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特開2024-157220酸化セリウムの製造方法、酸化セリウム及びその分散液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024157220
(43)【公開日】2024-11-07
(54)【発明の名称】酸化セリウムの製造方法、酸化セリウム及びその分散液
(51)【国際特許分類】
   C01F 17/235 20200101AFI20241030BHJP
【FI】
C01F17/235
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071448
(22)【出願日】2023-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】595111804
【氏名又は名称】エム・テクニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】榎村 眞一
(72)【発明者】
【氏名】二宮 美緒
(72)【発明者】
【氏名】吉住 真衣
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AB06
4G076AB07
4G076BA13
4G076BB08
4G076BC02
4G076BE11
4G076CA02
4G076CA26
4G076DA30
(57)【要約】
【課題】複雑な表面処理剤又は処理操作を用いずに簡便な表面処理によって、溶媒、分散剤又は樹脂等に対する良好な分散性を有する酸化セリウム粒子を製造する方法を提供すること。
【解決手段】セリウム元素の酸化数の平均値が3以上4未満である還元酸化セリウム粒子を準備する工程、及び前記還元酸化セリウム粒子の表面を酸処理する工程を含む、酸処理酸化セリウム粒子の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリウム元素の酸化数の平均値が3以上4未満である還元酸化セリウム粒子を準備する工程、及び
前記還元酸化セリウム粒子の表面を酸処理する工程
を含む、酸処理酸化セリウム粒子の製造方法。
【請求項2】
前記還元酸化セリウム粒子を準備する工程において、原料の酸化セリウムを還元することで前記還元酸化セリウム粒子が調製される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記還元酸化セリウム粒子を準備する工程において、還元剤を用いて原料の酸化セリウムを還元することで前記還元酸化セリウム粒子が調製される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記還元剤がヒドラジンである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記酸処理工程で用いられる酸がカルボン酸又は硝酸である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記酸処理酸化セリウム粒子の粒子径が1nm~100nmである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6に記載の方法で酸処理酸化セリウム粒子を製造し、
得られた酸処理酸化セリウム粒子を溶媒、分散剤及び樹脂の少なくとも一つを含む分散媒中に分散することで、酸処理酸化セリウム粒子の分散液を製造する方法。
【請求項8】
吸光度換算の赤外吸収スペクトルにおいて、400cm-1~500cm-1の吸光度の最大値を1とした時に283cm-1における吸光度が0.490より小さい、酸化セリウム粒子。
【請求項9】
吸光度換算の赤外吸収スペクトルにおいて、400cm-1~500cm-1の吸光度の最大値を1とした時に663cm-1における吸光度が0.191より大きく、610cm-1における吸光度が0.264より大きい、酸化セリウム粒子。
【請求項10】
吸光度換算の赤外吸収スペクトルにおいて、ピーク分離を行った際に320cm-1より低波数側に中心を持つピーク面積の和が1000cm-1~50cm-1の範囲における全ピーク面積の和に占める割合が23.0%より低い、酸化セリウム粒子。
【請求項11】
吸光度換算の赤外吸収スペクトルにおいて、ピーク分離を行った際に700cm-1~600cm-1に中心を持つピーク面積の和が1000cm-1~50cm-1の範囲における全ピーク面積の和に占める割合が4.7%より高い、酸化セリウム粒子。
【請求項12】
吸光度換算の紫外可視近赤外反射スペクトルにおいて、200nmの吸光度を1とした時に650nmにおける吸光度が0.055より大きい、酸化セリウム粒子。
【請求項13】
吸光度換算の紫外可視近赤外反射スペクトルにおいて、550nmより長波長側に中心を持つピーク面積の和が190nm~1200nmの範囲における全ピーク面積の和に占める割合が4.3%より高い、酸化セリウム粒子。
【請求項14】
平均粒子径が1nm~100nmである、請求項8~13のいずれかに記載の酸化セリウム粒子。
【請求項15】
溶媒、分散剤及び樹脂の少なくとも一つを含む分散媒中に、請求項8~13のいずれかに記載の酸化セリウム粒子を含む、酸化セリウム粒子の分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化セリウムの製造方法、酸化セリウム及びその分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化セリウム(IV)は、化学組成をCeOで表される酸化物の一種であり、古くからCMP(Chemical Mechanical Polishing)スラリーとしてガラスや半導体の研磨等に広く使用されている材料である。物性面では紫外線吸収能や高い酸素吸蔵放出能を持ち、その特異な性質から、近年では研磨剤のみならず、化粧品等の紫外線吸収剤や光高屈折率材、燃料電池用固体電解質、自動車の排気ガスを分解する触媒担体等新たな用途への利用が進められている。
【0003】
しかし、酸化セリウムナノ粒子の無極性溶媒への分散はあまり知られておらず、報告された分散液は、複雑な処理を必要とし、又は不純物を含有するとの問題があった。
【0004】
特許文献1に、幅広い範囲の溶媒、モノマーへの分散性に優れた酸化セリウム(IV)ナノ粒子の製造方法が開示されている。具体的には、セリウム(IV)イオンとカルボン酸を含む塩基性水溶液を用いて水熱合成することでカルボン酸を含有する酸化セリウム(IV)を得ている。この場合、粒子に含有するカルボン酸が20~30重量%と多く、長鎖カルボン酸を必要としている。
【0005】
特許文献2に、酸化セリウムの一次粒子が球状に集合した二次粒子からなるコア部分と、前記二次粒子表面にシェル部分となる高分子の層が存在する球状単分散コアシェル型酸化セリウムポリマーハイブリッドナノ粒子が、シラン系カップリング剤等で表面修飾された表面改質コアシェル型ナノ粒子が開示されている。具体的には、エチレングリコール中でセリウム(III)イオンとポリビニルピロリドンを加熱して得た粒子を酢酸処理後、シラン処理を行っている。この場合、分散液には当然、添加剤であるポリビニルヒドリドンと表面処理剤であるシランを不純物として含有する。また、特許文献2の表面改質コアシェル型ナノ粒子は多成分の複合体であり、酸化セリウム粒子とは異なる。
【0006】
以上のように、従来の技術では酸化セリウム粒子の分散液を得る為に、各種の複雑な表面処理剤又は処理操作を必要としていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018―145057号公報
【特許文献2】特開2017―20020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、従来の技術で必要とされた各種の複雑な表面処理剤又は処理操作を用いずに簡便な表面処理によって、溶媒、分散剤又は樹脂等に対する良好な分散性を有する酸化セリウム粒子を製造する方法を提供することにある。更に、酸化セリウム粒子、及び良好に分散された酸化セリウム粒子の分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、酸化セリウムナノ粒子の分散液に上記問題が生じる理由が、酸化セリウム(IV)を含む金属酸化物はその表面が水酸基で覆われていることに起因すると考え、表面を適切に処理又は修飾することで分散性を改善できるのではないかと考えた。
本発明者らは上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、セリウム元素の酸化数の平均値が3以上4未満である還元酸化セリウム粒子に対して、単に酸処理を行うだけである簡便な表面処理で、意外にも、溶媒、分散剤又は樹脂等に対する良好な分散性を有する酸化セリウム粒子が得られることを見出して、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
[1] セリウム元素の酸化数の平均値が3以上4未満である還元酸化セリウム粒子を準備する工程、及び
前記還元酸化セリウム粒子の表面を酸処理する工程
を含む、酸処理酸化セリウム粒子の製造方法。
[2] 前記還元酸化セリウム粒子を準備する工程において、原料の酸化セリウムを還元することで前記還元酸化セリウム粒子が調製される、[1]に記載の製造方法。
[3] 前記還元酸化セリウム粒子を準備する工程において、還元剤を用いて原料の酸化セリウムを還元することで前記還元酸化セリウム粒子が調製される、[1]に記載の製造方法。
[4] 前記還元剤がヒドラジンである、請求項3に記載の製造方法。
[5] 前記酸処理工程で用いられる酸がカルボン酸又は硝酸である、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] 前記酸処理酸化セリウム粒子の粒子径が1nm~100nmである、[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7] [1]~[6]に記載の方法で酸処理酸化セリウム粒子を製造し、
得られた酸処理酸化セリウム粒子を溶媒、分散剤及び樹脂の少なくとも一つを含む分散媒中に分散することで、酸処理酸化セリウム粒子の分散液を製造する方法。
【0011】
[8] 吸光度換算の赤外吸収スペクトルにおいて、400cm-1~500cm-1の吸光度の最大値を1とした時に283cm-1における吸光度が0.490より小さい、酸化セリウム粒子。
[9] 吸光度換算の赤外吸収スペクトルにおいて、400cm-1~500cm-1の吸光度の最大値を1とした時に663cm-1における吸光度が0.191より大きく、610cm-1における吸光度が0.264より大きい、酸化セリウム粒子。
[10] 吸光度換算の赤外吸収スペクトルにおいて、ピーク分離を行った際に320cm-1より低波数側に中心を持つピーク面積の和が1000cm-1~50cm-1の範囲における全ピーク面積の和に占める割合が23.0%より低い、酸化セリウム粒子。
[11] 吸光度換算の赤外吸収スペクトルにおいて、ピーク分離を行った際に700cm-1~600cm-1に中心を持つピーク面積の和が1000cm-1~50cm-1の範囲における全ピーク面積の和に占める割合が4.7%より高い、酸化セリウム粒子。
【0012】
[12] 吸光度換算の紫外可視近赤外反射スペクトルにおいて、200nmの吸光度を1とした時に650nmにおける吸光度が0.055より大きい、酸化セリウム粒子。
[13] 吸光度換算の紫外可視近赤外反射スペクトルにおいて、550nmより長波長側に中心を持つピーク面積の和が190nm~1200nmの範囲における全ピーク面積の和に占める割合が4.3%より高い、酸化セリウム粒子。
[14] 平均粒子径が1nm~100nmである、[8]~[13]のいずれかに記載の酸化セリウム粒子。
[15] 溶媒、分散剤及び樹脂の少なくとも一つを含む分散媒中に、[8]~[14]のいずれかに記載の酸化セリウム粒子を含む、酸化セリウム粒子の分散液。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、従来の技術で必要とされた各種の複雑な表面処理剤又は処理操作を用いずに簡便な表面処理によって、溶媒、分散剤又は樹脂等に対する良好な分散性を有する酸化セリウム粒子を製造することができる。更に、酸化セリウム粒子、及び良好に分散された酸化セリウム粒子の分散液が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1の酸処理酸化セリウム粒子のTEM写真である。
図2】参考例1の酸化セリウム(IV)粒子(未処理)と実施例1の酸処理酸化セリウム粒子のIR測定結果の吸光度換算である。
図3図2に示すIR測定結果の1800~1200cm-1の拡大図である。
図4図2に示すIR測定結果の3800~2400cm-1の拡大図である。
図5】市販試薬、参考例1の酸化セリウム(IV)粒子(未処理)、実施例1の酸処理酸化セリウム粒子及び比較例1の酸化セリウム粒子のIR測定結果の吸光度換算である。
図6】実施例1の酸処理酸化セリウム粒子のIR測定結果の吸光度換算及びその波形分離結果である。
図7】比較例1の酸化セリウム粒子のIR測定結果の吸光度換算及びその波形分離結果である。
図8】参考例1の酸化セリウム(IV)粒子(未処理)、実施例1の酸処理酸化セリウム粒子及び比較例1の酸化セリウム粒子のUV-vis-NIR測定結果である。
図9】実施例1の酸処理酸化セリウム粒子のUV-vis-NIR測定結果及びその波形分離結果である。
図10】比較例1の酸化セリウム粒子のUV-vis-NIR測定結果及びその波形分離結果である。
図11】参考例1の紫色ウェットケーキ、淡黄色ウェットケーキ、還元酸化セリウム粒子を含むウェットケーキの拡散反射測定結果の吸光度換算である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態の一例を取り上げて説明する。
1.酸処理酸化セリウム粒子の製造方法
本発明の製造方法は、セリウム元素の酸化数の平均値が3以上4未満である還元酸化セリウム粒子を準備する工程、及び前記還元酸化セリウム粒子の表面を酸処理する工程を含む、酸処理酸化セリウム粒子の製造方法である。
【0016】
(酸処理酸化セリウム粒子)
本発明の製造方法で製造される酸処理酸化セリウム粒子(以下、単に酸化セリウム粒子と呼ぶことがある)は、特にその形状及び大きさに限定されない。例えば、ナノ粒子やマイクロ粒子が例として挙げられるが、酸処理酸化セリウム粒子を担持したセラミクス材料等でもよい。分散液を得ることを目的とする場合は、ナノ粒子を用いることが望ましい。本発明の製造方法で製造される酸処理酸化セリウム粒子の平均粒子径は、酸処理酸化セリウムの分散液の透明性のために、好ましくは1nm~100nmであり、より好ましくは1nm~50nmであり、更に好ましくは1nm~20nmであり、更により好ましくは1nm~10nmである。本発明において、粒子径とはTEM観察で得られる粒子の最短径と最長径の相加平均値を指す。
【0017】
酸処理酸化セリウムは、好ましくは酸化セリウム(IV)であり、大気下で酸化されたものが挙げられる。
更に、本発明における酸化セリウムは、酸化セリウム以外の物質との複合体であってもよい。一例として、金、白金、パラジウム等の金属を担持した酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素等の酸化物との複合物質等が挙げられる。水酸化セリウムや炭酸セリウム等の他のセリウム化合物との混合物であってもよい。
【0018】
本発明の製造方法で製造される酸処理酸化セリウム粒子は、好ましくは吸光度換算の赤外吸収スペクトルにおいて、400cm-1~500cm-1の吸光度の最大値を1とした時に283cm-1における吸光度が0.490より小さい。また好ましくは、吸光度換算の赤外吸収スペクトルにおいて、400cm-1~500cm-1の吸光度の最大値を1とした時に663cm-1における吸光度が0.191より大きく、610cm-1における吸光度が0.264より大きい。また好ましくは、吸光度換算の赤外吸収スペクトルにおいて、ピーク分離を行った際に320cm-1より低波数側に中心を持つピーク面積の和が1000cm-1~50cm-1の範囲における全ピーク面積の和に占める割合が23.0%より低い。また好ましくは、吸光度換算の赤外吸収スペクトルにおいて、ピーク分離を行った際に700cm-1~600cm-1に中心を持つピーク面積の和が1000cm-1~50cm-1の範囲における全ピーク面積の和に占める割合が4.7%より高い。
【0019】
本発明の製造方法で製造される酸処理酸化セリウム粒子は、また好ましくは吸光度換算の紫外可視近赤外反射スペクトルにおいて、200nmの吸光度を1とした時に650nmにおける吸光度が0.055より大きい。また好ましくは吸光度換算の紫外可視近赤外反射スペクトルにおいて、550nmより長波長側に中心を持つピーク面積の和が190nm~1200nmの範囲における全ピーク面積の和に占める割合が4.3%より高い。
【0020】
<還元酸化セリウム粒子を準備する工程>
(還元酸化セリウム粒子)
本発明の製造方法で用いられる還元酸化セリウムは、例えばセリウム元素の酸化数の平均値が3以上4未満である還元酸化セリウム粒子を言い、CeO2-n〔式中、nは0を超え、0.5以下である〕の化学式で表すこともできる。nは、好ましくは0.01~0.5が挙げられ、より好ましくは0.05~0.5が挙げられ、更に好ましくは0.1~0.5が挙げられ、更により好ましくは0.2~0.5が挙げられる。
【0021】
還元酸化セリウム粒子及び原料の酸化セリウム粒子は公知の任意の方法で調製できる。具体的には天然より産出する酸化セリウムを用いてもよく、化学的に合成してもよい。化学的に合成する場合は、一例として水酸化セリウムの焼成や、水熱合成等が挙げられる。水熱合成を行う場合は流体処理装置(特開2011-189348号公報に記載の装置)を用いて行うことが大量生産の観点から望ましい。市販の酸化セリウム粒子を用いても構わない。
【0022】
還元酸化セリウム粒子は、好ましくは原料の酸化セリウムを還元することで調製される。
原料の酸化セリウムは、酸化セリウム(IV)に限らず、還元酸化セリウム粒子のセリウム元素の酸化数の平均値よりも高いセリウム元素の酸化数の平均値を有する酸化セリウムであればよい。
還元酸化セリウム粒子は、好ましくは還元剤を用いて原料の酸化セリウムを還元することで調製される。
【0023】
(還元剤)
本発明において、還元剤の種類は特に限定されず、例えば、公知の還元剤を広く使用することができる。一例としては水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化アルミニウムリチウム、ボラン錯体、ジボラン、水素、金属単体、スズ系化合物、アスコルビン酸、ヒドラジン及びその塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記の還元剤はそれぞれ単独で使用しても良く、又は複数を併用しても良い。反応後に窒素ガスに分解され、除去する工程が必要ないと言う点でヒドラジンを用いることが好ましい。ヒドラジンには無水の物と水和物とが存在するが、いずれであってもよく、溶液であってもよい。
【0024】
本発明において還元酸化セリウムとは前記の通り、セリウムを主体とする酸化物であってそのセリウム元素の平均酸化数が3以上4未満である酸化物を意味する。一例として酸素格子欠損を有する還元酸化セリウムが挙げられる。酸化セリウムは不定比化合物へ可逆に変化することが知られており、酸素分圧を低く保つ、還元剤で処理する等の方法で酸化セリウムを還元する、三価のセリウムイオンを用いて酸化セリウムの合成を行い酸化される前に用いる等の方法で還元酸化セリウムが得られる。また、平均酸化数が4よりも小さい酸化セリウムを還元処理し、平均酸化数をよりも小さくすることで調製すること、すなわち還元酸化セリウムを原料としてより還元された状態の還元酸化セリウムを調製することもできる。酸化セリウム中のセリウム元素の価数の確認方法についてはX線光電子分光法(XPS)を含む公知の方法を用いることができるが、最も簡便な方法としては色彩の変化を観察することが挙げられる。酸化セリウム(IV)は白色ないし淡黄色であることが知られており、酸素格子欠陥を有する酸化セリウムの不定比化合物(還元酸化セリウム)は青色から黒色をしていることが知られている。例えば、発明者らが本発明の実施例で用いた還元酸化セリウム粒子は三価のセリウムイオンを用いて紫色の還元酸化セリウムとして得られ、大気下で酸化することで淡黄色の酸化セリウム(IV)となり、還元剤で処理することにより再び紫色に変化した。当然、これらの変化は可視光領域の光学スペクトルを観察することで明瞭に観察することができる。
【0025】
本発明において原料の酸化セリウムとは、前記の通り、セリウムを主体とする酸化物であって、還元酸化セリウムを調製する為に用いられる酸化セリウムを意味する。そのセリウム元素の平均酸化数は4であってもよく、4より小さくてもよい。
【0026】
<還元酸化セリウム粒子の表面を酸処理する工程>
(酸処理)
上記の工程に続いて、還元酸化セリウム粒子の表面が酸処理される。
酸処理とは、酸性物質を処理される物質と接触させることを言い、酸性物質の状態を限定しない。酸処理の一例として粒子状の被処理物質を酸性液体中で撹拌処理することが挙げられるが、酸性気体を被処理物質と接触させてもよいし、酸性固体と被処理物質を接触させてもよい。
酸処理に用いる酸性物質の種類は、特に限定されず、例えば、公知の酸性物質を広く使用することができる。一例としては塩化水素、塩酸等のハロゲン化水素及びその溶液、硝酸、二酸化硫黄、三酸化硫黄、硫酸、硫化水素、ほう酸、リン酸、炭酸、フッ化水素酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、クエン酸、シュウ酸、安息香酸、ピルビン酸、トリフルオロ酢酸等のカルボン酸類、スルホン酸類、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、シリカ、アルミナ等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。好ましい酸としては、例えばカルボン酸、硝酸等が挙げられる。上記の酸性物質はそれぞれ単独で使用しても良く、又は複数を併用しても良い。酢酸や硝酸を用いることが好ましい。リン酸や硫酸等は共役塩基が酸化セリウム表面に吸着されるため、好ましくない(比較例2及び3)。
【0027】
還元酸化セリウム粒子を準備する工程と、還元酸化セリウム粒子の表面を酸処理する工程を同時に行うこともできる。また、その際、還元酸化セリウム粒子の表面を酸処理する工程を先行して開始することもできる。
【0028】
本発明の酸処理酸化セリウム粒子の製造方法によって、表面が改質されて、溶媒、分散剤又は樹脂等に対する良好な分散性を有する酸化セリウム粒子を簡便に得ることができる。
【0029】
2.酸化セリウム粒子
本発明の酸化セリウム粒子は、上記の酸処理酸化セリウムに対応する。
本発明の酸化セリウムについては、上記の通りである。
【0030】
3.酸化セリウム粒子の分散液
本発明の酸化セリウム粒子の分散液は、溶媒、分散剤及び樹脂の少なくとも一つを含む分散媒中に、本発明の酸化セリウム粒子を含む、酸化セリウム粒子の分散液である。
本発明の酸化セリウム粒子を溶媒、分散剤又は樹脂等に添加し、分散させることで、分散液を作製することができる。使用する酸化セリウムの粒子径によっては分散剤なしでも分散し、分散剤を必要とする場合でも使用量を大幅に低減することができる。また、必要に応じて樹脂のみへ分散することもできる。本発明において、分散媒に用いる溶媒や樹脂の種類は特に限定されず、例えば、公知の溶媒や樹脂を広く使用することができる。例えば、溶媒としては、水や有機溶媒、又はそれらの複数からなる混合溶媒が挙げられる。前記水としては、水道水やイオン交換水、純水や超純水、RO水等が挙げられ、有機溶媒としては、エタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール系溶媒、アセトン、2-ブタノン等のケトン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、トリエチルアミン、エチレンジアミン等のアミン系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、ヘキサン、流動パラフィン等の脂肪族炭化水素系溶媒、アセトニトリル等のニトリル系溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、ジクロロメタン、四塩化炭素等のハロゲン系溶媒、酢酸エチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸系溶媒、二硫化炭素、N-メチル-2-ピロリドン等の非プロトン性の極性溶媒、イオン性液体、スルホン酸化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
本発明の酸化セリウム粒子の分散液は、必要に応じて分散剤を加えることができる。分散液に用いる分散剤の種類は特に限定されず、例えば、公知の界面活性剤を広く使用することができる。例えばカチオン系、アニオン系、ノニオン系、両性、シリコーン系、フッ素系等の界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、リン酸エステル型アニオン系界面活性剤を用いるのが好ましい。リン酸エステル型アニオン系面活性剤としては、リン酸モノドデシル塩、リン酸ジドデシル塩、リン酸トリドデシル塩等のリン酸アルキルエーテル塩、リン酸ポリオキシエチレンラウリルエーテル塩、リン酸ポリオキシエチレントリデシルエーテル塩等のリン酸ポリオキシエチレンアルキルエーテル塩等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【実施例0032】
以下、本発明について実施例を用いて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
(参考例1)
高速回転式分散乳化装置であるクレアミックス(製品名:CLM-0.8S、エム・テクニック製)を用いて、酸化セリウム原料液と酸化セリウム析出溶液のそれぞれを調製した。
具体的には、硝酸セリウム(III)・6水和物(和光純薬製、特級試薬)0.5質量部、硝酸二アンモニウムセリウム(IV)(キシダ化学製、特級試薬)1.9質量部、純水97.6質量部を混合し、調製温度50℃にて、クレアミックスを用いてローターの回転数20000rpmにて30分間撹拌することにより均質に混合し、酸化セリウム原料液を調製した。また、水酸化ナトリウム(関東化学製、特級試薬)2.77質量部と純水97.23質量部とを混合し、調製温度45℃、クレアミックスを用いてローターの回転数15000rpmにて30分間撹拌することにより均質に混合し、酸化セリウム析出溶液を調製した。
【0034】
次に、調製した調製した酸化セリウム原料液と酸化セリウム析出溶液とを、流体処理装置(特開2011-189348号公報に記載の装置)にて混合した。具体的には、流体処理装置に第1の被処理流体(A液)として酸化セリウム原料液を毎分150mL、導入温度122℃で処理用面間に導入し、処理用部を回転数2250rpmで運転しながら、流体処理装置に第2の被処理流体(B液)として酸化セリウム析出溶液を毎分37.5mL、導入温度78℃で処理用面間に導入し薄膜流体中で混合した。酸化セリウム粒子が処理用面間で析出され、酸化セリウム粒子を含む吐出液を流体処理装置の処理用面間から吐出させた。酸化セリウム粒子を含む吐出液を、ベッセルを介してビーカーに回収した。
【0035】
ビーカーに回収した酸化セリウム粒子を含む吐出液から、ウェットケーキを作製した。作製方法は公知の方法に従って行った。具体的には酸化セリウム粒子を含む吐出液を遠心分離にて回収し、酸化セリウム粒子を沈降させて上澄み液を除去し、その後、純水(pH6.34、導電率 0.86μS/cm)による洗浄と遠心分離による沈降とを繰り返し2回行うことで酸化セリウム粒子を洗浄し、紫色ウェットケーキとした。酸化セリウム(IV)は白色ないし淡黄色であり、紫色であるのは酸素格子欠陥を有する不定比化合物(還元酸化セリウム)である。すなわち、ここで得られた紫色ウェットケーキに含まれる酸化セリウム粒子は、セリウム元素の酸化数の平均値が3以上4未満である還元酸化セリウム粒子であった。
上記の紫色ウェットケーキに約4倍重量の純水を加えて大気下で48時間撹拌し、遠心分離にて回収し、原料の酸化セリウム(IV)粒子の淡黄色ウェットケーキを得た。この色の変化は酸化セリウム粒子が大気中の酸素によって酸化されたためである。すなわち、ここで得られた淡黄色ウェットケーキに含まれる酸化セリウム粒子は、酸化セリウム(IV)粒子であった。
【0036】
(TEM観察用試料作製)
参考例1で得られた原料の酸化セリウム(IV)粒子のウェットケーキの一部をメタノールに分散させた。得られた希釈液を支持膜付きグリッドに滴下して乾燥させて、TEM観察用試料とした。
【0037】
(透過型電子顕微鏡)
透過型電子顕微鏡(TEM)観察には、透過型電子顕微鏡、JEM-2100(JEOL製)を用いた。観察条件としては、加速電圧を200kV、観察倍率を1万倍から80万倍とした。参考例1で得られた原料の酸化セリウム(IV)粒子の100個の粒子について粒子径を測定した結果、その平均値は6.0nmであった。
【0038】
(X線回折測定)
X線回折(XRD)測定には、粉末X線回折測定装置EMPYREAN(Malvern Panalytical製)を使用した。測定条件は、測定範囲:10~100[°2Theta] Cu対陰極、管電圧45kV、管電流40mA、走査速度0.3°/minとした。
サンプルは参考例1で得られた原料の酸化セリウム(IV)粒子のウェットケーキを真空乾燥後、粉砕したものを用いた。XRD測定を行い、その回折パターンから酸化セリウム(IV)であることを確認した。28.5°付近のピークを使用して、シリコン多結晶板の測定結果を用いたシェラーの式より結晶子径を5.7nmと算出した。
【0039】
(参考例2)
バッチ法による水熱合成で酸化セリウム粒子を作製した。作製方法は公知の方法に従い行ったもので、具体的には、硝酸セリウム(III)・6水和物8gを熱湯92gに溶かし、溶液とした。80℃に設定したホットプレート上で撹拌しながら5分かけて20wt%水酸化ナトリウム(関東化学製、特級試薬)水溶液12.8gを加えた。ホットプレート上で30分撹拌した後、密閉容器に移し、100℃に設定した炉の中で2時間静置した。遠心分離にて回収し、酸化セリウム粒子を沈降させて上澄み液を除去し、その後、純水による洗浄と遠心分離による沈降とを繰り返し2回行うことで酸化セリウム粒子を洗浄し、青紫色ウェットケーキを得た。ここで得られた青紫色ウェットケーキに含まれる酸化セリウム粒子は、還元酸化セリウム粒子であった。前記の手順でTEM観察を行い、100個の粒子について粒子径を測定した結果の平均値は19.4nmであった。
【0040】
(実施例1)
ガラス製バイアル瓶中で参考例1の酸化セリウム(IV)粒子を含む淡黄色ウェットケーキ10gを純水50gに分散させ、ヒドラジン一水和物(関東化学製、特級試薬、以下同様)を1g加えた。80℃に設定したホットプレート上で3時間スターラー撹拌し、還元酸化セリウム粒子を得た。
得られた還元酸化セリウム粒子を含むスラリーに、酢酸(関東化学製、特級試薬、以下同様)10gを加えた。更に80℃で16時間スターラー撹拌した。処理液は淡黄色不透明であった。処理液を遠心分離し、上澄みを捨て、酸処理酸化セリウム粒子を含む淡黄色のペーストを得た。前記の手順でTEM観察を行った。酸化セリウム粒子のTEM写真を図1に示す。平均粒子径に変化は見られなかった。
【0041】
(実施例2)
ガラス製バイアル瓶中で参考例1の酸化セリウム(IV)粒子を含む淡黄色ウェットケーキ2gを純水40gに分散させ、ヒドラジン一水和物を1g加えた。80℃に設定したホットプレート上で3時間スターラー撹拌し、還元酸化セリウム粒子を得た。
得られた還元酸化セリウム粒子を含むスラリーに、イソ酪酸(関東化学製、特級試薬)10gを加えた。更に80℃で16時間スターラー撹拌した。処理液は黄色不透明であった。処理液を遠心分離し、上澄みを捨て、酸処理酸化セリウム粒子を含む黄色のペーストを得た。
【0042】
(実施例3)
ガラス製バイアル瓶中で参考例1の酸化セリウム(IV)粒子を含む淡黄色ウェットケーキ2gを純水40gに分散させ、ヒドラジン一水和物を1g加えた。80℃に設定したホットプレート上で3時間スターラー撹拌し、還元酸化セリウム粒子を得た。
得られた還元酸化セリウム粒子を含むスラリーに、硝酸(キシダ化学製、特級試薬)10gを加えた。更に80℃で16時間スターラー撹拌した。処理液は白色不透明であった。処理液を遠心分離し、上澄みを捨て、酸処理酸化セリウム粒子を含む白色のペーストを得た。
【0043】
(実施例4)
ガラス製バイアル瓶中で参考例1の還元酸化セリウム粒子を含む紫色ウェットケーキ2gを20wt%酢酸水溶液50gに分散させた。80℃に設定したホットプレート上で16時間スターラー撹拌した。処理液は淡黄色半透明であった。処理液を遠心分離し、上澄みを捨て、酸処理酸化セリウム粒子を含む淡黄色の透明ペーストを得た。
【0044】
(実施例5)
ガラス製バイアル瓶中で参考例1の酸化セリウム(IV)粒子を含む淡黄色ウェットケーキ2gを純水40gに分散させ、ヒドラジン一水和物1gと酢酸10gを加えた。80℃に設定したホットプレート上で24時間スターラー撹拌した。
処理液は淡黄色不透明であった。処理液を遠心分離し、上澄みを捨て、酸処理酸化セリウム粒子を含む淡黄色のペーストを得た。
【0045】
(実施例6)
ガラス製バイアル瓶中で参考例2の還元酸化セリウム粒子を含む青紫色ウェットケーキ2gを純水20gに分散させ、ヒドラジン一水和物を2g加えた。80℃に設定したホットプレート上で3時間スターラー撹拌し、より還元された還元酸化セリウム粒子を得た。
得られた還元酸化セリウム粒子を含むスラリーに、酢酸20gを加えた。更に80℃で16時間スターラー撹拌した。処理液は白色不透明であった。処理液を遠心分離し、上澄みを捨て、酸処理酸化セリウム粒子を含む白色のペーストを得た。
【0046】
(比較例1)
ガラス製バイアル瓶中で参考例1の酸化セリウム(IV)粒子を含む淡黄色ウェットケーキ10gを純水50gに分散させ、80℃に設定したホットプレート上で3時間スターラー撹拌した後、酢酸10gを加えた。更に80℃で16時間スターラー撹拌した。処理液は淡黄色透明であった。処理液を遠心分離し、上澄みを捨て、酸化セリウム粒子を含む淡黄色のペーストを得た。
【0047】
(比較例2)
ガラス製バイアル瓶中で参考例1の酸化セリウム(IV)粒子を含む淡黄色ウェットケーキ2gを純水40gに分散させ、ヒドラジン一水和物を1g加えた。80℃に設定したホットプレート上で3時間スターラー撹拌し、還元酸化セリウム粒子を得た。
得られた還元酸化セリウム粒子を含むスラリーに、リン酸(関東化学製、特級試薬)10gを加えた。更に80℃で16時間スターラー撹拌した。処理液は白色不透明であった。処理液を遠心分離し、上澄みを捨て、酸化セリウム粒子を含む白色のペーストを得た。
【0048】
(比較例3)
ガラス製バイアル瓶中で参考例1の酸化セリウム(IV)粒子を含む淡黄色ウェットケーキ2gを純水40gに分散させ、ヒドラジン一水和物を1g加えた。80℃に設定したホットプレート上で3時間スターラー撹拌し、還元酸化セリウム粒子を得た。
得られた還元酸化セリウム粒子を含むスラリーに、硫酸(キシダ化学製、特級試薬)10gを加えた。更に80℃で16時間スターラー撹拌した。処理液は淡黄色不透明であった。処理液を遠心分離し、上澄みを捨て、酸化セリウム粒子を含む淡黄色のペーストを得た。
【0049】
(比較例4)
ガラス製バイアル瓶中で参考例1の酸化セリウム(IV)粒子を含む淡黄色ウェットケーキ2gを純水40gに分散させ、ヒドラジン一水和物を1g加えた。80℃に設定したホットプレート上で3時間スターラー撹拌し、還元酸化セリウム粒子を得た。
得られた還元酸化セリウム粒子を含むスラリーに、純水10gを加えた。更に80℃で16時間スターラー撹拌した。処理液は紫色不透明であった。処理液を遠心分離し、上澄みを捨て、酸化セリウム粒子を含む紫色ペーストを得た。
【0050】
(比較例5)
ガラス製バイアル瓶中で参考例1の酸化セリウム(IV)粒子を含む淡黄色ウェットケーキ2gを純水40gに分散させ、ヒドラジン一水和物を1g加えた。80℃に設定したホットプレート上で3時間スターラー撹拌し、還元酸化セリウム粒子を得た。
得られた還元酸化セリウム粒子を含むスラリーに、40重量%水酸化ナトリウム(関東化学製、特級試薬)水溶液10gを加えた。更に80℃で16時間スターラー撹拌した。処理液は白色不透明であった。処理液を遠心分離し、上澄みを捨て、酸化セリウム粒子を含む白色ペーストを得た。
【0051】
(比較例6)
ガラス製バイアル瓶中で参考例1の酸化セリウム(IV)粒子を含む淡黄色ウェットケーキ2gを純水40gに分散させ、ヒドラジン一水和物を1g加えた。80℃に設定したホットプレート上で3時間スターラー撹拌し、還元酸化セリウム粒子を得た。
得られた還元酸化セリウム粒子を含むスラリーに、アンモニア水(キシダ化学製、特級試薬)10gを加えた。更に80℃で16時間スターラー撹拌した。処理液は白色不透明であった。処理液を遠心分離し、上澄みを捨て、酸化セリウム粒子を含む白色ペーストを得た。
【0052】
(比較例7)
ガラス製バイアル瓶中で参考例1の酸化セリウム(IV)粒子を含む淡黄色ウェットケーキ2gを純水40gに分散させ、ヒドラジン一水和物を1g加えた。80℃に設定したホットプレート上で3時間スターラー撹拌し、還元酸化セリウム粒子を得た。
得られた還元酸化セリウム粒子を含むスラリーに、プライサーフA215C(登録商標、第一工業製薬製)2gを加えた。更に80℃で16時間スターラー撹拌した。処理液は紫色不透明であった。処理液を遠心分離し、上澄みを捨て、酸化セリウム粒子を含む紫色ペーストを得た。
【0053】
(分散液の透明性)
分散媒10mLに対し、各実施例、比較例で得られた酸化セリウム粒子のペーストをスパーテルで少量(酸化セリウム粒子として約5mg)加え、超音波分散機に供した。透明分散液とならない場合、分散剤としてプライサーフA215Cを一滴加え、再び超音波分散機に供した。その結果を表1及び表2にまとめた。なお、表1中の未処理とは、参考例1の酸化セリウム(IV)粒子を含む淡黄色ウェットケーキを各分散媒に分散させた物を指す。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
表1から分かるように、未処理の酸化セリウムはすべての溶媒中の分散液が透明ではなかったが、実施例1~6の酸処理酸化セリウム粒子は、無極性溶媒中の分散液は透明であり、水及びエタノール中の分散液も概ね、透明であった。
また、表2から分かるように、比較例1~7の酸化セリウム粒子又は酸処理酸化セリウム粒子は、ほとんどの溶媒中の分散液が透明ではなかった。
【0057】
(FT-IR測定)
FT-IR測定には、フーリエ変換赤外分光光度計、FT/IR-6600(日本分光株式会社製)を用いた。測定条件は、真空下におけるATR法を用いて、分解能4.0cm-1、積算回数128回(4000cm-1~400cm-1)及び積算回数256回(400cm-1~50cm-1)である。上記測定条件で得られたスペクトルを接続したものを図2図7に提示する。各サンプルはペーストを真空乾燥後、粉砕したものを用いた。参照には市販の酸化セリウム粒子(関東化学製、鹿特級、10μm径)を用いた。
【0058】
図2に酸化セリウム粒子の吸収(450cm-1付近のピーク)で規格化した吸光度換算の、参考例1で得られた未処理の酸化セリウム(IV)粒子と実施例1の酸処理酸化セリウムナノ粒子の赤外吸収スペクトルを示す。更に図3及び図4にその拡大図を示す。後述する還元と酸処理によって遠赤外領域における吸収の明らかな変化と、1450cm-1付近の吸収におけるピークトップのシフト(未処理:1445cm-1、実施例1:1452cm-1)、1400cm-1付近のショルダーピークの出現、3000cm-1付近のピークの出現等が認められた。これらの変化は酢酸イオンの吸着に帰属した。また、3700cm-1~2500cm-1付近の吸着水でブロード化された水酸基の吸収のピークが減衰していることから還元操作後に酸処理を行うことによりにより表面処理が効率的に行われ、粒子表面の水酸基が除去されたことを示唆している。
【0059】
加えて、市販試薬、参考例1(未処理)、実施例1及び比較例1の各酸化セリウムナノ粒子の赤外吸収スペクトルを吸光度表示に変換し、450cm-1付近のピークトップを1として規格化した結果を図5に示す。酸処理によってピークトップのシフト(未処理:489cm-1、実施例1及び比較例1:458cm-1)と280cm-1付近のピークの減衰が観測された。特に、280cm-1付近のピークは還元操作の有無でも明瞭に異なっており、283cm-1におけるそれぞれの吸光度は未処理:0.698、比較例1:0.490、実施例1:0.413であった。このピークは未修飾の酸化セリウム表面の吸収に帰属されることから、還元操作により表面処理がより効率的に行われたことが支持される。
【0060】
これらの吸収は参照とした市販の酸化セリウム粒子と著しく異なっており、市販試薬では450cm-1付近の吸収のピークトップは449cm-1であり、280cm-1付近のピークは272cm-1に極めて強く観測された。加えて、実施例1の粒子と比較して市販の粒子では700cm-1~600cm-1付近の吸収が欠損している。これらの事実から実施例1の粒子を、吸光度表示に変換し、450cm-1付近のピークトップを1として規格化した赤外吸収スペクトルを用いて以下の通り特徴づけることができる。すなわち、第1に285cm-1~270cm-1の範囲に強い吸収が観察されない。第2に、700cm-1~600cm-1の範囲に吸収を有する。
【0061】
前記の特徴を、実施例1と比較例1の前記の通り規格化された吸光度換算のスペクトル及びピーク分離の結果を用いて具体的に定義すると以下のようになる。ピーク分離の結果は、図6及び7に示した。実線が元のスペクトル、長破線が320cm-1より低波数側に中心を持つピーク、破線が700cm-1~600cm-1に中心を持つピーク、点線がそれ以外の分離ピークである。283cm-1における吸光度が0.490より小さい(比較例1:0.490、実施例1:0.413)、ピーク分離を行った際に320cm-1より低波数側に中心を持つピーク面積の和が1000cm-1~50cm-1の範囲における全ピーク面積の和に占める割合が23.0%より低い(比較例1:23.0%、実施例1:20.3%)、663cm-1における吸光度が0.191より大きい(比較例1:0.191、実施例1:0.201)、610cm-1における吸光度が0.264より大きい(比較例1:0.264、実施例1:0.274)、ピーク分離を行った際に700cm-1~600cm-1に中心を持つピーク面積の和が1000cm-1~50cm-1の範囲における全ピーク面積の和に占める割合が4.7%より高い(比較例1:4.7%、実施例1:6.8%)。
【0062】
(UV-vis-NIR測定)
UV-vis-NIR(紫外可視近赤外吸収スペクトル)測定には、紫外可視近赤外分光光度計V-770(日本分光株式会社製)を用いた。測定条件は、大気下における反射法を用いて、データ幅1nmである。各サンプルはペーストを真空乾燥後、粉砕したものを用いた。
【0063】
図8に吸光度換算の200nmにおける吸光度を1とした反射スペクトルを示す。参考例1(未処理)と比べて、酸処理を行った実施例1及び比較例1は400~500nm付近の吸収の減衰がみられる。また、実施例1では特異に500nmより長波長側に吸収の立ち上がりがみられる。この特徴を、実施例1と比較例1の前記の通り規格化された吸光度換算のスペクトル及びピーク分離の結果を用いて具体的に定義すると以下のようになる。ピーク分離の結果は、図9及び10に示した。実線が元のスペクトル、破線が550nmより長波長側に中心を持つピーク、点線がそれ以外の分離ピークである。650nmにおける吸光度が0.055より大きい(比較例1:0.055、実施例1:0.199)、ピーク分離を行った際に550nmより長波長側に中心を持つピーク面積の和が190nm~1200nmの範囲における全ピーク面積の和に占める割合が4.3%より大きい(比較例1:4.3%、実施例1:21.6%)。
【0064】
(透過率測定)
透過率測定には、紫外可視近赤外分光光度計V-770(日本分光株式会社製)を用いた。測定条件は、大気下におけるセル法を用いて、セル長は1cm、データ幅0.5nmである。各サンプルは分散試験で得られたトルエン分散液を用いた。得られた透過率の可視光領域(380~800nm)における平均値(平均透過率)を表3にまとめた。
【表3】
【0065】
表3から分かるように、未処理及び比較例の酸化セリウム又は酸処理酸化セリウム粒子のトルエン分散液の平均透過率は、非常に低かった。それに対して、実施例1~6の酸処理酸化セリウム粒子のトルエン分散液の平均透過率は、60%以上であり、非常に高かった。
【0066】
(参考例3)
A液に硝酸セリウム(III)・6水和物2質量部、純水98質量部を混合した溶液を用い、参考例1と同様に酸化セリウム粒子を作製した。この時、B液の流量は毎分30mLとした。得られた吐出液から参考例1と同様の手順で紫色ウェットケーキと淡黄色ウェットケーキを作製した。
【0067】
(参考例4、還元酸化セリウムウェットケーキ)
ガラス製バイアル瓶中で参考例3の酸化セリウム(IV)粒子を含む淡黄色ウェットケーキ2gを純水40gに分散させ、ヒドラジン一水和物を1g加えた。80℃に設定したホットプレート上で3時間スターラー撹拌し、還元酸化セリウム粒子を得た。これを遠心分離にて回収し、還元酸化セリウムを含む紫色ウェットケーキを得た
【0068】
(反射スペクトル測定)
酸化セリウムの酸化状態を解明する為に、反射スペクトル測定を行った。反射スペクトル測定には、紫外可視近赤外分光光度計V-770(日本分光株式会社製)を用いた。測定は、大気下で行い、データ幅1nmである。各サンプルはウェットケーキを乾燥させずにそのまま用いた。反射スペクトルを吸光度表示に変換し、205nmにおける吸光度を1として規格化した結果を図11に示す。以降の反射スペクトルに関する数値は全て205nmにおける吸光度を1として規格化した後の数値である。
【0069】
参考例3の紫色ウェットケーキ及び参考例4の紫色ウェットケーキでは、参考例3の淡黄色ウェットケーキと比較して510~540nm付近に極大を持つ吸収が観測された。この吸収は大気酸化前及び再還元後の紫色ウェットケーキでは観察され、大気酸化後の淡黄色ウェットケーキでは全く観察されないことから、還元酸化セリウムに帰属される。このスペクトルから紫色ペーストの具体的な酸化数を決定することはできないが、大気酸化により、確かに酸化セリウム粒子は酸化セリウム(IV)となることが確認された。また、この吸収の強度を比較することで二つ以上の含水酸化セリウムウェットケーキのいずれがより還元された酸化セリウムであるかを調べることができる。
【0070】
参考例3の紫色ウェットケーキは材料の混合比率から考えてセリウムの平均酸化数は3以上である。参考例3の紫色ウェットケーキの極大吸収波長である512nmにおける吸光度は、参考例3の紫色ウェットケーキで0.851、参考例3の淡黄色ウェットケーキで0.190である。参考例3の紫色ウェットケーキに含まれる酸化セリウムの平均酸化数を3と仮定して計算することで酸化セリウムの各平均酸化数における下限値を見積もれる。例えば、含水酸化セリウムウェットケーキの反射スペクトルを測定した場合において512nmにおける吸光度は、セリウムの平均酸化数が3.99である時0.196以上である、セリウムの平均酸化数が3.98である時0.203以上である、セリウムの平均酸化数が3.95である時0.223以上である、セリウムの平均酸化数が3.90である時0.256以上である、セリウムの平均酸化数が3.80である時0.322以上である、セリウムの平均酸化数が3.60である時0.454以上である、セリウムの平均酸化数が3.50である時0.520以上である、ということが分かる。ただし、これらは含水酸化セリウムにおける反射スペクトルに基づく値であって、同様の平均酸化数の酸化セリウムが他の状態、他の測定法に依った時においてもこれらの吸光度を下回らないことを意味しない。
【0071】
実施例から分かるとおり、本発明によって簡便に酸化セリウムの表面処理を行うことができ、酸化セリウム粒子の透明分散液を製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によって、溶媒、分散剤又は樹脂等に対する良好な分散性を有する酸化セリウム粒子を製造することができる。更に、酸化セリウム粒子、及び良好に分散された酸化セリウム粒子の分散液が提供される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11