(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157203
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】電流-電圧非直線抵抗体、および、その製造方法
(51)【国際特許分類】
H01C 7/112 20060101AFI20241030BHJP
H01C 7/12 20060101ALI20241030BHJP
【FI】
H01C7/112
H01C7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071408
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智裕
(72)【発明者】
【氏名】春日 靖宣
(72)【発明者】
【氏名】堀口 匠
【テーマコード(参考)】
5E034
【Fターム(参考)】
5E034CB01
5E034CC02
5E034DA03
5E034EA07
5E034EA08
(57)【要約】
【課題】エネルギ耐量等の性能の向上を容易に実現可能な電流-電圧非直線抵抗体等を提供する。
【解決手段】実施形態の電流-電圧非直線抵抗体は、主成分原料(酸化亜鉛)と第1の副成分原料(酸化アンチモン、酸化コバルト、酸化ニッケル)と、第2の副成分原料(酸化ビスマス、酸化マンガン)と第3の副成分原料(3価元素を含む物質、ホウ素元素を含む物質、銀元素を含む物質)とを含有する混合物の焼結体を備える。主成分原料は、メディアン径D50
(ZnOs)がD50
(ZnOs)≦0.4μmである第1の主成分粉体の含有量[ZnOs]と、メディアン径D50
(ZnOt)が0.5μm≦D50
(ZnOt)≦0.7μmである第2の主成分粉体の含有量[ZnOt]とが、「0.005≦[ZnOs]/[ZnOt]≦0.1」を満たす。第1の副成分原料のメディアン径D50
(Sb+Co+Ni)が「D50
(Sb+Co+Ni)≦0.4μm」を満たす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛の粉体からなる主成分原料と、
酸化アンチモン、酸化コバルト、および、酸化ニッケルの粉体からなる第1の副成分原料と、
酸化ビスマス、および、酸化マンガンからなる第2の副成分原料と、
3価元素を組成に含む物質、ホウ素元素を組成に含む物質、および、銀元素を組成に含む物質の粉体からなる第3の副成分原料と
を含有する混合物を焼結することで形成された焼結体を備える電流-電圧非直線抵抗体であって、
前記混合物は、
前記主成分原料を85mol%以上含み、
前記主成分原料は、
それぞれ粒径が異なる第1の主成分粉体と、第2の主成分粉体とを含み、
前記第1の主成分粉体のメディアン径D50(ZnOs)が(式A)に示す関係を満たし、
前記第2の主成分粉体のメディアン径D50(ZnOt)が(式B)に示す関係を満たし、
前記第1の主成分粉体の含有量[ZnOs]と前記第2の主成分粉体の含有量[ZnOt]とが(式C)に示す関係を満たし、
前記第1の副成分原料のメディアン径D50(Sb+Co+Ni)が(式D)に示す関係を満たす、
電流-電圧非直線抵抗体。
D50(ZnOs)≦0.4μm ・・・(式A)
0.5μm≦D50(ZnOt)≦0.7μm ・・・(式B)
0.005≦[ZnOs]/[ZnOt]≦0.1 ・・・(式C)
D50(Sb+Co+Ni)≦0.4μm ・・・(式D)
【請求項2】
前記第2の副成分原料のメディアン径D50(Bi+Mn)が(式E)に示す関係を満たす、
請求項1項記載の電流-電圧非直線抵抗体。
0.5μm≦D50(Bi+Mn)≦0.7μm ・・・(式E)
【請求項3】
前記混合物は、
イットリウム、ユウロピウム、エリビウム、ツリウム、ガドリニウム、ジスプロジウム、ホルミウム、および、イッテリビウムのうち少なくとも一つの希土類元素Rを組成に含む物質の粉体からなる第4の副成分原料
を更に含有しており、
前記第4の副成分原料のメディアン径D50(R)が(式F)に示す関係を満たす、
請求項1または2に記載の電流-電圧非直線抵抗体。
D50(R)≦0.4μm ・・・(式F)
【請求項4】
酸化亜鉛の粉体からなる主成分原料と、酸化アンチモン、酸化コバルト、および、酸化ニッケルの粉体からなる第1の副成分原料と、酸化ビスマス、および、酸化マンガンからなる第2の副成分原料と、3価元素を組成に含む物質、ホウ素元素を組成に含む物質、および、銀元素を組成に含む物質の粉体からなる第3の副成分原料とを混合することによって得た混合物を焼結することで焼結体を得る、電流-電圧非直線抵抗体の製造方法であって、
前記混合物は、
前記主成分原料を85mol%以上含み、
前記主成分原料は、
それぞれ粒径が異なる第1の主成分粉体と、第2の主成分粉体とを含み、
前記第1の主成分粉体のメディアン径D50(ZnOs)が(式A)に示す関係を満たし、
前記第2の主成分粉体のメディアン径D50(ZnOt)が(式B)に示す関係を満たし、
前記第1の主成分粉体の含有量[ZnOs]と前記第2の主成分粉体の含有量[ZnOt]とが(式C)に示す関係を満たし、
前記第1の副成分原料のメディアン径D50(Sb+Co+Ni)が(式D)に示す関係を満たす、
電流-電圧非直線抵抗体の製造方法。
D50(ZnOs)≦0.4μm ・・・(式A)
0.5μm≦D50(ZnOt)≦0.7μm ・・・(式B)
0.005≦[ZnOs]/[ZnOt]≦0.1 ・・・(式C)
D50(Sb+Co+Ni)≦0.4μm ・・・(式D)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電流-電圧非直線抵抗体、および、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統や電子機器等の設備を、落雷などによる異常電圧(サージ)から保護するために、過電圧保護装置(避雷器、サージアブソーバなど)が用いられている。過電圧保護装置は、電流-電圧非直線抵抗体を備えている。電流-電圧非直線抵抗体は、正常な電圧が作用したときには絶縁特性を示すのに対して、異常電圧が作用したときには抵抗値が低下して導電性を示す。
【0003】
電流-電圧非直線抵抗体は、焼結体(セラミック体)を備える。焼結体は、たとえば、酸化亜鉛の粉体からなる主成分原料と共に、酸化亜鉛以外の金属酸化物等の粉体からなる副成分原料が混合された混合物を焼結することで形成される。電流-電圧非直線抵抗体において、焼結体の側面には、絶縁層が形成されている。絶縁層は、異常電圧(サージ)の吸収時に、フラッシュ・オーバが生ずることを防止するために設けられている。
【0004】
近年、電流-電圧非直線抵抗体を備える機器の高性能化と共に、機器の小型化が要求されている。これに伴い、電流-電圧非直線抵抗体においては、抵抗値が高く、優れた非直線抵抗特性を有することが求められており、さまざまな技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-307909号公報
【特許文献2】特許第2904178号公報
【特許文献3】特許第2933881号公報
【特許文献4】特許第2940486号公報
【特許文献5】特許第3165410号公報
【特許文献6】特許第6937390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来においては、電流-電圧非直線抵抗体のエネルギ耐量等の向上が困難であり、小型化を十分に実現することが困難であった。
【0007】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、エネルギ耐量等の性能の向上を容易に実現可能な、電流-電圧非直線抵抗体、および、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の電流-電圧非直線抵抗体は、酸化亜鉛の粉体からなる主成分原料と、酸化アンチモン、酸化コバルト、および、酸化ニッケルの粉体からなる第1の副成分原料と、酸化ビスマス、および、酸化マンガンからなる第2の副成分原料と、3価元素を組成に含む物質、ホウ素元素を組成に含む物質、および、銀元素を組成に含む物質の粉体からなる第3の副成分原料とを含有する混合物を焼結することで形成された焼結体を備える。混合物は、主成分原料を85mol%以上含む。主成分原料は、それぞれ粒径が異なる第1の主成分粉体と第2の主成分粉体とを含み、第1の主成分粉体のメディアン径D50(ZnOs)が(式A)に示す関係を満たし、第2の主成分粉体のメディアン径D50(ZnOt)が(式B)に示す関係を満たし、第1の主成分粉体の含有量[ZnOs]と第2の主成分粉体の含有量[ZnOt]とが(式C)に示す関係を満たす。第1の副成分原料のメディアン径D50(Sb+Co+Ni)が(式D)に示す関係を満たす。
D50(ZnOs)≦0.4μm ・・・(式A)
0.5μm≦D50(ZnOt)≦0.7μm ・・・(式B)
0.005≦[ZnOs]/[ZnOt]≦0.1 ・・・(式C)
D50(Sb+Co+Ni)≦0.4μm ・・・(式D)
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係る電流-電圧非直線抵抗体10の構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の電流-電圧非直線抵抗体10のうち、焼結体20(
図1参照)を作製する方法を示すフロー図である。
【
図3】
図3は、D50
(Sb+Co+Ni)およびD50
(ZnOs)と、破壊エネルギとの関係を示す図である。
【
図4】
図4は、D50
(ZnOt)と破壊エネルギとの関係を示す図である。
【
図5】
図5は、[ZnOs]/[ZnOt]
)と破壊エネルギとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[A]電流-電圧非直線抵抗体10の構成
図1は、実施形態に係る電流-電圧非直線抵抗体10の構成を示す断面図である。
【0011】
図1に示すように、電流-電圧非直線抵抗体10は、焼結体20と絶縁層30と電極40とを備える。
【0012】
電流-電圧非直線抵抗体10において、焼結体20は、例えば、円板状であって、正常な電圧が作用したときには絶縁性であって、正常な電圧よりも高い異常電圧が作用したときには抵抗値が低下して導電性になる。絶縁層30は、焼結体20の側面(外周面)を被覆するように、絶縁材料で形成されている。電極40は、焼結体20において上側および下側に位置するそれぞれの平坦面を被覆するように、導電材料で形成されている。
【0013】
詳細については後述するが、本実施形態では、焼結体20は、主成分原料と副成分原料とを混合することで得られる混合物を焼結することで形成される。
【0014】
[A-1]原料
[A-1-1]主成分原料(Zn)
主成分原料は、酸化亜鉛の粉体からなる。
【0015】
混合物において、主成分原料は、85mol%以上含む。つまり、混合物において、主成分原料は、ZnOで換算した量[ZnO]が、下記の(式a)に示す関係を満たす。
【0016】
85mol%≦[ZnO] ・・・(式a)
【0017】
[A-1-2]副成分原料
副成分原料は、少なくとも、第1の副成分原料と第2の副成分原料と第3の副成分原料とを含む。上記の混合物は、上記の他に、第4の副成分原料を更に含有してもよい。
【0018】
[A-1-2-1]第1の副成分原料(Sb,Co,Ni)
第1の副成分原料は、酸化アンチモン、酸化コバルト、および、酸化ニッケルの粉体からなる。
【0019】
混合物において、第1の副成分原料は、Sb2O3で換算した量[Sb2O3]、Co2O3で換算した量[Co2O3]、および、NiOで換算した量[NiO]が、下記の(式b1)、(式b2)および(式b3)に示す関係を満たすことが好ましい。
【0020】
1.0mol%≦[Sb2O3]≦2.5mol% ・・・(式b1)
0.5mol%≦[Co2O3]≦2.0mol% ・・・(式b2)
2.0mol%≦[NiO]≦4.0mol% ・・・(式b3)
【0021】
[A-1-2-1-1]酸化アンチモン
第1の副成分原料において、酸化アンチモンは、主成分原料である酸化亜鉛と共にスピネル粒子を形成し、焼結の際に酸化亜鉛の粒子が成長することを抑制して均一化させる成分であって、電流-電圧非直線抵抗体10の非直線抵抗特性を向上させるために添加される。酸化アンチモンの含有割合が(式b1)に示す範囲の下限値よりも小さい場合、電流-電圧非直線抵抗体10の非直線抵抗特性を向上させる効果が十分に発現されず、電流-電圧非直線抵抗体10のエネルギ耐量が悪化する場合がある。酸化アンチモンの含有割合が(式b1)に示す範囲の上限値よりも大きい場合、焼結体20の内部に絶縁成分が多くなるので、電流-電圧非直線抵抗体10のエネルギ耐量に関する特性が劣化する場合がある。
【0022】
[A-1-2-1-2]酸化コバルト
第1の副成分原料において、酸化コバルトは、スピネル粒子中に固溶する成分であって、電流-電圧非直線抵抗体10の非直線抵抗特性を向上させるために添加される。酸化コバルトの含有割合が(式b2)に示す範囲の下限値よりも小さい場合、電流-電圧非直線抵抗体10の非直線抵抗特性を向上させる効果が十分に発現されない場合がある。酸化コバルトの含有割合が(式b2)に示す範囲の上限値よりも大きい場合、焼結体20の内部に絶縁成分が多くなるので、電流-電圧非直線抵抗体10のエネルギ耐量に関する特性が劣化する場合がある。
【0023】
[A-1-2-1-3]酸化ニッケル
第1の副成分原料において、酸化ニッケルは、スピネル粒子中に固溶する成分であって、電流-電圧非直線抵抗体10の非直線抵抗特性を向上させるために添加される。酸化ニッケルの含有割合が(式b3)に示す範囲の下限値よりも小さい場合、電流-電圧非直線抵抗体10の非直線抵抗特性を向上させる効果が十分に発現されない場合がある。酸化ニッケルの含有割合が(式b3)に示す範囲の上限値よりも大きい場合、焼結体20の内部に絶縁成分が多くなるので、電流-電圧非直線抵抗体10のエネルギ耐量に関する特性が劣化する場合がある。
【0024】
[A-1-2-2]第2の副成分原料(Bi,Mn)
第2の副成分原料は、酸化ビスマス、および、酸化マンガンからなる。
【0025】
混合物において、第2の副成分原料は、Bi2O3で換算した量[Bi2O3]、および、MnOで換算した量[MnO]が、下記の(式c1)および(式c2)に示す関係を満たすことが好ましい。
【0026】
0.1mol%≦[Bi2O3]≦0.8mol% ・・・(式c1)
0.1mol%≦[MnO]≦2.0mol% ・・・(式c2)
[A-1-2-2-1]酸化ビスマス
第2の副成分原料において、酸化ビスマスは、主成分原料である酸化亜鉛の粒界に存在する成分であって、電流-電圧非直線抵抗体10の非直線抵抗特性を向上させるために添加される。酸化ビスマスの含有割合が(式c1)に示す範囲の下限値よりも小さい場合、電流-電圧非直線抵抗体10の非直線抵抗特性を向上させる効果が十分に発現されず、電流-電圧非直線抵抗体10のエネルギ耐量が悪化する場合がある。酸化ビスマスの含有割合が(式c1)に示す範囲の上限値よりも大きい場合、焼結体20の内部に絶縁成分が多くなるので、電流-電圧非直線抵抗体10の非直線抵抗特性が劣化する場合がある。
【0027】
[A-1-2-2-2]酸化マンガン
第2の副成分原料において、酸化マンガンは、スピネル粒子中に固溶する成分であって、電流-電圧非直線抵抗体10の非直線抵抗特性を向上させるために添加される。酸化マンガンの含有割合が(式c1)に示す範囲の下限値よりも小さい場合、電流-電圧非直線抵抗体10の非直線抵抗特性を向上させる効果が十分に発現されない場合がある。酸化マンガンの含有割合が(式c1)に示す範囲の上限値よりも大きい場合、焼結体20の内部に絶縁成分が多くなるので、電流-電圧非直線抵抗体10のエネルギ耐量に関する特性が劣化する場合がある。
【0028】
[A-1-2-3]第3の副成分原料(Al、Ga、In,B,Ag)
第3の副成分原料は、3価元素を組成に含む物質、ホウ素元素(B)を組成に含む物質、および、銀元素(Ag)を組成に含む物質の粉体からなる。
【0029】
[A-1-2-3-1]3価元素を組成に含む物質
ここで、3価元素を組成に含む物質は、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)の少なくとも1つの3価元素を組成に含む物質であって、例えば、水酸化物である。
【0030】
混合物において、第3の副成分原料である、3価元素(アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In))を組成に含む物質の粉体については、Al3+で換算した量[Al3+]、Ga3+で換算した量[Ga3+]、および、In3+で換算した量[In3+]が、下記の(式d1)に示す関係を満たすことが好ましい。
【0031】
0.002mol%≦[Al3+]+[Ga3+]+[In3+]≦0.009mol% ・・・(式d1)
【0032】
第3の副成分原料において、3価元素(アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In))を組成に含む物質は、主成分原料である酸化亜鉛の粒子に固溶する成分であって、電流-電圧非直線抵抗体10の非直線抵抗特性を向上させるために添加される。しかし、(式d1)に示す関係を満たさない場合、電流-電圧非直線抵抗体10の非直線抵抗特性が劣化する場合がある。
【0033】
[A-1-2-3-2]ホウ素元素(B)を組成に含む物質/銀元素(Ag)を組成に含む物質
第3の副成分原料において、ホウ素元素(B)を組成に含む物質は、例えば、酸化物(酸化ホウ素)であり、銀元素(Ag)を組成に含む物質は、例えば、酸化物(酸化銀)である。
【0034】
混合物において、第3の副成分原料である、ホウ素元素(B)を組成に含む物質の粉体については、B2O3で換算した量[B2O3]が、下記の(式d4)に示す関係を満たすことが好ましい。そして、第3の副成分原料である、銀元素(Ag)を組成に含む物質の粉体については、B2O3で換算した量[Ag2O]が、下記の(式d5)に示す関係を満たすことが好ましい。
【0035】
0.002mol%≦[B2O3]≦0.02mol% ・・・(式d4)
0.002mol%≦[Ag2O]≦0.02mol% ・・・(式d5)
【0036】
第3の副成分原料において、ホウ素元素(B)を組成に含む物質、および、銀元素(Ag)を組成に含む物質は、電流-電圧非直線抵抗体10の非直線抵抗特性およびエネルギ耐量を向上させるために添加される。しかし、(式d4)、および、(式d5)に示す関係を満たさない場合、電流-電圧非直線抵抗体10の非直線抵抗特性とエネルギ耐量との少なくとも一方が劣化する場合がある。
【0037】
[A-1-2-4]第4の副成分原料(R)
第4の副成分原料は、イットリウム、ユウロピウム、エリビウム、ツリウム、ガドリニウム、ジスプロジウム、ホルミウム、および、イッテリビウムのうち少なくとも一つの希土類元素Rを組成に含む物質の粉体からなる。希土類元素Rを組成に含む物質は、例えば、酸化物である。
【0038】
混合物において、第4の副成分原料は、R2O3で換算した量[R2O3]が、下記の(式e)に示す関係を満たすことが好ましい。
【0039】
0.2mol%≦[R2O3]≦0.7mol% ・・・(式e)
【0040】
第4の副成分原料は、電流-電圧非直線抵抗体10の非直線抵抗特性およびエネルギ耐量を向上させることが可能であると共に、電流-電圧非直線抵抗体10の抵抗を高めることができる成分である。第4の副成分原料の含有割合が(式e)に示す範囲の下限値よりも小さい場合、電流-電圧非直線抵抗体10の抵抗を十分に高めることができない場合がある。第4の副成分原料の含有割合が(式e)に示す範囲の上限値よりも大きい場合、電流-電圧非直線抵抗体10のエネルギ耐量が悪化する場合がある。
【0041】
[A-2]原料のメディアン径
以下より、顆粒を作製前における原料のメディアン径について説明する。
【0042】
[A-2-1]主成分原料のメディアン径、および、第1の副成分原料のメディアン径
酸化亜鉛の粉体からなる主成分原料は、粒径の異なる2種の粉体で構成され、第1の主成分粉体のメディアン径D50(ZnOs)が(式A)に示す関係を満たし、第2の主成分粉体のメディアン径D50(ZnOt)が(式B)に示す関係を満たす。そして、第1の主成分粉体の含有量[ZnOs]と第2の主成分粉体の含有量[ZnOt]とが(式C)に示す関係を満たす。
【0043】
D50(ZnOs)≦0.4μm ・・・(式A)
0.5μm≦D50(ZnOt)≦0.7μm ・・・(式B)
0.005≦[ZnOs]/[ZnOt]≦0.1 ・・・(式C)
【0044】
酸化アンチモン、酸化コバルト、および、酸化ニッケルの粉体からなる第1の副成分原料は、メディアン径D50(Sb+Co+Ni)は、(式D)に示す関係を満たす。
【0045】
D50(Sb+Co+Ni)≦0.4μm ・・・(式D)
【0046】
メディアン径D50(Sb+Co+Ni)は、酸化アンチモンの粉体と酸化コバルトの粉体と酸化ニッケルの粉体との混合物について測定される値であって、酸化アンチモンの粉体と酸化コバルトの粉体と酸化ニッケルの粉体とのそれぞれのメディアン径ではない。
【0047】
(式A)、(式B)および(式C)に示す関係を満たすことで、混合物の焼成において、主成分原料と副成分原料との間の反応性を向上させることができる。また、(式D)に示す関係を満たすことで、混合物のスラリーにおいて副成分原料を主成分原料に均一に分散させることができる。このため、本実施形態では、混合物の焼結性が向上し、焼結体の微細構造が均一化されるので、焼結体の密度を高め、焼結体の気孔率が低減する。その結果、優れたエネルギ耐量を有する電流-電圧非直線抵抗体を得ることができる。
【0048】
これに対して、(式A)、(式B)、(式C)および(式D)に示す関係以外になった場合、主成分原料と副成分原料との間の反応が不十分になり、焼結性が低下するので、電流-電圧非直線抵抗体のエネルギ耐量が劣化する場合がある。
【0049】
特に、(式B)に示す範囲の下限値を下回る場合、または(式C)に示す範囲の上限値を超える場合には、混合物のスラリーを造粒するときに、液滴中の一次粒子が凝集し易くなる。このため、得られた顆粒が中空形状になり、また、顆粒の外殻部の密度が高くなるため、潰れ性が低下する。その結果、顆粒を金型に充填して所定の密度で加圧成形を行う際に、顆粒の中空部分が気孔として残る場合がある。また、顆粒間に形成される三重点の気孔サイズが粗大化するため、焼結体の気孔率が増加し、電流-電圧非直線抵抗体のエネルギ耐量が低下する場合がある。
【0050】
なお、第1の主成分原料のメディアン径および第1の副成分原料のメディアン径の下限値は、特に限定されないが、作製上の限界により、例えば、0.1μm程度である。
【0051】
[A-2-2]第2の副成分原料のメディアン径
酸化ビスマス、および、酸化マンガンの粉体(混合物)からなる第2の副成分原料は、メディアン径D50(Bi+Mn)が(式C)に示す関係を満たすことが好ましい。
【0052】
0.5μm≦D50(Bi+Mn)≦0.7μm ・・・(式E)
【0053】
メディアン径D50(Bi+Mn)は、酸化ビスマスの粉体と酸化マンガンの粉体との混合物について測定される値であって、酸化ビスマスの粉体と酸化マンガンの粉体とのそれぞれのメディアン径とは相違する。
【0054】
(式E)に示す関係を満たすことで、混合物のスラリーにおいて副成分原料を主成分原料に更に均一に分散させることができる。
【0055】
これに対して、(式E)に示す範囲の下限値未満である場合には、均一な分散を実現することが容易でなく、電流-電圧非直線抵抗体のエネルギ耐量が低下する場合がある。また、(式E)に示す範囲の上限値を超える場合には、電流-電圧非直線抵抗体の非直線抵抗特性が劣化する場合がある。
【0056】
[A-2-3]第4の副成分原料のメディアン径
希土類元素Rを組成に含む物質の粉体からなる第4の副成分原料は、メディアン径D50(R)が(式D)に示す関係を満たすことが好ましい。
【0057】
D50(R)≦0.4μm ・・・(式F)
【0058】
メディアン径D50(R)は、希土類元素Rを組成に含む物質について測定される値であって、希土類元素Rを組成に含む物質が複数種である場合には、その複数種の粉末のそれぞれのメディアン径D50(R)が(式F)に示す関係を満たすことが好ましい。
【0059】
(式F)に示す関係を満たすことで、混合物のスラリーにおいて副成分原料を主成分原料に更に均一に分散させることができる。
【0060】
[A-2-4]メディアン径の測定
上記のメディアン径は、粒径の頻度の累積が50%となる粒径であって、例えば、レーザ回折・散乱式の粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定することで算出される。また粒度分布は、第1の主成分原料、第2の主成分原料、第1の副成分原料、第2の副成分原料および第4の副成分原料をそれぞれ規定の粒径に適した条件で粉砕したスラリーに対して測定される。
【0061】
[B]電流-電圧非直線抵抗体10の製造方法
以下より、本実施形態の電流-電圧非直線抵抗体10(
図1参照)を作製する方法に関して説明する。
【0062】
図2は、本実施形態の電流-電圧非直線抵抗体10のうち、焼結体20(
図1参照)を作製する方法を示すフロー図である。
【0063】
図2に示すように、本実施形態において、焼結体20を作製する際には、混合物の作製(ST10)、スラリーの作製(ST20)、顆粒の作製(ST30)、成形体の作製(ST40)、焼成(ST50)、および、冷却(ST60)を順次実行する。各工程の詳細について順次説明する。
【0064】
[B-1]混合物の作製(ST10)
焼結体20の作製では、
図2に示すように、まず、混合物の作製を実行する(ST10)。
【0065】
ここでは、上記した割合で主成分原料と副成分原料とを混合することで混合物を得る。
【0066】
主成分原料は、酸化亜鉛の粉体からなる。副成分原料は、少なくとも、第1の副成分原料と第2の副成分原料と第3の副成分原料とを含む。第1の副成分原料は、酸化アンチモン、酸化コバルト、および、酸化ニッケルの粉体からなる。第2の副成分原料は、酸化ビスマス、および、酸化マンガンからなる。第3の副成分原料は、3価元素を組成に含む物質、ホウ素元素(B)を組成に含む物質、および、銀元素(Ag)を組成に含む物質の粉体からなる。
【0067】
混合物は、上記の他に、第4の副成分原料を更に含有してもよい。第4の副成分原料は、イットリウム、ユウロピウム、エリビウム、ツリウム、ガドリニウム、ジスプロジウム、ホルミウム、および、イッテリビウムのうち少なくとも一つの希土類元素Rを組成に含む物質の粉体からなる。
【0068】
[B-2]スラリーの作製(ST20)
つぎに、
図2に示すように、スラリーの作製を実行する(ST20)。
【0069】
ここでは、上記において作製された混合物と、溶媒と、バインダーとを、湿式粉砕装置に投入し、混合物を粉砕することによって、スラリーを作製する。
【0070】
具体的には、混合物の含有割合が、例えば、30重量%以上60重量%以下の範囲になるように、混合物と溶媒とバインダーとが湿式粉砕装置に投入される。溶媒は、例えば、水であり、バインダーは、例えば、ポリビニルアルコールである。バインダーを溶媒に溶解させることで溶液を作製後、その溶液を混合物と共に湿式粉砕装置に投入する。
【0071】
そして、スラリーに含まれる粒子のメディアン径が上記した(式A)、(式B)、(式C)および(式D)に示す関係を満たすように、湿式粉砕装置を用いて、スラリーに含まれる粒子の粉砕を実行する。粉砕は、更に、スラリーに含まれる粒子のメディアン径が、上記した(式E)および(式F)に示す関係を満たすように、実行されることが好ましい。
【0072】
湿式粉砕装置は、例えば、循環方式であって、ジルコニアビーズが収容されたベッセルにおいて、撹拌用ロータで撹拌を行うことによって、粉砕が実行される。ここでは、ジルコニアビーズの直径は、例えば、0.05mm以上0.3mm以下の範囲である。ベッセルにおけるビーズ充填率は、例えば、35%以上95%以下の範囲である。撹拌用ロータの回転数は、例えば、500rpm以上1500rpm以下の範囲であるである。循環流量は、例えば、5L/min以上50L/minの範囲である。スラリーに含まれる粒子のメディアン径は、各条件(ジルコニアビーズの直径等)を変えることで任意に調整可能である。
【0073】
[B-3]顆粒の作製(ST30)
つぎに、
図2に示すように、顆粒の作製を実行する(ST30)。
【0074】
ここでは、スプレードライヤなどの噴霧器を用いて、上記において作製されたスラリーを噴霧することによって造粒を行うことで、顆粒を作製する。つまり、スラリーに含まれる粒子を連結させて大型化させる。噴霧器は、例えば、回転円盤方式、または、加圧ノズル方式である。
【0075】
顆粒は、メディアン径D50_kが45μm以上90μm以下の範囲になるように作製される(45μm≦D50_k≦90μm)。顆粒のメディアン径も同様に、例えば、レーザ回折・散乱式の粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定することで算出される。
【0076】
顆粒のメディアン径が指定の範囲の下限値未満である場合には、顆粒の表面積が大きくなることによって顆粒の流動性が悪化し、顆粒間に形成される三重点の気孔が増加するため、焼結体の気孔率が増加し、電流-電圧非直線抵抗体のエネルギ耐量が低下する場合がある。また、顆粒のメディアン径が指定の範囲の上限値を超える場合には、顆粒間に形成される三重点の気孔サイズが粗大化するため、焼結体の気孔率が増加し、電流-電圧非直線抵抗体のエネルギ耐量が低下する場合がある。
【0077】
[B-4]成形体の作製(ST40)
つぎに、
図2に示すように、成形体の作製を実行する(ST40)。
【0078】
ここでは、成形機を用いて、上記において作製された顆粒を成形することによって、成形体を作製する。成形機は、例えば、油圧式のプレス成形機であって、成形体は、例えば、円柱状である。
【0079】
成形体は、溶剤およびバインダーの除去のために、加熱される。加熱条件は、例えば、加熱温度が350℃以上500℃以下の範囲であって、加熱時間が1時間以上3時間以下の範囲である。
【0080】
[B-5]焼成(ST50)
つぎに、
図2に示すように、焼成を実行する(ST50)。
【0081】
ここでは、上記において作製された成形体を焼成する。焼成条件は、焼成温度が、例えば、900℃以上1300℃以下の範囲であり、焼成時間が、例えば、2時間以上である。焼成は、例えば、トンネル式の連続炉を使用して実行される。焼成は、アルミナやムライトなどで作製された耐火物容器の内部に成形体を設置して行われる。
【0082】
なお、溶剤の除去のための温度(第1温度)から、焼成のための温度(第2温度)へ上昇させる加熱速度は、被焼成物の内部における温度均一性と焼成プロセスリードタイムの観点から、25℃/hour以上100℃/hour以下であることが好ましい。
【0083】
[B-6]冷却(ST60)
つぎに、
図2に示すように、冷却を実行する(ST60)。
【0084】
ここでは、上記において焼成された成形体を冷却することによって、焼結体20(
図1参照)が得られる。なお、焼成のための温度(第2温度)から低下させる冷却速度は、被焼成物の内部における温度均一性と焼成プロセスリードタイムの観点から、100℃/hour以上200℃/hour以下であることが好ましい。
【0085】
[B-7]絶縁層30および電極40の形成
上記のように、焼結体20を作製した後には、絶縁層30および電極40の形成を行う(
図1参照)。
【0086】
絶縁層30の形成では、焼結体20の側面に、例えば、電気絶縁材料であるガラスフリットなどの無機絶縁物を塗布または吹き付ける。その後、300℃以上500℃以下の範囲の温度で、1~5時間、熱処理を行うことで、絶縁層30を形成する。
【0087】
電極40の形成では、焼結体20の上端面および下端面を研磨した後に、その研磨面に導電層を電極40として形成する。導電層の形成は、例えば、溶射によって実行される。
【0088】
これにより、優れたエネルギ耐量を有する電流-電圧非直線抵抗体10が作製される。
【0089】
なお、絶縁層30の形成と電極40の形成とを実行する順序は、特に限定されない。
【実施例0090】
以下より、実施例等について表1から表4を用いて説明する。
【0091】
【0092】
【0093】
表1および表2は、上記した(式A)、(式B)、(式C)および(式D)に示す関係について説明するための表である。表1および表2の「試料No.」欄において、*印を付していない試料は、(式A)、(式B)、(式C)および(式D)に示す関係を満たす場合を示し、*印を付した試料は、(式A)、(式B)、(式C)および(式D)のうち少なくとも一つの関係を満たさない場合を示している。なお、表1および表2に示す試料は、D50(Bi+Mn)が0.4μmである。
【0094】
【0095】
表3は、上記した(式E)に示す関係について説明するための表である。表3の「試料No.」欄において、*印を付していない試料は、(式E)に示す関係を満たす場合を示し、*印を付した試料は、(式E)の関係を満たさない場合を示している。
【0096】
【0097】
表4は、上記した(式F)に示す関係について説明するための表である。表4の「試料No.」欄において、*印を付していない試料は、(式F)に示す関係を満たす場合を示し、*印を付した試料は、(式F)の関係を満たさない場合を示している。
【0098】
[1]試料の作製
表1から表4に示す試料を作製した手順について、順次、説明する。
【0099】
[1-1]試料No.1~60について
[1-1-1]混合物の作製(ST10;
図2参照)
試料No.1~60の試料の作製では、まず、混合物の作製を実行した。混合物の作製では、下記に示す割合で、主成分原料と各副成分原料とを混合した。
【0100】
(主成分原料)
・酸化亜鉛(ZnO):残部
【0101】
(第1の副成分原料)
・酸化アンチモン(Sb2O3):1.5mol%
・酸化コバルト(Co2O3):1.5mol%
・酸化ニッケル(NiO):3.0mol%
【0102】
(第2の副成分原料)
・酸化ビスマス(Bi2O3):0.7mol%
・酸化マンガン(MnO):1.5mol%
【0103】
(第3の副成分原料)
・3価元素を組成に含む物質(ガリウム(Ga)):0.006mol%
・ホウ素元素(B)を組成に含む物質(B2O3):0.015mol%
・銀元素(Ag)を組成に含む物質(Ag2O):0.015mol%
【0104】
[1-1-2]スラリーの作製(ST20;
図2参照)
つぎに、スラリーの作製を実行した。ここでは、上記において作製された混合物と、溶媒と、バインダーとを、循環方式の湿式粉砕装置に投入し、混合物を粉砕することによって、スラリーを作製した。
【0105】
具体的には、溶媒として水を準備し、バインダーとしてポリビニルアルコールなどを準備し、混合物の含有割合が40重量%になるように、混合物と溶媒とバインダーとを湿式粉砕装置のベッセルに投入した。
【0106】
循環方式の湿式粉砕装置では、ジルコニアビーズが収容されたベッセルにおいて撹拌を行うことによって、混合物の粉砕を実行した。ここでは、試料No.1~60のそれぞれにおいて、粉砕条件(ジルコニアビーズの直径、ベッセルにおけるビーズ充填率、撹拌用ロータの回転数、循環流量、および、混合時間)を変えた。これにより、混合物を均一に混合することで、試料No.1~60のそれぞれのスラリーを作製した。
【0107】
レーザ回折・散乱式の粒度分布測定装置を用いて、試料No.1~60のそれぞれのスラリーについて、(式A)に関する値D50(ZnOs)、(式B)に関する値D50(ZnOt)、(式C)に関する値([ZnOs]/[ZnOt])、および、(式B)に関する値(D50(Sb+Co+Ni))を求めた(表1、表2参照)。
【0108】
[1-1-3]顆粒の作製(ST30;
図2参照)
つぎに、顆粒の作製を実行した。ここでは、スプレードライヤを用いて、上記において作製されたスラリーを噴霧することによって、顆粒を作製した。顆粒は、メディアン径D50_kが45μm以上90μm以下の範囲になるように作製された(45μm≦D50_k≦90μm)。
【0109】
[1-1-4]成形体の作製(ST40;
図2参照)
つぎに、成形体の作製を実行した。ここでは、油圧式のプレス成形機を用いて、上記において作製された顆粒を円柱状(直径:40mm、厚さ:40mm)に成形することによって、成形体を作製した。
【0110】
そして、加熱温度が500℃であって加熱時間が2時間である加熱条件で、成形体を加熱することによって、成形体から溶剤およびバインダーを除去した。
【0111】
[1-1-5]焼成(ST50;
図2参照)
つぎに、焼成を実行した。ここでは、トンネル式の連続炉においてムライトで作製された耐火物容器の内部に成形体を設置した。そして、加熱速度が100℃/hourの条件で、焼成温度が1050℃になるように昇温させた後に、3時間、成形体を焼成した。
【0112】
[1-1-6]冷却(ST60;
図2参照)
つぎに、冷却を実行した。ここでは、750℃に温度を低下させた後に、冷却速度が100℃/hourの条件で温度を更に低下させた。これにより、焼結体20(
図1参照)を得た
【0113】
[1-1-7]絶縁層30および電極40の形成
上記のように、焼結体20を作製した後には、絶縁層30および電極40の形成を行った(
図1参照)。
【0114】
絶縁層30の形成では、焼結体20の側面にガラスフリットを塗布した後に、500℃の温度条件で、2時間の熱処理を行った。
【0115】
電極40の形成では、焼結体20の上端面および下端面を研磨した後に、その研磨面にアルミニウムを溶射した。
【0116】
上記のようにして、試料No.1~60の電流-電圧非直線抵抗体10を作製した。
【0117】
[1-2]試料No.61~71について
試料No.61~71の試料は、(式E)に関する値(D50(Bi+Mn))が表3に示す値である点を除き、D50(Sb+Co+Ni)、D50(ZnOs)、D50(ZnOt)、および、[ZnOs]/[ZnOt]が試料No.29の試料と同様になるように、作製された。
【0118】
[1-3]試料No.72~103について
試料No.72~103の作製では、表4に示すように、混合物の作製(ST10;
図2参照)において、第4の副成分原料として、イットリウム、ユウロピウム、エリビウム、ツリウム、ガドリニウム、ジスプロジウム、ホルミウム、および、イッテリビウムのうち少なくとも一つの希土類元素Rを組成に含む物質を添加した。希土類元素Rを組成に含む物質は、表4に示すように、酸化物である。試料No.72~103の試料の作製は、混合物が希土類元素Rの酸化物を含み、(式D)に関する値(D50
(R))が表4に示す値である点を除き、D50
(Sb+Co+Ni)、D50
(ZnOs)、D50
(ZnOt)、および、[ZnOs]/[ZnOt]が、試料No.66の試料と同様になるように作製された。
【0119】
[2]試料の評価方法
試料No.1から103の試料について、表1から表4に示すように、バリスタ電圧(V1mA)と、エネルギ耐量(破壊平均エネルギ(J/cm3)とを評価した。
【0120】
[2-1]バリスタ電圧(V1mA)
バリスタ電圧(V1mA)の測定は、JEC0202-1994に準じて実行された。具体的には、1mAの商用周波の電流を試料に通電したときに測定される電圧を、バリスタ電圧(V1mA)として求めた。
【0121】
[2-2]エネルギ耐量(破壊平均エネルギ(J/cm3)
エネルギ耐量の評価は、4/10μsのインパルス電流を試料に印加するエネルギ耐量試験によって実行した。エネルギ耐量試験では、試料が破壊するまで、400J/cm3から約50J/cm3ずつエネルギを上げて、インパルス電流の印加を行った。印加間は、室温になるように、冷却を行った。ここでは、10ピースの試料のそれぞれについてエネルギ耐量試験を行い、複数のエネルギ耐量試験で得られた破壊エネルギ値の平均値を「破壊平均エネルギ」として求めた。なお、エネルギ耐量は、破壊エネルギ値が大きいほど、優れていることを意味する。
【0122】
[3]評価結果
[3-1]試料No.1~60について
図3は、D50
(Sb+Co+Ni)およびD50
(ZnOs)と、破壊エネルギとの関係を示す図である。
図4は、D50
(ZnOt)と破壊エネルギとの関係を示す図である。
図5は、[ZnOs]/[ZnOt]
)と破壊エネルギとの関係を示す図である。
図3から
図5のそれぞれにおいては、表1または表2中の「試料No.」を示している。
【0123】
図3から
図5、および、表1および表2の結果から判るように、試料No.1~60において、(式A)および(式B)に示す関係を満たす場合(*印を付していない試料)には、破壊平均エネルギが750J/cm
3以上である。この結果から、(式A)、(式B)(式C)および(式D)に示す関係を満たす電流-電圧非直線抵抗体は、優れたエネルギ耐量を備え、小型化が可能であることが判る。
【0124】
D50(ZnOs)≦0.4μm ・・・(式A)
0.5μm≦D50(ZnOt)≦0.7μm ・・・(式B)
0.005≦[ZnOs]/[ZnOt]≦0.1 ・・・(式C)
D50(Sb+Co+Ni)≦0.4μm ・・・(式D)
【0125】
[3-2]試料No.61~71について
表3の結果から判るように、試料No.61~71において、(式E)に示す関係を更に満たす場合(*印を付していない試料)には、破壊平均エネルギが850J/cm3以上である。この結果から、(式E)に示す関係を更に満たす電流-電圧非直線抵抗体は、優れたエネルギ耐量を備え、より小型化が可能であることが判る。
【0126】
0.5μm≦D50(Bi+Mn)≦0.7μm ・・・(式E)
【0127】
[3-3]試料No.72~103について
表4の結果から判るように、試料No.72~103において、(式F)に示す関係を更に満たす場合(*印を付していない試料)には、破壊平均エネルギが850J/cm3以上であると共に、バリスタ電圧(V1mA)が900V/mm以上である。この結果から、(式F)に示す関係を更に満たす電流-電圧非直線抵抗体は、優れたエネルギ耐量を備え、より小型化が可能であることが判る。
【0128】
D50(R)≦0.4μm ・・・(式F)
【0129】
<その他>
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。