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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157110
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】引張試験用治具および矯正具
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/04 20060101AFI20241030BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20241030BHJP
   G01N 3/24 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
G01N3/04 P
G01N3/00 Q
G01N3/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071241
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122529
【弁理士】
【氏名又は名称】藤枡 裕実
(74)【代理人】
【識別番号】100135954
【弁理士】
【氏名又は名称】深町 圭子
(74)【代理人】
【識別番号】100119057
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英生
(74)【代理人】
【識別番号】100131369
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100171859
【弁理士】
【氏名又は名称】立石 英之
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 悠羽
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AA11
2G061AB01
2G061CA10
2G061CB01
2G061CB18
2G061CC11
2G061DA16
2G061EA01
2G061EB05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】試験の正確性を担保しつつ、できるだけ試験片の取り付けや試験治具の交換、調整が容易であり、試験治具の構成が単純である引張試験用治具を提供する。
【解決手段】第1片101および第2片102が接合された試験片100の引張強度を測定するための引張試験用治具1は、試験片100の、第1片101および第2片102のいずれか一方の端部を把持し、かつ引張方向に移動可能な第1ユニット2と、他方の端部を把持する第2ユニット3と、を備える。また引張試験用治具1は、試験開始時の試験片100から所定距離だけ離間した位置に引張方向に沿って延設され、第1ユニット2または第2ユニット3に固定される矯正具4をさらに備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1片および第2片が接合された試験片の引張強度を測定するための引張試験用治具であって、
前記試験片の、前記第1片および前記第2片のいずれか一方の端部を把持し、かつ引張方向に移動可能な第1ユニットと、
他方の端部を把持する第2ユニットと、
試験開始時の前記試験片から所定距離だけ離間した位置に前記引張方向に沿って延設され、前記第1ユニットまたは前記第2ユニットに固定される矯正具と、
を備えた、引張試験用治具。
【請求項2】
前記矯正具は、試験中に前記試験片が変形によって突出する側に延設される、請求項1に記載の引張試験用治具。
【請求項3】
前記矯正具は、前記第1ユニットまたは前記第2ユニットに着脱可能に固定された、
請求項1に記載の引張試験用治具。
【請求項4】
前記矯正具は、試験開始時の前記試験片の前記第1片および前記第2片の接着領域に対応する位置を含むように設けられている、請求項1に記載の引張試験用治具。
【請求項5】
前記矯正具は、前記引張方向に沿って延設される領域に、前記試験片の前記第1片または前記第2片の前記第1ユニットまたは前記第2ユニットで把持されない方の端部を挿入可能な開口を備える、請求項1に記載の引張試験用治具。
【請求項6】
前記矯正具は、前記開口を貫通した前記端部を、試験開始時の前記試験片の位置から離間する方向に向けて誘導する、前記開口と連通した誘導路をさらに備える、請求項5に記載の引張試験用治具。
【請求項7】
第1片および第2片が接合された試験片の引張強度を測定するための引張試験用治具に用いられる矯正具であって、
前記試験片の、前記第1片および前記第2片のいずれか一方の端部を把持し、かつ引張方向に移動可能な前記引張試験用治具の部位を第1ユニットとし、
他方の端部を把持する前記引張試験用治具の部位を第2ユニットとするとき、
前記第1ユニットまたは前記第2ユニットに固定することが可能であり、
前記固定した場合に、
試験開始時の前記試験片のうち、前記引張方向に沿う部分から所定距離だけ離間した位置に前記引張方向に沿って延設され、
前記引張方向に沿って延設される領域に、前記試験片の前記第1片または前記第2片の前記第1ユニットまたは前記第2ユニットで把持されない方の端部を挿入可能な開口を備える、矯正具。
【請求項8】
前記開口を貫通した前記端部を、試験開始時の前記試験片の位置から離間する方向に向けて誘導する、前記開口と連通した誘導路をさらに備える、請求項7に記載の矯正具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引張試験に用いられる引張試験用治具およびこれの構成部品である矯正具に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂積層体の層間接着強度である剥離強さを評価する方法として、例えばJIS K6854-2およびJIS K6854-3に定められる180度剥離およびT型剥離の各剥離強さ試験方法やこれに類似する方法が用いられている。180度剥離強さ試験は、測定対象となる長方形状の第1片および第2片の試験片を、接着剤を介して互いに接着させた後、第2片を180度に折り返して屈曲させる。このとき、第1片の接着されていない側の端部と第2片の接着されていない側の端部とが互いに逆方向を向くようにし、それぞれの端部を引張り試験用治具の可動部および固定部でチャッキングする。可動部は、固定部に対して引張方向に向けて所定速度で移動し、その際に試験片から受ける引張荷重をロードセルで測定する。
【0003】
また、T型剥離強さ試験は、測定対象となる長方形状の第1片および第2片の試験片を、接着剤を介して互いに接着させる。その後、第1片の接着されていない側の端部と第2片の接着されていない側の端部とが互いに逆方向を向くようにして、それぞれの端部を引張り試験用治具の可動部および固定部でチャッキングする。可動部は、固定部に対して引張方向に向けて所定速度で移動し、その際に試験片から受ける引張荷重をロードセルで測定する。このとき、第1片および第2片が互いに接着している領域は、引張方向に対して略直角方向に沿って配置されるため、試験中の第1片および第2片が文字通りT字型を構成する。
【0004】
このような引張試験では、試験片である第1片や第2片が可撓性のある変形自在な部材である場合は、引張方向とは異なる方向に試験片が変形したり移動する可能性が高い。例えば、上記の180度剥離強さ試験では、第2片が、屈曲した状態から元の真直ぐな状態に復帰する向きに試験片が変形する。すなわち、試験片の第1片および第2片の接着部分が引張方向とは垂直な方向に変形する。
【0005】
引張試験の最中に試験片が引張方向に対して異なる方向に向けて変形すると、引張方向に垂直な方向に外力成分が生じるため、引張強度が正確に測定できなくなる可能性がある。これに対して、特許文献1や特許文献2では、試験片が引張方向に沿ってのみ変形するように、リニアガイド機構やスライド機構を引張試験用治具に設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-035689号公報
【特許文献2】特開2019-174210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
引張試験は、樹脂積層体の量産時に抜き取り検査として頻繁に行われるため、試験の正確性を担保しつつ、できるだけ試験片の取り付けや試験治具の交換、調整が容易であり、試験治具の構成が単純であることが好ましい。
【0008】
本開示はこのような状況に鑑みてなされたものであり、試験の正確性を担保しつつ、できるだけ試験片の取り付けや試験治具の交換、調整が容易であり、試験治具の構成が単純である引張試験用治具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施の形態による、第1片および第2片が接合された試験片の引張強度を測定するための引張試験用治具の第1の構成は、前記試験片の、前記第1片および前記第2片のいずれか一方の端部を把持し、かつ引張方向に移動可能な第1ユニットと、他方の端部を把持する第2ユニットと、試験開始時の前記試験片から所定距離だけ離間した位置に前記引張方向に沿って延設され、前記第1ユニットまたは前記第2ユニットに固定される矯正具と、を備える。
【0010】
また、本実施の別の形態による、第1片および第2片が接合された試験片の引張強度を測定するための引張試験用治具の第2の構成は、上記の第1の構成において、前記矯正具は、試験中に前記試験片が変形によって突出する側に延設されてもよい。
【0011】
また、本実施の別の形態による、第1片および第2片が接合された試験片の引張強度を測定するための引張試験用治具の第3の構成は、上記の第1の構成または第2の構成において、前記矯正具は、前記第1ユニットまたは前記第2ユニットに着脱可能に固定されていてもよい。
【0012】
また、本実施の別の形態による、第1片および第2片が接合された試験片の引張強度を測定するための引張試験用治具の第4の構成は、上記の第1の構成から第3の構成のいずれかにおいて、前記矯正具は、試験開始時の前記試験片の前記第1片および前記第2片の接着領域に対応する位置を含むように設けられていてもよい。
【0013】
また、本実施の別の形態による、第1片および第2片が接合された試験片の引張強度を測定するための引張試験用治具の第5の構成は、上記の第1の構成から第4の構成のいずれか一つにおいて、前記矯正具は、前記引張方向に沿って延設される領域に、前記試験片の前記第1片または前記第2片の前記第1ユニットまたは前記第2ユニットで把持されない方の端部を挿入可能な開口を備えてもよい。
【0014】
また、本実施の別の形態による、第1片および第2片が接合された試験片の引張強度を測定するための引張試験用治具の第6の構成は、上記の第5の構成において、前記矯正具は、前記開口を貫通した前記端部を、試験開始時の前記試験片の位置から離間する方向に向けて誘導する、前記開口と連通した誘導路をさらに備えてもよい。
【0015】
本実施の形態による、第1片および第2片が接合された試験片の引張強度を測定するための引張試験用治具に用いられる矯正具の第7の構成は、前記試験片の、前記第1片および前記第2片のいずれか一方の端部を把持し、かつ引張方向に移動可能な前記引張試験用治具の部位を第1ユニットとし、他方の端部を把持する前記引張試験用治具の部位を第2ユニットとするとき、前記第1ユニットまたは前記第2ユニットに固定することが可能であり、前記固定した場合に、試験開始時の前記試験片のうち、前記引張方向に沿う部分から所定距離だけ離間した位置に前記引張方向に沿って延設され、前記引張方向に沿って延設される領域に、前記試験片の前記第1片または前記第2片の前記第1ユニットまたは前記第2ユニットで把持されない方の端部を挿入可能な開口を備える。
【0016】
また、本実施の別の形態による、第1片および第2片が接合された試験片の引張強度を測定するための引張試験用治具に用いられる矯正具の第8の構成は、上記の第7の構成において、前記開口を貫通した前記端部を、試験開始時の前記試験片の位置から離間する方向に向けて誘導する、前記開口と連通した誘導路をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本実施の形態によれば、試験の正確性を担保しつつ、できるだけ試験片の取り付けや試験治具の交換、調整が容易であり、試験治具の構成が単純である引張試験用治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第1実施形態に係る引張試験用治具の一例を説明する概略斜視図である。
図2】引張試験用治具の動作を示す正面図である。
図3】従来の引張試験用治具の動作を示す、図2に対応した正面図である。
図4】第1実施形態の変形例を説明する図2に対応した正面図である。
図5】第1実施形態の変形例を説明する図2に対応した正面図である。
図6】第2実施形態に係る引張試験用治具の一例を説明する概略斜視図である。
図7】引張試験用治具の動作を示す図2に対応した正面図である。
図8】矯正具およびこれの変形例を説明する側面図である。
図9】第2実施形態の変形例を説明する図7(a)に対応した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面等を参照して、本開示の引張試験用治具の一例について説明する。ただし、本開示の引張試験用治具は、以下に説明する実施形態に係る装置や方法には限定されない。
【0020】
なお、以下に示す各図は、模式的に示したものである。そのため、各部の大きさ、形状、断面図における各層の厚さ等は理解を容易にするために適宜誇張している。また、各図において部材の断面を示すハッチングを適宜省略する。本明細書中に記載する各部材の寸法等の数値および材料名は実施形態としての一例であり、これに限定されるものではなく適宜選択して使用することができる。本明細書において、形状や幾何学的条件を特定する用語、例えば平行や直交、垂直等の用語については、厳密に意味するところに加え、実質的に同じ状態も含むものとする。また、説明の便宜上、紙面に対して上方または下方等という語句を用いて説明することがあるが、上下方向が逆転してもよく、左右方向についても同様とする。
【0021】
1.本開示の第1実施形態
本開示の引張試験用治具の典型的な実施形態として第1実施形態について説明する。ここで、引張試験用治具1を説明する便宜上、XYZ座標系を設ける。引張試験用治具1において、試験片100の引張方向に沿ってZ軸を設ける。また、引張試験用治具1が試験片100をチャッキングする方向に沿ってX軸を設け、X軸およびZ軸にそれぞれ直交するようにY軸を設ける。引張試験は通常、引張方向を上下方向に設定するので、鉛直上方を+Z方向側、鉛直下方を-Z方向側とする。また、引張試験用治具1を正面から見たときの左側を-X方向側とし、右側を+X方向側とする。また、引張試験用治具1を正面から見たときの手前側を-Y方向側とし、奥側を+Y方向側とする。+Z方向、-Z方向を単に上方、下方と称し、-X方向、+X方向を単に左、右と称し、-Y方向、+Y方向を単に手前、奥と称することがある。
【0022】
引張試験は、接着剤を介して互いに接着した測定対象となる長方形状の第1片101および第2片102から構成された積層体の試験片100を所定条件で剥がすことにより、試験片100を剥がす際の荷重負荷を測定して層間接着強度である剥離強さを算出する試験である。引張試験の方法や条件を規格化したものとして、JIS K6854-2およびJIS K6854-3に定められる180度剥離およびT型剥離の各剥離強さ試験方法やこれに類似する方法が用いられている。
【0023】
図1は、第1実施形態に係る引張試験用治具1の概略斜視図であり、図2は、引張試験用治具1の動作を示す正面図である。図2(a)は引張試験開始時の図であり、図2(b)は引張試験中の図である。また、図3は、従来の引張試験用治具の動作を示す、図2に対応した正面図である。図1図2(a)に示すように、引張試験用治具1は、JIS K6854-2を参考とした180度剥離試験を行うための治具であり、試験片100を固定したり、引張ることができる。
【0024】
引張試験用治具1は、試験片100の、第1片101の上方の端部を把持し、かつ引張方向である上方に移動可能な第1ユニット2と、第2片102の下方の端部を把持する第2ユニット3と、を備える。第1ユニット2および第2ユニット3は、互いに分離されたユニットであり、その中心がZ軸に沿った直線L上に並ぶように配置される。第2ユニット3は固定部位であり、初期位置の微調整等の調整時以外は移動しない。他方、第1ユニット2は可動部位であり、引張試験中に試験片100を接着領域が剥がれるように所定速度で引張り上げながら移動する。
【0025】
第1ユニット2には図示しないロードセルが接続され、当該ロードセルは、第1ユニット2の移動に伴って生じる試験片100からの荷重負荷を随時測定する。当該荷重負荷は、試験片100の剥がれ難さ、すなわち層間接着強度の強さを表すものであり、これを所定の計算式に当てはめて剥離強さを算出する。
【0026】
また、引張試験用治具1は、第1ユニット2または第2ユニット3に固定される矯正具4をさらに備える。矯正具4は、試験開始時の試験片100から所定距離だけ離間した位置に、引張方向である上下方向に沿って延設される。典型的には、図2(a)に示すように、引張試験用治具1の正面視において、矯正具4は略L字型の部位であり、互いに略直交する平板部分の一方である矯正部41aおよび他方である固定部41bを有するフレーム41と、位置調整部42とを備える。矯正具4は、引張試験中に試験片100が変形によって突出する側に配置されることが好ましい。
【0027】
通常、矯正具4がない従来の引張試験用治具1pを用いて180度剥離試験を行う場合、図3(a)に示すように試験片100を第1ユニット2および第2ユニット3で把持した状態にセットしてから、第1ユニット2を直線Lに沿って上方に移動させる。このとき、試験片100の第1片101および第2片102の接着領域が徐々に剥がされていくが、第1片101および第2片102の接着力が剥がしに対する抵抗力として作用する。このため、図3(b)に示すように、両者の接着領域が-X方向側に飛び出すように試験片100が変形する。
【0028】
その結果、試験片100の第1片101および第2片102の接着領域の界面が引張方向に対して徐々に傾斜していくため、当該接着領域の界面が引張方向に対して平行である場合か、常に一定の角度を維持する場合と比較して、引張荷重と剥離強度との相関性が得られにくくなる。よって、再現性のある、正しい剥離強さの算出が困難となり得る。
【0029】
これに対して、本実施形態の引張試験用治具1は、前述した矯正具4をさらに備えている。図2(a)に示すように試験片100を第1ユニット2および第2ユニット3で把持した状態にセットしてから、第1ユニット2を直線Lに沿って上方に移動させる。このとき、試験片100の第1片101および第2片102の接着領域が徐々に剥がされていく。これに伴い、第1片101および第2片102の接着力が剥がしに対する抵抗力として作用する。このため、矯正具4がない場合には、図3(b)に示すように、両者の接着領域が-X方向側に飛び出すように試験片100が変形することとなる。
【0030】
しかしながら、本実施形態の引張試験用治具1は、引張方向である上下方向に沿って延設される矯正具4を備えている。よって、試験片100の第1片101および第2片102の接着領域が徐々に剥がされていっても、試験片100の-X方向側が矯正具4によって支えられるため、試験片100の変形を抑制できる。本実施形態によれば、試験の正確性を担保しつつ、できるだけ試験片の取り付けや試験治具の交換、調整が容易であり、試験治具の構成が単純である引張試験用治具を提供できる。以下に、引張試験用治具1の各構成部位の詳細を説明する。
【0031】
[a]引張り試験用治具の構成
[i]第1ユニット
第1ユニット2は、試験片100の第1片101の上方の端部を把持し、かつ引張方向である上方に移動可能な部位である。第1ユニット2は、図2(a)に示すように、典型的には正面視で外形形状が略C字型または略コの字型であるブロック21と、当該ブロック21に固定され、試験片100を把持したり開放できるチャッキング部位である把持部22と、を備える。また、第1ユニット2は、当該把持部22のチャッキング有無や程度を調整する調整部23を備える。典型的には、把持部22はブロック21の略C字型または略コの字型の凹部に設けられる。また調整部23は、把持部22の移動軸に沿ってブロック21の外側面に張り出すように設けられる。
【0032】
把持部22および調整部23は、例えばねじ機構で構成され、調整部23のつまみを所定方向に回転させることにより、把持部22の一対の把持片のチャッキングの間隔が調整できる。これにより、試験片100の第1片101の厚さの変化に対応して適切にこれを把持片で挟み込んでチャッキングしたり、開放することができる。第1ユニット2は、試験片100の引張荷重を測定するためのロードセルをさらに内蔵しており、引張試験機は、当該ロードセルを介して引張り試験用治具1の第1ユニット2の移動に伴う引張荷重値のプロファイルデータを収集できる。
【0033】
ブロック21、把持部22および調整部23は、比較的剛性のあるステンレスや鉄等の各種金属部材を好適に使用できる。把持部22および調整部23によるチャッキング機構は、ねじ機構に限らず、公知のクランプ機構を使用できる。第1ユニット2は、引張方向である上方に所定速度で移動可能であるため、典型的にはボールねじおよびリニアガイドが組み合わされた駆動機構に取り付けられている。サーボモータやステッピングモータでボールねじの回転量や回転速度を制御することで、第1ユニット2は任意の移動速度、移動量で精度よく上下に移動できる。
【0034】
[ii]第2ユニット
第2ユニット3は、試験片100の第2片102の下方の端部を把持する部位であり、第1ユニット2のように引張方向には移動しない。第2ユニット3は、典型的には第1ユニット2と同様の構成、形状である、ブロック31、把持部32および調整部33を備えている。ただし、第2ユニット3は第1ユニット2と同様の構成、形状でなくてもよい。
【0035】
[iii]矯正具
矯正具4は、前述の通り、引張試験中に試験片100が引張方向とは別の方向に変形することを抑制し、引張試験の測定精度の低下を抑制するための試験片の矯正用の治具である。矯正具4は、引張試験中に試験片100が変形によって突出する側である試験片100の-X方向側であって、試験開始時の試験片100から所定距離だけ離間した位置に、引張方向である上下方向に沿って延設されることが好ましい。矯正具4が引張試験中に試験片100が変形によって突出する側に設けられることにより、矯正具4が効果的に試験片100の変形を抑制できる。矯正具4は、典型的には引張試験用治具1の正面視において略L字型の部位であり、互いに略直交する平板部分の一方である矯正部41aおよび他方である固定部41bを有するフレーム41と、位置調整部42とを備える。
【0036】
矯正具4は前述の通り、引張試験中に試験片100が引張方向とは別の方向に変形することを抑制し、引張試験の測定精度の低下を抑制するための試験片の矯正用の治具である。矯正具4は、引張試験中に試験片100が変形によって突出する側である試験片100の-X方向側であって、試験開始時の試験片100から所定距離だけ離間した位置に、引張方向である上下方向に沿って延設されることが好ましい。矯正具4が引張試験中に試験片100が変形によって突出する側に設けられることにより、矯正具4が効果的に試験片100の変形を抑制できる。すなわち、変形した試験片100が矯正具4に当接し、変形が押さえられるため、それ以上の試験片100の変形が抑制できる。
【0037】
矯正具4は、典型的には引張試験用治具1の正面視において略L字型の部位であり、互いに略直交する平板部分の一方である矯正部41aおよび他方である固定部41bを有するフレーム41と、位置調整部42とを備える。
【0038】
引張試験中に試験片100が変形によって突出する側は、その試験片の構成や試験方法によって異なり得る。例えば図1図2では、180度剥離試験に供される試験片100の第1片101が引張方向であるZ軸方向に沿って配置される。また、第1片101の+X方向側に、先端が略180度に屈曲形成された第2片102が配置される。さらに、第2片102の屈曲された先端が第1片101と接着されている。
【0039】
このとき、前述したように、矯正具4がない従来の引張試験用治具1pを用いて180度剥離試験を行ったとした場合、第1片101および第2片102の接着力が剥がしに対する抵抗力として作用する。このため、図3(a)および図3(b)に示すように、両者の接着領域が-X方向側に飛び出すように試験片100が変形する。この場合の引張試験中に試験片100が変形によって突出する側は、接着領域における屈曲形成された先端の第2片102から第1片101に向かう側、すなわち-X方向側となる。
【0040】
これに対して、本実施形態の引張試験用治具1では、同様の試験を行った場合、第1片101および第2片102の接着力が剥がしに対する抵抗力として作用する。しかし、図3(b)に示すように、引張試験実施中にも矯正具4が、両者の接着領域が-X方向側に飛び出すように変形しようとする試験片100の変形を効果的に矯正する。矯正具4は、引張試験中に試験片100が変形によって突出する側である-X方向側に配置することが効果的である。
【0041】
矯正具4のうち、引張方向である上下方向に沿って延設される矯正部41aは、試験開始時の試験片100から-X方向側に所定距離だけ離間して配置される。当該距離は、試験片100を構成する第1片101や第2片102の厚さや樹脂の材質、曲げに対するこしの強さ等により定まる変形量を想定して決められる。当該距離は、例えば0.1mm以上、50.0mm以下であることが好ましく、0.5mm以上、10.0mm以下であることがさらに好ましい。
【0042】
所定距離が前者の範囲であることにより、試験片100の材質や厚さの違いに関わらず、引張試験用治具1を同一条件で調整でき、引張試験用治具1への試験片100の取り付けや取り外しの作業性が向上する。また、試験中の試験片100の過度な変形が抑制でき、引張試験の測定精度の低下が抑制できる。一方、所定距離が後者の範囲であることにより、試験片100が、試験開始時には確実に矯正具4から離間し、かつ試験中の試験片100の変形が極力抑制でき、引張試験の測定精度の低下が一層抑制できる。
【0043】
矯正部41aと試験開始時の試験片100との離間距離である所定距離の設定は、位置調整部42により固定部41bと第2ユニット3との相対位置を変更することで調整できる。図1に示すように、位置調整部42は、典型的には固定部41bに設けられた長孔と、第2ユニット3側に設けられたねじ孔とを結合するボルトで構成され、長孔に挿入するボルトの位置を変更することで、固定部41bと第2ユニット3との相対位置が調整できる。ただし、位置調整部42はこのようなねじ固定方式に限定されず、磁石や吸盤等による固定でもよく、クランプ治具による圧接方式の固定でもよい。
【0044】
矯正具4は、第1ユニット2または第2ユニット3に着脱可能に固定される構成であることが好ましい。こうすることで、試験の種類や試験片100の大きさ、材料の違い等によって適宜矯正具4の形状や大きさが異なるものへの交換が容易となる。その結果、試験の種類や試験片100に応じた最適な矯正具4を選択して適用させることができる。
【0045】
また、矯正具4は、試験開始時の試験片100の第1片101および第2片102の接着領域に対応する位置を含むように設けられていることが好ましい。第1片101および第2片102の接着領域に対応する位置とは、第1片101および第2片102の接着領域が形成する界面に垂直な方向に沿って、矯正具4の一部が当該接着領域と重畳するような矯正具4の位置を指す。本実施形態では、当該接着領域が形成する面はYZ平面に沿って延びており、当該接着領域が形成する面に垂直な方向はX軸に沿う方向となる。両者の重畳面積の値は、当該接着領域の面積の値の20%以上、100%以下であることが好ましく、30%以上、80%以下であることがさらに好ましい。
【0046】
前者の範囲であることにより、試験中の試験片100の変形が好適に抑制され、引張試験の測定精度の低下が抑制できる。また、後者の範囲であることにより、試験中の試験片100の変形の抑制と、矯正具4の小型化が両立でき、引張試験に伴う作業者の作業性が向上する。
【0047】
[b]引張試験の実施方法
本実施形態の引張試験用治具1を用いた引張試験の実施方法を説明する。なお、引張試験として180度剥離試験を例示する。まず、試験片100を準備する。試験片100は剛性が比較的大きい略矩形状の第1片101の一端に、剛性が比較的小さい略矩形状の第2片102の一端を、接着剤を介して接着することにより形成される。ただし、第1片101の他端と略180度に屈曲させた第2片102の他端とが、互いに逆方向を向くように、第1片101の一端と第2片102の一端とが接合される。
【0048】
次に試験片100の、第2片102との接合側とは反対の第1片101の端部を第1ユニット2にて把持させる。具体的には、正面視で外形形状が略C字型または略コの字型であるブロック21の間に配置されるチャッキング部位である把持部22の、一対の把持片を互いに離間するように調整部33を調整する。ここで、第1片101の端部を把持部22の一対の把持片の間に挟み込み、調整部23を調整して把持片同士の間隔を狭め、把持片が第1片101の端部を確実に把持できていることを確認する。
【0049】
その後、同様に試験片100の、第1片101との接合側とは反対の第2片102の端部を第2ユニット3にて把持させる。具体的には、正面視で外形形状が略C字型または略コの字型であるブロック31の間に配置されるチャッキング部位である把持部32の、一対の把持片を互いに離間するように調整部33を調整する。ここで、第1片101の端部を把持部22の一対の把持片の間に挟み込み、調整部33を調整して把持片同士の間隔を狭め、把持片が第1片101の端部を確実に把持できていることを確認する。
【0050】
次に、第2ユニット3のブロック31の上端部に、矯正具4を固定する。あるいは矯正具4が固定された第2ユニット3において、矯正具4の位置調整を行う。具体的には第2ユニット3のブロック31の上端に、ねじ孔が形成されている。このブロック31の上端のXY平面と略平行な面上に、矯正具4のフレーム41のうちの固定部41bを載置し、位置合わせをした上でボルトを締め、矯正具4を第2ユニット3に対して固定する。このとき、矯正具4の引張方向に沿って延設される矯正部41aは、前述したような試験開始時の試験片100から-X方向側に所定距離だけ離間して配置される。
【0051】
このように、引張試験用治具1の第1ユニット2および第2ユニット3により試験片100の両端が把持され、適切な位置に第2ユニット3に固定された矯正具4が配置された状態で、引張試験を開始する。第1ユニット2が、引張方向に沿って所定速度で上昇し、試験片100を、第1片101および第2片102の接着領域が剥がれる方向に引張る。その際の、第1ユニット2に掛かる引張荷重に対応する電流値または電圧値をロードセルにて出力し、時間軸に対する引張荷重値のプロファイルデータを収集することで所望の引張試験のデータ取りを行う。
【0052】
[c]本実施形態の引張試験用治具
本実施形態の引張試験用治具1は、第1片101および第2片102が接合された試験片100の引張強度を測定するための治具である。引張試験用治具1は、試験片100の、第1片101および第2片102のいずれか一方の端部を把持し、かつ引張方向に移動可能な第1ユニット2、他方の端部を把持する第2ユニット3と、を備える。また、引張試験用治具1は、試験開始時の試験片100から所定距離だけ離間した位置に引張方向に沿って延設され、第1ユニット2または第2ユニット3に固定される矯正具4をさらに備えている。
【0053】
上記のような試験片100に対する引張試験として、例えば180度剥離試験を行った場合、試験片100の第1片101および第2片102の接着領域が徐々に剥がされていく。これに伴い、第1片101および第2片102の接着力が剥がしに対する抵抗力として作用する。このため、矯正具4がない場合には、図3(b)に示すように、両者の接着領域が-X方向側に飛び出すように試験片100が変形することとなる。
【0054】
しかしながら、本実施形態の引張試験用治具1は、引張方向である上下方向に沿って延設される矯正具4を備えている。よって、試験片100の第1片101および第2片102の接着領域が徐々に剥がされていっても、試験片100の-X方向側が矯正具4によって当接され支えられるため、試験片100の変形を抑制できる。本実施形態によれば、試験の正確性を担保しつつ、できるだけ試験片の取り付けや試験治具の交換、調整が容易であり、試験治具の構成が単純である引張試験用治具を提供できる。
【0055】
2.第1実施形態の変形例
本開示の引張試験用治具の典型的な実施形態として第1実施形態について説明したが、さらに、第1実施形態の変形例について説明する。図4(a)、図4(b)、図4(c)および図5(a)、図5(b)は、変形例に係る引張試験用治具を示す図2(a)に対応する正面図である。ここで、第1実施形態の引張試験用治具1は、第1ユニット2が、試験片100の第1片101の端部を把持し、第2ユニット3が、試験片100の第2片102の端部を把持するものとした。ここで、第1ユニット2は、試験片100の端部を把持し、かつ引張方向に移動可能なユニットであり、第2ユニット3は、試験片100の端部を把持し、かつ引張方向に移動不可能なユニットである。
【0056】
また、試験片100は剛性が比較的大きい略矩形状の第1片101の一端に、剛性が比較的小さい略矩形状の第2片102の一端を、接着剤を介して接着することにより形成されたものである。なお、第1片101の他端と略180度に屈曲させた第2片102の他端とが、互いに逆方向を向くように、第1片101の一端と第2片102の一端とが接合されている。
【0057】
本開示の引張試験用治具1は、このようなものだけではない。例えば、変形例1に係る引張試験用治具1は、図4(a)に示すように、略180度に屈曲させた第1片103の他端と第2片104の他端とが、互いに逆方向を向くように、第1片103の一端と第2片104の一端とが接合されている試験片100にも適用され得る。このとき、第1ユニット2は第1片103の上方の他端を把持し、第2ユニット3は第2片104の下方の他端を把持する。この場合でも、矯正具4は、第1片103および第2片104の接着領域が-X方向側に飛び出すように変形しようとする試験片100の変形を効果的に矯正する。矯正具4は、第1実施形態と同様、引張試験中に試験片100が変形によって突出する側である-X方向側に配置することが効果的である。
【0058】
また、変形例2に係る引張試験用治具1aは、図4(b)に示すように、試験片100は、第1実施形態と同様に、第1片101および第2片102から構成されるが、矯正具4が、第2ユニット3にではなく、第1ユニット2に固定されているものである。この場合でも、矯正具4は、第1片101および第2片102の接着領域が-X方向側に飛び出すように変形しようとする試験片100の変形を効果的に矯正する。矯正具4は、第1実施形態と同様、引張試験中に試験片100が変形によって突出する側である-X方向側に配置することが効果的である。
【0059】
この変形例2では、第1ユニット2のブロック21の下端部に、矯正具4を固定する。具体的には第1ユニット2のブロック21の下端に、ねじ孔が形成されている。このブロック21の下端のXY平面と略平行な面の下に、矯正具4のフレーム41のうちの固定部41bを当接させ、位置合わせをした上でボルトを締め、矯正具4を第1ユニット2に対して固定する。
【0060】
また、変形例3に係る引張試験用治具1aは、図4(c)に示すように、変形例1および変形例2を併せ持ったものとなる。すなわち、略180度に屈曲させた第1片103の他端と第2片104の他端とが、互いに逆方向を向くように、第1片103の一端と第2片104の一端とが接合されている試験片100に適用される。さらに矯正具4が、第2ユニット3にではなく、第1ユニット2に固定されている。この場合でも、矯正具4は、第1片103および第2片104の接着領域が-X方向側に飛び出すように変形しようとする試験片100の変形を効果的に矯正する。矯正具4は、第1実施形態と同様、引張試験中に試験片100が変形によって突出する側である-X方向側に配置することが効果的である。
【0061】
さらに、変形例4に係る引張試験用治具1bは、図5(a)に示すように、試験片100は、第1実施形態と同様に、第1片101および第2片102から構成される。変形例4では、矯正具4aが第1ユニット2のブロック21にではなく、試験片100と一緒に把持部22に把持されているものである。この場合、引張試験用治具1の正面視において、矯正具4aは略L字型ではなく略平板状または略矩形状の部位である。なお、矯正具4aは、把持部22に把持されるのではなく、下端部以外のブロック21のいずれかの箇所に固定されていてもよい。
【0062】
また、変形例5に係る引張試験用治具1cは、図5(b)に示すように、試験片100が第1実施形態と同様に第1片101および第2片102から構成される。しかし、矯正具4bが、第2ユニット3の把持部32に、試験片100と一緒に把持されているものである。この場合、引張試験用治具1の正面視において、矯正具4bは略L字型ではなく段付き平板状または略Z字型の部位である。引張方向に沿った矯正部41dおよび固定部41eは、互いに段を挟んで同一平面上ではなく略平行な部位であり、固定部41e側が把持部32に把持される。なお、矯正具4bは、把持部32に把持されるのではなく、下端部以外のブロック31のいずれかの箇所に固定されていてもよい。これら変形例1乃至5のいずれについても、第1実施形態と同様の作用効果を有することは言うまでもない。
【0063】
3.本開示の第2実施形態
次に、本開示の引張試験用治具の別の典型的な実施形態として第2実施形態について説明する。図6は、第2実施形態に係る引張試験用治具1dの概略斜視図であり、図7は、引張試験用治具1dの動作を示す正面図である。図6図1に対応する図であり、図7図2に対応する図である。図7(a)は引張試験開始時の図であり、図7(b)は引張試験中の図である。また、図8(a)は、図7(a)の正面図において、これを+X方向側から見た引張試験用治具1dの側面図である。
【0064】
引張試験用治具1dは、矯正具4cの構成以外については、第1実施形態の引張試験用治具1と同様の構成である。矯正具4cは、引張方向に沿って延設される領域に、試験片100の第1片101または第2片102の第1ユニット2または第2ユニット3で把持されない方の端部を挿入可能な開口41fを備える。この点が、引張試験用治具1とは異なっている。
【0065】
180度剥離試験に供される試験片100は、剛性が比較的大きい略矩状の第1片101の一端に、剛性が比較的小さい略矩状の第2片102の一端を、接着剤を介して接着することにより形成される。ただし、第1片101の他端と略180度に屈曲させた第2片102の他端とが、互いに逆方向を向くように、第1片101の一端と第2片102の一端とが接合される。ところで、第1片101の一端と第2片102の一端との接着領域を大きくとった場合は、これらの接着された一端同士の距離が長くなり、第2ユニット3等にぶつかって変形することがある。このとき、第1片101の一端と第2片102の一端との接着領域の面が引張方向に対して傾くことで、正確な引張強度の測定ができなくなるおそれがある。
【0066】
これに対して、本実施形態の引張試験用治具1dの矯正具4cは、引張方向に沿って延設される領域に、試験片100の第1片101または第2片102の第1ユニット2または第2ユニット3で把持されない方の端部を挿入可能な開口41fを備える。ここで、接着領域を形成する第1片101または第2片102の一端の余剰部分が、当該開口41fを貫通して挿入される。これにより、その進路が引張方向に対して傾斜した方向に曲げられる。その結果、測定中である、第1片101の一端と第2片102の一端との接着領域の面が引張方向に沿うことを確実にしながら、その余剰部分を、当該開口41fを通じて引張方向とは異なる方向に逃がすことができる。
【0067】
上記を示したのが図7(a)および図7(b)である。試験開始時に、図7(a)に示すように、接着領域を形成する第1片101または第2片102の一端の余剰部分を、当該開口41fに挿入する。その結果、図7(b)に示すように、第1ユニット2を上昇させて引張試験を進行した場合、第1片101の一端と第2片102の一端との接着領域の面は引張方向に沿っているため、正確な引張試験が継続できる。また、試験片100の余剰部分を、当該開口41fを通じて引張方向とは異なる方向に逃がしている状態は変わらず、測定に関わる試験片100の部分の変形等が効果的に抑制されている。
【0068】
なお、引張試験用治具1dを側面視した際の矯正具4cの開口41fの形状は、典型的には図8(a)に示すように、略矩形の孔である。図8(a)のうち矯正具4cのみを表示したものが図8(b)である。孔の形状は略矩形に限らず、略円形、略楕円形、略長円形、略多角形でもよい。開口41fの形状がこのような孔であることにより、試験片100の余剰部分が確実に開口41fに挿入され、不用意な試験片100の変形による測定精度の低下が抑制できる。
【0069】
ただし、開口41fは孔ではなくて一端が開放された切欠きであってもよい。図8(c)は、開口が切り欠きである開口41gを備えた矯正具4dを表示した図8(b)に対応する図である。矯正具4dは、切り欠きである開口41gを備えることにより、引張試験を行う際の試験片100のセッティングの作業性が、開口が孔である場合よりも向上する。
【0070】
さらに、引張試験用治具を側面視した際の矯正具の外形形状は全体が同一幅の略矩形ではなく、固定部41bとは反対側の開口41gの上方の矯正部が幅の狭い矯正部41hであるものとしてもよい。図8(d)は、開口が切り欠きである開口41gを備え、さらに上方に幅の狭い矯正部41hを備えた矯正具4eを表示した図8(b)に対応する図である。矯正部41hが側面視した際の矯正具4eの略中央部分に配置されている限り、引張試験中の試験片100の変形抑止の矯正効果は十分果たされるため、引張試験を行う際の試験片100のセッティングの作業性の向上や矯正具4eの小型化、低コスト化等において有利である。
【0071】
[b]引張試験の実施方法
本実施形態の引張試験用治具1dを用いた引張試験の実施方法を説明する。なお、引張試験として180度剥離試験を例示する。第1実施形態との相違点を中心に説明する。まず、試験片100を準備する。第1片101の他端と略180度に屈曲させた第2片102の他端とが、互いに逆方向を向くように、第1片101の一端と第2片102の一端とが接合されるが、両方の一端同士の接着領域または非接着領域としての余剰部分が比較的大きいものを想定する。
【0072】
次に試験片100の、第2片102との接合側とは反対の第1片101の端部を第1ユニット2にて把持させる。その後、同様に試験片100の、第1片101との接合側とは反対の第2片102の端部を第2ユニット3にて把持させる。次に、第2ユニット3のブロック31の上端部に、矯正具4を固定する。あるいは矯正具4が固定された第2ユニット3において、矯正具4の位置調整を行う。このとき、矯正具4の引張方向に沿って延設される矯正部41aは、前述したような試験開始時の試験片100から-X方向側に所定距離だけ離間して配置される。
【0073】
ここで、試験片100のうち、第1片101の一端と第2片102の一端とが接合された接着領域またはその先の非接着領域としての余剰部分を、図7(a)等に示すように、矯正具4cの開口41fを貫通させるように挿入する。このように、引張試験用治具1の第1ユニット2および第2ユニット3により試験片100の両端が把持され、適切な位置に第2ユニット3に固定された矯正具4が配置された状態で、引張試験を開始する。第1ユニット2が、引張方向に沿って所定速度で上昇し、試験片100を、第1片101および第2片102の接着領域が剥がれる方向に引張る。その際の、第1ユニット2に掛かる引張荷重に対応する電流値または電圧値をロードセルにて出力し、時間軸に対する引張荷重値のプロファイルデータを収集することで所望の引張試験のデータ取りを行う。
【0074】
試験片100の第1片101の一端と第2片102の一端との接着領域の面は引張方向に沿っているため、正確な引張試験が継続できる。また、試験片100の余剰部分を、当該開口41fを通じて引張方向とは異なる方向に逃がしている状態は変わらず、測定に関わる試験片100の部分の変形等が効果的に抑制される。その結果、試験片100の余剰部分が確実に開口41fに挿入され、不用意な試験片100の変形による測定精度の低下が抑制できる。
【0075】
[c]本実施形態の引張試験用治具
本実施形態の引張試験用治具1dは、第1片101および第2片102が接合された試験片100の引張強度を測定するための治具である。引張試験用治具1dは、試験片100の、第1片101および第2片102のいずれか一方の端部を把持し、かつ引張方向に移動可能な第1ユニット2と、他方の端部を把持する第2ユニット3と、を備える。また、引張試験用治具1dは、試験開始時の試験片100から所定距離だけ離間した位置に引張方向に沿って延設され、第1ユニット2または第2ユニット3に固定される矯正具4cを、さらに備える。ここで、矯正具4cは、引張方向に沿って延設される領域に、試験片100の第1片101または第2片102の第1ユニット2または第2ユニット3で把持されない方の端部を挿入可能な開口41fを備えている。
【0076】
これにより、試験片100の第1片101の一端と第2片102の一端との接着領域の界面が引張方向に沿った状態で正確な引張試験が継続できる。また、試験片100の余剰部分を、開口41fを通じて引張方向とは異なる方向に逃がすことで、測定に関わる試験片100の部分の変形等を効果的に抑制できる。その結果、試験片100の余剰部分が確実に開口41fに挿入され、不用意な試験片100の変形による測定精度の低下が抑制できる。
【0077】
[d]本実施形態の変形例
本実施形態の変形例として引張試験用治具1eを挙げることができる。図9は、引張試験用治具1eの正面図であり、図7(a)に対応する。引張試験用治具1eの矯正具4fは、引張方向に沿って延設される領域に、試験片100の第1片101または第2片102の第1ユニット2または第2ユニット3で把持されない方の端部を挿入可能な開口41fを備える。ここで、接着領域を形成する第1片101または第2片102の一端の余剰部分が、当該開口41fを貫通して挿入される。これにより、その進路が引張方向に対して傾斜した方向に曲げられる。さらに、矯正具4fは、開口41fを貫通した端部を、試験開始時の試験片100の位置から離間する方向に向けて誘導する、開口41fと連通した誘導路41iをさらに備える。本実施形態では、誘導路41iの試験片100の誘導方向は引張方向と略垂直な-X方向に対して下方側、すなわち-Z方向側に傾斜した方向である。
【0078】
誘導路41iの試験片100の誘導方向は引張方向と略垂直な-X方向に対して下方側、すなわち-Z方向側に傾斜した方向、すなわち誘導路41iの延在方向は、試験片100の引張方向と略垂直な-X方向に対して下方側に0度以上、60度以下で傾斜していてもよい。この範囲で傾斜角度をほぼ一定に維持できることにより、引張試験中の試験片100から生じる引張荷重の測定が安定的にかつ正確に行える。
【0079】
矯正具4fは、引張方向に沿う平板部分である矯正部41a、これと略直交し第2ユニット3と当接させるための固定部41b、および矯正部41aと略直交する方向よりも下方側に傾斜した方向に、開口41fから連通した孔を取り囲むように延在する誘導路41iから構成される。このとき、第1ユニット2を上昇させて引張試験を進行しても、第1片101の一端と第2片102の一端との接着領域の界面は、安定して引張方向に略垂直な方向に対して下方側に傾斜した方向に安定して沿っているため、比較的正確な引張試験が継続できる。また、試験片100の余剰部分を、当該開口41fおよび誘導路41iを通じて引張方向とは異なる方向に逃がしている状態は変わらず、測定に関わる試験片100の部分の変形等が効果的に抑制される。
【0080】
なお、引張試験用治具1eを側面視した際の矯正具4fの誘導路41iの内部空間の輪郭形状は、開口41fの形状と同様に、典型的には略矩形の孔である。孔の形状は略矩形に限らず、略円形、略楕円形、略長円形、略多角形でもよい。誘導路41iの内部空間の輪郭形状がこのような孔であることにより、試験片100の余剰部分が確実に開口41fおよび誘導路41iに挿入され、不用意な試験片100の変形による測定精度の低下が一層抑制できる。
【0081】
ただし、誘導路41i内部空間の輪郭は孔ではなくて一端が開放された切欠きであってもよい。矯正具4fは、内部空間が切り欠きである開口および誘導路を備えることにより、引張試験を行う際の試験片100のセッティングの作業性が、開口や誘導路が孔を有する場合よりもはるかに向上する。
【0082】
なお、各実施形態や変形例の矯正具は、単体部品として流通が可能であり、様々な矯正具のない市販の引張試験用治具に当該矯正具をさらに取り付けて使用することで、本開示の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0083】
1、1a、1b、1c、1d 引張試験用治具
1p 従来の引張試験用治具
2 第1ユニット
3 第2ユニット
4、4a、4b、4c、4d、4e、4f 矯正具
21 ブロック
22 把持部
23 調整部
31 ブロック
32 把持部
33 調整部
41 フレーム
41a、41c、41d、41h 矯正部
41b 固定部
41f、41g 開口
41i 誘導路
42 位置調整部
100 試験片
101、103、105 第1片
102、104、106 第2片
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9