッタ層6がない構成としている。
IGBT領域100の中心100C近傍のIGBTセルでは、前述したようにRBSOAでの破壊リスクが高いが、エミッタ層6がないことで、寄生サイリスタ構造が形成されないため、ラッチアップ破壊が生じない。
【0048】
なお、IGBT領域100中心100Cよりもダイオード領域200に近い位置のIGBTセルは、
図1に示した実施例1と同様に、絶縁膜21に接して、ボディ層5に覆われているエミッタ層6が形成されている構成としている。
【0049】
本実施例の半導体装置によれば、IGBT領域100の中心100C近傍のIGBTセルが、エミッタ層6がない構成とされていることで、寄生サイリスタ構造が形成されないため、ラッチアップ破壊が生じない。これにより、更なるRBSOAの向上が可能となる。
【0050】
実施例3の変形例として、実施例3のエミッタ層6がない構成を、実施例2の低濃度コレクタ層2aを設けた構成と組み合わせることも可能である。
実施例2の低濃度コレクタ層2aを設けた構成と組み合わせることにより、更なるRBSOAの向上が可能となる。
【0051】
実施例3では、
図1に示した実施例1の半導体装置と同様に、IGBT領域100の中心100C近傍のIGBTセルの半導体基板1内に低ライフタイム領域300を設けた構成に、IGBTセルにエミッタ層6がない構成を組み合わせていた。
これに対して、実施例3の他の変形例として、低ライフタイム領域300を設けないで、IGBT領域100の中心100C近傍のIGBTセルにエミッタ層6がない構成とすることも可能である。そして、この構成によってもRBSOAの向上が可能となる。
また、この実施例3から低ライフタイム領域300を除いた構成に、実施例2の低濃度コレクタ層2aを設けた構成を組み合わせることも可能である。
【0052】
実施例3では、
図3に示したように、IGBT領域100の中心100C近傍のIGBTセルを、エミッタ層6がない構成としていた。
これに対して、IGBT領域100の中心100C近傍のIGBTセルにおいて、エミッタ層6を、IGBT領域100の他の部分のIGBTセルよりも少なくすることにより、RBSOAの向上を図ることも可能である。その場合を実施例4として、以下に説明する。
【0053】
(従来の構造)
ここで、実施例4の半導体装置の説明に先立ち、
図6~
図7を参照して、比較対照の従来の構造の半導体装置を説明する。
図6は、従来の逆導通IGBTを有する半導体装置の要部の拡大断面図である。
また、
図7は、
図6のX-X´における水平断面図(
図6のX-X´における水平面を上から見た図)である。
【0054】
図6に示す従来の構造は、
図1に示した実施例1の構造から、低ライフタイム領域300を除いたものである。
図7に示すように、IGBT領域100において、第1導電型のエミッタ層6が、一定数設けられている。即ち、
図6のIGBT領域100の中心100C近傍のIGBTセルでも、IGBT領域100のダイオード領域200との境界近傍のIGBTセルでも、同じ構造であり、エミッタ層6の数は同じである。
【0055】
この
図6~
図7に示す従来の構造は、
図1に示した低ライフタイム領域300が形成されていないので、IGBT領域100の中心100C近傍のIGBTセルでは、電流導通時に半導体基板1に蓄積されたキャリアが、ターンオフ時に抜けにくい。また、IGBT領域100の中心100C近傍のIGBTセルでは、IGBTに内在する寄生サイリスタ構造(エミッタ層6/ボディ層5/半導体基板1とバッファ層4/コレクタ層2)のベース電流が、ラッチアップの原因となる。
このため、
図6~
図7に示す従来の構造は、IGBT領域100の中心100C近傍のIGBTセルにおいて、逆バイアス安全動作領域(RBSOA)が向上せず、破壊が集中する可能性がある。
【0056】
(実施例4)
次に、実施例4の半導体装置の構成について、
図4~
図5を参照して説明する。
図4は、実施例4の半導体装置の要部の拡大断面図である。
図4の拡大断面図は、実施例1の
図1の拡大断面図と同様の構造となっている。
また、
図5は、
図4のX-X´における水平断面図(
図4のX-X´における水平面を上から見た図)である。
なお、実施例1の
図1と同一の構成には同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0057】
図4に示すように、本実施例の半導体装置は、
図1に示した実施例1と同様に、IGBT領域100の中心100C近傍のIGBTセル(即ち、IGBT領域100の中心部に配置されたIGBTセル)の半導体基板1内に、キャリアの寿命を短くした、低ライフタイム領域300を設けている。
【0058】
本実施例の半導体装置は、さらに、
図5に示すように、IGBT領域100の中心100C近傍のIGBTセル(即ち、IGBT領域100の中心部に配置されたIGBTセル)が、IGBT領域100の他の部分のIGBTセルと比較して、エミッタ層6の数が少ない構成としている。
図5では、IGBT領域100の中心100C近傍のIGBTセルにおいて、
図5の上下方向のエミッタ層6の間隔を長くすることにより、エミッタ層6の数を、IGBT領域100の他の部分のIGBTセルの2/3に減らしている。
なお、IGBT領域100の中心100C近傍のIGBTセルと、IGBT領域100の他の部分のIGBTセルにおける、エミッタ層6の比率は、
図5に示した2:3に限定されず、他の言立とすることも可能である。
【0059】
本実施例の半導体装置によれば、IGBT領域100の中心100C近傍のIGBTセルが、IGBT領域100の他の部分のIGBTセルよりも、エミッタ層6が少ない構成とされていることで、寄生サイリスタ構造が形成されにくくなり、ラッチアップ破壊を抑制することができる。
これにより、
図4に示した低ライフタイム領域300と併せて、更なるRBSOAの向上が可能となる。
【0060】
実施例4の変形例として、実施例4のエミッタ層6が少ない構成を、実施例2の低濃度コレクタ層2aを設けた構成と組み合わせることも可能である。
実施例2の低濃度コレクタ層2aを設けた構成と組み合わせることにより、更なるRBSOAの向上が可能となる。
【0061】
なお、本発明は、上述した実施の形態および実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した各実施の形態および実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
1 半導体基板、2 コレクタ層、2a 低濃度コレクタ層、2b 高濃度コレクタ層、3 カソード層、4 バッファ層、5 ボディ層、6 エミッタ層、7 バリア層、10 エミッタ電極、11 コレクタ電極、12 ゲート電極、13 トレンチ内エミッタ電極、20 トレンチ、21 絶縁膜、22 層間絶縁膜、100 IGBT領域、100C IGBT領域の中心、200 ダイオード領域、300 低ライフタイム領域