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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157111
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 41/00 20060101AFI20241030BHJP
   G01D 5/16 20060101ALI20241030BHJP
   G01D 5/245 20060101ALI20241030BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20241030BHJP
   F16C 19/52 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
F16C41/00
G01D5/16 V
G01D5/245 110B
G01D5/245 110L
F16C19/18
F16C19/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071245
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴 真人
【テーマコード(参考)】
2F077
3J217
3J701
【Fターム(参考)】
2F077AA20
2F077NN03
2F077NN21
2F077PP14
2F077QQ05
3J217JA02
3J217JA12
3J217JA13
3J217JA14
3J217JA24
3J217JA33
3J217JA36
3J217JA38
3J217JB14
3J217JB26
3J217JB34
3J217JB56
3J217JB64
3J217JB84
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA80
3J701EA01
3J701FA25
3J701FA26
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】内方部材に作用する荷重をより正しく求める。
【解決手段】車輪用軸受装置10が有する処理装置18は、波形信号に基づいて、センサロータ17についての、第一のセンサ7Aの第一検出位置及び第二のセンサ7Bの第二検出位置それぞれにおける回転角度を求める角度検出処理と、前記第一検出位置と前記第二検出位置とにおける前記回転角度の差に基づいてセンサロータ17の変位量を求める変位演算処理と、前記回転角度からセンサロータ17の角速度を求める角速度演算処理と、前記角速度に応じて、信号に含まれる高次成分を減衰させるためのフィルタ特性を設定する特性設定処理と、前記変位量を示す信号に対して前記フィルタ特性によるフィルタ処理を行い、補正後の変位量を求める高次成分補正処理と、補正された変位量から内方部材11に作用する荷重を求める荷重演算処理とを実行可能である。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側に固定される外方部材と、
前記外方部材の中心軸回りに回転する内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との間に転動自在となって設けられている転動体と、
前記内方部材と一体回転するセンサロータ、及び、前記外方部材に設けられ前記センサロータを検出対象とする第一のセンサ及び第二のセンサを有するセンサ装置と、
前記センサ装置から出力される信号を処理する処理装置と、を備え、
前記外方部材に対して前記内方部材が変位すると、前記第一のセンサは、位相が遅れた周期的な波形信号を出力し、前記第二のセンサは、位相が進んだ周期的な波形信号を出力し、
前記処理装置は、
前記波形信号に基づいて、前記センサロータについての、前記第一のセンサの第一検出位置及び前記第二のセンサの第二検出位置それぞれにおける回転角度を求める角度検出処理と、
前記第一検出位置と前記第二検出位置とにおける前記回転角度の差に基づいて前記センサロータの変位量を求める変位演算処理と、
前記回転角度から前記センサロータの角速度を求める角速度演算処理と、
前記角速度に応じて、信号に含まれる高次成分を減衰させるためのフィルタ特性を設定する特性設定処理と、
前記変位量を示す信号に対して前記フィルタ特性によるフィルタ処理を行い、補正後の変位量を求める高次成分補正処理と、
補正された変位量から前記内方部材に作用する荷重を求める荷重演算処理と、
を実行可能である、車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記内方部材の一回転内における前記内方部材の振れ回り量を示す1次成分補正用データを記憶する記憶装置を、備え、
前記処理装置は、
前記変位演算処理により求められた前記変位量から前記振れ回り量を減算し、1次成分補正後の変位量を求める1次成分補正処理を、実行可能であり、
前記荷重演算処理では、
前記内方部材の回転速度が所定値未満である場合、前記1次成分補正後の変位量から前記内方部材に作用する荷重を求め、
前記内方部材の回転速度が所定値以上である場合、前記1次成分補正後の変位量を示す信号に対して前記フィルタ処理を行って求めた高次成分補正後の変位量から前記内方部材に作用する荷重を求める、
請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
前記センサロータは、環状部材であって、前記環状部材は、その外周面に複数の歯が周方向について等間隔に設けられた歯車形状を有し、
前記特性設定処理では、前記角速度及び前記複数の歯の歯数に応じて、前記フィルタ特性として、減衰対象とする高次周波数帯を設定する、
請求項1又は請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、内方部材の変位を検出するセンサを備えた車輪用軸受装置が開示されている。この車輪用軸受装置は、内方部材の変位から作用する荷重を求めることが可能である。
【0003】
車輪用軸受装置の構成部材の製造、及び、その組み立てにおいて、不可避的な誤差が生じる。この誤差により、荷重に関係なく、内方部材は僅かであるが振れ回り(偏心回転)する。特許文献1に開示のセンサ構造の場合、内方部材の振れ回りは、センサの検出信号に周期的な変動となって現れる。周期的な変動は、センサの検出信号において不要成分となる。センサによる目的の検出量に対して、振れ回り量の占める割合が高い場合がある。特許文献1に開示の発明は、前記のような振れ回りを検出結果に含むセンサの出力について補正を行うことで、内方部材の変位及び作用する荷重を正確に求めることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-85840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の発明の場合、無負荷状態にある車輪用軸受装置の一回転の振れ回り量が予め求められ、センサの検出信号から前記振れ回り量を減算する補正が行われる。
特許文献1に開示のセンサ構成の場合、センサロータの歯数等によってセンサの検出信号に高次成分の誤差が生じ、その結果、内方部材に作用する荷重の算出結果に誤差が生じる。しかも、前記高次成分の誤差は、内方部材に作用する荷重に応じて変化する。このため、特許文献1に開示の発明のように、事前に補正用のデータを生成して、それを減算する手段では対応不可能である。
【0006】
そこで、本発明は、内方部材に作用する荷重をより正しく求めることが可能となる車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の車輪用軸受装置は、車体側に固定される外方部材と、前記外方部材の中心軸回りに回転する内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との間に転動自在となって設けられている転動体と、前記内方部材と一体回転するセンサロータ、及び、前記外方部材に設けられ前記センサロータを検出対象とする第一のセンサ及び第二のセンサを有するセンサ装置と、前記センサ装置から出力される信号を処理する処理装置と、を備える。
前記外方部材に対して前記内方部材が変位すると、前記第一のセンサは、位相が遅れた周期的な波形信号を出力し、前記第二のセンサは、位相が進んだ周期的な波形信号を出力する。
【0008】
前記処理装置は、前記波形信号に基づいて、前記センサロータについての、前記第一のセンサの第一検出位置及び前記第二のセンサの第二検出位置それぞれにおける回転角度を求める角度検出処理と、前記第一検出位置と前記第二検出位置とにおける前記回転角度の差に基づいて前記センサロータの変位量を求める変位演算処理と、前記回転角度から前記センサロータの角速度を求める角速度演算処理と、前記角速度に応じて、信号に含まれる高次成分を減衰させるためのフィルタ特性を設定する特性設定処理と、前記変位量を示す信号に対して前記フィルタ特性によるフィルタ処理を行い、補正後の変位量を求める高次成分補正処理と、補正された変位量から前記内方部材に作用する荷重を求める荷重演算処理と、を実行可能である。
【0009】
前記構成を有する車輪用軸受装置に荷重が作用すると、前記波形信号として、例えば振幅が変化しながら波形が歪んだ信号が取得される。実際の車輪用軸受装置の場合、作用する荷重は動的に変化し、それが高次成分の誤差となって波形信号に現れ、内方部材に作用する荷重を求める演算に影響を及ぼす。
そこで、前記構成を有する車輪用軸受装置は、高次成分を減衰させるためにフィルタ処理を行い、しかも、フィルタ特性をセンサロータの角速度に応じて設定する。このため、荷重が動的に変化しても、それに応じた高次成分の誤差を低減することが可能となる。その結果、内方部材に作用する荷重をより正しく求めることが可能となる。
【0010】
(2)好ましくは、前記内方部材の一回転内における前記内方部材の振れ回り量を示す1次成分補正用データを記憶する記憶装置を、備え、前記処理装置は、前記変位演算処理により求められた前記変位量から前記振れ回り量を減算し、1次成分補正後の変位量を求める1次成分補正処理を、実行可能である。
前記荷重演算処理では、前記内方部材の回転速度が所定値未満である場合、前記1次成分補正後の変位量から前記内方部材に作用する荷重を求め、前記内方部材の回転速度が所定値以上である場合、前記1次成分補正後の変位量を示す信号に対して前記フィルタ処理を行って求めた高次成分補正後の変位量から前記内方部材に作用する荷重を求める。
【0011】
前記構成によれば、内方部材の回転速度が低い場合、前記角速度は小さく、高次成分の誤差を低減しなくても、内方部材に作用する荷重を比較的、正確に求めることが可能である。これに対して、内方部材の回転速度が高い場合、前記角速度は大きく、高次成分の誤差を前記フィルタ処理によって低減することで、内方部材に作用する荷重をより正しく求めることが可能となる。
【0012】
(3)好ましくは、前記センサロータは、環状部材であって、前記環状部材は、その外周面に複数の歯が周方向について等間隔に設けられた歯車形状を有する。
前記特性設定処理では、前記角速度及び前記複数の歯の歯数に応じて、前記フィルタ特性として、減衰対象とする高次周波数帯を設定する。
センサロータ(環状部材)の歯数は、前記のような高次成分の誤差に影響を与える。そこで、前記構成によれば、減衰対象とする高次周波数帯が、センサロータの角速度及び歯数に応じて設定されることで、高次成分の誤差をより効果的に低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の車輪用軸受装置によれば、内方部材に作用する荷重をより正しく求めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の車輪用軸受装置の一例を示す断面図である。
図2】車輪用軸受装置を車両インナ側から見た概略図である。
図3】センサから出力される波形信号の説明図である。
図4】波形信号が変換された角度信号の説明図である。
図5】処理装置が実行する処理を説明するブロック図である。
図6】1次成分補正用データの一例を示す説明図である。
図7】補正前の内方部材の変位量を示す信号の波形図である。
図8】1次成分補正後の内方部材の変位量を示す信号の波形図である。
図9】補正前の内方部材の変位量を示す信号の波形図である。
図10】1次成分補正後の内方部材の変位量を示す信号の波形図である。
図11図10に示す信号の一部であって、縦軸のレンジを詳細にした波形図である。
図12】高次成分補正後の内方部材の変位量を示す信号の波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔車輪用軸受装置10の構成について〕
図1は、本発明の車輪用軸受装置の一例を示す断面図である。車輪用軸受装置10は、自動車に用いられる車輪用の軸受装置であり、ハブユニットとも呼ばれる。車輪用軸受装置10は、内方部材(ハブ軸)11と、内方部材11の一部の径方向外方に設けられた筒状の外方部材(外輪)12と、転動体である玉13とを備える。
【0016】
車輪用軸受装置10において、外方部材12の中心軸Cに沿った方向を「軸方向」と定義する。「軸方向」に、中心軸Cに平行な方向も含まれる。中心軸Cに直交する方向が「径方向」である。本実施形態では、内方部材11が中心軸C回りに回転する。中心軸Cを中心とする円に沿った方向が「周方向」である。
中心軸Cに沿った方向をY軸方向とする。中心軸Cに直交する水平方向をX軸方向とする。中心軸Cに直交する鉛直方向をZ軸方向とする。各図において、X軸、Y軸、及びZ軸による直交座標系が定義される。
【0017】
車輪用軸受装置10が自動車の車体に固定された状態で、自動車の前後方向はX軸に沿った方向と一致し、左右方向はY軸に沿った方向と一致し、上下方向はZ軸に沿った方向と一致する。図1において、右側となる軸方向一方側が車両アウタ側となり、左側となる軸方向他方側が車両インナ側となる。
【0018】
外方部材12は、円筒形状である外輪本体部21と、この外輪本体部21から径方向外方に延びて設けられている固定用のフランジ部22とを有する。外方部材12はフランジ部22によって車体側部材であるナックル(図示せず)に取り付けられ、これにより外方部材12を含む車輪用軸受装置10が車両に固定される。本実施形態では、外方部材12が固定輪となり、内方部材11が回転輪となる。
【0019】
内方部材11は、内軸23と、この内軸23の車両インナ側の端部に取り付けられた内輪24とを有する。内軸23は、外方部材12の径方向内方に設けられている内軸本体部26と、内軸本体部26の車両アウタ側に設けられているフランジ部27とを有する。フランジ部27の車両アウタ側の面に、図示しないが、車輪及びブレーキロータが取り付けられる。
【0020】
内輪24は、環状の部材であり、内軸本体部26の車両インナ側の端部に取り付けられている。内軸本体部26及び内輪24それぞれの外周側に玉13が転がり接触する内側軌道面が設けられている。外輪本体部21の内周側に玉13が転がり接触する外側軌道面が設けられている。玉13は、外方部材12の外側軌道面と内方部材11の内側軌道面との間に転動自在となって設けられている。各列に含まれる複数の玉13が保持器(図示せず)によって保持される。
【0021】
車輪用軸受装置10は、更に、センサ装置6、センサ装置6から出力される信号を処理する処理装置18、及び、記憶装置19を備える。記憶装置19は、処理装置18が有するメモリ等により構成されていてもよいが、処理装置18と別に設けられたメモリ等であってもよい。
【0022】
センサ装置6は、内方部材11と一体回転するセンサロータ17と、外方部材12に設けられている複数のセンサ7とを有する。センサロータ17は、中心軸Cを中心として内方部材11の車両インナ側に取り付けられている。図1に示す形態では、内輪24の一部にセンサロータ17が外嵌して固定されている。センサロータ17は、環状部材であり、その外周面に複数の歯が周方向について等間隔に設けられた歯車形状を有する(図2参照)。図2は、車輪用軸受装置10を車両インナ側から見た概略図である。本実施形態では、センサロータ17は、強磁性体により構成される。
【0023】
センサ7は、センサロータ17の周囲に設けられていて、センサロータ17(その一部である前記歯)を検出対象とする。本実施形態の場合、四つのセンサ7が周方向に沿って等間隔で設けられている。センサ7に付されている符号の添字(A,B,C,D)に関して説明する。添字A,B,C,Dは、中心軸Cを基準とした配置を意味しており、図2において、中心軸Cを基準とした場合の、前、後、上、下を示す。
【0024】
例えば、前に位置するセンサの符号は「7A」であり、後ろに位置するセンサの符号は「7B」である。各センサ7の構成は、前、後、上、下に関わらず、同じである。センサ7に関して共通する説明では、添字(A,B,C,D)を省略する。第一のセンサ7Aと第二のセンサ7Bとは中心軸Cを中心として180度離れて設けられている。これら前後のセンサ7A,7Bが一組のセンサグループとされる。第三のセンサ7Cと第四のセンサ7Dとは中心軸Cを中心として180度離れて設けられている。これら上下のセンサ7C,7Dが別の一組のセンサグループとされる。センサ7Aとセンサ7Cとは中心軸Cを中心として90度離れて設けられている。
【0025】
センサ7は、磁気センサであり、磁気抵抗素子を用いた回転センサ(変位センサ)としての機能を有する。センサ7は、A相の磁気抵抗素子31と、B相の磁気抵抗素子32とを有する。A相の磁気抵抗素子31及びB相の磁気抵抗素子32それぞれは、センサロータ17の移動に伴う磁界変化を検出する。A相の磁気抵抗素子31とB相の磁気抵抗素子32とは、周方向について接近して配置されているが異なる位置にある。このため、A相の磁気抵抗素子31と、B相の磁気抵抗素子32とは、位相差を有する2相(A相及びB相)の周期的な波形信号を出力する。
【0026】
センサ7は、歯が設けられているセンサロータ17の外周部を検出する。センサロータ17が中心軸C回りに回転することで、センサ7における磁界が変化する。この磁界変化に基づいて、センサ7は、検出信号として、位相が異なるA相及びB相の波形信号を出力する。
【0027】
センサ7の出力信号について更に説明する。前記のとおりセンサロータ17は歯車形状を有する。このため、センサ7は、センサロータ17の一つの歯から(凹部を経て)その周方向隣の他の歯までを「一周期」とする波形信号を繰り返し出力する。センサロータ17における歯の数を「N」とする。センサロータ17と一体である内方部材11が一回転(360度回転)する間に、各センサ7は、一周期の波形信号をN回繰り返して出力する。各センサ7は、内方部材11がセンサロータ17と共に一回転する間に、周期的な波形信号を複数周期について出力する。
【0028】
前記のとおり、各センサ7は、位相差を有する2相(A相及びB相)の周期的な波形信号を出力する。具体的には、センサロータ17の移動に伴って、A相の磁気抵抗素子31からSIN信号が出力され、B相の磁気抵抗素子32からCOS信号が出力される。内方部材11が一回転(360度回転)すると、その間に、各センサ7は、一周期のSIN信号をN回繰り返して出力すると共に、一周期のCOS信号をN回繰り返して出力する。
これらSIN信号とCOS信号とに基づいて、後に説明するが、内方部材11の回転角度、角速度、及び、変位量等が求められる。これらパラメータを求める処理は、処理装置18(図1参照)が行う。
【0029】
処理装置18は、車輪用軸受装置10外に設けられていればよい。本実施形態の場合、処理装置18は、自動車に搭載されるECU(Electronic Control Unit)により構成される。処理装置18は、四つのセンサ7それぞれから2相の波形信号を取得し、各種処理を実行する。
【0030】
〔センサ信号の処理について〕
センサ7が出力する波形信号、及び、処理装置18が実行する各種処理について説明する。図5は、処理装置18が実行する処理を説明するブロック図である。
【0031】
処理装置18は、各種演算処理を行うプロセッサ、及び、コンピュータプログラムが記憶されるメモリ等を有する。前記コンピュータプログラムにしたがって前記プロセッサが実行する処理により、処理装置18は、図5に示す各機能部として、位相差・変位検出部41、精密角度演算部42、第一補正部43、精密角速度演算部44、第二補正部45、及び、演算部46を有する。図5に示す角度検出部は、上下左右の四つのセンサ7A,7B,7C,7D(図2参照)に相当する。
【0032】
位相差・変位検出部41は、内方部材11の変位を求める変位演算処理を実行する。精密角度演算部42は、センサロータ17の回転角度を求める角度検出処理を実行する。第一補正部43は、1次成分補正処理を実行する。精密角速度演算部44は、センサロータ17の角速度を求める角速度演算処理を実行する。第二補正部45は、フィルタ特性を設定する特性設定処理、及び、信号を補正する高次成分補正処理を実行する。演算部46は、内方部材11に作用する荷重演算処理を実行する。処理装置18の前記各機能部が実行する処理の具体例については、後に説明する。
【0033】
車輪用軸受装置10において、その製造上の不可避的な誤差により、外方部材12に対して内方部材11は僅かであるが振れ回りする。内方部材11の振れ回りは、センサ7の検出信号に周期的な変動となって現れる。この周期的な変動は、センサ7から出力される前記波形信号において不要成分である。この不要成分を「回転変動成分」とも称する。つまり、センサ装置6から取得される前記波形信号には、回転変動成分の信号が含まれる。
内方部材11に荷重が作用した際、処理装置18が、波形信号を補正することなくそのまま用いて、その荷重を求めると、正確な値が得られない。そこで、後に説明するように、内方部材11の振れ回りによるセンサ7の検出信号の周期的な変動を低減させる1次成分補正処理が実行される。
【0034】
図2に示すセンサ装置6の場合、内方部材11に荷重が作用すると、その荷重が作用する方向について、センサ7とセンサロータ17との間のギャップが変化する。例えば、内方部材11に下向きの荷重が作用する場合、センサ7Cとセンサロータ17との間のギャップ、及び、センサ7Dとセンサロータ17との間のギャップが変化する。すると、センサ7(7C、7D)が出力するsin波等のセンサ信号に、オフセット、振幅、又は、波形歪の変化を伴う。特に、前記ギャップが変化する場合、振幅及び波形歪が変動する。つまり、振幅が変化しながら波形が歪み、理想的な波形から動的なズレが生じる。内方部材11の初期位置からの動的な変位が、角度演算後の電気角当たりの1次高調波、2次高調波、及び、3次高調波の誤差となって、センサ信号に重畳される。
そこで、後に説明するように、高次成分の信号を減衰させる高次成分補正処理が実行される。
【0035】
〔センサ7の出力信号〕
内方部材11(図1及び図2参照)が回転している状態で、内方部材11にZ軸に沿って下向きの荷重が作用する場合について説明する。この場合、外方部材12に対して内方部材11及びセンサロータ17がZ軸に沿って下向きに僅かであるが変位する。この変位は、センサロータ17の外周面の回転移動と等価であるとみなすことができる。
【0036】
図2において、センサロータ17の回転方向は、矢印R方向である。センサ7A側では、前記荷重によりセンサロータ17が変位する方向は、内方部材11の回転に対して(回転軌跡の接線方向に対して)反対方向となる。このため、センサ7Aからは、荷重が作用しない場合と比較して、図3の上側の説明図に示すように、A相及びB相ともに、位相が遅れた波形信号が出力される。つまり、センサ7Aは、センサロータ17の変位を遅れ角度として検出する。なお、図3において、荷重の負荷前のセンサ7からの信号が実線で示され、荷重の負荷後のセンサ7からの信号が破線で示されている。
【0037】
図2において、センサ7B側では、前記荷重により内方部材11及びセンサロータ17が変位する方向は、内方部材11の回転に対して(回転軌跡の接線方向に対して)順方向(同方向)となる。このため、センサ7Bからは、荷重が作用しない場合と比較して、図3の下側の説明図に示すように、A相及びB相ともに、位相が進んだ波形信号が出力される。つまり、センサ7Bは、センサロータ17の変位を進み角度として検出する。
【0038】
このように、外方部材12に対して内方部材11が径方向の一方(本実施形態では、Z軸に沿って下向き)に変位すると、センサ7Aは、A相及びB相共に、位相が遅れた波形信号を出力し、センサ7Bは、A相及びB相共に、位相が進んだ波形信号を出力する。
【0039】
反対に、荷重の方向がZ軸に沿って上向きとなる場合、センサ7Aは変位を進み角度として検出し、センサ7Bは変位を遅れ角度として検出する。なお、前記のとおり、センサ7から出力される前記波形信号には、荷重による成分の他に、不要である回転変動成分の信号、及び、高次成分の信号が含まれる。
【0040】
内方部材11に荷重が作用すると、図3に示すように、中心軸Cを中心として180度離れて設けられている一組のセンサ7A及びセンサ7Bそれぞれから出力される信号において、位相差Qが発生する。この位相差Qは、波形の時間差として得られる。
【0041】
〔角度検出処理〕
そこで、特定のタイミングでの(瞬時の)位相差Qを検出するために、センサ7A及びセンサ7Bそれぞれから得られた波形信号について、角度検出処理が行われる。以下、角度検出処理の具体例を説明する。
【0042】
センサ7A及びセンサ7Bそれぞれからの波形信号は、所定の演算処理としてアークタンジェント演算が実行され、波形信号の一周期毎に単調性を有する角度信号(電気角の信号)に変換される(図4参照)。なお、ここでの角度信号は、電気角(単位[rad])の信号である。また、前記単調性とは、信号の途中に極大及び極小を有さず増加又は減少することを意味する。本実施形態では、単調性を有する三角波の角度信号が得られる。図4の上側がセンサ7Aによる角度信号の波形図であり、図4の下側がセンサ7Bによる角度信号の波形図である。図4の波形図の縦軸に示す角度(角度信号)は、センサ7Aによる第一検出位置、及び、センサ7Bによる第二検出位置それぞれにおける、センサロータ17の回転角度(電気角[rad])である。
【0043】
このように、センサ装置6からの波形信号から求められたセンサロータ17の回転角度に基づいて、特定のタイミング(特定の時刻)tにおける、センサ7Aによる第一検出位置におけるセンサロータ17の回転角度(電気角)θAが求められ、センサ7Bによる第二検出位置におけるセンサロータ17の回転角度(電気角)θBが求められる。
【0044】
更に、第一検出位置と第二検出位置とにおいて、同じタイミング(同時刻)tにおけるセンサ7A側とセンサ7B側との回転角度の差(θAB=θA-θB)が求められる。ここでの電気角θA,θBの単位は[rad]であり、回転角度の差θABとして、電気角の差(θAB[rad])が求められる。
【0045】
〔変位演算処理〕
内方部材11(センサロータ17)の変位量ΔZは、センサ7A側の電気角θAとセンサ7B側の電気角θBとの差θABに比例する。そこで、電気角の差(θAB)が算出されると、次の式(1)により、前記荷重により生じた内方部材11の変位量ΔZが算出可能である。この算出する処理が、変位演算処理であり、センサ7Aの第一検出位置とセンサ7Bの第二検出位置とにおいて求められた回転角度の差に基づいて、センサロータ17の変位量が求められる。
【0046】
ΔZ=2×r×θAB/N [mm] ・・・(1)
【0047】
式(1)において、「r」は、内方部材11の回転中心(中心軸C)からセンサロータ17の外周部(歯)までの距離(設計値)、つまり、センサロータ17の外周部を通過する仮想円の半径[mm]である。「N」は、センサロータ17における歯(検出対象)の等配数である。
【0048】
このように、センサ装置6から出力される波形信号は、内方部材11(センサロータ17)の変位量を求めるために用いられる。センサ装置6は、内方部材11の変位量を求めるための変位センサとしての機能を有する。
【0049】
〔荷重演算処理〕
1次成分補正処理、及び、高次成分補正処理について説明する前に、先に、演算部46が実行する荷重演算処理について説明する。
内方部材11の変位量ΔZが求められると、その変位量ΔZは、次に式(2)によって、内方部材11に作用する荷重(Z軸に沿って下向きに作用する荷重Fz)に換算される。変位量ΔZに軸受剛性Kz[N/mm]を乗算することで、負荷された荷重Fzが算出される。
【0050】
Fz=Kz×ΔZ [N]・・・(2)
【0051】
ところが、前記のとおり、外方部材12に対して内方部材11は僅かであるが振れ回りする。前記振れ回りは周期的な変動となってセンサ7A,7Bの検出信号に現れる。つまり、センサ7A,7Bの波形信号には、不要である回転変動成分の信号が含まれる。更に、前記波形信号には、不要である高次成分の信号が含まれる。このため、算出して得られる前記変位量ΔZに誤差が生じることが考えられる。
【0052】
そこで、本実施形態では、荷重Fzを算出する前に、第一補正部43及び第二補正部45によって、不要成分を除去するための補正処理が行われる。そして、第一補正部43による補正処理、又は、第一補正部43及び第二補正部45の双方による補正処理を実行した変位量に基づいて、前記式(2)により荷重Fzが算出される。このように、本実施形態の荷重演算処理は、補正された変位量から内方部材11に作用する荷重Fzを求める処理となる。
【0053】
〔1次成分補正処理〕
第一補正部43は、記憶装置19に記憶されている1次成分補正用データを用いて、1次成分補正処理を実行する。1次成分補正用データは、荷重Fzの検出対象となる車輪用軸受装置10を用いて、予め生成される。まず、1次成分補正用データの生成処理について説明する。
【0054】
車輪用軸受装置10(図1参照)に荷重が負荷されていない状態で内方部材11を回転させ、各センサ7により得られる波形信号を処理装置18が取得する。内方部材11が振れ回りしていて、回転変動成分を有して回転していると、センサ7とセンサロータ17との距離が変動する。このため、センサ7から出力される波形信号には、荷重成分は含まれないが、回転変動成分が含まれる。
【0055】
荷重が負荷されていない状態で、各センサ7から取得される信号は、図3の実線に示すような波形信号となる。センサ7それぞれの波形信号を入力データとして、位相差・変位検出部41は、前記角度検出処理を実行する。つまり、センサ7の波形信号は、図4に示すように、波形信号の一周期毎に単調性を有する角度信号に変換される。ここでの角度信号は電気角[rad]である。
【0056】
精密角度演算部42は、内方部材11を一回転させる際の始点からの歯(検出ターゲット)のカウント数kを刻々と取得する。例えば、歯の全数Nが「30」であり、内方部材11が半回転(180度回転)したとすると、カウント数kは「15」となる。このカウント数は、センサ7からの波形信号の周期の数により得られる。
【0057】
あるタイミングで前記角度検出処理されて得た角度信号θ[rad]と、歯の数Nと、前記タイミングでの前記カウント数kとから、内方部材11の前記始点からの一回転内における前記タイミングでの回転角度は、次の式(3)により算出される。前記回転角度は、機械角α[deg]である。この演算は、精密角度演算部42によって実行される。
【0058】
α=k×(360度/N)+θ/N ・・・(3)
【0059】
この式(3)により、回転開始(前記始点)から、一回転内における所定のタイミングでの内方部材11の回転角度(機械角(0≦α≦360)[deg])が求められる。
なお、前記角度信号θは、四つのセンサ7のうちの一つによる値であってもよく、又は、これらセンサ7による値の平均値であってもよい。本実施形態では、前記角度信号θは、180度離れて設けられている一組のセンサ7(例えば、センサ7Aとセンサ7B)による値の平均値である。
【0060】
回転開始(前記始点)から、一回転内における所定の回転角度に対応した内方部材11の振れ回り量G[mm]が、次の式(4)により算出される。この演算は、同じセンサ7が用いられ、かつ、同じタイミングのデータに基づいて実行され、演算値は記憶される。このため、タイミングによる誤差や外部計測器(角度センサ)との系統誤差の影響を受けない。この演算は、処理装置18(位相差・変位検出部41又は精密角度演算部42)によって、実行される。
【0061】
G=G(ΔZ(θAB,α)) ・・・(4)
【0062】
なお、式(4)における回転角度の差θAB[rad]は、前記タイミングでの値であり、車輪用軸受装置10(図1参照)に荷重が負荷されていない状態で、センサ装置6から取得された波形信号に基づいて、位相差・変位検出部41が、前記と同様の角度検出処理によって求めた値である。内方部材11と一体回転するセンサロータ17が振れ回りすることから、荷重が作用していない状態でも、センサ7A側の回転角度(電気角)θAと、センサ7B側の回転角度(電気角)θBとの間に、差(θAB)が発生する。
【0063】
以上より、図6に示すように、内方部材11の一回転内における回転角度(機械角α[deg])毎の振れ回り量Gを示すデータが生成される。このデータは、内方部材11の一回転(回転角度が0度から360度)における振れ回り量Gのデータである。つまり、図6に示すデータが、内方部材11の一回転内における回転角度と当該回転角度における内方部材11の振れ回り量との関係を示す1次成分補正用データとなる。
【0064】
1次成分補正用データは、図6に示すようにグラフであってもよいが、回転角度(機械角α)と、その回転角度αにおける振れ回り量Gとを対応付けたテーブル形式であってもよい。この1次成分補正用データが、記憶装置19に記憶される。
【0065】
次に、1次成分補正用データを用いた第一補正部43が実行する1次成分補正処理について説明する。
図7は、振れ回りする車輪用軸受装置10に荷重を増加(単調増加)させながら、一回転させ、センサ7から得られた波形信号に基づいて、前記のようにして内方部材11の変位量ΔZを(前記式(1)により)算出した結果を示す波形図である。つまり、図7は、補正前の内方部材11の変位量ΔZを示す信号の波形図である。
【0066】
1次成分補正処理として、第一補正部43は、図7に示す補正前の変位量ΔZから、回転角度(機械角α)毎に、1次成分補正用データ(図6参照)の振れ回り量Gを減算する。この減算した結果が、図8となり、1次成分についての補正後の変位量ΔZ′が得られる。図8に示す変位量ΔZ′は、回転変動成分が除去されている。
このように、1次成分補正処理は、前記のとおり変位演算処理により求められたセンサロータ17の変位量ΔZから、内方部材11の振れ回り量Gを減算し、1次成分補正後の変位量ΔZ′を求める処理である。
この1次成分についての補正後の変位量ΔZ′に基づいて、前記式(2)により、軸受装置10に作用した荷重が算出されることで、振れ回り成分が除去された荷重が得られる。
【0067】
〔各変数等について〕
ここで、前記の各処理で用いられた変数等についてまとめて説明する。
ΔZ:内方部材11の変位であり、単位は、ミリメートルである。
θA:センサ7Aの対向位置におけるセンサロータ17の角度であり、単位は、電気角〔rad〕である。
θB:センサ7Bの対向位置におけるセンサロータ17の角度であり、単位は、電気角〔rad〕である。
θAB:センサ7Aの対向位置とセンサ7Bの対向位置との角度差(角度位相差)であり、単位は、電気角〔rad〕である。
なお、前記電気角とは、周期性を有する波形の一周期を360度(2πラジアン)と定義した仮想の角度である。
Fz:内方部材11に作用する荷重であり、単位はニュートン[N]である。
Kz:定数であり、Z軸に沿った方向の軸受剛性である。単位は、ニュートン/ミリメートル[N/mm]である。
【0068】
〔高次成分補正処理〕
高次成分補正処理は、求められた内方部材11の変位量を示す信号に対してフィルタ処理を行い、補正後の変位量を求める処理である。そのフィルタ処理は、高次周波数帯を減衰させる処理である。補正の対象とする前記「内方部材11の変位量」は、位相差・変位検出部41が求めた振れ回り成分を含む内方部材11の変位量(図9)ΔZであってもよいが、本実施形態の場合、位相差・変位検出部41が求め更に第一補正部43が補正した1次成分補正後の変位量ΔZ′(図10)である。
【0069】
本実施形態の場合、前記フィルタ処理としてノッチフィルタが用いられる。本実施形態では、このノッチフィルタのフィルタ特性を設定する処理として、特性設定処理が実行される。具体的には、特性設定処理では、ノッチフィルタの伝達関数を設定する。その伝達関数を設定するために、角速度演算処理が実行される。
【0070】
ノッチフィルタの伝達関数は、次の式(5)により表される。式(5)のωnは、ノッチ(減衰させる高次周波数帯)の中心周波数[rad/s]である。ζは、ノッチの幅を決めるパラメータであり、dは、ノッチの深さを決めるパラメータであり、任意に設定される。
【0071】
G(s)=(s^2+d・2ζωns+ωn^2)/(s^2+2ζωns+ωn^2) ・・・(5)
【0072】
以下、角速度演算処理及び特性設定処理を説明し、高次成分補正処理の例を説明する。
【0073】
〔角速度演算処理〕
角速度演算処理は、前記角度検出処理と同じ処理によって求めたセンサロータ17の回転角度θ(電気角[rad])から、センサロータ17の角速度ω(電気角[rad/s])を求める処理である。ここで用いられる回転角度θは、複数(4つ)のセンサ7の波形信号から求められた複数の回転角度θの内の代表する1つであってもよく、複数の回転角度θの平均値であってもよい。
角速度ωは、回転角度θ(電気角)の時間微分により求められるが、デジタル処理としては、角速度ωは、次の式(6)により求められる。
【0074】
ω=(θ〔n〕-θ〔n-m〕)/Δt ・・・式(6)
ただし、Δt=m×stであり、stは、サンプルタイム又は制御周期である。
〔n-m〕は、nのmサンプル前を表す。
【0075】
〔特性設定処理〕
特性設定処理は、センサ装置6が出力する波形信号に含まれる高次成分を減衰させるためのフィルタ特性を設定する処理である。角速度演算処理によって求められたセンサロータ17の角速度ωに応じて、前記フィルタ特性として、減衰対象とする高次周波数帯が設定される。つまり、角速度ωに応じて、ノッチフィルタの伝達関数が設定される。
本実施形態の場合、減衰させる高次周波数帯の中心周波数ωnは、角速度演算処理によって求められた角速度ωと、センサロータ17の歯数Nの自然数を乗算した値(N×M)とを乗算した値に設定される。その例は、次のとおりである。
【0076】
・角速度ω[rad/s]×歯数N×1
・角速度ω[rad/s]×歯数N×2
・角速度ω[rad/s]×歯数N×3
・角速度ω[rad/s]×歯数N×・・・
【0077】
このように、本実施形態の場合、特性設定処理は、角速度ω及びセンサロータ17の複数の歯の歯数Nに応じて、フィルタ特性として、減衰対象とする高次周波数帯を設定する処理である。
【0078】
〔高次成分補正処理の例〕
図9は、位相差・変位検出部41が求めた内方部材11の変位量ΔZを示す信号の波形図である。この変位量ΔZを示す信号には、内方部材11の振れ回りによる1次成分の信号の他に、高次成分の信号が含まれている。
図10は、位相差・変位検出部41が求め、更に第一補正部43が補正した1次成分補正後の変位量ΔZ′を示す信号の波形図である。
図11は、図10に示す信号の一部であって、縦軸のレンジを詳細にした波形図である。図11に示す変位量ΔZ′を示す信号には、内方部材11の振れ回りによる1次成分について除去されているが、高次成分の信号が含まれている。
【0079】
第二補正部45は、この変位量ΔZ′を示す信号に対して、高次周波数帯を減衰させるフィルタ処理を行い、補正後の変位量ΔZ′′を求める。そのフィルタ処理を行って得た高次成分補正後の変位量ΔZ′′を示す信号を、図12に示す。この補正後の変位量ΔZ′′を示す信号は、内方部材11の振れ回りによる1次成分について除去されていると共に、高次成分の信号が減衰されている。図12に示す縦軸レンジは、図11と、同じ縦軸レンジである。
【0080】
フィルタ処理された内方部材11の変位量ΔZ′′の信号が求められると、その変位量ΔZ′′は、前記式(2)によって、内方部材11に作用する荷重に換算される(演算部46による荷重演算処理)。つまり、変位量に軸受剛性Kz[N/mm]を乗算することで、負荷された荷重が算出される。
【0081】
本実施形態の場合、荷重演算処理は、次の「条件1」と「条件2」との場合分けをして実行される。
条件1は、内方部材11の回転速度が所定値未満である場合である。
条件2は、内方部材11の回転速度が所定値以上である場合である。
なお、条件1の「回転速度が所定値未満」には、内方部材11が回転していなくて停止している状態も含む。
【0082】
条件1の場合、演算部46は、荷重演算処理として、1次成分補正後の変位量ΔZ′から、内方部材11に作用する荷重を求める。つまり、条件1の場合、第二補正部45による高次成分補正処理がスキップされる。
条件2の場合、演算部46は、荷重演算処理として、1次成分補正後の変位量ΔZ′を示す信号に対して前記フィルタ処理を行って求めた高次成分補正後の変位量ΔZ′′から、内方部材11に作用する荷重を求める。
【0083】
条件1の場合、センサロータ17の角速度は小さく、フィルタ処理によって、高次成分の誤差を低減しなくても、内方部材11に作用する荷重を比較的、正確に求めることが可能である。
これに対して、条件2の場合、センサロータ17の角速度は大きく、高次成分の誤差を前記フィルタ処理によって低減することで、内方部材11に作用する荷重をより正しく求めることが可能となる。
【0084】
〔本実施形態の車輪用軸受装置10について〕
以上のように、本実施形態の車輪用軸受装置10は、車体側に固定される外方部材12と、車輪と共に回転する内方部材11と、外方部材12と内方部材11との間に転動自在となって設けられている玉(転動体)13と、センサ装置6と、処理装置18とを有する。センサ装置6は、内方部材11と一体回転するセンサロータ17、及び、外方部材12に設けられセンサロータ17を検出対象とする第一のセンサ7A及び第二のセンサ7Bを有する。処理装置18は、センサ装置6から出力される信号を処理する。
【0085】
外方部材12に対して内方部材11が、下向きに変位すると、第一のセンサ7Aは、位相が遅れた周期的な波形信号を出力し、第二のセンサ7Bは、位相が進んだ周期的な波形信号を出力する。
【0086】
処理装置18は、角度検出処理と、変位演算処理と、角速度演算処理と、特性設定処理と、高次成分補正処理と、荷重演算処理とを実行可能である。
角度検出処理では、前記波形信号に基づいて、センサロータ17についての、第一のセンサ7Aの第一検出位置及び第二のセンサ7Bの第二検出位置それぞれにおける回転角度θA、θBが求められる。
変位演算処理では、前記第一検出位置と前記第二検出位置とにおける回転角度の差(θAB)に基づいて、センサロータ17の変位量が求められる。
【0087】
角速度演算処理では、前記回転角度からセンサロータ17の角速度ωが求められる。
特性設定処理では、角速度ωに応じて、信号に含まれる高次成分を減衰させるためのフィルタ特性が設定される。
高次成分補正処理では、変位量を示す信号に対して前記フィルタ特性によるフィルタ処理を行い、補正後の変位量ΔZ′′が求められる。
荷重演算処理では、補正された変位量ΔZ′′から内方部材11に作用する荷重が求められる。
【0088】
前記構成を有する車輪用軸受装置10に下向きの荷重が作用すると、前記波形信号として、例えば振幅が変化しながら波形が歪んだ信号が取得される。実際、作用する荷重は動的に変化し、それが高次成分の誤差となって波形信号に現れ、内方部材11に作用する荷重を求める演算に影響を及ぼす。
そこで、前記構成を有する車輪用軸受装置10は、高次成分を減衰させるためにフィルタ処理を行い、しかも、フィルタ特性をセンサロータ17の角速度ωに応じて設定する。このため、荷重が動的に変化しても、それに応じた高次成分の誤差を低減することが可能となる。その結果、内方部材11に作用する荷重をより正しく求めることが可能となる。
【0089】
本実施形態の場合、センサロータ17は、歯車形状を有する。前記特性設定処理では、角速度ω及び複数の歯の歯数Nに応じて、前記フィルタ特性として、減衰対象とする高次周波数帯が設定される。センサロータ17の歯数Nは、高次成分の誤差に影響を与える。そこで、減衰対象とする高次周波数帯が、センサロータ17の角速度ω及び歯数Nに応じて設定されることで、高次成分の誤差をより効果的に低減することが可能となる。
【0090】
本実施形態の場合、記憶装置19に、内方部材11の一回転内における内方部材11の振れ回り量Gを示す1次成分補正用データ(図6参照)が記憶されている。
処理装置18は、前記変位演算処理により求められた変位量ΔZから前記振れ回り量Gを減算し、1次成分補正後の変位量ΔZ′を求める1次成分補正処理を、実行可能である。
【0091】
荷重演算処理では、内方部材11の回転速度が所定値未満である場合(前記条件1の場合)、1次成分補正後の変位量ΔZ′から内方部材11に作用する荷重が求められる。内方部材11の回転速度が所定値以上である場合(前記条件2の場合)、1次成分補正後の変位量ΔZ′を示す信号に対して前記フィルタ処理を行って求めた高次成分補正後の変位量ΔZ′′から内方部材11に作用する荷重が求められる。
【0092】
内方部材11の回転速度が低い場合、角速度ωは小さく、高次成分の誤差を低減しなくても、内方部材11に作用する荷重を比較的、正確に求めることが可能である。これに対して、内方部材11の回転速度が高い場合、角速度ωは大きく、高次成分の誤差を前記フィルタ処理によって低減することで、内方部材11に作用する荷重をより正しく求めることが可能となる。
【0093】
〔その他〕
前記実施形態は、Z軸に沿って荷重が作用した場合であるが、X軸に沿って荷重が作用した場合、第三のセンサ7C及び第四のセンサ7Dの出力信号を用いて、前記と同様の処理を実行する。これにより、X軸に沿った方向の内方部材11の変位、及び車輪用軸受装置10に作用した荷重を検出することができる。
【0094】
センサロータ17が、内方部材11と別体である場合について説明したが、内方部材11の一部がセンサロータとして機能するように構成されていてもよい。
センサロータ17は、歯車形状以外であってもよく、例えば、磁石からなり、N極とS極とが周方向に沿って交互に設けられていてもよい。N極(S極)は均等配にある。この場合、各センサ7は、センサロータ17の一つのN極からS極を経て次のN極までを「一周期」とする波形信号を繰り返し出力する。
【0095】
センサ7は、センサロータ17の回転により、位相差を有する2相の周期的な波形信号を出力するものであればよく、形態については変更可能である。センサ7は、MRセンサ以外に、ホールセンサであってもよい。または、センサは、透過形光電式や反射形光電式の光学式であってもよい。これに応じて、センサロータ17の形態も変更される。
【0096】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0097】
6 センサ装置
7A 第一のセンサ
7B 第二のセンサ
10 車輪用軸受装置
11 内方部材
12 外方部材
13 玉(転動体)
17 センサロータ
18 処理装置
19 記憶装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12