(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157088
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】固定構造
(51)【国際特許分類】
H02K 3/46 20060101AFI20241030BHJP
H02K 1/04 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
H02K3/46 B
H02K1/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071196
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】309021489
【氏名又は名称】日本エレベーター製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003982
【氏名又は名称】弁理士法人来知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 大吾
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【弁理士】
【氏名又は名称】宇高 克己
(72)【発明者】
【氏名】井澤 泰之
(72)【発明者】
【氏名】園部 太祐
(72)【発明者】
【氏名】陸野 洋行
【テーマコード(参考)】
5H601
5H604
【Fターム(参考)】
5H601AA08
5H601GA40
5H601GC33
5H601GC38
5H601JJ07
5H604AA05
5H604CC01
5H604CC05
5H604QA01
5H604QA08
(57)【要約】
【課題】ティースにボビンを簡便に装着できるとともに、ティースとボビンとを確実に一体化できる技術を提供する。
【解決手段】固定構造30はロータ2とステータ3とからなる巻上機用モータに用いられる。固定構造30は、ステータに設けられるティース10にボビン20を装着し固定する。固定構造30は、ティース10の回転軸直交方向端面に設けられる爪13と、ボビン20の中空背面25であって爪13と対応する位置に設けられた溝23とからなる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータとロータとからなる巻上機用モータに用いられ、
前記ステータに設けられるティースと前記ティースに装着されるボビンとの固定構造であって、
前記ティースの回転軸直交方向端面に設けられる爪と、
前記ボビンの中空背面であって前記爪と対応する位置に設けられた溝と
からなることを特徴とする固定構造。
【請求項2】
前記ティースは回転軸方向に積層される複数の鋼鈑から形成され、
前記爪は端部鋼鈑面を一部切欠くとともにティース先端側に非切欠部を設けることにより形成される
ことを特徴とする請求項1記載の固定構造。
【請求項3】
前記非切欠け部は片持ち板バネの支点として機能する
ことを特徴とする請求項2記載の固定構造。
【請求項4】
前記溝は前記爪に対応する端面を有する
ことを特徴とする請求項1記載の固定構造。
【請求項5】
前記ボビンは回転軸直交方向端に分割され、ボビン半体とボビン別半体とからなる
ことを特徴とする請求項1記載の固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人や貨物を昇降移動せしめるエレベータの巻上機用モータに関するものであり、特にティースとボビンとの固定構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレベータは、巻上機用モータを駆動し、ケーブルを介してケージを昇降移動せしめる。巻上機用モータは、軸とロータとステータとからなる。巻上機用モータには内転型モータと外転型モータがある。
【0003】
内転型モータは、ステータに包含されるロータが軸回りに回転する。外転型モータは、ステータの外側に配置されたロータが軸回りに回転する。
【0004】
内転型モータにおいても外転型モータにおいても、ステータは環状に形成されている。
【0005】
内転型モータでは、ステータの内周に複数のティースが設けられる。ティースは内周面から突出している。外転型モータでは、ステータの外周に複数のティースが設けられる。ティースは外周面から突出している。
【0006】
絶縁材(例えば樹脂)であるボビンはティース外形に対応する内空を有する。これによりティースにはボビンが装着される。ボビンには電線が巻き回されコイルを形成する。
【0007】
内転型モータでは、ロータの外周面に永久磁石が設けられる。外転型モータでは、ロータの内周面に永久磁石が設けられる。永久磁石とステータの間には隙間が確保されている。
【0008】
コイルに電力を供給すると、コイルに磁力が発生し、永久磁石が吸引・反発し、ロータが回転する。
【0009】
ティースにボビンを装着した状態でコイルを形成してもよいが、作業性の観点から、一般に、コイルが形成された状態のボビンをティースに装着する。
【0010】
このとき、ティースにボビンを簡便に装着するとともに、ティースとボビンが確実に一体化されることが重要である。特に、モータ回転に伴い予期せぬ振動が発生するおそれがあり、ティースとボビンの一体化は重要である。
【0011】
例えば、特許文献1には、ステータの固定ボルトを利用したティースとボビンとの固定構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1記載の固定構造は外転型モータに限定され、内転型モータには適用できない。また、特許文献1記載の固定構造は、一のボビンに設けられた樹脂製の爪と隣のボビンに設けられた樹脂製の腕の契合によるものであり、強い力が作用すると樹脂が割れるおそれもある。固定構造が壊れると、ボビンがティースから抜けるおそれがある。
【0014】
一方、内転型モータにおける固定構造では、隣り合うボビンの先端の間に楔を挿入し、隣り合うボビンが抜け出さないよう工夫している例もある。
【0015】
しかしながら、当該固定構造では、楔挿入相当分だけ電線が巻けず、巻き数が減る分、結果としてモータ出力が減る。
【0016】
また、ボビンに楔受けを設ける必要があり、強い力が作用すると当該箇所の樹脂が割れるおそれもある。固定構造が壊れると、ボビンがティースから抜けるおそれがある。
【0017】
本発明は、上記課題を解決するためものであり、ティースにボビンを簡便に装着できるとともに、ティースとボビンとを確実に一体化できる技術を提供することを目的とする。
【0018】
外転型モータであっても内転型モータであっても、隣り合うボビン間の相互干渉による固定構造では、一の固定構造に不具合が発生する場合、隣の固定構造にも影響するおそれもある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係る固定構造はステータとロータとからなる巻上機用モータに用いられる。本発明は、前記ステータに設けられるティースと前記ティースに装着されるボビンとの固定構造である。前記ティースの回転軸直交方向端面に設けられる爪と、前記ボビンの中空背面であって前記爪と対応する位置に設けられた溝とからなる。
【0020】
これにより、ティースにボビンを簡便に装着できる。また、ティースとボビンとを確実に一体化できる。
【0021】
上記発明において好ましくは、前記ティースは回転軸方向に積層される複数の鋼鈑から形成される。前記爪は端部鋼鈑面を一部切欠くとともにティース先端側に非切欠部を設けることにより形成される。
【0022】
これにより、加工容易となる。また耐久性にも優れる。
【0023】
上記発明において好ましくは、前記非切欠け部は片持ち板バネの支点として機能する。
【0024】
これにより、ティースにボビンを抵抗なく装着できる。また、板バネによる振動吸収を期待できる。
【0025】
上記発明において好ましくは、前記溝は前記爪に対応する端面を有する。
【0026】
これにより、ボビンが抜ける方向に力が作用するとき、爪が端面に当接し、抜けを阻害する。
【0027】
上記発明において好ましくは、前記ボビンは回転軸直交方向端に分割され、ボビン半体とボビン別半体とからなる。
【0028】
これにより、ティース厚さ調整に対応して、ボビン高さを調整できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の固定構造によれば、ティースにボビンを簡便に装着できる。
【0030】
本発明に固定構造よれば、ティースとボビンとを確実に一体化できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【発明を実施するための形態】
【0032】
~基本的構成~
図1は本願固定構造が適用される巻上機用モータの概念図である。分解斜視図とする。巻上機用モータには内転型モータと外転型モータがある。本願固定構造は、内転型モータ、外転型モータとも適用可能であるが、説明の簡便化のため、内転型モータを例にする。
【0033】
内転型モータは、軸1と、ロータ2と、ステータ3とを備える。ステータ3に包含されるロータ2が軸1回りに回転する。内転型モータはモータ箱5内に設けられる。
【0034】
ロータ2が軸1に連設されている。ロータ2の外周面に永久磁石4が設けられる。ロータ2とステータ3の間には隙間が確保されている。この隙間において磁力の反発が発生する。
【0035】
図2はステータ3の一部構成図である。ステータ3は環状に形成されている。ステータ3の内周面から突出するように複数のティース10が設けられる。
【0036】
ティース10にはボビン20が装着される。ボビン20は絶縁材(例えば樹脂)により形成される。ボビン20は内空を有する(筒状である)。ボビン20内空形状はティース10外形に対応する。ティース10およびボビン20は略矩形である。ボビン20には電線27が巻き回されコイルを形成する。ボビン20により、コイル27とティース10は絶縁されている。
【0037】
本願はティース10とボビン20との固定構造30に関する。なお、図示の例では、説明の便宜のため、ボビン20が装着されていないティース10も記載しているが、原則として全てのティース10にボビン20が装着される。
~特徴的構成~
【0038】
図3はステータ3を形成する鋼板の構成図である。ステータ3は複数の鋼板を回転軸方向に積層し溶接・接着することにより構成される。鋼板の環状部11にはボルト孔が設けられている。ボルト孔にボルトを挿通しモータ箱5に固定する。
【0039】
鋼板は基本形状である環状部11とティース10相当のティース部12とから形成される。環状部11の内周から複数のティース部12が延設されている。
【0040】
複数の鋼板のうちステータ両端部となる鋼板には、爪13が形成される。鋼板ティース部12面において、ティース先端側に非切欠部14を残して、3方向(略コの字形状)の切欠部15を設ける。これにより爪13相当の形状が形成される。さらに、非切欠部14を片持ち板バネの支点として、爪13を起こす。爪13は片持ち板バネとして機能する。
【0041】
なお、反対側ステータ端面に相当する鋼板にも爪13が形成される。反対側爪が起きる方向は図示と反転している。
【0042】
図4は固定前の固定構造30の動作説明図である。ボビン20の部分断面斜視図を記載している。ボビン20の詳細構成についても図示する。
【0043】
ボビン20は略矩形の筒状である。ボビン外周面に電線27が巻き回される。ボビン外周面22の背面に溝23が設けられている。具体的には背面25と溝面23は段差になっており、背面25と溝面23の間には略垂直方向に妻面24が形成される。
【0044】
本願固定構造30は爪13と溝23とから構成される。
【0045】
~装着動作~
本願固定構造30の装着動作について説明する。
【0046】
鋼板ティース部12面において爪13が起こされ、爪13は非切欠部14を起点として鋼板ティース部12面に対して緩やかな傾斜を形成する。また、爪13は片持ち板バネとして機能する。
【0047】
鋼板ティース部12面とボビン背面25は略対応(接するか接するに準ずる程度の隙間を有する)するように設計されている。
【0048】
ボビン20を装着方向に押し込むと、ボビン背面25と爪13の傾斜が当接する。押し込み量に応じて、板バネは押され、傾斜が緩くなる。
【0049】
所定量押し込まれると、爪13端部とボビン背面25の当接状態が解除され、溝23内において押されていた板バネが戻る。
【0050】
このとき爪13端部が溝面23に当接していてもよい。
【0051】
ボビン20の装着方向長さはティース10の半径方向長さにほぼ対応する。すなわち所定量以上に押し込まれることはない。
【0052】
これにより、本願固定構造30の装着動作は完了する。ティース10にボビン20を簡便に装着できる。
~固定動作~
【0053】
図5は、固定状態の固定構造30の構成図である。溝23内において板バネの縮みは戻り、爪13は起きた状態にある。
【0054】
ボビン20に装着方向と反対(抜去方向)の力が作用する場合、爪13端部が妻面24に当接する。これによりボビン20のティース10からの抜けを阻害する。
【0055】
なお、ボビン20は所定量以上に押し込まれることはない。固定構造30により、ティース10とボビン20とを確実に一体化できる。
【0056】
したがって、ステータ3が一体化している限り、ティース10とボビン20との一体化が解除されることはない。
【0057】
~効果~
固定構造30によれば、ティース10にボビン20を簡便に装着できる。ボビン20をティース10に沿って押し込むと、板バネ作用により半自動的に装着できる。
【0058】
固定構造30よれば、ティース10とボビン20とを確実に一体化できる。モータ回転に伴い振動が発生しても、板バネが振動を吸収できる。
【0059】
一般に鋼板加工より、樹脂加工の方が容易であるものの、本願においては薄い鋼板に切り欠けを設けるだけの加工であり、加工の困難性はほぼない。
【0060】
ボビン20側は溝23を設けるが、シンプルな形状であり、剛性を維持でき、樹脂が割れるおそれも少ない。その結果、固定構造30は全て樹脂で構成する場合と比べて、耐久性に優れている。
【0061】
固定構造30は、鋼板ティース部12面とボビン背面25との間で形成される。隣のボビンとは縁が切れている。仮に、一の固定構造に不具合が発生する場合でも隣の固定構造に影響するおそれはない。
【0062】
固定構造30は、鋼板ティース部12面とボビン背面25との間で形成される。ティース10やボビン20の先端や根本を加工することはない。その結果、ティース10の半径方向長さを十分に利用でき、より多くの電線27を巻き回すことができ、充分なモータ出力を得られる。
【0063】
同程度のモータ出力同士と仮定して比較すれば、本願ではコイル面積が大きくなり、電流密度が下がり、その結果、発熱を抑制できる。
【0064】
~詳細構造~
図6は、ボビン20の詳細構成図である。ボビン20を一体成型してもよいが、回転軸直交方向端に分割され、2つのボビン半体21,26から形成されていてもよい。
【0065】
ティース10の高さ(回転軸方向幅)は鋼板積層枚数により調整可能である。これに対応して、ボビン半体21,26のラップ長を調整する。
【0066】
コイルサイズを調整することにより、モータ出力を調整できる。
【0067】
本願固定構造30は、ボビン半体21,26からなるボビン20にも対応できる。
【符号の説明】
【0068】
1 軸
2 ロータ
3 ステータ
4 永久磁石
5 モータ箱
10 ティース
11 鋼板環状部
12 鋼板ティース部
13 爪
14 非切欠部
15 切欠部
20 ボビン
21 ボビン半体
22 ボビン外面
23 溝
24 妻面
25 ボビン背面
26 ボビン半体
27 コイル
30 固定構造