(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157149
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】廃タイヤのカーボンブラック回収方法
(51)【国際特許分類】
B29B 17/00 20060101AFI20241030BHJP
C10J 3/00 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
B29B17/00 ZAB
C10J3/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071314
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】390014568
【氏名又は名称】東芝プラントシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000235
【氏名又は名称】弁理士法人 天城国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野間 毅
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA40
4F401AB05
4F401AB10
4F401AC02
4F401BA13
4F401BB20
4F401CA14
4F401CA25
4F401CA70
4F401CB09
4F401EA38
(57)【要約】
【課題】廃タイヤから効率良く純度の高いカーボンブラックを回収し、それを再利用することにより、資源の節約及び温暖化ガス負荷の低減を図る。
【解決手段】カーボンブラック回収方法は、廃タイヤを乾留装置(1)内で乾留する乾留工程と、乾留後に残る炭化残渣(C)を、ゴム炭化物の固定炭素分がガス化を始める第1の設定温度(T1)、たとえば800℃より大きく、カーボンブラックがガス化を始める第2の設定温度(T2)、たとえば1400℃未満の高温度環境下に置くことにより、固定炭素分をガス化してカーボンブラックを固体状態で残す加熱工程と、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃タイヤを乾留装置内で乾留する乾留工程と、
乾留後に残る炭化残渣を、前記炭化残渣中のゴム炭化物の固定炭素分がガス化を始める第1の設定温度(T1)を超え、カーボンブラックがガス化を始める第2の設定温度(T2)未満の高温度環境下に置くことにより、前記固定炭素分をガス化して前記カーボンブラックを固体状態で残す加熱工程と、を含む廃タイヤのカーボンブラック回収方法。
【請求項2】
前記固定炭素分がガス化を始める前記第1の設定温度(T1)は800℃に設定され、前記カーボンブラックがガス化を始める前記第2の設定温度(T2)は1400℃に設定される、請求項1に記載の廃タイヤのカーボンブラック回収方法。
【請求項3】
前記乾留工程と前記加熱工程との間に、乾留により得られた前記炭化残渣を粉砕処理する粉砕工程を含む、請求項1又は2に記載の廃タイヤのカーボンブラック回収方法。
【請求項4】
前記高温度環境下において、重量濃度5%以下の微量酸素を添加する、請求項1又は2に記載の廃タイヤのカーボンブラック回収方法。
【請求項5】
前記高温環境を維持する熱源として、前記乾留工程で発生した乾留ガスを燃焼させることにより得られた熱を利用する、請求項1又は2に記載の廃タイヤのカーボンブラック回収方法。
【請求項6】
前記高温環境を維持する熱源として、前記乾留工程で発生する乾留ガスを冷却することにより得られた乾留油を燃焼させることにより得られた熱を利用する、請求項1又は2に記載の廃タイヤのカーボンブラック回収方法。
【請求項7】
前記加熱工程で固体として残るカーボンブラックから鉄成分を分離する鉄分分級工程を含む、請求項1又は2に記載の廃タイヤのカーボンブラック回収方法。
【請求項8】
前記加熱工程で固体として残るカーボンブラックから灰分を分離する灰分分級工程を含む、請求項1又は2に記載の廃タイヤのカーボンブラック回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム製の廃タイヤからカーボンブラックを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車を始めとする各種車両に用いられたゴム製の廃タイヤは、重量比で約25%のカーボンブラックが添加されている。ここで、カーボンブラックは化石燃料を高温度下で不完全燃焼させることで製造され、製造時における環境負荷が非常に高い。さらに、乗用車用タイヤ(例えば195/65R/15のタイヤ)を構成する原材料の総温室効果ガス発生量(228kg_CO2/本)のうち、該乗用車用タイヤに添加されたカーボンブラックに起因する温室効果ガス発生量(6.7kg_CO2/本)は約30%も占めている。これらの事実から、地球温暖化対策の1つとして、ゴム製の廃タイヤからカーボンブラックを高い純度で回収する技術が急務となっている。
【0003】
また、自動車を始めとする各種車両に用いられたゴム製の廃タイヤは、一般的には、リサイクル施設などで焼却処理されてリサイクル処理が施される。しかしながら、単に焼却処理するだけではリサイクル率は低い。そこで最近では、廃タイヤのリサイクル処理に熱分解油化処理(プロセス)を用いてリサイクル率を向上させる方法が利用されている。例えば、廃タイヤを乾留装置に充填し、酸素のない雰囲気中で加熱することにより、廃タイヤを熱分解する。この時に発生する乾留ガスを冷却して、油分として回収する。回収した油分は乾留装置の燃料として再利用され、ガス化しない残渣は炭化物として回収されて再利用する方法である。この回収した油成分を燃料として再利用する技術は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の廃タイヤのリサイクル処理では、乾留処理後の炭化残渣はゴム炭化物とカーボンブラックを含んだ状態で回収される。すなわち、300℃~800℃の範囲の乾留では揮発成分がガス化されるだけで、ゴムの固定炭素分とカーボンブラックの混合物とが残されてしまい、純度の高いカーボンブラックが回収できているとはいえない。
【0006】
本発明の目的は、廃タイヤの炭化残渣から純度の高いカーボンブラックを効率良く回収できる廃タイヤのカーボンブラック回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明に係る廃タイヤのカーボンブラック回収方法は、廃タイヤを乾留装置内で乾留する乾留工程と、乾留後に残る炭化残渣を、前記炭化残渣中のゴム炭化物の固定炭素分がガス化を始める第1の設定温度(T1)を超え、カーボンブラックがガス化を始める第2の設定温度(T2)未満の高温度環境下に置くことにより、前記固定炭素分をガス化して前記カーボンブラックを固体状態で残す加熱工程と、を含む。
【0008】
前記発明の一態様は、前記固定炭素分がガス化を始める前記第1の設定温度(T1)は800℃に設定され、前記カーボンブラックがガス化を始める前記第2の設定温度(T2)は1400℃に設定される。
【0009】
前記いずれかの発明の一態様は、前記乾留工程と前記加熱工程との間に、乾留により得られた前記炭化残渣を粉砕処理する粉砕工程を含む。
【0010】
前記いずれかの発明の一態様は、前記高温度環境下において、重量濃度5%以下の微量酸素を添加する。
【0011】
前記いずれかの発明の一態様は、前記高温環境を維持する熱源として、前記乾留工程で発生した乾留ガスを燃焼させることにより得られた熱を利用する。
【0012】
前記いずれかの発明の一態様は、前記高温環境を維持する熱源として、前記乾留工程で発生する乾留ガスを冷却することにより得られた乾留油を燃焼させることにより得られた熱を利用する。
【0013】
前記いずれかの発明の一態様は、前記加熱工程で固体として残るカーボンブラックから鉄成分を分離する鉄分分級工程を含む。
【0014】
前記いずれかの発明の一態様は、前記加熱工程で固体として残るカーボンブラックから灰分を分離する灰分分級工程を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、廃タイヤの炭化残渣から純度の高いカーボンブラックを効率良く回収できる。さらに、新たなタイヤ製造時にその回収カーボンブラックを再利用でき、タイヤ製造の際のカーボンブラックに起因する温室効果ガス負荷を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】廃タイヤのリサイクル設備の全体概略図である。
【
図3】
図1の乾留装置内に配置されるカートリッジ容器の縦断面図である。
【
図4】廃タイヤの乾留工程及びカーボンブラック回収方法を示したフローチャートである。
【
図5】炭化残渣を粉砕する粉砕機として用いる撹拌機の正面図である。
【
図7】
図5の撹拌機による粉砕工程を示すカートリッジ容器の断面図である。
【
図8】本発明によるカーボンブラック回収方法の実施時における、温度及び残渣質量の時間的変化を示すグラフである。
【
図9】炭化残渣中から金属ワイヤを分級する金属ワイヤ取出し用電磁石の正面図である。
【
図10】カーボンブラックから灰分を分級するサイクロン式分級機の正面略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施形態]
(廃タイヤのリサイクル設備)
図1~
図3により、廃タイヤのリサイクル設備を説明する。
図1は廃タイヤのリサイクル設備の全体概略図である。
図1のリサイクル設備は、乾留装置1と、一次冷却器2と、二次冷却器3と、冷却機側安全器4と、粗油タンク5と、ろ過器6と、精油タンク7と、流量計8と、過剰ガス焼却炉9と、灯油タンク10と、残油タンク47とを備えて構成される。
【0018】
乾留装置1は、円筒状の胴体21と、該胴体21の下側に設けられた加熱炉22と、胴体21の上側に開閉自在に設けられた天蓋23と、胴体21内に着脱自在に装着されるカートリッジ容器25とを備えて構成される。天蓋23は乾留ガス出口部27を有している。胴体21は加熱炉22で発生する燃焼排ガスを排出する燃焼排ガス出口部28を有している。加熱炉22は、再生された精油及び冷却後の乾留ガスを燃焼に利用する。
【0019】
白抜きの矢印31,32,33,34,35は、乾留装置1で発生する乾留ガスが流れる送気通路を示している。太い実線の矢印36,37は、過剰ガス焼却炉9及び加熱炉22で発生する燃焼排ガスが流れる排気通路を示している。細い実線の矢印41,42,43,44,45は、一次冷却器2及び二次冷却器3において乾留ガスから分離された乾留油が流れる送油通路を示している。細い実線の矢印46は灯油タンク10から過剰ガス燃焼炉9に灯油が流れる送油通路を示している。送気通路31,32,33,34,35、排気通路36,37及び送油通路41,42,43,44,45,46は、送気管、排気管及び送油管並びにその他の通路部材から構成されている。
【0020】
乾留装置1の乾留ガス出口部27は、送気通路31を介して一次冷却器2のガス入口部に接続されている。一次冷却器2のガス出口部は、送気通路32を介して二次冷却器3のガス入口部に接続されている。二次冷却器3のガス出口部は、送気通路33を介して冷却機側安全器4に接続されている。冷却器側安全器4のガス出口部は送気通路35を介して加熱炉22に接続されると共に、送気通路34を介して過剰ガス焼却炉9に接続されている。過剰ガス焼却炉9の燃料入口部は送油通路46を介して灯油タンク10に接続されている。過剰ガス焼却炉9の排気ガス出口部は排気通路36を介して排気処理部(図示せず)に接続されている。
【0021】
一次冷却器2及び二次冷却器3の各油出口部は送油通路41,42を介して粗油タンク5に接続されている。粗油タンク5の油出口部は送油通路43を介してろ過器6に接続されている。ろ過器6の油出口部は送油通路44を介して精油タンク7に接続されている。精油タンク7の油出口部は送油通路45及び流量計8を介して加熱炉22に接続されている。乾留装置1の燃料排ガス出口部28は、排気通路37を介して排気処理部に接続されている。
【0022】
次に、乾留システム全体の作用を簡単に説明する。
【0023】
廃タイヤTはカートリッジ容器25内に投入され、乾留装置1の加熱炉22で加熱される。これにより乾留ガスが発生する。発生した乾留ガスは、乾留ガス出口部27から送気通路31,32を介して一次冷却器2及び二次冷却器3へ順次送られ、冷却される。これにより、乾留ガス中の油成分が分離され、乾留油として粗油タンク5に送られる。一方油成分が分離された乾留ガスは、送気通路33を介して冷却器側安全器4に送られ、一部は送気通路35を介して乾留装置1の加熱炉22に送られ、残りは送気通路34を介して過剰ガス焼却炉9に送られる。
【0024】
精油タンク7内の精油は、送油通路45及び流量計8を介して加熱炉22に送られ、燃焼に再利用される。過剰ガス焼却炉9で発生する排気ガスは、乾留装置1の燃焼排ガス出口部28から排出される燃焼排ガスと共に、排気処理部へ送られる。
【0025】
図2は乾留装置1の縦断面図を図示する。
図3はカートリッジ容器25の縦断面図を図示する。
図2に示すように、胴体21内には、カートリッジ容器収納室24を形成する保護缶26が設けられている。カートリッジ容器25の底壁には、上方に突出する凸部25aが形成されている。また、保護缶26の底壁の中央部には、凸部25a内に下方から突入する突入部26aが形成されている。天蓋23は、複数のクランパー48により、カートリッジ容器25又は胴体21に着脱自在に締結されている。燃焼排ガス出口部28は、保護缶26と胴体21との間の環状の隙間を介して加熱炉22に連通している。
【0026】
簀子状の中棚30がカートリッジ容器25内の上下方向幅の概ね中間部に装着可能である。なお、本実施形態係る乾留工程では、この中棚30は用いられていない。
【0027】
図3に示すように、凸部25aは、カートリッジ容器25の底壁の略中央部に形成されており、カートリッジ容器25の上下方向幅の概ね1/3~1/2程度の高さを有している。
【0028】
(乾留工程)
廃タイヤTの乾留工程を説明する。
図1において、廃タイヤTはカートリッジ容器25内に投入され、乾留装置1の加熱炉22により、酸素のない雰囲気中で加熱される。これにより乾留ガスが発生する。発生した乾留ガスは、乾留ガス出口部27から送気通路31、32を介して一次冷却器2及び二次冷却器3へ順次送られ、冷却される。これにより、乾留ガス中の油成分が分離され、乾留油として粗油タンク5に送られる。一方油成分が分離された乾留ガスは、送気通路33を介して冷却器側安全器4に送られ、一部は送気通路35を介して乾留装置1の加熱炉22に送られ、残りは送気悠路34を介して過剰ガス焼却炉9に送られる。
【0029】
精油タンク7内の精油は、送油通路45及び流量計8を介して加熱炉22に送られ、燃焼に再利用される。過剰ガス焼却炉9で発生する排気ガスは、乾留装置1の燃焼排ガス出口部28から排出される燃焼排ガスと共に、排気処理部へ送られる。
【0030】
図4は廃タイヤの乾留工程及びカーボンブラック回収方法のフローチャートである。ステップS1~S6は乾留工程を示している。乾留工程に関しては、既に
図1により説明しているので簡単に説明する。ステップS1において、廃タイヤは乾留装置1に投入され、ステップS2において、乾留装置1内の廃タイヤは酸素のない状態で加熱乾留される。加熱乾留によりステップS3の乾留ガスが発生する。ステップS4において、乾留ガスは冷却されることにより再生油として生成される。ステップS5において、再生油は乾留装置1の加熱炉22の燃料として再利用される。一方、ステップS6において、乾留工程後、炭化残渣Cと金属ワイヤWが乾留装置1内に残る。
【0031】
(粉砕及びカーボンブラックの回収工程)
図4では、二点鎖線Rで囲むステップS6からステップS17は、乾留後の炭化残渣Cからカーボンブラック、灰分及び金属ワイヤWを分離して回収するための工程を示している。ステップS6の炭化残渣C及び金属ワイヤWは、ステップS7において、粉砕機により粉砕され、ステップS8に示す微粉化された炭化残渣Cと金属ワイヤWの混合物になる。
【0032】
図5及び
図6は粉砕機の一例である撹拌機51を図示する。撹拌機51は、凸部25aの上端面に支持される台座56と、軸受57を介して台座56に回転自在に支持された回転軸58と、回転軸58に一体回転可能に取り付けられた複数の支持部材59と、各支持部材59に固着された複数本の攪拌棒60とを備えて構成される。各攪拌棒60は下方に伸びており、かつ、相互に異なる長さに設定されている。本実施形態では、4本の撹拌棒60の場合、2本は短く、2本は長く形成されている。しかしながら、本発明はこれに限定されない。
【0033】
図6は撹拌機51の底面図(下面図)である。
図6に示すように、支持部材59は十字状に形成され、4本の攪拌棒60が各支持部材59の端部に設けられている。また、支持部材59を補強する円環状の補強部材61が、各支持部材59を連結するように設けられている。
【0034】
図7は撹拌機51による具体的な粉砕作業の一例を示している。
図7に示すように、撹拌機51はカートリッジ容器25内に挿入され、撹拌機51の台座56が凸部25aの上端面に当接支持される。回転軸58はカートリッジ容器25から上方に突出し、駆動装置(図示せず)に連結される。各攪拌棒60は、炭化残渣C内に突入される。カートリッジ25が載置された置台54は回転可能であるが、固定状態で使用される。撹拌機51の回転軸58が矢印A1の方向に回転すると、攪拌棒60が回転軸58と同方向に周回して炭化残渣Cを撹拌する。これにより、固定状の炭化残渣Cは粉状に粉砕される。また、金属ワイヤWに付着していた炭化残渣Cは剥がされる。なお、撹拌機51を固定し、置台54を矢印A2方向に回転することにより、炭化残渣Cを撹拌粉砕する事も可能である。
【0035】
なお、粉砕作業として、炭化残渣C及び金属ワイヤWの混合物をカートリッジ容器25から排出し、スタンピング式の転圧装置により粉砕することもできる。
【0036】
図4に戻り、ステップS8において、微粉化された炭化残渣Cにはゴム炭化物とカーボンブラックとが含まれている。ここで、ゴム炭化物は、固定炭素分と、揮発成分と、灰分とを含んでいる。カーボンブラックは、化石燃料を高温度の下で不完全燃焼させて製造され、結晶構造が強固である。カーボンブラックのガス化温度は1400℃以上である。すなわち、カーボンブラックがガス化を始める第2の設定温度(T2)は1400℃に設定される。ゴム炭化物の固定炭素分はカーボンブラックより結晶強度が弱く、固定炭素分のガス化温度は800℃である。ゴム炭化物の揮発成分は主として粘性の高い液体成分であり、揮発成分のガス化温度は600℃以上である。金属ワイヤは鉄であり、ガス化しない物質として取り扱われる。灰分はガス化されない。
【0037】
前記各特性を有する成分を含む炭化残渣Cと金属ワイヤWの混合物は、乾留装置1あるいは別の加熱装置に投入され、ステップS9において加熱処理される。この場合、微量の酸素が投入される。微量の酸素とは、炭化物の燃焼当量酸素比に対して小さな量の酸素である。本実施形態では、たとえば重量比で5%あるいはそれ以下の酸素が投入される。酸素の投入形態は、酸素単体、富化酸素、空気、水蒸気、二酸化炭素等の酸素分子を含む酸化剤である。
【0038】
加熱工程であるステップS9において、800℃より高く1400℃未満の範囲の高温環境まで上昇させ、前述のように5%あるいはそれ以下の微量酸素を含む雰囲気中で加熱処理される。すなわち、固定炭素分がガス化を始める第1の設定温度(T1)である800℃を超え、カーボンブラックがガス化を始める第2の設定温度(T2)である1400℃未満の高温度環境下に置いて、加熱処理される。
【0039】
温度上昇に伴い、最初に100℃程度で水分が蒸発し、次いで水素が離脱し、600℃以上で揮発成分がガス化する。さらに温度上昇して、800℃を超えると、固定炭素分がガス化する。ガス化により生じた一酸化炭素又は二酸化炭素は、ステップS10のように排出され、乾留装置(加熱装置)1内には、ステップS11のように、カーボンブラックと、灰分と、金属ワイヤWとが残る。
【0040】
ステップS11で混合物中に含まれている金属ワイヤWは、ステップS12の金属ワイヤ取出し工程(鉄分分級工程)において、金属ワイヤ取出し機により取り出される。すなわち、鉄分が分級される。分級されたステップS13の金属ワイヤWは、ステップS14において、鉄くずとなって再利用される。
【0041】
ステップS12で金属ワイヤWが分級されたカーボンブラックと灰分との混合物は、ステップS15において、灰分分級機により分離される。すなわち、ステップS16に示す灰分と、ステップS17に示すカーボンブラックとに分離される。これにより、最終的に、純度の高いカーボンブラックが回収される。
【0042】
図8は、加熱処理において、温度の時間的変化と、炭化残渣Cの質量(熱重量)の時間的変化を示したグラフである。上段のグラフG1は酸素濃度が5%の時の質量変化を示している。中段のグラフG2は酸素濃度が5%より大きく10%以下の範囲、たとえば10%の時の質量変化を示している。下段のグラフG3は酸素濃度が10%より大きい時、たとえば20%の時の質量変化を示している。破線で示すグラフX1は、温度の変化である。
【0043】
グラフG1において、温度上昇に伴い、最初に100℃で水分が蒸発し、次いで水素が離脱し、600℃以上で揮発成分がガス化される。さらに温度上昇して、800℃(第1の設定温度)を超えると、固定炭素成分がガス化される。ガス化により生じた一酸化炭素又は二酸化炭素は排出され、ガス化されないカーボンブラック及び灰分が残る。すなわち、固定炭素分がガス化を始める第1の設定温度(T1)は800℃に設定される。
【0044】
グラフG2及びグラフG3のように、酸素濃度を大きくすると、カーボンブラックまでも燃焼を始め、カーボンブラックの回収率がグラフG1の場合よりも低くなる。
【0045】
図9は、金属ワイヤ取出し機(鉄分分級機)の概略図である。
図9に示すように、金属ワイヤ取出し機(鉄分分級機)は、棒状の電磁石52と吊り部材62とを備えて構成され。電磁石52により金属ワイヤWを吸着させることにより、金属ワイヤWが炭化残渣Cから分離される。
【0046】
図10はカーボンブラックと灰分とを分離する灰分分級機の概略図である。
図10の灰分分級機は、フィルターを有するサイクロン式分級機本体53と、ホース53aと、ノズル部53bとを備えて構成される。ノズル部53bによりカーボンブラック及び灰分の混合物が吸引され、分級機本体53内の遠心力を利用して灰分とカーボンブラックとが分離される。
【0047】
[実施形態による効果]
(1)廃タイヤから純度の高いカーボンブラックを効率良く回収でき、回収したカーボンブラックを新たにタイヤ製造に再利用できる。これにより、資源を有効利用できるのはもちろんのこと、新たにカーボンブラックを製造することによる環境負荷をなくし、温室効果ガス負荷を低減できる。
【0048】
(2)加熱工程時、微量の酸素(5%あるいはそれ以下)を投入するので、ゴム炭化物のガス化が促進される。特に、微量としていることにより、前述ガス化を促進する一方で、カーボンブラックまでもが燃焼するのを防ぎ、カーボンブラックの回収率を高く維持することが可能となる。
【0049】
[他の実施形態]
(1)前記実施形態では、炭化残渣は、800℃を超え、1400℃未満の範囲の高温環境下で加熱処理されたが、900℃を超え、1400℃未満の範囲の高環境下で加熱処理することにより、固定炭素分のガス化はさらに促進される。
【0050】
(2)粉砕機としては、
図5に示す撹拌機51の他に、炭化残渣及び金属ワイヤの混合物を連続的に叩くスタピング方式の転圧装置等を利用することもできる。
【0051】
(3)鉄分分級機としては、
図9のような電磁石の他に、サイクロン式の分級機を利用する事も可能である。
【0052】
(4)灰分分級機としては、たとえば比重差により分別する分級機を利用することも可能ある。
【0053】
本発明の幾つかの実施形態を説明したが、前記各実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施しうるものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
1 乾留装置(加熱装置の一例)
51 撹拌機(粉砕機の一例)
52 金属ワイヤ取出し用電磁石(鉄分分級機の一例)
53 サイクロン式分級機(灰分分級機の一例)
W 金属ワイヤ
C 炭化残渣
【手続補正書】
【提出日】2024-08-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃タイヤを乾留装置内で乾留する乾留工程と、
乾留後に残る炭化残渣を、前記炭化残渣中のゴム炭化物の固定炭素分がガス化する第1の設定温度900℃を超え、カーボンブラックがガス化を始める第2の設定温度1400℃未満の高温度環境下に置くことにより、前記固定炭素分をガス化して前記カーボンブラックを固体状態で残す加熱工程と、を含む廃タイヤのカーボンブラック回収方法。
【請求項2】
前記乾留工程と前記加熱工程との間に、乾留により得られた前記炭化残渣を粉砕処理する粉砕工程を含む、請求項1に記載の廃タイヤのカーボンブラック回収方法。
【請求項3】
前記高温度環境下において、重量濃度5%以下の微量酸素を添加する、請求項1に記載の廃タイヤのカーボンブラック回収方法。
【請求項4】
前記高温環境を維持する熱源として、前記乾留工程で発生した乾留ガスを燃焼させることにより得られた熱を利用する、請求項1に記載の廃タイヤのカーボンブラック回収方法。
【請求項5】
前記高温環境を維持する熱源として、前記乾留工程で発生する乾留ガスを冷却することにより得られた乾留油を燃焼させることにより得られた熱を利用する、請求項1に記載の廃タイヤのカーボンブラック回収方法。
【請求項6】
前記加熱工程で固体として残るカーボンブラックから鉄成分を分離する鉄分分級工程を含む、請求項1に記載の廃タイヤのカーボンブラック回収方法。
【請求項7】
前記加熱工程で固体として残るカーボンブラックから灰分を分離する灰分分級工程を含む、請求項1に記載の廃タイヤのカーボンブラック回収方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0002
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0002】
自動車を始めとする各種車両に用いられたゴム製の廃タイヤは、重量比で約25%のカーボンブラックが添加されている。ここで、カーボンブラックは化石燃料を高温度下で不完全燃焼させることで製造され、製造時における環境負荷が非常に高い。さらに、乗用車用タイヤ(例えば195/65R/15のタイヤ)を構成する原材料の総温室効果ガス発生量(228kg_CO2/本)のうち、該乗用車用タイヤに添加されたカーボンブラックに起因する温室効果ガス発生量(68.4kg_CO2/本)は約30%も占めている。これらの事実から、地球温暖化対策の1つとして、ゴム製の廃タイヤからカーボンブラックを高い純度で回収する技術が急務となっている。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0026
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0026】
簀子状の中棚30がカートリッジ容器25内の上下方向幅の概ね中間部に装着可能である。なお、本実施形態に係る乾留工程では、この中棚30は用いられていない。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0028
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0028】
(乾留工程)
廃タイヤTの乾留工程を説明する。
図1において、廃タイヤTはカートリッジ容器25内に投入され、乾留装置1の加熱炉22により、酸素のない雰囲気中で加熱される。これにより乾留ガスが発生する。発生した乾留ガスは、乾留ガス出口部27から送気通路31、32を介して一次冷却器2及び二次冷却器3へ順次送られ、冷却される。これにより、乾留ガス中の油成分が分離され、乾留油として粗油タンク5に送られる。一方油成分が分離された乾留ガスは、送気通路33を介して冷却器側安全器4に送られ、一部は送気通路35を介して乾留装置1の加熱炉22に送られ、残りは送気
通路34を介して過剰ガス焼却炉9に送られる。