(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157097
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】質量分析装置
(51)【国際特許分類】
H01J 49/00 20060101AFI20241030BHJP
H01J 49/40 20060101ALI20241030BHJP
H01J 49/42 20060101ALI20241030BHJP
H05H 1/30 20060101ALI20241030BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20241030BHJP
【FI】
H01J49/00 500
H01J49/40
H01J49/42 150
H05H1/30
G01N27/62 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071213
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 朋也
【テーマコード(参考)】
2G041
2G084
【Fターム(参考)】
2G041AA01
2G041AA07
2G041CA01
2G041DA15
2G041GA09
2G041GA24
2G041KA01
2G084AA12
2G084BB07
2G084CC14
2G084DD04
2G084DD18
2G084HH02
2G084HH34
2G084HH42
(57)【要約】
【課題】冷却機構を設けることなく熱によるヘリカルアンテナの酸化を抑制し、原料ガスから安定してラジカルを生成することができるラジカル生成部を備えた質量分析装置を提供する。
【解決手段】誘電体から成る管(410)と、前記管の外周に巻回された線状導電体から成るヘリカルアンテナ(411)と、前記管の外側に該管と同軸に設けられた筒状の部材であって、内周面に輻射率向上処理が施されるとともに該内周面(4121)に導電領域が設けられた外側導体(412)と、前記管と前記外側導体の間に挿入される、導電性を有する部材であって、前記線状導電体と前記導電領域を電気的に接続する接続部材(421、424)とを有するラジカル生成部を備える質量分析装置1。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体から成る管と、
前記管の外周に巻回された線状導電体から成るヘリカルアンテナと、
前記管の外側に該管と同軸に設けられた筒状の部材であって、内周面に輻射率向上処理が施されるとともに該内周面に導電領域が設けられた外側導体と、
前記管の内部空間に磁場を形成する磁場形成部と、
前記管と前記外側導体の間に挿入される、導電性を有する部材であって、前記線状導電体と前記導電領域を電気的に接続する接続部材と
を有するラジカル生成部を備える質量分析装置。
【請求項2】
さらに、
前記管を保持する部材であって、ステンレス鋼よりも熱伝導率が高い材料で構成された枠部材と、
前記外側導体の一端と対向する位置に、前記管の中心軸に沿った方向の位置が固定され該中心軸周りに回転自在に前記枠部材に取り付けられた部材であって、前記管が挿通され内周面にネジ溝が形成された貫通孔が形成され、ステンレス鋼よりも熱伝導率が高い材料で構成された回転部材
を備え、
前記接続部材が、前記ヘリカルアンテナと前記外側導体の間隙に挿通され前記ヘリカルアンテナと前記外側導体を電気的に接続する部材であって、前記管の外側に該管と同軸に設けられ前記枠部材に対して周方向の位置が固定された、ステンレス鋼よりも熱伝導率が高い材料で構成された内筒体と、前記内筒体の外側に該内筒体と同軸に設けられた、ステンレス鋼よりも熱伝導率が高い材料で構成された外筒体とを有し、該内筒体及び外筒体の先端部に両者を押し当てることによってそれぞれが内方と外方に曲がる板ばね部が設けられ、前記内筒体の基端部の外周に前記ネジ溝に対応するネジ山が形成されている、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
さらに、
前記外側導体を保持する部材であって、内面に輻射率向上処理が施されたケーシング
を備える、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項4】
さらに、
前記ケーシングに保持され、前記管のうち、前記ヘリカルアンテナが巻回された部分の内部空間に光を照射する光源と、
前記管の内部で発生するプラズマの発光を検出する光検出器と
を備える、請求項3に記載の質量分析装置。
【請求項5】
前記管の一端が、試料由来のイオンが導入される反応室に接続されており、
さらに、
前記枠部材が、前記管の他端を囲うように設けられ、ステンレス鋼よりも熱伝導率が高い材料で構成されるとともに前記光源から発せられる波長帯域の光を遮光する蓋部材
を備える、請求項4に記載の質量分析装置。
【請求項6】
さらに、
前記光源及び前記光検出器が載置され、その載置面が前記管に対向配置された基板と、
前記載置面のうち、前記光源及び前記光検出器が載置された領域を除く領域に配置された、前記光源から発せられる波長帯域の光を遮光する第1遮光部材と
を備える、請求項4に記載の質量分析装置。
【請求項7】
さらに、
前記光源を囲うように取り付けられる部材であって、該光源から発せられる波長帯域の光を遮光する第2遮光部材
を備える、請求項6に記載の質量分析装置。
【請求項8】
さらに、
前記基板の前記載置面と反対側の面を囲うように配置され、該基板から着脱可能に設けられたカバー部材と、前記カバー部材の着脱状態を検知するセンサ部とを有し、前記センサ部によって前記カバー部材が装着された状態でのみ前記光源に電力を供給するインターロック機構
を備える、請求項6に記載の質量分析装置。
【請求項9】
前記カバー部材が、前記光源から発せられる光の反射を低減する処理が施された内面を有する、請求項8に記載の質量分析装置。
【請求項10】
さらに、
前記ケーシングに設けられた開口であって、その一端が前記管のうち前記光源から光が照射される領域を臨むのぞき穴と、
前記のぞき穴に取り付けられ、前記光源から発せられる波長帯域の光を遮光し、該領域で発生するプラズマから発せられる光の波長帯域の少なくとも一部を透過する光学部材と
を備える、請求項4に記載の質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置に関する。特に、原料ガスから生成したラジカルを用いてイオンを解離させる操作を行う質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料成分由来のイオンに、水素ラジカル、酸素ラジカル、窒素ラジカルなどのラジカルを付着させることで該イオンを解離させ、それにより生成されたプロダクトイオンを質量分析する質量分析装置が知られている(例えば特許文献1、2)。例えば、ペプチド由来のイオンに対してラジカルを用いた解離操作を行うと、ペプチドのアミノ酸配列等の構造を反映した様々な種類のプロダクトイオンが生成される。こうしたプロダクトイオンのマスピークを含んだマススペクトルを解析することにより、ペプチドの構造を推定することができる。
【0003】
ラジカル生成装置には様々な種類のものがあるが、質量分析装置に搭載して用いる場合には小型且つ軽量であることが求められる。そうしたラジカル生成装置として、例えば特許文献2、非特許文献1、2に記載のものが知られている。これらのラジカル生成装置は、石英などの誘電体から成るキャピラリ管の外周に、銅などから成る導電線を三次元螺旋状に巻回したヘリカルアンテナを備えた構成を有する。ヘリカルアンテナにマイクロ波電力を供給し、その渦電流によってキャピラリ管を通過する原料ガス内にプラズマを生成して原料ガスのラジカルを生成する。また、キャピラリ管の外側に磁石を配置し、この磁石により形成される磁場を利用した電子サイクロトロン共鳴(Electron Cyclotron Resonance: ECR)現象によって、プラズマの密度を高め、且つ安定化させる。こうしたラジカル生成装置は、プラズマの生成と維持に、局所的な誘導型放電と電子サイクロトロン共鳴を利用することから、ECR-LICP(Electron Cyclotron Resonance-Localized Inductively Coupled Plasma)型と呼ばれている。
【0004】
特許文献2に記載のECR-LICP型のラジカル生成装置では、キャピラリ管の外周に巻回したヘリカルアンテナの外側に、間隙を挟んで該ヘリカルアンテナと同軸に略円筒状の外側導体が設けられており、該外側導体は接地されている。上記磁石はこの外側導体の外側に配置される。ヘリカルアンテナと外側導体の間隙に導電性の接続部材を挿入し、該接続部材によってヘリカルアンテナの長手方向の適宜の部位と外側導体を電気的に接続することによりECR共振回路を形成する。このECR-LICP型のラジカル生成装置では、ECR共振回路において適切な共振が起こるように、接続部材の位置、即ち、外側導体と電気的に接続されるヘリカルアンテナの軸方向の位置を調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-191081号公報
【特許文献2】国際公開第2022/059247号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yuji Simabukuro、ほか4名、「タンデム・マス・スペクトロメトリー・オブ・ペプタイド・イオンズ・バイ・マイクロウェイブ・エキサイテッド・ハイドロジェン・アンド・ウォーター・プラズマズ(Tandem Mass Spectrometry of Peptide Ions by Microwave Excited Hydrogen and Water Plasmas)」、Analytical Chemistry、2018年、Vol.90、No.12、pp.7239-7245
【非特許文献2】島袋祐次(Yuji Simabukuro)、「コンプリヘンシブ・スタディ・オン・ザ・ロー-エナジー・アトミック・ハイドロゲン・ビーム:フロム・プロダクション・トゥー・ベロシティ・ディストリビューション・メジャーメント(Comprehensive Study on the Low-energy Atomic Hydrogen Beam: From Production to Velocity Distribution Measurement」(博士論文本文)、[online]、[2022年12月1日検索]、同志社大学学術リポジトリー、インターネット<URL: https://doshisha.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=1608&file_id=21&file_no=2>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ECR-LICP型のラジカル生成装置で原料ガスのプラズマからラジカルを生成すると、キャピラリ管内部でプラズマが生成される領域が高温に(例えば100℃超に)なる。その間、キャピラリ管の外周に巻回されたヘリカルアンテナのうちプラズマ生成領域の近傍に位置する部分は高温に曝され続け、プラズマの生成を繰り返すうちにその部分が徐々に酸化していく。その結果、接続部材を介して外側導体に接続された位置でのヘリカルアンテナの電気抵抗が大きくなり、ECR共振回路における共振状態が変化してプラズマが良好に生成されず、ラジカルを安定して生成することができなくなるという問題があった。特許文献2には、プラズマ生成領域の近傍に冷却ガスを導入することにより冷却する構成が記載されているが、冷却ガス導入機構を組み込むと装置が大型化し、またコストも増大する。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、冷却機構を設けることなく熱によるヘリカルアンテナの酸化を抑制し、原料ガスから安定してラジカルを生成することができるラジカル生成部を備えた質量分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置は、
誘電体から成る管と、
前記管の外周に巻回された線状導電体から成るヘリカルアンテナと、
前記管の外側に該管と同軸に設けられた筒状の部材であって、内周面に輻射率向上処理が施されるとともに該内周面に導電領域が設けられた外側導体と、
前記管の内部空間に磁場を形成する磁場形成部と、
前記管と前記外側導体の間に挿入される、導電性を有する部材であって、前記線状導電体と前記導電領域を電気的に接続する接続部材と
を有するラジカル生成部を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る質量分析装置のラジカル生成部では、誘電体から成る管の内部にラジカルの原料となるガスを供給するとともに、該管の外周に設けられたヘリカルアンテナにマイクロ波電力を供給し、原料ガス内にプラズマを生成して原料ガスのラジカルを生成する。また、磁場形成部により管の内部空間に磁場を形成し、外側導体の内周面に設けられた導電領域と、ヘリカルアンテナを構成する線状導電体とを接続部材によって電気的に接続することによってECR共振回路を形成する。磁場形成部には、例えば、外側導体の外側に配置した永久磁石を用いることができる。本発明に係る質量分析装置では、管の外側に配置される外側導体の内周面に輻射率向上処理が施されており、該管から外側導体への放熱経路の熱抵抗が小さい。そのため、ラジカル生成領域で生じた熱が速やかに管から外側導体へと移動して外部に放出される。それにより、熱によるヘリカルアンテナの酸化が抑制され、原料ガスから安定してラジカルを生成することができる。また、本発明に係る質量分析装置では、冷却機構を用いないため、装置が大型化したりコストが増大したりすることもない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る質量分析装置の一実施形態の概略構成図。
【
図2】本実施形態の質量分析装置が有するラジカル生成部の本体部の概略断面図。
【
図3】本実施形態における本体部の部分拡大断面図。
【
図8】本実施形態のラジカル生成部の本体部のA-A’断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<質量分析装置1の概略構成>
図1は、本発明の一実施形態である質量分析装置1の概略構成図である。本実施形態の質量分析装置1は、大気圧イオン源を備えた四重極-飛行時間型(Q-TOF型)質量分析装置である。この質量分析装置1は、その前段に液体クロマトグラフ(LC)を接続し、液体クロマトグラフ質量分析装置として使用することもできる。
【0013】
図1に示すように、本実施形態の質量分析装置1は、イオン化室10と真空チャンバ100を有する。イオン化室10内は略大気圧雰囲気である。真空チャンバ100の内部は複数(本実施形態では4室)に区画されており、イオン化室10に近い側から順に、第1中間真空室11、第2中間真空室12、第1分析室13、及び第2分析室14となっている。各室は図示しない真空ポンプ(ロータリーポンプ及び/又はターボ分子ポンプ)により真空排気されており、略大気圧雰囲気であるイオン化室10から高真空雰囲気である第2分析室14に向かって順に真空度が高まる、多段差動排気系の構成を有している。
【0014】
イオン化室10には、液体試料に電荷を付与して噴霧するエレクトロスプレーイオン化(ESI)プローブ101が設置されている。ESIプローブ101には、例えば図示しないLCのカラムで分離された試料成分を含む試料液が導入される。
【0015】
イオン化室10と第1中間真空室11は、細径の脱溶媒管102を通して連通している。第1中間真空室11には、イオンの飛行経路の中心軸であるイオン光軸Cを取り囲むように配置された複数のロッド電極で構成され、該イオン光軸Cの近傍にイオンを収束させるイオンガイド111が配置されている。
【0016】
第1中間真空室11と第2中間真空室12は、頂部に小孔を有するスキマー112で隔てられている。第2中間真空室12にも、イオン光軸Cを取り囲むように配置された複数のロッド電極で構成され、該イオン光軸Cの近傍にイオンを収束させるイオンガイド121が配置されている。
【0017】
第1分析室13には、イオン光軸Cに沿って、イオンを質量電荷比(m/z)に応じて分離する四重極マスフィルタ131、多重極イオンガイド133を内部に備えたコリジョンセル132、及びコリジョンセル132を通過したイオンを輸送するためのイオン輸送電極134、が配置されている。四重極マスフィルタ131及び多重極イオンガイド133はそれぞれ複数のロッド電極で構成されている。イオン輸送電極134は、複数のリング状の電極で構成されている。
【0018】
コリジョンセル132には、ラジカル生成部4が接続されている。コリジョンセル132では、ラジカル生成部4から供給される酸素ラジカル等のラジカルによってイオンを解離させる。ラジカル生成部4の構成については後記する。コリジョンセル132には、ラジカル生成部4以外に、衝突誘起解離を生じさせるための衝突ガス(通常はアルゴンなどの不活性ガス)を供給するガス供給部も必要に応じて接続することができる。
【0019】
第2分析室14には、第1分析室13から入射したイオンを輸送するためのイオン輸送電極141、イオン光軸Cを挟んで対向配置された1組の押出電極と引込電極を有する直交加速部142、該直交加速部142により飛行空間に送出されるイオンを加速する加速電極143、飛行空間においてイオンの折り返し軌道を形成するリフレクトロン電極144、イオン検出器145、及び飛行空間を内部に形成するフライトチューブ146を備えている。イオン輸送電極141は、複数のリング状の電極で構成されている。押出電極と引込電極はいずれも板状の電極であり、引込電極にはイオンを通過させるための開口が設けられている。加速電極143、リフレクトロン電極144は中央に矩形の開口が形成された複数の矩形板状の電極で構成されている。フライトチューブ146は矩形の断面を有する筒状の電極で構成されている。イオン検出器145は、例えば電子増倍管やマルチチャンネルプレートである。
【0020】
本実施径形態の質量分析装置1は、さらに、制御・処理部5を備えている。制御・処理部5は、上記各部の動作を制御するとともに、イオン検出器145による検出信号を受けて、所定のデータ処理を実施する機能を有する。制御・処理部5は、例えば汎用のパーソナルコンピュータ(PC)により構成され、該コンピュータにインストールされた専用の制御・処理ソフトウェアをプロセッサで実行することにより、各種の機能が具現化される。制御・処理部5には入力部6、及び表示部7が接続されている。
【0021】
<ラジカル生成部4の構成>
本実施形態の質量分析装置1は、ラジカル生成部4(特に本体部40)の構成に特徴を有している。以下、ラジカル生成部4の構成を説明する。
【0022】
ラジカル生成部4はECR-LICP型のラジカル生成部であり、
図1に示すように、ラジカル生成室400を含む本体部40と、原料ガス供給部48と、マイクロ波電源46とを有している。原料ガス供給部48からラジカル生成室400に至る流路には、原料ガスの流量を調整するためのバルブ41が設けられている。マイクロ波電源46は、原料ガスのプラズマを生成するためのマイクロ波電力を供給するものである。原料ガスには、生成するラジカルに応じた種類のガス、例えば、酸素ガス、水蒸気、乾燥空気、窒素ガス、水素ガスが用いられる。
【0023】
<本体部40の構成>
次に、本体部40の構成を説明する。
図2は、本体部40の概略断面図である。また、
図3は、本体部40の部分拡大断面図である。本体部40は、原料ガス供給部48から供給される原料ガスを用いてプラズマを生成し、該プラズマ中で発生したラジカルをコリジョンセル132に供給する。
【0024】
本体部40は、絶縁体且つ誘電体である石英やアルミナなどから成る中心円筒管410と、中心円筒管410の周囲に螺旋状に巻回された帯状の導電体であるヘリカルアンテナ411と、中心円筒管410と同軸で、内径が中心円筒管410の外径よりも大きい円筒状の開口を有する導電体から成る外側導体412と、磁石413、415と、外側導体412及び磁石413、415を保持するケーシング414と、ケーシング414に取り付けられたマイクロ波供給コネクタ416と、光源417と、光検出器418とを有している。
【0025】
ケーシング414の上面には、外側導体412と磁石413を覆う押さえ板435が取り付けられている。押さえ板435は、
図4に示すような円盤状の部材であり、中央に、中心円筒管410等が挿入される1つの開口4351が設けられており、その周囲にも後記する支柱部材441が挿入される4つの開口4352が設けられている。中央の開口4351には、後記するプランジャ421及びスリーブ424の、中心円筒管410の中心軸周りの回転を規制する突起4353が設けられている。
【0026】
ケーシング414の上面には、押さえ板435を介して4本の支柱部材441が立設されており、各支柱部材441の上端部には円盤状の天板部材442が固定されている。天板部材442の内部には、中心円筒管410の上端が差し込まれており、原料ガス供給部48から延びる流路に接続されている。中心円筒管410の上端はOリング4142を介して天板部材442に固定されている。また、天板部材442の下面の3箇所には周方向に等間隔にボルト443(
図2では1つのみ図示)が固定されている。本実施形態における支柱部材441、天板部材442、及びボルト443は、枠部材44を構成する。
【0027】
ヘリカルアンテナ411には、導電性と成形性が高い純銅に近い材料、例えば、無酸素銅、タフピッチ銅から成り、表面に金メッキが施したものが用いられる。支柱部材441及び天板部材442には、一般的に用いられるステンレス鋼よりも熱伝導率が高い材料からなるもの、例えば、銅やアルミニウムから成るものが用いられる。特に、天板部材442には、後記する光源417から発せられる波長の光を透過しない材料から成るものが用いられる。
【0028】
外側導体412及びケーシング414の母材には、一般的に用いられるステンレス鋼よりも熱伝導率が高く、かつ導電性を有する材料、例えば、銅やアルミニウムから成るものが用いられる。
【0029】
外側導体412の内周面4121(中心円筒管410と対向する面)、及びケーシング414の内面4141(中心円筒管410を臨む面)には、輻射率を向上させる処理が施されている。輻射率を向上させる処理とは、例えば無電解黒Niメッキ処理、黒アルマイト処理、黒色電着塗装などの表面処理である。なお、黒アルマイト処理や黒色電着塗装のように、輻射率を向上させる処理後の表面が導電性を有しない場合には、外側導体412の内周面のうち、後記するプランジャ421及びスリーブ424を介してヘリカルアンテナ411と電気的に接続される部分には、この処理を施さず導電領域を設けておく。例えば、導電領域にあたる部分にマスキングを施したうえで上記の処理を行うことにより、こうした導電領域を設けることができる。
【0030】
中心円筒管410の外周には、内側から順に、筒状の部材であるプランジャ421とスリーブ424が、該中心円筒管410と同軸に配置されている。
【0031】
図5は、プランジャ421の斜視図である。プランジャ421は径が異なる2つの筒状部を組み合わせたような形状を有している。上方に位置する、径が大きい筒状部の外周の一部は平坦面に成形されており、該平坦面には1mm単位の目盛り4213が刻まれている。また、平坦面以外の外周にはねじ山(
図5では図示略)が形成されている。下方に位置する、径が小さい筒状部のうちの上部の領域の側面には軸方向に延びる細長い開口4211が設けられている。この開口4211には、押さえ板435に設けられた突起4353が挿入され、それによってプランジャ421が中心円筒管410の中心軸に沿った方向に移動可能であり、かつ該軸周りに回転しないようになっている。さらに、プランジャ421の下端部は、該軸に平行な複数(本実施形態では4つ)のスリットによって複数に分割されており、それぞれ分割片4212を形成している。各分割片4212の先端には、基部側から先端部に向かうに従って徐々に外方に膨出するテーパ部4213が形成されている。
【0032】
図6はスリーブ424の斜視図である。スリーブ424は、プランジャ421よりも径が大きい筒状の部材であり、その上部と下部のそれぞれに、中心円筒管410の中心軸に沿った方向に延びる細長いスリット4241、4242が形成されている。スリーブ424の上部に形成されたスリット4241には、押さえ板435の突起4353が挿入され、それによってスリーブ424が中心円筒管410の中心軸周りに回転しないようになっている。また、スリーブ424の下部は、スリット4242によって複数(本実施形態では4つ)に分割されており、それぞれ分割片4243を形成している。
【0033】
プランジャ421とスリーブ424はいずれも弾性変形する導電性の材料(又は表面が導電性の材料でコーティングされたもの)で構成されており、プランジャ421の下端部の分割片4212とスリーブ424の下端部の分割片4243は、それぞれ板ばねとして機能する。プランジャ421及びスリーブ424には、一般的に用いられるステンレス鋼よりも熱伝導率が高く導電性を有する材料、例えば、銅やアルミニウムから成るものが用いられる。
【0034】
中心円筒管410の外周には、天板部材442に近い側(上側)から順に、該中心円筒管410と同軸に、第1調整ノブ431、第1回り止めナット432、第2回り止めナット433、及び第2調整ノブ434が配置されている。
【0035】
図7は、第1調整ノブ431を下方から見た斜視図である。第1調整ノブ431は、円筒状の本体部4311と、該本体部の上面に延設され断面がL字状である固定部4312とを有する。固定部4312の上端部(L字状の短辺に相当する断面を有する部分)は、天板部材442と3つのボルト443の間に挿入されている。これによって、第1調整ノブ431は、中心円筒管410の中心軸に沿った方向の位置が固定され、該中心軸周りに回転自在となるように、枠部材44に取り付けられている。第1調整ノブ431には、中心円筒管410及びプランジャ421が内挿される貫通孔4313が設けられており、該貫通孔4313の内面にはプランジャ421の外周に形成されたネジ山と螺合するネジ溝が形成されている。
【0036】
第1回り止めナット432、第2回り止めナット433、及び第2調整ノブ434の内周面にもプランジャ421の外周に形成されたネジ山と螺合するネジ溝が形成されている。第1回り止めナット432、第2回り止めナット433、及び第2調整ノブ434はいずれも、中心円筒管410の中心軸に沿う方向への移動は規制されておらず、従って、これらを回転させると、プランジャ421に対して、中心円筒管410の中心軸に沿った方向に上下動する。
【0037】
第1調整ノブ431、第1回り止めナット432、第2回り止めナット433、及び第2調整ノブ434には、それぞれ、一般的に用いられるステンレス鋼よりも熱伝導率が高い材料、例えば、銅やアルミニウムから成るものが用いられる。
【0038】
中心円筒管410の内部は、ラジカルの原料となるガスが導入される原料ガス導入管であり、またラジカル生成室400として用いられる。具体的には、中心円筒管410の内部空間のうち、ヘリカルアンテナ411が巻回された部分、及び後記する光源417から光が照射される部分の近傍がラジカル生成室400となる。ラジカル生成室400の下部では、中心円筒管410がOリング4142を介してケーシング414に固定されている。マイクロ波供給コネクタ416は同軸コネクタであり、図示しない同軸ケーブルを介してマイクロ波電源46に接続される。同軸コネクタの導電線は、ヘリカルアンテナ411の一端に接続されている。また、外側導体412及びケーシング414は接地されている。後記するように、ヘリカルアンテナ411の1箇所と外側導体412は電気的に接続されており、その接続位置がヘリカルアンテナ411の接地点となる。ヘリカルアンテナ411、外側導体412、プランジャ421、スリーブ424(プランジャ421とスリーブ424については後記)などがECRの共振器を構成する。マイクロ波電源46は、同軸ケーブル及びマイクロ波供給コネクタ416を介して、この共振器に電力を供給する。これによってECR-LICP型のラジカル生成部が構成される。
【0039】
光源417と光検出器418は、ケーシング414内の、ラジカル生成室400を臨む位置に設けられている。光源417には、所定の波長帯域の光を発するものを用いる。所定の波長帯域の光とは、中心円筒管410の壁面から電子を放出させる光であり、この電子によりラジカル生成室400におけるプラズマの発生が促進される。例えば、中心円筒管410が石英やアルミナなどから成る場合には、深紫外光を発するLEDを使用することができる。また、光源417は後記するインターロック機構と連動している。光検出器418は、ラジカル生成室400で生成された原料ガスのプラズマから発せられる光の波長を含む所定の波長帯域の光を検出する。光検出器418には、原料ガスのプラズマから発せられる光の少なくとも一部に対して感度を持つ一方、光源417から発せられる光に対しては感度を持たないものを用いることが好ましい。光検出器418には、例えば可視光帯域に感度を有し、紫外光帯域には感度を有しないフォトダイオードが用いられる。これにより、光検出器418は、光源417から発せられる光の影響を受けることなくプラズマの発光を検出することができる。
【0040】
光源417と光検出器418は、電気回路が形成されたプリント基板(PCB)419上に設けられている。光源417及び光検出器418は直接、プリント基板419に装着されている。セラミックブッシュ(第2遮光部材)4143は、光源417の周部を囲うようにケーシング414に取り付けられている。セラミックブッシュ4143には、例えば、ホトベール(登録商標)などのマシナブルセラミクスやアルミナからなるものが用いられる。これらの絶縁性を有する材料からなるセラミックブッシュ4143を用いることによって、プリント基板419に設けられた光源417の近傍の回路とセラミックブッシュ4143の間で放電が発生するのを防止することができる。
【0041】
プリント基板419の、中心円筒管410の側の面のうち、光源417や光検出器418が設けられていない領域(本実施形態では、プリント基板419の周縁部)には遮光スポンジ(第1遮光部材)4191が配置されている。遮光スポンジ4191は、光源417から発せられる深紫外光、及び中心円筒管410の内部に生成される原料ガスのプラズマによる発光をそれぞれ遮光するものであり、対候性や耐久性に優れた材料からなるもの、例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM)からなるものが用いられる。
【0042】
プリント基板419の外側には、該プリント基板419を囲うようにカバー51が取り付けられている。また、カバー51の内面511には反射率を低減する処理が施されている。反射率を低減する処理とは、例えば黒Niメッキ処理、黒アルマイト処理、適宜の材料による塗装などの表面処理や、粗面加工である。特に、黒Niメッキ処理、黒アルマイト処理、塗装による表面処理を施した場合には、輻射率を向上させる効果も同時に得られる。これにより、光源417から発せられる光、特に紫外光が外部に漏れるのを防止することができる。
【0043】
カバー51の上部には突起512が設けられている。また、ケーシング14の側面の、突起512の近傍には、所要の電気回路を含む本体部521と突起522を有するマイクロスイッチ52が設けられている。突起512とマイクロスイッチ52はインターロック機構を形成している。カバー51が装着されていない状態では突起522は
図2に破線で示す位置にあり、この状態からカバー51を装着して突起512で突起(スイッチ)522を右方に押し込むとインターロックが解除され、図示しない電源から光源417に電力が供給されて光を照射することが可能になる。インターロック機構は、カバー51の開閉状態を認識し、カバー51が開いた状態で光源417から光が照射されることを防止するものであればよく、上記構成以外にも様々な構成を採ることができる。
【0044】
さらに、
図2におけるA-A’断面図である
図8に示すように、ケーシング414のうち、光源417から深紫外光が照射される領域(ラジカル生成領域)を臨む位置(
図2では紙面手前側)にはのぞき穴531(開口)が開けられており、のぞき穴531には窓部材532が固定されている。また、のぞき穴531および窓部材532の外側を覆うようにカバー部材533が取り付けられている。カバー部材533は、ねじ(図示略)でケーシング414に取り付けられており、このカバー部材533を取り外すと、のぞき穴531から、窓部材532と中心円筒管410の壁面を介してプラズマの生成状態を確認することができる。窓部材532には、光源417から発せられる深紫外光を含む紫外光を透過せず、かつプラズマ発光の波長帯域に含まれる可視光を透過する材料から成るものを用いる。そのような材料として、例えば、ポリカーボネート(PC)、アクリル、ガラス、塩化ビニル樹脂を用いることができる。プラズマの状態を直接確認する必要がある場合を除いてこのカバー部材533を取り付けておく(実線で示す位置)ことにより、ラジカル生成領域でプラズマ等から発せられた光が外部に漏れるのを防ぐことができる。
【0045】
本実施形態では、
図3に示すように、ヘリカルアンテナ411と外側導体412の間に挿入される、プランジャ(内筒体)421及びスリーブ(外筒体)424を有する接続部材42によって、外側導体412とヘリカルアンテナ411が電気的に接続される。
【0046】
ヘリカルアンテナ411と外側導体412を電気的に接続する位置を調整する際には、まず、第1調整ノブ431を回転させる。上記の通り、第1調整ノブ431は、中心円筒管410の中心軸周りに回転自在であり、該中心軸に沿った方向に移動しないように枠部材44に保持されている。また、第1調整ノブ431の貫通孔の内部には、プランジャ421の外周に形成されたネジ山と螺合するネジ溝が形成されている。さらに、プランジャ421に設けられた開口4211に押さえ板435の突起4353が挿入されることで、プランジャ421は中心円筒管410の中心軸周りに回転しないようになっている。つまり、これらの各部は送りネジ機構になっており、第1調整ノブ431を回転させることにより、プランジャ421を上方又は下方に移動させることができる。
【0047】
次に、第2調整ノブ434を回転させて下方に移動させる。スリーブ424の外径は、第2調整ノブ434の貫通孔の径よりも大きいため、第2調整ノブ434が下方に移動する際に、該第2調整ノブ434の下面によってスリーブ424も押し下げられる。
図3に示すように、スリーブ424の下端に設けられた分割片4243が、プランジャ421の下端に設けられた分割片4212の先端のテーパ部4213に接触する位置までスリーブ424を押し下げた状態から、更にスリーブ424を押し下げ、スリーブ424の分割片4243の下端をプランジャ421の分割片4212の下端に形成されているテーパ部4213に押し当てることにより、両者をそれぞれ外方と内方に弾性変形させ、スリーブ424の分割片4243を外側導体412に接触させ、プランジャ421の分割片4212をヘリカルアンテナ411に接触させる。これにより、ヘリカルアンテナ411と外側導体412が、プランジャ421及びスリーブ424を介して電気的に接触する。
【0048】
このとき、マッチングが適切であるか否かは、原料ガス及びマイクロ波電力がラジカル生成室400に供給された状態におけるプラズマの発光状態を光検出器418で検出することにより判定する。本実施形態の質量分析装置1では、第1調整ノブ431によるプランジャ421の位置の調整、及び第2調整ノブ434によるスリーブ424の移動によってヘリカルアンテナ411の各所で外側導体412と電気的に接触させ、各位置でのプラズマの発光状態(光検出器147からの出力信号)に基づいて、ヘリカルアンテナ411の最適な接地位置(外側導体412と電気的に接触させる位置)を決定する。
【0049】
ヘリカルアンテナ411の最適な接地位置を決定すると、さらに少しスリーブ424を下方に押し下げて、スリーブ424の分割片4243をさらに外方に弾性変形させて外側導体412に密着させ、また、プランジャの分割片4212を内方にさらに弾性変形させてヘリカルアンテナ411に密着させる。これにより、プランジャ421及びスリーブ424を介してヘリカルアンテナ411と外側導体412が電気的に接触して、ヘリカルアンテナ411が接地された状態で保持される。
【0050】
その後、第1回り止めナット432を上方に移動させて第1調整ノブ431の下面に当接させる。これにより、第1調整ノブ431が回転不能に固定され、それによってプランジャ421の位置が固定される。さらに、第2回り止めナット433を下方に移動させて第2調整ノブ434の上面に当接させる。これにより、第2調整ノブ434も回転不能に固定され、それによってスリーブ424の位置が固定される。
【0051】
本実施形態のラジカル生成部4では、次のようにしてラジカルを生成して測定を実行する。まず、使用者は、測定開始前に、カバー51が閉じてあることを確認しておく。これによりインターロックが解除される。
【0052】
使用者が測定の開始を指示すると、原料ガス供給部48は、原料ガスを中心円筒管410へ供給する。マイクロ波電源46は、例えば2.4GHz~2.5GHzの範囲に中心周波数を有するマイクロ波電流をヘリカルアンテナ411に供給する。続いて、ラジカル生成室400内の原料ガスに対し、マイクロ波電源46からマイクロ波電力が供給されている状態で、光源417から中心円筒管410に深紫外光を照射する。深紫外光を受けると石英やアルミナなどから成る中心円筒管410の壁面から電子が放出され、この電子によりラジカル生成室400におけるプラズマの発生が促進される。このとき、磁石413、415によって形成される磁場の周りを運動する電子の電子サイクロトロン周波数とマイクロ波の周波数とが一致するように共振器を調整しておくことで、ECRによってプラズマの密度が高まるとともに安定化する。中心円筒管410の内部で生成された酸素ラジカル等のラジカルは、該中心円筒管410の末端の開口端から放出され、輸送管を通ってコリジョンセル132に供給される。
【0053】
上記のように原料ガスのプラズマからラジカルを生成すると、ラジカル生成領域の近傍が高温に(例えば100℃超に)なる。従来の質量分析装置に設けられたラジカル生成部では、その間、中心円筒管の外周に巻回されたヘリカルアンテナのうち、プラズマ生成領域の近傍に位置する部分が高温に曝され続け、プラズマの生成を繰り返すうちにその部分が徐々に酸化していく。その結果、プランジャ及びスリーブを介して外側導体に接続された位置でのヘリカルアンテナの電気抵抗が大きくなり、ECR共振回路における共振状態が変化してプラズマが良好に生成されず、ラジカルを安定して生成することができなくなっていた。
【0054】
また、ラジカル生成部においてラジカルを生成する際には、中心円筒管を真空状態にするため、中心円筒管の上端や下端はOリングなどを用いて気密に取り付けられる。Oリングは一般に樹脂製であり、熱に曝され続けると劣化して、中心円筒管の真空シールが不十分になってしまう。
【0055】
さらに、Q-TOF型の質量分析装置では、ラジカル生成部が接続されるコリジョンセルが第2分析室の近傍に位置しており、ラジカル生成部で発生した熱が真空チャンバの壁面を通じて第2分析室に伝達される。すると、第2分析室において真空チャンバの内壁面の近傍に位置するフライトチューブなどが熱膨張する。その結果、フライトチューブによって規定されるイオンの飛行経路が長くなり、イオンの飛行時間にずれが生じて質量精度の低下を引き起こす。
【0056】
特許文献2には、上記のような問題が生じることを回避するために、プラズマ生成領域の近傍に冷却ガスを導入することにより冷却する構成が記載されている。しかし、冷却ガス導入機構を組み込むと装置が大型化し、またコストも増大する。
【0057】
一方、本実施形態のラジカル生成部4では、外側導体412の内周面4121(中心円筒管410に面した面)やケーシング414の内面4141(中心円筒管410を臨む面)に輻射率を向上させる加工(例えば無電解黒Niメッキ処理、黒アルマイト処理、黒色電着塗装等による表面処理)が施されている。そのため、ラジカル生成領域で発生した熱が速やかに外側導体412やケーシング414に移動する。また、支柱部材441、プランジャ421、スリーブ424、第1調整ノブ431、第1回り止めナット432、第2回り止めナット433、第2調整ノブ434、天板部材442には、それぞれ、一般的に用いられるステンレス鋼よりも熱伝導率が高い材料からなるものが用いられている。そのため、これらの部材を経由して天板部材442に至る放熱経路からも高効率で外部に熱を放出することができる。このように、本実施形態では、中心円筒管410の内部のラジカル生成領域で発生した熱が速やかに外部へと放出されるため、追加の冷却機構を設けることなく、熱による上記の問題を解決することができる。
【0058】
外側導体412やケーシング414に開口部を設けて自然空冷によってラジカル生成領域で発生した熱を放出することも考えられる。しかし、その場合、中心円筒管410の内部に照射された深紫外光や原料ガスのプラズマから発せられる各種波長の光が本体部40の外部に放射され、特に紫外光によって人の眼を害する可能性がある。
【0059】
これに対し、本実施形態のラジカル生成部4では、上記のように高効率で熱を放出する経路を確保しつつ、外側導体412やケーシング414によってラジカル生成室400(中心円筒管410内部のラジカル生成領域)を覆っている。また、外側導体412の内周面4121(中心円筒管410に面した面)やケーシング414の内面4141(中心円筒管410を臨む面)に施されている、輻射率を向上させる加工は、中心円筒管410の内部から放出された光の反射や散乱を抑える機能を併せ持つ。また、光源417から中心円筒管410の内部に深紫外光を照射する領域では、プリント基板419の表面に遮光スポンジ4191が配置されている。さらに、プリント基板419の外側にも、光の反射を抑制する処理が施された内面511を有するカバー51が配されている。そのため、光源417から発せられラジカル生成室400の近傍で反射したり、中心円筒管410の内部で生成されたプラズマから放出されたりした、紫外光等の光が、プリント基板419の周縁部等から外部に漏れる心配がない。
【0060】
質量分析装置1を用いた測定を繰り返すうちにプリント基板419の劣化や不具合が生じた場合などには、カバー51を取り外し、プリント基板419を交換する等のメンテナンス作業が必要になる場合がある。こうした場合に、カバー51を取り外した状態で誤って光源417を点灯させてしまうと、該光源417から発せられる光が外部に放射され作業者の眼を害するおそれがある。本実施形態では、カバー51の開閉状態を検知するインターロック機構が設けられており、カバー51が閉じた状態にのみ光源417から光が照射されるため、カバー51を開けた状態で光源417から紫外光が照射されて本体部40の外部に照射される心配なく、作業者の安全を確保することができる。
【0061】
光源417から発せられる紫外光の反射光がプリント基板419に照射されるとプリント基板419が劣化するおそれがある。本実施形態では、光源417を囲うようにセラミックブッシュ4143を配置しているため、光源417からの光がプリント基板419に照射されてプリント基板419が劣化する心配がない。
【0062】
質量分析装置1の組み立て時や調整時、あるいはトラブル発生時などには、中心円筒管410の内部の状態を直接確認する必要がある。本実施形態では、のぞき穴531から、窓部材532を通して中心円筒管410の内部の状態を視認できるようになっている。また、窓部材532によって紫外光が遮断される。そのため、作業者の眼を害することなく安全にプラズマの生成状態などを視認することができる。
【0063】
上記実施形態は好ましい一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。
【0064】
上記実施形態において挙げた処理の内容や材料は一例であって、上記した機能が得られるものであれば任意に変更することができる。また、Q-TOF型の質量分離部を備えた質量分析装置1としたが、任意の質量分離部を用いることができる。また、上記実施形態では、液体試料からイオンを生成するESIプローブを備えたイオン源としたが、他の大気圧イオン源を用いることもできる。あるいは、真空雰囲気でイオンを生成するイオン源を用いてもよい。さらに、気体や固体の試料からイオンを生成するイオン源を用いることもできる。さらに、上記実施形態では、プリカーサイオンとラジカルを反応させるためにコリジョンセル132を用いたが、三次元イオントラップ等の他の反応室を用いてもよい。
【0065】
上記実施形態では、石英や酸化アルミニウムからなる中心円筒管410に紫外光を照射する光源417を用いたが、光源417を使用せずにプラズマを発生させてもよい。
【0066】
[態様]
上述した例示的な実施形態が以下の態様の具体例であることは、当業者には明らかである。
【0067】
(第1項)
本発明の一態様に係る質量分析装置は、
誘電体から成る管と、
前記管の外周に巻回された線状導電体から成るヘリカルアンテナと、
前記管の外側に該管と同軸に設けられた筒状の部材であって、内周面に輻射率向上処理が施されるとともに該内周面に導電領域が設けられた外側導体と、
前記管の内部空間に磁場を形成する磁場形成部と、
前記管と前記外側導体の間に挿入される、導電性を有する部材であって、前記線状導電体と前記導電領域を電気的に接続する接続部材と
を有するラジカル生成部を備える。
【0068】
第1項に係る質量分析装置のラジカル生成部では、誘電体から成る管の内部にラジカルの原料となるガスを供給するとともに、該管の外周に設けられたヘリカルアンテナにマイクロ波電力を供給し、原料ガス内にプラズマを生成して原料ガスのラジカルを生成する。また、磁場形成部により管の内部空間に磁場を形成し、外側導体の内周面に設けられた導電領域とヘリカルアンテナを構成する線状導電体を接続部材によって電気的に接続することによってECR共振回路を形成する。磁場形成部には、例えば、外側導体の外側に配置した永久磁石を用いることができる。第1項に係る質量分析装置では、管の外側に配置される外側導体の内周面に輻射率向上処理が施されており、該管から外側導体への放熱経路の熱抵抗が小さい。そのため、ラジカル生成領域で生じた熱が速やかに外側導体へと移動して外部に放出される。それにより、熱によるヘリカルアンテナの酸化が抑制され、原料ガスから安定してラジカルを生成することができる。また、第1項に係る質量分析装置では、冷却機構を用いないため、装置が大型化したりコストが増大したりすることもない。
【0069】
(第2項)
第2項に係る質量分析装置は、第1項に係る質量分析装置において、さらに、
前記管を保持する部材であって、ステンレス鋼よりも熱伝導率が高い材料で構成された枠部材と、
前記外側導体の一端と対向する位置に、前記管の中心軸に沿った方向の位置が固定され該中心軸周りに回転自在に前記枠部材に取り付けられた部材であって、前記管が挿通され内周面にネジ溝が形成された貫通孔が形成され、ステンレス鋼よりも熱伝導率が高い材料で構成された回転部材
を備え、
前記接続部材が、前記ヘリカルアンテナと前記外側導体の間隙に挿通され前記ヘリカルアンテナと前記外側導体を電気的に接続する部材であって、前記管の外側に該管と同軸に設けられ前記枠部材に対して周方向の位置が固定された、ステンレス鋼よりも熱伝導率が高い材料で構成された内筒体と、前記内筒体の外側に該内筒体と同軸に設けられた、ステンレス鋼よりも熱伝導率が高い材料で構成された外筒体とを有し、該内筒体及び外筒体の先端部に両者を押し当てることによってそれぞれが内方と外方に曲がる板ばね部が設けられ、前記内筒体の基端部の外周に前記ネジ溝に対応するネジ山が形成されている。
【0070】
第2項に係る質量分析装置では、ヘリカルアンテナと外側導体を接触させる位置を調整する際に、予め内筒体の基端部を回転部材の貫通孔に取り付けておく。そして、外筒体と内筒体の先端部を接触させた状態で、回転部材を回転させることにより内筒体を誘電体管の軸方向に進出させ、ヘリカルアンテナを外側導体と電気的に接触させてプラズマが良好に生成される位置を決定する。プラズマが良好に生成される位置を決定すると、外筒体を内筒体に対して軸方向に進出させて両者の先端に設けられた板ばね部をそれぞれ内方と外方に曲げて、内筒体をヘリカルアンテナに密着させ、外筒体を外側導体に密着させて固定する。第2項に係る質量分析装置では、外側導体に固定された枠部材に保持されることで誘電体管の中心軸に沿った方向に固定された回転部材によって内筒体の軸方向の位置が固定された状態で、外筒体を内筒体に対して軸方向に進出させるため、作業中に内筒体の位置ずれを生じさせることなく、ヘリカルアンテナと外側導体を電気的に接触させる位置を容易に微調整することができる。そして、ヘリカルアンテナと外側導体を電気的に接続させた状態で、ヘリカルアンテナから、内筒体、外筒体,回転部材,及び枠部材へと繋がる放熱経路が形成される。第2項に係る質量分析装置では、これらの部材をそれぞれステンレス鋼よりも熱伝導率が高い材料により構成しているため、この放熱経路を通じてラジカル生成領域で生じた熱を速やかに放出することができる。
【0071】
(第3項)
第3項に係る質量分析装置は、第1項又は第2項に係る質量分析装置において、さらに、
前記外側導体を保持する部材であって、内面に輻射率向上処理が施されたケーシング
を備える。
【0072】
第3項に係る質量分析装置では、ケーシングの内面にも輻射率向上処理が施されており、管からケーシングへの放熱経路の熱抵抗が小さい。そのため、ラジカル生成領域で生じた熱が速やかに外側導体へと移動して外部に放出される。
【0073】
(第4項)
第4項に係る質量分析装置は、第3項に係る質量分析装置において、さらに、
前記ケーシングに保持され、前記管のうち、前記ヘリカルアンテナが巻回された部分の内部空間に光を照射する光源と、
前記管の内部で発生するプラズマの発光を検出する光検出器と
を備える。
【0074】
第4項に係る質量分析装置では、光源から管に対して所定の波長帯域の光を照射する。この波長帯域は、管から電子を放出させることができる光の波長を含むものであり、その光は、例えば紫外光(より具体的には、例えば深紫外光)である。第4項に係る質量分析装置では、光源から光を照射することで管から該管の内部に電子を放出させ、プラズマの発生を促進することができる。また、光検出器を用いることでプラズマの発生状態を容易に確認することができる。
【0075】
(第5項)
第5項に係る質量分析装置は、第4項に係る質量分析装置において、
前記管の一端が、試料由来のイオンが導入される反応室に接続されており、
前記枠部材が、前記管の他端を囲うように設けられ、ステンレス鋼よりも熱伝導率が高い材料で構成されるとともに前記光源から発せられる波長帯域の光を遮光する蓋部材を備える。
【0076】
第5項に係る質量分析装置では、管の内部に照射された光が管の内部で反射を繰り返して他端に達した場合でもその光が外部に放射されることがない。特に光源から管に照射される光が紫外光である場合に、その光が外部に放射されて人の眼を害するのを防ぐことができる。
【0077】
(第6項)
第6項に係る質量分析装置は、第4項又は第5項に係る質量分析装置において、さらに、
前記光源及び前記光検出器が載置され、その載置面が前記管に対向配置された基板と、
前記載置面のうち、前記光源及び前記光検出器が載置された領域を除く領域に配置された、前記光源から発せられる波長帯域の光を遮光する第1遮光部材と
を備える。
【0078】
第6項に係る質量分析装置では、光源から発せられる光が基板の載置面上の隙間から外部に漏れるのを防ぐことができる。
【0079】
(第7項)
第7項に係る質量分析装置は、第6項に係る質量分析装置において、さらに、
前記光源を囲うように取り付けられる部材であって、該光源から発せられる波長帯域の光を遮光する第2遮光部材
を備える。
【0080】
第7項に係る質量分析装置では、光源から発せられた光が基板に照射されるのを防止することができる。前記基板には、例えばプリント基板が用いられる。特に、光源から管に照射される光が紫外光である場合に、紫外光がプリント基板に照射されることによって該プリント基板を構成する樹脂が劣化するのを防ぐことができる。
【0081】
(第8項)
第8項に係る質量分析装置は、第6項又は第7項のいずれかに係る質量分析装置において、さらに、
前記基板の前記載置面と反対側の面を囲うように配置され、該基板から着脱可能に設けられたカバー部材と、前記カバー部材の着脱状態を検知するセンサ部とを有し、前記センサ部によって前記カバー部材が装着された状態でのみ前記光源に電力を供給するインターロック機構
を備える。
【0082】
第8項に係る質量分析装置では、カバー部材が装着された状態でのみ光源に電力が供給されるため、基板を交換する等のメンテナンス作業を行った後などに、カバーが取り外された状態で光源から光が照射され、その光が外部に漏れるのを、より確実に防止することができる。
【0083】
(第9項)
第9項に係る質量分析装置は、第8項に係る質量分析装置において、
前記カバー部材が、前記光源から発せられる光の反射を低減する処理が施された内面を有する。
【0084】
第9項に係る質量分析装置では、光源から発せられる光が外部に漏れるのを防止することができる。特に、光源から発せられる光が紫外光である場合には、その紫外光によって人の眼が害されるのを防止することができる。
【0085】
(第10項)
第10項に係る質量分析装置は、第4項から第9項のいずれかに係る質量分析装置において、さらに、
前記ケーシングに設けられた開口であって、その一端が前記管のうち前記光源から光が照射される領域を臨むのぞき穴と、
前記のぞき穴に取り付けられ、前記光源から発せられる波長帯域の光を遮光し、該領域で発生するプラズマから発せられる光の波長帯域の少なくとも一部を透過する光学部材と
を備える。
【0086】
質量分析装置の組み立て時や調整時、あるいはトラブル発生時などに管の内部でのプラズマの状態を直接確認する必要がある。第10項に係る質量分析装置では、ケーシングに取り付けられた光学部材を介して管の内部を視認するため、作業者の眼を害することなく安全にプラズマの生成状態などを視認することができる。
【符号の説明】
【0087】
1…質量分析装置
10…イオン化室
100…真空チャンバ
101…ESIプローブ
11…第1中間真空室
12…第2中間真空室
13…第1分析室
131…四重極マスフィルタ
132…コリジョンセル
133…多重極イオンガイド
14…第2分析室
142…直交加速部
143…加速電極
144…リフレクトロン電極
145…イオン検出器
146…フライトチューブ
147…光検出器
4…ラジカル生成部
40…本体部
400…ラジカル生成室
410…中心円筒管
411…ヘリカルアンテナ
412…外側導体
4121…外側導体の内周面
413、415…磁石
414…ケーシング
4141…ケーシングの内面
4142…Oリング
4143…セラミックブッシュ
416…マイクロ波供給コネクタ
417…光源
418…光検出器
419…プリント基板
4191…遮光スポンジ
42…接続部材
421…プランジャ
4211…開口
4212…分割片
4213…テーパ部
422…天板部材
424…スリーブ
4241、4242…スリット
4243…分割片
431…第1調整ノブ
4311…本体部
4312…固定部
4313…貫通孔
432、433…ナット
434…第2調整ノブ
435…押さえ板
4351、4352…開口
4353…突起
44…枠部材
441…支柱部材
442…天板部材
443…ボルト
46…マイクロ波電源
48…原料ガス供給部
5…制御・処理部
51…カバー
511…内面
512…突起
52…マイクロスイッチ
521…本体部
522…突起(スイッチ)
531…のぞき穴
532…窓部材
533…カバー部材
6…入力部
7…表示部
C…イオン光軸