(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157089
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】多軸機構の位置決め装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B25J 9/10 20060101AFI20241030BHJP
A61N 5/10 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
B25J9/10 A
A61N5/10 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071197
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】景澤 怜央
(72)【発明者】
【氏名】杉本 健
(72)【発明者】
【氏名】久保 智美
【テーマコード(参考)】
3C707
4C082
【Fターム(参考)】
3C707AS35
3C707BS09
3C707KS17
3C707KS33
3C707KV06
3C707LV19
3C707LW08
3C707LW12
4C082AL06
(57)【要約】
【課題】エンドエフェクタの位置の高精度な位置決めがあらゆる姿勢において達成され、調整作業も効率的に行える多軸機構の位置決め技術を提供する。
【解決手段】多軸機構20の位置決め装置10は、駆動ジョイント21
n(n=1~N)を介して結合した複数のリンク22
n(n=1~N)の先端に設けられたエンドエフェクタ23のポジション目標値18を取得する第1取得部11と、ポジション目標値18にエンドエフェクタ23を位置決めする駆動ジョイント21
n(n=1~N)の各々の制御量25
n(n=1~N)をリンクパラメータ13に基づき演算する演算部15と、位置決めされたエンドエフェクタ23のポジション計測値27を取得する第2取得部12と、ポジション計測値27がポジション目標値18に一致するようにリンクパラメータ13を更新する更新部16と、を備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動ジョイントを介して結合した複数のリンクの先端に設けられたエンドエフェクタのポジション目標値を取得する第1取得部と、
前記ポジション目標値に前記エンドエフェクタを位置決めする前記駆動ジョイントの各々の制御量をリンクパラメータに基づき演算する演算部と、
位置決めされた前記エンドエフェクタのポジション計測値を取得する第2取得部と、
前記ポジション計測値が前記ポジション目標値に一致するように前記リンクパラメータを更新する更新部と、を備える多軸機構の位置決め装置。
【請求項2】
請求項1に記載の多軸機構の位置決め装置において、
前記更新部は、異なる複数の前記ポジション目標値の各々に対応する複数の前記リンクパラメータを登録させ、
前記演算部は、取得した前記ポジション目標値に対応する前記リンクパラメータに基づき前記制御量を演算する、多軸機構の位置決め装置。
【請求項3】
請求項1に記載の多軸機構の位置決め装置において、
前記更新部は、前記ポジション目標値と対応する前記リンクパラメータとの関係を学習し、入力した前記ポジション目標値に対応する前記リンクパラメータに更新する、多軸機構の位置決め装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の多軸機構の位置決め装置において、
前記更新部は、複数の前記リンクの各々にかかる荷重値にも基づいて前記リンクパラメータを更新する多軸機構の位置決め装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の多軸機構の位置決め装置において、
前記更新部は、複数の前記リンクがとる姿勢にも基づいて前記リンクパラメータを更新する多軸機構の位置決め装置。
【請求項6】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の多軸機構の位置決め装置において、
前記更新部は、外的要因により生じた前記ポジション計測値のずれ量にも基づいて前記リンクパラメータを更新する多軸機構の位置決め装置。
【請求項7】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の多軸機構の位置決め装置において、
前記ポジション計測値は、前記エンドエフェクタに支持させた対象物をX線撮影したものである多軸機構の位置決め装置。
【請求項8】
駆動ジョイントを介して結合した複数のリンクの先端に設けられたエンドエフェクタのポジション目標値を取得するステップと、
前記ポジション目標値に前記エンドエフェクタを位置決めする前記駆動ジョイントの各々の制御量をリンクパラメータに基づき演算するステップと、
位置決めされた前記エンドエフェクタのポジション計測値を取得するステップと、
前記ポジション計測値が前記ポジション目標値に一致するように前記リンクパラメータを更新するステップと、を含む多軸機構の位置決め方法。
【請求項9】
コンピュータに、
駆動ジョイントを介して結合した複数のリンクの先端に設けられたエンドエフェクタのポジション目標値を取得するステップ、
前記ポジション目標値に前記エンドエフェクタを位置決めする前記駆動ジョイントの各々の制御量をリンクパラメータに基づき演算するステップ、
位置決めされた前記エンドエフェクタのポジション計測値を取得するステップ、
前記ポジション計測値が前記ポジション目標値に一致するように前記リンクパラメータを更新するステップ、を実行させる多軸機構の位置決めプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エンドエフェクタを持つ多軸機構の位置決め技術に関する。
【背景技術】
【0002】
多軸機構(ロボットアーム等)のエンドエフェクタの位置決めでは、駆動ジョイント(モータ等)を介して結合するリンクの関係を表したリンクパラメータと、各々の駆動ジョイントの変位(回転角)とを用い、順運動学に基づく演算処理がなされる。
【0003】
ところで、エンドエフェクタを高精度に位置決めするためには、エンドエフェクタの位置を直接検出し、フィードバック制御することが考えられる。しかし、そのようなエンドエフェクタの位置検出が困難な場合は、リンクパラメータを高精度に決定し、オープン制御にする必要がある。このように、エンドエフェクタの位置の高精度な位置決めを達成するため、種々の制御方法が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-174453号公報
【特許文献2】特開2020-39893号公報
【特許文献3】特表2020-534051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、多軸機構の姿勢変化に伴って自重の重心が大きく変化する場合、単一のリンクパラメータでは、たわみ量の変化分がエンドエフェクタの位置決め誤差となる。そこで、代表姿勢ごとに設定した複数のリンクパラメータを切り替える方法が検討される。しかし、別々の代表姿勢の中間を示す中間姿勢においては、適切なリンクパラメータが見当たらず、精度が十分に確保できない場合がある。
【0006】
また画像によりエンドエフェクタの位置を把握し位置合わせする制御方法では、常に画像監視による位置合わせが実行される。このため、過去に行った同一の動作を反復する場合でも、ずれ量の修正動作が毎回発生するため、動作時間の短縮が望めず仕事が非効率になる。
【0007】
さらに、地震等の外的要因で機器に物理的な変形やずれが突発的に生じた場合、ユーザが可能な範囲で調整するが、作業時間の制約のため調整時以外の姿勢で位置精度が保証されない。位置決めに要する時間の増加も懸念される。
【0008】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、エンドエフェクタの位置の高精度な位置決めがあらゆる姿勢において達成され、調整作業も効率的に行える多軸機構の位置決め技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態に係る多軸機構の位置決め装置は、駆動ジョイントを介して結合した複数のリンクの先端に設けられたエンドエフェクタのポジション目標値を取得する第1取得部と、前記ポジション目標値に前記エンドエフェクタを位置決めする前記駆動ジョイントの各々の制御量をリンクパラメータに基づき演算する演算部と、位置決めされた前記エンドエフェクタのポジション計測値を取得する第2取得部と、前記ポジション計測値が前記ポジション目標値に一致するように前記リンクパラメータを更新する更新部と、を備えている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態により、エンドエフェクタの位置の高精度な位置決めがあらゆる姿勢において達成され、調整作業も効率的に行える多軸機構の位置決め技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る多軸機構の位置決め装置のブロック図である。
【
図2】第2実施形態に係る多軸機構の位置決め装置のブロック図である。
【
図3】第3実施形態に係る多軸機構の位置決め装置のブロック図である。
【
図4】第4実施形態に係る多軸機構の位置決め装置のブロック図である。
【
図5】連結したリンクにより多軸機構がとる姿勢のパターンを示す図。
【
図6】リンクパラメータに、荷重値、リンクの姿勢、ずれ量といった各種条件を紐づけたデータセット。
【
図7】(A)外的要因が付与される前に、ポジション計測値及びポジション目標値から把握させるエンドエフェクタの位置に生じたずれ量を示すグラフ、(B)外的要因が付与された後に、ポジション計測値及びポジション目標値から把握させるエンドエフェクタの位置に生じたずれ量を示すグラフ。
【
図8】実施形態に係る多軸機構の位置決め方法の工程及び多軸機構の位置決めプログラムのアルゴリズムを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係る多軸機構20の位置決め装置10A(10)(以下、単に「装置10A」という)のブロック図である。ここで多軸機構20は、駆動ジョイント21
n(n=1~N;nは自然数)を介して結合した複数のリンク22
n(n=1~N)の先端にエンドエフェクタ23が設けられている。
【0013】
実施形態に示す多軸機構20は、患者の任意位置の病巣に放射線の照準を合わせる放射線治療用の治療台を例示している。ここで、エンドエフェクタ23は、患者を横臥させるベッドであり、7軸(N=7)の多関節リンク構造の先端に支持されている。なお多軸機構20のエンドエフェクタ23は、このような治療台に限定されることはなく、工作ツールを採用することもできる。また駆動ジョイント21nは、全てモータ等の回転体(回動体)で構成されたものを例示しているが、その全て又は一部が直動体で構成される場合もある。
【0014】
そして装置10Aは、駆動ジョイント21n(n=1~N)を介して結合した複数のリンク22n(n=1~N)の先端に設けられたエンドエフェクタ23のポジション目標値18を取得する第1取得部11と、ポジション目標値18にエンドエフェクタ23を位置決めする駆動ジョイント21n(n=1~N)の各々の制御量25n(n=1~N)をリンクパラメータ13に基づき演算する演算部15と、位置決めされたエンドエフェクタ23のポジション計測値27を取得する第2取得部12と、ポジション計測値27がポジション目標値18に一致するようにリンクパラメータ13を更新する更新部16と、を備えている。
【0015】
ポジション目標値18及びポジション計測値27は、共に、エンドエフェクタ23の位置及び姿勢を、多軸機構20が配置される三次元空間を定義したグローバル座標系で規定したものである。一方において、一端の駆動ジョイント21nを原点としたリンク22nを基準に複数のローカル座標系が定義される。そして、各々のローカル座標系で規定されたリンク22nの他端における駆動ジョイント21n+1の制御量25n+1が設定される。
【0016】
そして、設定した制御量25n(n=1~N)に基づいて駆動部26n(n=1~N)を動作させ、駆動ジョイント21n(n=1~N)に変位量φn(n=1~N)を与える。これにより、リンク22nで規定したローカル座標系においてリンク22n+1を、さらにリンク22Nで規定したローカル座標系においてエンドエフェクタ23を、表すことができる。そして、相互連結するリンク22n(n=1~N)及びエンドエフェクタ23の位置及び姿勢は、複数のローカル座標系からグローバル座標系に変換して表すことができる。
【0017】
エンドエフェクタ23のポジション目標値18は、上位制御系17から提供される情報である。このエンドエフェクタ23が放射線治療用の治療台である場合、放射線照射に先立って策定された治療計画に基づいてポジション目標値18が決定されている。この治療計画では、X線CT撮影を行い患者体内の三次元像のデータを取得し、病巣範囲を三次元的に把握し、正常組織への照射が少なくなるよう、放射線の照射方向や照射強度が決定される。そして、治療計画で導いた患者の病巣に放射線の照準が合わされ、エンドエフェクタ23(治療台)に横臥させた患者の病巣がポジション目標値18に決定される。そして、このポジション目標値18は、第1取得部11に取得される。
【0018】
リンクパラメータ13は、駆動ジョイント21n(n=1~N)の制御量25n(n=1~N)とグローバル座標系におけるエンドエフェクタ23の位置及び姿勢との関係を運動学に基づき表した数式に含まれている。つまり、第1取得部11でポジション目標値18が取得されると、エンドエフェクタ23がこのポジション目標値18に位置決めされるよう、演算部15は、リンクパラメータ13に基づいて駆動ジョイント21n(n=1~N)の各々の制御量25n(n=1~N)を演算する。
【0019】
ここで駆動ジョイント21n及びリンク22nが剛体である理想状態を想定する。この場合、エンドエフェクタ23への荷重に対し駆動ジョイント21n及びリンク22nは変形しないため、第2取得部12で取得されるエンドエフェクタ23のポジション計測値27はポジション目標値18に一致する。このような理想状態のリンクパラメータ13は、運動学に基づいて理論計算され、初期値14として予め登録されている。
【0020】
しかし、現実には、駆動ジョイント21n及びリンク22nの自重やエンドエフェクタ23に載置される物体の重量により、多軸機構20が撓む。このため、理論計算で得たリンクパラメータ13の初期値14では、ポジション計測値27とポジション目標値18は一致しない。
【0021】
そこで、各種センサで構成される計測系28により、グローバル座標系に設定されたエンドエフェクタ23の実際の位置及び姿勢を表すポジション計測値27を実測する。そして更新部16は、第2取得部12で取得したポジション計測値27が第1取得部11で取得したポジション目標値18に一致するようにリンクパラメータ13を更新する。
【0022】
このように更新されたリンクパラメータ13に基づいて演算部15で演算した制御量25n(n=1~N)によれば、ポジション計測値27をポジション目標値18に一致させることができる。このため、一度、リンクパラメータ13を適切に更新すれば、荷重で撓むリンク22n(n=1~N)の先端に支持されたエンドエフェクタ23を、その後繰り返してポジション目標値18に高精度で位置決めできる。これにより、位置決めのための修正動作が不要になり、動作時間を短縮してエンドエフェクタ23をを高精度で位置決めできる。
【0023】
ところで、多軸機構20が荷重(自重)で撓むレベルは、ポジション目標値18に依存すると考えられる。このため、ポジション目標値18に依存して最適なリンクパラメータ13も変化する。そこで、装置10Aの更新部16は、グローバル座標系の異なる位置に対応して、ポジション計測値27及びポジション目標値18を互いに一致させる複数のリンクパラメータ13を登録させている。
【0024】
そして演算部15は、第1取得部11で取得したポジション目標値18に対応するリンクパラメータ13に基づき制御量25n(n=1~N)を演算する。これにより、ポジション目標値18に依存することなくエンドエフェクタ23を、高精度で繰り返し位置決めできる。
【0025】
(第2実施形態)
次に
図2を参照して本発明における第2実施形態について説明する。
図2は第2実施形態に係る多軸機構の位置決め装置10B(10)(以下、単に「装置10B」という)のブロック図である。第2実施形態の装置10Bは、上述した第1実施形態の装置10Aに対し、更新部16は、ポジション計測値27と対応するリンクパラメータ13との関係を学習する機械学習器36を有している。そして、この機械学習器36で生成された学習モデル37にポジション目標値18を入力することで、対応するリンクパラメータ13に更新される。なお、
図2において
図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0026】
このような学習モデル37により、ポジション目標値18が連続的に細かく設定されても、最適なリンクパラメータ13に更新できる。これにより、小刻みにポジション目標値18を設定しても、エンドエフェクタ23を高精度で位置決めできる。
【0027】
(第3実施形態)
次に
図3を参照して本発明における第3実施形態について説明する。
図3は第3実施形態に係る多軸機構の位置決め装置10C(10)(以下、単に「装置10C」という)のブロック図である。第3実施形態の装置10Cは、上述した第1実施形態の装置10Aに対し、更新部16が、複数のリンク22
n(n=1~N)の各々にかかる荷重値31にも基づいてリンクパラメータ13を更新する機能を持つ。なお、
図3において
図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0028】
この荷重値31は、駆動ジョイント21n(n=1~N)又はリンク22n(n=1~N)に設けられているセンサ検出系32から出力されるものである。そのようなセンサ検出系32としては、リンク22nに設けられた歪センサやロードセルが挙げられる。また駆動ジョイント21nの回転角とその他端におけるリンク22nの回転角との差分からリンク22nのねじれ量が判り、荷重値31を把握することもできる。なお荷重値31は、センサ検出系32から取得される場合の他に、オペレータに入力させる場合もある。
【0029】
このように付加される荷重値31に依存して多軸機構20の撓みレベルは変化する。このため、駆動ジョイント21n(n=1~N)又はリンク22n(n=1~N)に付加される荷重値31に対応させてリンクパラメータ13を最適化することで、ポジション目標値18に対し、エンドエフェクタ23を高精度で位置決めすることができる。
【0030】
図5は連結したリンク22
n(n=1~N)により多軸機構20がとる姿勢のパターンを示す図である。第3実施形態の装置10Cでは、更新部16が、複数のリンク22
n(n=1~N)がとる姿勢にも基づいてリンクパラメータ13を更新する機能を持つ。多軸機構20がとる姿勢のパターンは、駆動ジョイント21
n(n=1~N)の各々の制御量25
n(n=1~N)の組み合わせによって分類される。このように多軸機構20がとる姿勢のパターンに依存して多軸機構20の撓みレベルは変化する。このため、そのような姿勢のパターンに対応させてリンクパラメータ13を最適化することで、ポジション目標値18に対し、エンドエフェクタ23を高精度で位置決めすることができる。
【0031】
(第4実施形態)
次に
図4を参照して本発明における第4実施形態について説明する。
図4は第4実施形態に係る多軸機構20の位置決め装置10D(10)(以下、単に「装置10D」という)のブロック図である。第4実施形態の装置10Dは、上述した第1実施形態の装置10Aに対し、更新部16が、外的要因により生じたポジション計測値27のずれ量35にも基づいてリンクパラメータ13を更新する機能を持つ。なお、
図4において
図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0032】
図7(A)は、外的要因が付与される前に、ポジション計測値27及びポジション目標値18から把握させるエンドエフェクタ23の位置に生じたずれ量を示すグラフである。
図7(B)は外的要因が付与された後に、ポジション計測値27及びポジション目標値18から把握させるエンドエフェクタ23の位置に生じたずれ量を示すグラフである。このように地震や事故等といった外的要因が付与され多軸機構20の組み立てにずれ量35が発生した場合、エンドエフェクタ23の位置決めの精度が低下する(
図7(B)のP以降)。
【0033】
そこで、多軸機構20を初期化したときの基本姿勢において、外的要因の付与前後で生じたエンドエフェクタ23のずれ量35を取得する。このずれ量35は、外的要因の付与前に計測系28で取得したポジション計測値27と、外的要因の付与後に計測系28で取得したポジション計測値27との差分から求める。更新部16では、このずれ量35に基づいてリンクパラメータ13を更新し、これによりエンドエフェクタ23の位置決めの精度が回復する(
図7(B)のQ以降)。これにより、外的要因により多軸機構20の組み立てにずれ量35が発生した場合であっても、このずれ量35に基づいてリンクパラメータ13を更新すれば良く、調整の自動化および調整時間の短縮が可能となる。
【0034】
図6はリンクパラメータ13に荷重値31、リンクの姿勢(
図5)、ずれ量35といった各種条件を紐づけたデータセットである。このデータセットは、複数の条件で更新されたリンクパラメータ13をこれら条件に紐付けて登録したものである。このように、リンクパラメータ13が管理されることで、各種条件を入力することで最適のリンクパラメータ13を選択することができる。これにより、各種条件の組み合わせに対応して最適なリンクパラメータ13が設定されていることで、ポジション目標値18に対し、エンドエフェクタ23を高精度で位置決めすることができる。
【0035】
各実施形態における多軸機構20の位置決め装置10(10A,10B,10C,10D)において、ポジション計測値27は、エンドエフェクタ23に支持させた対象物をX線撮影したものとすることができる。この場合、ポジション目標値18は、放射線照射の治療計画で、放射線の照準を合わせた位置データとなる。これにより、放射線治療による放射線の照射位置と患部の位置とのずれを、リンクパラメータ13を更新することで解消させることができ、照射精度を向上させることができる。
【0036】
図8のフローチャートに基づいて実施形態に係る多軸機構の位置決め方法の工程及び多軸機構の位置決めプログラムのアルゴリズムを説明する(適宜、
図1参照)。まず、上位制御系17からエンドエフェクタ23のポジション目標値18を取得する(S11)。そして、取得したポジション目標値18に対応するリンクパラメータ13を、登録されているものの中から選択する(S12)。なお、対応するリンクパラメータ13が無い場合は初期値14を選択する。
【0037】
次に、選択したリンクパラメータ13に基づいて、エンドエフェクタ23をポジション目標値18に位置決めするのに必要な駆動ジョイント21n(n=1~N)の各々の制御量25n(n=1~N)を演算する(S13)。そして、演算された制御量25n(n=1~N)にしたがってエンドエフェクタ23を移動させる(S14)。
【0038】
次に、設置されたエンドエフェクタ23を計測系28で計測したポジション計測値27を取得する(S15)。そして、ポジション目標値18に対しポジション計測値27の誤差が大きいと判定された場合(S16;Yes)、ポジション計測値27がポジション目標値18に一致するようにリンクパラメータ13を更新する(S17)。さらに(S13)~(S16)のフローを繰り返す。
【0039】
次に、ポジション目標値18に対するポジション計測値27の誤差が小さいと判定された場合(S16;No)、各種のポジション目標値18、荷重値31、リンクの姿勢(
図5)といった各種条件に紐づけてリンクパラメータ13を登録する(S18)。そして、ポジション目標値18に設置されたエンドエフェクタ23の仕事を実施する(S19)。さらに、次のポジション目標値18におけるエンドエフェクタ23の仕事が無くなるまで、(S11)~(S19)のフローを繰り返す(S20;No、Yes、END)。
【0040】
このように、エンドエフェクタ23は仕事を続けながら、各種条件に最適なリンクパラメータ13の登録させていくことができる。これにより、リンクパラメータ13を最適化するためだけに多軸機構20の位置決め動作をすることがなくなる。さらに、各種条件に対応するリンクパラメータ13の登録が増加するほど、ポジション計測値27が誤差大の判定(S16;Yes)も少なくなる。これにより、(S13)~(S16)の繰り返しも少なくなり、多軸機構20の動作時間が短縮し、エンドエフェクタ23の仕事が効率的になる。
【0041】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の多軸機構の位置決め装置によれば、エンドエフェクタの位置の高精度な位置決めがあらゆる姿勢において達成され、調整作業も効率的に行うことが可能となる。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0043】
以上説明した多軸機構の位置決め装置は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスやキーボードなどの入力装置と、通信I/Fとを、備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。このため多軸機構の位置決め装置の構成要素は、コンピュータのプロセッサで実現することも可能であり、多軸機構の位置決めプログラムにより動作させることが可能である。
【0044】
また多軸機構の位置決めプログラムは、ROM等に予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供するようにしてもよい。
【0045】
また、本実施形態に係る多軸機構の位置決めプログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。また、多軸機構の位置決め装置は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワーク又は専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【符号の説明】
【0046】
10(10A,10B,10C,10D)…多軸機構の位置決め装置、11…第1取得部、12…第2取得部、13…リンクパラメータ、14…初期値、15…演算部、16…更新部、17…上位制御系、18…ポジション目標値、20…多軸機構、21n(n=1~N)…駆動ジョイント、22n(n=1~N)…リンク、23…エンドエフェクタ、25n(n=1~N)…制御量、26…駆動部、27…ポジション計測値、28…計測系、31…荷重値、32…センサ検出系、35…ずれ量、36…機械学習器、37…学習モデル、φn(n=1~N)…変位量。