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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157191
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】感染隔離室
(51)【国際特許分類】
   A61G 10/02 20060101AFI20241030BHJP
   F24F 7/06 20060101ALI20241030BHJP
   F24F 7/003 20210101ALI20241030BHJP
   F24F 13/02 20060101ALI20241030BHJP
   F24F 8/10 20210101ALI20241030BHJP
【FI】
A61G10/02 M
F24F7/06 B
F24F7/003
F24F13/02 C
F24F8/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071371
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】510068183
【氏名又は名称】株式会社セオコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100117558
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 和之
(72)【発明者】
【氏名】相馬 一貴
【テーマコード(参考)】
3L058
3L080
4C341
【Fターム(参考)】
3L058BE08
3L058BF05
3L058BG01
3L058BG03
3L080AC03
4C341JJ01
4C341KK10
4C341KL04
4C341KL08
(57)【要約】
【課題】医療機関の室としても使用可能な柔軟性を有する一方、効率的な医療行為および室内スペースの有効活用を可能とし、感染症患者が保有しているウィルス等が外部に漏れ出る事態を無くし、感染症患者が一般の雑菌に起因した別の感染症を併発することを無くすことができる感染隔離室を提供する。
【解決手段】感染隔離室100には、引戸構造物1と送風ユニット30が出入口105に設置されている。引戸構造物1は、引戸106と、縦枠11,21とを有している。縦枠11,21は、縦枠吸気部13,23と、貫通孔14,24とが形成されている。送風ユニット30は、筐体31を有し、筐体31にフィルタ32と、送風機33とが収容されている。感染隔離室100の内側の出入口105に臨む領域であって、縦枠11,21および送風ユニット30に囲まれた出入口ゾーン118が拡張陰圧に設定される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
引戸構造物と送風ユニットが出入口に設置されている感染隔離室であって、
前記引戸構造物は、前記出入口の開閉に用いられる引戸と、該引戸が全開または全閉の状態で当接し、かつ該引戸を挟んで向かい合うように配置されている縦枠とを有し、
前記縦枠は、前記引戸を挟んで向かい合う一対の対向部に前記感染隔離室の内側の内気が吸い込まれる縦枠吸気部が形成され、かつ該縦枠吸気部から吸い込まれた前記内気が通る内気通気部が形成され、
前記送風ユニットは、前記縦枠の高さ方向に沿った上端部または下端部に接続され、かつ前記出入口の幅方向に沿った横長構造で前記内気通気部と連通している筐体を有し、該筐体に、前記縦枠吸気部から吸い込まれた前記内気を濾過するフィルタと、該フィルタによって濾過された清浄空気を前記感染隔離室の外側に排出させる送風機とが収容され、
前記感染隔離室の内側の前記出入口に臨む領域であって、前記縦枠および前記送風ユニットに囲まれた出入口ゾーンが前記感染隔離室の内側の該出入口ゾーンとは別領域よりも陰圧で、かつ前記感染隔離室の外側よりも陰圧になった拡張陰圧に設定される感染隔離室。
【請求項2】
前記引戸の全閉状態において、前記感染隔離室の外側の外気が前記内気に加えて吸い込まれるように、前記縦枠吸気部が前記縦枠に形成されることによって、前記引戸の全閉状態で、前記内気および前記外気が吸い込まれる内外並行吸引が実現される請求項1記載の感染隔離室。
【請求項3】
前記一対の対向部の前記引戸が当接する引戸接部よりも前記感染隔離室の内側と、前記感染隔離室の外側の双方に前記縦枠吸気部が形成され、前記感染隔離室の内側と外側の双方の前記縦枠吸気部を用いて、前記引戸の全閉状態で、前記内気および前記感染隔離室の外側の外気が吸い込まれる内外並行吸引が実現される請求項1記載の感染隔離室。
【請求項4】
前記一対の対向部の前記引戸が全閉状態で当接する全閉対向部のうちの前記引戸が接する全閉引戸接部よりも前記感染隔離室の内側と、前記感染隔離室の外側の双方に前記縦枠吸気部が設けられ、前記一対の対向部の前記引戸が全開状態で当接する全開対向部のうちの前記引戸が接する全開引戸接部よりも前記感染隔離室の内側に前記縦枠吸気部が設けられ、前記感染隔離室の内側と外側の双方の前記縦枠吸気部を用いて、前記引戸の全閉状態で、前記内気および前記感染隔離室の外側の外気が吸い込まれる内外並行吸引が実現される請求項1記載の感染隔離室。
【請求項5】
前記縦枠に固定され、かつ前記引戸に沿って配置されている固定パネル部を更に有し、
該固定パネル部に前記感染隔離室の外側の外気が吸い込まれるパネル吸気部と、該パネル吸気部から吸い込まれた前記外気が通る外気通気部とが形成されている請求項1~4のいずれか一項記載の感染隔離室。
【請求項6】
前記縦枠は、前記内気通気部としての貫通孔が高さ方向に沿って形成されている筒状構造を有し、
前記縦枠の前記一対の対向部の背面側に配置されている背面部が前記出入口を形成する壁部の前記出入口に臨む出入口端面に固定されている請求項1~4のいずれか一項記載の感染隔離室。
【請求項7】
前記縦枠は、前記一対の対向部の背面側が開口部となった背面開口構造を有し、
前記縦枠の前記一対の対向部の背面側が前記出入口を形成する壁部の前記出入口に臨む出入口端面に固定され、該出入口端面と、前記縦枠との間に前記内気通気部が形成されている請求項1~4のいずれか一項記載の感染隔離室。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染症患者が収容される感染隔離室であって、病室、治療室、診察室といった主に医療機関の室としても使用可能な感染隔離室に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、感染症患者が収容される病室に関する技術が知られていた。この種の病室では、感染症患者が保有している病原菌が室外に流出することを防止するため、病室に隣接する前室が設けられ、室外、前室、病室の順番に気圧が低くなる(陰圧になる)ように気圧が制御されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。なお、以下、本願では、病室と前室とを備えた感染症法の規定に基づき、感染症患者が収容される病室を「感染症病室」ともいう。
【0003】
また、病室の中に他の部分から仕切られた領域が形成され、その領域内の気圧が陰圧または陽圧に切り替え可能な無菌病室に関する技術も知られていた(例えば、特許文献3参照)。さらに、病室として利用される隔離室と、隔離室に隣接する減圧室と、減圧室に隣接する一般室とが設けられ、隔離室と一般室とが等気圧に保たれ、かつ減圧室が隔離室および一般室よりも低気圧に保たれるように、気圧制御を行う技術もあった(特許文献4参照)。そのほか、病室と前室との間に遮断室が配置され、それぞれの室内の気圧が、前室よりも病室が低く、かつ病室よりも遮断室が低い特殊陰圧になるように、保持されている感染症病室に関する技術もあった(特許文献5参照)。
【0004】
一方、感染症病室では、病室や前室の気圧を制御することが必要である。この場合、例えば、特許文献2に開示されているように、差圧調整ダンパが用いられて、病室や前室の気圧が制御されている。また、室圧を制御する技術に関しては、給気バルブ、排気バルブを用いて室内への給気風量や排気風量を制御する技術や、ドアを介して隣接する二室のドア開度を検出して二室を所定圧力に維持する技術もあった(特許文献6、特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-24396号公報
【特許文献2】特開2003-50031号公報
【特許文献3】特開2004-159730号公報
【特許文献4】特開2010-240282号公報
【特許文献5】特開2020-054791号公報
【特許文献6】特開2016-161156号公報
【特許文献7】特開2016-169874号公報
【特許文献8】特開2003-185204号公報
【特許文献9】特開2011-234929号公報
【特許文献10】特許第4420922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したように、従来、感染症病室に関する様々な技術が知られていた。
しかし、いずれの感染症病室においても、病室や前室等の各室の気圧が陰圧に保たれるように、気圧を制御する必要があった。そのため、一般病室や治療室に備えられている空調設備とは別に、給気風量や排気風量を制御する装置や、給気や排気用のバルブ、それらをつなぐ配管設備が必要であった。
【0007】
そのため、従来技術による感染症病室は、一般病室や治療室に比べて設備が大型化されてしまい、設置に多大な時間と費用を要するという課題がある。また、従来技術では、感染症病室を一般病室として使用することができても、一般病室を感染症病室として使用することはできない。したがって、設置された後の各室の用途が固定され、柔軟性に乏しいという課題もあった。
【0008】
一方、新型インフルエンザや新型コロナウイルス等の感染症が大流行し、その感染症の患者が急増する場面では、その急増に併せて感染症病室を急遽増やす等して、できるだけ多くの感染症患者に適切な医療が提供されることが求められる。
【0009】
しかし、上記従来技術では、短期間に感染症病室を準備することができないため、急増する感染症患者が感染症病室に入室できずに適切な治療を受けられない、という事態が起こり得た。
【0010】
この点、特許文献8には、循環用ファンと、陰圧保持用ファンとを備えた可搬性の陰圧型空気清浄機と、係る陰圧型空気清浄機が病室内に設置されて係る病室が陰圧に保たれることが開示されている。係る陰圧型空気清浄機はキャスターを備えた可搬式であり、比較的簡易な配管工事によって設置可能である。そのため、係る陰圧型空気清浄機を用いれば、一般病室を比較的短期間で感染症病室に転用できるため、係る陰圧型空気清浄機は特に感染症患者が急増する場面で有用である。
【0011】
しかし、係る従来の陰圧型空気清浄機が設置される病室では、入退室に伴う扉の開閉に伴い、室内が陰圧であるがために、室外から外部の空気(外気)が室内に入り込む事態が避けられない。すると、その外気の進入に伴い、空気中に浮遊している一般の雑菌(一般細菌ともいう)や塵、埃などがその外気とともに病室内部に混入し、病室内の一般の雑菌が増えてしまう。すると、その病室に収容されている感染症患者がその感染症とは別の病原菌に感染するおそれが高くなる。その上、患者の体力が感染症によって衰えていたり、患者が免疫不全を併発しているおそれもあるため、感染症患者は健常者よりも重症化しやすい。
【0012】
一方、特許文献9,10には、簡易に設置可能な感染対策に関する技術が開示されている。
【0013】
しかし、特許文献9,10に開示されている従来技術では、感染症患者の病床を取り囲むように、各病床の周囲に樹脂製の板材やシート等の部材が設置されて隔離室が設けられ、その内部が陰圧化されている。すると、浄化装置等の設備が隔離室ごとに必要とされ、係る設備を患者数の増加に伴い増やさねばならないから、従来技術では、迅速な対応が困難であり、特に患者急増時には対応ができない。
【0014】
また、係る従来技術によって一般病室等室を感染隔離室とする場合、収容される患者一人のためにその室で比較的大きな面積が専有される格好となる。すると、一般病室等室を感染隔離室としたことによって、収容できる患者数を本来収容できる人数よりも減らさざるを得ないから、患者急増時に収容不能な患者が現れる事態が想定される。
【0015】
しかも、医師、看護師等の医療従事者が治療のたびに隔離室の外から樹脂製の板材やシート等を超えて患者一人一人にアクセスしなければならないから、医療行為の効率低下が避けられない。
【0016】
とりわけ、板材等が用いられて隔離室が設置される場合、病室のスペースがその板材によって仕切られるからまとまったスペースが確保されにくい。そのうえ、板材が配置されることによって病室のスペースが狭くなるため、スペース効率が低下するという課題もある。
【0017】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、病室、治療室、診察室といった主に医療機関の室としても使用可能な柔軟性を有する一方、効率的な医療行為および室内スペースの有効活用を可能とし、しかも、感染症患者が保有しているウィルスや病原菌が外部に漏れ出る事態を無くすだけでなく、感染症患者が一般の雑菌に起因した別の感染症を併発することを無くすことができる感染隔離室を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、本発明は、引戸構造物と送風ユニットが出入口に設置されている感染隔離室であって、引戸構造物は、出入口の開閉に用いられる引戸と、その引戸が全開または全閉の状態で当接し、かつその引戸を挟んで向かい合うように配置されている縦枠とを有し、縦枠は、引戸を挟んで向かい合う一対の対向部に感染隔離室の内側の内気が吸い込まれる縦枠吸気部が形成され、かつその縦枠吸気部から吸い込まれた内気が通る内気通気部が形成され、送風ユニットは、縦枠の高さ方向に沿った上端部または下端部に接続され、かつ出入口の幅方向に沿った横長構造で内気通気部と連通している筐体を有し、その筐体に、縦枠吸気部から吸い込まれた内気を濾過するフィルタと、そのフィルタによって濾過された清浄空気を感染隔離室の外側に排出させる送風機とが収容され、感染隔離室の内側の出入口に臨む領域であって、縦枠および送風ユニットに囲まれた出入口ゾーンが感染隔離室の内側のその出入口ゾーンとは別領域よりも陰圧で、かつ感染隔離室の外側よりも陰圧になった拡張陰圧に設定される感染隔離室を特徴とする。
【0019】
上記感染隔離室の場合、引戸の全閉状態において、感染隔離室の外側の外気が内気に加えて吸い込まれるように、縦枠吸気部が縦枠に形成されることによって、引戸の全閉状態で、内気および外気が吸い込まれる内外並行吸引が実現されることが好ましい。
【0020】
また、一対の対向部の引戸が当接する引戸接部よりも感染隔離室の内側と、感染隔離室の外側の双方に縦枠吸気部が形成され、感染隔離室の内側と外側の双方の縦枠吸気部を用いて、引戸の全閉状態で、内気および感染隔離室の外側の外気が吸い込まれる内外並行吸引が実現されるようにすることができる。
【0021】
さらに、一対の対向部の引戸が全閉状態で当接する全閉対向部のうちの引戸が接する全閉引戸接部よりも感染隔離室の内側と、感染隔離室の外側の双方に縦枠吸気部が設けられ、一対の対向部の引戸が全開状態で当接する全開対向部のうちの引戸が接する全開引戸接部よりも感染隔離室の内側に縦枠吸気部が設けられ、感染隔離室の内側と外側の双方の縦枠吸気部を用いて、引戸の全閉状態で、内気および感染隔離室の外側の外気が吸い込まれる内外並行吸引が実現されるようにすることができる。
【0022】
さらにまた、縦枠に固定され、かつ引戸に沿って配置されている固定パネル部を更に有し、その固定パネル部に感染隔離室の外側の外気が吸い込まれるパネル吸気部と、そのパネル吸気部から吸い込まれた外気が通る外気通気部とが形成されているようにすることができる。
【0023】
また、縦枠は、内気通気部としての貫通孔が高さ方向に沿って形成されている筒状構造を有し、縦枠の一対の対向部の背面側に配置されている背面部が出入口を形成する壁部の出入口に臨む出入口端面に固定されているようにすることもできる。
【0024】
さらに、縦枠は、一対の対向部の背面側が開口部となった背面開口構造を有し、縦枠の一対の対向部の背面側が出入口を形成する壁部の出入口に臨む出入口端面に固定され、その出入口端面と、縦枠との間に内気通気部が形成されているようにすることもできる。
【発明の効果】
【0025】
以上詳述したように、本発明によれば、病室、治療室、診察室といった主に医療機関の室としても使用可能な柔軟性を有する一方、効率的な医療行為および室内スペースの有効活用を可能とし、しかも、感染症患者が保有しているウィルスや病原菌が外部に漏れ出る事態を無くすだけでなく、感染症患者が一般の雑菌に起因した別の感染症を併発することを無くすことができる感染隔離室が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施の形態に係る感染隔離室の要部を示した斜視図である。
図2】本発明の実施の形態に係る感染隔離室の出入口に設置されている引戸構造物と送風ユニットの要部を正面壁,横壁とともに感染隔離室の内側から示す正面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る感染隔離室の出入口に設置されている引戸構造物と送風ユニットの要部を感染隔離室の内側から示す正面図である。
図4図3の縦枠の矢印a方向からみた正面図である。
図5図4の5-5線断面図である。
図6図1の感染隔離室に設置されている縦枠と送風ユニットの要部を示す一部省略した平面図である。
図7図1の感染隔離室に設置されている引戸構造物と送風ユニットの要部を壁部とともに示す一部省略した平面図である。
図8図1の感染隔離室に設置されている引戸構造物の要部を壁部とともに示す一部省略した平面図である。
図9】感染隔離室の要部を模式的に示した正面図である。
図10】感染隔離室およびその隣接する室を天井を省略して示した平面図である。
図11】(a)は引戸の全閉状態の感染隔離室の動作内容を模式的に示した平面図、(b)は引戸の全開状態の感染隔離室の動作内容を模式的に示した平面図である。
図12】送風ユニットの筐体の要部を示した平面図である。
図13】送風ユニットの筐体およびその内部構造の要部を示した正面図である。
図14】送風ユニットの筐体の要部を示した底面図である。
図15】送風ユニットの筐体の要部を示した右側面図である。
図16】変形例1に係る感染隔離室に設置されている引戸構造物と送風ユニットの要部を壁部とともに示す一部省略した平面図である。
図17】(a)は変形例に係る感染隔離室の縦枠と正面壁の要部を示す分解斜視図、(b)は変形例に係る感染隔離室の縦枠と横壁の要部を示す分解斜視図である。
図18】変形例2にかかる引戸構造物と送風ユニットの要部を壁部とともに感染隔離室の内側から示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(感染隔離室の実施の形態)
本発明の実施の形態に係る感染隔離室100について、図1図10を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る感染隔離室100の要部を示した斜視図である。図2は、感染隔離室100の出入口105に設置されている引戸構造物1と送風ユニット30の要部を正面壁101,横壁102aとともに感染隔離室100の内側から示す正面図である。図3は、引戸構造物1と送風ユニット30の要部を感染隔離室100の内側から示す正面図、図4は縦枠11の図3の矢印a方向からみた正面図、図5図4の5-5線断面図である。図6は縦枠11と送風ユニット30の要部を示す一部省略した平面図、図7は引戸構造物1と送風ユニット30の要部を壁部とともに示す一部省略した平面図、図8は引戸構造物1の要部を壁部とともに示す一部省略した平面図である。図9は感染隔離室100の要部を模式的に示した正面図、図10は、感染隔離室100およびその隣接する室を天井を省略して示した平面図である。
【0028】
図1図2に示すように、本発明の実施の形態に係る感染隔離室100には、引戸構造物1と、送風ユニット30とがその出入口105に設置されている。感染隔離室100は室の一例としての病室99としても利用される。
【0029】
図1図10に示すように、病室99は、正面壁101,横壁102a,102b,102c、床103および天井104に囲まれた閉鎖的な空間である。病室99は正面壁101に出入口105が設けられていて、その出入口105に引戸構造物1と送風ユニット30とが設置されている。出入口105は、病室99の開口部であって、正面壁101と横壁102aとの間に設けられている。その出入口105に納まるように、引戸構造物1と、送風ユニット30とが設置されている。
【0030】
(引戸構造物)
図1図5に示すように、引戸構造物1は、引戸106と、縦枠11,21とを有している。引戸106は、適度な厚さを有する矩形板状の部材で、引手106a,窓106bを有している。図示の引戸106は、吊り下げ状態の引戸(吊戸ともいう)である。引戸106は、人手によって開放状態にされたあと、人手が離れると、図示しないカームスライダー(自動閉鎖装置)によって自動的に閉鎖状態になる。なお、図示はしないが、引戸106は、傾斜レール上を移動して自動的に閉鎖状態となる方式でもよいし、バネの作用を利用して自動的に閉鎖状態となる方式でもよい。また、引戸106が戸車を有し、その戸車によって、図示しない敷居上を移動する構造を有してもよい。
【0031】
縦枠11,21は、金属または樹脂製であって、引戸106を挟んで互いに向かい合うように配置されている。縦枠11,21は、高さ方向(感染隔離室100の床103と直交状に交差する方向)に沿った貫通孔14,24が形成された筒状構造を有している(縦枠11は図5参照、縦枠21も同様)。また、縦枠11,21は、引戸106を挟んで互いに向かい合う対向部12,22をそれぞれ有し、その対向部12,22にそれぞれ後述する縦枠吸気部13,23が形成されている。
【0032】
引戸106が全閉状態(引戸106がすべて閉鎖されている状態)のときに、引戸106が対向部12に当接し、全開状態(引戸106がすべて開放されている状態)のときに、引戸106が対向部22に当接する。対向部12,22は、それぞれ本発明における全閉対向部、全開対向部に相当する。
【0033】
そして、図5に示すように、対向部12において、対向表面12aの幅方向中央に引戸106が当接する引戸接部12bが形成されている。また、対向部22において、図1図7に示すように、対向表面22aの幅方向中央に引戸106が当接する引戸接部22bが形成されている。
【0034】
引戸接部12b、22bは、引戸106の厚さよりもやや広い幅を有している。対向表面12a、22aの幅方向中央の適度な幅を有する正面視帯状に窪んだ部分がそれぞれ引戸接部12b、22bに相当する。引戸接部12bは本発明における全閉引戸接部12bに相当し、引戸接部22bは本発明における全開引戸接部に相当する。
【0035】
また、図4に示すように、対向部12には、その対向表面12aに、引戸接部12bを挟むようにして、一対の縦枠吸気部13(13a,13b)が形成されている。縦枠吸気部13a、13bは、それぞれ引戸接部12bよりも感染隔離室100の内側、引戸接部12bよりも感染隔離室100の外側に配置されている。
【0036】
図1に示すように、対向部22には、その対向表面22aに、後述する縦枠吸気部23が形成されている。縦枠吸気部23は、引戸接部22bよりも感染隔離室100の内側に配置されている。
【0037】
縦枠11,21には、それぞれ貫通孔14,24が形成されていて、縦枠11,21は、ともに筒状構造を有している。貫通孔14,24は、それぞれ本発明における内気通気部に相当している。貫通孔14,24は、縦枠11,21の高さ方向に沿ったそれぞれの上端部11b、21bから縦枠吸気部13,23の下端部まで貫通していて、縦枠吸気部13,23に接続されている。引戸106が閉鎖されているときは、内気(感染隔離室100の室内の空気)、外気(感染隔離室100の室外の空気)がそれぞれ縦枠吸気部13a、13bから吸い込まれる。また、縦枠吸気部23から、内気だけが吸い込まれる。また、引戸106が開放されているときは、内気および外気が縦枠吸気部13a、13b、縦枠吸気部23から吸い込まれる。内気、外気は縦枠吸気部13a、13から吸い込まれたあと貫通孔14を通過するが、縦枠吸気部23から吸い込まれたあとは貫通孔24を通過する。感染隔離室100では、引戸106の全閉状態において、内気および外気がそれぞれ縦枠吸気部13a、13bから吸い込まれる。感染隔離室100は、引戸106の全閉状態で、内気に加えて外気が吸い込まれるように、縦枠11に縦枠吸気部13(13a、13b)が形成されている。これによって、引戸106の全閉状態で後述する内外並行吸引が実現される。
【0038】
図7図8に示すように、縦枠11は、背面部11dを有し、その背面部11dが出入口端面101aに固定されている。出入口端面101aは、正面壁101の出入口105に臨む部分であって、高さ方向に延びる帯状表面である。縦枠21は、背面部21dを有するが、その背面部21dを含む縦枠21の一部が横壁102aに組み込まれている。
【0039】
縦枠吸気部13,23は、病室99の内気および外気が吸い込まれる部分である。縦枠吸気部13,23は、図1図4に示すように、それぞれ対向部12,22に形成されている。縦枠吸気部13のうちの縦枠吸気部13aと、縦枠吸気部13bとは、床103からの高さが等しくなる位置に形成されている。また、吸気部13のうちの縦枠吸気部13aと、縦枠吸気部23は、互いに向かい合わせになるように(床103からの高さおよび引戸106に交差する方向に沿った引戸106との間隔が等しくなるように)形成されている。また、縦枠吸気部13,23のそれぞれの表面にプレフィルタ25が装着されている(縦枠吸気部23については図1参照)。
【0040】
さらに、図8に示すように、感染隔離室100は、固定パネル部108を有している。固定パネル部108は、引戸106と同等の大きさを備えた矩形板状の固定構造物であって、対向部22に固定されている。固定パネル部108は、引戸106に沿って、引戸106よりも感染隔離室100の外側に配置されている。また、固定パネル部108は、縦枠11の対向部12に対向する対向部109を有している。その対向部109にパネル吸気部110が形成されている。さらに、固定パネル部108の内側に外気通気部としての貫通孔111が形成されている。貫通孔111は、パネル吸気部110と、送風ユニット30に接続されている。固定パネル部108が引戸106よりも感染隔離室100の外側に配置されているため、引戸106が閉鎖されているとき、開放されているときの双方において、外気が貫通孔111を通過する。
【0041】
また、固定パネル部108の端部にモヘア部108bが設けられている。モヘア部108bは固定パネル部108と引戸106の双方に接触している。引戸106がそのモヘア部108bに接触しながらスライドする。
【0042】
(送風ユニット)
図12図15に詳しく示すように、送風ユニット30は、筐体31を有している。筐体31は、例えば、金属または樹脂製であり、図1図2に示すように、出入口105の幅方向に沿った横長構造を有する箱状の部材である。筐体31および後述する排気口39を含む部分が、縦枠11,21の上端部11b、21bと、病室99の天井104との間に配置される高さを有している(図1参照)。筐体31の天井104と対面する天端面36に排気口39が形成されている。
【0043】
図2図3に示すように、送風ユニット30は、縦枠11および縦枠21の上端部11b、21bに接続されている。また、図12図15に示すように、筐体31は、幅方向両側の側面31a,31bと、天端面36および底面37を有し、その内側に後述するHEPAフィルタ32と、送風機33が収容されている。その底面37が引戸106および固定パネル部108の上側に配置されて、後述するカバー部材35a,35bが縦枠11,21の上端部11b、21bに接続されている。
【0044】
そして、筐体31の側面31a,31bにそれぞれ吸気口38a,38bが形成されている。さらに、図2図3に示すように、その側面31a,31bを覆うように、それぞれカバー部材35a,35bが筐体31に装着されている。カバー部材35a,35bの縦枠21、縦枠11側の下端部がそれぞれ縦枠21、縦枠11の上端部21b,11bに接続されている。カバー部材35a,35bの下端部は、それぞれ上端部21b,11bよりも大きい外形寸法を有し、その内側にそれぞれ貫通孔24,14に対応した開口部が形成されている。
【0045】
そのカバー部材35a,35bの装着によって、カバー部材35a,35bで囲まれる閉鎖スペース35c、35dが筐体31の幅方向両側に確保されている(図3参照)。その閉鎖スペース35c、35dにそれぞれ吸気口38a,38bが配置されている。そして、貫通孔24,14がそれぞれ上端部21b,11bと、カバー部材35a,35bの下端部の開口部を介してその閉鎖スペース35c、35dに接続されている。これによって、閉鎖スペース35c、35dが通路となって、貫通孔24,14がそれぞれ筐体31(吸気口38a,38b)と連通している。底面37は閉鎖面であり、天端面36は排気口39を除いた閉鎖面である。
【0046】
HEPAフィルタ32は、筐体31の内側に取り込まれた空気を濾過する高性能フィルタである。筐体31には、感染隔離室100の内気(および感染隔離室100の外気)が取り込まれる。その内気および外気は、縦枠11、21の縦枠吸気部13,23から吸い込まれて、貫通孔14,24を通って上端部11b,21bに到達し、そこから閉鎖スペース35d、35cを通って吸気口38b,38aから筐体31の中に取り込まれる。図13に示すように、送風機33は、HEPAフィルタ32によって濾過された清浄空気caを病室99の外側に排出させる装置である。本実施の形態では、送風機33として、両吸込みシロッコファン(多翼送風機)が用いられている。
【0047】
筐体31の内部には通気部34が設けられている。通気部34は送風機33によって送り出される前の清浄空気caが通る第1の清浄通気部34aと、送風機33によって送り出された清浄空気caが通る第2の清浄通気部34bと、HEPAフィルタ32によって濾過される前の内気(および外気)が通る濾過前通気部34cとを有している。濾過前通気部34cが吸気口38a,38bと、HEPAフィルタ32とに接続されていて、吸気口38a,38bから取り込まれた内気(および外気)をHEPAフィルタ32に導入し得る構造を有している。第1の清浄通気部34aは、HEPAフィルタ32と、送風機33とに接続されている。第2の清浄通気部34bは、送風機33と、排気口39に接続されている。
【0048】
そして、図10に示すように、送風ユニット30の排気口39には、清浄排気部40が接続されている。清浄排気部40は、室外導出部40aと、排気ダクト40bとを有している。室外導出部40aは、排気口39と、排気ダクト40bとに接続され、排気口39から排出される清浄空気caを天井104の裏側の排気ダクト40bに導いて感染隔離室100(病室99)の外部に排出させる。排気ダクト40bは、天井104の裏側に設置されている管状部材で、室外導出部40aと、横壁102cとに接続されている。清浄排気部40は排気口39から排出される清浄空気caを天井104の裏側に導いたうえで、横壁102cから感染隔離室100(病室99)の外側(図示しない廊下など)に排出させる。
【0049】
さらに、図9に示すように、感染隔離室100(病室99)には、天井104の埋め込み型の空気調和機70が設置されている。空気調和機70の吹出口71が天井104に設けられている。空気調和機70は、主に内気を循環させながら内気の温度および/または湿度の調整を行い、その調整後の内気afを吹出口71から感染隔離室100(病室99)の室内に吹き降ろす。
【0050】
(引戸構造物1の動作内容)
以上のような構成を有する感染隔離室100において、図示しないスイッチが投入される(オンにされる)と、送風ユニット30が動作を開始する。動作開始後、送風機33が作動して、空気の吸い込み、および排出を行う。すると、送風機33が作動することに伴い、送風ユニット30において、吸気口38a,38bから空気が取り込まれる。吸気口38a,38bは、カバー部材35a,35bで囲まれる閉鎖スペース35c、35dに納められ、その閉鎖スペース35c、35dに縦枠21,11の貫通孔24,14が接続されているから、貫通孔24,14の内部の空気が吸気口38a,38bから筐体31の中に取り込まれ、続いて新たな空気が貫通孔24,14から閉鎖スペース35c、35dに取り込まれる。
【0051】
すると、引戸106が完全に閉鎖されている状態(「引戸閉鎖状態」ともいう)において、前述の送風ユニット30の動作による空気の流れと並行して、引戸106よりも内側の縦枠吸気部13a、23から、感染隔離室100(病室99)の内気の吸い込みが行われる。その内気が縦枠吸気部23,13(13a)から吸い込まれる際、内気がプレフィルタ25を通過するので、内気に含まれる塵や埃等の浮遊物がプレフィルタ25によって除去される。
【0052】
一方、引戸106よりも外側に縦枠吸気部13bが配置されているから、その縦枠吸気部13bから、感染隔離室100の外の空気(外気)が吸い込まれて、貫通孔14を通り吸気口38bから筐体31の中に取り込まれる。また、引戸106よりも外側に固定パネル部108が配置され、その固定パネル部108にパネル吸気部110と貫通孔111が形成されているから、外気がパネル吸気部110からも吸い込まれて貫通孔111を通り、吸気口38aから筐体31の中に取り込まれる。
【0053】
このように、感染隔離室100では、引戸閉鎖状態において、送風ユニット30が作動すると、感染隔離室100の内気と外気が同時並行的に吸引される。本実施の形態において、感染隔離室100の内気と外気が同時並行的に吸い込まれる(吸引される)ことを内外並行吸引ともいう。
【0054】
そして、感染隔離室100の内気および外気は、筐体31の中に取り込まれたあと、濾過前通気部34cを通ってHEPAフィルタ32に導入される。それから、その内気がHEPAフィルタ32で濾過されると、清浄空気caとなって第1の清浄通気部34aを通る。また、清浄空気caは、送風機33による送風パワーによって押し出されたあと第2の清浄通気部34bを通り、排気口39から排出される。さらに、図10に示すように、清浄空気caは、室外導出部40aと、排気ダクト40bを通って横壁102cから感染隔離室100の外側に排出される。
【0055】
以上のような感染隔離室100における主に送風ユニット30の動作によって、感染隔離室100の内側の出入口ゾーン118で内気(および外気)の吸い込みが行われる。ここで、図11(a)、図11(b)に示すように、出入口ゾーン118は、感染隔離室100(病室99)の内側の出入口105に臨む領域であって、縦枠11,21および送風ユニット30に囲まれた概ね直方体状の領域である。図11(a)、図11(b)において、ドットが付された部分が出入口ゾーン118に相当する。
【0056】
送風ユニット30の動作が継続していると、出入口ゾーン118における内気(および外気)の吸い込みが継続して行われる。そのため、図11(a)に示すように、感染隔離室100(病室99)において、引戸閉鎖状態では、出入口ゾーン118が感染隔離室100の内側のその他の領域(図11(a)、図11(b)の斜線が付されている部分)よりも気圧が低い陰圧の状態となる。
【0057】
この場合、感染隔離室100では、送風ユニット30と並行して、空気調和機70が作動している。そのため、図9に示すように、空気調和機70の動作による内気afの吹き降ろしがあるが、その内気afの吹き降ろしによる内気の補充があっても、出入口ゾーン118における内気efの吸い込み(送風機33の動作による内気の排出)の方が多くなるように、送風機33の風量等が設定されている。好ましくは、図示しない差圧計が感染隔離室100に設置され、その差圧計の計測結果にしたがい送風機33の風量調節が行われてもよいし、係る風量調節を行う制御手段が設けられてもよい。送風ユニット30の動作が継続していることによって、感染隔離室100の内側からみて、出入口ゾーン118が感染隔離室100の内側のその他の領域よりも陰圧になった状態が継続する。
【0058】
また、感染隔離室100では、前述した内外並行吸引が実現されるので、内気efの吸い込みと並行して、外気ffの吸い込みが行われる。そのため、送風機33の風量調節が行われるときは、その外気ffの吸い込みによる風量も含められる。
【0059】
一方、引戸106が開放されたとき(「引戸開放状態」ともいう)は、出入口ゾーン118が陰圧の状態であるため、図11(b)に示すように、引戸106の外側の周辺領域119(図11(b)の網目が付された部分)の外気gfが出入口ゾーン118付近に集まる。そして、その外気gfが外気ffとともに、出入口ゾーン118に入り込む。
【0060】
しかしながら、引戸構造物1および送風ユニット30によって、出入口ゾーン118が陰圧の状態であり、その出入口ゾーン118では、吸気部13,23における内気efおよび外気ffの吸い込みが継続している。そのため、出入口ゾーン118に入り込んだ外気gfは、外気ffとともに吸い込まれるか、たとえ出入口105を通ったとしても、その後に縦枠11,21(縦枠吸気部13,23)から吸い込まれてしまうから、外気gfは、出入口ゾーン118よりも感染隔離室100の内側には入り込むことができない。そのため、感染隔離室100では、感染隔離室100の外側からみても、出入口ゾーン118が陰圧になった状態が得られる。
【0061】
したがって、感染隔離室100は、引戸構造物1および送風ユニット30が設置されていることによって、出入口ゾーン118が感染隔離室100の内側の出入口ゾーン118とは別領域(図11(a)、図11(b)の斜線が付されている部分)よりも陰圧であり、かつ感染隔離室100の外側(特に、周辺領域119で、図11(b)の網目が付された部分)よりも陰圧になった状態が形成される。このように、感染隔離室100では、出入口ゾーン118に形成されている陰圧が感染隔離室100の出入口ゾーン118以外の領域よりも陰圧で、かつ感染隔離室100の外側よりも陰圧である。そのため、感染隔離室100では、陰圧であることの比較対象となる領域が従来技術よりも拡張されている。このような感染隔離室100における陰圧を本実施の形態では、「拡張陰圧」ともいう。感染隔離室100では、引戸構造物1および送風ユニット30が病室99に設置されていることによって、拡張陰圧に設定された出入口ゾーン118がその感染隔離室100の中に形成されている。
【0062】
(引戸構造物1の作用効果)
以上のように、本実施の形態にかかる感染隔離室100では、引戸構造物1と送風ユニット30が設置されている。前述したように、その引戸構造物1は、出入口105を通じた人や物の出入りに使用される引戸106と、その引戸106が全開または全閉の状態で当接し、かつ引戸106を挟んで向かい合うように配置されている縦枠11,21とを有している。感染隔離室100において、その引戸構造物1が出入口105を通じた人や物の出入りに使用される不可欠な構造物であり、それがあって初めて病室99(感染隔離室100)が構成される。引戸構造物1は、病室99が完成していて、その病室99に後付けされる板材やシート材等の構造物ではない。感染隔離室100では、引戸構造物1によって、病室99のスペースが仕切られることがなく、感染隔離を目的として、別途板材やシート材などが配置されることもないので、病室99のスペースが狭められることもない。
【0063】
したがって、感染隔離室100では、室内スペースの有効活用が可能である。また、病室99が設置される時点で引戸構造物1と送風ユニット30が設置されることによって、感染隔離室100が完成するから、感染隔離室100が設置されるときは、従来技術に係る感染症病室が設置されるときに比べて、設備全体の大きさや部品数が少ない。したがって、感染隔離室100では、設置に要する時間も費用も大幅に削減することができる。
【0064】
すると、引戸構造物1と送風ユニット30が用いられることによって、感染症患者を収容するための感染隔離室100を短時間で設置することができる。感染隔離室100が設置されたあとは、送風ユニット30の運転を開始するだけで感染隔離の準備が整う。そのため、感染症患者が急増し、その急増した感染症患者を一人でも多く収容する必要が生じた場合でも、感染隔離室100で対応することができる。
【0065】
また、感染隔離室100において、送風ユニット30の運転を停止することで、感染隔離室100を通常の病室99として利用することができる。その病室99には、例えば、感染症を発症していない患者が収容されることが可能となる。その一方、通常の病室99として利用している中で、感染症患者が収容される必要が生じたときは、送風ユニット30の運転を開始することで、拡張陰圧に設定された出入口ゾーン118が形成されるから、病室99を素早く感染隔離室100として利用可能となる。これによって、感染症患者が急増するときにも、感染症患者が医療にアクセスできなくなって適切な治療が受けられないといった事態を防止できる。また、感染症患者が急増してできるだけ多くの感染症患者を収容する必要がある場合にも、その感染隔離室100本来のスペースが有効に活用されることによって、最大限の人数で患者を収容できる。
【0066】
つまり、感染隔離室100は、感染隔離室100として使用することも可能であることはもちろん、病室99のような別の用途で使用することが可能である。感染隔離室100は、室の用途を拡大でき、室の使用に柔軟性、拡張性を持たせることができる。また、それらの用途の切り替えは、送風ユニット30を作動させるかどうかで実行できるから簡便であるし、病室から感染隔離室への転用またはその逆も簡易迅速に行える。
【0067】
そして、引戸構造物1は、引戸106と、縦枠11,21を主体とした構造物であり、出入口105を通って人や物が入る場合も、出る場合にも一切邪魔にならない。したがって、引戸構造物1が設置されていても、その引戸構造物1が出入口105を通じた人や物の出入り対して何ら妨げにはならない。
【0068】
さらに、引戸構造物1が病室99に一台設置されることで、その病室99の全体が感染隔離室100となる。そのため、前述した特許文献9,10に開示されている従来技術のように、病床ごとに隔離スペースが設置される場合に比べて遥かに効率的な医療提供が可能となる。特に、病室99が新規に設置される際に予め引戸構造物1および送風ユニット30が設置されることによって、感染隔離室100が得られるから、板材やシート材等の構造物が後付けされる場合に比べて、感染隔離室100の設置にかかる費用および時間を大幅に削減できる。
【0069】
そして、感染隔離室100では、出入口ゾーン118が拡張陰圧に設定されている。そのため、感染隔離室100の内気が出入口ゾーン118で吸引されてしまい、外部に漏れ出すことがなくなる。したがって、感染隔離室100に感染症患者が収容されていても、その患者が保有するウィルスや病原菌が空気中を浮遊して、感染隔離室100の外に出ることがなくなる。しかも、感染隔離室100の内側(出入口ゾーン118)と、その外側の関係でみると、出入口ゾーン118が感染隔離室100の外側よりも陰圧になっているから、外気は、感染隔離室100に入ったあと、出入口ゾーン118で吸引される。そのため、その外気に含まれている一般細菌が感染隔離室100の内側において、出入口ゾーン118よりも内側に入り込むことがない。
【0070】
したがって、感染隔離室100では、収容されている感染症患者が保有しているウィルスや病原菌が外部に漏れ出る事態を無くすだけでなく、その感染症患者が一般の雑菌に起因した別の感染症を併発することを無くすことができる。
【0071】
特に、感染隔離室100では、前述した内外並行吸引が実現されるので、引戸開放状態だけでなく、引戸閉鎖状態でも、内気および外気が吸い込まれている。したがって、感染隔離室100では、送風ユニット30が作動していることによって、内気および外気の清浄な状態が常時保持されることができる。これにより、感染隔離室100の外側(例えば、感染隔離室100が設置されている廊下)の空気も常時清浄な状態が保持される。これによって、感染症の拡散をより有効に防止できる効果が期待される。
【0072】
(変形例1)
図16は、変形例1に係る引戸構造物1Aと、送風ユニット30の要部を正面壁101,横壁102aとともに示す一部省略した平面図である。図17(a)は縦枠11Aと、正面壁101を示す分解斜視図、図17(b)は縦枠21Aと、横壁102aを示す分解斜視図である。引戸構造物1Aは、引戸構造物1と比較して縦枠11,21の代わりに縦枠11A,21Aを有する点で相違している。
【0073】
図17(a)、図17(b)に示すように、縦枠11A,21Aは対向部13,23の背面側が開口された開口部であり、断面概ねM字状の背面開口構造を有している。前述した縦枠11,21は、筒状構造を有していたため、それぞれ貫通孔14,24が形成されていた。その貫通孔14,24が内気通気部として機能する構造であった。
【0074】
これに対し、縦枠11A,21Aは背面開口構造を有しているため、それぞれ正面壁101、横壁102aの出入口端面101a、凹部102eとの間に貫通孔14A,21Aが形成され、そのそれぞれが内気通気部として機能する。そのため、引戸構造物1Aを有する感染隔離室も、引戸構造物1を有する前述した感染隔離室100と同様の作用効果を奏する。
【0075】
(変形例2)
図18は、変形例2にかかる引戸構造物1Bと送風ユニット30の要部を正面壁101,横壁102aとともに感染隔離室200の内側から示す正面図である。
【0076】
前述した感染隔離室100では、送風ユニット30が引戸構造物1と天井104との間に配置されていた。
【0077】
これに対し、変形例2にかかる感染隔離室200では、送風ユニット30が床103の下側に埋め込まれている。また、引戸構造物1Bが縦枠11B,21Bを有するが、そのそれぞれに送風ユニット30につながる貫通孔14B,24Bが形成されている。送風ユニット30は、その縦枠11B,21Bの高さ方向に沿った下端部に接続されている(縦枠11B,21Bの高さ方向に沿った下端部を含む一部が床103を貫通している)。感染隔離室200の場合、内気、外気とも縦枠吸気部13,23(および図18には図示されていないパネル吸気部110)から吸い込まれて貫通孔14B,24Bをとおり、送風ユニット30に供給される。そのため、感染隔離室200でも、感染隔離室100と同様の作用効果を奏する。また、送風ユニット30が床103の下側に埋め込まれていることで、感染隔離室200では、感染隔離室100よりも、室内スペースをより有効に利用可能である。
【0078】
その他、図示しないが、感染隔離室100において、送風ユニット30が天井104の上に埋め込まれていてもよい。この場合、送風ユニット30が天井104の下に配置されることがなくなるため、感染隔離室100の室内空間に余裕を持たせることができる。
【0079】
以上の説明は、本発明の実施の形態についての説明であって、この発明の装置及び方法を限定するものではなく、様々な変形例を容易に実施することができる。又、各実施形態における構成要素、機能、特徴あるいは方法ステップを適宜組み合わせて構成される装置又は方法も本発明に含まれるものである。
【0080】
例えば、送風ユニット30にも通気部を形成して、出入口ゾーンの上部から内気を吸引するようにしてもよい。また、縦枠11、21の両方にそれぞれ縦枠吸気部13a,23が形成されているが、縦枠吸気部13a,23のいずれか一方だけが形成されてもよい。
【0081】
上記実施の形態では、縦枠吸気部13a,13bが引戸接部12bを挟んで離れた位置に形成され、その両者によって、引戸106の全閉状態での内外並行吸引が実現されていた。図示はしないが、引戸106の全閉状態での内外並行吸引が実現されるように、縦枠11に、縦枠吸気部13a,13bが引戸接部12bを挟んで一つにつながった形状で形成されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明を適用することにより、病室、治療室、診察室といった主に医療機関の室としても使用可能な柔軟性を有する一方、効率的な医療行為および室内スペースの有効活用を可能とし、しかも、感染症患者が保有しているウィルスや病原菌が外部に漏れ出る事態を無くすだけでなく、感染症患者が一般の雑菌に起因した別の感染症を併発することを無くすことができる感染隔離室が得られる。本発明は、感染隔離室の分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1,1A,1B…引戸構造物、11,21,11A,21A,11B,21B…縦枠、11d…背面部、12,22…対向部、12b,22b…引戸接部、13,23…縦枠吸気部、14,24,111…貫通孔、30…送風ユニット、31…筐体、32…HEPAフィルタ、33…送風機、34c…濾過前通気部、34a…第1の清浄通気部、34b…第2の清浄通気部、39…排気口、99…病室、100,200…感染隔離室、101a…出入口端面、106…引戸、108…固定パネル部、110…パネル吸気部、118…出入口ゾーン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18