(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157166
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置及び磁気共鳴イメージング方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20241030BHJP
【FI】
A61B5/055 380
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071333
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】草原 博志
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 正則
(72)【発明者】
【氏名】森 昂也
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AA17
4C096AA20
4C096AB41
4C096AC01
4C096AC04
4C096AC05
4C096AC08
4C096AD14
4C096DC18
4C096DC33
4C096DC35
(57)【要約】
【課題】異方性を考慮した生体組織の硬さの情報を提供すること。
【解決手段】実施形態に係るMRI装置は、取得部と、算出部とを備える。取得部は、第1のMPG(Motion Probing Gradient)を複数の方向に印加しながら撮像された第1の複数の拡散強調画像と、前記第1のMPGより算出されたb値と異なる大きさのb値の第2のMPGを前記複数の方向に印加しながら撮像された第2の複数の拡散強調画像とを含む複数の拡散強調画像を取得する。算出部は、前記複数の拡散強調画像に基づいて、複数の方向について、当該方向ごとに生体組織の弾性率を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のMPG(Motion Probing Gradient)を複数の方向に印加しながら撮像された第1の複数の拡散強調画像と、前記第1のMPGより算出されたb値と異なる大きさのb値の第2のMPGを前記複数の方向に印加しながら撮像された第2の複数の拡散強調画像とを含む複数の拡散強調画像を取得する取得部と、
前記複数の拡散強調画像に基づいて、複数の方向について、当該方向ごとに生体組織の弾性率を算出する算出部と
を備える、磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記複数の拡散強調画像に基づいて、拡散テンソルの行列成分を算出して対角化することによって複数の固有値を算出し、当該複数の固有値それぞれの方向について、当該方向ごとに前記固有値から前記弾性率を算出する、
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記算出部は、前記複数の拡散強調画像に基づいて、前記複数の方向それぞれについてsADC(shifted Apparent Diffusion Coefficient)を算出し、当該方向ごとに前記sADCから前記弾性率を算出する、
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記算出部は、前記複数の拡散強調画像に基づいて、前記複数の方向それぞれについて信号強度の減衰率を算出し、当該方向ごとに前記減衰率から前記弾性率を算出する、
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記方向ごとに算出された弾性率に基づいて、当該弾性率の大きさ及び異方性を示す情報を表示する表示制御部をさらに備える、
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記表示制御部は、前記弾性率の大きさ及び異方性の両方を同時に示す情報を表示する、
請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記表示制御部は、操作者からの指示に応じて、前記弾性率の大きさ及び異方性の両方を同時に示す情報と、前記弾性率の大きさ及び異方性のいずれか一方のみを示す情報とを切り替えて表示する、
請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記表示制御部は、前記弾性率の大きさ及び異方性を示す情報を前記生体組織の組成ごとにセグメンテーションして表示する、
請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記生体組織は、筋繊維、腱繊維又は脳組織である、
請求項1~7のいずれか1つに記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項10】
第1のMPGを複数の方向に印加しながら撮像された第1の複数の拡散強調画像と、前記第1のMPGより算出されたb値と異なる大きさのb値の第2のMPGを前記複数の方向に印加しながら撮像された第2の複数の拡散強調画像とを含む複数の拡散強調画像を取得するステップと、
前記複数の拡散強調画像に基づいて、複数の方向について、当該方向ごとに生体組織の弾性率を算出するステップと
を含む、磁気共鳴イメージング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、磁気共鳴イメージング装置及び磁気共鳴イメージング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気共鳴イメージング(Magnetic Resonance Imaging:MRI)装置を用いて生体組織の硬さの情報を提供する技術として、例えば、外部の機械的振動を利用したMRE(Magnetic Resonance Elastography)や、拡散イメージングを使用したvMRE(virtual Magnetic Resonance Elastography)と呼ばれる技術が知られている。
【0003】
しかしながら、これらの技術は、いずれも等方性であることを仮定して算出されており、異方性については考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-097822号公報
【特許文献2】特表2008-539005号公報
【特許文献3】特開2020-005738号公報
【特許文献4】特表2015-518408号公報
【特許文献5】欧州特許出願公開第3081955号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Helge Herthum,他10名,”Real-Time Multifrequency MR Elastography of the Human Brain Reveals Rapid Changes in Viscoelasticity in Response to the Valsalva Maneuver”,Frontiers in Bioengineering and Biotechnology,Volume 9,05 May 2021
【非特許文献2】Denis Le Bihan,他2名,”Diffusion and Intravoxel Incoherent Motion MR Imaging-based Virtual Elastography: A Hypothesis-generating Study in the Liver”,Radiology,Volume 285,No.2,June 12 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の1つは、異方性を考慮した生体組織の硬さの情報を提供することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置付けることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係るMRI装置は、取得部と、算出部とを備える。取得部は、第1のMPG(Motion Probing Gradient)を複数の方向に印加しながら撮像された第1の複数の拡散強調画像と、前記第1のMPGより算出されたb値と異なる大きさのb値の第2のMPGを前記複数の方向に印加しながら撮像された第2の複数の拡散強調画像とを含む複数の拡散強調画像を取得する。算出部は、前記複数の拡散強調画像に基づいて、複数の方向について、当該方向ごとに生体組織の弾性率を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るMRI装置の構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る取得機能によって取得されるDWIの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る算出機能によって生成される固有値のマップの一例を示す図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る算出機能によって生成されるsADCのマップの一例を示す図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係る表示制御機能によって行われる情報表示の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る表示制御機能によって行われる情報表示の他の例を示す図である。
【
図7】
図7は、本実施形態に係るMRI装置によって行われる処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本願に係るMRI装置及びMRI方法の実施形態について詳細に説明する。
【0010】
(実施形態)
図1は、本実施形態に係るMRI装置の構成の一例を示す図である。
【0011】
例えば、
図1に示すように、MRI装置100は、静磁場磁石1、傾斜磁場コイル2、傾斜磁場電源3、全身用高周波(Radio Frequency:RF)コイル4、局所用RFコイル5、送信回路6、受信回路7、RFシールド8、架台9、寝台10、入力インタフェース11、ディスプレイ12、記憶回路13及び処理回路14~17を備える。
【0012】
静磁場磁石1は、被検体Sが配置される撮像空間に静磁場を発生させる。具体的には、静磁場磁石1は、中空の略円筒状(中心軸に直交する断面の形状が楕円状となるものを含む)に形成されており、その内周側に形成された撮像空間に静磁場を発生させる。例えば、静磁場磁石1は、超伝導磁石や永久磁石等である。ここでいう超伝導磁石は、例えば、液体ヘリウム等の冷却剤が充填された容器と、当該容器に浸漬された超伝導コイルとから構成される。
【0013】
傾斜磁場コイル2は、静磁場磁石1の内側に配置されており、被検体Sが配置される撮像空間に傾斜磁場を発生させる。具体的には、傾斜磁場コイル2は、中空の略円筒状(中心軸に直交する断面の形状が楕円状となるものを含む)に形成されており、互いに直交するX軸、Y軸及びZ軸それぞれに対応するXコイル、Yコイル及びZコイルを有している。Xコイル、Yコイル及びZコイルは、傾斜磁場電源3から供給される電流に基づいて、各軸方向に沿って線形に変化する傾斜磁場を撮像空間に発生させる。ここで、Z軸は、静磁場磁石1によって発生する静磁場の磁束に沿うように設定される。また、X軸は、Z軸に直交する水平方向に沿うように設定され、Y軸は、Z軸に直交する鉛直方向に沿うように設定される。ここで、X軸、Y軸及びZ軸は、MRI装置100に固有の装置座標系を構成する。
【0014】
傾斜磁場電源3は、傾斜磁場コイル2に電流を供給することで、撮像空間に傾斜磁場を発生させる。具体的には、傾斜磁場電源3は、傾斜磁場コイル2のXコイル、Yコイル及びZコイルに個別に電流を供給することで、互いに直交するリードアウト方向、位相エンコード方向及びスライス方向それぞれに沿って線形に変化する傾斜磁場を撮像空間に発生させる。ここで、リードアウト方向に沿った軸、位相エンコード方向に沿った軸、及びスライス方向に沿った軸は、撮像の対象となるスライス領域又はボリューム領域を規定するための論理座標系を構成する。
【0015】
具体的には、リードアウト方向、位相エンコード方向及びスライス方向それぞれに沿った傾斜磁場は、静磁場磁石1によって発生する静磁場に重畳されることで、被検体Sから発生する核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)信号に空間的な位置情報を付与する。具体的には、リードアウト方向の傾斜磁場は、リードアウト方向の位置に応じてNMR信号の周波数を変化させることで、リードアウト方向の位置情報をNMR信号に付与する。また、位相エンコード方向の傾斜磁場は、位相エンコード方向の位置に応じてNMR信号の位相を変化させることで、位相エンコード方向の位置情報をNMR信号に付与する。また、スライス方向の傾斜磁場は、2次元のMR画像(スライス画像)の撮像が行われる場合に、スライス方向の位置に応じてNMR信号の周波数を変化させることで、撮像されるスライスの位置、厚さ及び枚数を決定する。また、スライス方向の傾斜磁場は、3次元のMR画像(ボリューム画像)の撮像が行われる場合に、スライス方向の位置に応じてNMR信号の位相を変化させることで、スライス方向の位置情報をNMR信号に付与する。
【0016】
全身用RFコイル4は、傾斜磁場コイル2の内周側に配置されており、撮像空間に配置された被検体SにRFパルス(励起パルス等)を印加し、当該RFパルスの影響によって被検体Sから発生するNMR信号(エコー信号等)を受信する。具体的には、全身用RFコイル4は、中空の略円筒状(中心軸に直交する断面の形状が楕円状となるものを含む)に形成されており、送信回路6から供給されるRFパルス信号に基づいて、その内周側に位置する撮像空間に配置された被検体SにRFパルスを印加する。そして、全身用RFコイル4は、RFパルスの影響によって被検体Sから発生するNMR信号を受信し、受信したNMR信号を受信回路7へ出力する。例えば、全身用RFコイル4は、バードケージ型コイルや、TEM(Transverse Electromagnetic)コイルである。
【0017】
局所用RFコイル5は、撮像時に被検体Sの近傍に配置され、被検体Sから発生するNMR信号を受信する。具体的には、局所用RFコイル5は、被検体Sの部位ごとに用意されており、被検体Sの撮像が行われる際に撮像対象の部位の近傍に配置され、全身用RFコイル4によって印加されたRFパルスの影響によって被検体Sから発生するNMR信号を受信し、受信したNMR信号を受信回路7へ出力する。例えば、局所用RFコイル5は、サーフェスコイルや、複数のサーフェスコイルをコイルエレメントとして組み合わせて構成されたフェーズドアレイコイルである。なお、局所用RFコイル5は、被検体にRFパルスを印加する送信機能をさらに有していてもよい。
【0018】
送信回路6は、静磁場内に置かれた対象原子核に固有の共鳴周波数(ラーモア周波数)に対応するRFパルス信号を全身用RFコイル4又は局所用RFコイル5に出力する。具体的には、送信回路6は、パルス発生器、RF発生器、変調器、及び増幅器を有する。パルス発生器は、RFパルス信号の波形を生成する。RF発生器は、共鳴周波数のRF信号を発生する。変調器は、RF発生器によって発生したRF信号の振幅をパルス発生器によって発生した波形で変調することで、RFパルス信号を生成する。増幅器は、変調器によって生成されたRFパルス信号を増幅して全身用RFコイル4又は局所用RFコイル5に出力する。
【0019】
受信回路7は、全身用RFコイル4又は局所用RFコイル5から出力されるNMR信号に基づいてNMRデータを生成し、生成したNMRデータを処理回路15に出力する。具体的には、受信回路7は、選択器、前段増幅器、位相検波器、及び、A/D(Analog/Digital)変換器を備える。選択器は、全身用RFコイル4又は局所用RFコイル5から出力されるNMR信号を選択的に入力する。前段増幅器は、選択器から出力されるNMR鳴信号を増幅する。位相検波器は、前段増幅器から出力されるNMR信号の位相を検波する。A/D変換器は、位相検波器から出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換することでNMRデータを生成し、生成したNMRデータを処理回路15に出力する。なお、ここで、受信回路7が行うものとして説明した各処理は、必ずしも全ての処理が受信回路7で行われる必要はなく、全身用RFコイル4又は局所用RFコイル5で一部の処理(例えば、A/D変換器による処理等)が行われてもよい。
【0020】
RFシールド8は、傾斜磁場コイル2と全身用RFコイル4との間に配置されており、全身用RFコイル4によって発生するRFパルスから傾斜磁場コイル2を遮蔽する。具体的には、RFシールド8は、中空の略円筒状(円筒の中心軸に直交する断面の形状が楕円状となるものを含む)に形成されており、傾斜磁場コイル2の内周側の空間に、全身用RFコイル4の外周面を覆うように配置されている。
【0021】
架台9は、略円筒状(中心軸に直交する断面の形状が楕円状となるものを含む)に形成された中空のボア9aを有し、静磁場磁石1、傾斜磁場コイル2、全身用RFコイル4、及びRFシールド8を収容している。具体的には、架台9は、ボア9aの外周側に全身用RFコイル4を配置し、全身用RFコイル4の外周側にRFシールド8を配置し、RFシールド8の外周側に傾斜磁場コイル2を配置し、傾斜磁場コイル2の外周側に静磁場磁石1を配置した状態で、それぞれを収容している。ここで、架台9が有するボア9a内の空間が、撮像時に被検体Sが配置される撮像空間となる。
【0022】
寝台10は、被検体Sが載置される天板10aを備え、被検体Sの撮像が行われる際に、被検体Sが載置された天板10aを撮像空間に移動する。例えば、寝台10は、天板10aの長手方向が静磁場磁石1の中心軸と平行になるように設置されている。
【0023】
なお、ここでは、MRI装置100が、静磁場磁石1、傾斜磁場コイル2及び全身用RFコイル4それぞれが略円筒状に形成された、いわゆるトンネル型の構造を有する場合の例を説明するが、実施形態はこれに限られない。例えば、MRI装置100は、被検体Sが配置される撮像空間を挟んで対向するように一対の静磁場磁石、一対の傾斜磁場コイル及び一対のRFコイルが配置された、いわゆるオープン型の構造を有していてもよい。このようなオープン型の構造では、一対の静磁場磁石、一対の傾斜磁場コイル及び一対のRFコイルによって挟まれた空間が、トンネル型の構造におけるボアに相当する。
【0024】
入力インタフェース11は、操作者から各種指示及び各種情報の入力操作を受け付ける。具体的には、入力インタフェース11は、処理回路17に接続されており、操作者から受け取った入力操作を電気信号へ変換して処理回路17に出力する。例えば、入力インタフェース11は、撮像条件や関心領域(Region Of Interest:ROI)の設定等を行うためのトラックボール、スイッチボタン、マウス、キーボード、操作面へ触れることで入力操作を行うタッチパッド、表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力回路、及び音声入力回路等によって実現される。なお、本明細書において、入力インタフェース11は、マウス、キーボード等の物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、装置とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を制御回路へ出力する電気信号の処理回路も入力インタフェース11の例に含まれる。
【0025】
ディスプレイ12は、各種情報を表示する。具体的には、ディスプレイ12は、処理回路17に接続されており、処理回路17から送られる各種情報のデータを表示用の電気信号に変換して出力する。例えば、ディスプレイ12は、液晶モニタやCRT(Cathode Ray Tube)モニタ、タッチパネル等によって実現される。
【0026】
記憶回路13は、各種データを記憶する。具体的には、記憶回路13は、処理回路14~17に接続されており、各処理回路によって入出力される各種データを記憶する。例えば、記憶回路13は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子やハードディスク、光ディスク等によって実現される。
【0027】
処理回路14は、寝台制御機能14aを有する。寝台制御機能14aは、制御用の電気信号を寝台10へ出力することで、寝台10の動作を制御する。例えば、寝台制御機能14aは、入力インタフェース11を介して、天板10aを長手方向、上下方向又は左右方向へ移動させる指示を操作者から受け付け、受け付けた指示に従って天板10aを移動するように、寝台10が有する天板10aの移動機構を動作させる。
【0028】
処理回路15は、収集機能15aを有する。収集機能15aは、各種のパルスシーケンスを実行することで、被検体SのNMRデータを収集する。具体的には、収集機能15aは、処理回路17から出力されるシーケンス実行データに従って傾斜磁場電源3、送信回路6及び受信回路7を駆動することで、各種のパルスシーケンスを実行する。ここで、シーケンス実行データは、パルスシーケンスを表すデータであり、傾斜磁場電源3が傾斜磁場コイル2に電流を供給するタイミング及び供給する電流の強さ、送信回路6が全身用RFコイル4にRFパルス信号を供給するタイミング及び供給するRFパルス信号の強さ、受信回路7がNMR信号をサンプリングするタイミング等を規定した情報である。そして、収集機能15aは、パルスシーケンスを実行した結果として受信回路7から出力されるNMRデータを受信し、記憶回路13に記憶させる。このとき、記憶回路13に記憶されるNMRデータは、前述した各傾斜磁場によってリードアウト方向、位相エンコード方向及びスライス方向の各方向に沿った位置情報が付与されることで、2次元又は3次元のk空間を表すk空間データとして記憶される。
【0029】
処理回路16は、生成機能16aを有する。生成機能16aは、処理回路15の収集機能15aによって収集されたNMRデータからMR画像を生成する。具体的には、生成機能16aは、処理回路17による制御のもと、処理回路15の収集機能15aによって収集されたNMRデータを記憶回路13から読み出し、読み出したNMRデータにフーリエ変換等の再構成処理を施すことで、2次元又は3次元のMR画像を生成する。そして、生成機能16aは、生成したMR画像を記憶回路13に記憶させる。
【0030】
処理回路17は、MRI装置100の各構成要素を制御することで、MRI装置100の全体制御を行う。具体的には、処理回路17は、操作者から各種指示及び各種情報の入力操作を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)をディスプレイ12に表示し、入力インタフェース11を介して受け付けられた入力操作に応じて、MRI装置100の各構成要素を制御する。例えば、処理回路14は、操作者から撮像条件の入力を受け付け、入力された撮像条件に基づいて、被検体SのNMRデータを収集するためのパルスシーケンスを設定する。そして、処理回路14は、設定したパルスシーケンスを表すシーケンス実行データを生成して処理回路15に出力することで、処理回路15の収集機能15aに各種のパルスシーケンスを実行させる。また、例えば、処理回路17は、処理回路16の生成機能16aを制御することで、処理回路15によって収集されたk空間データからMR画像を再構成させる。また、例えば、処理回路17は、操作者からの要求に応じて、記憶回路13に記憶されているMR画像を読み出し、読み出したMR画像をディスプレイ12に表示させる。
【0031】
以上、本実施形態に係るMRI装置100の構成例について説明した。このような構成のもと、本実施形態に係るMRI装置100は、被検体Sに関する生体組織の硬さの情報を収集し提供する機能を有している。
【0032】
このように、MRI装置を用いて生体組織の硬さの情報を提供する技術として、例えば、外部の機械的振動を利用したMREや、拡散イメージングを使用したvMREと呼ばれる技術が知られている(例えば、特許文献5及び非特許文献2を参照)。
【0033】
MREでは、一般的に外部の機械的バイブレーターを使用して生成される組織内に伝播するせん断波と、この機械的バイブレーターによって起こされた振動周波数と同様の周波数で振動する傾斜磁場パルスを用いることによって、振動(振幅が約数マイクロメートル)によって誘発される組織変位に敏感なMR位相画像が取得される。そして、その伝播するせん断波のMR位相画像を処理することで、組織の硬さを示すせん断弾性率等に変換される。
【0034】
一方、vMREでは、ガウス拡散と非ガウス拡散とを反映するように最適化された2つのキーb値LKb(Low Key b value)及びHKb(High Key b value)それぞれを用いて拡散強調画像(Diffusion Weighted Image:DWI)が撮像され、以下の関係式(1)によって、sADC(shifted Apparent Diffusion Coefficient)が算出される。
【0035】
sADC=ln(SLKb/SHKb)/(HKb-LKb) ・・・(1)
【0036】
ここで、SLKbは、LKbで撮像されたDWIの信号強度であり、SHKbは、HKbで撮像されたDWIの信号強度である。
【0037】
そして、vMREでは、算出されたsADCから、又は、より直接的に信号強度の減衰率SLKb/SHKbから以下の関係式(2)によって、せん断弾性率μdiffが算出される。
【0038】
μdiff=g[ln(SLKb/SHKb)] ・・・(2)
【0039】
ここで、gは、較正係数である。
【0040】
しかしながら、これらの技術は、いずれも等方性であることを仮定した算出方法であり、異方性については考慮されていない。例えば、MREでは、弾性波の進行方向に平行な断面しか撮像されず、そもそも局所の変位は等方性であるという仮定でせん断弾性率等が算出されている。また、vMREでは、2つのキーb値で撮像されたDWIから算出された単一のsADCが用いられており、異方性や方向性については考慮されていない。
【0041】
このようなことから、本実施形態に係るMRI装置100は、異方性を考慮した生体組織の硬さの情報を収集し提供することができるように構成されている。
【0042】
具体的には、本実施形態では、処理回路15が、前述した収集機能15aを有し、処理回路17が、取得機能17aと、算出機能17bと、表示制御機能17cとを有する。ここで、取得機能17aは、取得部の一例である。また、算出機能17bは、算出部の一例である。また、表示制御機能17cは、表示制御部の一例である。
【0043】
取得機能17aは、第1のMPGを複数の方向に印加しながら処理回路15の収集機能15aによって撮像された第1の複数のDWIと、第1のMPGより算出されたb値と異なる大きさのb値の第2のMPGを当該複数の方向に印加しながら処理回路15の収集機能15aによって撮像された第2の複数のDWIとを含む複数のDWIを取得する。
【0044】
具体的には、取得機能17aは、処理回路15の収集機能15aに拡散イメージングのパルスシーケンスを実行させることで、第1のMPGを複数の方向に印加しながら複数のDWIを撮像し、第1のMPGより算出されたb値より大きいb値の第2のMPGを当該複数の方向に印加しながら複数のDWIを撮像する。そして、取得機能17aは、撮像された各DWIを記憶回路13から読み出すことで、複数のDWIを取得する。なお、第1のMPGのb値と第2のMPGのb値との大小関係はこれに限られず、第1のMPGのb値が第2のMPGのb値より大きくてもよい。
【0045】
ここで、本実施形態では、取得機能17aは、前述したvMREで用いられている2つのキーb値LKb及びHKbをそれぞれ第1のb値及び第2のb値として用いて、複数のDWIを撮像する。
【0046】
図2は、本実施形態に係る取得機能17aによって取得されるDWIの一例を示す図である。
【0047】
例えば、
図2に示すように、取得機能17aは、LKbのMPGを異なる6つの方向に印加しながら撮像された6つのDWIを取得する。さらに、取得機能17aは、LKbのMPGと同じ6つの方向にHKbのMPGを印加しながら撮像された6つのDWIを取得する(図示は省略)。
【0048】
なお、本実施形態では、LKbのMPGを6つの方向に印加しながら撮像された6つのDWIと、HKbのMPGを6つの方向に印加しながら撮像された6つのDWIとを用いる場合の例を説明するが、MPGを印加する方向及びDWIの数は6つに限られず、4つ又は5つであってもよいし、7つ以上であってもよい。
【0049】
図1に戻り、算出機能17bは、取得機能17aによって取得された複数のDWIに基づいて、複数の方向について、当該方向ごとに生体組織の弾性率を算出する。
【0050】
一例として、例えば、算出機能17bは、取得機能17aによって取得された複数のDWIに基づいて、拡散テンソルの行列成分を算出して対角化することによって複数の固有値を算出し、当該複数の固有値それぞれの方向について、当該方向ごとに固有値から弾性率を算出する。
【0051】
図3は、本実施形態に係る算出機能17bによって生成される固有値のマップの一例を示す図である。
【0052】
例えば、算出機能17bは、
図2に示したLKbのMPGを6つの方向に印加しながら撮像された6つのDWIと、HKbのMPGを6つの方向に印加しながら撮像された6つのDWIとに基づいて、ボクセルごとに、3×3の行列で表される拡散テンソルの成分を算出して対角化することによって3つの固有値λ
1、λ
2及びλ
3を算出する。これにより、例えば、
図3に示すような、各固有値のマップが生成される。
【0053】
そして、算出機能17bは、算出した固有値λ1、λ2及びλ3それぞれの方向について、ボクセルごとに、各固有値から弾性率を算出する。これにより、各方向の弾性率のマップが生成される。
【0054】
このとき、算出機能17bは、前述したMREで用いられている以下の関係式(3)及び(4)を用いて、式中のλにλ1、λ2及びλ3それぞれを代入することによって、各方向のせん断弾性率μdiff1、μdiff2、μdiff3を算出する。
【0055】
λ=K-2μ/3 ・・・(3)
E=2μ(1+σ)=3K(1-2σ)=9μK/3K+μ ・・・(4)
【0056】
ここで、Eはヤング率、μはせん断弾性率、λは弾性率テンソル係数、σはポアソン比、Kは体積弾性率である。
【0057】
また、他の例として、例えば、算出機能17bは、取得機能17aによって取得された複数のDWIに基づいて、MPGが印加された複数の方向それぞれについてsADCを算出し、当該方向ごとにsADCから弾性率を算出してもよい。
【0058】
図4は、本実施形態に係る算出機能17bによって生成されるsADCのマップの一例を示す図である。
【0059】
例えば、算出機能17bは、LKbのMPGを3つの方向に印加しながら撮像された3つのDWIと、HKbのMPGを3つの方向に印加しながら撮像された3つのDWIとに基づいて、ボクセルごとに、3つの方向それぞれについてsADCを算出する。これにより、例えば、
図4に示すような、各方向のsADCのマップが生成される(
図4では、x方向のsADCであるsADCxのマップ、y方向のsADCであるsADCyのマップ、z方向のsADCであるsADCzのマップを例示)。
【0060】
このとき、算出機能17bは、前述したvMREで用いられている関係式(1)(以下に再掲)を用いて、方向ごとに、式中のSLKb及びSHKbにLKbで撮像されたDWIの信号強度及びHKbで撮像されたDWIの信号強度をそれぞれ代入することによって、各方向のsADCを算出する。
【0061】
sADC=ln(SLKb/SHKb)/(HKb-LKb) ・・・(1)
【0062】
ここで、SLKbは、LKbで撮像されたDWIの信号強度であり、SHKbは、HKbで撮像されたDWIの信号強度である。
【0063】
そして、算出機能17bは、3つの方向それぞれについて、ボクセルごとに、各方向のsADCから弾性率を算出する。これにより、各方向の弾性率のマップが生成される。
【0064】
このとき、例えば、算出機能17bは、取得機能17aによって取得された複数のDWIに基づいて、MPGが印加された複数の方向それぞれについて信号強度の減衰率を算出し、当該方向ごとに減衰率から弾性率を算出する。
【0065】
例えば、算出機能17bは、LKbのMPGを3つの方向に印加しながら撮像された3つのDWIと、HKbのMPGを3つの方向に印加しながら撮像された3つのDWIとに基づいて、ボクセルごとに、3つの方向それぞれについて、LKbで撮像されたDWIの信号強度SLKb及びHKbで撮像されたDWIの信号強度SHKbから信号強度の減衰率SLKb/SHKbを算出する。
【0066】
そして、算出機能17bは、3つの方向それぞれについて、ボクセルごとに、各方向の信号強度の減衰率SLKb/SHKbから弾性率を算出する。これにより、各方向の弾性率のマップが生成される。
【0067】
このとき、算出機能17bは、前述したvMREで用いられている関係式(2)(以下に再掲)を用いて、方向ごとに、式中のSLKb/SHKbに信号強度の減衰率を代入することによって、各方向のせん断弾性率μdiffを算出する。
【0068】
μdiff=g[ln(SLKb/SHKb)] ・・・(2)
【0069】
ここで、gは、実験や経験に基づいて得られた較正係数である。
【0070】
図1に戻り、表示制御機能17cは、算出機能17bによって方向ごとに算出された弾性率に基づいて、当該弾性率の大きさ及び異方性を示す情報を表示する。
【0071】
一例として、例えば、表示制御機能17cは、弾性率の大きさ及び異方性の両方を同時に示す情報を表示する。
【0072】
図5は、本実施形態に係る表示制御機能17cによって行われる情報表示の一例を示す図である。
【0073】
例えば、
図5に示すように、表示制御機能17cは、算出機能17bによって方向ごとに算出された弾性率に基づいて、ボクセルごとに、弾性率の異方性をRGB色で表し、かつ、弾性率の大きさを色の濃淡で表したカラーマップを生成してディスプレイ12に表示する。
【0074】
また、他の例として、例えば、表示制御機能17cは、操作者からの指示に応じて、弾性率の大きさ及び異方性の両方を同時に示す情報と、弾性率の大きさ及び異方性のいずれか一方のみを示す情報とを切り替えて表示してもよい。
【0075】
図6は、本実施形態に係る表示制御機能17cによって行われる情報の表示の他の例を示す図である。
【0076】
例えば、
図6に示すように、表示制御機能17cは、弾性率の異方性をRGB色で表し、かつ、弾性率の大きさを色の濃淡で表したカラーマップ(図中上側に示す)と、弾性率の大きさのみをRGB色で表したカラーマップ(図中下側に示す)とを生成し、操作者からの指示に応じて、各カラーマップをディスプレイ12上で交互に切り替えて表示する。
【0077】
または、例えば、表示制御機能17cは、弾性率の大きさ及び異方性の両方を表したカラーマップと、弾性率の異方性のみをRGB色で表したカラーマップとを交互に切り替えて表示してもよい。または、例えば、表示制御機能17cは、弾性率の大きさ及び異方性の両方を表したカラーマップと、弾性率の大きさのみを表したカラーマップと、弾性率の異方性のみを表したカラーマップとを、予め決められた順に切り替えて表示してもよい。
【0078】
さらに、他の例として、例えば、表示制御機能17cは、弾性率の大きさ及び異方性を示す情報を生体組織の組成ごとにセグメンテーションして表示してもよい。
【0079】
例えば、表示制御機能17cは、取得機能17aによって取得されたDWIに基づいて、画像に含まれている生体組織を組成ごとにセグメンテーションことによって、当該生体組織を複数の領域に分割する。そして、例えば、表示制御機能17cは、セグメンテーションによって分割された複数の領域のうち、診断の対象となる領域のみについて、弾性率の大きさ及び異方性を表すカラーマップを表示する。例えば、表示制御機能17cは、セグメンテーションによって分割された複数の領域のうち、操作者によって選択された領域のみについて、弾性率の大きさ及び異方性を表すカラーマップを表示してもよい。
【0080】
以上、処理回路14~17が有する処理機能について説明したが、例えば、処理回路14~17は、それぞれプロセッサによって実現される。この場合に、各処理回路が有する処理機能は、例えば、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶回路13に記憶される。そして、各処理回路は、記憶回路13から各プログラムを読み出して実行することで、各プログラムに対応する処理機能を実現する。換言すると、各処理回路は、各プログラムを読み出した状態で、
図1に示す各処理機能を有することとなる。
【0081】
図7は、本実施形態に係るMRI装置100によって行われる処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0082】
例えば、
図7に示すように、本実施形態では、まず、取得機能17aが、第1のb値のMPGを複数の方向に印加しながら撮像された第1の複数のDWIと、第1のb値より大きい第2のb値のMPGを当該複数の方向に印加しながら撮像された第2の複数のDWIとを含む複数のDWIを取得する(ステップS101)。このステップS101の処理は、例えば、処理回路17が、取得機能17aに対応する所定のプログラムを記憶回路13から読み出して実行することにより実現される。
【0083】
続いて、算出機能17bが、取得機能17aによって取得された複数のDWIに基づいて、複数の方向について、当該方向ごとに生体組織の弾性率を算出する(ステップS102)。このステップS102の処理は、例えば、処理回路17が、算出機能17bに対応する所定のプログラムを記憶回路13から読み出して実行することにより実現される。
【0084】
そして、表示制御機能17cが、算出機能17bによって方向ごとに算出された弾性率に基づいて、当該弾性率の大きさ及び異方性を示す情報を表示する(ステップS103)。このステップS103の処理は、例えば、処理回路17が、表示制御機能17cに対応する所定のプログラムを記憶回路13から読み出して実行することにより実現される。
【0085】
なお、上述した説明では、処理回路14~17がそれぞれ単一のプロセッサによって実現されることとしたが、実施形態はこれに限られない。例えば、各処理回路は、複数の独立したプロセッサを組み合わせて構成され、各プロセッサがプログラムを実行することによって各処理機能を実現するものとしてもよい。また、各処理回路が有する処理機能は、単一又は複数の処理回路に適宜に分散又は統合されて実現されてもよい。また、上述した説明では、単一の記憶回路13が各処理機能に対応するプログラムを記憶することとしたが、実施形態はこれに限られない。例えば、複数の記憶回路が処理回路ごとに分散して配置され、各処理回路が個別の記憶回路から対応するプログラムを読み出す構成としても構わない。
【0086】
上述したように、本実施形態では、取得機能17aが、第1のMPGを複数の方向に印加しながら撮像された第1の複数のDWIと、第1のMPGより算出されたb値と異なる大きさのb値の第2のMPGを当該複数の方向に印加しながら撮像された第2の複数のDWIとを含む複数のDWIを取得する。また、算出機能17bが、取得機能17aによって取得された複数のDWIに基づいて、複数の方向について、当該方向ごとに生体組織の弾性率を算出する。
【0087】
したがって、本実施形態によれば、異方性を考慮した生体組織の硬さの情報を提供することができる。
【0088】
また、本実施形態では、表示制御機能17cが、算出機能17bによって方向ごとに算出された弾性率に基づいて、当該弾性率の大きさ及び異方性を示す情報を表示する。
【0089】
したがって、本実施形態によれば、操作者が、生体組織の硬さと異方性の関係を容易に把握することができる。
【0090】
ここで、本実施形態が対象とする生体組織は、例えば、筋繊維、腱繊維、脳組織等のように、異方性を伴う生体組織である。例えば、筋繊維は、脚部や腕部、腹部、背部、心筋等の筋繊維を含む。また、腱繊維は、アキレス腱や膝蓋腱等の腱繊維を含む。
【0091】
例えば、肝臓等のように異方性をほとんど伴わないと言われている生体組織が診断の対象となる場合には、前述したMREやvMREでも問題はないと考えられる。しかしながら、筋繊維、腱繊維、脳組織等のように異方性を伴う生体組織が診断の対象となる場合には、硬さの程度だけでなく、硬さの異方性を把握することが必要になる。
【0092】
これに対し、本実施例によれば、生体組織の硬さに加えて、硬さの異方性の情報を提供することができる。これにより、診断や治療をより適切に行えるようになる。
【0093】
また、例えば、前述したMREは、外部の機械的振動を利用するため、出血や感染などの合併症のリスクがある。また、MREは、機械的振動を起こすための専用ハードウェアとそれを処理するためのソフトウェアが必要となる場合があり、コストがかかる。また、MREは、被検体(患者等)に上述したハードウェアを設置することに加えて、特定のMREシーケンスを使用するため、患者の検査時間が長くなる。また、MREは、せん断波の振幅が組織を伝播する間に急速に減衰するため、被検体の身体の奥深くにある組織に使用するのは困難である。また、MREは、測定された位相シフトの波長への逆変換が簡単ではなく、交絡効果の影響を受ける。
【0094】
これに対し、本実施形態によれば、外部の機械的振動を利用せずに、一般的な拡散イメージングのパルスシーケンスを用いて、生体組織の硬さ及び異方性の情報を提供することができる。そのため、MREと比べて、合併症のリスクやコストの増加を抑えつつ、検査時間を短縮することができる。また、被検体の身体の奥深くにある組織にも適用することができ、交絡効果の影響を受けることもない。
【0095】
(他の実施形態)
また、上述した実施形態では、本願が開示する技術をMRI装置に適用した場合について説明したが、実施形態はこれに限られない。例えば、本願が開示する技術は、ネットワークを介してMRI装置と接続された画像処理装置に適用することもできる。その場合には、例えば、画像処理装置が備える処理回路が、上述した取得機能、算出機能及び表示制御機能を有する。そして、取得機能は、ネットワークを介して、MRI装置から複数のDWIを取得する。また、表示制御機能は、画像処理装置が備えるディスプレイ、又は、ネットワークを介して接続された画像表示装置に、弾性率の大きさ及び異方性を示す情報を表示する。
【0096】
また、上述した実施形態では、本明細書における取得部、算出部及び表示制御部をそれぞれ処理回路の取得機能、算出機能及び表示制御機能によって実現する場合の例を説明したが、実施形態はこれに限られない。例えば、本明細書における取得部、算出部及び表示制御部は、実施形態で述べた取得機能、算出機能及び表示制御機能によって実現する他にも、ハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、又は、ハードウェアとソフトウェアとの混合によって同機能を実現するものであっても構わない。
【0097】
また、上記説明では、「プロセッサ」が各処理機能に対応するプログラムを記憶回路から読み出して実行する例を説明したが、実施形態はこれに限定されない。「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサが例えばCPUである場合、プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出して実行することで、各処理機能を実現する。一方、プロセッサがASICである場合、記憶回路にプログラムを保存する代わりに、当該処理機能がプロセッサの回路内に論理回路として直接組み込まれるなお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成され、その処理機能を実現するようにしてもよい。さらに、
図1における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合して、その処理機能を実現するようにしてもよい。
【0098】
ここで、プロセッサによって実行されるプログラムは、ROM(Read Only Memory)や記憶回路等に予め組み込まれて提供される。このプログラムは、これらの装置にインストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD(Compact Disk)-ROM、FD(Flexible Disk)、CD-R(Recordable)、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記録されて提供されてもよい。また、このプログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納され、ネットワーク経由でダウンロードされることにより提供又は配布されてもよい。例えば、このプログラムは、上述した各機能部を含むモジュールで構成される。実際のハードウェアとしては、CPUが、ROM等の記憶媒体からプログラムを読み出して実行することにより、各モジュールが主記憶装置上にロードされて、主記憶装置上に生成される。
【0099】
また、上述した実施形態において、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散又は統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散又は統合して構成することができる。さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部又は任意の一部が、CPU及び当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、或いは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0100】
また、上述した実施形態で説明した各処理のうち、自動的に行なわれるものとして説明した処理の全部又は一部を手動的に行なうこともでき、或いは、手動的に行なわれるものとして説明した処理の全部又は一部を公知の方法で自動的に行なうこともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0101】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、異方性を考慮した生体組織の硬さの情報を提供することができる。
【0102】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0103】
以上の実施形態に関し、発明の一側面及び選択的な特徴として以下の付記を開示する。
【0104】
(付記1)
第1のMPG(Motion Probing Gradient)を複数の方向に印加しながら撮像された第1の複数の拡散強調画像と、前記第1のMPGより算出されたb値と異なる大きさのb値の第2のMPGを前記複数の方向に印加しながら撮像された第2の複数の拡散強調画像とを含む複数の拡散強調画像を取得する取得部と、
前記複数の拡散強調画像に基づいて、複数の方向について、当該方向ごとに生体組織の弾性率を算出する算出部と
を備える、磁気共鳴イメージング装置。
(付記2)
前記算出部は、前記複数の拡散強調画像に基づいて、拡散テンソルの行列成分を算出して対角化することによって複数の固有値を算出し、当該複数の固有値それぞれの方向について、当該方向ごとに前記固有値から前記弾性率を算出してもよい。
(付記3)
前記算出部は、前記複数の拡散強調画像に基づいて、前記複数の方向それぞれについてsADC(shifted Apparent Diffusion Coefficient)を算出し、当該方向ごとに前記sADCから前記弾性率を算出してもよい。
(付記4)
前記算出部は、前記複数の拡散強調画像に基づいて、前記複数の方向それぞれについて信号強度の減衰率を算出し、当該方向ごとに前記減衰率から前記弾性率を算出してもよい。
(付記5)
前記方向ごとに算出された弾性率に基づいて、当該弾性率の大きさ及び異方性を示す情報を表示する表示制御部をさらに備えてもよい。
(付記6)
前記表示制御部は、前記弾性率の大きさ及び異方性の両方を同時に示す情報を表示してもよい。
(付記7)
前記表示制御部は、操作者からの指示に応じて、前記弾性率の大きさ及び異方性の両方を同時に示す情報と、前記弾性率の大きさ及び異方性のいずれか一方のみを示す情報とを切り替えて表示してもよい。
(付記8)
前記表示制御部は、前記弾性率の大きさ及び異方性を示す情報を前記生体組織の組成ごとにセグメンテーションして表示してもよい。
(付記9)
前記生体組織は、筋繊維、腱繊維又は脳組織であってもよい。
(付記10)
第1のMPG(Motion Probing Gradient)を複数の方向に印加しながら撮像された第1の複数の拡散強調画像と、前記第1のMPGより算出されたb値と異なる大きさのb値の第2のMPGを前記複数の方向に印加しながら撮像された第2の複数の拡散強調画像とを含む複数の拡散強調画像を取得するステップと、
前記複数の拡散強調画像に基づいて、複数の方向について、当該方向ごとに生体組織の弾性率を算出するステップと
を含む、磁気共鳴イメージング方法。
【符号の説明】
【0105】
100 MRI装置
17 処理回路
17a 取得機能
17b 算出機能
17c 表示制御機能