(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024015709
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】裏込充填システム及び裏込充填方法
(51)【国際特許分類】
F16L 1/00 20060101AFI20240130BHJP
E21D 11/00 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
F16L1/00 P
E21D11/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117958
(22)【出願日】2022-07-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】519385788
【氏名又は名称】サンケイ建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001793
【氏名又は名称】弁理士法人パテントボックス
(72)【発明者】
【氏名】生田目 憲一
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155AA04
2D155CA03
2D155JA01
2D155LA14
(57)【要約】
【課題】既設管と新設管の間に空隙を残しにくくする、裏込充填システムを提供する。
【解決手段】裏込充填システム1は、既設管10の内面の頂部に沿って固定される通気材としてのポリウレタンフォーム40と、既設管10の内側に設置される新設管20と、新設管20に設けられるグラウト孔21を通じて既設管10と新設管20の間に充填される充填材としてのエアモルタル30と、を備えている。さらに、グラウト孔21から通気材(ポリウレタンフォーム40)に通じる連通孔51がさらに設けられ、連通孔51にはさらに真空装置としての真空ポンプ55が接続されることが好ましい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設管の内面の頂部に沿って固定される通気材と、
前記既設管の内側に設置される新設管と、
前記新設管に設けられるグラウト孔を通じて前記既設管と前記新設管の間に充填される充填材と、を備える、裏込充填システム。
【請求項2】
前記通気材は、ポリウレタンフォームである、請求項1に記載された、裏込充填システム。
【請求項3】
前記グラウト孔から前記通気材に通じる連通孔がさらに設けられ、前記連通孔にはさらに真空装置が接続される、請求項1又は請求項2に記載された、裏込充填システム。
【請求項4】
前記グラウト孔と前記真空装置の間に、圧力検出器がさらに設置される、請求項3に記載された、裏込充填システム。
【請求項5】
既設管の内面の頂部に沿って通気材を固定する工程と、
前記既設管の内側に新設管を設置する工程と、
前記新設管に設けられるグラウト孔を通じて前記既設管と前記新設管の間に充填材を充填する工程と、を備える、裏込充填方法。
【請求項6】
前記通気材は、ポリウレタンフォーム又はポリエステル製の不織布である、請求項5に記載された、裏込充填方法。
【請求項7】
前記グラウト孔から前記通気材に通じる連通孔を削孔する工程と、
前記連通孔に真空装置を接続する工程と、をさらに備え、
前記充填材を充填する工程において、前記真空装置によって前記連通孔を通じて前記通気材を介して空気を抜くようになっている、請求項5又は請求項6に記載された、裏込充填方法。
【請求項8】
前記グラウト孔と前記真空装置の間に圧力検出器を設置する工程をさらに備え、
前記充填材を充填する工程において、前記圧力検出器によって前記連通孔を通じて前記通気材近傍の圧力を検出するようになっている、請求項7に記載された、裏込充填方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設管の内側に新設管を設置する際に充填材を隙間なく充填するための、裏込充填システム及び裏込充填方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、地中には上水道用や下水道用等の様々な管路が敷設されている。近年は、劣化した管路を更生するための種々の工法が開発されている。管路更生工法としては、劣化した既設管の内部に小径の新設管を設置するパイプインパイプ工法が知られている。
【0003】
この工法では、新設管を連結した後に、構造面や防食面を考慮して、既設管の内面と新設管の外面の間にエアモルタル等の充填材を充填することが行われている。(既設管と新設管の間に充填材を充填する点について特許文献1を参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された従来の工法では、
図5に示すように、既設管の内面と新設管の外面の間に充填されるエアモルタル等の充填材が、部分的に充填されずに空隙を残してしまうおそれがあった。このように空隙が生じると、強度が不足するうえアルカリ雰囲気が失われることで管路が腐食しやすくなる。
【0006】
そこで、本発明は、既設管と新設管の間に空隙を残しにくくする、裏込充填システム及び裏込充填方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の裏込充填システムは、既設管の内面の頂部に沿って固定される通気材と、前記既設管の内側に設置される新設管と、前記新設管に設けられるグラウト孔を通じて前記既設管と前記新設管の間に充填される充填材と、を備えている。
【0008】
また、本発明の裏込充填方法は、既設管の内面の頂部に沿って通気材を固定する工程と、前記既設管の内側に新設管を設置する工程と、前記新設管に設けられるグラウト孔を通じて前記既設管と前記新設管の間に充填材を充填する工程と、を備えている。
【発明の効果】
【0009】
このように、本発明の裏込充填システムは、既設管の内面の頂部に沿って固定される通気材と、既設管の内側に設置される新設管と、新設管に設けられるグラウト孔を通じて既設管と新設管の間に充填される充填材と、を備えている。このため、通気材を通じて空気を排出することができるため、既設管と新設管の間に空隙を残しにくくなる。
【0010】
また、本発明の裏込充填方法は、既設管の内面の頂部に沿って通気材を固定する工程と、既設管の内側に新設管を設置する工程と、新設管に設けられるグラウト孔を通じて既設管と新設管の間に充填材を充填する工程と、を備えている。このため、通気材を通じて空気を排出することができるため、既設管と新設管の間に空隙を残しにくくなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】裏込充填システムの構成を説明する縦断面図である。
【
図2】裏込充填システムの構成を説明する拡大縦断面図である。
【
図3】裏込充填システムの作用について説明する説明図である。(a)は1日目であり、(b)は2日目である。
【
図4】裏込充填方法の手順を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。以下では、プラントに近い側から―すなわち手前側から奥側へ向かって―充填材を打設する裏込充填システム(1)について説明する。ただし、プラントから遠い側から―すなわち奥側から手前側へ向かって―充填材を打設することも、もちろん可能である。
【実施例0013】
(構成)
まず、
図1及び
図2を用いて本発明の裏込充填システム1の全体構成を説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施例では、相対的に大径の既設管10の内部に、相対的に小径の新設管20を設置する際に、既設管10の内周面と新設管20の外周面との間に、充填材としてのエアモルタル30を充填するための、裏込充填システム1が構築される。
【0014】
裏込充填システム1は、老朽化・劣化した既設管10と、既設管10の内部に設置される新設管20と、既設管10と新設管20の間に充填される充填材としてのエアモルタル30と、に加えて、既設管10の内面の頂部に沿って固定される通気材としてのポリウレタンフォーム40と、から構成されている。
【0015】
更新対象となる老朽化した既設管10の前後に立坑を築造し、新設管20を送り込みながら既設管10内で接合していく。既設管10の種類はどのようなものであってもよいが、管の中で作業を行う必要があるため、挿入する新設管20の口径は800mm以上となる。
【0016】
既設管10は、例えば上水道管や下水道管等の円筒管であり、経年的な使用によって劣化・老朽化している。この既設管10の内部に新たに新設管20を設置(挿入)することで、管路を更生するようになっている。既設管10としては、
【0017】
新設管20は、既設管10よりもひと回り小さい外径を有する円筒管である。新設管20としては、例えば、鋼管や巻き込み鋼管を用いることが一般的である。後述するように、新設管20を設置した後には、既設管10との間に充填材を充填するようになっている。このため、新設管20には、所定間隔(例えば20m間隔)でグラウト孔21が設けられていることが好ましい。
【0018】
充填材としてのエアモルタル30は、構造面では、新設管20を充填材(エアモルタル30)で拘束することによって、管の変形を抑制し、地下水の浸透による座屈に対する安全性を向上させる。さらに、エアモルタル30は、既設管10と新設管20の一体化によって、新設管20の軸線方向の移動を拘束し、軸線方向の応力を軽減する効果もある。さらに、防食面では、既設管10と新設管20の隙間にセメント系充填材を裏込めすることで、セメントのアルカリ成分により鋼管外面を不動態化させる効果もある。なお、充填材としては、いわゆるエアミルクを用いることもできる。
【0019】
通気材としてのポリウレタンフォーム40は、厚み2mm以上、幅20~100mmに形成されており、既設管10の頂部に軸線方向に沿って設置されている。既設管10の頂部には、両面テープで接着されるか、又は、釘やアンカー等によって固定される。ポリウレタンフォーム40の厚みや幅はどのようなものであってもよい。
【0020】
ポリウレタンフォーム40を用いれば、水は吸収しても、セメント成分が固まった翌日であれば、まず水を吸い出し、そのままの工程で空気を吸い出すことができる。ポリウレタンフォームとしては、例えば、株式会社丸鈴のポリウレタンフォームを使用できる。例えば、MSC-E-16~E-40(密度:小~密度:大)のうち、より「密度:小」の方が空気は通しやすく軽いので適している。
【0021】
この他、通気材としては、ポリウレタンフォーム以外に、ポリエステルで構成された長繊維不織布土木シートを用いることもできる。例えば、大嘉産業株式会社の「ツインガード」(登録商標)を用いることができる。さらに、ポリエステル製であり、かつ不燃性を有するいわゆるスパッタシート(溶接作業時に使用される溶接火花・ノロ受け用のシート)を用いることもできる。さらに、ポリウレタン素材やポリエステル素材の通気材の表面側を、不燃性のスパッタシートによって覆うことも好ましい。
【0022】
そして、本実施例の裏込充填システム1は、
図2に示すように、連通孔51と、圧力検出器53と、真空装置としての真空ポンプ55と、をさらに備えている。
【0023】
すなわち、前日に充填されて固化しているエアモルタル30Aには、グラウト孔21Aからドリル等で削孔されて連通孔51が形成される。連通孔51は、グラウト孔21Aから通気材としてのポリウレタンフォーム40へと繋がっている。なお、グラウト孔21Aは、ホース50を挿通される以外は、パッキン52によって塞がれている。
【0024】
そして、この連通孔51には、ホース50を介して、圧力検出器53と、真空装置としての真空ポンプ55と、が接続されている。したがって、ポリウレタンフォーム40近傍の空気を真空ポンプ55によって抜きながら、圧力検出器53によって圧力を検出できるようになっている。
【0025】
(作用)
次に、
図3(a)、(b)を用いて、本実施例の裏込充填システム1の作用について説明する。まず、
図3(a)に示すように、前日(1日目)に、グラウト孔21Aを通じてエアモルタル30Aが打設・充填される。
【0026】
次に、
図3(b)に示すように、当日(2日目)に、グラウト孔21Bを通じてエアモルタル30Bが打設・充填される。そうすると、両者の間には、最終的に三角形状の空隙を生じることになる。従来は、このような状態になると、もはや空気の逃げ道がなくなるため、空隙が残ったままの状態となっていた。
【0027】
これに対して、本発明であれば、三角形状の空隙に通じる通気材(ポリウレタンフォーム40)が配置されているため、空気の逃げ道となり、空気が排出されるようになっているのである。この場合、真空ポンプ55によって空気を強制的に抜くようにすれば、いっそう空隙が残りにくくなる効果もある。
【0028】
(裏込充填方法の流れ)
次に、
図4のフローチャートを用いて、本実例の裏込充填方法の全体の流れについて説明する。
【0029】
はじめに、既設管10の頂部に通気材としてのポリウレタンフォーム40を接着によって固定する(ステップS1)。次に、様々な工法によって、既設管10の内部に新設管20を設置する(ステップS2)。そして、グラウト孔21Aを通じて、1日目の充填材としてのエアモルタル30Aを充填する(ステップS4)。
【0030】
その後、エアモルタル30Aが固化した後に、ドリルによって連通孔51を削孔する(ステップS4)。そして、連通孔51に真空装置としての真空ポンプ55を接続するとともに(ステップS5)、ホース50の途中に圧力検出器53を設置する(ステップS6)。
【0031】
このように準備ができた後、2日目の充填工程となる。すなわち、グラウト孔21Bを通じて、2日目の充填材としてのエアモルタル30Bを充填する(ステップS7)。同時に、真空ポンプ55によって空気を抜きつつ(ステップS8)、圧力検出器53によって圧力を検出する(ステップS9)。
【0032】
そして、検出された圧力が基準値を超えたか否かを判定する(ステップS10)。基準値を超えていなければ(NO)、いまだ空隙が存在すると考えられるため、ステップS7へ戻り、エアモルタル30Bの充填を継続する。一方、基準値を超えていれば(YES)、もはや空隙が存在しないと考えられるため、2日目の1回目の充填工程を終了する(ステップS11)。この後、さらに2日目の2回目、3回目、4回目の充填工程(ステップS7~S9)を続けることができる。その後、3日目の1回目は、2日目の各工程と同様に、ステップS4~ステップS11を繰り返すことになる。
【0033】
なお、この空隙が存在する/存在しないの判定は、圧力値が基準値を超えるか否かに基づく判定でなくてもよく、圧力値の変動量(時間差分)が所定量を超えるか否かに基づく判定であってもよい。
【0034】
(効果)
次に、本実施例の裏込充填システム1及び裏込充填方法の奏する効果を列挙して説明する。
【0035】
(1)上述してきたように、本実施例の裏込充填システム1は、既設管10の内面の頂部に沿って固定される通気材としてのポリウレタンフォーム40と、既設管10の内側に設置される新設管20と、新設管20に設けられるグラウト孔21を通じて既設管10と新設管20の間に充填される充填材としてのエアモルタル30と、を備えている。このため、通気材としてのポリウレタンフォーム40を通じて空気を排出することができるため、既設管10と新設管20の間に空隙を残しにくくなる。特に、前日の充填工程で充填された領域の位置が、当日のグラウト孔21から遠く離れてしまった場合には、空隙が残りやすくなるため本発明の有効性が大きいといえる。
【0036】
(2)また、通気材は、ポリウレタンフォーム40であることが好ましい。ポリウレタンフォーム40であれば、連続気泡を有するため通気性が良好であり、所定の剛性があるためエアモルタル30によってほとんど潰されることなく、一時的に水分を含んだとしても圧力(負圧)をかけることによって、これを吸い出すことができる。
【0037】
(3)さらに、グラウト孔21から通気材(ポリウレタンフォーム40)に通じる連通孔51がさらに設けられ、連通孔51にはさらに真空装置としての真空ポンプ55が接続されるため、通気材を介して残りのスペースの空気を抜くことで、いっそう空隙が残りにくくなる。
【0038】
(4)また、グラウト孔21と真空ポンプ55の間に、圧力検出器53がさらに設置されるため、検出された圧力値を監視すれば、圧力値の大きさや圧力値の変化傾向をとらえて残りの空隙の有無を判定することができる。
【0039】
(5)また、本実施例の裏込充填方法は、既設管10の内面の頂部に沿って通気材としてのポリウレタンフォーム40を固定する工程と、既設管10の内側に新設管20を設置する工程と、新設管20に設けられるグラウト孔21を通じて既設管10と新設管20の間に充填材としてのエアモルタル30を充填する工程と、を備えている。このため、通気材としてのポリウレタンフォーム40を通じて空気を排出することができるため、既設管10と新設管20の間に空隙を残しにくくなる。特に、前日の充填する工程で充填された領域の位置が、当日のグラウト孔21から遠く離れてしまった場合には、空隙が残りやすくなるため本発明の有効性が大きいといえる。
【0040】
(6)また、通気材は、ポリウレタンフォーム40(又はポリエステル製の不織布)であることが好ましい。ポリウレタンフォーム40であれば、連続気泡を有するため通気性が良好であり、所定の剛性があるためエアモルタル30によってほとんど潰されることなく、一時的に水分を含んだとしても圧力(負圧)をかけることによって、これを吸い出すことができる。
【0041】
(7)さらに、グラウト孔21からポリウレタンフォーム40に通じる連通孔51を削孔する工程と、連通孔51に真空ポンプ55を接続する工程と、をさらに備え、エアモルタル30を充填する工程において、真空ポンプ55によって連通孔51を通じてポリウレタンフォーム40を介して空気を抜くようになっている。このようにすれば、ポリウレタンフォーム40を介して残りのスペースの空気を抜くことで、いっそう空隙が残りにくくなる。
【0042】
(8)また、グラウト孔21と真空ポンプ55の間に圧力検出器53を設置する工程をさらに備え、充填材(エアモルタル30)を充填する工程において、圧力検出器によって連通孔51を通じてポリウレタンフォーム40近傍の圧力を検出するようになっているため、検出された圧力値を監視すれば、圧力値の大きさや圧力値の変化傾向をとらえて残りの空隙の有無を判定することができる。
【0043】
以上、図面を参照して、本発明の実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0044】
例えば、実施例では説明しなかったが、2日目の2回目や3回目の充填工程では、各回で充填を確認する必要がなければ、本発明を実施することなく、すなわち充填を促進・検知することなく、充填工程を続けることもできる。
【0045】
例えば、実施例では、通気材としてポリウレタンフォームやポリエステル製の不織布など、いくつかの素材について説明したが、通気材はこれらに限定されるものではなく、潰されない程度の剛性を有し、かつ、連続的な通気性を有し、好ましくは、不燃性を有する通気材であれば、どのような素材であってもよい。