(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157114
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 7/00 20060101AFI20241030BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20241030BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20241030BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20241030BHJP
C08K 5/11 20060101ALI20241030BHJP
C08K 5/12 20060101ALI20241030BHJP
C08K 5/521 20060101ALI20241030BHJP
C08L 57/00 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L9/00
C08L101/00
C08K3/36
C08K5/11
C08K5/12
C08K5/521
C08L57/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071251
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】前田 涼二
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA01X
4J002AC01W
4J002AC02W
4J002AC06W
4J002BA00X
4J002BA01X
4J002CE00X
4J002DJ016
4J002EH037
4J002EH097
4J002EH147
4J002EW047
4J002FD016
4J002FD027
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】ウェット性能、低転がり抵抗性、耐チッピング性および加工性を改善し、これら性能をバランスよく高度に両立するようにしたタイヤ用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】イソプレン系ゴムを50質量%以上含有するジエン系ゴム100質量部に対し、シリカを50質量部以上150質量部以下、熱可塑性樹脂を16質量部以上200質量部以下、エステル系可塑剤を10質量部以下配合したことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプレン系ゴムを50質量%以上含有するジエン系ゴム100質量部に対し、シリカを50質量部以上150質量部以下、熱可塑性樹脂を16質量部以上200質量部以下、エステル系可塑剤を10質量部以下配合したことを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記イソプレン系ゴムが天然ゴムであることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記エステル系可塑剤が、脂肪族二塩基酸エステル、リン酸エステル、フタル酸エステル、トリメリット酸エステルから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
の関係を満たす
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、C5/C9系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂、C5/ジシクロペンタジエン系樹脂、C9/ジシクロペンタジエン系樹脂、テルペン系樹脂、芳香族変性テルペン系樹脂、ロジン系樹脂およびこれらの水添樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が、脂肪族モノマー由来単位および/または芳香族モノマー由来単位から構成され、その芳香族プロトン含有率が30%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として乗用車用タイヤのトレッド部に用いることを意図したタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用車用タイヤのトレッド部に使用されるタイヤ用ゴム組成物には、スチレンブタジエンゴム(SBR)を主体とする配合が採用されてきた。しかしながら、近年、環境保護の観点から、天然ゴム(NR)を主体とする配合を採用することが検討されている(例えば、特許文献1を参照)。即ち、従来用いられていたスチレンブタジエンゴム(合成ゴム)は再生ゴムとして利用することが困難であるが、これを再生可能材料である天然ゴムに置き換えることで、タイヤ(ゴム組成物)中に占める再生可能原料やリサイクル原料の比率を多くし、環境負荷を低減することが可能になる。
【0003】
しかしながら、スチレンブタジエンゴムを単純に天然ゴムに置き換えただけでは、乗用車用タイヤのトレッド部として求められる性能を十分に得られない虞があり、また加工性が不足することもあった。例えば、天然ゴムはスチレンブタジエンゴムに比べてガラス転移温度が低い傾向があり、また他のポリマーや配合剤との相溶性が相違するため、天然ゴム主体のゴム組成物に切り替えると、トレッドゴムに求められるウェット性能、低転がり抵抗性および耐チッピング性等の性能や加工性に影響を及ぼすという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ウェット性能、低転がり抵抗性、耐チッピング性および加工性を維持向上し、これら性能をバランスよく高度に両立するようにしたタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、イソプレン系ゴムを50質量%以上含有するジエン系ゴム100質量部に対し、シリカを50質量部以上150質量部以下、熱可塑性樹脂を16質量部以上200質量部以下、エステル系可塑剤を10質量部以下配合したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、イソプレン系ゴムを主体としたジエン系ゴムに、熱可塑性樹脂と、エステル系可塑剤を配合したので、イソプレン系ゴムと熱可塑性樹脂との相溶性を向上させると共に粘弾性の挙動を良化させ、ウェット性能、低転がり抵抗性、耐チッピング性および加工性を従来レベル以上に維持向上することができる。特に、エステル系可塑剤を配合することにより、イソプレン系ゴムと熱可塑性樹脂との相溶性が向上し、ウェット性能および低転がり抵抗性と、耐チッピング性とのバランスを向上することができる。
【0008】
前記イソプレン系ゴムは、天然ゴムであることが好ましい。また、ジエン系ゴムがすべてイソプレン系ゴムであることが好ましい。
【0009】
前記エステル系可塑剤は、脂肪族二塩基酸エステル、リン酸エステル、フタル酸エステル、トリメリット酸エステルから選ばれる少なくとも1つであるとよい。
【0010】
前記熱可塑性樹脂は、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、C5/C9系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂、C5/ジシクロペンタジエン系樹脂、C9/ジシクロペンタジエン系樹脂、テルペン系樹脂、芳香族変性テルペン系樹脂、ロジン系樹脂およびこれらの水添樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つであるとよい。また、前記熱可塑性樹脂は、脂肪族モノマー由来単位および/または芳香族モノマー由来単位から構成され、その芳香族プロトン含有率が30%以下であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のタイヤ用ゴム組成物を使用する空気入りタイヤの一例を示す子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に例示するように、本発明のタイヤ用ゴム組成物を使用する空気入りタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。
図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、
図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0013】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(
図1では2層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層7の外周側にはベルト補強層8(ベルト層7の全幅を覆うフルカバー8aとベルト層7の端部を局所的に覆うエッジカバー8bの2層)が設けられている。ベルト補強層8は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層8において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。
【0014】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側にはトレッドゴム層10が配され、このトレッドゴム層10は、物性の異なる2種類のゴム層(トレッド部1の踏面を構成するキャップトレッド11と、その内周側に配置されたアンダートレッド12)をタイヤ径方向に積層した構造を有する。本発明のタイヤ用ゴム組成物は、主として、このようなタイヤのキャップトレッド11に用いられる。
【0015】
本発明のタイヤ用ゴム組成物が使用されるタイヤは、上記のような空気入りタイヤ(その内部に空気、窒素等の不活性ガスまたはその他の気体が充填されるタイヤ)であることが好ましいが、非空気式タイヤであってもよい。非空気式タイヤの場合も、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、路面に当接する部分(空気入りタイヤにおけるトレッド部1の踏面を構成するキャップトレッド11に相当する部分)に用いられる。
【0016】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ゴム成分はジエン系ゴムであり、イソプレン系ゴムを必ず含む。イソプレン系ゴムの配合量は、ジエン系ゴム100質量%中、50質量%以上、好ましくは70~100質量%、より好ましくは85~100質量%である。ジエン系ゴムのすべてがイソプレン系ゴムでもよい。イソプレン系ゴムとしては、各種天然ゴムや各種合成ポリイソプレンゴムを挙げることができる。これらイソプレン系ゴムの中でも、特に、天然ゴムを好適に用いることができる。このようにジエン系ゴムの大半をイソプレン系ゴムとすることで、環境負荷を低減することが可能になる。即ち、天然ゴムの場合、石油由来の合成ゴムを用いない点で、石油への依存度を低減し、環境負荷を低減することができる。また、従来の合成ゴム(例えばスチレンブタジエンゴム)を主体とするゴム組成物と比較して、天然ゴムを主体とするゴム組成物は、廃棄後に再生ゴムとして利用しやすいため、リサイクル性の観点からも環境負荷を低減することができる。一方で、合成ポリイソプレンゴムについても、近年、バイオマス(生物資源)の糖からイソプレンを生成する技術が開発されており、そのようなイソプレンを重合して得た合成ポリイソプレンゴムを使用することで、石油への依存度を低減し、環境負荷を低減することが可能になる。
【0017】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述のイソプレン系ゴム以外に、他のジエン系ゴムを含有することができる。他のジエン系ゴムとしては、タイヤ用ゴム組成物に一般的に使用可能なゴムを用いることができる。例えば、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等を例示することができる。これら他のジエン系ゴムは、単独または任意のブレンドとして使用することができる。但し、他のジエン系ゴムを配合する場合であっても、その配合量はジエン系ゴム100質量%中、50質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下にする。即ち、他のジエン系ゴム(特に合成ゴム)の比率が高くなると、再生可能原料やリサイクル原料の比率が低くなり、環境負荷を低減する効果が十分に得られなくなる。具体的には、他のジエン系ゴムの配合量が50質量%を超えると(つまり、イソプレン系ゴムの配合量が50質量%未満であると)、環境負荷の低減に寄与するイソプレン系ゴムの比率が低減するので、環境負荷を低減する効果が十分に得られない。
【0018】
タイヤ用ゴム組成物は、熱可塑性樹脂が必ず配合される。イソプレン系ゴムを50質量%以上含むジエン系ゴムに、良好な相溶性を有する特定の熱可塑性樹脂を比較的多量に配合することにより、スチレンブタジエンゴムを主成分とするゴム組成物と同等レベル以上に引張破断強および0℃のtanδを向上させることができ、しかも加工性が良好で、タイヤのトレッド部に使用すると、ウェット性能、低転がり抵抗性および耐チッピング性を向上することができる。
【0019】
熱可塑性樹脂は、好ましくは脂肪族モノマー由来単位および/または芳香族モノマー由来単位から構成される。すなわち、脂肪族モノマー由来単位のみ、芳香族モノマー由来単位のみ、脂肪族モノマー由来単位および芳香族モノマー由来単位のいずれで構成されてもよい。脂肪族モノマー由来単位として、例えばモノマーが脂肪族化合物、脂環式化合物からなるモノマー由来単位が挙げられる。脂肪族化合物は、直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよく、また飽和、不飽和のいずれでもよい。脂環式化合物は、芳香性を有しない環からなる化合物であり、飽和、不飽和のいずれでもよい。また、脂環式化合物は、側鎖に任意の脂肪族化合物が結合してもよい。芳香族モノマー由来単位として、例えばモノマーが芳香性を有する環をもつ化合物(芳香族化合物)からなるモノマー由来単位が挙げられる。芳香族化合物は、任意の脂肪族化合物、脂環式化合物が結合してもよい。
【0020】
熱可塑性樹脂として、例えば石油系樹脂、芳香族系樹脂等が挙げられる。石油系樹脂として、例えばC5系石油樹脂(イソプレン、1,3-ペンタジエン、シクロペンタジエン、メチルブテン、ペンテンなどの留分を重合した脂肪族系石油樹脂)、C9系石油樹脂(α-メチルスチレン、o-ビニルトルエン、m-ビニルトルエン、p-ビニルトルエンなどの留分を重合した芳香族系石油樹脂)、C5/C9系樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂(DCPD系樹脂)、C9/ジシクロペンタジエン系樹脂(C9/DCPD系樹脂)およびC5/ジシクロペンタジエン系樹脂(C5/DCPD系樹脂)、並びにこれらを水素添加した水添C5系石油樹脂、水添C9系石油樹脂、水添C5/C9系石油樹脂、水添ジシクロペンタジエン系樹脂(水添DCPD系樹脂)、水添C5/ジシクロペンタジエン系樹脂(C5/水添DCPD系樹脂)および水添C9/ジシクロペンタジエン系樹脂(C9/水添DCPD系樹脂)などが例示される。また、芳香族系樹脂として、クマロン樹脂、フェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペン系樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、ロジン系樹脂、ノボラック系樹脂、レゾール系樹脂、芳香族インデン共重合体などを挙げることができる。これらの樹脂は、単独または複数のブレンドとして使用することができる。なお上述したC9系石油樹脂は、芳香族系樹脂にも分類される。
【0021】
熱可塑性樹脂は、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、C5/C9系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂、C5/ジシクロペンタジエン系樹脂、C9/ジシクロペンタジエン系樹脂、テルペン系樹脂、芳香族変性テルペン系樹脂、ロジン系樹脂およびこれらの水添樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つであるとよい。
【0022】
熱可塑性樹脂として、脂肪族モノマー由来単位および/または芳香族モノマー由来単位から構成され、その芳香族プロトン含有率が30%以下、好ましくは0%~30%、より好ましくは2%~20%、さらに好ましくは5%~15%であるとよい。芳香族プロトン含有率が30%を超えるとイソプレン系ゴム(天然ゴム)に対する相溶性が悪化し、引張破断強度が十分に得られない。熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率は、脂肪族モノマー由来単位および芳香族モノマー由来単位の比率や熱可塑性樹脂に水素添加することにより調節することができる。本明細書において、熱可塑性樹脂における芳香族プロトンの含有率は、熱可塑性樹脂に含まれる芳香族プロトンの含有量と脂肪族プロトンの含有量の合計に対する芳香族プロトンの含有量の割合であり、1H-NMRスペクトルの測定結果から求めることができる。
【0023】
熱可塑性樹脂の軟化点は、80℃以上160℃以下、好ましくは85℃~145℃、より好ましくは90℃~130℃である。熱可塑性樹脂の軟化点が80℃未満であるとウェット性能を向上する効果が十分に得られない。熱可塑性樹脂の軟化点が160℃を超えると、イソプレン系ゴムとの相溶性が低くなる。本明細書において、熱可塑性樹脂の軟化点は、JIS K6220-1(環球法)に準拠して測定することができる。
【0024】
タイヤ用ゴム組成物は、上述した芳香族プロトン含有量および軟化点の要件を満たす熱可塑性樹脂に加え、これと相違する他の熱可塑性樹脂を含むことができる。相違する他の熱可塑性樹脂とは、芳香族プロトン含有量、軟化点、平均分子量等の特性が互いに相違する熱可塑性樹脂、および/または、脂肪族モノマー由来単位および/または芳香族モノマー由来単位の種類、含有比率や水素添加の有無が相違する熱可塑性樹脂をいう。他の熱可塑性樹脂は、1つでも2つ以上でもよい。他の熱可塑性樹脂を含むとき、熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率および他の熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率の加重平均が30%以下であるとよい。すなわち、熱可塑性樹脂および他の熱可塑性樹脂の芳香族プロトン含有率をH1%およびH2%とし、それぞれの含有量をm1質量%およびm2質量%とするとき、以下の計算式で求められた芳香族プロトン含有率の加重平均Havが30%以下であるものとする。
Hav=(H1×m1+H1×m1)/(m1+m2)
なお、熱可塑性樹脂が3つ以上の場合も同様に加重平均値を求めることができる。芳香族プロトン含有率の加重平均Havは、好ましくは0%~30%、より好ましくは2%~20%、さらに好ましくは5%~15%であるとよい。
【0025】
熱可塑性樹脂は、ジエン系ゴム100質量部に対して、16質量部以上200質量部以下、好ましくは25質量部以上180質量部以下、より好ましくは50質量部を超え150質量部以下、さらに好ましくは55質量部以上120質量部以下配合する。熱可塑性樹脂を16質量部以上配合すると、ゴム組成物の引張破断強度および0℃のおけるtanδを良好にすることができ、空気入りタイヤの耐チッピング性およびウェット性能を向上することができる。また熱可塑性樹脂が200質量部を超えると、低転がり抵抗性が悪化する。
【0026】
タイヤ用ゴム組成物は、イソプレン系ゴムおよび熱可塑性樹脂と共に、エステル系可塑剤が配合される。エステル系可塑剤を共存させることにより、イソプレン系ゴムおよび熱可塑性樹脂の親和性をさらに高くすることができ、ウェット性能、低転がり抵抗性および耐チッピング性を向上するには有利になる。さらに、ゴム組成物の粘度を小さくし加工性を向上することができる。これに対し、オイルやポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのエーテル系可塑剤は、加工助剤として、加工性の改良には寄与し得るが、エステル系可塑剤のように、イソプレン系ゴムおよび熱可塑性樹脂の親和性に影響を及ぼすことはない。
【0027】
エステル系可塑剤は、ジエン系ゴム100質量部に対し10質量部以下、好ましくは1~8質量部、より好ましくは2~6質量部配合するとよい。エステル系可塑剤が10質量部を超えると、ウェット性能および低転がり抵抗性が低下する。
【0028】
エステル系可塑剤として、カルボキシ基などの有機酸と、一価アルコール、多価アルコール、フェノールなどのアルコール類とからなる、カルボン酸エステルなどの有機酸エステル、リン酸とアルコール類とからなるリン酸エステル、またはアミド基を有するスルホン酸エステルなどが例示される。なかでもカルボン酸エステル、リン酸エステルが好ましい。
【0029】
エステル系可塑剤を構成するカルボン酸として、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸(脂肪族二塩基酸)、脂肪族トリカルボン、酸芳香族モノカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族トリカルボン酸、等が例示される。カルボン酸の炭素数は好ましくは1~20、より好ましくは3~12であるとよく、炭素-炭素二重結合を有してもよい。また、カルボン酸を構成する炭化水素は、直鎖状、分岐鎖状、脂環式、芳香環のいずれでもよい。
【0030】
エステル系可塑剤を構成するアルコール類は、好ましくは一価アルコールであり、その炭素数は好ましくは1~20、より好ましくは3~12であるとよい。一価アルコールの炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、脂環式のいずれでもよい。
【0031】
カルボン酸エルテルとして、例えばカルボン酸のモノエステル、ジエステル、トリエステルおよびこれらの混合物が挙げられる。具体的なカルボン酸モノエルテルとして、例えばオレイン酸オクチル、オレイン酸ノニルなどのオレイン酸エステル、ステアリン酸エステル、リノール酸エステル、リノレン酸エステル、リシノール酸エステル等が挙げられる。カルボン酸ジエステルとして、脂肪族二塩基酸エステル、フタル酸エステル、が例示される。カルボン酸トリエステルとして、トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテートなどのトリメリット酸エステルが挙げられる。
【0032】
脂肪族二塩基酸エステルとして、例えばマロン酸エステル、リンゴ酸エステル、フマル酸エステル、コハク酸エステル;ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ビス(2-エチルヘキシル)アジペート、ジイソオクチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、などのアジピン酸エステル;ジブチルセバケート、ビス(2-エチルヘキシル)セバケート、ジイソオクチルセバケートなどのセバシン酸エステルが挙げられる。
【0033】
フタル酸エステルとして、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ビス(-2-エチルヘキシル)フタレート、ジオクチルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジイソノニルフタレートなどのフタル酸エステル、イソフタル酸エステル、テトラヒドロフタル酸エステル、等が例示される。
【0034】
リン酸エルテルとして、例えばトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリオクチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリトリルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、イソデシルジフェニルホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート、等が挙げられる。
【0035】
スルホン酸エルテルとして、例えばN-ブチルベンゼンスルホンアミド、トルエンスルホンアミド、N-エチル-トルエンスルホンアミド、N-シクロアルキル-p-トルエンスルホンアミド、等が挙げられる。
【0036】
上述したエステル系可塑剤のうち、脂肪族二塩基酸エステル、リン酸エステル、フタル酸エステル、トリメリット酸エステルが、より好ましい。
【0037】
タイヤ用ゴム組成物は、シリカを配合することにより、ウェット性能および低転がり抵抗性を向上する。シリカの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して50質量部以上150質量部以下、好ましくは60質量部以上135質量部以下、より好ましくは70質量部以上120質量部以下である。シリカが50質量部未満であるとウェット性能を向上する作用が十分に得られない。シリカが150質量部を超えると分散性が悪化し転がり抵抗が却って大きくなる。
【0038】
シリカとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常使用されるシリカ、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカあるいは表面処理シリカなどを使用することができる。シリカは、市販されているものの中から適宜選択して使用することができる。また通常の製造方法により得られたシリカを使用することもできる。
【0039】
タイヤ用ゴム組成物は、シリカ以外の他の充填剤を配合することができる。他の充填剤としては、例えば、カーボンブラック、クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、水酸化アルミニウム等のタイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられる材料を例示することができる。特に、カーボンブラックを併用することが好ましい。カーボンブラックを併用することで、耐摩耗性を向上することができる。カーボンブラックを併用する場合、その配合量は特に限定されないが、上述のジエン系ゴム100質量部に対して、例えば5質量部~20質量部に設定することができる。
【0040】
タイヤ用ゴム組成物では、上述のシリカを配合するにあたって、シランカップリング剤を併用することが好ましい。シランカップリング剤を配合することにより、ジエン系ゴムに対するシリカの分散性を向上することができる。シランカップリング剤の種類は、シリカ配合のゴム組成物に使用可能なものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等の硫黄含有シランカップリング剤を例示することができる。これらのなかでも、特に、分子中にテトラスルフィド結合を有するものを好適に用いることができる。シランカップリング剤の配合量は、シリカの配合量に対し、好ましくは10質量%未満、より好ましくは6質量%~9質量%にするとよい。シランカップリング剤の配合量がシリカ配合量の10質量%以上であるとシランカップリング剤同士が縮合し、ゴム組成物における所望の硬度や強度を得ることができない。
【0041】
本発明のゴム組成物には、上記以外の他の配合剤を添加することができる。他の配合剤としては、加硫または架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、液状ポリマーなど、一般的にタイヤ用ゴム組成物に使用される各種配合剤を例示することができる。これら配合剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量にすることができる。また、混練機としは、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用することができる。
【0042】
タイヤ用ゴム組成物は、タイヤのトレッド部、とりわけキャップトレッドを形成するのに好適である。キャップトレッドを、上述したゴム組成物で形成したタイヤは、ウェット性能、低転がり抵抗性、および耐チッピング性を改善し、これら性能をバランスよく高度に両立することができる。また、加工性に優れ、優れた品質のタイヤを安定して生産することができる。
【0043】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0044】
表3に示す共通の配合剤処方を有し、表1~2に示す配合からなるタイヤ用ゴム組成物(基準例1、比較例1~8、実施例1~12)を調製した。その製造方法は、それぞれ加硫促進剤および硫黄を除く配合成分を秤量し、1.8Lの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、マスターバッチを放出し室温冷却した。その後、そのマスターバッチを1.8Lの密閉式バンバリーミキサーに供し、加硫促進剤及び硫黄を加え2分間混合して、各タイヤ用ゴム組成物を得た。なお、表3の共通の配合剤の配合量は、表1~2のジエン系ゴム100質量部に対する質量部である。
【0045】
得られたタイヤ用ゴム組成物のムーニー粘度を以下の方法で測定した。また、タイヤ用ゴム組成物を使用し、以下に示す方法により、低転がり抵抗性、ウェット性能、および耐チッピング性の評価を行った。
【0046】
ムーニー粘度
タイヤ用ゴム組成物のムーニー粘度(ML1+4)を、JIS K6300に準拠してムーニー粘度計にてL型ロータを使用し、予熱時間1分、ロータの回転時間4分、温度100℃、2rpmの条件で測定した。得られた結果はそれぞれの逆数を算出し、基準例1を100とする指数として表1~2の「加工性」の欄に示した。この指数が大きいほどムーニー粘度が低く、加工性が優れることを意味する。
【0047】
ウェット性能および低転がり抵抗性
各タイヤ用ゴム組成物を用いて、所定形状の金型(内寸:長さ150mm、幅150mm、厚さ2mm)を用いて170℃、10分間加硫し、加硫ゴム試験片を作成した。この加硫ゴム試験片を使用し、東洋精機製作所社製粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件で動的粘弾性を測定し、0℃および60℃におけるtanδを求めた。0℃のtanδの結果は、基準例1の値を100とする指数として、表1~2の「ウェット性能」の欄に示した。この指数が大きいほど、ウェット性能が優れることを意味する。また、60℃のtanδの結果は、それぞれの逆数を算出し、基準例1の値を100とする指数として、表1~2の「低転がり抵抗性」の欄に示した。この指数値が大きいほど低転がり抵抗性が優れることを意味する。
【0048】
耐チッピング性
得られたタイヤ用ゴム組成物をキャップトレッドに使用した空気入りタイヤ(タイヤサイズ:265/60R18)を加硫成形した。得られた空気入りタイヤを標準リム(リムサイズ:265/60R18)に組み付け、空気圧250kPaを充填し、試験車両に装着し、未舗装路からなる試験路にて1000km走行した後、トレッド部に生じたチッピングの個数を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用いて、基準例1の値を100とする指数で示した。この指数値が大きいほどチッピングの個数が少なく、耐チッピング性に優れることを意味する。
【0049】
【0050】
【0051】
表1~2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、TSR20(ガラス転移温度TgA:-75℃)
・SBR:スチレンブタジエンゴム、日本ゼオン社製 Nipol NS612(ガラス転移温度Tg:-63℃)
・シリカ:Solvay社製 ZEOSIL 1165MP
・熱可塑性樹脂1:芳香族変性テルペン樹脂、ヤスハラケミカル社製YSレジンTO-125、芳香族プロトン含有率が12%
・熱可塑性樹脂2:C9/水添DCPD系樹脂、ENEOS社製T-REZ HA125、芳香族プロトン含有率が1%
・熱可塑性樹脂3:C9系石油樹脂、上海宣達加工社製RT-95B、芳香族プロトン含有率が15%
・熱可塑性樹脂4:水添DCPD系樹脂、Hanwha社製HS-130、芳香族プロトン含有率が0%
・熱可塑性樹脂5:ロジンエステル樹脂、Kraton社製Sylvatraxx2097、芳香族プロトン含有率が4%
・熱可塑性樹脂6:C9系石油樹脂、ENEOS社製ネオポリマーS100、芳香族プロトン含有率が37%
・カップリング剤:シランカップリング剤、Evonik社製 Si69
・オイル:昭和シェル石油社製 エキストラクト4号S
・エステル系可塑剤1:リン酸エステル系可塑剤、トリス(2-エチルヘキシル)ホスフェート、大八化学工業社製TOP
・エステル系可塑剤2:脂肪族二塩基酸エステル、ビス(2-エチルヘキシル)アジペート、大八化学工業社製DOA
・エステル系可塑剤3:フタル酸エステル、フタル酸ジ(2‐エチルヘキシル)、新日本理化社製
・エステル系可塑剤4:トリメリット酸エステル、トリメリット酸イソノニルエステル、ADEKA社製
・エーテル系可塑剤:エーテル系可塑剤、ソフバールP-0403N、日油社製
【0052】
【0053】
表3において使用した原材料の種類を下記に示す。
・老化防止剤:LANXESS社製 VULKANOX 4020
・ワックス:NIPPON SEIRO社製 OZOACE‐0015A
・硫黄:鶴見化学工業社製 サルファックス5
・加硫促進剤:大内新興化学社製 ノクセラー TOT‐N
【0054】
表2から明らかなように、実施例1~14のタイヤ用ゴム組成物について、基準例1に対して、ウェット性能、低転がり抵抗性、耐チッピング性および加工性を維持または向上し、これら性能をバランスよく両立することを確認した。
【0055】
表1から明らかなように、比較例1のゴム組成物は、熱可塑性樹脂の配合量が少なく、エステル系可塑性を含有しないため、耐チッピング性が不足する。
比較例2のゴム組成物は、熱可塑性樹脂の配合量が多く、エステル系可塑性を含有しないため、低転がり抵抗性が悪化する。
比較例3のゴム組成物は、シリカの配合量が少ないため、ウェット性能が不足する。
比較例4のゴム組成物は、シリカの配合量が多いため、低転がり抵抗性が悪化する。
比較例5のゴム組成物は、イソプレン系ゴムが少ないため、耐チッピング性が不足する。
比較例6のゴム組成物は、エステル系可塑性の配合量が多いため、低転がり抵抗性およびウェット性能が不足する。
比較例7のゴム組成物は、エステル系可塑性の代わりにエーテル系可塑剤を配合したため、低転がり抵抗性およびウェット性能を向上する効果が十分に得られない。
【0056】
本開示は、以下の発明を包含する。
発明[1] イソプレン系ゴムを50質量%以上含有するジエン系ゴム100質量部に対し、シリカを50質量部以上150質量部以下、熱可塑性樹脂を16質量部以上200質量部以下、エステル系可塑剤を10質量部以下配合したことを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
発明[2] 前記イソプレン系ゴムが天然ゴムであることを特徴とする発明[1]に記載のタイヤ用ゴム組成物。
発明[3] 前記エステル系可塑剤が、脂肪族二塩基酸エステル、リン酸エステル、フタル酸エステル、トリメリット酸エステルから選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする発明[1]または[2]に記載のタイヤ用ゴム組成物。
発明[4] 前記熱可塑性樹脂が、C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、C5/C9系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂、C5/ジシクロペンタジエン系樹脂、C9/ジシクロペンタジエン系樹脂、テルペン系樹脂、芳香族変性テルペン系樹脂、ロジン系樹脂およびこれらの水添樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする発明[1]~[3]のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
発明[5] 前記熱可塑性樹脂が、脂肪族モノマー由来単位および/または芳香族モノマー由来単位から構成され、その芳香族プロトン含有率が30%以下であることを特徴とする発明[1]~[4]のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。